説明

電子天びん

【課題】 磁石体又はコイルを相対的に移動調整できるようにし、これにより製品ごとに異なった値で発生するヒステリシスを所定の値まで小さくして高精度の電子てんびんを得ることができるようにする。
【解決手段】 皿上の被測定荷重と、磁石体1の磁界中に設けたコイル2に電流を流すことにより発生する力を釣り合わせて皿上の荷重を測定する電磁力平衡式の電子天びんであって、前記磁石体1のセンターラインL1とコイル2の軸心L2との位置が移動調整できるように磁石体1又はコイル2が相対的に移動可能に形成されている構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皿上の被測定荷重と、永久磁石の磁界中に設けたコイルに電流を流すことにより発生する力を釣り合わせて皿上の荷重を測定する電磁力平衡式の電子天びんに関し、殊に、ヒステリシス誤差を補正する機能を備えた電子天びんに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に電磁力平衡式の電子天びんでは、皿上の被測定荷重に応じて変位するビームの可動部分にコイルを取り付け、このコイルを永久磁石が作る磁界中に配置し、コイルに電流を流すことにより発生する電磁力で皿上の被測定荷重と平衡させ、この平衡するときのコイル電流又はコイル電流を決定する制御信号から被測定荷重の大きさを測定する。この場合、天びんの機械系の変化のみならず、永久磁石やコイル電流における磁界強さの変化電気系のヒステリシスが必然的に発生し、測定精度に影響を及ぼしている。
【0003】
このような電磁力平衡式の電子天びんでは、図1に示すように、上下N、S極の永久磁石1a、1aによってサンドイッチされたポールピース1b並びにヨーク1c(以下これら部材を総括して磁石体1という)のセンターラインL1にコイル2の軸芯L2を一致するように配置される。これはコイル電流の磁界と上下永久磁石の磁界の磁束密度、即ち磁界に垂直な単位面積当たりの磁束線の数が最大となり、これが最も好ましいと考えられていたからである。しかし、前記したように測定時に機械系や電気系のヒステリシスが必然的に発生し、高精度の測定値が得られないといった課題があった。
【0004】
このようなヒステリシスによる誤差を補償して高精度の計測値を得るための手段として例えば特許文献1や特許文献2に示すものがあるが、何れも複雑な演算処理を伴った多段階のステップを必要とし、システムが複雑化してコスト高となる。
【特許文献1】特開平06−160164号公報
【特許文献2】特開平10−148566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、磁石体1のセンターラインL1とコイル2の軸芯L2とを一致させた位置を0点位置としてヒステリシスを計測し、次いで磁石体1とコイル2の相対的な位置を0.5mmづつ移動させた位置でヒステリシスを計測したところ、図5に示すように0点位置から1.5mm〜2mm移動させた位置が最もヒステリシスの値が小さく、しかも0点位置の約4分の1に減少することが判明した。また同時に図6に示すように、この各移動した位置で磁束密度を計測したところ、0点位置からの変化量が非常に小さく、たとえば1.5mmの位置でわずか0.6%しか劣化していないことが判明した。このようにコイルと磁石体の位置関係をヒステリシスが非常に小さくなる1.5mmの位置に移動させたとしても、磁束密度に殆ど影響を与えることがなく、ヒステリシスの影響の少ない高精度の電子天びんが得られることになる。尚、1.5mmの位置から磁束密度の変化量が急激に上昇するので、1.5mmの近傍位置が最も好ましい。
【0006】
そこで本発明は、製品組み立て完了後、微妙な組み立て誤差や部品寸法の微細なバラツキ等によって製品ごとに異なった値で発生するヒステリシスを最終チェックで計測し、その値に応じて磁石体とコイルとの相対位置を最も好ましい位置に移動調整できるようにした電子天びんを提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する為に本発明では次のような技術的手段を講じた。即ち、本発明に係る電子天びんにあっては、皿上の被測定荷重と、磁石体1の磁界中に設けたコイル2に電流を流すことにより発生する力を釣り合わせて皿上の荷重を測定する電磁力平衡式の電子天びんであって、前記磁石体1のセンターラインL2とコイル2の軸心L2との位置が移動調整できるように、磁石体1又はコイル2が相対的に移動可能に形成されている構造とした。
【0008】
磁石体1のセンターラインL1とコイル2の軸心L2との相対位置を移動調整可能とする手段として、例えば図1に示すように磁石体1のヨーク1cをフレーム3に固定する固定ネジ4に、ヨーク1cとフレーム3の間で複数枚のスペーサー5を着脱可能に取り付けたり、或いは図2に示すようにコイル2を支えるコイル支持体6をアーム7に固定する固定ネジ8に、コイル支持体6とアーム7との間で複数枚のスペーサー9を着脱可能に取り付てこのスペーサー5または9を必要枚数着脱することにより磁石体とコイルの相対位置を移動調整することができる。この場合スペーサー5、9の厚みを例えば0.5mmに設定しておけば磁石体とコイルの相対的な移動量を正確に識別することができる。
【0009】
また別の移動調整手段として、例えば図3に示すように、固定ネジ4とは別に磁石体1のヨーク1cを上下に移動させる調整ネジ10を設け、調整時に固定ネジ4を緩めてフレーム3の下方からドライバー等の工具で調整ネジ10を回動して移動調整したあと、固定ネジ4を締結するようにしてもよい。また図2で示したアーム7とコイル支持体6とを連結する固定ネジ8に代えて図4に示すように調整ネジ11とすることにより磁石体とコイルの相対的な位置調整を行うことができる。この調整ネジ10、11の回動によって磁石体1とコイル2の相対的な位置調整を行う場合は、回動による相対的な移動量を検出して表示する表示部か、或いは調整ネジ10、11の回動角度に比例した移動量を表す目盛りを調整ネジ10、11の回動操作部の周縁に設けて回動による移動量を正確に識別する必要がある。
【0010】
また、ヒステリシスを計測してその値から磁石体1とコイル2の相対的な移動量を決定する手段として、図5で示した磁石体とコイルの相対的な位置とヒステリシスの量と方向との相関関係を示すパラメーターをあらかじめ用意しておき、計測したヒステリシスの値によって磁石体またはコイルの移動量をきめるようにすればよい。例えば、計測したヒステリシスが図5の−30の値であれば1mm位置でのヒステリシスに相当するから、磁束密度との関係から最も好ましい1.5mm位置でのヒステリシス値を得るためにはあと0.5mmだけ0点位置から離れる方向にずらせばよいことになる。尚、ヒステリシスの計測は一般に行われている手法によって行えばよい。
例えば、複数の分銅を用意して皿上に分銅を秤量値(最大荷重)まで順次載せてゆき、次に載せた分銅を順次降ろしていくことにより、簡単に計測することができる。
皿上に100gの荷重を載せたときのヒステリシスを計測する場合を例に具体的に説明すると、2つの100gの分銅A、分銅Bを用意し、最初に皿上の荷重が0の状態から分銅Aを載せて安定するのを待ち、第1の計測を行う。続いて、分銅Bを載せて安定した後に、分銅Bを降ろし、再び安定するのを待って第2の計測を行う。第1の計測と第2の計測とは、ともに皿上に分銅Aを載置したときの荷重を計測していることになる。それにもかかわらず、第2の計測、すなわち過大荷重(すなわち分銅A+分銅Bでの荷重)から0への荷重の漸減時にはロードセルの出力は、第1の計測のとき(漸増時)と皿上荷重が同一であっても若干大きくなり、この振れがヒステリシスの値として計測される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電子天びんによれば、磁石体のセンターラインとコイルの軸心との位置が移動調整できるように磁石体又はコイルが相対的に移動可能に形成したから、組み立て誤差や部品寸法の微細なバラツキ等によって製品ごとに異なった値で発生するヒステリシスを磁石体又はコイルを相対的に移動させることによって所定の値まで小さくすることができ、これにより高精度の電子てんびんを得ることができる、といった効果がある。
【0012】
(その他の課題を解決するための手段及び効果)
上記発明において、磁石体とコイルの相対位置を移動させたときにその移動量を認識する識別手段を電子天びんに備えさせるのがよい。これにより希望する移動量を正確に把獲することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下において本発明にかかる電子天びんについて図面を用いて説明する。図1は本発明の第1の実施例を示すものであって、電子天びんの磁石体部分の拡大断面図である。磁石体1は上下N、S極の永久磁石1a、1aによってサンドイッチされたポールピース1bと、これらを固支するヨーク1cとからなり、固定ネジ4を介してフレーム3に取り付けられている。磁石体1のポールピース1bの回りにコイル2が配置されており、該コイル2を支えるコイル支持体6が固定ネジ8を介してアーム7に固定されている。
前記磁石体1の固定ネジ4に、ヨーク1cとフレーム3の間で複数枚のスペーサー5が着脱可能に介在されており、このスペーサー5を着脱することにより磁石体1を上下に移動してコイル2との相対位置を調整することができるように形成されている。この場合、スペーサー5の厚みを所定の厚み、例えば0.5mmに設定しておけば、磁石体1とコイル2の相対的な移動量を正確に識別することができる。また、あらかじめ磁石体1のセンターラインL1とコイル2の軸芯L2とが一致するように組み立てておき、計測したヒステリシスの値に応じてスペーサー5を取り外すようにすれば調整が容易である。尚、ヒステリシスを計測してその値から磁石体1の移動量を決定する手段として、先に述べたように、図5に基づいた磁石体とコイルの相対的な位置とヒステリシスの量と方向との相関関係を示すパラメーターをあらかじめ用意しておき、計測したヒステリシスの値によって磁石体の移動量をきめるようにすればよい。例えば、計測したヒステリシスが図5の−30の値であれば1mm位置でのヒステリシスに相当するから、磁束密度との関係から最も好ましい1.5mm位置でのヒステリシス値を得るためにはあと0.5mmだけ0点位置から離れる方向にずらせばよいことになるので一枚のスペーサー5を取り外せばよい。
【0014】
図2はスペーサーをコイル側に取り付けた実施例を示すものであって、コイル支持体6をアーム7に固定する固定ネジ8に、コイル支持体6とアーム7との間で前記したスペーサー5と同様な複数枚のスペーサー9が着脱自在に装着されている。これによりこのスペーサー9を必要枚数だけ着脱することによりコイル2を上下に移動して磁石体1との相対位置を調整することができるように形成されている。
【0015】
図3は別の移動調整手段を示す実施例であって、前記した固定ネジ4とは別に、磁石体1のヨーク1cを上下に移動させる調整ネジ10がフレーム3を下方から貫通して設けられており、調整時に固定ネジ4を緩めてフレーム3の下方からドライバー等の工具で調整ネジ10を回動して移動調整したあと、固定ネジ4を締結することにより無段階で磁石体1を移動調整できるように構成されている。この場合、固定ネジ4を省略することも可能であるが、調整ネジ10で調整した後にこの調整ネジ10の自然回動を阻止する何らかの回り止め手段、例えばハンダ付け等の処置を施す必要がある。
【0016】
また調整ネジによる移動調整手段として、図4に示すようにコイル支持体6をアーム7に対して調整ネジ11で連結保持するようにすることも可能である。これにより調整ネジ11を回動することによりコイル2を移動させて磁石体1との相対位置を容易に調整することができる。この場合も調整ネジ11で調整した後にこの調整ネジ11の自然回動を阻止する何らかの回り止め手段を施す必要がある。
【0017】
上記した調整ネジ10、11による調整手段にあっては、この調整ネジ10、11の回動によって磁石体1又はコイル2の移動量を正確に識別する手段か必要となる。この識別手段として、例えば調整ネジ10、11の回動角度に比例した移動量を表す目盛りを調整ネジ10、11の回動操作部の周縁に設けるか、或いは調整ネジの回動による移動量を検出し、これを表示する表示部を電子天びんに設けるようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、製品ごとに異なった値で発生するヒステリシスを所定の最も好ましい値まで小さくして高精度の電子天びんを製作するのに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかる電子天びんの第1の実施例を示すものであて、磁石体部分の断面図。
【図2】本発明の第2の実施例を示す図1同様の断面図。
【図3】本発明の第3の実施例を示す図1同様の断面図。
【図4】本発明の第4の実施例を示す図1同様の断面図。
【図5】磁石体とコイルとの相対位置の変動とヒステリシスとの相関関係を示すグラフ図。
【図6】磁石体とコイルとの相対位置の変動と磁束密度との相関関係を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0020】
1 磁石体
1a 永久磁石
1b ポールピース
1c ヨーク
2 コイル
3 フレーム
4 固定ネジ
5 スペーサー
6 コイル支持体
7 アーム
8 固定ネジ
9 スペーサー
10 調整ネジ
11 調整ネジ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
皿上の被測定荷重と、磁石体の磁界中に設けたコイルに電流を流すことにより発生する力を釣り合わせて皿上の荷重を測定する電磁力平衡式の電子天びんであって、前記磁石体のセンターラインとコイルの軸心との位置が移動調整できるように磁石体又はコイルが相対的に移動可能に形成されている電子天びん。
【請求項2】
磁石体とコイルの相対位置を移動させたときにその移動量を認識する識別手段を備えている請求項1に記載の電子天びん。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−189330(P2006−189330A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1585(P2005−1585)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)