説明

電動ポンプユニット

【課題】 軽量化およびコンパクト化を図るとともに、ポンプ駆動用電動モータを冷却して、電動モータおよびコントローラの部品の昇温を防止できる電動ポンプユニットを提供する。
【解決手段】 油の吸入および吐出を行うポンプ2のポンプ本体5に、ポンプ駆動用電動モータ3および電動モータ3を制御するコントローラ4を内蔵したモータハウジング6が固定されている。モータハウジング6内に、電動モータ3を内蔵した密閉状のモータ室38が形成されている。冷却用油0がモータ室38内に密封されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば自動車のトランスミッション(変速機)などに油圧を供給する油圧ポンプとして使用される電動ポンプユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッションには油圧ポンプにより油圧が供給されるが、省エネルギなどの観点から停車時にエンジンを停止するいわゆるアイドルストップ(アイドリングストップ)を行う自動車では、アイドルストップ時にもトランスミッションへの油圧供給を確保するために、電動油圧ポンプが使用されるようになっている。
【0003】
自動車のトランスミッション用電動油圧ポンプは、車体の限られたスペースに搭載されるため、コンパクト化が要求され、また、軽量化およびコスト低減も要求される。このような要求に応えるため、ポンプ、ポンプ駆動用電動モータおよび電動モータのコントローラが共通のユニットハウジング内に組み込まれた電動ポンプユニットが提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【0004】
このような従来の電動ポンプユニットでは、ポンプを構成するポンプ本体にモータハウジングが連結され、モータハウジング内に形成された密閉状のモータ室に電動モータおよびコントローラが内蔵されている。電動モータはモータ室内のポンプ本体側に配置され、ポンプ本体と反対側の電動モータの端面にコントローラの基板が固定されている。そして、基板には、コントローラを構成するコンデンサ、FETなどの複数の電装部品(電気部品および電子部品)が取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−215088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車用電動ポンプユニットは自動車のエンジンルーム内に配置され、電動モータのステータコイルの発熱などにより、電動モータおよびモータ室内の温度が上昇し、モータ室内のコントローラの部品の温度も上昇する。
【0007】
この発明の目的は、上記の問題を解決し、軽量化およびコンパクト化を図るとともに、ポンプ駆動用電動モータを冷却して、電動モータおよびコントローラの部品の昇温を防止できる電動ポンプユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による電動ポンプユニットは、油の吸入および吐出を行うポンプのポンプ本体に、ポンプ駆動用電動モータおよび電動モータを制御するコントローラを内蔵したモータハウジングが固定され、モータハウジング内に、電動モータを内蔵した密閉状のモータ室が形成されており、冷却用液体がモータ室内に密封されていることを特徴とするものである。
【0009】
ポンプ本体に、ポンプ駆動用電動モータおよびコントローラを内蔵したモータハウジングが固定されているので、電動ポンプユニットの軽量化およびコンパクト化を図ることができる。
【0010】
モータ室内に密封された冷却用液体により、電動モータが冷却され、電動モータの発熱による電動モータおよびモータ室内の温度上昇が防止される。このため、モータ室内のコントローラの部品の温度上昇も防止される。
【0011】
好ましくは、冷却用液体の熱膨張を考慮し、モータ室内に、冷却用液体の他に体積で10〜20%程度の空気が密封される。冷却用液体は、モータ室内の電動モータに触れるので、絶縁体である。好ましくは、油である。ポンプに使用される油と同種類の油であってもよい。
【0012】
冷却液体が油である場合、電動モータの防錆効果がある。
【0013】
たとえば、電動モータのステータコイルの少なくとも一部が、モータ室内に露出して、冷却用液体に接触している。
【0014】
この場合、発熱源であるステータコイルが冷却用液体に接触しているので、電動モータが効率良く冷却される。
【0015】
モータ室には、たとえば、コントローラは内蔵されない。コントローラが冷却液体に対する耐性があるような場合、コントローラもモータ室内に内蔵されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
この発明の電動ポンプユニットによれば、上記のように、軽量化およびコンパクト化を図るとともに、ポンプ駆動用電動モータを冷却して、電動モータおよびコントローラの部品の昇温を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、この発明の実施形態を示す電動ポンプユニットの主要部の縦断面図である。
【図2】図2は、図1の電動ポンプユニットの主要部の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、この発明を自動車のトランスミッション用電動ポンプユニットに適用した実施形態について説明する。
【0019】
図1は、この発明の実施形態を示す電動ポンプユニットの主要部の縦断面図である。以下の説明において、図1の左側を前、右側を後とする。
【0020】
図1に示すように、電動ポンプユニットは、ユニットハウジング(1)内に、油の吸入および吐出を行うポンプ(2)、ポンプ駆動用電動モータ(3)ならびに電動モータ(3)のコントローラ(4)が一体に組み込まれたものである。この例では、ポンプ(2)は内接歯車ポンプ、モータ(3)は3相巻線を有するセンサレス制御DCブラシレスモータである。
【0021】
ユニットハウジング(1)は、ポンプ(2)のポンプ本体(5)ならびに電動モータ(3)およびコントローラ(4)を内蔵したモータハウジング(6)よりなる。
【0022】
ポンプ本体(5)は、後側のポンプハウジング(7)と前側のポンププレート(8)よりなる。ポンプハウジング(7)は、前後方向と直交する方向に広がりを持つ厚肉板状のものであり、その中心に、前部が開口したポンプ室(9)が形成されている。ポンプハウジング(7)の前面に、ポンププレート(8)がOリング(10)を介して固定され、ポンプ室(9)の前面が塞がれている。ポンプ室(9)内に、アウタギヤ(11)が回転自在に収容され、アウタギヤ(11)の内側に、これとかみ合うインナギヤ(12)が配置されている。図示は省略したが、ポンプハウジング(7)およびポンププレート(8)には、油吸入ポートおよび油吐出ポートが形成され、ポンププレート(8)には、油吸入ポートに連通する油吸入穴および油吐出ポートに連通する油吐出穴が形成されている。ポンプハウジング(7)およびポンププレート(8)は、たとえば、アルミニウム合金製である。
【0023】
モータハウジング(6)は、円筒状の合成樹脂製モータケース(13)と、モータケース(13)の後端に固定された円板状の蓋(14)とからなる。モータケース(13)の前端が、Oリング(15)を介してポンプハウジング(7)の後面に固定されている。ポンププレート(8)、ポンプハウジング(7)およびモータケース(13)は、それらの外周から径方向外側に突出するように一体に形成された複数の連結部(8a)(7a)(13a)の部分において、ボルト(16)により互いに固定されている。モータケース(13)の後端開口が、蓋(14)により塞がれている。
【0024】
ポンプハウジング(7)の後端面の中心に、モータケース(13)より小径の円筒部(7b)が一体に形成され、円筒部(7b)内の後部に設けられた軸受装置(17)により、前後方向にのびるモータ軸(18)が片持ち支持されている。この例では、軸受装置(17)は、前後に隣接する2個の転がり軸受である単列深みぞ玉軸受(19)よりなり、各軸受(19)の内輪(19a)がモータ軸(18)に固定され、外輪(19b)が円筒部(7b)に固定されている。モータ軸(18)の前部は、ポンプハウジング(7)の後壁に形成された穴(21)の部分を貫通してポンプ室(9)内に進入し、その前端部にインナギヤ(12)が嵌合固定されている。円筒部(7b)内の軸受装置(17)より前側の部分とモータ軸(18)の間に、オイルシール(22)が設けられている。
【0025】
円筒部(7b)より後方に突出したモータ軸(18)の後端部に、モータ(3)を構成するモータロータ(23)が固定されている。ロータ(23)は、モータ軸(18)の後端から半径方向にのびかつ軸受装置(17)の外周を囲む円筒状のロータ本体(24)の外周部に合成樹脂製の永久磁石保持部材(25)が固定状に設けられ、保持部材(25)を周方向に等分する複数箇所にセグメント形状の永久磁石(26)が保持されたものである。モータ軸(18)、ロータ(23)およびポンプ(2)のインナギヤ(12)を含む回転部分の重心の軸方向位置が、軸受装置(17)の軸方向範囲内にある。この例では、上記重心の軸方向位置が、軸受装置(17)を構成する2個の玉軸受(19)の間にある。
【0026】
ロータ(23)に対向するモータケース(13)の内周に、モータ(3)を構成するモータステータ(27)が固定状に設けられている。ステータ(27)は、積層鋼板よりなるステータコア(28)にインシュレータ(合成樹脂製絶縁体)(29)が組み込まれ、インシュレータ(29)の部分にステータコイル(30)が巻きつけられたものである。この例では、ステータ(27)は、モータケース(13)の内周部に一体にモールドされている。
【0027】
インシュレータ(29)の後端に、コントローラ(4)の基板(31)が固定され、基板(31)に、コントローラ(4)を構成する部品(32)が取り付けられている。図1には基板(31)の前面に取り付けられた部品(32)だけが示されているが、部品は基板(31)の前面および後面の少なくとも一方の所定位置に配置される。
【0028】
図2は、モータケース(13)とステータ(27)の成型体を示す横断面図(後から見た横断面図)である。
【0029】
図2に示すように、コア(28)は、環状部(28a)の内周を周方向に等分する複数箇所(この例では6箇所)に径方向内側に突出した極部(歯部)(28b)が一体に形成されたものである。各極部(28b)の先端部は周方向両側にのび、その内周面は1つの円筒面を形成している。
【0030】
インシュレータ(29)は、前後1対の半体(33)(34)よりなる。各半体(33)(34)は、たとえばPPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)などの合成樹脂により成型され、環状部(28a)の外周面と極部(28b)の内周面を除くコア(28)の表面を覆うように、コア(28)に前後両側から組み込まれている。各半体(33)(34)には、コア(28)の極部(28b)の内周面を除く部分を覆うコイル装着部(33a)(34a)が形成されている。コア(28)の各極部(28b)において、両半体(33)(34)のコイル装着部(33a)(34a)で覆われた部分に、コイル(30)が巻かれている。後側半体(34)のコイル装着部(34a)の径方向外側の部分を周方向に等分する複数箇所(この例では6箇所)に、後方にのびた基板用突起部(34b)が一体に形成されている。各突起部(34b)の後端部の内側に、内周にめねじが形成された金属製めねじ部材(35)が埋め込まれている。
【0031】
モータケース(13)は、型を用いてたとえばPA66(ポリアミド66)などの合成樹脂をステータ(27)の外周側の部分にモールドすることにより、ステータ(27)と一体化されている。モータケース(13)は、コア(28)の外周面およびコイル装着部(33a)(34a)より径方向外側のインシュレータ(29)の部分を覆っている。ステータ(27)のコイル(30)の部分は、モータケース(13)で覆われておらず、露出している。ステータ(27)より後側のモータケース(13)の内周に、隔壁(13b)が一体に形成されている。インシュレータ(29)の後側半体(34)の突起部(34b)は、隔壁(13b)より後方にのび、突起部(34b)の後端面はモータケース(13)から露出している。モータケース(13)の外周に、複数のピン(36)を備えたコネクタ(37)が一体に形成されている。
【0032】
蓋(14)は、合成樹脂製で、熱溶着などの適宜な手段により、モータケース(13)の後端に固定されている。
【0033】
蓋(14)で閉じられたモータケース(13)がポンプハウジング(7)に固定された状態で、モータケース(13)内のポンプハウジング(7)と隔壁(13b)の間に、電動モータ(3)を内蔵した密閉状のモータ室(38)が形成される。
【0034】
コントローラ(4)の基板(31)は、モータケース(13)内の隔壁(13b)と蓋(14)の間の空間に配置され、インシュレータ(29)の突起部(34b)のめねじ部材(35)にねじはめられたねじ(39)によりインシュレータ(29)に固定されている。図示は省略したが、インシュレータ(29)とモータケース(13)の成型体には複数のバスバーが組み込まれており、これらのバスバーを用いて、ステータ(27)のコイル(30)が互いに電気的に接続されるとともに、基板(31)に電気的に接続されている。コネクタ(37)のピン(36)も、基板(31)に電気的に接続されている。
【0035】
電動モータ(3)が内蔵されたモータ室(38)内に、絶縁性の冷却液体である油(0)が密封されている。油(0)はモータ室(38)内の体積の80〜90%程度を占め、残りの10〜20%程度は空気(A)である。油(0)として、ポンプ(2)の油と同種類の油を用いることができる。
【0036】
上記の電動ポンプユニットにおいて、電動モータ(3)が駆動されると、インナギヤ(12)が回転して、ポンプ(2)が作動する。このとき、ポンプ本体(5)内を比較的低温の油が流れ、伝熱性が良くて熱容量の大きいポンプハウジング(6)により、モータ室(38)内の油(0)が冷却される。そして、この油(0)により、電動モータ(3)が冷却され、電動モータ(3)の発熱による電動モータ(3)およびモータ室(38)内の温度上昇が防止される。その結果、隔壁(13b)を隔てて配置された基板(31)上の部品(32)の温度上昇も防止される。電動モータ(3)のステータ(27)のコイル(30)がモータ室(38)内に露出して、油(0)に接触しているので、電動モータ(3)が効率良く冷却される。油(0)は絶縁体であるから、電動モータ(3)が油(0)に接触しても、支障がない。基板(31)は、隔壁(13b)によりモータ室(38)と隔てられた空間内に配置されているので、油(0)に接触することがなく、油による悪影響を受けることがない。油(0)は、電動モータ(3)の防錆効果がある。軸受(19)は、油により潤滑されるので、開放型にすることができる。モータ室(38)内の油(0)に熱膨張が生じても、モータ室(38)内に存在する空気(A)により吸収される。
【0037】
コントローラ(4)を構成する基板(31)および基板(31)上の部品(32)が耐油性を有する場合、モータケース(13)に隔壁(13b)を設けずに、モータケース(13)内全体をモータ室として、電動モータ(3)とコントローラ(4)の両方を内蔵するようにしてもよい。
【0038】
上記の実施形態では、モータロータ(23)が、円筒状のロータ本体(24)の外周部に固定状に設けられた合成樹脂製の永久磁石保持部材(25)に、複数の永久磁石(26)が保持されているものであるから、永久磁石(26)をロータ本体(24)に接着剤で固定する必要がなく、油(0)の中で使用される場合でも、永久磁石(26)の剥がれのおそれがない。
【0039】
電動ポンプユニットの全体構成および各部の構成は、上記実施形態のものに限らず、適宜変更可能である。
【0040】
また、この発明は、トランスミッション用電動ポンプユニット以外の電動ポンプユニットにも適用できる。
【符号の説明】
【0041】
(2) ポンプ
(3) 電動モータ
(4) コントローラ
(5) ポンプ本体
(6) モータハウジング
(30) ステータコイル
(38) モータ室
(0) 油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油の吸入および吐出を行うポンプのポンプ本体に、ポンプ駆動用電動モータおよび電動モータを制御するコントローラを内蔵したモータハウジングが固定され、モータハウジング内に、電動モータを内蔵した密閉状のモータ室が形成されており、冷却用液体がモータ室内に密封されていることを特徴とする電動ポンプユニット。
【請求項2】
冷却用液体が油であることを特徴とする請求項1の電動ポンプユニット。
【請求項3】
電動モータのステータコイルの少なくとも一部が、モータ室内に露出して、冷却用液体に接触していることを特徴とする請求項1または2の電動ポンプユニット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−189013(P2012−189013A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53807(P2011−53807)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】