説明

電子スピン偏極イオンビーム発生方法及びその発生装置

【課題】本発明は、光ポンピング法を用いず、スピン偏極率の絶対値が0.05以上である電子スピン偏極イオンビーム発生方法及びその発生装置を提供することを課題とする。
【解決手段】希ガス元素イオンからなるイオンビームを発生させる工程と、前記イオンビームを標的12の一面12aに入射して、散乱イオンビームを出射させる工程と、前記散乱イオンビームを静電アナライザ13内に取り込んで、電界を印加して、電子スピン偏極イオンビームを発生させる工程と、を有する電子スピン偏極イオンビーム発生方法であって、前記イオンビームを標的12の一面12aに入射する際、前記イオンビームの入射方向と前記散乱イオンビームの出射方向の両者を含む散乱面に対して、磁場の方向が80°以上100°以下の方向となるように、磁場を印加する電子スピン偏極イオンビーム発生方法を用いることによって前記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子スピン偏極イオンビーム発生方法及びその発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン散乱分光法(ISS)は、運動エネルギーの揃ったイオン(以下、イオンビームという。)を試料の固体表面に入射して、特定の方向に散乱されるイオンをエネルギー分光して、固体表面の構造や組成に関する情報を得る分光法である(非特許文献1)。
また、スピン偏極イオン散乱分光法(SP−ISS)は、ISSの入射イオンをスピン偏極することで、固体表面におけるスピンが関与する物性に関する情報を得る分光法である(非特許文献2)。SP−ISSでは、スピン偏極率の高い電子スピン偏極イオンビームを用いることにより、詳細な情報を得ることができる。
【0003】
スピン偏極率は、上向きの電子スピンを持つイオンと、下向きの電子スピンを持つイオンの数の比で規定される。上向きの電子スピンを持つイオンの個数と下向きの電子スピンを持つイオンの個数をそれぞれn↑とn↓とすれば、スピン偏極率Pは(n↑−n↓)/(n↑+n↓)で規定される。非特許文献3には、Heイオンビームのスピン偏極率PHe+の決定方法が開示されている。
【0004】
従来の電子スピン偏極イオンビーム発生方法として、光ポンピング法がある。
非特許文献4、5には、光ポンピング法によるHeイオンのスピン偏極方法が記載されており、非特許文献6には、光ポンピング法による各種イオンのスピン偏極方法が記載されている。
【0005】
光ポンピング法とは、偏光を原子やイオン(以下、原子等という。)に照射し、前記原子等に吸収させてエネルギーの低い状態から高い状態へ大量に励起して、特定のスピン角運動量を持つ状態の原子等を多数作り、電子スピン偏極イオンビームを発生させる方法である。
【0006】
非特許文献7は、入射エネルギーを30MeVとした際のイオン散乱におけるスピン軌道相互作用が記載されている。スピン軌道相互作用とは、一般的には、スピン角運動量Sと軌道角運動量Lの積S・Lで表されるベクトル間の角度に依存する相互作用である。散乱におけるスピン軌道相互作用では、入射種自身の標的核の周りの過渡的な角運動による磁場Hと入射種のスピンSとの相互作用となる。
【0007】
非特許文献8には、光ポンピング法、Stern−Gerlach法、Lambシフト法による原子やイオンのスピン偏極方法が記載されている。イオン散乱におけるスピン軌道相互作用により、入射種の核スピンが偏極するとの説明がある。しかし、イオン散乱による電子スピン偏極については説明がない。
【0008】
光ポンピング法を用いた装置では、大強度の偏光が必要となる。そこで、レーザー光を高度に制御する必要がある。そのため、装置の製造コストが高くなるとともに、操作が複雑であり、取り扱いが困難であるという制約・問題点がある。
そこで、光ポンピング法を用いない電子スピン偏極イオンビーム発生方法及び発生装置が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−135308号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】M.Aono他3名、Phys.Rev.Lett.51(1983)801
【非特許文献2】T.Suzuki,Y.Yamauchi.,Surf.Sci.602(2008)579.
【非特許文献3】T.Suzuki,Y.Yamauchi、Physical Review A77(2008)022902
【非特許文献4】D.L.Bixler他5名、Rev.Sci.Instr.70(1999)240
【非特許文献5】T.Suzuki,Y.Yamauchi.、Nucl.Instrum.Meth.Phys.Res.A575(2007)343
【非特許文献6】E.W.Weber.、Phys.Rep.32(1977)123
【非特許文献7】P.D.Greaves他3名、Nucl.Phys.A179(1972)1
【非特許文献8】久保謙一、鹿取謙二、「スピンと偏極」、培風館
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、光ポンピング法を用いず、スピン偏極率の絶対値が0.05以上である電子スピン偏極イオンビーム発生方法及びその発生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本研究者は、上記事情を鑑み、検討した結果、標的と静電アナライザからなるスピン偏極器を用いることにより、固体表面から弾性散乱されるイオンビームを取り出すことで容易に偏極イオンビームの発生を可能とし、前記の制約から逃れることが可能であることを見出し、本発明を完成した。
なお、本技術の基本原理は、弾性散乱におけるスピン軌道相互作用であり、電子スピンを有する全てのイオンのみならず、原子やイオン及びイオンクラスター等の集合体に応用可能である。
また、磁場配置、標的材料、入射エネルギー、散乱角を限定することにより、スピン偏極率が高いイオンビームが得られ、SP−ISS等のスピン偏極イオンビームの応用に好都合である。
本発明は、以下の構成を有する。
【0013】
(1)希ガス元素イオンからなるイオンビームを発生させる工程と、前記イオンビームを標的の一面に入射して、散乱イオンビームを出射させる工程と、前記散乱イオンビームを静電アナライザ内に取り込んで、電界を印加して、電子スピン偏極イオンビームを発生させる工程と、を有する電子スピン偏極イオンビーム発生方法であって、前記イオンビームを標的の一面に入射する際、前記イオンビームの入射方向と前記散乱イオンビームの出射方向の両者を含む散乱面に対して、磁場の方向が80°以上100°以下の方向となるように、磁場を印加することを特徴とする電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
【0014】
(2)プラズマ法により、希ガス元素イオンを発生させることを特徴とする(1)に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
(3)前記希ガス元素がHeであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
(4)前記イオンビームの入射エネルギーが1keV以上30MeV以下であり、散乱角が150°であり、入射角が0°であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
【0015】
(5)入射角が0°であり、前記標的が、原子番号50番以上の元素群から選択される一の材料を有することを特徴とする(4)に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
(6) 前記標的が、Sn、Au、Pb、Biの群から選択される一の材料を有することを特徴とする(5)に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
(7)前記イオンビームの入射エネルギーが1.57keVであり、散乱角が60°以上90°以下又は110°以上150°以下の範囲内であり、入射角が(180°−散乱角)/2であり、前記標的がAuであることを特徴とする(6)に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
【0016】
(8)前記イオンビームの入射エネルギーが1.57keVであり、散乱角が25°以上140°以下の範囲内であり、入射角が(180°−散乱角)/2であり、前記標的がPbであることを特徴とする(6)に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
(9)希ガス元素の種類、標的材料の種類、入射エネルギー値、入射角、出射角、散乱角を同一にして、光ポンピング法による電子スピン偏極イオンビームのスピン非対称率を測定する工程を有することを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
【0017】
(10)真空槽と、イオンビーム発生部と、前記真空槽と前記イオンビーム発生部とを連結するビームラインと、前記真空槽、前記イオンビーム発生部及び前記ビームラインを取り囲むように配置した3軸コイルと、を備えた電子スピン偏極イオンビーム発生装置であって、前記真空槽内には略板状の標的と静電アナライザが配置されており、前記標的は、回転制御機構により、標的の一面に平行な回転軸を中心に回転可能とされており、前記静電アナライザは、移動制御機構により前記標的の回転軸を中心として回転移動可能とされており、前記3軸コイルに通電する電流を調整することにより、前記標的に磁場を印加可能とされていることを特徴とする電子スピン偏極イオンビーム発生装置。
【0018】
(11)前記静電アナライザが、筒部と前記筒部を取り囲むように配置された電界印加部材とからなり、前記筒部内でイオンビームに電界印加可能とされていることを特徴とする(10)に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生装置。
(12)前記イオンビーム発生部が、希ガス元素ガス導入管が接続されたRF放電管であることを特徴とする(10)又は(11)に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電子スピン偏極イオンビーム発生方法は、希ガス元素イオンからなるイオンビームを発生させる工程と、前記イオンビームを標的の一面に入射して、散乱イオンビームを出射させる工程と、前記散乱イオンビームを静電アナライザ内に取り込んで、電界を印加して、電子スピン偏極イオンビームを発生させる工程と、を有する電子スピン偏極イオンビーム発生方法であって、前記イオンビームを標的の一面に入射する際、前記イオンビームの入射方向と前記散乱イオンビームの出射方向の両者を含む散乱面に対して、磁場の方向が80°以上100°以下の方向となるように、磁場を印加する構成なので、光ポンピング法を用いず、スピン偏極率の絶対値が0.05以上である電子スピン偏極イオンビームを発生させることができる。
【0020】
本発明の電子スピン偏極イオンビーム発生装置は、真空槽と、イオンビーム発生部と、前記真空槽と前記イオンビーム発生部とを連結するビームラインと、前記真空槽、前記イオンビーム発生部及び前記ビームラインを取り囲むように配置した3軸コイルと、を備えた電子スピン偏極イオンビーム発生装置であって、前記真空槽内には略板状の標的と静電アナライザが配置されており、前記標的は、回転制御機構により、標的の一面に平行な回転軸を中心に回転可能とされており、前記静電アナライザは、移動制御機構により前記標的の回転軸を中心として回転移動可能とされており、前記3軸コイルに通電する電流を調整することにより、前記標的に磁場を印加可能とされている構成なので、光ポンピング法を用いず、スピン偏極率の絶対値が0.05以上である電子スピン偏極イオンビームを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の電子スピン偏極イオンビーム発生装置の一例を示す斜視図である。
【図2】イオンビーム発生部で発生させたイオンビームの経路を示す図である。
【図3】標的と磁場方向とイオンビームの照射方向・散乱方向の一例を示す図である。
【図4】静電アナライザを示す図であって、図4(a)は平面図であり、図4(b)は図4(a)のA−A’線における断面図である。
【図5】散乱イオンの運動エネルギーの関数として得られたスピン非対称率A(He+、Au、1.54、0、30、150)を示すグラフ及び散乱イオンの運動エネルギーと散乱イオン強度I(積算値)との関係を示すISSスペクトルを示すグラフである。
【図6】スピン偏極率PHe+(OUTPUT)と標的材料の原子番号の関係を示すグラフである。
【図7】スピン偏極率PHe+(OUTPUT)と入射エネルギーの関係を示すグラフである。
【図8】スピン偏極率PHe+(OUTPUT)と散乱角θとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(本発明の実施形態)
<電子スピン偏極イオンビーム発生装置>
まず、本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生装置について説明する。
図1は、本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生装置の一例を示す斜視図である。
図1に示すように、本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生装置51は、真空槽10と、イオンビーム発生部1と、を備えて概略構成されている。
真空槽10及びイオンビーム発生部1は、3軸コイル11により、取り囲まれている。3軸コイル11は、一辺Lの長さで、立方体状に形成されており、3軸コイル11に流す電流を調整して、例えば、イオンビーム発生部1から真空槽10までの磁場の方向を、図1に示す鉛直方向とし、その大きさは約3×10−5Tとなるようにする。一辺Lの長さは、例えば、2mである。
【0023】
イオンビーム発生部1は、真空槽10にビームライン6により連結されている。ビームライン6には、真空ポンプ(図示略)に接続された排気管7、8が接続されており、真空槽10、ビームライン6及びイオンビーム発生部1の内部をベースプレッシャーが5×10−11Torr以下となるように減圧可能とされている。
【0024】
イオンビーム発生部1は、希ガス元素ガス導入管2及び排気管3が接続されたRF放電管である。希ガス元素ガス導入管2から導入された希ガスを放電処理してプラズマ化することにより、希ガス元素をイオン化可能とされている。
なお、イオンビーム発生部1はRF放電管に限られるものではなく、希ガス元素をイオン化可能な機器であればよい。
【0025】
イオンビーム発生部1は、光透過性の高い材料で形成されている。これにより、希ガス元素イオンに2種類の光4、5を照射する光ポンピング法により、希ガス元素をスピン偏極可能とされている。本構成を備えることにより、光ポンピング法によりスピン偏極率を容易に得ることができる。更に、そのスピン偏極率を元に、本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生方法、装置により得られたスピン偏極率の値を容易に算出することができる。
しかし、本発明の実施形態では、真空槽10内のスピン偏極器で希ガス元素イオンのスピン偏極が可能なため、電子スピン偏極イオンビーム発生させる方法、装置には、本構成(イオンビーム発生部1を光透過性の高い材料で形成する構成)は必要ない。本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生方法、装置により得られたスピン偏極率の値は、別の手段により得たスピン偏極率を元に算出してもよい。
【0026】
希ガス元素としては、例えば、ヘリウム(He)を用いることができる。Heイオンからなるイオンビームは取り扱いが容易である。しかし、これに限られるものではなく、Ne、Ar、Kr、Xe等を用いてもよい。
【0027】
ビームライン6には、電界印加機構(図示略)が備えられており、イオンビーム発生部1から真空槽10方向に希ガス元素イオンを電界印加して加速することにより、イオンビームとすることができる。
【0028】
真空槽10の上部には、回転制御機構(標的マニュピュレータ)9が備えられている。回転制御機構9を回転させることにより、真空槽10内の標的を一定の回転軸の周りに回転させることができる構成とされている。
【0029】
図2は、イオンビーム発生部で発生させたイオンビームの経路を示す図である。
図2に示すように、真空槽10内にはスピン偏極器14が設置されている。スピン偏極器14は、略板状の標的12と静電アナライザ13とからなる。
標的12には、真空槽10を取り囲むように配置した3軸コイル11により、磁場が印加可能とされている。
【0030】
標的12は、回転制御機構(標的マニュピュレータ)9を回転させて回転軸gを中心として回転可能とされている。この回転軸gは、入射方向と出射方向の両者を含む散乱面に対して垂直である。
静電アナライザ13は、移動制御機構(図示略)により標的12の回転軸gを中心として、開口部13c1aが標的12を向いたまま、回転移動可能とされている。つまり、標的12の回転軸gと同軸上で移動可能とされている。
【0031】
標的12の材料としては、全ての元素を用いることが出来る。原理となるスピン軌道相互作用は、標的の原子核に電荷があれば働くためである。少なくとも、珪素、銅、亜鉛、銀、スズ、金、鉛、ビスマスとした時には電子スピン偏極イオンビームを発生させることができる。
例えば、単結晶金(Au)を用いた場合、その(111)面をイオンビームの照射面とする。
【0032】
標的12の材料としては、原子番号の大きいものが好ましい。原子番号の大きい材料を用いることにより、スピン偏極度を向上させることができる。
【0033】
イオンビーム発生部1で発生させたイオンビームは、ビームライン6内を電界移動され、真空槽10内の標的12の一面12aに照射される。
標的12の一面12aで散乱されたイオンビームは、静電アナライザ13の開口部13c1aから内部に取り込まれる。
静電アナライザ13内では、イオンビームが電界印加処理されて、弾性散乱に相当する運動エネルギーを有するイオンビームが取り出されることで電子スピン偏極イオンビームとされてから、開口部13c2bから放出される。
【0034】
静電アナライザ13の下部には、2次電子増倍管15が設置されている。2次電子増倍管15は、静電アナライザ13から放出されるイオンビームを取り込んで、Heイオンの出力信号を測定可能とされている。
2次電子増倍管15には、プリアンプ(図示略)が接続され、出力信号を増幅できる構成とされている。前記プリアンプには、カウンタボードを介してコンピュータが接続され、前記出力信号をコンピュータで処理できる構成とされている。
なお、2次電子増倍管15は、取り外し可能で、2次電子増倍管15の代わりに試料を配置できる構成とされている。試料を配置することにより、電子スピン偏極イオンビームを試料に照射して、試料の固体表面分析が可能とされている。
【0035】
図3は、標的と磁場方向とイオンビームの照射方向・散乱方向の一例を示す図である。
図3に示すように、標的12の一面12aの法線方向は、磁場方向と略垂直方向となるように設定されている。イオンビームの入射角α、出射角β、散乱角θが表示されている。入射方向と出射方向の両者を含む面(散乱面)は、法線方向に平行となるように調整されている。
【0036】
3軸コイルのコイル電流を調整することにより、標的12の一面12aの法線方向を、磁場方向に略垂直な方向に設定可能とされている。
標的12を回転させることにより、入射角αを0°以上90°未満の範囲で設定できる。また、静電アナライザ13を移動させることにより、散乱角θを0°以上180°未満の範囲で設定できる。出射角βは、入射角αと散乱角θを設定することにより、決定される。
【0037】
磁場方向は、イオンビームの入射方向と散乱イオンビームの出射方向の両者を含む散乱面に略垂直な方向であることが好ましい。これにより、スピン軌道相互作用を最大にでき、得られるスピン偏極率を最大にできるためである。
具体的には、標的12の一面12aの法線方向に対して、磁場方向を80°以上100°以下の方向とすることが好ましく、磁場方向を85°以上95°以下の方向とすることがより好ましく、90°とすることが更に好ましい。
なお、磁場方向は、散乱面に平行な方向でなければよい。磁場方向と散乱面が平行でない限りスピン軌道相互作用が発生するためである。
【0038】
図4は、静電アナライザ13の一例を示す図であって、図4(a)は平面図であり、図4(b)は図4(a)のA−A’線における断面図である。
図4(a)に示すように、静電アナライザ13は、平面視略矩形状の部材13a、13bが連結されてなる。平面視略矩形状の部材13a、13bには、それぞれ筒部13c1、13c2が設けられている。
【0039】
図4(b)に示すように、側面視半円状の部材13aと、側面視1/4円(扇)状の13bが、筒部13c1、13c2を連通させるように結合されている。
部材13aは、電界印加部材13a1、13a2からなり、絶縁部材(図示略)が挟持されている。これにより、電界印加部材13a1、13a2の間で電界を印加可能とされており、電界の方向及び大きさを操作することにより、特定の運動エネルギーを持ったイオンビームが筒部13c1内を通過できる。
【0040】
同様に、部材13bは、電界印加部材13b1、13b2からなり、絶縁部材(図示略)が挟持されている。これにより、電界印加部材13b1、13b2の間で電界を印加可能とされており、電界の方向及び大きさを操作することにより、特定の運動エネルギーを持ったイオンビームが筒部13c2内を通過可能できる。
【0041】
標的12で散乱されたHeイオンは、開口部13c1aから静電アナライザ13内に取り込まれてから、静電アナライザ13内で掃引電圧によりエネルギー分別され、弾性散乱に相当する運動エネルギーを有するイオンビームが取り出されることで電子スピン偏極イオンビームとされ、他方の開口部13c2bから放射される。
【0042】
<電子スピン偏極イオンビーム発生方法>
次に、本発明の実施形態である電子スピン偏極Heイオンビームの発生方法について説明する。
本発明の実施形態である電子スピン偏極Heイオンビームの発生方法は、イオンビーム発生工程S1と、散乱イオンビーム発生工程S2と、電子スピン偏極イオンビーム発生工程S3と、を有する。
【0043】
(イオンビーム発生工程S1)
まず、3軸コイルを調整して、Heイオン源から真空槽までの磁場方向が、鉛直方向に平行で、その大きさが1×10−6T以上1×10−4Tの範囲となるように調整する。
【0044】
標的材料は、先に記載した材料のいずれかの材料であり、Mで表記する。
例えば、単結晶金(Au)を用い、以下の工程では、その(111)面をイオンビームの照射面とするように、(111)面を標的の回転軸と平行となる様に真空槽内に標的を配置する。この配置では、入射方向と出射方向の両者を含む面(散乱面)が標的表面の法線方向と平行になっている。
【0045】
次に、磁場方向が散乱面と垂直となるように磁場補正用3軸コイルを調整する。
これにより、標的の一面の法線方向に対して、磁場方向が80°以上100°以下の方向となるようにし、入射角α、出射角β、散乱角θを所定の値とする。
【0046】
次に、真空槽内、ビームライン内、RF放電管内を、真空ポンプで減圧状態とする。例えば、ベースプレッシャーを5×10−11Torr以下の超高真空とする。
【0047】
次に、RF放電管内にヘリウムガスを希ガス元素ガス導入口から導入する。また、希ガス元素ガス排気口から排気を行い、例えば、RF放電管中のヘリウム圧力を約20Paとなるように調整する。
【0048】
次に、RF出力を1W〜10Wの範囲のいずれかの値にしてHeガスを放電して、RF放電管中にヘリウムプラズマを発生させて、無偏極のHeイオンを発生させる。
【0049】
次に、標的の一面を、超高真空中での加熱処理とイオンビームスパッタリングの組み合わせにより、清浄化する。標的表面の清浄性は、静電アナライザを用いた散乱イオンの分光(イオン散乱分光法(ISS))で標的の材料の弾性散乱イオンピークのみが観測されるか否かにより確認する。
【0050】
(散乱イオンビーム発生工程S2)
次に、ビームラインに電界を印加し、無偏極のHeイオンを加速して真空槽の中に設置したスピン偏極器まで輸送し、Heイオンからなるイオンビームを入射エネルギーEで、真空槽内のスピン偏極器内の標的に照射する。
Heイオンは標的で散乱されて、散乱イオンビームを発生させる。
【0051】
散乱角を150°とし、入射角を0°とした場合、入射エネルギーEは1keV以上30MeV以下とすることが好ましい。入射エネルギーEを1keV以上とすることにより、効率的なスピン軌道相互作用によって、スピン偏極イオンビームを効率よく発生させることができる。入射エネルギーEが30keV以上とすると、イオン散乱におけるスピン軌道相互作用が示されるか不明である。
【0052】
散乱角を150°とし、入射角を0°とし、入射エネルギーEを1keV以上30MeV以下とした場合、標的は原子番号50番以上の元素群から選択される一の材料を有することが好ましい。特に、標的が、Sn、Au、Pb、Biの群から選択される一の材料を有することが好ましい。スピン偏極率の絶対値が0.05以上にすることができる。
【0053】
前記イオンビームの入射エネルギーを1.57keVとし、標的をAuとした場合、散乱角が60°以上90°以下又は110°以上150°以下の範囲内であり、入射角が(180°−散乱角)/2であることが好ましい。スピン偏極率の絶対値が0.05以上にすることができる。
【0054】
前記イオンビームの入射エネルギーを1.57keVとし、標的をPbとした場合、散乱角が25°以上140°以下の範囲内であり、入射角が(180°−散乱角)/2であることが好ましい。スピン偏極率の絶対値が0.05以上にすることができる。
【0055】
(電子スピン偏極イオンビーム発生工程S3)
次に、標的で弾性散乱されたHeイオンを、開口部から静電アナライザ内に取り込む。
標的で散乱されたHeイオンは、開口部から静電アナライザ内に取り込まれてから、静電アナライザ内で掃引電圧により、エネルギー分別され、弾性散乱に相当する運動エネルギーを有するイオンビームが取り出されることで、電子スピン偏極イオンビームとされ、他方の開口部から放射される。
希ガス元素イオンとして、Heイオンを用いた場合には、スピン偏極Heイオンビームが他方の開口部から放射される。
【0056】
(電子スピン偏極イオンビームのスピン偏極率算出工程S4)
静電アナライザ内を通過したスピン偏極Heイオンの出力信号(散乱イオン強度I(積算値))を、静電アナライザの下部に設置した2次電子増倍管で所定時間測定する。前記所定時間は100秒以上10000秒以内とする。前記所定時間が100秒未満では、評価可能な測定データが得られない。一方、10000秒を超える場合には、標的の特性が劣化する恐れが発生する。
【0057】
次に、測定データをプリアンプで増幅してから、カウンタボードを用いて計数し、コンピュータで処理して、散乱イオン強度I(積算値)を算出する。
散乱イオン強度I(積算値)は、散乱イオン運動エネルギーの関数として得られ、ISSスペクトルを与える。散乱イオンの運動エネルギーは、静電アナライザの掃引電圧の関数として与えられる。
【0058】
散乱イオン強度I(積算値)のピーク値を与える散乱イオンの運動エネルギーにおけるスピン非対称率A(He+、M、E、α、β、θ)から、スピン偏極Heイオンビームのスピン偏極率PHe+(OUTPUT)が得られる。
スピン非対称率A(He+、M、E、α、β、θ)は、Heイオンビームを用い、標的として材料Mを用い、入射エネルギーをEとし、入射角α、出射角β、散乱角θとした場合のスピン非対称率である。
【0059】
[スピン非対称率A(He+、M、E、α、β、θ)決定方法]
次に、Heイオンビームのスピン非対称率A決定方法について説明する。
スピン非対称率A決定方法は、例えば、光ポンピング法を用いる。
【0060】
まず、3軸コイルを調整して、Heイオン源から真空槽までの磁場が、鉛直方向に平行で、その大きさが1×10−6T以上1×10−4Tの範囲となるように調整する。
【0061】
標的材料は、Mからなる。Mは、先に記載した材料のいずれかの材料である。
例えば、単結晶金(Au)を用い、以下の工程では、その(111)面をイオンビームの照射面とするように、(111)面を標的の回転軸と平行になる様に真空槽内に標的を配置する。この配置では、入射方向と出射方向の両者を含む面(散乱面)が標的表面の法線方向と平行になっている。
【0062】
次に、磁場方向が散乱面と垂直となるように磁場補正用3軸コイルを調整する。
これにより、標的の一面の法線方向に対して、磁場方向が80°以上100°以下の方向となるようにし、入射角α、出射角β、散乱角θを所定の値とする。
【0063】
次に、真空槽内、ビームライン内、RF放電管内を、真空ポンプで減圧状態とする。例えば、ベースプレッシャーを5×10−11Torr以下の超高真空とする。
【0064】
次に、RF放電管内にヘリウムガスを希ガス元素ガス導入口から導入する。また、希ガス元素ガス排気口から排気を行い、例えば、RF放電管中のヘリウム圧力を約20Paとなるように調整する。
【0065】
次に、RF出力を1W〜10Wの範囲としてHeガスを放電して、RF放電管中にヘリウムプラズマを発生させて、Heイオンを発生させる。
【0066】
次に、標的の一面を、超高真空中での加熱処理とイオンビームスパッタリングの組み合わせにより、清浄化する。標的表面の清浄性は、静電アナライザを用いた散乱イオンの分光(イオン散乱分光法(ISS))で標的の材料の弾性散乱イオンピークのみが観測されるか否かにより確認する。
【0067】
「円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回りにして出力信号を測定する工程」
次に、光ポンピング法により、RF放電管内のHeイオンをスピン偏極させる。
具体的には、直線偏光の光ポンピング照射光と、円偏光の光ポンピング照射光を同時にHeイオンに照射し、スピン偏極Heイオンを発生させる。
円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティ(運動方向に対するスピンの向き)を右回りに制御して、スピン偏極Heイオンのスピンの向きを磁場の方向と平行とする。
なお、例えば、これらの光ポンピング照射光の波長は1083nmのD線に調整し、光密度は約0.1W/cmとなるように調整する。
【0068】
次に、ビームラインに電界を印加し、スピン偏極させたHeイオンを加速して真空槽の中に設置したスピン偏極器まで輸送し、Heイオンからなるイオンビームの入射エネルギーをEとして、真空槽内のスピン偏極器内の標的に照射する。
【0069】
Heイオンは標的で散乱されてから、静電アナライザ内に取り込まれ、静電アナライザ内を通過し、静電アナライザの下部から放出される。
静電アナライザ内で、標的で散乱されたHeイオンが電界印加されることにより、ある特定の運動エネルギーを持ったHeイオンが静電アナライザを通過する。この特定の運動エネルギーを規定するのが、静電アナライザの掃引電圧である。
スピン偏極Heイオンのスピンの向きを磁場の方向と平行とした場合の、静電アナライザ内を通過したスピン偏極Heイオンの出力信号(散乱イオン強度I↑(1回目))を、静電アナライザの下部に設置した2次電子増倍管で所定時間測定する。
所定時間は、例えば、10秒間である。
【0070】
「円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを左回りにして出力信号を測定する工程」
次に、円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを左回りに制御して、スピン偏極Heイオンのスピンの向きを磁場の方向と反平行とした他は「円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回り」とした場合と同様にして、スピン偏極Heイオンのスピンの向きを磁場の方向と反平行とした場合の、スピン偏極Heイオンの出力信号(散乱イオン強度I↓(1回目))を、静電アナライザの下部に設置した2次電子増倍管で所定時間測定する。所定時間は、例えば、10秒間である。
【0071】
円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回りにして出力信号を測定する工程と、円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを左回りにして出力信号を測定する工程とを交互に複数回繰り返して各測定データを得てから、測定データをプリアンプで増幅してから、カウンタボードを用いて計数し、コンピュータで処理して、スピン偏極Heイオンのスピンの向きを磁場の方向と平行とした場合の散乱イオン強度I↑(積算値)及び、スピン偏極Heイオンのスピンの向きを磁場の方向と反平行とした場合の散乱イオン強度I↓(積算値)を算出する。
散乱イオン強度I↑(積算値)及び散乱イオン強度I↓(積算値)はそれぞれ、散乱イオン運動エネルギーの関数として得られる。
【0072】
なお、Heイオンのスピンの向きを複数回、平行、反平行の間で定期的に切り替えたのは、標的の表面の経時変化の影響を排除するためである。少なくとも100回以上切り替えることが好ましい。
【0073】
次に、散乱イオン強度I↑(積算値)及び散乱イオン強度I↓(積算値)と、下記式(2)で定義される入射Heイオンビームのスピン偏極率PHe+(INPUT)を下記式(1)に代入する。式(2)において、n↑は磁場に平行の磁気モーメントを持つHeイオンの個数であり、n↓は磁場に反平行の磁気モーメントを持つHeイオンの個数である。スピン偏極率PHe+(INPUT)は既知の値を用いることができる。
散乱イオンの運動エネルギーの関数としてスピン非対称率A(He+、M、E、α、β、θ)が得られる。
【0074】
【数1】

【0075】
【数2】

【0076】
なお、散乱イオン強度I↑(積算値)、I↓(積算値))はそれぞれ、スピン軌道相互作用に基づき、次式(3)、(4)で表される。
ここで、σ↑とσ↓はそれぞれ、磁場に平行と反平行の磁気モーメントを持つHeイオンの散乱断面積(直線状に放出した粒子の軌道が変わる確率)である。
【0077】
【数3】

【0078】
【数4】

【0079】
式(3),(4)の比例係数は同じである場合、式(3),(4)を式(1)に代入すると、次式(5)が得られる。
式(5)に示すように、A((M、E、α、β、θ)は、散乱断面積σ↑とσ↓とからなる。
【0080】
【数5】

【0081】
式(5)は、無偏極のHeのイオンビームを用いた場合の出射スピン偏極Heイオンビームのスピン非対称率A(He+、M、E、α、β、θ)が、スピン偏極させた2種のHeのイオンビームを用いた場合の出射スピン偏極Heイオンビームのスピン非対称率A(He+、M、E、α、β、θ)と同一の値となることを示している。
【0082】
つまり、スピン偏極率PHe+(INPUT)が既知のHeイオンビームの出射スピン偏極Heイオンビームのスピン非対称率A(He+、M、E、α、β、θ)を求めれば、それは、無偏極のHeイオンビームを同様の条件で散乱させて得られるスピン偏極率PHe+(OUTPUT)に等しい。
【0083】
本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生方法は、希ガス元素イオンからなるイオンビームを発生させる工程と、前記イオンビームを標的の一面に入射して、散乱イオンビームを出射させる工程と、前記散乱イオンビームを静電アナライザ内に取り込んで、電界を印加して、電子スピン偏極イオンビームを発生させる工程と、を有する電子スピン偏極イオンビーム発生方法であって、前記イオンビームを標的の一面に入射する際、前記イオンビームの入射方向と前記散乱イオンビームの出射方向の両者を含む散乱面に対して、磁場の方向が80°以上100°以下の方向となるように、磁場を印加する構成なので、光ポンピング法を用いず、スピン偏極率の絶対値が0.05以上である電子スピン偏極イオンビームを発生させることができる。
【0084】
本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生方法は、プラズマ法により、希ガス元素イオンを発生させる構成なので、効率よく、無偏極の希ガス元素イオンからなるイオンビームを発生させることができ、光ポンピング法を用いず、スピン偏極率の絶対値が0.05以上である電子スピン偏極イオンビームを発生させることができる。
【0085】
本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生方法は、前記希ガス元素がHeである構成なので、効率よく、無偏極のHeイオンからなるイオンビームを発生させることができ、光ポンピング法を用いず、スピン偏極率の絶対値が0.05以上である電子スピン偏極イオンビームを発生させることができる。
【0086】
本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生方法は、前記イオンビームの入射エネルギーが1keV以上30MeV以下であり、散乱角が150°であり、入射角が0°である構成なので、効率よく、スピン偏極した散乱イオンビームを発生させることができ、光ポンピング法を用いず、スピン偏極率の絶対値が0.05以上である電子スピン偏極イオンビームを発生させることができる。
【0087】
本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生方法は、入射角が0°であり、前記標的が、原子番号50番以上の元素群から選択される一の材料を有する構成なので、効率よく、スピン偏極した散乱イオンビームを発生させることができ、光ポンピング法を用いず、スピン偏極率の絶対値が0.05以上である電子スピン偏極イオンビームを発生させることができる。
【0088】
本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生方法は、前記標的が、Sn、Au、Pb、Biの群から選択される一の材料を有する構成なので、効率よく、スピン偏極した散乱イオンビームを発生させることができ、光ポンピング法を用いず、スピン偏極率の絶対値が0.05以上である電子スピン偏極イオンビームを発生させることができる。
【0089】
本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生方法は、前記イオンビームの入射エネルギーが1.57keVであり、散乱角が60°以上90°以下又は110°以上150°以下の範囲内であり、入射角が(180°−散乱角)/2であり、前記標的がAuである構成なので、効率よく、スピン偏極した散乱イオンビームを発生させることができ、光ポンピング法を用いず、スピン偏極率の絶対値が0.05以上である電子スピン偏極イオンビームを発生させることができる。
【0090】
本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生方法は、前記イオンビームの入射エネルギーが1.57keVであり、散乱角が25°以上140°以下の範囲内であり、入射角が(180°−散乱角)/2であり、前記標的がPbである構成なので、効率よく、スピン偏極した散乱イオンビームを発生させることができ、光ポンピング法を用いず、スピン偏極率の絶対値が0.05以上である電子スピン偏極イオンビームを発生させることができる。
【0091】
本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生方法は、希ガス元素の種類、標的材料の種類、入射エネルギー値、入射角、出射角、散乱角を同一にして、光ポンピング法による電子スピン偏極イオンビームのスピン非対称率を測定する工程を有する構成なので、光ポンピング法を用いず、発生させた電子スピン偏極イオンビームのスピン偏極率の絶対値を算出することができる。
【0092】
本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生装置は、真空槽と、イオンビーム発生部と、前記真空槽と前記イオンビーム発生部とを連結するビームラインと、前記真空槽、前記イオンビーム発生部及び前記ビームラインを取り囲むように配置した3軸コイルと、を備えた電子スピン偏極イオンビーム発生装置であって、前記真空槽内には略板状の標的と静電アナライザが配置されており、前記標的は、回転制御機構により、標的の一面に平行な回転軸を中心に回転可能とされており、前記静電アナライザは、移動制御機構により前記標的の回転軸を中心として回転移動可能とされており、前記3軸コイルに通電する電流を調整することにより、前記標的に磁場を印加可能とされている構成なので、光ポンピング法を用いず、スピン偏極率の絶対値が0.05以上である電子スピン偏極イオンビームを発生させることができる。
【0093】
本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生装置は、前記静電アナライザが、筒部と前記筒部を取り囲むように配置された電界印加部材とからなり、前記筒部内でイオンビームに電界印加可能とされている構成なので、光ポンピング法を用いず、スピン軌道相互作用により、効率よくスピン偏極率の絶対値が0.05以上である電子スピン偏極イオンビームを発生させることができる。
【0094】
本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生装置は、前記イオンビーム発生部が、希ガス元素ガス導入管が接続されたRF放電管である構成なので、効率よく、無偏極の希ガス元素イオンからなるイオンビームを発生させることができ、光ポンピング法を用いず、スピン偏極率の絶対値が0.05以上である電子スピン偏極イオンビームを発生させることができる。
【0095】
本発明の実施形態である電子スピン偏極イオンビーム発生方法及びその発生装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0096】
(実施例1)
[スピン非対称率A(He+、Au、1.54、0、30、150)決定工程]
(準備工程)
まず、Heイオンビームのスピン非対称率A(He+、Au、1.54、0、30、150)を決定するための実験を行った。
スピン非対称率A(He+、Au、1.54、0、30、150)は、Heイオンビームを用い、標的としてAuを用い、入射エネルギーを1.54eVとし、入射角α=0°、出射角β=30°、散乱角θ=150°とした場合のスピン非対称率である。
【0097】
まず、一辺Lの長さが2mの3軸コイルを調整して、Heイオン源から真空槽までの磁場が、鉛直方向に平行で、その大きさが約3×10−5Tとなるように調整した。
標的として、単結晶金(Au)を用い、(111)面をイオンビームの照射面とした。そして(111)面を標的回転軸と平行となる様に標的を設置した。
【0098】
次に、磁場補正用3軸コイルを調整して磁場が散乱面と垂直となるようにした。
これにより、標的の一面の法線方向に対して、磁場の方向が80°以上100°以下の方向となるように、磁場を印加した。また、入射角α=0°、出射角β=30°、散乱角θ=150°とした。
【0099】
次に、真空槽内、ビームライン内、RF放電管内を、真空ポンプで減圧状態とし、ベースプレッシャーを5×10−11Torr以下の超高真空とした。
【0100】
次に、RF放電管内にヘリウムガスを希ガス元素ガス導入口から導入した。また、希ガス元素ガス排気口から排気を行い、RF放電管中のヘリウム圧力を約20Paとなるように調整した。
【0101】
次に、RF出力を3WとしてHeガスを放電して、RF放電管中にヘリウムプラズマを発生させて、Heイオンを発生させた。
【0102】
次に、標的の一面を、超高真空中での加熱処理とイオンビームスパッタリングの組み合わせにより、清浄化した。標的表面の清浄性は、静電アナライザを用いた散乱イオンの分光(イオン散乱分光法(ISS))で標的の材料の弾性散乱イオンピークのみが観測されるか否かにより確認した。
【0103】
「円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回りにして出力信号を測定する工程」
次に、光ポンピング法により、RF放電管内のHeイオンをスピン偏極させた。
具体的には、直線偏光の光ポンピング照射光と、円偏光の光ポンピング照射光を同時にHeイオンに照射し、スピン偏極Heイオンを発生させた。なお、これらの光ポンピング照射光の波長は1083nmのD線に調整し、光密度は約0.1W/cmとなるように調整した。
また、円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回りに制御して、スピン偏極Heイオンのスピンの向きを磁場の方向と平行とした。
【0104】
次に、ビームラインに電界を印加し、スピン偏極させたHeイオンを加速して真空槽の中に設置したスピン偏極器まで輸送し、Heイオンからなるイオンビームを入射エネルギー1.54keVとして、真空槽内のスピン偏極器内のAu(111)からなる標的に照射した。
【0105】
Heイオンは標的で散乱されてから、静電アナライザ内に取り込まれ、静電アナライザ内を通過し、静電アナライザの下部から放出された。
静電アナライザ内を通過したスピン偏極Heイオンの出力信号(散乱イオン強度I↑(1回目))を、静電アナライザの下部に設置した2次電子増倍管で10秒間測定した。
【0106】
「円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを左回りにして出力信号を測定する工程」
次に、円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを左回りに制御して、スピン偏極Heイオンのスピンの向きを磁場の方向と反平行とした他は「円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回り」とした場合と同様にして、スピン偏極Heイオンの出力信号(散乱イオン強度I↓(1回目))を、静電アナライザの下部に設置した2次電子増倍管で10秒間測定した。
【0107】
円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回りにして出力信号を測定する工程と、円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを左回りにして出力信号を測定する工程とを交互に100回ずつ繰り返して各測定データを得てから、測定データをプリアンプで増幅してから、カウンタボードを用いて計数し、コンピュータで処理して、散乱イオン強度I↑(積算値)及び散乱イオン強度I↓(積算値)を算出した。
【0108】
次に、散乱イオン強度I↑(積算値)及び散乱イオン強度I↓(積算値)及び式(2)で定義される入射Heイオンビームのスピン偏極率PHe+(INPUT)を式(1)に代入した。スピン偏極率PHe+(INPUT)は既知の値を用いた。
図5には、散乱イオンの運動エネルギーの関数として得られたスピン非対称率A(He+、Au、1.54、0、30、150)が示されている。
【0109】
図5に示すように、散乱イオンの運動エネルギーが30eVではスピン非対称率A(He+、Au、1.54、0、30、150)は0.0であった。また、散乱イオンの運動エネルギーが1250eVでは、スピン非対称率A(He+、Au、1.54、0、30、150)は−0.17〜+0.16であった。また、散乱イオンの運動エネルギーが1550eVでは、スピン非対称率A(He+、Au、1.54、0、30、150)は−0.22〜0.20であった。更に、散乱イオンの運動エネルギーが1250〜1550eVの範囲ではスピン非対称率A(He+、Au、1.54、0、30、150)は0〜―0.1の範囲であった。
【0110】
図5では統計誤差に基づくエラーバーが付記されているが、これを考慮すると、統計的に有意なスピン非対称率の絶対値は、弾性散乱エネルギーに相当する1410eV付近で最大となり、その値は0.09であった。
【0111】
<電子スピン偏極Heイオンビームの発生工程>
次に、光ポンピング法を用いず、無偏極のHeイオンからなるイオンビームを、ビームラインを用いて真空槽の中に設置したスピン偏極器まで輸送し、真空槽内のスピン偏極器内のAu(111)からなる標的に照射した他は「円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回り」とした場合と同様にして、スピン偏極Heイオンの出力信号(散乱イオン強度I(積算値))を、静電アナライザの下部に設置した2次電子増倍管で1000秒間測定した。
【0112】
これにより、図5に示すように、散乱イオンの運動エネルギーと散乱イオン強度I(積算値)との関係を示すISSスペクトルを得た。
図5に示すように、50eVピークと、1410eVピークのISSスペクトルが得られた。50eVピークは2次イオンからなるものであり、1410eVピークは金の弾性散乱イオンピークである。
このISSスペクトルは、スピン非対称率A(He+、Au、1.54、0、30、150)と対応するので、1410eVピーク値において、スピン偏極率PHe+(OUTPUT)が9%である散乱He+イオンビームが得られた。
【0113】
(実施例2)
<標的の材料の原子番号依存性について>
標的材料をSi、Cu、Zn、Ag、Sn、Au、Pb、Biのいずれかとし、入射エネルギーを1.4〜1.7keVとした他は実施例1と同様にして、円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回りにして出力信号を測定する工程と、円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを左回りにして出力信号を測定する工程とを交互に100回ずつ繰り返して各測定データを得てから、測定データをプリアンプで増幅してから、カウンタボードを用いて計数し、コンピュータで処理して、散乱イオン強度I↑(積算値)及び散乱イオン強度I↓(積算値)を算出した。
【0114】
次に、散乱イオン強度I↑(積算値)、散乱イオン強度I↓(積算値)及び式(2)で定義される入射Heイオンビームのスピン偏極率PHe+(INPUT)を式(1)に代入した。
散乱イオンの運動エネルギーの関数としてスピン非対称率A(He+、M、1.4〜1.7、0、30、150)を算出した。Mは、Si、Cu、Zn、Ag、Sn、Au、Pb、Biのいずれかの標的材料である。
【0115】
次に、光ポンピング法を用いず、無偏極のHeイオンからなるイオンビームを、ビームラインを用いて真空槽の中に設置したスピン偏極器まで輸送し、真空槽内のスピン偏極器内の各種材料の標的に照射した他は「円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回り」とした場合と同様にして、スピン偏極Heイオンの出力信号(散乱イオン強度I(積算値))を、静電アナライザの下部に設置した2次電子増倍管で1000秒間測定した。
これにより、各種材料の標的を用いた場合のISSスペクトルを得た。
【0116】
各種材料の標的を用いた場合のISSスペクトルは、スピン非対称率A(He+、M、1.4〜1.7、0、30、150)と対応するので、各ピーク値におけるスピン非対称率A(He+、M、1.4〜1.7、0、30、150)から、スピン偏極率PHe+(OUTPUT)が得られた。
【0117】
図6は、スピン偏極率PHe+(OUTPUT)と標的材料の原子番号の関係を示すグラフである。
標的元素の原子番号の増加と共にスピン偏極率の絶対値が増大する傾向が見られた。これにより、より高いスピン偏極率を得るには、より大きな原子番号を持つ元素を標的にすればよいことが示された。Auを標的にしたときに測定した試料中で最大のスピン偏極率(約7%)が得られた。
【0118】
(実施例3)
<入射エネルギー依存性について>
入射エネルギーを450、610、750、950、1050、1250、1550、1670eVとした他は実施例1と同様にして、円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回りにして出力信号を測定する工程と、円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを左回りにして出力信号を測定する工程とを交互に100回ずつ繰り返して各測定データを得てから、測定データをプリアンプで増幅してから、カウンタボードを用いて計数し、コンピュータで処理して、散乱イオン強度I↑(積算値)及び散乱イオン強度I↓(積算値)を算出した。
【0119】
次に、散乱イオン強度I↑(積算値)、散乱イオン強度I↓(積算値)及び式(2)で定義される入射Heイオンビームのスピン偏極率PHe+(INPUT)を式(1)に代入した。
散乱イオンの運動エネルギーの関数としてスピン非対称率A(He+、Au、E、0、30、150)を算出した。入射エネルギー値Eは、450、610、750、950、1050、1250、1550、1670eVのいずれかの値である。
【0120】
次に、光ポンピング法を用いず、無偏極のHeイオンからなるイオンビームを、ビームラインを用いて真空槽の中に設置したスピン偏極器まで輸送し、真空槽内のスピン偏極器内の標的に照射した他は「円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回り」とした場合と同様にして、スピン偏極Heイオンの出力信号(散乱イオン強度I(積算値))を、静電アナライザの下部に設置した2次電子増倍管で1000秒間測定した。
これにより、入射エネルギーEが450、610、750、950、1050、1250、1550、1670eVのいずれかである場合のISSスペクトルを得た。
【0121】
当該ISSスペクトルは、スピン非対称率A(He+、Au、E、0、30、150)と対応するので、各ピーク値におけるスピン非対称率A(He+、Au、E、0、30、150)から、スピン偏極率PHe+(OUTPUT)が得られた。
【0122】
図7は、スピン偏極率PHe+(OUTPUT)と入射エネルギーの関係を示すグラフである。スピン偏極率PHe+(OUTPUT)は入射エネルギーの増加と共に単調に減少した。これにより、より大きな絶対値のスピン偏極率を得るには、入射エネルギーをより高くすればよいことが示された。測定した範囲では、入射エネルギーを1.67keVにしたときに最大のスピン偏極率PHe+(OUTPUT)(約8%)が得られた。
【0123】
(実施例4)
<散乱角依存性について>
(4−1)
標的として多結晶金の薄板を用い、入射エネルギーが1.57keVで、尚かつ入射角と出射角を等しくし、散乱角θを10°から150°の範囲で変更した他は実施例1と同様にして、円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回りにして出力信号を測定する工程と、円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを左回りにして出力信号を測定する工程とを交互に100回ずつ繰り返して各測定データを得てから、測定データをプリアンプで増幅してから、カウンタボードを用いて計数し、コンピュータで処理して、散乱イオン強度I↑(積算値)及び散乱イオン強度I↓(積算値)を算出した。
【0124】
次に、散乱イオン強度I↑(積算値)、散乱イオン強度I↓(積算値)及び式(2)で定義される入射Heイオンビームのスピン偏極率PHe+(INPUT)を式(1)に代入した。
散乱イオンの運動エネルギーの関数としてスピン非対称率A(He+、Au、1.57、α=β、θ)を算出した。
【0125】
次に、光ポンピング法を用いず、無偏極のHeイオンからなるイオンビームを、ビームラインを用いて真空槽の中に設置したスピン偏極器まで輸送し、真空槽内のスピン偏極器内の標的に照射した他は「円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回り」とした場合と同様にして、スピン偏極Heイオンの出力信号(散乱イオン強度I(積算値))を、静電アナライザの下部に設置した2次電子増倍管で1000秒間測定した。
これにより、標的として多結晶金の薄板を用い、入射エネルギーが1.57keVで、尚かつ入射角と出射角を等しくし、散乱角を変更した場合のISSスペクトルを得た。
【0126】
当該ISSスペクトルは、スピン非対称率A(He+、Au、1.57、α=β、θ)と対応するので、各ピーク値におけるスピン非対称率A(He+、Au、1.57、α=β、θ)から、スピン偏極率PHe+(OUTPUT)が得られた。
【0127】
(4−2)
標的として多結晶鉛の薄板を用い、入射エネルギーが1.57keVで、尚かつ入射角と出射角を等しくし、散乱角θを10°から150°の範囲で変更した他は実施例1と同様にして、円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回りにして出力信号を測定する工程と、円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを左回りにして出力信号を測定する工程とを交互に100回ずつ繰り返して各測定データを得てから、測定データをプリアンプで増幅してから、カウンタボードを用いて計数し、コンピュータで処理して、散乱イオン強度I↑(積算値)及び散乱イオン強度I↓(積算値)を算出した。
【0128】
次に、散乱イオン強度I↑(積算値)、散乱イオン強度I↓(積算値)及び式(2)で定義される入射Heイオンビームのスピン偏極率PHe+(INPUT)を式(1)に代入した。
散乱イオンの運動エネルギーの関数としてスピン非対称率A(He+、Pb、1.57、α=β、θ)を算出した。
【0129】
次に、光ポンピング法を用いず、無偏極のHeイオンからなるイオンビームを、ビームラインを用いて真空槽の中に設置したスピン偏極器まで輸送し、真空槽内のスピン偏極器内の標的に照射した他は「円偏光の光ポンピング照射光のヘリシティを右回り」とした場合と同様にして、スピン偏極Heイオンの出力信号(散乱イオン強度I(積算値))を、静電アナライザの下部に設置した2次電子増倍管で1000秒間測定した。
これにより、標的として多結晶鉛の薄板を用い、入射エネルギーが1.57keVで、尚かつ入射角と出射角を等しくし、散乱角を変更した場合のISSスペクトルを得た。
【0130】
当該ISSスペクトルは、スピン非対称率A(He+、Pb、1.57、α=β、θ)と対応するので、各ピーク値におけるスピン非対称率A(He+、Pb、1.57、α=β、θ)から、スピン偏極率PHe+(OUTPUT)が得られた。
【0131】
図8は、スピン偏極率PHe+(OUTPUT)と散乱角θとの関係を示すグラフである。
標的が金の場合には、散乱角θ=140°のときに、スピン偏極率PHe+(OUTPUT)の絶対値が最大値8%となった。
一方、標的が鉛の場合には、散乱角θ=70°ときに、スピン偏極率PHe+(OUTPUT)の絶対値が最大値25%となった。
このように、絶対値が最大値となるスピン偏極率PHe+(OUTPUT)が得られる散乱角θは、標的元素の種類に依存して、異なるものであった。しかし、スピン偏極率PHe+(OUTPUT)は、入射角αと出射角βには依存しなかった。また、スピン偏極率PHe+(OUTPUT)は、標的の結晶性にも依存しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明は、電子スピン偏極イオンビーム発生方法及びその発生装置に関するものであり、光ポンピング法を用いず、光ポンピング法と同程度のスピン偏極率を有する電子スピン偏極イオンビームを発生させることができ、分析装置産業等において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0133】
1…RF放電管(イオンビーム発生部)、2…希ガス元素ガス導入口、3…希ガス元素ガス排気口、4…光ポンピング照射光(直線偏光)、5…光ポンピング照射光(円偏光)、6…ビームライン、7…ビームライン排気口、8…ビームライン排気口、9…標的マニピュレータ(回転制御機構)、10…真空槽、11…(磁場補正用)3軸コイル、12…標的、13…静電アナライザ、13a…第1のアナライザ構造部、13a1、13a2…(電界印加)部材、13c1…筒部、13c1a…開口部、13c2b…開口部、13b…第2のアナライザ構造部、13b1、13b2…(電界印加)部材、13c2…筒部、14…スピン偏極器、15…2次電子増倍管、51…電子スピン偏極イオンビーム発生装置、g…回転軸。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
希ガス元素イオンからなるイオンビームを発生させる工程と、
前記イオンビームを標的の一面に入射して、散乱イオンビームを出射させる工程と、
前記散乱イオンビームを静電アナライザ内に取り込んで、電界を印加して、電子スピン偏極イオンビームを発生させる工程と、を有する電子スピン偏極イオンビーム発生方法であって、
前記イオンビームを標的の一面に入射する際、前記イオンビームの入射方向と前記散乱イオンビームの出射方向の両者を含む散乱面に対して、磁場の方向が80°以上100°以下の方向となるように、磁場を印加することを特徴とする電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
【請求項2】
プラズマ法により、希ガス元素イオンを発生させることを特徴とする請求項1に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
【請求項3】
前記希ガス元素がHeであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
【請求項4】
前記イオンビームの入射エネルギーが1keV以上30MeV以下であり、散乱角が150°であり、入射角が0°であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
【請求項5】
入射角が0°であり、前記標的が、原子番号50番以上の元素群から選択される一の材料を有することを特徴とする請求項4に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
【請求項6】
前記標的が、Sn、Au、Pb、Biの群から選択される一の材料を有することを特徴とする請求項5に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
【請求項7】
前記イオンビームの入射エネルギーが1.57keVであり、散乱角が60°以上90°以下又は110°以上150°以下の範囲内であり、入射角が(180°−散乱角)/2であり、前記標的がAuであることを特徴とする請求項6に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
【請求項8】
前記イオンビームの入射エネルギーが1.57keVであり、散乱角が25°以上140°以下の範囲内であり、入射角が(180°−散乱角)/2であり、前記標的がPbであることを特徴とする請求項6に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
【請求項9】
希ガス元素の種類、標的材料の種類、入射エネルギー値、入射角、出射角、散乱角を同一にして、光ポンピング法による電子スピン偏極イオンビームのスピン非対称率を測定する工程を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生方法。
【請求項10】
真空槽と、イオンビーム発生部と、前記真空槽と前記イオンビーム発生部とを連結するビームラインと、前記真空槽、前記イオンビーム発生部及び前記ビームラインを取り囲むように配置した3軸コイルと、を備えた電子スピン偏極イオンビーム発生装置であって、
前記真空槽内には略板状の標的と静電アナライザが配置されており、
前記標的は、回転制御機構により、標的の一面に平行な回転軸を中心に回転可能とされており、前記静電アナライザは、移動制御機構により前記標的の回転軸を中心として回転移動可能とされており、前記3軸コイルに通電する電流を調整することにより、前記標的に磁場を印加可能とされていることを特徴とする電子スピン偏極イオンビーム発生装置。
【請求項11】
前記静電アナライザが、筒部と前記筒部を取り囲むように配置された電界印加部材とからなり、前記筒部内でイオンビームに電界印加可能とされていることを特徴とする請求項10に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生装置。
【請求項12】
前記イオンビーム発生部が、希ガス元素ガス導入管が接続されたRF放電管であることを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の電子スピン偏極イオンビーム発生装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−29435(P2013−29435A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166145(P2011−166145)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】