説明

電子写真感光体とそれを用いた画像形成装置及びプロセスカートリッジ

【課題】鉄と銅を合計して0.3wt%以上含有するアルミニウム支持体を導電性基体として備え、繰り返し使用しても、黒ポチや白ポチ等の画像欠陥の発生がなく、また帯電低下が防止され、微小な粒状地汚れの発生もなく、長期間保管時における感光体露光後電位が安定化した信頼性の高い電子写真感光体を提供する。
【解決手段】鉄と銅の含有量が合計して0.3wt%以上であるアルミニウム支持体1上に樹脂層2、下引き層3、電荷発生層4、電荷輸送層5を順次積層して電子写真感光体を構成し、該樹脂層をメトキシメチル化ナイロンにより形成し、下引き層を無機顔料、およびアルキッド樹脂とメラミン樹脂を組成分とする熱硬化性樹脂により形成する。この電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、クリーニング手段を一体に支持したプロセスカートリッジとし、これを搭載した画像形成装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体に関し、さらに詳しくはアルミニウム支持体中に含まれる鉄と銅によって生じる粒界腐食に起因する画像欠陥の発生を防止した電子写真感光体とそれを用いた画像形成装置およびプロセスカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体は、複写機、プリンター、ファクシミリなど各種機器に利用されているが、近年の電子写真複写機における例に見られるように、高速化、高耐久化の進展と共に長期繰り返し使用に際して高画質を維持することのできる信頼性の高い電子写真感光体が要求されている。
一般に、電子写真感光体は繰り返し使用された場合、帯電性の低下、画像特性の劣化、感光層と支持体との接着低下など、様々な不具合を生じるという技術的課題を抱えており、このような問題に対処するために各種の対策方法が提案されている。
【0003】
例えば、導電性支持体と光導電層の間に樹脂を主成分とする第一の中間層と無機顔料と結着樹脂を主成分とする第二の中間層を設けることにより、繰り返し使用時における電子写真感光体の電位を安定にさせる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
この提案によれば、低湿度や高湿度における帯電性能の低下が抑制されるが、導電性支持体の粒界腐食に起因する画像欠陥の発生防止に対する有効性については記載はない。
【0004】
あるいは、導電性基体の表面粗さRmax と下引き層の厚さLの関係が、Rmax /L≦4を満足するように構成し、下引き層を共重合ポリアミド主体の組成、すなわち、共重合ポリアミド/メトキシメチル化ナイロン=2/8〜4/6の範囲とすることにより、電子写真用感光体の画像欠陥を防止し、電位の安定性を改善する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
この提案によれば、電子写真用感光体の初期における画像欠陥、電位の安定性、環境安定性は改善されるが、繰り返し使用時における導電性基体の粒界腐食に起因する画像欠陥の発生防止に対する有効性については記載はなく、またこの構成では導電性基体の粒界腐食に起因する画像欠陥への対応は難しい。
【0005】
また、非導電性酸化チタン粒子とポリアミド系樹脂を塩素系溶媒からなる混合溶媒に分散した溶液を用いて導電性支持体上に塗布し、酸化チタン粒子の含有量を80〜99重量%に、膜厚を0.5〜4.8μmに制御して下引き層を形成し、さらに記録層を設けて電子写真感光体とすることにより、繰り返し安定性と、良好な画像特性を維持する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
この提案によれば、帯電性の低下および繰り返し使用時の残留電位の上昇に伴う画像欠陥を抑制する効果が期待される。しかし、酸化チタン粒子はアルコール系溶媒中で分散安定性が低く、特に含有量が80〜99重量%では酸化チタン粒子の凝集が発生しやすいため、この溶液を用いて形成された下引き層を長期間使用した場合、塗膜欠陥が発生して良好な画像特性を得ることが難しくなるという問題がある。さらに、下引き層に用いるポリアミド系樹脂の溶解にアルコールと塩素系溶媒を使用しており、対環境対策上問題である。
【0006】
また、導電性基体の上に、無機顔料とアルキド樹脂およびメラミン樹脂の硬化層を設け、さらにその上にポリアミド系樹脂層を設け、そしてさらにその上に光導電層を設けた電子写真用感光体とすることにより、感光体の特性低下を起こすことなく、長期的に安定した画像形成を行うことを可能とする方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
この提案によれば、無機顔料を樹脂中に分散させた中間層を有する感光体の特性低下を防止する一定の効果が期待できるが、ポリアミド系樹脂として共重合ナイロン(例えば、CM8000:登録商標)を使用している。このため、環境依存性が大きく、特に低温低湿下での繰り返し使用において残留電位上昇が大きくなってしまうという難点がある。また、無機顔料とアルキド樹脂およびメラミン樹脂の硬化層の上にポリアミド系樹脂を設けているため、電子写真用感光体の露光時に電子が導電性基体側へ注入され難く、繰り返し使用時における露光後電位が上昇しやすい欠点がある。
【0007】
あるいは、導電性支持体上に、少なくとも無機顔料と架橋したメトキシメチル化ナイロンを主成分とする結着剤樹脂を含有する下引き層と感光層を積層し、かつ感光体の最表層の摩耗率(最表層の摩耗量/感光体の走行距離)が1.50×10-11以下となるように電子写真感光体を構成することにより、耐摩耗性の向上と、耐久性の向上、すなわち長期間繰り返し使用しても画像濃度低下、地汚れ等の異常画像発生などのない画像形成を可能とする方法が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
この提案によれば、耐摩耗性と耐久性の向上を図ることができるが、導電性支持体上の下引き層中にメトキシメチル化ナイロンを架橋させるために添加する酒石酸等の酸が残存してしまうため、感光体の長期保管時において感度変動等の不具合を発生させてしまうという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開昭63−289554号公報
【特許文献2】特開平5−323645号公報
【特許文献3】特許第2885609号明細書
【特許文献4】特開平9−288367号公報
【特許文献5】特開2002−131936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、鉄と銅を合計して0.3wt%以上含有するアルミニウム支持体を導電性基体として備えた感光体において、繰り返し使用してもアルミニウム支持体の粒界腐食、あるいは支持体上の構成層の塗膜欠陥に起因する黒ポチや白ポチ等の画像欠陥の発生がなく、また帯電性能の低下が抑制され、微小な粒状地汚れの発生もなく、長期間保管時における感光体露光後電位が安定化した信頼性の高い電子写真感光体を提供するとともに、当該電子写真感光体を用いた小型で、かつ中間調やライン画像の再現性あるいはベタ部濃度を満足する画像形成装置、および画像形成装置本体に着脱できるプロセスカートリッジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、電子写真感光体を構成する、鉄と銅を0.3wt%以上含有するアルミニウム製の導電性支持体(以下、アルミニウム支持体と略す。)と感光層との間に、メトキシメチル化ナイロンからなる樹脂層と、無機顔料と熱硬化性樹脂からなる下引き層を支持体側からこの順に設けることによって、上記課題が解決されることを見出し本発明に至った。以下、本発明について具体的に説明する。
【0011】
すなわち、本発明は、鉄と銅を合計して0.3wt%以上含有するアルミニウム支持体上に少なくとも感光層を有する電子写真感光体であって、
前記アルミニウム支持体と感光層との間にメトキシメチル化ナイロンからなる樹脂層、および無機顔料と熱硬化性樹脂からなる下引き層を支持体側から順次設けたことを特徴とする電子写真感光体である。
ここで、前記鉄と銅の合計含有量が0.3〜10wt%であることが好ましい。
【0012】
また、上記いずれかに記載の電子写真感光体において、前記アルミニウム支持体の表面粗さ(Rz)が0.2〜1.5μmであり、メトキシメチル化ナイロンからなる樹脂層の膜厚(d)との比(Rz/d)が0.3〜2であることが好ましい。
【0013】
さらに、上記いずれかに記載の電子写真感光体において、前記下引き層中の熱硬化性樹脂がアルキッド樹脂とメラミン樹脂からなり、かつ無機顔料(P)と熱硬化性樹脂(R)の比(P/R)が重量比率で4/1〜9/1であることが好ましい。
【0014】
また、上記いずれかに記載の電子写真感光体において、前記下引き層が、無機顔料と熱硬化性樹脂をケトン系溶媒中に分散した塗工液により塗布・形成された硬化層からなり、該下引き層中の残留溶媒が10〜1000ppmであることが好ましい。
【0015】
そして、本発明は、電子写真感光体の周りに帯電手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段が配設され、かつ該各手段のうち少なくとも1つ以上の手段が該電子写真感光体に当接している画像形成装置であって、
前記電子写真感光体は、上記いずれかに記載の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置に係るものである。
【0016】
さらに、本発明は、電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、クリーニング手段が一体に支持され、画像形成装置本体に着脱自在とされたプロセスカートリッジにおいて、
前記電子写真感光体は、上記いずれかに記載の電子写真感光体であることを特徴とするプロセスカートリッジに係るものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明におけるメトキシメチル化ナイロンからなる樹脂層、および無機顔料と熱硬化性樹脂からなる下引き層をこの順に、鉄と銅を合計して0.3wt%以上含有するアルミニウム支持体(支持体と略す)上に設けた構成とすることで、支持体中の鉄、銅に起因する黒ポチ、白ポチ等の画像欠陥の発生が防止される。ここで、鉄と銅の合計含有量が0.3〜10wt%であれば機械強度と機械加工性が得られ薄膜軽量化が可能になる。
また、支持体の表面粗さ(Rz)、およびRzと樹脂層の膜厚(d)の比(Rz/d)を制御することで、支持体と樹脂層との接着性を向上し、繰り返し使用時の塗膜欠陥に起因する画像欠陥(黒ポチ、白ポチ等)の発生が防止される。
さらに、下引き層にアルキッド樹脂とメラミン樹脂を熱硬化性樹脂組成分として用い、無機顔料(P)と熱硬化性樹脂(R)の重量比率(P/R)を4/1〜9/1に制御することで、繰り返し使用時における帯電低下が防止される。そして、無機顔料と熱硬化性樹脂をケトン系溶媒中に分散した塗工液により下引き層を形成し、その残留溶媒を10〜1000ppmとすることで、繰り返し使用時における微小な粒状地汚れの発生が防止される。さらに、長期間保管時の感光体露光後電位が安定化する。
本電子写真感光体の周りに、帯電手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段を少なくとも1つ以上当接するように配設した装置構成とすることで、小型化や、画質要求(中間調、ライン画像の再現性、ベタ部濃度など)を満たす画像形成装置が提供される。また、本電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、クリーニング手段を一体に支持したプロセスカートリッジとすることで、ユニットの小型化、操作性、作業性(取り付け、取り外し)などが簡便化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
前述のように本発明の電子写真感光体は、鉄と銅を合計して0.3wt%以上含有するアルミニウム支持体と感光層との間にメトキシメチル化ナイロンからなる樹脂層、および無機顔料と熱硬化性樹脂からなる下引き層を支持体側から順次設けた構成からなることを特徴とする。
以下、本発明の好適な実施の形態について図を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明における電子写真感光体の構成例を示す概略断面図である。
図1に示すように本発明の電子写真感光体は、導電性基体であるアルミニウム支持体1上に樹脂層2、下引き層3、電荷発生層4、電荷輸送層5を順次積層した構成からなる。図1の例では、電荷発生層4と電荷輸送層5により感光層6が構成されている。また、図1の層構成において、さらに必要に応じて電荷輸送層上に保護層を設けることもできる。
【0020】
アルミニウム支持体1としては、鉄と銅を含有量するアルミニウムが用いられ、とくに鉄と銅の含有量が合計して0.3wt%以上であるもの、例えば、JIS 3003、JIS 5052等の材質からなるアルミニウムが用いられる。
鉄と銅を0.3wt%以上含有するこれらのアルミニウムは、JIS 1070等の不純物の含有量が少ないものに比べて同一熱処理条件において機械的強度が優れているため、支持体の薄膜軽量化が可能であるという利点を有している。しかし、アルミニウム中に鉄や銅などの金属不純物が存在すると粒界腐食を起しやすいという難点がある。そして、粒界腐食部ではアルミニウム支持体から感光層側へ電荷の注入が起りやすくなり、感光体の繰り返し使用によって、黒ポチ、微小な粒状地汚れ等が発生するという問題がある。
上述のように、アルミニウム中の鉄と銅の含有量が合計して0.3wt%以上であれば薄膜軽量化に必要な機械強度が得られ、特には鉄と銅の合計含有量が0.3〜10wt%であることが好ましい。10wt%を越えると、押し出し、インパクト加工、表面切削等の機械加工性に影響が出て薄膜軽量化が難しくなる。なお、アルミニウム支持体の表面粗さ(Rz)は、加工性、支持体の反射によるモアレ等を考慮すると0.2〜1.5μmが好ましい。
【0021】
本発明においては、図1のような構成とすることによって黒ポチ、白ポチ、微小な粒状地汚れ等の画像欠陥の発生を防止することが可能になる。
すなわち、図1に示す樹脂層2に用いるメトキシメチル化ナイロンは、アルミニウム支持体から感光層側へ電荷の注入を防ぐと共に、感光体の帯電電位を安定化させるために設けられている。
用いられるメトキシメチル化ナイロンとしては限定するものではないが、例えば、6−ナイロンをホルムアルデヒドおよびメタノールと反応させてメトキシメチル化させることにより得られるものであり、反応触媒としてリン酸、リン酸ナトリウム等が用いられ、さらに中和処理にアンモニア等が用いられる。反応後、水洗、乾燥を行ったものを使用するが、樹脂中には、塩素イオン、硝酸イオン、アンモニウムイオン等が残留しており、その量は陰イオンで100〜300ppm、陽イオンで約100ppmである。この残留イオンがメトキシメチル化ナイロンの環境依存性を少なくしている。メトキシメチル化度は、10〜40%、重合度は100〜500が好ましい。
【0022】
樹脂層2の膜厚は、0.5〜1.5μmが好ましい。ここで、アルミニウム支持体の表面粗さ(Rz)、および(Rz)とメトキシメチル化ナイロンからなる樹脂層の膜厚(d)の比(Rz/d)が0.3〜2であることが好ましく、このように制御することによってアルミニウム支持体と樹脂層との接着性を向上させ、また樹脂層を支持体の表面に均一に塗布することができ、繰り返し使用時における塗膜欠陥に起因する黒ポチ、白ポチ等の画像欠陥の発生を防止することができる。
【0023】
樹脂層2に用いるメトキシメチル化ナイロンは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒に溶解して塗布される。さらに、溶媒中に水を0.5〜30wt%添加することにより、樹脂層を形成するための塗布液を安定化させることができる。
【0024】
下引き層3は、アルミニウム支持体側からの電荷注入防止、接着性の向上、モアレなどの防止、上層(図1では電荷発生層4)の塗工性改良、残留電位の低減などの目的から設けられる。
下引き層3は、熱硬化性樹脂と、酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で例示できる金属酸化物、あるいは金属硫化物、金属窒化物などの無機顔料からなる微粉末を単独もしくは二種類以上を適宜選択し、ボールミル、サンドミル、アトライター等により分散調製した塗工液を用いて形成することができる。
【0025】
無機顔料としては、特に高純度の酸化チタンが好ましい。無機顔料を分散する溶媒としては、樹脂の溶解性、無機顔料の分散性から、ケトン系溶媒、特にシクロヘキサノン、シクロヘキサノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましい。これらの溶媒を用いることにより無機顔料を一次粒径迄分散して凝集物の無い均一な塗工液を製造することが可能となる。
【0026】
下引き層3に用いられる樹脂としては、下引き層上に設けられる感光層6が溶剤を用いて塗布形成されることを考慮すると、一般の有機溶剤に対して耐溶解性の高い樹脂、例えば、活性水素(−OH基、−NH2基、−NH基等の水素)を複数個含有する化合物とイソシアネート基を複数個含有する化合物および/またはエポキシ基を複数個含有する化合物とを熱重合させた熱硬化性樹脂が例示される。
ここで、活性水素を複数個含有する化合物としては、例えば、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ヒドロキシエチルメタアクリレート基等の活性水素を含有するアクリル系樹脂等が挙げられる。イソシアネート基を複数個含有する化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等とこれらのプレポリマー等が挙げられ、エポキシ基を複数有する化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられる。特に、アルキッド樹脂とアミノ樹脂、例えば、アルキッド樹脂(例えば、オイルフリーアルキド樹脂)とメラミン樹脂(例えば、ブチル化メラミン樹脂)等を熱重合させた熱硬化性樹脂が好ましい。
【0027】
アルミニウム支持体に設けられた樹脂層上への下引き層3の形成は、塗工液を用いてロールコート法、浸漬塗工法、スプレーコート法、ノズルコート法、ブレード塗工法等により行うことができる。塗工液を塗布した後、形成された塗布膜は乾燥あるいは加熱により硬化される。下引き層3の膜厚さは、0.1〜20μm、好ましくは0.2〜10μmとするのが適当である。
【0028】
下引き層3に用いる無機顔料(P)と熱硬化性樹脂(R)の比(P/R)を4/1〜9/1(重量比率)に制御することにより、繰り返し使用時における帯電低下を防止することが可能になる。特に、熱硬化性樹脂としてアルキッド樹脂とメラミン樹脂を組成分に用いることが好ましい。ここで、P/Rが4/1未満では繰り返し使用時の帯電低下を防止する効果が少ない。一方、P/Rが1〜9/1を越えると繰り返し使用時における微小な粒状地汚れ発生防止に対する効果が少ない。
【0029】
また、下引き層を無機顔料と熱硬化性樹脂をケトン系溶媒中に分散した塗工液により塗布形成し、その塗布膜の乾燥条件を適宜調節し、下引き層中の残留溶媒を10〜1000ppmとすることにより、塗膜欠陥、繰り返し使用時における微小な粒状地汚れの発生を防止することができ、さらに長期間保管時の感光体露光後電位を安定化させることが可能となる。
【0030】
次に、電荷発生層4は、電荷発生物質を主成分とする層であり、必要に応じて結着樹脂(バインダ−樹脂)を用いることができる。電荷発生物質としては、無機系材料あるいは有機系材料を用いることができる。
【0031】
無機系材料としては、結晶セレン、アモルファス・セレン、セレン−テルル、セレン−テルル−ハロゲン、セレン−ヒ素化合物等が挙げられる。
【0032】
一方、有機系材料としては、公知の材料を用いることができる。
例えば、無金属フタロシアニン、金属フタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料、アズレニウム塩顔料、スクエアリック酸メチン顔料、カルバゾ−ル骨格を有するアゾ顔料、トリフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジベンゾチオフェン骨格を有するアゾ顔料、フルオレノン骨格を有するアゾ顔料、オキサジアゾ−ル骨格を有するアゾ顔料、ビススチルベン骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルオキサジアゾ−ル骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルカルバゾ−ル骨格を有するアゾ顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系または多環キノン系顔料、キノンイミン系顔料、ジフェニルメタンおよびトリフェニルメタン系顔料、ベンゾキノンおよびナフトキノン系顔料、シアニンおよびアゾメチン系顔料、インジゴイド系顔料、ビスベンズイミダゾ−ル系顔料などが挙げられる。これらの電荷発生物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。例えば、上記各種アゾ顔料に、その他の各種顔料を1種以上含有してもよい。
【0033】
電荷発生層4に必要に応じて用いられるバインダ−樹脂としては、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリケトン、ポリカ−ボネ−ト、シリコ−ン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラ−ル、ポリビニルホルマ−ル、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリ−N−ビニルカルバゾ−ル、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。これらのバインダ−樹脂は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0034】
必要に応じて上記電荷発生層4に用いられるバインダ−樹脂に電荷輸送物質を添加してもよい。また、電荷発生層のバインダー樹脂として上述のバインダー樹脂の他に、高分子電荷輸送物質が良好に用いられる。
この場合、電荷発生層の電荷発生材料と樹脂との比率を重量比で1/1〜3/1とすることが好ましく、このように調製することによって感光層と下引層との接着性を向上し、露光後電位を安定化させることができる。
【0035】
電荷発生層4を形成する方法として、主に溶液分散系からのキャスティング法を用いることができる。キャスティング法によって電荷発生層を設けるには、上述した無機系もしくは有機系電荷発生物質を必要ならばバインダ−樹脂と共にテトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジクロロエタン、ブタノン等の溶媒を用いてボ−ルミル、アトライタ−、サンドミル等により分散し、調製した分散液を適度に希釈して塗布することにより形成することができる。塗布は、浸漬塗工法やスプレ−コ−ト、ビ−ドコ−トなどにより行なうことができる。
以上のようにして設けられる電荷発生層の膜厚は、0.01〜5μm程度が適当であり、好ましくは0.05〜2μmである。
【0036】
次に、電荷輸送層5は、帯電電荷を保持させ、かつ露光により電荷発生層4で発生分離した電荷を移動させて保持していた帯電電荷と結合させることを目的とする層である。さらに、電荷輸送層5は、帯電電荷を保持させる目的達成のために電気抵抗が高いことが要求され、また保持している帯電電荷において高い表面電位を得ることを達成するためには、誘電率が小さくかつ電荷移動性が良いことが要求される。
【0037】
上記要件を満足させるための電荷輸送層5は、電荷輸送物質とバインダー樹脂をテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、ジオキソラン、トルエン、ジメトキシメタンなどの環状エーテル系溶剤に溶解して調製した塗工液を電荷発生層4上に塗布して形成される。環状エーテル系溶剤を用いることにより、感光層と支持体あるいは下引層との接着性を向上させることができる。電荷輸送層中の残留環状エーテル系溶剤量は、20〜5000ppmが好ましい。20ppm未満では、支持体あるいは下引き層との接着性が低下し、5000ppmを越えると感光体露光後電位が上昇するという不具合が発生してしまう。
【0038】
塗工液には、必要により電荷輸送物質およびバインダー樹脂以外に、可塑剤、酸化防止剤、レベリング剤等を適量添加することもできる。なお、ジクロロメタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、トリクロロエタン、トリクロロメタンなどの塩素系溶媒は対環境性の面から敬遠されている。
【0039】
電荷輸送層に用いられる電荷輸送物質としては、正孔輸送物質と電子輸送物質とがある。
電子輸送物質としては、例えば、クロルアニル、ブロムアニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロキサントン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、2,6,8−トリニトロ−4H−インデノ〔1,2−b〕チオフェン−4オン、1,3,7−トリニトロジベンゾチオフェン−5,5−ジオキサイドなどの電子受容性物質が挙げられる。これらの電子輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。また、ハイドロキノン系以外のモノフェノール系化合物、高分子フェノール系化合物、パラフェニレンジアミン類、有機硫黄化合物類、有機燐化合物類等の酸化防止剤も併用して使用してもよい。
【0040】
上記パラフェニレンジアミン類としては、例えば、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジ−tーブチル−p−フェニレンジアミンなどが挙げられる。有機硫黄化合物類としては、例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジテトラデシル−3,3’−チオジプロピオネートなどが挙げられる。有機燐化合物類としては、例えば,トリフェニルホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリ(ジノニルフェニル)ホスフィン、トリクレジルホスフィン、トリ(2,4−ジブチルフェノキシ)ホスフィンなどが挙げられる。
【0041】
正孔輸送物質としては、以下に示すような電子供与性物質が挙げられ、良好に用いられる。例えば、オキサゾ−ル誘導体、オキサジアゾ−ル誘導体、イミダゾ−ル誘導体、トリフェニルアミン誘導体、9−(p−ジエチルアミノスチリルアントラセン)、1,1−ビス−(4−ジベンジルアミノフェニル)プロパン、スチリルアントラセン、スチリルピラゾリン、フェニルヒドラゾン類、α−フェニルスチルベン誘導体、チアゾ−ル誘導体、トリアゾ−ル誘導体、フェナジン誘導体、アクリジン誘導体、ベンゾフラン誘導体、ベンズイミダゾ−ル誘導体、チオフェン誘導体などが挙げられる。これらの正孔輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。電荷輸送層の膜厚は、5〜100μm程度が適当である。
【0042】
電荷輸送層に併用できるバインダ−樹脂として、ポリカ−ボネ−ト(ビスフェノ−ルAタイプ、ビスフェノ−ルZタイプ)、ポリエステル、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリスチレン、フェノ−ル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、アルキッド樹脂、シリコン樹脂、ポリビニルカルバゾ−ル、ポリビニルブチラ−ル、ポリビニルホルマ−ル、ポリアクリレ−ト、ポリアクリルアミド、フェノキシ樹脂などが用いられる。これらのバインダ−は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。電荷輸送層の膜厚は、5〜100μm程度が適当である。
【0043】
また、必要により用いられる可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ビスベンジルベンゼン誘導体など一般に可塑剤として使用されているものがそのまま使用でき、その使用量はバインダ−樹脂100重量部に対して0〜30重量部程度が適当である。
【0044】
さらに、酸化防止剤としては以下に例示するものが使用される。
〔モノフェノール系化合物〕:2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3-t-ブチル-4-ヒドロキシニソールなど。
〔ビスフェノール系化合物〕:2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)など。
〔高分子フェノール系化合物〕:1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’−ビス(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、トコフェノール類など。
〔パラフェニレンジアミン類〕:N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジ−tーブチル−p−フェニレンジアミンなど。
〔ハイドロキノン類〕:2,5−ジ−t−オクチルハイドロキノン、2,6−ジドデシルハイドロキノン、2−ドデシルハイドロキノン、2−ドデシル−5−クロロハイドロキノン、2−t−オクチル−5−メチルハイドロキノン、2−(2−オクタデセニル)−5−メチルハイドロキノンなど。
〔有機硫黄化合物類〕:ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジテトラデシル−3,3’−チオジプロピオネートなど。
〔有機燐化合物類〕:トリフェニルホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリ(ジノニルフェニル)ホスフィン、トリクレジルホスフィン、トリ(2,4−ジブチルフェノキシ)ホスフィンなど。
【0045】
電荷輸送層中にレベリング剤を添加してもかまわない。レベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や、測鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマー、あるいはオリゴマーが使用され、その使用量は、バインダー樹脂100重量部に対して、0〜1重量部が適当である。
【0046】
また、電荷輸送層上に保護層を設けてもよい。保護層は、結着樹脂中に金属、または金属酸化物の微粒子を分散して形成された層からなるものである。
保護層の結着樹脂としては、可視、赤外光に対して透明で電気絶縁性、機械的強度、接着性に優れたもの望ましい。結着樹脂としては、例えば、ABS樹脂、ACS樹脂、オレフィン−ビニルモノマー共重合体、塩素化ポリエーテル、アリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリアリルスルホン、ポリブチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリメチルベンテン、ポリプロピレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリスチレン、AS樹脂、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。
一方、金属酸化物としては酸化チタン、酸化錫、チタン酸カリウム、TiO、TiN、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アンチモン等が挙げられる。
【0047】
保護層には、その他、耐摩耗性を向上する目的でポリテトラフルオロエチレンのような弗素樹脂、シリコーン樹脂、およびこれらの樹脂に無機材料を分散したものなどを添加することができる。保護層の形成法としては通常の塗布法が採用される。なお、保護層の厚さは0.1〜10μm程度が適当である。
【0048】
次に、本発明における画像形成装置について図を参照して説明する。図2は、本発明における電子写真装置の一例を模式的に示す概略構成図である。
図2において、符号11は本発明の電子写真感光体(感光体ドラム)であり、感光体ドラムの周りに、帯電手段(接触帯電装置)12、現像手段14、転写手段(接触転写手段)16、クリーニング手段17を配設した装置構成となっている。
この装置構成の場合、まず接触帯電装置12により、感光体ドラム11が帯電する。感光体ドラムが帯電された後、レーザー光によるイメージ露光13を受け、露光された部分で電荷が発生し、感光体ドラム表面に静電潜像が形成される。感光体ドラム11表面に静電潜像を形成した後、現像手段14を介して現像剤と接触し、トナー像を形成する。感光体ドラム11表面に形成されたトナー像は、接触転写手段16により紙などの転写部材15へ転写され、定着手段19を通過してハードコピーとなる。感光体ドラム11上の残留トナーはクリーニングブレードからなるクリーニング手段17により除去され、残留電荷は除電手段18で除かれて、次の電子写真サイクルに移る。
接触転写手段16は、半導電性発泡ポリウレタン等の材質で構成され、トナー像を効率良く転写部材15に転写できるように工夫されている。接触転写手段16の長手方向両端には感光体ドラム11との接触圧を一定にするため樹脂製のコロ(図示せず)が設けられている。なお、このコロは、感光体ドラム11の長手方向両端部で感光層と接触する場合がある。特に、電荷輸送層端部がコロと接触する場合、下引き層と電荷輸送層の間に設けられた電荷発生層の樹脂種、または電荷発生層が樹脂を含まない場合、電荷輸送層端部が感光体ドラム11の繰り返し使用によって剥離してしまう。
上記構成により、小型で、しかも中間調、ライン画像の再現性、ベタ部濃度などの要求を満足する画像形成装置を提供することが可能となる。
【0049】
また、本発明の画像形成装置は、帯電手段、現像手段、クリーニング手段等が、一体構成となっているプロセスカートリッジを構成している。すなわち、本発明の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、クリーニング手段を一体に支持し、画像形成装置本体に着脱自在とした構成とすることにより、ユニットの小型化、取り付け、取り外しなどを簡便とすることが可能となる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、「部」は重量部を示す。
【0051】
(実施例1)
φ30mm、長さ340mm、厚さ0.75mm、表面粗さ(Rz)1.1μmのJIS 3003系のアルミニウム製(Fe:0.7wt%、Cu:0.2wt%含有)支持体、すなわちアルミドラム上に、以下の手順で、樹脂層、下引き層、電荷発生層、電荷輸送層を順次形成して実施例1の電子写真感光体を作製した。
【0052】
[樹脂層の形成]
まず、アルミドラム上に、下記組成により調製した樹脂溶液を用いて浸漬塗布し、130゜Cで10分間乾燥して、膜厚0.5μmの樹脂層を形成した。
<樹脂溶液の組成>
メトキシメチル化ナイロン(FR−101:(株)鉛市製) 10.9部
メタノール 104.4部
ブタノール 28.9部
イオン交換水 14.9部
【0053】
なお、メトキシメチル化ナイロン(FR−101)中のイオン量は、イオンクロマトグラフによる分析の結果、塩素イオン、硝酸イオン、アンモニウムイオンが、それぞれ150ppm、50ppm、90ppmであった。
【0054】
[下引き層の形成]
続いて、下記組成からなる混合物をボールミルポットに採り、φ10mmのアルミナボールを使用して120時間ボールミリングし、下引き層用のミリング液を調製した。
<下引き層用ミリング液の組成>
酸化チタン(CR−60:石原産業製) 60部
アルキッド樹脂(ベッコライトM6401−50:
大日本インキ化学工業製;固形分50wt%) 18.5部
メラミン樹脂(スーパーベッカミンL−121−60:
大日本インキ化学工業製;固形分60wt%) 10.3部
メチルエチルケトン(関東化学製) 21部
シクロヘキサノン(関東化学製) 9部
【0055】
調製したミリング液をアルミドラムに形成した樹脂層上に浸漬塗布し、130゜Cで20分間乾燥して、膜厚3.5μmの下引き層を形成した。
ミリング液中の酸化チタンの平均粒径は遠心式粒度分布測定機(CAPA700:堀場製作所製)により測定したところ0.39μmであった。
【0056】
[電荷発生層の形成]
次に、下記化学式(I)で表される電荷発生物質2部、固形分濃度2wt%のポリビニルブチーラール樹脂(BX−1:積水化学製)/ メチルエチルケトン溶液60部からなる混合物をボールミルポットに採り、φ2mmのYTZボールを使用して24時間ボールミリングを施し、電荷発生層用塗布液を調製した。
この塗布液を上記形成した下引き層上に浸漬塗布し、95℃で20分間乾燥し、厚さ0.1μmの電荷発生層を形成した。
【0057】
【化1】

【0058】
[電荷輸送層の形成]
次いで、下記組成により電荷輸送層用塗工液を調製し、この塗工液を用いて上記形成した電荷発生層上に浸漬塗布し、135℃で25分間乾燥し、厚さ31μmの電荷輸送層を形成した。
<電荷輸送層用塗工液の組成>
電荷輸送物質(下記化学式(II):リコー製) 7部
ポリカーボネート樹脂(TS−2050:帝人化成製) 10部
シリコーンオイル(KF−50:信越化学製) 0.002部
テトラヒドロフラン(関東化学製) 77.4部
【0059】
【化2】

【0060】
(実施例2)
実施例1においてアルミドラムの表面粗さ(Rz)を1.1μmから0.75μmに変え、また樹脂層の膜厚を0.5μmから0.8μmに変えた以外は実施例1と全く同様にして実施例2の電子写真感光体を作製した。
【0061】
(実施例3)
実施例1においてアルミドラムの表面粗さ(Rz)を1.1μmから1μmに変え、また樹脂層の膜厚を0.5μmから1μmに変えて樹脂層を形成した。
続いて、下記組成からなる混合物をボールミルポットに採り、φ10mmのアルミナボールを使用して96時間ボールミリングして下引き層用のミリング液を調製した。
<下引き層用ミリング液の組成>
酸化チタン(CR−60:石原産業製) 60部
アルキッド樹脂(ベッコライトM6401−50:
大日本インキ化学工業製;固形分50wt%) 12部
メラミン樹脂(スーパーベッカミンG821−60:
大日本インキ化学工業製;固形分60wt%) 6.7部
メチルエチルケトン(関東化学製) 21部
シクロヘキサノン(関東化学製) 9部
【0062】
調製したミリング液を樹脂層上に浸漬塗布し、130゜Cで25分間乾燥して、膜厚3.5μmの下引き層を形成したこと以外は実施例1と全く同様にして電荷発生層、電荷輸送層を形成し、実施例3の電子写真感光体を作製した。
【0063】
(実施例4)
実施例3においてアルミドラムの表面粗さ(Rz)を1μmから0.6μmに変え、また樹脂層の膜厚を1μmから0.75μmに変えた以外は実施例3と全く同様にして実施例4の電子写真感光体を作製した。
【0064】
(実施例5)
実施例3においてアルミドラムの表面粗さ(Rz)を1μmから0.1μmに変えた以外は実施例3と全く同様にして実施例5の電子写真感光体を作製した。
【0065】
(実施例6)
実施例1において下引き層用ミリング液の組成を下記組成に変えて96時間ボールミリングした。
<下引き層用ミリング液の組成>
酸化チタン(CR−60:石原産業製) 60部
アルキッド樹脂(ベッコライトM6401−50:
大日本インキ化学工業製;固形分50wt%) 7.2部
メラミン樹脂(スーパーベッカミンL−121−60:
大日本インキ化学工業製;固形分60wt%) 4部
メチルエチルケトン(関東化学製) 21部
シクロヘキサノン(関東化学製) 9部
【0066】
調製したミリング液を樹脂層上に浸漬塗布し、130゜Cで25分間乾燥して、膜厚3.5μmの下引き層を形成した以外は実施例1と全く同様にして電荷発生層、電荷輸送層を形成し、実施例6の電子写真感光体を作製した。
【0067】
(比較例1)
実施例1において樹脂層を設けなかった以外は実施例1と全く同様にして比較例1の電子写真感光体を作製した。
【0068】
(比較例2)
実施例1において下引き層を設けなかった以外は実施例1と全く同様にして比較例2の電子写真感光体を作製した。
【0069】
(比較例3)
実施例3においてJIS 3003系のアルミドラムからJIS 1080系(Fe:0.15wt%、Cu:0.03wt%含有)のアルミドラムに変え、樹脂層を設けず、下引き層を浸漬塗布し、130℃で20分間乾燥した以外は実施例3と全く同様にして比較例3の電子写真感光体を作製した。
【0070】
(比較例4)
実施例1において下引き層の乾燥条件を120゜Cで10分に変更した以外は実施例1と全く同様にして比較例1の電子写真感光体を作製した。
【0071】
上記実施例1〜6および比較例1〜4で作製した各電子写真感光体について、反転現像方式のデジタル複写機(リコー社製イマジオ250)の現像ローラをはずして電位計のプローブを取り付けたユニットを用い、初期の帯電電位、露光後電位を測定すると共に、画像品質、すなわち粒状地汚れ、細線の再現性を評価した。
また、実施例1〜6および比較例1〜3の電子写真感光体については、50゜Cの環境下で6ヶ月間保存した後、上記反転現像方式のデジタル複写機に取り付け、帯電電位および露光後電位を測定した。さらに、常温常湿の環境で4万枚、30゜C、85%、および10゜C、15%の環境で各0.5万枚、合計5万枚のコピーを行ない、5万枚コピー後の帯電電位および露光後電位を測定し、併せて画像品質(粒状地汚れ、細線の再現性)を評価した。これらの結果を下記表1に示す。比較例4に関しては、初期特性のみについて測定した。
なお、黒ポチの評価は、カラーイメージプロセッサーSPICCA(日本アビオニクス社製)を用いて黒ポチの大きさと個数を測定し、φ0.05mm以上の黒ポチの個数(1cm2当たり)により判定した。黒ポチ評価の判定基準を下記表2に示す。表2の判定において、◎、○、△の場合には実用上特に問題のないことを示し、×の場合には実用に適さないことを示す。また、細線の再現性は、1ドットライン画像から評価した。
一方、実施例1〜6および比較例1〜4における下引き層用ミリング液を用い、各実施例と比較例における前記処理条件と同じにしてそれぞれアルミドラムに塗布した下引き層のみのサンプルを作成し、熱分解−ガスクロマトグラフ(GC−15A:島津製作所製)により下引き層中の残留溶媒量を測定した。検出されたメチルエチルケトン、シクロヘキサノンの合計を残留溶媒量とした。結果を同様に下記表1に併記する。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表1の結果から分るように、本発明の構成とされた電子写真感光体は5万枚コピー後においても帯電電位、および露光後電位の変動が少なく、また粒状地汚れや細線再現性も良好な結果を示しており、鉄や銅などの金属不純物を含有するアルミニウム支持体(アルミドラム)を用いた場合でも繰り返し使用時において黒ポチ等の画像欠陥の発生を防止することができる。一方、本発明の構成としない比較例1〜3の場合には5万枚コピー後の粒状地汚れがひどく、繰り返し使用に耐えられない。比較例4の場合には残留溶媒が他に比べて多く、初期においても細線再現性に不具合が認められた。このことから、下引き層中の残留溶媒が10〜1000ppmの場合に、繰り返し使用時における微小な粒状地汚れの発生が防止され、また長期間保管時の感光体露光後電位が安定化することが分る。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明における電子写真感光体の構成例を示す概略断面図である。
【図2】本発明における電子写真装置の一例を模式的に示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0076】
1 アルミニウム支持体
2 樹脂層
3 下引き層
4 電荷発生層
5 電荷輸送層
6 感光層
11 感光体ドラム
12 帯電手段(接触帯電装置)
13 イメージ露光
14 現像手段
15 転写部材
16 転写手段(接触転写手段)
17 クリーニング手段
18 除電手段
19 定着手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄と銅を合計して0.3wt%以上含有するアルミニウム支持体上に少なくとも感光層を有する電子写真感光体であって、
前記アルミニウム支持体と感光層との間にメトキシメチル化ナイロンからなる樹脂層、および無機顔料と熱硬化性樹脂からなる下引き層を支持体側から順次設けたことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記鉄と銅の合計含有量が0.3〜10wt%であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記アルミニウム支持体の表面粗さ(Rz)が0.2〜1.5μmであり、メトキシメチル化ナイロンからなる樹脂層の膜厚(d)との比(Rz/d)が0.3〜2であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記下引き層中の熱硬化性樹脂がアルキッド樹脂とメラミン樹脂からなり、かつ無機顔料(P)と熱硬化性樹脂(R)の比(P/R)が重量比率で4/1〜9/1であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記下引き層が、無機顔料と熱硬化性樹脂をケトン系溶媒中に分散した塗工液により塗布・形成された硬化層からなり、該下引き層中の残留溶媒が10〜1000ppmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電子写真感光体。
【請求項6】
電子写真感光体の周りに帯電手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段が配設され、かつ該各手段のうち少なくとも1つ以上の手段が該電子写真感光体に当接している画像形成装置であって、
前記電子写真感光体は、請求項1〜5のいずれかに記載の電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、クリーニング手段が一体に支持され、画像形成装置本体に着脱自在とされたプロセスカートリッジにおいて、
前記電子写真感光体は、請求項1〜5のいずれかに記載の電子写真感光体であることを特徴とするプロセスカートリッジ。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−195113(P2006−195113A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5949(P2005−5949)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】