説明

電子写真機器用無端ベルト

【課題】表面平滑性に優れた電子写真機器用無端ベルトを提供すること。
【解決手段】基層の表面に弾性層が設けられてなる電子写真機器用無端ベルトにして、前記弾性層を、沸点が150〜220℃である溶媒に、ゴム材料、架橋剤、及び平均粒子径が7μm以下である無機フィラーが配合されてなる液状の弾性層用材料であって、無機フィラーが、ゴム材料の100重量部に対して30〜150重量部の割合において配合されてものを用いて、形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器用無端ベルトに係り、特に、フルカラーLBP(レーザービームプリンタ)やフルカラーPPC(プレーンペーパーコピア)等の電子写真技術を利用した電子写真機器において、中間転写ベルト等として好適に用いられ得る電子写真機器用無端ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、フルカラーLBPやフルカラーPPC等の電子写真技術を利用した電子写真機器においては、導電性を有する無端ベルト(シームレスベルト)が様々な用途に用いられている。例えば、感光体(感光ドラム)上に形成されたトナー像を、ベルト表面に一次転写し、その後、ベルト表面のトナー像を被印刷物(紙)に二次転写するという役割を果たす電子写真機器用無端ベルトとして、中間転写ベルトが広く知られている。
【0003】
そのような中間転写ベルトに対しては、優れたトナー転写性と共に、耐トナー付着性(ベルト表面にトナーが残存し難いこと)が求められているところ、昨今の電子写真機器に対する高寿命化の要求に伴い、中間転写ベルトに対しても、従来にも増してより優れたトナー転写性及び耐トナー付着性が求められている。このような状況の下、表面が低粗度、即ち平滑な中間転写ベルトやその製造装置、製造方法等が各種、提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2006−341485号公報)においては、鏡面仕上げされた内面を有する金属円筒体を金型として用いるシームレスベルトの製造装置が提案されており、また、特許文献2(特開2004−90404号公報)においては、内面が鏡面とされた円筒金型を用いて、所謂、遠心成形法に従って半導電性ベルトを製造する方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に提案されている如き、内面に鏡面仕上げが施された金型を用いる手法にあっては、得られるベルトの表面に、微小ではあるがトナーサイズの研磨目が発生したり、金型内面に施されたメッキの微小クラックやピンホールに起因する凹凸が生ずる恐れがあるという問題があった。
【0006】
一方、特許文献3(特開2006−285048号公報)においては、基層と表面印刷層との2層構造とされており、かかる表面印刷層が、導電性カーボンブラックを分散させた液状シリコーンゴムを基層の表面に塗布して硬化させた硬化物からなる中間転写体が、提案されている。
【0007】
しかしながら、かかる特許文献3に提案されている中間転写体について、本発明者等が鋭意検討したところ、そこに示されている表面印刷層用材料(導電性カーボンブラックを分散させた液状シリコーンゴム)に代えて、液状シリコーンゴム以外のゴム材料を溶媒に配合してなる液状材料を用いた場合、得られるベルトの表面平滑性が十分なものではないことが判明した。即ち、ゴム材料を溶媒に配合してなる液状材料を用いた場合、かかる液状材料の架橋(ゴム材料の架橋)と共に溶媒の除去が進行することとなるが、かかる溶媒の除去がスムーズに進行せず、その結果、得られる架橋物内に気泡が発生し、ベルトの表面平滑性を悪化させる恐れがあるということが、判明したのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−341485号公報
【特許文献2】特開2004−90404号公報
【特許文献3】特開2006−285048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、表面平滑性に優れた電子写真機器用無端ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、そのような課題を有利に解決するために、基層の表面に弾性層が設けられてなる電子写真機器用無端ベルトにして、前記弾性層が、沸点が150〜220℃である溶媒に、ゴム材料、架橋剤、及び平均粒子径が7μm以下である無機フィラーが配合されてなる液状の弾性層用材料を用いて形成されており、該無機フィラーが、前記ゴム材料の100重量部に対して30〜150重量部の割合において配合されていることを特徴とする電子写真機器用無端ベルトを、その要旨とするものである。
【0011】
なお、かかる本発明に従う電子写真機器用無端ベルトの好ましい第一の態様においては、前記弾性層の厚さが10〜1000μmである。
【0012】
また、本発明に係る電子写真機器用無端ベルトの好ましい第二の態様においては、前記架橋剤が金属酸化物、硫黄又は樹脂架橋剤である。
【0013】
さらに、本発明の電子写真機器用無端ベルトにおける好ましい第三の態様においては、前記無機フィラーがシリカ又は無機系難燃剤である。
【0014】
加えて、本発明における好ましい第四の態様においては、前記弾性層用材料に有機系難燃剤が配合されている。
【0015】
また、本発明における好ましい第五の態様においては、前記弾性層がディスペンサコーティング法に従って形成されている。
【0016】
さらに、本発明における好ましい第六の態様においては、前記ゴム材料がCR、NBR又はEPDMである。
【0017】
さらにまた、本発明における好ましい第七の態様においては、前記基層が、合成樹脂材料を主成分とする液状の基層用材料を用いて、ディスペンサコーティング法に従って形成されている。また、かかる合成樹脂材料は、ポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂であることがより好ましい。
【0018】
一方、本発明は、上述した各態様の弾性層に、下記一般式(I)で表わされる塩素化合物及び分子内に−CONCl−構造を有する化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを用いて、表面処理が施されていることを特徴とする電子写真機器用無端ベルトについても、その要旨とするものである。
X(OCl)n ・・・(I)
[但し、上記式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子 又はアルキル基を表わし、nは正の整数を表わす。]
【0019】
また、本発明は、上述した各態様の弾性層の表面に、アクリルフッ素樹脂からなる表層が設けられている電子写真機器用無端ベルトをもその要旨とするものである。
【発明の効果】
【0020】
このように、本発明に従う電子写真機器用無端ベルトにあっては、基層の表面に設けられた弾性層が、沸点が150〜220℃である溶媒に、ゴム材料、架橋剤、及び平均粒子径が7μm以下である無機フィラーが配合されてなる液状の弾性層用材料であって、ゴム材料の100重量部に対して30〜150重量部の割合において無機フィラーが配合されたものを用いて、形成されている。沸点が所定の範囲内である溶媒を用いて弾性層用材料を調製したことにより、かかる弾性層用材料においては架橋がある程度、進行した後に溶媒の除去(脱溶媒)が進行することとなり、また、弾性層用材料に所定の平均粒子径を有する無機フィラーを所定の割合にて配合せしめたことにより、(半)架橋物内に溶媒の抜け道となる隙間が効果的に形成せしめられるところから、架橋物たる弾性層内における気泡の発生(気泡の抱き込み)が有利に抑制され、以て、本発明の電子写真機器用無端ベルトは、表面平滑性が優れたものとなるのである。
【0021】
上述したように、本発明に係る電子写真機器用無端ベルトは、表面平滑性に優れており、電子写真機器において中間転写ベルトとして使用すると、優れたトナー転写性を発揮することとなる。例えば、電子写真機器に中間転写ベルトとして組み込み、再生紙等の比較的凹凸がある被印刷物に対して画像形成する際にも、高画質な画像が有利に得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に従う電子写真機器用無端ベルトの一例を示す断面説明図である。
【図2】本発明に従う電子写真機器用無端ベルトの一例を示す部分断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を適宜、参照しつつ、本発明を更に具体的に説明する。
【0024】
図1は、本発明に従う電子写真機器用無端ベルト(以下、単にベルトともいう)の一例を、ベルトの軸方向に平行で且つ軸中心を含む面にて切断した断面説明図であり、図2は、ベルトの軸方向に直交する面(図1におけるA−A面)にて切断した断面の部分説明図である。それら図1及び図2から明らかなように、本発明の電子写真機器用無端ベルト2は、基層4の表面に弾性層6が設けられてなる2層構造を呈するものである。
【0025】
先ず、基層4は、ゴム材料や合成樹脂材料を主成分とする基層用材料を用いて、従来より公知の各種手法に従って形成されている。基層用材料の主成分たるゴム材料及び合成樹脂材料としては、電子写真機器用無端ベルト作製の際に従来より用いられているものであれば、如何なるものであっても使用可能であるが、ベルト2の耐久性の観点から、合成樹脂材料が有利に用いられる。合成樹脂材料としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フッ素系樹脂、ポリカーボネート樹脂等を例示することが出来、これらを単独で若しくは二種以上のものを併せて用いることが可能である。本発明においては、優れた剛性等を発揮するポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂が特に有利に用いられる。
【0026】
また、基層用材料には、必要に応じて、上述の如きゴム材料及び/又は合成樹脂材料と共に、導電剤や難燃剤、炭酸カルシウム等の充填剤、レベリング剤等の添加剤が、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、適宜、配合される。
【0027】
基層用材料に配合される導電剤は、特に限定されるものではなく、例えば、カーボンブラックやグラファイト等の導電性粉末、アルミニウム粉末やステンレス粉末等の金属粉末、導電性酸化亜鉛(c−ZnO)、導電性酸化チタン(c−TiO2 )、導電性酸化鉄(c−Fe34)や導電性酸化錫(c−SnO2 )等の導電性金属酸化物、第四級アンモニウム塩、リン酸エステル、スルホン酸塩、脂肪族多価アルコールや脂肪族アルコールサルフェート塩等のイオン導電剤を、用いることが可能である。また、基層用材料に配合される難燃剤としては、後述する無機系難燃剤や有機系難燃剤等を例示することが出来る。
【0028】
上述した合成樹脂材料等を配合してなる基層用材料の調製は、ベルト2の製造方法に応じて行なわれる。例えば、後述するディスペンサコーティング法に従って基層4を形成せしめる場合には、上述した合成樹脂材料等を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、トルエンやアセトン等の有機溶媒に添加し、混合することによって、液状の基層用材料が調製される。尚、かかる液状の基層用材料を用いて、ディスペンサコーティング法に従って基層4を形成せしめる場合には、通常、材料の粘度が1000〜50000mPa・sとなるように、調製される。
【0029】
また、かかる基層用材料を用いて形成される基層4の厚さは、電子写真機器用無端ベルト2に要求される特性等に応じて適宜に決定されるが、通常、50〜200μm程度とされる。
【0030】
そして、図1及び図2に示す電子写真機器用無端ベルト2にあっては、その弾性層6が、沸点が150〜220℃である溶媒に、ゴム材料、架橋剤、及び平均粒子径が7μm以下である無機フィラーが配合されてなる液状の弾性層用材料であって、ゴム材料の100重量部に対して30〜150重量部の割合において無機フィラーが配合されたものを用いて、形成されているところに、大きな特徴が存するのである。即ち、かかる液状の弾性層用材料を用いることにより、架橋物たる弾性層内における気泡の発生(気泡の抱き込み)が有利に抑制され、弾性層6の表面(ベルト2の表面)の平滑性が優れたものとなるのである。
【0031】
ここで、沸点が150℃未満の溶媒では、架橋が進行する前に大部分の溶媒は除去されるものの、架橋物(弾性層)内に残存する溶媒が、架橋が進行する過程において気化することにより架橋物内に気泡を生成し、弾性層表面(ベルト表面)の平滑性を悪化させる恐れがある。一方、沸点が220℃を超える溶媒では、脱溶媒に時間を要するため、実用的ではない。このため、本発明においては、弾性層用材料の調製に際して、沸点が150〜220℃、好ましくは155〜215℃である溶媒が用いられる。本発明の弾性層用材料の調製に用いられる溶媒としては、具体的に、アノン(シクロヘキサノン)、Solvesso#150(ヘビーアロマティック(HA-150))、酢酸メトキシブチル(3−メトキシブチルアセテート)、イソホロン(3,5,5−トリメチル−2−シクロヘキセン−1−オン)等を例示することが出来る。
【0032】
また、本発明の弾性層用材料に配合される無機フィラーは、平均粒子径が7μm以下、好ましくは0.5〜4.0μmのものである。平均粒子径が大きすぎる無機フィラーを配合すると、得られる弾性層6の表面(ベルト2の表面)の平滑性が損なわれる恐れがあるからである。尚、本明細書及び特許請求の範囲における無機フィラーの平均粒子径とは、粉度分布測定装置(日機装株式会社製、商品名:マイクロトラックMT3000)を用いて、純水を使った湿式測定により測定されるものを意味する。
【0033】
さらに、弾性層用材料中の無機フィラーの配合量が少なすぎると、配合効果(気泡の抱き込み抑制)が得られない恐れがあり、その一方、配合量が多すぎると、弾性層が硬くなりすぎて、画像に悪影響を与える恐れがある。従って、本発明の弾性層用材料においては、後述するゴム材料の100重量部に対して30〜150重量部の割合において、好ましくは50〜120重量部の割合において、無機フィラーが配合される。
【0034】
なお、本発明においては、物性改善や容積増加等を目的としてゴム材料や樹脂材料に配合される無機粉末であって、本発明の目的を阻害しないものであれば、如何なるものであっても無機フィラーとして配合することが可能である。そのような無機フィラーとしては、シリカ(酸化ケイ素)、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、各種セラミックス、ガラスビーズ、マイカ(雲母)等の他、無機系難燃剤、具体的には、三酸化アンチモンや五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物系難燃剤等を、例示することが出来る。そのような無機フィラーのうちの一種又は二種以上が適宜、選択されて、弾性層用材料に配合される。本発明においては、特にシリカ及び無機系難燃剤が有利に用いられる。
【0035】
本発明の弾性層用材料には、上述した溶媒及び無機フィラーと共に、ゴム材料及び架橋剤が配合される。
【0036】
ゴム材料は、従来より公知の各種ゴム材料の中から、目的とする電子写真機器用無端ベルト(2)の特性や架橋剤の種類等に応じて適宜に選択される。具体的には、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等を例示することが出来、それらのうちの一種又は二種以上が適宜に選択されて、使用される。それらの中でも、特にクロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)及びエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)は、上述した無機フィラーを比較的多量に配合した場合でも、得られる架橋物(弾性層)の物性(特に柔軟性)の低下が少なく、優れた表面平滑性と柔軟性とを両立することが可能ならしめられることから、本発明において特に有利に用いられる。
【0037】
また、本発明の弾性層用材料に配合される架橋剤としては、亜鉛華(酸化亜鉛)や酸化マグネシウム等の金属酸化物、各種硫黄類、樹脂架橋剤等を用いることが可能である。硫黄類としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等の硫黄や、一塩化硫黄、二塩化硫黄等のハロゲン化硫黄等を、例示することが出来る。また、樹脂架橋剤としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノキシ樹脂、ウレタン樹脂等を、例示することが出来る。架橋物たる弾性層内における気泡の発生(気泡の抱き込み)をより効果的に抑制し得る観点から、本発明においては金属酸化物、硫黄又は樹脂架橋剤が特に有利に用いられる。
【0038】
なお、樹脂架橋剤として用いられるフェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂やレゾール型キシレン樹脂等を、例示することが出来る。
【0039】
また、樹脂架橋剤として用いられるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型グリシジルエーテル系、ビスフェノール型グリシジルエーテル系、ノボラック型グリシジルエーテル系、ポリエチレングリコール型グリシジルエーテル系、ポリプロピレングリコール型グリシジルエーテル系、グリセリン型グリシジルエーテル系、芳香族型グリシジルエーテル系、芳香族型グリシジルアミン系、フェノール型グリシジルアミン系、ハイドロフタル酸型グリシジルエステル系、及びダイマー酸型グリシジルエステル系等の各種エポキシ樹脂を、挙げることが出来る。
【0040】
さらに、アミン樹脂とは、尿素(ユリア)、メラミン、ベンゾグアナミン、アニリン等のアミノ基を有する化合物に、ホルムアルデヒドを付加縮合せしめて得られる熱硬化性樹脂の総称である。本発明において、樹脂架橋剤として用いられるアミン樹脂としては、ユリア樹脂、メラミン樹脂、メチロールメラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アニリン樹脂、アセトグアナミン樹脂、ホルムグアナミン樹脂やメチロールグアナミン樹脂等を、例示することが出来る。
【0041】
本発明の弾性層用材料には、上述したゴム材料及び架橋剤に加えて、各種添加剤を、それぞれの添加目的に応じた割合において、配合することが可能である。
【0042】
例えば、電子写真機器用無端ベルト2に導電性を付与せしめるべく、弾性層用材料には、一般に、導電剤が配合される。かかる導電剤としては、従来より広く用いられているカーボンブラックや金属酸化物のみならず、第四級アンモニウム塩、リン酸エステル、スルホン酸塩、脂肪族多価アルコールや脂肪族アルコールサルフェート塩等のイオン導電剤等を挙げることが出来、特に、イオン導電剤が有利に用いられる。
【0043】
また、昨今、電子写真機器用無端ベルトに対しても難燃性が要求されていることから、弾性層用材料に有機系難燃剤を配合することが好ましい。本発明において用いられる有機系難燃剤としては、例えば、a)デカブロモジフェニルエーテル、b)テトラブロモビスフェノール−A及びその誘導体、c)ビス(ペンタブロモフェニル)エタン等の多ベンゼン環化合物、d)臭素化ポリスチレン及びポリ臭素化スチレン等の臭素系難燃剤や、e)芳香族リン酸エステル類、f)芳香族縮合リン酸エステル類、g)含ハロゲンリン酸エステル類、h)含ハロゲン縮合リン酸エステル類、i)フォスファゼン誘導体等のリン系難燃剤等を、挙げることが出来る。これらの有機系難燃剤は、単独で使用し得ることは勿論、二種以上を併用することも可能であり、更には、前述した無機フィラーたる無機系難燃剤と併用することも可能である。
【0044】
その他にも、本発明の範囲内において、レベリング剤や架橋促進剤等の添加剤を弾性層用材料に配合することも可能である。本発明において用いられる架橋促進剤としては、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N′−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系架橋促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系架橋促進剤;チオカルボアニリド、ジオルトトリルチオウレア、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア、トリメチルチオウレア等のチオウレア系架橋促進剤;2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩、2−メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩、2−メルカプトベンゾチアゾールシクロヘキシルアミン塩、2−(2,4−ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール等のチアゾール系架橋促進剤;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系架橋促進剤;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、ジエチルジチオカルバミン酸セレン、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸鉄、ジエチルジチオカルバミン酸ジエチルアミン、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン、メチルペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペコリン等のジチオカルバミン酸系架橋促進剤;イソプロピルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛、ブチルキサントゲン酸亜鉛等のキサントゲン酸系架橋促進剤等を、例示することが出来る。
【0045】
なお、上述してきた各成分を用いた弾性層用材料の調製は、沸点が150〜220℃である溶媒に対して、ゴム材料や架橋剤等を各々、所定の割合において配合し、混合及び分散せしめることにより行なわれる。尚、そのようにして得られたる液状の弾性層用材料を用いて、ディスペンサコーティング法に従って弾性層6を形成せしめる場合には、通常、材料の粘度が1000〜70000mPa・sとなるように、調製される。
【0046】
また、かかる弾性層材料を用いて形成される弾性層の厚さは、10〜1000μmが好ましい。10μm未満になると、ベルト表面の変形域が減少する為、凹凸紙へのベルト表面追従性が低下し、トナー転写性が悪化するようになり、1000μmより厚くなると、ベルト自重により、ユニットへセットした際にたるみが発生するため、ベルト走行が不安定になり、トナーこぼれや画像乱れが発生するからである。
【0047】
ところで、本発明の電子写真機器用無端ベルト2を構成する基層4及び弾性層6は、各々、従来より公知の各種手法に従って作製することが可能であるが、本発明においては、以下に述べるディスペンサコーティング法に従って、基層4及び弾性層6を作製することが好ましい。以下、ディスペンサコーティング法に従って、本発明の電子写真機器用無端ベルト2を製造する場合について詳述する。
【0048】
先ず、軸中心に回転可能な円筒状乃至は円柱状の基体と、二つのノズル(第1ノズル、第2ノズル)と、二つの材料タンク(第1材料タンク、第2材料タンク)とを有するディスペンサを準備する。二つのノズル(第1ノズル、第2ノズル)は、基体の外周面と近接する位置で、基体の軸方向に沿って移動可能に配置される。その一方、液状の基層用材料及び液状の弾性層用材料を調製し、基層用材料を第1材料タンクに、弾性層用材料を第2材料タンクに、各々、収容する。なお、基体の外径は、最終的に得られる電子写真機器用無端ベルト2の仕様に応じて決定され、通常、30〜350mmである。また、ノズル径は0.5〜2.0mmであるノズルが、一般的に用いられる。
【0049】
次いで、例えば、特許第3855896号(図2等)に記載の方法のように、円筒状の基体を垂直にした状態で、軸中心に回転させる。かかる基体を回転させた状態で、基層用材料が収容された第1材料タンクから、内蔵する基層用材料を第1ノズルに送り、かかる第1ノズルから、基体の外周面に対して基層用材料を吐出させる。この基層用材料の吐出と同時に、第1ノズルを、基体の軸方向に沿って一定速度で移動させる。これによって、基体の外周面には、基層用材料からなる一定幅の帯(塗膜)が、らせん状に形成されるのであり、第1ノズルを基体の一方の端部側から他方の端部側へ移動せしめることによって、基体の外周面には、基層用材料のらせん状塗膜の連続からなる全体塗膜が形成されるのである。基層用材料のらせん状塗膜は、通常、上側の帯と下側の帯との間に所定の間隔が生ずるように、基体の外周面上に形成される。
【0050】
そのようにして基体の外周面上に形成された、基層用材料からなる全体塗膜に対して、所定条件にて加熱処理を施し、溶媒を除去することにより、先ず、基層が形成される。
【0051】
その後、外周面上に基層が形成された基体を、先程と同様に、軸中心に回転させる。基体を軸中心に回転させた状態で、弾性層用材料が収容された第2材料タンクから、内蔵する弾性層用材料を、基体の外周面(形成された基層の表面)に近接する第2ノズルに送り、かかる第2ノズルから、基体の外周面上の基層に対して、弾性層用材料を吐出させる。この弾性層用材料の吐出と同時に、第2ノズルを、基体の軸方向に沿って一定速度で移動させる。これによって、基体の外周面に形成された基層の表面に、弾性層用材料からなる一定幅の帯(塗膜)が、らせん状に形成されるのであり、第2ノズルを基体の一方の端部側から他方の端部側へ移動せしめることによって、基体の外周面上の基層には、その表面に、弾性層用材料のらせん状塗膜の連続からなる全体塗膜が形成されるのである。尚、本発明において、弾性層が薄すぎると、弾性層を設けることによる効果(ベルト表面の柔軟性の確保)を有利に享受し得ない恐れがあり、その一方で、弾性層が厚すぎると、加熱処理に時間がかかるため実用的ではなく、また、層内で架橋と脱溶媒が同時に起こる部分が生じ、気泡が発生して表面平滑性を悪化させる恐れがある。このため、本発明においては、厚さが10〜1000μmの弾性層が得られるように、弾性層用材料からなる全体塗膜が形成されることが好ましい。
【0052】
そして、得られた全体塗膜に対して、弾性層用材料を構成するゴム材料及び架橋剤に応じた加熱処理を施すことによって、基層4の表面に弾性層6が設けられてなる電子写真機器用無端ベルト2が得られるのである。尚、かかる加熱処理としては、以下の如き加熱方法を例示することが出来る。1)先ず、弾性層形成材料の配合(特にゴム材料及び架橋剤の種類や配合割合)に基づいて、所定の温度:X℃を設定すると共に、弾性層形成材料を構成する溶媒の沸点以上の温度:Y℃を設定する(X<Y)。2)基層4の表面に形成された全体塗膜を温度:X℃まで加熱し、所定時間、温度:X℃で保持した後、全体塗膜を温度:Y℃まで更に加熱し、所定時間、温度:Y℃で保持することにより、弾性層形成材料の架橋を完成させる方法である。
【0053】
なお、上述の如きディスペンサコーティング法に従って、基層4及び弾性層6を作製する際の各種条件、具体的には、基体の回転速度、ノズルの移動速度及び各材料の吐出量等は、使用する基層用材料及び弾性層用材料に応じた条件が適宜に選択されて、採用される。
【0054】
また、上述してきた手法においては、円筒状の基体に代えて、中実の円柱状基体を用いることも可能であるが、回転部の負担を軽く出来るという観点から、円筒状基体が有利に用いられる。具体的には、鉄、アルミニウム、ステンレス等の金属製のドラム等が、好適に用いられ得る。
【0055】
さらに、液状材料(基層用材料、弾性層用材料)を吐出するためのノズルとしては、ニードルノズル等が用いられ、その吐出部形状は、丸形状、平形形状、矩形状等のものを用いることが出来る。
【0056】
そのようにして得られた電子写真機器用無端ベルト2にあっては、弾性層6内における気泡の発生(気泡の抱き込み)が有利に抑制され、かかる弾性層6の表面(ベルト2の表面)の平滑性が優れたものとなっているのである。
【0057】
ところで、本発明においては、中間転写ベルトとして用いた際により優れた耐トナー付着性を発揮させることを目的として、上述の如くして得られた基層4及び弾性層6からなる2層構造のベルトの表面(弾性層6の表面)に、所定の表面処理を施したり、或いは保護層としての表層を更に設けることも可能である。以下、弾性層の表面処理、及び表層の形成について説明する。
【0058】
A.弾性層の表面処理
本発明においては、弾性層の表面処理を行なう際に、(α)下記一般式(I)で表わされる塩素化合物、(β)分子内に−CONCl−構造を有する塩素化合物、及び、BF3 が有利に用いられる。
X(OCl)n ・・・(I)
[但し、上記式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子 又はアルキル基を表わし、nは正の整数を表わす。]
【0059】
具体的には、(α)上記一般式(I)で表わされる塩素化合物において、アルカリ金属原子としては、リチウム、ナトリウム及びカリウム等の各原子を、また、アルカリ土類金属原子としては、マグネシウムやカルシウム等の各原子を、更に、アルキル基としては、メチル基、エチル基、第三級ブチル基、トリフルオロメチル基等を、例示することが出来る。
【0060】
そのような一般式(I)で表わされる化合物としては、具体的に、メチルハイポクロライド、エチルハイポクロライド、第三級ブチルハイポクロライド、トリフルオロメチルハイポクロライド等のアルキルハイポクロライドや、メチルハイポフルオライド、エチルハイポフルオライド、第三級ブチルハイポフルオライド、トリフルオロメチルハイポフルオライド等のアルキルハイポフルオライド等といった、アルキルハイポハライドや、次亜塩素酸、更に、次亜塩素酸リチウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸塩等を、例示することが出来る。なお、これらを2種以上、併用することも可能である。
【0061】
また、(β)分子内に−CONCl−構造を有する塩素化合物としては、具体的に、N−クロロスクシンイミドやN−クロロフタルイミド等の酸イミドハロゲン化合物、トリクロロイソシアヌル酸やジクロロイソシアヌル酸等のイソシアヌル酸ハライド、ジクロロジメチルヒダントイン等のハロゲン化ヒダントイン等を、例示することが出来る。なお、これらにあっても、2種以上のものを併用することは可能である。
【0062】
本発明においては、表面処理前の弾性層に対して、1)上記化合物(α)及び(β)からなる群より選ばれた一種又は二種以上を用いて、或いは、2)上記化合物(α)及び(β)からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを用いて、表面処理を実施することが好ましい。かかる表面処理は、それら化合物を、処理前の弾性層に対して接触せしめることによって実施されることとなるが、好ましくは、接触せしめる化合物を、水又は所定の有機溶媒に溶解乃至は分散させてなる処理液を調製し、かかる処理液を弾性層の表面に接触させることによって実施することが望ましい。
【0063】
なお、処理液の調製に用いられる溶媒としては、水や、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ヘキサン、メタノール、エタノール、プロパノール、第三級ブタノール、イソプロピルアルコール、ジエチルエーテル、N−メチル−2−ピロリドン等を、例示することが出来る。また、処理液中の上記化合物の含有量は、ベルト表面が全面に亘って充分に処理され得る量であれば、特に限定されるものではないが、一般に、各化合物の濃度が、0.01〜40重量%程度となるように、処理液が調製される。このような濃度に調製された処理液を用いることによって、表面処理後の弾性層の表面が、適度な硬度を維持しつつ、耐トナー付着性の向上がより図られたものとなるのである。
【0064】
上記化合物(α)及び(β)からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを用いて、表面処理を実施する場合、それらを所定の溶媒にて混合してなる一の処理液であっても、また、それらを個別に所定の溶媒に混合して、二以上の処理液とした場合であっても、本発明においては使用することが可能である。なお、このように、化合物(α)及び化合物(β)からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを、所定の溶媒に混合して、一の処理液を調製する場合、化合物(α)及び化合物(β)からなる群より選ばれた一種又は二種以上の化合物(ここではXと総称する)と、BF3 との重量比は適宜に決定されるが、好ましい範囲として、X:BF3 =1:99〜90:10(重量比)を例示することが出来る。これらの範囲内では、弾性層を構成する架橋ゴムへの反応性と、弾性層表面に対するBF3 によるフッ素原子の導入効果とのバランスが、優れたものとなるからである。
【0065】
なお、上述の如き所定の処理液を用いて、弾性層の表面処理を実施する際は、通常、室温付近で実施されることとなるが、必要に応じて、高温下において、処理液を弾性層表面に接触せしめることも可能である。
【0066】
また、処理液を弾性層表面に接触せしめる方法は、特に限定されるものではなく、従来より公知の種々の方法を採用することが可能である。具体的には、表面処理前ベルトに処理液を塗工する方法や、ロールに処理液を吹き付ける方法等が挙げられる。特に、上述した手法に従って、円筒状基体の表面に表面処理前ベルトを作製した場合には、かかる表面処理前ベルトが形成された円筒状基体を、表面処理前ベルトの少なくとも一部が所定の槽内の処理液と接するように配置し、かかる状態にて、円筒状基体を軸中心に回転せしめることによって、表面処理前ベルトの全面に亘って処理液を接触せしめる方法が、有利に採用される。
【0067】
以上のようにして、処理液を表面処理前ベルトの表面に接触せしめることにより、(処理前の)弾性層を構成する架橋ゴム中の不飽和結合が効果的に切断され、下記一般式(I)で表わされる塩素化合物及び分子内に−CONCl−構造を有する塩素化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上の化合物に由来する塩素原子(及びBF3 に由来するフッ素原子)が、架橋ゴムの分子構造中に効果的に導入され、以て、かかる表面処理後の弾性層は、充分な柔軟性を有すると共に、耐トナー付着性がより一層、向上されたものとなるのである。
X(OCl)n ・・・(I)
[但し、上記式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子 又はアルキル基を表わし、nは正の整数を表わす。]
【0068】
そして、表面処理前ベルトの表面に処理液を接触せしめた後、かかる表面を、水を含む液体で洗浄し、必要に応じて、エアーブロー等で水滴を除去することにより、本発明に係る電子写真機器用無端ベルトが得られるのである。なお、かかる洗浄の際における洗浄時間等の条件は、適宜に決定されることとなる。
【0069】
B.表層の形成
保護層としての表層は、合成樹脂材料を主成分とする材料を用いて、従来より公知の各種手法に従って作製することが可能である。具体的に、合成樹脂材料としては、アクリルフッ素樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等を例示することが出来、一般には、表層を形成する際の作業性を考慮して、液状又は溶剤可溶タイプの合成樹脂材料が有利に用いられる。また、ベルト表面の汚れ防止、表層の強度や密着性を向上させるべく、前述の合成樹脂材料を変性した材料も使用可能である。それら合成樹脂材料等に対しては、好ましくは樹脂架橋剤が配合される。樹脂架橋剤としては、上述したフェノール樹脂等に加えて、感光性モノマー又は感光性ポリマーに光重合剤を混合せしめてなる紫外線硬化型材料についても、使用することが出来る。
【0070】
以上、詳述してきたように、本発明に従う電子写真機器用無端ベルトにあっては、弾性層用材料において、1)沸点が所定の範囲内である溶媒を用いていることから、架橋がある程度、進行した後に溶媒の除去(脱溶媒)が進行することとなり、また、2)所定の平均粒子径を有する無機フィラーが所定の割合にて配合せしめられていることにより、(半)架橋物内に溶媒の抜け道となる隙間が効果的に形成され得ることから、架橋物たる弾性層内における気泡の発生(気泡の抱き込み)が有利に抑制され、以て、表面平滑性が優れたものとなるのである。
【実施例】
【0071】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0072】
−基層用材料の調製−
ポリアミドイミド樹脂(PAI)として東洋紡績株式会社製のバイロマックスHR-16NN (商品名)を準備し、かかるポリアミドイミド樹脂:100重量部と、カーボンブラック:10重量部とを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP):800重量部に配合して、混合することにより、液状の基層用材料を調製した。
【0073】
−弾性層用材料の調製−
下記表1、表2に示すように、各成分を各割合にて配合し、混合することにより、液状の弾性層用材料を17種類、調製した。なお、かかる調製に際して使用した各成分は、以下の通りである。
・クロロプレンゴム(CR):ショウプレンSND16 (商品名)、昭和電工株式会社製
・アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)
:JSR N239SV(商品名)、JSR株式会社製
・エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)
:三井EPT (商品名)、三井化学株式会社製
・亜鉛華(架橋剤)
・酸化マグネシウム(架橋剤)
・硫黄(架橋剤)
・架橋促進剤A:サンセラー22-C(商品名)、三新化学工業株式会社製
・架橋促進剤B:サンセラーTT(商品名)、三新化学工業株式会社製
・樹脂架橋剤:ノボラックフェノール樹脂N-775(商品名)、DIC株式会社製
・シリカ:ML-644(商品名、平均粒子径:2μm)、株式会社東海化学工業製
・無機系難燃剤A(水酸化アルミニウム)
:B-303 (商品名、平均粒子径:3.8μm)、巴工業株式会社製
・無機系難燃剤B(水酸化マグネシウム)
:キスマ5A(商品名、平均粒子径:0.8μm)、協和化学株式会社製
・無機系難燃剤C(三酸化アンチモン)
:PATOX-M (商品名、平均粒子径:0.5μm)、日本精鉱株式会社製
・無機系難燃剤D(水酸化アルミニウム)
:NOC-308 (商品名、平均粒子径:8μm)、巴工業株式会社製
・有機系難燃剤:TMP (商品名)、大八化学工業株式会社製
・イオン導電剤:PEL-20A (商品名)、日本カーリット株式会社製
・溶媒A:Solvesso#150(沸点:183℃)
・溶媒B:アノン(沸点:155.7℃)
・溶媒C:トルエン(沸点:110℃)
【0074】
−ベルトの作製−
基体として、アルミニウム製の円筒状金型を準備する一方、2つのノズルを有するディスペンサ(液体定量吐出装置)を準備した。かかるディスペンサのノズルは、内径φ:1mmのニードルノズルである。次いで、先に準備した液状の基層用材料及び弾性層用材料を、それぞれ別の材料タンクに収容し、金型の外周面とノズルとのクリアランスを1mmとして、金型及びノズルをセットした。金型を垂直にした状態で、回転数:200rpmで軸中心に回転させながら、基層用材料を吐出するノズルを、1mm/secの移動速度にて軸方向下方に移動させると共に、材料タンクに0.4MPaの圧力をかけて基層用材料をノズルに圧送し、かかるノズルから基層用材料を吐出せしめて、金型の外周面上にらせん状にコーティングし、らせん状塗膜の連続からなる全体塗膜を形成した。なお、形成された全体塗膜の厚さは80μmであった。形成された全体塗膜に対して、加熱処理(常温→250℃:2時間、250℃:1時間)を施すことにより、金型の外周面上に基層を形成せしめた。
【0075】
次いで、かかる基層が形成された金型を、回転数:200rpmで軸中心に回転させながら、弾性層用材料を吐出するノズルを、1mm/secの移動速度にて軸方向に沿って移動させると共に、エアー加圧タンクに0.8MPaの圧力をかけて弾性層用材料をノズルに圧送し、かかるノズルから弾性層用材料を吐出せしめて、金型の外周面上にある基層の表面にらせん状にコーティングし、らせん状塗膜の連続からなる全体塗膜を形成した。なお、形成された全体塗膜の厚さは、実施例1〜11及び比較例1〜5では170μm、実施例12では10μmであった。
【0076】
形成された各弾性層用材料からなる塗膜に対して、以下に示す加熱処理を実施した。
1)溶媒A又は溶媒Bを用いて調製された弾性層用材料について
a)ゴム材料としてCRを用い、架橋剤として金属酸化物を用いた材料(以下、CR /金属酸化物系材料と表現する)、NBR/硫黄系材料及びEPDM/硫黄系材料 については、60分の間に常温から150℃まで昇温し、150℃で30分、保持 した後、更に、60分の間に、溶媒A(Solvesso#150)を用いた材料 については195℃まで、溶媒B(アノン)を用いた材料については170℃まで 、それぞれ昇温し、各温度にて30分、保持した。
b)NBR/樹脂架橋剤系材料については、60分の間に常温から130℃まで昇温 し、130℃で30分、保持した後、更に、60分の間に、溶媒A(Solves so#150)を用いた材料については195℃まで、溶媒B(アノン)を用いた 材料については170℃まで、それぞれ昇温し、各温度にて30分、保持した。
2)溶媒Cを用いて調製された弾性層用材料について
60分の間に常温から120℃まで昇温し、120℃で30分、保持した後、更に 、30分の間に、CR/金属酸化物系材料については150℃まで、NBR/樹脂架 橋剤系材料については130℃まで、それぞれ昇温し、各温度にて30分、保持した 。
【0077】
−表層の形成−
得られたベルトの一部に表層を設けた(実施例1〜4、12、比較例1〜5)。先ず、溶媒としてのトルエンに、各成分を下記に示す各割合で配合してなる液状の表層用材料(固形分:15%)とを調製した。
・アクリル樹脂 70重量部
[根上工業株式会社製、プレコート200 (商品名)]
・フッ素変性アクリレート樹脂 30重量部
[DIC株式会社製、ディフェンサ TR230K (商品名)]
・架橋剤 2重量部
[旭化成株式会社製、デュラネート TPA-B80E (商品名)]
・カーボンブラック 20重量部
[三菱化学株式会社製、カーボンブラック MA-100 (商品名)]
【0078】
調製した表層用材料を、所定のベルト(弾性層)の表面に塗工し、その後、150℃で0.5時間、加熱処理を施すことにより、実施例1〜4、12及び比較例1〜5の各ベルトに、アクリルフッ素樹脂からなる表層(厚さ:6μm)を、それぞれ設けた。
【0079】
−弾性層の表面処理−
得られたベルトのうち、所定のもの(実施例5〜11)に対して、弾性層の表面処理を行なった。先ず、酢酸エチルとターシャリーブチルアルコール(TBA)との混合溶媒[酢酸エチル:TBA=9:1(重量比)]に、各成分を下に示す各割合で配合し、表面処理液A(固形分:2%)及び表面処理液B(固形分:2%)を調製した。
〔表面処理液A〕
・次亜塩素酸t−ブチル 2重量部
・酢酸エチル 9.8重量部
・ターシャリーブチルアルコール 88.2重量部
〔表面処理液B〕
・三フッ化ホウ素−ジエチルエーテル錯体 2重量部
・酢酸エチル 9.8重量部
・ターシャリーブチルアルコール 88.2重量部
【0080】
表面処理液Aと表面処理液Bとの混合溶液を用いて、大気雰囲気中、室温下にて、所定のベルトの表面にローラー塗工せしめた後(塗工時間:30秒)、ベルト表面を水で洗浄し、エアーブローにより水滴を除去した。
【0081】
以上より、17種類の電子写真機器用無端ベルト(実施例1〜12、比較例1〜5)を作製した。そして、得られた17種類のベルトの各特性を、以下の手法に従って測定、乃至は評価した。
【0082】
−表面平滑性の評価−
JIS−B−0601に準じて、株式会社東京精密製の表面粗さ測定機(サーフコム1400D :商品名)を用いて、ベルト表面の表面粗さ:Rz(μm)を測定した。測定されたRzが3以下の場合は○と、3を超える場合には×と評価した。各ベルトについての評価結果を、下記表1及び表2に併せて示す。
【0083】
−画像評価−
得られたベルトを、市販のマルチファンクションプリンタ(富士ゼロックス株式会社製、商品名:DocuCentre-IV C2260)に中間転写ベルトとして組み込み、23.5℃×53%RHの環境下、さざ波紙に対して画像出し(テストパターン印刷)を行なった。得られた画像を目視で観察し、白点画像や未転写部分等の画像不具合が認められない場合には○と、画像不具合が認められる場合には×と評価した。各ベルトについての評価結果を、下記表1及び表2に併せて示す。
【0084】
−難燃性の評価−
3本の試験片を用いた以外は米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ・INC.(UL)が規定したUL規格94(第5版、第11章)に準じて、VTM燃焼性試験を行なった。具体的には、ベルトより切り出したフィルム状の試験片を円筒状に巻き、クランプする側の端部から反対側の端部に向かって75mmの位置まで粘着テープ又はニクロム線にて固定し、かかる状態の試験片をクランプに垂直に取り付け、20mmの炎による3秒間の接炎を2回、行ない、その燃焼挙動を下記表3に示す判定条件に従って判定した。なお、かかる表3から明らかなように、VTM−0が最も優れた難燃性を示すものであり、以下、VTM−1、VTM−2となり、VTM−2を超える場合はNotとなる。VTM−0又はVTM−1と判定されたベルトを○と、それら以外の判定(VTM−2又はNot)とされたベルトを×と評価した。各ベルトについての評価結果を、下記表1及び表2に併せて示す。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
かかる表1及び表2からも明らかなように、本発明に従う電子写真機器用無端ベルト(実施例1〜12)にあっては、何れも、表面平滑性に優れており、中間転写ベルトとして用いた場合には優れた耐トナー付着性を発揮し、画像不具合の発生を効果的に抑制し得るものであることが、確認されたのである。
【符号の説明】
【0089】
2 電子写真機器用無端ベルト 4 基層
6 弾性層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層の表面に弾性層が設けられてなる電子写真機器用無端ベルトにして、
前記弾性層が、沸点が150〜220℃である溶媒に、ゴム材料、架橋剤、及び平均粒子径が7μm以下である無機フィラーが配合されてなる液状の弾性層用材料を用いて形成されており、該無機フィラーが、前記ゴム材料の100重量部に対して30〜150重量部の割合において配合されていることを特徴とする電子写真機器用無端ベルト。
【請求項2】
前記弾性層の厚さが10〜1000μmである請求項1に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項3】
前記架橋剤が金属酸化物、硫黄又は樹脂架橋剤である請求項1又は請求項2に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項4】
前記無機フィラーがシリカ又は無機系難燃剤である請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項5】
前記弾性層用材料に有機系難燃剤が配合されている請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項6】
前記弾性層がディスペンサコーティング法に従って形成されている請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項7】
前記ゴム材料がCR、NBR又はEPDMである請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項8】
前記基層が、合成樹脂材料を主成分とする液状の基層用材料を用いて、ディスペンサコーティング法に従って形成されている請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項9】
前記合成樹脂材料がポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂である請求項8に記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項10】
前記弾性層に、下記一般式(I)で表わされる塩素化合物及び分子内に−CONCl−構造を有する化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを用いて、表面処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れか1項に記載の電子写真機器用無端ベルト。
X(OCl)n ・・・(I)
[但し、上記式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子 又はアルキル基を表わし、nは正の整数を表わす。]
【請求項11】
前記弾性層の表面に、アクリルフッ素樹脂からなる表層が設けられている請求項1乃至請求項9の何れか1項に記載の電子写真機器用無端ベルト。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−197660(P2011−197660A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36552(P2011−36552)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】