説明

電子加速装置

【課題】連続的な運転が可能で小型な電子加速装置を提供する。
【解決手段】レーザ光を発生するレーザ光源11と、このレーザー光を真空室に導く光学系12と、真空室中で光学系に導かれたレーザ光を照射し、プラズマを形成してレーザ光の進行方向と同じ方向に高速電子を発生させるプラズマ媒体を供給する供給手段13,14と、レーザ光の光路を挟んで供給手段と対向する位置に設置され、供給手段によってレーザ光に供給されたプラズマ媒体を回収する回収手段15,16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空中でプラズマ媒体にレーザービームを照射してプラズマを形成し、電子を加速させる電子加速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療を含め幅広い分野で放射線が利用されているが、放射線の発生に利用する電子加速器は大型な装置である。また、放射線を発生させる場合、防護壁等も必要になり大規模な設備となるため、放射線発生装置は限られた施設で利用されるのが一般的であった。
【0003】
これに対し、近年、フェムト秒レーザーを用いた電子加速、イオン加速の研究が進められている(例えば、特許文献1参照)。フェムト秒レーザを利用する加速器は小型化することができるため、高エネルギー電子線、X線、イオンビーム等を小型装置で発生させることが可能になる。したがって、研究目的等の大型設備で利用されていた放射線の産業応用目的への利用が期待されている。
【0004】
しかしながら、フェムト秒レーザーを利用した装置では、繰り返し運転数が低い問題がある。例えば、真空室内で、高速電磁バルブ等のガスジェット装置でプラズマ媒体であるガス(ガスターゲット)を噴射し、これにフェムト秒レーザ装置から発生されたレーザ光(レーザビーム)を照射してプラズマを形成して高速電子を発生させる電子加速装置では、ガスターゲットの供給系の制限により装置の繰り返し運転数が低い。
【0005】
すなわち、このような電子加速装置では、ガスジェット装置によりガスを噴射すると、真空室中にガスが拡散する。したがって、真空室内を再びプラズマが発生しやすいガス密度にするために所定の排気時間が必要になる。この排気時間が、繰り返し運転数を制限する一つの要因となっている。例えば、電子加速装置を用いて行なわれている実験では、0.1Hz〜数Hz程度の低繰り返し運転となっている。研究のための実験では、このような低繰り返し運転でも問題はないが、産業応用には少なくとも100Hz〜数kHz程度の連続運転が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−101219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来の電子加速装置では、一度ガスを噴射すると真空室内のガス密度がプラズマの発生に適切さなくなるため、再び真空装置を利用して真空にする必要があり、連続的な運転を実現すること困難であった。そのため、フェムト秒レーザを使用した電子加速装置は小型にすることはできるものの、連続的に運転が制限されるため、産業応用に利用することが困難であった。
【0008】
上記課題に鑑み、本発明は、連続的な運転が可能で小型な電子加速装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、レーザ光を発生するレーザ光源と、このレーザー光を真空室に導く光学系と、前記真空室中で前記光学系によって導かれたレーザ光に、プラズマを形成してレーザ光の進行方向と同じ方向に高速電子を発生させるプラズマ媒体を供給する供給手段と、レーザ光の光路を挟んで前記供給手段と対向する位置に設置され、前記供給手段によってレーザ光に供給されたプラズマ媒体を回収する回収手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、前記供給手段は、前記プラズマ媒体であるガスを超音速流として供給することができるノズルであって、前記回収手段は、前記供給手段によって供給されたガスを回収するディフューザであることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、前記供給手段が供給するガスは、水素、ヘリウム、窒素又はアルゴンであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4の発明は、前記供給手段は、前記プラズマ媒体である金属蒸気を超音速で噴射することができるクヌードセンセル又はノズルであって、前記回収手段は、前記供給手段によってレーザ光に供給された金属蒸気が付着するプレートであることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5の発明は、前記供給手段によって蒸気として供給された金属が付着する面の温度を調節する温度調節機構を有し、付着した金属を液体にして回収することを特徴とする。
【0014】
また、請求項6の発明は、前記供給手段が供給する金属は、リチウム又はスズであることを特徴とする。
【0015】
また、請求項7の発明は、前記供給手段は、プラズマ媒体を定常で供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電子加速装置の連続的な運転を可能にするとともに、小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電子加速装置の構成を説明する図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る電子加速装置の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して、本発明の各実施形態に係る電子加速装置について説明する。本発明に係る電子加速装置は、例えば、放射線発生装置に利用し、加速させた電子を用いて放射線を発生させることができる。
【0019】
〈第1実施形態〉
図1に示すように、第1の実施形態に係る電子加速装置1aは、レーザ光31を発生するレーザ光源11と、レーザ光源11から発生するレーザ光31を集光して光路に導く集光ミラー12と、レーザプラズマを発生させるプラズマ媒体であるガスを供給(噴射)するガスジェット装置(供給手段)であるガス発生手段13及びノズル14とを備えている。集光ミラー12によって導かれたレーザ光31が、ノズル14から供給されたプラズマ媒体であるガスに照射される。また、電子加速装置1aは、レーザ光31の光路を挟んでノズル14と対向する位置に設置され、ノズル14から噴射されたガスを受けて回収する回収手段としてディフューザ15及びガス回収手段16とを備えている。
【0020】
この電子加速装置1aでは、プラズマ媒体であるガスジェット32にレーザ光31が照射されるとレーザプラズマ33が発生し、レーザ光31に進行方向と同じ方向に向かう高速電子が発生する。
【0021】
例えば、電子加速装置1aは、図1に示すように、放射線発生装置2aで用いることができる。放射線発生装置2aは、電子加速装置1aに加え、電子加速装置1aによって加速された高速電子が投射されると放射線を発生させる放射板21を備えている。また、電子加速装置1aは、真空室(図示せず)を備え、少なくとも集光ミラー12、ノズル14、ディフューザ15及び放射板21は、真空室内に配置され、レーザ光源11から発生するレーザ光は、この真空室内に導かれる。この真空室は、真空ポンプ等の排気装置(図示せず)によってプラズマの形成に最適な状態に排気されており、ノズル14によってガスジェット32が噴射されることでレーザ光31の光路にプラズマの発生に適切なガス密度分布の領域(高密度のガスターゲット領域)を保つことができる。
【0022】
ここで、レーザ光31は、例えば、フェムト秒レーザ等の電子加速に利用することができる程度の高出力のレーザ光を発光するレーザであることが望ましい。なお、集光ミラー12の他、集光手段として集光レンズを用いることもできる。
【0023】
ガス発生手段13は、水素、ヘリウム、窒素又はアルゴン等のプラズマ媒体となるガスをノズル14を介してガスジェット32として発生し、噴射する。ノズル14から噴射されたガスジェット32にレーザ光31が照射されると、レーザプラズマ33が発生する。また、レーザプラズマ33が発生した後に残留するガスは、ディフューザ15の入口に進み、ディフューザ15及びガス回収手段16によって回収される。
【0024】
ここで、ノズル14には、ガス発生手段13で発生されたガスを高速噴射する極超高速ノズルを使用し、ディフューザ15に極超音速ディフューザを使用することで、真空室中でのガスの散乱を抑制することができる。また、このノズル14が、ガスジェット32の噴射を定常的に行なうようにすることで、電子加速装置1aでは、連続運転が可能となる。なお、極超音速ノズルであるノズル14によって発生されるガスジェット32は、極超音速ガスジェットである。
【0025】
なお、ガス回収手段16が回収したガスを、ガス循環装置(図示せず)を介してガス発生装置13に循環させることにより、ガス発生手段13にガス蓄積手段を設けたり、ガスを大気中に排出したりすることなく、電子加速装置1内でガスを再利用することが可能になる。
【0026】
上述したように、第1の実施形態に係る電子加速装置1aでは、プラズマ媒体としてガス発生手段13及びノズル14から噴射したガスジェット32を、ディフューザ15及びガス回収手段16によって回収することができる。したがって、排気装置による排気量を上げることなく、ノズル14とディフューザ15を利用した気体力学的な設計によって真空室内にプラズマの発生に適したガス密度分布を形成することができる。
【0027】
また、電子加速装置1aでは、ノズル14とディフューザ15を利用して真空室内のガス密度分布をプラズマの発生に適した状態にすることができるため、レーザ光源11の性能に応じた繰り返し運転でのプラズマ発生(電子加速)が可能となる。したがって、電子加速装置1aでは、排気装置の排気量に制限されずに、ノズル14から定常的にガスを供給することが可能となるため、連続運転することも可能となる。
【0028】
さらに、電子加速装置1aでは、レーザ光源11に小型のフェムト秒レーザを利用することができるとともに、排気装置を大型化する必要がないため、装置全体の小型化を実現することができる。
【0029】
〈第2実施形態〉
続いて、図2を用いて第2の実施形態に係る電子加速装置1bについて説明する。ここで、図2(a)は、電子加速装置1bを集光ミラー12で集光されたレーザ光31の光路と平行な面から表わす図であり、図2(b)は、電子加速装置1bを光路と垂直の面から表わす図である。また以下の説明において、図1を用いて上述した同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0030】
図2(a)及び図2(b)に示すように、第2の実施形態に係る電子加速装置1bは、レーザ光源11と、集光ミラー12と、レーザプラズマ33を発生させるプラズマ媒体である金属の蒸気を発生して金属蒸気ジェット34として供給(噴射)する供給手段である金属蒸気発生手段17と、レーザ光31の光路を挟んで金属蒸気発生手段17と対向する位置に設置され、金属蒸気発生手段17によって金属蒸気ジェット34として発生された金属蒸気を回収する金属回収手段18とを備えている。
【0031】
例えば、電子加速装置1bは、図2(a)に示すように、放射線発生装置2bで用いられる。放射線発生装置2bは、電子加速装置1bに加え、電子加速装置1bによって加速された高速電子が照射されて放射線を発生させる放射板21を備えている。また、電子加速装置1bは、真空ポンプ等の排気装置によって内部が真空にされる真空室(図示せず)を備え、少なくとも集光ミラー12、金属蒸気発生手段17及び金属回収手段18は、この真空室内に配置され、レーザ光源11から発生するレーザ光はこの真空室に導かれる。なお、図2(b)は、電子加速装置1bを集光ミラー12側から示しているが、図2(b)では、レーザ光源11の図示を省略している。
【0032】
この第2の実施形態に係る電子加速装置1bは、図1を用いて上述した電子加速装置1aと比較して、プラズマ媒体として水素や希ガス等のガスを噴射するのではなく、金属蒸気発生手段17によって金属の蒸気を噴射する点で異なる。
【0033】
具体的には、金属蒸気発生手段17は、クヌードセンセルや金属蒸気超音流を噴射するノズルであって、金属蒸気ジェット34を噴射し、レーザ光31の光路にプラズマの形成に適切な金属蒸気密度分布の領域(高密度な金属蒸気ターゲット領域)を形成する。これにより、レーザ光31の光路上でレーザプラズマ33が発生する。ここで、電子加速装置1bがプラズマ媒体とする金属は、例えばリチウムやスズ等である。
【0034】
金属回収手段18は、図2(b)に示すように、例えば板形状であって金属蒸気ジェット34の軸と鋭角を成すような傾きをもって配置されており、金属蒸気発生手段17によって発生された蒸気の金属35が付着する。金属回収手段18は、金属を受ける面181がプラズマ媒体である金属の沸点よりも低く、融点よりも高い温度になるように加温する温度調節機構(図示せず)を備えている。金属を回収する面181を最適な温度に加温することによって、面181に付着した金属35を液体にして傾きに沿って一方向に流すことができる。金属回収手段18で回収した金属を金属循環装置(図示せず)を介して金属蒸気発生手段17に循環させることで、再び金属蒸気ジェット34を形成するための金属として再利用することができる。
【0035】
上述したように、第2の実施形態に係る電子加速装置1bでは、プラズマ媒体として金属蒸気発生手段17から噴射した金属蒸気ジェット34を金属回収手段18によって回収することができる。したがって、排気装置による排気量を上げることなく金属蒸気発生手段17と金属回収手段18を利用した気体力学的な設計によって真空室内にプラズマの発生に適した密度分布を形成することができる。
【0036】
また、電子加速装置1bでは、金属蒸気発生手段17と金属回収手段18を利用して真空室内の密度分布をプラズマの発生に適した状態にすることができるため、レーザ光源1の性能に応じた繰り返し運転でのプラズマ発生(電子加速)が可能となる。したがって、電子加速装置1bでは、排気装置の排気量に制限されずに、金属蒸気発生手段17から定常的に金属蒸気を供給することが可能となるため、連続運転することも可能となる。
【0037】
さらに、電子加速装置1bでは、レーザ光源11に小型のフェムト秒レーザを利用することができるとともに、排気装置を大型化する必要がないため、装置全体の小型化を実現することができる。
【0038】
以上、各実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。
【符号の説明】
【0039】
1a,1b…電子加速装置
11…レーザ光源
12…集光ミラー(光学系)
13…ガス発生手段(供給手段)
14…ノズル(供給手段)
15…ディフューザ(回収手段)
16…ガス回収手段(回収手段)
17…金属蒸気発生手段(供給手段)
18…金属回収手段(回収手段)
2a,2b…放射線発生装置
20…放射板
31…レーザ光
32…ガスジェット
33…レーザプラズマ
34…金属蒸気ジェット
35…金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発生するレーザ光源と、
真空室中でレーザ光に、プラズマを形成してレーザ光の進行方向と同じ方向に電子を発生させるプラズマ媒体を供給する供給手段と、
レーザ光の光路を挟んで前記供給手段と対向する位置に設置され、前記供給手段によってレーザ光に供給されたプラズマ媒体を回収する回収手段と、
を備えることを特徴とする電子加速装置。
【請求項2】
前記供給手段は、前記プラズマ媒体であるガスをガス流として供給することができるノズルであって、
前記回収手段は、前記供給手段によって供給されたガスを回収するディフューザである
ことを特徴とする請求項1に記載の電子加速装置。
【請求項3】
前記供給手段が供給するガスは、水素、ヘリウム、窒素又はアルゴンであることを特徴とする請求項2に記載の電子加速装置。
【請求項4】
前記供給手段は、前記プラズマ媒体である金属蒸気を超音速で噴射することができるクヌードセンセル又はノズルであって、
前記回収手段は、前記供給手段によってレーザ光に供給された金属蒸気が付着するプレートである
ことを特徴とする請求項1に記載の電子加速装置。
【請求項5】
前記回収手段は、前記供給手段によって蒸気として供給された金属が付着する面の温度を調節する温度調節機構を有し、付着した金属を液体にして回収することを特徴とする請求項4に記載の電子加速装置。
【請求項6】
前記供給手段が供給する金属は、リチウム又はスズであることを特徴とする請求項4又は5に記載の電子加速装置。
【請求項7】
前記供給手段は、プラズマ媒体を定常で供給することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1に記載の電子加速装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−238435(P2011−238435A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108068(P2010−108068)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(505125945)学校法人光産業創成大学院大学 (49)
【Fターム(参考)】