説明

電子写真感光体及び画像形成装置

【課題】クラックの発生及びそれにともなう黒点の発生を有効に抑制できるとともに、長期に渡り露光メモリ画像の発生を効果的に抑制できる電子写真感光体及びそれを備えた画像形成装置を提供する。
【解決手段】基体上に、少なくとも、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、結着樹脂と、を含有する感光層を備える電子写真感光体及びそれを備えた画像形成装置であって、正孔輸送剤のオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度を5〜35重量%の範囲内の値とするとともに、電子写真感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して20時間浸漬した場合における感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量を、単位面積当たり0.05〜2g/m2の範囲内の値とし、かつ、添加剤として、下記一般式(1)等で表される化合物を含有する。


(一般式(1)中、R1〜R10はそれぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜12のアルキル基等を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体及びそれを備えた画像形成装置に関する。特に、耐汚染性に優れ、クラックの発生及びそれにともなう黒点の発生を抑制できるとともに、長期に渡って露光メモリの発生を抑制することができる電子写真感光体及びそれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像形成装置に用いられる電子写真感光体としては、光照射により電荷を発生するための電荷発生剤と、この発生した電荷を輸送するための電荷輸送剤と、これらの物質を分散させて層形成するための結着樹脂と、を含む有機感光体が広く用いられている。
このような有機感光体に用いられる画像形成装置には、感光体表面を帯電させるための帯電手段と、この帯電した表面に対して光照射し潜像形成するための露光手段と、この潜像をトナー現像してトナー像を形成するための現像手段と、このトナー像を印刷紙に転写するための転写手段と、を順次配置した画像形成プロセスが採用されている。
この画像形成プロセスにおいて、転写後の感光体表面に残留した残留電荷を消去するために、光照射して除電する除電手段が設けられている。これにより、前周回までに残留した電位をリセットして、いわゆる転写メモリや露光メモリの発生を抑制することができる。
しかしながら、このような方法を用いた場合であっても、感光体内部には空間電荷が発生し、繰り返し使用した場合には、この空間電荷が感光体内に蓄積され、一定の画像特性が得られなくなるという問題が見られた。
【0003】
そこで、このような問題を解決するために、特定の電子輸送剤を用いるとともに、添加剤としてターフェニル化合物を用いることで、反転現像方式を用いた場合であっても転写メモリの発生が少なく、NOxやオゾン等に対する耐ガス性を向上させた正帯電単層型電子写真感光体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、感光層中に、添加剤として、ビフェニル誘導体を含有させることで、正帯電における電気特性の繰り返し安定性を向上させた電子写真感光体が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−242656号(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2000−314969号(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような電子写真感光体を用いることで、転写メモリや繰り返し安定性がある程度改善されるようになったものの、やはり、転写工程後の感光層に、残留電荷が存在する場合が見られた。
また、電子写真感光体を繰り返し使用する過程において、人体起因あるいは感光体の接触部材からの汚染成分が感光体表面に付着した場合には、そこを起点としてクラックが発生し、画像特性を低下させるという問題も見られた。
更に、これらの電子写真感光体は、画像形成システムとして、除電手段を用いて残留電荷を消去する必要があることから、画像形成装置の小型化に対応することが困難であるという問題も見られた。
【0005】
そこで、本発明の発明者らは鋭意検討した結果、感光層に、所定の正孔輸送剤及び特定の構造を有する添加剤を用いるとともに、所定条件下における感光体からの正孔輸送剤の溶出量を規定することにより、耐汚染性に優れるとともに、長期に渡って露光メモリの発生を抑制することができることを見出した。
すなわち、本発明は、クラックの発生及びそれにともなう黒点の発生を有効に抑制できるとともに、長期に渡り露光メモリ画像の発生を効果的に抑制できる電子写真感光体及びそれを備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電子写真感光体によれば、基体上に、少なくとも、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、結着樹脂と、を含有する感光層を備える電子写真感光体であって、正孔輸送剤のオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度を5〜35重量%の範囲内の値とするとともに、電子写真感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して20時間浸漬した場合における感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量を、単位面積当たり0.05〜2g/m2の範囲内の値とし、かつ、添加剤として、下記一般式(1)及び(2)で表される化合物、あるいはいずれか一方の一般式で表される化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0007】
【化1】

【0008】
(一般式(1)中、R1〜R10はそれぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換または非置換の炭素数1〜12のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜30のアリール基、置換または非置換の炭素数6〜30のアラルキル基、置換または非置換の炭素数3〜12のシクロアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、またはアミノ基を示し、Rは、置換または非置換の炭素数1〜12のアルキレン基であり、繰り返し数nは0〜3の整数を示す。)
【0009】
【化2】

【0010】
(一般式(2)中、R11〜R17はそれぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換または非置換の炭素数1〜12のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜30のアリール基、置換または非置換の炭素数6〜30のアラルキル基、置換または非置換の炭素数3〜12のシクロアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、またはアミノ基を示す。)
【0011】
このように構成することにより、添加剤としての一般式(1)または(2)で表される化合物の作用等によって、感光体における汚染成分付着部におけるクラックの発生を抑制できる。また、所定の溶解度を有する正孔輸送剤を用いることによって、露光メモリの発生を効果的に抑制することができる。さらに、特定の構造を有する添加剤の含有量を調節し、所定条件下における感光体からの正孔輸送剤の溶出量を規定することによって、クラックの発生を、より確実に抑制した感光体を得ることができる。
したがって、このような特性を有する感光体であれば、長期に渡り黒点の発生を抑制し、良好な画像特性を維持できるとともに、露光メモリの発生も抑制することができることから、除電レスシステムを採用することが可能となるため、装置の小型化に資することができる。
なお、本発明に用いるオレイン酸トリグリセリドは、人体起因の汚染成分として考えられる皮脂や指脂と挙動が等しいことが別途見出されていることから、このオレイン酸トリグリセリドを耐汚染性の指標として用いることにより、感光体表面の耐汚染性をより定量的に評価することができる。
【0012】
また、本発明の電子写真感光体を構成するにあたり、添加剤の分子量を150〜350の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、添加剤と結着樹脂との相溶性が向上し、感光層中において均一に分散させることができる。
したがって、かかる添加剤が備えるクラック抑制効果を、感光層全体に渡って効果的に発揮することができる。
【0013】
また、本発明の電子写真感光体を構成するにあたり、添加剤の含有量を、感光層の固形分に対して、2〜14重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、クラックの発生を、より効果的に抑制することができるとともに、所定条件下における感光体からの正孔輸送剤の溶出量を調節することが容易となる。
【0014】
また、本発明の電子写真感光体を構成するにあたり、添加剤が、下記式(3)〜(8)で表される化合物、またはその誘導体であることが好ましい。
このように構成することにより、感光層内に生じる応力を有効に緩和させることができる。従って、添加剤による耐摩耗性の低下を防止しながら、耐クラック性を向上させることができる。
【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
【化5】

【0018】
【化6】

【0019】
【化7】

【0020】
【化8】

【0021】
また、本発明の電子写真感光体を構成するにあたり、一般式(2)で表される添加剤が、下記式(9)〜(16)で表される化合物、またはその誘導体であることが好ましい。
このように構成することにより、感光層内に生じる応力をより有効に緩和させることができる。したがって、添加剤による耐摩耗性の低下を防止しながら、耐クラック性を向上させることができる。
【0022】
【化9】

【0023】
【化10】

【0024】
【化11】

【0025】
【化12】

【0026】
【化13】

【0027】
【化14】

【0028】
【化15】

【0029】
【化16】

【0030】
また、本発明の電子写真感光体を構成するにあたり、正孔輸送剤が下記一般式(17)で表される化合物であるとともに、当該化合物のイオン化ポテンシャルが4.5〜5.5eVの範囲内の値であることが好ましい。
【0031】
【化17】

【0032】
(一般式(17)中、A〜DおよびR1〜R14は、それぞれ独立した水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアミノ基、あるいは、R2〜R6のうちいずれか二つまたはR9〜R13のうちいずれか二つは、結合または縮合して形成した炭素環構造であり、繰り返し数a〜dはそれぞれ独立した0〜4の整数である。ただし、R2〜R6のうち少なくとも二つまたはR9〜R13のうち少なくとも二つは、水素原子以外の上述した置換基である。)
【0033】
このように構成することにより、電荷発生剤から発生した電荷の輸送が効率的となる。したがって、感光層における残留電荷の発生を抑制して、より効果的に露光メモリを抑制することができる。
【0034】
また、本発明の電子写真感光体を構成するにあたり、感光層におけるガラス転移点(Tg)を55℃以上の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、感光層の機械的特性を向上させ、感光体表面に対して部材等を圧接させたような場合であっても、部材痕が感光体表面に残ることを防止することができる。さらに、感光層の機械的特性を制御することによって、耐摩耗性と耐クラック性とのバランスをさらに良好なものとすることができる。
【0035】
また、本発明の電子写真感光体を構成するにあたり、基体の直径を10〜28mmの範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、感光体の回転速度が速い場合であっても、有効に露光メモリの発生を抑制しつつ、画像形成装置の小型化を実現できる。
【0036】
また、本発明の電子写真感光体を構成するにあたり、感光層が、単層型であることが好ましい。
このように構成することにより、正負いずれの帯電型においても適用可能となるとともに、簡易な層構成となることから、生産性を向上させることができる。
【0037】
また、本発明の別の態様は、上述したいずれかの電子写真感光体を備える画像形成装置であって、電子写真感光体の周囲に、帯電手段、露光手段、現像手段、及び転写手段をそれぞれ配置するとともに、除電手段を省略した除電レスタイプであることを特徴とする画像形成装置である。
すなわち、所定の正孔輸送剤及び特定の構造を有する添加剤を用いるとともに、所定条件下における感光体からの正孔輸送剤の溶出量を規定した感光体を、除電レスシステムを備えた画像形成装置に対して適用することにより、露光メモリの発生、及び黒点の発生を効果的に抑制した画像形成装置を提供することができる。したがって、画像形成装置の小型化や、部品点数を減らしてコストダウンを図りつつ、優れた画像を形成することができる。
【0038】
また、本発明の画像形成装置を構成するにあたり、現像手段が現像同時クリーニング方式であることが好ましい。
このように構成することにより、画像形成装置を小型化することができる一方で、所定の正孔輸送剤の効果により、露光メモリの発生を抑制できるため、感光体表面に残留した現像剤を十分に回収することができる。
【0039】
また、本発明の画像形成装置を構成するにあたり、電子写真感光体におけるドラム回転速度を100〜200mm/secの範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することによって、画像形成を高速で行うことができ、画像形成効率を高めることができる一方で、繰り返し使用した場合であっても効果的に露光メモリの発生を十分に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
[第1の実施形態]
本発明における第1の実施形態は、基体上に、少なくとも、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、結着樹脂と、を含有する感光層を備える電子写真感光体であって、正孔輸送剤のオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度を5〜35重量%の範囲内の値とするとともに、電子写真感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して20時間浸漬した場合における感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量を、単位面積当たり0.05〜2g/m2の範囲内の値とし、かつ、添加剤として上述した一般式(1)及び(2)で表される化合物、あるいはいずれか一方の一般式で表される化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体である。
以下、第1の実施形態である単層型の電子写真感光体、及び積層型の電子写真感光体について、それぞれ具体的に説明する。
【0041】
1.単層型電子写真感光体
(1)基本的構成
本発明の電子写真感光体を構成するにあたり、感光層が単層型であることが好ましい。
かかる単層型感光層の基本的な構成としては、図1(a)に示すように、基体12上に単一の感光層14を設けて単層型電子写真感光体10を構成したものである。
この感光層14は、電荷発生剤と、電子輸送剤と、正孔輸送剤と、結着樹脂と、添加剤と、を所定の溶媒に溶解又は分散させた塗布液を、基体12上に塗布し、乾燥させることで形成することができる。
このような単層型感光体10は、正負いずれの帯電型にも適用可能であるとともに、層構成が簡単であって、感光層を形成する際の被膜欠陥を抑制できることから、生産性に優れている。また、層間の界面が少ないことから、光学的特性を向上させることができる。
なお、図1(b)に例示するように、この感光層14と、基体12と、の間に、中間層16を形成した単層型感光体10´とすることもできる。
また、この感光層14の厚さは、通常、5〜100μmの範囲内の値であり、好ましくは10〜50μmの範囲内の値である。
【0042】
(2)基体
図1に例示する基体12としては、導電性を有する種々の材料を使用することができる。例えば、鉄、アルミニウム、アルマイト、銅、スズ、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、真鍮等の金属や、上述した金属が蒸着またはラミネートされたプラスチック材料、ヨウ化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で被覆されたガラス等があげられる。
また、基体の形状は、使用する画像形成装置の構造に合わせて、シート状、ドラム状等のいずれであってもよく、基体自体が導電性を有するか、あるいは基体の表面が導電性を有していればよい。また、基体は、使用に際して十分な機械的強度を有するものが好ましい。
【0043】
また、干渉縞の発生防止のためには、エッチング、陽極酸化、ウエットブラスティング法、サンドブラスティング法、粗切削、センタレス切削等の方法を用いて、基体の表面に粗面化処理を行うことが好ましい。
なお、基体に対して陽極酸化等を実施した場合、非導電性や半導体特性となる場合があるが、そのような場合であっても所定の効果が得られる限り、基体として使用することができる。
【0044】
また、基体の直径を10〜28mmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、本発明としての電子写真感光体であれば、基体の直径を10〜28mmの範囲内の値とすることによって、感光体の回転速度が速い場合であっても有効に露光メモリの発生を抑制しつつ、画像形成装置の小型化を実現できるためである。
より具体的には、基体の直径を10〜28mmの範囲内の値とすることによって、基体の直径がより大きい感光体を用いた場合と比べて、同じ枚数の画像を形成するための感光体の回転数は増加することになる。その結果、かかる感光体において残留電荷がより生じやすくなり、露光メモリの発生を抑制しにくくなる。
しかしながら、基体の直径を10〜28mmの範囲内の値とした場合であっても、本発明としての電子写真感光体であれば、所定の正孔輸送剤を使用しているため、かかる露光メモリの発生を、効果的に抑制することができる。
【0045】
また、基体の直径を10〜28mmの範囲内の値とすることによって、感光体層における曲率が大きくなる結果、感光体層にかかるストレスが大きくなり、クラックが発生しやすくなる。
しかしながら、基体の直径を10〜28mmの範囲内の値とした場合であっても、感光体層に対して、上述した一般式(1)または(2)で表される化合物を添加することにより、かかるクラックの発生を防止することができる。
なお、基体の直径を10mm以上の値とする理由は、基体の直径を10mm未満の値とすると、基体上に感光層を均一に積層することが困難となったり、感光体の回転数が過度に大きくなり、画像形成装置の寿命を縮める場合があるためである。
したがって、かかる基体の直径を12〜26mmの範囲内の値とすることがより好ましく、14〜24mmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0046】
(3)中間層
また、図1(b)に示すように、基体12上に、所定の結着樹脂を含有する中間層16を設けてもよい。
この理由は、基体と感光層との密着性を向上させるとともに、この中間層内に所定の微粉末を添加することで、入射光を散乱させて、干渉縞の発生を抑制することができるためである。この微粉末としては、光散乱性、分散性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、亜鉛華、硫化亜鉛、鉛白、リトポン等の白色顔料や、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料としての無機顔料やフッ素樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子、スチレン樹脂粒子等を用いることができる。
【0047】
また、この中間層の膜厚を所定範囲内に規定しておくことが好ましい。この理由は、中間層厚が厚くなりすぎると、感光体表面に残留電位が生じやすくなり、電気特性を低下させる要因となる場合があるためである。その一方で、中間層厚が薄くなりすぎると、基体表面の凹凸を十分緩和させることができなくなり、基体と感光層との密着性を得ることができなくなるためである。
したがって、中間層の膜厚としては、0.1〜50μmの範囲内の値とすることが好ましく、0.5〜30μmの範囲内の値とすることがより好ましい。
【0048】
(4)電荷発生剤
(4)−1 種類
また、本発明における電荷発生剤としては、例えば、無金属フタロシアニン、オキソチタニルフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料、ビスアゾ顔料、ジオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、ピリリウム顔料、アンサンスロン顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、キナクリドン系顔料といった有機光導電体や、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコンといった無機光導電材料等の従来公知の電荷発生剤を用いることができる。
より具体的には、下記式(18)〜(21)で表されるフタロシアニン系顔料(CGM−A〜CGM−D)を使用することがより好ましい。
この理由は、光源として半導体レーザを備えたレーザビームプリンタやファクシミリ等のデジタル光学系の画像形成装置に使用する場合には、600〜800nm以上の波長領域に感度を有する感光体が必要となるためである。
その一方で、ハロゲンランプ等の白色の光源を備えた静電式複写機等のアナログ光学系の画像形成装置に使用する場合には、可視領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えばペリレン系顔料やビスアゾ顔料等を好適に用いることができる。
【0049】
【化18】

【0050】
【化19】

【0051】
【化20】

【0052】
【化21】

【0053】
(4)−2 添加量
また、電荷発生剤の添加量としては、後述する結着樹脂100重量部に対して、0.1〜50重量部の範囲内の値とすることが好ましい、
この理由は、電荷発生剤の添加量をかかる範囲内の値とすることによって、感光体への露光をした際に、当該電荷発生剤が効率的に電荷を発生することができるためである。すなわち、かかる電荷発生剤の添加量が、結着樹脂100重量部に対して0.1重量部未満の値となると、電荷発生量が感光体上に静電潜像を形成するのに不十分となる場合があるためである。一方、かかる電荷発生剤の添加量が、結着樹脂100重量部に対して50重量部を超えた値となると、感光層用塗布液中に均一に分散させることが困難となる場合があるためである。
よって、結着樹脂100重量部に対する電荷発生剤の添加量を0.5〜30重量部の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0054】
(5)正孔輸送剤
(5)−1 オレイン酸トリグリセリドに対する溶解度
また、本発明において使用する正孔輸送剤は、オレイン酸トリグリセリドに対する溶解度を5〜35重量%(測定温度:25℃)の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、オレイン酸トリグリセリドに対する溶解度を5〜35重量%の範囲内の値とすることによって、露光メモリの発生を効果的に抑制することができるためである。
なお、オレイン酸トリグリセリドに対する溶解度(重量%)とは、オレイン酸トリグリセリド100gに飽和する溶質(正孔輸送剤)の量(g)を意味している。
【0055】
ここで、図2を用いて、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度と、感光体における露光メモリ電位との関係を説明する。
図2においては、横軸に正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度(重量%)を採り、縦軸に感光体における露光メモリ(相対値)を採った特性曲線を示している。
かかる特性曲線から理解されるように、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度(重量%)の値が増加するのにともない、露光メモリ電位(相対値)の値は臨界的に変化し、下に凸の曲線を描いている。
より具体的には、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度(重量%)の値が0〜5重量%へと増加すると、それにともなって、露光メモリ電位(相対値)の値が急激に減少していることがわかる。そして、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度(重量%)の値が5〜35重量%の範囲内の値である場合には、露光メモリ電位(相対値)の値は、低い値を安定して維持していることがわかる。一方、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度(重量%)の値が35重量%を超えた範囲では、かかる値の増加にともなって、露光メモリ電位(相対値)の値が急激に増加していることがわかる。
よって、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度(重量%)を5〜35重量%の範囲内の値とすることによって、感光体における露光メモリ電位(相対値)を低い値に抑制することができることがわかる。
したがって、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度を10〜30重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、15〜25重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、感光体における露光メモリ電位の測定方法は、実施例において詳述する。
【0056】
また、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度を5〜35重量%の範囲内の値とすることによって、電子写真感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して浸漬した場合における感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量を、所定の範囲内に抑えることができる。
【0057】
ここで、図3を用いて、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度と、感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量との関係を説明する。
図3においては、横軸に正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度(重量%)を採り、縦軸に、正孔写真感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して20時間浸漬した場合における感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量(g/m2)を採った特性曲線を示している。
かかる特性曲線から理解されるように、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度(重量%)の値が増加するのにともない、感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量(g/m2)の値は単調に増加し、右上がりの直線を描いている。
したがって、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度(重量%)の値を規定することで、感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量(g/m2)の値を所定の範囲内の値とすることができることがわかる。
また、かかる特性曲線を作成した際に用いた電子写真感光体においては、一般式(1)または(2)で表される添加剤を用いていないため、感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量(g/m2)は、それらを用いた場合と比較して大きな値をとっている。しかしながら、本発明においては、一般式(1)または(2)で表される添加剤を用いるため、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度(重量%)を5〜35重量%の範囲内の値とすることによって、かかる感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量(g/m2)を、0.05〜2g/m2の範囲内の値とすることができる。
なお、感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量(g/m2)については、後の項において詳述するとともに、その測定方法ついては、実施例にいて詳述する。
【0058】
また、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度を5〜35重量%の範囲内の値とすることによって、電子写真感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して浸漬した場合における感光体表面に発生するクラックの成長速度を、所定の範囲内に抑えることができる。
【0059】
ここで、図4を用いて、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度と、電子写真感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して浸漬した場合における感光体表面に発生するクラックの成長速度との関係を説明する。
図4においては、横軸に正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度(重量%)を採り、縦軸に電子写真感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して120分間浸漬した場合における感光体表面に発生するクラックの成長速度(mm/min)を採った特性曲線を示している。
かかる特性曲線から理解されるように、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度(重量%)の値が増加するのにともない、クラック成長速度(mm/min)の値は単調に増加し、右上がりの直線を描いている。
したがって、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度(重量%)の値を規定することで、クラック成長速度(mm/min)の値を所定の範囲内の値とすることができることがわかる。
また、かかる特性曲線を作成した際に用いた電子写真感光体においては、一般式(1)または(2)で表される添加剤を用いていないため、クラック成長速度(mm/min)の値は、それらを用いた場合と比較して大きな値をとっている。しかしながら、本発明においては、一般式(1)または(2)で表される添加剤を用いるため、正孔輸送剤におけるオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度(重量%)を5〜35重量%の範囲内の値とすることによって、かかるクラック成長速度(mm/min)の値を、3.5mm/min以下の値とすることができる。
なお、クラック成長速度の測定方法については、後の実施例において詳述する。
【0060】
(5)−2 種類
また、本発明に用いられる正孔輸送剤としては、上述した条件を満足するものであれば、従来公知の種々の正孔輸送性化合物がいずれも使用可能である。特にベンジジン系化合物、フェニレンジアミン系化合物、ナフチレンジアミン系化合物、フェナントリレンジアミン系化合物、オキサジアゾール系化合物〔例えば2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールなど〕、スチリル系化合物〔例えば9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセンなど〕、カルバゾール系化合物〔例えばポリ−N−ビニルカルバゾールなど〕、有機ポリシラン化合物、ピラゾリン系化合物〔例えば1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリンなど〕、ヒドラゾン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、トリアゾール系化合物、ブタジエン系化合物、ピレン−ヒドラゾン系化合物、アクロレイン系化合物、カルバゾール−ヒドラゾン系化合物、キノリン−ヒドラゾン系化合物、スチルベン系化合物、スチルベン−ヒドラゾン系化合物、及びジフェニレンジアミン系化合物などが好適に使用される。これらはそれぞれ単独で使用される他、2種以上を併用することもできる。
【0061】
(5)−3 具体例
また、好適に使用される正孔輸送剤の具体例としては、下記式(22)〜(28)で表される化合物(HTM−1〜7)が挙げられる。
【0062】
【化22】

【0063】
【化23】

【0064】
【化24】

【0065】
【化25】

【0066】
【化26】

【0067】
【化27】

【0068】
【化28】

【0069】
また、上述した正孔輸送剤の中でも、本発明において特に好適な正孔輸送剤として、上述した一般式(17)で表される化合物であるとともに、当該化合物におけるイオン化ポテンシャルが4.5〜5.5eVの範囲内の値である正孔輸送剤を使用することが好ましい。
この理由は、このような正孔輸送剤であれば、電荷発生剤から発生した電荷の輸送が効率的となり、その結果、感光層における残留電荷の発生を抑制して、より効果的に露光メモリを抑制することができるためである。
すなわち、このような正孔輸送剤であれば、電荷発生剤とのイオン化ポテンシャルの差が小さくなるため、電荷発生剤との間において、効率的に電荷を輸送することができるためである。また、結着樹脂との相溶性が向上して、感光層における分散性が均一となるため、電荷の輸送が効率的となり、より効果的に露光メモリの発生を抑制することができるためである。さらに、特定の構造を有する添加剤との相溶性も向上するため、クラック発生を有効に抑制できるためである。
また、このような化合物の具体例としては、上述した式(25)及び式(27)で表される化合物(HTM−4、6)が挙げられる。
なお、かかるイオン化ポテンシャルは、大気雰囲気型紫外線光電子分析装置(理研計器(株)製、AC−1)を用いて測定することができる。
【0070】
(5)−4 添加量
また、正孔輸送剤の添加量を、結着樹脂100重量部に対して、1〜120重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる正孔輸送剤の添加量が1重量部未満の値となると、感光層の正孔輸送能が極端に低下し、画像特性に悪影響を与える場合があるためである。
また、添加量が120重量部を超える値となると、分散性が低下し、結晶化しやすくなるという問題が生じるためである。
したがって、正孔輸送剤の添加量を、結着樹脂100重量部に対して、5〜100重量部の範囲内の値とすることが好ましく、10〜90重量部の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0071】
(6)電子輸送剤
(6)−1 種類
本発明に用いられる電子輸送剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンゾキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、ジフェノキノン系化合物、ジナフトキノン系化合物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド系化合物、フルオレノン系化合物、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、トリニトロチオキサントン系化合物、ジニトロアントラセン系化合物、ジニトロアクリジン系化合物、ニトロアントアラキノン系化合物、ジニトロアントラキノン系化合物の一種単独または二種以上の組合せが挙げられる。
【0072】
(6)−2 具体例
また、電子輸送剤の具体例としては、下記一般式(29)〜(34)で表される化合物(ETM−A〜F)が挙げられる。
【0073】
【化29】

【0074】
【化30】

【0075】
【化31】

【0076】
【化32】

【0077】
【化33】

【0078】
【化34】

【0079】
(6)−3 添加量
また、電子輸送剤の添加量を、結着樹脂100重量部に対して、1〜120重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる電子輸送剤の添加量が1重量部未満の値となると、感光層の電子輸送能が極端に低下し、画像特性に悪影響を与える場合があるためである。
また、添加量が120重量部を超える値となると、分散性が低下し、結晶化しやすくなるという問題が生じるためである。
したがって、電子輸送剤の添加量を、結着樹脂100重量部に対して、5〜100重量部の範囲内の値とすることが好ましく、10〜90重量部の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0080】
(7)添加剤
また、本発明においては、感光層が、添加剤として、上述した一般式(1)及び(2)で表される化合物、あるいはいずれか一方の一般式で表される化合物を含有することを特徴とする。
この理由は、添加剤としての一般式(1)または(2)で表される化合物の作用等によって、感光体における汚染成分付着部におけるクラックの発生を抑制できるためである。
すなわち、感光体表面に汚染成分が付着し、モノマー成分が溶出することによって、感光層内部に空孔が形成された場合、この空孔に対して、添加剤としての一般式(1)または(2)で表される化合物が作用して局所的な応力を開放し、クラックの発生を抑制することができるためである。
したがって、上述したような溶解度を有する正孔輸送剤を用いた場合であっても、感光層におけるクラックの発生を抑制し、安定的な画像特性を長期間に渡って維持することができる。
【0081】
ここで、感光体表面に汚染物質が付着した際のクラック発生機構について詳細に説明する。
まず、感光体表面に、汚染物質が付着すると、感光層中のモノマー成分、特に正孔輸送剤や電子輸送剤からなる電荷輸送剤が溶出し始める。
次いで、この電荷輸送剤が溶出した跡に、感光層の結着樹脂内に空孔が形成され、その空孔近傍に局所的な応力が生じてクラックが発生すると考えられる。つまり、クラックの発生とは、モノマー成分の溶出という現象と、空孔近傍の応力発生という現象と、の2つの現象の組合せと捉えることができる。
このようにクラック発生機構を捉えた場合、第一段階としてのモノマー成分の溶出と、第二段階としての空孔近傍の応力発生と、のそれぞれについて所定の対策を講じることで、効果的に耐クラック性を得ることができる。
すなわち、モノマー成分の溶出については、所定の溶解度を有する正孔輸送剤を用いることで、汚染成分への溶解性を制御して溶出量を規制することができる。
また、空孔近傍の応力については、特定の添加剤を添加することにより、発生した応力を緩和してクラックの発生を抑制することができる。
さらに、添加剤の種類を限定するとともに、分子量と添加量とについても、所定範囲内に制御することにより、より効果的に、空孔近傍の応力を緩和することができる。
【0082】
(7)−1 具体例
また、一般式(1)で表される化合物の好適例としては、上述した式(3)〜(8)で表される化合物(BP−1〜6)、またはその誘導体が挙げられる。
また、本発明に用いられる一般式(1)で表される添加剤の具体例として、上述した式(3)等で表される化合物の他に、下記式(35)で表される化合物(BP−7〜24)が挙げられる。
【0083】
【化35】

【0084】
また、一般式(2)で表される化合物の好適例としては、上述した式(9)〜(16)で表される化合物(PA−1〜8)、またはその誘導体が挙げられる。
また、本発明に用いられる一般式(2)で表される添加剤の具体例として、上述した式(9)等で表される化合物の他に、下記式(36)で表される化合物(PA−9〜22)が挙げられる。
【0085】
【化36】

【0086】
(7)−2 含有量
また、上述した添加剤の含有量を、感光層の固形分(100重量%)に対して、2〜14重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、添加剤の含有量をかかる範囲内の値とすることによって、クラックの発生を、より効果的に抑制することができるとともに、所定条件下における感光体からの正孔輸送剤の溶出量を調節することが容易となるためである。
すなわち、かかる化合物の含有量が2重量%未満の値となると、上述したような応力緩和作用を十分に発揮することができず、クラック発生を十分防止することが困難となるためである。一方、かかる化合物の含有量が14重量%を超えると、感光層のガラス転移点が低下して、耐摩耗性が低下する場合があるためである。また、結着樹脂内での分散性が低下して、結晶化する場合が見られるためである。
したがって、添加剤の含有量を3〜12重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、4〜10重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、感光層の固形分とは、溶媒を除く感光層の構成成分を意味しており、本発明においては、電荷発生剤と、電荷輸送剤と、結着樹脂と、添加剤と、の合計添加量を意味している。
【0087】
(7)−3 分子量
また、添加剤としての一般式(1)及び(2)で表される化合物の分子量を150〜350の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、添加剤の分子量をかかる範囲内の値とすることによって、添加剤と結着樹脂との相溶性が向上し、感光層中において均一に分散させることができるためである。よって、添加剤が備えるクラック抑制効果を、感光層全体に渡って効果的に発揮することができるためである。
すなわち、かかる分子量が150未満の値となると、結着樹脂内での分散性には優れるものの、空孔近傍の応力を十分開放することができない場合があるためである。一方、かかる分子量が350を超えると、結着樹脂内での分散性が低下して、空孔との相互作用が十分発揮できなくなるためである。
したがって、添加剤としての化合物の分子量を200〜300の範囲内の値とすることがより好ましく、230〜270の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかる添加剤の分子量は、例えば、構造式をもとに算出することもできるし、あるいは、質量分析計で得られたマススペクトルを用いて算出することができる。
【0088】
(8)結着樹脂
(8)−1 種類
本発明の電子写真感光体に使用する結着樹脂の種類は特に制限されるものではないが、例えば、ポリカーボネート樹脂をはじめ、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルホン、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、その他架橋性の熱硬化性樹脂、エポキシアクリレート、ウレタン−アクリレート等の光硬化型樹脂等の樹脂が使用可能である。
【0089】
(8)−2 重量平均分子量
また、結着樹脂の重量平均分子量としては、特に制限されるものではないが、本発明においては、添加剤を添加することにより、耐クラック性を維持できることから、比較的低分子量の結着樹脂を用いた場合であっても、その耐クラック性、耐摩耗性を低下させることなく、画像特性を維持することができる。但し、結着樹脂の重量平均分子量が過度に低い場合には、やはり耐クラック性を低下させてしまう場合がある。
したがって、かかる重量平均分子量を70000以下の値とすることが好ましく、20000〜55000の範囲内の値とすることがより好ましい。
なお、かかる結着樹脂の重量平均分子量は、例えば、GPCによって測定することもできるし、あるいは、質量分析計で得られたマススペクトルを用いて測定することができる。
【0090】
(8)−3 具体例
また、結着樹脂の種類は特に制限されるものではないが、具体例として、下記一般式(37)で表されるZ型ポリカーボネート樹脂(BD−1)が挙げられる。
【0091】
【化37】

【0092】
(9)感光層の特性
(9)−1 正孔輸送剤の溶出量
また、電子写真感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して20時間浸漬した場合における感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量を、単位面積当たり0.05〜2g/m2の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかる条件下における感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量を規定することによって、クラックの発生を、より確実に抑制した感光体を得ることができるためである。
すなわち、本発明において使用される正孔輸送剤は、露光メモリの発生を効果的に抑制することができる反面、オレイン酸トリグリセリドへの溶解度が高いため、皮脂や指脂等の汚染成分によって、感光層内に空孔を形成し易く、クラック発生の原因となり易い。そこで、本発明では、特定の構造を有する添加剤によって、かかる空孔近傍の応力を緩和して、クラックの発生を抑制している。
よって、感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して20時間浸漬した場合における感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量を規定することで、実際にクラックの発生をどの程度抑制できているのかを、定量的に確認することができるのである。
【0093】
ここで、図5を用いて、感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して20時間浸漬した場合における感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量と、形成画像における黒点発生数と、の関係を説明する。なお、形成画像における黒点は、クラックに起因して発生するものである。
図5においては、横軸に感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して20時間浸漬した場合における感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量(g/m2)を採り、縦軸に黒点発生数(個/枚)を採った特性曲線を示している。かかる特性曲線から理解されるように、感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量(g/m2)の値が増加するのにともなって、形成画像における黒点発生数(個/枚)が増加している。
より具体的には、感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量(g/m2)が0.05〜2(g/m2)の範囲内の値であるときには、形成画像における黒点発生数(個/枚)が100個/枚以下に抑制されていることがわかる。そして、感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量(g/m2)が2g/m2を超えた値となると、形成画像における黒点発生数(個/枚)が100個/枚以上となり、形成画像として問題が生じてしまうことがわかる。
したがって、感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して20時間浸漬した場合における感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量を0.05〜1.5g/m2の範囲内の値とすることがより好ましく、0.05〜1g/m2の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量、及び黒点発生数の測定方法は、実施例において詳述する。
【0094】
(9)−2 ガラス転移点
また、感光層のガラス転移点(Tg)を55℃以上の値とすることが好ましい。
この理由は、感光層のガラス転移点をかかる範囲内の値とすることによって、感光層の機械的特性を向上させ、感光体表面に対して部材等を圧接させたような場合であっても、部材痕が感光体表面に残ることを防止することができるためである。さらに、感光層の機械的特性を制御することによって、耐摩耗性と耐クラック性のバランスをさらに良好なものとすることができるためである。
すなわち、添加剤を過剰に含有させて、ガラス転移点を55℃未満の値としてしまうと、耐圧性が低下して、繰り返し使用した場合に、画像特性に悪影響を与える場合があるためである。一方、ガラス転移点が過剰に高くなると、感光体表面が過剰に硬化して、クラックが発生しやすくなるという問題が生じる場合があるためである。
したがって、かかる感光層のガラス転移点(Tg)の値を60〜90℃の範囲内の値とすることがより好ましく、65〜85℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、ガラス転移点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、比熱の変化点から求めることができる。より具体的には、測定装置として、セイコーインスツルメンツ社製の示差走査熱量計DSC−6200を用い、得られた吸熱曲線における比熱の変化点から求めることができる。
より具体的には、感光体を構成する材料である、電荷発生剤、電子輸送剤、正孔輸送剤、添加剤、結着樹脂からなる測定試料10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用し、測定温度範囲25〜200℃、昇温速度10℃/分で常温常湿下にて測定を行い、得られた吸熱曲線における比熱の変化点からガラス転移点を求めることができる。
【0095】
(10)製造方法
単層型電子写真感光体の製造方法としては、特に制限されるものではないが、以下のような手順で実施することができる。
まず、溶剤に電荷発生剤、電荷輸送剤、結着樹脂、添加剤等を含有させて塗布液を作成する。このようにして得られた塗布液を、例えば、ディップコート法、スプレー塗布法、ビード塗布法、ブレード塗布法、ローラ塗布法等の塗布法を用いて導電性基材(アルミニウム素管)上に塗布する。
その後、例えば100℃、30分間の条件で熱風乾燥して、所定膜厚の感光層を有する単層型電子写真感光体を得ることができる。
なお、分散液を作るための溶剤としては、種々の有機溶剤が使用可能であり、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,3−ジオキソラン、1,4-ジオキサン、等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類;ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等があげられる。これらの溶剤は単独でまたは2種以上を混合して用いられる。このとき、さらに、電荷発生剤の分散性、感光体層表面の平滑性を良くするために界面活性剤、レベリング剤等を含有させてもよい。
【0096】
また、この感光層を形成する前に、基体上に中間層を形成しておくことも好ましい。
この中間層を形成するにあたり、結着樹脂、必要に応じて添加剤(有機微粉末または無機微粉末)を適当な分散媒とともに、公知の方法、例えばロールミル、ボールミル、アトライタ、ペイントシェーカー、超音波分散機等を用いて分散混合して塗布液を調整し、これを公知の手段、例えばブレード法、浸漬法、スプレー法により塗布して、熱処理を施し中間層を形成する。
また、添加剤は製造時の沈降等が問題とならない範囲であって、光散乱を生じさせて干渉縞の発生を防止する等の目的のために、各種添加剤(有機微粉末または無機微粉末)を少量添加することができる。
次いで、得られた塗布液を、公知の製造方法に準じて、例えば、支持基体(アルミニウム素管)上に、ディップコート法、スプレー塗布法、ビード塗布法、ブレード塗布法、ローラ塗布法等の塗布法を用いて塗布することができる。
その後、基体上の塗布液を乾燥する工程は、20〜200℃の温度で5分〜2時間の範囲で行うことが好ましい。
【0097】
なお、かかる塗布液を作るための溶剤としては、種々の有機溶剤が使用可能であり、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類;ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等があげられる。これらの溶剤は単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
【0098】
2.積層型感光体
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体として、図6(a)に示すような積層型電子写真感光体を用いることも好ましい。この積層型感光体20は、基体12上に、蒸着または塗布等の手段によって、電荷発生剤を含有する電荷発生層24を形成し、次いでこの電荷発生層24上に、正孔輸送剤と結着樹脂とを含む塗布液を塗布し、それを乾燥させて電荷輸送層22を形成することによって作製することができる。
また、上述した構造とは逆に、図6(b)に示すように、基体12上に電荷輸送層22を形成し、その上に電荷発生層24を形成してもよい。ただし、電荷発生層24は、電荷輸送層22に比べて膜厚がごく薄いため、その保護のためには、図6(a)に示すように、電荷発生層24の上に電荷輸送層22を形成することがより好ましい。
また、単層型感光体の場合と同様に、基体上に中間層25を形成することも好ましい。
【0099】
電荷発生層形成用塗布液および電荷輸送層形成用塗布液は、例えば、電荷発生剤、電荷輸送剤、結着樹脂などの所定の成分を、分散媒とともに、ロールミル、ボールミル、アトライタ、ペイントシェーカー、超音波分散機などを用いて分散混合することによって、調製することができる。
この積層型感光層20において、感光層(電荷発生層及び電荷輸送層)の厚さは、特に限定されないが、電荷発生層については、好ましくは0.01〜5μm、より好ましくは0.1〜3μmの厚さであり、電荷輸送層については、好ましくは2〜100μm、より好ましくは5〜50μmの厚さである。
【0100】
[第2実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態である電子写真感光体を備えるとともに、当該電子写真感光体の周囲に、帯電手段としての帯電器、露光手段としての露光光源、現像手段としての現像器、および転写手段としての転写器をそれぞれ配置するとともに、除電手段を省略した除電レスタイプであることを特徴とする画像形成装置である。
以下、第1の実施形態において既に説明した内容は省略し、第2の実施形態として、第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
なお、電子写真感光体として、単層型感光体を用いた場合を例に採って説明する。
【0101】
図7に示すように、感光体31の周囲には、帯電器32と、露光光源33と、現像器34と、転写器35と、クリーニング手段37が順次配置されている。
また、感光体31は、矢印の方向に一定速度で回転しており、感光体31の表面で、次の順に電子写真プロセスが行われることになる。より詳細には、帯電器32により、感光体31が全面的に帯電され、次いで、露光光源33によって、印字パターンが露光される。
次いで、現像器34によって、印字パターンに対応して、トナー現像され、さらに、転写器35によって、転写材(紙)36へのトナーの転写が行われる。
ここで、トナーが分散された現像剤34aは、現像ローラ34bによって運ばれ、所定の現像バイアスを印加することで、感光体31の表面上にトナーが引き付けられて、感光体31上に現像されることになる。
すなわち、感光体31として本発明の電子写真感光体を用いた場合には、汚染成分に起因したクラック性が改善されるとともに、長期に渡って露光メモリの発生を抑制することができることから、画像形成プロセスとして、除電手段を省略した除電レスシステムを備えた画像形成装置を採用することができる。
【0102】
また、感光体31におけるドラム回転速度を100〜200mm/secの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる感光体におけるドラム回転速度を100mm/sec以上の値とすることによって、画像形成を高速で行うことができ、画像形成効率を高めることができる一方で、繰り返し使用した場合であっても効果的に露光メモリの発生を抑制することができるためである。
すなわち、かかる感光体におけるドラム回転速度を100mm/sec以上の値とすることによって、感光体において前周回において露光された部分の残留電荷を、より速やかに除く必要が生じる。しかしながら、本発明の感光体においては、所定の正孔輸送剤を使用することにより露光メモリの発生を効果的に抑制することが可能となる。よって、かかる感光体におけるドラム回転速度を100mm/sec以上の値とした場合であっても、露光メモリの発生を効果的に抑制しつつ、画像形成効率を高めることができるためである。一方、かかる感光体におけるドラム回転速度を200mm/secを超えた値とすると、露光メモリが残留したり、ドラム回転数が過度に大きいために画像形成装置の寿命を短縮させる場合があるためである。
したがって、かかる感光体におけるドラム回転速度を120〜180mm/secの範囲内の値とすることがより好ましく、140〜160mm/secの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0103】
また、図7におけるクリーニング手段37の変更手段として、現像手段においてクリーニングを行う現像同時クリーニング方式であることも好ましい。
この理由は、現像同時クリーニング方式を用いることによって、画像形成装置をさらに小型化することができるためである。また、このような方式を用いた場合であっても、本発明の電子写真感光体を用いることによって、露光メモリの発生を抑制することができることから、感光体表面に残留した現像剤を有効に回収することができるためである。
【実施例】
【0104】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの記載内容に限定されるものではない。
【0105】
[実施例1]
1.電子写真感光体の製造
電荷発生剤として、式(18)で表されるX型無金属フタロシアニン(CGM−A)を4重量部と、正孔輸送剤として、式(22)で表される化合物(HTM−1)を50重量部と、電子輸送剤として、式(29)で表される化合物(ETM−A)を30重量部と、結着樹脂として、式(37)で表されるZ型ポリカーボネート樹脂(BD−1)(重量平均分子量:35000)を100重量部と、添加剤として、式(4)で表される化合物(BP−2)を4.5重量部と、をテトラヒドロフラン800重量部とともに、ボールミルにて50時間混合分散し、感光層塗布液を作成した。
次いで、得られた塗布液を円筒状のアルミニウム素管(直径30mm、長さ254mm、及び直径16mm、長さ254mm)上に塗布して、100℃、40分間の条件で熱風乾燥することにより、膜厚が30μmである2種類の単層型電子写真感光体をそれぞれ得た。
なお、後述する黒点発生数の評価においては、直径16mm、長さ254mmのアルミニウム素管を用いた単層型電子写真感光体を使用し、その他の評価においては、直径30mm、長さ254mmのアルミニウム素管を用いた単層型電子写真感光体を使用した。
【0106】
2.評価
(1)正孔輸送剤の溶出量
得られた電子写真感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して浸漬した場合における電子写真感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量の評価を行った。
すなわち、得られた電子写真感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して、室温、暗所、解放系の条件下において、20時間浸漬した。次いで、20時間浸漬後のオレイン酸トリグリセリドにおけるUV吸光度を測定し、予め作成しておいた検量線(正孔輸送剤の濃度とUV吸光度)を用いて、オレイン酸トリグリセリドへの全溶出量を求めた。次いで、得られた全容出量を、感光体の表面面積で割ることによって得られた値を正孔輸送剤の溶出量とした。
【0107】
(2)耐クラック性の評価
得られた電子写真感光体を、温度20℃湿度60%の条件下でオレイン酸トリグリセリドに120分間浸漬させた後、感光体表面に発生したクラックを計測し、クラック成長速度(mm/min)として評価した。
すなわち、光学顕微鏡を用いて感光層表面を観察し、発生したクラック長さの総和(mm)を、浸漬時間120(min)で割ることによって得られた値をクラック成長速度とし、下記基準に準じて評価した。得られた結果を表1に示す。
◎:クラック成長速度が、2(mm/min)未満の値である。
○:クラック成長速度が、2〜4(mm/min)未満の値である。
△:クラック成長速度が、4〜5(mm/min)未満の値である。
×:クラック成長速度が、5(mm/min)以上の値である。
【0108】
(3)黒点発生数の評価
また、得られた電子写真感光体を用いて画像形成を実施した際の黒点発生の評価を行った。
すなわち、得られた電子写真感光体を、クリーニング装置を取り除いた京セラミタ製プリンタ(DP−560)に搭載し、高温高湿条件下(40℃、90%RH)で、5000枚印字を行った。次いで、高温高湿条件下に6時間放置後、A4サイズ紙を白地印刷し、発生した黒点数(個/枚)を計測して、下記基準に沿って評価した。得られた結果を表1に示す。なお、ここでの評価試験は、過酷環境下での強制試験であることから、これらを考慮した評価基準を設定した。
◎:黒点発生数が、30(個/枚)以下の値である。
○:黒点発生数が、31〜50(個/枚)以下の値である。
△:黒点発生数が、51〜100(個/枚)以下の値である。
×:黒点発生数が、101(個/枚)以上の値である。
【0109】
(4)露光メモリ電位の評価
また、得られた電子写真感光体における露光メモリ電位を評価した。
すなわち、得られた電子写真感光体を、除電手段を省略した京セラミタ製マルチファンクションプリンタ(Antico40)に搭載し、未露光部分の表面電位、及び露光部分の帯電工程実施後の表面電位を測定し、その差を露光メモリ電位として、下記基準に準じて評価した。得られた結果を表1に示す。
◎:メモリ電位が50(V)未満の値である。
○:メモリ電位が50〜90(V)未満の値である。
△:メモリ電位が90〜100(V)未満の値である。
×:メモリ電位が100(V)以上の値である。
【0110】
(5)メモリ画像の評価
また、得られた電子写真感光体を用いて画像形成を実施した際のメモリ画像の評価を行った。
すなわち、上述した露光メモリ電位評価における条件と同条件下において、印写試験を実施し、露光メモリ画像が発生しているか否かを目視により判断し、下記基準に準じて評価した。なお、露光メモリ画像とは、図8に示すような原稿を使用し印写試験を実施した場合、強い露光部分(黒ベタ部)の感光体表面電位の低下により、露光部分のゴースト画像がグレー部に発生した画像を示す。得られた結果を表1に示す。
◎:メモリ画像が観察されない。
○:メモリ画像がわずかに観察される。
△:メモリ画像が観察される。
×:メモリ画像が顕著に観察される。
【0111】
(6)ガラス転移点の測定
また、感光体を構成する材料に対して、示差走査熱量計(DSC)を用いてガラス転移点を測定した。
すなわち、感光体を構成する材料である、電荷発生剤、電子輸送剤、正孔輸送剤、添加剤、結着樹脂からなる測定試料(感光層)10mgをアルミパン中に入れ、測定サンプルとした。
また、リファレンスとして空のアルミパンを用意して基準サンプルとした。
この測定サンプルと基準サンプルとを、セイコーインスツルメンツ社製の示差走査熱量計DSC−6200を用い、測定温度範囲25〜200℃、昇温速度10℃/分で常温常湿下にて吸熱曲線を測定し、ガラス転移点を求め、下記基準に準じて評価した。得られた結果を表1に示す。
○:ガラス転移点が55℃以上値である。
×:ガラス転移点が55℃未満の値である。
【0112】
(7)耐部材性の評価
また、得られた電子写真感光体における耐部材性を評価した。
すなわち、得られた電子写真感光体をドラムユニットに装着し、温度50℃、湿度80%RH下にて10日間放置した。放置後、グレー画像を出力し、画像上に現われる部材(転写ローラー)の圧接痕による筋を下記基準に準じて評価した。
○:筋の発生が確認されない。
×:筋の発生が確認される。
【0113】
[実施例2〜34]
実施例2〜34においては、表1に示すように、正孔輸送剤の種類や添加剤の種類及びその含有量を変えたほかは、実施例1と同様に電子写真感光体を作成して評価した。得られた結果を表1に示す。
【0114】
[比較例1]
比較例1においては、正孔輸送剤として下記式(38)で表される化合物(HTM−8)を用い、添加剤として式(35)中において表される化合物(BP−7)を結着樹脂100重量部に対して0.5重量部加えたほかは、実施例1と同様に電子写真感光体を作成して評価した。得られた結果を表1に示す。
【0115】
【化38】

【0116】
[比較例2]
比較例2においては、正孔輸送剤として式(23)で表される化合物(HTM−2)を用い、所定の添加剤を用いなかったほかは、実施例1と同様に電子写真感光体を作成して評価した。得られた結果を表1に示す。
【0117】
[比較例3]
比較例3においては、正孔輸送剤として下記式(39)で表される化合物(HTM−9)を用い、所定の添加剤を用いなかったほかは、実施例1と同様に電子写真感光体を作成して評価した。得られた結果を表1に示す。
【0118】
【化39】

【0119】
[比較例4]
比較例4においては、正孔輸送剤として下記式(40)で表される化合物(HTM−10)を用い、添加剤として式(4)で表される化合物(BP−2)を結着樹脂100重量部に対して15.1重量部加えたほかは、実施例1と同様に電子写真感光体を作成して評価した。得られた結果を表1に示す。
【0120】
【化40】

【0121】
[比較例5〜12]
比較例5〜12においては、正孔輸送剤の種類、添加剤の種類、及びその含有量を、表1に示すように変えたほかは、実施例1と同様に電子写真感光体を作成して評価した。得られた結果を表1に示す。
【0122】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明に係る電子写真感光体によれば、感光層に、所定の正孔輸送剤及び特定の構造を有する添加剤を用いるとともに、所定条件下における感光体からの正孔輸送剤の溶出量を規定することにより、クラックの発生及びそれにともなう黒点の発生を有効に抑制できるとともに、長期に渡って露光メモリの発生を抑制することができるようになった。
したがって、本発明の電子写真感光体は、複写機やプリンター等の各種画像形成装置における高耐久性化、高速化、高性能化等に寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明に係る単層型感光体を示す断面図である。
【図2】オレイン酸トリグリセリドに対するHTMの溶解度と露光メモリとの関係を説明するために供する図である。
【図3】オレイン酸トリグリセリドに対するHTMの溶解度と感光体表面からのHTMの溶出量との関係を説明するために供する図である。
【図4】オレイン酸トリグリセリドに対するHTMの溶解度とクラック成長速度との関係を説明するために供する図である。
【図5】感光体表面からのHTMの溶出量と黒点の発生数との関係を説明するために供する図である。
【図6】本発明に係る積層型感光体を示す断面図である。
【図7】本発明に係る画像形成装置の一例を示す概略図である。
【図8】メモリ画像を説明するために供する図である。
【符号の説明】
【0125】
10:単層型感光体、12:基体、14:感光層、16:中間層、20:積層型感光体、22:電荷輸送層、24:電荷発生層、25:中間層、31:感光体、32:帯電器、33:露光光源、34:現像器、35:転写器、36:転写紙、37:クリーニングブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、少なくとも、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、結着樹脂と、を含有する感光層を備える電子写真感光体であって、
前記正孔輸送剤のオレイン酸トリグリセリドに対する溶解度を5〜35重量%の範囲内の値とするとともに、
前記電子写真感光体をオレイン酸トリグリセリドに対して20時間浸漬した場合における感光体表面からの正孔輸送剤の溶出量を、単位面積当たり0.05〜2g/m2の範囲内の値とし、かつ、添加剤として、下記一般式(1)及び(2)で表される化合物、あるいはいずれか一方の一般式で表される化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【化1】


(一般式(1)中、R1〜R10はそれぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換または非置換の炭素数1〜12のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜30のアリール基、置換または非置換の炭素数6〜30のアラルキル基、置換または非置換の炭素数3〜12のシクロアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、またはアミノ基を示し、Rは、置換または非置換の炭素数1〜12のアルキレン基であり、繰り返し数nは0〜3の整数を示す。)
【化2】


(一般式(2)中、R11〜R17はそれぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換または非置換の炭素数1〜12のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜30のアリール基、置換または非置換の炭素数6〜30のアラルキル基、置換または非置換の炭素数3〜12のシクロアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、またはアミノ基を示す。)
【請求項2】
前記添加剤の分子量を150〜350の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記添加剤の含有量を、前記感光層の固形分に対して、2〜14重量%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される添加剤が、下記式(3)〜(8)で表される化合物、またはその誘導体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子写真感光体。
【化3】


【化4】


【化5】


【化6】


【化7】


【化8】

【請求項5】
前記一般式(2)で表される添加剤が、下記式(9)〜(16)で表される化合物、またはその誘導体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電子写真感光体。
【化9】


【化10】


【化11】


【化12】


【化13】


【化14】


【化15】


【化16】

【請求項6】
前記正孔輸送剤が下記一般式(17)で表される化合物であるとともに、当該化合物のイオン化ポテンシャルが4.5〜5.5eVの範囲内の値であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電子写真感光体。
【化17】


(一般式(17)中、A〜DおよびR1〜R14は、それぞれ独立した水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアミノ基、あるいは、R2〜R6のうちいずれか二つまたはR9〜R13のうちいずれか二つは、結合または縮合して形成した炭素環構造であり、繰り返し数a〜dはそれぞれ独立した0〜4の整数である。ただし、R2〜R6のうち少なくとも二つまたはR9〜R13のうち少なくとも二つは、水素原子以外の前記置換基である。)
【請求項7】
前記感光層におけるガラス転移点(Tg)を55℃以上の値とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の電子写真感光体。
【請求項8】
前記基体の直径を10〜28mmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の電子写真感光体。
【請求項9】
前記感光層が、単層型であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の電子写真感光体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の電子写真感光体を備える画像形成装置であって、
前記電子写真感光体の周囲に、帯電手段、露光手段、現像手段、及び転写手段をそれぞれ配置するとともに、除電手段を省略した除電レスタイプであることを特徴とする画像形成装置。
【請求項11】
前記現像手段が、現像同時クリーニング方式であることを特徴とする請求項10に記載の画像形成装置。
【請求項12】
前記電子写真感光体におけるドラム回転速度を100〜200mm/secの範囲内の値とすることを特徴とする請求項10または11に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−256768(P2007−256768A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82787(P2006−82787)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】