電動工具
【課題】モード切替部材と速度切替部材とを別々に備えた場合でも、高速モードでしか使用されない所定の動作モードでは速度切替部材の操作を不要として、使い勝手を良好とする。
【解決手段】インパクトドライバにおいて、動作モードを選択するモード切替リング64と、回転速度を選択するスライドボタン34との間に、モード切替リング64のインパクトモード及び震動ドリルモードの選択操作に連係してスライドボタン34を高速側に切替動作させ、回転速度を高速に保持させる連係手段(連係スリーブ63,第1、第2突条88A,88B)を設けた。
【解決手段】インパクトドライバにおいて、動作モードを選択するモード切替リング64と、回転速度を選択するスライドボタン34との間に、モード切替リング64のインパクトモード及び震動ドリルモードの選択操作に連係してスライドボタン34を高速側に切替動作させ、回転速度を高速に保持させる連係手段(連係スリーブ63,第1、第2突条88A,88B)を設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングの前方へ突出させた最終出力軸を、震動ドリルモードやインパクトモード等の所定の動作モードで動作させる複数の動作機構を備えて、任意の動作モードを選択して使用可能な電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
電動工具には、モータを収容したハウジングの前方に突出されてモータから回転伝達されるスピンドルやアンビル等の最終出力軸を備える一方、ハウジングに、最終出力軸を所定の動作モードで動作させる複数の動作機構を備えて、モード切替部材の操作により、任意の動作機構を選択して使用可能としたものが知られている。例えば特許文献1,2には、震動ドリルモードとドリルモード、クラッチモード等の切替をハウジングの前端に設けたチェンジリング(モード切替部材)の回転操作によって行うドライバドリルが開示されている。
一方、電動工具において、最終出力軸へのトルク伝達は、モータとの間に配設した遊星歯車減速機構を介して行われるが、ここでは、遊星歯車減速機構の一のインターナルギヤを軸方向へ移動可能として、遊星歯車とそのキャリアとに同時に噛合して当該段の遊星歯車による減速をキャンセルする高速モードと、遊星歯車のみに噛合して当該段の遊星歯車による減速を有効とする低速モードとに切替可能とした変速機構が採用されている。この速度の切替も、ハウジングに設けた速度切替部材の操作によって行えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4227028号公報
【特許文献2】特許第3655481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、モード切替部材と速度切替部材とを別個に設けると、選択した動作モードでさらに変速が選択できることになる。しかし、震動ドリルモードやインパクトモード等の所定の動作モードでは、実際に低速モードで使用される場合が少なく、殆ど高速モードが選択されている。従って、例えば低速でクラッチモードやドリルモードで使用した後に、モード切替部材によって動作モードを震動ドリルモードに切り替えると、続けて速度切替部材によって高速モードへ切り替えることになり、2つの部材の操作が必要となって煩わしく感じる。特に、震動ドリルモードへの切替の際に速度切替部材の操作を忘れると、作業開始後に低速モードのままであることに気づいて一旦作業を停止して速度切替部材を操作し直すことになり、作業性を低下させる場合があった。
【0005】
そこで、本発明は、モード切替部材と速度切替部材とを別々に備えた場合でも、高速モードでしか使用されない所定の動作モードでは速度切替部材の操作を不要として、使い勝手を良好として作業性も低下させない電動工具を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、モード切替部材と速度切替部材との間に、モード切替部材の所定の動作モードの選択操作に連係して速度切替部材を高速側に切替動作させ、回転速度を高速に保持させる連係手段を設けたことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成に加えて、モード切替部材の回転操作によって動作モードを選択可能とする一方、速度切替部材を、モード切替部材の後方で、高速となる前進位置と低速となる後退位置との間で前後方向へスライド可能に設けて、連係手段を、モード切替部材の後方に連結されて一体回転する連係部材と、その連係部材の外面で回転方向に沿って設けられ、所定の動作モードの切替位置で前進位置の速度切替部材の下面と係合してその後退を規制する第1突部と、その第1突部から傾斜状に連設され、連係部材の回転に伴って後退位置の速度切替部材の下面と係合し速度切替部材を前進させて第1突部と係合させる第2突部とから構成したことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1の構成に加えて、モード切替部材の回転操作によって動作モードを選択可能とする一方、速度切替部材を、モード切替部材の後方で、高速となる後退位置と低速となる前進位置との間で前後方向へスライド可能に設けて、連係手段を、モード切替部材側に設けられて後方へ突出し、所定の動作モードの切替位置で後退位置の速度切替部材と当接してその前進を規制する連係板として、連係板の側辺に、モード切替部材の回転に伴って前進位置の速度切替部材と当接し、速度切替部材を後退位置にスライドさせる傾斜案内部を設けたことを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの構成において、複数の動作機構は、最終出力軸に軸方向への震動を付与する震動機構を含み、所定の動作モードは、震動機構を作動させる震動ドリルモードであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、モード切替部材と速度切替部材とを別々に備えた場合でも、高速モードでしか使用されない所定の動作モードでは、速度切替部材の操作が不要となる。よって、使い勝手が良好となって作業性の低下も生じない。
請求項2及び3の発明によれば、請求項1の効果に加えて、連係手段を簡単に形成することができる。
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3の何れかの効果に加えて、専ら高速モードで使用される震動ドリルモードでの使い勝手を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】インパクトドライバの一部縦断面図である。
【図2】インパクトドライバの平面図である。
【図3】内部機構の分解斜視図である。
【図4】本体ハウジング以外のハウジング及び震動機構の分解斜視図である。
【図5】ユニット部分の左側面図である。
【図6】(A)はA−A線断面、(B)はB−B線断面、(C)はC−C線断面をそれぞれ示す。
【図7】(A)は、インパクトモードでのユニット部分の左側面図、(B)はその底面図である。
【図8】インパクトモードでのユニット部分の縦断面図である。
【図9】(A)は、震動ドリルモードでのユニット部分の左側面図、(B)はその底面図である。
【図10】震動ドリルモードでのユニット部分の縦断面図である。
【図11】(A)は、ドリルモードでのユニット部分の左側面図、(B)はその底面図である。
【図12】ドリルモードでのユニット部分の縦断面図である。
【図13】(A)は、クラッチモードでのユニット部分の左側面図、(B)はその底面図である。
【図14】クラッチモードでのユニット部分の縦断面図である。
【図15】震動ドライバドリルの説明図で、(A)は震動ドリルモードでのユニット部分の平面、(B)はその縦断面をそれぞれ示す。
【図16】震動ドライバドリルの説明図で、(A)はクラッチモードでのユニット部分の平面、(B)はその縦断面をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1,2に、電動工具の一例であるインパクトドライバ1を示し、図3,4にその内部機構の一部を示す。このインパクトドライバ1は、左右の半割ハウジング3,3を組み付けて形成される本体ハウジング2を有し、本体ハウジング2内に、後方(図1の右側を前方とする。)からモータ4、遊星歯車減速機構6、スピンドル7がそれぞれ収容されている。また、本体ハウジング2の前部には、スピンドル7と共に動作機構としての打撃機構9を収容した筒状のインナーハウジング8が組み付けられて、スピンドル7の前方同軸上に配置された最終出力軸としてのアンビル10が、インナーハウジング8及びその前端に固定される前ハウジング12に軸支されて前方へ突出している。前ハウジング12内には、動作機構としての震動機構90が収容されて、本体ハウジング2を除いて遊星歯車減速機構6より前側の機構をユニット化している。13は、前ハウジング12の前端に嵌着されたゴム製リング状のバンパである。本体ハウジング2の下方には、ハンドル14が下向きに延設され、ハンドル14内には、トリガー16を備えたスイッチ15が収容されている。
【0010】
[遊星歯車減速機構及び変速機構]
遊星歯車減速機構6は、本体ハウジング2内に組み付けられる筒状のギヤハウジング17内に収容されている。ギヤハウジング17の後部には、モータ4の出力軸5に嵌着したピニオン18が軸支されてギヤハウジング17内に突出している。遊星歯車減速機構6は、第1インターナルギヤ19内で遊星運動する一段目の遊星歯車21,21・・を保持する第1キャリア20と、第2インターナルギヤ22内で遊星運動する二段目の遊星歯車24,24・・を保持する第2キャリア23とを備え、ピニオン18に一段目の遊星歯車21,21・・を噛合させている。また、第2キャリア23は、スピンドル7の後端へ一体に形成されてインナーハウジング8内でボールベアリング25に軸支されている。
【0011】
ここで、第1インターナルギヤ19は、内周前側に、周方向へ所定間隔で複数の内歯26,26・・を備える一方、第2インターナルギヤ22は、外周前側にリング状の係合溝27を、外周後側に、周方向へ所定間隔で突設した複数の外歯28,28・・をそれぞれ備えている。また、第2インターナルギヤ22は、第2キャリア23の後方へ一体に連結したスパーギヤ29と二段目の遊星歯車24との双方に噛合する前進位置と、第1インターナルギヤ19の内歯26に外歯28を係合させて二段目の遊星歯車24のみに噛合する後退位置との間でスライド可能に設けられている。
このスパーギヤ29は、遊星歯車24を支持する支持ピン30に貫通されて第2キャリア23と遊星歯車24との間に位置する別体のギヤで、第2キャリア23の外径は、歯先を含むスパーギヤ29の外径よりも小径となっている。36は、ギヤハウジング17内でボールベアリング25を保持する保持リングである。
【0012】
第2インターナルギヤ22の外側には、ギヤハウジング17及びインナーハウジング8の内周面に沿って前後へスライド可能なスライドリング31が設けられて、スライドリング31の外側から半径方向に貫通する係合ピン32が、第2インターナルギヤ22の係合溝27と係合している。スライドリング31の上部外周には、ギヤハウジング17の上部に突出する突起33が設けられて、この突起33が、図5及び図6(A)にも示すように、本体ハウジング2に前後へスライド可能に設けた速度切替部材としてのスライドボタン34に、前後のコイルバネ35,35を介して保持されている。
よって、スライドボタン34の前後へのスライド操作により、スライドリング31を介して第2インターナルギヤ22の位置を前後へ切替可能となる変速機構が形成される。すなわち、図1,2及び図8に示す第2インターナルギヤ22の前進位置では、第2インターナルギヤ22がスパーギヤ29と一体回転することで遊星歯車24の遊星運動をキャンセルした高速モード(2速)となり、図12に示す第2インターナルギヤ22の後退位置では、第2インターナルギヤ22が固定されて遊星歯車24を遊星運動させる低速モード(1速)となる。
【0013】
[打撃機構]
打撃機構9は、アンビル10の後端に設けた一対のアーム11,11にハンマーを係脱させる構造であるが、ここでのハンマーは、スピンドル7の前端に外装され、アーム11,11に係合する一対の爪41,41を前面に突設した筒状のメインハンマー40と、そのメインハンマー40の後方でスピンドル7に同軸で遊挿されて前方が開口する有底筒状で、周壁43がメインハンマー40に後方から外装されるサブハンマー42とに分割されている。つまり、メインハンマー40とサブハンマー42の周壁43とを合わせた径が従前のハンマーの外径と等しくなっている。
まず、メインハンマー40は、その内周面に前端から後方へ向けて凹設されて後端が先細りとなる山形溝44,44と、スピンドル7の外周面で先端を前方に向けて凹設されたV字溝45,45とに跨って嵌合するボール46,46を介してスピンドル7と連結されている。
【0014】
一方、メインハンマー40とサブハンマー42との間でスピンドル7には、コイルバネ47が外装されて、メインハンマー40を爪41がアーム11に係合する前進位置へ付勢する一方、サブハンマー42を後方へ付勢している。サブハンマー42と第2キャリア23との間でスピンドル7には、ワッシャー48が外装され、サブハンマー42の後面に凹設されたリング溝49には、後面から突出する複数のボール50,50・・が収容されてスラスト軸受を形成している。よって、コイルバネ47によって後方へ付勢されるサブハンマー42は、ボール50がワッシャー48に当接する後方位置へ回転可能な状態で押圧されることになる。
【0015】
また、サブハンマー42の周壁43の内周面には、前端から軸方向で後方へ伸びる複数の案内溝51,51・・が、周方向へ等間隔をおいて形成されており、メインハンマー40の外周には、案内溝51よりも短い複数の長円溝52,52・・が、周方向に案内溝51と同じ間隔で形成されて、案内溝51と長円溝52とに跨って円柱状の連結ピン53,53・・が嵌合している。よって、メインハンマー40とサブハンマー42とは、連結ピン53により、軸方向への移動はそれぞれ許容された状態で、回転方向へは一体に連結される。
さらに、メインハンマー40の外周面で後端際には、周方向にリング状の嵌合溝54が凹設される一方、サブハンマー42の周壁43において、案内溝51の後端位置で案内溝51,51の間には、半径方向に貫通する複数の円形孔55,55・・が形成されて、その円形孔55にボール56がそれぞれ嵌合している。
【0016】
そして、サブハンマー42の周壁43には、切替リング57が外装されている。この切替リング57は、後側が周壁43の外周面に摺接する小径部58、前側が周壁43の外周面から半径方向へ離間する大径部59となる二段径を有し、小径部58の外周面には、リング状の凹溝60が形成されている。また、切替リング57は、インナーハウジング8の内周に設けた前側段部61と、周壁43の後端外周に設けた後側段部62との間でのみ前後へスライド可能となっている。
一方、インナーハウジング8には、図4,5に示すように、本体ハウジング2の前方に位置するモード切替部材としてのモード切替リング64を前端外周へ一体回転可能に装着した連係部材としての連係スリーブ63が外装されている。連係スリーブ63の外周で点対称位置には、前後方向の長円となる一対の貫通孔65,65が形成され、各貫通孔65に沿った外周面には、貫通孔65より一回り大きい四角形状の案内凹部66が形成されている。
【0017】
この貫通孔65に、外側端部が案内凹部66に嵌合する正方形状のフランジ部68に形成される筒状のガイドホルダ67が貫通して、半径方向で連係スリーブ63の軸心側へ突出すると共に、案内凹部66によるフランジ部68の案内により、前後方向へ移動可能となっている。インナーハウジング8には、ガイドホルダ67が貫通し、貫通孔65の前端に対応する位置で周方向に形成される前側溝70と、貫通孔65の後端に対応する位置で周方向に形成される後側溝71と、前側溝70と後側溝71とを連通させる傾斜溝72とからなるガイド溝69が形成されている。ガイドホルダ67には、図6(B)にも示すように、インナーハウジング8の軸心側からガイドピン73が差し込まれて、ガイドピン73の頭部74を切替リング57の凹溝60に嵌合させている。
【0018】
なお、アンビル10は、後面軸心に形成した軸受孔75に、スピンドル7の前端に突設した小径の先端部76を嵌合させて、スピンドル7の前端を同軸で軸支している。軸受孔75には、コイルバネ77によって先端部76の端面に押圧されてスラスト方向の荷重を受けるボール78が収容されている。
さらに、前ハウジング12から突出するアンビル10の前端には、ビットの装着孔79が形成されると共に、装着孔79に挿入されたビットを抜け止め装着するために、アンビル10に設けたボール81(図3)を後退位置で装着孔内へ押圧するスリーブ80等を備えたチャック機構が設けられている。
【0019】
[震動機構]
震動機構90は、インナーハウジング8の前面へ同軸で結合される前筒37と、その前筒37に外装される前ハウジング12との内側に収容される。まず前ハウジング12内でアンビル10には、図4にも示すように、後面にカム面91aを形成した第1カム91が一体に固着されて、前ハウジング12内でボールベアリング92に軸支されている。第1カム91の後方でアンビル10には、前面にカム面93aを形成した第2カム93が回転可能に外装されている。この第2カム93は、インナーハウジング8の前面でリング状の受け金95に沿って収容された複数のボール94,94・・によって後面が保持されて、常態ではカム面93aを第1カム91のカム面91aと係合させている。第2カム93の外周には、半径方向へ突出する複数の突起96,96・・が、周方向へ等間隔をおいて形成されている。
【0020】
一方、前筒37内には、震動切替リング97が設けられている。この震動切替リング97は、第2カム93の外径よりも内径が大きいリング体で、図6(C)に示すように、外周に突設した複数の外突起98,98・・を、前筒37の内面に設けた軸方向の規制溝38,38・・に嵌合させることで、前筒37内で回転規制された状態で前後移動可能に保持されている。震動切替リング97の内周には、第2カム93に外装させた状態で第2カム93の突起96に係合する内突起99が突設されている。すなわち、震動切替リング97が第2カム93に外装される前進位置では、第2カム93の回転を規制し、震動切替リング97が第2カム93から離間する後退位置では、第2カム93の回転を許容するものとなる。但し、前筒37内で震動切替リング97とインナーハウジング8との間には、コイルバネ100が設けられて、震動切替リング97を前進位置へ付勢している。
【0021】
また、震動切替リング97には、一対の連係プレート101,101が係止している。この連係プレート101は、インナーハウジング8の前側側面へ点対称に配設される帯板状の金属板で、インナーハウジング8の側面で前後方向に形成した一対の外溝39,39に嵌合する後板部102と、その後板部102から前筒37に設けた透孔37aを貫通して内側へ折曲する中板部103と、その中板部103から前筒37の内面に沿って前方へ突出し、前端が内側へ折曲される前板部104とを有する。よって、連係プレート101は、外溝39による後板部102の案内で前後方向へ移動可能となるが、後板部102は外溝39に嵌合しているため、インナーハウジング8の外周面から突出することはない。105は、後板部102の外面に形成されて外側へ突出する係合突起である。各連係プレート101は、前板部104の前端が震動切替リング97の外側から前面に係止することで、震動切替リング97と共に前進位置へ付勢されている。
【0022】
インナーハウジング8に外装される連係スリーブ63は、周方向の一部を軸方向全長に亘って切り欠いたC字状の筒状体で、中央部に周方向の切欠き82を有し、この切欠き82に、インナーハウジング8の外周面に突設した案内突起83を嵌合させることで、前後方向への移動を規制された状態で回転可能となっている。連係スリーブ63の前側外周面には、モード切替リング64の後側内周面に設けた前後方向の連結溝85に嵌合する連結突起84が突設されて、連結溝85と連結突起84との嵌合により、モード切替リング64と連係スリーブ63とは回転方向で一体に連結されている。
【0023】
この連結状態で、図7に示すように、連係スリーブ63の前端と、モード切替リング64の内周面で周方向に沿って形成した段部86との間に、連係プレート101の係合突起105が位置している。段部86の一部は、前方へ凹設されて周方向の両側がテーパ状に傾斜する凹部87となっており、この凹部87に係合突起105が位置すると、コイルバネ100によって前側へ付勢される震動切替リング97の前進位置への移動を許容する。一方、凹部87以外の段部86に係合突起105が位置すると、連係プレート101は後退して震動切替リング97をコイルバネ100の付勢に抗して後退位置に移動させることになる。
【0024】
そして、連係スリーブ63の後側の外周面には、図4,5に示すように、周方向に沿った第1突部としての第1突条88Aと、その第1突条88Aの端部から周方向へ行くに従って後方へ直線状に傾斜する第2突部としての第2突条88Bとが突設されている。一方、スライドボタン34の下面で前端左側(前方から見て左側、以下左右は同様に前方から見た方向で説明する。)のコーナー部には、1速である後退位置で連係スリーブ63が回転した際に、第2突条88Bの先端と係合する受け突起89が突設されている。よって、そのまま連係スリーブ63が回転すると、第2突条88Bに沿って受け突起89が前方へ案内されることで、スライドボタン34は前進する。受け突起89が第1突条88Aの前方に乗り上がると、スライドボタン34は2速である前進位置に到達するようになっている。
【0025】
一方、インナーハウジング8の後方下面には、一対のマイクロスイッチ106A,106Bが、プランジャ107A,107Bを前方へ向けて配設されており、連係スリーブ63の後端には、連係スリーブ63の所定の切替位置でマイクロスイッチ106A,106Bのプランジャ107A,107Bを押し込み又はその解除を行う接触子108が設けられている。このマイクロスイッチ106A,106Bは、インパクトドライバ1のハンドル14の下端に設けた図示しないコントローラに、クラッチモードのON/OFF信号を出力するもので、コントローラは、マイクロスイッチ106Bのプランジャ107Bのみの押し込みによるON信号が入力されると、モータ4に設けた図示しないトルクセンサから得られるトルク値を監視し、設定されたトルク値に達すると、モータ4へ制動をかけてアンビル10へのトルクを遮断するものとなる。
【0026】
[各動作モードの選択]
以上の如く構成されたインパクトドライバ1において、モード切替リング64及び連係スリーブ63の回転位置(切替位置)と各動作モードとについて説明する。
(1)インパクトモード
まず、図7に示すように、モード切替リング64を前方から見て最も右側へ回転させた第1位置では、ガイドホルダ67も右回転方向へ移動し、ガイド溝69内を移動して後側溝71に達する。よって、ガイドホルダ67は貫通孔65の後端に位置する。すると、ガイドピン73を介してガイドホルダ67に連結される切替リング57は、図8に示すように、大径部59をボール56の外側に位置させる後退位置となる。この後退位置でボール56は、周壁43の内周面に没入してメインハンマー40の嵌合溝54から離間する解除位置へ移動することができ、メインハンマー40の後退を許容するインパクトモードとなる。
【0027】
このとき、第1突条88Aがスライドボタン34の受け突起89の後方に位置してスライドボタン34を前進位置に移動させているため、スライドボタン34の後退は規制され、常に高速モードとなる。一方、連係プレート101の係合突起105は、凹部87から左側へ外れて段部86に係止しているため(図7以降のユニット部分の側面図では、係合突起105の位置をわかりやすくするためにモード切替リング64の一部を切り欠いて示している。)、連係プレート101は後退位置にあって震動切替リング97を後退させて第2カム93の回転をフリーとする。また、接触子108は、マイクロスイッチ106A,106Bの何れのプランジャ107A,107Bにも当接していない。
【0028】
従って、ハンドル14に設けたトリガー16を操作してモータ4を駆動させると、出力軸5の回転が遊星歯車減速機構6を介してスピンドル7に伝わり、スピンドル7を回転させる。スピンドル7は、ボール46を介してメインハンマー40を回転させ、メインハンマー40が係合するアンビル10を回転させるため、アンビル10の先端に装着したビットによってネジ締め等が可能となる。このとき連結ピン53を介して回転方向に連結されるサブハンマー42もメインハンマー40と一体に回転する。なお、アンビル10の回転に伴って第1カム91が回転しても、これと係合する第2カム93の回転はフリーであるため、第2カム93も一体回転してアンビル10に震動は発生しない。
【0029】
ネジ締めが進んでアンビル10のトルクが高まると、メインハンマー40の回転とスピンドル7の回転とにずれが生じるため、メインハンマー40は、ボール46がV字溝45に沿って転動することで、スピンドル7に対して相対的に回転しながらコイルバネ47の付勢に抗して後退する。このときサブハンマー42は、メインハンマー40の後退を許容しつつ連結ピン53を介してメインハンマー40と一体に回転する。
そして、メインハンマー40の爪41がアーム11から外れると、メインハンマー40はコイルバネ47の付勢により、ボール46がV字溝45の先端に向けて転動することで回転しながら前進する。よって、メインハンマー40の爪41が再びアーム11に係合して回転打撃力(インパクト)を発生させる。このアンビル10への係脱を繰り返すことで増し締めが行われる。
【0030】
このとき、サブハンマー42もメインハンマー40に追従して回転するため、両ハンマー40,42を合わせた質量でアンビル10へ係脱することになる。また、回転時には後面のボール50がワッシャー48の前面を転動することで回転抵抗が軽減されるため、メインハンマー40の前後動に伴ってコイルバネ47が伸縮してもサブハンマー42はスムーズに回転できる。さらに、メインハンマー40がインパクト発生時に前後動を繰り返しても、サブハンマー42は後方位置を維持して前後へ移動することはないため、インパクト発生時の振動は抑えられる。
【0031】
(2)震動ドリルモード
次に、図9に示すように、モード切替リング64を第1位置から所定角度左回転させた第2位置では、ガイドホルダ67も周方向で左回転方向へ移動し、ガイド溝69内を移動して前側溝70に達する。よって、ガイドホルダ67は貫通孔65の前端に位置する。すると、切替リング57は、図10に示すように、小径部58をボール56の外側に位置させる前進位置となる。この前進位置でボール56は、図12にも示すように小径部58に押されてメインハンマー40の嵌合溝54に嵌合する連結位置に固定されるため、メインハンマー40とサブハンマー42とを前後方向で連結してメインハンマー40の後退を規制する。
【0032】
このとき、連係プレート101の係合突起105は、凹部87が同じ位相となっているため、そのまま前進して凹部87に嵌合する。よって、震動切替リング97が前進位置に移動し、第2カム93の回転を規制する震動ドリルモードとなる。
なお、連係プレート101が前進した際、震動切替リング97の内突起99と第2カム93の突起96との位相が合致して震動切替リング97が前進位置へ移動できないことがある。しかし、震動切替リング97はコイルバネ100で付勢されているため、アンビル10と共に第1カム91が回転してこれと係合する第2カム93が回転すると、突起96と内突起99との位相がずれるため、震動切替リング97が前進して第2カム93の回転を規制できる。
一方、第1突条88Aは、インパクトモードと同様にまだ受け突起89の後方に位置しているため、スライドボタン34の後退は規制され、常に高速モードとなる。また、接触子108は、マイクロスイッチ106Aのプランジャ107Aのみを押圧しているため、クラッチは作動しない。
【0033】
従って、トリガー16を操作してスピンドル7を回転させると、スピンドル7は、ボール46を介してメインハンマー40を回転させ、メインハンマー40が係合するアンビル10を回転させる。このアンビルの回転に伴って第1カム91が回転すると、回転規制される第2カム93とカム面91a,93a同士が干渉する。アンビル10は、アーム11の前後に遊びがある状態で軸支されているため、カム面91a、93a同士の干渉によってアンビル10に軸方向の震動が発生する。また、連結ピン53を介して回転方向に連結されるサブハンマー42もメインハンマー40と一体に回転する。
そして、アンビル10のトルクが高まっても、メインハンマー40はボール56によって後退が規制されるため、メインハンマー40はアンビル10に対して係脱動作を行わない。よって、インパクトは発生せず、アンビル10はスピンドル7と一体回転することになる。
【0034】
(3)ドリルモード
次に、図11に示すように、モード切替リング64を第2位置から所定角度左回転させた第3位置では、ガイドホルダ67も周方向で左回転方向へ移動するが、そのまま前側溝70内に位置するため、ガイドホルダ67が貫通孔65の前端に位置する状態は変わらない。これにより、図12にも示すように、切替リング57は前進位置にあってボール56も、小径部58に押されてメインハンマー40の嵌合溝54に嵌合する連結位置に固定される。よって、メインハンマー40とサブハンマー42とを前後方向で連結してメインハンマー40の後退を規制するドリルモードとなる。
【0035】
このとき、連係プレート101の係合突起105は、凹部87が左側へ移動することで再び段部86に係止しているため、連係プレート101は後退位置にあって震動切替リング97を後退させて第2カム93の回転をフリーとする。また、接触子108は、両方のマイクロスイッチ106A,106Bのプランジャ107A,107Bを同時に押圧しているため、クラッチは作動しない。
一方、第1突条88Aは、スライドボタン34から左側へ離れ、第2突条部88Bも端部を受け突起89よりも後方に位置させているため、図12に示すようにスライドボタン34の後退が可能となる。よって、高低何れのモードも選択できる。
【0036】
従って、トリガー16を操作してスピンドル7を回転させると、スピンドル7は、ボール46を介してメインハンマー40を回転させ、メインハンマー40が係合するアンビル10を回転させる。このとき連結ピン53を介して回転方向に連結されるサブハンマー42もメインハンマー40と一体に回転する。なお、アンビル10の回転に伴って第1カム91が回転しても、これと対向する第2カム93の回転はフリーであるため、アンビル10に震動は発生しない。
そして、アンビル10のトルクが高まっても、メインハンマー40はボール56によって後退が規制されるため、メインハンマー40はアンビル10に対して係脱動作を行わない。よって、インパクトは発生せず、アンビル10はスピンドル7と一体回転することになる。
【0037】
(4)クラッチモード
次に、図13に示すように、モード切替リング64を第3位置から所定角度左回転させた第4位置では、ガイドホルダ67も周方向で左回転方向へ移動するが、そのまま前側溝70内に位置するため、図14に示すように、ガイドホルダ67が貫通孔65の前端に位置する状態は変わらない。よって、切替リング57は前進位置にあってボール56も、小径部58に押されてメインハンマー40の嵌合溝54に嵌合する連結位置に固定される。よって、メインハンマー40とサブハンマー42とを前後方向で連結してメインハンマー40の後退を規制する。
このとき、連係プレート101の係合突起105は、第3位置と同様に段部86に係止しているため、連係プレート101は後退位置にあって震動切替リング97を後退させて第2カム93の回転をフリーとする。但し、接触子108は、マイクロスイッチ106Bのプランジャ107Bのみを押圧しているため、クラッチモードとなる。
一方、第1、第2突条88A,88Bはスライドボタン34から左側へ離れているため、スライドボタン34の前後何れへのスライド操作が可能となる。
【0038】
従って、トリガー16を操作してスピンドル7を回転させると、スピンドル7は、ボール46を介してメインハンマー40を回転させ、メインハンマー40が係合するアンビル10を回転させる。このとき連結ピン53を介して回転方向に連結されるサブハンマー42もメインハンマー40と一体に回転する。なお、アンビル10の回転に伴って第1カム91が回転しても、これと対向する第2カム93の回転はフリーであるため、アンビル10に震動は発生しない。
そして、アンビル10のトルクが高まってトルクセンサで検出されるトルク値が設定したトルク値に達すると、モータ4に制動がかけられてスピンドル7からアンビル10へのトルク伝達が遮断されることになる。
【0039】
なお、モード切替リング64の外周面には、図2に示すように、各動作モードに対応する表示M1(インパクトモード)、M2(震動ドリルモード)、M3(ドリルモード)、M4(クラッチモード)がそれぞれ表記されており、各表示を本体ハウジング2の上面前端に表示された矢印109に合わせることで各動作モードが選択されるようになっている。
また、低速で使用していたドリルモードやクラッチモードから震動ドリルモード又はインパクトモードに切り替える場合は、上記動作と逆に、スライドボタン34から離れていた第2突条88Bが、連係スリーブ63の右回転によって、後退位置にあるスライドボタン34の受け突起89に係合し、そのまま連係スリーブ63の回転に連れて第2突条88Bに沿って受け突起89を相対的にスライドさせながらスライドボタン34を前進位置に移動させることになる。よって、震動ドリルモード及びインパクトモードでは常に高速モードとなる。
【0040】
このように、上記形態のインパクトドライバ1によれば、モード切替リング64とスライドボタン34との間に、モード切替リング64のインパクトモード及び震動ドリルモードの選択操作に連係してスライドボタン34を高速側に切替動作させ、回転速度を高速に保持させる連係手段(連係スリーブ63,第1、第2突条88A,88B)を設けたことで、モード切替リング64とスライドボタン34とを別々に備えた場合でも、高速モードでしか使用されない所定の動作モード(インパクトモード、震動ドリルモード)では、スライドボタン34の操作が不要となる。よって、使い勝手が良好となって作業性の低下も生じない。
【0041】
特にここでは、モード切替部材を、回転操作によって動作モードを選択可能とするモード切替リング64とする一方、速度切替部材を、モード切替リング64の後方で、高速となる前進位置と低速となる後退位置との間で前後方向へスライド可能に設けて、連係手段を、モード切替リング64の後方に連結されて一体回転する連係スリーブ63と、その連係スリーブ63の外面で回転方向に沿って設けられ、インパクトモード及び震動ドリルモードの切替位置で前進位置のスライドボタン34の受け突起89と係合してその後退を規制する第1突条88Aと、その第1突条88Aから傾斜状に連設され、連係スリーブ63の回転に伴って後退位置のスライドボタン34の下面と係合し、スライドボタン34を前進させて第1突条88Aと係合させる第2突条88Bとから構成したことで、連係手段を簡単に形成することができる。
また、複数の動作機構として、アンビル10に軸方向への震動を付与する震動機構90を含むものとし、震動ドリルモードで自動的に高速モードとなるようにしているので、専ら高速モードで使用される震動ドリルモードでの使い勝手を向上させることができる。
【0042】
なお、上記形態では、震動ドリルモード及びインパクトモードでは常に高速モードとなるようにしているが、何れか一方の動作モードのみを常に高速モードとしてもよいし、他の動作モードを常に高速モードとしてもよい。
また、傾斜する第2突条は1つのみとしているが、震動ドリルモードやインパクトモードの切替位置が他の動作モードの切替位置の間に位置するような場合は、第1突条の左右にそれぞれ第2突条を連設することができる。
さらに、上記形態では、モード切替リングと別体の連係スリーブに第1、第2突条を設け、この第1、第2突条をスライドボタンに設けた受け突起に係脱させてスライドボタンの移動を行っているが、第1、第2突部としてはこのような突条に限らず、例えば第1突部を四角形状の突起とし、第2突部を三角形状の突起として全体が台形状となるように形成する等、適宜変更可能である。
【0043】
[変更例]
上記形態の変速機構では、スライドボタンの前進位置が高速、後退位置が低速となっているが、これと逆の変速機構であっても本発明は適用できる。図15,16にその一例を示す。但し、先の形態と同じ構成部には同じ符号を付して重複する説明は省略する。
ここに示す電動工具は震動ドライバドリル120で、モータの前方に組み付けられるインナーハウジング121には、遊星歯車減速機構122と、動作機構としての震動機構123及び機械式のクラッチ機構124とが備えられてユニット化され、震動ドリルモードと、クラッチモードと、ドリルモードとの3つの動作モードが選択可能となっている。基本的な構成は先述した特許文献1に記載の震動ドライバドリルと同様である。
【0044】
遊星歯車減速機構122は、第2インターナルギヤ22が前後へ移動可能に設けられて、スライドボタン34のスライド操作により、第1キャリア20と二段目の遊星歯車24とに同時に噛合する図15の後退位置と、遊星歯車24のみに噛合してインナーハウジング121内で回転規制される図16の前進位置との間で切替可能となっている。よって、ここでは後退位置が高速モード(2速)、前進位置が低速モード(1速)となる。
一方、震動機構123は、最終出力軸となるスピンドル7へ一体に固着される第1カム91と、その第1カム91の後方で回転可能に外装される第2カム93と、第2カム93に係合してその回転を規制する前進位置と第2カム93から離間してその回転を許容する後退位置との間で前後移動可能な一対の震動切替レバー125と、各震動切替レバー125を前進位置へ付勢するコイルバネ126と、を含んでなる。モード切替リング64の回転操作により、震動切替レバー125をコイルバネ126の付勢に抗して後退位置へ押圧可能となっている。
【0045】
また、クラッチ機構124では、スピンドル7に第3キャリア127が設けられ、この第3キャリア127に支持される三段目の遊星歯車128が噛合する第3インターナルギヤ129が回転可能に設けられている。この第3インターナルギヤ129を、ボール130及びワッシャー131を介してコイルバネ132で押圧すると共に、そのコイルバネ132の軸長をインナーハウジング121の前端に設けられたチェンジリング133の回転操作によって変更することで、第3インターナルギヤ129の回転を規制するコイルバネ132の押圧力を調整可能としている。なお、スピンドル7の先端には、ビットを把持させるチャック134が設けられている。
【0046】
そして、モード切替リング64は、前方から見て最も左側へ回転させた第1位置では、震動切替レバー125の前進を許容して第2カム93の回転を規制すると共に、一体に回転するワッシャー131の内周をインナーハウジング121に係合させてボール130の移動を規制することで第3インターナルギヤ129の回転を規制した震動ドリルモードとなる。また、第1位置から所定角度右回転させた第2位置では、震動切替レバー125を後退させて第2カム93の回転をフリーとすると共に、ワッシャー131の内周をインナーハウジング121の係合から解除して第3インターナルギヤ129の回転規制を解除したクラッチモードとなる。さらに、第2位置から所定角度右回転させた第3位置では、震動切替レバー125の後退位置を維持すると共に、再びワッシャー131の内周をインナーハウジング121に係合させて第3インターナルギヤ129の回転を規制したドリルモードとなる。
【0047】
ここで、モード切替リング64の後端には、一体に回転する連係リング135が連結されて、連係リング135の後端に、後方へ向けて突出し、左側辺を傾斜案内部137とした前連係板136が形成されている。一方、スライドボタン34の前端には、前方へ向けて突出し、右側辺を傾斜部137と同じ角度の傾斜案内部139とした後連係板138が形成されている。この前連係板136は、モード切替リング64の第1位置(震動ドリルモード)では、図15(A)に示すように、後連係板138の前方に位置してスライドボタン34の前進を規制し、それ以外の第2、第3位置(クラッチモード、ドリルモード)では、後連係板138の右側に移動して、スライドボタン34の前進を許容するようになっている。図16はクラッチモードを示している。
よって、低速で使用していたクラッチモードやドリルモードから震動ドリルモードが選択された場合は、モード切替リング64の回転と共に移動する前連係板136の傾斜案内部137と、スライドボタン34の後連係板138の傾斜案内部139との当接によってスライドボタン34が自動的に後退し、常に高速で使用されることになる。
【0048】
このように、上記震動ドライバドリル120においても、モード切替リング64とスライドボタン34との間に連係手段(前連係板136及び後連係板138、傾斜案内部137,139)を設けたことで、モード切替リング64とスライドボタン34とを別々に備えた場合でも、高速モードでしか使用されない所定の動作モード(震動ドリルモード)では、スライドボタン34の操作が不要となる。よって、使い勝手が良好となって作業性の低下も生じない。
特にここでは、連係手段を、モード切替リング64側に設けられて後方へ突出し、震動ドリルモードの切替位置で後退位置のスライドボタン34の後連係板138と当接してその前進を規制する前連係板136として、前連係板136の側辺に、モード切替リング64の回転に伴って前進位置のスライドボタン34における後連係板138の傾斜案内部139と当接し、スライドボタン34を後退位置にスライドさせる傾斜案内部137を設けたことで、連係手段を簡単に形成することができる。
【0049】
なお、上記変更例では、モード切替リングとスライドボタンとの双方に連係板を設けているが、モード切替リングとスライドボタンとの間の距離が小さければ、スライドボタン側の連係板を省略してモード切替リングのみに連係板を突設して、連係板を直接スライドボタンに当接させても差し支えない。勿論連係リングを省略してモード切替リングに連係板を直接形成することもできる。
また、上記変更例においても、震動ドリルモードの切替位置が他の動作モードの切替位置の間に設けられる場合は、傾斜案内部を連係板の左右の側辺にそれぞれ形成すればよい。
【0050】
その他、各形態に共通して、打撃機構や震動機構等の動作機構は上記構造に限定するものではなく、モード切替部材の操作によって複数の動作モードが選択できる構造であれば、適宜変更可能である。遊星歯車減速機構やクラッチ機構においても適宜変更できる。
また、上記説明では、モード切替部材を回転操作、速度切替部材を前後へのスライド操作でそれぞれ切替可能としているが、これに限らず、例えば速度切替部材が左右方向へスライド操作されるような場合でも、モード切替部材に所定の動作モードの切替位置で速度切替部材に当接してそのスライドを規制する突部又は連係板を設ける等して連係させることは可能である。
さらに、本発明は、例えば震動機構のないインパクトドライバでは、インパクトモードでのみ自動的に高速モードへ切り替えられるようにする等、震動ドリルモードがない電動工具であっても適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1・・インパクトドライバ、2・・本体ハウジング、4・・モータ、5・・出力軸、6,122・・遊星歯車減速機構、7・・スピンドル、8,121・・インナーハウジング、9・・打撃機構、10・・アンビル、11・・アーム、12・・前ハウジング、17・・ギヤハウジング、19・・第1インターナルギヤ、20・・第1キャリア、21,24・・遊星歯車、22・・第2インターナルギヤ、23・・第2キャリア、31・・スライドリング、34・・スライドボタン、40・・メインハンマー、41・・爪、42・・サブハンマー、43・・周壁、47・・コイルバネ、48・・ワッシャー、49・・リング溝、50,56・・ボール、57・・切替リング、58・・小径部、59・・大径部、63・・連係スリーブ、64・・モード切替リング、65・・貫通孔、67・・ガイドホルダ、69・・ガイド溝、73・・ガイドピン、86・・段部、87・・凹部、88A・・第1突条、88B・・第2突条、89・・受け突起、90,123・・震動機構、91・・第1カム、93・・第2カム、97・・震動切替リング、101・・連係プレート、105・・係合突起、106A,106B・・マイクロスイッチ、108・・接触子、120・・震動ドライバドリル、124・・クラッチ機構、125・・震動切替レバー、129・・第3インターナルギヤ、131・・ワッシャー、133・・チェンジリング、135・・連係リング、136・・前連係板、137,139・・傾斜案内部、138・・後連係板。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングの前方へ突出させた最終出力軸を、震動ドリルモードやインパクトモード等の所定の動作モードで動作させる複数の動作機構を備えて、任意の動作モードを選択して使用可能な電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
電動工具には、モータを収容したハウジングの前方に突出されてモータから回転伝達されるスピンドルやアンビル等の最終出力軸を備える一方、ハウジングに、最終出力軸を所定の動作モードで動作させる複数の動作機構を備えて、モード切替部材の操作により、任意の動作機構を選択して使用可能としたものが知られている。例えば特許文献1,2には、震動ドリルモードとドリルモード、クラッチモード等の切替をハウジングの前端に設けたチェンジリング(モード切替部材)の回転操作によって行うドライバドリルが開示されている。
一方、電動工具において、最終出力軸へのトルク伝達は、モータとの間に配設した遊星歯車減速機構を介して行われるが、ここでは、遊星歯車減速機構の一のインターナルギヤを軸方向へ移動可能として、遊星歯車とそのキャリアとに同時に噛合して当該段の遊星歯車による減速をキャンセルする高速モードと、遊星歯車のみに噛合して当該段の遊星歯車による減速を有効とする低速モードとに切替可能とした変速機構が採用されている。この速度の切替も、ハウジングに設けた速度切替部材の操作によって行えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4227028号公報
【特許文献2】特許第3655481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、モード切替部材と速度切替部材とを別個に設けると、選択した動作モードでさらに変速が選択できることになる。しかし、震動ドリルモードやインパクトモード等の所定の動作モードでは、実際に低速モードで使用される場合が少なく、殆ど高速モードが選択されている。従って、例えば低速でクラッチモードやドリルモードで使用した後に、モード切替部材によって動作モードを震動ドリルモードに切り替えると、続けて速度切替部材によって高速モードへ切り替えることになり、2つの部材の操作が必要となって煩わしく感じる。特に、震動ドリルモードへの切替の際に速度切替部材の操作を忘れると、作業開始後に低速モードのままであることに気づいて一旦作業を停止して速度切替部材を操作し直すことになり、作業性を低下させる場合があった。
【0005】
そこで、本発明は、モード切替部材と速度切替部材とを別々に備えた場合でも、高速モードでしか使用されない所定の動作モードでは速度切替部材の操作を不要として、使い勝手を良好として作業性も低下させない電動工具を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、モード切替部材と速度切替部材との間に、モード切替部材の所定の動作モードの選択操作に連係して速度切替部材を高速側に切替動作させ、回転速度を高速に保持させる連係手段を設けたことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成に加えて、モード切替部材の回転操作によって動作モードを選択可能とする一方、速度切替部材を、モード切替部材の後方で、高速となる前進位置と低速となる後退位置との間で前後方向へスライド可能に設けて、連係手段を、モード切替部材の後方に連結されて一体回転する連係部材と、その連係部材の外面で回転方向に沿って設けられ、所定の動作モードの切替位置で前進位置の速度切替部材の下面と係合してその後退を規制する第1突部と、その第1突部から傾斜状に連設され、連係部材の回転に伴って後退位置の速度切替部材の下面と係合し速度切替部材を前進させて第1突部と係合させる第2突部とから構成したことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1の構成に加えて、モード切替部材の回転操作によって動作モードを選択可能とする一方、速度切替部材を、モード切替部材の後方で、高速となる後退位置と低速となる前進位置との間で前後方向へスライド可能に設けて、連係手段を、モード切替部材側に設けられて後方へ突出し、所定の動作モードの切替位置で後退位置の速度切替部材と当接してその前進を規制する連係板として、連係板の側辺に、モード切替部材の回転に伴って前進位置の速度切替部材と当接し、速度切替部材を後退位置にスライドさせる傾斜案内部を設けたことを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの構成において、複数の動作機構は、最終出力軸に軸方向への震動を付与する震動機構を含み、所定の動作モードは、震動機構を作動させる震動ドリルモードであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、モード切替部材と速度切替部材とを別々に備えた場合でも、高速モードでしか使用されない所定の動作モードでは、速度切替部材の操作が不要となる。よって、使い勝手が良好となって作業性の低下も生じない。
請求項2及び3の発明によれば、請求項1の効果に加えて、連係手段を簡単に形成することができる。
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3の何れかの効果に加えて、専ら高速モードで使用される震動ドリルモードでの使い勝手を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】インパクトドライバの一部縦断面図である。
【図2】インパクトドライバの平面図である。
【図3】内部機構の分解斜視図である。
【図4】本体ハウジング以外のハウジング及び震動機構の分解斜視図である。
【図5】ユニット部分の左側面図である。
【図6】(A)はA−A線断面、(B)はB−B線断面、(C)はC−C線断面をそれぞれ示す。
【図7】(A)は、インパクトモードでのユニット部分の左側面図、(B)はその底面図である。
【図8】インパクトモードでのユニット部分の縦断面図である。
【図9】(A)は、震動ドリルモードでのユニット部分の左側面図、(B)はその底面図である。
【図10】震動ドリルモードでのユニット部分の縦断面図である。
【図11】(A)は、ドリルモードでのユニット部分の左側面図、(B)はその底面図である。
【図12】ドリルモードでのユニット部分の縦断面図である。
【図13】(A)は、クラッチモードでのユニット部分の左側面図、(B)はその底面図である。
【図14】クラッチモードでのユニット部分の縦断面図である。
【図15】震動ドライバドリルの説明図で、(A)は震動ドリルモードでのユニット部分の平面、(B)はその縦断面をそれぞれ示す。
【図16】震動ドライバドリルの説明図で、(A)はクラッチモードでのユニット部分の平面、(B)はその縦断面をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1,2に、電動工具の一例であるインパクトドライバ1を示し、図3,4にその内部機構の一部を示す。このインパクトドライバ1は、左右の半割ハウジング3,3を組み付けて形成される本体ハウジング2を有し、本体ハウジング2内に、後方(図1の右側を前方とする。)からモータ4、遊星歯車減速機構6、スピンドル7がそれぞれ収容されている。また、本体ハウジング2の前部には、スピンドル7と共に動作機構としての打撃機構9を収容した筒状のインナーハウジング8が組み付けられて、スピンドル7の前方同軸上に配置された最終出力軸としてのアンビル10が、インナーハウジング8及びその前端に固定される前ハウジング12に軸支されて前方へ突出している。前ハウジング12内には、動作機構としての震動機構90が収容されて、本体ハウジング2を除いて遊星歯車減速機構6より前側の機構をユニット化している。13は、前ハウジング12の前端に嵌着されたゴム製リング状のバンパである。本体ハウジング2の下方には、ハンドル14が下向きに延設され、ハンドル14内には、トリガー16を備えたスイッチ15が収容されている。
【0010】
[遊星歯車減速機構及び変速機構]
遊星歯車減速機構6は、本体ハウジング2内に組み付けられる筒状のギヤハウジング17内に収容されている。ギヤハウジング17の後部には、モータ4の出力軸5に嵌着したピニオン18が軸支されてギヤハウジング17内に突出している。遊星歯車減速機構6は、第1インターナルギヤ19内で遊星運動する一段目の遊星歯車21,21・・を保持する第1キャリア20と、第2インターナルギヤ22内で遊星運動する二段目の遊星歯車24,24・・を保持する第2キャリア23とを備え、ピニオン18に一段目の遊星歯車21,21・・を噛合させている。また、第2キャリア23は、スピンドル7の後端へ一体に形成されてインナーハウジング8内でボールベアリング25に軸支されている。
【0011】
ここで、第1インターナルギヤ19は、内周前側に、周方向へ所定間隔で複数の内歯26,26・・を備える一方、第2インターナルギヤ22は、外周前側にリング状の係合溝27を、外周後側に、周方向へ所定間隔で突設した複数の外歯28,28・・をそれぞれ備えている。また、第2インターナルギヤ22は、第2キャリア23の後方へ一体に連結したスパーギヤ29と二段目の遊星歯車24との双方に噛合する前進位置と、第1インターナルギヤ19の内歯26に外歯28を係合させて二段目の遊星歯車24のみに噛合する後退位置との間でスライド可能に設けられている。
このスパーギヤ29は、遊星歯車24を支持する支持ピン30に貫通されて第2キャリア23と遊星歯車24との間に位置する別体のギヤで、第2キャリア23の外径は、歯先を含むスパーギヤ29の外径よりも小径となっている。36は、ギヤハウジング17内でボールベアリング25を保持する保持リングである。
【0012】
第2インターナルギヤ22の外側には、ギヤハウジング17及びインナーハウジング8の内周面に沿って前後へスライド可能なスライドリング31が設けられて、スライドリング31の外側から半径方向に貫通する係合ピン32が、第2インターナルギヤ22の係合溝27と係合している。スライドリング31の上部外周には、ギヤハウジング17の上部に突出する突起33が設けられて、この突起33が、図5及び図6(A)にも示すように、本体ハウジング2に前後へスライド可能に設けた速度切替部材としてのスライドボタン34に、前後のコイルバネ35,35を介して保持されている。
よって、スライドボタン34の前後へのスライド操作により、スライドリング31を介して第2インターナルギヤ22の位置を前後へ切替可能となる変速機構が形成される。すなわち、図1,2及び図8に示す第2インターナルギヤ22の前進位置では、第2インターナルギヤ22がスパーギヤ29と一体回転することで遊星歯車24の遊星運動をキャンセルした高速モード(2速)となり、図12に示す第2インターナルギヤ22の後退位置では、第2インターナルギヤ22が固定されて遊星歯車24を遊星運動させる低速モード(1速)となる。
【0013】
[打撃機構]
打撃機構9は、アンビル10の後端に設けた一対のアーム11,11にハンマーを係脱させる構造であるが、ここでのハンマーは、スピンドル7の前端に外装され、アーム11,11に係合する一対の爪41,41を前面に突設した筒状のメインハンマー40と、そのメインハンマー40の後方でスピンドル7に同軸で遊挿されて前方が開口する有底筒状で、周壁43がメインハンマー40に後方から外装されるサブハンマー42とに分割されている。つまり、メインハンマー40とサブハンマー42の周壁43とを合わせた径が従前のハンマーの外径と等しくなっている。
まず、メインハンマー40は、その内周面に前端から後方へ向けて凹設されて後端が先細りとなる山形溝44,44と、スピンドル7の外周面で先端を前方に向けて凹設されたV字溝45,45とに跨って嵌合するボール46,46を介してスピンドル7と連結されている。
【0014】
一方、メインハンマー40とサブハンマー42との間でスピンドル7には、コイルバネ47が外装されて、メインハンマー40を爪41がアーム11に係合する前進位置へ付勢する一方、サブハンマー42を後方へ付勢している。サブハンマー42と第2キャリア23との間でスピンドル7には、ワッシャー48が外装され、サブハンマー42の後面に凹設されたリング溝49には、後面から突出する複数のボール50,50・・が収容されてスラスト軸受を形成している。よって、コイルバネ47によって後方へ付勢されるサブハンマー42は、ボール50がワッシャー48に当接する後方位置へ回転可能な状態で押圧されることになる。
【0015】
また、サブハンマー42の周壁43の内周面には、前端から軸方向で後方へ伸びる複数の案内溝51,51・・が、周方向へ等間隔をおいて形成されており、メインハンマー40の外周には、案内溝51よりも短い複数の長円溝52,52・・が、周方向に案内溝51と同じ間隔で形成されて、案内溝51と長円溝52とに跨って円柱状の連結ピン53,53・・が嵌合している。よって、メインハンマー40とサブハンマー42とは、連結ピン53により、軸方向への移動はそれぞれ許容された状態で、回転方向へは一体に連結される。
さらに、メインハンマー40の外周面で後端際には、周方向にリング状の嵌合溝54が凹設される一方、サブハンマー42の周壁43において、案内溝51の後端位置で案内溝51,51の間には、半径方向に貫通する複数の円形孔55,55・・が形成されて、その円形孔55にボール56がそれぞれ嵌合している。
【0016】
そして、サブハンマー42の周壁43には、切替リング57が外装されている。この切替リング57は、後側が周壁43の外周面に摺接する小径部58、前側が周壁43の外周面から半径方向へ離間する大径部59となる二段径を有し、小径部58の外周面には、リング状の凹溝60が形成されている。また、切替リング57は、インナーハウジング8の内周に設けた前側段部61と、周壁43の後端外周に設けた後側段部62との間でのみ前後へスライド可能となっている。
一方、インナーハウジング8には、図4,5に示すように、本体ハウジング2の前方に位置するモード切替部材としてのモード切替リング64を前端外周へ一体回転可能に装着した連係部材としての連係スリーブ63が外装されている。連係スリーブ63の外周で点対称位置には、前後方向の長円となる一対の貫通孔65,65が形成され、各貫通孔65に沿った外周面には、貫通孔65より一回り大きい四角形状の案内凹部66が形成されている。
【0017】
この貫通孔65に、外側端部が案内凹部66に嵌合する正方形状のフランジ部68に形成される筒状のガイドホルダ67が貫通して、半径方向で連係スリーブ63の軸心側へ突出すると共に、案内凹部66によるフランジ部68の案内により、前後方向へ移動可能となっている。インナーハウジング8には、ガイドホルダ67が貫通し、貫通孔65の前端に対応する位置で周方向に形成される前側溝70と、貫通孔65の後端に対応する位置で周方向に形成される後側溝71と、前側溝70と後側溝71とを連通させる傾斜溝72とからなるガイド溝69が形成されている。ガイドホルダ67には、図6(B)にも示すように、インナーハウジング8の軸心側からガイドピン73が差し込まれて、ガイドピン73の頭部74を切替リング57の凹溝60に嵌合させている。
【0018】
なお、アンビル10は、後面軸心に形成した軸受孔75に、スピンドル7の前端に突設した小径の先端部76を嵌合させて、スピンドル7の前端を同軸で軸支している。軸受孔75には、コイルバネ77によって先端部76の端面に押圧されてスラスト方向の荷重を受けるボール78が収容されている。
さらに、前ハウジング12から突出するアンビル10の前端には、ビットの装着孔79が形成されると共に、装着孔79に挿入されたビットを抜け止め装着するために、アンビル10に設けたボール81(図3)を後退位置で装着孔内へ押圧するスリーブ80等を備えたチャック機構が設けられている。
【0019】
[震動機構]
震動機構90は、インナーハウジング8の前面へ同軸で結合される前筒37と、その前筒37に外装される前ハウジング12との内側に収容される。まず前ハウジング12内でアンビル10には、図4にも示すように、後面にカム面91aを形成した第1カム91が一体に固着されて、前ハウジング12内でボールベアリング92に軸支されている。第1カム91の後方でアンビル10には、前面にカム面93aを形成した第2カム93が回転可能に外装されている。この第2カム93は、インナーハウジング8の前面でリング状の受け金95に沿って収容された複数のボール94,94・・によって後面が保持されて、常態ではカム面93aを第1カム91のカム面91aと係合させている。第2カム93の外周には、半径方向へ突出する複数の突起96,96・・が、周方向へ等間隔をおいて形成されている。
【0020】
一方、前筒37内には、震動切替リング97が設けられている。この震動切替リング97は、第2カム93の外径よりも内径が大きいリング体で、図6(C)に示すように、外周に突設した複数の外突起98,98・・を、前筒37の内面に設けた軸方向の規制溝38,38・・に嵌合させることで、前筒37内で回転規制された状態で前後移動可能に保持されている。震動切替リング97の内周には、第2カム93に外装させた状態で第2カム93の突起96に係合する内突起99が突設されている。すなわち、震動切替リング97が第2カム93に外装される前進位置では、第2カム93の回転を規制し、震動切替リング97が第2カム93から離間する後退位置では、第2カム93の回転を許容するものとなる。但し、前筒37内で震動切替リング97とインナーハウジング8との間には、コイルバネ100が設けられて、震動切替リング97を前進位置へ付勢している。
【0021】
また、震動切替リング97には、一対の連係プレート101,101が係止している。この連係プレート101は、インナーハウジング8の前側側面へ点対称に配設される帯板状の金属板で、インナーハウジング8の側面で前後方向に形成した一対の外溝39,39に嵌合する後板部102と、その後板部102から前筒37に設けた透孔37aを貫通して内側へ折曲する中板部103と、その中板部103から前筒37の内面に沿って前方へ突出し、前端が内側へ折曲される前板部104とを有する。よって、連係プレート101は、外溝39による後板部102の案内で前後方向へ移動可能となるが、後板部102は外溝39に嵌合しているため、インナーハウジング8の外周面から突出することはない。105は、後板部102の外面に形成されて外側へ突出する係合突起である。各連係プレート101は、前板部104の前端が震動切替リング97の外側から前面に係止することで、震動切替リング97と共に前進位置へ付勢されている。
【0022】
インナーハウジング8に外装される連係スリーブ63は、周方向の一部を軸方向全長に亘って切り欠いたC字状の筒状体で、中央部に周方向の切欠き82を有し、この切欠き82に、インナーハウジング8の外周面に突設した案内突起83を嵌合させることで、前後方向への移動を規制された状態で回転可能となっている。連係スリーブ63の前側外周面には、モード切替リング64の後側内周面に設けた前後方向の連結溝85に嵌合する連結突起84が突設されて、連結溝85と連結突起84との嵌合により、モード切替リング64と連係スリーブ63とは回転方向で一体に連結されている。
【0023】
この連結状態で、図7に示すように、連係スリーブ63の前端と、モード切替リング64の内周面で周方向に沿って形成した段部86との間に、連係プレート101の係合突起105が位置している。段部86の一部は、前方へ凹設されて周方向の両側がテーパ状に傾斜する凹部87となっており、この凹部87に係合突起105が位置すると、コイルバネ100によって前側へ付勢される震動切替リング97の前進位置への移動を許容する。一方、凹部87以外の段部86に係合突起105が位置すると、連係プレート101は後退して震動切替リング97をコイルバネ100の付勢に抗して後退位置に移動させることになる。
【0024】
そして、連係スリーブ63の後側の外周面には、図4,5に示すように、周方向に沿った第1突部としての第1突条88Aと、その第1突条88Aの端部から周方向へ行くに従って後方へ直線状に傾斜する第2突部としての第2突条88Bとが突設されている。一方、スライドボタン34の下面で前端左側(前方から見て左側、以下左右は同様に前方から見た方向で説明する。)のコーナー部には、1速である後退位置で連係スリーブ63が回転した際に、第2突条88Bの先端と係合する受け突起89が突設されている。よって、そのまま連係スリーブ63が回転すると、第2突条88Bに沿って受け突起89が前方へ案内されることで、スライドボタン34は前進する。受け突起89が第1突条88Aの前方に乗り上がると、スライドボタン34は2速である前進位置に到達するようになっている。
【0025】
一方、インナーハウジング8の後方下面には、一対のマイクロスイッチ106A,106Bが、プランジャ107A,107Bを前方へ向けて配設されており、連係スリーブ63の後端には、連係スリーブ63の所定の切替位置でマイクロスイッチ106A,106Bのプランジャ107A,107Bを押し込み又はその解除を行う接触子108が設けられている。このマイクロスイッチ106A,106Bは、インパクトドライバ1のハンドル14の下端に設けた図示しないコントローラに、クラッチモードのON/OFF信号を出力するもので、コントローラは、マイクロスイッチ106Bのプランジャ107Bのみの押し込みによるON信号が入力されると、モータ4に設けた図示しないトルクセンサから得られるトルク値を監視し、設定されたトルク値に達すると、モータ4へ制動をかけてアンビル10へのトルクを遮断するものとなる。
【0026】
[各動作モードの選択]
以上の如く構成されたインパクトドライバ1において、モード切替リング64及び連係スリーブ63の回転位置(切替位置)と各動作モードとについて説明する。
(1)インパクトモード
まず、図7に示すように、モード切替リング64を前方から見て最も右側へ回転させた第1位置では、ガイドホルダ67も右回転方向へ移動し、ガイド溝69内を移動して後側溝71に達する。よって、ガイドホルダ67は貫通孔65の後端に位置する。すると、ガイドピン73を介してガイドホルダ67に連結される切替リング57は、図8に示すように、大径部59をボール56の外側に位置させる後退位置となる。この後退位置でボール56は、周壁43の内周面に没入してメインハンマー40の嵌合溝54から離間する解除位置へ移動することができ、メインハンマー40の後退を許容するインパクトモードとなる。
【0027】
このとき、第1突条88Aがスライドボタン34の受け突起89の後方に位置してスライドボタン34を前進位置に移動させているため、スライドボタン34の後退は規制され、常に高速モードとなる。一方、連係プレート101の係合突起105は、凹部87から左側へ外れて段部86に係止しているため(図7以降のユニット部分の側面図では、係合突起105の位置をわかりやすくするためにモード切替リング64の一部を切り欠いて示している。)、連係プレート101は後退位置にあって震動切替リング97を後退させて第2カム93の回転をフリーとする。また、接触子108は、マイクロスイッチ106A,106Bの何れのプランジャ107A,107Bにも当接していない。
【0028】
従って、ハンドル14に設けたトリガー16を操作してモータ4を駆動させると、出力軸5の回転が遊星歯車減速機構6を介してスピンドル7に伝わり、スピンドル7を回転させる。スピンドル7は、ボール46を介してメインハンマー40を回転させ、メインハンマー40が係合するアンビル10を回転させるため、アンビル10の先端に装着したビットによってネジ締め等が可能となる。このとき連結ピン53を介して回転方向に連結されるサブハンマー42もメインハンマー40と一体に回転する。なお、アンビル10の回転に伴って第1カム91が回転しても、これと係合する第2カム93の回転はフリーであるため、第2カム93も一体回転してアンビル10に震動は発生しない。
【0029】
ネジ締めが進んでアンビル10のトルクが高まると、メインハンマー40の回転とスピンドル7の回転とにずれが生じるため、メインハンマー40は、ボール46がV字溝45に沿って転動することで、スピンドル7に対して相対的に回転しながらコイルバネ47の付勢に抗して後退する。このときサブハンマー42は、メインハンマー40の後退を許容しつつ連結ピン53を介してメインハンマー40と一体に回転する。
そして、メインハンマー40の爪41がアーム11から外れると、メインハンマー40はコイルバネ47の付勢により、ボール46がV字溝45の先端に向けて転動することで回転しながら前進する。よって、メインハンマー40の爪41が再びアーム11に係合して回転打撃力(インパクト)を発生させる。このアンビル10への係脱を繰り返すことで増し締めが行われる。
【0030】
このとき、サブハンマー42もメインハンマー40に追従して回転するため、両ハンマー40,42を合わせた質量でアンビル10へ係脱することになる。また、回転時には後面のボール50がワッシャー48の前面を転動することで回転抵抗が軽減されるため、メインハンマー40の前後動に伴ってコイルバネ47が伸縮してもサブハンマー42はスムーズに回転できる。さらに、メインハンマー40がインパクト発生時に前後動を繰り返しても、サブハンマー42は後方位置を維持して前後へ移動することはないため、インパクト発生時の振動は抑えられる。
【0031】
(2)震動ドリルモード
次に、図9に示すように、モード切替リング64を第1位置から所定角度左回転させた第2位置では、ガイドホルダ67も周方向で左回転方向へ移動し、ガイド溝69内を移動して前側溝70に達する。よって、ガイドホルダ67は貫通孔65の前端に位置する。すると、切替リング57は、図10に示すように、小径部58をボール56の外側に位置させる前進位置となる。この前進位置でボール56は、図12にも示すように小径部58に押されてメインハンマー40の嵌合溝54に嵌合する連結位置に固定されるため、メインハンマー40とサブハンマー42とを前後方向で連結してメインハンマー40の後退を規制する。
【0032】
このとき、連係プレート101の係合突起105は、凹部87が同じ位相となっているため、そのまま前進して凹部87に嵌合する。よって、震動切替リング97が前進位置に移動し、第2カム93の回転を規制する震動ドリルモードとなる。
なお、連係プレート101が前進した際、震動切替リング97の内突起99と第2カム93の突起96との位相が合致して震動切替リング97が前進位置へ移動できないことがある。しかし、震動切替リング97はコイルバネ100で付勢されているため、アンビル10と共に第1カム91が回転してこれと係合する第2カム93が回転すると、突起96と内突起99との位相がずれるため、震動切替リング97が前進して第2カム93の回転を規制できる。
一方、第1突条88Aは、インパクトモードと同様にまだ受け突起89の後方に位置しているため、スライドボタン34の後退は規制され、常に高速モードとなる。また、接触子108は、マイクロスイッチ106Aのプランジャ107Aのみを押圧しているため、クラッチは作動しない。
【0033】
従って、トリガー16を操作してスピンドル7を回転させると、スピンドル7は、ボール46を介してメインハンマー40を回転させ、メインハンマー40が係合するアンビル10を回転させる。このアンビルの回転に伴って第1カム91が回転すると、回転規制される第2カム93とカム面91a,93a同士が干渉する。アンビル10は、アーム11の前後に遊びがある状態で軸支されているため、カム面91a、93a同士の干渉によってアンビル10に軸方向の震動が発生する。また、連結ピン53を介して回転方向に連結されるサブハンマー42もメインハンマー40と一体に回転する。
そして、アンビル10のトルクが高まっても、メインハンマー40はボール56によって後退が規制されるため、メインハンマー40はアンビル10に対して係脱動作を行わない。よって、インパクトは発生せず、アンビル10はスピンドル7と一体回転することになる。
【0034】
(3)ドリルモード
次に、図11に示すように、モード切替リング64を第2位置から所定角度左回転させた第3位置では、ガイドホルダ67も周方向で左回転方向へ移動するが、そのまま前側溝70内に位置するため、ガイドホルダ67が貫通孔65の前端に位置する状態は変わらない。これにより、図12にも示すように、切替リング57は前進位置にあってボール56も、小径部58に押されてメインハンマー40の嵌合溝54に嵌合する連結位置に固定される。よって、メインハンマー40とサブハンマー42とを前後方向で連結してメインハンマー40の後退を規制するドリルモードとなる。
【0035】
このとき、連係プレート101の係合突起105は、凹部87が左側へ移動することで再び段部86に係止しているため、連係プレート101は後退位置にあって震動切替リング97を後退させて第2カム93の回転をフリーとする。また、接触子108は、両方のマイクロスイッチ106A,106Bのプランジャ107A,107Bを同時に押圧しているため、クラッチは作動しない。
一方、第1突条88Aは、スライドボタン34から左側へ離れ、第2突条部88Bも端部を受け突起89よりも後方に位置させているため、図12に示すようにスライドボタン34の後退が可能となる。よって、高低何れのモードも選択できる。
【0036】
従って、トリガー16を操作してスピンドル7を回転させると、スピンドル7は、ボール46を介してメインハンマー40を回転させ、メインハンマー40が係合するアンビル10を回転させる。このとき連結ピン53を介して回転方向に連結されるサブハンマー42もメインハンマー40と一体に回転する。なお、アンビル10の回転に伴って第1カム91が回転しても、これと対向する第2カム93の回転はフリーであるため、アンビル10に震動は発生しない。
そして、アンビル10のトルクが高まっても、メインハンマー40はボール56によって後退が規制されるため、メインハンマー40はアンビル10に対して係脱動作を行わない。よって、インパクトは発生せず、アンビル10はスピンドル7と一体回転することになる。
【0037】
(4)クラッチモード
次に、図13に示すように、モード切替リング64を第3位置から所定角度左回転させた第4位置では、ガイドホルダ67も周方向で左回転方向へ移動するが、そのまま前側溝70内に位置するため、図14に示すように、ガイドホルダ67が貫通孔65の前端に位置する状態は変わらない。よって、切替リング57は前進位置にあってボール56も、小径部58に押されてメインハンマー40の嵌合溝54に嵌合する連結位置に固定される。よって、メインハンマー40とサブハンマー42とを前後方向で連結してメインハンマー40の後退を規制する。
このとき、連係プレート101の係合突起105は、第3位置と同様に段部86に係止しているため、連係プレート101は後退位置にあって震動切替リング97を後退させて第2カム93の回転をフリーとする。但し、接触子108は、マイクロスイッチ106Bのプランジャ107Bのみを押圧しているため、クラッチモードとなる。
一方、第1、第2突条88A,88Bはスライドボタン34から左側へ離れているため、スライドボタン34の前後何れへのスライド操作が可能となる。
【0038】
従って、トリガー16を操作してスピンドル7を回転させると、スピンドル7は、ボール46を介してメインハンマー40を回転させ、メインハンマー40が係合するアンビル10を回転させる。このとき連結ピン53を介して回転方向に連結されるサブハンマー42もメインハンマー40と一体に回転する。なお、アンビル10の回転に伴って第1カム91が回転しても、これと対向する第2カム93の回転はフリーであるため、アンビル10に震動は発生しない。
そして、アンビル10のトルクが高まってトルクセンサで検出されるトルク値が設定したトルク値に達すると、モータ4に制動がかけられてスピンドル7からアンビル10へのトルク伝達が遮断されることになる。
【0039】
なお、モード切替リング64の外周面には、図2に示すように、各動作モードに対応する表示M1(インパクトモード)、M2(震動ドリルモード)、M3(ドリルモード)、M4(クラッチモード)がそれぞれ表記されており、各表示を本体ハウジング2の上面前端に表示された矢印109に合わせることで各動作モードが選択されるようになっている。
また、低速で使用していたドリルモードやクラッチモードから震動ドリルモード又はインパクトモードに切り替える場合は、上記動作と逆に、スライドボタン34から離れていた第2突条88Bが、連係スリーブ63の右回転によって、後退位置にあるスライドボタン34の受け突起89に係合し、そのまま連係スリーブ63の回転に連れて第2突条88Bに沿って受け突起89を相対的にスライドさせながらスライドボタン34を前進位置に移動させることになる。よって、震動ドリルモード及びインパクトモードでは常に高速モードとなる。
【0040】
このように、上記形態のインパクトドライバ1によれば、モード切替リング64とスライドボタン34との間に、モード切替リング64のインパクトモード及び震動ドリルモードの選択操作に連係してスライドボタン34を高速側に切替動作させ、回転速度を高速に保持させる連係手段(連係スリーブ63,第1、第2突条88A,88B)を設けたことで、モード切替リング64とスライドボタン34とを別々に備えた場合でも、高速モードでしか使用されない所定の動作モード(インパクトモード、震動ドリルモード)では、スライドボタン34の操作が不要となる。よって、使い勝手が良好となって作業性の低下も生じない。
【0041】
特にここでは、モード切替部材を、回転操作によって動作モードを選択可能とするモード切替リング64とする一方、速度切替部材を、モード切替リング64の後方で、高速となる前進位置と低速となる後退位置との間で前後方向へスライド可能に設けて、連係手段を、モード切替リング64の後方に連結されて一体回転する連係スリーブ63と、その連係スリーブ63の外面で回転方向に沿って設けられ、インパクトモード及び震動ドリルモードの切替位置で前進位置のスライドボタン34の受け突起89と係合してその後退を規制する第1突条88Aと、その第1突条88Aから傾斜状に連設され、連係スリーブ63の回転に伴って後退位置のスライドボタン34の下面と係合し、スライドボタン34を前進させて第1突条88Aと係合させる第2突条88Bとから構成したことで、連係手段を簡単に形成することができる。
また、複数の動作機構として、アンビル10に軸方向への震動を付与する震動機構90を含むものとし、震動ドリルモードで自動的に高速モードとなるようにしているので、専ら高速モードで使用される震動ドリルモードでの使い勝手を向上させることができる。
【0042】
なお、上記形態では、震動ドリルモード及びインパクトモードでは常に高速モードとなるようにしているが、何れか一方の動作モードのみを常に高速モードとしてもよいし、他の動作モードを常に高速モードとしてもよい。
また、傾斜する第2突条は1つのみとしているが、震動ドリルモードやインパクトモードの切替位置が他の動作モードの切替位置の間に位置するような場合は、第1突条の左右にそれぞれ第2突条を連設することができる。
さらに、上記形態では、モード切替リングと別体の連係スリーブに第1、第2突条を設け、この第1、第2突条をスライドボタンに設けた受け突起に係脱させてスライドボタンの移動を行っているが、第1、第2突部としてはこのような突条に限らず、例えば第1突部を四角形状の突起とし、第2突部を三角形状の突起として全体が台形状となるように形成する等、適宜変更可能である。
【0043】
[変更例]
上記形態の変速機構では、スライドボタンの前進位置が高速、後退位置が低速となっているが、これと逆の変速機構であっても本発明は適用できる。図15,16にその一例を示す。但し、先の形態と同じ構成部には同じ符号を付して重複する説明は省略する。
ここに示す電動工具は震動ドライバドリル120で、モータの前方に組み付けられるインナーハウジング121には、遊星歯車減速機構122と、動作機構としての震動機構123及び機械式のクラッチ機構124とが備えられてユニット化され、震動ドリルモードと、クラッチモードと、ドリルモードとの3つの動作モードが選択可能となっている。基本的な構成は先述した特許文献1に記載の震動ドライバドリルと同様である。
【0044】
遊星歯車減速機構122は、第2インターナルギヤ22が前後へ移動可能に設けられて、スライドボタン34のスライド操作により、第1キャリア20と二段目の遊星歯車24とに同時に噛合する図15の後退位置と、遊星歯車24のみに噛合してインナーハウジング121内で回転規制される図16の前進位置との間で切替可能となっている。よって、ここでは後退位置が高速モード(2速)、前進位置が低速モード(1速)となる。
一方、震動機構123は、最終出力軸となるスピンドル7へ一体に固着される第1カム91と、その第1カム91の後方で回転可能に外装される第2カム93と、第2カム93に係合してその回転を規制する前進位置と第2カム93から離間してその回転を許容する後退位置との間で前後移動可能な一対の震動切替レバー125と、各震動切替レバー125を前進位置へ付勢するコイルバネ126と、を含んでなる。モード切替リング64の回転操作により、震動切替レバー125をコイルバネ126の付勢に抗して後退位置へ押圧可能となっている。
【0045】
また、クラッチ機構124では、スピンドル7に第3キャリア127が設けられ、この第3キャリア127に支持される三段目の遊星歯車128が噛合する第3インターナルギヤ129が回転可能に設けられている。この第3インターナルギヤ129を、ボール130及びワッシャー131を介してコイルバネ132で押圧すると共に、そのコイルバネ132の軸長をインナーハウジング121の前端に設けられたチェンジリング133の回転操作によって変更することで、第3インターナルギヤ129の回転を規制するコイルバネ132の押圧力を調整可能としている。なお、スピンドル7の先端には、ビットを把持させるチャック134が設けられている。
【0046】
そして、モード切替リング64は、前方から見て最も左側へ回転させた第1位置では、震動切替レバー125の前進を許容して第2カム93の回転を規制すると共に、一体に回転するワッシャー131の内周をインナーハウジング121に係合させてボール130の移動を規制することで第3インターナルギヤ129の回転を規制した震動ドリルモードとなる。また、第1位置から所定角度右回転させた第2位置では、震動切替レバー125を後退させて第2カム93の回転をフリーとすると共に、ワッシャー131の内周をインナーハウジング121の係合から解除して第3インターナルギヤ129の回転規制を解除したクラッチモードとなる。さらに、第2位置から所定角度右回転させた第3位置では、震動切替レバー125の後退位置を維持すると共に、再びワッシャー131の内周をインナーハウジング121に係合させて第3インターナルギヤ129の回転を規制したドリルモードとなる。
【0047】
ここで、モード切替リング64の後端には、一体に回転する連係リング135が連結されて、連係リング135の後端に、後方へ向けて突出し、左側辺を傾斜案内部137とした前連係板136が形成されている。一方、スライドボタン34の前端には、前方へ向けて突出し、右側辺を傾斜部137と同じ角度の傾斜案内部139とした後連係板138が形成されている。この前連係板136は、モード切替リング64の第1位置(震動ドリルモード)では、図15(A)に示すように、後連係板138の前方に位置してスライドボタン34の前進を規制し、それ以外の第2、第3位置(クラッチモード、ドリルモード)では、後連係板138の右側に移動して、スライドボタン34の前進を許容するようになっている。図16はクラッチモードを示している。
よって、低速で使用していたクラッチモードやドリルモードから震動ドリルモードが選択された場合は、モード切替リング64の回転と共に移動する前連係板136の傾斜案内部137と、スライドボタン34の後連係板138の傾斜案内部139との当接によってスライドボタン34が自動的に後退し、常に高速で使用されることになる。
【0048】
このように、上記震動ドライバドリル120においても、モード切替リング64とスライドボタン34との間に連係手段(前連係板136及び後連係板138、傾斜案内部137,139)を設けたことで、モード切替リング64とスライドボタン34とを別々に備えた場合でも、高速モードでしか使用されない所定の動作モード(震動ドリルモード)では、スライドボタン34の操作が不要となる。よって、使い勝手が良好となって作業性の低下も生じない。
特にここでは、連係手段を、モード切替リング64側に設けられて後方へ突出し、震動ドリルモードの切替位置で後退位置のスライドボタン34の後連係板138と当接してその前進を規制する前連係板136として、前連係板136の側辺に、モード切替リング64の回転に伴って前進位置のスライドボタン34における後連係板138の傾斜案内部139と当接し、スライドボタン34を後退位置にスライドさせる傾斜案内部137を設けたことで、連係手段を簡単に形成することができる。
【0049】
なお、上記変更例では、モード切替リングとスライドボタンとの双方に連係板を設けているが、モード切替リングとスライドボタンとの間の距離が小さければ、スライドボタン側の連係板を省略してモード切替リングのみに連係板を突設して、連係板を直接スライドボタンに当接させても差し支えない。勿論連係リングを省略してモード切替リングに連係板を直接形成することもできる。
また、上記変更例においても、震動ドリルモードの切替位置が他の動作モードの切替位置の間に設けられる場合は、傾斜案内部を連係板の左右の側辺にそれぞれ形成すればよい。
【0050】
その他、各形態に共通して、打撃機構や震動機構等の動作機構は上記構造に限定するものではなく、モード切替部材の操作によって複数の動作モードが選択できる構造であれば、適宜変更可能である。遊星歯車減速機構やクラッチ機構においても適宜変更できる。
また、上記説明では、モード切替部材を回転操作、速度切替部材を前後へのスライド操作でそれぞれ切替可能としているが、これに限らず、例えば速度切替部材が左右方向へスライド操作されるような場合でも、モード切替部材に所定の動作モードの切替位置で速度切替部材に当接してそのスライドを規制する突部又は連係板を設ける等して連係させることは可能である。
さらに、本発明は、例えば震動機構のないインパクトドライバでは、インパクトモードでのみ自動的に高速モードへ切り替えられるようにする等、震動ドリルモードがない電動工具であっても適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1・・インパクトドライバ、2・・本体ハウジング、4・・モータ、5・・出力軸、6,122・・遊星歯車減速機構、7・・スピンドル、8,121・・インナーハウジング、9・・打撃機構、10・・アンビル、11・・アーム、12・・前ハウジング、17・・ギヤハウジング、19・・第1インターナルギヤ、20・・第1キャリア、21,24・・遊星歯車、22・・第2インターナルギヤ、23・・第2キャリア、31・・スライドリング、34・・スライドボタン、40・・メインハンマー、41・・爪、42・・サブハンマー、43・・周壁、47・・コイルバネ、48・・ワッシャー、49・・リング溝、50,56・・ボール、57・・切替リング、58・・小径部、59・・大径部、63・・連係スリーブ、64・・モード切替リング、65・・貫通孔、67・・ガイドホルダ、69・・ガイド溝、73・・ガイドピン、86・・段部、87・・凹部、88A・・第1突条、88B・・第2突条、89・・受け突起、90,123・・震動機構、91・・第1カム、93・・第2カム、97・・震動切替リング、101・・連係プレート、105・・係合突起、106A,106B・・マイクロスイッチ、108・・接触子、120・・震動ドライバドリル、124・・クラッチ機構、125・・震動切替レバー、129・・第3インターナルギヤ、131・・ワッシャー、133・・チェンジリング、135・・連係リング、136・・前連係板、137,139・・傾斜案内部、138・・後連係板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを収容したハウジングの前方に突出されて前記モータから回転伝達される最終出力軸と、その最終出力軸を所定の動作モードで動作させる複数の動作機構と、前記動作モードを選択操作可能なモード切替部材と、前記最終出力軸の回転速度を高低二段階に切替可能な変速機構と、前記回転速度を選択操作可能な速度切替部材とを備えた電動工具であって、
前記モード切替部材と前記速度切替部材との間に、前記モード切替部材の所定の前記動作モードの選択操作に連係して前記速度切替部材を高速側に切替動作させ、前記回転速度を高速に保持させる連係手段を設けたことを特徴とする電動工具。
【請求項2】
前記モード切替部材の回転操作によって前記動作モードを選択可能とする一方、前記速度切替部材を、前記モード切替部材の後方で、高速となる前進位置と低速となる後退位置との間で前後方向へスライド可能に設けて、
前記連係手段を、前記モード切替部材の後方に連結されて一体回転する連係部材と、その連係部材の外面で回転方向に沿って設けられ、前記所定の動作モードの切替位置で前記前進位置の前記速度切替部材の下面と係合してその後退を規制する第1突部と、その第1突部から傾斜状に連設され、前記連係部材の回転に伴って前記後退位置の前記速度切替部材の下面と係合して前記速度切替部材を前進させて前記第1突部と係合させる第2突部とから構成したことを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記モード切替部材の回転操作によって前記動作モードを選択可能とする一方、前記速度切替部材を、前記モード切替部材の後方で、高速となる後退位置と低速となる前進位置との間で前後方向へスライド可能に設けて、
前記連係手段を、前記モード切替部材側に設けられて後方へ突出し、前記所定の動作モードの切替位置で前記後退位置の前記速度切替部材と当接してその前進を規制する連係板として、前記連係板の側辺に、前記モード切替部材の回転に伴って前記前進位置の前記速度切替部材と当接し、前記速度切替部材を前記後退位置にスライドさせる傾斜案内部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項4】
前記複数の動作機構は、前記最終出力軸に軸方向への震動を付与する震動機構を含み、前記所定の動作モードは、前記震動機構を作動させる震動ドリルモードであることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電動工具。
【請求項1】
モータを収容したハウジングの前方に突出されて前記モータから回転伝達される最終出力軸と、その最終出力軸を所定の動作モードで動作させる複数の動作機構と、前記動作モードを選択操作可能なモード切替部材と、前記最終出力軸の回転速度を高低二段階に切替可能な変速機構と、前記回転速度を選択操作可能な速度切替部材とを備えた電動工具であって、
前記モード切替部材と前記速度切替部材との間に、前記モード切替部材の所定の前記動作モードの選択操作に連係して前記速度切替部材を高速側に切替動作させ、前記回転速度を高速に保持させる連係手段を設けたことを特徴とする電動工具。
【請求項2】
前記モード切替部材の回転操作によって前記動作モードを選択可能とする一方、前記速度切替部材を、前記モード切替部材の後方で、高速となる前進位置と低速となる後退位置との間で前後方向へスライド可能に設けて、
前記連係手段を、前記モード切替部材の後方に連結されて一体回転する連係部材と、その連係部材の外面で回転方向に沿って設けられ、前記所定の動作モードの切替位置で前記前進位置の前記速度切替部材の下面と係合してその後退を規制する第1突部と、その第1突部から傾斜状に連設され、前記連係部材の回転に伴って前記後退位置の前記速度切替部材の下面と係合して前記速度切替部材を前進させて前記第1突部と係合させる第2突部とから構成したことを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記モード切替部材の回転操作によって前記動作モードを選択可能とする一方、前記速度切替部材を、前記モード切替部材の後方で、高速となる後退位置と低速となる前進位置との間で前後方向へスライド可能に設けて、
前記連係手段を、前記モード切替部材側に設けられて後方へ突出し、前記所定の動作モードの切替位置で前記後退位置の前記速度切替部材と当接してその前進を規制する連係板として、前記連係板の側辺に、前記モード切替部材の回転に伴って前記前進位置の前記速度切替部材と当接し、前記速度切替部材を前記後退位置にスライドさせる傾斜案内部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項4】
前記複数の動作機構は、前記最終出力軸に軸方向への震動を付与する震動機構を含み、前記所定の動作モードは、前記震動機構を作動させる震動ドリルモードであることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電動工具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−35090(P2013−35090A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171898(P2011−171898)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】
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