説明

電子機器外装用筺体およびその製造方法

【課題】表面硬度と自己修復性という互いに相反する特性を高い水準で併せ持ち、電子機器外装用筺体本体に高い耐食性と意匠性とを付与できる表面保護膜が、少なくとも電子機器外装用筺体本体の外周面に形成された電子機器外装用筺体を提供する。
【解決手段】紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂と多官能(メタ)アクリレート化合物とを保護膜形成成分として含有する水性電着塗料組成物を用い、電子機器外装用筺体本体の少なくとも外周面に、電着塗装によって表面保護膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器外装用筺体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、携帯型パーソナルコンピュータ、モバイル機器、携帯電話、ビデオカメラ、電子手帳、デジタルカメラなどの携帯可能な電子機器の筺体には、金属製または合成樹脂製の筺体が多用される。そして、筺体の少なくとも外周面には、防食性、意匠性などを向上させ、さらには製品寿命を延ばすために、表面改質が施される。表面改質としては、たとえば、陽極酸化処理(アルマイト処理)、塗装、めっき、染色などが挙げられる。特に、外周面にめっき層および電着塗装による樹脂塗膜が順次形成されてなる筺体は、高い防食性と意匠性とを有する。そして、電着塗装による樹脂塗膜は膜厚が均一で、高い透明性を有し、金属との密着性に優れるという好ましい特性を示す。しかしながら、従来の表面改質を施された電子機器には、所有者による持ち運びに際し、他の物品と接触によってその外周面に擦り傷が発生し、意匠性が損なわれるという解決すべき課題がある。擦り傷の発生を防止するためには、たとえば、筺体の外周面に硬度の高い合成樹脂からなる表面保護層を形成することが考えられる。しかしながら、このような合成樹脂は表面硬度が高い反面、耐衝撃性が低く、割れ、筐体からの剥離などを生じ易いという解決すべき課題がある。また、最近になって自己修復性または自己治癒性を有する塗料が開発されている。この塗料から形成される塗膜は表面に擦り傷が出来ても、時間の経過とともに擦り傷が自動的に修復されて消失し、外観の意匠性が損なわれ難いという特性を有する。
【0003】
このような塗料としては、たとえば、シクロヘキサンジメタノールを両末端に有するポリエステルポリオールを50重量%以上含有するポリオール成分、紫外線吸収剤、シリコン系レベリング剤および3官能以上のヘキサメチレンジイソシアネート化合物を含むアクリルウレタン系塗料が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。また、(イ)一般式
【0004】
【化1】

【0005】
〔式中、Rは水素原子またはメチル基を示す。Aは炭素数5〜100の2価の有機基を示す。nは0または1を示す。〕
で表される水酸基含有重合性不飽和モノマーと該水酸基含有重合性不飽和モノマーに共重合可能な他の重合性不飽和モノマーとの共重合体、および(ロ)ブロック化されてもよい2または3官能以上のポリイソシアネート化合物を含むアクリルウレタン系塗料が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。水酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、たとえば、ジイソシアネート化合物を介してヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとヒドロキシシクロヘキシル基またはメチロールシクロヘキシル基を有するポリエステルオリゴマーとが結合した化合物が挙げられる。共重合可能な他の重合性不飽和モノマーとしては、たとえば、アルキル部分の炭素数が1〜24であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。ジイソシアネート化合物としては、たとえば、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類、水素添加キシリレンジイソシアネートなどの環状脂肪族ジイソシアネート類、トリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類などが挙げられる。
【0006】
また、(ハ)1分子中に2個の水酸基が脂環式炭化水素基を含有する重合性不飽和カルボン酸エステルとそれに共重合可能な他の重合性不飽和モノマーとを含む共重合体、および(ニ)ブロック化されてもよい2または3官能以上のポリイソシアネート化合物を含むアクリルウレタン系塗料が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。重合性不飽和カルボン酸エステルとしては、たとえば、一般式
【0007】
【化2】

【0008】
〔式中、Rは水素原子、メチル基またはエチル基を示す。Yは直接結合するかまたは基(−CH−)もしくは基(−RO−)を示す。ここで、Rはエチレン基またはトリメチレン基を示す。mおよびnはそれぞれ1〜10の整数を示す。〕
で表される脂環式モノマーが挙げられる。共重合可能な他の重合性不飽和モノマーとしては、特許文献2に記載のものと同様のものが挙げられる。
【0009】
しかしながら、これらのアクリルウレタン系塗料はスプレー塗装などによって塗装されるものであることから、得られる塗膜は自己修復性を有するものの、電着塗装により得られる塗膜よりも透明性、金属との密着性などに劣る。また、従来知られる自己修復性の塗膜は、自己修復性を持たせるために表面硬度を比較的低く設定するので、自己修復できないほどの大きな傷跡が生じる場合がある。
【0010】
【特許文献1】特開平7−258601号公報
【特許文献2】特開2001−200017号公報
【特許文献3】特開2003− 82031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、高い耐食性および意匠性を有し、さらに比較的高い表面硬度を有するにもかかわらず、他の物品との接触によって表面に擦り傷が出来ても、時間の経過とともに修復され、意匠性が損なわれない電子機器外装用筺体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、電子機器外装用筺体本体と、
該電子機器外装用筺体本体の少なくとも外周面に形成され、(メタ)アクリル樹脂にジイソシアネート化合物を介して(メタ)アクリロイル基を導入してなる紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂および1分子中に2またはそれ以上の(メタ)アクリロイル基を有する2官能または多官能(メタ)アクリレート化合物を含有する表面保護層とを含むことを特徴とする電子機器外装用筺体である。
【0013】
また本発明の電子機器外装用筺体は、表面保護層が、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂30〜90重量%(30重量%以上、90重量%以下)と2官能または多官能(メタ)アクリレート10〜70重量%(10重量%以上、70重量%以下)とを含有することを特徴とする。
【0014】
さらに本発明の電子機器外装用筺体は、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂が、(メタ)アクリル樹脂100gに対して0.06〜0.3モル(0.06モル以上、0.3モル以下)の(メタ)アクリロイル基が導入されてなることを特徴とする。
【0015】
さらに本発明の電子機器外装用筺体は、電子機器外装用筺体本体が、金属製成形品または少なくとも外周面に金属層を有する成形品であることを特徴とする。
【0016】
さらに本発明の電子機器外装用筺体は、金属層がめっき層であることを特徴とする。
さらに本発明の電子機器外装用筺体は、電子機器が携帯可能な電子機器であることを特徴とする。
【0017】
また本発明は、(メタ)アクリル樹脂にジイソシアネート化合物を介して(メタ)アクリロイル基を導入してなる紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂および1分子中に2またはそれ以上の(メタ)アクリロイル基を有する2官能または多官能(メタ)アクリレート化合物を含有する塗膜成分、酸中和剤および光重合開始剤を含む水性電着塗料組成物に電子機器外装用筺体本体を浸漬し、電着塗装によって電子機器外装用筺体本体の少なくとも外周面に表面保護層を形成することを特徴とする電子機器外装用筺体の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、少なくとも外周面に、(メタ)アクリル樹脂にジイソシアネート化合物を介して(メタ)アクリロイル基を導入してなる紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂(以後特に断らない限り単に「紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂」と称す)および1分子中に2またはそれ以上の(メタ)アクリロイル基を有する2官能または多官能(メタ)アクリレート化合物(以後特に断らない限りこれらを「多官能(メタ)アクリレート化合物」と総称する)を含有する表面保護層を有する電子機器外装用筺体が提供される。該表面保護層は、電着塗装によって形成が可能なので、高い透明性を有し、電子機器外装用筺体本体との密着性にも優れ、電子機器外装用筺体本体からの剥離などが生じることがない。さらに該表面保護層は比較的高い表面硬度を有するにもかかわらず、優れた自己修復性または自己治癒性を有し、他の物品と接触して細かい擦り傷が生じても、時間の経過とともに修復されて消失する。したがって、本発明の電子機器外装用筺体を有する電子機器は、防食性、意匠性および耐擦傷性に優れ、該電子機器を持ち運ぶ際に擦り傷が付いても修復されるので、意匠性が損なわれることがない。
【0019】
本発明によれば、表面保護層が紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂30〜90重量%と多官能(メタ)アクリレート10〜70重量%とを含有するように形成することによって、層厚が均一でかつ表面平滑性に優れ、透明性、電子機器外装用筺体本体との密着性、表面硬度、自己修復性などが一層向上した表面保護層が得られる。
【0020】
本発明によれば、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂として、(メタ)アクリル樹脂100gに対して0.06〜0.3モル(0.06モル以上、0.3モル以下)の(メタ)アクリロイル基が導入されたものを用いることによって、高い透明性、表面平滑性および表面硬度を有し、電子機器外装用筺体本体との密着性および自己修復性に優れるだけでなく、耐磨耗性にも優れる表面保護膜が得られる。したがって、本発明の電子機器外装用筺体の防食性などがさらに向上し、該電子機器外装用筺体を有する電子機器の製品寿命が一層向上する。
【0021】
本発明によれば、電子機器外装用筺体本体として金属製成形品または少なくとも外周面に金属層を有する成形品を用いることによって、表面保護膜の形成が容易であり、さらに表面保護膜の形成による意匠性の向上効果が大きい。
【0022】
本発明によれば、電子機器外装用筺体本体として、外周面に金属層を有する成形品を用いる場合に、金属層がめっき層、さらに好ましくは装飾めっき層であることによって、めっき層と表面保護膜との相乗作用による意匠性の向上効果が一層大きくなる。それとともに、電子機器外装用筺体本体を金属のみからなる成形品とする場合に比べて、軽量化効果が大きくなり、携帯用に有利に適用できる電子機器外装用筺体が得られる。
【0023】
本発明によれば、本発明の電子機器外装用筺体を適用する電子機器としては、携帯可能な電子機器が好ましい。
【0024】
本発明によれば、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂と多官能(メタ)アクリレート化合物とを含有する塗膜成分、酸中和剤および光重合開始剤を含む水性電着塗料組成物に電子機器外装用筺体本体を浸漬して電着塗装を行うことによって、煩雑な操作を要することなく、電子機器外装用筺体本体の少なくとも外周面に表面保護膜を効率良く形成できる。したがって、前記水性電着塗料組成物を用いる電着塗装法は、本発明の電子機器外装用筺体の工業的規模での製造に好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の電子機器外装用筺体は、電子機器外装用本体の少なくとも外周面に、自己修復性に優れた表面保護層が形成されてなることを特徴とする。
【0026】
電子機器外装用本体とは内部空間を有する容器状部材であり、その内部空間に電子部品、機構部品などを適宜組み合わせて収容することによって、電子機器として用いられるものである。ここで電子機器は従来から知られる電子機器をいずれも包含し、さらに電気製品などをも包含する。本発明の電子機器外装用筺体を適用する電子機器としては、携帯可能なものが好ましい。携帯可能な電子機器としては、たとえば、パーソナルコンピュータ、モバイル機器、携帯電話、ビデオカメラ、デジタルカメラ、電子手帳、電子辞書などが挙げられる。電子機器外装用筺体本体は、たとえば、金属、合成樹脂などから形成される。電子機器外装用筺体本体の少なくとも外周面には、その意匠性などを向上させるために、金属層が形成されてもよい。金属層の形成には、蒸着法、スパッタ法、気相成長法、めっき法などの一般的な金属薄膜形成方法を採用できる。この中でも、めっき法が好ましく、めっき法によって金属層として装飾めっきを施すのが特に好ましい。装飾めっきの具体例としては、たとえば、金めっき、金−銅めっき、金−銀めっき、金−コバルトめっき、金−ニッケルめっき、金−コバルト−インジウム、銀めっき、真鍮めっき、銅めっき、ロジウムめっき、パラジウムめっき、ニッケルめっき、銅−ニッケル−クロムめっき、錫−コバルトめっき、錫−ニッケルめっき、錫−銅−亜鉛めっき、 錫−ニッケル−銅めっき、銅−錫めっき、銅−亜鉛(真鍮)めっき、銅−ニッケルめっき、ニッケル−コバルト−タングステンめっき、ニッケル−鉄めっき、黒色クロムめっき、亜鉛めっき、黒色ニッケルめっき、黒色ロジウムめっきなどが挙げられる。
【0027】
電子機器外装用本体の少なくとも外周面に形成される表面保護膜は、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂と多官能(メタ)アクリレート化合物とを含む。なお、本明細書において、(メタ)アクリル樹脂はアクリル樹脂とメタクリル樹脂とを意味する。(メタ)アクリレートはアクリレートとメタクリレートとを意味する。(メタ)アクリロイル基はアクリロイル基とメタクリロイル基とを意味する。
【0028】
[紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂]
紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂は、ジイソシアネート化合物を介して(メタ)アクリロイル基が導入された(メタ)アクリル樹脂である。(メタ)アクリル樹脂への(メタ)アクリロイル基の導入は、たとえば、ジイソシアネート化合物を介して(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物(以後「(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物」と称す)と(メタ)アクリル樹脂とを結合させることによって行われる。この方法は、より具体的には、ジイソシアネート化合物と(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物とを反応させて中間化合物を得る前反応と、前反応で得られる中間化合物と(メタ)アクリル樹脂とを反応させる後反応とを含む。
【0029】
ここで原料化合物として用いられる(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル化合物の単独重合体、2種以上の(メタ)アクリル化合物の共重合体、または(メタ)アクリル化合物とそれに共重合可能な他の重合性化合物との共重合体である。(メタ)アクリレート化合物としては公知のものを使用でき、たとえば、アミノ基含有(メタ)アクリレート化合物、アルキル(メタ)アクリレート化合物、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。アミノ基含有(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、たとえば、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジ−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ボロニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、たとえば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。(メタ)アクリル化合物に共重合可能な他の重合性化合物としては、たとえば、スチレン、メチルスチレン、ビニルカルバゾールなどが挙げられる。なお、(メタ)アクリレート化合物およびそれに共重合可能な他の重合性化合物を、特に断らない限り、「モノマー化合物」と総称することがある。
【0030】
(メタ)アクリル樹脂は、公知の方法に従って製造できる。たとえば、溶剤中にて重合開始剤の存在下および加熱下に、モノマー化合物の1種または2種以上を重合させることによって、本発明で使用する(メタ)アクリル樹脂が得られる。ここで溶剤としては、たとえば、ジオキサン、セロソルブアセテートなどの活性水素を含まない溶剤を好ましく使用できる。溶剤の使用量は特に制限されず、モノマー化合物の種類、使用量などに応じて、重合反応が円滑に進行しかつ生成する(メタ)アクリル樹脂の反応系からの単離・精製操作が容易な量を適宜選択すればよい。重合開始剤としては公知のものを使用でき、たとえば、アゾ化合物、ジスルフィド化合物、スルフィド化合物、スルフィン化合物、ニトロソ化合物、パーオキサイド化合物などが挙げられる。重合開始剤の具体例としては、たとえば、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイルなどが挙げられる。重合開始剤の使用量は特に制限されず、モノマー化合物の種類、使用量などに応じて、重合反応が円滑に進行しかつ目的の重合度または重量平均分子量の(メタ)アクリル樹脂を得ることが出来る量を適宜選択すればよいけれども、好ましくはモノマー化合物100重量部に対して0.01〜3重量部である。重合開始剤は、重合反応の進行状況に応じ、時間の間隔を空けて数回程度に分割して重合反応系に添加してもよい。重合反応は、好ましくは溶剤の還流温度下に行われ、5〜20時間程度で終了する。
【0031】
ジイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1、4−シクロヘキサンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートなどが挙げられる。これらの中でも、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが好ましく、イソホロンジイソシアネートがさらに好ましい。ジイソシアネート化合物は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0032】
(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物としては、たとえば、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。水酸基含有(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、たとえば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0033】
前反応(ジイソシアネート化合物と(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物との反応)は、無溶剤下または適当な溶剤中にて攪拌下および50〜90℃程度の加熱下に行われ、3〜8時間程度で終了する。ジイソシアネート化合物と(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物との使用割合は特に制限されないけれども、好ましくはジイソシアネート化合物のイソシアネート基2当量に対して(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物の水酸基が1〜1.1当量になるように両者を用いればよい。溶剤としては両者を均一に溶解できるものであれば特に制限されず、たとえば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類などが挙げられる。なお、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基と水酸基との反応を促進するために、一般的なウレタン化触媒を反応系に添加してもよい。ウレタン化触媒としては、たとえば、有機錫化合物、アミン化合物などが挙げられる。有機錫化合物としては、たとえば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジアルキルマレート、ステアリン酸錫、オクチル酸錫などが挙げられる。アミン化合物としては、たとえば、トリエチレンジアミン、ペンタメチレンジエチレントリアミン、N−エチルモルホリン、トリエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7などが挙げられる。ウレタン化触媒は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。ウレタン化触媒の使用量は特に制限されず、たとえば、ジイソシアネート化合物と(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物との合計量100重量部に対して、0.02〜1重量部程度にすればよい。この反応によって、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基と(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物の水酸基とが反応し、ジイソシアネート化合物におけるイソシアネート基総量の1/2程度のイソシアネート基に(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物が置換した中間化合物が得られる。なお、このような中間化合物は市販されており、市販品をそのまま用いても良い。市販品の具体例としては、たとえば、カレンズMOI(商品名、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、昭和電工株式会社製)、カレンズAOI(商品名、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、昭和電工株式会社製)、カレンズBEI(商品名、1,1−(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、昭和電工株式会社製)などが挙げられる。
【0034】
後反応では、前反応で得られる中間化合物と(メタ)アクリル樹脂とを反応させ、本発明で使用する紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂を製造する。この反応は、前反応におけるジイソシアネート化合物と(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物との反応と同様に実施できる。中間化合物と(メタ)アクリル樹脂との使用割合は特に制限されないけれども、好ましくは、(メタ)アクリル樹脂100gに対して中間化合物を0.06〜0.3モルの割合で反応させればよい。後反応においても、前反応と同様のウレタン化触媒の1種または2種以上を使用できる。後反応では、中間化合物中のイソシアネート基が残存しなくなるまで反応を行うのが好ましい。ここで、イソシアネート基の残存がないとは、反応生成物の赤外線吸収スペクトルにおいて2270cm−1の吸収がない状態を意味する。後反応で得られる紫外線吸収性(メタ)アクリル樹脂は、濾過、遠心分離、再沈、濃縮、洗浄などの一般的な精製手段によって反応混合物中から容易に単離できる。このようにして、紫外線吸収性(メタ)アクリル樹脂が得られる。紫外線吸収性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は特に制限されないけれども、表面保護膜の機械的強度、表面硬度、耐磨耗性、水に対する溶解性または分散性などを考慮すると、好ましくは2000〜30000である。重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値を、標準物質である単分散分子量ポリスチレン(分子量1300、3000および10000)の検量線によって換算した値である。この紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂を水溶性化するには、該樹脂を水中にて酸中和剤と反応させればよい。酸中和剤としては一般的な酸を使用できるけれども、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、乳酸などの有機酸、硫酸、リン酸などの無機酸が挙げられる。酸中和剤は1種を単独で使用できまたは2種以上を使用できる。
【0035】
[多官能(メタ)アクリレート化合物]
多官能(メタ)アクリレート化合物としては、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個またはそれ以上有する(メタ)アクリレート化合物であれば特に制限されず、公知のものをいずれも使用できる。このような(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、たとえば、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジアクリレートなどの2官能(メタ)アクリレート化合物、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリアクリレート、ペンタグリセロールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレートグリセリントリアクリレートなどの3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。多官能(メタ)アクリレートは1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0036】
表面保護膜における紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂と多官能(メタ)アクリレート化合物との含有割合は特に制限されないけれども、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂を表面保護膜全量の30〜90重量%含有し、かつ多官能(メタ)アクリレート化合物を表面保護膜全量の10〜70重量%含有するように調整すればよい。両者をこの範囲で含有する表面保護膜は、層厚が均一で、表面平滑性、透明性、電子機器外装用筺体本体との密着性、表面硬度、自己修復性などのいずれをも高い水準で満たすものである。
【0037】
本発明の電子機器外装用筺体は、たとえば、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂と多官能(メタ)アクリレートとを含有する水性電着塗料組成物に、電子機器外装用筺体本体を浸漬し、電着塗装を行うことによって製造できる。ここで使用する水性電着塗料組成物は、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂および多官能(メタ)アクリレート化合物とともに、酸中和剤および光重合開始剤を含む。すなわち、水性電着塗料組成物は、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂、多官能(メタ)アクリレート化合物、酸中和剤および光重合開始剤を含み、残部が水である組成物である。該組成物における保護膜形成成分(紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂および多官能(メタ)アクリレート化合物)の含有量は、電着塗装時の作業性などを考慮すると、水性電着塗料組成物全量の5〜20重量%、さらに好ましくは8〜15重量%である。酸中和剤は紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂を水溶性化する。酸中和剤としては公知のものを使用でき、たとえば、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、乳酸などの有機酸、または硫酸、リン酸などの無機酸などが挙げられる。酸中和剤は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。酸中和剤の含有量は特に制限されず、保護膜形成成分における紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂の種類におよび含有量に応じて広い範囲から適宜選択できるけれども、好ましくは水性電着塗料組成物全量の0.1〜7重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%である。
【0038】
光重合開始剤は、電着塗膜を紫外線硬化させる際に、硬化を円滑に進行させ、硬化した電着塗膜の機械的強度などを向上させる。光重合開始剤としては公知のものを使用でき、たとえば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテルなどのベンゾイン類、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン類、2−メチル1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパノン−1,2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、N,N−ジメチルアミノアセトフェノンなどのアミノアセトフェノン類、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリ−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノンなどのアントラキノン類、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン類、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類、ベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、芳香族のヨードニウム塩、スルホニウム塩およびジアゾニウム塩、ポリシラン化合物、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オンなどのα−アルキルフェノン類などが挙げられる。これらの中でも、α−アルキルフェノン類を好ましく使用できる。光重合開始剤としては市販品も使用でき、たとえば、チバ・スペシャルティケミカルス株式会社製のIrgacure184(商品名、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン)、Darocure1173(商品名、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、Darocure1116(商品名、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン)、Darocure2959(商品名、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン)などが挙げられる。光重合開始剤は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。光重合開始剤の水性電着塗料組成物における含有量は、塗膜形成成分である紫外線吸収性(メタ)アクリル樹脂および多官能(メタ)アクリレートの種類および含有量などに応じて広い範囲から適宜選択できるけれども、好ましくは水性電着塗料組成物全量の0.01〜10重量%、さらに好ましくは0.05〜7重量%である。
【0039】
水性電着塗料組成物は、さらに着色剤を含むことができる。着色剤としては、たとえば、無機顔料、有機顔料などがある。無機顔料の具体例としては、たとえば、チタンホワイト(酸化チタン)、カーボンブラック、ベンガラなどの着色顔料、カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、シリカなどの体質顔料、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛などの防錆顔料などが挙げられる。有機顔料の具体例としては、たとえば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、モノアゾイエロー、ジスアゾイエロー、ベンズイミダゾロンエロー、キナクリドンレッド、モノアゾレッド、ボリアゾレッド、またはベリレンレッドなどが挙げられる。顔料は1種を単独で使用できまたは2種以上を使用できる。たとえば、酸化チタンを用いると、沈降安定性に優れる水性電着塗料組成物が得られ、白色性が高く隠蔽力の高い電着塗膜を形成できる。また、シリカまたはカオリンを用いると、電着塗膜のハジキ防止性、耐チッピング性、塗膜硬度、耐候性、付着性、防錆性などを向上させ得る。また、リン酸アルミニウムまたはモリブデン酸カルシウムを用いると、水性電着塗料組成物の沈降安定性が向上するとともに、電着塗膜の防錆性が向上する。本発明の水性電着塗料組成物における着色剤の含有量は、好ましくは該組成物の全固形分の1〜60重量%、さらに好ましくは1〜30重量%である。さらに本発明の水性電着塗料組成物は、たとえば、顔料分散剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの一般的な電着塗料用添加剤の適量を含むことができる。水性電着塗料組成物は、たとえば、各成分の所定量または適量を混合し、さらに水を加えて混合し、全量を100とすることによって製造できる。
【0040】
電着塗装は、たとえば、電子機器外装用筺体本体に必要に応じて脱脂処理、酸洗処理などを施した後、本発明の水性電着塗料組成物に電子機器外装用筺体本体を浸漬し、通電を行うことによって、電子機器外装用筺体本体表面に未硬化の電着塗膜が形成される。この未硬化の電着塗膜が形成された電子機器外装用筺体本体に紫外線を照射することによって、電子機器外装用筺体本体表面に表面保護膜が形成される。ここで、脱脂処理は、たとえば、電子機器外装用筺体本体の表面にアルカリ水溶液を接触させることにより行われる。アルカリ水溶液の接触は、たとえば、電子機器外装用筺体本体にアルカリ水溶液を噴霧するかまたは電子機器外装用筺体本体をアルカリ水溶液に浸漬させることにより行われる。アルカリとしては金属の脱脂に常用されるものを使用でき、たとえば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどのアルカリ金属のリン酸塩などが挙げられる。アルカリ水溶液中のアルカリ濃度は、たとえば、電子機器外装用筺体本体の材質、電子機器外装用筺体本体の汚れの度合いなどに応じて適宜決定される。さらにアルカリ水溶液には、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などの界面活性剤の適量が含まれていてもよい。脱脂は、20〜50℃程度の温度下(アルカリ水溶液の液温)に行われ、1〜5分程度で終了する。脱脂後、電子機器外装用筺体本体は水洗され、次の酸洗工程に供される。酸洗処理は、たとえば、電子機器外装用筺体本体の表面に酸水溶液を接触させることにより行われる。酸水溶液の接触は、脱脂処理におけるアルカリ水溶液の接触と同様に、電子機器外装用筺体本体への酸水溶液の噴霧、電子機器外装用筺体本体の酸水溶液への浸漬などにより行われる。酸としては金属の酸洗に常用されるものを使用でき、たとえば、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。酸水溶液中の酸濃度は、たとえば、電子機器外装用筺体本体の材質などに応じて適宜決定される。酸洗処理は、20〜30℃程度の温度下(酸水溶液の液温)に行われ、15〜60秒程度で終了する。脱脂処理および酸洗処理のほかに、スケール除去処理、下地処理、防錆処理などを施してもよい。これらの処理の後、被処理品を70〜120℃程度の温度下に乾燥させて次の電着塗装に供する。
【0041】
電着塗装は、公知の方法に従い、たとえば、水性電着塗料組成物を満たした通電槽中に電子機器外装用筺体本体を完全にまたは部分的に浸漬して陽極または陰極とし、通電することにより実施される。電着塗装条件も特に制限されず、被処理品である金属の種類、電着塗装用塗料の種類、通電槽の大きさおよび形状、得られる塗装被処理物の用途などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるけれども、通常は、浴温度(電着塗料温度)10〜50℃程度、印加電圧10〜450V程度、電圧印加時間1〜10分程度、水性電着塗料組成物の液温10〜45℃とすればよい。電着塗装が施された電子機器外装用筺体本体は、通電槽から取り出され、紫外線を照射される。紫外線照射の前に水洗および乾燥を行ってもよい。紫外線の照射量は特に制限されず、保護膜形成成分の種類に応じて広い範囲から適宜選択できるけれども、好ましくは200〜5000mJ/cmである。照射量は、照射強度(mJ/cm・s)と照射時間(s)との積であるから、照射強度と照射時間とを適宜選択することによって、所望の照射量を選択できる。紫外線源としては、たとえば、高圧水銀灯、ケミカルランプ、メタルハライドランプなどの一般的な紫外線源を使用できる。このようにして、電子機器外装用筺体本体の表面に硬化した電着塗膜すなわち表面保護膜が形成され、本発明の電子機器外装用筺体が得られる。
【実施例】
【0042】
以下に合成例、実施例、比較例および試験例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
(合成例1)
[アニオン性アクリル樹脂の合成]
攪拌機、冷却器、温度計および滴下管を備える反応器にイソプロピルアルコール50gを入れ、熱媒体油としてポリエチレングリコール(商品名:PGE♯400、ライオン株式会社製)を用いるオイルバスで加熱し、還流状態にした。これに、アクリル酸8g、ヒドロキシエチルメタクリレート50g、メチルメタクリレート15g、スチレン15gおよびエチルヘキシルアクリレート30gとアゾビスブチロニトリル(AIBN、ラジカル重合開始剤)1.0gとの均一混合物を3時間かけて滴下した。さらに、ジオキサン16.6gで滴下管内壁に付着する残存モノマーを洗い出し、残存モノマーを含むジオキサンをさらに滴下した。滴下終了から30分間、イソプロピルアルコールの還流下での反応を行った後、AIBNの0.3gを反応器内の反応混合物に添加し、以後30分毎にAIBNの0.3gを合計3回添加した。3回の添加終了後、さらにイソプロピルアルコールの還流下で5時間反応を行い、反応を終了した。反応混合物を冷却し、液温が30℃以下になった時点で反応生成物を取り出し、アニオン性アクリル樹脂を得た。
【0043】
(合成例2)
[重合性ブロックイソシアネート含有アクリル樹脂の合成]
攪拌機、冷却器、温度計および滴下管を備える反応器にジオキサン95gを入れ、熱媒体油としてポリエチレングリコール(PGE#400)を用いるオイルバスで加熱し、還流状態にした。これに、アクリル酸5gおよびメタクリル酸 2−(O−(1’−メチルプロピリデンアミノ)カルボキシアミノ)エチル(商品名:カレンズMOI−BM、昭和電工株式会社製)95gとアゾビスブチロニトリル(AIBN、ラジカル重合開始剤)0.8gとの均一混合物を3時間かけて滴下した。さらに、ジオキサン5gで滴下管内壁に付着する残存モノマーを洗い出し、残存モノマーを含むジオキサンをさらに滴下した。滴下終了から30分間、ジオキサンの還流下での反応を行った後、AIBNの0.3gを反応器内の反応混合物に添加し、以後30分毎にAIBNの0.3gを合計3回添加した。3回の添加終了後、さらにジオキサンの還流下で2.5時間反応を行い、反応を終了した。反応混合物を冷却し、液温が30℃以下になった時点で反応生成物を取り出し、重合性ブロックイソシアネート含有アクリル樹脂を得た。
【0044】
(実施例1)
合成例1のアニオン性アクリル樹脂60g、合成例2の重合性ブロックイソシアネート含有アクリル樹脂20g、ブロックヘキサメチレンジイソシアネート化合物(商品名:デュラネートTPLS2953、旭化成株式会社製)20gおよびトリエチルアミン2gを均一に混合し、得られる混合物に撹拌下にイオン交換水を徐々に加えて全量を1リットルとし、本発明の水性電着塗料を製造した。
【0045】
この水性電着塗料組成物に、SUS304からなるデジタルカメラ筺体本体を浸漬し、液温25℃、塗装時間1〜2分、通電方式:全没通電、電圧100〜150Vの条件下に撹拌せずに電着塗装を行って膜厚13〜17μmの電着塗膜を形成した。このものを水性電着塗料組成物中から取り出し、UV乾燥機(80W2灯、メタルハライドランプ、距離20cm、アイグラフィックス社製)で4分間照射し、被膜を硬化させ、デジタルカメラ筺体本体の表面に保護膜が形成された本発明のデジタルカメラ筺体を製造した。このデジタルカメラ筺体について、次のようにして耐擦傷性および自己修復性を調べた。結果を表1に示す。
【0046】
[耐擦傷性]
検体表面の平面箇所について、JIS K 5600−5−4の「引っかき硬度試験法(鉛筆法)」に準じ、表面保護膜に傷跡が発生する鉛筆硬度を調べた。鉛筆を表面保護膜に対して45°の角度で当接させ、鉛筆に750±10gの荷重を負荷しながら鉛筆を直線移動させて行った。
【0047】
[自己修復性]
検体表面を不織布(商品名:スコッチブライト、品番:#600)で擦過して傷跡を付け、傷跡が出来てから24時間経過後に傷跡の修復度合を目視で観察した。
【0048】
(比較例1)
実施例1の水性電着塗料組成物に代えてアクリル・メラミン系水性電着塗料(商品名:エレコートCMEX、株式会社シミズ製)を使用する以外は実施例1と同様にして、デジタルカメラ筺体を製造し、耐擦傷性および自己修復性を調べた。結果を表1に示す。
【0049】
(比較例2)
実施例1の水性電着塗料組成物に代えてアクリル・ウレタン系水性電着塗料[アニオン電着性を有する重量平均分子量2000〜30000の(メタ)アクリル樹60部とイソシアネート化合物(イソホロンジイソシアネートのヌレート体のメチルエチルケトオキシムブロックとヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体のメチルエチルケトオキシムブロックの混合物)40部の混合物、株式会社シミズ製]を使用する以外は実施例1と同様にして、デジタルカメラ筺体を製造し、耐擦傷性および自己修復性を調べた。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から、本発明のデジタルカメラ筺体が、高い表面硬度を有して耐擦傷性に優れ、それにもかかわらず自己修復性にも優れることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器外装用筺体本体と、
該電子機器外装用筺体本体の少なくとも外周面に形成され、(メタ)アクリル樹脂にジイソシアネート化合物を介して(メタ)アクリロイル基を導入してなる紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂および1分子中に2またはそれ以上の(メタ)アクリロイル基を有する2官能または多官能(メタ)アクリレート化合物を含有する表面保護層とを含むことを特徴とする電子機器外装用筺体。
【請求項2】
表面保護層が、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂30〜90重量%と2官能または多官能(メタ)アクリレート10〜70重量%とを含有することを特徴とする請求項1記載の電子機器外装用筺体。
【請求項3】
紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂が、(メタ)アクリル樹脂100gに対して0.06〜0.3モルの(メタ)アクリロイル基が導入されてなることを特徴とする請求項1または2記載の電子機器外装用筺体。
【請求項4】
電子機器外装用筺体本体が、金属製成形品または少なくとも外周面に金属層を有する成形品であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の電子機器外装用筺体。
【請求項5】
金属層がめっき層であることを特徴とする請求項4記載の電子機器外装用筺体。
【請求項6】
電子機器が携帯可能な電子機器であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の電子機器外装用筺体。
【請求項7】
(メタ)アクリル樹脂にジイソシアネート化合物を介して(メタ)アクリロイル基を導入してなる紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂および1分子中に2またはそれ以上の(メタ)アクリロイル基を有する2官能または多官能(メタ)アクリレート化合物を含有する塗膜成分、酸中和剤および光重合開始剤を含む水性電着塗料組成物に電子機器外装用筺体本体を浸漬し、電着塗装によって電子機器外装用筺体本体の少なくとも外周面に表面保護層を形成することを特徴とする電子機器外装用筺体の製造方法。

【公開番号】特開2010−65168(P2010−65168A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233959(P2008−233959)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(390035219)株式会社シミズ (14)
【Fターム(参考)】