説明

電子写真用感光体およびその製造方法

【課題】使用する樹脂バインダー、電荷輸送材料等の有機材料の種類や、使用環境の温度、湿度変動等に左右されることなく、電気特性の安定性を向上することができ、メモリー等の画像障害の発生を防止することができる電子写真用感光体を提供する。
【解決手段】導電性基体上に少なくとも感光層を備える電子写真用感光体である。感光層が、下記一般式(I)、


(式(I)中、R1〜R10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有する若しくは無置換の炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有する若しくは無置換のアリール基または炭素数1〜5のアルコキシ基を表す)で示されるシクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式のプリンター、複写機、ファクシミリなどに用いられる電子写真用感光体(以下、単に「感光体」とも称する)およびその製造方法に関し、特には、添加剤の改良により優れた耐刷性や耐ガス性を実現した電子写真用感光体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子写真用感光体には、暗所で表面電荷を保持する機能と、光を受容して電荷を発生する機能と、同じく光を受容して電荷を輸送する機能とが要求され、一つの層でこれらの機能を併せ持った、いわゆる単層型感光体と、主として電荷発生に寄与する層と暗所での表面電荷の保持および光受容時の電荷輸送に寄与する層とに機能分離した層を積層した、いわゆる積層型感光体とがある。
【0003】
これらの電子写真用感光体を用いた電子写真法による画像形成には、例えば、カールソン法が適用される。この方式での画像形成は、暗所での感光体への帯電と、帯電された感光体表面上への原稿の文字や絵などの静電画像の形成と、形成された静電画像のトナーによる現像と、現像されたトナー像の紙などの支持体への転写定着とにより行われる。トナー像転写後の感光体は、残留トナーの除去や除電などを行った後に、再使用に供される。
【0004】
上述の電子写真用感光体の材料としては、セレン、セレン合金、酸化亜鉛あるいは硫化カドミウムなどの無機光導電性材料や、ポリ−N−ビニルカルバゾール、9,10−アントラセンジオールポリエステル、ピラゾリン、ヒドラゾン、スチルベン、ブタジエン、ベンジジン、フタロシアニン、またはビスアゾ化合物などの有機光導電性物質が挙げられる。これらの材料は、樹脂バインダー中に分散して、あるいは真空蒸着または昇華して使用される。
【0005】
近年特に、オフィス内のネットワーク化による印刷枚数の増加や電子写真による軽印刷機の急発展等に伴い、電子写真方式の印字装置には、高耐久性、高感度、さらには高速応答性等がますます求められるようになってきている。また、装置内で発生するオゾンやNOxなどの気体に由来する影響や、使用環境(室温、湿度)の変動による画像特性の変動等が小さいことも強く要求されている。
【0006】
しかし現在のところ、従来の感光体では求められる要求特性を必ずしも充分に満足しているとはいえず、以下に述べるような問題点が挙げられる。
【0007】
まず、耐磨耗性の問題である。近年、モノクロプリントを行うプリンター、複写機はもとより、カラープリントを行う機種においても、タンデム現像方式等の導入により高速印刷機が普及してきている。特に、カラープリントを行う際には、高解像度が求められるのに加えて、画像の位置精度の高さも要求仕様の中で重要な位置を占めるようになってきている。感光体の表面は、印刷枚数を重ねることにより、紙や各種ローラー類、ブレード等との摩擦により磨耗する。この磨耗の度合いが大きいと、高解像度および高い画像位置精度を示す画像を印刷することが難しくなる。耐磨耗性の向上に関する検討は、これまでに種々行われてきているが、十分とはいえなかった。
【0008】
また、装置内で発生し、感光体に影響を与える気体については、広く知られているものとしてオゾンが挙げられる。オゾンはコロナ放電を行う帯電器やローラー帯電器によって発生する。これが装置内に残留または滞留等することで感光体が曝露され、感光体を構成する有機物質が酸化されて本来の構造が破壊され、感光体特性を著しく悪化させることが考えられる。また、このオゾンにより、空気中の窒素が酸化されてNOxとなり、このNOxが感光体を構成する有機物質を変性させることも考えられる。
【0009】
このような気体による感光体の特性悪化は、表面層そのものが侵されることだけでなく、感光層内部へ気体が流入することにも起因すると考えられる。感光体の最表面の層自体は、量の多少はあるものの、前述の各種部材との摩擦により削り取られることも考えられるが、感光層内部に有害気体が流入することで感光層内の有機物質が構造の破壊を受ける可能性があり、この有害気体の流入を抑えることが課題とされる。特に、感光体を複数本使用するタンデム方式のカラー電子写真装置においては、装置内でのドラムの設置位置などにより気体による影響の度合いに差が生じると、色調の変動が発生して十分な画像を生み出すことに支障をきたすことが考えられ、特に重要な課題であるといえる。
【0010】
次に、耐ガス性に関しては、その機能向上のために、特許文献1や特許文献2において、ヒンダードフェノール化合物やリン系化合物、硫黄系化合物、アミン系化合物、ヒンダードアミン系化合物等の酸化防止剤を用いることが示されており、また、特許文献3では、カルボニル化合物、特許文献4ではベンゾエート系またはサリチレート系エステル化合物を用いる方法が提案されている。また、ビフェニル等の添加剤とともに特定のポリカーボネート樹脂を用いること(特許文献5)や、特定のアミン化合物とポリアリレート樹脂との組合せること(特許文献6)、さらに、ポリアリレート樹脂と特定の吸光度を持つ化合物とを組み合わせること(特許文献7)等により耐ガス性を向上させる方法も提案されている。しかし、これらの方法では、十分な耐ガス性を示す感光体が得られていないか、または、耐ガス性については満足できる特性を示しても、耐磨耗性の向上には触れられておらず、さらにはその他の特性、例えば、画像メモリーや耐刷時における電位安定性等について、満足のいく結果となっていないのが現状である。
【0011】
また、特許文献8には、特定の移動度の電荷輸送層との組合せによって所定の酸素透過係数以下とすることで、帯電器周辺に生じるガスにより感光体が受ける影響を抑制できることが示されており、特許文献9には、所定の水蒸気透過率係数以下となるときに耐摩耗性や耐ガス性が向上することが示されているが、これらの場合、特定の高分子電荷輸送材料を用いなければ所望の効果を得ることができず、電荷輸送材料の移動度や構造などの制約を受けるため、様々な電気特性の要求に対して十分応えることができなかった。
【0012】
さらに、特許文献10では、融点が40℃以下の特定のジエステル化合物を用いることで耐ガス性に優れた単層型電子写真用感光体が得られることが示されているが、低融点の物質を添加すると、その添加した感光体が使用されるカートリッジや装置本体の部品と長時間接触することで、接触する相手方の部品にその化合物が染み込んでしまう、いわゆるブリードが起きて画像上に不具合を発生することがあり、十分な効果を発揮することができなかった。
【0013】
次に、使用環境における特性変動については、まず、低温低湿環境での画像特性悪化が挙げられる。即ち、低温、低湿環境下では、一般的に、見かけ上感光体の持つ感度特性等が低下することにより、画像濃度の低下や、ハーフトーン画像における階調の悪化といった画像品質の悪化が顕在化することとなる。また、感度特性の悪化に伴う画像メモリーも顕著になることがある。これは、印字の際、ドラム一回転目に潜像として記録された画像がドラム2回転目以降にも電位の変動を受けた形となり、特にハーフトーン画像を印字した場合に不必要な部分に印字されてしまうといった画像の悪化である。特に、低温、低湿においては、印字画像の濃淡が逆転するネガメモリが顕著に見られる例が多い。
【0014】
また、高温高湿環境での画像特性悪化もある。即ち、高温、高湿環境下では一般的に、感光層中の電荷の移動速度が常温常湿の場合に比べ大きくなり、これに起因して印字濃度の過度の増加や、白ベタ画像での微小黒点(カブリ)等の不具合が観察される。印字濃度の過度の増加はトナー消費量の増加につながり、また、1ドット径が大きくなるために微細な階調がつぶれる原因となる。また、画像メモリーについても、低温低湿環境下とは逆に、印字画像の濃淡がそのまま反映されたポジメモリが顕著に見られる場合が多い。
【0015】
こうした温湿度による特性悪化は、感光層の表面層中の樹脂バインダーや電荷発生材料などの吸湿や放湿が原因となることが多い。これに対し、特許文献11や特許文献12に開示されているように特定の化合物を電荷発生層に添加すること、また、特許文献13に開示されているように特定のポリカーボネート系高分子電荷輸送材料を表面層に用いること等、これまでに種々材料についての検討がなされてきたが、これら感光体に対する温湿度の影響を抑える等といった諸特性を充分に満足し得る材料は今まで見出されていなかった。
【特許文献1】特開昭57−122444号公報
【特許文献2】特開昭63−18355号公報
【特許文献3】特開2002−268250号公報
【特許文献4】特開2002−287388号公報
【特許文献5】特開平6−75394号公報
【特許文献6】特開平2004−199051号公報
【特許文献7】特開2004−206109号公報
【特許文献8】特開平08−272126号公報
【特許文献9】特開平11−288113号公報
【特許文献10】特開2004−226637号公報
【特許文献11】特開平6−118678号公報
【特許文献12】特開平7−168381号公報
【特許文献13】特開2001−13708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述のように、感光体材料に関し、これまでに種々の検討がなされてきているが、上記したような諸要求性能を十分に満足できる電子写真用感光体は未だ得られていなかった。
【0017】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、使用する樹脂バインダー、電荷輸送材料等の有機材料の種類や、使用環境の温度、湿度変動等に左右されることなく、電気特性の安定性を向上することができ、メモリー等の画像障害の発生を防止することができる電子写真用感光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは上記課題に対し、感光層等の、感光体の各層に使用される樹脂バインダーの構造に着目した。感光体の表面層に用いられる樹脂としては、現在のところ主としてポリカーボネートやポリアリレート樹脂等が用いられている。感光層は、これら樹脂を種々の機能材料とともに溶剤に溶解させ、この溶液を浸漬塗工やスプレー塗工等により基体上に塗布して形成される。この際に、樹脂は機能材料を包み込む形で膜を形成することになるが、分子レベルでは、膜中に無視できない程度の大きさの空隙が生じることとなる。この空隙が大きいと、感光体としての耐磨耗性の悪化や、気体や水蒸気などの低分子ガスの流出入に起因する電気特性の悪化を招くことが予想される。
【0019】
従って、膜中に生じるかかる空隙を適切な大きさの分子により充填することができれば、より強固な膜を形成することが可能となり、耐磨耗性を向上させるとともに、有害気体や水蒸気などの低分子ガスの流出入を抑えることが可能となると考えられる。
【0020】
本発明者らは、かかる観点から鋭意検討した結果、樹脂が膜を形成する際に分子レベルで膜中に生じる空隙を、以下に示す特定の構造を有する化合物が充填する作用を利用することで、上述の諸問題を解決し得る感光体およびその製造方法を実現することが可能となることを見出した。
【0021】
即ち、本発明の電子写真用感光体は、導電性基体上に少なくとも感光層を備える電子写真用感光体において、該感光層が、下記一般式(I)、

(式(I)中、R1〜R10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有する若しくは無置換の炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有する若しくは無置換のアリール基または炭素数1〜5のアルコキシ基を表す)で示されるシクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有することを特徴とするものである。
【0022】
本発明においては、前記感光層が電荷発生層と電荷輸送層とからなる積層型の場合には、該電荷発生層または電荷輸送層に前記シクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有させることが好ましく、前記感光層が単一の層からなる単層型の場合には、該単層型感光層に前記シクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有させることが好ましい。
【0023】
また、本発明の他の電子写真用感光体は、導電性基体上に少なくとも下引き層および感光層を順次備える電子写真用感光体において、該下引き層が、下記一般式(I)、

(式(I)中、R1〜R10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有する若しくは無置換の炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有する若しくは無置換のアリール基または炭素数1〜5のアルコキシ基を表す)で示されるシクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有することを特徴とするものである。
【0024】
さらに、本発明のさらに他の電子写真用感光体は、導電性基体上に少なくとも感光層および表面保護層を順次備える電子写真用感光体において、該表面保護層が下記一般式(I)、

(式(I)中、R1〜R10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有する若しくは無置換の炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有する若しくは無置換のアリール基または炭素数1〜5のアルコキシ基を表す)で示されるシクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有することを特徴とするものである。
【0025】
本発明においては、前記シクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物として、下記構造式(I−1)、

で示される構造を有するもの、または、下記構造式(I−2)、

で示される構造を有するものを、好適に用いることができる。また、前記シクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物の添加量は、添加される層の樹脂バインダー100質量部に対し0.1質量部以上30質量部以下とすることが好ましい。
【0026】
また、本発明の電子写真用感光体の製造方法は、上記本発明の電子写真用感光体の製造方法であって、前記導電性基体上に塗布液を塗布して層を形成する工程を含む電子写真用感光体の製造方法において、該塗布液中に、前記一般式(I)で示されるシクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、上記特定の化合物を感光体の層中に含有させることで、優れた感光体を提供することができる。上記化合物を表面層へ添加すれば、他の有機材料の特性によることなく、感光体の耐磨耗性を向上することができるとともに、有害気体や水蒸気の感光層内部への侵入を抑えることができる。また、積層型感光体については、かかる化合物を内部の層である電荷発生層や下引き層に用いることで、膜中への有害気体や水蒸気等の流出入を抑えることが可能となる。従って本発明を適用することで、使用する有機材料の種類や使用環境条件に制限されることなく、安定した電気特性および画像特性を発揮できる電子写真用感光体を得ることが可能となる。
【0028】
なお、上記一般式(I)に示される化合物と類似の構造を持つ化合物としては、特開平1−101543号公報に示される芳香族カルボン酸エステルが、ハロゲン化銀写真感光材料として用いられている。しかし、かかる化合物を電子写真用感光体用材料として使用することは、これまで知られていなかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の電子写真用感光体の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。この発明は以下に説明される実施例に限定されるものではない。
【0030】
電子写真用感光体は、一般に、機能分離型の負帯電積層型感光体および正帯電積層型感光体と、主として正帯電型の単層型感光体とに大別されるが、本発明はいずれの感光体についても適用可能である。図1は、本発明の一実施の形態に係る電子写真用感光体を示す模式的断面図であり、(イ)は負帯電型の積層型電子写真用感光体、(ロ)は正帯電型の単層型電子写真用感光体を示している。
【0031】
図示するように、負帯電積層型感光体においては、導電性基体1上に、下引き層2と、電荷発生機能を備える電荷発生層4および電荷輸送機能を備える電荷輸送層5からなる感光層3とが順次積層され、さらに、表面保護層6が形成されている。一方、正帯電単層型感光体においては、導電性基体1上に下引き層2と、電荷発生および電荷輸送の両機能を併せ持つ単一の感光層3とが順次積層されている。なお、いずれのタイプの感光体においても、下引き層2は必要に応じ設ければよく、表面保護層6についても所望に応じ設けることができる。
【0032】
本発明においては、感光体を構成する各層中に、下記一般式(I)、

(式(I)中、R1〜R10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有する若しくは無置換の炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有する若しくは無置換のアリール基または炭素数1〜5のアルコキシ基を表す)で示されるシクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有させる点が重要である。かかる化合物を、感光体の表面層をなす表面保護層6や電荷輸送層5、単層型の感光層3等に含有させる場合には、耐磨耗性向上効果および有害な気体や水蒸気等の感光層内部への流出入抑制効果を得ることができ、また、感光体内部の電荷発生層4や下引き層2等に含有させる場合には、膜中への有害気体や水蒸気等の流出入抑制効果を得ることができる。また、本発明においては、上記化合物を感光体中の複数の層に重複して含有させることももちろん可能であり、この場合には、上記効果を相乗的に得ることができる。
【0033】
以下に、上記一般式(I)に示すシクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物の具体的な構造例を示す。但し、本発明において使用できる化合物は、これらに限定されるものではない。
【0034】

【0035】

【0036】
本発明に用いるシクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物としては、上記一般式(I)で示される化合物のうち、R1〜R10がそれぞれ独立して、水素原子または無置換の炭素数1〜5のアルキル基である化合物が好ましい。この中でも構造式(I−1)および構造式(I−2)で示されるものが特に好適である。上記一般式(I)で示されるシクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物の添加量としては、添加される層の樹脂バインダー100質量部に対し0.1質量部以上30質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上20質量部以下である。
【0037】
本発明においては、感光体の各層中に、上記一般式(I)で示される化合物を含有させる点のみが重要であり、それ以外の点については、常法に従い構成することができる。以下に、図1(イ)に示す積層型感光体を例にとって本発明の感光体の構成について説明するが、本発明は、以下の記載により限定されるものではない。
【0038】
導電性基体1は、感光体の一電極としての役目と同時に感光体を構成する各層の支持体となっており、円筒状、板状、フィルム状などいずれの形状でもよい。その材質は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルなどの金属類、あるいはガラス、樹脂などの表面に導電処理を施したものでもよい。
【0039】
下引き層2は、樹脂を主成分とする層やアルマイトなどの金属酸化皮膜からなり、導電性基体から感光層への電荷の注入性を制御するため、または基体表面の欠陥の被覆、感光層と下地との接着性の向上などの目的で必要に応じて設けられる。下引き層に用いられる樹脂バインダーとしては、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、メラミン、セルロースなどの絶縁性高分子、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性高分子が挙げられ、これらは単独で、あるいは適宜組み合わせて混合して用いることができる。また、樹脂バインダー中には、二酸化チタン、酸化亜鉛などの金属酸化物を含有させることができる。
【0040】
下引き層の膜厚は、その配合組成にも依存するが、繰り返し連続使用したときに残留電位が増大するなどの悪影響が出ない範囲で任意に設定することができ、通常、0.01〜50μm程度である。
【0041】
電荷発生層4は、電荷発生材料の粒子を樹脂バインダー中に分散させた塗布液を塗布するなどの方法により形成され、光を受容して電荷を発生する。また、その電荷発生効率が高いことと同時に発生した電荷の電荷輸送層4への注入性が重要であり、電場依存性が少なく低電場でも注入の良いことが望ましい。電荷発生層4は電荷発生機能を有すればよいので、その膜厚は電荷発生材料の光吸収係数より決まり、一般的には1μm以下であり、好適には0.5μm以下である。また、電荷発生層は電荷発生材料を主体として、これに電荷輸送材料などを添加して使用することも可能である。電荷発生材料の使用量は、樹脂バインダー10質量部に対し、通常1〜100質量部、好適には5〜50質量部である。
【0042】
電荷発生材料としては、X型無金属フタロシアニン、τ型無金属フタロシアニン、α型チタニルフタロシアニン、β型チタニルフタロシアニン、Y型チタニルフタロシアニン、γ型チタニルフタロシアニン、アモルファス型チタニルフタロシアニン、ε型銅フタロシアニンなどのフタロシアニン化合物、各種アゾ顔料、アントアントロン顔料、チアピリリウム顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、スクアリリウム顔料、キナクリドン顔料等を単独で、または適宜組合せて用いることができ、画像形成に使用される露光光源の光波長領域に応じて好適な材料を選ぶことができる。
【0043】
電荷発生層に用いる樹脂バインダーとしては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレ−ト樹脂、メタクリル酸エステル樹脂の重合体および共重合体などを挙げることができ、これらは適宜組合せて使用することが可能である。
【0044】
電荷輸送層5は、主として電荷輸送材料と樹脂バインダーとにより構成され、暗所では絶縁体層として感光体の電荷を保持し、光受容時には電荷発生層から注入される電荷を輸送する機能を発揮する。電荷輸送層の膜厚としては、実用上有効な表面電位を維持するためには3〜50μmの範囲が好ましく、より好適には15〜40μmである。
【0045】
電荷輸送材料としては、各種ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、ジアミン化合物、ブタジエン化合物、インドール化合物等を挙げることができ、これらは単独、あるいは適宜組合せて混合して用いることができる。電荷輸送材料の使用量は、樹脂バインダー100質量部に対し、通常2〜50質量部、好適には3〜30質量部である。本発明に使用することのできる電荷輸送材料の具体例を以下に示す。
【0046】

【0047】

【0048】
また、電荷輸送層用の樹脂バインダーとしては、ビスフェノールA型、ビスフェノールZ型、ビスフェノールA型−ビフェニル共重合体などのポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレン樹脂などを、それぞれ単独で、あるいは適宜組み合わせて混合して用いることができる。
【0049】
表面保護層6は、耐環境性や機械的強度をより向上させる目的で、感光層表面に必要に応じて設けられる。表面保護層は、機械的ストレスに対する耐久性および耐環境性に優れた材料で構成され、電荷発生層が感応する光をできるだけ低損失で透過させる性能を有していることが望ましい。また、表面保護層の膜厚は、その配合組成にも依存するが、繰り返し連続使用したときに残留電位が増大する等の悪影響が出ない範囲で任意に設定することができる。
【0050】
表面保護層は、樹脂バインダーを主成分とする層や、アモルファスカーボンなどの無機薄膜からなる。樹脂バインダーとしては、例えば、ポリカーボネート樹脂等を用いることができる。また、樹脂バインダー中には、導電性の向上や摩擦係数の低減、潤滑性の付与などを目的として、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム等の金属酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの金属硫酸塩、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物、金属酸化物の微粒子、または4フッ化エチレン樹脂等のフッ素系樹脂、フッ素系クシ型グラフト重合樹脂等の粒子を含有させてもよい。
【0051】
さらに、表面保護層には、本発明に係る前記一般式(I)で示される化合物の他、電荷輸送性を付与する目的で、上記電荷輸送層に用いられる電荷輸送材料、電子受容材料を含有させたり、形成した膜のレベリング性の向上や潤滑性の付与を目的として、シリコーンオイルやフッ素系オイルなどのレベリング剤を含有させることもできる。
【0052】
また、単層型感光体における単層型の感光層3には、主成分として電荷発生材料、電荷輸送材料および樹脂バインダーが用いられる。かかる電荷発生材料および電荷輸送材料としては、電荷発生層4および電荷輸送層5におけるのと同様のものを用いることができ、樹脂バインダーについても、これらの層に用いるのと同様の樹脂のうちから、適宜選択して用いることができる。なお、電荷輸送材料には、正孔輸送材料と電子輸送材料とがあるが、単層型の感光層3には、これらを併用することが好ましい。
【0053】
単層型の感光層3における電荷発生材料の含有量は、感光層の固形分に対し、通常0.01〜50質量%、好適には0.1〜20質量%、より好適には0.5〜10質量%である。また、電荷輸送材料の含有量は、感光層の固形分に対し、好適には10〜90質量%、より好適には20〜80質量%である。このうち電子輸送材料の含有量は、感光層の固形分に対し、好適には10〜60質量%、より好適には15〜50質量%であり、正孔輸送材料の含有量は、感光層の固形分に対し、好適には10〜60質量%、より好適には20〜50質量%である。さらに、樹脂バインダーの含有量は、感光層の固形分に対し、通常10〜90質量%、好適には20〜80質量%である。
【0054】
単層型の感光層の膜厚は、実用的に有効な表面電位を維持するためには、3〜100μmの範囲が好ましく、より好ましくは10〜50μmである。
【0055】
さらに、本発明において、下引き層2、電荷発生層4、電荷輸送層5および単層型感光層3にはそれぞれ、感度の向上や残留電位の減少、耐環境性や有害な光に対する安定性の向上、耐摩擦性を含めた高耐久性の向上などを目的として、各種添加剤を所望に応じ添加することができる。かかる添加剤としては、本発明に係る前記一般式(I)で示される化合物の他、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロム無水コハク酸、無水ピロメリット酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、フタルイミド、4−ニトロフタルイミド、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、クロラニル、ブロマニル、o−ニトロ安息香酸、トリニトロフルオレノン等の化合物を挙げることができる。さらにまた、酸化防止剤、光安定剤などを添加することもできる。このような目的に用いられる化合物としては、トコフェロールなどのクロマール誘導体およびエーテル化合物、エステル化合物、ポリアリールアルカン化合物、ハイドロキノン誘導体、ジエーテル化合物、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チオエーテル化合物、フェニレンジアミン誘導体、ホスホン酸エステル、亜リン酸エステル、フェノール化合物、ヒンダードフェノール化合物、直鎖アミン化合物、環状アミン化合物、ヒンダードアミン化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
さらに、感光層中には、形成した膜のレベリング性の向上や、さらなる潤滑性の付与を目的として、シリコーンオイルやフッ素系オイルなどのレベリング剤を含有させることもできる。
【0057】
本発明の感光体は、各種マシンプロセスに適用することにより前述の効果が得られるものであり、具体的には、ローラーやブラシを用いた接触帯電方式、および、コロトロン、スコロトロンなどを用いた非接触帯電方式等の帯電プロセス、また、非磁性一成分、磁性一成分、二成分などの現像方式を用いた接触現像および非接触現像方式等の現像プロセスのいずれにおいても、十分な効果が得られるものである。
【0058】
本発明の感光体は、前記一般式(I)で示されるシクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有させた塗布液を、常法に従い導電性基体上に塗布して目的の層を形成する工程を経ることにより製造することができるものである。かかる塗布液は、浸漬塗布法または噴霧塗布法等の種々の塗布方法に適用することができ、いずれかの塗布方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を、実施例に基づきより具体的に説明する。
(合成例)
500mlの3つ口フラスコ中で、150mlのジクロロエタンに1,4−シクロヘキサンジメタノール(和光純薬工業(株)製)11.5gとピリジン(和光純薬工業(株)製)15.8gとを溶解し、室温下で、滴下ロートにて塩化ベンゾイル(和光純薬工業(株)製)22.5gを滴下した。滴下後、50℃で4時間撹拌し、室温まで冷却した後、300mlのイオン交換水にて反応液を3回洗浄した。ジクロロエタン溶液を減圧下濃縮し、残渣にトルエンを加えて晶析することにより、目的とする前記構造式(I―1)で示される化合物21.2g(融点94℃)を得た。
【0060】
なお、得られた化合物については、NMRスペクトル、質量分析スペクトル、赤外分光スペクトル等の機器分析を用いて構造の確認を実施した。このうち、かかる化合物の赤外分光スペクトルチャートを、図2に示す。
【0061】
(負帯電積層型電子写真用感光体)
(実施例1)
導電性基体としてのアルミニウム円筒を、アルコール可溶性ナイロン(アミランCM8000,東レ(株)製)5質量部およびアミノシラン処理された酸化チタン微粒子5質量部をメタノール90質量部に溶解、分散させて調製した下引き層用塗布液に浸漬し、その後引き上げて基体の外周に塗膜を形成した。この基体を温度100℃で30分間乾燥して、膜厚2μmの下引き層を形成した。
【0062】
この下引き層上に、電荷発生材料としての特開昭64−17066号公報に記載のY型チタニルフタロシアニン15質量部、および、樹脂バインダーとしてのポリビニルブチラール(エスレックB BX−1,積水化学工業(株)製)15質量部をジクロロメタンとジクロロエタンとの等量混合物600質量部にサンドミル分散機にて1時間分散させて調製した電荷発生層形成用塗布液を浸積塗工した。この基体を温度80℃で30分間乾燥して、膜厚0.3μmの電荷発生層を形成した。
【0063】
この電荷発生層上に、電荷輸送材料としての前記構造式(II−1)で示される化合物100質量部、および、樹脂バインダーとしてのポリカーボネート樹脂(パンライトTS−2050,帝人化成(株)製)100質量部をジクロロメタン900質量部に溶解した後、シリコーンオイル(KP−340,信越ポリマー(株)製)を0.1質量部加え、さらに前記構造式(I−1)で示される化合物を10質量部加えて調製した電荷輸送層形成用塗布液を塗布成膜した。この基体を温度90℃で60分間乾燥して、膜厚25μmの電荷輸送層を形成し、電子写真用感光体を作製した。
【0064】
(実施例2)
前記構造式(I−1)で示される化合物に代えて前記構造式(I−2)で示される化合物を用いた以外は実施例1と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0065】
(実施例3)
前記構造式(I−1)で示される化合物に代えて前記構造式(I−4)で示される化合物を用いた以外は実施例1と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0066】
(実施例4)
電荷輸送材料として、前記構造式(II−1)で示される化合物に代えて前記構造式(II−6)で示される化合物を用いた以外は実施例1と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0067】
(実施例5)
実施例1で使用した電荷発生層形成用塗布液中に、前記構造式(I−1)で示される化合物を1.0質量部加えた以外は実施例1と同様の方法で電子写真用感光体を作製した。
【0068】
(実施例6)
実施例1で使用した電荷発生層形成用塗布液中に、前記構造式(I−1)で示される化合物1.0質量部を加え、電荷輸送層に前記構造式(I−1)で示される化合物を添加しないこと以外は実施例1と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0069】
(実施例7)
実施例1で使用した下引き層用塗布液中に、前記構造式(I−1)で示される化合物を3.0質量部加えた以外は実施例1と同様の方法で電子写真用感光体を作製した。
【0070】
(実施例8)
実施例1で使用した下引き層用塗布液中に、前記構造式(I−1)で示される化合物を3.0質量部加え、電荷輸送層には前記構造式(I−1)で示される化合物を添加しないこと以外は実施例1と同様の方法で電子写真用感光体を作製した。
【0071】
(実施例9)
実施例1で使用した下引き層用塗布液中に、前記構造式(I−1)で示される化合物を3.0質量部加えるとともに、実施例1で使用した電荷発生層形成用塗布液中に、前記構造式(I−1)で示される化合物を1.0質量部加えた以外は実施例1と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0072】
(実施例10)
実施例1と同様にして導電性基体上に下引き層および電荷発生層を形成した後、実施例1で使用した電荷輸送層形成用塗布液から前記構造式(I−1)で示される化合物およびシリコーンオイルを除き、膜厚を20μmとした以外は実施例1と同様にして電荷輸送層を形成した。次いで、その表面に、電荷輸送材料としての前記構造式(II−1)で示される化合物80質量部および樹脂バインダーとしてのポリカーボネート樹脂(タフゼットB−500,出光興産(株)製)120質量部をジクロロメタン900質量部に溶解した後,シリコーンオイル(KP−340,信越ポリマー(株)製)を0.1質量部加え、さらに前記(I−1)で示される化合物を12質量部加えて調製した表面保護層形成用塗布液を塗布成膜した。この基体を温度90℃で60分間乾燥して、膜厚10μmの表面保護層を形成し、電子写真用感光体を作製した。
【0073】
(実施例11)
実施例1で使用した下引き層用塗布液中に前記構造式(I−1)で示される化合物を3.0質量部加え、同電荷発生層形成用塗布液に前記構造式(I−1)で示される化合物を1.0質量部加えた以外は実施例1と同様にして下引き層および電荷発生層を形成した。その後、実施例1で使用した電荷輸送層形成用塗布液から前記構造式(I−1)で示される化合物およびシリコーンオイルを除いて膜厚を20μmとした以外は実施例1と同様にして電荷輸送層を形成した。次いで、その表面に、電荷輸送材料としての前記構造式 (II−1)で示される化合物80質量部および樹脂バインダーとしてのポリカーボネート樹脂(タフゼットB−500,出光興産(株)製)120質量部をジクロロメタン900質量部に溶解した後、シリコーンオイル(KP−340,信越ポリマー(株)製)を0.1質量部加え、さらに前記構造式(I−1)で示される化合物を12質量部加えて調製した表面保護層形成用塗布液を塗布成膜した。この基体を温度90℃で60分間乾燥し、膜厚10μmの表面保護層を形成して、電子写真用感光体を作製した。
【0074】
(実施例12)
電荷発生材料として、Y型チタニルフタロシアニンに代えて特開昭61−217050号公報に記載のα型チタニルフタロシアニンを用いた以外は実施例1と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0075】
(実施例13)
電荷発生材料として、Y型チタニルフタロシアニンに代えてX型無金属フタロシアニン(Fastogen Blue 8120B,大日本インキ化学工業(株)製)を用いた以外は実施例1と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0076】
(比較例1)
前記構造式(I−1)で示される化合物を用いない以外は実施例1と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0077】
(比較例2)
前記構造式(I−1)で示される化合物を用いず、その代わりに電荷輸送層に用いる樹脂バインダーの量を110質量部に増量した以外は実施例1と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0078】
(比較例3)
前記構造式(I−1)で示される化合物を用いず、その代わりに電荷発生層形成用塗布液中にフタル酸ジオクチル(融点−50℃,和光純薬工業(株)製)を10質量部添加した以外は実施例1と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0079】
(比較例4)
前記構造式(I−1)で示される化合物を用いない以外は実施例12と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0080】
(比較例5)
前記構造式(I−1)で示される化合物を用いない以外は実施例13と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0081】
上記実施例1〜13および比較例1〜5において作製した感光体の電子写真特性を、下記の方法で評価した。即ち、まず、評価装置において感光体表面を暗所にてコロナ放電により−650Vに帯電せしめた後、帯電直後の表面電位V0を測定した。続いて暗所で5秒間放置後、表面電位V5を測定し、下記式(1)に従って帯電後5秒後における電位保持率Vk5(%)を求めた。
Vk5(%)=V5/V0×100 式(1)
【0082】
次に、ハロゲンランプを光源とし、フィルターを用いて780nmに分光した露光光を、表面電位が−600Vになった時点から5秒間感光体に照射し、表面電位が−300Vとなるまで光減衰するのに要する露光量をE1/2(μJcm-2)、−50Vとなるまで光減衰するのに要する露光量を感度E50(μJcm-2)として求めた。
【0083】
また、感光体をオゾン雰囲気下に放置できるオゾン曝露装置内に、各実施例および比較例の感光体を設置し、100ppm、2時間にてオゾン曝露した後の上記電位保持率を併せて測定し、オゾン曝露の前後における電位保持率Vk5の変化の度合いを百分率にて求め、オゾン曝露保持変化率ΔVk5とした。具体的には、オゾン曝露前の保持率をVk51、オゾン曝露後の保持率をVk52として、下記式(2)からオゾン曝露保持変化率を求めた。
ΔVk5(%)=Vk52(オゾン曝露後)/Vk51(オゾン曝露前)×100 式(2)
【0084】
上記各実施例および比較例の感光体における添加剤の種類および添加量の概要を下記の表1中に示す。なお、表中の部数は全て「質量部」を示す。また、上記の測定結果として、各感光体の電気特性を下記の表2中に示す。
【0085】
【表1】

*1)Y−TiOPc:Y型チタニルフタロシアニン,α−TiOPc;α型チタニルフタロシアニン,X−H2Pc;X型無金属チタニルフタロシアニン
【0086】
【表2】

【0087】
上記の結果から、本発明に係る前記一般式(I)で示される化合物を感光体の各層に添加剤として使用することで、初期の電気特性に大きな影響を及ぼすことなく、オゾン曝露前後における電位保持率の変動を抑制できることが確かめられた。
【0088】
また、本発明に係る化合物を添加する代わりに電荷輸送層に用いるバインダーの量を増量した比較例2では、感度が若干遅くなり、かつ、オゾン曝露前後での保持率の変動が大きくなる結果となった。このことから、本発明に係る化合物を用いることによる効果は、単に電荷輸送層用バインダーを増量することではなし得ないということが明らかとなった。
【0089】
さらに、電荷発生材料であるフタロシアニンの種類を変更しても、添加剤を使用することによる大きな初期感度の変動はほとんど見られず、かつ、オゾン曝露前後での保持率の変動は抑えられていることが明らかとなった。
【0090】
次に、各実施例および比較例において作製した感光体を、感光体の表面電位が測定できるように改造を施した磁性2成分現像方式のデジタル複写機に搭載し、複写機(実機)での繰り返し10万枚印字前後の電位安定性(明部電位)、画像メモリーおよび紙やブレードとの摩擦による感光層の膜削れ量について評価した。
【0091】
画像メモリーの評価は、スキャナー掃引前半部分にチェッカーフラッグ模様、後半部分にハーフトーンを施した画像サンプルの印字評価において、ハーフトーン部分にチェッカーフラッグが映り込むメモリー現象を読み取ることにより行った。それぞれ、メモリーが観察されなかったものは○、メモリーがやや観察されたものは△、メモリーが観察されたものは×とした。また、元の画像と濃淡が同様に現れたものについては「ポジ」、元の画像と濃淡が逆に(反転して)画像が現れたものについては(ネガ)の判定を行った。
これらの結果を、下記の表3中に示す。
【0092】
【表3】

【0093】
上記表3の結果から、本発明に係る化合物を感光体の各層に添加した場合と添加しない場合で、初期の電気特性には大きな差異は見られない。加えて、化合物を添加した場合に10万枚繰り返し印字後の膜削れ量を30%以上低減できることが明らかとなった。またこのとき、印字後の電位および画像評価において問題は見られなかった。
【0094】
次に、上記デジタル複写機による、低温低湿から高温高湿までの使用環境毎の感光体の電位特性(明部電位)を調べ、上記と同時にして画像評価(メモリー評価)も実施した。その結果を下記の表4中に示す。
【0095】
【表4】

*2)温度5℃,湿度10%
*3)温度25℃,湿度50%
*4)温度35℃,湿度85%
【0096】
上記表4の結果から、本発明に係る化合物を用いることで、電位や画像の環境依存性が小さくなり、特に、低湿でのメモリーが大きく改善されることが明らかとなった。
【0097】
さらに、各実施例および比較例の感光体を、感光体の表面電位が測定できるように改造を施した非磁性1成分現像のファクシミリに搭載し、このファクシミリの使用環境を変えた際の電位安定性(明部電位)および画像メモリーについても評価した。その結果を、下記の表5中に示す。
【0098】
【表5】

【0099】
上記表5に示すように、本発明に係る化合物を用いることにより、現像方式の異なる電子写真装置においても、環境特性の変動が抑えられた負帯電積層型電子写真用感光体を作製できることが確かめられた。
【0100】
(正帯電単層型電子写真用感光体)
(実施例14)
導電性基体としてのアルミニウム円筒の外周に、アルコール可溶性ナイロン(アミランCM8000,東レ(株)製)5質量部およびアミノシラン処理された酸化チタン微粒子5質量部をメタノール90質量部に溶解、分散させて調製した下引き層用塗布液を浸積塗工した。この基体を温度100℃で30分間乾燥して、膜厚2μmの下引き層を形成した。
【0101】
この下引き層上に、正孔輸送材料としての前記構造式(II−12)で示されるスチリル化合物7.0質量部と、電子輸送材料としての下記構造式(III)、

で示される化合物3質量部と、樹脂バインダーとしてのポリカーボネート樹脂(パンライトTS−2050,帝人化成(株)製)9.6質量部と、シリコーンオイル(KF−54,信越ポリマー(株)製)0.04質量部と、前記構造式(I−1)で示される化合物1.5質量部とを塩化メチレン100質量部に溶解させ、電荷発生材料としての特開2001−228637号公報に記載のX型無金属フタロシアニン0.3質量部を添加した後、サンドグラインドミルにより分散処理を行うことにより調製した単層型感光層形成用塗布液を用いて塗膜を形成した。この基体を温度100℃で60分間乾燥することにより、膜厚25μmの単層型感光層を形成して、正帯電単層型電子写真用感光体を得た。
【0102】
(実施例15)
前記構造式(I−1)で示される化合物に代えて前記構造式(I−2)で示される化合物を用いた以外は実施例14と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0103】
(実施例16)
前記構造式(I−1)で示される化合物に代えて前記構造式(I−4)で示される化合物を用いた以外は実施例14と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0104】
(比較例6)
前記構造式(I−1)で示される化合物を用いない以外は実施例14と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0105】
(比較例7)
前記構造式(I−1)で示される化合物に代えてフタル酸ジオクチル(融点−50℃,和光純薬工業(株)製)を用いた以外は実施例14と同様の方法で、電子写真用感光体を作製した。
【0106】
上記実施例14〜16および比較例6,7において作製した感光体の電子写真特性を、下記の方法で評価した。即ち、まず、評価装置において感光体表面を暗所にてコロナ放電により+650Vに帯電せしめた後、帯電直後の表面電位V0を測定した。続いて、暗所で5秒間放置後、表面電位V5を測定し、前記式(1)に従って帯電後5秒後における電位保持率Vk5(%)を求めた。
【0107】
次に、ハロゲンランプを光源とし、フィルターを用いて780nmに分光した露光光を、表面電位が+600Vになった時点から5秒間感光体に照射し、表面電位が+300Vとなるまで光減衰するのに要する露光量をE1/2(μJcm-2)、−50Vとなるまで光減衰するのに要する露光量を感度E50(μJcm-2)として求めた。
【0108】
また、感光体をオゾン雰囲気下に放置できるオゾン曝露装置内に、各実施例および比較例の感光体を設置し、100ppm、2時間にてオゾン曝露した後の上記電位保持率を併せて測定し、オゾン曝露の前後における電位保持率Vk5の変化の度合いを百分率にて求め、オゾン曝露保持変化率ΔVk5とした。具体的には、オゾン曝露前の保持率をVk51、オゾン曝露後の保持率をVk52として、前記式(2)からオゾン曝露保持変化率を求めた。
【0109】
上記各実施例および比較例の感光体における添加剤の種類および添加量の概要、および、上記の測定結果としての各感光体の電気特性を、下記の表6中に示す。なお、表中の部数は全て「質量部」を示す。
【0110】
【表6】

【0111】
上記の結果から、本発明に係る化合物を単層型感光層に添加剤として使用した場合でも、初期の電気特性に大きな影響を及ぼすことなく、オゾン曝露前後での保持率の変動を抑えられることが確かめられた。
【0112】
以上のように、本発明の電子写真用感光体は、種々の帯電プロセス、現像プロセス、または感光体への負帯電プロセスまたは正帯電プロセスの各種プロセスの如何によらず、十分な効果が発揮されるものである。従って本発明によれば、感光体の各層中に上記特定の化合物を添加剤として用いることにより、初期、繰り返し使用時、および使用環境条件の変化時における電気特性が安定で、いかなる条件下においても画像メモリー等の画像障害が発生しない電子写真用感光体を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】(イ)は負帯電型の機能分離積層型電子写真用感光体の一構成例、(ロ)は正帯電型の単層型電子写真用感光体の一構成例を、それぞれ示す模式的断面図である。
【図2】構造式(I−1)で示される化合物の赤外線スペクトルチャートを示すグラフである。
【符号の説明】
【0114】
1 導電性基体
2 下引き層
3 感光層
4 電荷発生層
5 電荷輸送層
6 表面保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体上に少なくとも感光層を備える電子写真用感光体において、該感光層が、下記一般式(I)、

(式(I)中、R1〜R10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有する若しくは無置換の炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有する若しくは無置換のアリール基または炭素数1〜5のアルコキシ基を表す)で示されるシクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有することを特徴とする電子写真用感光体。
【請求項2】
前記感光層が電荷発生層と電荷輸送層とからなる積層型であり、該電荷発生層が前記シクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有する請求項1記載の電子写真用感光体。
【請求項3】
前記感光層が電荷発生層と電荷輸送層とからなる積層型であり、該電荷輸送層が前記シクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有する請求項1記載の電子写真用感光体。
【請求項4】
前記感光層が単一の層からなる単層型であり、該単層型感光層が前記シクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有する請求項1記載の電子写真用感光体。
【請求項5】
導電性基体上に少なくとも下引き層および感光層を順次備える電子写真用感光体において、該下引き層が、下記一般式(I)、

(式(I)中、R1〜R10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有する若しくは無置換の炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有する若しくは無置換のアリール基または炭素数1〜5のアルコキシ基を表す)で示されるシクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有することを特徴とする電子写真用感光体。
【請求項6】
導電性基体上に少なくとも感光層および表面保護層を順次備える電子写真用感光体において、該表面保護層が下記一般式(I)、

(式(I)中、R1〜R10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有する若しくは無置換の炭素数1〜5のアルキル基、置換基を有する若しくは無置換のアリール基または炭素数1〜5のアルコキシ基を表す)で示されるシクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有することを特徴とする電子写真用感光体。
【請求項7】
前記シクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物が、下記構造式(I−1)、

で示される構造を有する請求項1〜6のうちいずれか一項記載の電子写真用感光体。
【請求項8】
前記シクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物が、下記構造式(I−2)、

で示される構造を有する請求項1〜6のうちいずれか一項記載の電子写真用感光体。
【請求項9】
前記シクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物の添加量が、添加される層の樹脂バインダー100質量部に対し0.1質量部以上30質量部以下である請求項1〜8のうちいずれか一項記載の電子写真用感光体。
【請求項10】
請求項1〜9のうちいずれか一項記載の電子写真用感光体の製造方法であって、前記導電性基体上に塗布液を塗布して層を形成する工程を含む電子写真用感光体の製造方法において、該塗布液中に、前記一般式(I)で示されるシクロヘキサンジメタノール−ジアリールエステル化合物を含有させることを特徴とする電子写真用感光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−279446(P2007−279446A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106602(P2006−106602)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】