説明

電力変換装置

【課題】 安定した高い信頼性のゲート駆動回路を有する電力変換装置を提供することを達成する。
【解決手段】 半導体スイッチング素子10によって構成される電力変換装置において、半導体スイッチング素子10の各々の制御電極を制御する制御回路が、半導体スイッチング素子10の主電極間に印加される電圧に比例する第一の電圧信号を生成する電圧検出手段21と、第一の電圧信号の低域信号を取り出して第二の電圧信号を生成する低域通過フィルタ22と、第一の電圧信号と前記第二の電圧信号との差分を第三の電圧信号として得る減算手段23と、第三の電圧信号に応じて半導体スイッチング素子10の制御電極に印加する電圧を調整することで、安定した高い信頼性のゲート駆動回路を有する電力変換装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体スイッチング素子を用いた電力変換装置において、スイッチング素子の損失を低減するにはスイッチング速度を高めることが必要である。一方、スイッチング速度を高めると、スイッチング素子のターンオンあるいはターンオフ時のサージ電圧による素子の破壊やサージ電流に起因する電磁ノイズの発生という問題がしばしば起きる。
【0003】
こうした問題に対する解決策として、スイッチング時にゲート駆動電圧源とゲート端子との間に挿入されるゲート抵抗の値を切り替えるか、または、ゲート駆動電流を調整する方法が提案されている。このような発明の例として、「電圧駆動型素子のゲート駆動回路」において、コレクタ電圧に応じてゲート駆動パラメータを調整する駆動回路がある。以下、図 6を参照してその構成を説明する。
【0004】
図 6において、IGBT Q1のゲート端子Gは、抵抗(R3)とNPNトランジスタ(Q3)とからなる第一のゲート電荷充電回路と、抵抗(R1)とNPNトランジスタ(Q2)による第二のゲート電荷充電回路とに接続されている。
【0005】
ゲート信号(VG)の立ち上がると、NPNトランジスタ(Q3)がオンし、抵抗(R3)を介して、ゲート電流(Ig0)が、IGBT(Q1)のゲート(G)端子に流れる。同時に、NPNトランジスタ(Q2)も、オンして、抵抗(R1)を介して、ゲート電流(Ig1)が、IGBT(Q1)のゲート(G)端子に流れる。
【0006】
これにより、IGBT(Q1)のゲート・エミッタ間電圧Vgeが上昇し、ターンオン電圧閾値に達すると、IGBT(Q1)がターンオン動作を開始し、コレクタ電流(Ic)が流れ出すとともに、IGBT(Q1)のコレクタ・エミッタ電圧(Vce)は低下し始める。
【0007】
このとき、コレクタ・エミッタ間電圧(Vce)としては、負の時間変化量(dVce/dt)が発生し、コンデンサ(C1)には、IGBT(Q1)のコレクタ端子(C)に向かって、負の時間変化量(dVce/dt)に比例する微分電流(Idiff)が流れ出す。微分電流(Idiff)は、NPNトランジスタ(Q2)のベース電流(Ib)は減少させる働きがあるので、ゲート電流(Ig1)も減少し始める。
【0008】
この結果、第二のゲート電荷充電回路がIGBT(Q1)のゲート電荷の充電速度に支配的な影響を及ぼすように設定されている場合には、IGBT(Q1)のコレクタ・エミッタ電圧(Vce)の時間変化量(dVce/dt)は小さく抑えられるようになり、IGBT(Q1)のコレクタ(C)に流れるコレクタ電流(Ic)も急増せずに平坦な小さい値に抑えられる。
【0009】
このように、IGBT Q1のコレクタ電圧変化率は一定の値となるようにフィードバック制御されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008-86068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の発明においては、IGBT Q1のコレクタ・エミッタ間電圧Vceの時間変化量dVce/dtに比例する電流を、直接ゲート駆動回路のトランジスタQ2のベース電流より差し引いているために弊害が生じる。IGBT Q1のVceは、Q1自身のスイッチング動作のみならず、並列に接続されるフライホイールダイオードの動作や直流電源電圧などにも左右され、多くのノイズ成分を含んでいる。また、ノイズ成分は観測するべきVceの波形に対してより高い周波数域に含まれることが知られている。しかるに、Vceの時間変化量とは微分操作であり、周波数領域で考えれば高周波数領域ほどゲインが高くなる一種の高域通過フィルタを通すのと同じである。そのため、dVce/dtには非常に多くのノイズ成分が含まれるのであり、特許文献1の発明におけるように、dVce/dtに比例する電流Idiffをそのまま制御に用いると、ノイズによる誤動作の危険性が高まるのである。そのため、ノイズによる誤動作の危険が大きいという課題があった。
【0012】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、安定した高い信頼性のゲート駆動回路とこれを用いた電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記を解決するために、本発明による電力変換装置は、半導体スイッチング素子によって構成される電力変換装置において、前記半導体スイッチング素子の各々の制御電極を制御する制御回路が、前記半導体スイッチング素子の主電極間に印加される電圧に比例する第一の電圧信号を生成する電圧検出手段と、前記第一の電圧信号の低域信号を取り出して第二の電圧信号を生成する低域通過フィルタと、前記第一の電圧信号と前記第二の電圧信号との差分を第三の電圧信号として得る減算手段と、前記第三の電圧信号に応じて前記半導体スイッチング素子の前記制御電極に印加する電圧を調整することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安定した高い信頼性のゲート駆動回路を有する電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態を説明する構成図
【図2】第1の実施形態の動作を説明する波形図
【図3】第1の実施形態を説明する回路図
【図4】第2の実施形態を説明する構成図
【図5】第3の実施形態を説明する構成図
【図6】従来技術を説明する構造図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る電力変換装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
まず、図 1を用いて実施形態1を説明する。図 1において、IGBT 10が駆動されるIGBTであり、並列に入るフライホイールダイオード(FWD) 11は、逆方向に電流が流れる際に通電する。IGBT 10のコレクタ・エミッタ間電圧(Vce)は分圧器21によって分圧された後に、低域通過フィルタ(LPF)22の入力端子および減算器23の一つの入力端子に供給される。LPF 22によってフィルタされたVceは減算器23の他方の入力端子に供給される。減算器23の出力は減算器24の一つの入力端子に接続され、減算器24の他方の入力端子はオンゲート電圧源26の出力に接続される。また、ゲート信号25はオンゲート電圧源26とオフゲート電圧源27のそれぞれの入力端子に接続されており、オフゲート電圧源27の出力と減算器24との出力は結合されてゲート抵抗12を介してIGBT 10のゲート端子に接続される。
【0018】
こうした構成を持つ図 1に示す本発明の第1の実施形態の動作を、図 2の波形図を参照して説明する。図 2において、オンゲート電圧源26およびオフゲート電圧源27は、ゲート信号25に応じてそれぞれ正および負の電圧パルスを発生させる。一方VceはIGBT10のゲート電圧がある一定の閾値を越えると、ゲート抵抗12によって決まるスイッチング速度によって下降し、ゲート電圧が閾値を下回ると上昇する。LPF22の出力はVceの波形の低域分を取り出したものであるから、時間域波形で見ると時間変化率が低下した、鈍った波形となる。減算器23は、Vceの分圧信号から、LPF22によって取り出された低域信号を減算した信号が得られる。すなわち、Vceの分圧信号中の高域成分が減算器23から出力される。時間領域で見ると、減算器23の出力波形は、元のVceの波形の高域成分に相当する時間変化率が大きな部分が取り出される。さらに、減算器24によって、オンゲート信号から減算器23の出力を減算することで、Vceの時間変換率が大きい時にはオンゲート信号の立ち上がり部分のレベルが小さくなり、Vceの時間変化率が小さければオンゲート信号の立ち上がり部分のレベルが大きくなる。
【0019】
このような動作により、図 1に示す本発明の第1の実施形態は、ノイズによる動作が懸念される微分回路を用いずに、高周波数領域に多く含まれるノイズ成分をフィルタするLPFと減算回路とによって、Vceの時間変換率を所望の値に調整する機能を有するものである。
【0020】
図 1に示す本発明の第1の実施形態を実際の回路で構成した一例を図 3に示す。LPF、減算器などはいずれも演算増幅器(OPアンプ)によって容易に構成される。また、オンゲート電圧源26、オフゲート電圧源27はいずれもトランジスタと固定電圧源によって構成しているが、これらもMOSFETやOPアンプなどの同様の機能を有する素子や集積回路で置き換えることが可能であることは言うまでもない。
【0021】
(第2の実施形態)
本発明の第1の実施形態では、スイッチング素子のゲート電極に印加される電圧をゲート抵抗を介して制御している。これに対して、ゲート抵抗を介さずに制御電流源でゲート電極を駆動することもできる。IGBTのような電圧制御型素子ではゲートに加える電圧によってスイッチングを制御するが、スイッチングスピードそのものは電圧ではなくスイッチング過渡時のゲート電流によって制御される。そこで、図 4に示す本発明の第2の実施形態では、スイッチングスピードを電流源によって制御するものである。
【0022】
図 4において、IGBT 10のゲート端子はオンゲート電流源30およびオフゲート電流源31の出力に接続されている。オンゲート電流源30の入力は減算器24の出力に接続されているので、本発明の第1の実施形態と同様に、IGBT 10をターンオンさせる際にはVceの時間変化率を所望の値となるようにフィードバック制御がなされる。一方オフゲート電流源31の入力にはゲート信号25が接続されていて、オフゲート指令が出されるとオフゲート電流源31により一定の電流がゲート電極より引き出されて、IGBT 10はターンオフする。なお、ゲート端子の電圧はオンゲート電圧検出器32およびオフゲート電圧検出器33に接続され、それぞれターンオン時およびターンオフ時のゲート電圧を監視している。ゲート電圧が定常オン状態として規定される電圧に到達すると、オンゲート電圧検出器32がこれを検出し、オンゲート電流源30の動作を停止させる。ターンオフ時には同様に、オフゲート電圧検出器33がゲート電圧が定常オフ状態として規定される電圧に到達したことを検出して、オフゲート電流源31の動作を停止させる。
【0023】
(第3の実施形態)
ここまでの本発明の実施形態では、ゲート駆動電圧や電流を連続的に可変することで、Vceの時間変化率を制御していた。しかし、Vceの時間変化率を段階的に変化させるだけで十分な用途もある。図 5に示す本発明の第3の実施形態ではこうした用途に好適なゲート駆動回路を示している。図 5において、減算器23の出力はコンパレータ40に入力され、Vceの時間変換率がある値以下であるか否かによって、コンパレータ40の出力は論理値真または偽を取る。ここで、ゲート信号25によって制御される2つのゲート駆動回路、高速ゲート駆動回路41と低速ゲート駆動回路43とを備えるものとする。これらのゲート駆動回路には、出力の駆動の可否を制御するためのイネーブル入力が設けられ、高速ゲート駆動回路41のイネーブル入力はコンパレータ40の出力に、低速ゲート駆動回路43のイネーブル入力はNOTロジック42を介してコンパレータ40の出力にそれぞれ接続される。こうした構成を取ることにより、Vceの時間変化率が大なる時にはコンパレータ40の出力が偽となり、低速ゲート駆動回路43が動作し、Vceの時間変化率が小なるときには、コンパレータ出力40の出力が真となり、高速ゲート駆動回路41が動作する。これにより、Vceの時間変化率を所望の値の範囲に調整することが可能になる。
【0024】
なお、ここでは高速ゲート駆動回路41および低速ゲート駆動回路43の2段階で切り替えているが、駆動回路の数を増やし、コンパレータを多数個用意すれば、スイッチングスピードの切替は何段階にでも調整することが可能になる。さらに、ゲート駆動回路はIGBT10にゲート電流を供給するための回路であるのだから、同時に2つのゲート駆動回路を動作させることもまた可能である。この場合、スイッチングスピードを高速にするには複数のゲート駆動回路を同時に動作させ、スイッチングスピードを低速にするには、一つのゲート駆動回路のみを動作させるようにすればよい。
【符号の説明】
【0025】
10… IGBT
11… FWD
12… ゲート抵抗
21… 電圧検出器
22… LPF
23… 減算器
24… 減算器
25… ゲート信号
26… オンゲート電圧源
27… オフゲート電圧源
30… オンゲート電流源
31… オフゲート電流源
32… オンゲート電圧検出器
33… オフゲート電圧検出器
40… コンパレータ
41… 高速ゲート駆動回路
42… NOTロジック
43… 低速ゲート駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体スイッチング素子によって構成される電力変換装置において、
前記半導体スイッチング素子の各々の制御電極を制御する制御回路が、
前記半導体スイッチング素子の主電極間に印加される電圧に比例する第一の電圧信号を生成する電圧検出手段と、
前記第一の電圧信号の低域信号を取り出して第二の電圧信号を生成する低域通過フィルタと、
前記第一の電圧信号と前記第二の電圧信号との差分を第三の電圧信号として得る減算手段と、
前記第三の電圧信号に応じて前記半導体スイッチング素子の前記制御電極に印加する電圧を調整することを特徴とする電力変換装置
【請求項2】
半導体スイッチング素子によって構成される電力変換装置において、
前記半導体スイッチング素子の各々の制御電極を制御する制御回路が、
前記半導体スイッチング素子の主電極間に印加される電圧に比例する第一の電圧信号を生成する電圧検出手段と、
前記第一の電圧信号の低域信号を取り出して第二の電圧信号を生成する低域通過フィルタと、
前記第一の電圧信号と第二の電圧信号との差分を第三の電圧信号として得る減算手段とを有し、
第三の電圧信号に応じて前記半導体スイッチング素子の制御電極に流入する電流を調整することを特徴とする電力変換装置
【請求項3】
半導体スイッチング素子によって構成される電力変換装置において、
前記半導体スイッチング素子の各々の制御電極を制御する制御回路が、
前記半導体スイッチング素子の主電極間に印加される電圧に比例する第一の電圧信号を生成する電圧検出手段と、
前記第一の電圧信号の低域信号を取り出して第二の電圧信号を生成する低域通過フィルタと、
前記第一の電圧信号と第二の電圧信号との差分を第三の電圧信号として得る減算手段と、
前記制御電極に接続された第一のゲート駆動回路と第二のゲート駆動回路との二つのゲート駆動回路を有し、
前記第三の電圧信号に応じて前記第一のゲート駆動回路と第二のゲート駆動回路のどちらかを動作させることを特徴とする電力変換装置
【請求項4】
前記制御回路において、前記第三の電圧信号に応じて、前記第一のゲート駆動回路のみを動作させるモードと前記第一および第二のゲート駆動回路を同時に動作させるモードとを切り替えることを特徴とする請求項3記載の電力変換装置
【請求項5】
前記半導体スイッチング素子によって構成される電力変換装置において、
前記半導体スイッチング素子の各々の制御電極を制御する制御回路が、
前記半導体スイッチング素子の主電極間に印加される電圧に比例する第一の電圧信号を生成する電圧検出手段と、
前記第一の電圧信号の低域信号を取り出して第二の電圧信号を生成する低域通過フィルタと、
前記第一の電圧信号と第二の電圧信号との差分を第三の電圧信号として得る減算手段と、
前記制御電極に接続された複数のゲート駆動回路を有し、前記第三の電圧信号に応じて前記ゲート駆動回路のいずれかを選択的に動作させることを特徴とする電力変換装置
【請求項6】
半導体スイッチング素子によって構成される電力変換装置において、
前記半導体スイッチング素子の各々の制御電極を制御する制御回路が、
前記半導体スイッチング素子の主電極間に印加される電圧に比例する第一の電圧信号を生成する電圧検出手段と、
前記第一の電圧信号の低域信号を取り出して第二の電圧信号を生成する低域通過フィルタと、
前記第一の電圧信号と第二の電圧信号との差分を第三の電圧信号として得る減算手段と、
前記制御電極に電圧を印加するゲート電圧源と前記ゲート電圧源と制御電極の間に接続されたゲート抵抗とを有し、
前記第三の電圧信号に応じて前記ゲート電圧源の電圧を調整することを特徴とする電力変換装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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