説明

電動パワーステアリング装置

【課題】ステアリング操作に要する基礎的な操舵トルクを任意に変更可能とするとともに、併せて操舵系を構成する各部材の製造及び組付けを容易化することが可能な電動パワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】EPS1は、そのステアリングシャフト3に摺接して摩擦力を付与することにより、そのステアリング操作に要する基礎的な操舵トルク(プレロード)を調整可能なプレロード調整機構27を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モータを駆動源としてステアリングシャフトを回転駆動することにより操舵系にアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置(EPS)がある。
即ち、ステアリング操作に伴う当該ステアリングシャフトの回転は、ラック&ピニオン機構を介して噛合されたラック軸の往復動へと変換される。そして、上記のようなEPSは、そのステアリングシャフトを構成する何れかの軸状部材、つまり、ステアリングが取着されるコラムシャフト、或いはラック軸に噛合されるピニオンシャフト等、ステアリングシャフトを構成する各軸状部材の何れかに、減速機構を介してモータを連結することにより構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
さて、上記のように構成されたEPSにおいて、そのステアリング操作に要する基礎的な操舵トルク、即ちパワーアシストが行なわれていない状態において、そのステアリングを回転させるために必要な操舵トルク(プレロード)は、上記のような操舵系を構成する各部材の摩擦(フリクション)により決定される。そのため、従来は、その操舵系を構成する各部材(若しくはユニット)に関する規格の厳格化、即ち公差を予め小さく設定することにより、そのプレロードに車両毎のバラツキが生ずることの抑制が図られている。尚、通常、プレロードの測定は、車体をジャッキアップし、転舵輪を持ち上げた状態で行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−291718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように各部材の規格を厳格化することで、各部材の製造及び組付けに要する労力及び時間は確実に増大する。とりわけ、その操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータの連結部位が、ラック軸との連結部位であるピニオンシャフトから離れた所謂コラムアシスト型のEPSでは、その組付け工程の煩雑さが生産性の向上を阻害する一因にもなっている。そして、更には、こうした規格の厳格化によってもやはり多少のバラツキの発生は避けられず、また経年変化については何ら対応できないという課題を残しており、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、ステアリング操作に要する基礎的な操舵トルクを任意に変更可能として操舵系を構成する各部材の製造及び組付けを容易化することのできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数の軸状部材を連結してなるステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに噛合されて該ステアリングシャフトの回転に基づき往復動するラック軸と、減速機構を介して前記ステアリングシャフトに連結されたモータの駆動力により操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与可能な操舵力補助装置と、前記ステアリングシャフトに摺接して摩擦力を付与することにより前記ステアリング操作に要する基礎的な操舵トルクを調整可能な調整機構と、を備えた電動パワーステアリング装置であること、を要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、ステアリング操作に要する基礎的な操舵トルク、即ち所謂プレロードを任意に変更することができる。その結果、当該プレロードに車両毎のバラツキが生ずることを抑制することができるとともに、その経年変化についても対応することができるようになる。また、組付け後のプレロード調整が可能となることで、操舵系を構成する各部材の規格を緩和、具体的には公差を比較的大きく設定することが可能になる。その結果、製造及び組付けの容易化を図ることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記ステアリングシャフトにはトーションバーが設けられるとともに、前記操舵力補助装置は、前記トーションバーの捩れに基づき検出される前記操舵トルクを基礎として作動するものであって、前記調整機構は、前記トーションバーよりも下方側に設けられること、を要旨とする。
【0010】
即ち、パワーアシスト制御の基礎として用いられる操舵トルクは、運転者によるステアリング操作の意図を示す状態量として位置付けることができる。従って、当該操舵トルクの検出は、そのステアリング操作時に伴いステアリングに入力される値をより直接的に検出可能な位置において行なうことが望ましい。この点、上記構成のようにトーションバーよりも下方(ラック軸側)に調整機構を設けることによって、当該調整機構により摩擦力が付与される以前の未調整の段階で直接的に検出することができる。その結果、操舵力付与装置による適切なアシスト力付与を阻害することなくプレロードの調整を行なうことができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記操舵力補助装置は、前記ステアリングが取着されるコラムシャフトに設けられること、を要旨とする。
即ち、このような所謂コラムアシスト型のEPSでは、そのステアリングシャフトにおける主たる二つの連結部位、即ちラック軸との連結部位と、操舵力補助装置を構成する減速機構との連結部位とが離れていることから、各部材の規格を厳格化することで、その組付け工程の困難性は著しく増大する。従って、このような構成に上記請求項1に示される発明を適用することで、より顕著な効果を得ることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記調整機構は、前記ラック軸に噛合されるピニオンシャフトに設けられること、を要旨とする。
即ち、ステアリングシャフトとの摺接により音が発生する可能性を完全に排除することは難しい。しかしながら、上記構成のように、ステアリングから最も遠い位置(下方側)にあるピニオンシャフトに調整機構を設けることにより、仮に摺接により音が発生した場合であっても、その影響をより小さく抑えることができる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記調整機構は、前記ピニオンシャフトを収容するハウジングに設けられた収容孔と、前記ピニオンシャフトに対して接離する方向に前記収容孔内を移動可能に設けられた押圧部材と、前記収容孔の開口端に螺着される調整部材と、前記押圧部材と前記調整部材との間に介在された弾性部材とを備えてなること、を要旨とする。
【0014】
即ち、その螺子対偶により調整部材がピニオンシャフトと近接する方向に移動することで、当該調整部材と押圧部材との間で押し縮められた弾性部材の弾性力により、押圧部材がピニオンシャフトに押し付けられる。そして、これにより、当該押圧部材がその摺接するピニオンシャフトを押圧する力、即ちその摺接により生ずる摩擦力が規定される。従って、上記構成によれば、調整部材を増し締めし、或いは緩めることにより、そのピニオンシャフトに付与する摩擦力を調整でき、これにより容易且つ確実にプレロードを調整することができるようになる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、前記収容孔から突出する前記調整部材の基端部に螺着されて前記収容孔の開口端に締結される締結部材を備えること、を要旨とする。
上記構成によれば、調整部材の締め込み状態を固定することができ、これにより調整部材により調整したプレロードを一定に保持することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ステアリング操作に要する基礎的な操舵トルクを任意に変更可能として操舵系を構成する各部材の製造及び組付けを容易化することが可能な電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】プレロード調整機構の概略構成を示す断面図。
【図3】A−A断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を所謂コラムアシスト型の電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラック&ピニオン機構4を介してラック軸5と連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラック&ピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。
【0019】
尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、複数の軸状部材を連結してなる。具体的には、ステアリング2が取着されるコラムシャフト6、ラック&ピニオン機構4においてラック軸5に噛合されるピニオンシャフト7、及びこれらを接続するインターミディエイトシャフト8の3本の軸状部材を連結することにより形成されている。
【0020】
そして、そのステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド9を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪10の舵角が変更される。つまり、車両の進行方向を変更することが可能となっている。
【0021】
また、EPS1は、モータ11を駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ12と、該EPSアクチュエータ12の作動を制御する制御手段としてのECU13とを備えている。
【0022】
詳述すると、本実施形態のEPSアクチュエータ12は、所謂コラムアシスト型のEPSアクチュエータであり、その駆動源であるモータ11は、減速機構14を介してコラムシャフト6と駆動連結されている。本実施形態では、減速機構14は、コラムシャフト6に連結されたホイールギヤ15と、モータ11に連結されたウォームギヤ16とを噛合することにより構成されている。そして、モータ11の回転を減速機構14により減速してコラムシャフト6に伝達することによって、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成になっている。
【0023】
ECU13には、トルクセンサ21が接続されている。具体的には、本実施形態のトルクセンサ21は、コラムシャフト6の途中に設けられたトーションバー22と、同トーションバー22の近傍に設けられたマグネット23及びセンサ素子としてのホールIC24とにより構成されている。
【0024】
即ち、回転軸であるステアリングシャフト3へのトルク入力により、そのコラムシャフト6に設けられたトーションバー22には、当該入力トルクに応じた捻れ角が発生し、これによりマグネット23の形成する磁界が変化する。そして、トルクセンサ21は、その磁界の変化に応じて変動するホールIC24の出力電圧を、操舵トルクτとしてECU13に出力する構成となっている。
【0025】
尚、本実施形態のECU13には、上記トルクセンサ21とともに、車速センサ25が接続されており、ECU13は、その検出される車速V及び操舵トルクτに基づいて目標アシスト力を演算する。具体的には、ECU13は、操舵トルクτ(の絶対値)が大きいほど、また車速Vが低いほど、より大きな目標アシスト力を演算する。そして、当該目標アシスト力をEPSアクチュエータ12に発生させるべく、その駆動源であるモータ11への駆動電力の供給を通じて、該EPSアクチュエータ12の作動、即ち操舵系に付与するアシスト力の制御を実行する構成となっている。
【0026】
(プレロード調整機構)
次に、本実施形態のEPSに設けられたプレロード調整機構について説明する。
図1に示すように、本実施形態のEPS1には、そのステアリングシャフト3、詳しくは当該ステアリングシャフト3を構成する3つの軸状部材のうちのピニオンシャフト7に摺接して摩擦力を付与することにより、そのステアリング操作に要する基礎的な操舵トルク(プレロード)を調整可能なプレロード調整機構27が設けられている。そして、これにより、そのプレロードに車両毎のバラツキが生ずることを抑制するともに、併せて操舵系を構成する各部材の製造及び組付けの容易化を図る構成となっている。
【0027】
詳述すると、図2に示すように、本実施形態では、ラック軸5を収容するハウジング30には、同ラック軸5と略直交する方向(同図中、略上下方向)に延びる筒状部31が形成されている。そして、ピニオンシャフト7は、軸受32,33に支承されることにより、同筒状部31内において回転自在に軸支されている。
【0028】
具体的には、本実施形態では、ピニオンシャフト7は、その上記インターミディエイトシャフト8(図1参照)との連結部34が形成された上端7aが筒状部31の開口端31aから突出する態様で同筒状部31内に収容されている。
【0029】
尚、本実施形態では、筒状部31の開口端31aには、同開口端31aから突出するピニオンシャフト7に摺接して当該開口端31aを液密に封止するシール部材35が設けられている。そして、筒状部31内においてピニオンシャフト7の略中央部を支承する上記軸受32にはボールベアリングが用いられ、ピニオンシャフト7の下端7bを支承する上記軸受33にはニードルベアリングが用いられている。
【0030】
また、本実施形態のピニオンシャフト7では、その上記軸受32により支承された部分と軸受33により支承された部分との間にラック軸5との噛合部36が形成されている。そして、ラック軸5は、ハウジング30に設けられたラックガイド37に押圧され、その噛合部38が上記ピニオンシャフト7側の噛合部36に噛合されることにより同ピニオンシャフト7に連結されている。即ち、本実施形態では、これらピニオンシャフト7側及びラック軸5側の各噛合部36,38、並びにラックガイド37により上記ラック&ピニオン機構4が形成されている。
【0031】
そして、本実施形態のプレロード調整機構27は、この上記ラック&ピニオン機構4の上方においてピニオンシャフト7に摺接することにより、同ピニオンシャフト7に摩擦力を付与する構成となっている。
【0032】
さらに詳述すると、図2及び図3に示すように、ハウジング30の筒状部31、詳しくは、その上記軸受32が設けられた位置とシール部材35が設けられた位置との間には、ピニオンシャフト7と略直交する方向(各図中、略左右方向)に延設されて筒状部31の内外を連通する第2筒状部41が形成されている。そして、この第2筒状部41には、その筒内をピニオンシャフト7に対して接離する方向に移動可能なカラー42が収容されている。
【0033】
具体的には、本実施形態のカラー42は、その外径が第2筒状部41の内径よりも僅かに小さな略有底円筒状に形成されており、これにより同カラー42は、その軸線方向に沿って移動可能に第2筒状部41内に収容されている。尚、本実施形態では、このカラー42の外周には、当該カラー42と第2筒状部41との間の隙間を低減する、つまり所謂ガタ詰めのためのOリング43が外嵌されている。そして、このカラー42の外底面42aには、ピニオンシャフト7に摺接することにより摩擦力を生じさせる摩擦材44が固定されている。即ち、本実施形態では、第2筒状部41(の筒内)がプレロード調整機構27の収容孔を構成し、カラー42及び摩擦材44が押圧部材を構成する。
【0034】
また、第2筒状部41の開口端41a近傍の内周には、螺子部45が形成されており、同開口端41aは、その螺子部45を用いて当該開口端41aに螺着されたプラグ46により閉塞されている。そして、このプラグ46と上記カラー42との間には、弾性部材としてのコイルバネ47が介在されている。
【0035】
具体的には、本実施形態のプラグ46は、有蓋筒状に形成されるとともに、その開口端46a近傍の外周には、上記第2筒状部41側に形成された螺子部45と螺合する螺子部48が形成されている。尚、本実施形態では、プラグ46は、ハウジング30(筒状部41)と同様の金属材料(例えば、鉄系金属やアルミニウム合金等)により形成され、上記カラー42及び摩擦材44は、樹脂材料により形成されている。そして、コイルバネ47は、この第2筒状部41の開口端41aに螺着されたプラグ46、及び同第2筒状部41に収容されたカラー42の筒内に配置されることにより、その両端がそれぞれ当該プラグ46の内蓋面46b及びカラー42の内底面42bに当接されている。
【0036】
即ち、プラグ46は、上記のように収容孔としての第2筒状部41の開口端41aに螺着される際、その螺子対偶により、ピニオンシャフト7と近接する方向に移動する。そして、このプラグ46の内蓋面46bとカラー42の内底面42bとの間で押し縮められたコイルバネ47が、その弾性力によりカラー42をピニオンシャフト7側に押圧することにより、当該カラー42に固定された摩擦材44がその摺接するピニオンシャフト7を押圧する力、即ちその摺接により生ずる摩擦力が規定されるようになっている。
【0037】
つまり、本実施形態では、このように第2筒状部41の開口端41aに螺着されたプラグ46によりプレロード調整機構27の調整部材が構成されている。そして、本実施形態のプレロード調整機構27は、この調整部材としてのプラグ46を増し締めし、或いは緩めることにより、そのピニオンシャフト7に付与する摩擦力を調整、即ちそのステアリング操作に要する基礎的な操舵トルク(プレロード)を調整することが可能になっている。
【0038】
また、本実施形態では、プラグ46は、上記のように第2筒状部41の開口端41aに螺着された状態において、その基端部46cが当該第2筒状部41の開口端41aから突出するように形成されるとともに、当該基端部46cの外周には、第2の螺子部49が形成されている。尚、この第2の螺子部49は、上記第2筒状部41側に形成された螺子部45と螺合する螺子部48とは逆螺子となるように構成されている。そして、本実施形態では、この第2の螺子部49を利用して基端部46cに締結部材としてのナット50を螺着し、同ナット50を第2筒状部41の開口端41aに締結することにより、調整部材としてのプラグ46の締め込み状態を固定し、当該プラグ46により調整した上記プレロードを一定に保持することが可能となっている。
【0039】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)EPS1は、そのステアリングシャフト3に摺接して摩擦力を付与することにより、そのステアリング操作に要する基礎的な操舵トルク(プレロード)を調整可能なプレロード調整機構27を備える。
【0040】
上記構成によれば、ステアリング操作に要する基礎的な操舵トルクを任意に変更することができる。その結果、プレロードに車両毎のバラツキが生ずることを抑制することができるとともに、その経年変化についても対応することができるようになる。また、組付け後のプレロード調整が可能となることで、操舵系を構成する各部材の規格を緩和、具体的には公差を比較的大きく設定することが可能になる。その結果、製造及び組付けの容易化を図ることができる。
【0041】
(2)ステアリングシャフト3を構成するコラムシャフト6の途中にはトーションバー22が設けられるとともに、EPSアクチュエータ12は、このトーションバー22の捩れに基づき検出される操舵トルクτを基礎として作動する。そして、プレロード調整機構27は、ステアリングシャフト3において、そのトーションバー22よりも下方側(ラック軸5側)に設けられる。
【0042】
即ち、パワーアシスト制御の基礎として用いられる操舵トルクτは、運転者によるステアリング操作の意図を示す状態量として位置付けることができる。従って、当該操舵トルクτの検出は、そのステアリング操作時に伴いステアリング2に入力される値をより直接的に検出可能な位置において行なうことが望ましい。この点、上記構成によれば、プレロード調整機構27により摩擦力が付与される以前の未調整の段階で直接的に検出することができる。その結果、EPSアクチュエータ12による適切なアシスト力付与を阻害することなくプレロードの調整を行なうことができる。
【0043】
(3)EPSアクチュエータ12の駆動源であるモータ11は、減速機構14を介してコラムシャフト6に駆動連結される。
即ち、このような所謂コラムアシスト型のEPSでは、そのステアリングシャフト3における主たる二つの連結部位、即ちラック軸5との連結部位と、EPSアクチュエータ12を構成する減速機構14との連結部位とが離れていることから、各部材の規格を厳格化することで、その組付け工程の困難性が著しく増大する。従って、このような構成に上記(1)の構成を適用することで、より顕著な効果を得ることができる。
【0044】
(4)プレロード調整機構27は、ステアリングシャフト3を構成する3つの軸状部材のうち、ラック軸5と噛合するピニオンシャフト7に設けられる。
即ち、ステアリングシャフト3との摺接により音が発生する可能性を完全に排除することは難しい。しかしながら、上記構成のように、ステアリング2から最も遠い位置(下方側)にあるピニオンシャフト7にプレロード調整機構27を設けることで、仮に摺接により音が発生した場合であっても、その影響をより小さく抑えることができる。
【0045】
(5)ピニオンシャフト7はハウジング30に設けられた筒状部31内において回転自在に収容されるとともに、この筒状部31には、ピニオンシャフト7と略直交する方向に延設されて筒状部31の内外を連通する第2筒状部41が形成される。第2筒状部41には、その筒内をピニオンシャフト7に対して接離する方向に移動可能なカラー42が設けられるとともに、同カラー42には、ピニオンシャフト7に摺接することにより摩擦力を生じさせる摩擦材44が固定される。また、第2筒状部41の開口端41aには、プラグ46が螺着される。このプラグ46と上記カラー42との間には、弾性部材としてのコイルバネ47が介在される。
【0046】
即ち、その螺子対偶によりプラグ46がピニオンシャフト7と近接する方向に移動することで、同プラグ46とカラー42との間で押し縮められたコイルバネ47の弾性力により、カラー42がピニオンシャフト7側へと押圧される。そして、これにより、当該カラー42に固定された摩擦材44がその摺接するピニオンシャフト7を押圧する力、即ちその摺接により生ずる摩擦力が規定される。従って、上記構成によれば、その調整部材としてのプラグ46を増し締めし、或いは緩めることにより、そのピニオンシャフト7に付与する摩擦力を調整、即ち容易且つ確実にプレロードを調整することができる。
【0047】
(6)プラグ46は、上記のように第2筒状部41の開口端41aに螺着された状態において、その基端部46cが当該第2筒状部41の開口端41aから突出するように形成されるとともに、当該基端部46cの外周には、第2の螺子部49が形成される。そして、この第2の螺子部49を利用して基端部46cにナット50を螺着し、同ナット50を第2筒状部41の開口端41aに締結する。
【0048】
上記構成によれば、調整部材としてのプラグ46の締め込み状態を固定することができ、これにより当該プラグ46により調整した上記プレロードを一定に保持することができる。
【0049】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態では、本発明を所謂コラムアシスト型の電動パワーステアリング装置(EPS)1に具体化した。しかし、これに限らず、減速機構を介してステアリングシャフトに連結されたモータの駆動力により操舵系にアシスト力を付与する構成であれば、例えば、所謂ピニオンアシスト型等、その他の形式のEPSに適用してもよい。
【0050】
・本実施形態では、プレロード調整機構27は、ステアリングシャフト3を構成する3つの軸状部材のうち、ラック軸5と噛合するピニオンシャフト7に設けられることとした。しかし、これに限らず、ピニオンシャフト7以外の軸状部材に摺接する構成としてもよい。
【0051】
・本実施形態では、プレロード調整機構27は、収容孔としての第2筒状部41(の筒内)、押圧部材としてのカラー42及び摩擦材44、調整部材としてのプラグ46、並びに弾性部材としてのコイルバネ47により構成されることとした。しかし、これに限らず、上記各部材の組み合わせ以外の構成により、プレロードの調整機構を構成してもよい。
【0052】
・本実施形態では、開口端41aから突出するプラグ46の基端部46cにナット50を螺着し、同ナット50を第2筒状部41の開口端41aに締結することにより、調整部材としてのプラグ46の締め込み状態を固定し、当該プラグ46により調整した上記プレロードを一定に保持することとした。しかし、これに限らず、その他の構成により、プラグ46の締め込み状態を固定する手段を形成してもよい。また、更に、より簡素な構成を求める場合には省略してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、2…ステアリング、3…ステアリングシャフト、4…ラック&ピニオン機構、5…ラック軸、6…コラムシャフト、7…ピニオンシャフト、8…インターミディエイトシャフト、10…転舵輪、11…モータ、12…EPSアクチュエータ、14…減速機構、21…トルクセンサ、22…トーションバー、27…プレロード調整機構、30…ハウジング、31…筒状部、41…第2筒状部、41a…開口端、42…カラー、42a…外底面、42b…内底面、44…摩擦材、45…螺子部、46…プラグ、46a…開口端、46b…内蓋面、46c…基端部、47…コイルバネ、48,49…螺子部、50…ナット、τ…操舵トルク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の軸状部材を連結してなるステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトに噛合されて該ステアリングシャフトの回転に基づき往復動するラック軸と、
減速機構を介して前記ステアリングシャフトに連結されたモータの駆動力により操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与可能な操舵力補助装置と、
前記ステアリングシャフトに摺接して摩擦力を付与することにより前記ステアリング操作に要する基礎的な操舵トルクを調整可能な調整機構と、
を備えた電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記ステアリングシャフトにはトーションバーが設けられるとともに、前記操舵力補助装置は、前記トーションバーの捩れに基づき検出される前記操舵トルクを基礎として作動するものであって、
前記調整機構は、前記トーションバーよりも下方側に設けられること、
を備えた電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記操舵力補助装置は、前記ステアリングが取着されるコラムシャフトに設けられること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記調整機構は、前記ラック軸に噛合されるピニオンシャフトに設けられること、
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記調整機構は、
前記ピニオンシャフトを収容するハウジングに設けられた収容孔と、
前記ピニオンシャフトに対して接離する方向に前記収容孔内を移動可能に設けられた押圧部材と、
前記収容孔の開口端に螺着される調整部材と、
前記押圧部材と前記調整部材との間に介在された弾性部材とを備えてなること、
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記収容孔から突出する前記調整部材の基端部に螺着されて前記収容孔の開口端に締結される締結部材を備えること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−163029(P2010−163029A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6502(P2009−6502)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】