電子楽器用鍵盤装置
【課題】白鍵と黒鍵とのタッチ感の差を小さくし得る電子楽器用鍵盤装置を提供する。
【解決手段】白鍵1W、黒鍵1Bからなる複数の鍵と、鍵盤フレーム3と、鍵を回動可能に支持する支点部3W、3Bとを備えた鍵盤装置において、鍵盤装置における演奏者に近い方を前方としたときに、黒鍵支点部3Bは、白鍵支点部3Wより後方に位置しており、白鍵及び黒鍵の後端部上方には、鍵後部の上昇を規制する浮き止め部70W,70Bが位置している電子楽器用鍵盤装置。
【解決手段】白鍵1W、黒鍵1Bからなる複数の鍵と、鍵盤フレーム3と、鍵を回動可能に支持する支点部3W、3Bとを備えた鍵盤装置において、鍵盤装置における演奏者に近い方を前方としたときに、黒鍵支点部3Bは、白鍵支点部3Wより後方に位置しており、白鍵及び黒鍵の後端部上方には、鍵後部の上昇を規制する浮き止め部70W,70Bが位置している電子楽器用鍵盤装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子楽器用の鍵盤装置に関する。
【0002】
本明細書及び特許請求の範囲においては、電子楽器及びその鍵盤装置において、演奏者に近い方を前方、遠い方を後方と称することとする。
【背景技術】
【0003】
アコースティックピアノの鍵盤においては、黒鍵の支点部は白鍵の支点部より後方におかれている。これは、黒鍵が白鍵より短く後方に位置するため、黒鍵の支点部の位置を後方へずらすことにより、鍵の押圧箇所から支点部、及び支点部から駆動部位までの各距離の比を、白鍵と黒鍵との間で近づけタッチ感の差を小さくしているのである。
【0004】
しかしながら、電子鍵盤楽器においては、鍵盤装置の構造の簡易化を重視するため、鍵の支点部は、白鍵と黒鍵との区別することなく設けられているのが一般的であり、例えば、白鍵及び黒鍵の各後端部に設けられた突起を溝付き部材で受けて、回動可能としたもの(特許文献1)や、白鍵及び黒鍵の後端部に弾性片を設けて複数の鍵を弾性片で連結してと一体成形し、弾性片を鍵盤フレームに固定する構造のもの(特許文献2)等がある。その結果、電子鍵盤楽器においては、白鍵と黒鍵とのタッチ感の差が大きくなっており、正確な演奏や繊細な表現をする上での支障になっていた。
【特許文献1】特開平9−198036号公報
【特許文献2】実開平3−100894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題を解決すべく、白鍵と黒鍵とのタッチ感の差を小さくすることができる電子楽器用鍵盤装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記目的を達成するため、白鍵、黒鍵からなる複数の鍵と、前記複数の鍵を保持する鍵盤フレームと、該鍵盤フレーム上に設けられ鍵を上下方向に回動可能に支持する支点部とを備えた鍵盤装置において、前記支点部は、白鍵を支持する白鍵支点部と、黒鍵を支持する黒鍵支点部とからなり、鍵盤装置における演奏者に近い方を前方としたときに、鍵の後部に位置し、且つ前記黒鍵支点部は前記白鍵支点部より後方に位置しており、 白鍵及び黒鍵の後端部上方には、鍵後部の上昇を規制する浮き止め部が位置し前記鍵盤フレームに支持されていることを特徴とする電子楽器用鍵盤装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る電子楽器用鍵盤装置においては、鍵を上下方向に回動可能に支持する支点部が、白鍵を支持する白鍵支点部と、黒鍵を支持する黒鍵支点部とからなり、鍵盤装置における演奏者に近い方を前方としたときに、鍵の後部に位置し、且つ前記黒鍵支点部は前記白鍵支点部より後方に位置している。したがって、黒鍵先端が白鍵先端より後方に位置するのに応じる形で、黒鍵支点部が白鍵支点部より後方に位置することとなる。これにより、黒鍵と白鍵との回転半径の差が近くなり、指が鍵盤に接する押鍵箇所が押鍵時に描く軌道が黒鍵と白鍵とで相互に近くなり、白鍵と黒鍵との間でのタッチ感の差を小さくすることができる。
【0008】
しかも、白鍵及び黒鍵の後端部上方には、白鍵後部及び黒鍵後部の上昇を各々規制する浮き止め部が位置し前記鍵盤フレームに支持されている。駆動部位が鍵の先端付近に設けられた電子楽器用鍵盤装置においては、鍵後部の上方は、質量体やその連動部材が位置することなく開放された状態となっているため、大きな押鍵力が駆動部位より鍵の先端側に作用した際等に、鍵の後部が上方へ跳ね上がり、鍵の保持が不安定になるという問題が生じる。これに対し、本発明によれば、前記浮き止め部が設けられているので、鍵の後部の跳ね上がりが防止され、鍵の保持を安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図面中の同一又は同種の部分については、同じ番号を付して説明を省略することがある。
【0010】
図1は、本発明の第1実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部を概略的に示している。この鍵盤装置においては、複数の白鍵1W及び黒鍵1B、並びに各鍵と連動する質量体2が、鍵盤フレーム3に支持されている。
【0011】
白鍵1W及び黒鍵1Bは各々、後端部を支点部3W、3Bにより上下方向に回動可能に支持されており、先端から少し後退した位置に質量体の駆動部位4W、4Bを備えている。支点部3W、3Bは、鍵盤フレーム3から上方へ延びるピン31W、31Bを備えており、白鍵1W及び黒鍵1Bにはピンを通すための漏斗上の孔11W、11Bが形成され、ピン31W、31Bを受け入れて支持されている。
【0012】
黒鍵1Bの支点部3Bは、図示のように、白鍵1Wの支点部3Wより後方に位置している。白鍵に対し黒鍵は先端を後退させているので、これを考慮して、白鍵と黒鍵との間で生じる押鍵位置から支点部までの回転半径の相違を小さくし、白鍵と黒鍵との間でのタッチ感の差を小さくするように、支点部3Bと3Wとの位置が決められる。そのために、両支点部間の距離は、白鍵先端から黒鍵先端までの距離の20〜200%とするのが望ましい。この距離が、20%以下であると、黒鍵と白鍵との回転半径の差が大きくなり、白鍵と黒鍵との間でのタッチ感の差を小さくすることができない。また、この距離が、200%を越えると、黒鍵のが後方へ延びすぎて鍵盤装置の前後方向の寸法が大きくなる。
【0013】
以下の質量体2からスイッチ6及びタッチコントロール用センサまでの構成については、白鍵と黒鍵とで共通であるので、白鍵について説明し、黒鍵については説明を省略する。質量体2は、ロッド21の前方寄り部分に係合する軸32により鍵盤フレーム3に回動可能に支持され、前端部22を白鍵1Wの駆動部位4Wに係合させ、後端部には錘23が取り付けられている。非押鍵状態において、質量体2は、錘23がその重量により鍵盤フレーム3のストッパ33上に位置し、前端部22により白鍵1Wを上昇位置に至らせている。白鍵の駆動部位4Wには、フック41Wが設けられており、該フックが鍵盤フレーム3に当接することにより、白鍵の最上昇位置が決められている。鍵盤フレーム3における白鍵1Wのすぐ下方には、スイッチ6が装着されている。スイッチ6は、白鍵1Wが押し下げられたときに、その押し下げに応答して、楽音発生信号を図外の制御部に送り、楽音を発生させる。スイッチ6は、接触型、非接触型等、通常用いられる種々の形態のものとすることができる。また、タッチコントロール機能を持たせるために、押鍵時の鍵の速度や当接圧を検知するセンサを設けることもできる。これらのスイッチ及びセンサは、質量体の動作位置に設けることも可能である。
【0014】
この実施形態においては、白鍵1W及び黒鍵1Bの後部に対して各々白鍵用規制部材7W及び黒鍵用規制部材7Bが設けられている。図2は鍵の後部と規制部材7W、7Bとを示した平面図、図3は図1の鍵後部付近を拡大した図である。規制部材7W、7Bは、鍵盤フレーム3後部の水平壁34に対し、下端部71W、71Bが各々ビス35により取り付けられており、該下端部から上方へ延びる縦壁72W、72Bと、該縦壁の上端部から前方へ延びる上壁73W、73Bと、該上壁の先端部に設けられた浮き止め部70W、70Bとを備えている。この実施形態では、規制部材7W、7Bは金属板で形成されており、浮き止め部70W、70Bは金属板を下方へ彎曲して形成されている。
【0015】
浮き止め部70W、70Bは、白鍵1W及び黒鍵1Bの後部の上昇を規制する位置に設けられる。すなわち、浮き止め部は、非押鍵状態においてが白鍵及び黒鍵に接触するか、又は僅かな間隙をおいた近接位置に設けられる。浮き止め部が鍵に接触する場合は、鍵後部が跳ね上がろうとしたときに浮き止め部への当接による雑音の発生を確実に回避することができる。また、規制部材7W、7Bの弾性を利用して浮き止め部により下方への押し下げ力を働かせれば、接触状態をより安定化させることができる。その押し下げ力は、非押鍵状態において質量体2の重量に基づくモーメントが鍵を上昇位置に保持するのを妨げない程度の大きさとされる。
【0016】
一方、浮き止め部が鍵との間に微小間隙をおいた近接配置とする場合は、浮き止め部が常に接触する場合に生じる鍵回動動作への抵抗を回避することができる。間隙が小さすぎると部材寸法や取り付け寸法の誤差に起因して非押鍵状態での接触が生じるおそれがあるし、間隙が大きすぎると規制が作用するまでの鍵後部の上昇量が大きくなり鍵保持が不安定となるおそれがある。この観点から間隙は、白鍵の厚さ以下とするのが望ましく、0.5〜2mmとするのがより望ましい。
【0017】
これらの浮き止め部と鍵上面との接触及び近接配置は、以下に説明する実施形態において、両者を接触乃至近接配置をする場合に適用される。
【0018】
また、浮き止め部70W、70Bは、鍵上面との接触中心点(図示の例では彎曲形状の最下端)が支点部3W、3B(ピン31W、31B)の直上から、各々所定の距離Dw、Dbの箇所に位置している。距離Dw、Dbは、鍵の見え掛かり部(楽器前方から見える部分)より後方に、規制部材7W、7Bが位置するように決められる。但し、距離Dw、Dbが大きくなりすぎると、支点部から浮き止め部までの離反距離が回転半径となって、鍵が浮き止め部に衝撃的に当接する可能性がある。したがって、距離Dw、Dbは、支点部3W、3Bより前方を+、後方を−として、−30〜30mmとするのが望ましく、−5〜5mmとするのがより望ましい。なお、鍵の後端が上記下限寸法より短い場合は、距離Dw、Dbの下限は鍵後端までとなる。
【0019】
また、距離Dw、Dbは、相互にほぼ等しくされ、両者の差が10mm以内とするのが望ましい。
【0020】
このように、距離Dw、Dbに共通性を持たせることにより、以下に詳述するように、白鍵及び黒鍵の挙動を均一化させることができる。図4は、上記に反して、白鍵1W及び黒鍵1Bに対し、鍵盤フレーム3の後端から同じ距離Lcの位置に浮き止め部70’を設けた例を示している。そして、この場合の白鍵1W及び黒鍵1B各々の押鍵時の挙動を図5の(a),(b)で示している。ここでは、大きな押鍵力Fが作用しており、この場合は、鍵及び質量体による慣性反力Rも大きくなり、鍵には図において左回りの偶力が発生する。これに伴って鍵後部が上昇する。この上昇は、鍵後部が浮き止め部70’に当接することにより規制される。この場合、黒鍵支点部3Bから浮き止め部70’までの距離Db’は、白鍵支点部3Wから浮き止め部70’までの距離Dw’より大きいので、これに対応して、各支点部からの黒鍵及び白鍵の浮き上がり量Ub、Uwは、Ubの方がUwより明らかに大きくなる。この挙動の相違は、スイッチ6の動作や、支点部への衝突による雑音発生等に影響を与え、鍵盤の基本特性の差違として現れる。
【0021】
一方、図1〜図3に示す第1実施形態においては、前述の通り、大きな押鍵力が作用して鍵後部が上昇しても、浮き止め部70W、70Bは、支点部3W、3Bから共通の距離の位置で上昇を規制することができる。その結果、支点部3W、3Bからの浮き上がり量はほぼ同一となり、スイッチ6の動作等の性能が均一化される。また、浮き上がりに対する雑音防止のためには、柔軟材料の介在等の手段を講じ得るが、鍵動作を柔軟に停止させることは、発音状態やタッチ感を形成する境界条件を曖昧にして悪影響を与えるおそれがあるので、その設定は極めて慎重に行なわなければならない。これに関して、上記浮き止め部の採用によれば、白鍵1W及び黒鍵1Bの支点部3W、3Bからの浮き上がり量がほぼ同一となるので、雑音防止を正確且つ効果的に行なうことができる。
【0022】
距離Dw、Dbを零又は零に近くすることにより、浮き止め部は、白鍵支点部及び黒鍵支点部の各々の直上又は直上近傍に位置することとなる。この場合は、浮き止め部による規制を受けた状態で鍵が回動することとなっても、本来の回動の中心である支点部と鍵長手方向の位置がほとんど変わらない。したがって、鍵後部の上昇の有無に拘わらず鍵の動作が安定し、鍵の上下動に関連するスイッチ6の動作等の性能が安定する。上記の距離Dw、Dbの設定は、以下の各実施形態においても適用され得る。
【0023】
図6及び図7は、本発明の第2実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部を概略的に示しており、図6は鍵盤装置の要部の縦断側面図、図7はその平面図でありVI-VI線に沿う断面が図6である。以下の実施形態の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同一又は類似の部分については説明を省略する。
【0024】
この鍵盤装置においては、浮き止め部が、白鍵及び黒鍵を含む複数の鍵に亘って延びる規制部材7に設けられている。すなわち、規制部材7は、鍵並び方向に長く延びており、鍵盤フレーム3後部の水平壁34に対し、下端部71がビス35により取り付けられており、該下端部から上方へ延びる縦壁72と、該縦壁の上端部から前方へ延びる上壁73とを備えている。規制部材7W、7Bは金属板で形成されており、浮き止め部70Wa、70Baは、金属板を下方へ凹状に変形させて形成されており、彎曲形状の最下端が支点部3W、3B(ピン31W、31B)の直上から、各々所定の距離Dw、Dbの箇所に位置している。第1実施形態についてした距離Dw、Dbの設定及びその作用効果の説明は、この実施形態及び以下の実施形態にもあてはまる。
【0025】
白鍵は、2鍵が連続して並んでいる箇所があるので、そこでは浮き止め部70Wa’のように連続的な1つの凹部で2鍵分を形成することもできる。また、黒鍵1Bの浮き止め部は白鍵1Wの浮き止め部より後方に位置するので、図に1点鎖線で示す浮き止め部70Ba’のように、鍵並び方向に連続した凹部で複数分を形成しても、白鍵1Wの浮き止め部70Waと干渉することがない。
【0026】
この構造によれば、1つの規制部材7に多数の浮き止め部を形成するので、鍵盤フレームへの取り付け、及び鍵に対する位置決めを迅速容易に行なうことができる。
【0027】
図8は、本発明の第3実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部を概略的に示している。この実施形態においては、規制部材7が図6及び図7に示した第2実施形態のように複数の白鍵及び黒鍵に亘って延びており、その上壁73に白鍵及び黒鍵の浮き止め部70Wb、70Bbが取り付けられている。すなわち、この実施形態では、第2実施形態の浮き止め部70Wa、70Wa’、70Baを、浮き止め部70Wb、70Bbに置き換えた形態となっている。浮き止め部70W、70Bは、各々上壁73に上端を固定された弾性体701と、該弾性体の下端に固定された当接片702とを備えている。弾性体701は、コイルばねや板ばね等のばね、スポンジ状の発泡体等とすることができる。このように、浮き止め部が弾性体を備えることにより、鍵後端部が上昇したときに、その上昇量に応じた下方への押し下げ力が得られる。したがって、安定した規制作用が得られる。
【0028】
この作用を得るためには、浮き止め部と鍵とが弾性を伴った接触をする構造とされていればよい。したがって、弾性体は、浮き止め部の上端部、中間部、下端部のいずれかに備えられていればよく、下端部に設ける場合は、当接片702を省略してもよい。或いは、弾性体は、浮き止め部に代え又は加えて、鍵上面に設けることもできる。また、
図9は、本発明の第4実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部を概略的に示している。この実施形態においては、規制部材7の上壁73aが弾性片により形成されている。すなわち、規制部材7は、図6及び図7に示した第2実施形態のように複数の白鍵及び黒鍵に亘って延びており、下端部71から上方へ延びた縦壁72に対し、ばね性を有する上壁73aがビス74により取付けられている。上壁73aには、白鍵及び黒鍵に対応した位置で浮き止め部70Wc、70Bcが取り付けられている。この構造により、上壁73aは、浮き止め部70Wc、70Bcを各々白鍵及び黒鍵に押しつけている。浮き止め部70Wc、70Bcは、上壁73の弾性の強さに応じて、弾性又は柔軟性を備え或いは備えないものとされる。弾性又は柔軟性を備える場合、その弾性体又は軟質体は、スポンジ状の発泡体、フェルト等の繊維体、シリコンラバー、ゲル等とすることができ、規制部材7の上壁72の先端部の下面に取り付けられる。弾性体は、他の部材と結合して、浮き止め部の上端部、中間部、下端部のいずれかに配置してもよい。
【0029】
この実施形態も、浮き止め部と鍵とが弾性を伴った接触をする構造の1つであり、鍵後端部が上昇したときに、その上昇量に応じた下方への押し下げ力が得られ、安定した規制作用が得られる。
【0030】
図10は、本発明の第5実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部を概略的に示している。この実施形態においては、浮き止め部70Wd、70Bdに対向する鍵後端部11W、11Bが、側面視(鍵並び方向に見た状態)において、支点部3W、3Bによる回動中心を中心とした半径Rw、Rbの円弧状に形成されている。規制部材7は、図6及び図7に示した第2実施形態のように複数の白鍵及び黒鍵に亘って延びており、浮き止め部70Wd、70Bdは、白鍵及び黒鍵に対応した位置に設けられ、鍵後端部11W、11Bとの間に僅かな間隙を形成している。
【0031】
このように、鍵後端部11W、11Bが、円弧状とされているので、鍵の回動量(鍵先端部の下降量)に拘わらず、鍵後端部11W、11Bと浮き止め部70Wd、70Bdとの間隙は一定に保たれる。したがって、鍵後部の上昇により鍵後端部11W、11Bが浮き止め部70Wd、70Bdに接して規制を受ける状態も、鍵の回動量に拘わらず均一化される。その結果、支点部3W、3Bからの浮き上がり量はほぼ同一となり、鍵の上下位置に関連するスイッチ6の動作等の性能が均一化される。また、浮き上がりに対する雑音防止のために、柔軟材料の介在等の手段を講じる際にも、その設定を正確且つ効果的に行なうことができる。
【0032】
図11は、本発明の第6実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部を概略的に示している。この実施形態は、上記第4実施形態の円弧状部分を浮き止め部に置き換えたものに相当する。すなわち、浮き止め部70We、70Beの下面が、側面視において、支点部3W、3Bによる回動中心を中心とした半径Rw’、Rb’の円弧状に形成されている。そして、浮き止め部70We、70Beに対向する鍵後端部12w、12bは、側面視において浮き止め部下面に点接触するように上面が角部を有する凸形状に形成されている。
【0033】
この浮き止め部70We、70Be下面の円弧に基づき、第5実施形態と同様に、鍵の回動量に拘わらず、鍵後端部12w、12bと浮き止め部70Wd、70Bdとの間隙は一定に保たれ、鍵後端部12w、12bが浮き止め部70We、70Beに接して規制を受ける状態も、鍵の回動量に拘わらず均一化される。その結果、鍵の上下位置に関連するスイッチ6の動作等の性能が均一化され、浮き上がりに対する雑音防止のための設定を正確且つ効果的に行なうことができる。
【0034】
この円弧状部分に基づく効果を得るためには、第5実施形態及び第6実施形態に示されるように、浮き止め部と鍵とが接する部分の内、少なくとも一方が、支点部を中心とする円弧状に形成されていればよい。したがって、これら両者に第5・第6実施形態の凸形及び凹形の円弧状部分を設け、鍵後部の上昇時に相互に接触するようにしてもよい。
【0035】
また、これらの円弧状の接触部分に関しては、図12に示すように、鍵1後端部の受け入れ穴15に当接部材13を進退動可能に装着し、受け入れ穴の底面と当接部材13との間に弾性体14を介在させ当接部材13を突出方向に付勢した構造とすることもできる。弾性体14は、ばね、スポンジ状の発泡体等を用いることができる。当接部材13における浮き止め部70との接触部分は、支点部3による回動中心を中心とした半径Rの円弧状に形成される。この場合は、非押鍵状態において当接部材13が浮き止め部70に接した状態となるが、その接触状態及び押鍵時に規制を受ける状態は、鍵の回動量に拘わらず均一化される。その結果、鍵の上下位置に関連するスイッチ6の動作等の性能が均一化され、浮き上がりに対する雑音防止のための設定を正確且つ効果的に行なうことができる。
【0036】
なお、この実施形態においては、浮き止め部70は、規制部材7の上壁73によって形成されているが、前述の各実施形態に示した形態の浮き止め部とすることもできる。また、進退可能な当接部と弾性体からなる同様の構造は、浮き止め部に設けてもよい。
【0037】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。白鍵及び黒鍵の支点部は、図示の例のようにピンを鍵盤フレームに支持したものに代えて、ピンを鍵に支持し、鍵盤フレームに該ピンの受け部を設けてもよいし、鍵を回動可能に支持する他の支点構造とすることもできる。各実施形態に示した浮き止め部は、図1〜図3に示したような白鍵及び黒鍵毎に配置された規制部材に設けてもよいし、図6及び図7に示したような複数鍵に亘って延びる規制部材に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部の概略図である。
【図2】図1に示す鍵盤装置の鍵後部及び規制部材(浮き止め部を備える)を示す平面図である。
【図3】図1の鍵後部付近を拡大した図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部の概略図である。
【図5】図4に示す鍵盤装置の押鍵時の動作の説明図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部の概略図である。
【図7】図6に示す鍵盤装置の鍵後部及び規制部材(浮き止め部を備える)を示す平面図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部の概略図である。
【図9】本発明の第5実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部の概略図である。
【図10】本発明の第6実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の鍵後端部を中心に示す概略図である。
【図11】本発明の第7実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の鍵後端部を中心に示す概略図である。
【図12】図10及び図11の実施形態の変形例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0039】
1B:黒鍵、 1W:白鍵、 2:質量体、 3:鍵盤フレーム、 3B:(黒鍵)支点部、 3W:(白鍵)支点部、 4B:(黒鍵)駆動部位、 4W(白鍵)駆動部位、 7:規制部材、 70B,70Ba,70Bb,70Bc,70Bd,70Be,70W,70Wa,70Wb,70Wc,70Wd,70We:浮き止め部、 Dw、Db:支点部の直上から浮き止め部における鍵上面との接触中心点までの距離
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子楽器用の鍵盤装置に関する。
【0002】
本明細書及び特許請求の範囲においては、電子楽器及びその鍵盤装置において、演奏者に近い方を前方、遠い方を後方と称することとする。
【背景技術】
【0003】
アコースティックピアノの鍵盤においては、黒鍵の支点部は白鍵の支点部より後方におかれている。これは、黒鍵が白鍵より短く後方に位置するため、黒鍵の支点部の位置を後方へずらすことにより、鍵の押圧箇所から支点部、及び支点部から駆動部位までの各距離の比を、白鍵と黒鍵との間で近づけタッチ感の差を小さくしているのである。
【0004】
しかしながら、電子鍵盤楽器においては、鍵盤装置の構造の簡易化を重視するため、鍵の支点部は、白鍵と黒鍵との区別することなく設けられているのが一般的であり、例えば、白鍵及び黒鍵の各後端部に設けられた突起を溝付き部材で受けて、回動可能としたもの(特許文献1)や、白鍵及び黒鍵の後端部に弾性片を設けて複数の鍵を弾性片で連結してと一体成形し、弾性片を鍵盤フレームに固定する構造のもの(特許文献2)等がある。その結果、電子鍵盤楽器においては、白鍵と黒鍵とのタッチ感の差が大きくなっており、正確な演奏や繊細な表現をする上での支障になっていた。
【特許文献1】特開平9−198036号公報
【特許文献2】実開平3−100894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題を解決すべく、白鍵と黒鍵とのタッチ感の差を小さくすることができる電子楽器用鍵盤装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記目的を達成するため、白鍵、黒鍵からなる複数の鍵と、前記複数の鍵を保持する鍵盤フレームと、該鍵盤フレーム上に設けられ鍵を上下方向に回動可能に支持する支点部とを備えた鍵盤装置において、前記支点部は、白鍵を支持する白鍵支点部と、黒鍵を支持する黒鍵支点部とからなり、鍵盤装置における演奏者に近い方を前方としたときに、鍵の後部に位置し、且つ前記黒鍵支点部は前記白鍵支点部より後方に位置しており、 白鍵及び黒鍵の後端部上方には、鍵後部の上昇を規制する浮き止め部が位置し前記鍵盤フレームに支持されていることを特徴とする電子楽器用鍵盤装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る電子楽器用鍵盤装置においては、鍵を上下方向に回動可能に支持する支点部が、白鍵を支持する白鍵支点部と、黒鍵を支持する黒鍵支点部とからなり、鍵盤装置における演奏者に近い方を前方としたときに、鍵の後部に位置し、且つ前記黒鍵支点部は前記白鍵支点部より後方に位置している。したがって、黒鍵先端が白鍵先端より後方に位置するのに応じる形で、黒鍵支点部が白鍵支点部より後方に位置することとなる。これにより、黒鍵と白鍵との回転半径の差が近くなり、指が鍵盤に接する押鍵箇所が押鍵時に描く軌道が黒鍵と白鍵とで相互に近くなり、白鍵と黒鍵との間でのタッチ感の差を小さくすることができる。
【0008】
しかも、白鍵及び黒鍵の後端部上方には、白鍵後部及び黒鍵後部の上昇を各々規制する浮き止め部が位置し前記鍵盤フレームに支持されている。駆動部位が鍵の先端付近に設けられた電子楽器用鍵盤装置においては、鍵後部の上方は、質量体やその連動部材が位置することなく開放された状態となっているため、大きな押鍵力が駆動部位より鍵の先端側に作用した際等に、鍵の後部が上方へ跳ね上がり、鍵の保持が不安定になるという問題が生じる。これに対し、本発明によれば、前記浮き止め部が設けられているので、鍵の後部の跳ね上がりが防止され、鍵の保持を安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図面中の同一又は同種の部分については、同じ番号を付して説明を省略することがある。
【0010】
図1は、本発明の第1実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部を概略的に示している。この鍵盤装置においては、複数の白鍵1W及び黒鍵1B、並びに各鍵と連動する質量体2が、鍵盤フレーム3に支持されている。
【0011】
白鍵1W及び黒鍵1Bは各々、後端部を支点部3W、3Bにより上下方向に回動可能に支持されており、先端から少し後退した位置に質量体の駆動部位4W、4Bを備えている。支点部3W、3Bは、鍵盤フレーム3から上方へ延びるピン31W、31Bを備えており、白鍵1W及び黒鍵1Bにはピンを通すための漏斗上の孔11W、11Bが形成され、ピン31W、31Bを受け入れて支持されている。
【0012】
黒鍵1Bの支点部3Bは、図示のように、白鍵1Wの支点部3Wより後方に位置している。白鍵に対し黒鍵は先端を後退させているので、これを考慮して、白鍵と黒鍵との間で生じる押鍵位置から支点部までの回転半径の相違を小さくし、白鍵と黒鍵との間でのタッチ感の差を小さくするように、支点部3Bと3Wとの位置が決められる。そのために、両支点部間の距離は、白鍵先端から黒鍵先端までの距離の20〜200%とするのが望ましい。この距離が、20%以下であると、黒鍵と白鍵との回転半径の差が大きくなり、白鍵と黒鍵との間でのタッチ感の差を小さくすることができない。また、この距離が、200%を越えると、黒鍵のが後方へ延びすぎて鍵盤装置の前後方向の寸法が大きくなる。
【0013】
以下の質量体2からスイッチ6及びタッチコントロール用センサまでの構成については、白鍵と黒鍵とで共通であるので、白鍵について説明し、黒鍵については説明を省略する。質量体2は、ロッド21の前方寄り部分に係合する軸32により鍵盤フレーム3に回動可能に支持され、前端部22を白鍵1Wの駆動部位4Wに係合させ、後端部には錘23が取り付けられている。非押鍵状態において、質量体2は、錘23がその重量により鍵盤フレーム3のストッパ33上に位置し、前端部22により白鍵1Wを上昇位置に至らせている。白鍵の駆動部位4Wには、フック41Wが設けられており、該フックが鍵盤フレーム3に当接することにより、白鍵の最上昇位置が決められている。鍵盤フレーム3における白鍵1Wのすぐ下方には、スイッチ6が装着されている。スイッチ6は、白鍵1Wが押し下げられたときに、その押し下げに応答して、楽音発生信号を図外の制御部に送り、楽音を発生させる。スイッチ6は、接触型、非接触型等、通常用いられる種々の形態のものとすることができる。また、タッチコントロール機能を持たせるために、押鍵時の鍵の速度や当接圧を検知するセンサを設けることもできる。これらのスイッチ及びセンサは、質量体の動作位置に設けることも可能である。
【0014】
この実施形態においては、白鍵1W及び黒鍵1Bの後部に対して各々白鍵用規制部材7W及び黒鍵用規制部材7Bが設けられている。図2は鍵の後部と規制部材7W、7Bとを示した平面図、図3は図1の鍵後部付近を拡大した図である。規制部材7W、7Bは、鍵盤フレーム3後部の水平壁34に対し、下端部71W、71Bが各々ビス35により取り付けられており、該下端部から上方へ延びる縦壁72W、72Bと、該縦壁の上端部から前方へ延びる上壁73W、73Bと、該上壁の先端部に設けられた浮き止め部70W、70Bとを備えている。この実施形態では、規制部材7W、7Bは金属板で形成されており、浮き止め部70W、70Bは金属板を下方へ彎曲して形成されている。
【0015】
浮き止め部70W、70Bは、白鍵1W及び黒鍵1Bの後部の上昇を規制する位置に設けられる。すなわち、浮き止め部は、非押鍵状態においてが白鍵及び黒鍵に接触するか、又は僅かな間隙をおいた近接位置に設けられる。浮き止め部が鍵に接触する場合は、鍵後部が跳ね上がろうとしたときに浮き止め部への当接による雑音の発生を確実に回避することができる。また、規制部材7W、7Bの弾性を利用して浮き止め部により下方への押し下げ力を働かせれば、接触状態をより安定化させることができる。その押し下げ力は、非押鍵状態において質量体2の重量に基づくモーメントが鍵を上昇位置に保持するのを妨げない程度の大きさとされる。
【0016】
一方、浮き止め部が鍵との間に微小間隙をおいた近接配置とする場合は、浮き止め部が常に接触する場合に生じる鍵回動動作への抵抗を回避することができる。間隙が小さすぎると部材寸法や取り付け寸法の誤差に起因して非押鍵状態での接触が生じるおそれがあるし、間隙が大きすぎると規制が作用するまでの鍵後部の上昇量が大きくなり鍵保持が不安定となるおそれがある。この観点から間隙は、白鍵の厚さ以下とするのが望ましく、0.5〜2mmとするのがより望ましい。
【0017】
これらの浮き止め部と鍵上面との接触及び近接配置は、以下に説明する実施形態において、両者を接触乃至近接配置をする場合に適用される。
【0018】
また、浮き止め部70W、70Bは、鍵上面との接触中心点(図示の例では彎曲形状の最下端)が支点部3W、3B(ピン31W、31B)の直上から、各々所定の距離Dw、Dbの箇所に位置している。距離Dw、Dbは、鍵の見え掛かり部(楽器前方から見える部分)より後方に、規制部材7W、7Bが位置するように決められる。但し、距離Dw、Dbが大きくなりすぎると、支点部から浮き止め部までの離反距離が回転半径となって、鍵が浮き止め部に衝撃的に当接する可能性がある。したがって、距離Dw、Dbは、支点部3W、3Bより前方を+、後方を−として、−30〜30mmとするのが望ましく、−5〜5mmとするのがより望ましい。なお、鍵の後端が上記下限寸法より短い場合は、距離Dw、Dbの下限は鍵後端までとなる。
【0019】
また、距離Dw、Dbは、相互にほぼ等しくされ、両者の差が10mm以内とするのが望ましい。
【0020】
このように、距離Dw、Dbに共通性を持たせることにより、以下に詳述するように、白鍵及び黒鍵の挙動を均一化させることができる。図4は、上記に反して、白鍵1W及び黒鍵1Bに対し、鍵盤フレーム3の後端から同じ距離Lcの位置に浮き止め部70’を設けた例を示している。そして、この場合の白鍵1W及び黒鍵1B各々の押鍵時の挙動を図5の(a),(b)で示している。ここでは、大きな押鍵力Fが作用しており、この場合は、鍵及び質量体による慣性反力Rも大きくなり、鍵には図において左回りの偶力が発生する。これに伴って鍵後部が上昇する。この上昇は、鍵後部が浮き止め部70’に当接することにより規制される。この場合、黒鍵支点部3Bから浮き止め部70’までの距離Db’は、白鍵支点部3Wから浮き止め部70’までの距離Dw’より大きいので、これに対応して、各支点部からの黒鍵及び白鍵の浮き上がり量Ub、Uwは、Ubの方がUwより明らかに大きくなる。この挙動の相違は、スイッチ6の動作や、支点部への衝突による雑音発生等に影響を与え、鍵盤の基本特性の差違として現れる。
【0021】
一方、図1〜図3に示す第1実施形態においては、前述の通り、大きな押鍵力が作用して鍵後部が上昇しても、浮き止め部70W、70Bは、支点部3W、3Bから共通の距離の位置で上昇を規制することができる。その結果、支点部3W、3Bからの浮き上がり量はほぼ同一となり、スイッチ6の動作等の性能が均一化される。また、浮き上がりに対する雑音防止のためには、柔軟材料の介在等の手段を講じ得るが、鍵動作を柔軟に停止させることは、発音状態やタッチ感を形成する境界条件を曖昧にして悪影響を与えるおそれがあるので、その設定は極めて慎重に行なわなければならない。これに関して、上記浮き止め部の採用によれば、白鍵1W及び黒鍵1Bの支点部3W、3Bからの浮き上がり量がほぼ同一となるので、雑音防止を正確且つ効果的に行なうことができる。
【0022】
距離Dw、Dbを零又は零に近くすることにより、浮き止め部は、白鍵支点部及び黒鍵支点部の各々の直上又は直上近傍に位置することとなる。この場合は、浮き止め部による規制を受けた状態で鍵が回動することとなっても、本来の回動の中心である支点部と鍵長手方向の位置がほとんど変わらない。したがって、鍵後部の上昇の有無に拘わらず鍵の動作が安定し、鍵の上下動に関連するスイッチ6の動作等の性能が安定する。上記の距離Dw、Dbの設定は、以下の各実施形態においても適用され得る。
【0023】
図6及び図7は、本発明の第2実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部を概略的に示しており、図6は鍵盤装置の要部の縦断側面図、図7はその平面図でありVI-VI線に沿う断面が図6である。以下の実施形態の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同一又は類似の部分については説明を省略する。
【0024】
この鍵盤装置においては、浮き止め部が、白鍵及び黒鍵を含む複数の鍵に亘って延びる規制部材7に設けられている。すなわち、規制部材7は、鍵並び方向に長く延びており、鍵盤フレーム3後部の水平壁34に対し、下端部71がビス35により取り付けられており、該下端部から上方へ延びる縦壁72と、該縦壁の上端部から前方へ延びる上壁73とを備えている。規制部材7W、7Bは金属板で形成されており、浮き止め部70Wa、70Baは、金属板を下方へ凹状に変形させて形成されており、彎曲形状の最下端が支点部3W、3B(ピン31W、31B)の直上から、各々所定の距離Dw、Dbの箇所に位置している。第1実施形態についてした距離Dw、Dbの設定及びその作用効果の説明は、この実施形態及び以下の実施形態にもあてはまる。
【0025】
白鍵は、2鍵が連続して並んでいる箇所があるので、そこでは浮き止め部70Wa’のように連続的な1つの凹部で2鍵分を形成することもできる。また、黒鍵1Bの浮き止め部は白鍵1Wの浮き止め部より後方に位置するので、図に1点鎖線で示す浮き止め部70Ba’のように、鍵並び方向に連続した凹部で複数分を形成しても、白鍵1Wの浮き止め部70Waと干渉することがない。
【0026】
この構造によれば、1つの規制部材7に多数の浮き止め部を形成するので、鍵盤フレームへの取り付け、及び鍵に対する位置決めを迅速容易に行なうことができる。
【0027】
図8は、本発明の第3実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部を概略的に示している。この実施形態においては、規制部材7が図6及び図7に示した第2実施形態のように複数の白鍵及び黒鍵に亘って延びており、その上壁73に白鍵及び黒鍵の浮き止め部70Wb、70Bbが取り付けられている。すなわち、この実施形態では、第2実施形態の浮き止め部70Wa、70Wa’、70Baを、浮き止め部70Wb、70Bbに置き換えた形態となっている。浮き止め部70W、70Bは、各々上壁73に上端を固定された弾性体701と、該弾性体の下端に固定された当接片702とを備えている。弾性体701は、コイルばねや板ばね等のばね、スポンジ状の発泡体等とすることができる。このように、浮き止め部が弾性体を備えることにより、鍵後端部が上昇したときに、その上昇量に応じた下方への押し下げ力が得られる。したがって、安定した規制作用が得られる。
【0028】
この作用を得るためには、浮き止め部と鍵とが弾性を伴った接触をする構造とされていればよい。したがって、弾性体は、浮き止め部の上端部、中間部、下端部のいずれかに備えられていればよく、下端部に設ける場合は、当接片702を省略してもよい。或いは、弾性体は、浮き止め部に代え又は加えて、鍵上面に設けることもできる。また、
図9は、本発明の第4実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部を概略的に示している。この実施形態においては、規制部材7の上壁73aが弾性片により形成されている。すなわち、規制部材7は、図6及び図7に示した第2実施形態のように複数の白鍵及び黒鍵に亘って延びており、下端部71から上方へ延びた縦壁72に対し、ばね性を有する上壁73aがビス74により取付けられている。上壁73aには、白鍵及び黒鍵に対応した位置で浮き止め部70Wc、70Bcが取り付けられている。この構造により、上壁73aは、浮き止め部70Wc、70Bcを各々白鍵及び黒鍵に押しつけている。浮き止め部70Wc、70Bcは、上壁73の弾性の強さに応じて、弾性又は柔軟性を備え或いは備えないものとされる。弾性又は柔軟性を備える場合、その弾性体又は軟質体は、スポンジ状の発泡体、フェルト等の繊維体、シリコンラバー、ゲル等とすることができ、規制部材7の上壁72の先端部の下面に取り付けられる。弾性体は、他の部材と結合して、浮き止め部の上端部、中間部、下端部のいずれかに配置してもよい。
【0029】
この実施形態も、浮き止め部と鍵とが弾性を伴った接触をする構造の1つであり、鍵後端部が上昇したときに、その上昇量に応じた下方への押し下げ力が得られ、安定した規制作用が得られる。
【0030】
図10は、本発明の第5実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部を概略的に示している。この実施形態においては、浮き止め部70Wd、70Bdに対向する鍵後端部11W、11Bが、側面視(鍵並び方向に見た状態)において、支点部3W、3Bによる回動中心を中心とした半径Rw、Rbの円弧状に形成されている。規制部材7は、図6及び図7に示した第2実施形態のように複数の白鍵及び黒鍵に亘って延びており、浮き止め部70Wd、70Bdは、白鍵及び黒鍵に対応した位置に設けられ、鍵後端部11W、11Bとの間に僅かな間隙を形成している。
【0031】
このように、鍵後端部11W、11Bが、円弧状とされているので、鍵の回動量(鍵先端部の下降量)に拘わらず、鍵後端部11W、11Bと浮き止め部70Wd、70Bdとの間隙は一定に保たれる。したがって、鍵後部の上昇により鍵後端部11W、11Bが浮き止め部70Wd、70Bdに接して規制を受ける状態も、鍵の回動量に拘わらず均一化される。その結果、支点部3W、3Bからの浮き上がり量はほぼ同一となり、鍵の上下位置に関連するスイッチ6の動作等の性能が均一化される。また、浮き上がりに対する雑音防止のために、柔軟材料の介在等の手段を講じる際にも、その設定を正確且つ効果的に行なうことができる。
【0032】
図11は、本発明の第6実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部を概略的に示している。この実施形態は、上記第4実施形態の円弧状部分を浮き止め部に置き換えたものに相当する。すなわち、浮き止め部70We、70Beの下面が、側面視において、支点部3W、3Bによる回動中心を中心とした半径Rw’、Rb’の円弧状に形成されている。そして、浮き止め部70We、70Beに対向する鍵後端部12w、12bは、側面視において浮き止め部下面に点接触するように上面が角部を有する凸形状に形成されている。
【0033】
この浮き止め部70We、70Be下面の円弧に基づき、第5実施形態と同様に、鍵の回動量に拘わらず、鍵後端部12w、12bと浮き止め部70Wd、70Bdとの間隙は一定に保たれ、鍵後端部12w、12bが浮き止め部70We、70Beに接して規制を受ける状態も、鍵の回動量に拘わらず均一化される。その結果、鍵の上下位置に関連するスイッチ6の動作等の性能が均一化され、浮き上がりに対する雑音防止のための設定を正確且つ効果的に行なうことができる。
【0034】
この円弧状部分に基づく効果を得るためには、第5実施形態及び第6実施形態に示されるように、浮き止め部と鍵とが接する部分の内、少なくとも一方が、支点部を中心とする円弧状に形成されていればよい。したがって、これら両者に第5・第6実施形態の凸形及び凹形の円弧状部分を設け、鍵後部の上昇時に相互に接触するようにしてもよい。
【0035】
また、これらの円弧状の接触部分に関しては、図12に示すように、鍵1後端部の受け入れ穴15に当接部材13を進退動可能に装着し、受け入れ穴の底面と当接部材13との間に弾性体14を介在させ当接部材13を突出方向に付勢した構造とすることもできる。弾性体14は、ばね、スポンジ状の発泡体等を用いることができる。当接部材13における浮き止め部70との接触部分は、支点部3による回動中心を中心とした半径Rの円弧状に形成される。この場合は、非押鍵状態において当接部材13が浮き止め部70に接した状態となるが、その接触状態及び押鍵時に規制を受ける状態は、鍵の回動量に拘わらず均一化される。その結果、鍵の上下位置に関連するスイッチ6の動作等の性能が均一化され、浮き上がりに対する雑音防止のための設定を正確且つ効果的に行なうことができる。
【0036】
なお、この実施形態においては、浮き止め部70は、規制部材7の上壁73によって形成されているが、前述の各実施形態に示した形態の浮き止め部とすることもできる。また、進退可能な当接部と弾性体からなる同様の構造は、浮き止め部に設けてもよい。
【0037】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。白鍵及び黒鍵の支点部は、図示の例のようにピンを鍵盤フレームに支持したものに代えて、ピンを鍵に支持し、鍵盤フレームに該ピンの受け部を設けてもよいし、鍵を回動可能に支持する他の支点構造とすることもできる。各実施形態に示した浮き止め部は、図1〜図3に示したような白鍵及び黒鍵毎に配置された規制部材に設けてもよいし、図6及び図7に示したような複数鍵に亘って延びる規制部材に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部の概略図である。
【図2】図1に示す鍵盤装置の鍵後部及び規制部材(浮き止め部を備える)を示す平面図である。
【図3】図1の鍵後部付近を拡大した図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部の概略図である。
【図5】図4に示す鍵盤装置の押鍵時の動作の説明図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部の概略図である。
【図7】図6に示す鍵盤装置の鍵後部及び規制部材(浮き止め部を備える)を示す平面図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部の概略図である。
【図9】本発明の第5実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の要部の概略図である。
【図10】本発明の第6実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の鍵後端部を中心に示す概略図である。
【図11】本発明の第7実施形態に係る電子楽器用鍵盤装置の鍵後端部を中心に示す概略図である。
【図12】図10及び図11の実施形態の変形例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0039】
1B:黒鍵、 1W:白鍵、 2:質量体、 3:鍵盤フレーム、 3B:(黒鍵)支点部、 3W:(白鍵)支点部、 4B:(黒鍵)駆動部位、 4W(白鍵)駆動部位、 7:規制部材、 70B,70Ba,70Bb,70Bc,70Bd,70Be,70W,70Wa,70Wb,70Wc,70Wd,70We:浮き止め部、 Dw、Db:支点部の直上から浮き止め部における鍵上面との接触中心点までの距離
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白鍵、黒鍵からなる複数の鍵と、前記複数の鍵を保持する鍵盤フレームと、該鍵盤フレーム上に設けられ鍵を上下方向に回動可能に支持する支点部とを備えた鍵盤装置において、
前記支点部は、白鍵を支持する白鍵支点部と、黒鍵を支持する黒鍵支点部とからなり、鍵盤装置における演奏者に近い方を前方としたときに、鍵の後部に位置し、且つ前記黒鍵支点部は前記白鍵支点部より後方に位置しており、
白鍵及び黒鍵の後端部上方には、鍵後部の上昇を規制する浮き止め部が位置し前記鍵盤フレームに支持されていることを特徴とする電子楽器用鍵盤装置。
【請求項2】
前記浮き止め部が、白鍵及び黒鍵の後端部上方における白鍵支点部及び黒鍵支点部の直上位置又は該位置から鍵前後方向における同じ向きへほぼ同一の距離離れた位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電子楽器用鍵盤装置。
【請求項3】
前記浮き止め部が、前記鍵盤フレームに支持され白鍵及び黒鍵を含む複数の鍵に亘って延びる規制部材に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子楽器用鍵盤装置。
【請求項4】
前記浮き止め部と鍵とが弾性を伴った接触をすることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電子楽器用鍵盤装置。
【請求項5】
前記浮き止め部が、鍵に接していることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電子楽器用鍵盤装置。
【請求項6】
前記浮き止め部と鍵とが接する部分の内、少なくとも一方が、前記支点部を中心とする円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電子楽器用鍵盤装置。
【請求項1】
白鍵、黒鍵からなる複数の鍵と、前記複数の鍵を保持する鍵盤フレームと、該鍵盤フレーム上に設けられ鍵を上下方向に回動可能に支持する支点部とを備えた鍵盤装置において、
前記支点部は、白鍵を支持する白鍵支点部と、黒鍵を支持する黒鍵支点部とからなり、鍵盤装置における演奏者に近い方を前方としたときに、鍵の後部に位置し、且つ前記黒鍵支点部は前記白鍵支点部より後方に位置しており、
白鍵及び黒鍵の後端部上方には、鍵後部の上昇を規制する浮き止め部が位置し前記鍵盤フレームに支持されていることを特徴とする電子楽器用鍵盤装置。
【請求項2】
前記浮き止め部が、白鍵及び黒鍵の後端部上方における白鍵支点部及び黒鍵支点部の直上位置又は該位置から鍵前後方向における同じ向きへほぼ同一の距離離れた位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電子楽器用鍵盤装置。
【請求項3】
前記浮き止め部が、前記鍵盤フレームに支持され白鍵及び黒鍵を含む複数の鍵に亘って延びる規制部材に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子楽器用鍵盤装置。
【請求項4】
前記浮き止め部と鍵とが弾性を伴った接触をすることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電子楽器用鍵盤装置。
【請求項5】
前記浮き止め部が、鍵に接していることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電子楽器用鍵盤装置。
【請求項6】
前記浮き止め部と鍵とが接する部分の内、少なくとも一方が、前記支点部を中心とする円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電子楽器用鍵盤装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−70767(P2008−70767A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251033(P2006−251033)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
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