説明

雪の冷熱を利用する装置

【課題】 天然の雪の冷熱を利用する際に、雪の自然溶解を効果的に防ぐとともに、イニシャルコストが増大せず、しかも冷熱の利用効率が高い蓄熱、熱交換システムを提供する。
【解決手段】 冬期降雪した雪を屋内又は屋外に貯蔵し、利用時期に雪の潜熱又は顕熱を利用する装置において、冬期積雪上に天然の断熱性を有する素材を撒くことによって積雪層3と断熱性素材(藁又は籾殻等)とからなる積層2からなる積層体1を形成し、同積層中に採熱管4を敷設し、この採熱管4を冷凍機又は温度差発電装置等に接続して、凝縮器の冷却媒体として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冬期の積雪と藁、籾殻、木チップ、木くず等、天然の断熱性素材とを利用し、雪の冷熱を効率良く採取して、簡単かつ安価に利用できる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来冬期に降った雪や天然の氷結の冷熱を利用した蓄熱・熱交換システムが各種提案されている。たとえば特許文献1(特開平7−305873号公報)には、次のような蓄熱・熱交換システムが開示されている。すなわち冬期に降った雪を一定規格の容器に収納した上で、外部との伝熱が微小な貯雪室に格納して夏期まで保存し、夏期には冷房、冷蔵の需要に応じて必要な量の雪を取り出し、蓄熱槽に導入する。
このシステムで、蓄熱槽における熱交換は、浮遊している雪に外気を直接吹き付けて、温度を低下させたり、直射日光の当たる道路面の直下にパイプを通し、その中に雪と水との混在流体を流通させたり、あるいは在来のチラーユニットを用いて熱交換している。
【0003】
また特許文献2(特開2004−166656号公報)には、両側を傾斜させた敷地の底面部を貯蔵庫の設置ヤードとし、貯蔵庫の側壁面と前記傾斜部とで囲われる空間部分に積雪を導入し、残雪が前記傾斜面を滑って側壁面に密着状態に集雪し、貯蔵庫の側壁面との間に空洞をつくらないようにした低温貯蔵施設が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−305873号公報
【特許文献2】特開2004−166656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載された従来のシステムは、いずれも設備が大掛かりとなり、設備費の増加を免れない。設備費が増加する割りには、冷熱の利用効率はさほど高くなく、その費用の償却に時間がかかるという問題が生じている。
また天然の雪を利用する場合、雪が自然に解けてしまい、そのため施設の断熱効果を高くする必要があり、さらにそのための費用が上乗せされてしまう問題がある。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、天然の雪の冷熱を利用する際に、雪の自然溶解を効果的に防ぐとともに、イニシャルコストが増大せず、しかも冷熱の利用効率が高い蓄熱、熱交換システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の手段は、かかる目的を達成するもので、冬期降雪した雪を屋内又は屋外に貯蔵し、利用時期に雪の潜熱又は顕熱を利用する装置において、冬期積雪上に天然の断熱性を有する素材を撒くことによって積雪と断熱性素材とからなる積層を形成し、同積層中に雪の冷熱を採取する採熱管を敷設したことを特徴とする。前記断熱性素材は、好ましくは、藁、籾殻、木チップ、木くず等を使用する。
【0008】
本発明においては、屋内又は屋外の適した場所に、冬期の積雪と藁、籾殻、木チップ、木くず等の天然の断熱性素材とを積層したきわめて断熱性の高い天然の積層体を形成し、その中に採熱管を敷設するというきわめて簡素な構造で、雪の冷熱を効率良く採取可能となる。前記積層体においては、下方層の雪層中に採熱管を敷設したほうがより低温の冷熱を採取できる。
本発明において、前記積層体の設置位置は、積雪した場所でそのまま積層体を構築してもよく、あるいは積雪した場所から雪室などの室内に積雪を移送して積層体を構築してもよい。
【0009】
本発明装置において、好ましくは、前記採熱管にブラインを流し、同ブラインを冷却媒体として冷媒を冷却する凝縮器と、同冷媒を減圧して膨張させる膨張弁と、同冷媒を蒸発させて周囲から蒸発潜熱を奪う蒸発器と、蒸発した冷媒を圧縮する圧縮機とを有する冷凍機を備える。
また好ましくは、前記採熱管にブラインを流し、同ブラインを冷却媒体として作動流体を冷却する凝縮器と、同作動流体を他の熱源から熱を吸収して作動流体を蒸発させる蒸発器と、蒸発した作動流体を断熱膨張させて発電機を稼動させる膨張機とを有する温度差発電装置を備える。
【0010】
また好ましくは、前記採熱管に作動流体を流し、同採熱管を凝縮器として使用する冷凍機又は温度差発電装置を備える。また前記採熱管に作動流体を流し、同採熱管を凝縮器として使用する冷凍機又は温度差発電装置を備えるようにしてもよい。また場合によっては、前記積層体の下方に排出口を設けて、溶融水を効率良く排出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明方法によれば、冬期積雪上に天然の断熱性を有する素材を撒くことによって積雪と断熱性素材とからなる積層を形成し、同積層中に雪の冷熱を採取する採熱管を敷設したことにより、天然の素材をそのまま利用するだけでよく、設備費がきわめて安価で済む。
また藁、籾殻、木チップ、木くず等の天然の断熱性素材はきわめて断熱効果が良いため、積雪の溶解を極力抑えることができ、積雪をかなり長期に保存できる。また降雨や直射日光からも雪の溶解を防止できるため、冷熱の採取効率を高く維持することができる。
また本発明によれば、雪の冷熱を利用した後、藁、籾殻等は堆肥としても再利用できる。さらに前記積層体は、場所を選ばず、どこにでも設置できるため、屋内外を問わず設置できて、きわめて便利である。
【0012】
また本発明において、好ましくは、前記採熱管にブラインを流し、同ブラインを冷却媒体として冷媒を冷却する凝縮器と、同冷媒を減圧して膨張させる膨張弁と、同冷媒を蒸発させて周囲から蒸発潜熱を奪う蒸発器と、蒸発した冷媒を圧縮する圧縮機とを有する冷凍機を備えたことにより、積雪から採熱した冷熱を冷凍機に利用でき、別な冷熱源が不要であるとともに、前記積層体の内部温度は、常に一定の低温を保持できるため、ブラインを常に安定した温度に保持でき、これらの相乗効果によって、冷凍効率を大幅に高めることができる。
また冷凍機の場合、蒸発器における蒸発温度と凝縮器における凝縮温度との差を小さくすることによって、冷凍機の消費エネルギをさらに低減することができる。
【0013】
また本発明において、好ましくは、前記採熱管にブラインを流し、同ブラインを冷却媒体として作動流体を冷却する凝縮器と、同作動流体を他の熱源から熱を吸収して作動流体を蒸発させる蒸発器と、蒸発した作動流体を断熱膨張させて発電機を稼動させる膨張機とを有する温度差発電装置を備えたことにより、前記冷凍機の場合と同様に、積雪から採熱した冷熱を冷凍機に利用でき、他の冷熱源が不要であるとともに、前記積層体の内部温度は、常に一定の低温を保持できるため、ブラインを常に安定した温度に保持でき、これらの相乗効果によって、冷凍効率を大幅に高めることができる。
また温度差発電装置の場合、蒸発器における蒸発温度と凝縮器における凝縮温度との差を大きくすることによって、発電量を増大させることができる。本発明の場合、凝縮器の冷却媒体として雪の冷熱を利用することにより、外気を利用する場合に比べて凝縮温度が低温となり、その分より発電量を増大することができる。
【0014】
また好ましくは、前記採熱管に作動流体を流し、同採熱管を凝縮器として使用する冷凍機又は温度差発電装置を備えたことにより、ブラインを使用した前記関節方式の場合と同様の作用効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
図1は、本発明の第1実施例の積層体を示す斜視図、図2は、前記第1実施例において、ブライン配管に接続された冷凍機を示す系統図である。
【0016】
本発明の第1実施例を示す図1〜2において、1は、藁(又は籾殻)からなる層2及び積雪からなる層3が多層に重なった積層体であり、積層体1の形成方法は、積雪した場所に藁(又は籾殻)を敷いていき、これを積雪のたびに数回繰り返して形成するか、あるいは積雪した雪を人手により別な場所に移動させて藁(又は籾殻)などと交互に積み上げてもよい。また最下層の積雪層3の下に排水口を設けてもよい。
【0017】
4は、積層体1の最下層の積雪層3内に付設されたブライン配管であり、雪により冷やされたブラインは、ブライン配管4を通り凝縮器5で、冷媒配管6内を流れる冷媒と熱交換して冷媒を冷却する。
図2において、冷却された冷媒は、膨張弁7で減圧されて膨張し、その後蒸発器8で周囲から蒸発潜熱を奪って蒸発する。その後冷媒は圧縮機9で圧縮されて、再び凝縮器5で冷却される。なお10は圧縮機9を駆動するモータである。
【0018】
図3は、本発明の装置をランキンサイクルを構成する温度差発電装置に適用した第2実施例を示す。
図3において、図1の積層体1内に敷設されたブライン配管14を流れるブラインは、凝縮器15で、作動流体配管6内を液ポンプ17によって循環される作動流体と熱交換して同作動流体を冷却する。その後作動流体は、蒸発器18に送られ、蒸発器18で図示しない他機器の排熱又はたとえば太陽光から採熱した熱源等他の熱源から熱を吸収して蒸発し、蒸発した作動流体は膨張機19によって断熱膨張されて発電機20を稼動する。
【0019】
前記第1実施例によれば、図2に示す冷凍機は、凝縮器5で冷媒を冷やす冷熱源として、積雪層3の冷熱を利用するため、別の冷熱源が不要であるとともに、前記積層体の内部温度は、常に一定の低温を保持できるため、ブラインを常に安定した温度に保持でき、これらの相乗効果によって、冷凍効率を大幅に高めることができる。
【0020】
また冬期積雪上に天然の断熱性を有する藁(又は籾殻)を撒くことによって積雪と断熱性素材とからなる積層体1を形成し、その最下層にブライン配管4を敷設したことにより、天然の素材をそのまま利用するだけでよく、設備費がきわめて安価で済む。
また藁、籾殻等の天然の断熱性素材はきわめて断熱効果が良いため、積雪の溶解を極力抑えることができ、積雪をかなり長期に保存できる。また降雨や直射日光からも雪の溶解を防止できるため、冷熱の採取効率を高く維持することができる。
また本発明によれば、雪の冷熱を利用した後、藁、籾殻等は堆肥としても再利用できる。さらに前記積層体は、場所を選ばず、どこにでも設置できるため、屋内外を問わず設置できて、きわめて便利である。
【0021】
前記第2実施例の装置においても、第1実施例とほぼ同様の作用効果を奏することができる。
またさらに第2実施例の場合、凝縮器15の冷却媒体として雪の冷熱を利用することにより、外気を利用する場合に比べて凝縮温度が低温となり、その分より発電量を増大することができる。
図4は、積層体内にブライン配管ではなく、直接作動流体の配管24を敷設した直接採熱方式の装置に適用した第3実施例を示す斜視図である。
図4において、積層体21を多層の藁(又は籾殻)層22及び積雪層23で構成した点は図1の第1実施例を同様であるが、本実施例では直接作動流体配管24を最下層の積雪層23内に敷設し、配管24は図2又は図3に図示される冷凍機又は温度差発電装置の一部を構成する。
この第3実施例においても、前述の第1実施例及び第2実施例と同様の作用効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明によれば、積雪と天然の素材を利用した断熱材との積層体を構成して、積雪の溶解を極力押えながら、簡素かつ安価な構造にて雪の冷熱を効率良く採取可能にして、冷凍機や温度差発電装置等の熱効率を向上させることができる装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施例を示す斜視図である。
【図2】前記第1実施例において、ブライン配管に接続された冷凍機を示す系統図である。
【図3】本発明の装置をランキンサイクルを構成する温度差発電装置に適用した第2実施例を示す系統図である。
【図4】本発明を直接採熱方式の装置に適用した第3実施例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
21 積層体
22 藁(又は籾殻)層
23 積雪層
4、14 ブライン配管
5、15 凝縮器
6 冷媒配管
7 膨張弁
8、18 蒸発器
9 圧縮機
10 駆動モータ
16、24 作動流体配管
17 液ポンプ
19 膨張機
20 発電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冬期降雪した雪を屋内又は屋外に貯蔵し、利用時期に雪の潜熱又は顕熱を利用する装置において、冬期積雪上に天然の断熱性を有する素材を撒くことによって積雪と断熱性素材とからなる積層を形成し、同積層中に雪の冷熱を採取する採熱管を敷設したことを特徴とする雪の冷熱を利用する装置。
【請求項2】
前記採熱管にブラインを流し、同ブラインを冷却媒体として冷媒を冷却する凝縮器と、同冷媒を減圧して膨張させる膨張弁と、同冷媒を蒸発させて周囲から蒸発潜熱を奪う蒸発器と、蒸発した冷媒を圧縮する圧縮機とを有する冷凍機を備えたことを特徴とする請求項1記載の雪の冷熱を利用する装置。
【請求項3】
前記採熱管にブラインを流し、同ブラインを冷却媒体として作動流体を冷却する凝縮器と、同作動流体を他の熱源から熱を吸収して作動流体を蒸発させる蒸発器と、蒸発した作動流体を断熱膨張させて発電機を稼動させる膨張機とを有する温度差発電装置を備えたことを特徴とする請求項1記載の雪の冷熱を利用する装置。
【請求項4】
前記採熱管に作動流体を流し、同採熱管を凝縮器として使用する冷凍機又は温度差発電装置を備えたことを特徴とする請求項1記載の雪の冷熱を利用する装置。
【請求項5】
天然の断熱性を有する前記素材が藁、籾殻、木チップ、木くずであることを特徴とする請求項1記載の雪の冷熱を利用する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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