説明

電子検出装置及び走査型電子顕微鏡

電子検出装置は、電子銃から放出される電子ビームを通過させる光軸上に開口を有した1つのシンチレータ31と、シンチレータと接合され、光軸に対称に配置された複数の同形のホトガイド22と、各ホトガイド22の光軸側と対向する側に接続され、ホトガイド22を介して受光したシンチレータ31により発光された光を電気信号に変換する光電子増倍管とを有する。各ホトガイド22はシンチレータ31を光軸対称に等分に分割するように接合され、各ホトガイド22のシンチレータ31と接合する部分の位置及び面積は各ホトガイド22で同一である。複数のホトガイド22による前記シンチレータ31の分割数は、少なくとも2以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子検出装置及び走査型電子顕微鏡に関し、特に、低真空環境下においても高精度に試料から放出される電子を検出することが可能な電子検出装置及び走査型電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程において、電子顕微鏡等の電子ビーム装置による試料の観察や、パターンの線幅等の測定が行われている。電子ビーム装置による試料の観察や測定では、観察する部分に電子ビームを照射させながら走査して、2次電子等の電子量を輝度に変換して表示装置に画像として表示している。
【0003】
電子ビームからエネルギーを供与された試料から放出される2次電子の発生領域は、入射した電子ビームの拡散領域とほぼ同じ広がりを持つ。この2次電子のエネルギーは低く、試料表面から10nm以内程度で発生した2次電子が2次電子検出器で検出される。このような2次電子を検出する装置は、シンチレータや光電子増倍管で基本構成されており、その形態は種々検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、2次電子等の試料から放出される放出電子を検出する検出器が記載されている。この検出器は、電子源と対物レンズの間に配置され、試料から放出された電子を反射させる反射板が設けられ、反射板と対向してメッシュ状の電極が設けられている。この電極を軸対称に分割して、それぞれのセグメントから2次電子の情報を取得するようにしている。
【0005】
また、特許文献2には、1次電子ビームが通過する光軸上を中心に空孔を備えた検出器を1つ使用した装置が記載されている。
【0006】
上記したように、試料からの2次電子を検出して試料表面の形状を表示することが可能である。特に、特許文献1に記載された2次電子検出器のように検出器を複数使用することにより、2次電子が放出される方向の情報を取得でき、試料表面が平面なのか、傾斜を有しているか等を判定することも可能となる。
【0007】
このような2次電子を分割して検出する他の方法として、マイクロチャンネルプレート(MCP)を利用した検出器が広く使用されている。マイクロチャンネルプレートは、ミクロンサイズの円筒形の電子増倍素子を、隣接して配置したプレートである。プレートの表面と裏面は金属でコーティングされ、それぞれ入力側電極(陰極)、出力側電極(陽極)となっている。電極間に電圧を印加すると、入力側電極に入射した電子はチャンネル内壁に衝突し、複数の2次電子を放出する。これらの2次電子はチャンネル内の電界により加速され、チャンネルの内壁への衝突を繰り返して、増倍された電子流が出力側電極で取り出され、増幅された電気信号となる。
【0008】
一方、走査型電子顕微鏡を用いた試料の観察やパターンの線幅等の測定を行う際に、電子ビームを照射するが、この電子ビームの照射によって試料表面が帯電する現象が発生する。すなわち、試料に入射する荷電粒子と放出される荷電粒子が有する電荷の差によって、照射面が正または負に帯電する。試料表面に帯電が発生すると、放出された2次電子が加速されたり、試料に引き戻されたりして2次電子放出の効率が変化する。その結果、試料表面の画像の質が不安定になるという問題がある。
このような問題に対して、試料上の帯電を防止したりするために、装置内にオゾンガスや窒素ガスを導入することがある。これらオゾンガス等の導入により、装置内部の真空度は低下してしまう。
【0009】
上記したマイクロチャンネルプレートは、高真空の環境下で使用することが前提となっており、低真空環境下では光電子増倍管にノイズが混入するなどのために正確な測定をすることが困難となってしまう。
【0010】
なお、特許文献1に記載された検出器では、4つの2次電子検出器に使用されるそれぞれのシンチレータの感度が同一とは限らない。また、反射板を使用した場合には、すべての2次電子を2次電子検出器が捕集できるとは限らない。このように、試料から放出された2次電子を確実に捕集することができず、試料表面を忠実に再現できないという不都合が発生するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6667478号明細書
【特許文献2】特開昭63−110543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑みなされたものであり、オゾンガス等が導入された低真空環境下であっても試料表面状態を忠実に再現することを可能にする電子検出装置及び走査型電子顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した課題は、電子銃から放出される電子ビームを通過させる光軸上に開口を有した1つのシンチレータと、前記シンチレータと接合され、光軸に対称に配置された複数の同形のホトガイドと、前記各ホトガイドの光軸側と対向する側に接続され、当該ホトガイドを介して受光した前記シンチレータにより発光された光を電気信号に変換する光電子増倍管と、を有し、前記各ホトガイドは前記シンチレータを光軸対称に等分に分割するように接合され、当該各ホトガイドの前記シンチレータと接合する部分の位置及び面積は前記各ホトガイドで同一であることを特徴とする電子検出装置により解決する。
【0014】
上記した電子検出装置において、前記複数のホトガイドによる前記シンチレータの分割数は、少なくとも2以上であるようにしてもよく、前記各ホトガイドは、前記シンチレータと対向する対向面は前記光軸に向って対向間隔が狭くなるテーパー状であり、当該対向面は光を反射する反射面を構成するようにしてもよく、前記各ホトガイドが相互に接触する接触面は光を反射する反射面を構成するようにしてもよい。
【0015】
本発明では、電子銃から放出された電子ビームが試料に照射されることにより試料から放出される2次電子や反射電子の放出電子を検出するための装置として、シンチレータ、ホトガイド、及び光電子増倍管を主構成としている。この装置において、シンチレータは、電子ビームが通過する光軸上の開口を有し、光軸に垂直方向に軸対称な1枚で構成されている。このシンチレータとホトガイドとが接合され、ホトガイドは光軸対称に複数(例えば4つ)配置されている。このような構成により、酸素(O2)ガスやオゾン(O3)ガスが導入された低真空環境下であっても、試料から放出される放出電子をシンチレータで受けてホトガイドにより分割されるため、方向性を含めた放出電子の検出が可能になり、試料表面を精度良く検出することが可能となる。
【0016】
また、上記した課題は、前記電子検出装置を備えた走査型電子顕微鏡により解決する。この走査型電子顕微鏡において、更に、前記光電子増倍管からの出力電気信号を受信して、分割された領域毎の2次電子検出値を算出する制御部を有し、前記制御部は、予めパターンの傾斜角度が既知の試料を用いて測定された、分割領域毎の2次電子検出値の比率と照射位置の傾斜角度との関係を示すデータを参照して、前記電子ビームが照射された試料上の点の傾斜角度を判定するようにしてもよく、更に、表示部を有し、前記制御部は、前記光電子増倍管からの出力電気信号を受信して、電子ビームが照射された試料上の点の2次電子検出値を輝度信号に変換して前記表示部に画像を表示するとともに、当該試料上の点の傾斜角度の情報を前記表示部に表示するようにしてもよい。
【0017】
本発明では、電子ビームが照射された試料の位置から発生する2次電子検出値の分割領域毎の比率を算出して、予め測定された、分割領域毎の2次電子検出値の比率と照射位置の傾斜角度との関係を基に、傾斜角度を判定している。電子ビーム照射点の形状情報を反映した2次電子がシンチレータに捕集されるため、分割領域毎の2次電子検出値の比率と傾斜角度との関係を正確に算出することができる。これにより、分割された領域毎の2次電子の検出量の比率を基にして、パターンがどの方向にどの程度傾斜しているかを容易かつ正確に判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態で使用される走査型電子顕微鏡の概略構成図である。
【図2】図1に係る走査型電子顕微鏡における2次電子等の放出電子を検出する電子検出装置を示す断面図である。
【図3】図3(a)〜(c)は、ホトガイドを4個使用した電子検出装置の構成図である。
【図4】図4(a)及び(b)は、試料から発生する2次電子の射出状況を示す模式図である。
【図5】図5(a)〜(g)は、2次電子分布と傾斜角との関係を説明する図である。
【図6】図6(a)〜(c)は、電子検出装置の他の例を示す図である。
【図7】パターン形状観察方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
(走査型電子顕微鏡の構成)
図1は、本実施形態に係る走査型電子顕微鏡100の構成図である。この走査型電子顕微鏡100は、電子鏡筒部10と、信号処理部12と、表示部13と、記憶部14と、電子鏡筒部10、信号処理部12、表示部13、及び記憶部14の各部を制御する制御部11とに大別される。
【0021】
電子鏡筒部10は、電子銃1と、コンデンサレンズ2と、偏向コイル3と、対物レンズ4と、電子検出器(電子検出装置)20を有している。また、試料7はステージ5上に載置され、ステージ5を移動させるためのモーター(不図示)、電子鏡筒内を所定の減圧雰囲気に保持するための真空排気ポンプ(不図示)、及び、試料上の帯電を防止するためにオゾンガス等を導入するためのガス導入器(不図示)が電子鏡筒部10に接続されている。
【0022】
電子銃1から照射された電子ビーム9は、コンデンサレンズ2、偏向コイル3、対物レンズ4を通して、ステージ5上の試料7に照射するようになっている。
【0023】
電子ビーム9が照射されて試料7から出た2次電子又は反射電子の量は、偏向コイル3と対物レンズ4の間に配置された電子検出器20によって検出され、信号処理部12においてその検出量がAD変換器によってデジタル量に変換され、さらに輝度信号に変換されて表示部13で表示される。偏向コイル3の電子偏向量と表示部13の画像スキャン量は制御部11によって制御される。
【0024】
制御部11はマイクロコンピュータで構成され、試料7上に形成されるパターンの幅等の測長を実行するためのプログラムが格納されている。また、制御部11は電子ビーム9の加速電圧を決定し、電気的に接続されている電子銃1に対して加速電圧を印加する。さらに、予め測定されて記憶部14に格納されている、パターンの傾斜と検出される2次電子分布との関係を基に、パターンの形状(傾斜)の判定処理を行う。
【0025】
(電子検出器の構成)
次に、電子検出器の詳細構成について、図2及び図3を参照しながら説明する。本実施形態では、(1)低真空状態でも使用可能であり、(2)2次電子の放出方向が特定でき、さらに、(3)パターンの傾斜を容易に検出できる電子検出器について検討した。
【0026】
高真空環境下であれば、マイクロチャンネルプレートを使用することによって、2次電子の放出方向を特定することが可能である。すなわち、試料の上方に光軸を中心として円環上にマイクロチャンネルプレートを配置し、所要の分割数に対応させた数の電極をマイクロチャンネルプレートの出力側に接続することによって2次電子の放出方向を検出することが可能である。
【0027】
低真空環境下においてマイクロチャンネルプレートと同様に2次電子の放出方向を検出可能にするためには、複数の2次電子検出器を使用し、光軸に対称に配置することによって実現可能である。ただし、この場合は、それぞれの2次電子検出器で使用されるシンチレータ等の性能が同一とは限らず、また2次電子検出器の配置によっては、試料から放出されるすべての2次電子を捕集できるとは限らない。
【0028】
そこで、性能の差が生じることのないように一枚のシンチレータを使用し、光に変換した後で光を分割することによって、2次電子の放出方向を的確に検出可能にすることに着目した。
【0029】
図2は、電子ビーム9を照射することによって試料7から放出される2次電子や反射電子(以後、これらを総称して放出電子9sと呼ぶ)を検出する電子検出器20の構成を示した図である。図2は、電子鏡筒部10に設置された電子検出器20の断面図を模式的に示している。
【0030】
電子検出器20は、シンチレータによって捕集した2次電子を対応する光に変換する光変換部21と、変換された光を光軸に対称に分割する複数のホトガイド22と、各ホトガイド22によって伝達される光を電気信号に変換する光電子増倍管(PMT)23と、変換された電気信号を増幅する増幅器24で基本構成される。光電子像倍管23は電子鏡筒10の外壁部27を貫通する遮光ケース25に覆われて電子鏡筒10の外部に配置される増幅器24と接続されている。遮光ケース25と電子鏡筒10との間、及び遮光ケース25と光電子増倍管23との間は真空シール26で接続されている。
【0031】
図3は、4分割構成の電子検出器20におけるホトガイド22の構成図を示している。図3(a)は電子検出器20のホトガイド22の平面図、図3(b)は図3(a)のI−I線に沿った断面図、図3(c)は4分割構成の電子検出器20のうちの一つのホトガイド22の斜視図を示している。
【0032】
図3(a)に示すように4つのホトガイド22a〜22dは光軸を対象にして十字状に配置されている。シンチレータ31に隣接してこれらのホトガイド22a〜22dが配置されていることにより、4つの電子検出器が配置されたのと同等の構成となっている。すなわち、電子検出器22aは試料7からの放出電子9sをシンチレータ31のAの領域で捕集し、電子検出器22bは試料7からの放出電子9sをシンチレータ31のCの領域で捕集する。電子検出器22c及び22dについても同様である。
【0033】
図3(a)に示すように、シンチレータ31は円型であり、その中央部に電子銃1から放出された電子ビーム9が通過する円型開口を有している。シンチレータ31の電子銃1側にはホトガイド22が隣接して配置されている。このシンチレータ31は、試料7から放出される放出電子のエネルギーを吸収して蛍光を発する物質で構成されている。例えば、蛍光物質は、蛍光の色が青色で、残光時間が数μs以下の物質を使用する。
【0034】
ホトガイド22は、例えばガラスやプラスチックで形成され、一端はシンチレータが接するように配置され、他端には光電子増倍管23が配置される。ホトガイド22は、シンチレータ31で出力される光の分割数に応じた数だけ用意され、シンチレータ31側で他のホトガイド22と隙間なく隣接して配置される。各ホトガイド22のシンチレータ31と接する部分は光を遮らないようにしている。ホトガイド22とシンチレータ31とは、例えば、オプティカルセメント等の光学素子用の接着剤で接合しても良い。
【0035】
また、シンチレータ31と接合された面の対向面32は、光軸に向って厚さが薄くなるようなテーパー状に形成されている。このテーパー状に形成された部分には光を反射するようにアルミニウムなどでコーティングされている。なお、シンチレータ31と接合される面以外の部分をすべて反射体でコーティングするようにしてもよい。
【0036】
光電子増倍管23は、光電管に電子増倍部を組み込んだ構成をしており、微弱な光を検出し電気信号に変換して増幅する。光電子増倍管23は、光を電子に変換するための光電面と、その電子を増幅する増幅部から構成される。
【0037】
このように構成された電子検出器20では、電子ビームの照射により試料7の表面から放出される放出電子9sをシンチレータ31に捕集し、シンチレータ31によって可視光に変換される。エネルギーの低い2次電子(通常、数10eV)を効率よく集めるために、シンチレータ31には試料7に対して約10kVの正電位が印加される。変換された可視光はシンチレータ31に接続された各ホトガイド22a〜22dを通して各ホトガイド22a〜22dに接続された光電子増倍管23に導かれる。光電子増倍管23において可視光は電気信号に変換され、増幅器24でその電気信号が増幅される。2次電子像は電子ビームで試料表面上を走査し、それに同期して2次電子の強度を輝点列として表示部13のディスプレイに表示することによって得られる。
【0038】
次に、上記した電子検出器20によって、2次電子の放出方向の情報を含めた検出が可能となり、高精度に試料表面の形状を検出することが可能となる理由について説明する。
【0039】
図4は、試料7から発生する2次電子の射出状況を示している。2次電子は、1次電子(電子ビーム9)の試料7への照射によって放出されるが、この2次電子の放出量は試料面の角度によって異なる。図4(a)に示すように、試料7に形成されたパターンの水平面41aに電子ビーム9が照射されると、2次電子の放出分布42aが水平面41aに垂直方向に近い方向に最も多く放出される分布となる。また、傾斜面41bに電子ビーム9が照射されると、多少のずれは生じるが、2次電子の放出分布42bに示すように、傾斜面41bに対して垂直方向に近い方向に最も多く2次電子が放出される分布となる。
【0040】
図4(b)は、試料7の傾斜面に応じて放出される2次電子が方向性を有することを示している。すなわち、図4(a)の水平面41aに電子ビームが照射された場合は、上方に射出される電子43が一番多く、図4(a)の傾斜面41bに電子ビームが照射された場合は、右方に射出される電子45が一番多く分布する。また、傾斜面41bと反対の傾斜面に電子ビームが照射された場合は、左方に射出される電子44が一番多く分布する。これらの上方、右方、左方の分布状態を検出できれば、平面からの放出電子なのか、傾斜面からの放出電子なのかを判別することが可能となる。
【0041】
本実施形態の電子検出器20では、試料7の上方に、光軸を中心として円環状にシンチレータ31が設けられている。このシンチレータ31にエネルギーの小さい2次電子を捕集するための電圧を印加することにより、試料7に電子ビームを照射することにより発生する2次電子を捕集することが可能となる。
【0042】
シンチレータ31により変換された光は、4つのホトガイド22a〜22dによって、それぞれのPMT23に導かれ、2次電子量に対応する電流等に変換される。これらの4つに分割された領域からの電流量を合計することによって、照射された試料7上の点における2次電子量を算出することができる。このように、2次電子を収集して電流量に変換することができるため、試料7の表面の形状情報を忠実に検出することが可能となる。
【0043】
さらに、4分割された領域のそれぞれの電流量の比率を基にして、試料7の表面の傾き(平面であるか、どの方向にどの程度傾いているか)を検出することも可能となる。以下に、このような傾斜角度の認識方法について説明する。
【0044】
上記したように、電子ビームの照射によって2次電子が放出されるとき、試料7の表面の傾斜角度と放出される2次電子の分布との間には相関関係を有している。この2次電子がシンチレータ31に捕集される際には、2次電子の発生分布に応じてシンチレータ31と衝突する位置が決定される。従って、分割された各検出器において出力される検出値の比率と、2次電子が放出された位置におけるパターンの傾きとの間に相関関係を有することになる。
【0045】
図5(a)〜(g)は、2次電子検出量とパターンの傾きとの関係を説明する図である。図5(a)〜(e)に示すように、予めパターンの傾斜角度(α)が既知の校正試料を用意し、その試料に電子ビーム9を照射して2次電子を発生させ、電子検出器で検出量を測定する。その検出量から、各分割領域の比率(%)を算出して2次電子分布‐傾斜角度対比テーブルを作成し、記憶部14に格納しておく。
【0046】
図5(f)は、図3(a)〜(c)で説明した電子検出器20のうちのシンチレータ31を示しており、4つのホトガイド22a〜22dが接合されることにより、4つの分割領域A〜Dに分割された状態を示している。また、図5(g)は、所定の照射位置における2次電子分布‐傾斜角度対比テーブルの一例を示している。
【0047】
例えば、図5(a)の試料7のように、傾きが0度(平面)のときは、分割領域Aに対応する2次電子の検出量Ia、分割領域Bに対応する2次電子の検出量Ib,分割領域Cに対応する2次電子の検出量Ic,及び分割領域Dに対応する2次電子の検出量Idがすべて同一であれば、その比率(%)は、25:25:25:25と算出される。同様に、例えば図5(b)のパターンのように、45度の立ち上がり傾斜のときは、50:20:10:20と算出される。
【0048】
この値を参照して、電子ビームが照射された位置の傾斜角度を容易に検出することが可能となる。
【0049】
なお、傾斜角度が同一であっても、電子ビームが照射される位置、物質等によってシンチレータ31に捕集される2次電子の位置、検出量がずれることが考えられる。その場合には、上記のテーブルを使用してパターンの傾斜を正確に検出することができない。よって、照射位置を考慮したテーブルを作成しておく。例えば、上記の値を中心位置(0,0)における値とし、同一のパターンの傾斜を所定の位置(X1,Y1)に移動し、その位置における2次電子の分布を測定する。中心位置における分布及び所定位置における分布から、その間の任意の位置における分布を算出する。そして、任意の位置におけるテーブルを作成し、記憶部14に格納しておく。中心位置における値と上記の所定の位置における値を記憶部14に格納し、その間の任意の位置における値は、測定毎に算出するようにしてもよい。
【0050】
以上説明したように、本実施形態では、電子銃1から放出された電子ビーム9が試料7に照射されることにより試料7から放出される2次電子や反射電子の放出電子を検出するための装置として、シンチレータ31、ホトガイド22、及び光電子増倍管23を主構成としている。この装置において、シンチレータ31は、電子ビーム9が通過する光軸上の開口を有し、光軸に垂直方向に軸対称な1枚で構成されている。このシンチレータ31とホトガイド22とが接合され、ホトガイド22は光軸対称に複数(例えば4つ)配置されている。このような構成により、O2やO3ガスが導入された低真空環境下であっても、試料から放出されるすべての電子をシンチレータで受けてホトガイドにより分割されるため、方向性を含めた放出電子の検出が可能になり、試料表面を精度良く検出することが可能となる。また、複数のホトガイド間において、ホトガイドが相互に接触する部分はそれぞれのホトガイドの内側に光が反射するように反射体が設けられているため、クロストークが発生せず、各領域の2次電子量を高精度に検出することが可能となる。
【0051】
また、本実施形態の走査型電子顕微鏡では、電子ビームが照射された試料の位置から発生する2次電子検出値の分割領域毎の比率を算出して、予め測定された、分割領域毎の2次電子検出値の比率と照射位置の傾斜角度との関係を基に、傾斜角度を判定している。電子ビーム照射点の形状情報を反映した2次電子がシンチレータに捕集されるため、分割領域毎の2次電子検出値の比率と傾斜角度との関係を正確に算出することができる。これにより、分割された領域毎の2次電子の検出量の比率を基にして、パターンがどの方向にどの程度傾斜しているかを容易かつ正確に判定することが可能となる。
【0052】
なお、本実施形態では、シンチレータ上に配置するホトガイドが4つの場合を例として説明したが、これに限らず、少なくとも2つ以上のホトガイドを軸対称に配置するようにしてもよい。
【0053】
図6(a)、(b)は、2つのホトガイドを使用した例を示し、図6(c)は3つのホトガイドを使用した例を示している。図6(a)は、電子検出器20のホトガイドの部分の平面図であり、図6(b)は、図6(a)のII−II線に沿った断面図である。
【0054】
図6(a)に示すように、シンチレータ31の上部にホトガイド61a、61bが配置され、シンチレータ31を2分割するようにホトガイド61a、61bの一部を接触している。図3の4つのホトガイドを使用した場合と同様に、シンチレータ31で変換された光を効率良く光電子増倍管に導くために、シンチレータ31と対向する面は光軸に向ってテーパー状に傾斜している。また、ホトガイド61a、61bの面のうち、シンチレータ31と接触する面以外は、反射体でコーティングされている。
【0055】
図6(a)及び(b)のシンチレータ31の左側で受けた放出電子は、シンチレータ31によって光に変換され、ホトガイド61aによって光電子増倍管に入力される。同様に、図6(a)及び(b)のシンチレータ31の右側で受けた放出電子は、シンチレータ31によって光に変換され、ホトガイド61bによって光電子増倍管に入力される。
【0056】
図6(c)は、シンチレータ31で変換された光を3分割してそれぞれホトガイド62a、62b、62cによって分割された光が光電子増倍管に導かれる。
【0057】
このように、2分割又は3分割した場合も、図3の電子検出器20のように4分割した場合と同様に、予め既知のパターンの形状と2次電子の分布に関するデータを求めておくことにより、パターンの傾斜角度の情報を容易に取得することが可能となる。また、ホトガイドの数を多くしてシンチレータの分割領域の数を多くすると、捕集した放出電子の方向の詳細な情報を取得することが可能となる。
【0058】
また、本実施形態では、低真空環境下で使用できることを目的とした2次電子検出器について説明したが、高真空環境下で使用できることはもちろんである。
【0059】
また、本実施形態の2次電子検出器ではホトガイドの形状として、シンチレータと接触する側がテーパー形状の四角柱を例として説明したが、これに限らず、シンチレータにより発光された光を光電子増倍管に導くことができるものであればよい。例えば、テーパー部を多段で構成してもよいし、光ファイバーを使用してもよい。
【0060】
(パターン形状観察方法)
次に、本実施形態の電子検出器20を備えた走査型電子顕微鏡100を用いて試料7上に形成されたパターンの形状を観察する方法について図6のフローチャートを用いて説明する。なお、本観察処理を行う前に、予め2次電子分布−傾斜角度対比テーブルは作成され、記憶部14に格納されているものとする。
【0061】
まず、ステップS11において、初期設定を行う。この初期設定では、シンチレータ31の分割領域の数を決定し、その数に応じた2次電子分布−傾斜角度対比テーブルを選定する。
【0062】
次のステップS12において、分割領域毎に2次電子検出値を取得する。試料7上に電子ビームが照射されて試料7からの放出電子をシンチレータ31で受け、シンチレータ31で光に変換される。シンチレータ31の分割領域毎に配置されたホトガイド及び光電子増倍管を介して、分割領域毎に検出された放出電子の信号出力値を取得する。
【0063】
次のステップS13において、照射点における2次電子検出値を算出し、輝度に変換して表示部13に表示する。ステップS12において分割領域毎の2次電子検出値を合計することにより、照射位置における2次電子検出値を算出する。さらに、この2次電子検出値に対応する輝度に変換してSEM画像を表示部13のディスプレイ装置に表示させる。
【0064】
次のステップS14において、分割領域毎の検出値を基に、傾斜角度の情報を取得する。ステップS12において取得した分割領域毎の2次電子検出値から、各領域の2次電子検出値の比率を算出する。算出された比率と記憶部14に格納されている2次電子分布−傾斜角対比テーブルを参照し、照射位置の傾斜角度情報を取得する。また、SEM画像の表示に対応させて、パターンの傾斜角度の情報をSEM画像表示させるようにしてもよい。
【0065】
以上、ステップS12からステップS14までの処理を電子ビームを照射して走査しながら行い、観察対象となる範囲が走査されれば、本処理を終了する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子銃から放出される電子ビームを通過させる光軸上に開口を有した1つのシンチレータと、
前記シンチレータと接合され、光軸に対称に配置された複数の同形のホトガイドと、
前記各ホトガイドの光軸側と対向する側に接続され、当該ホトガイドを介して受光した前記シンチレータにより発光された光を電気信号に変換する光電子増倍管と、を有し、
前記各ホトガイドは前記シンチレータを光軸対称に等分に分割するように接合され、当該各ホトガイドの前記シンチレータと接合する部分の位置及び面積は前記各ホトガイドで同一であることを特徴とする電子検出装置。
【請求項2】
前記複数のホトガイドによる前記シンチレータの分割数は、少なくとも2以上であることを特徴とする請求項1に記載の電子検出装置。
【請求項3】
前記各ホトガイドは、前記シンチレータと対向する対向面は前記光軸に向って対向間隔が狭くなるテーパー状であり、当該対向面は光を反射する反射面を構成することを特徴とする請求項1に記載の電子検出装置。
【請求項4】
前記各ホトガイドが相互に接触する接触面は光を反射する反射面を構成することを特徴とする請求項1に記載の電子検出装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電子検出装置を備えたことを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項6】
更に、前記光電子増倍管からの出力電気信号を受信して、分割された領域毎の2次電子検出値を算出する制御部を有し、
前記制御部は、予めパターンの傾斜角度が既知の試料を用いて測定された、分割領域毎の2次電子検出値の比率と照射位置の傾斜角度との関係を示すデータを参照して、前記電子ビームが照射された試料上の点の傾斜角度を判定することを特徴とする請求項5に記載の走査型電子顕微鏡。
【請求項7】
更に、表示部を有し、
前記制御部は、前記光電子増倍管からの出力電気信号を受信して、電子ビームが照射された試料上の点の2次電子検出値を輝度信号に変換して前記表示部に画像を表示するとともに、当該試料上の点の傾斜角度の情報を前記表示部に表示することを特徴とする請求項6に記載の走査型電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−500447(P2012−500447A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−546563(P2010−546563)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【国際出願番号】PCT/JP2008/002248
【国際公開番号】WO2010/021012
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(390005175)株式会社アドバンテスト (1,005)
【Fターム(参考)】