説明

雨水貯留槽の透水性蓋及び雨水貯留施設

【課題】地表からの雨水を効率良く浸透させ、地下に貯留させることのできる全面透水型の雨水貯留施設を提供すること。
【解決手段】壁面に外部と連通する開口を有し、上下方向に積層可能な中空コンクリートブロック体11を、地表面下に横方向及び上下方向に複数配置して地下に貯水空間Sを形成すると共に、該貯水空間Sを囲う側壁部は止水壁12からなり、底壁部は砂利層13からなり、天井部は、連続空隙を有する多孔質コンクリートからなる表層と、貫通孔が形成されたポリマーセメントモルタルからなる基層とからなり、前記表層と前記基層との結合部は、前記基層からの貫通孔が、該貫通孔と対向する部分の前記表層の連続空隙に連通するように形成され、他の部分は前記表層の連続空隙に基層のポリマーセメントモルタルが浸透して一体化した結合層が形成されている透水性蓋1の複数からなる雨水貯留施設10とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の透水性蓋を用いた雨水貯留施設に関し、特に、連続空隙を有する多孔質コンクリートからなる表層と、貫通孔が形成されたポリマーセメントモルタルからなる基層とが一体化してなる透水性蓋、及び該透水性蓋を雨水貯留槽の天井部に用いた雨水貯留施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、総合的な治水対策の観点から、『水循環』というキーワードが導入され、雨水貯留施設の普及が強力に押し進められている。
この雨水貯留施設は、例えば公園、道路の地下等に大規模な貯水空間を構築し、該貯水空間に集中豪雨時等における雨水を一旦貯留し、その後、該貯水空間から徐々に地下に水を浸透させることによって、集中豪雨時における洪水の制御、河川の平常時流量の確保、更には、ヒートアイランド現象の低減、地下水の涵養等を図るものである。
【0003】
上記雨水貯留施設としては、例えば、特許文献1に、集められた雨水を内部に導入する導水管と、この導水管に接続され雨水を貯留する主容器と、この主容器と接続され底部に小孔が形成された副容器を有する雨水貯留施設であって、前記主容器及び副容器は地下に掘られた竪穴内に設置され、前記竪穴の空隙には砕石または砂利が充填されている雨水貯留施設が開示されている。
また、特許文献2には、プレキャスト鉄筋コンクリート製の筒形の側壁ブロック等を上下方向に複数積み重ね、さらに底版コンクリートを打設し、上床版ブロック(上床部)を設置して地下に貯水空間を構築し、底版コンクリートに浸透孔を開け、地表面に集水枡を設置して該集水枡と前記貯水空間とを導水管を介して接続し、地表面から雨水を地下の貯水空間に導き一旦貯留した後、徐々に貯水空間に貯留された雨水を底版コンクリートの浸透孔等を介して地中に浸透させる雨水貯留施設が開示されている。
更に、特許文献3には、地盤をピット状に堀り込んだ地下空間内に、内部にリサイクルタイヤのカット品等が所定の空隙率で充填された透水性バックを複数配設し、該透水性バックの上層の地下空間を砕石層及び透水性コンクリート層とで埋め戻し、この埋め戻し範囲の地表面から浸透する雨水を透水性バック内で一時的に貯留し、さらに下層地盤に浸透させる雨水貯留施設が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−78671号公報
【特許文献2】特開平11−61953号公報
【特許文献3】特開2001−59257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1或いは特許文献2に記載された雨水貯留施設にあっては、導水管を介して地下に構築された貯水空間に雨水を導くものであるため、如何に導水管の径を大きくする、或いは導水管の本数を増やすとしても限界があり、効率的に雨水を貯水空間に導くことができず、特に一時的に大量の雨が降る集中豪雨時等においては、対応できない憂いがあった。
また、上記特許文献3に記載された技術にあっては、充填されたリサイクルタイヤのカット品等の隙間に貯水部が形成されるものであるため、占有スペースの割には貯水量が少なく、いわゆる貯水率が低いだけでなく、貯水容量の確認も困難であることから、やはり集中豪雨時等においては、貯水能力の観点から対応できず、雨水が貯留施設からオーバーフローする憂いがあった。
【0006】
一方、特許文献2に記載されたような地下にコンクリートブロック等を用いて貯水空間を構築した場合において、特許文献3に記載されたようなその上面が全面透水の雨水貯留施設を構築しようとする場合には、路面下であると車両通行等により上方から大きな繰り返し荷重を受け、また特に両端支持状態となるために曲げ強度の特に高い蓋材が必要となるが、このような高強度かつ透水性を有する部材であって、しかも安価に製造できる地下雨水貯留槽の蓋材として好適に用いることのできる部材は、現在のところ存在しない。
【0007】
本発明は、上述した背景技術が有する実情に鑑みて成されたものであって、その目的の一つは、高強度、特に曲げ強度が高く、しかも優れた透水性を有する安価な雨水貯留槽の透水性蓋を提供すること、また、目的の一つは、地表からの雨水を効率良く浸透させ、地下に貯留させることのできる全面透水型の雨水貯留施設を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明に係る雨水貯留槽の透水性蓋は、連続空隙を有する多孔質コンクリートからなる表層と、貫通孔が形成されたポリマーセメントモルタルからなる基層とを一体化してなる雨水貯留槽の透水性蓋であって、前記表層と前記基層との結合部は、前記基層からの貫通孔が、該貫通孔と対向する部分の前記表層の連続空隙に連通するように形成され、他の部分は前記表層の連続空隙に基層のポリマーセメントモルタルが浸透して一体化した結合層が形成されている雨水貯留槽の透水性蓋とした。
ここで、上記ポリマーセメントモルタルが、セメント、細骨材、ポリマーエマルジョン、高性能減水剤、消泡剤とを少なくとも含むものであることは、高強度、特に曲げ強度の高い透水性蓋を実現できる観点から、好ましい実施の形態である。
【0009】
また、上記した目的を達成するため、本発明に係る雨水貯留施設は、壁面に外部と連通する開口を有し、上下方向に積層可能な中空コンクリートブロック体を、地表面下に横方向及び上下方向に複数配置して地下に貯水空間を形成すると共に、該貯水空間を囲う側壁部は止水壁からなり、底壁部は砂利層からなり、天井部は上記本発明に係る透水性蓋の複数からなる雨水貯留施設とした。
ここで、上記透水性蓋の上方に透水性舗装が施されていることは、雨水貯留施設の上方を公園、道路等として安全かつ有効に利用できる観点から、好ましい実施の形態である。
【発明の効果】
【0010】
上記した本発明に係る雨水貯留槽の透水性蓋によれば、表層が連続空隙を有する多孔質コンクリートであり、基層には貫通孔が形成されており、その表層と基層との結合部は、前記基層からの貫通孔が、該貫通孔と対向する部分の前記表層の連続空隙に連通するように形成されているため、充分な透水性能を発揮するものとなる。また、前記多孔質コンクリートからなる表層とポリマーセメントモルタルからなる基層との結合部は、上記基層からの貫通孔と連通する結合部の部分を除き、表層の連続空隙に基層のポリマーセメントモルタルが浸透して一体化した結合層により形成されているため、連続空隙を有する多孔質コンクリートからなる表層が、ポリマーセメントモルタルからなる高強度、特に高曲げ強度の基層によって支持・補強された格好となっており、その透水性蓋全体としての強度が確保される。したがって、路面下のような上方からの大きな繰り返し荷重を受ける地下においても、全面透水型の雨水貯留施設の構築が可能となる。
【0011】
また、上記した本発明に係る雨水貯留施設によれば、複数の中空コンクリートブロック体の中空部内に水を収容することができるため、高い貯水率を得ることができ、また、中空コンクリートブロック体の中空部の容積は算出が容易であるため、貯水容量を正確に把握することもできる。さらに、中空コンクリートブロック体をスペーサを介して連設することにより、さまざまな寸法の貯水空間を形成することも容易であり、また軽量であるために地盤沈下などを誘発する憂いもない。また、本発明に係る雨水貯留施設は、上記中空コンクリートブロック体の配置によって地下に構築される貯水空間の天井部を、上記した本発明に係る透水性蓋の複数から構成したため、貯水空間の上方全面を透水部(雨水流入部)とすることが可能となり、地表からの雨水などを効率的に浸透させて貯水空間内へ導くことができ、また、貯水空間を囲う側壁部は止水壁からなり、底壁部は砂利層からなるため、一旦雨水を貯水した後、徐々に底壁部の砂利層を介して雨水を地下へ浸透させることが可能となることから、集中豪雨時における洪水の制御、河川の平常時流量の確保、更には、ヒートアイランド現象の低減、地下水の涵養等を効果的に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、上記した本発明に係る雨水貯留槽の透水性蓋、及び該透水性蓋を用いた本発明に係る雨水貯留施設の実施の形態を、図面等を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
本発明に係る透水性蓋1は、図1に示すとおり、連続空隙を有する多孔質コンクリートからなる表層2と、貫通孔3が形成されたポリマーセメントモルタルからなる基層4とが一体化してなるものであって、前記表層2と前記基層4との結合部は、前記基層4からの貫通孔3が、該貫通孔3と対向する部分の前記表層2の連続空隙に連通するように形成され、他の部分は前記表層2の連続空隙に基層4のポリマーセメントモルタルが浸透して一体化した結合層5が形成されている、特異な結合部を有する2層構造の部材である。
【0014】
上記連続空隙を有する多孔質コンクリートからなる表層2は、下記の条件を満たせば、従来より存在する所謂ポーラスコンクリートを広く使用することができる。
多孔質コンクリートからなる表層2は、例えば5〜40mm程度の砕石等の粗骨材からなる骨材を、セメントペーストで被覆すると共に骨材同士を該セメントペーストで接着して硬化させ、骨材同士の間隙に連続空隙を形成したものを使用することができ、必要に応じて顔料を添加してもよい。また、骨材には、直径が同程度の軽石、セラミック骨材、レンガ屑、軽量骨材等を使用してもよい。セメントペーストは、微粒や細粒の骨材を含むものであってもよい。また、ポリマーセメントペーストやポリマーセメントモルタルであってもよい。
【0015】
多孔質コンクリートからなる表層2の連続空隙率は、10〜40%が適当であり、更には15〜35%が好ましい。これは、10%に満たない連続空隙率のものである場合には、充分な透水性能(例えば、透水係数が1×10-2cm/sec以上)が得られないためであり、逆に連続空隙率が40%を超えると、外観、強度、さらには車両走行性等において不都合が生じるために好ましくない。
なお、上記「連続空隙率」は、下記の式(1)により算出した値である。

連続空隙率(%)=〔(V0 −V1 )/V0 〕×100 ・・・ 式(1)

ここに、V0 :試供体の見かけの体積(cm3
V1 :骨材と結合材との独立空隙の体積(cm3 )=(A−C)/γw
C :試供体を常温の水中に24時間放置した後の水中重量(g)
A :水中重量を測定した試供体を布に包み、90分間放置した後の同試供体 の重量(g) ※これは「表乾重量」と呼ばれる。
γw :常温の水の密度(≒1.0g/cm3

また、上記連続空隙における各々の孔径は、2〜10mmが好ましい。これは、連続空隙の孔の径が小さ過ぎると、目詰まりが生じ易く、逆に大き過ぎると、透水性と強度のバランスが悪くなるためである。
上記した連続空隙の空隙率や孔の大きさは、粗骨材の径、粗骨材の量、セメントペーストの量等によって、適宜調節することができる。
【0016】
次に、本発明に係る基層4を形成するポリマーセメントモルタルとしては、セメント、細骨材、ポリマーエマルジョン、高性能減水剤、消泡剤を少なくとも含むものであることが、高強度、特に曲げ強度の高い基層を提供できる観点から好ましい。
【0017】
上記セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、シリカセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント等の何れでもよいが、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントが好ましく、気中養生の場合は普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントが、蒸気養生の場合は早強ポルトランドセメントが特に好ましい。
【0018】
また、上記細骨材は、特に限定されるものではなく、通常コンクリート製品に使用される細骨材であればよい。例えば、静岡県小笠産陸砂(表乾密度2.60g/cm3 )が例示される。細骨材の粒径は0.15〜5mmが好ましい。また、骨材の配合量は、セメント100重量部に対して100〜300重量部が好ましい。
【0019】
また、上記ポリマーエマルジョンとしては、曲げ強度の発現性の観点から、アクリル系エマルジョンとアクリル−スチレン系エマルジョンが好ましく、アクリル系エマルジョンがより好ましい。該アクリル系エマルジョンは、(メタ)アクリル酸エステル単量体から選ばれる1種以上の単量体を含む単量体組成物を乳化重合して得ることができる。(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレートが好ましい。
上記ポリマーエマルジョンの好ましい粒子径は、50〜400nmであり、さらに好ましくは100〜200nmである。また、ポリマーエマルジョンの固形分としては、30〜70質量%であることが好ましく、さらに好ましくは45〜70質量%である。さらに、ポリマーエマルジョンの粘度は、200mPa・s以下が好ましく、100mPa・s以下がより好ましい。また、上記ポリマーエマルジョンの配合量は、セメント100質量部に対して固形分(有効成分)換算で5〜22質量部が好ましく、8〜14質量部がより好ましい。
【0020】
上記高性能減水剤としては、通常コンクリートに用いられる高性能AE減水剤でない高性能減水剤であれば何でもよいが、減水効果の高いものが望ましい。例えば、ポリカルボン酸エーテル系高性能減水剤が例示される。この高性能減水剤の配合量は、セメント100質量部に対して1〜3質量部が好ましい。
【0021】
また、上記消泡剤としては、シリコーン系エマルジョンや特殊非イオン界面活性剤が例示される。一般に、セメントモルタル中にポリマーエマルジョンを混入すると気泡が発生し、必要以上の空気(気泡)連行を伴うため、緻密な高強度ポリマーセメントモルタル硬化体をつくるには、適当な消泡剤を添加する必要がある。消泡剤の添加方法としては、予めポリマーエマルジョンの製造時に添加しても良く、ポリマーエマルジョンの製造時に添加せずポリマーセメントモルタル練り混ぜ時に添加しても良く、また、ポリマーエマルジョンの製造時に一部添加し、ポリマーセメントモルタル練り混ぜ時にさらに添加することもできる。この消泡剤の配合量は、ポリマーエマルジョン100質量部に対して0.5〜7質量部が好ましい。
ポリマーセメントモルタルには、上記以外に、必要に応じて高炉スラグ粉末、無水石膏、フライアッシュ、シリカフューム、石灰石粉末、珪石粉末から選ばれる1種以上の粉末を更に添加してもよい。
【0022】
本発明に係る基層4を形成するポリマーセメントモルタルは、成形性の観点から自己流動性を有するものであることが好ましく、この自己流動性は、主に上記ポリマーエマルジョンと高性能減水剤の併用によって付与することができる。また、本発明においては、上記自己流動性は、上に載せる多孔質コンクリート板の自重によってモルタルが該多孔質コンクリート板の空隙に入り込む程度の自己流動性があることが好ましく、JIS R 5201−1997に規定されているフロー試験(0打)によるフロー値で表せば、200〜320mmであることが好ましく、更には250〜300mmであることが好ましい。これは、フローが200mmに満たない場合、フレッシュ時のポリマーセメントモルタルの流動性が足りず、ポリマーセメントモルタルは接合部となる多孔質コンクリートの連続空隙に浸透し難く、多孔質コンクリートとの接合強度が弱いものとなる場合がある。一方、フローが320mmを超える場合は、ポリマーセメントモルタルが材料分離を起こし易く、材料分離によって多孔質コンクリートに浸透するポリマーセメントモルタル部分は水セメント比の大きいものとなり、多孔質コンクリートとの接合強度がやはり弱くなる憂いがある。
【0023】
上記ポリマーセメントモルタルにより形成される基層4には、貫通孔3が形成される。この貫通孔3は、ポリマーセメントモルタルからなる基層4の板面を上下方向に貫通するものであれば、その形状は問わないが、円形、楕円形等の角部を有しないものとすることが、角部に発生する応力集中がないので好ましい。
上記貫通孔3のポリマーセメントモルタルからなる基層4の水平横断面に対する開口面積率は、0.5〜50%が適当であり、更には2〜30%が好ましい。また、貫通孔3の1個当たりの開口面積は、20cm2 以上であり、かつ基層4の水平横断面積の50%以下であることが適当であり、更には50cm2 以上であり、かつ基層4の水平横断面積の30%以下であることが好ましい。これは、前記開口面積率が0.5%に満たない場合には、充分な透水性能(例えば、透水係数が1×10-2cm/sec以上)が得られないためであり、逆に開口面積率が50%を超えると、ポリマーセメントモルタルからなる基層4の強度が低下する。また、前記貫通孔3の1個当たりの開口面積が20cm2 に満たない小さなものである場合には、形成すべき貫通孔3の数が増え、成形し難くなると共に、貫通孔が詰まり易くなる。また貫通孔3の1個当たりの開口面積が基層4の水平横断面積の50%を超えると、ポリマーセメントモルタルからなる基層4の強度が低下する。
【0024】
上記連続空隙を有する多孔質コンクリートからなる表層2と、貫通孔3が形成されたポリマーセメントモルタルからなる基層4との結合部は、前記基層4からの貫通孔3が、該貫通孔3と対向する部分の前記表層2の連続空隙に連通するように形成され、他の部分は前記表層2の連続空隙に基層4のポリマーセメントモルタルが浸透して一体化した結合層5が形成されていると言った、貫通孔と結合層からなる構造のものである。
上記結合層5の厚み、即ちポリマーセメントモルタルが多孔質コンクリートの連続空隙に浸透して一体化した部分の厚さは、3〜20mmが好ましく、5〜10mmが更に好ましい。これは、接合層5の厚さが3mmに満たない場合には、付着力が足りず、多孔質コンクリートからなる表層2とポリマーセメントモルタルからなる基層4とが剥がれ易くなる。また、接合層5の厚みを20mmを超えるものとしても、付着力の増大は期待できず、意味はない。
【0025】
上記した結合部の構成を有する本発明に係る透水性蓋1は、例えば次のようにして製造することができる。
先ず、連続空隙を有する表層2を構成する多孔質コンクリート板Bを、予め製造しておく。この多孔質コンクリート板Bは、何ら限定される製造方法はなく、公知のポーラスコンクリート成形体の製法を広く採用できる。なお、この多孔質コンクリート板Bの基層との接合面には、後述する貫通孔を形成するための型枠Kの凸部Tの上端が嵌合する凹部6を形成しておく。この凹部6の形成方法は、多孔質コンクリート板Bの製造時に、型枠に該凹部6を形成するための凸部を設けておく方法を採用しても、後に切削により形成してもよい。
【0026】
続いて、基層4を形成するポリマーセメントモルタルPを調整する。
このポリマーセメントモルタルPの配合組成は、例えば、次のものとする。
・ポルトランドセメント:801kg/m3
・細骨材:1202kg/m3
・ポリマーエマルジョン:固形分(有効成分)換算で88kg/m3
・高性能減水剤:17.6kg/m3
・消泡剤:5.3kg/m3
・水:164kg/m3 (但し、ポリマーエマルジョン、高性能減水剤およ
び消泡剤中の水分含む。)

上記配合組成になるように各材料を計量し、先ずポルトランドセメントと細骨材とをミキサーに投入・攪拌(空練り)し、更にポリマーエマルジョン、水、高性能減水剤、消泡剤を加えて練り混ぜ、ポリマーセメントモルタルPを調整する。
【0027】
得られたポリマーセメントモルタルPを、図2に示したように、貫通孔を形成するための凸部Tが内面の底面に設けられた型枠Kに打設し、その直後に、図3に示したように、予め製造しておいた上記多孔質コンクリート板Bを、型枠Kの凸部Tの上端が該多孔質コンクリート板Bの凹部6に嵌合し、且つ、該嵌合する部分を除く接合面では多孔質コンクリート板Bの連続空隙にポリマーセメントモルタルPが浸透して接合層5が形成されるように載置する。続いて、必要に応じて蒸気養生し、ポリマーセメントモルタルPを十分に硬化させた後、脱型する。
【0028】
上記の製法により、図1に示したように、表層2と基層4との結合部は、前記基層4からの貫通孔3が、該貫通孔3と対向する部分の前記表層2の連続空隙に連通するように形成され、他の部分は前記表層2の連続空隙に基層4のポリマーセメントモルタルが浸透して一体化した結合層5が形成されている本発明に係る透水性蓋1が得られる。
なお、養生は、蒸気養生以外の養生方法でも製造できるが、好ましくは蒸気養生が良く、特に、セメントとして早強ポルトランドセメントを用いた場合には、蒸気養生がより好ましい。
【0029】
次に、上記した本発明に係る透水性蓋1における、多孔質コンクリートからなる表層2と、ポリマーセメントモルタルからなる基層4の厚さについてであるが、前記表層2の厚さは、60〜300mmが適当であり、更には80〜200mmが好ましく、また、前記基層4の厚さは、40〜300mmが適当であり、更には50〜200mmが好ましい。即ち、本発明の透水性蓋1を用いて雨水貯留施設の天井部を構築する場合、該天井部に作用する荷重や部材自身の耐久性、更には施工性から、同透水性蓋1の全厚みは、100〜600mmであることが好ましい。その内、強度的な観点から、前記基層4の厚さは、40〜300mmが適当であり、残りの厚さ部分が、前記表層2の好ましい厚さとなる。
【0030】
また、本発明に係る透水性蓋1の形状寸法は、蓋が被せられる雨水貯留槽の開口部の形状寸法により当然決まるものであるが、平面寸法は、あまりに小さすぎると、曲げ強度が強い特徴が十分に発揮されない。逆にあまりに大きすぎると、設計荷重を満たすために、部材厚が増え、重量は重くなり、施工効率が低下する。よって、一応好ましい範囲は存在する。具体的には、平面寸法が、縦横共に30〜500cm程度の矩形内に収まるようなものであることが好ましく、更には50〜400cm程度の矩形内に収まるようなものであることが好ましい。
【0031】
更に、本発明に係る透水性蓋1の強度、特に曲げ強度は、構成する表層と基層のそれぞれの強度や厚み、基層部分の開口面積率などによって違うため、一概には言えないが、表層部のポーラスコンクリートの曲げ強度補強材として使う基層部材料の曲げ強度は、少なくとも表層部のポーラスコンクリートの曲げ強度よりも高いものであることは言うまでもない。一般に、表層に使用されるポーラスコンクリートの曲げ強度は5N/mm2 未満であることを考えると、基層部に使うポリマーセメントモルタルの曲げ強度は、少なくとも5N/mm2 以上であり、好ましくは8N/mm2 以上であり、特に好ましくは12N/mm2 以上である。従来の普通コンクリートによる基層部のように、基層部の曲げ強度が5N/mm2 程度であると、十分な補強効果が期待できない。基層部の曲げ強度が高ければ高いほど、同一荷重を受ける場合の必要な基層部の厚みが薄くなり、部材も軽量にできるため、メリットは大きい。
【0032】
また、本発明に係る透水性蓋1の透水係数は、強度との兼ね合いから基層部分の開口面積率等が制約され、その上限は自ずと決まるが、下限としては、雨水貯留槽の透水性蓋として好適に用いるためには、少なくとも1×10-2cm/sec以上であり、好ましくは5×10-2cm/sec以上であり、特に好ましくは10×10-2cm/sec以上である。
【0033】
次に、上記した本発明に係る透水性蓋を用いた、本発明に係る雨水貯留施設について説明する。
本発明に係る雨水貯留施設10は、図4に概念的に示したように、壁面に外部と連通する開口を有し、上下方向に積層可能な中空コンクリートブロック体11を、地表面下に横方向及び上下方向に複数配置して地下に貯水空間Sを形成すると共に、該貯水空間Sを囲う側壁部は止水壁12からなり、底壁部は砂利層13からなり、天井部は上記本発明に係る透水性蓋1の複数からなる雨水貯留施設である。
【0034】
上記壁面に外部と連通する開口を有し、上下方向に積層可能な中空コンクリートブロック体11としては、本件出願人である東京セメント工業株式会社が扱っているポカラ(株式会社リタ総合企画の登録商標)を好適に用いることができる。
このポカラ20は、図5に示したように、外形が立方体であり、その立方体を構成する六面のそれぞれに開口21した円筒体形状の中空部22を有している力学的に無駄のない中空コンクリートブロック体で、軽量(単位体積重量0.40〜0.45t/m3)で、且つ高い空隙率(空隙率80%以上)を有するものである。
【0035】
上記ポカラ20を用いて、本発明に係る雨水貯留施設の構造及び構築例を説明する。
先ず、図4に示されているように、地盤Gをピット状に堀り込んで地下空間Xを形成し、該地下空間Xの底部に砂利を敷き詰め、貯水空間Sの底壁部を構成する砂利層13を形成する。
この砂利層13の厚さは、20〜100cmが適当であり、更には30〜60cmが好ましい。また、敷き詰める砂利の粒径は、5〜60mm程度が適当である。
【0036】
続いて、砂利層13の上方に、ポカラ20を、スペーサ23を介して横方向及び上下方向に複数配置することにより、巨大な貯水空間Sを構築する。
ポカラ20を連結するスペーサ23には、図6に示したように、最下部に並ぶポカラ間、或いは最外周に並ぶポカラ間に介装される側面視T字状のスペーサ23aと、角部に配置されたポカラ間に介装される側面視L字状のスペーサ23bと、前後左右及び上下方向に隣接し合うポカラ間に介装される側面視十字状のスペーサ23cの3種類があり、これらのスペーサ23a〜23cがポカラ間に介装されることにより、多数のポカラ20を同じ平面内に配列するとともに積層することができる。なお、スペーサ23の材質は、一般的に普通コンクリートで形成されている。そして、各ポカラ20は、図6に示したように、上下方向に整然と配列した関係となるように各スペーサ23a〜23cによってその位置が拘束され、平面方向への配列においても同様な位置関係が得られる。したがって、各ポカラ20は、その周り6面に位置している他のポカラ20に対して開口21が全て整合することになるため、上層から下層及び平面配列の層における全てのポカラ20はその内部の中空部22によって連通し、大きな貯水空間Sが構築される。
【0037】
ポカラ20を、横方向及び上下方向に複数配置することにより構築された貯水空間Sを囲む側壁部は、止水壁12によって構成される。
止水壁12は、普通コンクリートを型枠内に打設することにより構築してもよく、また複数のPCコンクリート板を貼り付け、必要に応じて遮水シートによって止水した構造としてもよい。更に、複数のPCコンクリート板を貼り付けるのみでもよい。
なお、本発明において言う止水壁は、完全に貯水空間S内の水を外部に洩らさない止水性までは要求されず、貯水空間S内の水を一旦貯留する機能を果たせればよく、その壁厚等も何ら限定されない。
【0038】
また、貯水空間Sの天井部は、先に詳述した本発明に係る透水性蓋1の複数によって構成される。透水性蓋1は、各雨水貯留水槽に設置されるが、これらが一面を成すことにより天井部が形成される。
本発明に係る透水性蓋1は、前述の通り連続空隙を有する多孔質コンクリートからなる表層2と、貫通孔3が形成されたポリマーセメントモルタルからなる基層4とが一体化してなるものであって、前記表層2と前記基層4との結合部は、前記基層4からの貫通孔3が、該貫通孔3と対向する部分の前記表層2の連続空隙に連通するように形成され、他の部分は前記表層2の連続空隙に基層4のポリマーセメントモルタルが浸透して一体化した結合層5が形成されている構造である。
このように基層にポリマーセメントモルタルを用い、且つ結合層にもポリマーセメントモルタルが浸透しているため、高強度、特に曲げ強度が高く、ポカラ20の蓋材として両端支持状態で貯水空間S上に載置された場合にも、上方からの荷重に対して充分に耐えることがでる。また、多孔質コンクリートの連続空隙と、該多孔質コンクリートの底面に直結し空隙が閉塞されていない基層の貫通孔により優れた透水性を有するため、貯水空間Sの上方全面が透水部となり、雨水などを効率的に浸透させて貯水空間S内へ雨水を導くことができる。
【0039】
貯水空間Sの天井部を構成する本発明に係る透水性蓋1の上方には、必要に応じて砂利14が敷かれ、その上方に、図4に示したように透水性舗装15が施される。
この透水性舗装15は、透水性アスファルト、透水性コンクリート、透水性ブロックなどを用いて行えばよく、厚さは5〜25cm程度が適当であり、透水係数は1×10-2〜10×10-2cm/sec程度とすることが好ましい。なお、本発明に係る透水性蓋1において、十分な強度と透水性の高い高強度多孔質コンクリートを用いれば、該透水性蓋1の上面自体を、路面とすることもできる。
【0040】
雨水貯留施設10の周囲は砂利16によって埋め戻され、必要に応じて側溝17が設けられ、該側溝17の水を貯水空間S内に導く導水管18が設けられる。
【0041】
上記ような構成の雨水貯留施設10とすることにより、貯水空間S内にある複数のポカラ20の中空部22内に水を収容することができ、高い貯水率を得ることができると共に、ポカラ20の中空部22の容積は算出が容易であるため、貯水容量を正確に把握することもでき、しかも、ポカラ20は比較的軽量であるため、複数配置して巨大な貯水空間Sを構築することも容易であることから、一時的に大量の雨が降る集中豪雨時等においも、対応が可能な雨水貯留施設とすることができる。
また、貯水空間Sの天井部は優れた強度(特に曲げ強度)と透水性を有する本発明に係る透水性蓋1の複数から構成されているため、貯水空間Sの上方全面が透水部となり、雨水などを効率的に浸透させて貯水空間S内へ雨水を導くことができると共に、貯水空間S上方の水はけが良好なものとなる。また、貯水空間Sを囲う側壁部は止水壁12からなり、底壁部は砂利層13からなるため、一旦雨水を貯水空間S内に貯水した後、徐々に底壁部の砂利層13を介して雨水を地下へ浸透させることができ、集中豪雨時における洪水の制御、河川の平常時流量の確保、更には、ヒートアイランド現象の低減、地下水の涵養等を効果的に図ることができる。
更に、積層配置されたポカラ20は雨水貯留施設10の支持体となっており、土圧などの荷重によって貯水空間Sが変形したり破損することがなく、また、貯水空間Sの天井部は高強度、特に曲げ強度の高い本発明に係る透水性蓋1の複数から構成されているため、地表面の沈下や陥没などが発生することもなく、雨水貯留施設10の上部を公園、道路などとして有効に利用することができる。
【0042】
以上、本発明に係る雨水貯留槽の透水性蓋、及び該透水性蓋を用いた本発明に係る雨水貯留施設の実施の形態を説明したが、本発明は、何ら既述の実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した本発明の範囲内で、種々の変形及び変更が可能であることは当然である。特に、本発明に係る雨水貯留施設の構築に使用したポカラ(登録商標)は、壁面に外部と連通する開口を有し、上下方向に積層可能な中空コンクリートブロック体11として好適に用いることができる1例として挙げたものであり、他の種々の中空コンクリートブロック体が本発明においては使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る透水性蓋の一構造を概念的に示した断面図である。
【図2】本発明に係る透水性蓋を製造する一工程を示した概念的な断面図である。
【図3】本発明に係る透水性蓋を製造する一工程を示した概念的な断面図である。
【図4】本発明に係る雨水貯留施設の一構造を概念的に示した断面図である。
【図5】本発明に係る雨水貯留施設の構築に使用する中空コンクリートブロック体の一例を示した概念的な斜視図である。
【図6】中空コンクリートブロック体を横方向、上下方向に複数配置して貯水空間を構築する一例を示した概念的な斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1 透水性蓋
2 多孔質コンクリートからなる表層
3 貫通孔
4 ポリマーセメントモルタルからなる基層
5 結合層
6 多孔質コンクリート板の凹部
10 雨水貯留施設
11 中空コンクリートブロック体
12 止水壁
13 砂利層
14 砂利
15 透水性舗装
16 砂利
17 側溝
18 導水管
20 ポカラ(登録商標)
21 開口
22 中空部
23 スペーサ
B 多孔質コンクリート板
P ポリマーセメントモルタル
T 貫通孔を形成するための凸部
K 型枠
S 貯水空間
G 地盤
X 地下空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続空隙を有する多孔質コンクリートからなる表層と、貫通孔が形成されたポリマーセメントモルタルからなる基層とを一体化してなる雨水貯留槽の透水性蓋であって、前記表層と前記基層との結合部は、前記基層からの貫通孔が、該貫通孔と対向する部分の前記表層の連続空隙に連通するように形成され、他の部分は前記表層の連続空隙に基層のポリマーセメントモルタルが浸透して一体化した結合層が形成されていることを特徴とする、雨水貯留槽の透水性蓋。
【請求項2】
上記ポリマーセメントモルタルが、セメント、細骨材、ポリマーエマルジョン、高性能減水剤、消泡剤を少なくとも含むものであることを特徴とする、請求項1に記載の雨水貯留槽の透水性蓋。
【請求項3】
壁面に外部と連通する開口を有し、上下方向に積層可能な中空コンクリートブロック体を、地表面下に横方向及び上下方向に複数配置して地下に貯水空間を形成すると共に、該貯水空間を囲う側壁部は止水壁からなり、底壁部は砂利層からなり、天井部は請求項1に記載の透水性蓋の複数からなることを特徴とする、雨水貯留施設。
【請求項4】
上記透水性蓋の上方に透水性舗装が施されていることを特徴とする、請求項3に記載の雨水貯留施設。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−291656(P2007−291656A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118579(P2006−118579)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(591013894)東京セメント工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】