説明

電子商品監視用の磁気音響式マーカ

【課題】性能を低下させずに、寸法を小さくした磁気音響式マーカを提供する。
【解決手段】磁気機械式の電子商品監視システム内にバイアス磁界を発生させるバイアス素子を含むマーカに用いる共振器を、基本組成FeaCobNicSixByMz(ここでa、b、c、x、y、zは原子%で表し、Mは1つ又は複数のガラス形成促進元素および/又は遷移金属であり、更に46≦a≦53、0≦b≦2、30≦c≦35、1≦x≦2、15.5≦y≦16.5、0≦z≦0.5、a+b+c+x+y+z=100を満たす)を持つ焼鈍した強磁性リボンを、リボン軸線に垂直な磁界内および/又はリボン軸線に沿ってリボンに引張り力を加えつつ焼鈍する。焼鈍したリボンから要素を切り取ることで単一共振器又は多重共振器アセンブリを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気音響式マーカを用いる電子商品監視システムだけでなく、電子商品監視システムに使用される磁気音響式マーカをも対象とし、更に、このような磁気音響式マーカを製作する方法も対象とする。
【背景技術】
【0002】
電子商品監視(EAS)用の磁気音響式マーカは、一般に、磁気的に半硬の金属条板の隣接条板により磁気バイアスがかけられる磁気歪アモルファス合金の長形条板を含む。
【0003】
このようなEASの代表的な要件は、主として共振器の長さを適切に選択することで決定される所与のバイアス磁界での一定した共振周波数と、共振器の長い方の軸線に垂直な磁界内でアモルファスリボンを焼鈍することで達成される、調波システムとの干渉を避けるための直線的なヒステリシス・ループと、バイアス磁界に対する共振周波数の低い感受率と、バイアス磁界を除去したときのマーカの信頼できる不活性化および励振駆動磁界を除去したときでも、充分な時間の間持続する(好ましくは)大きい共振振幅とである。
【0004】
このような共振器は、リボン軸線に垂直に加えられた磁界および/またはリボン軸線に沿って加えられた引張り応力の存在の下に焼鈍したアモルファスFe−Co−Ni−Si−B合金を選択することで、実現できる。この焼鈍は、好ましくは、約300〜420℃の温度で、数秒の代表的な焼鈍時間を用い、リール間処理で行われる。その後、リボンは、共振器を形成する長方形の部片に切り刻まれる。このような共振器および磁気音響式マーカに関する物理的性質と従来技術の一般的な背景説明は、1997年7月9日に出願された米国特許出願第08/890,612号明細書(G.Herzerによる「コバルト含有量の低いアモルファス磁気歪合金と、そのような合金を焼鈍する方法」)と、1997年11月2日に出願されたの米国特許出願第08/968,653号明細書(G.Herzerによる「アモルファスリボンを焼鈍する方法と、電子商品監視用のマーカ」)に述べられている。これらの出願は共に、本願と同一の譲受人(Vacuumschmelze GmbH)に譲渡され、これらの出願の開示内容は、本発明の明細書に組み入れられる。
【0005】
EAS用の代表的なマーカは、長さ約38mm、厚さ約25μmそして幅約12.7mm又は6mmの単一共振器を用いている。幅広マーカは、一般に、幅狭マーカの約2倍の大きな信号振幅をもたらすが、幅狭のマーカは、サイズの点でより望ましい。磁気歪強磁性体の2つ以上の長形条板を用いる磁気歪マーカは、米国特許第4510490号明細書に述べられている。ここに示されたマーカでは、これらの条板が、ハウジング内で並列状態に配置されている。この公知のマーカ内に複数の共振器条板を用いるのは、異なる周波数においてマーカを共振させ、それにより、特定の信号IDをマーカに与えるためであると、この引用文献は述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願第08/890,612号明細書
【特許文献2】米国特許出願第08/968,653号明細書
【特許文献3】米国特許第4510490号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、性能を低下させずに、寸法を小さくした磁気音響式マーカを提供することである。
【0008】
更に具体的に言えば、本発明の目的は、切断して、長方形で延性の磁気歪条板にすることができ、また予磁化磁界Hを印加または除去すれば活性化、不活性化することができ、更に、活性化状態では、共振周波数Frにて縦方向の機械的共振振動(励振後は、その信号振幅が大きくなる)を示すように、交番磁界で励振することができる、磁気機械式監視システム内の上記マーカに組み込まれる磁気歪アモルファス金属合金を提供することである。
【0009】
本発明の更なる目的は、バイアス磁界が変化しても、共振周波数がほんの僅かしか変化しないが、マーカ共振器が活性化状態から不活性化状態に切換えられると、その共振周波数が大幅に変化するような上記合金を提供することである。
【0010】
本発明のもう1つの目的は、磁気機械式監視システム用のマーカに組込んだとき、調波監視システム内の警報器をトリガしない合金を提供することである。
【0011】
更に、本発明の目的は、上記共振器を用いたマーカと、磁気機械式監視システム用に適する、マーカの製造方法を提供することである。
【0012】
本発明の最後の目的は、上記アモルファス磁気歪合金から成る共振器を持つマーカで作動する、磁気機械式の電子商品監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の目的は、細長いアモルファスリボンの2つ(又はそれ以上)の短い長方形の部片を、合わせた状態でハウジング内に設け、個々の共振器部片の各々の共振周波数が、約+/−500Hz以内(好ましくは、約+/−300Hz以内)の範囲迄一致する二重又は多重共振器を形成する磁気音響式EASマーカを製作する方法で達成される。これは、上記の部片に、同一の長さと幅、同一の組成および同一の焼鈍処理を与えることで、実現できる。その結果として、2つ(又はそれ以上)の連続する切断された部片(同じ長さに切断された)を合わせることが好都合である。このような発明の磁気弾性マーカは、その幅の約2倍の従来技術の従来の磁気弾性マーカに匹敵する共振信号振幅を生ずることができる。
【0014】
ここで用いられるように、上記の部片を「合わせた状態」にするとは、これらの部片が、厳密に一致してなくても、上下に配置されて実質的に重なっていることを意味する。いずれにせよ、この用語は、従来技術の場合のように、並列状態の配列を除外するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】355℃と約80MPaの引張り強さにて、25m/分の速度で焼鈍したFe24Co12.5Ni45.5Si216の組成を持つ同一リボンでできている、本発明による2つの組み合わされた共振器を備えたマーカの特性を示し、Aは単一共振器マーカにおける共振周波数Frとバイアス磁界Hを示すグラフである。
【図1B】355℃と約80MPaの引張り強さにて、25m/分の速度で焼鈍したFe24Co12.5Ni45.5Si216の組成を持つ同一リボンでできている、本発明による2つの組み合わされた共振器を備えたマーカの特性を示し、2つの組み合わされた共振器を備えたマーカと、単一共振器マーカにおける共振振幅A1とバイアス磁界Hを示すグラフである。
【図2】同一の組成を持ち、かつ図1に示す例と同じ条件下に焼鈍した長さ38mmの二重共振器、長さ38mmの単一共振器および長いリボンにおける各ヒステリシス・ループを示す図である。
【図3】細長い(幅6mm)共振器部片を有し、本発明の原理により構成され製作された磁気音響式マーカを示し、Aは分解図、Bは端面図である。
【図4】幅広(12.7mm)の共振器部片を有する従来の磁気音響式マーカを示し、Aは分解図、Bは端面図である。
【図5】本発明の原理により構成され製作された磁気音響式マーカにおいて、共振器アセンブリの励振AC磁界の周波数と共振周波数Frとの差の関数として、共振振幅A1を示すグラフである。
【図6】並列状態ならびに共振器部片を合わせた状態にある配置において、各々異なる合金組成、従って所与のバイアス磁界で、各々異なる個々の共振周波数を持つ2つの細長い(幅6mm)共振器部片から成る二重共振器における振幅と励振周波数を示すグラフである。
【図7】並列状態ならびに共振器部片を合わせた状態にある配置において、同一の合金組成(ここに示される表IのNo.2の合金)、従って、所与のバイアス磁界で、同一の個々の共振周波数を持つ2つの細長い(幅6mm)共振器部片から成る二重共振器における振幅と励振周波数を示し、かつ参考のために、この合金の単一共振器の個々の曲線を示すグラフである。
【図8】並列状態ならびに共振器部片を合わせた状態にある配置において、同一の合金組成(表IのNo.3の合金)、従って所与のバイアス磁界で、同一の個々の共振周波数を持つ2つの細長い(幅6mm)共振器部片から成る二重共振器について振幅と励振周波数を示し、かつ参考のためこの合金の単一共振器の個々の曲線を示すグラフである。
【図9】二重共振器アセンブリに用いるが、各々異なる飽和磁気歪定数λsを持つ、本発明の原理により焼鈍した2つの合金(単一共振器部片)における共振周波数Frとバイアス磁界Hの各々の曲線を示すグラフである。
【図10】リボン軸線にほぼ垂直に、かつリボン平面に平行に(即ち、リボンの幅を横切って)向けられた磁界での従来の横断方向の焼鈍と比較して、リボン軸線およびリボン平面にほぼ垂直に向けられた磁界において、本発明の原理による組成を持つ共振器部片を焼鈍することで実現される振幅の増大を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
二重共振器では、リボン軸線に垂直な磁界の存在下および/またはリボン軸線に沿って引張り応力を加えた状態で焼鈍する、約15原子%よりも多く、かつ約30原子%よりも少ない鉄含有量を持つFe−Ni−Co系合金を選択することが好都合である。上述のように焼鈍したとき、電子商品監視または識別用のシステム内のマーカ用に適した性質を持つ二重共振器をもたらす合金組成の一般式は、以下の通りである。
FeaCobNicSixyzここで、a、b、c、x、y、zは原子%で表す値であり、Mは、C、P、Ge、Nb、Taおよび/またはMo等の1つ以上のガラス形成促進元素および/またはCrおよび/またはMn等の1つ以上の遷移金属であり、更に、15≦a≦30,6≦b≦18,27≦c≦55,0≦x≦10,10≦y≦25,0≦z≦5,14≦x+y+z≦25ただし、a+b+c+x+y+z=100を満たす。
【0017】
好ましい実施例では、この共振器アセンブリは、各々厚さ約20〜30μm、幅約4〜8mm、長さ約35〜40mmの合わせた状態の2つのリボン部片から成っている。
【0018】
次に、本発明の目的は、上記の式に、以下の厳密な範囲を用いることで、特に有利な方法で実現できる。
20≦a≦28,6≦b≦14,40≦c≦55,0.5≦x≦5,12≦y≦18,0≦z≦2,15<x+y+z<20ただし、a+b+c+x+y+z=100を満たす。
【0019】
幅が約6mm、長さが約35〜40mmである二重共振器に特に適した上記合金の例は、以下の通りである。試験された適切な合金は、表Iに示されるNo.3〜No.9の合金、即ちFe24Co12.5Ni45.5Si216、Fe24Co12.5Ni44.5Si217、Fe24Co13Ni45.5Si1.516、Fe24Co12Ni46.5Si1.516、Fe24Co11.5Ni47Si1.516、Fe24Co11Ni48Si116およびFe27Co10Ni45Si216である。24原子%の鉄含有量を持つ組成において、珪素と硼素の含有量を最適化するため、更に他の様々な組成が試験された。これらの更なる組成の例は、Fe24Co12.5Ni45Si1.517、Fe24Co12.5Ni45Si216.5、Fe24Co12.5Ni45Si2.516、Fe24Co11.5Ni46.5Si1.516.5、Fe24Co11.5Ni46.5Si216およびFe24Co11.5Ni46.5Si2.515.5である。ニッケルの含有量を減らし、硼素の含有量を約+/−1原子%だけ修正した同様の組成も試験した(上記の更に他の様々な合金の1つから始めた)。引張り力を加えずに焼鈍を行う場合、硼素の含有量が約0.5〜1原子%だけ少ない成分が、更に適している。
【0020】
以上の調査に基づけば、好ましい組成はFe24Co11.5Ni46.5Si1.516.5(Js=0.86Tの場合)である。
【0021】
この鉄の含有量が、24原子%に保たれない場合、他の特に適した組成は、Fe25Co10Ni47Si216とFe22Co10Ni50Si216である。最後に、上記のサンプルと他の実験データの数学的解析から、次のおよび類似の合金組成も特に適すると予想される。Fe22Co12.5Ni47.5Si216、Fe24Co10.5Ni48Si215.5、Fe24Co9.5Ni49.5Si1.515.5およびFe24Co8.5Ni51Si115.5。これら合金は、最も高価な成分であるコバルトの含有量を更に少なくするから、特に好適である。
【0022】
以上の調査に基づいて、更に厳密な式を経験的に演繹できるが、それでも、この式は、上で引用された更に一般的な式に属する。このような更に厳密な式は、以下の通りである。
Fe24-rCo12.5-wNi45+r+v+1.5wSi2+u16.5-u-v-0.5wここでr=−4〜4、u=−1〜1、v=−1〜1、w=−1〜4。
【0023】
このような合金組成の場合、例えばリボン軸線に垂直に向けた少なくとも約800Oeの磁界と約50〜150MPaの引張り力の存在下に、約15〜50m/分の焼鈍速度と、約300〜400℃の焼鈍温度を用いて、連続的に焼鈍する(リール間処理)ことで、適切な磁気音響特性が実現できる。この焼鈍処理の結果、この磁気合金が強磁性的に飽和する磁界迄直線であるヒステリシス・ループが得られる。その結果、この材料を交番磁界で励振すると、この材料は、事実上高調波を発生せず、従って高調波監視システム内の警報器をトリガしない。
【0024】
好ましくは、焼鈍中の磁界はリボン平面にほぼ垂直に加えられ、またその強度は少なくとも約2000Oeである。この結果、磁区幅がリボンの厚さよりも小さい微細磁区構造と、従来のように(横断方向の磁界で)焼鈍したリボンのものよりも少なくとも10%大きい共振振幅が得られる。
【0025】
個々の適切な合金組成は、約8〜14ppmの飽和磁気歪を持ち、また上述の通りに焼鈍したとき、共振器アセンブリを形成するように合わされたこれらの部片のヒステリシス・ループは、約8〜12Oeの実効異方性磁界Hkを持つ。この異方性磁界強度は、約8Oeよりも弱いバイアス磁界にて最大の共振振幅が発生するという利点を供する程に充分弱く、それにより、例えばバイアス磁石の材料費用が減り、かつ磁気クランピングが避けられる。これに反し、異方性磁界を充分に強くし、磁化磁界強度が変化しても共振周波数Frが比較的に僅かしか変化しない(即ち、│dFr/dH│<750Hz/Oe)ことが能動共振器により示されるが、マーカ共振器が活性状態から不活性状態に切換えられると、共振周波数Frが大幅に(少なくとも、約1.6kHz)変化するようにしている。
【0026】
通常、多重共振器タグ用に最適化された合金リボンは、単一の共振器マーカには適さず、逆も同様である。とはいえ、合金組成と熱処理を適切に選択することで、単一共振器にも二重共振器にも適する焼鈍した合金リボンを提供することができる。このような目的に特にふさわしい合金は、約10〜12ppmの飽和磁気歪を持ち、また二重共振器の異方性磁界Hkが約9〜11Oeとなるよう焼鈍される。この目的は、以下の範囲を、上記の式に適用することにより、特に有利な方法で実現できる。
22≦a≦26,8≦b≦14,44≦c≦52,0.5≦x≦5,12≦y≦18,0≦z≦2但し、15<x+y+z<20。
【0027】
幅が約6mmで、長さが約35〜40mmの単一共振器および/または二重共振器に特に適する合金の例は、以下の通りである。これらの合金は、表IのNo.3〜No.
8の合金、即ちFe24Co12.5Ni45.5Si216、Fe24Co12.5Ni44.5Si217、Fe24Co13Ni45.5Si1.516、Fe24Co12Ni46.5Si1.516、Fe24Co11.5Ni47Si1.516およびFe24Co11Ni48Si116を含む。次の更なる組成も二重共振器および/または単一共振器に特に適している。Fe24Co13Ni45.5Si1.516、Fe24Co12.5Ni45Si1.517、Fe24Co12.5Ni45Si216.5、Fe24Co12.5Ni45Si12.516、Fe24Co11.5Ni46.5Si1.516.5、Fe24Co11.5Ni46.5Si216、Fe24Co11.5Ni46.5Si2.515.5、Fe24Co11Ni47Si116、Fe24Co10.5Ni48Si215.5、Fe24Co9.5Ni49.5Si1.515.5、Fe24Co8.5Ni51Si115.5およびFe25Co10Ni47Si216
【0028】
二重共振器および/または単一共振器に特に適した合金に対し、上記の例に基づく更に厳密な式は、次の通りである。
Fe24-rCo12.5-wNi45+r+v+1.5wSi2+u16.5-u-v-0.5wここでr=−1〜1、u=−1〜1、v=−1〜1、w=−1〜4。
【0029】
このリボンの長手方向に一貫した性質を得るため、フィードバック制御を用いて、このような焼鈍を行うことは好都合である。この目的で、リボンが炉から出てきた後で、その磁気的性質(例えばヒステリシス・ループ)を測定しかつその結果得られたパラメータが所定の値から外れる場合には、焼鈍パラメータを調整する。これは、好ましくは加える引張り力のレベルを調整することで行う。即ち所望の磁気的性質を得るため、張力を増減する。このフィードバックシステムは、磁気的性質や磁気弾性特性に及ぼす組成変動、厚さ変動および焼鈍時間や焼鈍温度のずれの影響を効果的に補償できる。この成果は焼鈍したリボンの極めて一貫した再現性のある性質であるが、それは、普通なら前述の影響のために、比較的に激しい変動を受けるはずである。
【0030】
連続するリボンの測定を共振器の性質と相関させるため、短い共振器アセンブリに減磁効果が現れると、このような減磁効果に対し、上記のパラメータを補正することが不可欠である。一例として連続するリボンの異方性磁界に、単一の共振器部片の減磁界の2倍を加えた合計を、一定の所定値(好ましくは、約8〜12Oe)に保つと、二重共振器用の一貫した共振器性質が得られる。
【0031】
本発明のもう1つの実施例では、3つ以上のリボン部片を合わせた状態で配置し、多重共振器(例えば、三重共振器)を形成する。このような多重共振器は、更に大きい信号振幅をもたらすという利点を持っている。上述の通り焼鈍したとき、電子商品識別システム内のマーカ用に適した性質を持つ多重(即ち、少なくとも三重)共振器をもたらす合金組成用の一般式は、以下の通りである。
FeaCobNicSixyzここで、a、b、c、x、y、zは原子%で表す値であり、またMは、C、P、Ge、Nb、Taおよび/またはMo等の1つ以上のガラス形成促進元素および/またはCrおよび/またはMn等の1つ以上の遷移金属であり、更に、30≦a≦65,0≦b≦6,25≦c≦50,0≦x≦10,10≦y≦25,0≦z≦5,15≦x+y+z≦25但し、a+b+c+x+y+z=100を満たす。
【0032】
好ましい実施例では、アモルファス合金リボンの異方性は、上記の式に、以下の厳密な範囲を用い、焼鈍中に引張り力を加えることで、制御できる。
45≦a≦65,0≦b≦6,25≦c≦50,0≦x≦10,10≦y≦25,0≦z≦5,15≦x+y+z≦25
【0033】
幅が約6mm、また長さが約35〜40mmの三重共振器に特に適した上記合金の例は、以下の通りである。
Fe46Co2Ni35Si115.50.5とFe51Co2Ni30Si115.50.5
【0034】
4つの共振器部片(長さ約35〜40mm)から成る幅6mmの共振器アセンブリに特に適した例は、組成Fe53Ni30Si115.50.5である。
【0035】
一般に、以下の組成は、珪素と硼素の含有量の最適化に関し好ましく、垂直な磁界と引張り応力を同時に利用する焼鈍処理を用い、本出願人が使用する製造用の炉にも最適であり、更にこれら合金は、コバルトの含有量を更に減らすのに最も有望な候補でもある。その好ましい組成は、Fe24Co13Ni45.5Si1.516、Fe24Co12.5Ni45.5Si216、Fe24Co12.5Ni45Si216.5、Fe24Co11.5Ni46.5Si1.516.5、Fe24Co10.5Ni48Si215.5、Fe25Co10Ni47Si216、Fe24Co9.5Ni49.5Si1.515.5およびFe24Co8.5Ni51Si115.5である。
【0036】
最後に、一般にインゴット準備の結果として得られた合金は、実際上約0.5原子%以下の炭素と、それに伴い微量の硼素とを含むことに留意されたい。
【0037】
合金の準備 Fe−Co−Ni−Si−B系のアモルファス金属合金を、一般に厚さ25μmの薄いリボンとして、溶解金属から急冷することで準備した。表Iは、調査した組成と、それらの基本の磁気的性質の代表的な例を列挙している。これらの組成は公称値にすぎず、個々の濃度は、このような公称値から僅かに外れる場合があり、またこの合金は、その溶融処理と原料の純度のために、炭素のような不純物(Cについては、一般に約1原子%以下)を含む場合がある。
【0038】
あらゆる鋳型は、市販の原料を用いて、少なくとも3kgのインゴットから作成した。これらの実験に用いたリボンは、幅6mm(幅が12.7mmであったNo.2の合金を除く)であって、それらの最終幅に直接に鋳造したか或はそれよりも幅広のリボンから細断した。これらのリボンは強く、堅く、延性があり、また光沢のある上面と、やや光沢のない底面を持っていた。
【0039】
焼鈍 これらのリボンを、長い方のリボン軸線に垂直に磁界を加えられるオーブンを通し、一方のリールから他方のリールへ合金リボンを移送することで、連続式に焼鈍した。
【0040】
この磁界は、従来技術に従い、リボン軸線を横断して(即ち、リボンの幅を横切って)向けたか或は別法として、この磁界を、リボン平面に垂直な実効成分を持つように向けた。後者の技法は、前述の米国特許出願第08/890612号明細書に開示されており、信号振幅を大きくするという利点を持つ。双方の場合に(横断方向と垂直方向)、焼鈍磁界は、長い方のリボン軸線に垂直である。
【0041】
この磁界を、永久磁石により、長さ2.80mのヨーク内に発生した。磁界の強さは、磁界を、実質的にリボン平面に垂直に向けた実験では約2.8kOeであり、また「横断方向」磁界焼鈍用の機構では、約1kOeであった。
【0042】
以下に示す例の大部分は、焼鈍磁界を、実質的にリボン平面に垂直に向けた状態で得たが、これらの主な結論は、従来の「横断方向」焼鈍(これも試験された)にも適用できる。
【0043】
焼鈍は、大気雰囲気中で行った。焼鈍温度は、約300〜420℃の範囲内で選択した。焼鈍温度の下限は約300℃であって、この温度は、製造固有の歪の一部を除去するのに、また磁気異方性を誘導するために充分な熱エネルギーを提供するのに必要である。キュリー温度と結晶化温度から、焼鈍温度の上限が得られる。リボンが、熱処理後に、短い条板に切断できるくらい充分に延性があるという必要条件から、焼鈍温度のもう1つの上限が生ずる。最高の焼鈍温度は、好ましくは前記材料の特性温度の最低値よりも低くなければならない。従って、一般に、焼鈍温度の上限は、約420℃である。
【0044】
これら実験に用いた炉は、リボンを前述の焼鈍温度に曝す長さ約1.80mのホットゾーンを持つ長さ約2.40mのものであった。焼鈍速度は、代表的に約5〜30m/分にわたり、これは各々約22〜4秒迄の焼鈍時間に相当する。
【0045】
このリボンを、オーブンを通して一直線に移送し、また磁界によりリボン上に及ぼされる力やトルクのために、リボンが曲ったり、捻じられたりすることがないように、長形の焼鈍治具で支持した。
【0046】
焼鈍は、この磁気的性質を所定の値に設定できるようにする(合金組成を適正に選択させる)張力フィードバック制御を用いて実施した。この技法は、上述の米国特許出願第08/968653号明細書に詳しく開示されている。
【0047】
試験
焼鈍したリボンを、代表的に長さ38mmの短い部片に切断した。これらのサンプル(「サンプル」とは、単一のリボン部片或は合わせた幾つかのリボン部片をさす)を、ヒステリシス・ループと磁気弾性特性を測定する目的で使用した。
【0048】
このヒステリシス・ループは、約30Oeピーク振幅の正弦波磁界内で、60Hzの周波数で測定した。この異方性磁界は、磁化がその飽和値に達した磁界Hkとして定義される。リボンの幅を横切る磁化容易軸では、横断方向の異方性磁界は、次の式により、異方性定数Kuと関連付けられる。
k=2Ku/JsここでJsは飽和磁化である。Kuは、磁化容易軸に平行な方向から磁化容易軸に垂直な方向に磁化ベクトルを回転させるのに単位体積当り必要となるエネルギーである。Hkは、合金組成および熱処理によってだけでなく、減磁効果のため、これらのサンプルの長さ、幅、厚さによっても決まることに留意されたい。
【0049】
共振周波数Frや共振振幅A1等の磁気音響特性は、ピーク振幅が約18mOeの、共振周波数で振動する小さい交番磁界のトーンバーストで、長手方向の共振振動を起こすことにより、リボン軸線に沿った重畳dcバイアス磁界Hの関数として測定した。このバーストのオンタイムは約1.6m秒であり、またバースト間のポーズは約18m秒であった。
【0050】
長形の条板の長手方向の機械的振動の共振周波数は、次式で与えられる。
【0051】
【数1】

ここでLはサンプルの長さであり、EHはバイアス磁界Hでのヤング率、ρは質量密度である。長さ38mmのサンプルでは、共振周波数はバイアス磁界強度に応じ、代表的には約50〜60kHzであった。
【0052】
機械的振動と関係のある機械的歪は、磁気弾性相互作用を通じ、バイアス磁界Hで決定された平均値JHを中心として磁化Jの周期的変化を発生させる。この関連磁束変化は、電磁力(emf)を誘導する。この電磁力は、リボンの周りに約100の巻数を有する密結合ピックアップ・コイルで測定された。
【0053】
EASシステムでは、好都合なことにマーカの磁気共振応答がトーンバースト間で検出されるので、ノイズレベルが減り、従って例えばゲートが広げられるように配慮される(励振コイルと受信コイルは、ゲートの間隔を置いた各鉛直側面に設けられる)。この信号は、励振後(トーンバーストの終了時)、指数関数的に減衰する。この減衰時間は、合金組成と熱処理によって決まり、約数百マイクロ秒から、数ミリ秒にわたる場合がある。少なくとも約1msという充分に長い減衰時間が、トーンバースト間に、充分な信号IDを提供するのに重要である。
【0054】
それゆえ、この励振から約1ms後に、誘導共振信号振幅を測定した。この共振信号振幅を、以下の説明でA1と呼ぶ。従って、ここで測定される大きいA1振幅は、良好な磁気共振応答と小さい信号減衰の双方を示す。
【0055】
結果 EAS用の従来のマーカは、長さ約38mm、厚さ約25μm、幅約12.7mm又は6mmの単一共振器を用いている。表IIに示す例1と例2aは、上記の2つの従来の組成と、EAS用に適したそれらの磁気的性質と共振性を表す。
【0056】
幅広の共振器は、細長いリボンの信号振幅の約2倍の振幅を持つことが明らかである。それでも、この細長いリボンの明らかな利点は、それにより、更に細長いマーカを作れる点である。この細長い共振器と幅広の共振器の利点を組み合わせること、即ち細長いマーカに大きい信号振幅を与えることが非常に望ましい。
【0057】
従来の幅広の共振器材料と細長い共振器材料(表IIに示す例1と例2a)との信号振幅の差は、明らかに各々の場合にリボンの断面積と関係がある。断面積が大きくなると、共振信号振幅が大きくなるように思われる。
【0058】
第1の実験では、リボンの厚さを増すことで細長いリボンの信号振幅を大きくしようとし、その結果、断面積が大きくなった。このリボンは、例2aの場合と同じ方法で焼鈍した。この実験の結果は、表IIに示す例2bとして列挙してある。断面積が大きくなるにも係らず信号振幅が小さくなるのは、リボンの厚さを増すことに伴い渦電流損が増大するためと考えられる。
【0059】
第2の実験では、No.2の合金の2つのリボン部片を合わせた状態で配置し、二重共振器を形成した。このリボンを、例2aの場合と同じ方法で焼鈍した。その結果、共振振幅A1は、大幅に大きくなった(表IIに示す例2c)。これらのリボンの表面特徴(例えば薄い酸化物層のような)は、2つのリボン間での渦電流の流入を抑えるよう、リボン間に充分な電気絶縁を保証している。それでも、この振幅は、幅12.7mmのリボン部片の場合よりも大幅に小さいことがわかっている。更に、このバイアスを6.5Oeから2Oeに減らすと、周波数偏移ΔFrは、僅か約1.2kHzに減少したが、これは、マーカの信頼できる不活性化性を保証するのに充分ではない。
【0060】
更なる実験では、合金のCo含有量を減らすことで、合金組成を従来の組成から変更した。次に、6mmのリボンを、上述の例と同様に焼鈍した。また、幅6mmのリボンの2つの部片を合わせて、二重共振器を形成した。その結果は、表III(例3〜例9)に示され、本発明の好ましい実施例を表わしている。一例として、共振性(図1Aの周波数と図1Bの振幅)と例3のヒステリシス・ループ(図2)を示してあり、これらは、例1の幅12.7mmの共振器(特に、その大きい信号振幅)に匹敵する。とはいえ、ここでは、その細長い方のリボンを二重共振器に組み合わせると、更に細長いマーカを使用することができる。
【0061】
図2から判るように、ヒステリシス・ループが飽和に近付く磁界として定義される異方性(即ちニー)磁界Hkは、次の順に大きくなる。Hk(長いリボン)<Hk(長さ38mmの信号共振器)<Hk(長さ38mmの二重共振器)。
【0062】
図3Aと図3Bは、本発明により構成された二重共振器マーカの一実施例において、基本構成要素と、それらの基本構成要素の構造配置を示している。本発明のマーカは、各々6mm幅の2つの共振器部片2が入っている細長いハウジング1を含む。共振器部片2は、第1のカバー3で覆われ、また第1のカバー3上にバイアス磁石4が載せられている。バイアス磁石4は、全ての構成要素を収容するハウジング1を塞ぐように、第2のカバーと接着剤5で覆われる。
【0063】
従来の幅広の磁気音響式マーカの基本構造と構成要素とを、図4Aと図4Bに示す。この従来のマーカは、第1のカバー8で覆われる従来の幅広(12.7mm)の共振器部片7を収容するに充分広いハウジング6を含む。バイアス磁石9は、第1のカバー8上に載せられ、第2のカバーと接着剤10で覆われる。
【0064】
図3Aと3Bの本発明のマーカと、図4Aと4Bの従来の幅広のマーカは、同一の性能を持つが、二重共振器を持つ本発明のマーカは、その幅が狭いため、見場や費用上の明らかな利点を持っている。図3Aと3Bにも示すように、共振器部片2は、上面がバイアス磁石の方に向けられた横断方向のそり(一般に、約150〜320μm)を持つのが有利である。このようなそりは、適切な焼鈍治具により、焼鈍することができる(前述の米国特許出願第08/968653号明細書参照)。
【0065】
所要の性質はまた、例えばNo.2の合金を用い、約420℃という更に高い温度で焼鈍すれば得られることを付言しておく。これは、焼鈍温度の上限からは遠く離れてないから、No.3〜No.9の合金が好ましい。即ち、これらの合金は、焼鈍温度を下げさせ(一般に350〜380℃)、それにより、脆化および/または結晶化のおそれが少なくなるからである。
【0066】
上記の知見を説明するために、最初に、共振周波数Frは、次式によりバイアス磁界Hの関数として、充分合理的に表現できることに留意されたい。
【0067】
【数2】

ここで、λsは飽和磁気歪定数、Jsは飽和磁化、Esは強磁性的に飽和した状態でのヤング率、Hkはヒステリシス・ループのニー磁界、ρは質量密度、Lは共振器の長さである。
【0068】
従って、共振器の性質を決定する極めて重要なパラメータの1つは、ヒステリシス・ループのニー磁界Hkである。上記の関係に当てはまるニー磁界Hkは、熱誘導異方性磁界に左右される(広く行き渡った共通の考え)だけでなく、本質的に、リボン部片の形態(長さ、幅、厚さ)や実際の共振器アセンブリを形成するリボン部片の数にも左右されることを認識することが重要である。よって、Hkは、次式により、近似的に表わすことができる。
k=HA+pNJs/μ0ここで、HAは熱誘導異方性磁界(=リボンの非常に長い部片上に誘導されたニー磁界Hk)、pは共振器アセンブリ用のリボン部片の数、Nは単一リボン部片の減磁率、μ0は真空透磁率そしてJsは飽和磁化である。
【0069】
質量密度ρ、ヤング率Es、飽和磁気歪定数λsおよび飽和磁化Jsは、主として合金組成により決まる。熱誘導異方性磁界HAは、合金組成と熱処理の双方により決まる。更に、実効共振器ニー磁界Hkは、減磁効果のため、共振器の形態や共振器の数によっても決まる。よって、EASマーカ用に最適化された共振器を得るには、合金組成、熱処理、共振器の形態の明確な組合せが求められる。
【0070】
従って所望の性質、即ち大きい振幅、バイアス磁界の変動への無感受性、良好な不活性化特性をマーカに与えるには、所与の合金組成に対しHkを適正に選択するのが極めて重要である。例えばHkの値が過大なら不活性化特性が不良となり、Hkの値が過小ならFrとバイアスの曲線の勾配が過大になる。
【0071】
一例として、図5は、例えば地球磁界内での異なる向きによりバイアス磁界が目標値から僅か約0.5Oeずれたために、共振周波数Frが、疑問のあるゾーンで励振周波数から偏移するときの信号振幅の動きを示す。黒丸11は│dFr/dH│≒200Hz/Oeを、黒丸12は│dFr/dH│≒600Hz/Oeを、そして黒丸13は│dFr/dH│≒1,000Hz/Oeを示す。勾配│dFr/dH│が大きすぎる(即ち、約750Hz/Oeよりも大きい)場合、この信号振幅は50%以上も下がり、それは、ピック率(即ち、正確な警報の発生率)を大幅に低下させ、更にマーカがその信号IDを失うと図5から結論付けることができる。
【0072】
上述の調査結果から、表Iと表IIIに示す特によく適している合金組成の選択を導く幾つかの結論は、以下のように位置付けることができる。
【0073】
kは、約10Oeを中心とした値を持たねばならず、それにより、約8Oeよりも低いバイアス磁界で、最大の振幅を確実に発生できる。次に、共振器アセンブリに適切な共振器特性(即ち充分に小さい勾配と、消磁時に充分に高いFr偏移)を得るため、合金は、約8〜14ppmを中心とした磁気歪を持たねばならない。これは、鉄含有量が約30原子%よりも少ない合金組成において得られる。この鉄含有量は、磁気弾性的に励振できるよう、その材料に充分に高い磁気歪を持たせるために、少なくとも約15原子%でなければならない。
【0074】
代表的な熱処理(即ち約300〜420℃で数秒)により、所望の値のHkを得るため、それ相当にCoとNiの含有量を選択せねばならない。これはCoとNiの含有量を、上記の「要約」に示した範囲に限定する。従って、例えば幅6mmの二重共振器では、合金のCo含有量が18原子%よりも多いと過少の周波数偏移ΔFr値をもたらし、またCo含有量が約6原子%よりも少ない合金は、過大な(急勾配すぎる)周波数勾配│dFr/dH│を示す。
【0075】
張力フィードバック制御を利用するため、異方性磁界は、焼鈍中に加わる引張り応力に対し充分な感受性を示さねばならない。これは、鉄含有量が約30原子%よりも少ないか、約45原子%より多い合金組成においてのみあてはまる。
【0076】
更に大きい振幅を得るため、共振器部片を3つ以上組み合わせることも可能である。例を、表No.に示す。このような三重、即ち三次の共振器では、この合金のCo含有量を更に減らすことが有利である。これらの多重共振器に適した上記の低Co含有量の合金は、二重共振器には適さない。このような合金製の二重共振器は、常に、約1000Hz/Oeという過大な円勾配を示した。これにより、この二重共振器は、バイアス磁界の変化に対し敏感になりすぎる。
【0077】
従って、二重ないし多重共振器を製造する上での1つの要点は、最適化された多重共振器マーカでは、全共振器アセンブリの実効Hkに明確な値を持たせることが不可欠であると認識することである。よって、或る組成が与えられると、この実効Hk値は、単一、二重または多重共振器としての使用に係らず、常にほぼ同じ値にするべきである。但し、各々の場合に、Hkは実際の共振器アセンブリに適用することを条件としている。それでも、例えば最適化された二重共振器を持つと、この共振器を形成する個々のリボン部片のHkは、全体のアセンブリ(図3A、3B、4A、4Bを参照のこと)のものよりも小さい(例えば幅6mmのリボンは約2Oeだけ小さい)。その結果、同一材料からなる単一共振器は、二重共振器とは異なる磁気音響性を示す(図1A、1B参照)。従って、二重共振器用に最適に焼鈍したアモルファス合金リボンは、一般に単一共振器には左程適さないか或は全く適さず、逆もまた真である。
【0078】
原理的に所与の合金は、異なる焼鈍処理により、即ち例えば焼鈍中の温度、時間、張力を調節することで、単一、二重または多重共振器としての使用に最適化できる。しかし、実際上焼鈍により共振器の特性を変える範囲は限定される。従って確実な焼鈍処理を保証するため、最適化した二重(多重)共振器は、共振器部片の幅と長さが同一であると仮定して、一般に最適化した単一共振器とは幾らか異なる組成を必要とする。従って、最適化した単一共振器と比べ、最適化された二重共振器は、一般に、更に少ないCo含有量および/または更に多い(Si、B、C、Ni)含有量を持つ組成を必要とする(ただし、その差は1原子%以下にすぎない場合もある)。
【0079】
図6、7、8は、前述の米国特許第4510490号明細書で例示された従来の並列状態の配置と違って、複数の共振器部片を合わせた状態に置いて得られる利点を実証している。上記の通り、米国特許第4510490号明細書に記述されるマーカ内に2つの共振器を使用する第1の理由は、マーカに一意のIDを与えるよう、所与のバイアス磁界で、各々異なる共振周波数を持つ共振器を使用できることである。図6、図7、図8は、2つの共振器部片を合わせた状態(上下に重ねて)に置くことが、2つの共振器部片を並列状態に配置することと磁気的に等価ではないことを実証している。
【0080】
図6は、並列状態に又は合わせた状態に配置された、異なる合金組成の2つの共振器(それ故、所与のバイアス磁界H=6.5Oeで、各々異なる共振周波数を持つ)から成る二重共振器の信号振幅を比較している。これらの合金番号は、ここに示す表Iに適用される。表中のNo.2の合金は組成Fe24Co18Ni40Si216を持ち、またNo.3の合金は組成Fe24Co12.5Ni45.5Si216を持つ。図6から明らかなように、本発明に基づかない、異なる個々の共振周波数を各々持つ上記のタイプの共振器では、リボンを並列状態に配置すると有利である。なぜなら、リボンを合わせた状態に配置すると、信号振幅が大幅に小さくなるからである。
【0081】
図7は、2つの個々の共振器部片から成る二重共振器を示す。ただし、これらの個々の共振器部片は、単一共振器としての使用に最適化されたもので、ここに示される表1のNo.2の合金に一致する。これら2つの共振器部片は、バイアス磁界H=6.5Oeで、公称的に同一の共振周波数を持つ。また、図7からわかるように、これら共振器を、並列状態ではなくて、合わせた状態に配置する場合には、これらの信号振幅は大幅に小さくなる。更に、これらのリボンを合わせた状態に配置して形成した二重共振器は、バイアスを除去、即ちマーカを不活性化したとき、不充分な周波数変化ΔFrを示し、更に不都合にも高いQを持つことが図7から判る。これらの結果を、以下の表A1に要約してある。
【0082】
【表1】

【0083】
図8は、本発明の原理による二重共振器を示す。ただし、これらの性質は、以下の表A2に要約してある。図8から判るように、本発明に従う合金と熱処理のため、2つの共振器部片を合わせた状態にある二重共振器の振幅は、小さい方の振幅減少しか示さず、更に良好なマーカに対し、勾配、ΔFr、Q等に関する他の要件も満たしている。再度、バイアス磁界H=6.5Oeを使用した。
【0084】
結果を図6〜8に示す共振器部片は全て、幅6mm、長さ38mm、厚さ25μmであった。
【0085】
【表2】

【0086】
二重共振器にも単一共振器にも適した個々の例
表IIの例で既に実証しかつ上述したとおり、単一共振器(例2参照)用に最適化した共振器合金は、一般に、二重(多重)共振器(例2c参照)として使用するには劣った特性を持ち、逆もまた真である。
【0087】
従って、一般に二重(多重)共振器用に最適化した合金リボンは、それを単一共振器として使用する場合、約│dFr/dH│≒1000Hz/Oeの過大な勾配を持つ。このことは、バイアス磁界強度の偶発変動(バイアス磁石の散乱および/または地球磁界に対するマーカの向き)に対し共振周波数の感受率が過大であることを意味し、この共振周波数がマーカに信号IDを与えるから、良好なマーカには適さない。
【0088】
一例(例9b)として、二重共振器用に最適に焼鈍したNo.9の合金(表I、表IIIを参照のこと)の単一共振器の性質を示す表No.に示す。この単一共振器の勾配│dFr/dH│は、ほぼ900Hz/Oeであり、従って許容値よりも明らかに大きい。同様に、表No.は、例10、11の三重共振器が、好ましくない単一共振器の性質(勾配が大きく、かつ振幅が小さい)を持つことを示している。
【0089】
しかし、本発明者は、二重共振器用に最適に焼鈍した表IのNo.3〜No.8の合金と、表IIIのNo.3〜No.8の例で明らかなように、特定の組成範囲や熱処理に限定される上記一般論からの除外があることを理解した。表No.の例3b、5b、7bで示すように、これらの個々のリボンは、二重共振器用に最適に焼鈍したが、単一共振器としての使用に適した性質を同時に示している。この性質は、従来技術の6mmの単一共振器に匹敵するばかりか、勾配│dFr/dH│が小さく、かつ周波数偏移ΔFrが大きいので有利である。
【0090】
この共振周波数は、バイアス磁界の変動に鈍感なので、勾配が大幅に小さくなるとマーカのピック率が高まる。共振周波数が励振AC磁界の周波数から外れると振幅が小さくなるので、この無感受性は、振幅が更に大きいが勾配も更に大きいタグに相当する。換言すれば、勾配の更に小さいマーカは、更に大きい信号振幅を示し、従って励振周波数と共振周波数とが厳密に一致しなくとも、問合せシステムにより、勾配の更に大きいマーカと比較する場合より一層良く検出される(図5参照)。
【0091】
第2に、この大幅に高いΔFrは、バイアス磁石の消磁が不完全なためマーカの不活性化が不充分であっても、誤り警報が生じないことを更に保証する。
【0092】
よって、これらの個々の単一共振器は、例えば表IIの例2aのような従来技術の単一共振器よりも、マーカに更に適している。
【0093】
これらの焼鈍した各合金リボン(表Iと表IIIの例3〜例8)を、単一共振器タグだけでなく、二重共振器タグにも使用できることが、更なる利点である。即ち、このような事情は、必要な場合には、双方のタイプのマーカを製造するときに、部品の補給を容易にするからである。従って、表Iと表IIIの例3〜8は、本発明の最も好ましい実施例である。
【0094】
従って、本発明のもう1つの要点は、単一共振器にも二重共振器にも適した細長いアモルファス合金リボンを提供するために、合金組成および/または焼鈍処理を特に選択することができるという知見である。
【0095】
この知見を図9に示す。図9は、二重共振器として使用するために最適に焼鈍した2つの合金(但し、飽和磁気歪定数λsが異なる)における共振周波数とバイアス磁界との関係を示すグラフである。更に正確には、図9は、単一リボン部片、即ち単一共振器に対する共振周波数の関係を示している。破線の垂直線は、磁石4(および9)で発生する代表的なバイアス磁界の範囲を示している。
【0096】
磁気歪の更に大きい(λs=15ppm)合金は、二重共振器と同一の性能を持つように、磁気歪の更に小さい(λs=11ppm)合金よりも強い異方性磁界Hkを必要とする。その結果として、磁気歪の大きい合金における共振周波数の最低値は、約9Oeという更に強いバイアス磁界にあるが、磁気歪が更に小さい合金における共振周波数の最低値は、用途に適した代表的なバイアス磁界と一致する約7Oeという更に弱いバイアス磁界にある。
【0097】
強すぎるバイアス磁界は、バイアス磁石と共振器間の磁気吸引力のために不適切であり、それにより、望ましくないクランピングが発生し、従って信号が失われる。従って、約8Oeよりも弱いバイアス磁界が好ましい。
【0098】
その結果、6〜7Oeの代表的なバイアス磁界において、大きい磁気歪の単一共振器は、不適切な約1000Hz/Oeの勾配を持つが、一方、更に小さい磁気歪の合金は、磁気バイアス磁界が共振周波数曲線の最小値にほぼ一致する(即ち、│dFr/dH│≒0)から、やや小さい勾配を持つ。
【0099】
よって、飽和磁気歪が約15ppmよりも小さい合金組成を持つことが好ましい。このような磁気歪は、その合金の鉄含有量が約30原子%よりも少ない場合に得られる。従って、例えば鉄含有量が約24原子%である合金は、一般に、約10〜12ppmの飽和磁気歪定数λsを示し、これは、約6〜7Oeのバイアス磁界に近い共振周波数の最低値を持つのにふさわしい。
【0100】
これは、バイアスが約6〜7Oeであり、かつ焼鈍したリボンが同時に二重共振器マーカに適する場合、更に大きい磁気歪による合金9(27原子%のFe、λs≒13ppm)が、単一共振器として、No.3〜No.8の合金(24原子%のFe、λs≒11〜12ppm)より不適な理由を説明している。従って、多重共振器用に最適化したリボンを単一共振器として使用する場合、それらリボンが、1000Hz/Oeを遥かに超える勾配と、小さい振幅を示し、更に磁気歪が大な合金(λs>20ppmの合金10〜12)では、事態は更に悪くなる。
【0101】
よって、二重共振器にも単一共振器にも適する焼鈍した合金リボンに関する上記の調査から得られた幾つかの指針は、以下の通りである。
【0102】
単一共振器の共振周波数が最低値を示すバイアス磁界は、一般に約8Oeより弱く、好ましくは約6〜7Oeのバイアス磁石で発生した磁気バイアス磁界にほぼ一致せねばならない。二重共振器の振幅A1が最大値となるバイアス磁界は、同時に単一共振器の共振周波数が最低値を示すバイアス磁界に近接せねばならない。
【0103】
よって、単一共振器のニー磁界Hkが、加えたバイアス磁界の少しだけ(約10〜30%)上にあるよう焼鈍処理の条件を選択せねばならない。これは、リボン軸線に殆ど垂直に向けた磁界の存在下で、また場合により約200MPa迄の引張り力を同時に加えて、数秒間約300〜400℃の温度で合金を焼鈍することで得られる。この印加磁界は、リボン平面に殆ど垂直方向に向けて、焼鈍が、ほぼリボンの厚さよりも短い平均磁区幅を用い、リボン幅を横切るように向けられた微細磁区構造を発生させるように選定せねばならない。
【0104】
この誘導された異方性磁界が、二重共振器に適した共振器特性をもたらすことができるよう、合金組成を選択せねばならない。
【0105】
これは、例えば約10〜12ppmに近い磁気歪を示す合金組成を選択することで得られる。これは、約22〜26原子%の鉄、約8〜14原子%のCo、約44〜52原子%のNiおよび少なくとも約15原子%で、20原子%より少ない、少なくとも一種のガラス形成元素(Si、B、C、Nb、Mo等)を含有するFe−Co−Ni−Si−B合金を選択することで得られる。約6〜7Oeのバイアスにて動作するマーカでは、このような特定の選択が好ましい。
【0106】
マーカが約6Oeよりも弱いバイアス磁界で動作する場合、磁気歪を更に減らさねばならず、それに応じ組成を、例えば下は約15原子%という許容下限迄、更に低い鉄含有量に調整せねばならない。ΔFrを減らさずに二重共振器自体の勾配を更に小さくせねばならない(これは、共振周波数の最低値で、二重共振器にバイアスをかけて行える)ときは、上記の如き修正も必要である。かかる場合、単一共振器としての同時使用への適切さが失われることもあるが、更に小さい磁気歪の合金を有するこのような代替二重共振器は、バイアスの変動への周波数の感受性が小さくなる利点を持ち、これは本発明のもう1つの実施例である。
【0107】
リボン平面に垂直な焼鈍は、共振周波数の最低値にて、かなり大きい振幅レベルを得るのに極めて重要である。これはまた、最大振幅レベルを、少なくとも約10〜20%だけ高める。従来の横断方向の磁界で焼鈍した材料は、共振周波数が最低値を示すバイアス磁界においてほぼ消失する信号振幅を示し、それ故、本発明のこれらの好ましい実施例には適さない。この状況を、図10に示す。
【0108】
単一共振器および二重共振器として同時に適することが要件でない場合、垂直磁界の焼鈍は、好ましい選択であっても、必要不可欠なものではない。かかる合金組成の範囲は、やや広くなるが、約8Oeよりも弱いバイアス磁界が、充分に大きい信号振幅を発生させるよう、最大信号振幅を、適度のバイアスレベルに確実に位置付けできるよう、鉄含有量を約30原子%以下にせねばならない。
【0109】

表の記号表示
・Hk: 共振器アセンブリの異方性磁界。
・A1:
6.5Oeのバイアスでの共振器振幅。
・│dFr/dH│:勾配、即ちバイアス磁界(これらの例では、6.5Oeである )の変化に対する共振周波数Frの感受性。
・ΔFr: 周波数偏移、即ち、マーカの非活性化に要する周波数変化の目安である2Oeと6.5Oeのバイアス磁界間の共振周波数の差。
【0110】
【表3】

【0111】
【表4】

【0112】
【表5】

【0113】
【表6】

【0114】
【表7】

【0115】
ここに記述した、現在好ましいと考えている実施例の様々な変更や変形は、当業者に明らかなとおり、本発明の精神や範囲から逸脱することなく、またそれに伴う利点を減らすことなく実行可能である。それ故、請求の範囲は、そのような変更や変形をも権利の範囲に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、磁気音響式マーカを用いる電子商品監視システムだけでなく、電子商品監視システムに使用される磁気音響式マーカをも対象とし、更に、このような磁気音響式マーカを製作する方法も対象とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気機械式の電子商品監視システム内にバイアス磁界を発生させるバイアス素子を含むマーカに使用される多重共振器であって、
前記多重共振器は、
合わせた状態で配置された、長さと幅を各々持つ少なくとも2つの強磁性要素であって、各々の幅がほぼ等しく、また各々の長さがほぼ等しく、更に、各々、前記幅に垂直に向けられ、かつ該幅と同じ平面内にあるリボン軸線を持ち、また厚さを持つ少なくとも2つの強磁性要素を備え、
前記した全ての強磁性要素が、前記バイアス磁界内において+/−500Hz以内の各共振周波数、合金を強磁性的に飽和させる磁界まで直線的であるヒステリシス・ループ、および磁区幅がリボンの厚さよりも薄い微細磁区構造を持ち、
前記強磁性要素の各々が、組成FeaCobNicSi(ここで、a、b、c、x、y及びzは原子%を表し、更に、下記の式を満たす)を有するアモルファスリボンを含む多重共振器。
46≦a≦53
0≦b≦2
30≦c≦35
1≦x≦2
15.5≦y≦16.5
0≦z≦0.5
ただし、a+b+c+x+y+z=100を満たす。
【請求項2】
請求項1に記載の多重共振器であって、前記xは1であり、前記yは16である多重共振器。
【請求項3】
請求項1に記載の多重共振器であって、前記xは1であり、前記yは16であり、前記zは0である多重共振器。
【請求項4】
請求項1に記載の多重共振器であって、前記FeaCobNicSiは、Fe46Co2Ni35Si1B16,
Fe51Co2Ni30Si1B16, または Fe53Ni30Si1B16である多重共振器。
【請求項5】
請求項1に記載の多重共振器であって、前記強磁性要素の各々の飽和磁気Jが1.22T以上1.33T以下である多重共振器。
【請求項6】
請求項1に記載の多重共振器であって、前記強磁性要素の各々の飽和磁気ひずみ定数λが24.2ppm以上28.6ppm以下である多重共振器。
【請求項7】
請求項1に記載の多重共振器であって、前記強磁性要素の各々の異方性磁界Hkが15.2Oe以上17.8Oe以下である多重共振器。
【請求項8】
請求項1に記載の多重共振器であって、前記強磁性要素の各々の安定共振周波数Fr が 515Hz/Oe≦│dFr/dH│≦599Hz/Oe(ここで、Hは前記バイアス磁界を表わす)を満たす多重共振器。
【請求項9】
請求項1に記載の多重共振器であって、前記多重共振器が三重共振器である多重共振器。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の多重共振器を有する磁気音響式マーカ。
【請求項11】
磁気音響式マーカを有する電子商品監視システムであって,
前記磁気音響式マーカが請求項1〜9のいずれかに記載の多重共振器を有する磁気音響式マーカである電子商品監視システム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−26703(P2011−26703A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155302(P2010−155302)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【分割の表示】特願2000−598997(P2000−598997)の分割
【原出願日】平成12年2月10日(2000.2.10)
【出願人】(504227958)ヴァキュームシュメルツェ ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー (16)
【Fターム(参考)】