説明

電力供給制御装置

【課題】スイッチ素子保護のために使用するカウンタを削減することが可能な電力供給制御装置を提供する。
【解決手段】電力供給制御装置100は、通電路Wの基準温度Toに対する温度上昇値ΔTwが温度閾値を超えるとスイッチ素子35による通電を制限し、温度閾値以下になると制限を解除する通電路保護動作を実行し、通電電流Iの値が電流閾値Imaxを超えるとスイッチ素子による通電を制限し、基準時間H後に当該制限を解除するスイッチ保護動作し、上記通電保護動作において通電電流の値が電流閾値を超えたことを条件に温度上昇値に加算値Fを加算し、その加算後の温度を温度閾値と比較する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチ素子及び通電路を保護する機能を備えた電力供給制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電源から負荷への通電を入り切りためのスイッチ素子を有し、このスイッチ素子をオンオフさせることにより負荷への電力供給を制御する電力供給制御装置が提供されている。このような電力供給装置では、過電流が流れるとスイッチ素子が焼損したり電線(通電路)が発煙したりする恐れがある。このため、過電流が流れた場合にスイッチ素子をオフ状態に保持して負荷への通電を禁止し、スイッチ素子及び電線を保護する構成が必要である。
【0003】
ここで、半導体スイッチと電線とでは熱特性(発熱特性、放熱特性)が異なるため、それぞれを保護するための通電禁止条件が異なり得る。一般的に、スイッチ素子はオン抵抗及び熱容量が共に電線に比べて小さいため、スイッチ素子の保護に関しては、過電流の値が比較的に大きければ即時に通電を禁止する必要があるが、過電流の値が比較的に小さければ通電を禁止する必要はない。一方、電線は熱容量がスイッチ素子に比べて大きいため、電線の保護に関しては、たとえ過電流の値が比較的に小さくてもその過電流が長時間流れる場合には、電線が発煙する恐れがあるので通電を禁止する必要がある。従って、このような通電禁止条件の相違により、スイッチ素子を保護するための構成と電線を保護するための構成とが必要である。
【0004】
この点、従来、次のようなスイッチ素子保護回路を有する電力供給制御装置がある(特許文献1)。このスイッチ素子保護回路は、過電流を検出したときにスイッチ素子をオフにして所定時間(遮断時間)経過後にそのオフを解除するリトライ動作を行い、このリトライ動作の回数が所定回数に達した場合に通電(リトライ動作)を禁止する。また、このスイッチ素子保護回路は、リトライ動作の回数が所定回数に達する前に、過電流が検出されない状態が所定時間(クリア時間)継続した場合にはリトライ動作の回数をゼロにリセットするように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−174490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記スイッチ素子保護回路を有する電力供給制御装置では、遮断時間の他に、リトライ動作の回数、クリア時間をそれぞれカウントするためのカウンタが必要であり、例えば回路の小型化、軽量化の障害になっていた。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、その目的は、スイッチ素子保護のために使用するカウンタを削減することが可能な電力供給制御装置を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための手段として、第1発明に係る電力供給制御装置は、電源と負荷との間の通電路に接続されるスイッチ素子と、前記通電路に流れる通電電流の値に応じた検出信号を出力する電流検出素子と、前記通電路の基準温度に対する温度上昇値が、温度閾値を超えたことを条件に前記スイッチ素子による通電を制限する通電路保護動作を実行する通電路保護部と、前記検出信号に基づく前記通電電流の値が電流閾値を超えたことを条件に前記スイッチ素子による通電を制限し、基準時間後に当該制限を解除するスイッチ保護動作を実行するスイッチ保護部と、を備え、前記通電保護部は、前記通電電流の値が前記電流閾値を超えたことを条件に前記温度上昇値に加算値を加算し、その加算後の温度を前記温度閾値と比較する。
【0009】
この発明によれば、通電路の基準温度に対する温度上昇値が温度閾値を超えたことを条件にスイッチ素子による通電を制限する、通電路保護動作を実行する。一方、通電電流の値が電流閾値を超えたことを条件にスイッチ素子による通電を制限する、スイッチ保護動作を実行する。また、通電電流の値が電流閾値を超えたことを条件に通電路の温度上昇値に加算値を加算し、その加算後の温度が温度閾値を超えたことを条件に通電路保護動作を実行する。
【0010】
これにより、スイッチ保護動作(リトライ動作)の実行回数が、基準温度及び温度閾値の差分と加算値とに応じた回数に制限される。そして、これは通電路保護部の構成を利用して実現しており、この実行回数をカウントするための専用カウンタを設ける必要はない。
【0011】
また、ノイズ等により誤ってスイッチ保護動作が動作し、通電路の温度上昇値に加算値が加算された場合、その後、一定の時間が経過すれば通電路の温度上昇値は加算値が加算される前の温度上昇値に戻る。このため、従来の技術にあるリトライ回数をクリアするためのカウンターが不要となる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の電力供給制御装置であって、前記通電路保護部は、前記通電電流の値、及び、前記通電路の熱特性に基づき前記温度上昇値を算出する構成である。
この発明によれば、通電路の温度上昇値を、温度センサによることなく把握することができる。
【0013】
第3の発明は、第1または第2の発明の電力供給制御装置であって、前記加算値は固定値である。
この発明によれば、スイッチ保護動作の回数(リトライ回数)を、基準温度と温度閾値との差分に応じて変更することができる。
【0014】
第4の発明は、第1または第2の発明の電力供給制御装置であって、前記通電路保護部は、前記加算値を、前記基準温度及び温度閾値の差分を規定値で除算した値に応じて変更する。
この発明によれば、基準温度の高低にかかわらず、スイッチ保護動作の回数(リトライ回数)を一定にすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スイッチ素子保護のために使用するカウンタを削減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る電力供給制御装置のブロック図
【図2】電線温度の算出を説明するための図
【図3】電線の発煙特性と半導体スイッチ素子の自己破壊特性とを示したグラフ
【図4】保護処理を示すフローチャート
【図5】入力信号、通電電流及び電線温度の変化を示すタイムチャート(その1)
【図6】入力信号、通電電流及び電線温度の変化を示すタイムチャート(その2)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態を図1〜図5を参照しつつ説明する。
本実施形態の電力供給制御装置100は、例えば図示しない車両に搭載され、その車両用電源(以下、「電源Vdc」という)から負荷Lへの電力供給制御を行う。なお、負荷Lとしては、例えば車両用のランプ、クーリングファン用モータやデフォッガ用ヒータが挙げられる。
【0018】
1.電力供給制御装置の全体構成
図1は電力供給制御装置100の概略的な構成を示すブロック図である。電力供給制御装置100は、電源Vdcと負荷Lとの間の電線W(例えばワイヤーハーネス 「通電路」の一例)に接続される半導体スイッチ素子35(例えばパワーMOSFET 「スイッチ素子」の一例)を有し、当該半導体スイッチ素子35をオンオフすることにより電源Vdcから負荷Lへの電力供給制御を行う。また、電力供給制御装置100は、半導体スイッチ素子35自身を保護するためのスイッチ保護機能、及び、電線Wを保護するための電線保護機能を備える。
【0019】
具体的には、電力供給制御装置100は、マイクロコンピュータ10、複数(本実施形態では8個)の入力回路20、複数(本実施形態では8個)の出力回路30、基準温度設定回路40、およびレギュレータIC50等を含む。なお、入力回路20および出力回路30の数は、電力制御すべき負荷や保護すべき電線Wの数等に応じて適宜変更される。
【0020】
マイクロコンピュータ10は、WDT(ウォッチドッグ端子)11、発振子端子12、複数のI/O端子13、複数のA/D変換入力端子14等を備える。なお、マイクロコンピュータ10は、電線Wの温度算出、スイッチ保護機能、電線保護機能のための動作を、例えばマイクロコンピュータ10内のメモリ(図示せず)に格納されたプログラムの命令に従って実行する。このときマイクロコンピュータ10は、本発明の「通電路保護部」および「スイッチ保護部」として機能する。
【0021】
各入力回路20は、入力I/F(インターフェース)回路を有し、例えば運転席の操作パネルでの入力操作に基づき送信される各種の入力信号を、入力I/F回路により例えばマイクロコンピュータ10に適合した信号に変換等して、マイクロコンピュータ10に送信する。
【0022】
出力回路30は、出力I/F(インターフェース)回路31、IPS(Intelligent Power Switch)32、CRローパスフィルタ33および電流電圧変換回路(変換回路)34等を含む。
【0023】
IPS32は、半導体スイッチ素子35(例えばnチャネルMOSFET)、チャージポンプ36、及びセンスMOSFET38(「電流検出素子」の一例)を含む。半導体スイッチ素子35は、電源Vdcから負荷Lへの通電電流Iをオン/オフし、チャージポンプ36は半導体スイッチ素子35への制御電圧を昇圧する。センスMOSFET38は負荷電流Iと所定の比率関係を有するセンス電流を生成する。
【0024】
センス電流は、電流電圧変換回路34によって、センス電流と比例関係を有するセンス電圧信号(変換信号)Vsens(「検出信号」の一例)に変換される。電流電圧変換回路は、例えばセンス電流検出抵抗によって構成される。センス電圧信号VsensはCRローパスフィルタ33に供給される。CRローパスフィルタ33はセンス電圧信号Vsensから所定の高周波成分を除去し、高周波成分が除去されたセンス電圧信号Vsensをマイクロコンピュータ10のA/D変換入力端子14に供給する。ここで、CRローパスフィルタ33の時定数は、ハーネスの放熱時定数に対して十分小さいことが好ましい。本実施形態では、CRローパスフィルタ33の時定数は0.1msとしている。
【0025】
マイクロコンピュータ1は、センス電圧信号Vsensを通電電流Iに換算する。例えば、センス電圧信号Vsensと通電電流Iとの対応マップによって通電電流Iの実際の値を得る。この対応マップは、例えばマイクロコンピュータ10内のメモリ(図示せず)に格納されている。
【0026】
基準温度設定回路40は、マイクロコンピュータ10が電線Wの温度算出を開始する際の基準温度To(環境温度)を設定する。基準温度設定回路40は、例えば車両のエンジンルームに設けられた温度センサ(図示せず)と、該温度センサからのセンサ信号を増幅してエンジンルームの温度を示す温度信号を生成する増幅回路(図示せず)とを含む。基準温度設定回路40はエンジンルームの温度を示す温度信号を基準温度Toとしてマイクロコンピュータ10のA/D変換入力端子14に供給する。なお、基準温度設定回路40は検出する環境温度の数に応じて複数の温度センサおよび複数の増幅回路を含む。さらに、基準温度設定回路40は、検出された複数の環境温度の中から1つの基準温度を選択するための比較回路等を含んでもよい。
【0027】
レギュレータIC50は、所定の直流電圧、例えば12Vをマイクロコンピュータ10の電源電圧、例えば5Vに変換して、5Vの直流電圧をマイクロコンピュータ10に供給する。
【0028】
2.電線温度の算出
図2は電線温度の算出(推定)を説明するための図である。マイクロコンピュータ10は、所定のサンプリング時間間隔Δt毎に、上記通電電流Iの値を検出し、検出された通電電流Iの値及び電線Wの熱特性(放熱特性・発熱特性)、換言すれば、通電電流Iによる電線Wの損失(電線Wの発熱)及び電線Wの放熱時定数τwに基づき、電線Wの基準温度Toに対する温度上昇値ΔTwを直接算出する。そして、その温度上昇値ΔTwに基準温度Toを加算することにより電線温度Tw(=To+ΔTw)を算出する。
【0029】
より具体的には、マイクロコンピュータ10は、図2及び下記式1に示す電線Wの放熱および発熱の関係式に、検出された通電電流Iの値を代入して温度上昇値ΔTwを算出する。そして、マイクロコンピュータ10は、算出された電線の温度上昇値ΔTwを基準温度Toに加算して、現在の電線温度Tw(n)(=To+ΔTw(n))を算出する。
ΔTw(n)= ΔTw(n−1)×exp(−Δt/τw)+Rthw
×Rw(n−1)×I(n−1)×(1−exp(−Δt/τw))
...(式1)
ここで、 I(n):サンプリングn(1以上の整数)回目の通電電流Iの値[A]
ΔTw(n):サンプリングn回時での温度上昇値[℃]
Rw(n):サンプリングn回時の電線抵抗[Ω]
Rw(0):温度(例えば基準温度To)での電線抵抗[Ω]
Rthw:電線Wの熱抵抗[℃/W]
τw:電線Wの放熱時定数[s]
κw:電線Wの抵抗温度係数[/℃]
Δt:サンプリング時間間隔[s]
【0030】
なお、式1において、通電電流Iが含まれない右辺の第1項が電線Wの放熱による温度成分を示し、通電電流Iを含む右辺の第2項が通電電流Iによる電線Wの発熱による温度成分を示す。従って、半導体スイッチ素子35がオフして負荷Lへの通電が遮断されている場合には、第1項のみによって温度上昇値ΔTwが定められる。
【0031】
3.電線保護機能
図3は電線Wの発煙特性(通電電流と発煙温度との関係)と、半導体スイッチ素子35の自己破壊特性(通電電流と自己破壊温度との関係)とを示したグラフである。なお、各特性線の位置は周囲温度変化に応じて変動する。
【0032】
電線Wは、例えば外皮が劣化して芯線が車両のボディと接触してショートすることがあり、これにより過電流が流れて電線Wが焼損するおそれがある。そこで、マイクロコンピュータ10は電線保護機能を実行する。この電線保護機能では、サンプリング時間間隔Δt毎に算出した上記電線温度Twと上限温度Tmaxとを比較し、電線温度Twが上限温度Tmaxを超えたことを条件に半導体スイッチ素子35を入力回路20への入力信号の有無にかかわらず強制的にオフ(以下、このオフを「第1強制オフ」という)にし、電線温度Twが上限温度Tmax以下になったことを条件に第1強制オフを解除する。これにより、電線Wの発煙を防止することができる。なお、上限温度Tmaxは、電線Wの発煙特性に基づく発煙温度(図3参照)よりもやや低い値に設定されている。
【0033】
このような構成であれば、半導体スイッチ素子35がオン/オフを繰り返すようなショート電流によって電線温度Twが不規則に上昇したとしても、電線Wの温度上昇値ΔTwを確実に把握して、電線Wが発煙温度に達する前に通電電流Iを遮断することができる。
【0034】
4.スイッチ保護機能
図3に示すように発煙特性と自己破壊特性とは大きく異なる。具体的には、半導体スイッチ素子35はオン抵抗が小さく、電線Wに比べて比較的に熱容量が小さい。このため、過電流が生じた場合、電線Wの電線温度Twはまだ上限温度Tmaxに達していなくても、半導体スイッチ素子35を保護するために即時的に通電を遮断しなければならない。
【0035】
そこで、マイクロコンピュータ10は、前述の電線保護機能とは別にスイッチ保護機能を実行する。このスイッチ保護機能では、サンプリング時間間隔Δt毎に検出した通電電流Iの値と電流閾値Imaxとを比較し、通電電流Iの値が電流閾値Imaxを越えたことを条件に、入力回路20への入力信号の有無にかかわらず半導体スイッチ素子35を一時的にオフ(以下、このオフを「第2強制オフ」という)にし、基準時間H経過後にその第2強制オフを解除する、リトライ動作を実行し、前述の電線温度に加算値Fを加算する。なお、電流閾値Imaxは、半導体スイッチ素子35の自己破壊特性に基づく自己破壊温度(図3参照)よりもやや低い値に設定されている。
【0036】
そして、このリトライ動作が繰り返され、電線温度が上限閾値温度を超過した場合は通電を遮断させる為、リトライ動作回数に制限を掛けることが可能になる。また、ノイズ等により通電電流Iの値が電流閾値Imaxを超えたと誤判定して遮断動作が発生しても、一定時間が経過すると加算値が加算された温度上昇値は元の温度上昇値に戻る為、リトライ可能な制限回数も元に戻る(クリア動作)。
【0037】
また、リトライ動作が基準回数繰り返されたことを条件に、それ以降、リトライ動作をも禁止するよう半導体スイッチ素子35を継続的にオフにする。この継続的なオフは、上記第2強制オフとは異なり、基準時間Hを経過しても解除されない。このような構成により、例えばノイズ等により通電電流Iの値が電流閾値Imaxを越えたと誤判定して半導体スイッチ素子35が強制的にオフされることを抑制することができる。マイクロコンピュータ10は、前述の電線保護機能のための処理を利用してスイッチ保護機能を実現する。
【0038】
5.マイクロコンピュータの処理内容
図4は保護処理を示すフローチャートであり、図5は入力信号、通電電流I及び電線温度Twの変化を示すタイムチャートである。マイクロコンピュータ10は、電力供給制御装置100の電源投入に基づき、まず現在の基準温度Toを温度センサから取得し、次に保護処理を繰り返し実行する。
【0039】
マイクロコンピュータ10は、S1でサンプリングタイミングが到来したか否かを判断し、到来した場合には(S1:YES)、S3で、現在の通電電流Iの値を検出すると共に、当該通電電流Iの値から温度上昇値ΔTwを算出する。
【0040】
S5では、通電電流Iの値が電流閾値Imaxを超えたか否かを判断し、超えたと判断した場合には(S5:YES)、S7で温度上昇値ΔTwに加算値Fを加算し、半導体スイッチ素子35を第2強制オフにしてS9に進む。なお、マイクロコンピュータ10は、半導体スイッチ素子35を第2強制オフにした後、S9以降の処理を進めつつ、当該第2強制オフ時から基準時間経過後に当該第2強制オフを解除する処理を並列的に実行する。本実施形態では、加算値Fは、上限温度Tmaxと基準温度Toとの差分をリトライ回数Xで除算した温度(=[Tmax−To]/X)である。
【0041】
一方、通電電流Iの値が電流閾値Imax以下であると判断した場合には(S5:NO)、温度上昇値ΔTwに加算値Fを加算せずにS9に進む。
【0042】
S9では、電線温度Twが上限温度Tmaxを超えているか否かを判断する。なお、この判断は、温度上昇値ΔTwが、温度閾値(=上限温度Tmax−基準温度To)を超えたか否かを判断してもよい。
【0043】
電線温度Twが上限温度Tmaxを越えていれば(S9:YES)、S11で、半導体スイッチ素子35を第1強制オフにし、S1に戻る。一方、電線温度Twが上限温度Tmax以下であれば、S13で、電線温度Twが下限温度Tminを下回っているか否かを判断し、下回っていれば(S13:YES)、S15で上記第1強制オフ状態であればそれを解除してS1に戻る。これに対し、電線温度Twが下限温度Tmin以上であれば(S13:NO)、半導体スイッチ素子35のオンオフ状態を変えずにS1に戻る。
【0044】
6.本実施形態の作用効果
図5は、入力信号が入力回路20に入力された直後に通電電流Iが電流閾値Imaxを超える場合を示す。この場合、半導体スイッチ素子35を第2強制オフとする(同図2段目参照)ことで通電が遮断(通電電流Iが略ゼロ)されるため、半導体スイッチ素子35を保護することができ、また、電線温度Twが電線Wの放熱により若干低下する。
【0045】
また、第2強制オフ時において電線温度Twは温度上昇値ΔTwに加算値Fを加算して算出される(同図3段目参照)。そして、この電線温度Tw(=To+ΔTw+F)が上限温度Tmax以下であれば、第2強制オフが、その実行から基準時間H経過時に解除され(リトライ動作)、通電電流Iが再び流れ始める。このリトライ動作時にも通電電流Iが電流閾値Imaxを超える場合には、半導体スイッチ素子35が再び第2強制オフされる。そして、電線温度Twが上限温度Tmaxを超えた場合に半導体スイッチ素子35を第1強制オフさせ、これによりリトライ動作が禁止される。
【0046】
このように本実施形態では、電線温度Twの算出処理において、第2強制オフがされる度に、温度上昇値ΔTwに加算値Fを加算して電線温度Twを算出し、その電線温度Twが上限温度Tmaxを超えたことを条件としてリトライ動作を終了させる構成であり、リトライ動作をカウントするための専用カウンタを要しない。
【0047】
しかも、加算値Fは、上限温度Tmaxと基準温度Toとの差分をリトライ回数Xで除算した温度(=[Tmax−To]/X)である。従って、図5の3,4段目に示すように、基準温度Toの高低(To1>To2)にかかわらず、リトライ動作の回数をほぼX回とすることができる。
【0048】
また、ノイズ等により通電電流Iの値が電流閾値Imaxを超えたと誤判定して遮断動作が発生しても、一定時間が経過すると加算値が加算された温度上昇値は元の温度上昇値に戻る為、リトライ可能な制限回数も元に戻る。このため、過電流が検出されない期間をカウントする為の専用カウンター(クリアーカウンター)が不要となる(図6参照)。また、第1強制オフの実行の実行後、電線温度Twが電線Wの放熱により低下して下限温度Tminを下回った場合に、第1強制オフを解除する構成であるため、第1強制オフの実行時からの経過時間をカウントするための専用カウンタを要しない。
【0049】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような種々の態様も本発明の技術的範囲に含まれる。特に、各実施形態の構成要素のうち、最上位の発明の構成要素以外の構成要素は、付加的な要素なので適宜省略可能である。
(1)上記実施形態では、電線Wを保護したが、本発明でいう「通電路」はこれに限られない。例えば回路基板上のパターンなど、他の導体であってもよい。
【0050】
(2)上記実施形態では、マイクロコンピュータ10に保護処理(電線温度の算出処理等)を実行させる構成であったが、本発明はこれに限られない。電線温度の算出、電線保護機能のための処理、及び、スイッチ保護のための処理の全部または一部を専用の回路(ASIC等)に実行させてもよい。
【0051】
(3)上記実施形態では、センスMOSFET38を利用して電流を検出する、センスMOS方式を採用したが、本発明はこれに限られない。例えば電線Wに接続したシャント抵抗を利用して電流を検出する、シャント方式などを採用してもよい。
【0052】
(4)上記実施形態では、加算値Fは上限温度Tmaxと基準温度Toとの差分をリトライ回数Xで除算した温度であったが、本発明はこれに限られない。例えば加算値は固定値であってもよい。このようにすれば、基準温度Toが高く電線Wの発煙等が生じ易い場合にリトライ動作を少なくして早期に第1強制オフさせることができる。一方、基準温度Toが低く電線Wの発煙等が生じ難い場合にリトライ動作を多くして電力供給制御を極力続行させることができる。
【0053】
(5)上記実施形態では、半導体スイッチ素子35は、負荷Lよりも高電位側に接続した構成であったが、これに限らず、負荷Lよりも低電位側に接続した構成であってもよい。
【0054】
(6)上記実施形態では、第1強制オフ及び第2強制オフにより負荷Lへの通電を遮断したが、本発明をこれに限られない。遮断するのではなく、例えば通電電流Iの許容量を減少してもよく、要するに半導体スイッチ素子の通電を制限すればよい。
【0055】
(7)上記実施形態では、電線温度Twを通電電流Iの値から算出する構成としたが、本発明はこれに限られない。例えば上記電線Wを測定する温度センサを設けて、上記サンプリングタイミング時間間隔毎に温度センサからの測定信号に基づき電線温度を検出するようにしてもよい。この場合も第2強制オフ毎に上記電線温度に加算値Fを加算することで上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0056】
10...マイクロコンピュータ(通電路保護部、スイッチ保護部)
35...半導体スイッチ素子(スイッチ素子)
38...センスMOSFET(電流検出素子)
100...電力供給制御装置
F...加算値
H...基準時間
I...通電電流
Imax...電流閾値
L...負荷
Tw...電線温度
ΔTw...温度上昇値
To...基準温度
Vsens...センス電圧信号(検出信号)
Vdc...電源
W...電線(通電路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と負荷との間の通電路に接続されるスイッチ素子と、
前記通電路に流れる通電電流の値に応じた検出信号を出力する電流検出素子と、
前記通電路の基準温度に対する温度上昇値が、温度閾値を超えたことを条件に前記スイッチ素子による通電を制限する通電路保護動作を実行する通電路保護部と、
前記検出信号に基づく前記通電電流の値が電流閾値を超えたことを条件に前記スイッチ素子による通電を制限し、基準時間後に当該制限を解除するスイッチ保護動作を実行するスイッチ保護部と、を備え、
前記通電保護部は、前記通電電流の値が前記電流閾値を超えたことを条件に前記温度上昇値に加算値を加算し、その加算後の温度を前記温度閾値と比較する、電力供給制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力供給制御装置であって、
前記通電路保護部は、前記通電電流の値、及び、前記通電路の熱特性に基づき前記温度上昇値を算出する構成である、電力供給制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電力供給制御装置であって、
前記加算値は固定値である、電力供給制御装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の電力供給制御装置であって、
前記通電路保護部は、前記加算値を、前記基準温度及び温度閾値の差分を規定値で除算した値に応じて変更する、電力供給制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−72136(P2011−72136A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221416(P2009−221416)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】