説明

電子写真現像用キャリアおよび電子写真現像剤

【課題】電子写真現像機の進歩により、顕在化してきた画像特性の悪化、特に割れ欠けに起因するキャリア飛散を抑制するとともに、高磁力、低残留磁化のキャリア粉を提供する。
【解決手段】粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下であるキャリア粒子が、全キャリア粒子の80%以上を占める電子写真現像剤用キャリアを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真現像剤に用いられるキャリア、および、当該キャリアを含む電子写真現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真現像の分野において、近年、高画質化、フルカラー化と同様、大量高速印刷へのニーズが増加している。それに伴い、現像機の高速化が急速に進み、攪拌による現像剤の受けるストレスは確実に増大している。攪拌ストレスの増加による弊害として、電子写真現像剤用キャリア(以下、単にキャリアと記載する場合がある)の耐久性の低下、すなわち当該キャリア粒子の割れや欠けによる、キャリアの微粉が発生し易くなる。当該キャリア微粉は、磁気ブラシから離脱し易くなりことが知られている。これらのキャリア微粉は、感光体に飛散・付着することにより、電子写真上に白筋等の画像欠陥が生じたり、付着したキャリア微粉が、感光体やクリーニングブレードを傷つけ画質の低下を招くことも知られている。そこで、当該キャリア微粉の飛散を防ぐために、キャリア粒子毎の強度を向上させた、機械的衝撃に強いキャリアの使用や、飽和磁化の高いキャリアを使用した磁気ブラシを形成させることより、キャリア飛びの起き難い現像システムが開発されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1は、フェライト分子の構造中に存在する不純物(当該特許文献では塩素)の作用による格子欠陥の発生に着目した発明である。格子欠陥部でフェライト分子同士が強固接着するという効果を狙い、FeCl、FeCl、MgCl、ZnClなどの塩素系金属化合物を原料としたフェライトキャリアを提案している。当該フェライトキャリアを使用した現像機では、数十万レベルの多枚数のプリントを行っても、キャリア粒子が割れたり、欠けたりすることが無い旨、記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、軽量で剛性に富むキャリア粒子を得る為に、球状コアの内部を多数の均一微細空孔を持つ構造にした後、微細空孔の一部を金属鉄にすることが提案されている。そして、当該金属鉄によりキャリア粒子へ剛性を付与することで、圧潰強度が飛躍的に向上する旨、記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−267345号公報
【特許文献2】特開平2−146061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上説明したように、特許文献1には、含有する塩素元素を調整したキャリア粒子が、割れ・欠けの少ない特徴を持つ旨が、特許文献2には、微細空孔を金属鉄に還元することにより、キャリア粒子の強度を向上させることが出来る旨が、それぞれ記載されている。しかし、本発明者らの検討によれば、たとえ、特許文献1、2に記載のキャリアを用いた電子写真現像剤であっても、当該キャリア粒子を小粒径化すると、画像の鮮明性に大きく影響を及ぼすキャリア飛散が発生するという問題が発生することを見出した。その主要因は、特許文献1、2のキャリア粒子には、表面に微細な凹凸が形成されているため、繰返しの攪拌ストレスを受けた際に、当該表面の微細な凹凸部が剥がれ落ちたり、割れたりしながらキャリア微粉が生成する。そして、当該キャリア微粉が、磁気ブラシを脱離してしまうことにあると考えられる。
【0007】
ここで、キャリア粒子強度の向上のため、製造時の焼結工程において強い焼結を行うこ
とが考えられた。しかし、キャリア粒子を強く焼結してしまうと、当該焼結工程においてキャリア粒子同士の会合が発生する。そして、当該キャリア粒子同士の会合部は、解砕工程において、キャリア粒子同士が離脱する際にエッジ部化し、エッジ部を有するキャリア粒子となってしまう。このようなエッジ部を有するキャリア粒子は、電子写真現像機内で攪拌される際に、当該エッジ部が攪拌ストレスにより割れ欠けを起こし易くなる。
【0008】
一方、マグネタイト系キャリアの場合は、焼成条件によって、容易に高い飽和磁化のキャリアを得ることが可能である。しかし、当該焼成条件によって、十分にグレインが成長しない場合、粒子内に出来るグレインの数が増え、多数の磁区の存在に起因する残留磁化の増加が問題となる。残留磁化の増加は、現像機内の粒子凝集を引き起こし、現像機内のキャリア粉の流動性を阻害し、安定した磁気ブラシの形成を阻害するばかりか、トナーとの混合性が悪化し、画像特性を低下させる。
【0009】
本発明は上述の状況の下に成されたものであり、その解決しようとする課題は、キャリア粒子強度が高く、高速攪拌によるストレスを受けても割れ欠けが少ないキャリア粒子から構成され、且つ、高磁力を維持しながら残留磁化の小さいキャリア粉、さらに当該キャリア粉を含む電子写真現像剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、高い粒子強度を有するキャリア粒子から構成され、高磁力と低残留磁化とを併せ持つキャリア粉について研究を行った。その検討の結果、まず、キャリア粒子をSEM等によって観察して得た画像において、当該粒子表面に確認出来るグレインの数(本発明において、「粒子表面のグレイン数」と記載する場合がある。)のより少ないキャリア粒子が、粒子の割れ欠けを起こさず、良好な強度性能を示すことに想到した。ここで、本発明において粒子表面のグレイン数は、上記画像において、キャリア粒子表面にある粒状の隆起部分の数として測定される。
【0011】
ここで本発明者らは、さらに研究を続け、当該粒子表面のグレイン数を、20個以下に低減することで高磁力と低残留磁化を併せ持つキャリア粉を得ることができることに想到した。
一方、本発明者らは、当該粒子表面のグレイン数を最も低減し、キャリア粒子1個を1個のグレインと考えることの出来る、所謂、真球状キャリア粒子では、電子写真現像の際、粒子が大きく破砕される問題があることにも想到した。これは、電子写真現像の際、グレインに応力が加わった際、当該応力がグレイン内部を伝達され、最も弱い部分が破壊される為であると考えられる。そして、本発明者らは、当該粒子表面のグレイン数が複数あれば、当該応力がグレイン間の境界で緩和され、当該球状キャリアの問題点が起きないことを見出した。
【0012】
さらに、本発明者らは、上述した、粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下であるキャリア粒子が、全キャリア粒子の80%以上を占めていれば、当該キャリア粉を含む現像剤を使用することによりキャリア飛散を抑制出来ることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、課題を解決するための第1の手段は、
粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下であるキャリア粒子が、全キャリア粒子の80%以上を占めることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア粉である。
【0014】
第2の手段は、
飽和磁化が、60Am/kg以上であることを特徴とする第1の手段に記載の電子写真現像剤用キャリア粉である。
【0015】
第3の手段は、
残留磁化が、1.5Am/kg以下であることを特徴とする第1の手段または第2の手段に記載の電子写真現像剤用キャリア粉である。
【0016】
第4の手段は、
第1〜第3のいずれか1の手段に記載の電子写真現像剤用キャリア粉を含むことを特徴とする電子写真現像剤である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る電子写真現像剤用キャリア粉は、一粒子毎の強度が高く、高磁力かつ残留磁化が低いので、当該キャリア粉を含む現像剤を使用することによりキャリア飛散を抑制することが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、後述する実施例1に係るキャリア粉に含まれるキャリア粒子表面の3,000
倍のSEM写真である。当該粒子の場合、粒子表面にある粒状の隆起部分(表面の凸部のうち、凹状の筋により囲まれた一区分)の数から、粒子表面のグレイン数は3個であると計測された。当該SEM写真のようなキャリア粒子を、少なくとも30粒選択し、存在が確認できる粒子表面のグレイン数を目視にてカウントした。尚、比較の為、従来の技術に係るキャリア粉に含まれるキャリア粒子表面の3,000倍のSEM写真の1例を、図2
に示す。
【0019】
具体的には、例えば、後述する実施例1に係るキャリア粒子を、SEM(日本電子製JSM−5200)を用いて、500倍の倍率で撮影した後、少なくとも30個の粒子を無作為に選ぶ。そして当該選ばれた粒子を対象として、倍率を2000〜3000倍に上げ、1粒子当りの粒子表面のグレイン数を計測した。そして、計測した粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下である粒子の数を測定した。そして無作為に選んだ粒子の内、何%の粒子が、粒子表面のグレイン数において2個以上、20個以下を満足するかを算定した。その結果、実施例1に係るキャリア粉においては、その比率が92%と極めて高い比率であった。
【0020】
ここで、本発明者らは、当該実施例1に係るキャリア粒子を、バッチを変えて複数回製造した。そして、製造された粒子から無作為に選んだ粒子の内、何%の粒子が、粒子表面のグレイン数において2個以上、20個以下を満足するかを算定した。その結果、実施例1に係るキャリア粉においては、バッチを変えても、その比率が80%以上であることが判明した。
【0021】
次に、本発明者らは、製造条件を変えて、粒子表面のグレイン数が様々な数であるキャリア粒子を、含むキャリア粉の試料を製造した。そして、当該粒子表面のグレイン数と、キャリア粉の磁気特性、キャリア飛散量比率、および微粉粒子の増加率との関係を調査した。
【0022】
その結果、粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下であるキャリア粒子が、全キャリア粒子の80%以上を占めていれば、飽和磁化σsは89.6〜90.8Am/kg、σ1kは67.0〜68.1Am/kg、残留磁化σrは0.88〜0.98Am/kgで、飽和磁化σsは、いずれも60Am/kg以上あった。
【0023】
次に、当該キャリア粉を、直径50mm、表面磁場1000ガウスのマグネットロール上に充填し、磁気ブラシを形成させた後、270rpmで30分間回転させ、飛散した粒
子の重量を測定し、実施例1に係るキャリア粉の飛散量を1と規格化したときの、キャリア飛散量比率を算出した。その結果、本実施の形態に係るキャリア粉では、キャリア飛散量比率が1.0〜1.8あることが確認された。
【0024】
次に、当該キャリア粉を100g採取し、サンプルミル(協立理工製SK−M10型)に充填し、設定値70の回転数で40秒間処理し、粒子に機械的ストレスを付加した後、粉体吸引器(サンキョウパイオテック製STC−1−C1)により、吸引圧9.0kPa、120秒間の条件で、粉体を吸引し、500メッシュを通過する粉体の量を計測した。サンプルミル未処理粉の吸引前後の重量変化と、サンプルミル処理後粉の吸引前後の重量変化との差から、サンプルミル処理による微粉粒子の増加率を算出した。その結果、当該キャリア粉では、微粉粒子の増加率が1.4〜1.7%であることが確認された。
【0025】
以上のことから、本実施の形態に係る、全構成粒子の80%以上において表面のグレイン数が2個以上、20個以下であるキャリア粉は、飽和磁化σs、1000Oeでの磁化σ1kが高く、かつ残留磁化σrが低く、さらに、表面の割れ欠けの起こりにくいキャリア粉であることが判明した。そして、当該キャリア粒子を含むキャリア粉をキャリア飛散試験機にて評価した場合、従来のキャリア粒子と比較し、特にキャリア飛散特性が優れていることが判明した。
【0026】
これらの効果は、粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下のキャリア粒子においては、表面に大きな凸部が無いことや、残留磁化が低く、当該キャリア粒子の磁気凝集が抑制出来るため、現像機内の攪拌によるキャリア粒子の衝突応力が緩和され、表面から離脱する微細な粒子破片の発生を低減することを示している。
【0027】
また、粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下のキャリア粒子においては、非常に緻密なグレインが形成され、かつ磁区の数も少ないことから、高磁力で且つ残留磁化の低い特性を併せ持つことが出来る。これらの効果により、安定した磁気ブラシを形成し、トナーとの混合性が良好で、且つキャリア飛散の少ない現像剤を提供することが出来るのであると考えられる。
【0028】
他方、当該粒子表面のグレイン数を最も低減し、キャリア粒子1個を1個のグレインと考えることの出来きる、所謂、真球状キャリア粒子について説明する。
ここで、真球状キャリアは、プロパンガスと酸素とを混合して燃焼させた火炎内に、焼成後のキャリア粒子を通過させて製造したものである。当該焼成後のキャリア粒子は、火炎内通過の際に、粒子表面のグレインの凹凸が溶解し真球状キャリア粒子が得られる。
本発明者らは、当該球状キャリア粒子を製造して、キャリア粉の磁気特性、キャリア飛散量比率、および微粉粒子の増加率との関係を調査した。
【0029】
すると、当該真球状キャリア粒子は、火炎内通過処理前のキャリア粒子より磁力が低下し、且つキャリア飛散量が増加することが判明した。これは、粒子全体が1個のグレインである場合は、応力がグレイン内部を伝達し、当該球状キャリア粒子における最も弱い部分が大きく破壊される為であると考えられる。
【0030】
これに対し、本発明者らは、当該粒子表面のグレイン数が複数あれば、当該球状キャリア粒子の問題点が起きないことを見出した。これは、粒子表面のグレイン数が2個以上の場合、キャリア粒子に応力が掛かっても当該応力が、複数のグレインによって形成される粒界の3重点を通過する際に、減衰するからであると考えられる。
以上のことから、粒子表面のグレイン数が、2個以上あることが好ましいのであると考えられる。
【0031】
以上詳細に説明したことから、電子写真現像剤用キャリアにおいて、粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下であるキャリア粒子が、全キャリア粒子の80%以上を占めると当該キャリア粉を含む現像剤を使用することによりキャリア飛散を抑制することが出来ることが判明した。
【0032】
次に、本発明に係るキャリア粉の製造方法について説明する。
[秤量・混合]
本発明に係るキャリア粉が含むキャリア粒子に用いられる磁性酸化物(ソフトフェライトであることが好ましい。)は、一般式:MO・Feであらわされる。ここでMとは、例えば、Fe、Mn、Mg等の金属である。当該Fe、Mn、Mg等の金属は、単独使用も可能だが、混合組成とすることで、キャリア粒子における磁気的特性の制御可能範囲が広くなることから好ましい構成である。
【0033】
ここで、Mの原料として、FeであればFeが好適に使用できる。また、MnであればMnが好適に使用できるが、これに限られることなくMnCO等も使用可能である。また、MgであればMg(OH)が好適に使用できるが、これに限られることなくMgCOも好適に使用できる。これらの原料の配合比を、該磁性酸化物の目的組成と一致させて秤量し混合して、金属原料混合物を得る。
【0034】
また、各原料は、まだ造粒されていない乾燥状態の段階において、平均粒子径が1.0μm以下に微細化されていることが望ましい。より微細な原料を使用することにより、焼成過程での結晶粒の成長を安定化させ、緻密なグレインの形成を促進し、粒子強度の向上に寄与する。
【0035】
[粉砕・造粒]
秤量・混合したMおよびFeの金属原料混合物を、振動ミル等の粉砕機中に導入し、粒径2μm〜0.2μm、好ましくは粒径0.5μmに粉砕する。次いで、この粉砕物へ、水、バインダー0.5〜2wt%、分散剤0.5〜5wt%を加えることで、固形分濃度が50〜90wt%のスラリーとし、該スラリーをボールミル等で湿式粉砕する。ここで、バインダーとしては、ポリビニルアルコール等が好ましく、分散剤としては、ポリカルボン酸アンモニウム系等が好ましい。また、当該湿式粉砕の回数を増やすことにより、造粒時の粒子密度を向上させることができ、焼成時の緻密なグレインの成長に寄与することができる。その回数は、3回以上、好ましくは5回程度繰り返すのがよい。
【0036】
造粒工程では、当該湿式粉砕されたスラリーを噴霧乾燥機に導入して、温度100℃〜300℃の熱風中に噴霧して乾燥させ、粒径10μm〜200μmの造粒粉を得る。得られた造粒粉は、製品最終粒径を考慮して、それに外れる粗粒および微粉を、振動ふるいで除外して粒度調整する。詳細な理由は後述するが、製品最終粒径は20μm以上、50μm以下であることが好ましいことから、当該造粒粉の粒径は10μm〜100μmに調整しておくことが好ましい。
【0037】
[焼成]
次に、該造粒品を、1000℃〜1300℃に加熱した炉に投入し3時間〜30時間、焼成してフェライト化し焼成物とする。当該焼成時の雰囲気は、金属原料Mの種類により適宜選択される。例えば、金属原料MがFeまたはFeとMn(モル比100:0〜50:50)の場合は低酸素雰囲気が求められる。具体的には、金属原料MがFeおよびMnおよびMgの場合は、酸素分圧を1%以下、より好ましくは0.1%以下に調整した雰囲気が好ましい。ここで、上記焼成条件の制御により、焼成工程においてフェライト化、マグネタイト化が進み、十分な磁力が得られ、冷却中の表面酸化も抑制され、所定の静的電気抵抗が得られることとなる上、本発明の重要な特性であるグレインの成長も進む。
【0038】
[解砕、分級]
得られた焼成物をハンマーミル解粒等で粗粉砕し、次に、当該粗粉砕物を気流分級機で1次分級した。この1次分級物を、さらに振動ふるいまたは超音波ふるいにて粒度をそろえた後、磁場選鉱機にかけ、非磁性成分を除去して、本発明に係る電子写真現像剤用キャリア粉を製造した。
【0039】
ここで、キャリア粒子の最終粒径は10μm以上、50μm以下であることが好ましく、より好ましくは、35μm以下である。これは当該粒径が10μm以上あれば、従来より小粒径に設計されたトナーとの組合せからなる現像剤により、高画質を得ることができるからであり、50μm以下あれば、キャリア粒子のトナー保持能力が高く、べた画像が均一で、トナー飛散量も低減され、カブリが少ないからである。
【0040】
[樹脂被覆]
次に上記工程で得られたキャリア粒子(キャリア芯材)をシリコーン系樹脂等で被覆し、帯電性の付与および耐久性を向上させることで、電子写真現像剤用キャリア粉を得ることが出来る。当該シリコーン系樹脂等の被覆は、公知の手法により行えば良い。
【0041】
[電子写真現像剤]
そして、上記の電子写真現像剤用キャリア粉と、適宜な粒径を有するトナーとを混合することで電子写真現像剤を製造することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
キャリア粉の原料として、微粉砕したFeを準備し、秤量した。この際、予め、振動ミル等の破砕処理により、個数平均粒径1.0μm以下に調整しておいたものを使用した。
一方、水中へ分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム系)を4.0wt%、湿潤剤(サンノプコ(株)製、SNウェット980)を0.05wt%、バインダー(ポリビニルアルコール)を0.02wt%添加したものを準備し、ここへ、先程秤量したFeを投入・攪拌し、濃度80wt%のスラリーを得た。
【0043】
当該スラリーを湿式ボールミルにて湿式粉砕し、この当該湿式粉砕操作を3回繰り返し行った。当該湿式粉砕物をさらに攪拌した後、スプレードライヤーにて噴霧し、粒径10μm〜100μmの乾燥造粒品を製造した。
【0044】
この造粒品を焼成炉に装填し、炉内の酸素濃度を0.03%に調整した窒素ガス雰囲気中で、1200℃3時間焼成した。さらに焼成品をハンマーミルで解砕し、風力分級機を用いて微粉を除去し、さらに網目45μmの振動ふるいで粒度調整して、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック、Model:9320−X100)による個数平均粒径D50が、32.2μmであるキャリア粉試料1を得た。
【0045】
得られた試料1の表面観察結果(SEM写真)を図1に示す。さらに500倍のSEM画像より、30個の粒子を無作為に選び、1粒子当りの粒子表面のグレイン数を測定した。
そして当該粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下である粒子比率(%)を算出し、表1に記載した。また、個数平均粒径D50と磁気特性とを測定し、表1に記載した。
そして、得られた試料1を直径50mm、表面磁場1000ガウスのマグネットロール
上に充填し、磁気ブラシを形成させた後、270rpmで30分間回転させ、飛散した粒子の重量を測定し、当該値を1と規格化した。また、試料1を100g採取し、サンプルミルで破砕した後の微粉粒子の増加率を算出し、表1に記載した。
【0046】
(実施例2)
実施例1のキャリア粉の製造工程において、焼成温度を1170℃として焼成した以外は、実施例1と同様の条件にて、キャリア粉試料2を得た。
【0047】
実施例1と同様に、得られた試料2の1粒子当りの粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下の粒子比率(%)と個数平均粒径D50ならびに磁気特性を表1に記載した。さらに、得られた試料2のキャリア飛散量を測定し、試料1のキャリア飛散量の規格値1に対する比を算出し、表1に記載した。また、試料2をサンプルミルで破砕した後の微粒子の増加率を算出し、表1に記載した。
【0048】
(実施例3)
実施例1のキャリア粉の製造工程において、焼成温度を1150℃として焼成した以外は、実施例1と同様の条件にて、キャリア粉試料3を得た。
【0049】
実施例1と同様に、得られた試料3の1粒子当りの粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下の粒子比率(%)と個数平均粒径D50ならびに磁気特性を表1に記載した。さらに、得られた試料3のキャリア飛散量を測定し、試料1のキャリア飛散量の規格値1に対する比を算出し、表1に記載した。また、試料3をサンプルミルで破砕した後の微粉粒子の増加率を算出し、表1に記載した。
【0050】
(実施例4)
実施例1のキャリア粉の製造工程において、焼成温度を1100℃として焼成した以外は、実施例1と同様の条件にて、キャリア粉試料4を得た。
【0051】
実施例1と同様に、得られた試料4の1粒子当りの粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下の粒子比率(%)と個数平均粒径D50ならびに磁気特性を表1に記載した。さらに、得られた試料4のキャリア飛散量を測定し、試料1のキャリア飛散量の規格値1に対する比を算出し、表1に記載した。また、試料4をサンプルミルで破砕した後の微粉粒子の増加率を算出し、表1に記載した。
【0052】
(比較例1)
キャリア粉の原料として、微粉砕したFeを準備し、秤量した。この際、予め、振動ミル等の破砕処理により、個数平均粒径1.0μm以下に調整しておいたものを使用した。
一方、水中へ分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム系)を1.0wt%、湿潤剤(サンノプコ(株)製、SNウェット980)を0.05wt%、バインダー(ポリビニルアルコール)を0.02wt%添加したものを準備し、ここへ、先程秤量したFeを投入・攪拌し、濃度80wt%のスラリーを得た。
【0053】
当該スラリーを湿式ボールミルにて湿式粉砕し、この当該湿式粉砕操作を1回行った。当該湿式粉砕物をさらに攪拌した後、スプレードライヤーにて噴霧し、粒径10μm〜100μmの乾燥造粒品を製造した。
【0054】
この造粒品を焼成炉に装填し、炉内の酸素濃度を0.1%に調整した窒素ガス雰囲気中で、1200℃で3時間焼成した。さらに焼成品をハンマーミルで解砕し、風力分級機を用いて微粉を除去し、さらに網目45μmの振動ふるいで粒度調整して、個数平均粒径D
50が、32.1μmであるキャリア粉試料5を得た。
【0055】
実施例1と同様に、得られた試料5の1粒子当りの粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下の粒子比率(%)と個数平均粒径D50ならびに磁気特性を表1に記載した。さらに、得られた試料5のキャリア飛散量を測定し、試料1のキャリア飛散量の規格値1に対する比を算出し、表1に記載した。また、試料5をサンプルミルで破砕した後の微粉粒子の増加率を算出し、表1に記載した。
【0056】
(比較例2)
比較例1のキャリア粉の製造工程において、焼成温度を1150℃として焼成した以外は、比較例1と同様の条件にて、キャリア粉試料6を得た。
【0057】
実施例1と同様に、得られた試料6の1粒子当りの粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下の粒子比率(%)と個数平均粒径D50ならびに磁気特性を表1に記載した。さらに、得られた試料6のキャリア飛散量を測定し、試料1のキャリア飛散量の規格値1に対する比を算出し、表1に記載した。また、試料6をサンプルミルで破砕した後の微粉粒子の増加率を算出し、表1に記載した。
【0058】
(比較例3)
実施例1で得られたキャリア粉試料1を、プロパンガスと酸素ガスとの燃焼炎中に投入し、表面にグレインに起因する凹凸がない真球状のキャリア粉試料7を得た。
具体的な製造方法を説明する。
酸素とプロパンとの混合ガス(混合比5:1)を、圧力0.5MPa、供給量6.0m/hrにてフローした状態で燃焼炎を発生させた。当該燃焼炎の上方から、キャリア粉試料1を燃焼供給量100g/minで落下させ、燃焼炎中を通過させることにより、真球状のキャリア粉試料7を得た。
【0059】
実施例1と同様に、得られた試料7の1粒子当りの粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下の粒子比率(%)と個数平均粒径D50ならびに磁気特性を表1に記載した。さらに、得られた試料7のキャリア飛散量を測定し、試料1のキャリア飛散量の規格値1に対する比を算出し、表1に記載した。また、試料7をサンプルミルで破砕した後の微粉粒子の増加率を算出し、表1に記載した。
【0060】
(比較例4)
実施例1のキャリア粉の製造工程において、焼成温度を1150℃とし、酸素濃度を0.1%に調整して焼成した以外は、実施例1と同様の条件にて、キャリア粉試料8を得た。
【0061】
実施例1と同様に、得られた試料8の1粒子当りの粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下の粒子比率(%)と個数平均粒径D50ならびに磁気特性を表1に記載した。さらに、得られた試料8のキャリア飛散量を測定し、試料1のキャリア飛散量の規格値1に対する比を算出し、表1に記載した。また、試料8をサンプルミルで破砕した後の微粉粒子の増加率を算出し、表1に記載した。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例1〜4および比較例1〜4の結果から、次のことが判明した。
本発明に係る製造方法により製造した試料1〜4はいずれも、粒子表面のグレイン数が、20個以下である粒子が、評価視野内にある30粒子の80%以上を占め、当該試料1〜4の飽和磁化は89.0Am/kg以上であった。さらに残留磁化σrは、1.0Am/kg以下であった。
【0064】
これらの当該試料1〜4を用いて、キャリア飛散量を測定した結果、試料1の飛散量を1とした場合、当該飛散量は1.8以下であった。また、サンプルミル試験後の微粉増加率は、2%以下であった。
【0065】
これに対し、比較例1に係る試料5では、粒子表面のグレイン数が、10個以下である粒子が、評価視野内にある30粒子の15%であり、また、当該試料5の飽和磁化は89Am/kgであった。さらに残留磁化σrは、1.90Am/kgであった。
この結果、当該試料5のキャリア飛散量は、試料1の飛散量を1とした場合、2.5であった。また、サンプルミル試験後の微粉増加率は、3.3%で、実施例1〜4より悪化の傾向を示した。
【0066】
さらに、比較例2に係る試料6では、粒子表面のグレイン数が、2個以上、20個以下である粒子が、評価視野内にある30粒子の12%であり、また、当該試料6の飽和磁化は87.9Am/kgであった。さらに残留磁化σrは、2.13Am/kgであった。
この結果、当該試料6のキャリア飛散量は、試料1の飛散量を1とした場合、3.2であった。また、サンプルミル試験後の微粉増加率は、5.5%で、実施例1〜4より悪化の傾向を示した。
【0067】
さらに、比較例3に係る試料7では、粒子表面のグレイン数が、2個以上、20個以下である粒子が、評価視野内にある30粒子の5%であり、また、当該試料7の飽和磁化は85.5Am/kgであった。さらに残留磁化σrは、1.53Am/kgであった。
この結果、当該試料7のキャリア飛散量は、試料1の飛散量を1とした場合、3.7で
あった。また、サンプルミル試験後の微粉増加率は、4.5%で、実施例1〜4より悪化の傾向を示した。
【0068】
さらに、比較例4に係る試料8では、粒子表面のグレイン数が、2個以上、20個以下である粒子が、評価視野内にある30粒子の35%であり、また、当該試料8の飽和磁化は87.5Am/kgであった。さらに残留磁化σrは、2.85Am/kgであった。
この結果、当該試料8のキャリア飛散量は、試料1の飛散量を1とした場合、4.5であった。また、サンプルミル試験後の微粉増加率は、3.9%で、実施例1〜4より悪化の傾向を示した。
【0069】
以上の実施例1〜4および比較例1〜4の検討より、全構成粒子の80%以上において粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下であり、飽和磁化σs、1000Oeでの磁化σ1kが高く、かつ残留磁化σrが低く、さらに、表面の割れ欠けの起こりにくいキャリア粉を使用することにより、キャリア飛散を低減し、画像特性に優れた電子写真現像剤を提供することが可能であることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係るキャリア粒子のSEM写真像(×3,000)である。
【図2】従来の技術に係るキャリア粒子のSEM写真像(×3,000)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子表面のグレイン数が2個以上、20個以下であるキャリア粒子が、全キャリア粒子の80%以上を占めることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア。
【請求項2】
飽和磁化が、60Am/kg以上であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真現像剤用キャリア。
【請求項3】
残留磁化が、1.5Am/kg以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真現像剤用キャリア。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子写真現像剤用キャリアを含むことを特徴とする電子写真現像剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−36837(P2009−36837A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199030(P2007−199030)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【Fターム(参考)】