説明

電子材料製造工程用パーティクル固着防止液

【課題】 砥粒、研磨屑などのパーティクルの強固な付着を防止することが可能となる電子材料製造工程用パーティクル固着防止液、およびパーティクル固着防止液を用いた電子材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 有機還元剤および水を必須成分として含有するパーティクル固着防止液を用いる。有機還元剤としては、レダクトン類、フェノール類、糖類、チオール類などが挙げられ、好ましくはレダクトン類、フェノール類である。これらは2種以上を組み合わせて用いることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造工程中に砥粒による研磨工程と洗浄工程を含む電子材料の製造工程における砥粒や研磨屑などのパーティクルの固着防止液、およびこの固着防止液を用いた電子材料の製造方法に関する。
さらに詳しくは、研磨工程で使用される砥粒や、砥粒によって研磨された研磨屑等のパーティクルが、製造工程中で乾燥し基板上に強固に付着するのを防止するために液中に浸漬する際に用いるパーティクル固着防止液である。
【背景技術】
【0002】
電子材料、とりわけ磁気ディスクは、年々小型化、高容量化の一途をたどっており、磁気ヘッドの浮上量もますます小さくなってきている。そのため、磁気ディスク基板の製造中、研磨工程後で、砥粒や研磨屑等のパーティクルの残留が極力存在しない基板が求められている。また、表面粗さ、微少うねりの低減、およびスクラッチ、ピット等の表面欠陥の低減も求められている。
【0003】
磁気ディスク製造工程は、(1)平坦化された基板を作成する工程であるサブストレート工程と、(2)磁性層を基板表面に形成する工程(スパッタリング)であるメディア工程を含む。
これらのうち、サブストレート工程では、基板の平坦化のためにアルミナ、酸化セリウム、コロイダルシリカ等の砥粒を含むスラリーによる研磨を行い、その後、スラリーおよび発生した研磨屑等のパーティクルを通常、純水で濯ぎ流し(リンス)、その後さらに、リンスで取り除けなかったパーティクルを、アルカリ、キレート剤等を含んだ洗浄液を用いてブラシを用いたスクラブ洗浄や、超音波を用いた洗浄などをおこない、完全に除去する。
【0004】
サブストレート工程での最終洗浄の終了後、次のメディア工程では、基板上に均一に磁性層を形成する前に、ポリウレタン製、ポリエステル製等の不織布を使った研磨テープを用いて上記のサブストレート工程で研磨、洗浄した基板に押し当て、テープ研磨と呼ばれる精密な研磨をおこなう。この工程は、研磨テープと純水を用いて行うが、適宜、砥粒(ダイヤモンド、コロイダルシリカ等)や脂肪酸等の潤滑成分を水に配合して行われることがある。
この際、砥粒を併用することにより、基板をさらに研磨できる。しかし、研磨操作後の基板には砥粒と基板の研磨屑(ガラス屑、ニッケル−リンメッキを施されたアルミ基板のメッキ層の研磨屑)が残留するため、その後にこれらを純水で濯ぎ流し、その後、濯ぎ流しきれずに残存したパーティクルを、前述したテープ研磨と同様、テープと洗浄液を用いて基板に押し当ててテープ洗浄と呼ばれる洗浄工程が行われる。
【0005】
このテープ洗浄によって基板上のパーティクルの大部分は除去されるが、わずかに残留したパーティクルを、テープ洗浄後にブラシや超音波を用いて最後の洗浄が通常行われ、その際に用いる洗浄剤の高性能化が検討されている(先行技術文献−1)。
しかしながら、テープ洗浄と最終洗浄ではそれぞれ洗浄設備、装置が別個であるため、洗浄設備、装置の稼動状況によって、テープ洗浄後の基板をすぐに最終洗浄工程に移行できず、通常5時間〜10時間程度待機せざるを得ない場合がある。
テープ洗浄後の基板を放置して乾燥させてしまうと、基板上に残留したパーティクルが基板に強固に付着し、最終洗浄では容易に除去できなくなり、その結果、再度研磨する必要が生じるため、テープ洗浄後の基板は、通常、純水に完全に浸漬させた状態で待機させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献−1】特開2009−280802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、純水に浸漬させて乾燥を防いでもなお、パーティクルが徐々に基板に対して強固に付着することを防ぐことが十分でなく、最終洗浄で完全にパーティクルを除去することができず、近年ますますの高記録密度化に対応できていないのが現状である。
これらのことから、砥粒、研磨屑などのパーティクルの強固な付着を防止することが可能となる電子材料製造工程用パーティクル固着防止液、およびパーティクル固着防止液を用いた電子材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、テープ洗浄後の基板を還元剤が含有する固着防止液に浸漬させた場合、砥粒や研磨屑等のパーティクルの基板に対する強固な付着が抑えられ、その結果、清浄度の高い基板を作成できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、有機還元剤(A)と水を必須成分として含む電子材料製造工程用パーティクル固着防止液である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電子材料製造工程用パーティクル固着防止液および電子材料の製造方法は、磁気ディスク基板{特に磁気ディスク用ガラス基板、磁気ディスク用アルミニウム基板及びニッケル−リン(Ni−P)メッキを施された磁気ディスク用アルミニウム基板}等の製造工程で研磨が必要な電子材料の製造工程において問題となる、純水中での浸漬中にパーティクルが基板に対して強固に付着することを防止することに優れる。
そのため、高記録密度化で要求され、例えば、磁性膜を均一にスパッタリングするために要求される清浄度の高い電子材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明における電子材料とは、製造工程中に砥粒による研磨工程と洗浄工程を含む電子材料であれば特に限定するものではない。
例えば、(1)磁気ディスク用ガラス基板および表面がニッケル−リン(Ni−P)メッキされた磁気ディスク用アルミ基板等の磁気ディスク用基板、(2)半導体素子及びシリコンウェハ等用の半導体基板、(3)SiC基板、GaAs基板、GaN基板、AlGaAs基板等の化合物半導体基板、(4)LED等用のサファイヤ基板等が挙げられる。
【0011】
これらのうち、生産効率向上の観点で好ましくは磁気ディスク用基板であり、具体的に磁気ディスク用ガラス基板、および表面がニッケル−リン(Ni−P)メッキされた磁気ディスク用アルミ基板である。
【0012】
本発明における電子材料中間体とは、製造工程中の電子材料を表し、具体的には、研磨された後のガラス基板、研磨された後のNi−Pメッキされたアルミ基板等、もしくは、乾燥前のガラスサブストレート基板、乾燥前のアルミサブストレート基板のことを指す。
【0013】
本発明のパーティクル固着防止液は、有機還元剤(A)および水を必須成分として含むことを特徴とする。
本発明における有機還元剤とは、分子内に炭素原子を有し、酸化還元反応において他の化学種(例えば、磁気ディスク用ガラス基板、磁気ディスク用アルミ基板、ガラス屑、ニッケル−リンメッキを施されたアルミ基板のメッキ層の研磨屑、アルミナ、酸化セリウム、コロイダルシリカ等の砥粒などが有する金属又は金属イオン)を還元させる分子のことを指し、レダクトン類、フェノール類、糖類、チオール類などが挙げられ、好ましくはレダクトン類、フェノール類である。これらは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0014】
レダクトン類(A1)としては、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、エリソルビン酸及びこれらの塩等が挙げられる。
【0015】
フェノール類(A2)としては、ピロカテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン及びピロガロール等の多価フェノール系化合物(A21);2−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ジカルボキシフェノール、及び2,4,6−トリカルボキシフェノール等のカルボキシル基を含むフェノール系化合物及びこれらの塩(A22);没食子酸等のカルボキシル基を含む多価フェノール化合物及びこれらの塩(A23);4−アミノフェノール等のアミノ基を含むフェノール系化合物(A24)等及びこれらの塩等が挙げられる。
上記(A1)及び(A2)の塩としては、例えばアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩もしくは4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0016】
本発明の固着防止液の使用時における有機還元剤(A)の濃度は、有機還元剤と水の合計に基づき0.001〜5重量%である。
【0017】
本発明のパーティクル固着防止液の別の必須成分である水は、電気抵抗率が18MΩ・cm以上の純水が好ましく、イオン交換水、逆浸透水(RO水)、蒸留水などが挙げられる。
【0018】
本発明のもう1つの実施態様は、洗浄工程を必要とする電子材料の製造方法において、洗浄工程の前で、上記の固着防止液中に電子材料中間体を浸漬する工程を含む電子材料の製造方法である。
【0019】
本発明のパーティクル固着防止液を用いた磁気ディスク用アルミ基板の製造工程(一部)の一例を以下に示す。
(1)サブストレート工程後のニッケル−リンめっきされたアルミ基板をテクスチャー装置にセットし、コロイダルシリカと研磨用テープで研磨する。
(2)研磨後のアルミ基板を純水の流水で軽く濯ぎ流す。
(3)上記アルミ基板にテープ洗浄用の洗浄液を加えながら、前述のテクスチャー装置でテープ洗浄をおこなう。
(4)洗浄後のアルミ基板を純水の流水で軽く濯ぎ流す。
(5)テクスチャー装置からアルミ基板を取り外し、本発明のパーティクル固着防止液が入った容器に数時間浸漬する。
(6)浸漬後、アルミ基板を純水の流水で軽く濯ぎ流す。
(7)上記のアルミ基板をスクラブ洗浄装置にセットし、洗浄する。
(8)洗浄後、純水でリンスした後、スピン乾燥で乾燥させる。
(9)乾燥したアルミ基板を、磁性層形成工程へ移送する。
【0020】
本発明のパーティクル固着防止液は、研磨直後の電子材料中間体を、洗浄工程に移行する前に浸漬する液として使用しても良い。
【0021】
本発明の電子材料の製造方法で製造される電子材料は、前述したように、洗浄工程を必要とする電子材料であれば特に限定するものではなく、例えば、磁気ディスク基板、シリコン半導体基板、化合物半導体基板、サファイヤ基板等が挙げられる。
これらのうち、生産効率向上の観点で好ましくは磁気ディスク用基板であり、具体的に磁気ディスク用ガラス基板、および表面がニッケル−リン(Ni−P)メッキされた磁気ディスク用アルミ基板である。
【実施例】
【0022】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、部は重量部を示す。
【0023】
実施例1〜3、および比較例1〜3
表1に記載の組成となるように、各成分を配合し、25℃、マグネチックスターラーで40rpm、20分間攪拌して、本発明の固着防止液および比較のための処理液を得た。
なお、電気抵抗率が18MΩ・cm以上の純水のみを比較例3のブランクとした。
【0024】
【表1】

【0025】
固着防止液の固着防止性の性能評価試験は下記の方法で行った。
なお、本評価は大気からの汚染を防ぐため、クラス1,000(FED−STD−209D、米国連邦規格、1988年)のクリーンルーム内で実施した。
【0026】
<固着防止性評価−1>(コロイダルシリカ砥粒によるアルミ基板又はガラス基板への固着防止性)
(1)実施例1〜3の固着防止液、比較例1〜3の処理液を50倍希釈し、固着防止評価用の試験液を得た。比較例3は純水をそのまま試験液とした。
(2)市販のコロイダルシリカスラリー(フジミインコーポレイテッド製「COMPOL80」粒径約80nm)(30重量%)100mLを純水で10倍に希釈し、研磨液を作成した。
(3)ポリアクリル酸ナトリウム塩0.6部、水酸化ナトリウム0.3部、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸2ナトリウム塩0.4部、純水1000部を配合してアルカリ性洗浄液を作成した。
【0027】
(4−1)テクスチャー装置(ナノファクター社製)に、市販の3.5インチのニッケル−リンめっきされたアルミ基板、又はガラス基板と、市販のポリエステル製の研磨テープをセットした。
(4−2)アルミ基板又はガラス基板を600rpmで回転させ、120回/分で揺動するように設定した。また、研磨テープの送り速度が75mm/分となるように設定した。
(4−3)基板をテープを用いた洗浄を行う前に、テクスチャー装置のノズルから(2)の研磨液をアルミ基板又はガラス基板上に2mL加えた。
さらに、アルミ基板又はガラス基板を研磨テープで98mNの押圧力で挟んだ。
(4−4)テクスチャー装置を10秒間作動させて基板表面を研磨加工した。
(5)アルミ基板又はガラス基板から研磨テープを外し、アルミ基板を純水の流水で10秒間軽く濯ぎ流し、研磨後基板とした。
【0028】
(6−1)研磨テープでアルミ基板又はガラス基板を再び2.0kgfの圧力で挟んだ。
(6−2)(3)で作成した洗浄液を1mL/秒の速度で連続滴下しながら、前述した条件と同条件で回転、揺動させて、10秒間テープ洗浄した。
(7)上記のテープ洗浄後のアルミ基板又はガラス基板を純水で30秒濯ぎ流して、固着防止試験用の基板を得た。
【0029】
(8)(1)で作成した試験液が1000mL入ったビーカーに、上記アルミ基板又はガラス基板を縦方向に浸漬した。
(9)6時間浸漬後、アルミ基板又はガラス基板をビーカーから引き上げ、純水の流水で10秒間軽く濯ぎ流した後、窒素で乾燥させ固着防止性評価用基板を作成した。
(10)表面検査装置(ビジョンサイテック社製、MicroMax VMX−6100SK)を用いてそれぞれの評価用基板の表面を観察し、基板上のパーティクル数を数えた。
なお、ブランクである比較例3のアルミ基板上パーティクル数、ガラス基板上パーティクル数は共に50個であった。
【0030】
それぞれの基板上のパーティクル数をブランク(比較例3)の基板上パーティクル数と比較し、下記の判断基準に従い、パーティクルが基板に付着することを抑える効果を評価し、判定した。
結果を表1に示す。
5:ブランクの10%未満
4:10%〜30%未満
3:30%〜50%未満
2:50%〜80%未満
1:80%以上
【0031】
<固着防止性評価−2>(コロイダルシリカ砥粒によるアルミ基板およびガラス基板への研磨直後における固着防止性)
(1)市販のコロイダルシリカスラリー(フジミインコーポレイテッド製「COMPOL80」粒径約80nm)(30重量%)を純水で10倍に希釈し、試験用のスラリー液を1000mL準備した。
(2−1)基板研磨装置(ナノファクター社製)に、市販の3.5インチのニッケル−リンめっきされたアルミ基板、又はガラス基板と、市販のポリウレタンパッドをセットした。
(2−2)(1)で作成したスラリー液を20mL/分でノズルから加えながら研磨パッドを20rpmで回転させ、荷重30g/cmで10分間基板を研磨し、研磨後基板を作成した。
(3)研磨後基板を試験液が1000mL入ったビーカーに、上記アルミ基板及びガラス基板を縦方向に浸漬した。
(4)浸漬6時間後、12時間後にアルミ基板又はガラス基板をビーカーから引き上げ、純水の流水で10秒間軽く濯ぎ流した後、窒素で乾燥させ固着防止性評価用基板を作成した。
(5)表面検査装置(ビジョンサイテック社製、MicroMax VMX−6100SK)を用いてそれぞれの評価用基板の表面を観察し、基板上のパーティクル数を数えた。
なお、ブランクである比較例3のアルミ基板上パーティクル数、ガラス基板上パーティクル数は共に6時間浸漬後では800個、12時間浸漬後では1000個であった。
【0032】
それぞれの基板上のパーティクル数をブランク(比較例3)の基板上パーティクル数と比較し、下記の判断基準に従い、パーティクルが基板に付着することを抑える効果を評価し、判定した。
結果を表1に示す。
5:ブランクの10%未満
4:10%〜30%未満
3:30%〜50%未満
2:50%〜80%未満
1:80%以上
【0033】
表1より、実施例1〜3の固着防止液は、アルミ基板上およびガラス基板上のパーティクル数がブランク(比較例3)と比較して極めて少なく(10%未満)、浸漬中のパーティクルの固着を抑えることが高いことがわかる。
一方、比較例1および2の処理液は固着防止効果が不十分であり、パーティクルの付着数はブランクより幾分低下するが、目標到達レベルは不十分である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の電子材料製造工程用パーティクル固着防止液は、基板を乾燥させないようにするために水中で浸漬して保管する時に、パーティクルの基板への強固な付着量を従来の固着防止液より大幅に低減することができるため、製造工程中に研磨を必要とする電子材料、特にハードディスク等の磁気ディスク基板製造工程におけるパーティクル固着防止液として使用することができる。また、本発明の電子材料の製造方法は、残存パーティクルに対して特に高い洗浄レベルが要求されるハードディスク等の磁気ディスク用基板や、半導体用基板に使用することができ、歩留まりを向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機還元剤(A)および水を必須成分として含むことを特徴とする電子材料製造工程用パーティクル固着防止液。
【請求項2】
該有機還元剤(A)がレダクトン類(A1)及び/またはフェノール類(A2)である請求項1または2に記載の固着防止液。
【請求項3】
該有機還元剤(A)が、アスコルビン酸、没食子酸、およびこれらの塩からなる群より選ばれる1種以上である請求項1記載の固着防止液。
【請求項4】
該電子材料が磁気ディスク基板である請求項1〜3のいずれか記載の固着防止液。
【請求項5】
洗浄工程を必要とする電子材料の製造方法において、洗浄工程の前に、該請求項1〜4のいずれか記載の固着防止液中に電子材料中間体を浸漬する工程を含むことを特徴とする電子材料の製造方法。