説明

電子写真用樹脂被覆キャリアとその製造方法、および、電子写真現像剤

【課題】電子写真現像初期段階におけるトナー表面処理剤のキャリア表面への移行による帯電レベル低下の抑制、電子写真現像の現像枚数増加に伴う、電子写真現像剤の長期使用に際してのキャリアの帯電量維持、高温高湿環境下、低温低湿下におけるキャリアの帯電性の低下抑止を実現出来るキャリアと、その製造方法とを提供する。
【解決手段】表面が樹脂被覆された電子写真用キャリアであって、前記樹脂は、メイン樹脂である窒素原子を含有しないシリコーン樹脂と、炭素鎖を有し窒素原子を含有する樹脂との混合物であり、当該樹脂被覆されたキャリアの表面近傍において、当該樹脂中のSi原子に対するN原子の存在比N/Siの値が0.02以上、0.20未満の範囲にあることを特徴とする電子写真用樹脂被覆キャリアを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真現像に用いられる電子写真用樹脂被覆キャリアとその製造方法、および、電子写真現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子写真現像に用いられる、トナーと電子写真用キャリアとを含む二成分系の電子写真現像剤に用いられる電子写真用樹脂被覆キャリア(以下、「キャリア」と記載する場合がある。)には、電気特性、摩擦帯電性、帯電維持性、耐久性等において所定の特性が要求される。
一方、当該キャリアは、電子写真現像器内の撹拌操作による当該キャリア同士の衝突や摺擦等が繰り返される。すると、当該キャリア表面に、トナーの構成成分であるワックス、顔料、染料(内添剤と云う。)などの融着または、トナーの付随成分である表面処理剤(外添剤とも云う。)の付着が生じて、当該キャリアの帯電不良が起こる。このキャリアの帯電不良は、トナー飛散、画像かぶり、転写不良等の不具合の発生原因となる。そこで、当該不具合発生を防止するために、キャリア表面へ樹脂の被覆を施し、様々な環境下であっても、絶えず所望の帯電特性を維持出来ることを目的とした樹脂被覆キャリアが製造されている。
【0003】
ところが、上述した従来の技術に係る樹脂被覆キャリアを用いた電子写真現像剤では、電子写真現像の初期段階において、上述したトナーの表面処理剤が樹脂被覆キャリアの表面に付着することで、やはり、当該樹脂被覆キャリアの帯電レベルが低下し、画像かぶり、トナー飛散等の不具合を生じた。さらに、電子写真現像時の環境変動、特に、高温高湿環境下では、樹脂被覆キャリア表面への水分付着により、当該樹脂被覆キャリアの帯電量が低下し、上述した画像かぶり、トナー飛散、などの不具合が生じた。他方、低温低湿環境下では、樹脂被覆キャリア表面の水分量が低下し、残留電荷のリーク速度が低下したために、当該樹脂被覆キャリアの帯電量が上昇し、画像濃度が不足するという不具合を生じた。
【0004】
また、近年では、電子写真現像の消費電力を低減させることを目的として、トナーのバインダー樹脂として、溶融粘度が比較的低く、酸価により帯電レベルが調整し易いという特色を有するポリエステル樹脂が使用されることが多い。しかし、トナーのバインダー樹脂としてポリエステル樹脂を使用した場合、トナーの流動性が低下する、高温高湿環境下において吸湿し易くなりトナーの帯電量が低下する、という問題が発生した。
【0005】
上述したトナーの流動性低下、帯電量低下という問題を解消するために、当該トナーの表面へ、シリカ微粉末、アクリル微粉末、酸化チタン微粉末、アルミナ微粉末などの表面処理剤を多量に外添する手法がある。しかし、このように当該トナーへ多量に添加された表面処理剤は、トナーとキャリアとの粒子接触による摩擦帯電時に、トナー粒子の表面から離脱し、キャリア粒子の表面に移行して付着することが起こる。このトナーからキャリアへの表面処理剤移行により、電子写真現像初期段階において、キャリアの帯電レベルの大幅な低下が起こる。さらに、電子写真現像の現像枚数増加と伴に、常時追加されるトナーから移行する表面処理剤がキャリア粒子表面に蓄積する。結局、このトナーからキャリアへの表面処理剤移行により、キャリアの帯電維持性は低下し、かぶり濃度の上昇やトナー飛散による複写機やプリンタの機内の汚れという不具合が発生し、電子写真現像剤の寿命を大幅に短縮させている。
【0006】
さらに、電子写真現像の際、紙へ転写されず電子写真感光体表面に残ったトナーは、ク
リーニングブレードにより掻き取られ、廃トナーボックスへと送られるが、環境対策として、廃棄物を出さないトナーリサイクル方式が採用されることがある。このトナーリサイクル方式では、紙に転写されなかった逆帯電・弱帯電の残留トナーは、クリーニング部より電子写真現像器内に再送される。この時、再送されるトナーに紙の成分であるカオリン、タルクなどと同時に紙粉が電子写真現像剤中に混入する。この結果、当該トナーリサイクル方式を採用した複写機やプリンターは、キャリアの帯電性をさらに低下させ、かぶり濃度の上昇や、トナー飛散による電子写真現像機内の汚れ等の不具合を生じさせるという問題が発生する。
【0007】
以上、説明したキャリアにおける帯電量レベル低下、帯電維持性低下等、キャリアの帯電に関する問題を抑止する方法として、当該キャリアを構成するキャリア芯材を、カップリング剤と混合した樹脂により被覆するという改良がなされている。しかしながら、当該改良によっても、上述した、電子写真現像初期段階におけるトナー表面処理剤のキャリア表面への移行による帯電レベルの低下を抑制することは出来ていない。さらに、電子写真現像の現像枚数増加に伴う、電子写真現像剤の長期使用に際して、キャリアの帯電維持性は不充分であり、高温高湿環境下におけるキャリアの帯電性の低下により、画像かぶり、トナー飛散などが発生する。
【0008】
上述の諸問題を改善する手段として、特許文献1は、樹脂被覆キャリアの被覆樹脂として、構成原子として窒素原子と珪素原子とを含むポリシロキサン樹脂を選択し、当該窒素原子と珪素原子との比率を規定することで、キャリアの帯電性を向上させることを提案している。特許文献2は、キャリア粒子表面に存在する窒素原子の珪素原子に対する比率N/Siと、窒素原子の炭素原子に対する比率N/Cとを規定して、キャリアの帯電性を向上させることを提案している。特許文献3は、キャリア粒子表面に存在する珪素原子と、炭素原子との原子数の比率Si/Cを規定して、キャリアの帯電性を向上させることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−27829号公報
【特許文献2】特開2005−49495号公報
【特許文献3】特開平7−287422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上、詳細に説明したように、電子写真現像初期段階におけるトナー表面処理剤のキャリア表面への移行による帯電レベル低下の抑制、電子写真現像の現像枚数増加に伴う、電子写真現像剤の長期使用に際してのキャリアの帯電量維持、高温高湿環境下におけるキャリアの帯電性の低下抑止を目的として、いくつかの提案がなされている。
しかしながら、本発明者等の検討によれば、上述の提案によっても、キャリアの被覆樹脂表面における経時劣化を抑止する観点からは、未だ満足を得る段階には至っていない。
本発明は当該状況のもとでなされたものであり、その解決しようとする課題は、電子写真現像初期段階におけるトナー表面処理剤のキャリア表面への移行による帯電レベル低下の抑制、電子写真現像の現像枚数増加に伴う、電子写真現像剤の長期使用に際してのキャリアの帯電量維持、高温高湿環境下におけるキャリアの帯電性の低下抑制、および、低温低湿下におけるキャリアの帯電性の上昇抑制を実現出来る電子写真用樹脂被覆キャリアとその製造方法、および、電子写真現像剤とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、キャリアにおける被覆メ
イン樹脂として窒素原子を含有しないシリコーン樹脂を選択した。そして、当該メイン樹脂であるシリコーン樹脂へ、電子供与性を有する窒素原子(以下、「N原子」と記載する場合がある。)を含有する樹脂をさらに添加し、当該メイン樹脂とN原子を含有する樹脂との混合樹脂を被覆樹脂とする構成に想到した。即ち、当該メイン樹脂とN原子を含有する樹脂との混合樹脂を被覆樹脂としたキャリアは、トナーに対する摩擦帯電付与能力を確保出来ることに想到したものである。
しかし、本発明者らは、当該メイン樹脂とN原子を含有する樹脂との混合樹脂を被覆樹脂としたキャリア粒子において正の極性が増加するため、当該キャリア粒子表面に、トナーの表面に外添されているシリカ微粉末、アクリル微粉末、酸化チタン微粉末、アルミナ微粉末などの表面処理剤を吸引付着し易くなり、スペント化が進行し、帯電付与性を低下させ、且つ、帯電維持性も低減させる問題点にも想到した。
【0012】
ここで、本発明者らは研究を継続し、上述したメイン樹脂中へ電子供与性を有するN原子含有樹脂を添加した混合樹脂と、キャリア芯材とを撹拌して、当該キャリア芯材を樹脂被覆する際、当該撹拌操作の攪拌速度と、処理時間とを制御し、キャリア粒子への攪拌負荷を調整することで、当該被覆樹脂表面近傍(樹脂被覆されたキャリアの表面から60nm)の領域において、珪素原子(以下、「Si原子」と記載する場合がある。)に対する、N原子の存在比を制御出来るという知見を得た。
【0013】
一方、本発明者らは、当該被覆樹脂表面近傍におけるSi原子に対するN原子の存在比を、所定値内に制御するという構成を採ることで、電子写真現像の初期段階における帯電レベルの低下を抑制し、且つ、高温高湿環境・低温低湿環境を含む様々な環境下における長期使用に際しても、トナー表面処理剤のキャリア表面への移行付着にも拘わらず、被覆樹脂中に含有される電子供与性を有するN原子の存在により必要最小限の帯電レベルを維持し、良好な画像特性を維持出来るという効果を見出し、本発明を完成するに至った。
尚、本発明において、上述した「被覆樹脂表面近傍における、Si原子に対するN原子の存在比」を「N/Si」と記載する場合がある。
【0014】
即ち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
表面が樹脂被覆された電子写真用キャリアであって、
前記樹脂は、メイン樹脂である窒素原子を含有しないシリコーン樹脂と、炭素鎖を有し窒素原子を含有する樹脂との混合物であり、
当該樹脂被覆されたキャリアの表面近傍において、当該樹脂中のSi原子に対するN原子の存在比N/Siの値が0.02以上、0.20未満の範囲にあることを特徴とする電子写真用樹脂被覆キャリアである。
【0015】
第2の発明は、
前記炭素鎖を有し窒素原子を含有する樹脂は、メラミン樹脂であることを特徴とする第1の発明に記載の電子写真用樹脂被覆キャリアである。
【0016】
第3の発明は、
前記樹脂がさらに、アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、オレフィン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂から選択される1種以上の樹脂を含むことを特徴とする第1または第2の発明に記載の電子写真用樹脂被覆キャリアである。
【0017】
第4の発明は、
前記電子写真用キャリアを構成する電子写真用キャリア芯材と被覆樹脂との間に、カップリング層存在することを特徴とする第1から第3の発明のいずれかに記載の電子写真用樹脂被覆キャリアである。
【0018】
第5の発明は、
前記電子写真用キャリアを構成する電子写真用キャリア芯材の表面の95%以上が、被覆樹脂に被覆されていることを特徴とする第1から第4の発明のいずれかに記載の電子写真用樹脂被覆キャリアである。
【0019】
第6の発明は、
第1から第5の発明のいずれかに記載の電子写真用樹脂被覆キャリアと、トナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤である。
【0020】
第7の発明は、
所定の組成を有するキャリア芯材を得る工程と、
窒素原子を含有しないシリコーン樹脂のA重量%と、電子供与性を有する窒素原子を含有する樹脂のB重量%とを、配合し(但し、70≦A≦90、10≦B≦30、A+B=100)、配合樹脂を得る工程と、
得られたキャリア芯材と、配合樹脂とを、撹拌装置に装填し撹拌し電子写真用樹脂被覆キャリアを得る工程とを、有する電子写真用樹脂被覆キャリアの製造方法であって、
前記撹拌装置における撹拌の際、攪拌羽根の撹拌速度と撹拌時間とを制御することで、得られる電子写真用樹脂被覆キャリアの被覆樹脂中における、Si原子に対するN原子の存在比N/Siの値を0.02以上、0.20未満の範囲に制御することを特徴とする電子写真用樹脂被覆キャリアの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る電子写真用樹脂被覆キャリアは、電子写真現像の初期段階における帯電レベルの大幅な低下を抑制し、且つ、低温低湿および高温高湿を含めた様々な環境下における長期間の電子写真現像において、帯電量の変化率が小さく、帯電量維持性が良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】縦軸にキャリア粒子の被覆樹脂表面近傍のN/Si比の値をとり、横軸に撹拌負荷指数をとり、実施例および比較例に係るキャリアのデータをプロットしたグラフである。
【図2】縦軸に帯電量ダウン率、横軸にN/Si比の値をとり、実施例および比較例に係るキャリアのデータをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る電子写真用樹脂被覆キャリアは、キャリア芯材を被覆する被覆樹脂のメイン樹脂中に、N原子を含有する樹脂を添加した、キャリアである。
このメイン樹脂中にN原子を含有する樹脂を添加した被覆樹脂の表面近傍(樹脂被覆されたキャリアの表面から60nm)において、N原子とSi原子との比であるN/Siの値が、0.20未満であることが肝要である。
N/Siの値が、0.20未満であると、キャリア表面近傍に存在するN原子のプラス極性に、マイナス極性である顔料、染料、バインダー樹脂などのトナー内添成分乃至、トナー表面に外添したシリカ微粉末、アクリル微粉末、酸化チタン微粉末、アルミナ微粉末などの表面処理剤が過剰に引き付けられてキャリア表面が汚染され、キャリアの帯電性が低下して鮮明な画像が得られず、画像かぶり、トナー飛散が発生するという問題を回避できるからである。
【0024】
一方、N/Siの値が0.02以上であると、当該樹脂中のN原子により電子供与がおこなわれ、キャリアに充分な帯電量付与が出来、帯電の立ち上がりが良くなり、且つ、帯
電量維持性が保てるので、画像かぶり、トナー飛散が発生せず、良好な画像品質を得ることが出来る。
【0025】
ここで、N/Siの値を、被覆樹脂の表面近傍である、樹脂被覆されたキャリアの表面から60nmの領域において測定するのは、当該測定に用いている測定装置(後述するXPS装置)の測定特性による。
【0026】
ここで、本発明に係る電子写真用樹脂被覆キャリアについて、1.N原子を含有する樹脂、2.キャリア芯材を被覆する被覆樹脂のメイン樹脂、3.キャリア芯材を被覆する被覆樹脂とキャリア芯材とのカップリング剤、4.キャリア芯材、5.キャリア芯材を被覆する被覆樹脂のメイン樹脂と、N原子を含有する樹脂との配合割合、6.キャリア芯材への、キャリア芯材を被覆する被覆樹脂のメイン樹脂と、N原子を含有する樹脂との被覆方法、7.キャリア粒子における被覆樹脂表面近傍のN原子の存在量の測定方法、の順に説明する。
【0027】
〈1.N原子を含有する樹脂〉
本発明に係るN原子を含有する炭素鎖を有する樹脂としては、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられるが、N原子を含有する官能基が芳香環上に置換された形態を持つ樹脂、例えばメラミン樹脂が好ましい。
【0028】
〈2.キャリア芯材を被覆する被覆樹脂のメイン樹脂〉
本発明に係るキャリア芯材を被覆するメイン被覆樹脂としては、N原子を含有しないシリコーン樹脂をメイン樹脂とする。さらに、当該メイン樹脂となるシリコーン樹脂は、最終的に得られるキャリアの機械的強度を高くする観点から、端末にメチル基またはエチル基を有する直鎖のシリコーン樹脂が好ましい。
さらに、最終的に得られるキャリアの機械的強度、電気的特性、原料コスト等の観点から、所望により、当該キャリア芯材を被覆する被覆樹脂のメイン樹脂へ、アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、オレフィン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等を混合させることも出来る。
【0029】
〈3.キャリア芯材を被覆する被覆樹脂とキャリア芯材とのカップリング剤〉
キャリア芯材の表面処理として、カップリング剤によるカップリング処理を施し、被覆樹脂を2層構造とすることが好ましい。被覆樹脂を2層構造とすることで、高温高湿・低温低湿を含めた各種環境下における、キャリア粒子表面への水和を抑制することが出来ると同時に、キャリア芯材表面と被覆樹脂との結着性が向上し、キャリアの長期間の使用に際して被覆された樹脂がキャリア芯材表面から剥離することが抑制されるからである。
【0030】
キャリア芯材の表面処理のためのカップリング剤としては、以下に示すカップリング剤を1種以上組合せて使用すれば良い。
ここで、カップリング剤として、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0031】
〈4.キャリア芯材〉
キャリア芯材の材料としては、フェライト、マグネタイト、鉄、ニッケル、コバルトなどの金属を使用することができる。また、これらの金属と、亜鉛、アンチモン、アルミニ
ウム、鉛、スズ、ビスマス、ベリリウム、マンガン、セレン、タングステン、ジルコニウム、バナジウムなどの金属との、合金または混合物を使用することができる。また、酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、窒化クロム、窒化バナジウムなどの金属窒化物、炭化珪素、炭化タングステンなどの炭化物、強磁性フェライト、および、これら金属酸化物、金属窒化物、炭化物、強磁性フェライトの1種以上の混合物を使用することができる。
【0032】
〈5.キャリア芯材を被覆する被覆樹脂のメイン樹脂と、N原子を含有する樹脂との配合割合〉
キャリア芯材を被覆する被覆樹脂のメイン樹脂に対する、N原子を含有する樹脂との配合割合は、当該N原子を含有する樹脂におけるNの電子供与能力から考えて、被覆樹脂中の10重量%以上、30重量%以下とすることが好ましい。
即ち、窒素原子を含有しないシリコーン樹脂のA重量%と、電子供与性を有する窒素原子を含有する樹脂のB重量%とを配合し、配合樹脂を得る場合、70≦A≦90、10≦B≦30、A+B=100とすることが好ましい。
より具体的には、メイン樹脂として端末にメチル基を有する直鎖シリコーン樹脂、N原子を含有する樹脂がメラミン樹脂のときの配合割合として、メイン樹脂50重量%以上、100重量未満%、N原子を含有する樹脂10重量%以上、30重量%以下とし、併せて100重量%とすることが好ましい。
【0033】
さらに所望により、メイン樹脂へ、アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、オレフィン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、等から選択される1種以上の樹脂を混合させる場合について説明する。
この場合は、窒素原子を含有しないシリコーン樹脂のA重量%と、電子供与性を有する窒素原子を含有する樹脂のB重量%と、前記アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、オレフィン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、等から選択される1種以上の樹脂、等のC重量%とを配合し、配合樹脂を得る場合、20≦A<90、10≦B≦30、0<C≦50、70≦(A+C)≦90、A+B+C=100とすることが好ましい。
【0034】
〈6.キャリア芯材への、キャリア芯材を被覆する被覆樹脂のメイン樹脂と、N原子を含有する樹脂との被覆方法〉
当該配合割合を保つことで、後述するキャリア芯材への樹脂被覆工程において、キャリア粒子への攪拌負荷指数を3700〜7800に管理することで、被覆樹脂表面近傍である被覆樹脂表面から60nmにおいてN/Siの値を、0.02以上、0.20未満の範囲に制御することが出来る。
【0035】
当該樹脂被覆工程において、キャリア粒子への攪拌負荷指数を3700〜7800に制御することで、キャリアの被覆樹脂表面から60nmのN/Siの値を、0.02以上、0.20未満の範囲に制御することが出来る。
ここで、攪拌負荷指数について説明する。
攪拌負荷指数とは、攪拌羽根の回転数(rpm)と、攪拌時間(min.)を乗じた値であって、本実施の形態においては、攪拌機として、ダルトン(株)社製万能攪拌機:5DM−r型を用い、攪拌羽根としては、同社スクリュービーター(掻き上げtype)を用いた。さらに、当該攪拌機に投入するキャリア芯材は、3.0kg、被覆樹脂用混合溶液は、0.8kgとして求めたものである。
従って、撹拌装置が異なれば、攪拌負荷指数の最適範囲も若干変動すると考えられる。このような場合は、攪拌負荷指数を変えてキャリア試料を作製し、当該キャリア試料にお
ける被覆樹脂表面近傍である、被覆樹脂表面から60nmにおいて、N/Siの値を、後述するXPS装置により測定し、当該測定値が0.02以上、0.20未満の範囲に制御出来る攪拌負荷指数の最適範囲を求めれば良い。
【0036】
当該樹脂被覆工程において、キャリア粒子への攪拌負荷指数制御することで、N/Siの値を制御出来るという効果について、詳細は実施例において説明するが、図1を参照しながら簡単に説明する。
図1は、後述する実施例および比較例に係るキャリア粒子の表面を被覆する樹脂において、当該被覆樹脂の表面から60nm迄のN/Siの値を縦軸にとり、撹拌付加係数を横軸にとり、実施例および比較例に係るキャリア粒子試料の値をプロットしたものである。
当該図1より、キャリア粒子への攪拌負荷指数制御することで、N/Siの値を制御出来ることが容易に理解出来る。
【0037】
キャリア芯材の表面を被覆樹脂で覆う際の被覆率は、95%以上とすることが好ましい。
これは、芯材表面の露出部分が低抵抗になっているため、当該被覆率が95%以上あれば、電荷リークが発生しなくなるからである。これにより、感光体ドラム上のピンホール発生を回避し、画像に斑点となる不具合を回避できる。さらに、現像領域の現像スリーブ上に形成される磁気ブラシからキャリアが脱離することを回避し、キャリア飛びを抑止するからである。
当該樹脂被覆工程を実施することで、キャリア粒子を被覆樹脂で覆う際の被覆率を、95%以上とすることが出来た。
【0038】
〈7.キャリア粒子における被覆樹脂表面近傍のN原子の存在量の測定方法〉
本発明に係る樹脂被覆層表面近傍のN/Siの値は、XPS(X線光電子分光法)で測定する事ができる。
XPSスパッタレートは1.2nm/minとし、樹脂層表面から、随時Si原子およびN原子の量を測定し、表面から60nm迄の領域を測定可能範囲とした。
そして後述する実施例から、本発明において被覆樹脂表面近傍として、樹脂表面から60nm迄の領域においてN/Siの値を測定することで、電子写真現像の初期段階における帯電レベルの大幅な低下が抑制され、且つ低温低湿および高温高湿を含めた様々な環境下における長期間の電子写真現像において、帯電量変化率が小さく、帯電量維持性が良好な、本発明に係るキャリア粒子を得られることが判明した。
【0039】
XPSの具体的な測定条件を、次に示す。
分析装置・・・・・・Quantera SXM(アルバック・ファイ社(株)製)
X線源・・・・・・・・単色化AlKα
X線出力・・・・・・2.5W
X線照射径・・・・φ15μm
光電子取込み角・・・45deg
スパッタレート、イオン銃・・・・1.2nm/min、C60
(Wide、Narrow Scan条件)
Wide Scan・・・・・280.0eV;1.000eV/Step
Narrow Scan・・・69.0eV;0.125eV/Step(C、O、Si、N、In)
【実施例】
【0040】
以下、実施例を参照しながら本発明を、より具体的に説明する。
(実施例1)
キャリア芯材のフェライト組成が、MnO・MgO・Feとなるように、Mn源
としてのMnCO粉、Mg源としてのMg(OH)および鉄源としてのFe粉をそれぞれ混合して原料調合を行い、混合粉を得た。
【0041】
この混合粉を、900℃設定の加熱炉により、3時間、大気雰囲気下で仮焼して仮焼粉を得た。得られた仮焼粉を冷却後、振動ミルで粉砕して、ほぼ1μm径の粉体とした。当該粉体を乾燥し、さらに当該乾燥粉に対して1重量%の分散剤(商品名:サンノブコSNディスパーサント5468)と、水とを加えて、濃度が70%のスラリーを得た。得られたスラリーを湿式ボールミルに装填し、径φ2mmのメディアを使用し、湿式粉砕して懸濁液を得た。得られた懸濁液をスプレードライヤに供給し、平均粒径約70μmの造粒品を得た。
【0042】
得られた造粒品を焼成炉に装填し、酸素濃度を2.0容量%に調整した窒素ガス雰囲気中、1150℃で5時間焼成し焼成品を得た。得られた焼成品を解砕機で粉砕した後、篩い分けして、粒径が約40μmに揃った球形のMn−Mg系ソフトフェライト組成を有する磁性体粒子であるキャリア芯材を得た。
【0043】
得られたキャリア芯材3000gを、万能攪拌機(ダルトン社(株)製万能攪拌機:5DM−r)の容器に装填した。当該万能攪拌機には、攪拌羽根として同社製スクリュービーターが設置してある。
ここで、撹拌糟の温度を120℃に昇温し、攪拌速度を60rpmにて攪拌羽根によるキャリア芯材の撹拌を開始した。ここへ、カップリング剤としてメトキシシラン(信越シリコーン(株)社製KBM−403)を、キャリア芯材に対して0.2wt%投入し、1時間撹拌してキャリア芯材の表面処理を行った。
一方、被覆メイン樹脂としてシリコーン樹脂(東レダウコーニング(株)社製SR−2410)キャリア芯材量に対して2.0wt%と、アクリル樹脂(東亜合成化学(株)社製S−2060)キャリア芯材量に対して1.5wt%と、N原子を含有する樹脂としてメラミン樹脂(三和ケミカル(株)社製MW−30HM)キャリア芯材量に対して0.5wt%と、トルエンとを予め混合攪拌しておく。ここで、トルエン量は、万能撹拌機における所定時間の加熱撹拌にて、除去可能な量とする。
当該混合樹脂溶液を万能撹拌機に投入し、80minの加熱撹拌を行い、トルエンを除去すると共に、キャリア芯材の全表面に樹脂を被覆した。
【0044】
当該全表面が樹脂被覆されたキャリア芯材を、熱循環式オーブン中に設置し、200℃で3時間加熱することにより樹脂を硬化させて、実施例1に係るキャリアを得た。
【0045】
得られた実施例1に係るキャリアについて、樹脂の被覆状態を観察し、実施の形態欄にて説明したXPS装置および条件を用いてN/Siの値を測定した。
【0046】
次に、得られた実施例1に係るキャリアについて、実機による画像評価を行った。
まず、得られた実施例1に係るキャリアと、トナー(ポリエステル性トナー)とを混合し、実施例1に係る電子写真現像剤を得た。
次に、デジタル反転現像方式を採用する40枚機を評価機として使用し、実施例1に係る電子写真現像剤を用いて100K枚の画質評価を実施した。その結果を表1に示す。なお表1において、良好なレベルを○、問題があり使用できないレベルを×とした。
さらに、フルカラーMFP(デジタル反転現像方式を採用)の40枚機を評価機として使用し、100K枚の電子写真現像後における実施例1に係るキャリアの帯電量を測定した。そして当該100K枚の電子写真現像後の帯電量と、前記電子写真現像前の帯電量とを比較し、下記(式1)より「帯電量低下率(帯電量ダウン率)」を算出した。
{(100K枚の電子写真現像後の帯電量)−(電子写真現像前の帯電量)}/(100K枚の電子写真現像後の帯電量)=帯電量低下率(帯電量ダウン率)・・・・・・・(式
1)
以上の測定・評価結果を表1に記載した。
【0047】
(実施例2)
攪拌速度を70rpm、撹拌時間を80minとした以外は、実施例1と同様の操作を行い実施例2に係るキャリアを得た。得られた実施例2に係るキャリアについて、実施例1と同様の測定・評価を行い、当該測定・評価結果を表1に記載した。
【0048】
(実施例3)
攪拌速度を50rpm、撹拌時間を80minとした以外は、実施例1と同様の操作を行い実施例3に係るキャリアを得た。得られた実施例3に係るキャリアについて、実施例1と同様の測定・評価を行い、当該測定・評価結果を表1に記載した。
【0049】
(実施例4)
攪拌速度を70rpm、撹拌時間を100minとした以外は、実施例1と同様の操作を行い実施例4に係るキャリアを得た。得られた実施例4に係るキャリアについて、実施例1と同様の測定・評価を行い、当該測定・評価結果を表1に記載した。
【0050】
(実施例5)
攪拌速度を50rpm、撹拌時間を100minとした以外は、実施例1と同様の操作を行い実施例5に係るキャリアを得た。得られた実施例5に係るキャリアについて、実施例1と同様の測定・評価を行い、当該測定・評価結果を表1に記載した。
【0051】
(実施例6)
攪拌速度を70rpm、撹拌時間を90minとした以外は、実施例1と同様の操作を行い実施例6に係るキャリアを得た。得られた実施例6に係るキャリアについて、実施例1と同様の測定・評価を行い、当該測定・評価結果を表1に記載した。
【0052】
(比較例1)
攪拌速度を30rpm、撹拌時間を50minとした以外は、実施例1と同様の操作を行い比較例1に係るキャリアを得た。得られた比較例1に係るキャリアについて、実施例1と同様の測定・評価を行い、当該測定・評価結果を表1に記載した。
【0053】
(比較例2)
攪拌速度を60rpm、撹拌時間を50minとした以外は、実施例1と同様の操作を行い比較例2に係るキャリアを得た。得られた比較例2に係るキャリアについて、実施例1と同様の測定・評価を行い、当該測定・評価結果を表1に記載した。
【0054】
(比較例3)
攪拌速度を30rpm、撹拌時間を80minとした以外は、実施例1と同様の操作を行い比較例3に係るキャリアを得た。得られた比較例3に係るキャリアについて、実施例1と同様の測定・評価を行い、当該測定・評価結果を表1に記載した。
【0055】
(比較例4)
攪拌速度を80rpm、撹拌時間を100minとした以外は、実施例1と同様の操作を行い比較例4に係るキャリアを得た。得られた比較例4に係るキャリアについて、実施例1と同様の測定・評価を行い、当該測定・評価結果を表1に記載した。
【0056】
【表1】

【0057】
(まとめ)
当該表1のデータから図1、2を作成した。
図1は、縦軸にキャリア粒子の被覆樹脂表面から60nmにおけるN/Si比の値をとり、横軸に撹拌負荷指数をとり、実施例1〜6および比較例1〜4に係るキャリアのデータをプロットしたグラフである。
図1が示すように、N/Siの値は、撹拌負荷指数との間に相関関係を有し、撹拌負荷指数の制御により、キャリア粒子の被覆樹脂表面から60nmにおけるN/Si比の値を制御できることが解る。
【0058】
図2は、縦軸に帯電量低下率、横軸にN/Si比の値をとり、実施例1〜6および比較例1〜4に係るキャリアのデータをプロットしたグラフである。
表1および図2が示すように、N/Siの値が0.02以上、0.20未満の範囲にある実施例1〜6に係るキャリアは帯電量低下率が小さく、帯電量維持性が良好であることが判明した。この結果、トナー飛散は観察されず、画質評価においてもキャリア飛散が観察されず良好であった。
これに対し、比較例1〜4に係るキャリアでは帯電量低下率が大きく、帯電維持性が不足していた。この結果、トナー飛散が発生した。特に、比較例4に係るキャリアは、電子写真現像の製造された時点で既に帯電量が低かった。さらに当該比較例4に係るキャリアは、電子写真現像機内での攪拌操作で樹脂被覆層が磨耗し、樹脂の被覆率が低下し、キャリア飛散も発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が樹脂被覆された電子写真用キャリアであって、
前記樹脂は、メイン樹脂である窒素原子を含有しないシリコーン樹脂と、炭素鎖を有し窒素原子を含有する樹脂との混合物であり、
当該樹脂被覆されたキャリアの表面近傍において、当該樹脂中のSi原子に対するN原子の存在比N/Siの値が0.02以上、0.20未満の範囲にあることを特徴とする電子写真用樹脂被覆キャリア。
【請求項2】
前記炭素鎖を有し窒素原子を含有する樹脂は、メラミン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真用樹脂被覆キャリア。
【請求項3】
前記樹脂がさらに、アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、オレフィン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂から選択される1種以上の樹脂を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真用樹脂被覆キャリア。
【請求項4】
前記電子写真用キャリアを構成する電子写真用キャリア芯材と被覆樹脂との間に、カップリング層存在することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電子写真用樹脂被覆キャリア。
【請求項5】
前記電子写真用キャリアを構成する電子写真用キャリア芯材の表面の95%以上が、被覆樹脂に被覆されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電子写真用樹脂被覆キャリア。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の電子写真用樹脂被覆キャリアと、トナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤。
【請求項7】
所定の組成を有するキャリア芯材を得る工程と、
窒素原子を含有しないシリコーン樹脂のA重量%と、電子供与性を有する窒素原子を含有する樹脂のB重量%とを、配合し(但し、70≦A≦90、10≦B≦30、A+B=100)、配合樹脂を得る工程と、
得られたキャリア芯材と、配合樹脂とを、撹拌装置に装填し撹拌し電子写真用樹脂被覆キャリアを得る工程とを、有する電子写真用樹脂被覆キャリアの製造方法であって、
前記撹拌装置における撹拌の際、攪拌羽根の撹拌速度と撹拌時間とを制御することで、得られる電子写真用樹脂被覆キャリアの被覆樹脂中における、Si原子に対するN原子の存在比N/Siの値を0.02以上、0.20未満の範囲に制御することを特徴とする電子写真用樹脂被覆キャリアの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−107541(P2011−107541A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264416(P2009−264416)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【Fターム(参考)】