説明

電動巻上げ巻下げ装置

【課題】ロープドラムに駆動力を与えるモータに電動モータを採用した電動巻上げ巻下げ装置を提供する。
【解決手段】電動モータ11と、電動モータ11に第1の摩擦クラッチ12を介して連結される第1の歯車減速機構13と、第1の歯車減速機構13に連結される第2の歯車減速機構14と、第2の歯車減速機構14に第2の摩擦クラッチ15を介して連結されるロープドラム18とを有する電動巻上げ巻下げ装置10であって、第1の歯車減速機構13に第3の摩擦クラッチ50を介して、リリーフ弁56が接続された液圧ポンプ51を接続し、リリーフ弁56に並列接続されたアキュムレータ60を備え、ロープドラム18が繰り出し動作時に、第2、第3の摩擦クラッチ15、50をそれぞれ圧着状態、第1の摩擦クラッチ12を切離し状態にして液圧ポンプ51を作動させ、ロープドラム18の動作に抵抗を与えると共に、アキュムレータ60に液体を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タグボート等に搭載される、ロープの巻き上げ及び繰り出しが可能な電動巻上げ巻下げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タグボートには、タグボートによって引っ張られる船舶に繋げられるロープの巻き上げ及び繰り出しが可能な巻上げ巻下げ装置が設けられている。巻上げ巻下げ装置は、モータの駆動力によってロープが巻き付けられたロープドラムを回転させてロープの巻き上げ繰り出しを行う。
ここで、ロープを船舶に繋いだタグボートが船舶から遠ざかりロープドラムからロープが繰り出されるときにドラグ状態が発生した場合、ロープドラムの繰り出し動作に抵抗を与えロープに適度な張力を持たせることが必要となる。これは、ロープドラムをフリーな状態にしてロープを繰り出すと、ロープドラムの過回転によってロープの逆巻きなどのトラブルが発生し危険なためである。
【0003】
ロープドラムに、駆動力を与えるモータに油圧モータを用いる場合、ブレーキ弁が設けられた油圧回路によってロープドラムのロープ繰り出し動作に抵抗を与えロープドラムの過回転を防ぎ、更には油圧モータの破損保護も行っていた。
一方、油圧モータの代わりに電動モータを用いる場合には、電動モータをロープドラムに連結しロープドラムの回転力によって電動モータを回転させ、電動モータを抵抗体として機能させることが考えられる。この際、電動モータには回生電流が発生するので、この回生電流を処理する必要がある。インバータ制御の場合には、特許文献1に記載されている回生抵抗器によって、回生電流を熱に変換して処理することが考えられる。
また、油圧モータを用いる場合、油が油圧配管などから漏れて海に流出することが有り得るので、環境の観点から、流出の可能性がある油の量を少なくするか、皆無にするため、船に搭載されるモータには電動モータを採用することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−225093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ロープドラムに駆動力を与えるモータに電動モータを採用すると、回生電流が大きく、また回生電流の発生が長時間に及ぶ場合に、回生抵抗器の容量やインバータ制御器の容量が大きくなって設備全体の巨大化を招く。タグボートへの設置可能な装置には大きさに限界があり、実際に、電動モータを採用した電動巻上げ巻下げ装置はその大きさが課題となって製品化に至っていない。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされるもので、ロープドラムに駆動力を与えるモータに電動モータを採用した電動巻上げ巻下げ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る電動巻上げ巻下げ装置は、回転数可変型の電動モータと、該電動モータに第1の摩擦クラッチを介して連結される第1の歯車減速機構と、該第1の歯車減速機構に連結される第2の歯車減速機構と、該第2の歯車減速機構に第2の摩擦クラッチを介して連結されるロープドラムとを有する電動巻上げ巻下げ装置であって、前記第1の歯車減速機構に第3の摩擦クラッチを介して、リリーフ弁が接続された液圧ポンプを接続し、前記リリーフ弁に並列接続され、前記液圧ポンプから送り出される液体を蓄えるアキュムレータと、該アキュムレータから該液体を供給されて前記ロープドラムの回転を止めるブレーキ手段とを備え、前記ロープドラムが繰り出し動作時に、前記第2、第3の摩擦クラッチをそれぞれ圧着状態にし、前記第1の摩擦クラッチを切離し状態にして、該ロープドラムの動力を前記液圧ポンプに伝えて該液圧ポンプを作動させ、該ロープドラムの動作に抵抗を与えると共に、前記アキュムレータに前記液体を供給する。
【0007】
本発明に係る電動巻上げ巻下げ装置において、前記第2の歯車減速機構と前記ロープドラムとの間には第3の歯車減速機構が設けられているのが好ましい。
【0008】
本発明に係る電動巻上げ巻下げ装置において、前記第2の歯車減速機構に第4の摩擦クラッチを介してチェーンの巻き上げ繰り出しを行うチェーンホイルが連結されているのが好ましい。
【0009】
本発明に係る電動巻上げ巻下げ装置において、前記ブレーキ手段は、前記ロープドラムに設けられているブレーキドラムと、該ブレーキドラムの周囲に設けられているブレーキバンドと、該ブレーキバンドを前記ブレーキドラムに押し付ける液圧シリンダを有しているのが好ましい。
【0010】
本発明に係る電動巻上げ巻下げ装置において、前記第1、第3の摩擦クラッチをそれぞれ圧着状態にし、前記第2の摩擦クラッチを切離し状態にして、前記電動モータを駆動することによりポンプユニットとして機能するのが好ましい。
また、本発明に係る電動巻上げ巻下げ装置において、前記第4の摩擦クラッチを備える場合は、前記第1、第3の摩擦クラッチをそれぞれ圧着状態にし、前記第2、第4の摩擦クラッチを切離し状態にして、前記電動モータを駆動することによりポンプユニットとして機能するのが好ましい。
【0011】
本発明に係る電動巻上げ巻下げ装置において、前記液圧ポンプは、油圧ポンプ又は水圧ポンプであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る電動巻上げ巻下げ装置は、ロープドラムが繰り出し動作時に、第2、第3の摩擦クラッチをそれぞれ圧着状態にし、第1の摩擦クラッチを切離し状態にして、ロープドラムの動力を液圧ポンプに伝えて液圧ポンプを作動させ、ロープドラムの動作に抵抗を与えるので、電動モータを抵抗体として機能させることなく、ロープドラムの動作に抵抗を与えることが可能であり、電動モータを抵抗体として機能させることで生じる回生電流を処理する回生抵抗器を設ける必要がなく、電動巻上げ巻下げ装置全体の巨大化を回避することができる。
また、このとき、アキュムレータは、液圧ポンプの作動によって液体が供給され蓄圧されるので、液圧ポンプの作動によって生じるエネルギーを無駄にすることなく有効利用することが可能である。
【0013】
本発明に係る電動巻上げ巻下げ装置において、第2の歯車減速機構とロープドラムとの間に第3の歯車減速機構が設けられている場合、電動モータの駆動力の能力に合わせ効率的にロープドラムに与えることができる。
【0014】
本発明に係る電動巻上げ巻下げ装置において、第2の歯車減速機構に第4の摩擦クラッチを介してチェーンの巻き上げ繰り出しを行うチェーンホイルが連結されている場合、電動モータ1つによってロープドラム及びチェーンホイルの作動が可能となり、チェーンホイルのために、ロープドラムを作動させる電動モータとは別の駆動機器を設ける場合と比較して、電動巻上げ巻下げ装置を構成する部品、部材の点数を抑制でき経済的である。
【0015】
本発明に係る電動巻上げ巻下げ装置において、ブレーキ手段がブレーキドラムと、ブレーキバンドと、液圧シリンダを有している場合、ロープドラムを安定的に制動することが可能である。
【0016】
本発明に係る電動巻上げ巻下げ装置において、第1、第3の摩擦クラッチをそれぞれ圧着(結合)状態にし、第2の摩擦クラッチを切離し状態(第4の摩擦クラッチがある場合は、第4の摩擦クラッチも切離し状態)にして、電動モータを駆動することによりポンプユニットとして機能する場合、外部の機器を作動させるエネルギーを発生させることができ、このエネルギーをロープの巻き上げ繰り出し以外のために有効活用することが可能である。
【0017】
本発明に係る電動巻上げ巻下げ装置において、液圧ポンプが油圧ポンプ又は水圧ポンプである場合、液圧ポンプに汎用品を採用でき、電動巻上げ巻下げ装置全体の製造コストの抑制が可能であり、更に電動巻上げ巻下げ装置のメンテナンス性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電動巻上げ巻下げ装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る電動巻上げ巻下げ装置10は、回転数可変型の電動モータ11と、電動モータ11に第1の摩擦クラッチ12を介して連結される第1の歯車減速機構13と、第1の歯車減速機構13に連結される第2の歯車減速機構14と、第2の歯車減速機構14に第2の摩擦クラッチ15を介して連結されるロープドラム18とを有し、タグボートに搭載される装置である。以下、詳細に説明する。
【0020】
ロープドラム18は、図1に示すように、ロープ17が巻き付けられ、ドラム軸19が取り付けられている。
ロープ17はタグボートが牽引する船舶とタグボードを繋げるものであり、ロープドラム18の回転によって、ロープ17の巻き上げ又は繰り出し(巻き下げ)が行われる。
ドラム軸19は、軸受け20によって回転可能に支持され、ドラム軸19とロープドラム18は平行キー21によって固定されている。
【0021】
ロープドラム18には、ブレーキドラム22が設けられ、ブレーキドラム22の周囲にはブレーキドラム22の回転を止めるブレーキバンド23が設けられている。
ブレーキドラム22とロープドラム18は同軸上に配置されお互いに固定されているので、ブレーキドラム22とロープドラム18は一体となって回転、あるいは停止を行う。従って、ブレーキバンド23は、ブレーキドラム22の回転と共にロープドラム18の回転を止めることができる。
【0022】
ブレーキバンド23には、ブレーキバンド23をブレーキドラム22に押し付ける液圧シリンダ24が連結されている。ブレーキバンド23は、ロープドラム18の制動を行わないとき、ブレーキドラム22に非接触な状態であり、液圧シリンダ24の作動により、ブレーキドラム22に当接してブレーキドラム22を介してロープドラム18の制動を行う。
本実施の形態では液圧シリンダ24として油圧式あるいは水圧式の複動シリンダを用いているが、スプリング内蔵の単動シリンダを採用してもよい。
【0023】
ドラム軸19には、第3の歯車減速機構26が連結され、ロープドラム18は、第3の歯車減速機構26及び第2の摩擦クラッチ15を介して第2の歯車減速機構14に連結されている。そして、第2の歯車減速機構14は、第1の歯車減速機構13及び第1の摩擦クラッチ12を介して電動モータ11に連結されている。
従って、第1、第2の摩擦クラッチ12、15がそれぞれ圧着状態のとき、電動モータ11の駆動力は、第1、第2、第3の歯車減速機構13、14、26を介してドラム軸19に伝えられ、ロープドラム18を回転させる。
なお、第3の歯車減速機構26は、電動モータ11の駆動力の伝達方向に沿って、第2の歯車減速機構14とロープドラム18との間に設けられていることになる。
【0024】
電動モータ11は、回転方向が逆転可能であり、回転方向を逆転させることによって、ロープドラム18の回転方向を、ロープ17を巻き上げる方向からロープ17を繰り出す方向に切り替えることや、ロープ17を繰り出す方向からロープ17を巻き上げる方向に切り替えることができる。
また、電動モータ11は回転速度の調整を行うこともでき、ロープドラム18の回転速度は電動モータ11の回転速度に合わせて変化する。
【0025】
電動モータ11の出力軸27は、カップリング28を介して第1の摩擦クラッチ12に連結された回転軸29に連結されている。第1の摩擦クラッチ12は、平行キー30を介して回転軸29に固定されたクラッチブロック12aと、クラッチブロック12aに圧着(結合)可能なクラッチブロック12bを備えている。
クラッチブロック12aは常に電動モータ11の出力軸27及び回転軸29と共に回転する。これに対し、クラッチブロック12bは、クラッチブロック12aと圧着しているとき電動モータ11の出力軸27及び回転軸29と共に回転し、クラッチブロック12aと切離されているときには、電動モータ11の出力軸27から駆動力を与えられない状態になる。
なお、回転軸29は、軸受け31によって回転可能に支持されている。
【0026】
第1の歯車減速機構13には、クラッチブロック12bが固定されクラッチブロック12bと一体となって回転する小歯車13aと、小歯車13aと噛合している大歯車13bが設けられている。
大歯車13bには、大歯車13bの軸心方向に配置された回転軸32が、平行キー33を介して固定され、回転軸32は第2の歯車減速機構14に連結されている。
大歯車13bは、小歯車13aに比べて半径が長く、小歯車13aに入力された電動モータ11の出力軸27の回転力より大きな力を回転軸32を介して第2の歯車減速機構14に与えることができる。
なお、小歯車13aは、軸受け34を介して回転軸29に回転可能に支持されている。また、回転軸32は軸受け35によって回転可能に支持されている。
【0027】
第2の歯車減速機構14は、平行キー36によって回転軸32に固定された小歯車14aと小歯車14aに噛合している大歯車14bを備えている。
大歯車14bは、第2の摩擦クラッチ15を介して、第3の歯車減速機構26に連結されている。第2の摩擦クラッチ15が圧着状態のとき、大歯車14bの回転力は第3の歯車減速機構26に伝えられ、第2の摩擦クラッチ15が切離された状態のとき、大歯車14bの回転力は第3の歯車減速機構26に伝わらない。
【0028】
第3の歯車減速機構26は、第2の摩擦クラッチ15が固定された小歯車26aと小歯車26aに噛合している大歯車26bを備え、大歯車26bには、平行キー37を介してドラム軸19が固定されている。
従って、第1、第2の摩擦クラッチ12、15が共に圧着状態であれば、電動モータ11は、駆動力をロープドラム18に与えることができ、第1、第2の摩擦クラッチ12、15がいずれか一方でも切離し状態であると、電動モータ11の駆動力はロープドラム18に伝わらないことになる。よって、電動モータ11の駆動力がロープドラム18に伝わらない状態で、必要に応じてブレーキバンド23を液圧シリンダ24により緩めることによって、ロープドラム18をフリー回転状態にすることができる。
【0029】
第2の歯車減速機構14の大歯車14bと第3の歯車減速機構26の小歯車26aには、延長軸38が挿通しており、大歯車14b及び小歯車26aは、それぞれ延長軸38を中心に回転する。
なお、大歯車14b及び小歯車26aは、それぞれ軸受け39を介して延長軸38に回転可能に支持され、延長軸38は軸受け40によって回転可能に支持されている。
【0030】
延長軸38には、チェーン41を巻き付けたチェーンホイル42が、平行キー43を介して固定され、チェーンホイル42は延長軸38と一体的に回転する。
チェーン41には一端に図示しないアンカーが取り付けられており、このアンカーは、チェーンホイル42の回転によって、海底に落とされたり、海底から引き上げられたりする。
第2の歯車減速機構14の大歯車14bには、大歯車14bの回転力を延長軸38を介してチェーンホイル42に伝える第4の摩擦クラッチ44が取り付けられている。
従って、チェーン41の巻き上げ繰り出しを行うチェーンホイル42は、第2の歯車減速機構14に延長軸38及び第4の摩擦クラッチ44を介して連結されていることになる。
【0031】
第4の摩擦クラッチ44は、大歯車14bに固定されたクラッチブロック44aと、延長軸38に平行キー45を介して固定されたクラッチブロック44bを備えている。クラッチブロック44a、44bが圧着されているとき、チェーンホイル42は、小歯車14a及び大歯車14bと共に回転し、クラッチブロック44a、44bが切離されているとき、チェーンホイル42は小歯車14a及び大歯車14bとは独立して回転可能な状態になる。
【0032】
チェーンホイル42には、チェーンホイル42と一体となって回転するブレーキドラム46が併設され、ブレーキドラム46の周囲には、ブレーキドラム46及びチェーンホイル42の回転を止めるブレーキバンド47が配置されている。ブレーキバンド47には、ブレーキバンド47をブレーキドラム46に押し付ける液圧シリンダ48が連結され、ブレーキバンド47は液圧シリンダ48から与えられる力によってブレーキドラム46に当接してブレーキドラム46と共にチェーンホイル42を制動する。
よって、クラッチブロック44a、44bが切離されているときにブレーキバンド47を液圧シリンダ48により緩めることによって、チェーンホイル42をフリー回転させアンカーをフリー投錨できる。
本実施の形態では、液圧シリンダ48に油圧式の複動シリンダを用いているが、スプリング内蔵の単動シリンダを採用することもできる。
【0033】
また、第1の歯車減速機構13には、回転軸32と、回転軸32に装着された第3の摩擦クラッチ50を介して液圧ポンプ51が接続されている。
第3の摩擦クラッチ50は、平行キー52を介して回転軸32に固定されたクラッチブロック50a及びクラッチブロック50aと圧着可能なクラッチブロック50bを備えている。
液圧ポンプ51は出力軸53を備え、回転軸32はカップリング54を介して、この出力軸53に連結されている。
ここで、第1、第2、第3、第4の摩擦クラッチ12、15、50、44としては、電磁クラッチ又は油圧式クラッチを採用することができる。
【0034】
クラッチブロック50aは、常に第1の歯車減速機構13の大歯車13b及び第2の歯車減速機構14の小歯車14aと共に回転する。
一方、液圧ポンプ51の出力軸53とクラッチブロック50bは、クラッチブロック50a、50bが圧着されているとき、第1の歯車減速機構13の大歯車13b及び第2の歯車減速機構14の小歯車14aと共に回転し、クラッチブロック50a、50bが切離されているとき、第1の歯車減速機構13の大歯車13b及び第2の歯車減速機構14の小歯車14aから動力が伝わらなくなり回転しない状態になる。
液圧ポンプ51としては、油圧ポンプ又は水圧ポンプを採用することができる。
【0035】
液圧ポンプ51は、液体(油又は水)が循環する循環回路55を介してリリーフ弁56及び液体タンク57に接続されている。循環回路55は、液圧ポンプ51の出側で分岐して、液圧ポンプ51を減圧弁58及びチェック弁59を介してアキュムレータ60に接続する分岐路61を形成している。
液圧ポンプ51の作動によって液体タンク57から出て液圧ポンプ51を通過した液体は、リリーフ弁56を介して液体タンク57に戻ると共に、減圧弁58及びチェック弁59を介してアキュムレータ60に供給される。
このため、液圧ポンプ51が作動すると、リリーフ弁56に並列接続されたアキュムレータ60には、液圧ポンプ51から送り出された液体が蓄えられる。このため、液圧ポンプ51が作動している間、アキュムレータ60内の圧力は所定値まで上昇する。
【0036】
リリーフ弁56に接続された液圧ポンプ51から送り出される液体は、リリーフ弁56を通過の際にリリーフ弁56から抵抗を受ける。この抵抗が大きいほど、液圧ポンプ51には大きな負荷がかかり、液圧ポンプ51を作動するためには大きな動力が必要となる。
リリーフ弁56は設定圧力が固定のタイプであり、電磁切換弁62を介してリリーフ弁63に接続されている。リリーフ弁63は、リリーフ弁56と異なり、リリーフ弁63に設けられたダイヤル操作によって設定圧力の変更が可能である。
電磁切換弁62は、リリーフ弁56、63を接続している流路を開閉し、リリーフ弁56、63の連結状態及び非連結状態を切り替えることができる。
【0037】
リリーフ弁56、63が連結状態のとき、リリーフ弁63の設定圧力が優先し、リリーフ弁56がリリーフ弁56を通過する液体に対して与える抵抗は、リリーフ弁63の設定圧力の影響を受ける。具体的には、リリーフ弁63の設定圧力が大きいと、リリーフ弁56を通過する液体がリリーフ弁56から受ける抵抗は大きくなり、リリーフ弁63の設定圧力が小さいと、液体がリリーフ弁56から受ける抵抗は小さくなる。
一方、リリーフ弁56、63が非連結状態のとき、リリーフ弁56の設定圧力が優先し、リリーフ弁56はリリーフ弁63の設定圧力の影響を受けず、液体がリリーフ弁56から受ける抵抗の大きさは、リリーフ弁56自体の設定圧力によって決定される。
【0038】
このように、リリーフ弁63を用いることでリリーフ弁56の液体に与える抵抗の調整は、遠隔操作(即ち、リリーフ弁56はベント回路による遠隔操作)が可能になっている。
これによって、リリーフ弁56を液圧ポンプ51や複数の歯車減速機構の近くで、操作人の常駐場所から遠く離れた位置に配置し、リリーフ弁63を操作人の常駐場所の近くに配置することができる。
ここで、循環回路55を形成する導管には、リリーフ弁56、63を接続する導管63aより太いものを使用する必要がある。このため、リリーフ弁56の代わりにリリーフ弁63のような設定圧力が可変のリリーフ弁を用い、これを液圧ポンプ51や複数の歯車減速機構のある場所から遠く離れた場所に配置する場合には、循環回路を形成する太い導管が長くなり、配管作業が複雑になるばかりでなく、循環回路を循環する液体量を増加させる必要が生じる。
【0039】
また、アキュムレータ60は、電磁切換弁64を介して液圧シリンダ24に接続され、電磁切換弁65を介して液圧シリンダ48に接続されている。
電磁切換弁64(電磁切換弁65についても同じ)は、アキュムレータ60と液圧シリンダ24(電磁切換弁65の場合は液圧シリンダ48、以下同じ)を接続する流路を開閉することや流路の流れ方向を切り替えることができる。
電磁切換弁64の切り替え動作によって、アキュムレータ60から液圧シリンダ24に液体が供給されると、液圧シリンダ24はブレーキバンド23をブレーキドラム22に押し付け、ブレーキドラム22と共にロープドラム18を制動する。
【0040】
ブレーキバンド23がブレーキドラム22に押し付けられている状態で、電磁切換弁64が作動して、アキュムレータ60から液圧シリンダ24に供給されている液体の流れ方向が切り替えられると、液圧シリンダ24が作動して、ブレーキバンド23はブレーキドラム22から離れ、ロープドラム18及びブレーキドラム22の制動状態は解放される。
アキュムレータ60と液圧シリンダ24が電磁切換弁64によって遮断されたとき、ロープドラム18の制動状態、解放状態のいずれかが維持される。
なお、アキュムレータ60から液体を供給されてロープドラム18の回転を止めるブレーキ手段が、ブレーキドラム22と、ブレーキバンド23と、液圧シリンダ24を有して構成されている。
【0041】
次に、第1、第2、第3、第4の摩擦クラッチ12、15、50、44とロープドラム18、電動モータ11及び液圧ポンプ51の関係について説明する。
第1、第2の摩擦クラッチ12、15を圧着状態、第3、第4の摩擦クラッチ50、44を切離した状態で、電動モータ11を作動すると、ロープドラム18は電動モータ11の駆動力によってロープ17の巻き上げ繰り出しを行う。一方、チェーンホイル42及び液圧ポンプ51は、電動モータ11の駆動力が伝わらず共に停止している。
電動モータ11の駆動力によってチェーンホイル42を回転させるためには、第4の摩擦クラッチ44を圧着する必要がある。
【0042】
また、電動巻上げ巻下げ装置10を搭載しているタグボート(以下、単に「タグボート」という)とタグボートに引っ張られる船舶(以下、単に「船舶」という)をロープ17で繋いだ状態でタグボートが船舶から離れるためには、ロープドラム18はロープ17に所定範囲の張力をかけつつ、ロープ17を繰り出す必要がある。これは、ロープドラム18が過回転するのを防止するためである。
ロープドラム18がこの繰り出し動作を行っているとき、第2、第3の摩擦クラッチ15、50は圧着状態、第1、第4の摩擦クラッチ12、44は切離し状態にされ、ロープドラム18の回転力(即ち、ロープドラム18の動力)を液圧ポンプ51に伝えて液圧ポンプ51を作動させるようにする。
【0043】
このとき液圧ポンプ51は抵抗体として機能し、ロープドラム18の回転動作に抵抗を与え、結果として、ロープ17に張力をかけることができる。そして、この間、液圧ポンプ51は作動しているので、アキュムレータ60には液体が供給され、アキュムレータ60内は高圧となって、液圧シリンダ24、48に液体を供給可能な状態を確保することがきる。
一方、第1の摩擦クラッチ12は切離されているため、電動モータ11にはロープドラム18の回転力が伝わらず、電動モータ11は停止している。
また、張力をかけながらロープ17を繰り出す際、液圧ポンプ51をロープドラム18に連結するのに加え、液圧シリンダ24によってブレーキバンド23をブレーキドラム22に押し当てロープドラム18の回転動作に抵抗を与えるようにすることもできる。
【0044】
ここで、ロープドラム18がロープ17の繰り出し動作を行う際、前述したように最初から液圧ポンプ51を抵抗体として機能させることもできるが、第1、第2の摩擦クラッチ12、15を圧着状態、第3、第4の摩擦クラッチ50、44を切離した状態で、電動モータ11を作動してロープドラム18のロープ17を繰り出してもよい。
そして、電動モータ11の駆動力によってロープ17の繰り出しを行っている最中にドラグ状態になったときには、即座に第1、第3の摩擦クラッチ12、50を切り替えて、第2、第3の摩擦クラッチ15、50を圧着状態、第1、第4の摩擦クラッチ12、44を切離し状態にし、液圧ポンプ51を抵抗体にすることでロープドラム18の過回転を防止することが可能である。
【0045】
このような制御を行うことにより、電動モータ11に生じる回生電流の増大化と回生電流の発生の長時間化が抑制でき、電動モータ11に搭載する回生抵抗器の巨大化が回避可能となる。そして、結果として、電動巻上げ巻下げ装置10全体の大きさをタグボートに搭載可能な範囲に収めることができる。
【0046】
そして、タグボートが、タグボートにロープ17で繋がれた船舶から所定以上離れた位置まで移動すると、タグボートは曳航を開始する。このとき、第1、第2、第3、第4の摩擦クラッチ12、15、50、44は全て切離し状態となり、ロープドラム18は液圧シリンダ24によって制動状態にされる。
また、第1、第3の摩擦クラッチ12、50を圧着状態、第2、第4の摩擦クラッチ15、44を切離し状態にして、電動モータ11を駆動すると、液圧ポンプ51が電動モータ11の駆動力によって作動する。このため、電動巻上げ巻下げ装置10はポンプユニットとして機能することも可能である。
電動巻上げ巻下げ装置10がポンプユニットとして機能するとき、アキュムレータ60には液圧ポンプ51から液体が供給されるので、アキュムレータ60を液圧シリンダ24、48に液体を供給可能な状態にすることもできる。また、ポンプユニットとして機能することによって発生するエネルギーを外部へ供給することも可能である。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、電動巻上げ巻下げ装置には、アンカーが取り付けられたチェーンを巻き上げる機構を設けず、電動巻上げ巻下げ装置とは別にこのチェーン巻き上げる機器を設けても良い。
また、第3の歯車減速機構を設けず、ロープドラムのドラム軸を第2の摩擦クラッチに直接連結することもできる。
【符号の説明】
【0048】
10:電動巻上げ巻下げ装置、11:電動モータ、12:第1の摩擦クラッチ、12a、12b:クラッチブロック、13:第1の歯車減速機構、13a:小歯車、13b:大歯車、14:第2の歯車減速機構、14a:小歯車、14b:大歯車、15:第2の摩擦クラッチ、17:ロープ、18:ロープドラム、19:ドラム軸、20:軸受け、21:平行キー、22:ブレーキドラム、23:ブレーキバンド、24:液圧シリンダ、26:第3の歯車減速機構、26a:小歯車、26b:大歯車、27:出力軸、28:カップリング、29:回転軸、30:平行キー、31:軸受け、32:回転軸、33:平行キー、34、35:軸受け、36、37:平行キー、38:延長軸、39、40:軸受け、41:チェーン、42:チェーンホイル、43:平行キー、44:第4の摩擦クラッチ、44a、44b:クラッチブロック、45:平行キー、46:ブレーキドラム、47:ブレーキバンド、48:液圧シリンダ、50:第3の摩擦クラッチ、50a、50b:クラッチブロック、51:液圧ポンプ、52:平行キー、53:出力軸、54:カップリング、55:循環回路、56:リリーフ弁、57:液体タンク、58:減圧弁、59:チェック弁、60:アキュムレータ、61:分岐路、62:電磁切換弁、63:リリーフ弁、63a:導管、64、65:電磁切換弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転数可変型の電動モータと、該電動モータに第1の摩擦クラッチを介して連結される第1の歯車減速機構と、該第1の歯車減速機構に連結される第2の歯車減速機構と、該第2の歯車減速機構に第2の摩擦クラッチを介して連結されるロープドラムとを有する電動巻上げ巻下げ装置であって、
前記第1の歯車減速機構に第3の摩擦クラッチを介して、リリーフ弁が接続された液圧ポンプを接続し、前記リリーフ弁に並列接続され、前記液圧ポンプから送り出される液体を蓄えるアキュムレータと、該アキュムレータから該液体を供給されて前記ロープドラムの回転を止めるブレーキ手段とを備え、
前記ロープドラムが繰り出し動作時に、前記第2、第3の摩擦クラッチをそれぞれ圧着状態にし、前記第1の摩擦クラッチを切離し状態にして、該ロープドラムの動力を前記液圧ポンプに伝えて該液圧ポンプを作動させ、該ロープドラムの動作に抵抗を与えると共に、前記アキュムレータに前記液体を供給することを特徴とする電動巻上げ巻下げ装置。
【請求項2】
請求項1記載の電動巻上げ巻下げ装置において、前記第2の歯車減速機構と前記ロープドラムとの間には第3の歯車減速機構が設けられていることを特徴とする電動巻上げ巻下げ装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電動巻上げ巻下げ装置において、前記第2の歯車減速機構に第4の摩擦クラッチを介してチェーンの巻き上げ繰り出しを行うチェーンホイルが連結されていることを特徴とする電動巻上げ巻下げ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載の電動巻上げ巻下げ装置において、前記ブレーキ手段は、前記ロープドラムに設けられているブレーキドラムと、該ブレーキドラムの周囲に設けられているブレーキバンドと、該ブレーキバンドを前記ブレーキドラムに押し付ける液圧シリンダを有していることを特徴とする電動巻上げ巻下げ装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載の電動巻上げ巻下げ装置において、前記第1、第3の摩擦クラッチをそれぞれ圧着状態にし、前記第2の摩擦クラッチを切離し状態にして、前記電動モータを駆動することによりポンプユニットとして機能することを特徴とする電動巻上げ巻下げ装置。
【請求項6】
請求項3記載の電動巻上げ巻下げ装置において、前記第1、第3の摩擦クラッチをそれぞれ圧着状態にし、前記第2、第4の摩擦クラッチを切離し状態にして、前記電動モータを駆動することによりポンプユニットとして機能することを特徴とする電動巻上げ巻下げ装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1に記載の電動巻上げ巻下げ装置において、前記液圧ポンプは、油圧ポンプ又は水圧ポンプであることを特徴とする電動巻上げ巻下げ装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−1501(P2013−1501A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133459(P2011−133459)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【特許番号】特許第4808287号(P4808287)
【特許公報発行日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(391009604)マリンハイドロテック株式会社 (6)