説明

電動機の回転子

【課題】回転位置検出器の回転方向検出原点と回転子磁極位置を相対的に一定の角度に位置決め可能な電動機の回転子を提供することを目的とする。
【解決手段】電動機の回転子は、回転自在に支持された回転軸9と、前記回転軸9に固定されるとともに所定のスキュー角が与えられた状態で複数の電磁鋼板を積層配置した回転子鉄心15と、を有する。前記回転子鉄心15は、内側に向かって突出したキー突部21が設けられ、前記回転軸9が挿通されて当該回転軸9と係合する内周孔を有している。前記回転軸9は、前記回転子鉄心15と係合する外周面に設けられ、回転子鉄心両端のキー突部21の側面と当接する幅を有し、かつ、軸方向に対して平行な、回転子鉄心の位置決め用キー溝23を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の固定子、特にスキュー角をもって積層配置された電動機の回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
同期電動機は、回転位置検出器により、固定子に対する回転子磁極の回転位置を正確に検出し、スロットに巻回した巻線に最適な電流を流すことにより、位置制御、速度制御を行いながら電動機を駆動する。このため、回転子に関しては、回転位置検出器の回転方向検出原点と、回転子磁極と、が相対的に一定の角度になるように、位置決めする必要がある。
【0003】
正確に位置決めできていない場合、固定子に対する回転子磁極位置を、回転位置検出器により正確に検出できない。その結果、回転子磁極の位置に応じた最適なスロット位置に電流を流すことが出来なくなり、電動機の出力が低下する。
【0004】
また、この出力の低下を避けるために、電動機ごとに回転位置検出器の回転方向検出原点と回転子磁極との角度誤差を、電気的に補正する方法もある。しかし、回転位置検出器を交換した場合には、角度誤差も変わることになるため、再度補正データを変更する必要がある。しかも、この補正データは、機械に搭載した状態では、最適データを求めることが困難であるため、回転位置検出器の回転方向検出原点と回転子磁極とを、相対的に一定の角度に位置決めする方法を採用することが望ましい。
【0005】
図6は、下記特許文献1に開示された同期電動機の横断面図、図7は図6で示した電動機の回転子を構成する固定子鉄心の縦断面図である。
【0006】
図示した同期電動機においては、回転リップルを減少させるためにスキュー技術を用いることが多い。スキューは、固定子、回転子のどちらで行っても良いが、回転子で行うことが多い。
【0007】
スキューを回転子で行う理由を説明する。固定子の製造方法としては、電磁鋼板を積層し、固定子鉄心を形成した後、巻線をスロットに巻回する。巻回方法は、巻線をあらかじめ別の巻線機で巻いておき、それを固定子の内径に形成されたスロット開口部より挿入する方法で行われる。一般的に、巻線を巻回する作業は、少量生産の場合は、手作業で行われるが、量産の場合は、製造コストを抑えるために、巻線挿入機を用いて行われることが多い。少量生産では手作業による挿入のため、固定子にスキューが施されていても作業することができるが、スキューが施されていない場合に比べると、スロットがねじれているため、作業性は悪くなる。一方、量産の巻線挿入機を用いる場合は、スキューした固定子鉄心のスロットに巻線挿入機の治具を挿入することが出来ないため、スキューを施した固定子には巻回できず、挿入機を用いての作業時間の短縮は望めない。
【0008】
これに対して、回転子にスキューを施す場合は、電磁鋼板を回転方向にスキューした積層回転子鉄心を、回転軸に挿入するだけで実現できる。尚、電磁鋼板をスキューして積層する方法については、現在、順送金型内にて自動積層する技術が確立されており、工数増無しで容易に行うことができる。
【0009】
図6、図7を参照して、回転子にスキューを施した従来の回転位置検出器の回転方向検出原点と回転子磁極を相対的に一定の角度に位置決めする方法を説明する。
【0010】
図6、図7において、固定子2はフレーム11に固定され、このフレーム11に設けた軸受10に回転軸9が支持されている。また、回転子鉄心15は、内径にキー突部21が設けられた円盤状の電磁鋼板12をそれぞれ回転方向に微小量ずつずらして回転軸方向に積層することで構成されている。この回転子鉄心15は、回転軸9の外周面に設けられた電磁鋼板12の内径のキー突部21に嵌合する幅で、かつ、積層した回転子鉄心15と同一のリード角となるように加工されたスキューキー溝22に沿わせるようにして嵌合されている。さらに、軸後端9aの回転位置検出器取付部には、回転軸9に加工したスキューキー溝22と相対的に一定の角度に回転位置検出器8の回転方向位置決め用キー溝17が加工されている。そして、回転位置検出器8の図示されていない位置決めピンがキー溝17に嵌合するように固定されることにより、回転位置検出器の回転方向検出原点と回転子磁極とが相対的に一定の角度に位置決めできるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−289729号公報
【特許文献2】実開昭63−187544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記の従来技術では、以下のような課題があった。回転軸9の外周面に設けられたスキューキー溝22と回転軸端9aの回転位置検出器の回転方向位置決め用キー溝17の加工を1台の工作機械で行う場合は、回転軸の旋削加工と溝加工を一度に行うことができるミーリング機能付の旋盤を用いる。ただし、スキューキー溝22を加工する場合の旋盤の制御誤差により、相対角度誤差が生じるという問題がある。これは、キー溝17を加工する場合は、回転軸をブレーキで固定するため角度誤差は発生しないが、スキューキー溝22を加工する場合は、工具を回転軸と平行に動かすと同時に、回転軸を回転子のスキュー角度に応じたリード角度だけ回転させる必要があるため、この回転子を回転させる際の制御遅れにより角度誤差が発生するためである。
【0013】
さらに、スキューキー溝自体がリード角を有しているため、前記スキューキー溝22と回転位置検出器の回転方向位置決め用キー溝17との相対角度の検査が、容易に行うことができないという問題もある。
【0014】
本発明は上記課題を解決するもので、回転位置検出器の回転方向検出原点と回転子磁極位置とを相対的に一定の角度に位置決め可能な電動機の回転子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の電動機の回転子は、回転自在に支持された回転軸と、前記回転軸に固定されるとともに所定のスキュー角が与えられた状態で複数の電磁鋼板を積層配置した回転子鉄心と、を有する電動機の回転子であって、前記回転子鉄心は、内側に向かって突出したキー突部が設けられ、前記回転軸が挿通されて当該回転軸と係合する内周孔を有しており、前記回転軸は、前記回転子鉄心と係合する外周面に設けられ、回転子鉄心両端のキー突部の側面と当接する幅を有し、かつ、軸方向に対して平行な、回転子鉄心の位置決め用キー溝を有している、ことを特徴とする。
【0016】
他の好適な態様では、前記回転子鉄心は、所定の積層厚で複数個の分割片に分割されており、前記複数の分割片は、個々に所定のスキュー角が与えられた状態で回転軸に積層される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、回転子鉄心の位置決め用キー溝が、回転軸方向に対して平行に形成されており、加工時に回転軸が回転しないため、制御遅れによる角度誤差は発生しない。よって、回転位置検出器の回転方向検出原点と回転子磁極位置を相対的に一定の角度に位置決めができるため、電動機の出力低下を防ぐことができる。さらに、回転子鉄心の位置決め用キー溝は回転軸方向に平行に形成されているため、回転位置検出器の回転方向位置決め用キー溝との相対角度を簡単な検査治具を用いて容易に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)本発明の第一実施形態を示す電動機の回転子の側面図、(b)同図におけるA−A断面図である。
【図2】図1で示した電動機の回転軸に回転子鉄心を挿入する説明図である。
【図3】本発明の第二実施形態を示す電動機の回転子の側面図である。
【図4】同期電動機にて、回転位置検出器の回転方向位置決めにオルダム形状を用いた場合の例である。
【図5】同期電動機にて、回転位置検出器の回転方向位置決めにピンを用いた場合の例である。
【図6】特許文献1に開示された同期電動機の横断面図である。
【図7】図6で示した電動機の回転子を構成する固定子鉄心の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。図1、図2、図3において、1は回転子、9は回転軸、12は電磁鋼板、13はバランス用取付カラー、15は前記電磁鋼板を積層した回転子鉄心、17は回転位置検出器の回転方向位置決め用キー溝、21は前記電磁鋼板のキー突部、23は前記回転軸に設けられた前記回転子鉄心の位置決め用キー溝である。
【0020】
第一実施形態
本発明の第一実施形態について、図1、図2を参照して説明する。図1(a)は本発明の第一実施形態である電動機の回転子の側面図、図1(b)は図1(a)におけるA−A断面図である。図2は、図1に示した電動機の回転軸に回転子鉄心を挿入した様子を説明する図である。電動機の回転子に用いられる回転子鉄心15は、内径にキー突部21を設けた円盤状の電磁鋼板12をそれぞれ回転方向に微小量ずつずらしながら回転軸方向に積層することで構成される。そして、かかる構成とすることで、キー突部21が、スキュー角に応じたリード角度を有することになる。
【0021】
一方、回転軸9の外周面には、キー突部21の両端の側面21a,21bと当接する幅で、かつ、軸方向に対して平行な、回転子鉄心の位置決め用キー溝23が加工されている。このキー溝23に、回転子鉄心の一方端側(図2におけるA視図)のキー突部側面21aを回転軸のキー溝側面23aに、回転子鉄心の他方端側(図2におけるB視図)のキー突部側面21bを回転軸のキー溝側面23bに、当接させながら挿入する。これにより、回転子鉄心15がキー溝23に対して位置決めされ、所定のスキュー角をもって積層される。さらに、回転軸後端9aの回転位置検出器取付部には、回転位置検出器8の回転方向位置決め用キー溝17が、回転軸9に加工したキー溝23と相対的に一定の角度を有した状態で軸方向に平行に加工されている。回転位置検出器8は、このキー溝17に合わせて装着される。その結果、回転位置検出器8の回転方向検出原点と回転子の磁極位置とを、相対的に一定の角度に位置決めすることができる。なお、通常、回転子鉄心15は、回転軸9に接着や、焼バメにより固定される。
【0022】
また、キー溝23とキー溝17の相対角度の検査は、例えば、断面環状の円筒体の内側面に、キー溝23とキー溝17に嵌合する平行ピンを所定の相対角度に突出形成された検査治具を用いて行うことができる。すなわち、こうした検査治具の中に、回転軸9を挿入し、問題なく回転軸を検査治具に挿入できれば、キー溝23とキー溝17の相対角度は所定の角度に配置されていることがわかる。この検査方法であれば、短時間かつ容易に検査を行うことができる。
【0023】
第二実施形態
次に、本発明の第二実施形態について説明する。図3は本発明の第二実施形態である電動機の回転子の側面図である。
【0024】
第二実施形態の回転子が第一実施形態と異なる点は、回転子鉄心を所定の積層厚で複数個に分割する点である。通常回転子鉄心15は、順送金型を使用したプレス加工で加工した同一形状の電磁鋼板を金型内でカシメを利用して自動積層させる。しかし、金型による積層厚には限界があり、この限界積層厚を超えた積層厚の電動機を製作する場合には、回転子鉄心15を所定の積層厚で複数の分割片に分割し、この複数の分割片を、それぞれに所定のスキュー角が与えられた状態で回転軸に挿入する必要がある。かかる構成とすることで、第一実施形態と同様の効果が得られる。
【0025】
なお、回転位置検出器8の回転方向位置決め用キー溝17は、上述した実施形態では軸方向に平行に加工された形状で説明しているが、回転位置検出器8の回転方向検出原点と回転子の磁極位置とが相対的に一定の角度に位置決めすることができるのであれば、軸方向に平行でなくてもよい。例えば、図4に示すようなオルダム形状を用いて位置決めする構造や、図5に示すようなピン20を用いて位置決めする構造等、回転位置検出器8が所定の角度に固定できる構造であれば、上述した実施形態と同様の効果が得られる。
【0026】
なお、キー溝23と軸方向に平行に加工されたキー溝17の相対角度の検査方法については、断面環状の円筒体の内側面に、キー溝23とキー溝17に嵌合する平行ピンを所定の相対角度に突出形成させた検査治具を用いる方法を記載した。図4に示すオルダム形状の場合も同様に、回転軸9のオルダム凹部24とキー溝23に嵌合する平行ピンを断面環状の円筒体の内側面に所定の相対角度に突出形成させた検査治具を用いて検査することができる。一方で、図5に示すピン20を用いた構造の場合は、前記円筒状の検査治具を挿入しようとしても、平行ピンがピン穴に嵌らないため、挿入することができず、この容易な検査方法を採用できない。したがって、回転位置検出器8の回転方向位置決め用キー溝の形状については、軸方向に平行に加工された形状や、図4のオルダム形状の様な前記検査治具が軸方向から挿入できるような形状であることが望ましい。
【符号の説明】
【0027】
2 固定子、8 回転位置検出器、9 回転軸、10 軸受、11 フレーム、12 電磁鋼板、15 回転子鉄心、17 回転位置検出器の回転方向位置決め用キー溝、21 キー突部、22 スキューキー溝、23 回転子鉄心の位置決め用キー溝、24 オルダム凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持された回転軸と、前記回転軸に固定されるとともに所定のスキュー角が与えられた状態で複数の電磁鋼板を積層配置した回転子鉄心と、を有する電動機の回転子であって、
前記回転子鉄心は、内側に向かって突出したキー突部が設けられ、前記回転軸が挿通されて当該回転軸と係合する内周孔を有しており、
前記回転軸は、前記回転子鉄心と係合する外周面に設けられ、回転子鉄心両端のキー突部の側面と当接する幅を有し、かつ、軸方向に対して平行な、回転子鉄心の位置決め用キー溝を有している、
ことを特徴とする電動機の回転子。
【請求項2】
請求項1に記載の回転子であって、
前記回転子鉄心は、所定の積層厚で複数個の分割片に分割されており、
前記複数個の分割片は、個々に所定のスキュー角が与えられた状態で回転軸に積層される、
ことを特徴とする電動機の回転子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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