説明

電動締付け工具

【課題】 電動締付け工具において、被動軸の回転制御を円滑に行なう上で有効な技術を提供する。
【解決手段】 モータ111と、前記モータ111によって回転駆動される駆動軸115と、工具ビット119が装着可能な被動軸117と、駆動軸115の回転を被動軸117に伝達する減速機構113と、を備え、工具ビット119が長軸方向回りに回転動作することにより被加工材に対する固定具の締付け作業を行う電動締付け工具であって、減速機構113は、回転自在に支持されたインターナルギア123と、駆動軸115によって回転駆動される太陽ギア121と、被動軸117に連結されるとともに、太陽ギア121及びインターナルギア123に噛み合い係合しつつ当該太陽ギア121の周りを周回する遊星ギア125と、を有し、インターナルギア123の回転を制御することで被動軸117の回転を制御するインターナルギア制御手段161,171を更に有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動スクリュードライバや電動ドライバドリル等、モータによって駆動される工具ビットが長軸方向回りに回転動作することにより被加工材に対する固定具の締付け作業を行う電動締付け工具の無段変速技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電動締付け工具においては、モータによって駆動される駆動軸と、工具ビットが装着される被動軸との間にクラッチ機構が設けられている。このクラッチ機構は、工具ビットの締付けトルクが一定値に達した時点で駆動軸から被動軸への動力伝達を遮断する。このようなクラッチ機構を備えた電動締付け工具は、例えば特開平9−309075号公報に記載されている。
【0003】
機械式クラッチ機構は、ボールと爪、あるいは爪同士の噛み合い係合によって動力を伝達し、噛み合い係合を解除することで動力の伝達を遮断するよう構成される。このため、クラッチの動作前後で急激なトルク変化が発生し、不快な動作を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−309075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、電動締付け工具において、被動軸の回転制御を円滑に行なう上で有効な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため、本発明の好ましい形態の電動締付け工具は、モータと、モータによって回転駆動される駆動軸と、工具ビットが装着可能な被動軸と、駆動軸の回転を被動軸に伝達する減速機構と、を備えており、工具ビットが長軸方向回りに回転動作することにより被加工材に対する固定具の締付け作業を行う。本発明における「電動締付け工具」は、固定具としてのネジの締付け作業に用いられるドライバ、固定具としてのボルト(ナット)の締付け作業に用いられるレンチ等を包含する。
【0007】
本発明の好ましい形態では、減速機構は、回転自在に支持されたインターナルギアと、駆動軸によって回転駆動される太陽ギアと、被動軸に連結されるとともに、太陽ギア及びインターナルギアに噛み合い係合しつつ当該太陽ギアの周りを周回する遊星ギアと、を有する。また、本発明の好ましい形態では、インターナルギアの回転を制御することで被動軸の回転を制御するインターナルギア制御手段を更に有する。本発明における「インターナルギアの回転を制御する」とは、インターナルギアを固定(制止)状態とする態様、当該固定状態を解除して回転を許容する状態とする態様、あるいはインターナルギアを積極的に回転駆動する態様を包含する。
【0008】
固定具の締付け作業を行うべくモータを通電駆動した場合、モータの回転出力は、駆動軸によって回転駆動される太陽ギアから当該太陽ギアとインターナルギアとの双方に噛み合い係合しつつ当該太陽ギアの周りを周回する遊星ギアを介して被動軸に伝達される。本発明によれば、インターナルギア制御手段によってインターナルギアの回転が規制された固定状態と、回転規制が解除された回転許容状態との間で状態を切替えることにより、あるいは固定状態と、積極的な駆動状態との間で状態を切替えることにより被動軸の回転を無段で変速して工具ビットによる固定具の締付け作業を円滑に行なうことができる。
また、本発明によれば、被動軸の出力を無段階に変速可能としたことにより、例えば被動軸に予め定めた所定のトルク値が作用した場合に被動軸の回転がゼロとなるように制御することが可能である。このため、被動軸に作用するトルク値が所定のトルク値を超えたときに動力を遮断するべく設置される機械式のクラッチ装置を省略することができ、動力工具の構造の簡素化、コンパクト化を実現することができる。
【0009】
本発明の更なる形態によれば、被動軸は、工具ビットによって回転される固定具が被加工材に着座した際に、高速回転から低速回転に制御される構成とした。本発明によれば、被動軸の急激なトルク変化が発生しないため、固定具による適正な締付け作業を遂行することができる。
【0010】
本発明の更なる形態によれば、モータを収容する作業工具本体を有する。また、インターナルギア制御手段は、インターナルギアの作業工具本体に対する回転抵抗を制御する回転抵抗制御手段である。ここで、「回転抵抗を制御する」とは、作業工具本体に対してインターナルギアが回転しないように回転抵抗を付与する態様及びインターナルギアの回転を許容するように回転抵抗を解除する態様をいう。また「回転抵抗制御手段」としては、摩擦力(ブレーキ)を利用する手段、回転ストッパを利用する手段等を好適に包含する。
【0011】
本発明によれば、インターナルギアに対して回転抵抗を付与して作業工具本体に対して固定状態としたときは、被動軸を設定された回転数で定常駆動することができ、一方、インターナルギアに対する回転抵抗を解除して当該インターナルギアを作業工具本体から切り離したときは、反力受け部材としてのインターナルギアの回転が許容されるので、被動軸側の負荷(締付けトルク)に応じて当該被動軸が無段階に減速し、最後に停止とすることができる。このため、被動軸の急激なトルク変化が発生しないため、円滑な締付け作業が遂行される。
【0012】
本発明の更なる形態によれば、インターナルギア制御手段は、インターナルギアを回転駆動させる駆動源である。本発明における「駆動源」とは、典型的には、サブモータがこれに該当する。
【0013】
本発明によれば、駆動源によってインターナルギアを積極的に駆動させることで、被動軸の回転を変速することができる。すなわち、インターナルギアを太陽ギアの回転方向と反対方向に回転駆動したときには、被動軸の回転速度をより増速することが可能であり、同方向に回転駆動したときは、被動軸の回転速度をゼロに達するまでを含めて減速することが可能である。このため、例えば締付け作業の開始から終了までの工程において開始から途中までの領域では、被動軸をモータによる定常駆動よりも高速で駆動し、迅速に締付け作業を行わせ、締付け作業の短縮を図ることができる。一方、締付け作業の終了に近づいた段階では、被動軸を無段階に減速し、締付け終了と同時に回転がゼロとなるように制御することによって締付け作業を円滑に行なうことができる。なお、被動軸を無段階に減速する態様としては、減速が一定の比率で変化する態様、あるいは異なる比率で変化する態様等を広く包含する。
【0014】
本発明の更なる形態によれば、トルク検知手段を有し、当該トルク検知手段は、インターナルギアから工具ビットに至る回転伝達経路のトルク値を検知する。本発明によれば、トルク値の検知をインターナルギアから工具ビットまでの回転伝達経路中で行なうようにしたことで、トルク検知手段が設置し易い。
【0015】
本発明の更なる形態によれば、トルク検知手段が予め定めた設定トルク値を検知した際に、被動軸の回転がゼロとなるように駆動源によってインターナルギアを回転駆動する。本発明における「設定トルク値を検知した際」とは、典型的には、締付け作業時において、固定具が被加工材に着座することに伴う締付けトルク変動を検知した場合、あるいは締付け途中で固定具の締付けトルクが何らかの原因で異常に上昇したことを検知した場合がこれに該当する。
【0016】
従って、本発明によれば、固定具の締付け作業時において、固定具の被加工材に対する着座を検知した場合には、あるいは締付け途中で固定具の締付け異常が発生したような場合には、それに基づき被動軸の回転をゼロとなるように駆動源によってインターナルギアを回転駆動し、固定具の締付け作業を終了あるいは中断することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電動締付け工具において、被動軸の回転制御を円滑に行なう上で有効な技術が提供されることとなった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るスクリュードライバの全体構成を示す側断面図である。
【図2】スクリュードライバの主要部を示す側断面図である。
【図3】遊星歯車機構のインターナルギアの回転を制御する小型モータの動作説明図であり、(A)は回転しないように制御される場合(停止状態)を示し、(B)はスピンドルの回転を増速する側に回転駆動される場合を示し、(C)はスピンドルの回転を減速する側に回転駆動される場合を示す。
【図4】締付け作業時に距離センサを用いて小型モータを制御する場合を説明する図であり、ネジ等の頭部が被加工材に着座する前の状態を示す。
【図5】締付け作業時に距離センサを用いて小型モータを制御する場合を説明する図であり、ネジ等の頭部が被加工材に着座した後の状態を示す。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るスクリュードライバの構成を示す側断面図である。
【図7】摩擦クラッチ装置の動作態様を示す説明図であり、(A)はクラッチの接続状態(オン状態)を示し、(B)はクラッチの遮断状態(オフ状態)を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態につき、図1〜図5を参照しつつ説明する。本実施の形態は、電動締付け工具として充電式の電動スクリュードライバを例にして説明する。本実施の形態に係る電動スクリュードライバ101は、図1に示すように、概括的に見て、スクリュードライバ101の外郭を構成する本体部103、当該本体部103の先端領域(図示左側)にビット保持器118を介して着脱自在に取付けられたドライバビット119、本体部103に一体状に連接されたハンドグリップ(ハンドル)109を主体として構成される。本体部103は、本発明における「作業工具本体」に対応し、ドライバビット119は、本発明における「工具ビット」に対応する。なお本実施の形態では、説明の便宜上、ドライバビット119側を前側とし、その反対側を後側とする。
【0020】
本体部103は、駆動モータ111、当該駆動モータ111の前方(図1及び図2の左側)に配置された減速機構としての遊星歯車機構113及びスピンドル117等を収容する内側ハウジング107と、外殻を形成する外側ハウジング105とを主体として構成される。駆動モータ111は、本発明における「モータ」に対応する。外側ハウジング105は、左右に分割された構造とされ、左右の半割ハウジングを互いに接合することによって内側ハウジング107のうち、スピンドル117を支持する先端領域(前端部)以外の領域を覆う構成とされる。なお、ハンドグリップ109は、本体部103の長軸方向(ドライバビット119の長軸方向)と交差する下方に延在され、その延在端部には駆動モータ111の電源となるバッテリが収容されたバッテリパック108が着脱自在に装着されている。
【0021】
駆動モータ111は、ハンドグリップ109に配置された操作部材としてのトリガ109aが引き操作されたときに通電駆動される構成とされる。図2に示すように、駆動モータ111の回転出力は、モータ軸112と一体に回転する駆動軸115から遊星歯車機構113を経てスピンドル117に伝達され、当該スピンドル117にてビット保持器118を介して保持されるドライバビット119に伝達される。駆動軸115は、本発明における「駆動軸」に対応し、スピンドル117は、本発明における「被動軸」に対応する。
【0022】
遊星歯車機構113は、図2に示すように、駆動軸115に一体に形成された第1太陽ギア121、円筒の内側に歯が形成されたインターナルギア(リングギア)123、第1太陽ギア121とインターナルギア123との双方に噛み合い係合して第1太陽ギア121の回転軸線周りに周回する(公転する)複数の第1遊星ギア125、複数の第1遊星ギア125を回転自在に支持するとともに、第1太陽ギア121と同軸上で回転する第1キャリア127、第1キャリア127の回転軸線回りに形成された第2太陽ギア129、第2太陽ギア129とインターナルギア123との双方に噛み合い係合して第2太陽ギア129の回転軸線周りに周回する(公転する)複数の第2遊星ギア131、第2遊星ギア131を回転自在に支持するとともに、スピンドル117に連結された第2キャリア133によって構成されており、インターナルギア123が本体部103側に固定された状態では、駆動軸115の回転出力が減速してスピンドル117に伝達される。なお、本実施の形態における遊星歯車機構113は、第1遊星ギア125を支持する第1キャリア127と、第2遊星ギア131を支持する第2キャリア133が軸方向に2段連接された構成とされているが、必ずしも2段である必要はない。インターナルギア123は、第1遊星ギア125及び第2遊星ギア131が第1及び第2太陽ギア121,129の周りを公転する際に反力を受ける部材である。
【0023】
本実施の形態では、インターナルギア123は、外側が軸受(ニードルベアリング)135を介して本体部103(外側ハウジング105又は内側ハウジング107)に回転可能に支持されている。また、インターナルギア123の外側における長軸方向の一部の領域には、外歯137が形成されており、この外歯137にサブモータとして備えられた小型モータ161によって回転駆動される駆動ギア163が噛み合い係合している。すなわち、本実施の形態のインターナルギア123は、小型モータ161によって積極的に駆動することが可能とされている。小型モータ161は、回転方向を変えることができる可逆式のモータであり、外側ハウジング105の内部空間における駆動モータ111の下方空間領域に形成された収容部106内に、回転軸線が当該駆動モータ111の回転軸線と平行となるように配置されている。
【0024】
図3には、インターナルギア123の回転制御態様が示される。小型モータ161が停止された状態(回転駆動しない状態)では、インターナルギア123は、停止状態に維持される。このときのスピンドル117の回転は、駆動モータ111によって駆動される遊星歯車機構113の減速比で定められた定常回転となる。この定常回転状態が(A)として示される。なお、インターナルギア123は、遊星ギア125,131が太陽ギア121,129の周りを公転する際、周方向の反力を受ける。小型モータ161が太陽ギア121,129の回転方向(図において時計回り)と反対方向(図において反時計回りに)に回転(以下、正回転ともいう)されたときには、反力受け部材であるインターナルギア123が太陽ギア121,129と同方向(図において時計回り)に回転される。このため、遊星ギア125,131の太陽ギア121,129周りの回転数がインターナルギア123の回転分だけ増加するので、スピンドル117の回転数が増える。この増速回転状態が(B)として示される。一方、小型モータ161が上記と逆方向(図において時計回り)に回転(以下、逆回転ともいう)されたときは、遊星ギア125,131の太陽ギア121,129周りの回転数がインターナルギア123の回転分だけ減少することになるので、スピンドル117の回転数が減る。この減速回転状態が(C)として示される。
【0025】
このように、本実施の形態によれば、小型モータ161を停止状態に維持し、あるいは正回転又は逆回転で強制駆動することによって、遊星歯車機構113のインターナルギア123の回転を制御し、これによってスピンドル117の回転速度を制御することが可能となる。小型モータ161は、本発明における「インターナルギア制御手段」及び「駆動源」に対応する。
【0026】
図2に示すように、内側ハウジング107の先端領域には、締付け作業時にインターナルギア123からドライバビット119に至る回転伝達経路のトルク値を検知するトルクセンサ147が配設されている。トルクセンサ147は、本発明における「トルク検知手段」に対応し、トルクが検出可能であれば、その形式は限定されない。本実施の形態では、トルクセンサ147はスピンドル117に作用するトルクを検知する構成とされ、当該トルクセンサ147によって検知されたトルク値がコントローラ149に出力される。コントローラ149は、駆動モータ111及び小型モータ161の駆動制御を行なう手段として備えられる。
【0027】
上記のように構成された電動スクリュードライバ101において、固定具としてのネジやボルト(以下、ネジ等という)の締付け作業を行う場合には、ドライバビット119を介してネジ等を作業対象物としての被加工材に押し付けた状態でトリガ109aを引き操作し、駆動モータ111を通電駆動すると、遊星歯車機構113を介してスピンドル117が回転駆動される。これによりスピンドル117とともに回転するドライバビット119を介してネジ等の締付作業を行うことができる。
【0028】
上記のネジ等の締付け作業において、本実施の形態では、トリガ109aが引き操作されると、コントローラ149を通じて駆動モータ111が通電駆動され、同時に小型モータ161が一定速度の正回転で駆動され、インターナルギア123を太陽ギア121の回転方向と同方向に積極的に回転させる構成としている。このときは、前述したようにスピンドル117が増速されることになる。このため、本実施の形態によれば、ネジ等が被加工材に着座する前の低負荷(低トルク)状態では、スピンドル117に装着されたドライバビット119を定常回転よりも速い一定の速度で回転させ、ネジ等の締付け作業を素早く行うことが可能となり、締付け時間を短縮することができる。
【0029】
また、本実施の形態では、ネジ等の締付け作業時における締付けトルクをトルクセンサ147によって検知してコントローラ149に入力し、当該検知されたトルク値が設定トルク値を超えたときに、当該コントローラ149を通じて小型モータ161が逆回転側に駆動される構成としている。そしてトルクセンサ147のトルク変動検知に基づき小型モータ161が逆回転側に駆動された場合には、当該小型モータ161は、スピンドル117の回転を減速させて最終的にはゼロとするようにインターナルギア123を回転駆動するべく制御される。
【0030】
従って、ネジ等の締付け作業が進行し、ネジ等の頭部が被加工材に着座し、それに伴いスピンドル117に作用するトルク値が設定トルク値を超えたときには、小型モータ161を逆回転側(減速側)に駆動してスピンドル117の回転数がゼロとなるようにインターナルギア123を回転駆動することでドライバビット119による締付け作業を終了することができる。このように、本実施の形態によれば、締付け作業が終了に近づいた着座後には、スピンドル117を無段階に減速して回転がゼロとなるように制御することによってネジ等を目標トルク値で締付け、当該締付け作業を終了することができる。このため、機械式クラッチを用いて動力伝達を遮断して締付け作業を終了する場合のような急激なトルク変動が発生することがなく、円滑な締付け作業を遂行することができる。この場合、スピンドル117を無段階に減速して回転数をゼロにする態様としては、減速が一定の比率で変化するようにしてもよいし、異なる比率で変化するようにしてもよい。
【0031】
なお、ネジ等の締付け作業が終了すると、作業者がトリガ109aの引き操作を継続している場合でも駆動モータ111及び小型モータ161の駆動がそれぞれ停止されるように構成される。すなわち、駆動モータ111及び小型モータ161の停止については、例えばタイマーを用いて、トルクセンサ147が設定トルク値を検知後、所定時間経過した時点で両モータ111,161を停止するように制御する構成とすることが可能であるし、あるいは速度センサあるいは加速度センサ等を用いて、スピンドル117が停止したことを検知し、それに基づいて両モータ111,161を停止するように制御する構成とすることも可能である。
【0032】
また、トルクセンサ147は、ネジ等の着座に伴うトルク変動を検知して小型モータ161の駆動制御を行なう形態として用いることのみならず、締付け作業の異常状態検知としても用いることができる。すなわち、ネジ等の締付け作業途中で何らかの原因によってネジ等の締付けトルクが異常に高くなり、当該トルク値が設定トルク値を超えた場合には、上記の場合と同様、小型モータ161を逆回転側(減速側)に駆動してスピンドル117を回転がゼロとなるようにインターナルギア123を積極的に回転することにより、ネジ等の締付け作業を途中で止めることができる。
【0033】
なお、本実施形態に係る電動スクリュードライバ101は、トルクセンサ147とは別途に距離センサ165を設けることが可能である。距離センサ165は、例えば光学式あるいは超音波式のものが用いられ、図2に示すように、外側ハウジング105の前端側内部に収容した状態で配置され、被加工材Wに向けて照射された光あるいは超音波が被加工材Wに反射して入射されるまでの時間に基づいて、ネジ等Sの頭部から被加工材の表面までの距離を測定する。
【0034】
図4にはネジ等Sの頭部が被加工材Wの表面に着座する前の状態が示される。この着座前の状態では、小型モータ161がスピンドル117の回転速度を増速する側(正回転側)に回転駆動されるように制御される。そしてネジ等Sが被加工材Wに着座したことが距離センサ165によって検知されると、当該検知信号のコントローラ149への入力に基づいて、当該コントローラ149が小型モータ161をスピンドル117の回転がゼロとなるようにインターナルギア123を減速する側(逆回転側)に回転駆動する。ネジ等Sの着座状態が図5に示される。これにより、スピンドル117を無段階に減速して回転をゼロとすることによって目標トルク値でネジ等Sを締付け、当該締付け作業を終了することができる。締付け作業が終了すれば、駆動モータ111及び小型モータ161は、共に停止される。
【0035】
ところで、駆動モータ111によって駆動される駆動軸115と、ドライバビット119が装着されるスピンドル117との間に機械式のクラッチ機構を設け、ネジ等が被加工材に着座後、締付けトルクが予め定めた設定トルク値を越えたときにクラッチ機構を作動させて動力を遮断する構成では、駆動軸115とスピンドル117間にクラッチ機構が直列状に介在される関係で、本体部103の長軸方向寸法が長くなってしまう。しかるに、本実施の形態によれば、小型モータ161によってインターナルギア123を制御する方式としたことによって、当該小型モータ161を外側ハウジング105の内部空間における駆動モータ111の下方領域に当該駆動モータ111と並列に配置することができる。その結果、本体部103の長軸方向寸法が短縮されるため、ハンドグリップ109からドライバビット119先端までの距離が短くなり、ネジ等の締付け作業がやり易くなる。
【0036】
なお、本実施の形態では、トリガ109aを引き操作し、駆動モータ111を通電駆動すると同時に小型モータ161がスピンドル117の回転を増速する側に通電駆動される構成としたが、トリガ109aとは、別途に小型モータ制御用スイッチを設置し、当該小型モータ制御用スイッチによって、小型モータ161の停止を維持する状態と増速する状態間で、又は停止を維持する状態、増速する状態及び減速する状態間で選択的に切替え可能とし、そしていずれかを選択した状態でトリガ109aを引き操作して駆動モータ111を通電駆動した際には、小型モータ161が選択された状態に制御されるように構成してもよい。
【0037】
(本発明の第2の実施形態)
次に本発明の第2の実施形態につき、図6及び図7を参照しつつ説明する。本実施の形態は、遊星歯車機構113のインターナルギア123の制御につき、前述した第1の実施形態における小型モータ161による積極的な強制駆動方式から、摩擦抵抗を利用してインターナルギア123の回転を規制する固定状態と、回転規制を解除することで回転を許容する回転許容状態との間で切替えることができるように構成したものであり、この点以外の構成については、前述した第1の実施形態と同様とされる。従って、第1の実施形態と同一構成部材については、同一符号を付してその説明を省略あるいは簡略にする。
【0038】
本実施の形態では、図6に示すように、インターナルギア123に回転抵抗を付与して当該インターナルギア123が回転しないように保持(規制)し、またインターナルギア123に付与された回転抵抗を解除することで当該インターナルギア123の回転を許容する手段としての摩擦クラッチ装置171を備えている。摩擦クラッチ装置171は、外側ハウジング105内の駆動モータ111の下方空間領域に形成された収容部106に、動作方向(軸線方向)が当該駆動モータ111の回転軸線と平行となるように配置されている。摩擦クラッチ装置171は、本発明における「インターナルギア制御手段」及び「回転抵抗制御手段」に対応する。
【0039】
摩擦クラッチ装置171は、図7において拡大された状態で示される。図示のように、摩擦クラッチ装置171は、インターナルギア123と連結された可動側摩擦クラッチ板173と、当該可動側摩擦クラッチ板173に対向状に配置される固定側摩擦クラッチ板175と、当該固定側摩擦クラッチ板175を可動側摩擦クラッチ板173に接触または離間させるべく作動するソレノイド177とを主体として構成される。収容部106には、クラッチ軸179がインターナルギア123の回転軸線と平行に配置されている。クラッチ軸179は、軸受181を介して収容部106に回転自在に取り付けられるとともに、当該クラッチ軸179の軸方向一端には可動側摩擦クラッチ板173が固定され、軸方向他端にはインターナルギア123の外歯137と噛み合い係合する歯車183が固定されている。かくして可動側摩擦クラッチ板173は、インターナルギア123と連結された構成とされる。
【0040】
ソレノイド177は、励磁コイルが巻かれた筒状のソレノイド本体部177aと、励磁コイルに対する通電あるいは通電解除によってソレノイド本体部177aの長軸方向(ドライバビット119の長軸方向)に直線状に動作する棒状の可動鉄心177bとを備えたプランジャ形の電磁石であり、可動鉄心177bの先端に固定側摩擦クラッチ板175が固定されている。固定側摩擦クラッチ板175は、クラッチバネとしてのコイルバネ185によって常時に可動側摩擦クラッチ板173に接近する方向へと弾発状に付勢されている。そして、締付けトルクを検知してコントローラ149へと入力するトルクセンサ147が設定トルク値を検知したときに、当該コントローラ149からの指令に基づきソレノイド177の励磁コイルに通電されて固定側摩擦クラッチ板175が可動側摩擦クラッチ板173から引き離される構成とされる。
【0041】
上記のように構成された摩擦クラッチ装置171は、通常時にはソレノイド177の励磁コイルに対する通電が遮断されている。このため、固定側摩擦クラッチ板175がコイルバネ185の弾発力で可動側摩擦クラッチ板173に押圧接触されて当該可動側摩擦クラッチ板173の回転を規制している。この状態が図7の(A)に示される。すなわち、固定側摩擦クラッチ板175が可動側摩擦クラッチ板173に押付けられたクラッチオンの状態では、可動側摩擦クラッチ板173と一体化された歯車183と外歯137が噛み合い係合しているインターナルギア123は、固定側摩擦クラッチ板175と可動側摩擦クラッチ板173間の摩擦力(回転抵抗)によって本体部103側に固定された状態に保持される。
【0042】
従って、この状態でネジ等の締付け作業を行うべく、トリガ109aの引き操作によって駆動モータ111が通電駆動されると、当該駆動モータ111の回転出力は、遊星歯車機構113を通じてスピンドル117に伝達される。このため、スピンドル117に保持されたドライバビット119によって駆動モータ111の定常駆動による速度での締付け作業が開始される。
【0043】
ネジ等の締付け作業が進行し、当該ネジ等の頭部が被加工材に着座して締付けトルクが高くなり、それに伴いインターナルギア123に作用する反力が摩擦クラッチ装置171の摩擦力を超えると、固定側摩擦クラッチ板175と可動側摩擦クラッチ板173の摩擦接触面間に相対滑りが生じ、当該インターナルギア123が回転し始める。そのため、スピンドル117の回転速度が減速される。この状態は半クラッチとも呼ばれる。
【0044】
そして、ネジ等の締付けトルク値が更に上昇して設定トルク値を超えると、トルクセンサ147及びコントローラ149を通じてソレノイド177の励磁コイルが通電される。これにより可動鉄心177bがコイルバネ185に抗して固定側摩擦クラッチ板175が可動側摩擦クラッチ板173から離間される。この状態が図7の(B)に示される。このため、インターナルギア123に対する回転抵抗が解除されて当該インターナルギア123の回転が許容される。すなわち、反力受け部材であるインターナルギア123が自由に回転される結果、駆動モータ111の回転出力のスピンドル117への伝達が遮断されて当該スピンドル117の回転が停止される。これによりネジ等の締付け作業が終了する。なお、ネジ等の締付け作業終了後は、第1の実施形態の場合と同様、駆動モータ111の駆動が停止され、またソレノイド177の励磁コイルの通電が遮断される。
【0045】
このように、本実施の形態によれば、ネジ等の締付け作業時において、締付け開始からネジ等が被加工材に着座するまでの過程では、摩擦クラッチ装置171によってインターナルギア123を回転しないように回転抵抗を付与し、締付け作業が終了に近づいた着座後には、摩擦クラッチ装置171による回転抵抗を解除し、インターナルギア123を自由に回転させ、いわばクラッチの如く機能させることによって、目標トルク値でネジ等を締付け、当該締付け作業を終了することができる。このため、第1の実施形態の場合と同様に、機械式クラッチを用いて動力伝達を遮断して締付け作業を終了する場合のような急激なトルク変動が発生することがなく、締付け作業を円滑に遂行することができる。
【0046】
また、本実施の形態においては、図7に示すように、ソレノイド固定ケース187が2部品で構成されている。一方の部品は、ソレノイド本体部177aを収容固定するとともに、軸方向の一端側に雌ネジ188aを備えた筒状のソレノイド保持部188として備えられる。他方の部品は、ソレノイド保持部188の雌ネジ188aに螺合する雄ネジ189aを有するケース固定部189として備えられる。そして、ソレノイド保持部188とケース固定部189とは、雌ネジ188aと雄ネジ189aとの螺合構造によって組み合わされている。従って、ソレノイド保持部188とケース固定部189は、長軸線回りに相対回動させることでソレノイド177の動作方向に関する相対位置が調整可能とされ、これによりコイルバネ185の初期弾発力を適宜に定めることができる。すなわち、本実施の形態によれば、摩擦クラッチ装置171の摩擦力を微調整することができる。
【0047】
また、本実施の形態によれば、摩擦クラッチ装置171によってインターナルギア123を制御する方式としたことによって、当該摩擦クラッチ装置171を外側ハウジング105の内部空間における駆動モータ111の下方領域に当該駆動モータ111と並列に配置することができる。その結果、本体部103の長軸方向寸法が短縮されるため、ハンドグリップ109からドライバビット119先端までの距離が短くなり、ネジ等の締付け作業がやり易くなる。
【0048】
なお、第2の実施形態では、摩擦クラッチ装置171の摩擦抵抗を利用してインターナルギア123の回転を制止する構成としたが、これに変えてインターナルギア123に対して周方向において係合することでインターナルギア123の回転を規制し、軸方向又は径方向に退避動作して上記係合を解除することでインターナルギア123の回転を許容する回転ストッパを用いてもよい。
【0049】
また、本実施の形態は、電動締付け工具としてスクリュードライバを例にとって説明したが、ネジの締付け作業に用いられるドライバ、ボルト・ナットの締付け作業に用いられるレンチ等の締付け工具に広く適用することが可能である。
【0050】
本発明の趣旨に鑑み、以下の如き態様が構成可能である。
(態様1)
「請求項3に記載の回転抵抗制御手段は、摩擦クラッチ装置であり、当該摩擦クラッチ装置は、前記作業工具本体の内部空間に前記モータと並列に配置されていることを特徴とする。」
【0051】
(態様2)
「請求項4に記載の駆動源は、サブモータであり、当該サブモータは、前記作業工具本体の内部空間に前記モータと並列に配置されていることを特徴とする。」
【符号の説明】
【0052】
101 電動スクリュードライバ(電動締付け工具)
103 本体部(作業工具本体)
105 外側ハウジング
106 収容部
107 内側ハウジング
108 バッテリパック
109 ハンドグリップ
109a トリガ
111 駆動モータ(モータ)
112 モータ軸
113 遊星歯車機構(減速機構)
115 駆動軸
117 スピンドル(被動軸)
118 ビット保持器
119 ドライバビット(工具ビット)
121 第1太陽ギア
123 インターナルギア
125 第1遊星ギア
127 第1キャリア
129 第2太陽ギア
131 第2遊星ギア
133 第2キャリア
135 軸受
137 外歯
147 トルクセンサ(トルク検知手段)
149 コントローラ
161 小型モータ(インターナルギア制御手段)(駆動源)
163 駆動ギア
165 距離センサ
171 摩擦クラッチ装置(インターナルギア制御手段)(回転抵抗制御手段)
173 可動側摩擦クラッチ板
175 固定側摩擦クラッチ板
177 ソレノイド
177a ソレノイド本体部
177b 可動鉄心
179 クラッチ軸
181 軸受
183 歯車
185 コイルバネ
187 ソレノイド固定ケース
188 ソレノイド保持部
188a 雌ネジ部
189 ケース固定部
189a 雄ネジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、前記モータによって回転駆動される駆動軸と、工具ビットが装着可能な被動軸と、前記駆動軸の回転を前記被動軸に伝達する減速機構と、を備え、工具ビットが長軸方向回りに回転動作することにより被加工材に対する固定具の締付け作業を行う電動締付け工具であって、
前記減速機構は、回転自在に支持されたインターナルギアと、前記駆動軸によって回転駆動される太陽ギアと、前記被動軸に連結されるとともに、前記太陽ギア及び前記インターナルギアに噛み合い係合しつつ当該太陽ギアの周りを周回する遊星ギアと、を有し、
前記インターナルギアの回転を制御することで前記被動軸の回転を制御するインターナルギア制御手段を更に有することを特徴とする電動締付け工具。
【請求項2】
請求項1に記載の電動締付け工具であって、
前記被動軸は、前記工具ビットによって回転される固定具が被加工材に着座した際に、高速回転から低速回転に制御されることを特徴とする電動締付け工具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動締付け工具であって、
前記モータを収容する作業工具本体を有し、
前記インターナルギア制御手段は、前記インターナルギアの前記作業工具本体に対する回転抵抗を制御する回転抵抗制御手段であることを特徴とする電動締付け工具。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の動力工具であって、
前記インターナルギア制御手段は、前記インターナルギアを回転駆動させる駆動源であることを特徴とする電動締付け工具。
【請求項5】
請求項4に記載の電動締付け工具であって、
トルク検知手段を有し、当該トルク検知手段は、前記インターナルギアから前記工具ビットに至る回転伝達経路のトルク値を検知することを特徴とする電動締付け工具。
【請求項6】
請求項5に記載の電動締付け工具であって、
前記トルク検知手段が予め定めた設定トルク値を検知した際に、前記被動軸の回転がゼロとなるように前記駆動源によって前記インターナルギアを回転駆動することを特徴とする電動締付け工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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