説明

電子機器識別システム

【課題】弾性表面波を用いて信号を発信する電子機器の識別を確実に行う電子機器識別システムを提供する。
【解決手段】電子機器は、複数の反射器を有し、第1の変換手段により変換された弾性表面波を当該複数の反射器によって複数の反射弾性表面波からなる1組の反射弾性表面波として反射する複数の反射手段と、反射手段により反射された反射弾性表面波を第2の電気信号に変換し、該第2の電気信号を識別装置に発信する第2の変換手段と、を有し、識別装置は、受信された第2の信号を遅延させる遅延手段と、第2の信号のうち、1組の反射弾性表面波が第2の変換手段により変換された変換信号と、遅延手段により遅延された遅延信号との位相差に基づき、第2の信号が示す電子機器を識別するための識別情報を取得することにより受信手段が受信した第2の信号を発信した電子機器を識別する識別手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器識別システムに関する。
【背景技術】
【0002】
対象物を非接触で識別するとともに、弾性表面波(Surface Acoustic Wave)を用いて個体識別を行う装置がある。この技術に関連して、特許文献1に開示された個体情報検出装置は、質問器からのバースト信号を応答器(IDタグ)の変換器で音響表面波に変換し、この音響表面波を一連の反射器で反射させ時系列の音響表面波を生成するものである。
【0003】
生成された音響表面波は応答器の変換器で再びバースト信号に変換される。そして、この場合は反射器の構成に応じた固有のバースト信号を発生させることで識別を行っている。つまり質問器から送られてくるバースト信号が応答器(IDタグ)により反射波の時間的な変化に置き換えた信号が送信され、この信号のパルス列をIDとして読み取ることで識別を行っている。
【0004】
上記パルス列の位相信号を読み取り、数多くのIDを読み取るための手法が非特許文献1に提案されている。
【0005】
この非特許文献1に開示された技術では、パルス列の位相を検出するための同期検波回路が必要であり、送受信が一つの計測器で行われ、この計測器は位相検波に送信波を発生させるためにも使われており、信号発生器は受信後の位相判別にも使用される。この信号発生器の信号とSAWデバイスからの応答信号を同期させて、位相を比べることでID信号を読み取る。
【0006】
なお、SAW信号の位相はIDT(Inter Digital Transducer)や反射器の膜厚や線幅、IDTと反射器の距離などにより決定される。SAWデバイスを高周波で使用する場合、IDTや反射器の線幅は細くなる。SAW信号の位相を利用したシステムを考えた場合、設計どおりの位相信号を得るためには、膜厚精度や線幅精度が重要になる。
【特許文献1】特表平9−508974号公報
【非特許文献1】REMOTE SENSING OF PHYSICAL PARAMETERS BY MEANS OF PASSIVE SURFACE ACOUSTIC WAVE DEVICES(1994 ULTRASONICS SYMPOSIUM)p589-592
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
またSAW信号の伝搬速度は基板の温度により変化する特徴があるため、周囲温度の違いにより設計通りの位相を示す信号が返ってこなくなる。更にSAW信号の位相は無線通信で信号の送受を行うと、環境ノイズの影響でS/Nが悪くなったり、突然のノイズで位相が変わったりする恐れがある。
【0008】
位相の検出には送受信機とSAWデバイスとの同期検波が必要である。例えばBPSK(Binary Phase Shift Keying)を用いた送受信機がある。この送受信機において、送受信機内部での信号を基準(位相を0)とし、位相が−π/2からπ/2の間のSAW信号が返ってきた場合は、そのSAW信号は1を示すものとし、位相がπ/2から3π/2のSAW信号が返ってきた場合は、そのSAW信号は−1を示すものとする。
【0009】
このようなBPSKでは基準位相に対して比較するため、環境ノイズや基板の温度等の理由で受信したSAW信号の位相が設計値に対して異なる場合、本来意図した値とは異なる値に振り分けられてしまう。
【0010】
また、BPSKにおけるSAW信号は連続波ではなく、周期的に時間長の短いパルス波形であるので、キャリア再生(信号同期)を行うのが難しいことから、送受信機が同一なら発信機も一つでよいが、受信機のみで使用する場合、発信機が新たに必要となり受信機が高価になる。
【0011】
そこで、発信機が不要な受信機として、受信した信号を元に差動復号器により信号の判別を行うDPSK(Differentially Phase Shift Keying)受信機がある。上述したように、SAWデバイスの温度が変化すると設計した位相信号に対して位相ずれを起こした信号が返ってくる。更に無線で送信するため、通信経路で各信号にノイズが発生する可能性もある。
【0012】
しかし、DPSK受信機では、差動で評価しているため、温度効果による変動を除くことができる。但し、一般的なDPSK受信機の課題として、一度データの識別を誤ると判別の出来ない2bit分の誤りが起こってしまうという課題がある。
【0013】
このように従来の技術では、弾性表面波を用いて信号を発信する電子機器の識別を確実に行うことができないという問題点があった。
【0014】
本発明は上記問題点に鑑み、弾性表面波を用いて信号を発信する電子機器の識別を確実に行う電子機器識別システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、複数の電子機器、及び前記複数の電子機器を識別する識別装置を有する電子機器識別システムであって、前記電子機器は、前記識別装置が発信した第1の電気信号を受信し、該第1の電気信号を弾性表面波に変換する第1の変換手段と、複数の反射器を有し、前記第1の変換手段により変換された前記弾性表面波を当該複数の反射器によって複数の反射弾性表面波からなる1組の反射弾性表面波として反射する複数の反射手段と、前記反射手段により反射された反射弾性表面波を第2の電気信号に変換し、該第2の電気信号を前記識別装置に発信する第2の変換手段と、を有し、前記識別装置は、前記第1の電気信号を発信する発信手段と、前記第2の電気信号を受信する受信手段と、前記受信手段により受信された前記第2の信号を遅延させる遅延手段と、前記受信手段により受信された前記第2の信号のうち、前記1組の反射弾性表面波が前記第2の変換手段により変換された変換信号と、前記遅延手段により遅延された遅延信号との位相差に基づき、前記第2の信号が示す前記電子機器を識別するための識別情報を取得することにより前記受信手段が受信した第2の信号を発信した電子機器を識別する識別手段と、を有する。
【0016】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記識別手段は、前記電子機器が発信した前記第2の電気信号のうち、最も早く発信された前記変換信号に基づき、当該電子機器が発信した他の変換信号が示す前記識別情報を取得するものである。
【0017】
また、請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、前記変換信号は2値を示す信号であり、前記識別手段は、前記変換信号に前記遅延信号と同相ではない信号が含まれる場合には、前記変換信号が示す値を前記2値のうちの一方の値とし、前記変換信号が前記遅延信号と同相である場合には、前記変換信号が示す値を前記2値のうちの他方の値とすることにより前記識別情報を取得するものである。
【0018】
なお、上記反射弾性表面波とは、反射器によって反射された弾性表面波を示すものとする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、弾性表面波を用いて信号を発信する電子機器の識別を確実に行う電子機器識別システムを提供することができる。
【0020】
請求項2の発明によれば、最も早く発信された前記変換信号を差動同期検波用信号として、この信号に基づき、当該電子機器が発信した他の変換信号が示す前記識別情報を取得することができる。
【0021】
請求項3の発明によれば、変換信号により2値を示すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
まず、図1を参照して電子機器(SAW ID Tag:以下単にタグと記す)について説明する。同図に示されるように、タグ80は、アンテナ50、電極60、及び反射部64A、64B、64C、64D、64Eが弾性表面波素子70に設置されたものとなっている。なお、上記反射部について説明する際に、各反射部を区別する場合に符号に文字(A〜E)を付加し、特に区別しない場合には文字を省略して説明する。
【0024】
上記電極60は、後述する識別装置が発信したバースト信号(第1の電気信号)をアンテナ50で受信し、該バースト信号を弾性表面波に変換する第1の変換手段であり、反射部64により反射された反射弾性表面波を識別信号(第2の電気信号:以下、ID信号と記す)に変換し、該識別信号をアンテナ50により識別装置に発信する第2の変換手段でもある。
【0025】
複数(図では4つ)の反射部64は、同図に示されるように複数(図では反射器A、Bの2つ)の反射器を有し、電極60により変換された弾性表面波を当該複数の反射器によって複数(図では2つ)の反射弾性表面波からなる1組の反射弾性表面波として反射するものである。
【0026】
特に、反射部64Aは、プリアンブル信号用の反射部であり、この反射部64Aから反射された反射弾性表面波は、反射部64が反射した反射弾性表面波のうちで最も早く識別信号に変換される。この最も早く発信された変換信号(同図ではプリアンブル信号)に基づき、識別装置はタグが発信した識別信号のうち、当該タグが発信した他の変換信号が示す識別情報を取得する。すなわち、プリアンブル信号は、DPSKにおける差動同期検波用信号である。更に、一般的なPSKによる計測では基本的に信号同期を取るため予め長い信号列を発生させる必要があるが、本実施の形態におけるプリアンブル信号は、その長さがを短くすることができるようになっている。
【0027】
また、上記変換信号とは、ID信号のうち、1組の反射弾性表面波が電極60により変換された信号を示している。すなわち、本実施の形態において、上記識別信号とは識別装置から受信した一つ信号に対して一つのタグが発生する全ての信号を示し、変換信号とは識別信号を構成する信号となっている。
【0028】
また、反射部64B〜64Eは、ID信号を発生するためのものである。具体的には、変換信号は2値(本実施の形態では、0と1)を示す信号であり、その組み合わせによりIDを示すものとなっている。
【0029】
本実施の形態では、各反射部64B〜64Eにおいて、反射器Aが反射する反射弾性表面波と電極60から伝搬された弾性表面波(以下、入力弾性表面波と記す)との位相差を0に設定し、反射器Bが反射する反射弾性表面波と入力弾性表面波との位相差も0に設定した場合、2値のうちの一方の値である「0」を示すものとしている。
【0030】
一方、反射器Aと入力弾性表面波との位相差をπに設定し、反射器Bと入力弾性表面波との位相差を0に設定した場合、2値のうちの他方の値である「1」を示すものとしている。従って、図1の場合のID信号は、識別情報「0110」を示すものである。
【0031】
次に、識別装置の構成について、図2を用いて説明する。なお、以下に説明する識別装置は、タグα、βの2つのタグを識別する場合を例にして説明する。
【0032】
識別装置14は、同図に示されるように、オシレータ20、スイッチ22、PA(Pulse Amplifier)24、フィルタ26、30、T/R(transmitter/receiver)スイッチ28、アンテナ66、LNA(Low Noise Amplifier)32、遅延回路44、ミキサ40、A/D変換器34、及びDSP(Digital Signal Processor)36を含んで構成される。
【0033】
オシレータ20の出力端はスイッチ22の入力端に、スイッチ22の出力端はPA24の入力端に、PA24の出力端はフィルタ26の入力端に、フィルタ26の出力端は、T/Rスイッチ28の入力端に、T/Rスイッチ28の出力端は、フィルタ30の入力端に、フィルタ30の出力端は、LNA32の入力端に、LNA32の出力端は、遅延回路44及びミキサ40の入力端に、遅延回路44の出力端は、ミキサ40の入力端に、ミキサ40の出力端は、A/D変換器34の入力端に、A/D変換器34の出力端は、DSP36の入力端に各々接続されている。また、T/Rスイッチ28は、アンテナ66と接続している。
【0034】
上記オシレータ20は、タグα、βが反応する周波数の連続波を発生するものである。スイッチ22は、オシレータ20から入力された連続波からバースト信号を作製するものである。PA24は、バースト信号の強度をコントロールするものである。フィルタ26は、タグα、βが反応する周波数の周波数信号のみをT/Rスイッチ28に出力するものである。
【0035】
T/Rスイッチ28は、フィルタ26から出力されたバースト信号を、アンテナ66に出力し、発信手段であるアンテナ66はバースト信号をタグに発信する。また、T/Rスイッチ28は、受信手段でもあるアンテナ66からの識別信号を受信するもので、バースト信号が送信されるとフィルタ30側にスイッチを切り替える。これにより、同図に示される識別信号を受信することができる。なお、T/Rスイッチ28を用いずに、アンテナ66への出力端と、アンテナ66からの入力端とを分けたものを使用しても良い。
【0036】
フィルタ30は、T/Rスイッチ28から出力された信号のうち、所定の周波数信号のみを取り出すものである。LNA32は、フィルタ30から出力された信号の強度をコントロールするものである。
【0037】
遅延回路44は、アンテナ66により受信された識別信号を遅延させ、遅延させた識別信号である遅延信号をミキサ40に出力するものである。ミキサ40は、遅延信号と識別信号をミキシングし、A/D変換器34に出力する。DSP36は、アンテナ66により受信された識別信号のうち、上記変換信号と、遅延回路44により遅延された遅延信号との位相差に基づき、識別信号が示すタグを識別するための識別情報を取得することによりアンテナ66が受信した識別信号を発信したタグを識別する識別手段である。
【0038】
なお、上述したPA24、フィルタ26、30、及びLNA32は、必ずしも必要な構成ではなく、オシレータ20の性能やアンテナ66から入力される信号周波数等に応じて設けるようにしても良い。
【0039】
上記ミキサ40から出力される信号について、図3を用いて説明する。同図には、遅延信号と識別信号の位相差が0、π/2、π、3π/2の場合の信号が示されている。このグラフの縦軸は振幅を示し、横軸は時間を示している。同図に示されるように、位相差が0の場合にのみ正の領域のみに波形が現れ、それ以外は、正負両方、又は負のみに波形が現れる。従って、本実施の形態におけるDSP36は、ミキサ40から出力された正の領域にのみ波形が現れた場合に、同相であるとし、それ以外は同相ではないとしている。しかし、位相差π/2や位相差3π/2の場合も信号強度0を境に±の範囲で振れているため、ある閾値より大きい場合に同相とするようにしても良い。
【0040】
以上説明した識別装置14と上記タグとで電子機器識別システムが構成される。次に、実際の識別方法に関して、各信号、位相差、及び識別情報を示した図である図4〜図7を用いて説明する。
【0041】
最初に、図4〜図7に共通する内容を、図4を例にして説明する。同図には、本来の信号、受信信号、遅延信号、位相差、及び識別情報が示されている。このうち、本来の信号とは、温度やノイズなどの影響を受けていない信号を示している。また、この図における本来の信号は「0110」を示す識別信号としている。
【0042】
また、本来の信号及び受信信号における区間1〜4とは、それぞれ反射部64B〜64Eが反射した反射弾性表面波が電極60により変換された変換信号を示す区間としている。
【0043】
以下の説明において、「区間X(Xは1〜4)の先の信号」とは、同図に示される「先の信号」が示すような区間Xで先に発信された信号を示すこととする。また、「区間X(Xは1〜4)の後の信号」とは、同図に示される「後の信号」が示すような区間Xで先の信号ではない信号を示すこととする。
【0044】
また、遅延信号は、同図に示されるように、変換信号に含まれる2つの信号のうちの1つ分だけずれた信号となっている。
【0045】
更に、同図に示される位相差は、区間Xの先の受信信号と先の遅延信号との位相差、又は区間Xの後の受信信号と後の遅延信号との位相差を示している。具体的には、受信信号と位相差から遅延信号の位相差を引いたものである。例えば、区間2の先の受信信号の位相差がπであり、区間2の先の遅延信号の位相差が0であるので、π−0で、位相差はπとなる。
【0046】
また、以下の説明において「区間Xの位相差が、Y、Z」と表現した場合には、区間Xの先の受信信号と先の遅延信号との位相差がY、区間Xの後の受信信号と後の遅延信号との位相差がZであることを示している。
【0047】
また、識別情報はその区間の信号が示す識別情報を示している。
【0048】
本実施の形態の場合、識別装置14は、変換信号に遅延信号と同相ではない信号が含まれる場合には、変換信号が示す値を前記2値のうちの一方の値(1)とし、変換信号が遅延信号と同相である場合には、変換信号が示す値を前記2値のうちの他方の値(0)とすることにより識別情報を取得する。
【0049】
以上が図4〜図7に共通の内容である。以上を踏まえ、図4を用いて、タグから発信された識別信号にノイズや温度等の影響がない場合について説明する。
【0050】
この場合、本来の信号と受信信号は同じものとなる。区間1の位相差は、いずれも0、0であり、0は同相であることを示しているので、区間1の識別情報は0である。区間2の位相差は、π、−πであり、同相ではない信号が含まれるため、区間2の識別情報は1である。区間3の位相差は、π、−πであり、同相ではない信号が含まれるため、区間3の識別情報は1である。区間4の位相差は、0、0であるので、区間4の識別情報は0である。
【0051】
従って、得られた識別情報は、本来の信号が示す識別情報に一致していることが分かる。次に、図5を用いて、途中で受信信号の位相がずれた場合について説明する。
【0052】
図5の場合は、区間2での先の受信信号が本来の信号からπ/2だけずれて3π/2となった場合を例にしている。区間1の位相差は、0、0であるので、区間1の識別情報は0である。区間2の位相差は、先の受信信号の位相がずれたことにより、3π/2、−πであり、同相ではない信号が含まれるため、区間2の識別情報は1である。次の区間3での位相差もずれている。この区間3の位相差は、π/2、−π/2であり、同相ではない信号が含まれるため、区間3の識別情報は1である。更に区間4での位相差もずれている。この区間4の位相差は、0、0であるので、区間4の識別情報は0である。
【0053】
このように、途中で受信信号の位相がずれて、そのずれがその後の信号に影響しても、得られる識別情報は本来の信号が示す識別情報に一致していることが分かる。
【0054】
図5の場合は、先の受信信号の位相がずれた場合の例であった。次に、図6を用いて後の受信信号の位相ずれた場合について説明する。図6の場合は、区間2での後の受信信号が本来の信号の位相からπ/2だけずれて、π/2となった場合を例にしている。区間1の位相差は、0、0であるので、区間1の識別情報は0である。区間2の位相差は、後の受信信号の位相がずれたことにより、π、−π/2であり、同相ではない信号が含まれるため、区間2の識別情報は1である。次の区間3での位相差もずれている。この区間3の位相差は、π/2、−π/2であり、同相ではない信号が含まれるため、区間3の識別情報は1である。更に区間4での位相差もずれている。この区間4の位相差は、0、0であるので、区間4の識別情報は0である。
【0055】
このように、途中で後の受信信号の位相がずれて、そのずれがその後の信号に影響しても、得られる識別情報は発信信号が示す識別情報に一致していることが分かる。
【0056】
図5、図6で説明したいずれの例も、信号の位相が一度ずれた後、その後の信号の位相もずれた信号となっている例であった。次に、図7を用いて受信信号の位相が一度だけずれた場合について説明する。図7の場合は、区間2での先の受信信号の位相のみが本来の信号の位相からπ/2だけずれた場合を例にしている。区間1の位相差は、0、0であるので、区間1の識別情報は0である。区間2の位相差は、先の受信信号の位相がずれたことにより、3π/2、−3π/2であり、同相ではない信号が含まれるため、区間2の識別情報は1である。次の区間3、区間4ではずれが影響しない。この区間3の位相差は、π、−πであり、同相ではない信号が含まれるため、区間3の識別情報は1である。区間4の位相差は、0、0であるので、区間4の識別情報は0である。
【0057】
このように、途中で受信信号の位相が一度だけ発信信号の位相からずれても、得られる識別情報は本来の信号が示す識別情報に一致していることが分かる。
【0058】
以上説明したように、本実施の形態では、弾性表面波を用いて信号を発信する電子機器の識別を確実に行う電子機器識別システムを提供することができる。また、識別装置14を安価につくることができ、BPSKによる計測のように温度依存による位相バラつきの影響を受けにくく、信号同期をする必要もない。更に、一般的なDPSKによる計測で生じるビット信号の誤りを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】タグの構成を示す図である。
【図2】識別装置の構成を示す図である。
【図3】ミキサから出力される信号を示す図である。
【図4】受信信号に位相のずれが生じていない場合の各信号、位相差、及び識別情報を示す図である。
【図5】先の受信信号に位相のずれが生じた場合の各信号、位相差、及び識別情報を示す図である。
【図6】後の受信信号に位相のずれが生じた場合の各信号、位相差、及び識別情報を示す図である。
【図7】受信信号に一度だけ位相のずれが生じた場合の各信号、位相差、及び識別情報を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
14 識別装置
20 オシレータ
22 スイッチ
24 PA
26、30 フィルタ
28 T/Rスイッチ
32 LNA
34 A/D変換器
36 DSP
40 ミキサ
44 遅延回路
50 アンテナ
60 電極
64A、64B、64C、64D、64E 反射部
66 アンテナ
70 弾性表面波素子
80 電子機器(タグ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電子機器、及び前記複数の電子機器を識別する識別装置を有する電子機器識別システムであって、
前記電子機器は、
前記識別装置が発信した第1の電気信号を受信し、該第1の電気信号を弾性表面波に変換する第1の変換手段と、
複数の反射器を有し、前記第1の変換手段により変換された前記弾性表面波を当該複数の反射器によって複数の反射弾性表面波からなる1組の反射弾性表面波として反射する複数の反射手段と、
前記反射手段により反射された反射弾性表面波を第2の電気信号に変換し、該第2の電気信号を前記識別装置に発信する第2の変換手段と、
を有し、
前記識別装置は、
前記第1の電気信号を発信する発信手段と、
前記第2の電気信号を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信された前記第2の信号を遅延させる遅延手段と、
前記受信手段により受信された前記第2の信号のうち、前記1組の反射弾性表面波が前記第2の変換手段により変換された変換信号と、前記遅延手段により遅延された遅延信号との位相差に基づき、前記第2の信号が示す前記電子機器を識別するための識別情報を取得することにより前記受信手段が受信した第2の信号を発信した電子機器を識別する識別手段と、
を有する電子機器識別システム。
【請求項2】
前記識別手段は、前記電子機器が発信した前記第2の電気信号のうち、最も早く発信された前記変換信号に基づき、当該電子機器が発信した他の変換信号が示す前記識別情報を取得する請求項1に記載の電子機器識別システム。
【請求項3】
前記変換信号は2値を示す信号であり、
前記識別手段は、前記変換信号に前記遅延信号と同相ではない信号が含まれる場合には、前記変換信号が示す値を前記2値のうちの一方の値とし、前記変換信号が前記遅延信号と同相である場合には、前記変換信号が示す値を前記2値のうちの他方の値とすることにより前記識別情報を取得する請求項1又は請求項2に記載の電子機器識別システム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−75629(P2009−75629A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241192(P2007−241192)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】