説明

電力供給回路を備えた機器

【課題】 突入電流の発生を抑制する機器を低コストにて提供することである。
【解決手段】 負荷を駆動する電圧を生成する電源回路と、電源回路から負荷へ電力を供給する供給ラインに接続され、記負荷の電位を安定させるコンデンサと、所定量より小さい電力を、コンデンサへ供給可能でかつ、コンデンサから放電可能な充電/放電回路と、所定量より大きい電力を、コンデンサへ供給可能な充電回路と、充電/放電回路と前記充電回路をそれぞれ動作させるためのスイッチ回路と、充電/放電回路の動作に基づいて情報を保持する保持回路とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力供給回路を備えた機器に関する。
【背景技術】
【0002】
記録装置は、記録ヘッドに設けられた電気熱変換体を用いて電力を熱に換え、その熱を利用してインクを紙面へ吐出させる。特許文献1には、電気熱変換体に対して安定した電圧値で電力を供給するために、コンデンサ(例えば、電解コンデンサ)を備えている。この電力を記録ヘッドへ供給する電力供給回路は、半導体スイッチ(例えばFET)を設けており、必要に応じてその開閉を行っている。この電力供給回路には、放電回路を備え、記録装置が記録動作を行わない場合には、コンデンサに蓄積した電荷をアース(グランド)へ放出する構成を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−145892号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、記録装置を起動するときや記録動作を開始する前に、電源から電力供給を行うと、電流値が大きい突入電流が生じる。理由は、コンデンサに蓄積されている電荷量が少ないために、コンデンサと電源との電位差が大きいためである。このため、電流値を抑制するための回路を備えると回路規模が大きくなり、コストアップの原因となる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされ、その目的は、電流値が大きい突入電流の発生を抑制する記録装置を低コストにて提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決し、目的を達成するために、単位時間あたり所定量の電力を消費できる負荷を備える機器であって、前記負荷を駆動する電圧を生成する電源回路と、前記電源回路から前記負荷へ電力を供給する供給ラインに接続され、前記負荷の電位を安定させるコンデンサと、前記所定量より小さい電力を、前記コンデンサへ供給可能でかつ、前記コンデンサから放電可能な充電/放電回路と、前記所定量より大きい電力を、前記コンデンサへ供給可能な充電回路と、前記充電/放電回路と前記充電回路をそれぞれ動作させるためのスイッチ回路と、前記充電/放電回路の動作に基づいて情報を保持する保持回路とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コンデンサに予備的な電荷の蓄積を行う回路について、コンデンサに蓄積されている電荷を放電させる回路と兼用することができ、回路規模の増大を抑制することができる。また、充電制御や放電制御にかかわらず、コンデンサの電荷が放電された場合でも、コンデンサへの突入電流の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態における電源供給回路の構成図である。
【図2】実施形態におけるタイミングの説明図である。
【図3】実施形態における記録装置のブロック図である。
【図4】実施形態における制御フローである。
【図5】実施形態における記録装置の斜視図である
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、負荷へ電力を供給する電力供給回路(電力供給装置)の説明図である。負荷101は、例えば記録ヘッドである。記録ヘッド101は、信号204に従ってスイッチ123をオンさせ、記録素子(ヒータH1)を駆動させてインクを吐出する。この図1では、説明を簡単にするために、記録ヘッドは1個の記録素子を備えている。
【0010】
コンデンサ102は、記録ヘッドの電圧を安定化させるために設けられている。第1供給回路108と第2供給回路118は、電源回路117が出力する電圧VHを入力し、記録ヘッド101へ電力を供給する。第1供給回路108と第2供給回路118は、電源回路117から記録ヘッド101への電力を供給する電力供給ラインに並列接続されている。
【0011】
第1供給回路108は、コンデンサ102に蓄積された電荷を放電可能である。第1供給回路108は、トランジスタ113、トランジスタ114で構成されるプッシュプル型回路を備えている。抵抗112は電源回路117から供給される電流を制限する抵抗素子である。第1供給回路108は、信号202がハイ状態で充電動作、信号202がロウ状態で放電動作を行う充電/放電回路である。なお、トランジスタ113、トランジスタ114は、抵抗内蔵型のトランジスタである。
【0012】
第2供給回路118は、FET(電界効果トランジスタ)103とダイオード111、抵抗104、抵抗105、トランジスタ106で構成されている充電回路である。ダイオード111は電源回路117が瞬断した時に、コンデンサ102に蓄積された電荷を還流させるために設けられている。トランジスタ106は、抵抗内蔵型トランジスタ(デジタルトランジスタ)である。
【0013】
ラッチ回路(保持回路)110は、信号202の論理レベルを保持する。ラッチ回路110は、信号202の論理レベルがハイレベルであれば、ハイレベルの信号205を出力する。一方、ラッチ回路110は、信号202の論理レベルがロウレベルであれば、ロウレベルの信号205を出力する。
【0014】
信号212は、ラッチ回路110のリセット端子に入力する構成となっている。信号212の入力すると、ラッチ回路110は、保持する情報を初期化する。ラッチ回路110が初期化されると、信号205はロウレベルになる。
【0015】
論理回路109は、信号211の入力または信号207が入力された場合に、信号212をロウレベルにする。電圧Vrの値が所定値Vrefよりも低くなる場合か信号207が入力された場合に、論理回路109は、信号212をロウレベルの信号212を出力する。抵抗115と抵抗116は、コンデンサの電圧Vcを分圧して電圧Vrを生成する。比較回路119は基準電圧Vrefと電圧Vrとを比較して、電圧Vrが低ければ、信号211を出力する。
【0016】
ゲート回路107は、ラッチ回路110から出力される信号205と信号203との論理積の結果である信号206を第2供給回路118へ出力する。
【0017】
図3は、記録装置における記録ヘッド101への電力供給に関係する制御を説明する図である。制御回路120は、記録ヘッド101、第1供給回路108及び第2供給回路118の動作を制御する。
【0018】
電源回路117は、商用電源から入力したAC電圧をDC電圧に変換するAC/DC変換回路である。この電源回路117は、VH電圧(例えば20ボルト)やロジック電圧(例えば5ボルト)を生成し、VH電圧は電力供給回路100へ供給され、ロジック電圧は制御部120へ供給される。
【0019】
電源回路117は、制御回路120から信号201を入力して電圧VHを出力する。ラッチ回路110は、制御回路120から出力される信号202をラッチする。また、このラッチ回路110は、制御回路120から出力された信号207でリセット状態になる。
【0020】
ゲート回路107は、ラッチ回路110から出力する信号と制御回路120から出力される充電制御信号203を入力して、第2供給回路118へ信号206を制御する。第2供給回路118は信号206に基づき、記録ヘッドに対する電力供給を行う。
【0021】
リセット信号生成回路121は、ラッチ回路110を初期化する信号212を生成する。リセット信号生成回路121は、判定回路122がコンデンサの電位が閾値より低いと判定した場合または制御回路から初期化の指示を受けた場合に、信号212を出力する。この判定回路122は、図1の抵抗115、抵抗116、比較回路119に対応する。
【0022】
次に、2つの電力供給回路が供給可能な単位時間あたりの電力量と、記録ヘッドの単位時間あたりの消費電力との大小関係を説明する。第1供給回路108が供給可能な電力量は第1の電力量、第2供給回路118が供給可能な電力量は第2の電力量とすると、第1の電力量<第2の電力量の関係となる。また、記録動作を行うときの、記録ヘッドが消費する最大電力量(記録素子の駆動に要する電力)を第3の電力量とすると、第1の電力量<第3の電力量<第2の電力量の関係となる。
【0023】
図2は、図1や図3で示す構成における、電源供給を行った場合の電圧および電流の状態を説明する図である。タイミングt200からタイミングt221へ時間は経過する。
【0024】
信号201がハイレベルになると、電源回路117の出力電圧が徐々に上昇し、t202で所定の電圧V1に達する。t201からt202までの間は、コンデンサ102への充電は成されていない。
【0025】
t202から充電/放電制御信号202がハイレベルになると、第1供給回路108はコンデンサ102に対する充電処理を行う。コンデンサ102の電圧VCは徐々に上昇し、t203においては、電圧V2に達する。この電圧V2は、電圧V1よりやや低い電位である。なお、t202における充電/放電制御信号202の立ち上がりを検出して、ラッチ回路110は出力Q(信号205)のレベルをハイレベルにする。
【0026】
制御回路120は、タイミングt204にて、充電制御信号203を出力する。ゲート回路107は、ハイレベルの充電制御信号203とハイレベルの充信号205を入力することで、ハイレベルの信号206を出力する。この信号206を入力して、第2供給回路118はコンデンサ102に対する充電処理を行う。これにより、コンデンサ102の電圧Vcは、t204以降に電圧V1に達する。
【0027】
t205で、制御回路120は、記録ヘッドからインクを吐出するために、パルス状(矩形波)のヘッド駆動制御信号204を出力する。これに伴い、記録ヘッド101は駆動を行う。この記録ヘッド101の駆動により電力の消費が成され、一方で、第2供給回路118から記録ヘッドへ電力供給が行われる。記録ヘッド101の駆動が終了した後のt207で、制御回路120は、ヘッド駆動制御信号204をロウレベルにする。このように、記録ヘッド101による記録動作を行う期間の前後では、制御回路120の制御により、第2供給回路118から記録ヘッドへ電力供給が行われる。同様の制御は、t216からt219でも行われる。
【0028】
次に、t208にて、瞬断により電源回路117から出力する電圧が一時的に低下する場合について、説明する。コンデンサ102に蓄積されている電荷は、ダイオード111を介して電源側へ流れる。結果として、コンデンサ102の電圧Vcはt208以降に急激に低下する。
【0029】
判定回路119は、電圧Vcの分圧した電圧Vrが閾値電圧Vrefより低下すると信号211を出力する。論理回路109は、信号211を入力することで、ラッチ回路110に対して信号212を出力する。ラッチ回路110は、この信号212を受けて、ラッチを解除する。従って、ラッチ回路110は、t208dにて出力Q(信号205)のレベルをロウレベルにする。
【0030】
これにより、制御回路120は、t209にて充電制御信号203を出力しても、ゲート回路107から信号206は出力しないため、第2供給回路118からコンデンサ102へ電力供給が行わない。つまり、コンデンサ102に大電流が流れ込むこと(突入電流)を防止することができる。
【0031】
なお、t214において、制御回路120が充電/放電制御信号202を出力すれば、充電/放電制御信号202の立ち上がりを検出して、ラッチ回路110は出力Q(信号205)のレベルをハイレベルにする。従って、例えば、制御回路120は、記録ヘッドの駆動を開始する前に、充電/放電制御信号202を出力すれば、瞬断が発生した場合でも、コンデンサに前もって充電を行うことができる。
【0032】
図4は、制御回路120が行う制御フローである。S401にて、制御回路120は、信号202のハイレベル出力を行う(図2のt202に対応)。このタイミングは、例えば、記録装置が印刷動作を開始する前の準備期間中に行われる。
【0033】
S402にて、制御回路120は信号203のハイレベル出力を行う(図2のt204に対応)。このタイミングは、例えば、記録ヘッドのキャッピングが解除されたタイミングである。
【0034】
S403にて、制御回路120は信号204のハイレベル出力を行う(図2のt205〜t206に対応)。このタイミングは、例えば、記録ヘッドが走査を行って、インクの吐出を行う期間である。この期間は、例えば、1ページ分の記録期間である。この信号204は、シリアルタイプの記録装置の場合には、この記録期間には、走査記録の期間と、休止期間とが含まれている。例えば、走査記録の期間では、複数の記録素子により所定の周波数で100ドット(100カラム)の記録を行うために、記録素子にそれぞれ100パルスの矩形信号を出力する。なお、走査記録の間に設けられる休止期間には、信号204はロウレベルとなる。以上のことから、図2のt205からt206の期間は、ロウレベルの期間が表現されるべきであるが、説明を簡単にするために、ロウレベルの期間を省いている。
【0035】
S404にて、制御回路120は信号203のロウレベル出力を行う(図2のt207に対応)。このタイミングは、例えば、記録ヘッドが待機位置へ戻るタイミングである。
【0036】
走査S405にて、制御回路120は信号202のロウレベル出力を行う(図2のt213に対応)。このタイミングは、例えば、記録ヘッドのキャッピングがなされたタイミングである。
【0037】
次に、上述した実施形態に適用するインクジェット記録装置の説明をする。図5はインクジェット記録装置1の斜視図である。インクジェット記録装置(以下、記録装置という)は、インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行う記録ヘッド3をキャリッジ2に搭載している。この記録ヘッド3は、図1や図3における記録ヘッド101に対応している。キャリッジ2には、キャリッジモータM1によって発生する駆動力を伝達機構4より伝え、キャリッジ2を矢印A方向に往復移動させる。記録時には、例えば、記録媒体(例えば、記録紙)Pを給紙機構5により給紙し、記録位置まで搬送する。その記録位置において、記録ヘッド3を走査させて、記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行う。7は記録媒体Pを搬送する搬送ローラであり、搬送モータM2によって駆動される。記録ヘッド3の走査と走査の間で、記録媒体Pは搬送される。上述した制御回路120は、キャリッジモータM1や搬送モータM2の制御、記録データの制御、記録データの記録ヘッドへの転送制御などを行う。
【0038】
記録装置1のキャリッジ2には記録ヘッド3を搭載するのみならず、記録ヘッド3に供給するインクを貯留するインクカートリッジ6を装着する。インクカートリッジ6はキャリッジ2に対して着脱自在になっている。
【0039】
キャリッジ2と記録ヘッド3とは、両部材の接合面が適正に接触されて所要の電気的接続を達成維持できるようになっている。記録ヘッド3は、ヘッド駆動制御信号204に応じてエネルギーを記録素子(電気熱変換体)に印加することにより、複数(例えば128個)の吐出口からインクを吐出して記録する。このため、記録ヘッド3には各吐出口に対応して記録素子(図1のH1)を備えている。
【0040】
[その他の実施形態]
以上のように、上述した実施形態では、負荷が記録ヘッド、機器が記録装置を例にして説明したが、この形態に限定するものではない。例えば、電力供給回路が供給する対象の負荷は、モータ、ヒータ、CPUなどの集積回路などでも構わない。機器として、複写機や、コンピュータ機器、表示装置等でも構わない。
【0041】
また、電力供給回路において、抵抗内蔵型のトランジスタ(デジタルトランジスタ)を用いた形態で説明したが、他のタイプのトランジスタを用いる形態でも構わない。
【符号の説明】
【0042】
101 記録ヘッド
102 コンデンサ
103 FET(電界効果トランジスタ)
110 ラッチ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位時間あたり所定量の電力を消費できる負荷を備える機器であって、
前記負荷を駆動する電圧を生成する電源回路と、
前記電源回路から前記負荷へ電力を供給する供給ラインに接続され、前記負荷の電位を安定させるコンデンサと、
前記所定量より小さい電力を、前記コンデンサへ供給可能でかつ、前記コンデンサから放電可能な充電/放電回路と、
前記所定量より大きい電力を、前記コンデンサへ供給可能な充電回路と、
前記充電/放電回路と前記充電回路をそれぞれ動作させるためのスイッチ回路と、
前記充電/放電回路の動作に基づいて情報を保持する保持回路とを備えることを特徴とする機器。
【請求項2】
前記機器は、更に、前記保持回路が保持する情報に基づいて、前記スイッチ回路を制御する信号をゲートするゲート回路を備えることを特徴とする請求項1に記載の機器。
【請求項3】
前記コンデンサの電位が所定の電位より低下した場合に、前記保持回路が保持する情報を初期化することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の機器。
【請求項4】
前記負荷は記録ヘッドであり、前記機器は記録装置であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−867(P2011−867A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148010(P2009−148010)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】