説明

電動補助自転車

【課題】後退時にクラッチ同士が干渉することを防ぐ。
【解決手段】駆動輪のハブ1内部に変速機構3と変速制御機構10を備え、変速機構3は遊星歯車機構によって構成され、車軸5周りの太陽歯車3aとそれに噛み合う遊星歯車3b及び遊星キャリア3cを有し、ハブケース7は遊星歯車3bと噛み合う外輪歯車3dと一体に回転する。太陽歯車3aと車軸5の間には変速用第一クラッチ3eを、遊星キャリア3cとハブケース7との間には変速用第二クラッチ3hを備え、前進駆動時に踏力又はモータの駆動力が遊星キャリア3cに入力されて駆動輪に等速以上で伝達される。変速制御機構10により、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して太陽歯車3aを車軸5周りに、及び、遊星キャリア3cをハブケース7周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることで変速し、前進非駆動時に駆動輪からの逆入力は、いずれの変速段でも前進駆動時の駆動力伝達経路と逆向きに伝達される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータにより人力駆動系に補助力を付加させる電動補助自転車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動モータにより人力駆動系に補助力を付加させる電動補助自転車には、電動補助力を与えるためのモータ用電源としてバッテリが搭載される。このバッテリは、1回の充電で長時間走行できることが望ましいことから、走行エネルギーを有効に利用し、回生発電によりバッテリを充電する機能を備えた電動補助自転車が開発されている。
【0003】
その回生発電によるバッテリの充電装置として、例えば、特許文献1に、ブレーキレバーの操作を検出して回生装置に回生作動を指令する回生制御装置の技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この種の電力回生機能を搭載する場合、例えば、特許文献2に示すように、車軸周辺にモータ及び変速機を設けた電動補助自転車(ハブモータ方式)の場合は、駆動輪とモータの出力軸とを直結とすることで、電力回生は比較的容易に実現できる(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかし、このハブモータ方式の場合、バッテリ(以下、二次電池と称する)からモータまでの距離が遠くなりがちであり、その二次電池までの配線の取り回しが煩雑になる傾向がある。また、モータをフロント側に配置すると操作性が悪化し、リア側に配置すると変速機との両立が困難になるという問題もある。
【0006】
このため、電力回生機能を搭載する場合、操作性と構造の簡素化を求めるならば、例えば、特許文献3のように、クランク軸及びその軸受等を含む人力駆動系と、モータによる補助動力をクランク軸に合力させる駆動系とを単一のハウジングに収容した駆動装置、いわゆるセンタモータユニットを備えた構造(センタモータ方式)とするのが有利である(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
センタモータ方式で、電力回生機能を搭載した電動補助自転車として、例えば、特許文献4に示すものがある。
この電動補助自転車では、モータの出力軸と駆動側スプロケットとの間に第一ワンウェイクラッチを設け、ペダルから踏力が入力されるクランク軸と駆動側スプロケットとの間に第二のワンウェイクラッチを設け、さらにブレーキ操作に応じて第一ワンウェイクラッチをロックする直結手段を設けることで、制動時の電力回生を実現している。なお、リアハブとリアスプロケットとは、回生時に後輪からの逆入力トルクをモータに伝えることができるように直結されている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
また、同じく、電力回生機能を搭載した電動補助自転車として、例えば、特許文献5に示すものがある。
この電動補助自転車では、センタモータユニット内で、モータの出力軸にブレーキ操作に連動してロック方向を切り替えることが出来るツーウェイクラッチを設け、制動時の電力回生を実現している。
【0009】
すなわち、モータアシスト時には、ツーウェイクラッチを正回転方向でロックさせることにより、モータの出力を後輪に伝達することができ、モータアシストが可能となる。また、乗員のブレーキ操作に連動してツーウェイクラッチのロック方向を切り替え、ツーウェイクラッチを逆回転方向でロックさせれば、後輪側からの逆入力トルク(正回転方向)をモータに伝達することができ、これによって回生発電およびブレーキアシストが可能となる。この構成では、回生時に後輪側からの逆入力トルクをモータ側に伝達させる必要があるため、リアハブとリアスプロケットとは直結としている(例えば、特許文献5参照)。
【0010】
このように、センタモータ方式の駆動系において、電力回生機能を搭載する場合、後輪からの逆入力トルクをモータに伝えるため、上記特許文献4や特許文献5では、リアハブとリアスプロケットは直結されている。
【0011】
ところで、一般的な自転車の変速機構は、クランク軸又はリア車軸の何れか一方、もしくは両方の同軸上に多段のスプロケットを設け、ディレイラーによってチェーンをスプロッケット間で移動させることによって変速する方式(外装変速機)とリアハブの内部に設けた歯車を掛けかえることによって変速する方式(内装変速機)がある。
外装変速機は構造が簡単で軽量であるが、スプロケットやチェーンが摩耗する原因になり、チェーン外れの原因にもなる。一方、内装変速機は防塵、防水性があり、メンテナンスフリーであるためシティサイクルに使われることが多い。現在のところ、電動補助自転車はシティサイクルを中心に展開しており、その殆どが内装変速機を採用している。
【0012】
この点、上記特許文献4や特許文献5では、リアハブとリアスプロケットとが直結されているので、内装変速機に対応することができない。
【0013】
また、内装変速機内には、通常、惰性走行に対応するためのワンウェイクラッチが設けられている。このため、その構造を、そのまま回生機構を備えた電動補助自転車に適用しても、後輪からの逆入力は、リアハブからリアスプロケットに伝わらない。すなわち、ワンウェイクラッチは空転するから、後輪からの逆入力により、センタモータを回転、回生させることができない。
【0014】
逆入力に対応するため、例えば、後輪からクランク軸、及び後輪からモータの出力軸をそれぞれ別々の動力伝達要素で結合することも可能であるが、2本の伝達要素を用いることはレイアウト的にもコスト的にも商品価値の大幅な低下を招く。
【0015】
そこで、特許文献6では、内装変速機を備えたセンタモータ方式の電動補助自転車において、リアハブに変速機構と逆入力伝達用のクラッチを設けることにより、惰性走行時に後輪からの逆入力がチェーンを介してモータに伝達されることで、回生発電を可能としている。
【0016】
この電動補助自転車において、変速機構は、遊星歯車機構を用いており、入力が等速以上で伝達される増速型か、あるいは、等速以下で伝達される減速型としている。
【0017】
増速型の場合、遊星キャリアを入力として、遊星キャリアとハブケースとの間に設けた駆動用ワンウェイクラッチを介して駆動力が車輪(ハブケース)に伝達される直結状態とできる。また、歯数の異なる複数の歯車部を有する遊星歯車が、それぞれ車軸周りに設けた太陽歯車に噛み合っており、各歯車部に噛み合う太陽歯車と車軸との間にそれぞれ設けてある変速用クラッチを切り替えることによって、複数段の増速状態の切り替えを行っている。
【0018】
また、逆入力伝達用のクラッチ(以下、「逆入力用クラッチ」と称する。)は、変速比が最も高速となる時に車軸に固定される太陽歯車と車軸との間に設けられている。
【0019】
この構成とした場合、逆入力用クラッチとして通常のワンウェイクラッチを採用すると、後退しようとした際(自転車を手で押して後退するような状態)に、逆入力用クラッチが噛み合って車輪がロックしてしまう。このため、後退することができない状態となってしまう。このような事態を回避するため、その後退時において、逆入力用クラッチの係合を解除する(係合させない)機構が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平8−140212号公報
【特許文献2】特開2003−166563号公報
【特許文献3】特開平10−250673号公報
【特許文献4】特開2001−213383号公報
【特許文献5】特開2004−268843号公報
【特許文献6】特開2010−095203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記特許文献6に記載された発明では、逆入力用クラッチの係合を解除する(係合させない)機構(以下、逆入力用クラッチ解除機構と称する。)は、固定の車軸に対するハブケースの回転方向が、後退時にのみ、駆動方向と逆回転となることを利用して、ハブケースの回転運動を軸方向運動に変換して、逆入力用クラッチを解除する機構となっている。
【0022】
しかしながら、上記特許文献6では、回転運動を軸方向運動に変換するために、車軸周りに沿って徐々に軸方向一方へ傾斜するテーパ状の部材を用いているため、所定の位置に解除部材が移動するまでに、ハブケースがある程度の角度回転する必要がある。したがって、各クラッチの状態によっては、逆入力用クラッチが解除される前に他のクラッチとの干渉が生じてしまい、後退できない場合が生じる恐れがある。
【0023】
また、その特許文献6では、後退時に、逆入力用クラッチの係合を手動で解除する機構についても述べているが、後退の度に切り替えることは不便である。
【0024】
そこで、この発明は、回生機構を備えたセンタモータ方式の電動補助自転車において、後退時にクラッチ同士が干渉してロックすることを防ぐ機構を簡素化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の課題を解決するために、この発明は、前輪と後輪とを結ぶフレームに二次電池及び補助駆動用のモータを取り付け、クランク軸から伝達された踏力又は前記モータの出力による駆動力を駆動力伝達要素を介して駆動輪に伝達可能とし、前進非駆動時には、駆動輪からモータの出力軸への逆入力により生じた回生電力を二次電池に還元する回生機構を備え、駆動輪に設けたハブ内部に変速機構と変速制御機構を備えており、変速機構は、遊星歯車機構によって構成されて、前記駆動輪の車軸周りに設けられた太陽歯車と、その太陽歯車に噛み合う遊星歯車、及びその遊星歯車を保持する遊星キャリアを有し、ハブケースは、前記遊星歯車と噛み合う外輪歯車と一体に回転するようになっており、前記変速機構は、前進駆動時に、踏力又はモータの出力による駆動力が前記駆動力伝達要素から前記遊星キャリアに入力されて前記遊星キャリアから駆動輪に等速以上で伝達される増速型であり、前記太陽歯車と前記車軸の間には変速用第一クラッチを、前記遊星キャリアと前記ハブケースとの間には変速用第二クラッチを備えており、前記変速制御機構は、前記変速用第一クラッチ及び前記変速用第二クラッチを切り替えることによって、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記太陽歯車を前記車軸周りに相対回転可能または相対回転不能とに、及び、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記遊星キャリアを前記ハブケース周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替える機能を有し、前進非駆動時に、駆動輪からの逆入力は、いずれの変速段においても前進駆動時の駆動力伝達経路を逆向きに伝達されることを特徴とするハブを備えた電動補助自転車とした。
【0026】
一般に、この種の内装変速機を備えたセンタモータ方式の電動補助自転車において、変速制御機構により制御される変速用クラッチはワンウェイクラッチであるため、逆入力に対しては変速用クラッチは係合できない。そこで、全ての変速用クラッチを両方向に係合可能なクラッチとし、変速制御機構によりクラッチの切替を制御することで、いずれの変速段においても逆入力の伝達を可能とし得る。このとき、変速機構は、等速以上で伝達される増速型であるため、逆入力に対しては減速となり、設定された増速比と同じ値の減速比となる。
【0027】
すなわち、この構成によれば、クラッチ同士の干渉が起きることはなく、いかなる変速段においても後退が可能である。また、従来のようなテーパ状の部材を用いた逆入力用クラッチ解除機構が不要であるから構造がシンプルとなり、後退時にクラッチ同士が干渉してロックすることを防ぐ機構を簡素化できる。
【0028】
また、直結(等速)状態を得るために必要な変速用第二クラッチを、遊星キャリアとハブケースとの間に設けることにより、直結時の駆動力及び逆入力は、遊星キャリア、変速用第二クラッチ、及びハブケースを経由して伝達される。このため、遊星歯車は、駆動力及び逆入力の伝達に関与しないため、歯車の耐久面から考えると、変速用第二クラッチを遊星キャリアと太陽歯車との間に設けるよりも有利である。
【0029】
この構成において、前記遊星歯車は歯数の異なる複数の歯車部を有し、前記太陽歯車は前記歯車部と同数設けられてその各太陽歯車が前記歯車部にそれぞれ噛み合っており、前記各太陽歯車と前記車軸の間にはそれぞれ変速用第一クラッチが設けられ、前記変速制御機構は、前記各変速用第一クラッチをそれぞれ係合可能状態又は係合不能状態とに切り替えることで、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記各太陽歯車を前記車軸周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替え可能である構成を採用することができる。
【0030】
この構成において、前記変速用第一クラッチは、一つの係合子が駆動力と逆入力の両方に対して係合可能である構造を有するものとすることができる。すなわち、一つの係合子が、駆動力と逆入力の両方向の相対回転に対してそれぞれ係合可能である構成である。
この変速用第一クラッチとして、係合子としてボール、スプラグ、ローラまたはラチェット爪等を備えた各種クラッチ、及びスプライン等によるドグクラッチ等の構成を採用することができる。
【0031】
また、前記変速用第一クラッチとしては、複数の係合子を有し、少なくとも一つの係合子が駆動力に対して係合可能であり、少なくとも一つの係合子が逆入力に対して係合可能である構造とすることもできる。
この各構成においても、前記変速用第一クラッチとして、スプラグクラッチ、ローラクラッチ等の構成を採用してよいが、特に、ラチェットクラッチからなる構成を採用することができる。一般に、この種の内装変速機において、変速用ワンウェイクラッチはラチェット機構(ラチェットクラッチ)を採用している場合が多く、両方向に係合可能なクラッチとした場合でもラチェット機構を採用することにより、既存の構成からなる変速制御機構を用いて、各変速用クラッチの切替を行うことが可能である。ラチェットクラッチを採用した場合、例えば、以下の構成を採用することができる。
【0032】
すなわち、前記変速用第一クラッチは、少なくとも二つの変速用第一クラッチ爪が前記車軸の外面に揺動自在に設けられており、その変速用第一クラッチ爪が噛み合う変速用第一クラッチカム面が前記太陽歯車の内面に設けられており、前記少なくとも二つの変速用第一クラッチ爪は互いに逆方向に係合可能であって、前記変速用第一クラッチカム面は、その互いに逆方向に係合可能な前記変速用第一クラッチ爪の一方が駆動力に対して他方が逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状を有する構成である。
【0033】
また、ラチェットクラッチのラチェット爪とカム面を内外逆にした構成、すなわち、前記変速用第一クラッチは、少なくとも二つの変速用第一クラッチ爪が前記太陽歯車の内面に揺動自在に設けられており、その変速用第一クラッチ爪が噛み合う変速用第一クラッチカム面が前記車軸の外面に設けられており、前記少なくとも二つの変速用第一クラッチ爪は互いに逆方向に係合可能であって、前記変速用第一クラッチカム面は、その互いに逆方向に係合可能な前記変速用第一クラッチ爪の一方が駆動力に対して他方が逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状を有する構成を採用することもできる。
【0034】
前者のように、変速用のクラッチ爪を車軸の外面に設け、変速用のクラッチカム面を太陽歯車の内面に設けた場合、各カム面の溝数を周方向に沿って数多く配置できることから機能的には望ましい。すなわち、変速用第一クラッチのクラッチカム面の係合溝数を確保し易くなるため、クラッチの遊び角(係合するまでのタイムラグ)を小さくできる。
逆に、後者のように、変速用のクラッチ爪を太陽歯車の内面に設け、変速用のクラッチカム面を車軸の外面に設けた場合、各カム面の溝数は少なくなるが、車軸の構造をシンプルにできるため低コスト化を図ることができる。
【0035】
なお、変速用第一クラッチの構成としてラチェットクラッチを採用した場合において、前記変速用第一クラッチ爪を車軸側に設けた場合、前記変速用第一クラッチ爪は、弾性部材によってそれぞれその一端が前記変速用第一クラッチカム面側に起き上がる方向に付勢され、その他端が前記車軸の外周に設けた変速用スリーブに接することができるようになっており、前記操作部の移動操作により、前記変速用スリーブに設けられた切欠部が、前記変速用第一クラッチ爪の位置と、その前記変速用第一クラッチ爪から退避した位置との間でそれぞれ移動することにより、前記変速用第一クラッチが切り替えられる構成を採用することができる。
【0036】
例えば、この変速用スリーブが、前記車軸の軸方向に移動することにより、前記切欠部の移動が行われる構成とした場合、その切欠部の軸方向端部に、軸方向外側に向かうにつれて外径側に近づくテーパ面を設けた構成を採用することができる。
このようにすれば、クラッチカム面に噛み込んだクラッチ爪と切欠部が接触した際に、そのテーパ面の傾斜面によってクラッチ爪をカム面から外す力を大きくすることができる。
なお、変速用スリーブが、前記車軸の軸周り方向に移動することにより、前記切欠部の移動が行われる場合は、変速用スリーブの切欠部の周方向端縁にテーパ面を設けることもできる。
【0037】
一方、これらの各構成において、前記変速用第二クラッチとして、前記変速用第一クラッチと同様、スプラグクラッチ、ローラクラッチ等の構成を採用してよいが、特に、ラチェットクラッチからなる構成を採用することができる。ラチェットクラッチを採用した場合、例えば、以下の構成を採用することができる。
【0038】
すなわち、その構成は、前記変速用第二クラッチは、少なくとも二つの変速用第二クラッチ爪が前記遊星キャリアの外面に揺動自在に設けられており、その変速用第二クラッチ爪が噛み合う変速用第二クラッチカム面が前記ハブケースの内面に設けられており、前記少なくとも二つの変速用第二クラッチ爪は互いに逆方向に係合可能であって、前記変速用第二クラッチカム面は、その互いに逆方向に係合可能な前記変速用第二クラッチ爪の一方が駆動力に対して他方が逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状を有する構成である。
【0039】
このように、変速用第二クラッチ爪を遊星キャリアの外面に設け、変速用第二クラッチカム面をハブケースの内面に設けることにより、変速制御機構による両方のクラッチの切替のための機構を簡素化することができる。
【0040】
また、変速用第二クラッチ爪は、少なくとも係合方向の異なる二つのものがあれば、駆動力と逆入力のそれぞれを伝達可能とし得るが、さらに、同一の係合方向のクラッチ爪を複数とすることにより、その伝達時のトルク容量を容易に確保できる。さらに、その同一方向のクラッチ爪の位相(車軸周りの方位の位相)を、変速用第二クラッチカム面の位相とずらして配置することにより、クラッチが係合するまでのタイムラグを小さくすることができる。
【0041】
さらに、前記変速用第二クラッチの構成としてラチェットクラッチを採用した場合において、前記変速用第二クラッチ爪は、前記車軸の軸方向に並行なクラッチ軸周りに揺動可能に支持され、その一端が弾性部材によって前記変速用第二クラッチカム面側に起き上がる方向に付勢されており、変速用第二クラッチ切替部が前記変速用第二クラッチ爪の位置と変速用第二クラッチ爪から退避した位置との間で移動することによって、前記変速用第二クラッチ爪を、前記変速用第二クラッチカム面に係合可能な状態と係合不可能な状態とに切り替えることができる構成を採用することができる。
【0042】
この変速用第二クラッチ切替部は、例えば、その変速用第二クラッチ切替部の軸方向(車軸の軸方向)端部に、軸方向外側に向かうにつれて内径側に近づくテーパ部を設けた構成を採用することができる。
この構成によれば、クラッチカム面に噛み込んだクラッチ爪とテーパ部が接触した際に、そのテーパ面の傾斜面によってクラッチ爪をカム面から外す力を大きくすることができる。
なお、変速用第二クラッチ切替部が、前記車軸の軸周り方向に移動することにより前記切り替えが行われる場合は、変速用第二クラッチ切替部の周方向端縁にテーパ部を設けることもできる。
【0043】
また、この構成において、前記クラッチ軸は、前記遊星歯車と前記遊星キャリアとを結ぶ遊星歯車軸と一体である構成を採用することができる。
この構成によれば、変速用第二クラッチのクラッチ軸を支持するために、遊星キャリアに対して新たにクラッチ軸用の穴を加工する必要がなく、コスト低減が可能である。すなわち、遊星キャリアに設けられている遊星歯車軸用の軸穴を、変速用第二クラッチ爪を支持するクラッチ軸の軸穴と共通化することができるので、新たにクラッチ軸用の穴を加工する必要がない。
【0044】
また、遊星歯車の数は、奇数個または偶数個備えることが可能である。遊星歯車が偶数個備えられている場合、前記変速用第二クラッチは、駆動力に対して係合可能な係合子の数と逆入力に対して係合可能な係合子の数が等しく備えられている構成を採用することが望ましい。一方、遊星歯車が奇数個備えられている場合、平均的な駆動力と逆入力との大きさから考えると、前記変速用第二クラッチは、駆動力に対して係合可能な係合子の数が逆入力に対して係合可能な係合子の数よりも多く備えられている構成を採用することが望ましい。
また、その遊星歯車は、特に、荷重のバランスが取れやすい3個備えている構成を採用することができる。この場合、同じく、平均的な駆動力と逆入力の大きさから考えると、変速用第二クラッチは、例えば、駆動力に対して係合可能な係合子を二つとし、逆入力に対して係合可能な係合子を一つとすることができる。
【0045】
これらの各構成において、変速制御機構は、車軸内を通して外部に引き出された操作部を有しており、操作部を軸方向に移動操作することにより、変速切替を行うことが可能な構成を採用することができる。この構成によれば、簡単な機構により、各変速用クラッチの切り替えを外部から行うことができるようになる。
【0046】
また、これらの各構成は、特に、遊星歯車が、歯数の異なる二つの歯車部を有する遊星歯車機構によって構成した、直結(等速)と2段階の増速による3段変速構造とすることができる。
【0047】
さらに、これらの各構成において、踏力又はモータの出力による駆動力は、前記駆動力伝達要素から前記遊星キャリアに対してリアスプロケットを介して入力され、前記変速用第二クラッチは、前記遊星歯車を挟んで前記リアスプロケットの反対側に配置されている構成を採用することができる。
【0048】
このとき、前記変速制御機構は、前記車軸の軸方向に対して、前記リアスプロケットと反対側に配置されている構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0049】
この発明は、全ての変速用クラッチを両方向に係合可能なクラッチとし、変速制御機構によりクラッチの切替を制御することで、いずれの変速段においても逆入力の伝達を可能とし得る。このとき、変速機構は、等速以上で伝達される増速型であるため、逆入力に対しては減速となり、設定された増速比と同じ値の減速比となる。すなわち、この構成によれば、クラッチ同士の干渉が起きることはなく、いかなる変速段においても後退が可能である。また、従来のようなテーパ状の部材を用いた逆入力用クラッチ解除機構が不要であるから構造がシンプルとなり、後退時にクラッチ同士が干渉してロックすることを防ぐ機構を簡素化できる。
【0050】
また、変速機構が直結(等速)状態を得るために必要な変速用第二クラッチを、遊星キャリアとハブケースとの間に設けることにより、直結時の駆動力及び逆入力は、遊星キャリア、変速用第二クラッチ、及びハブケースを経由して伝達される。このため、遊星歯車は、駆動力及び逆入力の伝達に関与しないため、歯車の耐久面から考えると、変速用第二クラッチを遊星キャリアと太陽歯車との間に設けるよりも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の一実施形態の変速1段目(直結状態)を示すハブの縦断面図
【図2】(a)は図1のA−A断面図、(b)は同B−B断面図、(c)は同C−C断面図
【図3】この発明の一実施形態の変速2段目を示すハブの縦断面図
【図4】(a)は図3のA−A断面図、(b)は同B−B断面図、(c)は同C−C断面図
【図5】この発明の一実施形態の変速3段目を示すハブの縦断面図
【図6】(a)は図5のA−A断面図、(b)は同B−B断面図、(c)は同C−C断面図
【図7】この発明の一実施形態の前進非駆動時(変速3段目による回生状態)を示すハブの縦断面図
【図8】(a)は図7のA−A断面図、(b)は同B−B断面図、(c)は同C−C断面図
【図9】電動補助自転車の全体図
【発明を実施するための形態】
【0052】
この発明の実施形態を、図1〜図9に基づいて説明する。この実施形態の電動補助自転車は、前輪22と後輪25間の中央部付近において、その前輪22と後輪25とを結ぶフレームFに二次電池及び補助駆動用のモータを内蔵したセンタモータユニットCが取り付けられたセンタモータ方式である。
【0053】
駆動時、例えば、図9に示すペダル20を通じてクランク軸21から伝達された踏力,又は前記モータの出力による駆動力が入力された場合は、フロントスプロケット24と後輪25のスプロケット4(以下、「リアスプロケット4」と称する。)とを結ぶチェーン23等の動力伝達要素を介して、後輪25に駆動力が伝達可能となっている。
【0054】
また、前進非駆動時には、後輪25のハブ1(以下、「リアハブ1」と称する)から前記モータの出力軸へ逆入力が伝達され、その逆入力により生じた回生電力を、前記センタモータユニットCの二次電池に還元する回生機構を備えている。その回生機構は、センタモータユニットCや二次電池を収容したケース26の周辺において、前記フレームFに取り付けられる。
【0055】
リアハブ1は、後輪25の車軸5と同軸に設けたハブケース7内に、図1に示すように、遊星歯車機構で構成された変速機構3と変速制御機構10とを備えている。車軸5はフレームFに対して回転不能に固定されている。
【0056】
変速機構3は、直結と2段増速の合計3段変速が可能な遊星歯車機構で構成された増速型である。その遊星歯車機構による変速機構3は、車軸5の外周に設けられた太陽歯車3aが、変速用第一クラッチ3eを介して接続されている。
【0057】
この実施形態では、変速機構3は、歯数の異なる二つの歯車部を有する遊星歯車3bを備え、太陽歯車3aは、その遊星歯車3bの数、すなわち、歯車部の数と同じく二つ設けられて、その各太陽歯車3aが対応する歯車部にそれぞれ噛み合っている。以下、その二つの太陽歯車3aを、第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2と称する。
【0058】
また、変速機構3は、その遊星歯車3bを保持する遊星キャリア3c、遊星歯車3bに噛み合い、ハブケース7と一体に回転する外輪歯車3dを備えている。
この実施形態では、ハブケース7と外輪歯車3dとは別体に形成されて、それらを一体に回転するように接合しているが、ハブケース7と外輪歯車3dとを一体に形成してもよい。
【0059】
その第一太陽歯車3a−1と車軸5との間、第二太陽歯車3a−2と車軸5との間には、それぞれ前記変速用第一クラッチ3eが設けられている。
【0060】
第一太陽歯車3a−1と車軸5の間の変速用第一クラッチ3eを、以下、変速用第一クラッチ部3e−1と称する。また、第二太陽歯車3a−2と車軸5の間の変速用第一クラッチ3eを、以下、変速用第二クラッチ部3e−2と称する。
【0061】
また、遊星キャリア3cとハブケース7との間には、変速用第二クラッチ3hが設けられている。遊星キャリア3cとハブケース7は、変速用第二クラッチ3hを介して接続されている。
【0062】
この実施形態では、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2、変速用第二クラッチ3hとして、それぞれラチェットクラッチ(ラチェット機構)を採用している。
【0063】
これらの構成により、後述の変速制御機構10を操作することで、第一太陽歯車3a−1は変速用第一クラッチ部3e−1、第二太陽歯車3a−2は変速用第二クラッチ部3e−2を介して、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して車軸5周りに相対回転可能または相対回転不能とすることにより変速を行うことができる。また、同じく変速制御機構10を操作することで、遊星キャリア3cは、変速用第二クラッチ3hを介して、駆動力及び逆入力のそれぞれに対してハブケース7周りに相対回転可能または相対回転不能とすることにより変速を行うことができる。
【0064】
なお、遊星キャリア3cと車軸5との間、及びハブケース7と車軸5との間には、それぞれ軸受部13,13が設けられ、互いに相対回転可能に支持されている。遊星キャリア3cとハブケース7との間にも、軸受部14が設けられて互いに相対回転可能となっている。
【0065】
変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1は、車軸5に固定した揺動軸(クラッチ軸)3kの軸周りに、二つの揺動自在の変速用第一クラッチ爪3f(以下、変速用第一爪部3f−1と称する)が車軸5の外面に設けられており、その変速用第一爪部3f−1が噛み合う変速用第一クラッチカム面3g(以下、変速用第一カム面部3g−1と称する)が第一太陽歯車3a−1の内面に設けられている(図2(c)参照)。
【0066】
この二つの変速用第一爪部3f−1は、互いに第一太陽歯車3a−1と車軸5との逆方向の相対回転に対して係合可能である。図2(c)に示す上方の変速用第一爪部3f−1は、クラッチ軸3kを揺動中心として時計回り方向に揺動することで係合側に近づき、下方の変速用第一爪部3f−1は、反時計回り方向に揺動することで係合側に近づくようになっている。
【0067】
また、変速用第一カム面部3g−1は、周方向に沿って凹凸が連続する形状となっており、これは、逆方向に揺動する変速用第一爪部3f−1の一方が駆動力に対して、他方が逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状となっている。
【0068】
なお、この実施形態では、変速用第一爪部3f−1は、互いに第一太陽歯車3a−1と車軸5との逆方向の相対回転に対して係合可能な二つの爪で構成されているが、変速用第一爪部3f−1の数は、少なくとも互いに逆方向に係合可能な二つのものが含まれていれば、その数は限定されない。例えば、時計回り方向に揺動することで係合側に近づく変速用第一爪部3f−1を二つ、反時計回り方向に揺動することで係合側に近づく変速用第一爪部3f−1を二つとしてもよい。また、それらを揺動方向の異なる爪を、互いに異なる数に設定してもよい。
【0069】
また、変速用第一クラッチ3eの変速用第二クラッチ部3e−2も、前記揺動軸(クラッチ軸)3kの軸周りに、二つの揺動自在の変速用第一クラッチ爪3f(以下、変速用第二爪部3f−2と称する)が車軸5の外面に設けられており、その変速用第二爪部3f−2が噛み合う変速用第一クラッチカム面3g(以下、変速用第二カム面部3g−2と称する)が第一太陽歯車3a−1の内面に設けられている(図2(b)参照)。
【0070】
この変速用第二クラッチ部3e−2についても、変速用第一クラッチ部3e−1の場合と同様に、二つの変速用第二爪部3f−2は、互いに第二太陽歯車3a−2と車軸5との逆方向の相対回転に対して係合可能である。図2(b)に示す上方の変速用第二爪部3f−2は、クラッチ軸3kを揺動中心として時計回り方向に揺動することで係合側に近づき、下方の変速用第二爪部3f−2は、反時計回り方向に揺動することで係合側に近づくようになっている。
【0071】
また、変速用第二カム面部3g−2は、周方向に沿って凹凸が連続する形状となっており、これは、逆方向に揺動する変速用第二爪部3f−2の一方が駆動力に対して、他方が逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状となっている。
【0072】
なお、この実施形態では、変速用第二爪部3f−2は、互いに第二太陽歯車3a−2と車軸5との逆方向の相対回転に対して係合可能な二つの爪で構成されているが、変速用第二爪部3f−2の数は、少なくとも互いに逆方向に係合可能な二つのものが含まれていれば、その数は限定されない。例えば、時計回り方向に揺動することで係合側に近づく変速用第二爪部3f−2を二つ、反時計回り方向に揺動することで係合側に近づく変速用第二爪部3f−2を二つとしてもよい。また、それらを揺動方向の異なる爪を、互いに異なる数に設定してもよい。なお、図2(b)(c)等において、遊星歯車3bの図示は省略している。
また、図1、図3、図5、図7中の符号3pは、図2(b)等におけるクラッチ軸3kを支持するための部材である。この実施形態では、その部材3pは、外面が円筒状で、その内面が三角形状を成す部材となっており、その内側に断面六角形の車軸5が圧入されている。
【0073】
また、変速用第二クラッチ3hは、遊星キャリア3cに固定したクラッチ軸3mの軸周りに、複数の揺動自在の変速用第二クラッチ爪3iが設けられており、その変速用第二クラッチ爪3iが噛み合う変速用第二クラッチカム面3jが、ハブケース7の内面に設けられている(図2(a)参照)。この実施形態では、三つの変速用第二クラッチ爪3iが設けられている。
【0074】
この変速用第二クラッチ3hについても、変速用第一クラッチ3eの場合と同様に、互いに遊星キャリア3cとハブケース7との逆方向の相対回転に対してそれぞれ係合可能な、揺動方向の異なる変速用第二クラッチ爪3iが含まれている。具体的には、図2(a)に示す右下の変速用第二クラッチ爪3iは、クラッチ軸3mを揺動中心として時計回り方向に揺動することで係合側に近づき、上方及び左下の変速用第二クラッチ爪3iは、反時計回り方向に揺動することで係合側に近づくようになっている。
【0075】
また、変速用第二クラッチカム面3jは、周方向に沿って凹凸が連続する形状となっており、これは、逆方向に揺動する変速用第二クラッチ爪3iの一部が駆動力に対して、残りが逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状となっている。
【0076】
なお、この実施形態では、変速用第二クラッチ爪3iは、互いに遊星キャリア3cとハブケース7との逆方向の相対回転に対してそれぞれ係合可能な、揺動方向の異なる変速用第二クラッチ爪3iを備えているが、この互いに逆方向に係合可能な変速用第二クラッチ爪3iの数は限定されない。例えば、時計回り方向に揺動することで係合側に近づく変速用第二クラッチ爪3iを二つ、反時計回り方向に揺動することで係合側に近づく変速用第二クラッチ爪3iを二つとしてもよい。また、それらを係合方向の異なる爪を、互いに異なる数に設定してもよい。ただし、平均的な駆動力と逆入力の大きさから考えると、変速用第二クラッチ爪3iは、駆動力に対して係合可能なものを、逆入力に対して係合可能なものよりも多く配置することが望ましい。
なお、図2(a)等において、太陽歯車3aの内径側に位置する車軸5等の図示は省略している。
【0077】
また、この実施形態では、変速用第二クラッチ3hの変速用第二クラッチ爪3iを支持するクラッチ軸3mは、遊星歯車3bと前記遊星キャリア3cとを結ぶ遊星歯車軸3nと一体となっている。すなわち、クラッチ軸3mと遊星歯車軸3nとは、連続する一本の軸で構成されている。
この構成によれば、変速用第二クラッチ3hのクラッチ軸3mを支持するために、遊星キャリア3cに対して新たにクラッチ軸3m用の穴を加工する必要がなく、コスト低減が可能である。すなわち、遊星キャリア3cに設けられている遊星歯車軸3n用の軸穴3qを、変速用第二クラッチ爪3iを支持するクラッチ軸3mの軸穴と共通化することができるので、新たにクラッチ軸3m用の穴を加工する必要がない。
また、遊星歯車軸3nとクラッチ軸3mが一体でなくても、両者を同一の穴で支持することは差し支えない。
【0078】
つぎに、変速制御機構10について説明すると、変速制御機構10は、車軸5の中心に設けた軸方向へ伸びる孔5a内を通して外部に引き出された操作部10aと、その操作部10aに接続され車軸5の外側に設けられた二つの変速用スリーブ10bを有している。
【0079】
踏力又はモータの出力による駆動力は、チェーン23から遊星キャリア3cに対して、車軸5の軸方向一方側に設けたリアスプロケット4を介して入力される。一方、変速用第二クラッチ3hは、遊星歯車3bを挟んでリアスプロケット4の反対側に配置されているから、変速制御機構10の操作部10aは、車軸5の軸方向に対して、リアスプロケット4と反対側に配置しやすい。このため、操作部10aの動作機構(図示せず)を、リアスプロケット4の反対側のより広いスペースを利用して配置することができ、装置の構成を簡素化し得る。
【0080】
その操作部10aを軸方向に移動操作することにより、変速用スリーブ10bが軸方向へ移動し、その移動によって、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2が、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して係合状態又は係合不能状態とに切り替えられる。
すなわち、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2を、それぞれ車軸5周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
【0081】
その作用について、さらに詳しく説明すると、変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2のそれぞれにおいて、変速用第一爪部3f−1及び変速用第二爪部3f−2は、それぞれ、対応するカム面に対して、係合していない状態から係合した状態への揺動方向がクラッチ軸3k周り逆向きになるクラッチ爪を備えている。その逆向きの各クラッチ爪は、それぞれカム面への係合側の端部(一端)が、図示しない弾性部材によって、そのカム面(変速用第一カム面部3g−1又は変速用第二カム面部3g−2)側に起き上がる方向に負荷を与えられている。一方、その係合側の反対側の端部(他端)は、変速制御機構10における変速用スリーブ10bに接しており、その弾性部材の弾性力に抗して、変速用第一カム面部3g−1又は変速用第二カム面部3g−2側に起き上がるのが抑制されている(例えば、図2(b)(c)参照)。
【0082】
ここで、変速用スリーブ10bには、車軸5の軸方向に沿って2箇所の切欠部10dが設けられている。車軸5内を通って外部に引き出された操作部10aを、車軸5外からの外部操作により軸方向へ移動させると、変速用スリーブ10bも軸方向に移動し、その変速用スリーブ10bの切欠部10dが、変速用第一爪部3f−1又は変速用第二爪部3f−2の位置、あるいは、その位置から外れた位置に移動する。
【0083】
そうすると、変速用スリーブ10bの切欠部10dに対面した変速用第一爪部3f−1や変速用第二爪部3f−2は、その変速用スリーブ10bによる拘束が解除され、その一端が、変速用第一カム面部3g−1や変速用第二カム面部3g−2側に起き上がり、駆動力及び逆入力に対して係合することが可能な状態となる(以下、係合可能状態と称する。)。例えば、図4(b)(c)は、変速用第一爪部3f−1と変速用第二爪部3f−2のうち、変速用第一爪部3f−1のみが係合可能状態で、その変速用第一爪部3f−1が実際に起き上がって係合している状態を示しており、図6(b)(c)は、変速用第一爪部3f−1と変速用第二爪部3f−2のうち、変速用第二爪部3f−2のみが係合可能状態で、その変速用第二爪部3f−2が実際に起き上がって係合している状態を示している。また、図2(b)(c)は、変速用第一爪部3f−1と変速用第二爪部3f−2の両方が拘束されて、それぞれ係合できない状態(以下、係合不能状態と称する。)となっているのを示している。
【0084】
変速用スリーブ10bの切欠部10dの軸方向両端には、テーパ面10eが設けられている。このテーパ面10eは、変速用第一爪部3f−1や変速用第二爪部3f−2が、変速用第一カム面部3g−1や変速用第二カム面部3g−2と係合している状態から、その係合を解除しようとする際に、テーパ面10eが各爪部3f−1,3f−2の他端に接することで、その係合解除をスムーズにしている。すなわち、そのテーパ面10eの傾斜面によって、各爪部3f−1,3f−2をカム面部3g−1,3g−2から外す力を大きくすることができる。
【0085】
ただし、同一の太陽歯車3aに対応するクラッチ、すなわち、軸方向同一の位置に設けられた二つの変速用第一爪部3f−1、あるいは、二つの変速用第二爪部3f−2は、前述のように、その係合方向が互いに逆向きになるよう配置されているので、前記係合可能状態であっても、駆動力に対しては、その逆向きの各爪部のうち、一方の変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2のみが係合し、逆入力に対しては、他方の変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2のみが係合することとなる。
【0086】
さらに、操作部10aを軸方向に移動操作することにより、変速用第二クラッチ切替部10iが軸方向へ移動し、その移動によって、変速用第二クラッチ3hが、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して係合可能状態又は係合不能状態とに切り替えられる。
すなわち、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、遊星キャリア3cをハブケース7周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
【0087】
その作用について、さらに詳しく説明すると、変速用第二クラッチ3hにおいて、変速用第二クラッチ爪3iは、カム面に対して、係合していない状態から係合した状態への揺動方向がクラッチ軸3m周り逆向きのものが含まれている。その逆向きの各変速用第二クラッチ爪3iは、それぞれ変速用第二クラッチカム面3jへの係合側の端部(一端)が、図示しない弾性部材によって、その変速用第二クラッチカム面3j側に起き上がる方向に負荷を与えられている。一方、その係合側の反対側の端部(他端)は、変速制御機構10における変速用第二クラッチ切替部10iに接しており、その弾性部材の弾性力に抗して、変速用第二クラッチカム面3j側に起き上がるのが抑制されている(例えば、図2(a)参照)。
【0088】
ここで、操作部10aを、車軸5外からの外部操作により軸方向へ移動させると、変速用スリーブ10bとともに変速用第二クラッチ切替部10iも軸方向に移動し、その変速用第二クラッチ切替部10iが、変速用第二クラッチ爪3iの位置、あるいは、その位置から外れた位置に移動する。
【0089】
そうすると、変速用第二クラッチ切替部10iに対面した変速用第二クラッチ爪3iは、その変速用第二クラッチ切替部10iによって拘束され、その一端が、変速用第二クラッチカム面3j側に起き上がらないため、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して係合しない状態となる。また、変速用第二クラッチ切替部10iが、変速用第二クラッチ爪3iの位置から離脱すると、その変速用第二クラッチ切替部10iによる拘束が解除され、その一端が、変速用第二クラッチカム面3j側に起き上がり、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して係合することが可能な状態となる。
【0090】
例えば、図2(a)は、三つの変速用第二クラッチ爪3iの全てが係合可能状態となって、そのうち、遊星キャリア3cとハブケース7との相対回転方向に応じて一部が実際に係合している状態を示しており、図4(a)、図6(a)、図8(a)は、いずれも変速用第二クラッチ爪3iが拘束されて、それぞれ係合不能状態となっているのを示している。ただし、変速用第二クラッチ爪3iは、前述のように、その係合方向が互いに逆向きになるものが含まれて配置されているので、前記係合可能状態であっても、駆動力に対しては、その逆向きの変速用第二クラッチ爪3iのうち、一部の変速用第二クラッチ爪3iのみが係合し、逆入力に対しては、残りの変速用第二クラッチ爪3iのみが係合することとなる。
【0091】
操作部10aは軸状を成し、車軸5内に設けた孔5a内に進退自在に挿通されており、弾性部材10gによって、軸方向外側に付勢されている。このため、操作部10aの軸方向への移動操作は、その操作部10aをハブ1内に押し込む時は、前記弾性部材10gの付勢力に抗して行われ、押し込む力を解除すると、操作部10aは、その付勢力によって自動的に元の状態に復帰する。
【0092】
また、変速用スリーブ10bは、車軸5に設けられた横穴10hに挿入されたピン10fによってその車軸5に固定されている。ピン10fを操作部10aによって横穴10h内で軸方向へ移動操作することにより、変速用スリーブ10bの軸方向への移動を行うことができる。
【0093】
このように、変速用第一クラッチ3eに関し、変速制御機構10は、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、その変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2を、係合可能状態又は係合不能状態とに切り替える機能を有している。この切替により、第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2を、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、車軸5周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
【0094】
また、変速用第二クラッチ3hに関し、変速制御機構10は、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、その変速用第二クラッチ3hを係合可能状態又は係合不能状態とに切り替える機能を有している。この切替により、遊星キャリア3cを、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して、ハブケース7周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
【0095】
変速機構3による変速段の切替について具体的に説明すると、例えば、変速用第二クラッチ3hにより、遊星キャリア3cをハブケース7に対して相対回転不能とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2により、第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2を車軸5に対して相対回転可能とする。この場合、リアスプロケット4から駆動力が入力されると、遊星キャリア3cを介して遊星歯車3bに駆動力が伝達される。このとき、遊星キャリア3cとハブケース7とが一体に回転するため、等速(直結)で駆動力が伝達される。
【0096】
また、変速用第二クラッチ3hにより、遊星キャリア3cをハブケース7に対して相対回転可能とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2により、第一太陽歯車3a−1を車軸5に対して相対回転不能、第二太陽歯車3a−2を車軸5に対して相対回転可能とした場合、第一太陽歯車3a−1の歯数をa、外輪歯車3dの歯数をdとすると、遊星キャリア3cから外輪歯車3dへの増速比は、
(a+d)/d
となる。このとき、第二太陽歯車3a−2は車軸5に対して空転状態であり、トルク伝達に関与しない。また、変速用第二クラッチ3hは、変速制御機構10における変速用第二クラッチ切替部10iによって、強制的に変速用第二クラッチ爪3iが変速用第二クラッチカム面3jに噛み込まない状態にしてある。
【0097】
また、変速用第二クラッチ3hにより、遊星キャリア3cをハブケース7に対して相対回転可能とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2により、第一太陽歯車3a−1を車軸5に対して相対回転可能、第二太陽歯車3a−2を車軸5に対して相対回転不能とした場合、第二太陽歯車3a−2の歯数をa、第一太陽歯車3a−1と噛み合う遊星歯車3bの歯数をb、第二太陽歯車3a−2と噛み合う遊星歯車3bの歯数をc、外輪歯車3dの歯数をdとすると、遊星キャリア3cから外輪歯車3dへの増速比は、
[(a×b)/(c×d)]+1
となる。このとき、第一太陽歯車3a−1は空転状態であり、トルク伝達に関与しない。
【0098】
すなわち、第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2は異なる歯数であり、車軸5に対して全てフリー(相対回転可能)として、遊星キャリア3cとハブケース7とを固定するか、遊星キャリア3cとハブケース7をフリーとして車軸5に対していずれか一つの太陽歯車3aを固定(相対回転不能)とすることで増速比を変化させることができる。
【0099】
また、変速制御機構10により、変速用第二クラッチ3hを係合可能状態とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1、変速用第二クラッチ部3e−2が係合不能状態となっていれば(等速状態)、前進非駆動時において、駆動輪からの逆入力はハブケース7からリアスプロケット4に等速で伝達される。
【0100】
同様に、変速制御機構10により、変速用第二クラッチ3hを係合可能状態とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1、変速用第二クラッチ部3e−2のうち、変速用第一クラッチ部3e−1のみが係合不能状態となっているとき、第一太陽歯車3a−1は車軸5に固定(相対回転不能)である。
よって、駆動輪からの逆入力が、ハブケース7からリアスプロケット4に伝達されるとき、第一太陽歯車3a−1の歯数をa、外輪歯車3dの歯数をdとすると、減速比は、
(a+d)/d
となる。
【0101】
さらに、変速制御機構10により、変速用第二クラッチ3hを係合可能状態とし、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1、変速用第二クラッチ部3e−2のうち、変速用第二クラッチ部3e−2のみが係合不能状態となっているとき、第二太陽歯車3a−2は車軸5に固定(相対回転不能)である。
よって、駆動輪からの逆入力が、ハブケース7からリアスプロケット4に伝達されるとき、第二太陽歯車3a−2の歯数をa、第一太陽歯車3a−1と噛み合う遊星歯車3bの歯数をb、第二太陽歯車3a−2と噛み合う遊星歯車3bの歯数をc、外輪歯車3dの歯数をdとすると、減速比は、
[(a×b)/(c×d)]+1
となる。すなわち、駆動輪からの逆入力は、変速制御機構10により選択された変速段に応じて、駆動力が伝達する経路と同じ経路を逆方向に伝達される。
【0102】
変速1段目(直結)の状態を図1及び図2に示す。この実施形態では、車軸5の軸方向両端のうち、リアスプロケット4を設けた側の反対側に変速制御機構10の操作部10aを配置して装置の構成を簡素化しているが、これを逆方向に配置してもよい。
【0103】
この変速1段目において、変速制御機構10における変速用スリーブ10bによって、変速用第一爪部3f−1及び変速用第二爪部3f−2は、図2(b)(c)に示すように、いずれも変速用スリーブ10bによりその他端が拘束され、係合不能状態となっている。
したがって、第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2は、車軸5周りに相対回転可能となっている。
【0104】
また、変速用第二クラッチ3hの変速用第二クラッチ爪3iは、図2(a)に示すように、変速制御機構10における変速用第二クラッチ切替部10iの拘束が解除され係合可能状態となっている。
このため、遊星キャリア3cとハブケース7とは、相対回転不能となっている。
【0105】
この場合、リアスプロケット4からの駆動力は、遊星キャリア3c、変速用第二クラッチ3h、ハブケース7の順に等速で伝達される。一方、この状態で、駆動輪からの逆入力が入力されると、変速用第二クラッチ爪3iは変速用第二クラッチカム面3jに係合し、前進駆動時の駆動力伝達経路とは逆方向の経路、すなわち、ハブケース7、変速用第二クラッチ3h、遊星キャリア3c、リアスプロケット4の順に等速で伝達される。
【0106】
変速2段目(増速1)の状態を図3及び図4に示す。前記変速1段目の状態から、外部操作により変速制御機構10の操作部10aを、図3で示す矢印の方向へ軸方向のある位置まで押し込むと、変速用スリーブ10bが軸方向にスライドし、変速用第一爪部3f−1の位置に変速用スリーブ10bの切欠部10dが移動する。
【0107】
これにより、変速用第一爪部3f−1は、変速用第一カム面部3g−1に係合可能状態となり、第一太陽歯車3a−1は駆動力及び逆入力のそれぞれに対して車軸5周りに相対回転不能となる。このとき、変速用第二爪部3f−2の駆動力及び逆入力のそれぞれに対する係合不能状態は維持されている。
【0108】
また、このとき、変速用第二クラッチ爪3iは、変速用第二クラッチ切替部10iのテーパ部10jに沿って、遊星キャリア3cの変速用第二クラッチカム面3jから切り離される。
このため、遊星キャリア3cとハブケース7とは、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して相対回転可能となる。
【0109】
この状態では、リアスプロケット4からの駆動力は、第一太陽歯車3a−1の歯数をa、外輪歯車3dの歯数をdとすると、増速比が、
(a+d)/d
でハブケース7に伝達される。一方、駆動輪からの逆入力は、減速比が、
(a+d)/d
でリアスプロケット4に伝達される。
【0110】
変速3段目(増速2)の状態を図5及び図6に示す。前記変速2段目の状態から、外部操作により変速制御機構10の操作部10aを、図5で示す矢印の方向へ軸方向のある位置までさらに押し込むと、変速用スリーブ10bが軸方向にスライドし、変速用第二爪部3f−2の位置に変速用スリーブ10bの切欠部10dが移動する。
【0111】
変速用第二爪部3f−2は、変速用第二カム面部3g−2に係合可能状態となり、第二太陽歯車3a−2は駆動力及び逆入力のそれぞれに対して車軸5周りに相対回転不能となる。
このとき、変速用第一爪部3f−1の位置にあった変速用スリーブ10bの切欠部10dは、その変速用第一爪部3f−1の位置から離脱する。このため、変速用第一爪部3f−1は、その他端が拘束されて、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して係合不能状態に移行する。
【0112】
また、このとき、遊星キャリア3cとハブケース7とは、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して相対回転可能な状態に維持されている。
【0113】
この状態では、リアスプロケット4からの駆動力は、第二太陽歯車3a−2の歯数をa、第一太陽歯車3a−1と噛み合う遊星歯車3bの歯数をb、第二太陽歯車3a−2と噛み合う遊星歯車3bの歯数をc、外輪歯車3dの歯数をdとすると、増速比が、
[(a×b)/(c×d)]+1
でハブケース7に伝達される。一方、駆動輪からの逆入力は、減速比が、
[(a×b)/(c×d)]+1
でリアスプロケット4に伝達される。
【0114】
変速3段目から2段目に戻す場合や、変速2段目から1段目に戻す場合、操作部10aを押し込む方向の力を解除すれば、あるいは緩めれば、弾性部材10gによって変速用スリーブ10b、変速用第二クラッチ切替部10iが押し戻されるので、容易に変速操作が可能である。
【0115】
このとき、切欠部10dの軸方向端部に設けられたテーパ面10eによって、変速用第一クラッチカム面3gに噛み込んでいる変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2の他端を押し上げる力が強くなり、変速用スリーブ10bが戻り易くなるため、スムーズな切替が可能となる。
【0116】
また、変速用第二クラッチ3hについても、変速用第二クラッチ切替部10iの軸方向端部に設けられたテーパ部10jによって、変速用第二クラッチカム面3jに噛み込んでいる変速用第二クラッチの他端を押し上げる力が強くなり、変速用スリーブ10bが戻り易くなるため、スムーズな切替が可能となる。
【0117】
前進非駆動時(駆動輪からの逆入力時)の状態を図7及び図8に示す。図では、一例として、変速3段目の状態を示している。このとき、変速制御機構10により、変速用第二クラッチ部3e−2のみが係合可能状態となっている。
【0118】
逆入力に対しては、第二太陽歯車3a−2は車軸5に対して駆動方向と逆方向に回転しようとするが、その係合方向が互いに逆向きになるよう設けられた二つの変速用第二爪部3f−2によって、第二太陽歯車3a−2は車軸5周りに相対回転不能となる。他のクラッチ、すなわち、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1は、変速制御機構10によって、いずれも係合しない状態に拘束されているため、干渉することはない。よって、駆動輪からの逆入力は、減速比が、
[(a×b)/(c×d)]+1
でリアスプロケット4に伝達される。
【0119】
なお、自転車を手で押して後退する際(後退時)において、変速制御機構10により、いずれの変速段においてもある一ヶ所のクラッチのみ(変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1、変速用第二クラッチ部3e−2、及び、変速用第二クラッチ3hの三つのクラッチのうち一つ)しか係合可能状態となっていないため、他のクラッチと干渉が起こることはなく、後退が可能である。
【0120】
なお、他の実施形態として、変速用第一クラッチ3eの変速用第一クラッチ部3e−1及び変速用第二クラッチ部3e−2における変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2を、それぞれ第一太陽歯車3a−1及び第二太陽歯車3a−2の内面に設け、変速用第一カム面部3g−1、変速用第二カム面部3g−2を車軸5の外面に設けた構成を採用することもできる。
【0121】
この構成において、例えば、変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2は、それぞれ第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2の内面に少なくとも二つ設けられ、前述の実施形態と同様、その変速用第一爪部3f−1、変速用第二爪部3f−2は、互いに太陽歯車3aと車軸5との逆方向の相対回転に対してそれぞれ係合可能な、つまり、逆方向に係合可能なクラッチ爪を含んだ構成とすることができる。
【0122】
この実施形態の場合、変速用第一クラッチカム面3gの溝数は確保し難くなるが、車軸5の構造をシンプルとし得る。
【0123】
また、変速制御機構10として、車軸5内を通して軸方向に移動操作することにより切り替える方式を採用しているが、車軸5周りに操作部を回転(揺動)操作することにより切り替える方式など、既知の自転車の変速機構を採用することができる。また、遊星歯車3bを2段としているが、1段もしくは3段以上の遊星歯車を用いても差し支えない。また、車軸5は軸方向に沿って伸びる孔5aが、軸方向片側の端部から空けられており他端は中実となっているが、これを、両端間を結ぶ貫通穴としてもよい。
【0124】
また、これらの実施形態では、ラチェットクラッチで構成された変速用第一クラッチ3eと変速用第二クラッチ3hにおいて、そのラチェットクラッチの各クラッチ爪のクラッチカム面への噛合を、変速用スリーブ10bや変速用第二クラッチ切替部10iによって係合できる状態と係合できない状態とに切り替える方式を採用したが、車軸5と太陽歯車3aとの間のクラッチや、遊星キャリア3cとハブケース7との間のクラッチを係合できる状態と係合できない状態とに切り替える手段としては、これらの実施形態の変速用スリーブ10bや変速用第二クラッチ切替部10i以外の他の構成を採用してもよい。
【0125】
また、この実施形態では、変速用第一クラッチ3eと変速用第二クラッチ3hは、ラチェットクラッチによって構成されているが、ローラクラッチ、スプラグクラッチ等、他の構成からなるクラッチを採用することもできる。
【符号の説明】
【0126】
1 リアハブ(ハブ)
3 変速機構
3a 太陽歯車
3a−1 第一太陽歯車
3a−2 第二太陽歯車
3b 遊星歯車
3c 遊星キャリア
3d 外輪歯車
3e 変速用第一クラッチ
3e−1 変速用第一クラッチ部
3e−2 変速用第二クラッチ部
3f 変速用第一クラッチ爪
3f−1 変速用第一爪部
3f−2 変速用第二爪部
3g 変速用第一クラッチカム面
3g−1 変速用第一カム面部
3g−2 変速用第二カム面部
3h 変速用第二クラッチ
3i 変速用第二クラッチ爪
3j 変速用第二クラッチカム面
3k,3m クラッチ軸
3n 遊星歯車軸
3p 筒状部材
3q 軸穴
4 リアスプロケット(スプロケット)
5 車軸
5a 孔
6 ハブフランジ
7 ハブケース
10 変速制御機構
10a 操作部
10b 変速用スリーブ
10d 切欠部
10e テーパ面
10f ピン
10g 弾性部材
10h 横穴
10i 変速用第二クラッチ切替部
10j テーパ部
13,14 軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪と後輪とを結ぶフレームに二次電池及び補助駆動用のモータを取り付け、クランク軸から伝達された踏力又は前記モータの出力による駆動力を駆動力伝達要素を介して駆動輪に伝達可能とし、前進非駆動時には、駆動輪からモータの出力軸への逆入力により生じた回生電力を二次電池に還元する回生機構を備え、
駆動輪に設けたハブ(1)内部に変速機構(3)と変速制御機構(10)を備えており、変速機構(3)は、遊星歯車機構によって構成されて、前記駆動輪の車軸(5)周りに設けられた太陽歯車(3a)と、その太陽歯車(3a)に噛み合う遊星歯車(3b)、及びその遊星歯車(3b)を保持する遊星キャリア(3c)を有し、ハブケース(7)は、前記遊星歯車(3b)と噛み合う外輪歯車(3d)と一体に回転するようになっており、
前記変速機構(3)は、前進駆動時に、踏力又はモータの出力による駆動力が前記駆動力伝達要素から前記遊星キャリア(3c)に入力されて前記遊星キャリア(3c)から駆動輪に等速以上で伝達される増速型であり、前記太陽歯車(3a)と前記車軸(5)の間には変速用第一クラッチ(3e)を、前記遊星キャリア(3c)と前記ハブケース(7)との間には変速用第二クラッチ(3h)を備えており、前記変速制御機構(10)は、前記変速用第一クラッチ(3e)及び前記変速用第二クラッチ(3h)を切り替えることによって、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記太陽歯車(3a)を前記車軸(5)周りに相対回転可能または相対回転不能とに、及び、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記遊星キャリア(3c)を前記ハブケース(7)周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替える機能を有し、前進非駆動時に、駆動輪からの逆入力は、いずれの変速段においても前進駆動時の駆動力伝達経路を逆向きに伝達されることを特徴とするハブ(1)を備えた電動補助自転車。
【請求項2】
前記遊星歯車(3b)は歯数の異なる複数の歯車部を有し、前記太陽歯車(3a)は前記歯車部と同数設けられてその各太陽歯車(3a)が前記歯車部にそれぞれ噛み合っており、前記各太陽歯車(3a)と前記車軸(5)の間にはそれぞれ前記変速用第一クラッチ(3e)が設けられ、前記変速制御機構(10)は、前記各変速用第一クラッチ(3e)をそれぞれ係合可能状態又は係合不能状態とに切り替えることで、駆動力及び逆入力のそれぞれに対して前記各太陽歯車(3a)を前記車軸(5)周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替え可能であることを特徴とする請求項1に記載の電動補助自転車。
【請求項3】
前記変速用第一クラッチ(3e)は、一つの係合子が駆動力と逆入力の両方に対して係合可能である構造を有する請求項1又は2に記載の電動補助自転車。
【請求項4】
前記変速用第一クラッチ(3e)は、複数の係合子を有し、少なくとも一つの係合子が駆動力に対して係合可能であり、少なくとも一つの係合子が逆入力に対して係合可能である構造を有する請求項1又は2に記載の電動補助自転車。
【請求項5】
前記変速用第一クラッチ(3e)がラチェットクラッチによって構成されていることを特徴とする請求項4に記載の電動補助自転車。
【請求項6】
前記変速用第一クラッチ(3e)は、少なくとも二つの変速用第一クラッチ爪(3f)が前記車軸(5)の外面に揺動自在に設けられており、その変速用第一クラッチ爪(3f)が噛み合う変速用第一クラッチカム面(3g)が前記太陽歯車(3a)の内面に設けられており、前記少なくとも二つの変速用第一クラッチ爪(3f)は互いに逆方向に係合可能であって、前記変速用第一クラッチカム面(3g)は、その互いに逆方向に係合可能な前記変速用第一クラッチ爪(3f)の一方が駆動力に対して他方が逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状を有することを特徴とする請求項5に記載の電動補助自転車。
【請求項7】
前記変速用第二クラッチ(3h)がラチェットクラッチによって構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の電動補助自転車。
【請求項8】
前記変速用第二クラッチ(3h)は、少なくとも二つの変速用第二クラッチ爪(3i)が前記遊星キャリア(3c)の外面に揺動自在に設けられており、その変速用第二クラッチ爪(3i)が噛み合う変速用第二クラッチカム面(3j)が前記ハブケース(7)の内面に設けられており、前記少なくとも二つの変速用第二クラッチ爪(3i)は互いに逆方向に係合可能であって、前記変速用第二クラッチカム面(3j)は、その互いに逆方向に係合可能な前記変速用第二クラッチ爪(3i)の一方が駆動力に対して他方が逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状を有することを特徴とする請求項7に記載の電動補助自転車。
【請求項9】
前記変速用第二クラッチ爪(3i)は、前記車軸(5)の軸方向に並行なクラッチ軸(3m)周りに揺動可能に支持され、その一端が弾性部材によって前記変速用第二クラッチカム面(3j)側に起き上がる方向に付勢されており、変速用第二クラッチ切替部(10i)が前記変速用第二クラッチ爪(3i)の位置と変速用第二クラッチ爪(3i)から退避した位置との間で移動することによって、前記変速用第二クラッチ爪(3i)を、前記変速用第二クラッチカム面(3j)に係合可能な状態と係合不可能な状態とに切り替えることができることを特徴とする請求項8に記載の電動補助自転車。
【請求項10】
前記クラッチ軸(3m)は、前記遊星歯車(3b)と前記遊星キャリア(3c)とを結ぶ遊星歯車軸(3n)と一体であることを特徴とする請求項9に記載の電動補助自転車。
【請求項11】
前記遊星歯車(3b)が偶数個備えられ、前記変速用第二クラッチ(3h)は、駆動力に対して係合可能な係合子の数と逆入力に対して係合可能な係合子の数が等しく備えられていることを特徴とする請求項6に記載の電動補助自転車。
【請求項12】
前記遊星歯車(3b)が奇数個備えられ、前記変速用第二クラッチ(3h)は、駆動力に対して係合可能な係合子の数が逆入力に対して係合可能な係合子の数よりも多く備えられていることを特徴とする請求項6に記載の電動補助自転車。
【請求項13】
前記遊星歯車(3b)が3個備えられていることを特徴とする請求項12に記載の電動補助自転車。
【請求項14】
変速制御機構(10)は、車軸(5)内を通して外部に引き出された操作部(10a)を有しており、操作部(10a)を軸方向に移動操作することにより、変速切替を行うことが可能なことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一つに記載の電動補助自転車。
【請求項15】
踏力又はモータの出力による駆動力は、前記駆動力伝達要素から前記遊星キャリア(3c)に対してリアスプロケット(4)を介して入力され、前記変速用第二クラッチ(3h)は、前記遊星歯車(3b)を挟んで前記リアスプロケット(4)の反対側に配置されていることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一つに記載の電動補助自転車。
【請求項16】
前記変速制御機構(10)は、前記車軸(5)の軸方向に対して、前記リアスプロケット(4)と反対側に配置されていることを特徴とする請求項15に記載の電動補助自転車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−66653(P2012−66653A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211933(P2010−211933)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)