説明

電力系統監視制御システム訓練装置

【課題】ハードウェア性能に依存せず、トレーナおよびトレーニに対してあたかも実時間で電力系統を模擬しているように表示する。
【解決手段】本発明の制御システム訓練装置10は、電力系統の応動を模擬する電力系統模擬手段5と、該電力系統模擬手段5により模擬される電力系統の状態を表示制御するとともに訓練者および被訓練者のうちの少なくとも何れかの操作や制御情報を電力系統模擬手段5に反映する監視制御手段3とを備え、監視制御手段3は、各時間断面で発生する電力系統における状態変化イベントを電力系統模擬手段5が該電力系統に反映し模擬するまでに要した実時間を取得し、該取得した実時間が所定時間より大きい場合、訓練に際しての後の訓練経過時間を短く操作し、該短く操作した訓練経過時間で、模擬される電力系統の状態を表示制御している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実際の電力系統を模擬し、電力系統の故障発生時の電力系統操作を訓練するための電力系統監視制御システム訓練装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統監視制御システムの訓練装置(以下、訓練装置と称す)は、給電所などの電力系統監視制御システムの運用者に対し、電力系統の故障発生時の電力系統操作を円滑に行えるように訓練するための装置である。
従来、この訓練装置は、訓練者(以下、トレーナと言う)による各種データ設定、および故障シナリオや、被訓練者(以下、トレーニと言う)による操作や制御に対して、電力系統の応動を模擬し、トレーニがあたかも実際の電力系統で電力系統監視制御システムを運用しているような状況を作り出し、様々な電力系統の故障に対して適切かつ迅速な電力系統の操作を行えるよう訓練することを目的としている。
【0003】
図4は、従来の訓練装置100の全体構成を示すブロック図である。
ここで、従来の訓練装置100の電力系統模擬方式を、図4を用いて説明する。
一般に、訓練装置100は、電力系統の模擬に必要な各種データを保存する模擬系統データ保存エリア104と、トレーナおよびトレーニの操作を模擬系統データ保存エリア104に反映するとともに模擬系統の状態をトレーナ用マンマシン装置101およびトレーニ用マンマシン装置102に表示する監視制御手段103と、模擬系統データ保存エリア104のデータから送電線の電力、電流等の潮流値や、変電所から出る所の電圧である母線電圧などを電力潮流計算によって算出する電力潮流計算手段106や、遮断器などの入/切状態から自動制御装置などの動作を模擬する模擬モデル手段107などを含む電力系統模擬手段105から構成されている。
【0004】
図4に示すように、トレーナはトレーナ用マンマシン装置101の表示装置、入力装置等を用いて、雷、地絡事故、短絡事故等の事故シナリオの設定や、事故シナリオ開始時に、どのような系統であるのか、負荷が高いときであるとかの初期系統データの設定および変更を行い、トレーニはトレーニ用マンマシン装置102を用いて、訓練を開始する。そして、監視制御手段103は、トレーナがトレーナ用マンマシン装置101を用いて設定した各種データを、模擬系統データ保存エリア104に保存した後、電力系統模擬手段105が起動される。
【0005】
電力系統模擬手段105は、模擬系統データ保存エリア104に保存されたデータを元に、時々刻々変化する電力系統内の周波数、電圧分布や、工場、一般家庭等の負荷電力、発電機出力、送電線潮流値などの数値情報を、電力潮流計算手段106にて計算すると共に、リレーの応動や、これに伴う状態の変化を模擬モデル手段107にて模擬し、模擬系統データ保存エリア104に保存する。
その後、監視制御手段103は、模擬系統データ保存エリア104のデータを取り出し、電力系統の状態をトレーニ用マンマシン装置102およびトレーナ用マンマシン装置101に表示し、トレーニおよびトレーナが目視し、訓練が行われる。
【0006】
トレーニは、トレーニ用マンマシン装置102に表示される電力系統の状態を目視し、迅速かつ適切に事故を除去するよう電力系統の操作をキーボード等の入力装置で行い、そのデータは監視制御手段103により模擬系統データ保存エリア104に保存される。
なお、本願に係る文献公知発明は下記のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−18747号公報(段落0021〜0023、図2等)
【特許文献2】特開平5−316651号公報(段落0020〜0023、0029、図2、図3等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述の訓練装置100では、各時間断面で発生する状態変化イベント、すなわちトレーナが作成する事故シナリオ、トレーニによる操作、自動制御装置による制御結果などと、電力潮流計算を行って求められた解(母線電圧値や送電線潮流値)を模擬系統データ保存エリア104に反映している。
【0009】
一般に、電力潮流計算では、電力系統の構成要素を伝送機能、ネットワーク管理機能等のノード若しくは系統分岐のブランチとして計算系統を生成するが、系統故障などの系統状態の変化が大きな場合、この計算系統の電力潮流計算処理に時間を要する。
計算処理に要する時間、所謂スループットは、基本的にハードウェア性能に依存するが、実時間での電力系統模擬を実現するために様々な計算処理の高速化手段が提案されており、課題となっている。
【0010】
例えば、特許文献1では、電力系統の応動においてその時点で動態安定度計算の計算結果から電力系統の潮流計算を行い、その結果から動態安定度計算の初期値の再計算を行い、再度、動態安定度計算を実行して積分誤差累積を防止している。
特許文献2では、開閉機器等の状変をデータファイルに格納し、該データファイルにされる状変発生時間の中でシミュレータ内の所定時間を過ぎたものがあれば状変を発生させることで、実系統状変の発生時刻とシミュレータ内状変の発生時刻とをほぼ同じにすることが記載されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1、2においては、時間の経過に従って変化する状変をシミュレータするための、状変の変動に対する処理時間が大きい場合の実系統に対するシミュレート時間の時間遅れに対する方策は記載されてない。
そのため、実時間の電力系統に対して、訓練用のシミュレートされる電力系統の状態に時間遅れが生じ、実電力系統のリアルタイムに近い訓練が行うことが困難であるという問題がある。
【0012】
本発明は上記実状に鑑み、ハードウェア性能に依存することなく、トレーナおよびトレーニに対してあたかも実時間で電力系統を模擬しているように表示する電力系統監視制御システム訓練装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく、本発明に関わる制御システム訓練装置は、電力系統の監視を被訓練者に対して訓練するための制御システム訓練装置であって、電力系統の応動を模擬する電力系統模擬手段と、該電力系統模擬手段により模擬される電力系統の状態を表示制御するとともに訓練者および被訓練者のうちの少なくとも何れかの操作や制御情報を電力系統模擬手段に反映する監視制御手段とを備え、監視制御手段は、各時間断面で発生する電力系統における状態変化イベントを電力系統模擬手段が該電力系統に反映し模擬するまでに要した実時間を取得し、該取得した実時間が所定時間より大きい場合、訓練に際しての後の訓練経過時間を短く操作し、該短く操作した訓練経過時間で、模擬される電力系統の状態を表示制御している。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ハードウェア性能に依存することなく、トレーナおよびトレーニに対してあたかも実時間で電力系統を模擬しているように表示する電力系統監視制御システム訓練装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る実施形態の電力系統監視制御システム訓練装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態の訓練装置における電力系統模擬処理の処理動作を示すフローチャートである。
【図3】実施形態の訓練装置における電力系統模擬処理を1秒周期で動作させる際の訓練経過時間更新処理のフローチャートである、
【図4】従来の訓練装置の全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る実施形態の電力系統監視制御システム訓練装置10の全体構成を示すブロック図である。
<<電力系統監視制御システム訓練装置10の概要>>
実施形態の電力系統監視制御システム訓練装置10(以下、訓練装置10と称す)は、送電線、変圧器、遮断器、配電線などの実際の電力系統を模擬し、電力系統の故障発生時における操作員の電力系統の操作を訓練するための装置である。
【0017】
訓練装置10は、各時間断面で発生する落雷、保護リレー自動切断、操作員(被訓練者)による遮断機の操作等の状態変化イベントを、模擬系統データ保存エリア4に反映するまでに要した実時間を管理する。
そして、操作員(被訓練者)の訓練に際しての訓練経過時間を、電力系統を模擬する処理時間が多くかかった場合には後の訓練経過時間を短く操作することで、訓練経過時間をリアルタイムの時間の流れに合わせるようにすることで、ハードウェア性能に依存せず、電力系統の監視を訓練をする被訓練者および該被訓練者に対して該訓練を取り行う訓練者に対して、あたかも実時間で電力系統を模擬しているように表示し、訓練が行われる。
【0018】
以下、訓練装置10について、詳細に説明する。
<訓練装置10の構成>
図1に示すように、訓練装置10は、被訓練者(以下、トレーニと称す)に対して電力系統の操作を訓練者(以下、トレーナと称す)が訓練する際に使用するトレーナ用マンマシン装置1と、トレーニ(被訓練者)が電力系統監視の操作の訓練を行う際に使用するトレーニ用マンマシン装置2と、トレーナ用マンマシン装置1、トレーニ用マンマシン装置2がネットワーク9を介して接続され、トレーナ用マンマシン装置1でトレーナ(訓練者)により入力される事故シナリオ等をシミュレートして訓練を行うため処理を実行するサーバSとを備えている。
【0019】
なお、ネットワーク9は、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット等であり、限定されない。
ここで、図1においては、トレーナ用マンマシン装置1、トレーニ用マンマシン装置2を各1台、サーバSに接続した場合を例示したが、それぞれ単数または複数の任意の台数のトレーナ用マンマシン装置1、トレーニ用マンマシン装置2をサーバSに接続してもよいことは言うまでもない。
【0020】
<トレーナ用マンマシン装置1>
トレーナ用マンマシン装置1は、トレーナ(訓練者)が電力系統監視の訓練条件や電力系統事故シナリオ等の設定を行ったり、電力系統監視の訓練中の状況表示などを行う装置である。
トレーナ用マンマシン装置1は、ワークステーション、パソコン等であり、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)等のメインメモリ(主記憶装置)と、ハードディスク装置、ROM(Read Only Memory)等のメモリ(補助記憶装置)と、キーボード、マウス等の入力装置1kと、ディスプレイ等の出力装置1dとを有している。
【0021】
<トレーニ用マンマシン装置2>
トレーニ用マンマシン装置2は、電力系統監視の訓練中にトレーニ(被訓練者)が電力系統の状態を監視したり、電力系統の操作指令などを行う装置である。
トレーニ用マンマシン装置2は、ワークステーション、パソコン等であり、CPUと、RAM等のメインメモリ(主記憶装置)と、ハードディスク装置、ROM等のメモリ(補助記憶装置)と、キーボード、マウス等の入力装置2kと、ディスプレイ等の出力装置2dとを有している。
【0022】
トレーニ用マンマシン装置2のディスプレイ等の出力装置2dには、トレーニの訓練に際して、実際の系統事故と同様なフリッカが点滅したり、×マークが付いたり等の電力系統を模擬した画面が表示され、トレーニ(被訓練者)は、入力装置を用いて、シミュレートされる電力系統事故に対応して入力操作を行い、訓練が進行する。
【0023】
<サーバS>
サーバSは、ファイル、DBなどの模擬系統データ保存エリア4等の保管や入出力、アクセス等の管理サービス、トレーナ用マンマシン装置1、トレーニ用マンマシン装置2の出力装置1d、2dへの表示出力、通信制御等のサービスを提供する側のコンピュータであり、CPU、主記憶装置、ハードディスク装置等の補助記憶装置等を有している。
【0024】
<模擬系統データ保存エリア4>
サーバSの補助記憶装置には、訓練装置10での電力系統監視制御システムの訓練を行うための各種データが記憶されるDB等の模擬系統データ保存エリア4が格納されている。
図1に示す模擬系統データ保存エリア4は、トレーナ(訓練者)が設定した電力系統の訓練条件や事故シナリオなどのデータ、各部の電力、電流等の電力潮流計算に必要な各種設備データ、あるいは模擬系統の状態を保存する記憶領域である
【0025】
また、サーバSの補助記憶装置には、訓練装置10での電力系統監視制御システムの訓練を行うための例えばC言語、VB(Visual Basic)等で組まれた訓練システムプログラムが格納されている。そして、CPUが主記憶装置に補助記憶装置に格納される訓練システムプログラムをロードし実行することにより、訓練装置10における訓練が実現される。
なお、訓練システムプログラムは、C言語、VB以外のプログラミング言語を用いてもよいことは、勿論である。
【0026】
ここで、図1は、訓練システムプログラムが実行された状態を示しており、訓練システムプログラムの実行により、訓練装置10における訓練を統括する監視制御手段3と、シミュレーションの電力系統の各部の電力潮流計算を行う電力潮流計算手段6およびシミュレーションの電力系統で起る状態の変化(以下、状変と称す)を模擬する模擬モデル手段7とを有する電力系統模擬手段5が具現化される。
【0027】
<監視制御手段3>
監視制御手段3は、トレーニ(被訓練者)が勤務している給電制御所などの監視制御ソフトウェアの機能を有し、訓練装置10における訓練を統括的に制御する。
すなわち、監視制御手段3は、電力系統模擬手段5により模擬される電力系統の状態をトレーナ用マンマシン装置1、トレーニ用マンマシン装置2が表示するように制御するとともに、トレーニおよびトレーナのうちの少なくとも何れかのトレーナ用マンマシン装置1、トレーニ用マンマシン装置2の入力操作や、制御信号、制御データ等の制御情報を電力系統模擬手段5に反映する。
具体的には、監視制御手段3は、トレーニ(被訓練者)が訓練中にトレーニ用マンマシン装置2を用いて実施する電力系統状態の監視や電力系統操作、および、トレーナ(訓練者)がトレーナ用マンマシン装置1を用いて行う訓練条件、事故シナリオの設定などを行う。
【0028】
<電力系統模擬手段5>
電力系統模擬手段5は、系統模擬データ保存エリア4のデータをもとに、各部の電力、電流等を計算する電力潮流計算を実施する電力潮流計算手段6や、各種自動制御装置の制御動作などを模擬する模擬モデル手段7などを含んでおり、模擬モデル手段7は、トレーナ(訓練者)により設定された事故シナリオに従って事故発生時刻に事故を発生させるシミュレーションの結果を模擬系統データ保存エリア4に保存する。
【0029】
<<電力系統模擬処理>>
次に、訓練装置10の訓練において、トレーニ(被訓練者)、トレーナ(訓練者)の入力操作を含めた電力系統を模擬するシミュレーションを行うための電力系統模擬処理について、図2に従って説明する。
なお、図2は、訓練装置10における電力系統模擬処理の処理動作を示すフローチャートである。
【0030】
訓練装置10は、図2に示す電力系統模擬処理の動作を、電力系統を監視する訓練開始から終了までの間、例えば1秒周期でトレーニ(被訓練者)、トレーナ(訓練者)の入力操作を含めた状変を監視制御手段3が把握して処理を繰り返し、トレーニは、図1に示すトレーニ用マンマシン装置2を使用して、電力系統監視の訓練が行われる。
なお、前記したように、電力系統模擬処理(図2参照)は、訓練システムプログラムを実行することにより、行われる。
【0031】
まず、図2のS001において、トレーナは、トレーナ用マンマシン装置1のディスプレイ等の出力装置1dを目視しつつ、電力系統の事故シナリオをキーボード、マウス等の入力装置1kを用いて、入力し設定する。トレーナ用マンマシン装置1で入力され設定された事故シナリオのデータは、ネットワーク9を介して、サーバSに送信され、監視制御手段3は、設定された事故シナリオを読込み、この事故シナリオに含まれる訓練に際しての経過時間である訓練経過時間に発生させる機器の状態変化イベントを模擬系統データ保存エリア4(図1参照)に登録する。
【0032】
続いて、図2のS002において、訓練の経過時間である訓練経過時間にトレーニおよびトレーナが、それぞれトレーニ用マンマシン装置2、トレーナ用マンマシン装置1を用いて操作された電力系統の機器の状態変化イベントを、監視制御手段3が模擬系統データ保存エリア4に登録する。
【0033】
続いて、図2のS003において、監視制御手段3は、図2のS001の事故シナリオ登録、および、図2のS002の個別状変登録において、シミュレーションの電力系統の機器の状態変化が有ったか否かを判定する。
シミュレーションの電力系統の機器の状態変化が有った場合(図2のS003でYes)、図2のS004において、電力潮流計算手段6が、シミュレーションの電力系統を構成する電力設備をノード若しくはブランチとして構成する電力潮流計算用の計算系統を生成する。例えば、電力設備の変圧器を1つのノードとし、電力設備の線路を1つのブランチとする。
【0034】
一方、シミュレーションの電力系統の機器の状態変化が無い場合(図2のS003でNo)、後記の図2のS006に移行する。
続いて、図2のS005において、電力潮流計算手段6は、シミュレーションの電力系統における機器の状態変化による充停電状態を編集し、前周期、すなわち、前回(1秒前)の電力系統模擬処理(図2参照)時から変化があった電力設備(送電線や母線について)の充停電発生復帰イベントを、模擬モデル手段107に通知する。
【0035】
続いて、図2のS006において、模擬モデル手段7は、トレーナがトレーナ用マンマシン装置1で設定した事故シナリオに含まれる故障点情報から、故障点の充停電状態により、自動で動作するリレーの動作を模擬する。
続いて、図2のS007において、電力潮流計算手段6は、図2のS004の計算系統の再生成で生成した計算系統と、模擬系統データ保存エリア004(図1参照)に記憶される各種データから、電力潮流計算により、今回の電力系統模擬処理の当該時刻断面の各所の電力、電流等の電力潮流値を演算し、その計算結果を模擬系統データ保存エリア004(図1参照)に反映、すなわち記録する。
【0036】
続いて、図2のS008において、模擬モデル手段7は、自動制御装置などの制御動作を模擬する。
続いて、図2のS009において、監視制御手段3は、各時刻断面、すなわち1秒毎の今回の電力系統模擬処理で処理にかかった時間を監視し、訓練経過時間を操作し更新する後記の訓練経過時間更新処理を行う。
以上が、図2に示す電力系統模擬処理のフローである。
【0037】
そして、この電力系統模擬処理(図2参照)が終了した時点で、電力系統模擬手段5でシミュレーションした電力系統の状態が、監視制御手段3により、訓練経過時間(後記の訓練経過時間更新処理(図3参照)のS107で補正される場合有り)で、トレーナ用マンマシン装置1、トレーニ用マンマシン装置2に表示される。
【0038】
<<訓練経過時間更新処理>>
次に、訓練に際してのトレーニのためのトレーニ用マンマシン装置2およびトレーナのためのトレーナ用マンマシン装置1における経過時間を、更新し操作する訓練経過時間更新処理(図2に示す電力系統模擬処理のS009)を、図3に従って説明する。
なお、図3は、訓練装置10における電力系統模擬処理(図2参照)を1秒周期で動作させる際の訓練経過時間更新処理のフローチャートである。
【0039】
訓練経過時間更新処理(図3参照)は、電力系統模擬処理(図2参照)に要した時間を1秒毎の毎周期監視し、電力系統模擬処理に要した時間によって訓練中の経過時間である訓練経過時間を操作し、トレーニおよびトレーナに対して、トレーナ用マンマシン装置1およびトレーニ用マンマシン装置2を介して、あたかも実時間で電力系統の模擬(シミュレーション)を行っているように訓練経過時間を表示するための処理である。
【0040】
すなわち、実時間の1秒毎に行われる電力系統模擬処理(図2参照)の結果行われるシミュレーションを、原則1秒毎にトレーナ用マンマシン装置1の表示装置およびトレーニ用マンマシン装置2の表示装置に表示することとする。
そして、電力系統模擬処理(図2参照、訓練経過時間更新処理を除く)が1秒より多くかかった場合には、その後に行われる1秒未満の電力系統模擬処理(図2参照)のシミュレーションの表示を1秒未満に補正し、訓練中の経過時間である訓練経過時間を原則1秒毎に進めることとし、実時間の経過に合わせるようにしている。
【0041】
こうして、トレーナ用マンマシン装置1の出力装置1dであるディスプレイおよびトレーニ用マンマシン装置2の出力装置2dであるディスプレイに、訓練経過時間で毎周期(ここでは、1秒間)の模擬した電力系統の状態の表示を行い、リアルタイムに近付けて電力系統の状態を表示している。
訓練経過時間更新処理(図3参照)は、前記したように、訓練システムプログラムを実行することにより行われ、前記の監視制御手段3が主体となり行うものである。
【0042】
まず、図3のS101において、監視制御手段3は、毎周期の1秒毎の当該時刻断面において電力系統模擬処理(図2参照、S009の訓練経過時間更新処理を除く)に1秒以上かかったか否か判定する。
今回の電力系統模擬処理(図2参照、S009の訓練経過時間更新処理を除く)の処理時間が1秒より大きい場合(図3のS101でYes)、図3のS102において、その超過時間(1秒より大きい時間)をトータル補正時間として加算する。すなわち、
トータル補正時間 =トータル補正時間+(今回処理時間−1) (秒) の演算を行う。
【0043】
例えば、今回の処理時間が1.5秒であった場合、1.5秒−1秒=0.5秒をトータル補正時間に加算し、
トータル補正時間 =トータル補正時間+(1.5−1)=トータル補正時間+0.5(秒) とした後、訓練経過時間更新処理(図3参照)を終了する。
【0044】
一方、今回の処理時間が1秒より大きくない場合(図3のS101でNo)、図3のS103において、トータル補正時間があるか否か判定する。すなわち、
トータル補正時間=0 か否か判定する。
トータル補正時間がない場合(図3のS103でYes)、訓練経過時間更新処理(図3参照)を終了する。
【0045】
一方、トータル補正時間がある場合(図3のS103でNo)、図3のS104において、
今回補正時間を、 今回補正時間=1−今回処理時間 (秒)
の演算を行い算出する。例えば、今回の処理時間が0.8秒であった場合、
今回補正時間=1秒−0.8秒=0.2秒の演算を行い、0.2秒を今回補正時間とする。
【0046】
続いて、図3のS105において、図3のS104で算出した今回補正時間がトータル補正時間よりも大きいか否かを判定する。
今回補正時間がトータル補正時間よりも大きい場合(図3のS105でYes)、図3のS106において、今回補正時間をトータル補正時間に置き換えて設定する。すなわち、
今回補正時間=トータル補正時間 の演算を行う。
例えば、今回補正時間が0.5秒で、トータル補正時間が0.2秒の場合、訓練経過時間の実時間との遅れはトータル補正時間の0.2秒であるため、今回補正時間を0.2秒に置き換える。
【0047】
一方、今回補正時間がトータル補正時間よりも大きくない場合(図3のS105でNo)、例えば、今回補正時間が0.2秒で、トータル補正時間が0.5秒であった場合は、今回の周期で実時間との差を埋めることができる時間は、1秒と今回処理時間との差である0.2秒であるため、今回補正時間は0.2秒のままとなる。
【0048】
続いて、図3のS107において、訓練に際しての訓練経過時間と実時間の差を埋めるため、訓練経過時間を今回補正時間分進め、また、模擬モデル手段7の各模擬モデルのタイマー時間を今回補正時間分進める。なお、図3のS107の処理が行われない場合、訓練経過時間の補正は行われないこととなる。
【0049】
例えば、今回補正時間が0.2秒であった場合、訓練経過時間が補正時間の0.2秒進められるので、トレーニ用マンマシン装置2およびトレーナ用マンマシン装置1を介してトレーニおよびトレーナに表示される訓練経過時間は0.8秒であり、実時間の1秒進むことになる。すなわち、トレーニ用マンマシン装置2およびトレーナ用マンマシン装置1にシミュレーション画面が0.8秒間表示された後、次回の電力系統模擬処理(図2参照)で演算されたシミュレーション画面が表示されることになる。
【0050】
続いて、図3のS108において、トータル補正時間から今回補正時間を差し引いてトータル補正時間を修正する。すなわち、
トータル補正時間 =トータル補正時間−今回補正時間
の演算を行う。
以上が、図3に示す訓練経過時間更新処理(図2の電力系統模擬処理のS009)である。
【0051】
前記したように、この訓練経過時間更新処理で訓練経過時間の補正が行われた場合、毎周期毎の電力系統模擬処理(図2参照)後の今回の電力系統模擬処理で模擬される電力系統の状態がトレーナ用マンマシン装置1、トレーニ用マンマシン装置2で表示される。
例えば、図3の訓練経過時間更新処理のS107で訓練経過時間が補正されない場合には、今回の電力系統模擬処理(図2参照)で模擬される電力系統の状態をトレーナ用マンマシン装置1、トレーニ用マンマシン装置2に1秒間表示する。
一方、図2の訓練経過時間更新処理のS107で訓練経過時間が0.8秒に補正された場合には、今回の電力系統模擬処理(図2参照)で模擬した電力系統の状態をトレーナ用マンマシン装置1、トレーニ用マンマシン装置2に0.8秒間表示することとなる。
【0052】
<<まとめ>>
本実施形態における訓練装置10は、図3に示す訓練経過時間更新処理により、例えば事故発生時刻において電力系統状態が大きく変化し、電力系統模擬処理に周期時間よりも時間を要した場合においては、電力系統模擬処理が完了してから訓練経過時間を進める。
つまり、電力系統の状態に変化が無く、電力系統模擬処理に周期時間よりも時間がかからなかった場合は、これまでの訓練経過時間の実時間に対する遅れを取り戻すように、訓練経過時間を早く進めることで、トレーニおよびトレーナに対してあたかも実時間で電力系統を模擬しているように表示することを特徴とするものである。
【0053】
具体的には、訓練装置10では、一定周期で動作する電力系統模擬処理に要した実時間を監視し、周期時間よりも電力系統模擬処理に時間がかかった場合は、その超過時間をトータル補正時間として記憶し、周期時間よりも電力系統模擬処理に時間がかからなかった場合は、実時間と今回の周期で埋めることが可能な訓練経過時間との差を今回補正時間として算出し、今回補正時間分だけ訓練経過時間を実時間よりも早く進めることにより、ハードウェア性能に拘らず、トレーニおよびトレーナに対してあたかも実時間で電力系統を模擬しているように表示することを可能としている。
【0054】
<<作用効果>>
この構成によれば、訓練装置10において各時間断面で発生する状態変化イベントを、模擬系統に反映するまでに要した実時間を取得し、訓練経過時間を操作することで、ハードウェア性能に関わらず、トレーナおよびトレーニに対してあたかも実時間で模擬しているように表示できるため、臨場感のある効果的な訓練を行うことができる。
【0055】
なお、前記の電力系統模擬処理(図2参照)は、トレーナ、トレーニがオンラインで係るオンライン処理の場合を例示して説明したが、訓練をバッチ処理で行う場合には、予め、トレーナが事故シナリオ等をトレーナ用マンマシン装置1で入力して、所定の周期、例えば、1秒毎に図2に示す電力系統模擬処理を行っておく。その後、任意の時間に、トレーニが、トレーニ用マンマシン装置2を用いて、電力系統模擬処理(図2参照)をキックし、一連の電力系統のシミュレーションを、トレーニ用マンマシン装置2に表示する。
このように、訓練装置10における被訓練者に対する電力系統の監視の訓練は、オンライン処理またはバッチ処理の何れでも可能である。
【0056】
また、本実施形態では、毎周期の1秒毎に電力系統模擬処理(図2参照、S009の訓練経過時間更新処理は除く)を行った後、原則1秒で表示を行う場合を例示したが、電力系統模擬処理(図2参照、S009の訓練経過時間更新処理は除く)を行う時間を1秒以外の任意の時間または1秒以外の変動する時間で行ってもよい。また、電力系統模擬処理(図2参照)で、シミュレーションした電力系統の状態を、トレーナ用マンマシン装置1、トレーニ用マンマシン装置2に表示する時間を適宜調整することも可能である。
【0057】
また、本実施形態では、所定周期を超える処理時間が生じた場合、この超えた時間を後の所定周期より小さい処理時間の際に解消する場合を例示したが、この超えた時間を解消せずとも減少させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 トレーナ用マンマシン装置1(表示手段)
2 トレーニ用マンマシン装置2(表示手段)
3 監視制御手段
4 模擬系統データ保存エリア(電力系統模擬手段)
5 電力系統模擬手段
6 電力潮流計算手段(電力系統模擬手段)
7 模擬モデル手段(電力系統模擬手段)
10 訓練装置(電力系統監視制御システム訓練装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の監視を被訓練者に対して訓練するための制御システム訓練装置であって、
電力系統の応動を模擬する電力系統模擬手段と、
該電力系統模擬手段により模擬される電力系統の状態を表示制御するとともに訓練者および前記被訓練者のうちの少なくとも何れかの操作や制御情報を電力系統模擬手段に反映する監視制御手段とを備え、
前記監視制御手段は、
各時間断面で発生する前記電力系統における状態変化イベントを前記電力系統模擬手段が該電力系統に反映し模擬するまでに要した実時間を取得し、該取得した実時間が所定時間より大きい場合、訓練に際しての後の訓練経過時間を短く操作し、該短く操作した訓練経過時間で、模擬される電力系統の状態を表示制御する
ことを特徴とする電力系統監視制御システム訓練装置。
【請求項2】
前記電力系統模擬手段は、所定の周期における電力系統の応動を模擬し、
前記監視制御手段は、
前記所定の周期内に発生する前記電力系統における状態変化イベントを前記電力系統模擬手段が該電力系統に反映し模擬するまでに要した実時間を取得し、該取得した実時間が前記所定の周期の時間より大きい場合、該大きい分の時間を、後の前記所定の周期より短い前記実時間を取得した際に前記所定の周期より短い時間で、模擬される電力系統の状態を表示制御し、補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の電力系統監視制御システム訓練装置。
【請求項3】
前記監視制御手段は、前記大きい分の時間を、前記所定の周期と前記短い実時間との差分の時間で解消または減少するように補正する
ことを特徴とする請求項2に記載の電力系統監視制御システム訓練装置。
【請求項4】
前記監視制御手段は、表示手段を表示制御し、該表示手段が模擬される前記電力系統の状態を表示する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のうちの何れか一項に記載の電力系統監視制御システム訓練装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−41435(P2011−41435A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189079(P2009−189079)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】