説明

電動車両

【課題】電動二輪車において、簡素な構造で電動機の回転数に同期した音を発生させ、聴覚を通じて心地よい走行感を運転者に提供する。
【解決手段】電動二輪車1は、後輪90を回転駆動する電動機4と、該電動機4を収容するハウジング20と、該電動機4の回転軸42と連動して空気をハウジング20内に流入させて電動機4を空冷し、該空冷後の空気を前記ハウジング20から流出させるファン44と、前記ハウジング20の空気流入側に設けられ、空気の通過音を該回転軸42の回転に同期して、間欠音として発生させる通過音発生手段3とを備えている。前記通過音発生手段3は、回転軸42に繋がり、ファン44によって流入された空気が通る第1透孔32が形成された回転板30と、該回転板30に対向し第2透孔33が形成された固定板31とを備え、回転板30の回転によって、第1透孔32と第2透孔33とが重なる面積が変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機を駆動源とする電動二輪車のような電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンエンジンを駆動源とする二輪車に代わって、バッテリで駆動する電動機を駆動源として走行する電動二輪車が提案されている。
この電動二輪車は、排気ガスを出さないので、環境破壊を生じない等の利点を有しており、今後の普及が見込まれる。しかし、運転者がガソリンエンジンを搭載した二輪車から、電動二輪車に乗り換えると、運転時に戸惑いや違和感を覚えることがあった。
即ち、ガソリンエンジンを搭載した二輪車では、走行中にエンジンの回転音を聴いて、運転者は現在走行中であるとの実感を得ることができた。しかし、電動機を駆動源とする電動二輪車では、電動機の回転音が静かである。このため、運転者は聴覚によって走行感を得ることができない問題がある。
この対策として、走行中に電子音を発生する報音装置を設けた電動二輪車が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この報音装置を設けた電動二輪車では、電子回路を用いて電子音を発生させるため、該報音装置の構造が複雑でコスト増加に繋がる。また、発生する音が電子音であるから、運転者には違和感があり、二輪車を走行させているとの楽しさは得にくい。
【0003】
これに対して、特許文献1に示す構造よりも簡素な構造で走行中に音を発生させる電動二輪車も提案されている(特許文献2参照)。これは電動機を空冷するファンを用いて、空気の吸引音を発生させるものであり、図9にその吸引音を発生させる構造の概略を示す。二輪車の後輪90の近傍には、パワーユニット100が配置され、該パワーユニット100のハウジング20内には、電動機4が設けられている。該電動機4は周知の如く、環状のステータ40の内側にロータ41を配置して構成され、後輪90はディスクホィール98の周囲にタイヤ99を取り付けて構成される。ロータ41の回転中心に配置された回転軸42は、一端部が後輪90のディスクホィール98に繋がって後輪90を回転させる。回転軸42の他端部には、軸流ファン44が取り付けられ、ハウジング20の外壁上であって、該軸流ファン44に対向した部分には、空気が通る貫通孔29、29が多数開設されている。尚、電動機4に給電するバッテリ(図示せず)は、前記パワーユニット100の外部に設けられている。
電動二輪車の走行時には、バッテリからステータ40へ給電することにより、ロータ41を回転させ、後輪90を回転させる。それに伴って、軸流ファン44が回転し、空気が貫通孔29、29を通ってハウジング20内に流れ、電動機4を空冷した後、ハウジング20上にて後輪90側に開設された逃げ孔(図示せず)から排出される。
空気が貫通孔29を通過する際には、空気が振動して吸引音が発生する。該吸引音を発生させることにより、歩行者に対し走行中の電動二輪車の存在を知らせることができるとともに、運転者は該吸引音を聴くことにより、運転中であるとの実感が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7―322402号公報
【特許文献2】特開平5−105178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガソリンエンジンでは、例えば4サイクルエンジンでは、音が生じる爆発工程を繰り返して、エンジンの回転音が発生するから、該回転音は間欠音であり、エンジンの回転に同期する。
ところが、図9に示す従来の構成において、空気が貫通孔29を通過する際に発生する吸引音は、振幅が周期的に変化しない平坦な音である。従って、車両の運転時に、電動機4の回転数又はその変化を感じながらの心地よい走行感は得られない。
本発明の目的は、電動車両において、電動機の回転数に同期した音を発生させ、聴覚を通じて心地よい走行感を運転者に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電動車両は、車輪を回転駆動する電動機と、該電動機を収容するハウジングと、該電動機の回転軸と連動して空気をハウジング内に流入させて電動機を空冷し、該空冷後の空気を前記ハウジングから流出させるファンと、前記ハウジングの空気流入側及び空気流出側の少なくとも一方に設けられ、空気の通過音を該回転軸の回転に同期して発生させる通過音発生手段とを備えている。
前記構成によれば、該回転軸の回転に同期した空気の通過音が通過音発生手段から発生する。車両の運転者には、回転軸の回転に同期した通過音が聴こえるので、電動機の回転を実感できる。車両を加速又は減速をしているときには、該通過音の発生周期が変化していくので、加速又は減速の実感が得られる。これによって、車両の快適な運転性が得られる。
【0007】
前記電動機と該電動機によって回転駆動される車輪との間に設けられ、電動機から車輪への減速比を変える変速機を更に備えてもよい。
前記構成によれば、電動機の回転軸の回転数が変化すると、該回転数に同期した通過音が通過音発生手段から発生する。即ち、運転者は通過音を聴きながら変速時にスロットル操作により、電動機の回転数を適切に調整することができる。また、変速機を設けた一般的なガソリンエンジンを用いた車両と同様の運転性が得られる。
前記通過音発生手段は、回転軸に繋がって設けられ、ファンによって流入された空気が通る第1透孔が形成された回転部材と、回転部材に対向して車両に取り付けられ第2透孔が形成された固定部材とを備え、回転部材の回転角度によって、第1透孔と第2透孔とが重なる面積が変化してもよい。
前記構成によれば、通過音発生手段は、固定部材と回転部材を設けて構成されるので、通過音発生手段の構成が簡素となる。即ち、低コストで回転軸の回転数に応じた通過音を発生させることができる。
【0008】
第1透孔は、回転部材の周方向に沿って複数開設され、第2透孔は、固定部材の周方向に沿って複数開設されてもよい。
前記構成によれば、第1及び第2透孔は、複数開設されているので、第1及び第2透孔を1つだけ開設した構成に比して、通過音を発生する回数が増える。従って、通過音が運転者に聴こえ易くなる。
通過音発生手段の空気流入側及び空気流出側の少なくとも一方に配置され、電動機に流れる空気の量を調整する風量調整手段を更に備えていてもよい。
前記構成によれば、電動機に流れる空気の量を減らして、電動機に空気が流れにくくすることにより、電動機の回転を抑制する効果がある、即ち電動機への負のトルクを発生させることができる。これにより、低コストでガソリンエンジンを用いた車両と同様のエンジンブレーキの効果を得ることができる。
【0009】
風量調整手段は、電動機に流入する空気が通過する開口を設けて車両に取り付けられた支持片と、該支持片上を摺動可能に設けられて前記開口の露出面積を変化させるスライド片とを有してもよい。
前記構成によれば、風量調整手段は、支持片とスライド片を設けて構成されるので、その構成が簡素となる。即ち、低コストで電動機への負のトルクを発生させることができる。
前記風量調整手段は、運転者の操作に応じて、前記電動機に流れる空気の量を調整するように構成されていてもよい。
前記構成によれば、運転者の任意の操作によって電動機の回転を抑制する、即ち負のトルクを発生させることができる。
前記風量調整手段は、運転者のアクセル閉じ操作により、前記電動機に流れる空気の量を減じるように構成されていてもよい。
前記構成によれば、運転者の任意のアクセル閉じ操作によって電動機の回転を抑制する、即ち負のトルクを発生させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る電動車両は、簡素な構造で電動機の回転数に同期した通過音を発生させるので、それを聴いた運転者は電動機の回転数やその変化を感じる。即ち、聴覚を通じて心地よい走行感を運転者に提供することができる。また、変速時には、電動機回転数の調整が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電動二輪車の右側面図である。
【図2】図1に示すパワープラントをA―A線を含む面にて破断し、矢視した断面図である。
【図3】図2の固定板、回転板、支持片及びスライド片を矢印B1方向から見た分解斜視図である。
【図4】(a)〜(d)は、回転板の回転に伴う、両透孔の重なり状態の変化を示す図である。
【図5】別の固定板を示す図である。
【図6】別の固定板を示す断面図である。
【図7】風量調整手段の動作を制御するブロック図である。
【図8】(a)は、ファンのQ-H特性を示すグラフ、(b)は、電動機の負荷動力とファンの風量の関係を示すグラフである。
【図9】従来の空気吸引音を発生させる構造の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る電動車両、具体的には電動二輪車の一実施形態を、図を用いて詳述する。尚、以下の記載では車両の走行方向を前方、その逆方向を後方とする。また、左右の語は、電動二輪車に騎乗した運転者から見た方向を基準とする。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電動二輪車1の右側面図であって、車体フレーム、後記するパワープラント、車輪等の主要部を示す。
図1に示すように、電動二輪車1の車体フレームは、前方から後方に向かって下方に傾斜して延びる1つのメインフレーム15、該メインフレーム15の前端部から前方に向かって斜め下向きに延びる左右一対のフロントフォーク10、10、両フロントフォーク10、10の上端部間に配置されたヘッドパイプ13、該ヘッドパイプ13から後方に向かって斜め下向きに延びる左右一対のダウンフレーム16を備える。
メインフレーム15の後端部には、枠体であるピボットフレーム17の上枠部分が溶接等によって取り付けられている。該ピボットフレーム17の上枠部分はメインフレーム15の長手方向と略直交して左右に延びている。ピボットフレーム17の下端部と、前記ダウンフレーム16の下端部には、後記するパワープラント2の前後端部が夫々取り付けられている。
【0013】
フロントフォーク10、10の上端部は、上下一対のブラケット11、11を介して、左右に延びたバー型のハンドル12に連結される。
ハンドル12の右端部には、運転者の右手に把持されて、手首のひねりによって回転されるアクセルグリップ14が設けられている。以下の記載では、電動二輪車1を減速させる際のアクセルグリップ14の回転方向を閉じ方向と呼ぶ。
フロントフォーク10、10の下端部は、操舵輪である前輪9を回転自在に支持する。前記ハンドル12によって運転者は、フロントフォーク10及び前輪9の向きを変えて、電動二輪車1を操舵することができる。
前記ピボットフレーム17の左枠部分と右枠部分との間には、スイングアーム91の前端部が上下に揺動可能に支持されており、該スイングアーム91はその揺動支軸92から後方に向かって下方に傾斜しながら延びている。スイングアーム91の後端部は、駆動輪である後輪90を回転自在に支持する。また、スイングアーム91は、長手方向中央部がサスペンションユニット93の下端部を支持している。該サスペンションユニット93の上端部は、メインフレーム15の後端部に支持され、スイングアーム91の上下揺動に伴いサスペンションユニット93が伸縮する。
【0014】
スイングアーム91の上方には、運転者が騎乗するシート94が配置され、該シート94はメインフレーム15に支持されたリアフレーム(図示せず)によって支持されている。
ガソリンエンジンを用いる自動二輪車であれば、前輪と後輪の間に、ガソリンエンジン等が配備されるべきであるが、電動二輪車1においては、前輪9と後輪90の間の空間には、前記パワープラント2の他に、該パワープラント2に給電するバッテリ95、95及びインバータを含む電力制御ユニット96が設けられている。
パワープラント2は、後輪駆動用の電動機を備えており、ガソリンエンジンに代わって車両の駆動部分の中枢部を形成する。以下、パワープラント2について説明する。
【0015】
(パワープラント)
図2は、図1に示すパワープラント2をA―A線を含む面にて破断し、矢視した断面図である。パワープラント2は金属製のハウジング20を備え、該ハウジング20内には、互いに略直交した2つの隔壁21、21aが設けられている。両隔壁21、21aに囲まれた空間内に、車両走行(後輪駆動)用のモータである電動機4が収容され、その後側に変速機5が配置されている。電動機4は、ハウジング20及び一方の隔壁21aの内側に固定されたステータ40と、該ステータ40の内側に配置されて回転軸42を中心に回転するロータ41を備えている。ロータ41は鉄心内部に永久磁石を埋め込んだ周知の構造であり、ステータ40は電磁鋼板からなるステータコアに電磁コイルを巻き付けて構成される。
電動機4の回転軸42は、その両端部が一方の隔壁21及びハウジング20内に設けられた軸受22、22に支持されている。回転軸42の回転数は、該回転軸42の左端部近傍に設けられた回転数センサSE2によって検出される。該一方の隔壁21には、前記軸受22の側方に通風口23が開設されている。ハウジング20の左端部上にて、左側の軸受22の近傍にも、通風口23aが開設されている。隔壁21を通った回転軸42の端部には出力ギア43及び軸流ファン44が取り付けられている。ハウジング20の壁上であって、該軸流ファン44が対向する部分は、支持片24を構成する。該支持片24には空気が通る開口25が設けられている。支持片24上には、板状のスライド片60が摺動可能に設けられて、後記の如く、スライド片60は開口25を塞ぐようにスライドして開口25の露出面積を変える。
【0016】
軸流ファン44は、ハウジング20の外側から開口25を通じて、空気をハウジング20内に吸入する。該空気は回転軸42に沿う方向に流入する。前記軸流ファン44の空気流入側の表面には、回転軸42に接続された円板状の回転板30が設けられている。該回転板30は軸流ファン44と一体に回転する。
前記開口25が設けられた支持片24と、前記回転板30との間には、ハウジング20に取り付けられた円板状の固定板31が設けられている。該回転板30と固定板31は僅かに離れて対向している。但し、図2では両者の間隔を誇張して大きく描いている。後記の如く、回転板30の回転により、開口25から流入した空気の通過と遮断が周期的に切り換えられ、固定板31と回転板30にて、ファン44によって流入する空気の通過音を発生させる通過音発生手段3を構成する。
固定板31と回転板30を通過した空気は、隔壁21の通風口23を通って電動機4のロータ41を空冷した後に、ハウジング20の左端部の通風口23aを通って、ハウジング20の外側に流出する。これにより、前記電動機4の過熱が防止される。ハウジング20の外側に流出した空気は、図示しない流路を通って、前記のバッテリ95、95及び電力制御ユニット96に送られて、該バッテリ95、95及び電力制御ユニット96を冷却する。また、空気を電動機4の内部に導かず、ハウジング20の側面に流すようにして、ハウジング20に取り付けられた放熱フィン(図示せず)により冷却することで、電動機4の防水性を保った状態で冷却することも可能である。
【0017】
前記変速機5は、前記出力ギア43に噛合するクラッチギア51が嵌められたクラッチシャフト50を備える。クラッチシャフト50は変速機5の入力軸であって、左右に延び、その右端部には多板クラッチ52が配置されている。該多板クラッチ52によって電動機4からの回転出力が入力又は遮断の何れかに切り換えられる。即ち、クラッチギア51が多板クラッチ52によってクラッチシャフト50と接続されると、クラッチギア51は出力ギア43に噛合しているから、クラッチシャフト50は回転軸42と連動して回転する。クラッチシャフト50は、クラッチギア51の配置箇所から先端部に向けて、複数枚の歯車53、53を設けている。
変速機5は、クラッチシャフト50の後方にて、クラッチシャフト50と略平行に、出力シャフト7を備えている。該出力シャフト7には複数枚の歯車を左右に配置して構成される歯車列70が設けられている。クラッチシャフト50を左右移動させ、この歯車列70の歯車と、クラッチシャフト50の歯車53、53の噛み合わせが変わることによって、入出力回転の減速比、即ち変速機5の変速段が変更される。
この減速比の変更は、運転者がシフトペダル(図示せず)を操作して行う。電動機4から変速された回転を出力する出力シャフト7の左端部にはスプロケット71が設けられており、後輪90のスプロケット(図示せず)との間に、図2に仮想線で示すチェーン72が巻き掛けられている。
【0018】
(通過音発生手段)
本実施形態の特徴の1つは、前記の通過音発生手段3にある。この通過音発生手段3を詳細に説明する。図3は、通過音発生手段3を構成する固定板31、回転板30、支持片24及びスライド片60を、図2の矢印B1方向から見た分解斜視図である。前記の如く、固定板31には周方向に沿って複数、具体的には4つの第1透孔32、32が、回転板30には周方向に沿って複数、具体的には4つの第2透孔33、33が夫々略等間隔に設けられている。第2透孔33は、第1透孔32より僅かに大径である。
第1透孔32、32の中心から固定板31の中心までの距離と、第2透孔33、33の中心から回転板30の中心までの距離は、略等しい。即ち、回転軸42の回転に伴って回転板30が回転すると、第1透孔32は、第2透孔33に重なった状態と、第2透孔33からずれた状態とが周期的に切り換えられる。換言すれば、回転板30の回転に伴って、第1透孔32と、第2透孔33とが重なる面積が変化する。
第1透孔32、32が、第2透孔33、33に重なった状態では、空気が両透孔32、33を通過する。従って、通過の際に空気が透孔32、33の周縁に衝突して振動することによる通過音が発生する。この通過音の振幅は、両透孔32、33の重なり状態によって、以下の如く変化する。
【0019】
図4(a)〜(d)は、回転板30の回転に伴う、両透孔32、33の重なり状態の変化を示す図であり、1つの第1透孔32及び第2透孔33を例示する。図4(a)〜(d)では、回転板30は時計方向に回転すると仮定する。
図4(a)は両透孔32、33が完全に重なった状態であり、第1透孔32を通過する空気の量は最大となる。図4(b)は、回転板30の回転によって、第2透孔33が第1透孔32からずれた状態を示す。第1透孔32を通過する空気の量は、図4(a)の状態から減少する。
図4(c)は、回転板30の回転によって、第2透孔33が第1透孔32から更にずれた状態を示す。第1透孔32を通過する空気の量は図4(b)の状態から更に減少する。
図4(d)は、第2透孔33が第1透孔32から完全に外れ、第1透孔32が回転板30によって塞がれた状態を示す。空気は第1透孔32を通過することができない。通過音の振幅レベルは図4(a)に示す状態から図4(d)に示す状態に向かって、低下すると考えられる。その後の回転板30の回転により、第1透孔32が再び露出し始め、通過音の振幅レベルが上昇する。
即ち、回転板30の回転によって、通過音の振幅レベルの上昇と低下が繰り返され、通過音発生手段3から発生する音は、回転軸42の回転に同期した間欠音、即ち不連続な音となる。
【0020】
ガソリンエンジンでは、例えば4サイクルエンジンでは、周期的に生じる爆発工程によって、エンジン音が発生するから、該エンジン音は間欠音である。従って、本実施形態に係る通過音発生手段3によって、運転者は運転中に、ガソリンエンジンと同様に間欠音である回転音を聴くことができる。
また、電動機4の回転数を変えると、通過音発生手段3から発生する間欠音である通過音の発生周期が変化する。具体的には、電動機4の回転が速くなると、通過音の発生周期が短くなり、電動機4の回転が遅くなると、通過音の発生周期が長くなる。即ち、回転軸42の回転に同期した通過音が通過音発生手段3から発生する。電動二輪車1の加速又は減速時にあっては、通常は変速機5が操作されるが、電動二輪車1の運転者には、加速又は減速に対応した周期で通過音が聴こえるので、電動二輪車1を加速又は減速をしている実感が得られ、電動二輪車1の快適な運転性が得られる。
【0021】
更に、回転板と固定板とを機械的に衝突させて、該衝突音を周期的に発生させる構成も考えられる。しかし、これでは回転板と固定板が直ぐに磨耗し、耐久性が悪い。本実施形態にあっては、回転板30と固定板31は機械的に接触しないから、耐久性もよい。
尚、通過音発生手段3から発生する間欠音は、必ずしも音が途切れる不連続な音であることを意味しない。例えば、図5に示すように、固定板31を回転板30よりも大径に形成し、固定板31の周縁部にて回転板30と重ならない箇所に予備透孔34を設ければ、喩え第1透孔32が回転板30にて塞がれた状態でも、空気が予備透孔34を通る際の通過音は発生する。通過音発生手段3から発生する通過音の振幅レベルは、第1透孔32が回転板30にて塞がれた状態でも、一定以上のレベルとなる。従って、間欠音は時間の経過に伴って、振幅レベルが変化する音であればよい。
また、固定板31が金属板であれば、第1透孔32をプレス加工等によって打ち抜きで形成する際に、図6に示すように、該第1透孔32の周縁に前記打ち抜き方向に広がるように延びた拡音片35を形成することもできる。拡音片35によって、発生した通過音を拡散させ、歩行者に電動二輪車1の存在を知らしめることができる。
また、前記の如く、パワープラント2内には、電動機4からの変速機5への回転を入力又は遮断の何れかに切り換えられる多板クラッチ52が設けられている。これにより、電動二輪車1の停止時には、電動機4からの変速機5への回転を遮断して、電動機4を低速で回転させつつ、後輪90を回転させない、所謂ニュートラル状態に電動二輪車1を設定することができる。該ニュートラル状態でも、回転板30が回転しているから、通過音は発生している。これによって、電動二輪車1の停止時にも、運転者は電動機4が回転中で、直ちに発進可能な走行スタンバイ状態であることが聴覚によって把握できる。また、電動二輪車1の停止時に、回転中の電動機4を空冷することもできる。
【0022】
(風量調整手段)
図4に示したように、スライド片60が支持片24上を摺動し、支持片24上の開口25の露出面積を変化させる。スライド片60が開口25から外れて、開口25が全開すれば、電動機4に流入する空気の量は最大となり、通過音は最大となる。
スライド片60が開口25の露出面積を小さくすれば、電動機4に流入する空気の量は減る。スライド片60が開口25を閉塞する方向に移動して、流入する空気量が減り、空気抵抗により、電動機4のロータ41には回転負荷が与えられる。換言すれば、支持片24とスライド片60によって、電動機4に流入する空気の量を調整して、電動機4に負の回転トルクを与える風量調整手段6を構成する。図7に、該風量調整手段6の動作を制御するブロック図を示す。
前記アクセルグリップ14には、該グリップ14の回転角度を検出するグリップセンサ62が取り付けられ、該センサ62からの出力はコントローラ63に入力される。コントローラ63はスライド片60を摺動させるアクチュエータ61に電気的に接続され、該アクチュエータ61がスライド片60を摺動させることによる開口25の開き量は、開口25の近傍に設けられた開度センサSE1によって検出される。該開度センサSE1の出力はコントローラ63に入力される。コントローラ63にはまた、電動機4の回転数が前記回転数センサSE2(図2参照)を介して入力される。該コントローラ63には、開口25の開き量や電動機4の回転数等を格納可能なメモリ手段64及び後記の静音モード設定時に操作される操作釦65が接続されている。
【0023】
運転者が、アクセルグリップ14を回転させると、グリップセンサ62はアクセルグリップ14の回転角度を検出して、該回転角度を示す信号をコントローラ63に送信する。コントローラ63はアクチュエータ61に給電して、アクセルグリップ14の回転角度と電動機4の回転数(アクセル―回転数のマップ、開度目標値)に対応した量だけスライド片60を摺動させ、開口25を露出又は閉塞する。コントローラ63が開度センサSE1からの信号により、開口25が開度目標値に到達したことを検出すると、コントローラ63はアクチュエータ61への給電を止める。
アクセルグリップ14の閉じ操作により、開口25の露出面積が減ると、前記の如く、電動機4への空気流入量が減り、負の回転トルクが与えられる。出願人は、この負の回転トルクを、走行時のブレーキ、即ちガソリンエンジンを備えた二輪車におけるエンジンブレーキと同様に用いることを着想した。減速するために、アクセルグリップ14を閉じ方向に回転させ、電動機4への給電を停止したとき、通常のブレーキ操作とは別に、電動機4には回転抵抗が与えられ、エンジンブレーキと同様の効果が得られる。このとき、変速機5を操作して電動機4から後輪90までの減速比を変えれば、後輪90に伝わるトルクを変えることができる。
【0024】
電動二輪車の中には、回生機能を有するものがある。回生機能とは、駆動輪から電動機の出力軸に伝達される走行慣性力により、電動機を発電機として作動させ、ロータの回転抵抗を制動力として利用しつつ、該ロータの回転エネルギーを電気エネルギーに変換して回収する機能である。該回収された電気エネルギーは前記電力制御ユニット内のインバータによって直流に変換された後に、バッテリに供給されて該バッテリを充電する。
ところが、例えばバッテリが満杯に充電された状態では、回生機能により発電された電力を充電することができない。このため、電動機とバッテリとの間に、切換えスイッチと回生抵抗を設け、バッテリが満杯に充電されているときは、切換えスイッチを回生抵抗側に繋ぎ、電動機から回収された電気エネルギーを回生抵抗からの熱エネルギーとして大気に放出させるものがある。しかし、電動二輪車内に切換えスイッチと回生抵抗を設けるから、その分のスペースが必要であり、また電動二輪車の製造コストも上昇する。更に、回生機能を有するインバータを用いる必要があるから、この点でもコスト上昇に繋がる。
これに対し、本実施形態にあっては、風量調整手段6によって電動機4に流入する空気量を制限することで、負の回転トルクを発生させ、電動機4にブレーキと同様の効果を与えている。これにより、通過音の音量を調整する風量調整手段6にて、回生機能と同様の効果を与えることができ、電動二輪車1の製造コストの上昇を抑えることができる。
【0025】
(静音モード)
電動二輪車1の走行時に発生する音を極力小さくしたい場合がある。例えば、早朝に運転する場合である。出願人は、この点に鑑みて、電動二輪車1の走行速度に対応して、電動機4の過熱を抑えつつ、通過音発生手段3から発生する通過音を小さくするように、開口25の露出面積を自動的に調整することを着想した。このときの電動二輪車1の走行モードを静音モードとする。
図8(a)は、ファン44のQ-H(Quantity-Head:風量―静圧)特性を示すグラフ、図8(b)は、電動機4の負荷動力とファン44の風量の関係を示すグラフである。図8(a)、(b)のグラフをマップと呼び、該マップは図7のメモリ手段64に格納される。マップ中で、ωは電動機4の回転数、Aiは開口25の露出面積を示す。また、動作点A-Dは、電動機4の回転数ωが高い場合に、開口25の露出面積を変えた際の動作点を示し、動作点Aが開口25の露出面積が最も大きく、動作点Dが開口25の露出面積が最も小さい。点線は損失曲線である。
【0026】
静音モードでは、例えば電動機4の回転数ωが高い場合に、動作点Bと同等の負荷動力を発生する動作点Dに対応する風量となるように、開口25の露出面積を調整する、即ちスライド片60を摺動させる。開口25が完全に塞がれると、負の回転トルクは殆ど無くなるので、負の回転トルクを発生させるには、最適な開口25の露出面積がある。
アクセルグリップ14の開度と電動機4の回転数から、マップを参照して負の回転トルクの目標値を決め、該トルクを発生させるための開口25の露出面積はトルク目標値と電動機4の回転数からマップに基づいて決定する。マップは各回転数毎に開口25の露出面積を変えて実験により求めてもよいし、シュミレーションで求めてもよい。
車体走行時に、運転者の意思で静音モードから通常走行に切り換える場合は、動作点Dから動作点Bに移行させる必要があるが、該移行時に動作点Cを通過する。その際に負の回転トルクが一時的に大きくなり、運転者に違和感を感じる虞れがある。これを解消すべく、開口25の露出面積に応じた正の補正トルクを電動機4で発生させ、動作点Dから動作点Bに移行する際に発生する負の回転トルクの上昇を抑制する。
また、静音モード中に風量不足で電動機4が一定温度以上となったときは、コントローラ63が静音モードから通常走行に切り換えて、電動機4を破損から保護する。
【0027】
運転者は低速走行時において静音モードに設定する際には、前記の操作釦65を操作する。コントローラ63は操作釦65からの信号を受けて、電動二輪車1を静音モードに設定し、回転数センサSE2から電動機4の回転数を読む。次に、コントローラ63はメモリ手段64内のマップから電動機4の回転数に応じた開口25の開き量を決定するとともに、アクチュエータ61に給電して、スライド片60を摺動させて、開口25の露出面積を変える。開度センサSE1からの信号により、コントローラ63が開口25の露出面積がマップから決定した開き量に達したことを検知すれば、コントローラ63はアクチュエータ61への給電を止め、電動二輪車1は静音モードに設定される。かかる静音モードにより、早朝等の静けさが求められる時でも、電動二輪車1を走行させることができる。
【0028】
上記実施形態では、通過音発生手段3は電動機4に対して空気流入側に設けられているとした。しかし、通過音発生手段3を電動機4に対して空気流出側に設けてもよい。更に、通過音発生手段3を電動機4に対して空気流入側及び空気流出側の両方に設けてもよい。
また、上記実施形態では、電動二輪車を例示して本発明の特徴を説明したが、本発明の技術的思想は、例えば四輪車やATV(All Terrain Vehicle:全地形型車両)にも適用可能である。
また、通過音発生手段3として、回転板30に偏芯羽根を、固定板31に該偏芯羽根によって発生した風を受けて、風切り音を発生させる仕切り壁を設けてもよい。
また、ハウジング20の外側に流出した空気は、前記バッテリ95、95及び電力制御ユニット96を冷却するとしたが、バッテリ95、95及び電力制御ユニット96は、別の冷却手段によって冷却してもよい。
減速比の変更は、運転者がシフトペダルを操作して行うとした。しかし、これに代えて、パワープラント2内又はパワーユニット2近傍に、速度センサと該速度センサに繋がった制御部(図示せず)を設け、減速比の変更を、制御部によって自動で行うことができる。
また、図3では、第1透孔32、32と、第2透孔33、33は夫々4つ形成されているが、4つに限定されない。また、第2透孔33は第1透孔32よりも僅かに大径であるとしたが、両透孔32、33は同径であっても、第2透孔33が第1透孔32よりも小径であってもよい。
尚、風量調整手段6は、支持片24とスライド片60に限定されず、電動機4への空気の流入量を変える可変絞り弁(図示せず)であればよい。また、風量調整手段6とアクセルグリップ14を機械的に接続してもよく、アクセルグリップ14を閉じ操作に連動して、絞り弁が閉じるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上のように、本発明に係る電動二輪車は、聴覚を通じて心地よい走行感を運転者に提供することができる優れた効果を有するとともに、運転者は変速時に電動機の回転数を適切に調整することができ、この効果の意義を発揮できる自動二輪車等の車両全般に適用すると有益である。
【符号の説明】
【0030】
1 電動二輪車
2 パワープラント
3 通過音発生手段
4 電動機
5 変速機
6 風量調整手段
7 出力シャフト
20 ハウジング
24 支持片
30 回転板
31 固定板
32 第1透孔
33 第2透孔
40 ステータ
41 ロータ
42 回転軸
60 スライド片


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転駆動する電動機と、
該電動機を収容するハウジングと、
該電動機の回転軸と連動して空気をハウジング内に流入させて電動機を空冷し、該空冷後の空気を前記ハウジングから流出させるファンと、
前記ハウジングの空気流入側及び空気流出側の少なくとも一方に設けられ、空気の通過音を該回転軸の回転に同期して発生させる通過音発生手段とを備えていることを特徴とする電動車両。
【請求項2】
前記電動機と該電動機によって回転駆動される車輪との間に設けられ、電動機から車輪への減速比を変える変速機を更に備えている、請求項1に記載の電動車両。
【請求項3】
前記通過音発生手段は、回転軸に繋がって設けられ、ファンによって流入された空気が通る第1透孔が形成された回転部材と、回転部材に対向して車両に取り付けられ第2透孔が形成された固定部材とを備え、回転部材の回転角度によって、第1透孔と第2透孔とが重なる面積が変化する、請求項1又は2に記載の電動車両。
【請求項4】
第1透孔は、回転部材の周方向に沿って複数開設され、第2透孔は、固定部材の周方向に沿って複数開設された、請求項3に記載の電動車両。
【請求項5】
通過音発生手段の空気流入側及び空気流出側の少なくとも一方に配置され、電動機に流れる空気の量を調整する風量調整手段を更に備えている、請求項1乃至4の何れかに記載の電動車両。
【請求項6】
風量調整手段は、電動機に流入する空気が通過する開口を設けて車両に取り付けられた支持片と、該支持片上を摺動可能に設けられて前記開口の露出面積を変化させるスライド片とを有している、請求項5に記載の電動車両。
【請求項7】
前記風量調整手段は、運転者の操作に応じて、前記電動機に流れる空気の量を調整する、請求項5又は6に記載の電動車両。
【請求項8】
前記風量調整手段は、運転者のアクセル閉じ操作により、前記電動機に流れる空気の量を減じる、請求項7に記載の電動車両。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−35436(P2013−35436A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173653(P2011−173653)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)