説明

電動ポンプユニット

【課題】 軽量化およびコンパクト化を図るとともに、ポンプ駆動用電動モータを冷却して、電動モータおよびコントローラの部品の昇温を防止できる電動ポンプユニットを提供する。
【解決手段】 油の吸入および吐出を行うポンプ2のポンプ本体5に、ポンプ駆動用電動モータ3および電動モータ3を制御するコントローラ4を内蔵したモータハウジング6が固定されている。電動モータ3が、モータハウジング6に固定状に設けられたステータ27と、ステータ27の内側に配置されたロータ23とを備えている。ロータ23が、ロータ本体24の外周部に永久磁石26が設けられたものである。ポンプ本体5が、電動モータ3のステータ27に直接またはモータハウジング6の部分を挟んで接触させられ、電動モータ3側のポンプ本体5の部分に冷却用油0が密封された環状空間40が形成され、冷却用油0に磁性体が混入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば自動車のトランスミッション(変速機)などに油圧を供給する油圧ポンプとして使用される電動ポンプユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッションには油圧ポンプにより油圧が供給されるが、省エネルギなどの観点から停車時にエンジンを停止するいわゆるアイドルストップ(アイドリングストップ)を行う自動車では、アイドルストップ時にもトランスミッションへの油圧供給を確保するために、電動油圧ポンプが使用されるようになっている。
【0003】
自動車のトランスミッション用電動油圧ポンプは、車体の限られたスペースに搭載されるため、コンパクト化が要求され、また、軽量化およびコスト低減も要求される。このような要求に応えるため、ポンプ、ポンプ駆動用電動モータおよび電動モータのコントローラが共通のユニットハウジング内に組み込まれた電動ポンプユニットが提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【0004】
このような従来の電動ポンプユニットでは、ポンプを構成するポンプ本体にモータハウジングが連結され、モータハウジング内に形成された密閉状のモータ室に電動モータおよびコントローラが内蔵されている。電動モータはモータ室内のポンプ本体側に配置され、ポンプ本体と反対側の電動モータの端面にコントローラの基板が固定されている。そして、基板には、コントローラを構成するコンデンサ、FETなどの複数の電装部品(電気部品および電子部品)が取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−215088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車用電動ポンプユニットは自動車のエンジンルーム内に配置され、電動モータのステータコイルの発熱などにより、ステータの温度が上昇し、コントローラの部品の温度が上昇する。とくに、電解コンデンサやFETなどの部品は、自身の発熱もあって、限界温度を超えるおそれがある。これを防止するため、放熱フィンや放熱シートを用いて部品の放熱を行っているが、放熱フィンや放熱シートの設置スペースが必要で、コストも増大する。
【0007】
この発明の目的は、上記の問題を解決し、軽量化およびコンパクト化を図るとともに、ポンプ駆動用電動モータを冷却して、電動モータおよびコントローラの部品の昇温を防止できる電動ポンプユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による電動ポンプユニットは、油の吸入および吐出を行うポンプのポンプ本体に、ポンプ駆動用電動モータおよび電動モータを制御するコントローラを内蔵したモータハウジングが固定され、電動モータが、モータハウジングに固定状に設けられたステータと、ステータの内側に配置されたロータとを備え、ロータが、ロータ本体の外周部に永久磁石が設けられたものである電動ポンプユニットにおいて、ポンプ本体が電動モータのステータに直接またはモータハウジングの部分を挟んで接触させられ、電動モータ側のポンプ本体の部分に冷却用液体が密封された環状空間が形成され、冷却用液体に磁性体が混入されていることを特徴とするものである。
【0009】
ポンプ本体に、ポンプ駆動用電動モータおよびコントローラを内蔵したモータハウジングが固定されているので、電動ポンプユニットの軽量化およびコンパクト化を図ることができる。
【0010】
環状空間内の冷却用液体に混入される磁性体は、好ましくは、粉粒体である。
【0011】
電動モータおよびそれによるポンプの作動時に、ポンプ本体内を比較的低温の油が流れる。ポンプ本体は、アルミニウム合金などの金属製で、伝熱性が良く、熱容量が大きい。環状空間内の冷却用液体に混入された磁性体は、ロータとともに回転する永久磁石に吸引されて、環状空間内を回転し、それにつられて、冷却用液体が回転する。そして、ポンプ本体内を流れる比較的低温の油により、冷却用液体が冷却され、環状空間内を循環する冷却用液体により、ポンプ本体に直接またはモータハウジングの部分を挟んで接触している電動モータのステータが冷却される。このため、ステータの温度上昇が防止され、その結果、コントローラの部品の温度上昇も防止される。ポンプ本体に環状空間を形成するだけですみ、放熱フィンや放熱シートを使用する必要がないので、これらの組み付けが不要で、省スペース化およびコスト低減が可能である。
【0012】
冷却用液体の熱膨張を考慮して、好ましくは、環状空間内に、冷却用液体の他に所定量の空気が密封される。冷却用液体は、好ましくは、油である。ポンプに使用される油と同種類の油であってもよい。
【0013】
たとえば、電動モータのステータが、コアに組み込まれたインシュレータの部分にコイルが巻きつけられたものであって、合成樹脂製のモータハウジングに一体化されており、ポンプ本体が、モータハウジングから露出したステータの内周部およびコイルを覆うモータハウジングの部分に接触させられている。
【0014】
この場合、主な発熱源であるステータのコイルの部分が効率良く冷却される。
【発明の効果】
【0015】
この発明の電動ポンプユニットによれば、上記のように、軽量化およびコンパクト化を図るとともに、ポンプ駆動用電動モータを冷却して、電動モータおよびコントローラの部品の昇温を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明の実施形態を示す電動ポンプユニットの主要部の縦断面図である。
【図2】図2は、図1の電動ポンプユニットの主要部の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、この発明を自動車のトランスミッション用電動ポンプユニットに適用した実施形態について説明する。
【0018】
図1は、この発明の実施形態を示す電動ポンプユニットの主要部の縦断面図である。以下の説明において、図1の左側を前、右側を後とする。
【0019】
図1に示すように、電動ポンプユニットは、ユニットハウジング(1)内に、油の吸入および吐出を行うポンプ(2)、ポンプ駆動用電動モータ(3)ならびに電動モータ(3)のコントローラ(4)が一体に組み込まれたものである。この例では、ポンプ(2)は内接歯車ポンプ、モータ(3)は3相巻線を有するセンサレス制御DCブラシレスモータである。
【0020】
ユニットハウジング(1)は、ポンプ(2)のポンプ本体(5)ならびに電動モータ(3)およびコントローラ(4)を内蔵したモータハウジング(6)よりなる。
【0021】
ポンプ本体(5)は、後側のポンプハウジング(7)と前側のポンププレート(8)よりなる。ポンプハウジング(7)は、前後方向と直交する方向に広がりを持つ厚肉板状のものであり、その中心に、前部が開口したポンプ室(9)が形成されている。ポンプハウジング(7)の前面に、ポンププレート(8)がOリング(10)を介して固定され、ポンプ室(9)の前面が塞がれている。ポンプ室(9)内に、アウタギヤ(11)が回転自在に収容され、アウタギヤ(11)の内側に、これとかみ合うインナギヤ(12)が配置されている。図示は省略したが、ポンプハウジング(7)およびポンププレート(8)には、油吸入ポートおよび油吐出ポートが形成され、ポンププレート(8)には、油吸入ポートに連通する油吸入穴および油吐出ポートに連通する油吐出穴が形成されている。ポンプハウジング(7)およびポンププレート(8)は、たとえば、アルミニウム合金製である。
【0022】
モータハウジング(6)は、円筒状の合成樹脂製モータケース(13)と、モータケース(13)の後端に固定された円板状の蓋(14)とからなる。モータケース(13)の前端が、Oリング(15)を介してポンプハウジング(7)の後面に固定されている。ポンププレート(8)、ポンプハウジング(7)およびモータケース(13)は、それらの外周から径方向外側に突出するように一体に形成された複数の連結部(8a)(7a)(13a)の部分において、ボルト(16)により互いに固定されている。モータケース(13)の後端開口が、蓋(14)により塞がれている。
【0023】
ポンプハウジング(7)の後端面の中心に、モータケース(13)より小径の円筒部(7b)が一体に形成され、円筒部(7b)内の後部に設けられた軸受装置(17)により、前後方向にのびるモータ軸(18)が片持ち支持されている。この例では、軸受装置(17)は、前後に隣接する2個の転がり軸受である単列深みぞ玉軸受(19)よりなり、各軸受(19)の内輪(19a)がモータ軸(18)に固定され、外輪(19b)が円筒部(7b)に固定されている。この例では、軸受(19)はグリース潤滑の密封型軸受である。モータ軸(18)の前部は、ポンプハウジング(7)の後壁に形成された穴(21)の部分を貫通してポンプ室(9)内に進入し、その前端部にインナギヤ(12)が嵌合固定されている。円筒部(7b)内の軸受装置(17)より前側の部分とモータ軸(18)の間に、オイルシール(22)が設けられている。
【0024】
円筒部(7b)より後方に突出したモータ軸(18)の後端部に、モータ(3)を構成するモータロータ(23)が固定されている。ロータ(23)は、モータ軸(18)の後端から半径方向にのびかつ軸受装置(17)の外周を囲む円筒状のロータ本体(24)の外周部に合成樹脂製の永久磁石保持部材(25)が固定状に設けられ、保持部材(25)を周方向に等分する複数箇所にセグメント形状の永久磁石(26)が保持されたものである。モータ軸(18)、ロータ(23)およびポンプ(2)のインナギヤ(12)を含む回転部分の重心の軸方向位置が、軸受装置(17)の軸方向範囲内にある。この例では、上記重心の軸方向位置が、軸受装置(17)を構成する2個の玉軸受(19)の間にある。
【0025】
ロータ(23)に対向するモータケース(13)の内周に、モータ(3)を構成するモータステータ(27)が固定状に設けられている。ステータ(27)は、積層鋼板よりなるステータコア(28)にインシュレータ(合成樹脂製絶縁体)(29)が組み込まれ、インシュレータ(29)の部分にステータコイル(30)が巻きつけられたものである。この例では、ステータ(27)は、モータケース(13)の内周部に一体にモールドされている。
【0026】
インシュレータ(29)の後端に、コントローラ(4)の基板(31)が固定され、基板(31)に、コントローラ(4)を構成する部品(32)が取り付けられている。図1には基板(31)の前面に取り付けられた部品(32)が1個だけ示されているが、部品は基板(31)の前面および後面の少なくとも一方の所定位置に配置される。図1に示された部品(32)は、たとえば電解コンデンサである。
【0027】
図2は、モータケース(13)とステータ(27)の成型体を示す横断面図(後から見た横断面図)である。
【0028】
図2に示すように、コア(28)は、環状部(28a)の内周を周方向に等分する複数箇所(この例では6箇所)に径方向内側に突出した極部(歯部)(28b)が一体に形成されたものである。各極部(28b)の先端部は周方向両側にのび、その内周面は1つの円筒面を形成している。
【0029】
インシュレータ(29)は、前後1対の半体(33)(34)よりなる。各半体(33)(34)は、たとえばPPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)などの合成樹脂により成型され、環状部(28a)の外周面と極部(28b)の内周面を除くコア(28)の表面を覆うように、コア(28)に前後両側から組み込まれている。各半体(33)(34)には、コア(28)の極部(28b)の内周面を除く部分を覆うコイル装着部(33a)(34a)が形成されている。コア(28)の各極部(28b)において、両半体(33)(34)のコイル装着部(33a)(34a)で覆われた部分に、コイル(30)が巻かれている。後側半体(34)のコイル装着部(34a)の径方向外側の部分を周方向に等分する複数箇所(この例では6箇所)に、後方にのびた基板用突起部(34b)が一体に形成されている。各突起部(34b)の後端部の内側に、内周にめねじが形成された金属製めねじ部材(35)が埋め込まれている。
【0030】
モータケース(13)は、型を用いてたとえばPA66(ポリアミド66)などの合成樹脂をステータ(27)の外周側の部分にモールドすることにより、ステータ(27)と一体化されている。コア(28)の極部(28b)の内周面、インシュレータ(29)のコイル装着部(33a)(34a)の内周面および突起部(34b)の後端面を除いて、ステータ(27)の表面がモータケース(13)で覆われている。モータケース(13)の外周に、複数のピン(36)を備えたコネクタ(37)が一体に形成されている。
【0031】
蓋(14)は、合成樹脂製で、熱溶着などの適宜な手段により、モータケース(13)の後端に固定されている。
【0032】
コントローラ(4)の基板(31)は、インシュレータ(29)の突起部(34b)のめねじ部材(35)にねじはめられたねじ(39)によりインシュレータ(29)に固定されている。図示は省略したが、インシュレータ(29)とモータケース(13)の成型体には複数のバスバーが組み込まれており、これらのバスバーを用いて、ステータ(27)のコイル(30)が互いに電気的に接続されるとともに、基板(31)に電気的に接続されている。コネクタ(37)のピン(36)も、基板(31)に電気的に接続されている。
【0033】
ポンプハウジング(7)の後面は、ステータ(27)のコイル(30)を覆うモータケース(13)の前部に接触している。ポンプハウジング(7)の円筒部(7b)の前部の外径は後部のそれより大きく、この外径の大きい部分の外周面がステータ(27)のインシュレータ(29)の前側半体(33)のコイル装着部(33a)の内周部に接触している。
【0034】
ポンプ室(9)より電動モータ(3)側(後側)のポンプハウジング(7)内に、ポンプ室(9)とは隔離された密閉状の環状空間(40)が形成されている。環状空間(40)内に冷却用液体である油(0)が密封され、油(0)には磁性体が混入されている。磁性体は、好ましくは、粉粒体にして混入されている。粉粒体の直径は、たとえば、1〜2mm程度である。環状空間(40)内には、油(0)の熱膨張を考慮して、油(0)の他に、空気が密封されている。図示は省略したが、ポンプハウジング(7)には、環状空間(40)に通じる穴が形成されており、この穴から油(0)が環状空間(40)内に油(0)が封入された後に、穴が閉じられるようになっている。
【0035】
電動モータ(3)およびそれによるポンプ(2)の作動時に、ポンプ本体(5)内を比較的低温の油が流れる。アルミニウム合金製のポンプ本体(5)は、伝熱性が良く、熱容量が大きい。ポンプハウジング(7)の環状空間(40)内の油(0)に混入された磁性体は、ロータ(23)とともに回転する永久磁石(26)に吸引されて、環状空間(40)内を回転し、それにつられて、油(0)が回転する。そして、ポンプハウジング(7)内を流れる比較的低温の油により、環状空間(40)内の油(0)が冷却され、環状空間(40)内を循環する油(0)により、ステータ(27)が冷却される。このため、ステータ(27)の温度上昇が防止され、その結果、基板(31)上の部品(32)の温度上昇も防止される。上記実施形態の場合、とくに、ポンプハウジング(7)が、ステータ(27)のコイル装着部(33a)の内周部およびコイル(30)を覆うモータケース(13)の部分に接触しているので、主な発熱源であるコイル(30)の部分が効率良く冷却される。このように、ポンプ本体(5)に環状空間(40)を形成するだけですみ、放熱フィンや放熱シートを使用する必要がないので、これらの組み付けが不要で、省スペース化およびコスト低減が可能である。
【0036】
上記の実施形態では、モータロータ(23)が、円筒状のロータ本体(24)の外周部に固定状に設けられた合成樹脂製の永久磁石保持部材(25)に、複数の永久磁石(26)が保持されているものであるから、永久磁石(26)をロータ本体(24)に接着剤で固定する必要がなく、永久磁石(26)の剥がれのおそれがない。
【0037】
電動ポンプユニットの全体構成および各部の構成は、上記実施形態のものに限らず、適宜変更可能である。
【0038】
また、この発明は、トランスミッション用電動ポンプユニット以外の電動ポンプユニットにも適用できる。
【符号の説明】
【0039】
(2) ポンプ
(3) 電動モータ
(4) コントローラ
(5) ポンプ本体
(6) モータハウジング
(23) ロータ
(24) ロータ本体
(26) 永久磁石
(27) ステータ
(40) 環状空間
(0) 油
(28) コア
(29) インシュレータ
(30) ステータコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油の吸入および吐出を行うポンプのポンプ本体に、ポンプ駆動用電動モータおよび電動モータを制御するコントローラを内蔵したモータハウジングが固定され、電動モータが、モータハウジングに固定状に設けられたステータと、ステータの内側に配置されたロータとを備え、ロータが、ロータ本体の外周部に永久磁石が設けられたものである電動ポンプユニットにおいて、
ポンプ本体が電動モータのステータに直接またはモータハウジングの部分を挟んで接触させられ、電動モータ側のポンプ本体の部分に冷却用液体が密封された環状空間が形成され、冷却用液体に磁性体が混入されていることを特徴とする電動ポンプユニット。
【請求項2】
電動モータのステータが、コアに組み込まれたインシュレータの部分にコイルが巻きつけられたものであって、合成樹脂製のモータハウジングに一体化されており、ポンプ本体が、モータハウジングから露出したステータの内周部およびコイルを覆うモータハウジングの部分に接触させられていることを特徴とする請求項1の電動ポンプユニット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−189016(P2012−189016A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53810(P2011−53810)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】