説明

電位依存性カチオンチャネル抑制剤

【課題】優れた電位依存性カチオンチャネル阻害剤又はマスキング剤を提供する。
【解決手段】下記式(1)


〔式中、R1及びR2は、各々同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であり、Xは、−OH、−R3−OH(ここで、R3は炭素数1〜6のアルキレン基を示す)、−NH、−R4−NH2(ここで、R4は炭素数1〜6のアルキレン基を示す)、−COOH、−R5−COOH(ここで、R5は炭素数1〜6のアルキレン基を示す)、−CO−R6(ここで、R6は炭素数1〜6のアルキル基を示す)、−CO−R7−COO−R8(ここで、R7は炭素数1〜6のアルキレン基を示し、R8は炭素数1〜6のアルキル基を示す)又はNHCO−R9(ここで、R9は炭素数1〜6のアルキル基を示す)を示す〕で表されるアダマンタン誘導体を有効成分とする電位依存性カチオンチャネル阻害剤又はマスキング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電位依存性カチオンチャネル抑制剤及びマスキング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境の変化に起因する化学物質やハウスダスト等の外来刺激物質の増加によるアレルギー等の過敏症の増加や、自己の体臭や家庭における種々の生活臭を初めとする生活環境の臭気を嫌悪する傾向の高まり等、過敏な感覚に起因する日常の不快感が問題となっている。
感覚は、皮膚感覚や深部感覚等の体性感覚、内臓痛等の内臓感覚、視覚、聴覚、味覚、嗅覚等の特殊感覚に分類することができる。感覚の情報は、例えば、皮膚の各種受容器、筋紡錘、網膜、嗅粘膜、味蕾、蝸牛の有毛細胞等の末梢の感覚受容器等によって受容され、知覚感覚において神経インパルスに変換された後、電気信号として中枢まで伝達される。
【0003】
例えば、痛覚は、皮膚の自由神経終末で受容される侵害刺激(温度刺激、化学刺激、機械刺激)によって惹起される。自由神経終末には、各々の刺激に感受性のイオンチャネルが存在しており、刺激を受けた場合、これらのイオンチャネルが開口することでカチオンチャネルが細胞内に流入し、結果として電位依存性カチオンチャネルが活性化されて、神経の活動電位(インパルス)が発生する(非特許文献1)。また、痒みを起こす刺激としては、機械刺激、熱刺激、電気刺激等の物理的刺激と、起痒物質等の化学的刺激とが知られている。これらの刺激は、主として真皮内のマスト細胞からヒスタミンを放出させ、放出されたヒスタミンは自由神経終末上の受容体と結合してカルシウムイオンの流入を引き起こし、最終的に神経の活動電位を発生させると考えられている(非特許文献2)。
【0004】
同様に、他の何れの感覚の発生においても、情報は、神経細胞の電位依存性カチオンチャネルの活性化によって発生する活動電位の形態で中枢に伝達される。更に電位依存性カチオンチャネルは、こうした活動電位の発生や伝導だけでなく、シナプス間隙や神経筋終末への神経伝達物質の放出にも関与している。
従って、電位依存性カチオンチャネルの活性化を阻害すれば、感覚を抑制することが可能である。実際、電位依存性カチオンチャネル阻害剤を利用して感覚を抑制させる方法は、従来から医療現場等で使用されている。例えば、局所麻酔剤や抗不整脈薬として使用されるリドカイン(例えばキロシカイン(登録商標))は、電位依存性ナトリウムチャネル阻害剤である。電位依存性カルシウムチャネル阻害剤であるガバペンチン(例えば、ガバペン(登録商標)、ニューロンチン(登録商標))、は抗痙攣剤或いは鎮痛補助薬として使用されている。また、電位依存性カルシウムチャネル又はナトリウムチャネルのインヒビター(例えば、バラパミル)が、外的攻撃に対する皮膚の耐性閾値を増加させ、皮膚の過敏症に適用できることが報告されている(特許文献1)。
【0005】
知覚神経の電位依存性カチオンチャネルを阻害することによって、医療目的での感覚抑制効果が得られるだけでなく、日常感じる過敏な感覚又は不快な感覚を抑制又は調整することにより、生活の質を改善することができる可能性がある。
【0006】
特に、食品、医薬品、化粧品や家庭用品等の不快臭抑制や対象物の消臭等を目的として使用することのできるマスキング素材が求められていた。
そこで、例えば、ヒト嗅覚器CNGチャネルタンパク質の作用機序を利用して、嗅細胞イオンチャネル阻害が強いものを不快臭のマスキング素材として探索することが試みられている(特許文献2)。
しかしながら、未だ満足の行く不快臭のマスキング素材を得るまでには至っていない。
【0007】
ところで、アダマンタン誘導体は、高い耐熱性、透明性、耐薬品性、潤滑性等の特異な性質を有しており、特にフォトレジスト材料として広く使用されており、この特性を生かして、歯科用組成物としても使用されている(特許文献3)。
しかしながら、アダマンタン誘導体に電位依存性チャネル阻害作用や不快臭のマスキング効果があることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2002−505268号公報
【特許文献2】特表2005−500836号公報
【特許文献3】特開2009−84221号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】富永真琴,実験医学, vol.24, No.15: 54-59 (2006)
【非特許文献2】豊田雅彦,綜合臨床, Vo.53, No.5: 1629-1636 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、感覚の抑制又は調整、或いは日常感じる過敏な感覚又は不快な感覚の低減に利用することができる電位依存性カチオンチャネル阻害剤及びマスキング剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、電位依存性チャネルを効果的に阻害し、感覚の抑制又は調整に利用し得る物質及び不快臭のマスキング物質を探索した結果、下記式で表されるアダマンタン誘導体が、有効な電位依存性チャネル阻害効果及び不快臭のマスキング効果が認められることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の1)〜5)に係るものである。
1)本発明は、下記式(1)
【0013】
【化1】

【0014】
〔式中、R1及びR2は、各々同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であり、Xは、−OH、−R3−OH(ここで、R3は炭素数1〜6のアルキレン基を示す)、−NH2、−R4−NH2(ここで、R4は炭素数1〜6のアルキレン基を示す)、−COOH、−R5−COOH(ここで、R5は炭素数1〜6のアルキレン基を示す)、−CO−R6(ここで、R6は炭素数1〜6のアルキル基を示す)、−CO−R7−COO−R8(ここで、R7は炭素数1〜6のアルキレン基を示し、R8は炭素数1〜6のアルキル基を示す)、又はNHCO−R9(ここで、R9は炭素数1〜6のアルキル基を示す)を示す〕で表されるアダマンタン誘導体を有効成分とする電位依存性カチオンチャネル阻害剤又はマスキング剤。
【0015】
2)上記R1及びR2は、各々同一又は異なって、水素原子又はメチル基である上記記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤又はマスキング剤。
【0016】
3)上記R3、R4、R5及びR7が、炭素数1〜4のアルキレン基であり、上記R6、R8及びR9が炭素数1〜4のアルキル基である上記記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤又はマスキング剤。
【0017】
4)上記Xが、−OH、−R3−OH(ここで、R3は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)、−R4−NH2(ここで、R4は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)、−R5−COOH(ここで、R5は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)、−CO−R6(ここで、R6は炭素数1〜2のアルキル基を示す)、−CO−R7−COO−R8(ここで、R7は炭素数1〜2のアルキレン基を示し、R8は炭素数1〜2のアルキル基を示す)、又はNHCO−R9(ここで、R9は炭素数1〜2のアルキル基を示す)である上記記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤又はマスキング剤。
【0018】
5)上記式(1)で表される化合物が、1−アダマンタノール、1−アダマンタンメタノール、1−アダマンタンエタノール、3,5−ジメチルアダマンタン−1−メタノール、1−アダマンタンメチルアミン、1−アダマンチルメチルケトン、1−アダマンタン酢酸、エチル−3−(1−アダマンチル)−3−オキソプロピオネート、1−アセトアミドアダマンタン又は1−アダマンタンメタンアミンである上記記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤又はマスキング剤。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、種々の感覚を効果的に抑制又は調整することで、医薬品の分野のみならず食品、化粧品、家庭用品等の分野においても有用であり、日常感じる過敏な感覚又は不快な感覚を低減することができる。また、本発明によれば、不快臭を低減できるので、不快臭低減を期待する家庭用品、医薬品、化粧品等の幅広い分野で利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】試験物質による電位依存性カチオンチャネル活性抑制能の測定実験データを示す。
【図2】不快臭成分に対する1−アダマンタンメタノール、1−アダマンタンメチルアミン、1−アダマンタン酢酸、3.5−ジメチルアダマンタン−1−メタノールのヒトのマスキング試験結果を示す。
【図3】電位依存性カチオンチャネル阻害活性率とマスキングスコアとの相関関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1及びR2は、各々同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。
ここで、R1及びR2で示される炭素数1〜6のアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のものが包含されるが、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基及びtert−ブチル基等が挙げられる。
上記R1及びR2としては、このうち、水素原子及び直鎖のアルキル基が好ましく、より水素原子、メチル基、エチル基及びプロピル基が好ましく、更に水素原子及びメチル基が好ましい。
【0022】
3、R4、R5及びR7で示される炭素数1〜6のアルキレン基としては、直鎖又は分岐鎖のものが包含されるが、炭素数1〜4のアルキレン基が好ましく、例えば、メチレン基、エチレン基、メチルメチレン基、エチルメチレン基、プロピレン基、ブチレン基、イソプロピレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基及びtert−ブチレン基等が挙げられる。このうち、炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基が好ましい。
更に、上記R3で示されるアルキレン基のうち、炭素数1〜2の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基が好ましく、よりメチレン基及びエチレン基が好ましい。
また、上記R4で示されるアルキレン基のうち、炭素数1〜2の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基が好ましく、よりメチレン基及びメチルメチレン基が好ましい。
また、上記R5及びR7で示されるアルキレン基のうち、炭素数1〜2の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基が好ましく、よりメチレン基が好ましい。
【0023】
6、R8及びR9で示される炭素数1〜6のアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のものが包含されるが、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基及びtert−ブチル基等が挙げられる。このうち、炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく、より炭素数1〜2の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく、更にメチル基及びエチル基が好ましい。
【0024】
ここに、上記Xが、−OHである化学式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば1−アダマンタノール、1−ヒドロキシ−3−メチルアダマンタン、1−ヒドロキシ−3−エチルアダマンタン、1−ヒドロキシ−3−(1ープロピル)アダマンタン、1−ヒドロキシ−3−(2−プロピル)アダマンタン、1−ヒドロキシ−3−(1ーブチル)アダマンタン、1−ヒドロキシ−3−(2−ブチル)アダマンタン、1−ヒドロキシ−3−(2−メチルプロパン−2−イル)アダマンタン、1−ヒドロキシ−3−ビニルアダマンタン、1−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)アダマンタン、1−ヒドロキシ−3,5−ジメチルアダマンタン、1−ヒドロキシ−3−エチル−5−メチルアダマンタン、1−ヒドロキシ−3、5−ジ(2−プロピル)アダマンタンなどが挙げられる。
【0025】
また、Xが−R3−OHである化学式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば1−アダマンタンメタノール、1−アダマンタンエタノール、3−(アダマンタン−1−イル)プロパン−1−オール、2−(アダマンタン−1−イル)プロパン−1−オール、2−(アダマンタン−1−イル)プヘキサン−1−オール、(3−メチルアダマンタン−1−イル)メタノール、(3−エチルアダマンタン−1−イル)メタノール、(3−(2−プロピル)アダマンタン−1−イル)メタノール、2−(3−メチルアダマンタン−1−イル)−2−プロパノール、2−(3−エチルアダマンタン−1−イル)−2−プロパノール、2−(3−(2−プロピル)アダマンタン−1−イル)−2−プロパノール、3,5−ジメチルアダマンタン−1−メタノール、3,5−ジメチルアダマンタン−1−エタノール、(3−メチル−アダマンタン−1−イル)メタノール、2−アダマンタン−1−イル−プロパン−2−オール、2−(3、5−ジメチルアダマンタン−1−イル)プロパン−2−オール、2−(3、5−ジイソプロピルアダマンタン−1−イル)プロパン−2−オールなどが挙げられる。
【0026】
また、上記Xが−NH2である化学式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば1−アダマンタンアミン、1−アミノ−3−メチルアダマタンタン、1−アミノ−3−エチルアダマンタン、1−アミノ−3−(1−プロピル)アダマンタン、1−アミノ−3−(2−プロピル)アダマンタン、1−アミノ−3−(1−ブチル)アダマンタン、1−アミノ−3−(2−ブチル)アダマンタン、1−アミノ−3−(1−ペンチル)アダマンタン、1−アミノ−3−(1−ヘキシル)アダマンタン、1−アミノ−3、5−ジメチルアダマンタンなどが挙げられる。これらは塩酸等の無機酸や有機酸と塩を形成していてもよい。
【0027】
上記Xが−R4−NH2である化学式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば1−アダマンタンメチルアミン、1−(アダマンタン−1−イル)エチルアミン、 2−(アダマンタン−1−イル)エチルアミン、1−アミノ−2−(アダマンタン−1−イル)プロパン、2−(アダマンタン−1−イル)−3−アミノ−1−プロペン、1−(アダマンタン−1−イル)−3−アミノ−1−プロペン、1−アミノ−4−(アダマンタン−1−イル)ペンタン、1−アミノ−3−(アダマンタン−1−イル)ペンタン、1−アミノ−3−メチル−5−(アダマンタン−1−イル)ペンタン、1−(3−メチル−アダマンタン−1−イル)メチルアミン、2−(3−メチル−アダマンタン−1−イル)エチルアミン、1−(3−エチル−アダマンタン−1−イル)エチルアミン、1−(3,5−ジメチル−アダマンタン−1−イル)メチルアミン、2−(3,5−ジメチル−アダマンタン−1−イル)エチルアミン、1−(3,5−ジメチル−アダマンタン−1−イル)エチルアミン、1−アミノ−3−(3,5−ジメチル−アダマンタン−1−イル)プロパン、1−アミノ−4−(3,5−ジメチル−アダマンタン−1−イル)ブタンなどが挙げられる。これらは塩酸等の無機酸や有機酸と塩を形成していてもよい。
【0028】
上記Xが−COOHや−R5−COOHある化学式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば1−アダマンタン酢酸、2−(アダマンタン−1−イル)ブタン酸、(3−メチル−アダマンタン−1−イル)酢酸、(3−エチル−アダマンタン−1−イル)酢酸、(3−(2−プロピル)−アダマンタン−1−イル)酢酸、(3,5−ジメチル−アダマンタン−1−イル)酢酸、(3,5−ジメチル−アダマンタン−1−イル)ブタン酸が挙げられる。これらはナトリウムやカリウム等のアルカリ金属と塩を形成してもよい。
【0029】
上記Xが−CO−R6である化学式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば1−アダマンチルメチルケトン、1−アダマンチルエチルケトン、1−アダマンチルイソプロピルケトン、1−アダマンチル−t−ブチルケトン、エチル(3−イソプロピル−アダマンタン−1−イル)ケトン、エチル(3,5−ジメチル−アダマンタン−1−イル)ケトンなどが挙げられる。
【0030】
上記Xが−CO−R7−COO−R8である化学式(1)で表される化合物の具体例としては、メチル−3−(1−アダマンチル)−3−オキソプロピオネート、メチル−2,2−ジメチル−3−(1−アダマンチル)−3−オキソプロピオネート、エチル−3−(1−アダマンチル)−3−オキソプロピオネート、t−ブチル−3−(1−アダマンチル)−3−オキソプロピオネ−ト、エチル−3−(1−アダマンチル)−3−オキソプロピオネート、エチル−3−(1−アダマンチル)−3−オキソプロピオネートなどが挙げられる。
【0031】
上記Xが−NHCO−R9である化学式(1)で表される化合物の具体例としては、1−アセトアミドアダマンタン、N−(アダマンタン−1−イル)−プロピオンアミド、N−(アダマンタン−1−イル)−2−メチルブチルアミド、N−(3−メチル−アダマンタン−1−イル)−アセトアミド、N−(3−エチル−アダマンタン−1−イル)−アセトアミド、N−(3−(1−プロピル)−アダマンタン−1−イル)−アセトアミド、N−(3−(2−プロピル)−アダマンタン−1−イル)−アセトアミド、N−(3,5−ジメチル−アダマンタン−1−イル)−アセトアミド、N−(3,5−ジエチル−アダマンタン−1−イル)−アセトアミド、N−(3,5−ジメチル−アダマンタン−1−イル)−ブチルアミドなどが挙げられる。
【0032】
上記Xは、−OH、−R3−OH(ここで、R3は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)、−R4−NH2(ここで、R4は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)、−R5−COOH(ここで、R5は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)、−CO−R6(ここで、R6は炭素数1〜2のアルキル基を示す)、−CO−R7−COO−R8(ここで、R7は炭素数1〜2のアルキレン基を示し、R8は炭素数1〜2のアルキル基を示す)、及びNHCO−R9(ここで、R9は炭素数1〜2のアルキル基を示す)〕であるのが好ましい。
【0033】
このうち、1−アダマンタノール、1−アダマンタンメタノール、1−アダマンタンエタノール、3,5−ジメチルアダマンタン−1−メタノール、1−アダマンタンメチルアミン、1−アダマンチルメチルケトン、1−アダマンタン酢酸、エチル−3−(1−アダマンチル)−3−オキソプロピオネート、1−アセトアミドアダマンタン及び1−アダマンタンメタンアミンが好ましい。
【0034】
尚、上記式(1)で表される各化合物は、1種のみを使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0035】
上記式(1)で表される化合物は、公知の化学合成法によって製造することができ、また上記の具体例の化合物はいずれも公知化合物である。
(1)Xが−OHの場合、アダマンタンから次亜塩素酸やオゾンなど適当な酸化剤を用いて酸化することにより合成することが出来る(特開2000−219646号公報、特開2004−26778号公報)
(2)Xが−NH2の場合、アダマンタンをフッ素及びルイス酸存在下、アセトニトリルと反応させることによりN−(1ーアダマンチル)アセトアミドを合成し、これを酸または塩基と接触させることによって合成する事が出来る(WO 01/053234)。
(3)Xが−R3−OHの場合、対応するアダマンチル基を有するカルボン酸又はカルボン酸エステルを適当な還元剤を用いて還元することにより得ることが出来る。例えば、1−アダマンチル酢酸をボラン/THF錯体と反応させることにより、1−アダマンタンエタノールを合成することが出来る。(Angew. Chem., 72, 628(1960) )
(4)Xが−R3−NH2の場合、対応するアルキル基末端にハロゲン基を有するアダマンタン誘導体をアジ化ナトリウムと反応させて、アジ化物を合成し、これを水素添加反応することにより得ることが出来る。例えば、1−(2−ブロモエチル)アダマンタンにアジ化ナトリウムを作用させて1−(2−アジドエチル)アダマンタンを合成し、これをプラチナ触媒存在下水素と接触させることにより、1−(2−アミノエチル)アダマンタンを得ることが出来る。(Journal of Medicinal Chemistry, 1971, Vol. 14, No. 6 535)
【0036】
後記実施例に示すように、本発明の化合物は、生体由来受容器細胞の電位依存性カチオンチャネルにより生じる電気的活動を抑制すること、言い換えれば、神経の活動電位の発生や伝達を抑制できること、すなわち電位依存性カチオンチャネル阻害作用を有することから、生物の種々の感覚を抑制又は調整するために用いることができる。例えば、皮膚末梢神経系のナトリウム又はカルシウムチャネル阻害は皮膚耐性閾値を増加させることができる(特許文献1;特表2002-505268)。また、後記実施例に示すように、本発明の化合物は、不快臭成分に対してマスキング効果が認められる。尚、後記参考例に示すように、電位依存性カチオンチャネル抑制率とマスキングスコア(不快臭)との間には、相関関係が認められる。
【0037】
ここに、「皮膚耐性閾値」とは、この値を超えると皮膚は外部刺激に対し、知覚不全の兆候、すなわち皮膚領域における多かれ少なかれ痛みのある感覚、例えば刺痛、チクチクする痛み、痒み又は掻痒、火傷感、暖温感、不快感、激痛および/又は赤み又は紅斑等を伴った反応を起こすようになる皮膚の興奮性閾値を意味するものである。
また、「外部刺激」とは、例えば界面活性剤や防腐剤、又は香料など刺激性を有する化合物、及び環境、食物、風、摩擦、シェービング、石鹸、カルシウム濃度の高い硬水、温度変化、毛糸などを意味するものである。
【0038】
ここで、本発明における電位依存性カチオンチャネル阻害とは、電位依存性カチオンチャネルからの細胞内へのイオンの流入を阻害することを云う。本発明において阻害される電位依存性カチオンチャネルとしては、電位依存性Na+チャネル、電位依存性K+チャネル、電位依存性Ca2+チャネルが挙げられる。このうち、電位依存性Ca2+チャネルは、更に、電気生理学的、薬理学的性質から、L−,N,P−,Q−,R−,及びT−typeに分類することができ、これらは何れも本発明の化合物の標的である。
【0039】
また、上記抑制又は調整される種々の感覚としては、皮膚や粘膜で受容される触覚、圧覚、温覚、冷覚、痛覚、及び筋、腱や関節からの感覚を含む、体性感覚;臓器感覚及び内臓痛を含む内臓感覚;視覚、聴覚、味覚、嗅覚及び平衡感覚を含む特殊感覚;ならびに、その他の感覚(例えば、掻痒感、しびれ、神経痛、疼痛、その他不快感等)が挙げられる。これらのあらゆる感覚は、電位依存性カチオン阻害物質により抑制、軽減又は改善され得る。又、これらの種々の感覚は、しばしば刺激への感受性が亢進し、嗅覚過敏、又は痛覚過敏(hyperalgesia)、異痛症(alodynia)、痒み過敏などの皮膚知覚過敏といった不快な症状を呈するが、電位依存性カチオンチャネルを阻害すれば、これらの症状のうち末梢知覚神経活動の亢進に起因する症状の予防、改善又は治療に利用できる。
なお、皮膚痛覚過敏とは、痛みの感覚が亢進し、痛みとなる刺激をより強く感じる感覚異常のことを、異痛症とは通常では疼痛をもたらさない刺激でも全て疼痛として認識される感覚異常のことを、痒み過敏とは普段であれば痒みを感じない刺激に対しても痒みを感じる感覚異常のことをいう。
【0040】
よって、本発明の化合物は、ヒトを含む動物に摂取又は投与して、又は不快臭低減を望む対象物に混合、噴霧若しくは塗布等して、物電位依存性カチオンチャネル阻害、皮膚知覚過敏改善及び嗅覚マスキングを図るために使用することができる。また、本願発明の化合物は、電位依存性カチオンチャネル阻害剤、皮膚知覚過敏改善剤及び嗅覚マスキング剤(以下、「電位依存性カチオンチャネル阻害剤等」とも云う)となり得、また当該電位依存性カチオンチャネル阻害剤等を製造するために使用することができる。
【0041】
従って、本発明の電位依存性カチオンチャネル阻害剤等は、電位依存性カチオンチャネル阻害、知覚過敏改善又はマスキングのための医薬品、医薬部外品、化粧品、ハウスケア製品、食品、機能性食品若しくは飼料等として、又はこれら医薬品等に配合するための素材又は製剤として有用である。
【0042】
本発明の化合物を含む医薬品、医薬部外品又はその他の組成物等としては、医学または獣医学分野で使用される麻酔剤、鎮静剤、鎮痛剤、鎮咳剤、抗炎症剤、過敏症やアレルギー反応などの過剰な感覚の抑制剤、痒み止め、ペインクリニック用医薬や介護や旅行で使用される吸引・点鼻による嗅覚抑制剤等の医薬品及び医薬部外品;抗カビ剤、液体タイプの衣料用抗菌仕上げ剤、衣料用洗剤、衣料用柔軟剤、衣料用漂白剤、住居用洗剤、排水口用洗剤、浴室用洗剤、トイレ用洗剤、トイレ用芳香防臭洗浄剤、洗濯機用洗剤、台所用洗浄剤、食器用洗浄剤、消臭剤等のハウスケア製品;皮膚過敏症抑制作用を有する入浴剤や化粧料、知覚過敏抑制作用を有する歯磨き粉やマウスウォッシュ等やウエットティッシュ、制汗剤、ふき取りシート等のボディケア製品等が挙げられる。
【0043】
本発明の化合物を含む医薬品、医薬部外品は、標的とする感覚、又は標的とする対象や身体部位等に応じて、任意の投与形態で投与することができる。標的とする感覚としては上述のとおりであり、標的とする対象や身体部位としては、例えば、生体、ならびに生体由来の組織、器官及び細胞が挙げられる。
投与形態としては、経口投与及び非経口投与が挙げられる。経口投与のための剤型としては、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤のような固形投薬形態、あるいはエリキシル、シロップおよび懸濁液のような液体投薬形態が挙げられる。非経口投与のための経路としては、注射、輸液、経皮、経粘膜、経鼻、経腸、吸入、坐剤、ボーラス等が挙げられ、剤型としては、錠剤、カプセル、液体、粉末、顆粒、軟膏、スプレー、ミスト、クリーム、乳液、ジェル、ペースト、ローション、パップ、プラスター、スティック、シート等が挙げられる。
【0044】
上記製剤には、本発明の化合物に、必要に応じて、任意の他の成分と組み合わせて使用されてもよい。好ましい他の成分としては、薬学的に許容される担体が挙げられる。薬学的に許容される担体の具体的な例としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、活性増強剤、矯味剤、矯臭剤等が挙げられる。本発明の電位依存性カチオンチャネル阻害剤は、さらに、公知の他の薬効成分(例えば、他のイオンチャネル阻害剤、感覚抑制若しくは調整剤、抗炎症剤、殺菌剤等)と組み合わせて使用してもよい。
【0045】
医薬品、医薬部外品、その他の組成物等における本発明の電位依存性カチオンチャネル阻害剤の配合量は、その使用形態や目的により異なるが、例えば感覚抑制に使用する場合、通常、0.01から50質量%、好ましくは0.1から10質量%、より好ましくは0.1から5質量%である。
【0046】
また、本願発明を含む食品及び飼料等には、例えば、パン類、麺類、菓子類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、澱粉加工製品、加工肉製品、その他加工食品、飲料、スープ類、調味料及び栄養補助食品等の食品;牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、マグロ、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等の飼料等が挙げられる。
【0047】
上記食品や飼料には、本発明の化合物に、必要に応じて、任意の他の成分と組み合わせて使用されてもよい。好ましい他の成分としては、食品や飼料分野で許容される担体が挙げられる。当該許容される担体の具体的な例としては、溶剤、軟化剤、油脂、乳化剤、防腐剤、香料、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、ゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等が挙げられる。
食品や飼料の形態としては、特に限定されないが、液状、半固体状、固体状の他、上記の経口投与製剤と同様の、錠剤、丸剤、カプセル剤、液剤、シロップ剤、粉末剤、顆粒剤等の形態であってもよい。
【0048】
また、食品又は飼料中の、本発明化合物の含有量は、その使用形態により異なるが、乾燥物換算で、通常0.001〜50質量%であり、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。
【0049】
本発明化合物を医薬品や機能性食品として或いはこれらに配合して使用する場合の投与・摂取量は、効果が得られる量であれば特に限定されない。またその投与・摂取量は、対象者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、経口投与・摂取の場合の成人1人当たりの1日の投与・摂取量は、通常、本発明化合物として、0.001〜100gが好ましい。また、上記製剤は、任意の投与・摂取計画に従って投与・摂取され得るが、1日1回〜数回に分け、数週間〜数カ月間継続して投与・摂取するのが好ましい。
【0050】
本発明の電位依存性カチオンチャネル阻害剤等の投与又は摂取対象者としては、それを必要としていれば特に限定されないが、上述の種々の感覚を抑制又は調整すること、例えば皮膚知覚過敏改善や嗅覚マスキングを目的とするヒトやヒト以外の哺乳動物が好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例及び試験例を挙げるが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
〔試験物質:アダマンタン及びその誘導体〕
表1に示すように、アダマンタン、1,3−ジメチルアダマンタン、1−アダマンタノール、1−アダマンタンメタノール、1−アダマンタンエタノール、3,5−ジメチルアダマンタン−1−メタノール、1−アダマンタンメチルアミン、1−アダマンチルメチルケトン、1−アダマンタン酢酸、エチル−3−(1−アダマンチル)−3−オキソプロピオネート、1−アセトアミドアダマンタン又は1−アダマンタンメタンアミンは、全てシグマアルドリッチジャパンから購入した物を用いた。
【0053】
試験例1:電位依存性カチオンチャネル活性測定試験
1.嗅細胞の単離
アカハライモリより公知の方法(Kurahashiら, J. Physiol. (1989), vol.419: 177-192)に従って嗅細胞を単離し、正常リンガー液に浸した。単離方法を簡単に示すと、氷水中で冬眠状態にしたイモリにダブルピスを施し、頭蓋を切開し嗅粘膜を取り出す。取り出した嗅粘膜を0.1%コラゲナーゼ溶液中で37℃にて5分間インキュベートし、コラゲナーゼを洗い流したあと、ガラスピペットにて組織を粉砕し細胞を単離した。正常リンガー液としては、NaCl 110mM、KCl 3.7 mM、CaCl2 3 mM、MgCl2 1 mM、グルコース 15 mM、ピルビン酸ナトリウム 1 mM、HEPES 10 mM、フェノールレッド 0.001%(w/v)、pH 7.4(NaOHで調整)を用いた。
【0054】
2.電気的活動の測定
〔A.設定〕 単離した嗅細胞を全細胞記録法により膜電位を固定し、膜電流の計測を行った(Kawaiら, J. Gen. Physiol. (1997), vol.109: 265-272)。電極は、ホウケイ酸ガラスキャピラリー(直径1.2mm)を用い、電極作成用プラー(P-97, SUTTER INSTRUMENT CO.)にて作製した(電極抵抗6.0MΩ前後)。電極内には、電極内溶液と銀塩化銀線を挿入し、銀塩化銀線はパッチクランプアンプ(EPC10, HEKA)と接続し、膜電位の固定、脱分極刺激を行った。電極内溶液としては、CsCl 119 mM、HEPES 10 mM、CaCl2 1mM、EGTA 5mM、フェノールレッド 0.001%(w/v)、pH7.4(CsOHで調整)を用いた。膜電流の記録は、パッチクランプアンプに接続したコンピュータ(IBM互換機)にて行い(Sampling frequency, 1kHz)、測定、解析にはPatch Masterソフトウェア(HEKA)を用いた。試験物質の添加(吹きかけ)には、圧力制御装置を用いた。圧力制御装置とは、エアーコンプレッサーより送り込まれた圧縮空気を、コンピューター制御にて任意の圧力まで減圧し、設定した時間、その圧縮空気を試験物質を充填したガラスピペット尾部へ送り込む装置である(Itoら、日本生理学雑誌, 1995,vol.57,127-133)。
【0055】
〔B.手順〕 上記各試験物質(表1参照)による電位依存性カチオンチャネル活性への影響を調べるため、単離した嗅細胞の膜電位を-90 mVに固定し、200ミリ秒間隔で20ミリ秒間、膜電位を-20 mVへ脱分極させ、脱分極直後に生じる内向き電流のピーク強度(図1、|a|=〔脱分極直後に生じる内向き電流値〕−〔ベースライン値〕)を測定した。脱分極刺激を繰り返し続けながら、正常リンガー液で表1に示す各濃度に調整し、嗅細胞近傍(10 μm)に先端が来るようにセットしたガラスピペット(先端口径 1 μm)を通じて吹きかけることにより(650ミリ秒間、圧力100kPa)嗅細胞に添加し、それに伴う内向き電流の変化(図1、|b|=〔ピーク強度が最も抑制されたときの内向き電流値〕−〔ベースライン値〕)を調べた。この吹きかけは5回連続して行った。さらに、エキス添加直前の脱分極によって生じた内向き電流のピーク強度(a)の平均値Aを、エキス添加直後の脱分極によって生じた内向き電流のピーク強度(b)の平均値Bを算出した。
尚、試験中、稀に試験物質添加に伴い、嗅覚受容体が応答し、CNGチャネルに由来する内向き電流が観察される場合が起きるが、このようなケースは除外した。このケースは、試験物質が試験に用いた嗅細胞上の嗅覚受容体のアゴニストとして作用することにより生じたと考えられる。CNGチャネル電流は、その強度、ピーク形状、持続時間などから電位依存性チャネル電流と容易に区別することができる
【0056】
下式に示す「B:ピーク強度が最も抑制されたときの内向き電流値(b)の平均値」及び「A:エキス添加直前の脱分極直後に生じる内向き電流値(a)の平均値」から、「内向き電流抑制率(%)」を算出し、この結果をもとに、各試験物質添加による電位依存性カチオンチャネルの電気的活動に対する抑制能を評価し、各試験物質の内向き電流抑制率を表1に示した。なお、内向き電流抑制率が高い成分ほど、電位依存性カチオンチャネル阻害効果が高いものとなる。
【0057】
内向き電流抑制率(%)=〔1−(A/B)〕×100
【0058】
以上の結果を表1に示した。
【0059】
【表1】

【0060】
試験例2:嗅覚マスキング試験
官能評価の嗅覚マスキング試験をパネラー10名に対して実施した。悪臭物質として10%へキサン酸を用い、悪臭 20μLと50%濃度のアダマンタン誘導体(1-アダマンタン酢酸は25%濃度)の試験溶液20μLを同一の綿球(直径 1cm)にしみこませ、50mL容器内で一晩、室温で揮発させた。
評価は、パネラー自身が容器内の匂いを嗅ぎ、ヘキサン酸単体の匂い強度を21段階評価(0:臭わない、10:臭いが強い)の中間点である5.0に設定した時のアダマンタン誘導体添加によるヘキサン酸のマスキング強度を判定することにより行った。
〔結果〕
ヘキサン酸単体に対する匂い強度変化を図2に、匂い強度抑制率を表2に示した。各アダマンタン誘導体添加により嗅覚マスキング作用が認知された。
【0061】
【表2】

【0062】
参考例:電位依存性チャネル阻害作用とマスキング効果との相関関係
図3及び表3に示すように、種々のサンプルを用いた結果から、内向き電流抑制率(%)とマスキングスコアとに相関関係が認められたことから、電位依存性カチオンチャネル阻害作用のある成分は不快臭のマスキング素材として有用である。
〔官能評価試験〕
官能評価の嗅覚マスキング試験をパネラー20名に対して実施した。悪臭物質として1%イソ吉草酸を、対照として悪臭に対する嗅覚感度低下効果が知られている1,8−シネオールを用いた。
悪臭 2μLと、表3に示す 0.1%濃度の評価化合物の試験溶液 4μLを別々の綿球(直径 1cm)にしみこませ、別々の 50mL注射筒内で12時間、室温で揮発させた。注射筒内で気化したイソ吉草酸と評価化合物をフタ付きのPP容器(容積 500mL)内へ注入し、混和させた。
評価は、パネラー自身がPP容器のフタをわずかに開け、容器内の匂いを嗅ぎ、イソ吉草酸の匂いに対するマスキング強度を判定した。
マスキング強度の評価は、気化したイソ吉草酸のみを注入したPP容器内の臭気強度と比較し、以下の6段階のマスキングスコアにより行った。この結果を表3に示した。
0:マスキングされていない
1:マスキング効果がごくわずかに認められる
2:マスキング効果がやや認められる
3:マスキング効果が十分認められる
4:ほとんどマスキングされている
5:完全にマスキングされている
【0063】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

〔式中、R1及びR2は、各々同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であり、Xは、−OH、−R3−OH(ここで、R3は炭素数1〜6のアルキレン基を示す)、−NH2、−R4−NH2(ここで、R4は炭素数1〜6のアルキレン基を示す)、−COOH、−R5−COOH(ここで、R5は炭素数1〜6のアルキレン基を示す)、−CO−R6(ここで、R6は炭素数1〜6のアルキル基を示す)、−CO−R7−COO−R8(ここで、R7は炭素数1〜6のアルキレン基を示し、R8は炭素数1〜6のアルキル基を示す)、又は−NHCO−R9(ここで、R9は炭素数1〜6のアルキル基を示す)を示す〕で表されるアダマンタン誘導体を有効成分とする電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【請求項2】
上記R1及びR2は、各々同一又は異なって、水素原子又はメチル基である請求項1記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【請求項3】
上記R3、R4、R5及びR7が炭素数1〜4のアルキレン基であり、上記R6、R8及びR9が炭素数1〜4のアルキル基である請求項1又は2記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【請求項4】
上記Xが、−OH、−R3−OH(ここで、R3は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)、−R4−NH2(ここで、R4は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)、−R5−COOH(ここで、R5は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)、−CO−R6(ここで、R6は炭素数1〜2のアルキル基を示す)、−CO−R7−COO−R8(ここで、R7は炭素数1〜2のアルキレン基を示し、R8は炭素数1〜2のアルキル基を示す)、又はNHCO−R9(ここで、R9は炭素数1〜2のアルキル基を示す)である請求項1〜3の何れか1項記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【請求項5】
上記式(1)で表される化合物が、1−アダマンタノール、1−アダマンタンメタノール、1−アダマンタンエタノール、3,5−ジメチルアダマンタン−1−メタノール、1−アダマンタンメチルアミン、1−アダマンチルメチルケトン、1−アダマンタン酢酸、エチル−3−(1−アダマンチル)−3−オキソプロピオネート、1−アセトアミドアダマンタン又は1−アダマンタンメタンアミンである請求項1〜4の何れか1項記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【請求項6】
下記式(1)
【化2】

〔式中、R1及びR2は、各々同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であり、Xは、−OH、−R3−OH(ここで、R3は炭素数1〜6のアルキレン基を示す)、−NH2、−R4−NH2(ここで、R4は炭素数1〜6のアルキレン基を示す)、−COOH、−R5−COOH(ここで、R5は炭素数1〜6のアルキレン基を示す)、−CO−R6(ここで、R6は炭素数1〜6のアルキル基を示す)、−CO−R7−COO−R8(ここで、R7は炭素数1〜6のアルキレン基を示し、R8は炭素数1〜6のアルキル基を示す)、又は−NHCO−R9(ここで、R9は炭素数1〜6のアルキル基を示す)を示す〕で表されるアダマンタン誘導体を有効成分とするマスキング剤。
【請求項7】
上記R1及びR2は、各々同一又は異なって、水素原子又はメチル基である請求項6記載のマスキング剤。
【請求項8】
上記R3、R4、R5及びR7が炭素数1〜4のアルキレン基であり、上記R6、R8及びR9が炭素数1〜4のアルキル基である請求項6又は7記載のマスキング剤。
【請求項9】
上記Xが、−OH、−R3−OH(ここで、R3は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)、−R4−NH2(ここで、R4は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)、−R5−COOH(ここで、R5は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)、−CO−R6(ここで、R6は炭素数1〜2のアルキル基を示す)、−CO−R7−COO−R8(ここで、R7は炭素数1〜2のアルキレン基を示し、R8は炭素数1〜2のアルキル基を示す)、又はNHCO−R9(ここで、R9は炭素数1〜2のアルキル基を示す)である請求項6〜8の何れか1項記載のマスキング剤。
【請求項10】
上記式(1)で表される化合物が、1−アダマンタノール、1−アダマンタンメタノール、1−アダマンタンエタノール、3,5−ジメチルアダマンタン−1−メタノール、1−アダマンタンメチルアミン、1−アダマンチルメチルケトン、1−アダマンタン酢酸、エチル−3−(1−アダマンチル)−3−オキソプロピオネート、1−アセトアミドアダマンタン又は1−アダマンタンメタンアミンである請求項6〜9の何れか1項記載のマスキング剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−236170(P2011−236170A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110194(P2010−110194)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】