説明

電動補助自転車用リアハブ内装変速装置

【課題】内装変速機を備えたセンタモータ方式の電動補助自転車において、装置を複雑化することなく回生充電を可能とする。
【解決手段】駆動輪のハブ1に遊星歯車機構からなる変速機構3と逆入力用ワンウェイクラッチ2とクラッチ切替装置9とを備える。変速機構3は太陽歯車3aを有し、駆動力をスプロケット4を通じて駆動輪に伝達する。また、駆動力に対して、太陽歯車3aを車軸5回りに回転可能又は回転不能とに切り替えて変速を行う変速制御機構10を備え、逆入力用ワンウェイクラッチ2は太陽歯車3a側に設けた逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aと車軸5側に設けた逆入力用クラッチカム面2gを備え、クラッチ切替装置9によって逆入力に対して太陽歯車が車軸5回りに回転可能又は回転不能とに切り替えられる。クラッチ切替装置9は、車軸5内を通ってその一端が前記車軸5から外部に引き出された逆入力操作部9aにより構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータにより人力駆動系に補助力を付加させる電動補助自転車に用いられる、電動補助自転車用リアハブ内装変速装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動モータにより人力駆動系に補助力を付加させる電動補助自転車には、電動補助力を与えるためのモータ用電源としてバッテリが搭載される。このバッテリは、1回の充電で長時間走行できることが望ましいことから、自走中のエネルギーを有効に利用し、その自走中の回生発電により、バッテリを充電する機能を備えた電動補助自転車が開発されている。
【0003】
その回生発電によるバッテリの充電装置として、例えば、特許文献1に、ブレーキレバーの操作を検出して回生装置に回生作動を指令する回生制御装置の技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この種の電力回生機能を搭載する場合、例えば、特許文献2に示すように、車軸周辺にモータ及び変速機を設けた電動補助自転車(ハブモータ方式)の場合は、車軸とモータのロータを直結とすることで、電力回生は比較的容易に実現できる(例えば、特許文献2参照)。
しかし、このハブモータ方式の場合、モータから二次電池までの距離が遠くなりがちであり、その二次電池までの配線の取り回しが煩雑になる傾向がある。また、モータをフロントの車軸に配置すると操作性が悪化し、リア側に配置すると変速機との両立が困難になるという問題もある。
【0005】
このため、電力回生機能を搭載する場合、操作性と構造の簡素化を求めるならば、例えば、特許文献3のように、クランク軸及びその軸受等を含む人力駆動系と、モータによる補助動力をクランク軸に合力させる駆動系とを単一のハウジングに収容した駆動装置、いわゆるセンタモータユニットを備えた構造(センタモータ方式)とするのが有利である(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
センタモータ方式で、電力回生機能を搭載した電動補助自転車として、例えば、特許文献4に示すものがある。
この電動補助自転車では、モータ出力軸と駆動スプロケットとの間に第一ワンウェイクラッチを設け、踏力が入力されるペダルクランク軸と駆動スプロケットとの間に第二のワンウェイクラッチを設け、さらにブレーキ操作に応じて第一ワンウェイクラッチをロックする直結手段を設けることで、制動時の電力回生を実現している。なお、リアハブとリアスプロケットとは、回生時にタイヤからの逆入力トルクをモータに伝えることができるように直結されている。
【0007】
また、同じく、電力回生機能を搭載した電動補助自転車として、例えば、特許文献5に示すものがある。
この電動補助自転車では、センタモータユニット内で、モータの出力軸にブレーキ操作に連動してロック方向を切り替えることが出来るツーウェイクラッチを設け、制動時の電力回生を実現している。
【0008】
すなわち、モータアシスト時には、ツーウェイクラッチを正回転方向でロックさせることにより、モータの出力を車軸に伝達することができ、モータアシストが可能となる。また、乗員のブレーキ操作に連動してツーウェイクラッチのロック方向を切替え、ツーウェイクラッチを逆回転方向でロックさせれば、車軸側からの逆入力トルク(正回転方向)をモータに伝達することができ、これによって回生発電およびブレーキアシストが可能となる。この構成では、回生時に車軸側からの逆入力トルクをモータ側に伝達させる必要があるため、リアハブとリアスプロケットとは直結としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−140212号公報
【特許文献2】特開2003−166563号公報
【特許文献3】特開平10−250673号公報
【特許文献4】特開2001−213383号公報
【特許文献5】特開2004−268843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、電動補助自転車は、モータを、クランク軸周辺に設けたセンタモータ方式と、モータを、フロントハブ若しくはリアハブに内装したハブモータ方式とに大別できる。
【0011】
ハブモータ方式では、モータの他、減速機も併せてリアハブ内に組み込む必要があるが、スペース的に高減速比とすることが困難で、大きなトルクを得ることが出来ないという問題がある。また、重量物が、自転車の重心から離れた位置に配置されることで、操縦性が悪く、モータと電池が離れることで配線の取り回しも複雑になるという問題がある。さらには、タイヤからの衝撃が直接減速機及びモータに伝わるため、故障が起きやすいという欠点がある。そのため、現在ではセンタモータ方式が主流となっている。
【0012】
センタモータ方式の駆動系において、電力回生機能を搭載する場合、車輪からの逆入力トルクをモータ軸に伝えるため、上記特許文献4や特許文献5では、リアハブとリアスプロケットは直結されている。
【0013】
この点、一般的な自転車の変速機構は、クランク軸又はリア車軸の何れか一方、もしくは両方の同軸上に多段のスプロケットを設け、ディレイラーによってチェーンをスプロッケット間で移動させることによって変速する方式(外装変速機)とリアハブの内部に設けた歯車を掛けかえることによって変速する方式(内装変速機)がある。内装変速機内には通常ワンウェイクラッチが設けられており、タイヤからの逆入力はリアハブからリアスプロケットに伝わらない。
外装変速機は構造が簡単で軽量であるが、スプロケットやチェーンが摩耗する原因になり、チェーン外れの原因にもなる。一方、内装変速機は防塵、防水性があり、メンテナンスフリーであるためシティサイクルに使われることが多い。現在のところ、電動アシスト自転車はシティサイクル自転車を中心に展開しており、その殆どが内装変速機を採用している。
【0014】
しかし、このように、内装変速機を採用すると、そのままでは、車輪からの逆入力はリアハブからリアスプロケットに伝わらない。このため、車輪からの逆入力によりセンタモータを回転、回生することができない。
逆入力に対応するため、例えば、車軸からクランク軸、及び車軸からモータ軸をそれぞれ別々の動力伝達要素で結合することも可能であるが、2本の伝達要素を用いることはレイアウト的にもコスト的にも商品価値の大幅な低下を招く。
【0015】
そこで、この発明は、内装変速機を備えたセンタモータ方式の電動補助自転車において、できる限り装置を複雑化することなく、回生充電を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、この発明は、前輪と後輪とを結ぶフレームに二次電池及び補助駆動用のモータを取り付け、クランク軸から伝達された踏力又は前記モータの出力による駆動力を駆動輪に伝達可能とし、前進非駆動時には、前記駆動輪から前記モータの出力軸への逆入力により生じた回生電力を前記二次電池に還元する回生機構を備えた電動補助自転車に用いる電動補助自転車用リアハブ内装変速装置において、前記駆動輪に設けたハブに変速機構と逆入力用ワンウェイクラッチとクラッチ切替装置とを備え、前記変速機構は遊星歯車機構によって構成されて、少なくとも一つの太陽歯車を有し、前記踏力又は前記モータの出力による駆動力をスプロケットを通じて前記駆動輪に伝達する機能を有して、そのスプロケットからの駆動力に対して、前記太陽歯車を車軸回りに回転可能又は回転不能とに切り替えて変速を行う変速制御機構を備えており、
前記逆入力用ワンウェイクラッチは少なくとも一つの太陽歯車と車軸との間に設けられて、前記逆入力用ワンウェイクラッチはラチェットクラッチによって構成され、前記クラッチ切替装置によって前記逆入力用ワンウェイクラッチは前記駆動輪からの逆入力に対して、前記太陽歯車が車軸回りに回転可能又は回転不能とに切り替えられる機能を有しており、前記逆入力用ワンウェイクラッチは、前記太陽歯車に設けられた逆入力用ワンウェイクラッチ爪と、前記車軸の外面に設けられた逆入力用クラッチカム面を備え、前記クラッチ切替装置は、前記車軸内を通ってその一端が前記車軸から外部に引き出されて外部から軸方向への移動の操作が可能な逆入力操作部を備え、その逆入力操作部を軸方向に移動操作することによって、前記逆入力用ワンウェイクラッチの切り替えが可能であり、駆動時には、前記スプロケットからの駆動力は前記変速機構を通じて駆動輪に伝達され、前進非駆動時には、前記クラッチ切替装置の逆入力操作部の操作により前記逆入力用ワンウェイクラッチにおける前記太陽歯車と車軸とを逆入力に対して回転不能とすることによって、前記駆動輪からの逆入力トルクを前記スプロケットに伝達できる機能を有することを特徴とする電動補助自転車用リアハブ内装変速装置を採用した。
【0017】
上記構成により、駆動前進時には、変速機構を介して駆動輪のスプロケットからハブに駆動力が伝達され、自転車は前進する。前進非駆動時には、逆入力用ワンウェイクラッチを介して、駆動輪のハブからの逆入力がスプロケットに伝達され、さらに、スプロケットから動力伝達要素を通してモータ駆動スプロケットにトルクが伝わることで、回生発電が可能となる。なお、駆動力に対しては、逆入力用ワンウェイクラッチは常に空転するため、駆動時において、クラッチ切替装置の状態は限定されない。
このように、ラチェットクラッチからなる逆入力用ワンウェイクラッチ、及びそのラチェットクラッチを切り替える機能を有するクラッチ切替装置を、太陽歯車と車軸との間に配置することで、内装変速機を備えたセンタモータ方式の電動補助自転車に用いられる電動補助自転車用リアハブ内装変速装置において、装置を複雑化することなく、駆動力の伝達と逆入力の伝達とを実現できる。
【0018】
また、前記クラッチ切替装置は、逆入力操作部が車軸内を通って外部に引き出されて、その逆入力操作部を車軸の外部から軸方向へ移動させる操作が可能な構成となっているから、簡素な構成で、前記逆入力用ワンウェイクラッチにおける前記太陽歯車の車軸に対する回転可能又は回転不能を切り替えできる機能を実現できる。このとき、ラチェットクラッチの逆入力用クラッチ爪を太陽歯車側に配置し、逆入力用クラッチカム面を車軸側に設けていることから、車軸の構造をシンプルにすることができる。
【0019】
この構成において、前記クラッチ切替装置は、切欠部が設けられた逆入力用スリーブを備え、前記逆入力操作部を軸方向に移動操作することによって前記切欠部が前記逆入力用クラッチカム面の位置と前記逆入力用クラッチカム面から退避した位置との間で移動し、その移動によって、前記逆入力用ワンウェイクラッチの切り替えを行う構成を採用することができる。
【0020】
また、その構成において、前記逆入力用スリーブの切欠部は、その軸方向端部にテーパ部を備える構成とすることができる。また、それに代えて、あるいは、それに加えて、前記逆入力用スリーブの切欠部は、その周方向端部にテーパ部を備える構成を採用することができる。
【0021】
このように、前記切欠部の軸方向端部にテーパ部を設けることで、カム面に噛み込んだラチェット爪と切欠部の一端が接触したときに、そのテーパ部の傾斜面によってラチェット爪をカム面から外す力を大きくすることができる。また、周方向端部にテーパ部を設けることで、逆方向の回転(逆入力用クラッチ部においては、駆動方向の回転)時に、ラチェット爪はテーパ部の傾斜面に沿ってカム面上を移動するため、スムーズな回転が可能となる。
【0022】
ここで、切欠部が設けられた逆入力用スリーブが、逆入力用クラッチカム面上を覆うように設けられており、その逆入力用スリーブが、車軸内を通って軸方向に移動操作可能な逆入力操作部によって、軸方向にスライド操作可能としている。逆入力用スリーブが逆入力用クラッチカム面を覆えば、通常はカム面が塞がれているためラチェット爪がカム面に噛み込むことはない。前進非駆動時(タイヤからの逆入力時)に、前記逆入力操作部を軸方向に移動させることによって、逆入力用スリーブがカム面上をスライドし、前記切欠部がラチェット爪上に位置すると、ラチェット爪がカム面に噛み込むことが可能となり、逆入力に対して太陽歯車がロックし、タイヤからの逆入力をリアスプロケットに伝達可能となる。
【0023】
また、前記逆入力用スリーブは、前記車軸に設けられた逆入力用横穴に挿入された逆入力用ピンによってその車軸に固定され、前記逆入力用ピンを前記逆入力操作部によって前記逆入力用横穴内で軸方向へ移動操作することにより、前記逆入力用スリーブの軸方向への移動を行う構成を採用することができる。
【0024】
すなわち、逆入力操作部の軸方向移動操作と逆入力用スリーブの移動とを連動させるために、車軸に貫通した横穴を設けてその横穴にピンを挿入し、ピンと逆入力用スリーブを固定することで、逆入力操作部によってピンを押すことで逆入力用スリーブを移動させるようにしたものである。
【0025】
このとき、逆入力用スリーブを逆入力用弾性部材によって軸方向に付勢する構成を採用すれば、例えば、その逆入力用弾性部材で、逆入力操作部がピンを軸方向に押し込むのとは逆向きの付勢力を与えることによって、操作部への外部からの負荷(押圧力)を除去することによって、逆入力用弾性部材の弾性力によって逆入力用スリーブを元の位置に戻すことができる。
【0026】
なお、前記の逆入力用のクラッチ切替機構は、変速制御機構にも適用できる。すなわち、前述の各構成において、前記変速機構は、前記太陽歯車を車軸回りに回転可能又は回転不能とに切り替える変速用ワンウェイクラッチを備え、その変速用ワンウェイクラッチの前記車軸に対する回転可能又は回転不能の切り替えが前記変速制御機構によって行われるようになっており、前記変速用ワンウェイクラッチは、前記太陽歯車に設けられた変速用ワンウェイクラッチ爪と、前記車軸の外面に設けられた変速用クラッチカム面とを備えたラチェットクラッチである構成を採用することができる。
【0027】
このように、変速用ワンウェイクラッチにもラチェットクラッチ機構を用い、太陽歯車側にラチェット爪を配置し、車軸側に変速用クラッチカム面を設けることによって、車軸の構造をシンプルにすることができる。
【0028】
前記変速制御機構の構成としては、クラッチ切替装置と同様の構造とすることが可能である。すなわち、変速制御機構は、前記車軸内を通ってその一端が前記車軸から外部に引き出されて外部から軸方向への移動の操作が可能な変速操作部を備え、その変速操作部を軸方向に移動操作することによって、前記変速用ワンウェイクラッチの切り替えが可能である構成である。
【0029】
また、逆入力用クラッチカム面と変速用クラッチカム面の両方の機能を有する凹凸を車軸上に設けることが可能となり、その点においても、構造をシンプルにすることができる。具体的には、前記車軸の外面に周方向に沿って複数の凹凸を設け、その凹凸に、前記逆入力用クラッチカム面と前記変速用クラッチカム面の両方の機能を発揮させるものが挙げられる。
【0030】
また、この変速制御機構は、切欠部が設けられた変速用スリーブを備え、前記変速操作部を軸方向に移動操作することによって前記切欠部が前記変速用クラッチカム面の位置と前記変速用クラッチカム面から退避した位置との間で移動し、その移動によって、前記変速用ワンウェイクラッチの切り替えを行う構成を採用することができる。この点は、クラッチ切替装置の場合と同様である。
【0031】
さらに、前記変速用スリーブの切欠部は、その軸方向端部にテーパ部を備える構成、又はそれに代えて、あるいは加えて、前記変速用スリーブの切欠部は、その周方向端部にテーパ部を備える構成を採用できる点も同様である。
【0032】
また、前記変速用スリーブは、前記車軸に設けられた変速用横穴に挿入された変速用ピンによってその車軸に固定され、前記変速用ピンを前記変速操作部によって前記変速用横穴内で軸方向へ移動操作することにより、前記変速用スリーブの軸方向への移動を行う構成を採用することができる。
【0033】
その変速用スリーブは、変速用弾性部材によって、軸方向に付勢されている構成を採用することができる。
【0034】
これらの各構成において、例えば、逆入力用スリーブと変速用スリーブとを相対的に90°位相のずれた位置に配置することによって、両者が干渉することが無くなり、小スペースで両方の機構を成立させることが可能となる。
具体的な構成としては、前記変速用スリーブの前記変速用ワンウェイクラッチ爪を覆う部分と、前記逆入力用スリーブの前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪を覆う部分とは、それぞれ前記車軸の軸心を夾んで両側に配置されるとともに相互に前記車軸の軸心周りに90°位相がずれた位置に配置されている構成である。
【0035】
なお、これらの構成によれば、変速装置を制御する変速制御機構の方が、逆入力用ワンウェイクラッチを制御するクラッチ切替機構に比べ、軸方向への移動ストロークが長くなる傾向がある。変速装置は、複数の太陽歯車を備える場合が多いからである。そこで、逆入力用のクラッチ切替機構をリアスプロケット側に配置し、変速制御機構を逆側に配置することが好ましい。
すなわち、具体的な構成は、前記スプロケットは前記ハブケース内の軸方向一方寄りに配置されており、前記クラッチ切替装置を前記ハブケース内の軸方向一方寄りに配置し、前記変速制御機構を他方寄りに配置した構成である。
【0036】
なお、これらの各構成において、前記クラッチ切替装置による、前記駆動輪からの逆入力に対する前記太陽歯車と車軸の回転可能又は回転不能との切り替えは、ブレーキ操作に連動して行われる構成を採用することができる。
【0037】
また、センタモータユニット内においては、モータ出力軸とモータ駆動スプロケットとを直結することにより、駆動力及び逆入力の両方向のトルクを伝達することができ、また、クランク軸とクランクスプロケット(人力駆動スプロケット)との間には、駆動力のみ伝達し、逆入力時は空回りするセンタワンウェイクラッチを組み込むことにより、逆入力によりペダルが強制的に回転するのを防止することができる。すなわち、駆動輪に対して駆動力を伝達する方向にロックし、駆動輪からの逆入力に対して空転するセンタワンウェイクラッチである。
このセンタワンウェイクラッチとしては、ローラクラッチ、スプラグクラッチ、ラチェットクラッチ等を採用することができる。
【発明の効果】
【0038】
この発明は、回生エネルギーを二次電池に蓄えることができ、回生充電しない場合と比較して充電1回当たりの航続距離を大幅に延ばすことができる。また、現行の回生機能付き電動補助自転車は、フロント若しくはリアハブ内に重量の大きなモータを配置しているが、この発明によれば、モータを重心に近いクランク軸付近に配置することができるため、自転車全体の操縦性がよい。また、変速機構を備えているためにスタート時の踏力が少なくて済み、バランスを崩し難い上にアシストパワーも節約でき、更に航続距離が延びる。変速機構はハブに内装されるため、耐久性が高くメンテナンスフリーとすることができる。さらに、逆入力用ワンウェイクラッチを太陽歯車と車軸との間に設けたことで、フレームに固定されている車軸上に逆入力用ワンウェイクラッチを配置することができる。
すなわち、逆入力用ワンウェイクラッチを太陽歯車と車軸との間に配置することで、内装変速機を備えたセンタモータ方式の電動補助自転車において、装置を複雑化することなく、駆動力の伝達と逆入力の伝達とを実現できる。
【0039】
また、前記クラッチ切替装置は、逆入力操作部が車軸内を通って外部に引き出されて、その逆入力操作部を車軸の外部から軸方向へ移動させる操作が可能な構成となっているから、簡素な構成で、前記逆入力用ワンウェイクラッチにおける前記太陽歯車の車軸に対する回転可能又は回転不能を切り替えできる機能を実現できる。このとき、ラチェットクラッチの逆入力用クラッチ爪を太陽歯車側に配置し、逆入力用クラッチカム面を車軸側に設けていることから、車軸の構造をシンプルにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態の駆動時(直結時)を示す正面図
【図2】(a)は図1のA−A断面図、(b)は図1のB−B断面図
【図3】実施形態の駆動時(増速1段時)を示す正面図
【図4】(a)は図3のA−A断面図、(b)は図3のB−B断面図
【図5】実施形態の駆動時(増速2段時)を示す正面図
【図6】(a)は図5のA−A断面図、(b)は図5のB−B断面図
【図7】実施形態において逆入力トルクが伝達可能な状態(変速は2段目)を示す正面図
【図8】(a)は図7のA−A断面図、(b)は図7のB−B断面図
【発明を実施するための形態】
【0041】
この発明の実施形態を、図1乃至図8に基づいて説明する。この実施形態の電動補助自転車は、前輪と後輪間の中央部付近において、その前輪と後輪とを結ぶフレームに二次電池及び補助駆動用のモータ(センタモータユニット)を取り付けたセンタモータ方式である。
【0042】
駆動時、すなわち、ペダルを通じてクランク軸から伝達された踏力、又は前記モータの出力による駆動力が入力された場合は、図示しないセンタモータユニットのクランクスプロケットと、駆動輪である後輪のリアスプロケット(スプロケット)4とを結ぶチェーン等の動力伝達要素を介して、その後輪に駆動力が伝達可能となっている。また、前進非駆動時には、後輪のリアハブ1から前記モータの出力軸への逆入力により生じた回生電力を、前記センタモータユニットの二次電池に還元する回生機構を備えている。
【0043】
リアハブ1は、図1に示すように、後輪の車軸5と同軸に設けたハブケース7内に、変速機構3と、逆入力伝達用の逆入力用ワンウェイクラッチ2を備えている。逆入力用ワンウェイクラッチ2は、ラチェットクラッチで構成されている。なお、図1,3,5,7において、中心軸から上側を変速用クラッチの断面図とし、下側を逆入力用クラッチの断面図としている。
【0044】
変速機構3は、直結と2段増速の合計3段変速が可能な遊星歯車機構で構成されている。その構成は、前記車軸5の外周に設けられた二つの太陽歯車3a(第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2と称する)が、それぞれ対応する変速用ワンウェイクラッチ3e(第二ワンウェイクラッチ3e−1、第三ワンウェイクラッチ3e−2と称する)を介してその車軸5に接続可能とされている。
第二ワンウェイクラッチ3e−1、第三ワンウェイクラッチ3e−2は、それぞれ車軸5の外周に設けられた変速用クラッチカム面3fに、変速用ワンウェイクラッチ爪3gが係合、又は係合解除するよう動作するようになっている。
【0045】
また、この実施形態では、第二ワンウェイクラッチ3e−1、第三ワンウェイクラッチ3e−2は、ラチェットクラッチを採用している。
【0046】
また、変速機構3は、前記第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2に対して噛み合う2段の歯車を有する遊星歯車3b、その遊星歯車3bを保持する前記遊星キャリア3c、及び前記遊星歯車3bに噛み合う外輪歯車と一体であるハブケース7、遊星キャリア3cとハブケース7との間に設けられた第一ワンウェイクラッチ8を備えている。なお、この実施形態では、外輪歯車はハブケース7と一体に形成されているが、外輪歯車とハブケース7とを別体で形成して、それらを共に回転するように噛み合わせる構成も考えられる。
【0047】
この実施形態では、図1に示すように、第一ワンウェイクラッチ8はラチェットクラッチを採用しており、そのラチェットクラッチが備えるクラッチ爪が、遊星キャリア3cとハブケース7とが一方向へ相対回転する際に、その遊星キャリア3cの外周とハブケース7の内周との間に係合し、他方向へ相対回転する際には、その係合が解除されるようになっている。なお、第一ワンウェイクラッチ8として、ローラクラッチ、スプラグクラッチ等、他の構成からなるワンウェイクラッチを採用することは差し支えない。
【0048】
また、遊星キャリア3cと車軸5との間、及びハブケース7と車軸5との間には、それぞれ軸受部11,12が設けられている。この軸受部11,12によって、遊星キャリア3cと車軸5、及びハブケース7と車軸5とは、それぞれ相対回転可能に支持されている。
また、遊星キャリア3cとハブケース7との間にも、軸受部13が設けられている。この軸受部13によって、遊星キャリア3cとハブケース7と車軸5とは相対回転可能に支持されている。
【0049】
前記第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2は、それぞれに対応する第二ワンウェイクラッチ3e−1,第三ワンウェイクラッチ3e−2により、変速制御機構10を操作することで、いずれかひとつを選択的に車軸5に固定するか、あるいは全てをフリーの状態にすることができる。
【0050】
例えば、前記第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2を、いずれも車軸5に対してフリーの状態とした場合に、リアスプロケット4から駆動力が伝達されると、遊星歯車機構は駆動力の増速には直接関与せず、遊星キャリア3cから第一ワンウェイクラッチ8を介してハブケース7に直接駆動力が伝達される(直結状態)。この場合、リアスプロケット4からの回転速度は変速されずにハブケース7に伝達される。
【0051】
また、第一太陽歯車3a−1を車軸5に固定した場合、その第一太陽歯車3a−1の歯数をa、外輪歯車の歯数をdとすると、遊星キャリア3cから外輪歯車への増速比は
(a+d)/d
となる。このとき、第二太陽歯車3a−2は空転状態であり、トルク伝達に関与しない。
【0052】
さらに、第二太陽歯車3a−2を車軸5に固定した場合、その第二太陽歯車3a−2の歯数をa、第一太陽歯車3a−1と噛み合う遊星歯車3bの歯数をb、第二太陽歯車3a−2と噛み合う遊星歯車3bの歯数をc、外輪歯車の歯数をdとすると、遊星キャリア3cから外輪歯車への増速比は、[(a×b)/(c×d)]+1となる。
このとき、第一太陽歯車3aは空転状態であり、トルク伝達に関与しない。
【0053】
すなわち、前記各太陽歯車3a−1,3a−2は異なる歯数であり、全てフリーとするか、または、いずれか一つを車軸5に対し固定することで、増速比を変化させることができる。
【0054】
また、逆入力用ワンウェイクラッチ2は、前記第一太陽歯車3a−1の内周に逆入力用クラッチ爪2aを有し、その逆入力用クラッチ爪2aは、弾性部材2hによって、その一端が、前記車軸5側に設けた逆入力用クラッチカム面2gに向かって、起き上がる方向に付勢されている。
【0055】
また、変速用ワンウェイクラッチ3eについては、前記第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2の内周に、変速用ワンウェイクラッチ爪3gを有し、その変速用ワンウェイクラッチ爪3gも弾性部材3hによって、その一端が、前記車軸5側に設けた変速用クラッチカム面3fに向かって起き上がる方向に付勢されている。
【0056】
この実施形態では、逆入力用クラッチカム面2gと、変速用クラッチカム面3fの一部が共用されている。すなわち、第二ワンウェイクラッチ3e−1と逆入力用ワンウェイクラッチ2が、車軸5の軸方向に対してほぼ同じ位置に配置されており、車軸5の外面には、逆入力用ワンウェイクラッチ2に対応する逆入力用クラッチカム面2gと、第二ワンウェイクラッチ3e−1に対応する変速用クラッチカム面3fの両方の機能を有する両方向クラッチカム面14が設けられている(図2(b)参照)。
【0057】
なお、第二ワンウェイクラッチ3e−1に対応する変速用クラッチカム面3fは、それ単独として機能するように、車軸5の外面に設けられている(図2(a)参照)。
【0058】
逆入力用ワンウェイクラッチ2は、クラッチ切替装置9によって、前記駆動輪からの逆入力に対して、前記第一太陽歯車3a−1が車軸5回りに回転可能又は回転不能とに切り替えられる機能を有している。
【0059】
クラッチ切替装置9の構成は、前記車軸5の軸孔5a内を通ってその一端が前記車軸5から外部に引き出されて外部から軸方向への移動の操作が可能な逆入力操作部9aを備えている。その逆入力操作部9aを軸方向に移動操作することによって、前記逆入力用ワンウェイクラッチ2の切り替えが可能である。
【0060】
また、前記クラッチ切替装置9は、軸方向に一定の長さ、周方向に一定の長さを有する開口部で構成される切欠部9eが設けられた逆入力用スリーブ9bを備えている。
【0061】
前記逆入力操作部9aを軸方向に移動操作することによって、前記切欠部9eが前記逆入力用クラッチカム面2gの位置と前記逆入力用クラッチカム面2gから退避した位置との間で移動することができる。その移動によって、前記逆入力用ワンウェイクラッチ2の切り替えを行う。切欠部9eが、逆入力用クラッチカム面2gに臨んでいれば、逆入力用クラッチ爪2aは、弾性部材2hの付勢力によって、その切欠部9e内に入り込んで、その一端が車軸5側の逆入力用クラッチカム面2gに係合する。切欠部9eが、逆入力用クラッチカム面2gに対応する位置から退去していれば、逆入力用クラッチ爪2aは、逆入力用スリーブ9bによって、逆入力用クラッチカム面2gへの係合は阻止される。
【0062】
前記逆入力用スリーブ9bの切欠部9eは、その軸方向端部にテーパ部9dを、周方向端部にもテーパ部を備える。
このように、前記切欠部9eの軸方向端部にテーパ部9dを設けることで、逆入力用クラッチカム面2gに噛み込んだ逆入力用クラッチ爪2aと切欠部9eの縁が接触したときに、そのテーパ部の傾斜面によって逆入力用クラッチ爪2aを逆入力用クラッチカム面2gから外す力を大きくすることができる。
また、周方向端部にテーパ部を設けることで、逆方向の回転(逆入力用クラッチ部においては、駆動方向の回転)時に、逆入力用クラッチ爪2aはテーパ部の傾斜面に沿ってカム面上を移動するため、スムーズな回転が可能となる。
【0063】
また、図1に示すように、前記逆入力用スリーブ9bは、前記車軸5に設けられた逆入力用横穴9gに挿入された逆入力用ピン9fによってその車軸5に固定されている。前記逆入力用ピン9fを前記逆入力操作部9aによって前記逆入力用横穴9g内で軸方向へ移動操作することにより、前記逆入力用スリーブ9bの軸方向への移動を行うことができる。また、この逆入力用スリーブ9bは、逆入力用弾性部材9cによって、軸方向に付勢されている。
【0064】
つぎに、前記変速制御機構10の構成は、前記車軸5の軸孔5a内を通ってその一端が前記車軸5から外部に引き出されて外部から軸方向への移動の操作が可能な変速操作部10aを備えている。変速操作部10aは、逆入力操作部9aを引き出した側とは反対側の車軸5の端部に引き出されている。その変速操作部10aを軸方向に移動操作することによって、前記変速用ワンウェイクラッチ3eの切り替えが可能である。
【0065】
また、前記変速制御機構10は、軸方向に一定の長さ、周方向に一定の長さを有する開口部で構成される切欠部10eが設けられた変速用スリーブ10bを備えている。
【0066】
前記変速操作部10aを軸方向に移動操作することによって、前記切欠部10eが前記変速用クラッチカム面3fの位置と前記変速用クラッチカム面3fから退避した位置との間で移動することができる。前記切欠部10eは、第二ワンウェイクラッチ3e−1と、第三ワンウェイクラッチ3e−2に対して、それぞれ対応するものが軸方向に並列して設けられており、それらの切欠部10e−1,10e−2の位置によって、前記第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2のいずれかひとつを選択的に車軸5に固定するか、あるいは全てをフリーの状態に切り替えを行う。
【0067】
切欠部10eが、第二ワンウェイクラッチ3e−1と第三ワンウェイクラッチ3e−2のどちらかの変速用クラッチカム面3fにのみ臨むことで、その臨んだ側の変速用クラッチ爪3gは、弾性部材3hの付勢力によって、その切欠部10e内に入り込んで、その一端が車軸5側の変速用クラッチカム面3fに係合する。切欠部10eが同時に第二ワンウェイクラッチ3e−1と第三ワンウェイクラッチ3e−2の変速用クラッチカム面3fに臨むことはないように、軸方向に並ぶ切欠部10e−1,10e−2同士の間隔が決定されているので、切欠部10eが臨んでいない側の変速用クラッチ爪3gは、変速用スリーブ10bによって、変速用クラッチカム面3fへの係合は阻止される。
【0068】
また、その変速用スリーブ10bの切欠部10eは、その軸方向端部にテーパ部10dを、周方向端部にもテーパ部を備える。
このように、前記切欠部10eの軸方向端部にテーパ部10dを設けることで、変速用クラッチカム面3fに噛み込んだ変速用クラッチ爪3gと切欠部10eの縁が接触したときに、そのテーパ部10dの傾斜面によって変速用クラッチ爪3gを変速用クラッチカム面3fから外す力を大きくすることができる。
また、周方向端部にテーパ部を設けることで、逆方向の回転(変速用クラッチ部においては、逆入力方向の回転)時に、変速用クラッチ爪3gはテーパ部の傾斜面に沿ってカム面上を移動するため、スムーズな回転が可能となる。
【0069】
また、図1に示すように、前記変速用スリーブ10bは、前記車軸5に設けられた変速用横穴10gに挿入された変速用ピン10fによってその車軸5に固定されている。前記変速用ピン10fを前記変速操作部10aによって前記変速用横穴10g内で軸方向へ移動操作することにより、前記変速用スリーブ10bの軸方向への移動を行うことができる。また、この変速用スリーブ10bは、変速用弾性部材10cによって、軸方向に付勢されている。
【0070】
この実施形態では、図2(b)に示すように、前記変速用スリーブ10bの前記変速用ワンウェイクラッチ爪3gを覆う部分と、前記逆入力用スリーブ9bの前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aを覆う部分とは、それぞれ前記車軸5を夾んで両側に配置されるとともに相互に前記車軸5周りに90°位相がずれた位置に配置されている。すなわち、図2(b)に示す軸直交断面において、前記逆入力用スリーブ9b、前記変速用スリーブ10bが90°毎に交互に現れる。このため、両者が干渉することが無くなり、小スペースで両方の機構を成立させることが可能となっている。
【0071】
これらの構成により、駆動時には、前記スプロケット4からの駆動力は前記変速機構3を通じて駆動輪に伝達され、前進非駆動時には、前記クラッチ切替装置9の逆入力操作部9aの操作により、前記逆入力用ワンウェイクラッチ2における前記太陽歯車と車軸5とを逆入力に対して回転不能とすることによって、前記駆動輪からの逆入力トルクを前記スプロケット4に伝達できる機能を発揮することができる。
【0072】
さらに詳しく説明すると、まず、変速1段目の状態(直結状態)を図1及び図2に示す。リアスプロケット4は、ハブケース7内で軸方向一方寄りに設けてある。そして、逆入力用のクラッチ切替機構9をリアスプロケット側に、変速制御機構10を逆側に配置している。
【0073】
変速用ワンウェイクラッチ3eのうち、第二ワンウェイクラッチ3e−1の変速用クラッチ爪3g,及び第三ワンウェイクラッチ3e−2の変速用クラッチ爪3gは、逆入力用スリーブ9b及び変速用スリーブ10bによって、前記両方向クラッチカム面14と隔てられている。
このため、リアスプロケット4からの駆動力に対して、第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2は、車軸5周りに相対回転可能となっている。したがって、リアスプロケット4から駆動力は、遊星キャリア3c、第一ワンウェイクラッチ8、ハブケース7の順に伝達される。
【0074】
変速2段目(増速1)の状態を図3及び図4に示す。変速制御機構10の変速操作部10aを、外部操作により軸方向に所定の位置まで押し込むことにより、図3に示すように、変速用スリーブ10bが軸方向にスライドし、変速用第二ワンウェイクラッチ3e−1の変速用クラッチ爪3gの位置に変速用スリーブ10bの切欠部10eが移動する。
これにより、図4(b)に示すように、変速用第二ワンウェイクラッチ3e−1の変速用クラッチ爪3gは、変速用クラッチカム面3f(両方向クラッチカム面14)に噛み込み、第一太陽歯車3a−1は、駆動力に対して車軸5にロックされる。
【0075】
なお、このとき、逆入力用ワンウェイクラッチ2の逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aは、逆入力用スリーブ9bによって、逆入力用クラッチカム面2g(前記両方向クラッチカム面14)への係合が阻止されている。
【0076】
また、図4(a)に示すように、第三ワンウェイクラッチ3e−2の変速用クラッチ爪3gの位置では、逆入力用スリーブ9b及び変速用スリーブ10bによって、両方向クラッチカム面14と変速用第三ワンウェイクラッチ3e−2の変速用クラッチ爪3gが隔てられている。このため、第二太陽歯車3a−2は、車軸5周りに回転可能である。
【0077】
この状態では、リアスプロケット4からの駆動力は、第一太陽歯車3a−1の歯数をa、ハブケース7に設けた外輪歯車の歯数をdとすると、増速比(a+d)/dでハブケース7に伝達される。
【0078】
変速3段目(増速2)の状態を図5及び図6に示す。変速制御機構10の変速操作部10aを外部操作により軸方向に所定の位置まで押し込むことにより、図5に示すように、変速用スリーブ10bが軸方向にスライドし、第三ワンウェイクラッチ3e−2の変速用クラッチ爪3gの位置に変速用スリーブ10bの切欠部10eが移動する。
【0079】
これにより、第三ワンウェイクラッチ3e−2の変速用クラッチ爪3gは、両方向クラッチカム面14に噛み込み、第二太陽歯車3a−2は、駆動力に対して車軸5にロックされる。
【0080】
このとき、第二ワンウェイクラッチ3e−1の変速用クラッチ爪3gの位置では、逆入力用スリーブ9b及び変速用スリーブ10bによって、両方向クラッチカム面14と第二ワンウェイクラッチ3e−1の変速用クラッチ爪3gとが隔てられている。このため、第一太陽歯車3a−1は車軸5周りに回転可能である。
【0081】
この状態では、リアスプロケット4からの駆動力は、第二太陽歯車3a−2の歯数をa、第一太陽歯車3a−1と噛み合う遊星歯車3bの歯数をb、第二太陽歯車3a−2と噛み合う遊星歯車3bの歯数をc、外輪歯車の歯数をdとすると、増速比[(a×b)/(c×d)]+1でハブケース7に伝達される。
【0082】
なお、変速3段目から2段目に戻す場合や、変速2段目から1段目に戻す場合、変速操作部10aに加えられた負荷(押圧力)を解放又は減少させることで、変速用弾性部材10cによって変速用スリーブ10bが押し戻される。このとき、切欠部10eの軸方向端部に設けられたテーパ部10dによって、両方向クラッチカム面14に噛み込んでいる変速用ワンウェイクラッチ爪3gを押し上げる力が強くなり、変速用スリーブ10bが戻り易くなるため、スムーズな切替が可能となる。
【0083】
前進非駆動時(タイヤからの逆入力時)に逆入力用ワンウェイクラッチ2をロックした状態を図7及び図8に示す。各太陽歯車3a−1,3a−2の車軸5に対する回転方向は駆動力作用時と逆向きとなる。このとき、クラッチ切替装置9の逆入力操作部9aを、外部操作により軸方向に押し込むと、逆入力用スリーブ9bが軸方向にスライドし、逆入力用ワンウェイクラッチ2の逆入力ワンウェイクラッチ爪2aの位置に、逆入力用スリーブ9bの切欠部9eが移動する。
【0084】
これにより、逆入力用ワンウェイクラッチ2の逆入力ワンウェイクラッチ爪2aは、逆入力用クラッチカム面2g(両方向クラッチカム面14)に噛み込み、第一太陽歯車3a−1は逆入力に対して車軸5にロックされる。
タイヤからの逆入力は、第一太陽歯車3a−1の歯数をa、外輪歯車の歯数をdとすると、減速比(a+d)/dでハブケース7からリアスプロケット4に伝達される。
【0085】
なお、図7では、変速機構3に関し、変速2段目の状態の時を示しているが、いずれの変速段においても逆入力に対して、第一太陽歯車3a−1が車軸5にロックするため、タイヤからの逆入力の伝達経路は一定である。
【0086】
なお、逆入力操作部9aの軸方向への移動はブレーキ操作と連動させることが好ましい。すなわち、ブレーキが操作されると、逆入力操作部9aが軸方向(図の右側)に移動し、逆入力に対して第一太陽歯車3a−1は、逆入力用ワンウェイクラッチ2を介して車軸5に固定され、タイヤからの逆入力トルクはリアスプロケット4へと伝達される構成である。
【0087】
また、ブレーキを解除した場合、逆入力操作部9aは逆入力用弾性部材9cの付勢力によって、元の位置に移動しようとする。
しかしながら、逆入力トルクがかかっている状態では、逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの回転抵抗(揺動抵抗)が大きいため、逆入力用ワンウェイクラッチ2のロックがはずれることはない。逆入力トルクが無くなると、逆入力用弾性部材9cによる付勢力によって、逆入力操作部9aは元の位置に移動しロックが解除される。
【0088】
この構成により、リアスプロケット4からの駆動力は、直結もしくは増速されてタイヤに伝達される。一方、タイヤからの逆入力は減速され、リアスプロケット4からチェーン等の動力伝達要素を通してモータ軸に伝わり、回生充電が可能な状態となるのである。
【0089】
この実施形態は、逆入力用ワンウェイクラッチ2を第一太陽歯車3a−1と車軸5との間に設けているが、第二太陽歯車3a−2と車軸5との間に設けてもよい。また、この実施形態では、遊星歯車3bを2段としているが、1段もしくは3段以上の遊星歯車を用いても差し支えない。また、車軸5の前記軸孔5aは、軸方向に伸びる穴が両端から空けられており、その車軸5の軸方向中央部は中実となっているが、これらを車軸5の軸方向全長に亘る貫通穴としてもよい。
【0090】
なお、図示していないが、クランク軸とクランクスプロケットの間には、駆動力を伝達する方向にロックし、逆入力に対して空転するセンタワンウェイクラッチが設けられている。このため、逆入力によって、クランク軸やペダル等に対して駆動力が伝達されないようになっている。このセンタワンウェイクラッチとしては、ローラクラッチ、スプラグクラッチ、ラチェットクラッチ等、周知のワンウェイクラッチを採用できる。
【0091】
また、後進非駆動時(自転車を降りて、後方に引くような状況)では、絶対的な回転方向は逆となるが、リアスプロケット4とハブケース7との相対回転の関係は、前進駆動時と同じである。
【符号の説明】
【0092】
1 リアハブ
2 逆入力用ワンウェイクラッチ
2a 逆入力用ワンウェイクラッチ爪
2b クラッチ爪軸
2g 逆入力用クラッチカム面
2h 弾性部材
3 変速機構
3a 太陽歯車
3a−1 第一太陽歯車
3a−2 第二太陽歯車
3b 遊星歯車
3c 遊星キャリア
3d 外輪歯車
3e 変速用ワンウェイクラッチ
3e−1 第二ワンウェイクラッチ
3e−2 第三ワンウェイクラッチ
3f 変速用クラッチカム面
3g 変速用ワンウェイクラッチ爪
3h 弾性部材
4 リアスプロケット
5 車軸
6 ハブフランジ
7 ハブケース
8 第一ワンウェイクラッチ
9 クラッチ切替装置
9a 逆入力操作部
9b 逆入力用スリーブ
9c 逆入力用弾性部材
9d テーパ部
9e 切欠部
9f 逆入力用ピン
9g 逆入力用横穴
10 変速制御機構
10a 変速操作部
10b 変速用スリーブ
10c 変速用弾性部材
10d テーパ部
10e 切欠部
10f 変速用ピン
10g 変速用横穴
11,12,13 軸受部
14 両方向クラッチカム面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪と後輪とを結ぶフレームに二次電池及び補助駆動用のモータを取り付け、クランク軸から伝達された踏力又は前記モータの出力による駆動力を駆動輪に伝達可能とし、前進非駆動時には、前記駆動輪から前記モータの出力軸への逆入力により生じた回生電力を前記二次電池に還元する回生機構を備えた電動補助自転車に用いる電動補助自転車用リアハブ内装変速装置において、
前記駆動輪に設けたハブ(1)に変速機構(3)と逆入力用ワンウェイクラッチ(2)とクラッチ切替装置(9)とを備え、
前記変速機構(3)は遊星歯車機構によって構成されて、少なくとも一つの太陽歯車を有し、前記踏力又は前記モータの出力による駆動力をスプロケット(4)を通じて前記駆動輪に伝達する機能を有して、そのスプロケット(4)からの駆動力に対して、前記太陽歯車(3a)を車軸(5)回りに回転可能又は回転不能とに切り替えて変速を行う変速制御機構(10)を備えており、
前記逆入力用ワンウェイクラッチ(2)は少なくとも一つの太陽歯車(3a)と車軸(5)との間に設けられて、前記逆入力用ワンウェイクラッチ(2)はラチェットクラッチによって構成され、前記クラッチ切替装置(9)によって前記逆入力用ワンウェイクラッチ(2)は前記駆動輪からの逆入力に対して、前記太陽歯車(3a)が車軸(5)回りに回転可能又は回転不能とに切り替えられる機能を有しており、前記逆入力用ワンウェイクラッチ(2)は、前記太陽歯車(3a)に設けられた逆入力用ワンウェイクラッチ爪(2a)と、前記車軸(5)の外面に設けられた逆入力用クラッチカム面(2g)を備え、前記クラッチ切替装置(9)は、前記車軸(5)内を通ってその一端が前記車軸(5)から外部に引き出されて外部から軸方向への移動の操作が可能な逆入力操作部(9a)を備え、その逆入力操作部(9a)を軸方向に移動操作することによって、前記逆入力用ワンウェイクラッチ(2)の切り替えが可能であり、
駆動時には、前記スプロケット(4)からの駆動力は前記変速機構(3)を通じて駆動輪に伝達され、前進非駆動時には、前記クラッチ切替装置(9)の逆入力操作部(9a)の操作により前記逆入力用ワンウェイクラッチ(2)における前記太陽歯車(3a)と車軸(5)とを逆入力に対して回転不能とすることによって、前記駆動輪からの逆入力トルクを前記スプロケット(4)に伝達できる機能を有することを特徴とする電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項2】
前記クラッチ切替装置(9)は、切欠部(9e)が設けられた逆入力用スリーブ(9b)を備え、前記逆入力操作部(9a)を軸方向に移動操作することによって前記切欠部(9e)が前記逆入力用クラッチカム面(2g)の位置と前記逆入力用クラッチカム面(2g)から退避した位置との間で移動し、その移動によって、前記逆入力用ワンウェイクラッチ(2)の切り替えを行うことを特徴とする請求項1に記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項3】
前記逆入力用スリーブ(9b)の切欠部(9e)は、その軸方向端部にテーパ部(9d)を備えることを特徴とする請求項2に記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項4】
前記逆入力用スリーブ(9b)の切欠部(9e)は、その周方向端部にテーパ部を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項5】
前記逆入力用スリーブ(9b)は、前記車軸(5)に設けられた逆入力用横穴(9g)に挿入された逆入力用ピン(9f)によってその車軸(5)に固定され、前記逆入力用ピン(9f)を前記逆入力操作部(9a)によって前記逆入力用横穴(9g)内で軸方向へ移動操作することにより、前記逆入力用スリーブ(9b)の軸方向への移動を行うことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一つに記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項6】
前記逆入力用スリーブ(9b)は、逆入力用弾性部材(9c)によって、軸方向に付勢されている請求項2乃至5のいずれか一つに記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項7】
前記変速機構(3)は、前記太陽歯車(3a)を車軸(5)回りに回転可能又は回転不能とに切り替える変速用ワンウェイクラッチ(3e)を備え、その変速用ワンウェイクラッチ(3e)の前記車軸(5)に対する回転可能又は回転不能の切り替えが前記変速制御機構(10)によって行われるようになっており、前記変速用ワンウェイクラッチ(3e)は、前記太陽歯車(3a)に設けられた変速用ワンウェイクラッチ爪(3g)と、前記車軸(5)の外面に設けられた変速用クラッチカム面(3f)とを備えたラチェットクラッチであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項8】
前記変速制御機構(10)は、前記車軸(5)内を通ってその一端が前記車軸(5)から外部に引き出されて外部から軸方向への移動の操作が可能な変速操作部(10a)を備え、その変速操作部(10a)を軸方向に移動操作することによって、前記変速用ワンウェイクラッチ(3e)の切り替えが可能であることを特徴とする請求項7に記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項9】
前記車軸(5)の外面に周方向に沿って複数の凹凸を設け、その凹凸に、前記逆入力用クラッチカム面(2g)と前記変速用クラッチカム面(3f)の両方の機能を発揮させることを特徴とする請求項7又は8に記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項10】
前記変速制御機構(10)は、切欠部(10e)が設けられた変速用スリーブ(10b)を備え、前記変速操作部(10a)を軸方向に移動操作することによって前記切欠部(10e)が前記変速用クラッチカム面(3f)の位置と前記変速用クラッチカム面(3f)から退避した位置との間で移動し、その移動によって、前記変速用ワンウェイクラッチ(3e)の切り替えを行うことを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一つに記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項11】
前記変速用スリーブ(10b)の切欠部(10e)は、その軸方向端部にテーパ部(10d)を備えることを特徴とする請求項10に記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項12】
前記変速用スリーブ(10b)の切欠部(10e)は、その周方向端部にテーパ部を備えることを特徴とする請求項10又は11に記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項13】
前記変速用スリーブ(10b)は、前記車軸(5)に設けられた変速用横穴(10g)に挿入された変速用ピン(10f)によってその車軸(5)に固定され、前記変速用ピン(10f)を前記変速操作部(10a)によって前記変速用横穴(10g)内で軸方向へ移動操作することにより、前記変速用スリーブ(10b)の軸方向への移動を行うことを特徴とする請求項10乃至12のいずれか一つに記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項14】
前記変速用スリーブ(10b)は、変速用弾性部材(10c)によって、軸方向に付勢されている請求項10乃至13のいずれか一つに記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項15】
前記変速用スリーブ(10b)の前記変速用ワンウェイクラッチ爪(3g)を覆う部分と、前記逆入力用スリーブ(9b)の前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪(2a)を覆う部分とは、それぞれ前記車軸(5)を夾んで両側に配置されるとともに相互に前記車軸(5)周りに90°位相がずれた位置に配置されていることを特徴とする請求項10乃至14のいずれか一つに記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項16】
前記スプロケット(4)は前記ハブケース(7)内の軸方向一方寄りに配置されており、前記クラッチ切替装置(9)を前記ハブケース(7)内の軸方向一方寄りに配置し、前記変速制御機構(10)を他方寄りに配置したことを特徴とする請求項10乃至15のいずれか一つに記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項17】
前記クラッチ切替装置(9)の操作をブレーキ操作と連動させたことを特徴とする請求項1乃至16のいずれか一つに記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−126416(P2011−126416A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286534(P2009−286534)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)