説明

電子写真用トナーの製造方法

【課題】定着温度領域が広く、定着性に優れ、保存安定性にも優れる電子写真用トナー並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】下記の工程(1)〜(4)を含む電子写真用トナーの製造方法、及びそれにより得られる電子写真用トナー。
工程(1):融点が70℃〜90℃でカルナウバワックスからなる離型剤(a)及び該離型剤(a)の融点より低い融点を有する離型剤(b)を含む離型剤を、離型剤(a)の融点以上の温度で溶融混合し、水性媒体に分散して離型剤粒子を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた離型剤粒子、融点が60℃以上90℃未満の結晶性ポリエステル(a)を含有する樹脂粒子(A)、及び凝集剤を水性媒体中で混合して凝集粒子を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた凝集粒子に、非晶質ポリエステル(b)を含有する樹脂粒子(B)を混合して、コアシェル構造の凝集粒子を得る工程
工程(4):工程(3)で得られたコアシェル構造の凝集粒子を構成する粒子を融着する工程
ただし、離型剤(b)の融点と結晶性ポリエステル(a)の融点との差の絶対値は10℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真用トナーの製造方法、及びそれにより得られる電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真用トナーの分野においては、電子写真システムの発展に伴い、高画質化及び高速化に対応したトナーの開発が要求されている。
高画質化及び高速化に対応するために、トナーにも様々な性能が要求され、その要求を満たすために、着色剤や樹脂の乳化粒子を凝集させて、粒径や表面性を任意に調整できる方法として、乳化凝集法によるトナーの製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、定着ラチチュードを広げることを目的として、結晶性ポリエステルと2種以上の離型剤とを含むコア層と、該コア層を被覆し、無定形高分子を含むシェル層とを有し、結晶性ポリエステルの融点が、50〜100℃の範囲内であり、前記2種類以上の離型剤のうちから選択される少なくとも2種の融点が相互に異なり、且つ、特定の融点の関係を満たす電子写真用トナーが開示されている。
特許文献2には、画像強度の改善を目的とした画像形成装置に関連して、セバシン酸又は1,10−デカンジカルボン酸と1,6−ヘキサンジオール又は1,9−ノナンジオールとから合成した結晶性ポリエステルを含み、更に含有量と融点において、該結晶性ポリエステルと特定の関係にある離型剤を含むトナーが開示されている。
特許文献3には、広範囲な定着温度領域と耐久性の改善を目的として、結晶性ポリエステル及び非晶質樹脂を含有する結着樹脂及びアミド化合物を含むトナー原料を用いる電子写真用トナーの製造方法において、離型剤を含有するトナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−234046号公報
【特許文献2】特開2009−237156号公報
【特許文献3】特開2009−251193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
印刷時の消費電力を低減し、高速印刷に対応するためには、低温における定着性が必要とされ、高温オフセットを抑制するためには、高温度においても定着性が必要とされる。このように、広い定着可能領域を有するトナーが望まれている。
トナー中に離型剤を用いることで、その溶融特性から、得られるトナーの定着温度領域を調整することができる。しかし、離型剤は融点近傍で急激に性質が変化するため、低温及び高温の両方の温度域での定着性を確保するのは困難であった。これに対して、特許文献1に開示されているように、2種以上の融点の異なる離型剤を用いる等の工夫がなされているが、未だに不十分である。また、低温における定着性を確保するために融点の低い離型剤を用いるとトナーの保存安定性も低下するという問題もあった。
【0006】
本発明の課題は、定着温度領域が広く、定着性に優れ、保存安定性にも優れる電子写真用トナー並びにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、定着温度領域、定着性に影響する要因は、トナーを構成する離型剤の溶融特性と結着樹脂との相互作用であると考えて検討を行った。その結果、カルナウバワックスを含む2種以上の離型剤を溶融混合した離型剤粒子と特定の融点を有する結晶性ポリエステルを含有する樹脂粒子を水性媒体中で凝集、融着させ、各離型剤及びポリエステルが特定の融点の関係を満たすことにより、定着温度領域が広く、定着性に優れ、保存安定性にも優れる電子写真用トナーが得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕及び〔2〕を提供する。
〔1〕下記の工程(1)〜(4)を含む電子写真用トナーの製造方法。
工程(1):融点が70℃〜90℃でカルナウバワックスからなる離型剤(a)及び該離型剤(a)の融点より低い融点を有する離型剤(b)を含む離型剤を、離型剤(a)の融点以上の温度で溶融混合し、水性媒体に分散して離型剤粒子を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた離型剤粒子、融点が60℃以上90℃未満の結晶性ポリエステル(a)を含有する樹脂粒子(A)、及び凝集剤を水性媒体中で混合して凝集粒子を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた凝集粒子に、非晶質ポリエステル(b)を含有する樹脂粒子(B)を混合して、コアシェル構造の凝集粒子を得る工程
工程(4):工程(3)で得られたコアシェル構造の凝集粒子を構成する粒子を融着する工程
ただし、離型剤(b)の融点と結晶性ポリエステル(a)の融点との差の絶対値は10℃以下である。
〔2〕前記〔1〕の製造方法により得られる電子写真用トナー。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、定着温度領域が広く、定着性に優れ、保存安定性にも優れる電子写真用トナー並びにその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<電子写真用トナーの製造方法>
本発明の電子写真用トナーの製造方法は、下記工程(1)〜(4)を含む。
工程(1):融点が70℃〜90℃でカルナウバワックスからなる離型剤(a)及び該離型剤(a)の融点より低い融点を有する離型剤(b)を含む離型剤を、離型剤(a)の融点以上の温度で溶融混合し、水性媒体に分散して離型剤粒子を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた離型剤粒子、融点が60℃以上90℃未満の結晶性ポリエステル(a)を含有する樹脂粒子(A)、及び凝集剤を水性媒体中で混合して凝集粒子を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた凝集粒子に、非晶質ポリエステル(b)を含有する樹脂粒子(B)を混合して、コアシェル構造の凝集粒子を得る工程
工程(4):工程(3)で得られたコアシェル構造の凝集粒子を構成する粒子を融着する工程
ただし、離型剤(b)の融点と結晶性ポリエステル(a)の融点との差の絶対値は10℃以下である。
【0011】
本発明の製造方法によって得られた電子写真用トナーが、定着温度領域が広く、定着性に優れ、保存安定性にも優れる理由は定かではないが、次のように考えられる。
【0012】
まず、本発明の方法における工程(1)で、融点が70℃〜90℃でカルナウバワックスからなる離型剤(a)と、それより融点の低い離型剤(b)とを含む離型剤を溶融混合して、水性媒体に分散して離型剤粒子を得る。
工程(2)において、工程(1)で得られた離型剤粒子と、融点が60℃以上90℃未満であって、離型剤(b)の融点との差の絶対値が10℃以下である融点を有する結晶性ポリエステル(a)を含有する樹脂粒子(A)と、凝集剤とを水性媒体中で混合して凝集粒子を得る。
そして、工程(3)及び(4)で、工程(2)で得られた凝集粒子に、非晶質ポリエステル(b)を含有する樹脂粒子(B)を混合して、コアシェル構造の凝集粒子を得た後に、得られたコアシェル構造の凝集粒子を構成する粒子を融着させる。この融着工程では、凝集粒子を含む系に熱を加えることによって、樹脂を融着させて、トナーとなる合一粒子を得る。
【0013】
本発明においては、融点が比較的低い離型剤(b)をカルナウバワックスからなる離型剤(a)と予め溶融混合することで、その後、結晶性ポリエステルと混合した際に該結晶性ポリエステルとの相溶性が高まるため、融着時に離型剤(b)のブリードアウトを抑制するとともに、混ざり合った2種の融点の異なる離型剤混合物によって離型剤の融点範囲が広がるため、離型効果を発揮する温度範囲が広がり、トナーの定着温度領域が広くなると考えられる。更に本発明においては、離型剤(b)の融点と結晶性ポリエステル(a)の融点との差が10℃以下であるため、印刷時に結晶性ポリエステルが融解すると同時に離型剤も融け、離型効果を発揮するものと考えられる。
【0014】
はじめに、本発明で用いられる各成分について説明する。
[離型剤(a)]
離型剤(a)は、融点が70℃〜90℃であり、カルナウバワックスからなる。また、後に述べる結晶性ポリエステル(a)の融点より融点が高いものであることが好ましい。
離型剤(a)に用いられるカルナウバワックスの融点は、高温におけるトナー定着性の観点から、70℃〜90℃が好ましく、75℃〜90℃がより好ましく、80℃〜86℃が更に好ましい。
カルナウバワックスの具体例としては、「カルナウバワックス1号」(融点83℃)、「カルナウバワックス2号」(融点83℃)、「特製カルナウバワックス1号」(融点83℃)、「特製カルナウバワックス2号」(融点83℃)等が挙げられる(いずれも商品名、(株)加藤洋行製)。
【0015】
カルナウバワックスは、植物由来の天然系ワックスであり、その成分の分子量は合成ワックスとは異なりある程度の幅を有し、更には主成分のエステル成分だけでなく脂肪酸やアルコールを含有する。そのため、別のワックスとの相溶性が高く、溶融混合することで均一なエマルション作製が可能である。本発明においては、カルナウバワックスからなる離型剤(a)と、後述する融点が低い離型剤(b)とを溶融混合することで、離型剤の融点範囲を広げ、離型効果を発揮する温度範囲を広げることができ、トナーの定着可能温度領域を広げることができる。
【0016】
[離型剤(b)]
離型剤(b)は、融点が、離型剤(a)の融点より低いものであり、かつ離型剤(b)の融点と後に述べる結晶性ポリエステル(a)の融点との差の絶対値は10℃以下である。
離型剤(b)の融点は、トナーの定着可能温度領域を広げ、特に低温側の定着性を向上する観点から、離型剤(a)の融点より5℃以上低いことが好ましく、8℃以上低いことがより好ましく、10℃以上低いことが更に好ましい。
また、離型剤(b)の融点は、トナーの定着時の離型性を向上させ、低温定着性を高める観点から、後に述べる結晶性ポリエステル(a)の融点との差の絶対値が10℃以下であり、8℃以下が好ましく、5℃以下がより好ましい。また、定着温度領域を広げ、定着性を向上させる観点からは、離型剤(b)の融点が結晶性ポリエステル(a)の融点より低いことが好ましい。
離型剤(b)の融点は、具体的には、トナーの低温定着性、保存安定性及び帯電性の観点から、好ましくは50〜89℃、より好ましくは55〜80℃、より好ましくは60℃〜77℃、更に好ましくは62〜73℃、更に好ましくは66〜72℃である。
【0017】
離型剤(b)としては、鉱物・石油系ワックス、植物系ワックス、動物系ワックス、合成系ワックス等を用いることができる。なかでも、トナーの低温定着性を向上させる観点から、鉱物・石油系ワックス、植物系ワックスが好ましく、鉱物・石油系ワックスがより好ましい。
鉱物・石油系ワックスとしては、パラフィンワックス、モンタンワックス等が挙げられ、中でも、トナーの低温定着性を向上させ、保存安定性を良好に保つ観点から、パラフィンワックスが好ましい。植物系ワックスとしては、ライスワックス、キャンデリラワックス等が挙げられる。動物系ワックスとしては、ミツロウ等が挙げられる。合成系ワックスとしては、ポリオレフィンワックス、シリコーンワックス、脂肪酸アミド類、フィッシャートロプシュワックス等が挙げられる。ポリオレフィンワックスの具体例としては、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリブテン等が挙げられる。シリコーンワックスの具体例としては、軟化点を有し、加熱により軟化するシリコーン類が挙げられる。脂肪酸アミド類の具体例としては、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド等が挙げられる。
これらの離型剤は、単独で又は2種以上を併用することができる。
【0018】
本発明において、離型剤(a)及び(b)の融点は、実施例に記載の方法によって求められる。離型剤を2種以上併用する場合、得られるトナーに含有される離型剤中、最も重量比の大きい離型剤の融点を、本発明における離型剤の融点とし、全てが同一の比率の場合は、加重平均値を離型剤の融点とする。
離型剤(a)及び(b)の使用量はそれぞれ、トナーの離型性及び帯電性の観点から、トナー中の樹脂100重量部に対して、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは2〜15重量部である。
【0019】
[樹脂粒子(A)]
本発明に用いられる樹脂粒子(A)は、トナーの低温定着性の観点から、融点が60℃以上90℃未満の結晶性ポリエステル(a)を含有する。
樹脂粒子(A)中の結晶性ポリエステル(a)の含有量は、トナーの低温定着性を向上させ、ホットオフセットを防ぐ観点から、樹脂粒子(A)を構成する樹脂中、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは7〜50重量%、更に好ましくは10〜40重量%、更に好ましくは13〜30重量%である。
【0020】
また、樹脂粒子(A)は、トナーの低温定着性を維持しながら、保存安定性、帯電性を向上させ、ホットオフセットを防ぐ観点から、更に非晶質ポリエステル(c)を含有することが好ましい。
樹脂粒子(A)中における結晶性ポリエステル(a)及び非晶質ポリエステル(c)の総量は、トナーの低温定着性を向上させる観点から、樹脂粒子(A)を構成する樹脂に対して、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは80〜100重量%、更に好ましくは90〜100重量%、更に好ましくは実質100重量%である。
樹脂粒子(A)中における結晶性ポリエステル(a)と非晶質ポリエステル(c)との重量比((a)/(c))は、トナーの低温定着性、保存安定性、帯電性を向上させ、ホットオフセットを防ぐ観点から、好ましくは5/95〜50/50、より好ましくは10/90〜40/60、より好ましくは10/90〜30/70、更に好ましくは13/87〜20/80である。
【0021】
樹脂粒子(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、結晶性ポリエステル(a)及び非晶質ポリエステル(c)以外の樹脂、例えば、スチレンアクリル共重合体、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の樹脂を含有してもよい。
樹脂粒子(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、離型剤、帯電制御剤を含有してもよく、必要に応じて、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤等の添加剤等を含有してもよい。
【0022】
樹脂粒子(A)は、樹脂のみからなる粒子であってもよく、着色剤を含有する着色剤含有樹脂粒子であってもよいが、凝集時に粗大粒子の発生を抑制する観点から、着色剤を含有する着色剤含有樹脂粒子であることが好ましい。
樹脂粒子(A)が、樹脂のみからなる粒子である場合には、後に詳細に述べる工程(2)において、着色剤に対して、表面処理を施すか、分散剤を使用することによって得られる着色剤粒子、又は着色剤を樹脂粒子に含有させて得られる着色剤含有樹脂粒子を更に用いることが好ましい。
樹脂粒子(A)が着色剤含有樹脂粒子である場合、着色剤の含有量は、トナーの画像濃度の観点から、着色剤含有樹脂粒子を構成する樹脂100重量部に対して、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは5〜10重量部である。
【0023】
(着色剤)
着色剤としては、顔料及び染料が用いられ、トナーの画像濃度の観点から、顔料が好ましい。
顔料の具体例としては、カーボンブラック、無機系複合酸化物、クロムイエロー、ベンジジンイエロー、ブリリアンカーミン3B、ブリリアンカーミン6B、ベンガル、アニリンブルー、ウルトラマリンブルー、銅フタロシアニン、フタロシアニングリーン等が挙げられ、銅フタロシアニンが好ましい。
染料の具体例としては、アクリジン系、アゾ系、ベンゾキノン系、アジン系、アントラキノン系、インジコ系、フタロシアニン系、アニリンブラック系等が挙げられる。
着色剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
(結晶性ポリエステル(a))
本発明において、結晶性ポリエステル(a)とは、軟化点と示差走査熱量計(DSC)による吸熱の最大ピーク温度との比、(軟化点(℃))/(吸熱の最大ピーク温度(℃))で定義される結晶性指数が0.6〜1.4のものである。この結晶性指数は、トナーの低温定着性及び保存安定性の観点から、好ましくは0.8〜1.3、より好ましくは0.9〜1.2、更に好ましくは0.9〜1.1である。
結晶性ポリエステル(a)は、乳化性の観点から、分子末端に酸基を有することが好ましい。該酸基としては、カルボキシル基、スルホ基、ホスホン酸基、スルフィノ基等が挙げられる。これらの中でも、樹脂の分散性及びトナーの保存安定性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0025】
結晶性ポリエステル(a)の融点は、トナーの低温定着性及び保存安定性の観点から、60℃以上90℃未満であり、好ましくは65〜85℃、より好ましくは65〜80℃、更に好ましくは70〜75℃である。
結晶性ポリエステル(a)の軟化点は、同様の観点から、好ましくは50〜140℃、より好ましくは55〜130℃、更に好ましくは60〜110℃、更に好ましくは60〜85℃である。
結晶性ポリエステル(a)の数平均分子量は、トナーの低温定着性の観点から、好ましくは1,500〜50,000、より好ましくは2,000〜10,000、更に好ましくは3,500〜8,000である。
なお、結晶性ポリエステル(a)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
本発明において、結晶性ポリエステル(a)の融点、軟化点及び数平均分子量は、実施例に記載の方法によって求められる。2種以上併用する場合、融点は、得られるトナーに含有される結晶性ポリエステル(a)中、最も含有量の大きい結晶性ポリエステル(a)の融点を、本発明における結晶性ポリエステル(a)の融点とし、全てが同一の比率の場合は、加重平均値とする。軟化点及び数平均分子量は、結晶性ポリエステル(a)の混合物として、実施例に記載の方法によって求められる。
【0027】
結晶性ポリエステル(a)は、カルボン酸成分とアルコール成分とを重縮合反応させることによって得られる。当該重縮合反応は、好ましくは触媒存在下、140〜200℃で行われることが好ましい。
カルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等のジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸、並びにこれらの酸の無水物、及びアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられ、これらの中でもトナーの低温定着性、保存安定性及び帯電性の観点から、ジカルボン酸が好ましく、脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
カルボン酸成分には、トナーの低温定着性、保存安定性及び帯電性の観点から、ジカルボン酸を80モル%以上含有することが好ましい。
脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、1,12−ドデカン二酸、アゼライン酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸等が挙げられ、これらの中でもトナーの低温定着性、保存安定性及び帯電性の観点から、セバシン酸、1,12−ドデカン二酸が好ましく、セバシン酸がより好ましい。
これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
アルコール成分としては、炭素数2〜12の脂肪族ジオール、芳香族ジオール、ビスフェノールAの水素添加物、3価以上の多価アルコール等が挙げられ、これらの中でも、ポリエステルの結晶性を促進させ、トナーの低温定着性を向上させる観点から、炭素数2〜12の脂肪族ジオールが好ましい。
炭素数2〜12の脂肪族ジオールの中でも、ポリエステルの結晶性を促進させ、トナーの低温定着性を向上させる観点から、α,ω−直鎖アルカンジオールが好ましい。
また、炭素数4〜12のものがより好ましく、炭素数4〜9のものが更に好ましい。
α,ω−直鎖アルカンジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール等が挙げられ、これらの中でもトナーの低温定着性、保存安定性及び帯電性の観点から、1,6−ヘキサンジオール及び1,9−ノナンジオールが好ましい。
その他の炭素数2〜12の脂肪族ジオールとしては、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール等が挙げられる。
【0029】
アルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができるが、ポリエステルの結晶性を促進する観点から、アルコール成分中、炭素数2〜12の脂肪族ジオールが80モル%以上であることが好ましく、80〜100モル%であることがより好ましく、90〜100モル%であることが更に好ましい。
炭素数2〜12の脂肪族ジオールのなかでも、トナーの低温定着性を向上させる観点から、炭素数4〜9の脂肪族ジオールを80モル%以上含有することが好ましく、80〜100モル%であることがより好ましく、90〜100モル%であることが更に好ましく、実質的に100モル%であることが更に好ましい。
【0030】
触媒としては、縮重合反応の効率の観点から、錫化合物、チタン化合物等が好ましく、錫化合物がより好ましい。錫化合物としては、ジオクチル酸錫、酸化ジブチル錫等が挙げられる。チタン化合物としては、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等が挙げられる。
触媒の使用量に制限はないが、酸成分とアルコール成分との総量100重量部に対して、好ましくは0.01〜1重量部、より好ましくは0.1〜0.6重量部である。
【0031】
縮重合反応は、反応容器に、酸成分及びアルコール成分を入れ、140〜200℃で5〜15時間維持して行うことが好ましく、更にその後、触媒を加え140〜200℃で1〜5時間維持して反応を進行させ、5.0〜20kPaに減圧して1〜10時間維持して行うことがより好ましい。
【0032】
(非晶質ポリエステル(c))
樹脂粒子(A)に含むことができる非晶質ポリエステル(c)は、後述の非晶質ポリエステル(b)と同一の成分組成の樹脂を用いてもよく、異なる組成の樹脂を用いてもよいが、凝集剤の制御及びトナーの低温定着性の観点から、同一の成分組成の樹脂を用いることが好ましく、その成分比率も同一であることがより好ましい。
【0033】
非晶質ポリエステル(c)は、酸成分とアルコール成分とを、重縮合反応させることによって製造することができる。酸成分及びアルコール成分は、非晶質ポリエステル(b)と同じ成分のものが好ましい。
酸成分としては、ジカルボン酸、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数2〜20のアルケニル基で置換されたコハク酸、3価以上の多価カルボン酸、並びにそれらの酸無水物及びそれらのアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられ、これらの中でもジカルボン酸が好ましい。
ジカルボン酸としては、テレフタル酸が好ましく、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数2〜20のアルケニル基で置換されたコハク酸の具体例としては、ドデセニルコハク酸が好ましく、3価以上の多価カルボン酸としては、トリメリット酸及びその酸無水物が好ましい。
これらの酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
アルコール成分としては、芳香族ジオールが挙げられ、ポリオキシプロピレン−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレン(炭素数2〜3)オキサイド付加物(平均付加モル数1〜16)が好ましい。また、これらのアルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
非晶質ポリエステル(c)のガラス転移点、軟化点、数平均分子量及び酸価は、非晶質ポリエステル(b)の好適範囲と同じであることが好ましい。
【0035】
非晶質ポリエステル(c)は、1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよく、トナーの低温定着性、耐オフセット性及び耐久性の観点から、軟化点が異なる2種のポリエステルを含有することが好ましい。軟化点が異なる2種のポリエステルをそれぞれポリエステル(c−1)及び(c−2)とした場合、一方のポリエステル(c−1)の軟化点は70℃以上115℃未満が好ましく、他方のポリエステル(c−2)の軟化点は115℃以上165℃以下が好ましい。ポリエステル(c−1)とポリエステル(c−2)との重量比((c−1)/(c−2))は、好ましくは10/90〜90/10、より好ましくは50/50〜90/10である。
【0036】
(樹脂粒子(A)の製造)
樹脂粒子(A)は、結晶性ポリエステル(a)を含む樹脂及び前記の任意成分を水性媒体中に分散させ、樹脂粒子(A)を含有する分散液として得る方法によって製造することが好ましい。
分散液を得る方法としては、樹脂等を水性媒体に添加し、分散機等によって分散処理を行う方法、樹脂等に水性媒体を徐々に添加して転相乳化させる方法等が挙げられ、得られるトナーの低温定着性の観点から、転相乳化による方法が好ましい。以下、転相乳化による方法について述べる。
【0037】
まず、結晶性ポリエステル(a)を含む樹脂、アルカリ水溶液、及び前記の任意成分を溶融して混合し、樹脂混合物を得る。
結晶性ポリエステル(a)を含む樹脂が、複数の樹脂からなる場合には、予め、結晶性ポリエステル(a)とその他の樹脂を混合したものを用いてもよいが、前記アルカリ水溶液及び任意成分を添加する際に同時に添加し、溶融して混合することによって得てもよい。例えば、結晶性ポリエステル(a)を含む樹脂が、非晶質ポリエステル(c)を含有する場合、トナーの低温定着性の観点から、結晶性ポリエステル(a)、非晶質ポリエステル(c)、アルカリ水溶液、及び前記の任意成分を溶融して混合し、樹脂混合物を得る方法が好ましい。
また、混合の際には、樹脂の乳化安定性の観点から、界面活性剤を添加することが好ましい。
【0038】
アルカリ水溶液中のアルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物等やアンモニア等が挙げられるが、樹脂の分散性向上の観点から、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが好ましい。また、アルカリ水溶液中のアルカリの濃度は、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは1〜25重量%、更に好ましくは1.5〜20重量%である。
【0039】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられ、なかでも非イオン性界面活性剤が好ましく、非イオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤又はカチオン性界面活性剤を併用することがより好ましく、樹脂を十分に乳化させる観点から、非イオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とを併用することが更に好ましい。
非イオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とを併用する場合、非イオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤との重量比(非イオン性界面活性剤/アニオン性界面活性剤)は、樹脂を十分に乳化させる観点から、好ましくは0.3〜10、より好ましくは0.5〜5である。
【0040】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類あるいはポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリエチレングルコールモノラウレート、ポリチレングリコ−ルモノステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられ、これらの中でも樹脂の乳化安定性の観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類が好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、アルキルエーテル硫酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム等が挙げられ、これらの中でも樹脂の乳化安定性の観点から、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルエーテル硫酸ナトリウムが好ましい。
カチオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンジメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0041】
界面活性剤の含有量は、樹脂粒子(A)を構成する樹脂100重量部に対して、好ましくは20重量部以下、より好ましくは15重量部以下、更に好ましくは0.1〜10重量部、更に好ましくは0.5〜10重量部である。
【0042】
樹脂混合物を得る方法としては、結晶性ポリエステル(a)を含む樹脂、アルカリ水溶液、及び前記の任意成分、好ましくは界面活性剤を容器に入れ、撹拌器によって撹拌しながら、樹脂を溶融して均一に混合する方法が好ましい。
【0043】
樹脂を溶融し混合する際の温度は、結晶性ポリエステル(a)を含む樹脂が、非晶質ポリエステル(c)を含む場合には、そのガラス転移点以上が好ましく、均質な樹脂粒子を得る観点から、結晶性ポリエステル(a)の融点以上がより好ましい。
【0044】
次に、前記の樹脂混合物に水性媒体を添加して、転相し、樹脂粒子(A)を含有する分散液を得る。
水性媒体としては水を主成分とするものが好ましく、環境性の観点から、水性媒体中の水の含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上、更に好ましくは実質的に100重量%である。用いる水としては、脱イオン水又は蒸留水が好ましい。
水以外の成分としては、炭素数1〜5のアルキルアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のジアルキル(炭素数1〜3)ケトン;テトラヒドロフラン等の環状エーテル等の水に溶解する有機溶媒が用いられる。これらの中でも、トナーへの混入を防止する観点から、ポリエステルを溶解しない炭素数1〜5のアルキルアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールがより好ましい。
【0045】
水性媒体を添加する際の温度は、結晶性ポリエステル(a)を含む樹脂が非晶質ポリエステル(c)を含む場合には、非晶質ポリエステル(c)のガラス転移点以上が好ましく、均質な樹脂粒子を得る観点から、結晶性ポリエステル(a)の融点以上がより好ましい。
【0046】
水性媒体の添加速度は、樹脂粒子を小粒径とする観点から、転相が終了するまでは、樹脂粒子(A)を構成する樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1〜50重量部/分、より好ましくは0.1〜30重量部/分、更に好ましくは0.5〜10重量部/分、更に好ましくは0.5〜5重量部/分である。なお、転相終了後の水性媒体の添加速度には制限はない。
【0047】
水性媒体の使用量は、後の凝集工程で均一な凝集粒子を得る観点から、樹脂粒子(A)を構成する樹脂100重量部に対して、好ましくは100〜2000重量部、より好ましくは150〜1500重量部、更に好ましくは150〜500重量部である。その固形分濃度は、得られる樹脂粒子分散液の安定性と取扱い容易性等の観点から、好ましくは7〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%、更に好ましくは20〜40重量%、更に好ましくは25〜35重量%である。なお、固形分とは、樹脂、界面活性剤等の不揮発性成分の総量である。
【0048】
得られた樹脂粒子(A)を含有する分散液中の樹脂粒子(A)の体積中位粒径は、高画像のトナーを得る観点から、好ましくは0.02〜2μm、より好ましくは0.02〜1.5μm、更に好ましくは0.05〜1μm、更に好ましくは0.05〜0.5μmである。ここで、体積中位粒径とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径である。
また、樹脂粒子の粒度分布の変動係数(CV値)(%)は、高画像のトナーを得る観点から、好ましくは40%以下、より好ましくは35%以下、更に好ましくは30%以下、更に好ましくは28%以下である。なお、CV値は、下記式で表される値であり、具体的には実施例記載の方法で求められる。
CV値(%)=[粒度分布の標準偏差(μm)/体積中位粒径(μm)]×100
【0049】
[凝集剤]
本発明において、凝集粒子を効率的に得るために、凝集剤を添加する。
凝集剤としては、第四級塩のカチオン性界面活性剤、ポリエチレンイミン等の有機系凝集剤;無機金属塩、無機アンモニウム塩、2価以上の金属錯体等の無機系凝集剤が用いられる。
無機金属塩としては、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム等の金属塩、及びポリ塩化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウム等の無機金属塩重合体が挙げられる。無機アンモニウム塩としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられ、硫酸アンモニウムがより好ましい。
【0050】
[樹脂粒子(B)]
本発明に用いられる樹脂粒子(B)は、トナーの保存安定性及び帯電性の観点から、後述する非晶質ポリエステル(b)を含有する。
樹脂粒子(B)のガラス転移点は、樹脂粒子(B)を構成する非晶質ポリエステル(b)等の樹脂のガラス転移点、添加剤等の種類や量によって適宜決定されるが、トナーの耐久性、低温定着性及び保存安定性の観点から、好ましくは55℃以上、より好ましくは55〜75℃、更に好ましくは55〜70℃、更に好ましくは55〜65℃である。
【0051】
樹脂粒子(B)中の非晶質ポリエステル(b)の含有量は、トナーの保存安定性及び帯電性の観点から、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上、更に好ましくは実質95重量%である。
樹脂粒子(B)は、非晶質ポリエステル(b)の他に、通常トナーに用いられる公知の樹脂、例えば、前述の結晶性ポリエステル(a)、スチレンアクリル共重合体、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の樹脂を含有してもよい。
樹脂粒子(B)は、前述の樹脂粒子(A)の製造方法と同様の方法により得られ、用いるアルカリ水溶液、界面活性剤、水性媒体も同様のものを好適に用いることができる。
【0052】
(非晶質ポリエステル(b))
本発明において、非晶質ポリエステル(b)とは、前述の結晶性指数が、1.4を超える、あるいは0.6未満のポリエステルである。
非晶質ポリエステル(b)の結晶性指数は、トナーの低温定着性の観点から、好ましくは0.6未満又は1.4を超え4以下、より好ましくは0.6未満又は1.5以上4以下、更に好ましくは0.6未満又は1.5以上3以下、更に好ましくは0.6未満又は1.5以上2以下である。結晶性指数は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により適宜決定することができる。
非晶質ポリエステル(b)としては、分子末端に酸基を有する非晶質ポリエステル(b)が好ましい。該酸基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、スルフィン酸等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステルの乳化を促進する観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0053】
非晶質ポリエステル(b)は、前記の結晶性ポリエステル(a)と同様の方法で、酸成分とアルコール成分とを、重縮合反応させることによって製造することができる。
酸成分としては、ジカルボン酸、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数2〜20のアルケニル基で置換されたコハク酸、3価以上の多価カルボン酸、並びにそれらの酸無水物及びそれらのアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられ、これらの中でもジカルボン酸が好ましい。
ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、アゼライン酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられ、これらの中でもテレフタル酸が好ましい。
炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数2〜20のアルケニル基で置換されたコハク酸としては、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸等が挙げられる。
3価以上の多価カルボン酸としては、トリメリット酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等が挙げられ、これらの中でも耐オフセット性の観点から、トリメリット酸及びその酸無水物が好ましい。
これらの酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
非晶質ポリエステル(b)は、トナーの耐オフセット性の観点から、3価以上の多価カルボン酸並びにその酸無水物又はそのアルキルエステル、好ましくはトリメリット酸又はその無水物を含有する酸成分を用いて得られた非晶質ポリエステル(b)を少なくとも1種使用することが好ましい。
【0054】
アルコール成分としては、結晶性ポリエステル(a)に用いた前記アルコール成分と同様のものが挙げられる。これらの中でも、非晶質のポリエステルを得る観点から、芳香族ジオールが好ましく、ポリオキシプロピレン−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレン(炭素数2〜3)オキサイド付加物(平均付加モル数1〜16)がより好ましい。
これらのアルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
非晶質ポリエステル(b)のガラス転移点は、トナーの耐久性、低温定着性及び保存安定性の観点から、好ましくは55〜75℃、より好ましくは55〜70℃、更に好ましくは58〜68℃である。
非晶質ポリエステル(b)の軟化点は、同様の観点から、好ましくは70〜165℃、より好ましくは70〜140℃、更に好ましくは90〜140℃、更に好ましくは100〜130℃である。
なお、非晶質ポリエステル(b)を2種以上混合して使用する場合、そのガラス転移点及び軟化点は、各々2種以上の非晶質ポリエステル(b)の混合物として、実施例に記載の方法によって得られたガラス転移点及び軟化点をいう。
【0056】
非晶質ポリエステル(b)の数平均分子量は、トナーの耐久性、低温定着性及び保存安定性の観点から、好ましくは1,000〜50,000、より好ましくは1,000〜10,000、更に好ましくは2,000〜8,000である。
非晶質ポリエステル(b)の酸価は、樹脂の水性媒体中における乳化性の観点から、好ましくは6〜35mgKOH/g、より好ましくは10〜35mgKOH/g、更に好ましくは15〜35mgKOH/gである。
【0057】
非晶質ポリエステル(b)は、トナーの低温定着性、耐オフセット性及び耐久性の観点から、軟化点が異なる2種のポリエステルを含有することが好ましい。軟化点が異なる2種のポリエステルをそれぞれポリエステル(b−1)及び(b−2)とした場合、一方のポリエステル(b−1)の軟化点は、70℃以上115℃未満が好ましく、他方のポリエステル(b−2)の軟化点は、115℃以上165℃以下が好ましい。ポリエステル(b−1)とポリエステル(b−2)との重量比((b−1)/(b−2))は、好ましくは10/90〜90/10、より好ましくは50/50〜90/10である。
【0058】
なお、本発明では、その効果を損なわない範囲で、結晶性ポリエステル(a)、非晶質ポリエステル(b)及び(c)の各々を変性したものを用いることができる。ポリエステルを変性する方法としては、例えば、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法により、フェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化する方法や、ポリエステルユニットを含む2種以上の樹脂ユニットを有する複合樹脂とする方法等が挙げられる。
【0059】
次に、本発明の電子写真用トナーの製造方法における各工程について説明する。
[工程(1)]
工程(1)は、融点が70℃〜90℃でカルナウバワックスからなる離型剤(a)及び該離型剤(a)の融点より低い融点を有する離型剤(b)を含む離型剤を、離型剤(a)の融点以上の温度で溶融混合し、水性媒体に分散して離型剤粒子を得る工程である。
本工程で用いる離型剤としては、離型剤(a)及び離型剤(b)を含むものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の離型剤を含んでいてもよい。
【0060】
本工程では、まず、離型剤(a)及び離型剤(b)を含む離型剤を、離型剤(a)の融点以上の温度で溶融混合させる。溶融混合の方法は、離型剤のみを溶融混合する方法、有機溶媒に融点以上の温度で溶解させて混合する方法、水性媒体中で溶融させながら混合する方法が挙げられ、分散の容易性や均一に溶融混合する観点から、水性媒体中で溶融させながら混合する方法が好ましく、界面活性剤を含有する水性媒体中で溶融させながら混合する方法がより好ましい。
次に、溶融混合して得られた離型剤の溶融混合物を水性媒体に分散して離型剤粒子を得る。離型剤の分散は、離型剤の溶融混合物と水性媒体とを、界面活性剤の存在下、離型剤の融点以上の温度で、分散機を用いて分散することによって行うことが好ましい。用いる分散機としては、ホモジナイザー、超音波分散機等が好ましい。
本工程で用いる水性媒体は、樹脂粒子(A)を得る際に用いられるものが好ましく、水性媒体としては水を主成分とするものが好ましく、安定な粒子を得る観点から、水性媒体中の水の含有量は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは実質100重量%である。用いる水としては脱イオン水又は蒸留水が好ましい。
分散時に用いられる界面活性剤としては、離型剤粒子の分散安定性を保ち、凝集による粒径制御が容易であることから、アニオン性界面活性剤が好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、ポリカルボン酸塩、アルケニルコハク酸ジカリウムが挙げられ、ポリカルボン酸塩が好ましい。ポリカルボン酸としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリマレイン酸ナトリウム、それらの共重合体が好ましく、なかでもアクリル酸ナトリウム−マレイン酸ナトリウム共重合体が好ましい。
界面活性剤を使用する場合の使用量は、トナー作製時の凝集性および得られるトナーの帯電性の観点から、離型剤100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。
【0061】
本工程で得られる離型剤粒子の体積中位粒径は、トナーの帯電性及びホットオフセットを防ぐ観点から、好ましくは0.1〜1μm、より好ましくは0.1〜0.7μm、更に好ましくは0.1〜0.5μmである。
得られる離型剤粒子のCV値は、トナーの帯電性の観点から、好ましくは15〜50%、より好ましくは15〜40%、更に好ましくは15〜35%である。
【0062】
[工程(2)]
工程(2)は、少なくとも、工程(1)で得られた離型剤粒子、融点が60℃以上90℃未満の結晶性ポリエステル(a)を含有する樹脂粒子(A)、及び凝集剤を水性媒体中で混合してコア凝集粒子を得る工程である。
ただし、本工程で用いられる結晶性ポリエステル(a)の融点は、離型剤(b)の融点との差が10℃以下であり、また、離型剤(a)の融点より低いことが好ましい。
【0063】
本工程では、着色剤を含む粒子を混合してもよく、樹脂粒子(A)以外の樹脂粒子を混合してもよい。樹脂粒子(A)以外の樹脂粒子としては、トナーの保存安定性を向上させる観点から、前述の非晶質ポリエステルを含む樹脂粒子が好ましく、樹脂粒子(B)がより好ましい。
混合の順に制限はなく、いずれかを順に添加してもよいし、同時に添加してもよい。
【0064】
樹脂粒子(A)が着色剤含有樹脂粒子である場合、樹脂粒子(A)の含有量は、凝集粒子分散液中、好ましくは10〜40重量部、より好ましくは20〜30重量部である。水性媒体の含有量は、凝集粒子分散液中、好ましくは60〜90重量部、より好ましくは70〜80重量部である。
また、着色剤の含有量は、画像濃度の観点から、樹脂粒子(A)を構成する樹脂100重量部に対して、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは3〜15重量部である。
離型剤粒子の含有量は、トナーの離型性及び帯電性の観点から、樹脂と着色剤との合計100重量部に対して、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは2〜15重量部である。
なお、混合時の混合分散液の温度は、凝集制御の観点から、0〜40℃が好ましい。
【0065】
次に、混合分散液中の粒子を凝集させて、凝集粒子の分散液を得る。本発明においては、凝集を効率的に行うために、前述の凝集剤を添加する。
凝集剤の使用量は、トナーの帯電性の観点から、樹脂粒子(A)を構成する樹脂100重量部に対して、好ましくは50重量部以下、より好ましくは40重量部以下、更に好ましくは30重量部以下であり、また、樹脂粒子の凝集性の観点から、好ましくは1重量部以上、より好ましくは3重量部以上、更に好ましくは5重量部以上である。以上の点を考慮して、1価の塩の使用量は、樹脂粒子(A)を構成する樹脂100重量部に対して、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは3〜40重量部、更に好ましくは5〜30重量部である。
【0066】
凝集の方法としては、混合分散液の入った容器に、凝集剤を水溶液として滴下することが好ましい。凝集剤は一時に添加してもよいし、断続的あるいは連続的に添加してもよいが、添加時及び添加終了後には、十分な撹拌を行うことが好ましい。凝集制御およびトナー製造時間短縮の観点から、凝集剤の滴下時間は1〜120分が好ましい。また、滴下温度は凝集制御の観点から0〜40℃が好ましい。
【0067】
得られた凝集粒子の体積中位粒径は、トナーの小粒径化及び帯電量の安定性の観点から、好ましくは1〜10μm、より好ましくは2〜9μm、更に好ましくは3〜6μmである。また、CV値は、好ましくは30%以下、より好ましくは28%以下、更に好ましくは25%以下である。
【0068】
[工程(3)]
工程(3)は、工程(2)で得られた凝集粒子に、非晶質ポリエステル(b)を含有する樹脂粒子(B)を混合して、コアシェル構造の凝集粒子を得る工程である。
本工程では、前記凝集粒子をコアとし、混合される非晶質ポリエステルを含有する樹脂粒子をシェル部とする、コアシェル構造の粒子が形成される。
【0069】
本工程においては、まず、非晶質ポリエステル(b)を含有する樹脂粒子(B)の分散液(以下、「樹脂粒子(B)分散液」ともいう)を調製した後、その樹脂粒子(B)分散液を工程(2)で得られた凝集粒子の分散液に添加して、凝集粒子に樹脂粒子(B)を付着させ、コアシェル構造の凝集粒子を得ることが好ましい。
また、凝集粒子に樹脂粒子(B)をより均一に付着させる観点から、樹脂粒子(B)分散液を添加する前に、凝集粒子分散液に水性媒体を添加して希釈することが好ましい。
樹脂粒子(B)分散液を添加する際、コア部となる凝集粒子に樹脂粒子(B)を効率的に付着させるために、前記凝集剤を用いてもよい。
樹脂粒子(B)分散液を添加する際の添加方法としては、凝集剤と樹脂粒子(B)分散液とを同時に添加する方法、凝集剤と樹脂粒子(B)分散液とを交互に添加する方法、コア凝集粒子分散液の温度を徐々に上げながら、樹脂粒子(B)分散液を添加する方法等が好ましい。このような方法によれば、凝集剤濃度低下による凝集粒子及び樹脂粒子(B)の凝集性の低下を防ぐことができる。これらの中でも、トナーの生産性及び製造簡便性の観点から、凝集粒子分散液の温度を徐々に上げながら、樹脂粒子(B)分散液を添加することが好ましい。
【0070】
本工程において、樹脂粒子(B)の添加時及び/又は添加終了後の系内の温度は、離型剤の融点未満、かつ、非晶質ポリエステル(b)のガラス転移点より15℃低い温度以上の温度とすることが好ましい。樹脂粒子(B)を凝集粒子に付着させ、均質なコアシェル構造を形成する観点から、非晶質ポリエステル(b)のガラス転移点より13℃低い温度以上の温度がより好ましく、10℃低い温度以上の温度が更に好ましい。
樹脂粒子(B)添加時の温度を、離型剤の融点未満とすることで、得られるトナーの低温定着性や保存安定性を良好にし、トナーの帯電性を良好にすることができる。その理由は定かではないが、コアシェル構造の凝集粒子同士の融着が生じないために、粗大粒子の発生が抑制されることと、離型剤の結晶性が維持できるためであるとも考えられる。
また、樹脂粒子(B)の融着を促進させたい場合、添加時の温度を、非晶質ポリエステル(b)のガラス転移点より10℃低い温度以上の温度に保持することで、融着を促進させることができる。同様に、融着を促進させる観点から、5℃低い温度以上の温度がより好ましく、ガラス転移点以上の温度が更に好ましい。
【0071】
樹脂粒子(B)の添加量は、トナーの低温定着性、飛散量の低減及び保存安定性の観点から、樹脂粒子(B)と樹脂粒子(A)との重量比(樹脂粒子(B)/樹脂粒子(A))が、好ましくは0.3〜1.5、より好ましくは0.3〜1.0、更に好ましくは0.35〜0.75となる量が好ましい。
【0072】
樹脂粒子(B)分散液は、一定の時間をかけて連続的に添加してもよく、一度に添加してもよく、複数回に分割して添加してもよいが、樹脂粒子(B)が凝集粒子に選択的に凝集しやすくする観点から、一定の時間をかけて連続的に添加するか、複数回に分割して添加することが好ましく、中でも、選択的な凝集を促進する観点及び製造の効率化の観点から、一定の時間を掛けて連続的に添加することがより好ましい。連続的に添加する場合の添加時間は、均一なコアシェル構造の凝集粒子を得る観点及び製造時間短縮の観点から、好ましくは1〜10時間、より好ましくは3〜8時間である。
【0073】
樹脂粒子(B)の全量を添加し終えたところで凝集を停止する。不必要な凝集を防止する点から、凝集停止剤を添加して凝集を停止することが好ましい。
凝集停止剤としては、界面活性剤が好ましく、アニオン性界面活性剤がより好ましい。アニオン性界面活性剤としては、アルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、及び直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩が挙げられる。凝集停止剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
凝集停止剤の添加量は、凝集停止性およびトナーへの凝集停止剤の残留を低減する観点から、系中の樹脂の総量100重量部に対して、好ましくは0.1〜15重量部、より好ましくは0.1〜10重量部、更に好ましくは0.1〜8重量部である。凝集停止剤は、いかなる形態で添加してもよいが、生産性の観点から、水溶液で添加することが好ましい。
【0074】
[工程(4)]
工程(4)は、工程(3)で得られたコアシェル構造の凝集粒子を構成する粒子を融着する工程である。
【0075】
本工程においては、凝集粒子を含む分散液を、凝集粒子を構成する樹脂粒子及び離型剤粒子等の粒子が融着する温度に保持することによって、融着したコアシェル粒子とする。
融着させるために保持する温度としては、樹脂粒子(A)に含有される非晶質ポリエステル(c)のガラス転移点以上であることが好ましく、より好ましくは、トナーの保存安定性及びプリンタ等の印刷機内でのトナー飛散量の抑制の観点から、離型剤の融点未満、かつ、非晶質ポリエステル(b)のガラス転移点より10℃低い温度以上に保持する。
なお、樹脂粒子(B)を添加する際に、該温度範囲に調整した場合には、添加後の該温度範囲での保持を省略することができる。ただし、粒径及び形状の制御が必要な場合は、添加時には、非晶質ポリエステル(b)のガラス転移点より10℃低い温度未満で添加を行い、添加終了後に、非晶質ポリエステル(b)のガラス転移点より10℃低い温度以上の温度にして、保持することが好ましい。
【0076】
樹脂粒子(B)の添加終了後の保持温度は、トナーの帯電性を向上させる観点からは、好ましくは離型剤の融点未満、より好ましくは離型剤の融点より5℃低い温度未満、更に好ましくは離型剤の融点より10℃低い温度未満である。
また、添加終了後の保持温度は、融着性、トナーの保存安定性、帯電性の観点から、好ましくは非晶質ポリエステル(b)のガラス転移点より10℃低い温度以上、より好ましくは当該ガラス転移点より5℃低い温度以上、更に好ましくは当該ガラス転移点より2℃低い温度以上である。
これらの条件を満たすことで、低温での高い定着性を発現する離型剤の結晶状態を保ち、トナーの保存安定性や帯電性の低下の原因となる離型剤のトナー表面への露出を抑制し、シェル部分を均一に融着させることができ、その結果、良好な低温定着性、帯電性及び保存安定性を両立したトナーを得ることができると考えられる。
更に、融着性、トナーの保存安定性、帯電性の観点から、本工程においては、樹脂粒子(B)のガラス転移点より5℃低い温度以上で保持することが好ましく、樹脂粒子(B)のガラス転移点より2℃高い温度以上の温度で保持することがより好ましい。
上記の点を鑑みると、工程(4)における保持温度は、好ましくは58〜80℃、より好ましくは63〜75℃、更に好ましくは68〜72℃である。
本工程における保持時間は、粒子融着性、保存安定性、帯電性及びトナー生産性の観点から、好ましくは1〜24時間、より好ましくは1〜12時間、更に好ましくは2〜6時間である。
【0077】
また、本工程においては、生成する融着したコアシェル粒子の円形度をモニタリングすることによって、融着の進行を確認することが好ましい。円形度のモニタリングは実施例に記載の方法によって行う。円形度が0.950以上になったところで冷却し、融着を停止する。最終的に得られる融着したコアシェル粒子の分散液に含有される融着したコアシェル粒子の円形度は、トナーの保存安定性を向上し、トナーの飛散を低減する観点から、0.950〜0.980であり、好ましくは0.950〜0.970、より好ましくは0.955〜0.965である。
【0078】
また、融着したコアシェル粒子の分散液中の融着したコアシェル粒子の体積中位粒径は、トナーの高画質化の観点から、好ましくは2〜10μm、より好ましくは2〜8μm、より好ましくは2〜7μm、更に好ましくは3〜8μm、更に好ましくは4〜6μmである。
【0079】
[後処理工程]
本発明においては、工程(4)の後に後処理工程を行ってもよく、コアシェル粒子を単離することによってトナー粒子を得ることが好ましい。
工程(4)で得られたコアシェル粒子は、水性媒体中に存在するため、まず、固液分離を行うことが好ましい。固液分離には、吸引濾過法等が好ましく用いられる。
固液分離後に洗浄を行うことが好ましい。トナーとして十分な帯電特性及び信頼性を確保する目的から、トナー表面の金属イオンを除去するため酸で洗浄を行うことが好ましい。また、添加した非イオン性界面活性剤も除去することが好ましいため、非イオン性界面活性剤の曇点以下で水性溶液により洗浄することが好ましい。洗浄は複数回行うことが好ましい。
次に乾燥を行うことが好ましい。乾燥方法としては、振動型流動乾燥法、スプレードライ法、冷凍乾燥法、フラッシュジェット法等が好ましい。乾燥後の水分含量は、トナーの飛散量の低減及び帯電性の観点から、好ましくは1.5重量%以下、より好ましくは1.0重量%以下に調整される。
【0080】
<電子写真用トナー>
(トナー)
乾燥等を行うことによって得られたトナー粒子を本発明のトナーとしてそのまま用いることもできるが、後述のように表面処理したものを電子写真用トナーとして用いることが好ましい。
得られたトナーの軟化点は、トナーの低温定着性の観点から、好ましくは60〜140℃、より好ましくは60〜130℃、更に好ましくは60〜120℃である。また、ガラス転移点は、低温定着性、耐久性及び保存安定性の観点から、好ましくは30〜80℃、より好ましくは40〜70℃である。
トナーの円形度は、トナーの保存安定性、帯電性及びクリーニング性の観点から、好ましくは0.950〜0.980、より好ましくは0.955〜0.970、更に好ましくは0.955〜0.965である。トナー粒子の円形度は後述の方法で測定することができる。なお、トナー粒子の円形度は、投影面積と等しい円の周囲長/投影像の周囲長の比で求められる値であり、粒子が球形であるほど円形度が1に近い値となる値である。
本発明の方法により得られたトナーはコアシェル構造であり、シェル部分に、非晶質ポリエステル(b)を、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%、更に好ましくは90〜100重量%含有する。
トナーの体積中位粒径は、トナーの高画質化と生産性の観点から、好ましくは1〜10μm、より好ましくは2〜8μm、更に好ましくは3〜7μm、更に好ましくは4〜6μmである。
トナーのCV値は、高画質化と生産性の観点から、好ましくは30%以下、より好ましくは27%以下、更に好ましくは25%以下、更に好ましくは22%以下である。
【0081】
(外添剤)
本発明の電子写真用トナーは、前記トナー粒子をトナーとしてそのまま用いることもできるが、流動化剤等を外添剤としてトナー粒子表面に添加処理したものをトナーとして使用することが好ましい。外添剤としては、疎水性シリカ、酸化チタン微粒子、アルミナ微粒子、酸化セリウム微粒子、カーボンブラック等の無機微粒子やポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、シリコーン樹脂等のポリマー微粒子等、任意の微粒子が挙げられ、これらの中でも、疎水性シリカが好ましい。
外添剤を用いてトナー粒子の表面処理を行う場合、外添剤の添加量は、外添剤による処理前のトナー粒子100重量部に対して、好ましくは1〜5重量部、より好ましくは1〜3.5重量部、更に好ましくは1〜3重量部である。
【0082】
本発明により得られる電子写真用トナーは、一成分系現像剤として、又はキャリアと混合して二成分系現像剤として使用することができる。
【実施例】
【0083】
ポリエステル、樹脂粒子、トナー等の各性状値については次の方法により測定、評価した。
[ポリエステルの酸価]
JIS K0070に従って測定した。ただし、測定溶媒をアセトンとトルエンとの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))とした。
【0084】
[ポリエステルの軟化点、融点及びガラス転移点]
(1)軟化点
フローテスター((株)島津製作所製、商品名:CFT−500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのブランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
(2)融点及びガラス転移点
示差走査熱量計(Parkin Elmer社製、商品名:Pyris 6 DSC)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度50℃/分で0℃まで冷却した試料を昇温速度10℃/分で測定した。観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を吸熱の最大ピーク温度とした。結晶性ポリエステルの時には該ピーク温度を融点とした。また、非晶質ポリエステルの場合に吸熱ピークが観測されるときはそのピークの温度を、ピークが観測されずに段差が観測されるときは該段差部分の曲線の最大傾斜を示す接線と該段差の高温側のベースラインの延長線との交点の温度をガラス転移点とした。
【0085】
[ポリエステルの数平均分子量]
以下の方法により、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより分子量分布を測定し、数平均分子量を算出した。
(1)試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mlになるように、ポリエステルをクロロホルムに溶解させた。次いで、この溶液をポアサイズ2μmのフッ素樹脂フィルター(住友電気工業(株)製、商品名:FP−200)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とした。
(2)分子量分布測定
溶解液としてクロロホルムを1ml/分の流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させた。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行った。試料の分子量は、あらかじめ作製した検量線に基づき算出した。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー(株)製の単分散ポリスチレン;2.63×103、2.06×104、1.02×105(重量平均分子量)、ジーエルサイエンス(株)製の単分散ポリスチレン;2.10×103、7.00×103、5.04×104(重量平均分子量))を標準試料として作成したものを用いた。
測定装置:CO−8010(商品名、東ソー(株)製)
分析カラム:GMHXL+G3000HXL(いずれも商品名、東ソー(株)製)
【0086】
[樹脂粒子、離型剤粒子の体積中位粒径(D50)及び粒度分布]
(1)測定装置:レーザー回折型粒径測定機((株)堀場製作所製、商品名:LA−920)
(2)測定条件:測定用セルに蒸留水を加え、吸光度を適正範囲になる温度で体積中位粒径(D50)を測定した。また、CV値は下記の式に従って算出した。
CV値(%)=(粒径分布の標準偏差/体積中位粒径(D50))×100
【0087】
[樹脂粒子分散液、離型剤粒子分散液の固形分濃度]
赤外線水分計((株)ケツト科学研究所製、商品名:FD−230)を用いて、樹脂粒子分散液5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)にて、水分%を測定した。固形分濃度は下記の式に従って算出した。
固形分濃度(重量%)=100−M
M:水分(重量%)=[(W−W0)/W]×100
W:測定前の試料重量(初期試料重量)
0:測定後の試料重量(絶対乾燥重量)
【0088】
[凝集粒子、コアシェル構造の凝集粒子の体積中位粒径(D50)及び粒度分布]
凝集粒子、コアシェル構造の凝集粒子の体積中位粒径は以下の通り測定した。
・測定機:コールターマルチサイザーIII(商品名、ベックマンコールター社製)
・アパチャー径:50μm
・解析ソフト:マルチサイザーIIIバージョン3.51(商品名、ベックマンコールター社製)
・電解液:アイソトンII(商品名、ベックマンコールター社製)
・測定条件:凝集粒子、コアシェル構造の凝集粒子を含有する試料分散液を前記電解液100mLに加えることにより、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度に調整した後、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求めた。
また、粒度分布としてCV値(%)は下記の式に従って算出した。
CV値(%)=(粒径分布の標準偏差/体積中位粒径(D50))×100
【0089】
[トナー(粒子)の体積中位粒径(D50)及び粒度分布]
トナー(粒子)の体積中位粒径は以下の通り測定した。
測定機、アパチャー径、解析ソフト、電解液は、凝集粒子、コアシェル凝集粒子の体積中位粒径と同様のものを用いた。
・分散液:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王(株)製、商品名:エマルゲン109P、HLB:13.6)を前記電解液に溶解させ、濃度5重量%の分散液を得た。
・分散条件:前記分散液5mLにトナー測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mLを添加し、更に、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を作製した。
・測定条件:前記試料分散液を前記電解液100mLに加えることにより、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度に調整した後、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求めた。
また、CV値(%)は下記の式に従って算出した。
CV値(%)=(粒径分布の標準偏差/体積中位粒径(D50))×100
【0090】
[トナーの保存安定性評価]
20ml容のポリビンに、実施例及び比較例で得られたトナー10gをいれ、温度50℃、相対湿度40%の環境下に開放状態で12時間放置した。放置後、パウダーテスター(ホソカワミクロン(株)製)で、凝集度を測定し、以下の基準に従って保存安定性を下記基準で評価した。
凝集度が小さいほど保存安定性に優れることを表す。
AA:凝集度が6%未満
A:凝集度が6%以上10%未満
B:凝集度が10%以上20%未満
C:凝集度が20%以上
なお、具体的にパウダーテスターを使用した凝集度は次のように求めた。
パウダーテスターの振動台に、3つの異なる目開きのフルイを上段250μm、中段150μm、下段75μmの順でセットし、その上にトナー2gを乗せ60秒間振動を行い、各フルイ上に残ったトナー重量を測定した。
測定したトナー重量を次式に当てはめて計算し、凝集度[%]を求めた。
凝集度[%]=a+b+c
a=(上段フルイ残トナー重量)/2[g]×100
b=(中段フルイ残トナー重量)/2[g]×100×(3/5)
c=(下段フルイ残トナー重量)/2[g]×100×(1/5)
【0091】
[トナーの定着性評価]
上質紙(富士ゼロックス(株)製、J紙A4サイズ)に、実施例及び比較例で得られたトナーを装填した市販のプリンタ((株)沖データ製、商品名:ML5400)を用いて画像を出力し、トナーの紙上の付着量が0.45±0.03mg/cm2となるベタ画像をA4紙の上端から5mmの余白部分を残し、50mmの長さで未定着画像のまま出力した。同プリンタに搭載されている定着器を温度可変に改造し、温度定着速度34枚/分(A4縦方向)で定着した。得られた定着画像の定着性は以下のテープ剥離法によって評価した。
【0092】
(テープ剥離法)
メンディングテープ(3M社製、商品名:Scotchメンディングテープ810、幅18mm)を長さ50mmに切り、定着した画像上の上端の余白部分に軽く貼り付けた後、500gのおもりをのせ、速さ10mm/secで1往復押し当てた。その後、貼付したテープを下端側から剥離角度180度、速さ10mm/secで剥がし、テープ貼付前後の反射画像濃度を、測色計(Gretag−Macbeth社製、商品名:SpectroEye、光射条件;標準光源D50、観察視野2°、濃度基準DINNB、絶対白基準)を用いて測定し、これから下記の式で定着率を算出した。
定着率(%)=(テープ剥離後の画像濃度/テープ貼付前の画像濃度)×100
剥離後の画像濃度がテープ貼付前の画像濃度と同じ値になった時を定着率100%とし、値が小さくなるにつれ定着性が低いことを示す。定着率が90%以上を定着性良好とする。
【0093】
(定着可能温度範囲)
5℃刻みで定着温度の各々で前記試験を行い、コールドオフセットが発生する温度または定着率が90%未満となる温度から、ホットオフセットが発生する温度まで実施した。なお、コールドオフセットとは、定着温度が低い場合に、未定着画像上のトナーが充分に溶融せずに、定着ローラーにトナーが付着する現象を指し、一方、ホットオフセットとは、定着温度を高温にした場合に、未定着画像上のトナーの粘弾性が低下することで、定着ローラーにトナーが付着する現象を指す。コールドオフセットまたはホットオフセットの発生は定着ローラーが一周した際に、再度、紙上にトナーが付着するか否かで判断することができ、本試験ではべた画像上端から87mmの部分にトナー付着があるか否かで判断した。
本発明におけるトナーの定着性は、最低定着温度及びトナーの定着可能温度範囲(最低定着温度〜最高定着温度)で評価した。定着可能温度範囲が広いほど、定着性に優れ、最低定着温度が低いほど、低温定着性に優れる。ここで、最低定着温度とは、コールドオフセットが発生しないか、あるいは定着率が90%以上となる温度のうち、その最低温度をいい、最高定着温度とは、ホットオフセット発生温度−5℃の温度をいう。ホットオフセット発生温度とは、ホットオフセットが発生し始める温度である。
【0094】
[ポリエステルの製造]
製造例1
(ポリエステル樹脂(A)(非晶質ポリエステル)の製造)
ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン8320g、ポリオキシエチレン(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン80g、テレフタル酸1592g及びジブチル錫オキサイド32gを四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、常圧(101.3kPa)、230℃で5時間撹拌し、さらに減圧(8.3kPa)し、2時間撹拌を続けた。反応混合物を常圧に戻し、210℃に冷却し、フマル酸1672g、ハイドロキノン8gを加え、5時間撹拌した後に、さらに減圧下で撹拌を続けて、ASTM D36−86に従って測定した軟化点が110℃に達したところで冷却し、ポリエステル樹脂(A)を得た。
ポリエステル樹脂(A)の結晶性指数は1.5、数平均分子量は3.4×103、軟化点は110℃、ガラス転移点は66℃、酸価は24.4mgKOH/gであった。
【0095】
製造例2
(ポリエステル樹脂(B)(非晶質ポリエステル)の製造)
ポリオキシプロピレン(2.2)−2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン4176g、ポリオキシエチレン(2.0)−2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン3881g、テレフタル酸2253g、ドデセニルコハク酸無水物322g、トリメリット酸無水物945g及びジブチル錫オキサイド15gを、四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、220℃で撹拌し、ASTM D36−86に従って測定した軟化点が120℃に達したところで冷却し、ポリエステル樹脂(B)を得た。
ポリエステル樹脂(B)の結晶性指数は1.6、数平均分子量は3.0×103、軟化点は121℃、ガラス転移点は65℃、酸価は21.0mgKOH/gであった。
【0096】
製造例3
(ポリエステル樹脂(C)(結晶性ポリエステル)の製造)
1,9−ノナンジオール3936g、セバシン酸4848gを、窒素導入管、窒素導入管、脱水管、攪拌装置及び熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、140℃まで加熱した。140℃到達後、140℃から200℃まで10時間かけて昇温し反応させた。その後、ジオクチル酸錫50gを加えさらに200℃にて1時間反応させた後、8.3kPaにて3時間反応させてポリエステル樹脂Cを得た。
ポリエステル樹脂(C)の結晶性指数は1.0、数平均分子量は4.9×103、融点は72℃、酸価は19.9mgKOH/gであった。
【0097】
[樹脂粒子分散液の製造]
製造例4
(樹脂粒子分散液Aの製造)
2リットル容のステンレスフラスコに、ポリエステル樹脂(A)300g、ポリエステル樹脂(B)210.0g、ポリエステル樹脂(C)90g、銅フタロシアニン顔料(大日精化工業(株)製、商品名:ECB−301)45g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム15重量%水溶液(花王(株)製、商品名:ネオペレックスG−15、アニオン性界面活性剤)80.0g、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王(株)製、商品名:エマルゲン150、非イオン性界面活性剤)8.5g、及び5重量%水酸化カリウム水溶液278.5gを入れ、撹拌しながら、98℃に昇温して溶融し、98℃で2時間混合して、樹脂混合物を得た。
次に、系の温度を98℃に保持し、撹拌しながら、1222gの脱イオン水を6g/分の速度で滴下し、乳化物を得た。得られた乳化物を冷却し、25℃で撹拌しながら、オキサゾリン基含有ポリマー水溶液((株)日本触媒製、商品名:エポクロスWS−700、不揮発分25重量%、アクリル主鎖)28gを添加し、その後95℃に温度を上げ95℃で1時間保持した。次に、25℃に冷却し、得られた乳化物を200メッシュ(目開き105μm)の金網を通して、樹脂粒子分散液Aを得た。
樹脂粒子分散液Aの固形分濃度は32%であり、樹脂粒子分散液A中の樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は320nm、CV値は24%であった。
【0098】
製造例5
(樹脂粒子分散液Bの製造)
2リットル容のステンレスフラスコに、ポリエステル樹脂(A)390.0g、ポリエステル樹脂(B)210.0g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム15重量%水溶液(前記ネオペレックスG−15)20.0g、ポリオキシエチレン(26mol)オレイルエーテル(前記エマルゲン430)6.0g、及び5重量%水酸化カリウム水溶液278.5gを入れ、撹拌しながら、95℃に昇温して溶融し、95℃で2時間混合して、樹脂混合物を得た。
次に、系の温度を95℃に保持し、撹拌しながら、1222gの脱イオン水を6g/分の速度で滴下し、乳化物を得た。次に、25℃に冷却し、得られた乳化物を200メッシュの金網を通して、樹脂粒子分散液Bを得た。
樹脂粒子分散液Bの固形分濃度は30%であり、樹脂粒子分散液B中の樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は141nm、CV値は24%、樹脂粒子のガラス転移点は61℃、樹脂粒子を構成するポリエステル樹脂のガラス転移点は65℃であった。
【0099】
[離型剤粒子分散液の製造]
製造例6
<工程(1):離型剤粒子分散液Aの作製>
1リットル容のビーカーで、脱イオン水200gにポリカルボン酸ナトリウム水溶液としてアクリル酸ナトリウム−マレイン酸ナトリウム共重合体水溶液(花王(株)製、商品名:ポイズ521、有効濃度40重量%)3.8gを溶解させた後、これにカルナウバワックス((株)加藤洋行製、商品名:カルナウバワックス1号、融点83℃)5gとパラフィンワックス(日本精鑞(株)製、商品名:HNP−9、融点75℃)45gを添加し、90〜95℃に温度を保持して溶融させて攪拌し、カルナウバワックスとパラフィンワックスとが一体となって溶融した溶融混合物を得た。
得られた溶融混合物を含んだ水溶液を更に90〜95℃に温度を保持しながら、超音波ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名:US−600T)で30分間分散処理を行った後に室温まで冷却し、ここにイオン交換水を加え、離型剤固形分20重量%に調整し、離型剤粒子分散液Aを得た。
離型剤粒子分散液A中の離型剤粒子の体積中位粒径(D50)は450nm、CV値は30%であった。
【0100】
製造例7
<工程(1):離型剤粒子分散液Bの作製>
製造例6において、パラフィンワックスHNP−9に代えて、パラフィンワックスHNP−11(商品名、日本精鑞(株)製、融点68℃)を用いた以外は同様にして、離型剤粒子分散液Bを得た。
離型剤粒子分散液B中の離型剤粒子の体積中位粒径(D50)は353nm、CV値は27%であった。
【0101】
製造例8
<工程(1):離型剤粒子分散液Cの作製>
製造例6において、パラフィンワックスHNP−9に代えて、パラフィンワックスHNP−3(商品名、日本精鑞(株)製、融点64℃)を用いた以外は同様にして、離型剤粒子分散液Cを得た。
離型剤粒子分散液C中の離型剤粒子の体積中位粒径(D50)は452nm、CV値は33%であった。
【0102】
製造例9
<工程(1):離型剤粒子分散液Dの作製>
製造例6において、パラフィンワックスHNP−9に代えて、パラフィンワックスParaffin Wax 140(商品名、日本精鑞(株)製、融点61℃)を用いた以外は同様にして、離型剤粒子分散液Dを得た。
離型剤粒子分散液D中の離型剤粒子の体積中位粒径(D50)は455nm、CV値は32%であった。
【0103】
製造例10
<工程(1):離型剤粒子分散液Eの作製>
製造例6において、パラフィンワックスHNP−9 45g及びカルナウバワックス5gに代えてカルナウバワックス50gを用いた以外は同様にして、離型剤粒子分散液Eを得た。
離型剤粒子分散液E中の離型剤粒子の体積中位粒径(D50)は375nm、CV値は30%であった。
【0104】
製造例11
<工程(1):離型剤粒子分散液Fの作製>
製造例6において、パラフィンワックスHNP−9 45g及びカルナウバワックス5gに代えてパラフィンワックスHNP−9 50gを用い、ポリカルボン酸ナトリウム水溶液に代えてアルケニルコハク酸ジカリウム水溶液(花王(株)製、商品名:ラテムルASK、有効濃度28%)を用いた以外は同様にして、離型剤粒子分散液Fを得た。
離型剤粒子分散液F中の離型剤粒子の体積中位粒径(D50)は330nm、CV値は22%であった。
【0105】
製造例12
<工程(1):離型剤粒子分散液Gの作製>
2リットル容のステンレスフラスコにカルナウバワックス10gとパラフィンワックスHNP−9 90gとを入れ、撹拌しながら95℃に昇温して溶融し、95℃で30分間保持した。冷却した後に内容物を取り出し、粉砕して、ワックス溶融混合物を得た。
1リットル容のビーカーで、脱イオン水200gにポリカルボン酸ナトリウム水溶液としてアクリル酸ナトリウム−マレイン酸ナトリウム共重合体水溶液(花王(株)製、商品名:ポイズ521、有効濃度40重量%)3.8gを溶解させた後、これに先に得られたワックス溶融混合物50gを添加し分散させた。この分散液を90〜95℃に温度を保持しながら、超音波ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名:US−600T)で30分間分散処理を行った後に室温まで冷却し、ここにイオン交換水を加え、離型剤固形分20重量%に調整し、離型剤粒子分散液Gを得た。
離型剤粒子分散液G中の離型剤粒子の体積中位粒径(D50)は490nm、CV値は32%であった。
【0106】
製造例13
<工程(1):離型剤粒子分散液Hの作製>
製造例11において、パラフィンワックスHNP−9 50gに代えて、パラフィンワックスHNP−11 45g及びHNP−9 5gを用いた以外は同様にして、離型剤粒子分散液Hを得た。
離型剤粒子分散液H中の離型剤粒子の体積中位粒径(D50)は350nm、CV値は25%であった。
【0107】
製造例14
<工程(1):離型剤粒子分散液Iの作製>
製造例7において、カルナウバワックスに代えて、エステルワックス(日油(株)製、商品名:WEP−3、融点73℃)を用いた以外は同様にして、離型剤粒子分散液Iを作製したが、大量に沈殿が発生した。
沈殿を除去した後の離型剤粒子分散液I中の離型剤粒子の体積中位粒径(D50)は1.8μm、CV値は77%であった。
【0108】
実施例1
(トナーの作製)
<工程(2):凝集粒子分散液の作製>
樹脂粒子分散液A 250gと、脱イオン水66gと、離型剤粒子分散液B 42gとを、脱水管、撹拌機及び熱電対を装備した2リットル容4つ口フラスコに入れ、25℃で混合した。次に、25℃で撹拌しながら、この混合物に硫酸アンモニウム20.9gを脱イオン水220gに溶解させた水溶液を30分かけて滴下した。次いで、得られた混合液を55℃まで昇温し、55℃で保持し、体積中位粒径が4.0μmの凝集粒子を含む分散液を得た。
【0109】
<工程(3):コアシェル構造の凝集粒子の分散液の作製>
続いて、樹脂粒子分散液B 24gと脱イオン水7.5gとを混合した混合液を、前記分散液に60分かけて滴下した。なお、本工程では凝集粒子を含む分散液を55℃に維持したまま行った。その後、同じ混合液を調製し、60分かけて滴下した。更に、同じ混合液を調製し、60分かけて滴下した。次に、樹脂粒子分散液A 28g及び脱イオン水9.0gを混合した混合液と、硫酸アンモニウム1.5gを15gの脱イオン水に溶解させた水溶液を同時に60分かけて滴下した。その後、同じ混合液及び水溶液を調製し、同時に60分かけて滴下した。その結果、体積中位粒径が5.0μmのコアシェル構造の凝集粒子を含む分散液を得た。
【0110】
<工程(4):融着したコアシェル粒子分散液の作製>
得られた分散液に、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:エマールE27C、固形分:28重量%)11.6g及び脱イオン水450gを混合した水溶液を添加した後、2時間かけて70℃まで昇温し、2時間保持し、体積中位粒径が5.0μmの融着したコアシェル粒子を得た。その後、25℃まで冷却した。
【0111】
<後処理工程>
得られた融着したコアシェル粒子を、濾過し、乾燥し、洗浄して、トナー粒子を得た。このトナー粒子100重量部に対して、疎水性シリカ(日本アエロジル(株)製、商品名:RY50、個数平均粒径;0.04μm)2.5重量部、疎水性シリカ(キャボット社製、商品名:キャボシールTS720、個数平均粒径;0.012μm)1.0重量部、及びポリマー微粒子(日本ペイント(株)製、商品名:ファインスフェアP2000、個数平均粒径;0.5μm)0.8重量部をヘンシェルミキサーで外添処理し、150メッシュの篩いを通過し、電子写真用トナーを得た。
【0112】
実施例2〜4、比較例1〜5
表1に示すように離型剤粒子分散液を変更した以外は実施例1と同様にして、トナーを得た。
なお、比較例3〜5のトナーは、離型剤粒子がコアシェル粒子中に取り込まれなかった。
【0113】
比較例6
離型剤粒子分散液Bを離型剤粒子分散液Iに変更した以外は実施例1と同様の操作を行ったが、凝集工程中に粗大粒子が大量に発生し、トナーが得られなかった。
【0114】
【表1】

【0115】
表1より、本発明の方法によって得られた実施例の電子写真用トナーは、比較例のトナーに比べ、定着温度領域が広く、定着性に優れ、保存安定性にも優れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(1)〜(4)を含む電子写真用トナーの製造方法。
工程(1):融点が70℃〜90℃でカルナウバワックスからなる離型剤(a)及び該離型剤(a)の融点より低い融点を有する離型剤(b)を含む離型剤を、離型剤(a)の融点以上の温度で溶融混合し、水性媒体に分散して離型剤粒子を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた離型剤粒子、融点が60℃以上90℃未満の結晶性ポリエステル(a)を含有する樹脂粒子(A)、及び凝集剤を水性媒体中で混合して凝集粒子を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた凝集粒子に、非晶質ポリエステル(b)を含有する樹脂粒子(B)を混合して、コアシェル構造の凝集粒子を得る工程
工程(4):工程(3)で得られたコアシェル構造の凝集粒子を構成する粒子を融着する工程
ただし、離型剤(b)の融点と結晶性ポリエステル(a)の融点との差の絶対値は10℃以下である。
【請求項2】
工程(1)において、水性媒体中で離型剤(a)及び離型剤(b)を溶融させながら混合する、請求項1に記載の電子写真用トナーの製造方法。
【請求項3】
工程(1)において、界面活性剤を含有する水性媒体中で離型剤(a)及び離型剤(b)を溶融させながら混合して離型剤混合物を得た後、該離型剤混合物を、分散機を用いて水性媒体に分散して離型剤粒子を得る、請求項1又は2に記載の電子写真用トナーの製造方法。
【請求項4】
樹脂粒子(A)が非晶質ポリエステル(c)を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真用トナーの製造方法。
【請求項5】
前記結晶性ポリエステル(a)が、炭素数4〜9の脂肪族ジオールを80モル%以上含有するアルコール成分とジカルボン酸を80モル%以上含有するカルボン酸成分とを重縮合して得られるものである、請求項1〜4のいずれかに記載の電子写真用トナーの製造方法。
【請求項6】
離型剤(b)の融点が結晶性ポリエステル(a)の融点より低い、請求項1〜5のいずれかに記載の電子写真用トナーの製造方法。
【請求項7】
離型剤(b)がパラフィンワックスからなる、請求項1〜6のいずれかに記載の電子写真用トナーの製造方法。
【請求項8】
工程(4)において融着する際の温度が、樹脂粒子(A)に含有される非晶質ポリエステル(c)のガラス転移点以上である、請求項4〜7のいずれかに記載の電子写真用トナーの製造方法。
【請求項9】
非晶質ポリエステル(b)及び(c)のガラス転移点が55〜75℃である、請求項1〜8のいずれかに記載の電子写真用トナーの製造方法。
【請求項10】
樹脂粒子(A)が着色剤を含有する着色剤含有樹脂粒子である、請求項1〜9のいずれかに記載の電子写真用トナーの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法により得られる電子写真用トナー。