説明

電子ビームコレクタの掃引を制御する方法及び装置

【課題】ビームコレクタ内の電子ビームを制御するため、励起電力の分布制御を行う。
【解決手段】磁気によるジャイロトロン装置のビームコレクタ230内の電子ビーム1を制御するためのコレクタ掃引方法であって、ビームコレクタ230の長手方向zに対して垂直な磁場成分を有する水平方向掃引磁場に電子ビーム1を当て、電子ビーム1の傾斜し、回転する交差領域3をビームコレクタ230内に設ける工程と、水平方向掃引磁場を変調することによって交差領域3の長手方向の位置及び傾斜角の内少なくとも一を変動させる工程を含む。またこれらを実現するコレクタ掃引装置100及びマイクロ波発振器200も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にマイクロ波発振器用真空管などの真空装置のビームコレクタ内の電子ビームを制御するためのコレクタ掃引方法に関する。また本発明は、電子ビームのコレクタ掃引を含めたマイクロ波発振器によるマイクロ波発振方法に関する。さらに本発明は、上記方法の実施に適したコレクタ掃引装置及びマイクロ波発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子管、特に自由電子メーザ、ジャイロトロン又はクライストロンを用いたマイクロ波発振については一般に知られている。例えば、ジャイロトロンとしては、高度に加速された電子の中空ビームを発生させるための電子源や、電子を強制的にサイクロトロン運動させるための磁気冷却共鳴(超電導磁気共鳴)装置があり、これによりマイクロ波が放射される。またマイクロ波光学でマイクロ波を分離した後で電子ビームを捕収するためのビームコレクタ(集電器)が提供されている。このビームコレクタは、電子ビームの電流を吸収するのみならず、マイクロ波を放射した後で電子ビーム内に留まっている廃棄出力(例えば廃熱)を放散させるのに適している。
【0003】
ビームコレクタ内の放熱の問題は、特に高出力のマイクロ波発振器においては重要である。例えば、ミリメートル波の高出力真空管は、30%〜50%の効率を有するcwモードにおいて、通常1MWの無線周波数(rf)出力で作動する。このような効率の範囲では、マイクロ波発振後に通常1〜2MWの出力が電子ビーム内に残存する。この残存出力は、ビームコレクタ内の廃棄出力として放散しなければならない。通常、ビームコレクタは円筒形の銅で作製されている。軸対称をなす強力な定常磁場(通常5〜6T)によって、電子は入口領域を通って軸対称をなすコレクタ内へと誘導される。発散する磁力線と、それに伴うドリフト電子は、垂直方向のある位置でコレクタの壁面と交差する。この交差領域(走行線の領域)は、例えば20MW/m2といった典型的なパワー密度を有する水平リングを形成する。このような場合において、優れた冷却特性を有する高性能の水冷システムとして、銅がビームコレクタの壁面に一体化されているものの、上記のような高いパワー密度は既存の冷却能力を遙かに上回るものである。このため装置を連続動作させると、このような高いパワー密度によってビームコレクタが溶融される事態が起こりかねない。
【0004】
ビームコレクタの損傷を回避するため、コレクタ掃引手法(磁場掃引手法)としてジャイロトロンが用いられている。例えば、「フュージョン・エンジニアリング・アンド・デザイン」第53巻、2001年、387〜397頁におけるS.アルベルティ他の「欧州におけるECRHシステムに関する高出力CWジャイロトロンの開発」(非特許文献1)を参照されたい。一般に、コレクタ掃引は、発散した定常磁場を掃引磁場と重畳させる工程を含んでおり、これによりビームコレクタの内壁面全般に亘って中空電子ビームを掃引(連続的に移動、偏向)させ、時間平均における局所的なパワー密度を低減させている(図5A及び図5B)。
【0005】
特に図5A及び図5Bに、従来のジャイロトロン(完全な形では図示せず)の円筒形ビームコレクタ230’を示している。中空電子ビーム1’はビームコレクタ230’の方へ、その長手方向(中心軸方向)の(正のz方向に平行な)延在部に沿って指向される。発散した磁場2’により、電子ビーム1’はビームコレクタ230’の内壁の方へ指向される。掃引がなければ、電子ビーム1’によってビームコレクタ230’の内壁に形成される交差領域3’は、図5Aにおいて中央部にある点線状リングで示す円形の領域になってしまう。
【0006】
図5Aによれば、コレクタの掃引は、ビームコレクタ230’の外壁を囲繞しコレクタの長手方向の延在部に沿って延在する垂直方向掃引コイル22’により行われる。この垂直方向掃引コイル22’によって垂直方向掃引磁場が形成され、周期的に交互する中心軸方向のベクトル成分(z成分)が、発散した磁場(垂直磁場掃引システム:Vertical Field Sweeping System:VFSS)に加わる。その結果、電子ビーム1’はビームコレクタ230’の内壁に沿って掃引される。電子ビーム1’によって形成された交差領域3’は、移動する円形領域である。図5Aにおける破線状リングは、偏向された電子ビーム1’の上方及び下方の折り返し点4’を示している。
【0007】
一般に、VFSSでは電気的効果が低いという欠点を有する。ビームコレクタ230’の銅壁は、垂直方向掃引磁場を効率的に防護する単巻の短絡化したコイルである。これに対し必要な掃引能力を得るためには、大型の水冷式掃引コイルに接続された強力な交流電源が必要となる。このような欠点は、図5Bに示す従来型のコレクタ掃引方法(水平磁場掃引システム:Transverse Field Sweep System:TFSS)で回避できる。
【0008】
TFSSでは、水平方向掃引コイル11’によってコレクタ掃引が可能となる。この場合、水平方向掃引磁場が形成され、発散した磁場に、回転する水平なベクトル成分が加えられる。水平方向掃引磁場により、電子ビーム1’の交差領域は回転状楕円となる。電子ビームを効率的に偏向させるには、z方向に垂直な小さいひずみのみでも十分であるから、前述したVFSS手法の防護問題が著しく低減されるよう、水平方向掃引コイル11’をビームコレクタ230’の入口領域の前に位置決めさせればよい。さらにまた、ジャイロトロンのこの部分は、銅ではなく導電性の劣るステンレス鋼で作製される。
【0009】
VFSS及びTFSSに共通する問題は、掃引時間内における、いわゆるパワーピークに関連している。図6に、VFSS(点線)及びTFSS(破線)についてコレクタの温度上昇に関する垂直方向の励起電力分布(power density profile)を示す。垂直方向掃引は、掃引時間内の折り返し点4’(図5A)において2つのパワーピークとなるが、水平方向掃引は下限(ビームコレクタの入口領域付近)において単一のパワーピークを示している。このパワーピークが、主な欠点を表している。なぜなら、起電力分布の内で極大領域での励起電力強度がコレクタ全体の能力を決定するからである。
【0010】
また一般に、ジャイロトロンビームコレクタのみならず、高出力真空装置のあらゆるビームコレクタにおいても、パワーピークを低減させることに関心が持たれている。例えば他のマイクロ波発振器、特に核融合炉においてプラズマを加熱する目的で利用されるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第WO2006−045766号
【特許文献2】フランス特許出願公開第FR991127号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0324667号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】S.アルベルティ他「欧州におけるECRHシステムに関する高出力CWジャイロトロンの開発」フュージョン・エンジニアリング・アンド・デザイン第53巻、2001年、387〜397頁(S. Alberti et al. "European high-power CW gyrotron development for ECRH systems" in "Fusion Engineering and Design" vol. 53, 2001, p. 387 - 397)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、従来の方法におけるこのような欠点や制限を解消し、ビームコレクタ内の電子ビームを制御するよう改良されたコレクタ掃引方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0014】
このような目的は、独立項の特徴を含む方法及び装置によって達成される。本発明の好適な実施形態及び応用例については、従属項に記載されている。
【0015】
第1の側面によれば、本発明はビームコレクタ内の電子ビームを制御するためのコレクタ掃引方法を提供する一般的な技術教示内容に基づいており、ビームコレクタ内の掃引電子ビームの位置及び/又は方向を連続的に変動させるため、水平方向掃引磁場が変調される。第2の側面によれば、本発明はビームコレクタ内の電子ビームを制御するように適合させたコレクタ掃引装置を提供する一般的な技術教示内容に基づいており、コレクタ掃引装置における水平方向掃引コイル装置には、水平方向掃引磁場の位置及び/又は方向を変調させるために配置された変調装置が設けられている。本発明における他の独立した技術的事項には、コレクタ掃引技術を含むマイクロ波発振及びマイクロ波発振器が含まれる。
【0016】
本発明によれば、水平方向掃引磁場が変調される。この水平方向掃引磁場は、ビームコレクタの長手方向に垂直な、少なくとも一のベクトル成分を有する回転磁場である。水平方向掃引磁場は、傾斜し回転する交差領域がビームコレクタ内に形成されるよう電子ビームを偏向させる。好適には、本発明により水平方向掃引磁場を変調させると、交差領域に関する長手方向(特に中心軸方向)の位置及び傾斜角を連続的に変動させることになる。これにより、従来技術で発生していた顕著な励起電力の極大(パワーピーク)を回避することができ、廃棄出力の均一な分布が得られる。変調によってビームコレクタの長手方向に沿った熱分布が拡張され、その結果、出力のピークが低減される。特に、ビームコレクタの入口領域に近い交差領域の折り返し点(近接の、又は下方の折り返し点)における起電力分布は、水平方向掃引磁場の変調によって近接の折り返し点が反復的(好ましくは周期的)に移動するに従い、本質的に低減される。
【0017】
本発明の主な特長として、熱分布全般に沿って均一な励起電力分布を得るコレクタ掃引システムが、初めて実現されたことが挙げられる。本発明によるコレクタ掃引は、1MW超、特に2MW超のマイクロ波出力を発振可能な真空管に特に有利となる。またこれに限られず、本発明のコレクタ掃引は従来のrf管にも有効となる。それは、rf管を(特により小型のコレクタでは)より経済的に設計でき、また安全限界をより高くでき、及び/又は長寿命で動作できるからである。
【0018】
本発明の第1の好ましい実施形態によれば、水平方向掃引磁場は、この水平方向掃引磁場を垂直方向掃引磁場と重畳させることによって変調される。好適には、交差領域、例えば円筒形のビームコレクタにおける交差楕円は、垂直(すなわち前後)に移動され、その結果、ビームコレクタの長手方向の延在部に沿った励起電力分布(power deposition profile)のピークが平滑化される。具体的な利点としては、第1の実施形態に係るコレクタ掃引の実現においては、既存のハードウェアが利用できることが挙げられる。特に、変調された水平方向掃引磁場を生成するために、既存の垂直方向の磁場コイル装置を、水平方向の磁場コイルと組み合わせることができる。
【0019】
本発明の第1の実施形態は、新たな「ホットスポット(hot spots)」を生成することなくパワーピークを低減できる点で、特に有利となる。水平方向掃引磁場を垂直方向掃引磁場で変調すれば、パワーピークのシフトのみならず、寧ろ本質的な減衰がもたらされる。厚いコレクタの壁による周波数依存の寄与(表皮効果)によって、水平方向掃引磁場及び垂直方向掃引磁場の重畳は非線形の工程となる。したがって、コレクタの壁、特に銅壁による防護効果及び変形効果が存在する条件下で、重畳された放散時間に依存する磁場の複雑な相互作用を考慮すれば、パワーピークの減衰は驚異的かつ好適な結果をもたらす。
【0020】
本発明の第2の好ましい実施形態によれば、水平方向掃引磁場は振幅の変調を受ける。この場合、回転する交差領域の傾斜角は変調され、その結果、励起電力分布のピークが平滑化される。また他の特長として、第2の実施形態によれば技術的構成を簡素化できる利点も得られる。すなわち、水平方向掃引磁場を振幅変調するために、垂直方向の磁場コイルシステムを要しない。
【0021】
他の実施形態によれば、上述した第1の実施形態に係る垂直方向掃引磁場と第2の実施形態に係る振幅変調の両方を用いて、水平方向掃引磁場を変調することができる。好適には、この組み合わせによりビームコレクタ内における励起電力分布をさらに改善できる。
【0022】
これらの実施形態を実現するために、本発明のコレクタ掃引装置は、水平方向掃引磁場を垂直方向掃引磁場と重畳させるように配置した垂直方向の磁場コイル装置及び/又は水平方向掃引磁場を振幅変調するために、水平方向掃引コイル装置に接続された振幅変調装置を備えている。
【0023】
さらに水平方向掃引及び水平方向掃引磁場の変調を、異なる時間スケールで行うことでも、利点が得られる。好ましくは、通常は水平方向掃引磁場の回転頻度を示す水平方向掃引周波数が、変調する垂直方向掃引磁場に関する垂直方向掃引周波数及び/又は振幅変調周波数よりも大きい。本実施形態においては、交差領域におけるゆっくりとした垂直方向のずれ及び/又は傾斜によって、励起電力分布が平滑化される。本発明の好ましい変形例によれば、電子ビームの交差領域は、垂直方向の1サイクル(第1の実施形態)又は傾斜の1サイクル(第2の実施形態)が完了するまで、少なくとも2回転、特に好ましくは少なくとも5回転する。換言すれば、水平方向掃引周波数と垂直方向掃引周波数(又は振幅変調周波数)の比率は、好ましくは2以上、より好ましくは5以上である。
【0024】
振幅変調が70%以下、特に50%又はそれ以下の変調度であれば、上述した第2の実施形態における他の利点が得られる。これらのパラメータによって、均一な励起電力分布がさらに最適化される。
【0025】
通常、水平方向掃引磁場を変調する垂直方向掃引磁場(第1の実施形態)は、ビームコレクタの長手方向に延在する垂直方向の磁場コイル装置で、おそらくはビームコレクタの入口領域近傍にある垂直方向の磁場コイル装置で、生成できる。この場合、入口領域から離れたパワーピークに関して、改善された平滑化が得られる。ただ、垂直方向の磁場コイル装置は、ビームコレクタの入口領域に配置された垂直方向の磁場コイル(いわゆる入口領域のコイル)に限定される。本発明者らの知見によれば、入口領域のコイルのみで水平方向掃引磁場を変調させる垂直方向掃引磁場を生成することは、直近のパワーピークを平滑化するのに適している。入口領域にコイルを備えるだけで、コレクタ掃引装置の構造を本質的に簡素化できるのである。これにより、従来のVFSS法の低効率という欠点を回避できる。
【0026】
本発明によれば、特定の応用例に応じて選択される水平方向の磁場コイルを多様に配置できるので、コレクタ掃引法に関する他の利点も得られる。好ましくは、少なくとも2つの水平方向の磁場コイルを、ビームコレクタの入口領域の直前に配置する。切り換え可能な水平方向掃引磁場を実現するには、2つの水平方向の磁場コイルのみで足りる。本発明によれば、水平方向掃引磁場は垂直方向掃引磁場及び/又は振幅変調で変調される。好ましくは、3つ又は6つの水平方向の磁場コイルを配置することで、磁場を均一化できる利点が得られる。特に好ましくは、3対の水平方向の磁場コイルを相対的に120°ずらして配置する。コイル励磁をペアにすることで、水平方向掃引のための回転磁場を得ることができる。
【0027】
さらに他の利点として、掃引磁場の制御に関する特別な条件が不要となるため、本発明に係るコレクタ掃引に関する操作上の安全性が改善される。水平方向掃引磁場及び垂直方向掃引のパラメータ(特に水平方向掃引周波数、垂直方向掃引周波数、振幅変調周波数、垂直方向掃引振幅、振幅変調の形状及び/又は変調度)は、ビームコレクタの特性、特に冷却能力、寸法及び操作条件(例えば電子ビームの電流値)に応じて調整できる。なお、本発明の変形例によれば、水平方向掃引磁場と垂直方向掃引磁場の内、少なくとも一に関してフィードバック制御も可能である。このような変形例においては、コレクタ掃引方法は、ビームコレクタ内の温度分布を得るため温度を検出する工程と、検出された温度分布に応じて、水平方向掃引磁場と本発明に係る水平方向掃引磁場変調のうち少なくとも一を制御する工程を含む。ここで温度データを収集するためには、複数の熱電センサを用いることが好ましい。
【0028】
以下、本発明の好ましい実施形態に関する詳細及び利点について、添付図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の好ましい実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明の好ましい実施形態を示す概略図である。
【図3】本発明の好ましい実施形態を示す概略図である。
【図4】本発明により得た励起電力分布を示すグラフである。
【図5】従来技術を示す概略図である。
【図6】従来技術に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、好ましい実施形態を説明するとともに、高出力のジャイロトロン内の電子ビームを制御するための本発明に係るコレクタ掃引の応用例を参照しながら説明する。なお本発明の応用例はジャイロトロンのみに限定されず、例えば自由電子メーザ(free electron masers:FEM)や自由電子レーザ(free electron lasers:FEL)のような、高パワー密度の磁場誘導式電子ビームダンプを有する他の真空装置等、電子ビームを捕収するためのビームコレクタを含む他の真空装置でも利用可能であることはいうまでもない。さらに、一例として円筒形のビームコレクタを用いた本発明の応用例についても説明する。この例では、電子ビームはビームコレクタの内壁が長手方向に延在する延在部に沿って周期的に掃引される。ただ、本発明のコレクタ掃引は同様の方法に従い、異なるビームコレクタの設計にも適用できる。例えば、コレクタの内壁を漏斗形のコレクタ壁面で電子ビームを一瞥する場合にも適用できる。以下の実施例では、所定の水平方向掃引周波数を有し、周期的に回転する水平方向掃引磁場を想定している。同様の方法で、本発明は水平方向掃引磁場の方向を非均一的に回転させたり、段階的に変更させたりする場合にも利用可能である。
【0031】
図1は、本発明に係るコレクタ掃引装置100を備えたマイクロ波発振器200(図1A)の実施形態を概略的に示しており、その詳細については図1Bの概略平面図に示している。マイクロ波発振器200は、電子銃210と、磁気冷却共鳴(超電導磁気共鳴)装置220と、円筒形のビームコレクタ230とを備えている。マイクロ波発振器200は、例えば100〜140GHzの範囲内のジャイロトロン周波数で、約1MWの出力にてcw動作するように構成した、市販のTHALES社製ジャイロトロンTH1507(SNo.3)等の高出力ジャイロトロンである。これにより、約45%の効率で、電子線と電磁波の相互作用の後、電子が約80〜100keVのエネルギーを有することができる。円筒形のビームコレクタ230は、長手方向の長さが約1mで、直径は約0.5mである。
【0032】
ここでは、マイクロ波発振器200、特にビームコレクタ230内及びビームコレクタの中心軸方向に、電子が(並進)移動する長手方向をz方向とする。半径方向(x軸及びy軸)は、z軸に対して垂直である。
【0033】
本発明に係るコレクタ掃引装置100は、ビームコレクタ230の入口側、例えば磁気冷却共鳴装置220とビームコレクタ230との間の中心軸の位置、特に入口領域231の直前に配置される。本実施形態によれば、コレクタ掃引装置100は、水平方向掃引コイル装置10と垂直方向掃引コイル装置20との組み合わせ(第1の実施形態)、又は(第2の実施形態における振幅変調装置30と組み合わせた)水平方向掃引コイル装置10のみ、又は水平方向掃引コイル装置10と垂直方向掃引コイル20及び振幅変調装置30の両方との組み合わせのいずれとすることも可能である。
【0034】
水平方向掃引コイル装置10は、例えば6つの水平方向掃引コイル11〜16を有する。図1Bは、ビームコレクタ230を取り巻くコイル配置の平面図である。好ましくは、コイル11〜16は「第30回赤外線及びミリメートル波国際会議・第13回テラヘルツ電子工学国際会議の合同紀要」、米国ウィリアムズバーグ、ISBN0−7803−9349−X(2005年)、323〜324頁("Proc. of the Joint 30th Int. Conf. on Infrared and Millimeter Waves and 13 th Int. Conf. On Terahertz Electronics", Williamsburg, USA, ISBN 0-7803-9349-X (2005) p. 323 - 324)に記載のG.ダンメルツ他の発表に記載されるように設計、配置とする。水平方向掃引コイル11〜16を、各々対(11と14、12と15、13と16)にして励磁させることにより、水平方向掃引磁場が形成される。水平方向掃引周波数は、電源供給を簡単にするため、例えば(欧州で標準的な)50Hzとなるように選択され、これにより水平方向掃引磁場が毎秒50回転する。水平方向掃引コイル11〜16は、ジャイロトロン周囲の利用可能なスペース、必要とされる起磁力、連続作動に必要な冷却条件、その他製造上の諸事項を考慮して設計される。磁気冷却共鳴装置220の静的磁場で交流運転させる際の、振動による損傷を防止するため、コイルは(隙間なく)きつく巻回される。コイル11〜16にはそれぞれ、コイル温度を80℃以下に保つ水冷式の銅製ジャケットが設けられている。各コイルは例えば8kA・ターンの起磁力を伝えるように設計されている。コイル11〜16の典型的な数値(寸法)は、外寸が322×245×90mm、(銅線)巻回数が200回(10層)、巻き線の断面積が2.24×3.55mm(7.4mm2)、電流が30A(21.2Arms)(2.88Arms/mm2)、電圧が72Vrms、全抵抗値が20℃において0.36Ω、抵抗損失が20℃において162W、120℃において225W、最高許容断熱温度が200℃、インダクタンスが12mH、銅重量が11kg、総重量が17kg、巻型がオーステナイト系ステンレス鋼、コイル中心における磁場が21mテスラである。コイル11〜16は、それぞれ水平方向掃引磁場電源17に接続され、例えば各水平方向掃引コイルに23Aの電流を流す三相可変変圧器を備える。電子ビーム1(円形の破線)は、直径が約100mmの軸対称をなしており、中空である。
【0035】
垂直方向掃引コイル装置20は、垂直方向掃引電源22に接続された円筒形の垂直方向掃引コイル21を備えている。コイル21は、ビームコレクタ230の入口領域231直前の電子ビーム1の通路周囲で、軸対称に配置されている。本発明の本質的な利点として、垂直方向掃引コイル21における中心軸方向の長さは、従来のVFSSコイルに比して本質的に短くなるように選択できる。垂直方向掃引コイル装置21は、例えば10回巻き以下、又は1回巻きだけの数回巻きとしてもよい。したがって、垂直方向掃引コイルの電力消費及びコストを本質的に低減させることができる。垂直方向掃引コイル用電源22は、垂直方向掃引コイル21を励磁するために交流を流すように適合させたAC電源である。このAC電源は、コイル設計と静的磁場の大きさに応じて選択される。
【0036】
振幅変調装置30は、水平方向掃引電源17に統合するのが好ましく、このような例を図1Bに示す。振幅変調装置30は、低周波数(例えば7Hz)の振幅変調を生成するように構成している。この振幅変調は三角形のエンベロープで、典型的には変調度50%である。
【0037】
好ましい動作モードとしては、水平方向掃引磁場装置及び垂直方向掃引磁場装置のいずれにおいても、コイル電流は電源17、22で調整し、全体的なビーム拡散が同じとなるよう、水平方向掃引磁場の振幅が増大するにつれて、垂直方向掃引磁場の振幅が減少するように維持できる。
【0038】
さらに図1Bは、必要に応じて本発明に係るコレクタ掃引を制御するためのフィードバックループ部40を示している。このフィードバックループ部40は、複数の温度センサ41と、制御回路42とを備えている。例えば、49個の温度センサ(熱電対)が、ビームコレクタ230の垂直方向に沿って等間隔に装着される。温度上昇は、入口領域231から垂直方向の距離の関数として測定される。制御回路42は、温度センサ41で得られた温度データを評価し、水平方向掃引電源17及び垂直方向掃引電源22の少なくともいずれかの制御信号を生成する。例えば、入口領域231から離れた領域の温度が所定値を超えた場合、制御回路42はコイル21で生成した垂直方向掃引磁場の振幅を増大させる。
【0039】
従来技術の手法(図5Bを参照)を用いたときと同様、水平方向掃引コイル装置10は掃引電子ビームに関して楕円形の交差領域を形成するが、本発明により水平方向掃引磁場を変調させれば、図2及び図3に概略的に示すように交差領域3が変動する。
【0040】
図2は、例えば単巻き又は複巻きの入口領域のコイル21で生成される、低周波数の垂直方向掃引磁場に影響された交差領域3(楕円形の走行線)の、中心軸方向の動きを概略的に示している。発散した静的磁場4及び水平方向掃引磁場によって形成される交差領域3は、垂直に移動する。この楕円は、垂直方向の1サイクルが完了するまで、多数回(通常10回)回転する。マイクロ波装置の動作パラメータに基づいて、垂直方向掃引システム及び水平方向掃引システムの振幅及び周波数を調整することにより、均一な励起電力分布が得られる。
【0041】
図3によれば、水平方向掃引磁場における低周波数の振幅変調の結果、回転する楕円形の走行線の傾斜角がゆっくりと変調することになり、これによって励起電力分布のピークが平滑化される。本発明によれば、図2の実施形態及び図3の実施形態はいずれも、ビームコレクタ230内で、交差領域がさらに複雑な動きをするように組み合わせることができる。
【0042】
図4は、本発明に係るコレクタ掃引方法で得られた実験結果を示している。本発明で得られた、平滑化された励起電力分布(実線)を、従来のVFSS手法における2つのパワーピークを有する分布(図6の点線)と比較すると、図4から、ほぼ2倍のピーク負荷の低減が得られており、これにより同じ量でもコレクタの能力を向上できることが判る。さらに直流磁場の微調整によって水平方向掃引磁場の変調を微調整すれば、パワー密度の分布を更に改善できる。これにより交差領域3の下方折り返し点が、入口領域より僅かに離れるようにシフトする。
【0043】
上記の詳細説明、図面、特許請求の範囲で開示した本発明の各特長は、様々な実施形態を実現するため単独又は組み合わせて利用することができるため、いずれも重要な要素となる。
【符号の説明】
【0044】
1,1’…電子ビーム
2’…発散した磁場
3,3’…交差領域
4…発散した静的磁場
4’…上方及び下方の折り返し点
10…水平方向掃引コイル装置
11,11’…水平方向掃引コイル
12…水平方向掃引コイル
13…水平方向掃引コイル
14…水平方向掃引コイル
15…水平方向掃引コイル
16…水平方向掃引コイル
17…水平方向掃引磁場電源
20…垂直方向掃引コイル装置
21…垂直方向掃引コイル
22…垂直方向掃引電源
22’…垂直方向掃引コイル
30…振幅変調装置
40…フィードバックループ部
41…温度センサ
42…制御回路
100…コレクタ掃引装置
200…マイクロ波発振器
210…電子銃
220…磁気冷却共鳴装置
230,230’…ビームコレクタ
231…入口領域
z…長手方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームコレクタ(230)内の電子ビーム(1)を制御するためのコレクタ掃引方法であって、
ビームコレクタ(230)の長手方向(z)に対して垂直な磁場成分を有する垂直方向掃引磁場を電子ビーム(1)に印加し、電子ビーム(1)の傾斜し、回転する交差領域をビームコレクタ(230)内に形成する工程を含み、
さらに、水平方向掃引磁場を変調させることによって、交差領域(3)に関する長手方向の位置及び傾斜角の少なくとも一を変動させる工程を含むことを特徴とするコレクタ掃引方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコレクタ掃引方法であって、
水平方向掃引磁場の変調が、
水平方向掃引磁場を垂直方向掃引磁場と重畳させる工程、又は
水平方向掃引磁場を振幅変調に適用させる工程、
のうち少なくとも一を含むことを特徴とするコレクタ掃引方法。
【請求項3】
請求項2に記載のコレクタ掃引方法であって、
水平方向掃引磁場の水平方向掃引周波数が、垂直方向掃引磁場の垂直方向掃引周波数又は振幅変調の振幅変調周波数よりも大きいことを特徴とするコレクタ掃引方法。
【請求項4】
請求項3に記載のコレクタ掃引方法であって、
水平方向掃引周波数と、垂直方向掃引周波数又は振幅変調周波数との比率が、2以上であることを特徴とするコレクタ掃引方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一に記載のコレクタ掃引方法であって、
振幅変調が70%以下の変調度を有することを特徴とするコレクタ掃引方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一に記載のコレクタ掃引方法であって、
ビームコレクタの入口領域において円周方向に配置された、少なくとも2つの水平方向磁場コイル(11, 12, ...)によって、水平方向掃引磁場が生成されることを特徴とするコレクタ掃引方法。
【請求項7】
請求項6に記載のコレクタ掃引方法であって、
水平方向掃引磁場が、3対の水平方向磁場コイル(11, 12, ...)によって生成されることを特徴とするコレクタ掃引方法。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれか一に記載のコレクタ掃引方法であって、
ビームコレクタ(230)の入口領域(231)に配置されている垂直方向磁場コイル装置(20)及び/又はビームコレクタ(230)の長手方向(z)に沿って延在する垂直方向磁場個コイル装置(20)によって、垂直方向掃引磁場が生成されることを特徴とするコレクタ掃引方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一に記載のコレクタ掃引方法であって、さらに、
ビームコレクタ(230)内の温度分布を検出する工程と、
検出された温度分布に基づいて水平方向掃引磁場の変調を制御する工程と、
を含むことを特徴とするコレクタ掃引方法。
【請求項10】
マイクロ波の生成方法であって、
電子ビームを生成する工程と、
マイクロ波を生成するために電子ビームにジャイロトロン磁場を印加する工程と、
電子ビームを捕収する工程と、
を含み、請求項1〜9のいずれか一に記載のコレクタ掃引方法を電子ビームに適用することを特徴とするマイクロ波生成方法。
【請求項11】
ビームコレクタ(230)内の電子ビーム(1)を制御するよう構成されたコレクタ掃引装置(100)であって、
ビームコレクタ(230)の長手方向(z)に対して垂直な水平方向掃引磁場を生成し、ビームコレクタ内に電子ビーム(1)の傾斜し回転する交差領域(3)を形成するために配置された水平方向掃引コイル装置(10)を備え、
交差領域(3)に関する長手方向の位置及び傾斜角の内少なくとも一を変動させるよう、水平方向の掃引磁場を変調するために変調装置(20, 30)が配置されてなることを特徴とするコレクタ掃引装置。
【請求項12】
請求項11に記載のコレクタ掃引装置であって、変調装置が、
水平方向掃引磁場を垂直方向掃引磁場に重畳させるために配置された垂直方向磁場コイル装置(20)と、
水平方向掃引磁場を振幅変調に適用させるために水平方向掃引コイル装置に接続された振幅変調装置(30)、
の内少なくとも一を備えることを特徴とするコレクタ掃引装置。
【請求項13】
請求項12に記載のコレクタ掃引装置であって、
水平方向掃引磁場の水平方向掃引周波数を、垂直方向掃引磁場の垂直方向掃引周波数又は振幅変調の振幅変調周波数よりも大きくするように、変調装置(20, 30)を制御可能に構成してなることを特徴とするコレクタ掃引装置。
【請求項14】
請求項13に記載のコレクタ掃引装置であって、
水平方向掃引周波数と振幅変調周波数の比率が2以上となるよう、水平方向掃引周波数を制御するように変調装置(20, 30)を構成してなることを特徴とするコレクタ掃引装置。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか一に記載のコレクタ掃引装置であって、
水平方向掃引コイル装置(10)が、ビームコレクタの入口領域(231)の周囲で円周方向に配置された、少なくとも2つの水平方向磁場コイル(11, 12, ...)を備えることを特徴とするコレクタ掃引装置。
【請求項16】
請求項15に記載のコレクタ掃引装置であって、
水平方向掃引コイル装置が3対の水平方向磁場コイルを備えることを特徴とするコレクタ掃引装置。
【請求項17】
請求項12〜16のいずれか一に記載のコレクタ掃引装置であって、
垂直方向掃引コイル装置(20)が、ビームコレクタの入口領域を囲繞する入口領域コイル(21)と、ビームコレクタの長手方向(z)に沿って延在する垂直方向掃引コイルの内少なくとも一を備えることを特徴とするコレクタ掃引装置。
【請求項18】
請求項12〜17のいずれか一に記載のコレクタ掃引装置であって、さらに、
ビームコレクタ(230)の温度に基づいて水平方向掃引磁場と垂直方向掃引磁場の内少なくとも一を制御するためのフィードバックループ部(40)を備えることを特徴とするコレクタ掃引装置。
【請求項19】
マイクロ波発振器(200)であって、
電子ビームを生成するための電子ビーム源(210)と、
マイクロ波を生成するために電子ビーム(1)にジャイロトロン磁場を印加させるための磁気冷却共鳴装置(220)と、
電子ビーム(1)を捕収するために配置されたビームコレクタ(230)と、
を備え、前記ビームコレクタ(230)が請求項11〜18のいずれか一に係るコレクタ掃引装置(100)を備えることを特徴とするマイクロ波発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−526417(P2010−526417A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506805(P2010−506805)
【出願日】平成19年5月4日(2007.5.4)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003958
【国際公開番号】WO2008/135064
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(501497655)マックス プランク ゲゼルシャフト ツゥアー フェデルゥン デル ヴィッセンシャフテン エー フォー (10)
【出願人】(509305321)
【氏名又は名称原語表記】Karlsruher Institut fuer Technologie
【住所又は居所原語表記】Kaiserstrasse 12, 76131 Karlsruhe, Germany
【Fターム(参考)】