説明

電力用電気機器

【課題】 種々の電力用コンデンサや電力用開閉器において、その動作時の電気的発熱等を考慮して放熱性を高めると共に、分流電流等を考慮して絶縁耐電圧特性を高めた電力用電気機器を提供する。
【解決手段】 絶縁筒2において、側壁の縦断面形状をアーチ状にしたことにより、単なる筒状の絶縁性部材と比較して、軸方向の長さ(両導電性部材間の空間距離)を長くすることなく、沿面距離を長くすることができ、分流電流等に対する絶縁耐電圧特性が高められる。また、前記のアーチ面において表面積が大きくなり、側壁内周面側のアーチ面では吸熱し易くなり、側壁外周面側のアーチ面では放熱し易くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力用電気機器に関するものであって、例えば種々の電力用コンデンサ(可変型真空コンデンサ,固定型真空コンデンサ,固体コンデンサ,油入りコンデンサ,セラミックコンデンサ,オイルコンデンサ等),電力用開閉器(真空バルブ,油入り開閉器等)等に適用できるものである。
【背景技術】
【0002】
電力用コンデンサや電力用開閉器等の電力用電気機器は種々の設備に適用されており、近年においては種々の高周波機器や大電力機器等にも適用されている。例えば、真空コンデンサにおいては半導体設備の高周波電源,大電力発振回路等の高周波機器におけるインピーダンス調整に適用され、真空バルブにおいては大電力機器の遮断,投入(開閉)に適用されている。
【0003】
電力用電気機器の主な構成としては、筒状の絶縁性部材(単に円筒状の絶縁性部材)の両端をそれぞれ金属材料等の導電性部材により閉塞して成る容器を備えたものが知られている。例えば、電力用コンデンサの場合には前記容器内における両導電性部材間に静電容量が形成されるように構成され、電力用開閉器の場合には両導電性部材間の電気的距離を変化させて電気的に開閉できるように構成される(例えば、特許文献1)。
【0004】
図7は、一般的な真空コンデンサ(同軸円筒電極型)の一例を示す概略説明図である。図7において、符号1は真空容器を示すものであり、該真空容器1は、筒状の絶縁性部材(例えば、セラミック材料から成る部材;以下、絶縁筒と称する)2と、該絶縁筒2の一端側と他端側とに設けられた導電性部材(例えば、銅等の金属から成る部材)2a,2bと、を主な構成としている。
【0005】
前記導電性部材2a,2bは、それぞれ例えば図示するように、絶縁筒2の一端側と他端側とに設けられた金属筒3,4と、前記絶縁筒2および前記金属筒3,4を閉塞するように設けられたフランジ(可動電極側,固定電極側のフランジ;以下、可動側フランジ,固定側フランジと称する)5,6と、によって構成してもよい。また、可動側フランジ5および固定側フランジ6は外部端子を兼ねても良い。
【0006】
符号7は、内径の異なる複数の筒状の電極部材から成るものであって、各電極部材が同心円状に所定間隔を隔てて前記固定側フランジ6の内側(真空容器1の内側)に設けられて成る固定電極を示すものである。符号8は、前記の固定電極7と同様に内径が異なる複数の筒状の電極部材を同心円状に一定間隔を隔てて構成され、それら各電極部材が固定電極7と非接触状態で該固定電極7に挿出入(固定電極7の各電極部材間に挿出入して互いに交叉)できるように真空容器1内側に設けられた可動電極を示すものである。
【0007】
符号9は可動導体を示すものであり、前記真空容器1の軸方向に可動し可動電極8を支持する可動側支持板9aと、該可動側支持板9aの背面(前記可動電極8が取付けられていない面)から延設(立設)された可動ロッド9bと、から構成される。その可動ロッド9bは、可動側フランジ5に設けられた軸受部10により摺動自在に支持されている。
【0008】
符号11は、真空コンデンサの通電路の一部として、軟質金属性で例えば蛇腹状のベローズを示すものであり、真空容器1内における固定電極7,可動電極8,ベローズ11で囲まれた空間(以下、真空室と称する)を気密(真空状態にできるように気密)に保持しながら、可動電極8,可動導体9が真空容器1の軸方向へ移動できるように構成され、例えば図示するように一端側の縁は該可動導体9に接合され他端側の縁は軸受10に接合される。
【0009】
前記の可動導体9を軸方向に移動させ固定電極7に対して可動電極8を挿出入(互いの各電極部材が交叉するように挿出入)することにより、対向電極間の面積(固定電極7と可動電極8との交叉面積)が変化する。これにより、両電極7,8にそれぞれ異なる極性の電圧が印加された際には、該両電極7,8間に生じる静電容量の値が連続的に加減され、インピーダンス調整が行われるものとされている。
【0010】
このような真空コンデンサを用いた場合の高周波機器に対する高周波電流に関しては、前記可動側フランジ5から前記ベローズ11および対向電極間の静電容量を介して、固定側フランジ6より流れる。近年、高周波機器に使用される負荷は大きくなっており、それに伴い高周波電流が増加し、大きな電流の流れを頻繁に加減できるものが求められている。
【0011】
前記の絶縁筒においては、所望の絶縁耐電圧特性が得られる構成にする必要があることから、例えば絶縁筒の軸方向の長さを長く(単に、両導電性部材間における空間的な最短距離(以下、空間距離と称する)を長く)したり、側壁の厚さを厚くすることにより、絶縁耐電圧特性を高めることが考えられている。
【特許文献1】特許第3264005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前記のような電力用コンデンサや電力用開閉器等においては、その動作時に電気的発熱が起こり、その発熱は適用機器の規模の大きさ等に伴って高くなり無視できない程度になり得る。このような電気的発熱によって絶縁筒内の温度が上昇すると、該絶縁筒の絶縁耐電圧特性が低下してしまう。特に、絶縁筒においては導電性部材よりも導電率が低いことから、例えば前記のように単に絶縁筒の軸方向の長さを長く(単に、両導電性部材間の空間距離を長く)したり、側壁の厚さを厚くした構成の場合には、絶縁筒内の温度がより上昇し易くなってしまう。
【0013】
一方、前記の絶縁筒の軸方向の長さを短く(単に、両導電性部材間の空間距離を短く)すると、例えば分流電流が大きくなってしまい、該絶縁筒での電気的発熱が起こり得る。また、側壁の厚さを薄くする手法も考えられるが、該絶縁筒は種々の応力に耐えられる構成(耐応力性の高い構成;例えば、曲げ,撓み,ヒビ割れ等に耐えられる構成)にする必要があるため、該手法においては限界がある。
【0014】
以上示したようなことから、電力用コンデンサや電力用開閉器等の電力用電気機器において、その動作時の電気的発熱等を考慮して放熱性を高めると共に、分流電流等を考慮して絶縁耐電圧特性を高めることが要求される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、請求項1記載の発明は、筒状の絶縁性部材(絶縁筒)の両端をそれぞれ導電性部材により閉塞して形成した容器を備え、その容器内の両導電性部材間に静電容量が形成された電力用コンデンサから成る電気機器であって、前記絶縁性部材の側壁の断面形状がアーチ状であることを特徴とする。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記容器は真空容器であって、その真空容器内の一方の導電性部材側に固定電極を配置し、前記の真空容器内の他方の導電性部材側で固定電極との間に静電容量を形成するように可動電極を配置し、前記の可動電極を移動し固定電極に対する可動電極の位置を変化させることにより、前記の静電容量を変化させることが可能なことを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の発明は、筒状の絶縁性部材の両端をそれぞれ導電性部材により閉塞して形成した容器を備え、その容器内の両導電性部材間の電気的距離を変化させることにより、両導電性部材間を電気的に開閉できる開閉器から成る電気機器であって、前記絶縁性部材の側壁の断面形状がアーチ状であることを特徴とする。
【0018】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記容器は真空容器であって、その真空容器内の一方の導電性部材側に固定電極を配置し、真空容器内の他方の導電性部材側に可動電極を配置し、前記の可動電極を移動し固定電極に対する可動電極の位置を変化させることにより、前記可動電極と固定電極との間を電気的に開閉できることを特徴とする。
【0019】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4記載の発明において、前記筒状の絶縁性部材の側壁の内径および外径のそれぞれが、絶縁性部材の軸方向の両端側から中央部に近づくに連れて大きくなるようにし、前記側壁の内周面および外周面の各縦断面形状をそれぞれアーチ状にしたことを特徴とする。
【0020】
請求項6記載の発明は、請求項1〜4記載の発明において、前記筒状の絶縁性部材の側壁の内径および外径のそれぞれが、絶縁性部材の軸方向の両端側から中央部に近づくに連れて小さくなるようにし、前記側壁の内周面および外周面の各縦断面形状をそれぞれアーチ状にしたことを特徴とする。
【0021】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6記載の発明において、前記絶縁性部材は、セラミック材料から成ることを特徴とする。
【0022】
請求項1乃至7記載の発明のような構成によれば、絶縁筒のアーチ状の面(以下、アーチ面と称する)において、単なる円筒状の絶縁筒と比較して、沿面距離(両導電性部材間における絶縁筒表面に沿った最短距離)が長くなると共に、該アーチ面において表面積が大きくなる。すなわち、絶縁筒の軸方向の長さ(両導電性部材間の空間距離)を長くすることなく、沿面距離を長くすることができる。また、前記のアーチ面において表面積が大きくなり、側壁外周面側のアーチ面では放熱し易くなり、側壁内周面側のアーチ面では吸熱し易くなる。
【0023】
また、請求項2,4記載の発明のように真空容器を備えた構成において、請求項5記載の発明のように絶縁筒側壁の内径および外径のそれぞれが、絶縁性部材の軸方向の両端側から中央部に近づくに連れて大きくなるようにし、前記側壁の内周面および外周面の各縦断面形状をそれぞれアーチ状にした場合には、絶縁筒の外周側から内周側方向への応力に対する耐応力性が高まる。例えば、真空容器を構成する場合には、単なる円筒状の絶縁筒と比較して、該真空容器内の真空による応力に対する耐応力性が高まる。すなわち、前記のように耐応力性が高い場合には、絶縁筒の側壁の厚さを薄くしても十分な機械的強度が得られ易く、該厚さを薄くすることにより絶縁筒の熱伝導性が高くなる。
【0024】
請求項6記載の発明のように絶縁筒側壁の内径および外径のそれぞれが、絶縁性部材の軸方向の両端側から中央部に近づくに連れて小さくなるようにし、前記側壁の内周面および外周面の各縦断面形状をそれぞれアーチ状にした場合には、絶縁筒の内周側から外周側方向への応力に対する耐応力性が高まる。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明で明らかなように、請求項1乃至7記載の発明によれば、電力用コンデンサや電力用開閉器等の電力用電気機器において、その動作時の電気的発熱等に対する放熱性が高められる共に、分流電流等に対する絶縁耐電圧特性が高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下本発明の実施の形態における電力用電気機器を実施例1〜3等に基づいて詳細に説明する。なお、図7と同様なものについては同一符号等を用い、その詳細な説明を適宜省略する。
【0027】
本実施形態は、絶縁筒の両端をそれぞれ導電性部材により閉塞して成る容器を備えた電力用コンデンサや電力用開閉器等の電力用電気機器であって、前記絶縁筒の側壁の縦断面形状をアーチ状にしたものである。
【0028】
例えば、従来においては、単なる円筒状の絶縁筒を構成した電力用電気機器において分流電流等に対する絶縁耐電圧特性を高めるために、単に絶縁筒の軸方向の長さ(空間距離)を長くしたり側壁の厚さを厚くする手法が採られていたが、本実施形態によれば沿面距離が長くなるため、前記のように空間距離や側壁厚さを大きく設定しなくとも絶縁耐電圧特性を高めることができる。
【0029】
[実施例1]
図1は、本実施の形態における電力用電気機器から成る真空コンデンサ(可変型真空コンデンサ)の一例を示す概略説明図であり、図7同様に、絶縁筒(絶縁性部材;セラミック材料等の絶縁材料から成る筒状の部材)2の一端側と他端側とに導電性部材(例えば、銅等の金属から成る部材)2a,2bを設けて成る真空容器1を主な構成としている。導電性部材2a,2bにおいては、それぞれ絶縁筒2の一端側と他端側とに設けられた金属筒3,4と、前記絶縁筒2および前記金属筒3,4を閉塞するように設けられ外部端子を兼ねた可動側フランジ5,固定側フランジ6と、によって構成されている。
【0030】
真空容器1内においては、内径の異なる複数の筒状の電極部材から成る固定電極が前記固定側フランジ6の内側(真空容器1の内側)に設けられ、前記の固定電極7と同様に内径が異なる複数の筒状の電極部材を同心円状に一定間隔を隔てて構成された可動電極8が前記固定電極7と非接触状態で挿出入(固定電極7の各電極部材間に挿出入して互いに交叉)できるように設けられている。
【0031】
また、可動電極8は、前記真空容器1の軸方向に可動し可動電極8を支持する可動側支持板9aと、該可動側支持板9aの背面(前記可動電極8が取付けられていない面)から真空容器1外方向(可動側フランジ5側方向)に延設(立設)された可動ロッド9bと、から構成される可動導体9により支持されている。前記の可動ロッド9bは、可動フランジ5側の一端側に雄ネジ部(後述の絶縁操作部材に螺合可能なもの)9cが形成され、真空容器1に設けられた(図中では可動側フランジ5を突出するように固設された)軸受部(図中では、真空容器1外側において回転トルクを低減するためのスラストベアリング14を備えた支持体)10に貫装される。
【0032】
さらに、ベローズ(図中では、可動側フランジ5と可動支持板9aとの間に接合(例えば、真空高温ろう付けにより接合)されたベローズ)11により、可動電極8及び固定電極7側に真空室15を形成し、可動導体9側に大気室16を形成している。ベローズ11には、耐久性(機械的強度等),導電性等を有するものが用いられ、例えばリン青銅から成るものやSUS部材に銅を被覆して成るものが挙げられる。
【0033】
符号13は、前記可動ロッド9bを真空容器1の軸方向に移動させ、真空コンデンサにおける静電容量を調整して絶縁操作するための筒状部材(以下、絶縁操作部材と称する)を示すものであり、軸受部10の一端側(図中ではスラストベアリング14側)にて回動自在に支持される。この絶縁操作部材13内の中央部には段差部13bが形成され、その段差部13bから一端側には小径(他端側よりも小径)の雌ネジ部13aが形成される。また、前記の雌ネジ部13aには前記可動ロッド9bの雄ネジ部が螺合され、他端側は真空コンデンサの駆動源(モータ等;図示省略)が連結(例えば、絶縁手段を介して連結)される。
【0034】
前記の駆動源により絶縁操作部材13を回動(例えば図示矢印Rの回転方向に回動)することにより、雌ネジ部13aの形状に応じて可動導体9が旋回しながら軸方向に移動し、対向電極間の面積(固定電極7と可動電極8との交叉面積)が変化する。前記の可動ロッド9bは、図示するように胴体部が軸受部10に貫装されているため、可動導体9の移動の際の該可動導体9の揺動が抑えられる。また、可動導体9に例えばストッパーネジ(内径が雌ネジ部13aよりも大きい座面12bを有するネジ)12bを取り付けておくことにより、可動導体9の移動範囲を制限(例えば、対向電極同士の接触防止)することができる。
【0035】
本実施例1の絶縁筒2においては、側壁の縦断面形状がアーチ状であり、より具体的にはアーチ面(本実施例1では外周面,内周面)の直径がそれぞれ両端側から中央部に近づくに連れて大きくなるようにしたものが適用される。このような形状の絶縁筒により、該絶縁筒の沿面距離は、単なる円筒状の絶縁筒と比較して長くなる。
【0036】
例えば、図2に示す樽状の絶縁筒のように、絶縁筒端部20Aから絶縁筒中央部20Bに近づくに連れて、絶縁筒の側壁の内径がW1(端部内径)からW2(中央部内径)に順次増すようにし、絶縁筒の側壁の外径においても同様に順次増すようにして、湾曲部20を形成している。また、本実施例1のような構成の場合には、真空容器内の真空による応力に耐えられる構成(耐応力性の高い構成;例えば、曲げ,撓み,ヒビ割れ等に耐えられる構成)となり、その構成による効果の程度(例えば、中央部内径W2と端部内径W1との差)に応じて、絶縁筒2の機械的強度を損なうことなく前記絶縁筒2の側壁の厚さTAを薄くできると共に、沿面距離LAを長くすることができる。
【0037】
この結果、例えば図7の場合と比較して、空間距離を長くすることなく、絶縁筒2の沿面距離が長くなり、その沿面距離の長さに応じて分流電流を抑制でき、真空コンデンサの絶縁耐電圧が向上すると共に電流容量が増加する。また、側壁の厚さTAが薄く内周面のアーチ面が湾曲(真空容器外側方向に湾曲)しているため該真空容器1の容積が増加し、絶縁筒2で発生し得る発生熱の放熱効率が高くなる。さらに、絶縁筒の側壁(本実施例1では内径および外径のそれぞれ)が、絶縁性部材の軸方向の両端側から中央部に近づくに連れて大きくなるようにし、前記側壁の内周面および外周面の各縦断面形状がそれぞれアーチ状であるため、十分な耐応力性が得られる。
【0038】
ここで、絶縁筒2での発生熱について検討する。例えば図3に示すように、一般的な高周波機器等に適用されている従来の絶縁筒(以下、従来絶縁筒と称する)21の側壁の厚さをTBとすると、単に厚みTBを薄くすれば該従来絶縁筒21は破損し易くなってしまう。一方、本実施例1のような絶縁筒2の構成によれば、従来絶縁筒21と同様の耐応力性を得る場合、該絶縁筒2の厚さTAをTBの3〜4割減とする(薄くする)ことができ、沿面距離LAをLBの1〜2割増とする(長くする)ことができる。
【0039】
換言すると、本実施例1の絶縁筒2によれば、従来絶縁筒21の各寸法を10とした場合、該絶縁筒2の厚みTAを7〜6に減少することができ、沿面距離LAを11〜12に増すことができる。同軸円筒電極型の静電容量Cにおいては、計算式「C=2π×ε0×εr×(対向距離)×Loge(b/a)」(ただし、ε0は真空誘電率,εrは材料の比誘電率,aは最内周側電極の半径,bは最外周側電極の半径)によって算出することができることから、「ε0×εr=1」と仮定すると、前記の指標値により絶縁筒2や従来絶縁筒21の静電容量Cの算出を試みる場合には、次の式を適用できる。
【0040】
C=ε0・ε1T/L
なお、式中のε0は真空中の誘電率,ε1は絶縁筒の比誘電率,T(TAまたはTB)は絶縁筒の厚さ,L(LAまたはLB)は絶縁筒の沿面距離を示すものとする。前述の式においてε0・ε1=1とし、従来絶縁筒21の各指標値TB=10,LB=10を代入すると、従来絶縁筒21の静電容量Cは1(F)となる。これに対して、本実施例の絶縁筒2の各指標値TA=7,LA=12を代入すると、絶縁筒2の静電容量Cは0.58(F)となる。
【0041】
次に、絶縁筒2や従来絶縁筒21を流れる分流電流Iの算出を試みる場合には、絶縁筒の静電容量をC,電極の静電容量をC1,電極に印加される電流をI1とすれば次に式が適用できる。
【0042】
I=(全体の電流)×((絶縁筒静電容量C)/((絶縁筒静電容量C)+(電極静電容量C1)))
=(I+I1)×C/(C+C1)
ここで、C1=1およびI1=1とすると、従来絶縁筒21に流れる分流電流Iは1(A)となり、絶縁筒2の分流電流Iは0.58(A)となる。
【0043】
なお、本実施例の真空コンデンサのように、固定電極7に対して非接触状態で可動電極8が移動することにより、該移動に伴う衝撃力は少なくなり、絶縁筒2の側壁厚さTAが薄くても破損し難くなる。また、可動導体9を軸受部10内にて滑らかに移動させることにより、衝撃力がより少なくなり、絶縁筒2の厚さTAが薄くても破損し難くなる。
【0044】
[実施例2]
図4の符号30は、本実施の形態における電力用電気機器から成る真空コンデンサ(固定型真空コンデンサ)の他例を示すものであり、実施例1同様に、絶縁筒(絶縁性部材;セラミック材料等の絶縁材料から成る筒状の部材)2の一端側と他端側とに導電性部材(例えば、銅等の金属から成る部材)2a,2bを設けて成る真空容器1を主な構成とし、前記絶縁筒2においては側壁の直径(本実施例2では内径および外径のそれぞれ)が絶縁性部材の軸方向の両端側から中央部に近づくに連れて大きくなるようにし、前記側壁の内周面および外周面の各縦断面形状をそれぞれアーチ状にしたもの(図中では樽状の絶縁筒)が適用される。
【0045】
本実施例2では、導電性部材2a,2bの内側(真空容器1の内側)にそれぞれ固定電極7a,7b(それぞれ陽極または陰極)が設けられている。これら固定電極7a,7bは、それぞれ内径が異なる複数の筒状の電極部材を同心円状に一定間隔を隔てて構成されたものであり、互いに非接触状態で交叉し静電容量を形成するように対向配置されている。なお、符号31は、例えば固定電極7a,7bを位置決めするためのセンターピン(セラミックセンターピン等)であるが、該センターピン31を省いた構造でも十分実施できる。
【0046】
本実施例2のように固定型真空コンデンサであっても、絶縁筒の側壁の断面形状がアーチ状であり、より具体的には側壁の内径および外径のそれぞれが絶縁性部材の軸方向の両端側から中央部に近づくに連れて大きくなるようにし、前記側壁の内周面および外周面の各縦断面形状をそれぞれアーチ状にしたものが適用される。このような形状の絶縁筒により、該絶縁筒の沿面距離は、単なる円筒状の絶縁筒と比較して沿面距離が長くなる。
【0047】
例えば、図2に示す樽状の絶縁筒2のように、絶縁筒端部20Aから絶縁筒中央部20Bに近づくに連れて、絶縁筒内周面の直径がW1(端部内周面直径)からW2(中央部内周面直径)に順次増すようにし、外周面の直径においても同様に順次増すようにして、湾曲部20を形成している。すなわち、本実施例2のような構成において、前述の実施例1と同様の作用効果を奏する。
【0048】
[実施例3]
図5の符号40は、本実施の形態における電力用電気機器から成る真空バルブの一例を示すものであり、実施例1同様に、絶縁筒(絶縁性部材;セラミック材料等の絶縁材料から成る筒状の部材)2の一端側と他端側とに導電性部材(例えば、銅等の金属から成る部材)2a,2bを設けて成る真空容器1を主な構成とし、前記絶縁筒2においては側壁の直径(本実施例3では内径および外径のそれぞれ)が絶縁性部材の軸方向の両端側から中央部に近づくに連れて大きくなるようにし、前記側壁の内週面および外周面の各縦断面形状をそれぞれアーチ状にしたもの(図中では樽状の絶縁筒)が適用される。
【0049】
本実施例3では、該真空容器1内に一対の固定電極7および可動電極8が配置され、これらの各電極背面から真空容器1外に突出するようにロッド41A,41Bがそれぞれ延設(図中では真空容器1の軸方向に延設)される。また、可動電極側ロッド41Aと前記可動側フランジ5との間には、該真空容器1内を気密(真空)にすると共に該可動電極側ロッド41Aを可動にするためのベローズ11が設けられる。例えば、前記可動電極ロッド41Aを移動(図中では真空容器1の軸方向に移動)することにより可動電極8と固定電極7とを接離することができ、真空バルブによる電力の遮断,投入(開閉)操作を行うことができる。
【0050】
本実施例3のように真空バルブであっても、絶縁筒の側壁の断面形状がアーチ状であり、より具体的には内径および外径のそれぞれが、絶縁性部材の軸方向の両端側から中央部に近づくに連れて大きくなるようにし、前記側壁の内周面および外周面の各縦断面形状をそれぞれアーチ状にしたものを適用したことにより、前述の実施例1と同様な作用効果を奏する。例えば、前記のように真空バルブにおいて電力の投入および遮断を行う際には電気的発熱が起こるが、本実施例3のような構成によれば、真空容器の容積の増加に伴って冷却効果が増し、発生熱を効率よく放出して低下させることができる。
【0051】
以上示した実施例1〜3から明らかなように、絶縁筒の両端をそれぞれ導電性部材により閉塞して成る真空容器を備えた電力用コンデンサや電力用開閉器等の電力用電気機器において、前記絶縁筒の側壁の縦断面形状をアーチ状にしたものを適用することにより、アーチ面において沿面距離が長くなると共に、該アーチ面において表面積が大きくなることから、該電力用電気機器の動作時の電気的発熱等に対する放熱性が向上する共に、分流電流等に対する絶縁耐電圧特性が向上することを判明した。
【0052】
なお、実施例1〜3では、絶縁筒側壁の内径および外径のそれぞれが、絶縁性部材の軸方向の両端側から中央部に近づくに連れて大きくなるようにし、前記側壁の内周面および外周面の各縦断面形状をそれぞれアーチ状にした具体例を説明したが、図6に示す絶縁筒のように、アーチ面の直径が両端側から中央部に近づくに連れて小さくなるようにした構成や、アーチ面の頂点(側壁の内径および外径が一番大きい場所または一番小さい場所)が中央部よりも両端部のいずれか一方側にずれている構成や、真空容器内が真空状態でない構成(例えば、油入りコンデンサ,固体コンデンサ,オイルコンデンサ,セラミックコンデンサ,油入り遮断機等)であっても、該実施例1〜3同様の作用効果が得られる。
【0053】
以上のように本実施形態によれば、例えば高周波機器や大電力機器等に適用される電力用コンデンサや電力用開閉器等の電力用電気機器において、その動作時の電気的発熱等に対する放熱性が高められる共に、分流電流等に対する絶縁耐電圧特性が高められることは明らかである。
【0054】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施の形態における電力用電気機器(可変型真空コンデンサ)の一例を示す概略説明図。
【図2】実施例1で使用した絶縁筒の断面図。
【図3】一般に使用される絶縁筒の断面図。
【図4】実施例2における電力用電気機器(固定型真空コンデンサ)の断面図。
【図5】実施例3における電力用電気機器(真空バルブ)の断面図。
【図6】実施例1〜3における絶縁筒の他例を示す断面図。
【図7】一般的な電力用電気機器(可変型真空コンデンサ)の概略説明図。
【符号の説明】
【0056】
1,1A…真空容器
2…絶縁筒
3,4…金属筒
5…可動側フランジ
6…固定側フランジ
7…固定電極
8…可動電極
9…可動導体
9a…可動側支持板
9b…可動ロッド
9c…ネジ部
10…軸受部
11…ベローズ
12a…ストッパーネジ
12b…座面
13…絶縁操作部材
13a…雌ネジ部
13b…段差部
14…スラストベアリング
15…真空室
16…大気室
20…湾曲部
20A…絶縁筒端部
20B…絶縁筒中央部
W1…端部内径
W2…中央部内径
A,TB…厚み部
30…固定型真空コンデンサ
31…セラミックセンターピン
40…真空バルブ
41A…可動電極側ロッド
41B…固定電極側ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の絶縁性部材の両端をそれぞれ導電性部材により閉塞して形成した容器を備え、その容器内の両導電性部材間に静電容量が形成された電力用コンデンサから成る電気機器であって、
前記絶縁性部材の側壁の縦断面形状がアーチ状であることを特徴とする電力用電気機器。
【請求項2】
前記容器は真空容器であって、その真空容器内の一方の導電性部材側に固定電極を配置し、
前記の真空容器内の他方の導電性部材側で固定電極との間に静電容量を形成するように可動電極を配置し、
前記の可動電極を移動し固定電極に対する可動電極の位置を変化させることにより、前記の静電容量を変化させることが可能なことを特徴とする請求項1記載の電力用電気機器。
【請求項3】
筒状の絶縁性部材の両端をそれぞれ導電性部材により閉塞して形成した容器を備え、その容器内の両導電性部材間の電気的距離を変化させることにより、両導電性部材間を電気的に開閉できる開閉器から成る電気機器であって、
前記絶縁性部材の側壁の縦断面形状がアーチ状であることを特徴とする電力用電気機器。
【請求項4】
前記容器は真空容器であって、その真空容器内の一方の導電性部材側に固定電極を配置し、真空容器内の他方の導電性部材側に可動電極を配置し、
前記の可動電極を移動し固定電極に対する可動電極の位置を変化させることにより、前記可動電極と固定電極との間を電気的に開閉できることを特徴とする請求項3記載の電力用電気機器。
【請求項5】
前記筒状の絶縁性部材の側壁の内径および外径のそれぞれが、絶縁性部材の軸方向の両端側から中央部に近づくに連れて大きくなるようにし、前記側壁の内周面および外周面の各縦断面形状をそれぞれアーチ状にしたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の電力用電気機器。
【請求項6】
前記筒状の絶縁性部材の側壁の内径および外径のそれぞれが、絶縁性部材の軸方向の両端側から中央部に近づくに連れて小さくなるようにし、前記側壁の内周面および外周面の各縦断面形状をそれぞれアーチ状にしたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の電力用電気機器。
【請求項7】
前記絶縁性部材は、セラミック材料から成ることを特徴とする請求項1〜6のうち何れかに記載の電力用電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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