説明

電動機の絶縁劣化診断方法

【課題】対象とする電動機を特定の雰囲気状態とすることなく、簡易に絶縁劣化を診断する。
【解決手段】電動機の絶縁劣化を診断する絶縁劣化診断方法である。回転子及び固定子の少なくとも一方に付着しているダストを採取するダスト採取ステップS1と、ダスト採取ステップS1で採取したダスト中に存在する絶縁物材料の割合を推定する絶縁物比率取得ステップS2と、上記絶縁物比率取得ステップS2で推定した絶縁物材料の割合に基づき絶縁劣化を判断する劣化判断ステップS3と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄用の大型電動機などの電動機に対する、絶縁劣化を診断する技術に関する。なお、診断対象となる電動機は、直流電動機又は交流電動機である。又、本明細書にいう電動機には、発電機も含まれる。
【背景技術】
【0002】
一般に、電動機の寿命は絶縁物の劣化に依存する。その絶縁物の劣化を診断する最も一般的な診断方法として、絶縁抵抗を測定する方法がある。しかし、絶縁抵抗は湿度依存性が高いため、明確に劣化度合を評価しにくい。
そのため最近では、特許文献1に記載されるような技術が採用されている。この技術は、m値(絶縁抵抗値の湿度依存性評価)によって絶縁劣化を診断する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−162481号公報(図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の診断方法では、電動機を所定の湿度雰囲気(50%、70%)とする必要があるという課題がある。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、対象とする電動機を特定の雰囲気状態とすることなく、簡易に絶縁劣化を診断することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、電動機の絶縁劣化を診断する絶縁劣化診断方法であって、
回転子及び固定子の少なくとも一方に付着しているダストを採取するダスト採取ステップと、ダスト採取ステップで採取したダスト中に存在する絶縁物材料の割合を推定する絶縁物比率取得ステップと、上記絶縁物比率取得ステップで推定した絶縁物材料の割合に基づき絶縁劣化を判断する劣化判断ステップと、を備えることを特徴とするものである。
【0006】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、ダスト採取ステップは、ダストを面状分布させて採取し、
絶縁物比率取得ステップは、ダストが面状分布した面内における、絶縁物材料が存在する面積の割合を推定し、
劣化判断ステップは、上記絶縁物材料が存在する面積の割合が所定比率以上の場合、若しくは当該面積の割合の単位時間当たりの増加割合が所定以上の場合に、絶縁劣化と判断する、
ことを特徴とするものである。
【0007】
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1又は請求項2に記載した構成に対し、絶縁物材料がマイカである、電動機の絶縁劣化を診断する絶縁劣化診断方法であって、
カリウム、シリコン、及びアルミニウムが共存する部分を絶縁物材料が存在する部分とすることを特徴とするものである。
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1又は請求項2に記載した構成に対し、絶縁物がアラミド絶縁材料(例えば、アラミド絶縁紙であるノーメックス(登録商標))である、電動機の絶縁劣化を診断する絶縁劣化診断方法であって、
炭素、酸素、及び窒素が共存する部分を絶縁物材料が存在する部分とすることを特徴とするものである。
【0008】
次に、請求項5に記載した発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した構成に対し、診断対象とする上記電動機が直流電動機であることを特徴とするものである。
次に、請求項6に記載した発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した構成に対し、診断対象とする上記電動機が交流電動機であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、直流電動機や交流電動機の回転子や固定子に付着するダストに含まれる絶縁物材料の割合によって、絶縁劣化を診断する。このため、対象とする電動機を特定の雰囲気状態とすることなく、簡易に絶縁劣化を診断することが可能となる。
なお、電動機の特性(直流電動機や交流電動機)に応じて、ダストの採取部位を変更すると良い。
このとき、請求項2に係る発明によれば、例えば粘着テープなどの簡易な方法でダストを面状に採取でき、また、絶縁物材料の存在部分の面積比率によって、絶縁劣化を診断することが可能となる。なお、一旦採取したダストを面状に分布させることで、ダストを面状分布状態としても良い。
【0010】
また、請求項3に係る発明によれば、絶縁物の主成分がマイカである場合に、カリウム、シリコン、及びアルミニウムが共存する部分を絶縁物材料が存在する部分とすることで、簡易に、絶縁物材料の特定が可能となる。
また、請求項4に係る発明によれば、絶縁物がアラミド絶縁材料である場合に、炭素、酸素、及び窒素が共存する部分を絶縁物材料が存在する部分とすることで、簡易に、絶縁物材料の特定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る劣化診断方法の工程を示す図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係る、マイカ成分の元素マッピングを模式的に表した図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る電動機の余寿命とマイカ面積率との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
以下の実施形態では、診断対象とする電動機が直流電動機の場合を例にして説明する。また、電動機の絶縁材料としてマイカが使用されている場合を例にして説明する。
絶縁物の重要な主成分であるマイカは、機械的・熱的な劣化が進行すると破損し、破損したマイカはマイカ粉として電動機内部から飛び出していく。その飛散したマイカ粉がダストとして電動機に付着する。
このことに着目して、本実施形態では、電動機に付着したダスト中に含まれる成分から、マイカ粉の特徴を持った成分を特定し、ダスト中のマイカ粉の割合を推定する。そして、推定したマイカ粉の割合から、絶縁劣化を診断する。
【0013】
次に、その劣化診断方法について説明する。
本実施形態の電動機の絶縁劣化診断方法は、図1に示すように、ダスト採取ステップS1、絶縁物比率取得ステップS2、及び劣化診断ステップS3の3つの工程によって絶縁劣化を診断する。
「ダスト採取ステップS1」
先ず、電動機の回転子又は固定子に付着しているダストをダスト採取手段によって採取する。
本実施形態では、ダスト採取手段として粘着テープを使用する。そして、粘着テープを回転子又は固定子に貼り付け、続けて剥がすことで、粘着テープの粘着面にダストを採取する。
これによって、回転子又は固定子に付着しているダストを2次元状の面の状態で採取する。
【0014】
ここで、直流電動機の場合には、回転子では、コア端(鉄心からコイルが出て行く所、若しくはその近傍)に付着するダストを採取対象とすることが好ましい。固定子では、補償巻線表面のダストを採取対象とすることが好ましい。その理由は、発明者らが確認したところ、これらの位置が絶縁劣化が起きやすい位置だからである。
なお、採取位置は、1箇所でも良いし、複数箇所でも良い。
【0015】
「絶縁物比率取得ステップS2」
次に、粘着テープの粘着面にダストを付着させることで、2次元状の状態となっているダストに含まれる元素成分の分布を分析して、特定元素の存在により絶縁物の構成要素であるマイカ粉の存在部分を判定する。
具体的には、粘着面に付着した2次元状のダストについて、EPMA等による周波数解析で元素分布測定を行い、マイカの主成分であるカリウム・シリコン・アルミが共存する部分について元素マッピングを行う。図2は、その元素マッピングの像をモデル的に示したものである。
【0016】
次に、上記元素マッピング中のカリウム・シリコン・アルミが共存する部分の面積の割合を、単位面積に対する比率(%)として求める。この比率の算出は、画像処理によって自動的に算出することが出来る。画像処理は、例えば、元素マッピングした画像中における、カリウム・シリコン・アルミが共存する部分について強調処理(エッジング処理等)を施し、その強調処理をして囲まれる空間の面積を計算して合計することで、カリウム・シリコン・アルミが共存する部分、つまりマイカ粉の存在する面積を算出して、全体に対する割合を比率で求める。
算出した面積比率は、表示部に表示したり、記憶部に記憶したりする。
【0017】
ここで、カリウム・シリコン・アルミが共存する部分に存在する物質の全部が、マイカ粉に対応しないが、本願発明者らが実験等で確認したところ、上記ダストを対象とした場合には、カリウム・シリコン・アルミが共存する部分の80%以上がマイカ粉であることを確認している。従って、カリウム・シリコン・アルミが共存する部分をマイカ粉が存在する部分と推定しても、診断判定の精度上、問題がない。
また、ダストの採取箇所が複数箇所の場合には、各箇所毎にマイカ粉の面積比率を演算して、平均値を取ってもよいが、劣化の進んだ部位を抽出するためには最大値を選択することが望ましい。
【0018】
「劣化診断ステップS3」
そして、上記カリウム・シリコン・アルミが共存する部分、すなわちマイカ粉の面積比率(以下、単にマイカ面積率とも呼ぶ。)が、所定値以上の場合には、絶縁劣化が進んでいると判断する。所定値は、例えば2%とする。
ここで、本願発明者らは、上記ダスト中のマイカ粉の割合と余寿命との関係について、実験によって確認したところ、図3に示す結果を得た。なおこの実験では、ダストを3箇所から採取した。そして、図3では、採取した3箇所でのマイカ面積率のうちの最大値を示した。この図3から分かるように、マイカ面積率が2%以上となると、予寿命が短くなるほどマイカ面積率の増加率が増加して絶縁劣化が進むことが分かる。このことから、カリウム・シリコン・アルミが共存する部分(マイカ粉)の面積比率が2%以上の場合に、絶縁劣化が発生したと判定出来る。
【0019】
なお、この絶縁劣化診断は、寿命が近くなったときに、例えば半年毎に実施すれば良い。
ここで、上記説明では、採取したダスト中における、マイカ粉が位置する部分の面積の割合の絶対量で、劣化を診断する場合を例示した。これに代えて、定期的に取得するマイカ粉が位置する部分の面積の割合のデータに基づき、そのマイカ粉が位置する部分の面積の割合の単位時間当たりの増加率が所定増加率以上となった時に、絶縁劣化と判定しても良い。
図3から分かるように、余寿命が3年未満当たりから面積率が増加して絶縁劣化が進んでいることが分かる。従って、上述のように、面積の割合の単位時間当たりの増加率に基づいて絶縁劣化を判定しても良い。
【0020】
(本実施形態の効果)
以上説明してきたように、本実施形態では、電動機の回転子や固定子に付着するダストに含まれる絶縁物材料の割合によって、絶縁劣化を診断することが出来る。すなわち、電動機の絶縁物の劣化を早期に且つ的確に、更には、目で見える形で判断でき、絶縁物地絡事故等の異常・事故の未然防止を図ることができる。
【0021】
また、対象とする電動機を特定の雰囲気状態とすることなく、簡易に絶縁劣化を診断することが可能となる。すなわち、劣化診断のために、電動機に対して、診断用の電圧等を負荷する必要が無く、また、特定の雰囲気状態を作る必要もない。
また、粘着テープによってダストを採取することで、2次元状の状態で且つ簡易にダストを採取することが出来る。2次元状の状態でダストを採取することで、絶縁物材料の割合を、面積比率によって定量化することができる。
【0022】
また、マイカの存在位置を、カリウム、シリコン、及びアルミニウムが共存する部分で特定している。上述のように、発明者らは、鋭意検討した結果、カリウム、シリコン、及びアルミニウムが共存する部分の物質は、80%以上の割合でマイカであることを突き止めている。
この新規な知見によって、マイカの存在位置を、簡易且つ高精度で推定(特定)することが可能となる。これによって、更に絶縁診断が容易となる。
【0023】
(変形例)
(1)上記実施形態では、診断を行う電動機として直流電動機の場合を例にして説明した。診断を行う電動機が交流電動機であっても良い。作用効果は、上記直流電動機の場合と同じである。
但し、ダストを採取する好ましい位置として、直流電動機の場合には、上述のように回転子のコア端や固定子の補償巻線表面を挙げた。一方、交流電動機の場合は、固定子の楔表面あるいは端子ボックス内の固定子コア表面に付着するダストを採取対象とすることが好ましい。その理由は、発明者らが確認したところ、これらの位置が絶縁劣化が起きやすい位置だからである。
このように、電動機自体の特性に応じてダストの採取位置を特定することが好ましい。
【0024】
(2)上記実施形態では、絶縁材料がマイカの場合を例示している。
絶縁物がアラミド絶縁材料(例えばノーメックス(登録商標))である場合には、炭素、酸素、及び窒素が共存する部分を絶縁物材料が存在する部分と推定する。これによって、絶縁物がアラミド絶縁材料であっても、簡易に、絶縁物材料の位置を特定することが可能となる。
【0025】
なお、上述の結果から、使用される絶縁物が、マイカやアラミド絶縁材料以外の材料であっても、その材料の主成分に基づき、絶縁物材料が存在する位置を高精度で推定可能と考えられる。
(3)上記実施形態では、粘着テープでダストを採取している。これに代えて、吸引器などでダストを吸引してダストを採取しても良い。この場合、例えば採取したダストを面状分布させて、絶縁体物質の面積比率を求める。
【符号の説明】
【0026】
S1 ダスト採取ステップ
S2 絶縁物比率取得ステップ
S3 劣化診断ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の絶縁劣化を診断する絶縁劣化診断方法であって、
回転子及び固定子の少なくとも一方に付着しているダストを採取するダスト採取ステップと、
ダスト採取ステップで採取したダスト中に存在する絶縁物材料の割合を推定する絶縁物比率取得ステップと、
上記絶縁物比率取得ステップで推定した絶縁物材料の割合に基づき絶縁劣化を判断する劣化判断ステップと、
を備えることを特徴とする電動機の絶縁劣化診断方法。
【請求項2】
ダスト採取ステップは、ダストを面状分布させて採取し、
絶縁物比率取得ステップは、ダストが面状分布した面内における、絶縁物材料が存在する面積の割合を推定し、
劣化判断ステップは、上記絶縁物材料が存在する面積の割合が所定比率以上の場合、若しくは当該面積の割合の単位時間当たりの増加割合が所定以上の場合に、絶縁劣化と判断する、
ことを特徴とする請求項1に記載した電動機の絶縁劣化診断方法。
【請求項3】
絶縁物材料がマイカである、電動機の絶縁劣化を診断する絶縁劣化診断方法であって、
カリウム、シリコン、及びアルミニウムが共存する部分を絶縁物材料が存在する部分とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した電動機の絶縁劣化診断方法。
【請求項4】
絶縁物がアラミド絶縁材料である、電動機の絶縁劣化を診断する絶縁劣化診断方法であって、
炭素、酸素、及び窒素が共存する部分を絶縁物材料が存在する部分とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した電動機の絶縁劣化診断方法。
【請求項5】
上記電動機が直流電動機であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した電動機の絶縁劣化診断方法。
【請求項6】
上記電動機が交流電動機であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した電動機の絶縁劣化診断方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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