説明

電子状態の制御された共役高分子化合物及びそれを用いた有機半導体材料

【課題】電子状態が制御された共役高分子化合物を提供する。
【解決手段】側鎖に電子アクセプターとなるシアノ基を導入することにより、電子状態の制御された次の一般式(I)で示される共役高分子化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機高分子主鎖内のπ共役により導電性を有する、共役高分子化合物に関する。また、本発明は、共役高分子化合物の電子状態を制御する方法及び当該共役高分子化合物を製造する方法に関する。さらに、本発明は、有機薄膜太陽電池のp型有機半導体に使用する、太陽光領域に吸収波長を持つ導電性高分子材料に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜太陽電池は、p型(電子ドナー性)の有機半導体とn型(電子アクセプター性)の有機半導体を組み合わせた簡便な素子構造であり、色素増感型太陽電子に代表される湿式太陽電池とは異なり、電解液を用いないため加工性にも優れ、望みの形状に成形可能である。また、シリコン太陽電池や色素増感型太陽電池よりもはるかに軽量化できるため、巨大建造物の屋根に用いることもできる。さらに、高純度シリコンや貴金属のような資源的制約もないため、市場シェアの拡大と共に大幅に低コスト化できると見積もられている次世代の太陽電池である。
【0003】
課題はエネルギー変換効率の向上にあり、現在の最高値は単接合で4〜5%程度、改良して多接合にすると6.5%である。この結果からも読み取れるように、薄膜系太陽電池で実用ラインと言われている12〜15%まで向上させるためには素子構造の最適化では限界があり、用いる材料の最適化にブレークスルーが必要である。
【0004】
世界中で進められている一連の有機薄膜太陽電池研究により、n型半導体としてはフラーレン誘導体(PCBM)が最適であることが分かってきた。PCBMのHOMO(最高占有分子軌道)は6.0eV、LUMO(最低非占有分子軌道)は4.2eVであることが知られている。対応するp型半導体のLUMOは、PCBMのLUMOより0.3eV高いことが望ましいと提案されている(非特許文献1)。有効な電荷分離のためには最低0.3eVのエネルギー差が必要になるためである。それよりエネルギー差が大きいと光吸収する際の励起エネルギーを無駄にしていることになるため望ましくない。
さらに、共役高分子(p型半導体)のバンドギャップ(LUMO準位とHOMO準位の差)は太陽光の効率的な吸収を考慮すると約1.5eVであることが要求される。バンドギャップが小さい時は、光吸収が広い波長範囲で起こるために短絡電流密度が増加するが、開放電圧は減少する。逆にバンドギャップが大きい時は、開放電圧は増加するが、光吸収が少ないために短絡電流密度が減少する。この両者のバランスを考慮すると、バンドギャップ1.5eV付近が最大効率となるわけである。
【0005】
現在最も一般的に用いられているp型半導体高分子は、ポリチオフェン誘導体及びポリフェニレンビニレン誘導体等の共役高分子化合物であるが、これらのHOMO準位は理想値に近いものの、LUMO準位が大幅に高いことが問題となっている。HOMO準位の調節は、チオフェン環や電子豊富な共役電子系(芳香族アミノ基など)を導入すれば比較的容易に目標値を達成できる(非特許文献2)。
一方、LUMO準位を下げるためには電子アクセプター部位を導入する必要があり、主な従来アプローチはドナーとアクセプターの交互共重合である。しかしながら、この方法では異なる電子状態を作り出すために毎回煩雑な重合操作を行う必要があり、網羅的な電子状態ライブラリを作成することは不可能に近かった。
【0006】
ところで、本発明者は、以前に、電子豊富アルキンと強力アクセプター分子であるテトラシアノエチレンが[2+2]付加環化続く開環反応によりテトラシアノブタジエン骨格を生成する下記の反応について、電子供与性基として芳香族アミノ基を用いると室温でほぼ定量的に反応進行することを発見した(非特許文献3)。
【0007】
【化1】

【0008】
(上記反応式中、Rは任意の置換基を表し、EDGは電子供与性基を表す。)
そして、電子供与性基として使用する芳香族アミノ基の中でも、パラ位又はオルト位にアミンを有するフェニル基を用いた場合に、反応性が高まることを発見した(非特許文献4)。
この反応は、温和な条件下で定量的に目的化合物を与えることができる一段階反応で、「クリック型反応」と呼ぶことができるものである。
【0009】
しかし、上記のクリック型反応を、共役高分子に適用できるかどうかについては、明らかではなかった。
最近、ポリイン構造へのテトラシアノエチレンと、テトラチアフルバレンの一段階交互付加反応が報告されているが(非特許文献5)、これは、オリゴマー又はオリゴデンドリマーへの適用であり、直鎖上の伝導性ポリマーに適用できるかどうかは明らかではなかった。また、フェロセン基を有するアセチレンへの、室温でのテトラシアノエチレンの付加反応が報告されているが(非特許文献6)、これもまた、モノマーでの反応であり、直鎖上の伝導性ポリマーに適用できるかどうかは明らかではなかった。
【0010】
【非特許文献1】Barry C. Thompson他一名、2008年1月、Angewandte Chemie International Edition, Vol.47, Issue 1, pp.58-77
【非特許文献2】Tsuyoshi Michinobu他2名、2007年、Chemistry Letters、Vol.36、No.5、pp.620-621
【非特許文献3】Tsuyoshi Michinobu他8名、2005年、Chemical Communications、Issue 6、pp.737-739
【非特許文献4】Tsuyoshi Michinobu他7名、2006年、Chemistry A European Journal、Vol.12、Issue 7、pp.1889-1905
【非特許文献5】Milan Kivala他5名、2007年、Angewandte Chemie International Edition, Vol.46、Issue 33、pp.6357-6360
【非特許文献6】Tomoyuki Mochida他1名、2002年、Dalton Transactions、Issue 18、pp.3559-3564
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来の状況に鑑み、有機薄膜太陽電池のp型半導体等に用いられる共役高分子化合物について、LUMO準位等の電子状態を制御し、所望の電子状態を有する共役高分子化合物を簡便に得る方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意研究した結果、下記の反応式(1)に示すように、側鎖にエチニレン基(炭素−炭素三重結合)を有する共役高分子化合物に、テトラシアノエチレン構造を有する強力アクセプター分子を添加すれば、容易に共役高分子化合物に電子アクセプター基を付加できることを見出した。しかも、添加する分子の量を調節することで、電子アクセプターとなるシアノ基の導入量を制御することができ、共役高分子化合物の電子状態を幅広く調節することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
【化2】

【0014】
すなわち、本発明は、下記の(1)〜(12)及び(18)の電子状態の制御された共役高分子化合物、下記の(13)〜(17)の電子状態の制御された共役高分子化合物の製造方法、下記の(19)の有機薄膜太陽電池用のp型導電性高分子材料、下記の(20)の有機薄膜太陽電池素子、下記の(21)の有機薄膜太陽電池を提供する。
【0015】

次の一般式(I)で示される共役高分子化合物。
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、Rは、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、電子供与性基又はπ結合を有する基を表し、R及びRは、π結合を有する基又は単結合を表す(ただし、R及びRの少なくとも一方は電子供与性基を表し、R、R及びRのうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表す)。Rは、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。Rは、π結合を有する基からなる1種又は2種以上のモノマー構成単位を表す。x,y及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100及びx+y+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【0018】
(2):
前記(1)に記載の共役高分子化合物において、R及びRの少なくとも一方が、パラ位とオルト位の少なくとも一方にアミンを有するフェニル基又は置換基を有していてもよいフェロセン含有基のいずれかの電子供与性基であることを特徴とする、共役高分子化合物。
【0019】
(3):
前記(2)に記載の共役高分子化合物において、R及びRの少なくとも一方が、パラ位とオルト位の少なくとも一方にアミンを有するフェニル基であることを特徴とする、共役高分子化合物
【0020】
(4):
前記(3)に記載の共役高分子化合物において、Rが、パラ位にアミンを有するフェニル基であることを特徴とし、次の一般式(II)で示される共役高分子化合物。
【0021】
【化4】

【0022】
(式中、Rは、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。R及びRは、π結合を有する基又は単結合を表し、R及びRのうち少なくとも一方は、π結合を有する基を表す。Rは、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。Rは、π結合を有する基からなる1種又は2種以上のモノマー構成単位を表す。x,y及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100及びx+y+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【0023】
(5):
前記(4)に記載の共役高分子化合物において、Rが、π結合を有する基又は電子供与性基であることを特徴とする、共役高分子化合物。
【0024】
(6):
前記(5)に記載の共役高分子化合物において、Rが単結合であり、Rがπ結合を有する基であり、Rが二重結合であり、かつ、zが0であることを特徴とし、次の一般式(III)で示される共役高分子化合物。
【0025】
【化5】

【0026】
(式中、Rは、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、π結合を有する基を表す。x及びyは、それぞれ、0≦x<l00、0<y≦100及びx+y=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【0027】
(7):
前記(2)に記載の共役高分子化合物において、Rが、パラ位とオルト位の少なくとも一方にアミンを有するフェニル基であり、Rが、π結合を有する基であることを特徴とする、共役高分子化合物。
【0028】
(8):
前記(1)に記載の共役高分子化合物において、Rが、π結合を有する基からなる2種のモノマー構成単位であり、次の一般式(IV)で示される共役高分子化合物。
【0029】
【化6】

【0030】
(式中、R及びR´は、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。R及びR´は、電子供与性基又はπ結合を有する基を表し、R、R´、R、及びR´は、π結合を有する基又は単結合を表す(ただし、R及びRの少なくとも一方は電子供与性基を表し、R´及びR´の少なくとも一方は電子供与性基を表す。また、R、R及びRのうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表し、R´、R´及びR´のうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表す)。R及びR´は、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。x,y、z及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100、0<z<100及びx+y+z+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【0031】
(9):
電子供与性基が、パラ位とオルト位の少なくとも一方にアミンを有するフェニル基、パラ位とオルト位の少なくとも一方にアルコキシ基を有するフェニル基、アミノ基、モノ置換アミノ基、ジ置換アミノ基、置換基を有していてもよいフェロセン含有基、置換基を有していてもよいチオフェン含有基、置換基を有していてもよいピロール含有基及び置換基を有していてもよいカルバゾール含有基からなる群から選択される電子供与性基であることを特徴とする、前記(1)〜(6)及び(8)のいずれかに記載の共役高分子化合物。
【0032】
(10):
電子供与性基が、パラ位又はオルト位にアミンを有するフェニル基であることを特徴とする、前記(9)に記載の共役高分子化合物。
【0033】
(11):
π結合を有する基が、チオフェン、フェニレン、フェニレンビニレン、フルオレン、フェニレンエチニレン、ビニレン、エチニレン、チアゾール、ベンゾジチオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェン、シクロペンタジチオフェン、トリフェニルアミン、ピロール、2,1,3−ベンゾチアジアゾール、チエノピラジン及び1H‐ベンゾ[de]アントラセンからなる群から選択される一以上の化学構造を含む基であることを特徴とする、前記(1)〜(10)のいずれかに記載の共役高分子化合物。
【0034】
(12):
キノイド型構造を有するアリール基が、シクロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジイリデン基、2,3,5,6−テトラフルオロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジイリデン基、ナフタレン−2,6−ジイリデン基、アントラセン−9,10−ジイリデン基からなる群から選択される基であることを特徴とする、前記(1)〜(5)及び(7)〜(11)のいずれかに記載の共役高分子化合物。
【0035】
(13):
次の一般式(V)で示される共役高分子化合物に、次の一般式(VI)で示される化合物を反応させて、次の一般式(I)で示される共役高分子化合物を得る下記反応式(1)に示される工程を含むことを特徴とする、前記(1)に記載の共役高分子化合物の製造方法。
【0036】
【化7】

【0037】
(式中、Rは、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、電子供与性基又はπ結合を有する基を表し、R及びRは、π結合を有する基又は単結合を表す(ただし、R及びRの少なくとも一方は電子供与性基を表し、R、R及びRのうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表す)。Rは、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。Rは、π結合を有する基からなる1種又は2種以上のモノマー構成単位を表す。x,y及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100及びx+y+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【0038】
(14):
次の一般式(VII)で示される共役高分子化合物に、次の一般式(A−1)で示されるテトラシアノエチレンを反応させて、次の一般式(III)で示される共役高分子化合物を得る下記反応式(2)に示される工程を含むことを特徴とする、前記(6)に記載の共役高分子化合物の製造方法。
【0039】
【化8】

【0040】
(式中、Rは、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、π結合を有する基を表す。x,及びyは、それぞれ、0≦x<l00、0<y≦100及びx+y=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【0041】
(15):
前記(14)に記載の製造方法において、さらに、次の一般式(VIII)で示される化合物と次の一般式(IX)で示される化合物を反応させて、次の一般式(VII)で示される共役高分子化合物を合成する下記反応式(3)で示される工程を含むことを特徴とする、共役高分子化合物の製造方法。
【0042】
【化9】

【0043】
(式中、Rは、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、π結合を有する基を表す。Xは、ハロゲン原子を表す。x+yはモノマーが重合してポリマーとなっていることを表す。)
【0044】
(16):
下記(A)〜(C)の工程を含むことを特徴とする、共役高分子化合物の製造方法:
(A)次の一般式(V)で示される共役高分子化合物と次の一般式(VI)で示される化合物の存在比を変えることにより、下記反応式(1)で示される反応を複数行う工程;
(B)前記(A)の工程により得られた次の一般式(I)で示される共役高分子化合物であって、xとyの比が異なる複数の共役高分子化合物について、電子状態の測定を行う工程;
(C)所望の電子状態を持つ共役高分子化合物を選択する工程。
【0045】
【化10】

【0046】
(式中、Rは、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、電子供与性基又はπ結合を有する基を表し、R及びRは、π結合を有する基又は単結合を表す(ただし、R及びRの少なくとも一方は電子供与性基を表し、R、R及びRのうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表す)。Rは、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。Rは、π結合を有する基からなる1種又は2種以上のモノマー構成単位を表す。x,y及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100及びx+y+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【0047】
(17):
前記(C)の工程において、HOMO準位が5.2〜5.6eVであり且つLUMO準位が3.7〜4.1eVである共役高分子化合物を選択することを特徴とする、前記(16)に記載の共役高分子化合物の製造方法。
【0048】
(18):
前記(16)及び(17)のいずれかに記載の製造方法により得られた、共役高分子化合物。
【0049】
(19):
前記1〜12及び18のいずれかに記載の共役高分子化合物を含む、有機薄膜太陽電池用のp型導電性高分子材料。
【0050】
(20):
第1電極層と、前記(19)に記載されたp型導電性高分子材料を含む光電変換層と、第2電極層とを含むことを特徴とする、有機薄膜太陽電池素子。
【0051】
(21):
前記(20)に記載された有機薄膜太陽電池素子を1つ以上含むことを特徴とする、有機薄膜太陽電池。
【発明の効果】
【0052】
本発明の共役高分子化合物及びその製造方法は、添加する強力アクセプター分子の量を調節することで、電子アクセプターとなるシアノ基の共役高分子への導入量を制御することができるので、様々な電子状態を有する共役高分子化合物の網羅的なライブラリを簡便に提供することを可能とするものである。
【0053】
本発明の共役高分子化合物を用いれば、様々な電子状態を有する共役高分子化合物の網羅的なライブラリの中から、理想の電子状態を有する共役高分子化合物を選択することが可能となるため、次世代の太陽電池である有機薄膜太陽電池の実用化を強力に推し進めることができるものである。
【0054】
また、本発明の共役高分子化合物は、分子内の電子ドナーと、シアノ基(電子アクセプター)との、ドナーアクセプター相互作用に由来する可視光吸収効果を奏するため、優れた光電効果が期待できるものである。
【0055】
さらに、本発明の共役高分子化合物は、側鎖に電子アクセプターを付加するため、主鎖に電子アクセプターを付加する場合と比べて、付加反応が容易となるものである。また、主鎖にドナーとアクセプターが交互にある場合にはドナーアクセプター相互作用は隣接間でしか働かないのに対し、主鎖全体がドナー(アクセプター)であり側鎖にアクセプター(ドナー)がある本発明の共役高分子化合物では、ドナーアクセプター相互作用を相乗的に強めることができるものである。
【0056】
本発明の一般式(II)で示される共役高分子化合物は、室温で、しかも、一段階反応で副生成物がなく、極めて高い収率で、なおかつ、触媒を用いることなく製造することができるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
本発明の共役高分子化合物は、下記の反応式(1)に示されるように、一般式(V)に示される化合物に、一般式(VI)で示される化合物を添加し、両者を反応させることにより製造することができる。
【0058】
【化11】

【0059】
(式中、Rは、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、電子供与性基又はπ結合を有する基を表し、R及びRは、π結合を有する基又は単結合を表す(ただし、R及びRの少なくとも一方は電子供与性基を表し、R、R及びRのうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表す)。Rは、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。Rは、π結合を有する基からなる1種又は2種以上のモノマー構成単位を表す。x,y及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100及びx+y+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【0060】
本発明におけるアルキンへの付加反応は、下記のような反応機構によるものと考えられる。
【0061】
【化12】

【0062】
(上記反応機構中、Rは任意の置換基を表し、EDGは電子供与性基を表す。)
【0063】
上記反応式(1)において、一般式(V)で示される共役高分子化合物に対して添加される一般式(VI)で示される化合物の量を適宜変えた複数の反応を行うことによって、一般式(I)におけるxとyの比が異なる複数の共役高分子化合物を得ることができる。一般式(VI)で示される化合物の添加量を増大させることによって、yの値が増加するため、一般式(VI)で示される化合物の添加量を0から一定ずつ増加させた複数の反応を行えば、xとyの比が少しずつ増加した化合物ライブラリを作成できることになる。そして、yの値が増加することによって、共役高分子化合物のLUMO値が大きく低下し、HOMO値が小さく低下することが期待できるため、ライブラリの共役高分子化合物の電子状態を測定することによって、ライブラリの中から、所望のLUMO値及びHOMO値に近い値を有する共役高分子化合物を選択することができる。
【0064】
すなわち、本発明は、下記(A)〜(C)の工程を含むことを特徴とする、共役高分子化合物の製造方法を提供する:
(A)一般式(V)で示される共役高分子化合物と一般式(VI)で示される化合物の存在比を変えることにより、反応式(1)で示される反応を複数行う工程;
(B)前記(A)の工程により得られた一般式(I)で示される共役高分子化合物であって、xとyの比が異なる複数の共役高分子化合物について、電子状態の測定を行う工程;
(C)所望の電子状態を持つ共役高分子化合物を選択する工程。
【0065】
ここで、共役高分子化合物の電子状態を測定する方法としては、特に限定されないが、例えば、電気化学的測定法及び吸収・発光スペクトル測定法を用いることができる。
まず、ジクロロメタン中でサイクリックボルタンメトリー測定により求められる酸化電子をFc/Fc(4.8eV)の相対電位とすることでHOMO準位を決定することができる。
次に、ジクロロメタン中で紫外・可視・近赤外吸収スペクトルを測定する。可視(及び近赤外)吸収末端エネルギーを発光波長との整合性を保持しつつ求め、光学的に算出したバンドギャップ値とする。電気化学測定法により決定したHOMO準位と吸収・発光スペクトル測定法により決定したバンドギャップ値から、LUMO準位を算出することができる。
【0066】
上記(C)の工程において、HOMO準位が5.2〜5.6eVであり且つLUMO準位が3.7〜4.1eVである共役高分子化合物を選択すれば、有機薄膜太陽電池においてn型半導体をフラーレン誘導体(PCBM)とした場合の、p型半導体の理想の電子状態(HOMO準位=5.4eV、LUMO準位=3.9eV)に近い共役高分子化合物を得ることができる。
【0067】
上記反応式(1)において、一般式(V)に示される共役高分子化合物のエチニレン基(炭素−炭素三重結合)に隣接するR及びRのいずれかが電子供与性基であることにより、一般式(VI)で示される化合物を付加する反応の反応性が高められている。
【0068】
ここで、電子供与性基としては、パラ位とオルト位の少なくとも一方にアミンを有するフェニル基、パラ位とオルト位の少なくとも一方にアルコキシ基を有するフェニル基、アミノ基、モノ置換アミノ基、ジ置換アミノ基、置換基を有していてもよいフェロセン含有基、置換基を有していてもよいチオフェン含有基、置換基を有していてもよいピロール含有基又は置換基を有していてもよいカルバゾール含有基のいずれかが用いられる。
【0069】
ここで、置換基としては、それほど反応性の高くない基であれば特に限定されず、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、カルバモイル基、ウレイド基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アミノ基、ハロゲン原子、フッ化炭化水素基、シアノ基、シリル基等とすることができる。
【0070】
及びRのいずれかが電子供与性基であることにより、上記の反応式(1)の反応性が高められているため、本発明の製造方法は、例えば、0〜300℃の条件下において、無触媒で又は遷移金属等の触媒を用いて、有機溶媒中で行うことができる。
【0071】
本発明の好ましい実施形態は、反応式(1)中の一般式(V)に示される共役高分子化合物において、エチニレン基(炭素−炭素三重結合)に隣接するR及びRの少なくとも一方にある電子供与性基が、パラ位とオルト位の少なくとも一方にアミンを有するフェニル基又は置換基を有していてもよいフェロセン含有基とすることであり、この場合には、さらに反応性を高めることができる。
本発明のより好ましい実施形態は、反応式(1)中の一般式(V)に示される共役高分子化合物において、R及びRの少なくとも一方にある電子供与性基を、パラ位とオルト位の少なくとも一方にアミンを有するフェニル基とすることである。
【0072】
一般式(V)における、R及びRの少なくとも一方が、パラ位とオルト位の少なくとも一方にアミンを有するフェニル基又は置換基を有していてもよいフェロセン含有基である共役高分子化合物としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、次の一般式(X)〜(XVI)で示される共役高分子化合物を挙げることができる。
【0073】
【化13】

【0074】
(式中、Rは、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、π結合を有する基又は電子供与性基を表し、R及びRは、π結合を有する基又は単結合を表す(ただし、R、R及びRのいずれかは、π結合を有する基を表す)。Rは、π結合を有する基からなる1種又は2種以上のモノマー構成単位を表す。R及びR´は、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。x,y及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100及びx+y+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【0075】
これらの中でも特に、一般式(X)で示される化合物を用いるのが好ましい。一般式(X)で示される化合物に、次の一般式(VI)で示される化合物を付加させて、次の一般式(II)で示される共役高分子化合物を得るものである、下記の反応式(4)で示される製造方法は、室温で、しかも、一段階反応で副生成物がなく、極めて高い収率で、なおかつ、触媒を用いることなく製造することができるという優れた効果を奏するものである。
【0076】
【化14】

【0077】
(式中、Rは、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。R及びRは、π結合を有する基又は単結合を表し、R及びRのうち少なくとも一方は、π結合を有する基を表す。Rは、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。Rは、π結合を有する基からなる1種又は2種以上のモノマー構成単位を表す。x,y及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100及びx+y+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【0078】
上記反応式(4)で使用される溶媒としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、ジクロロエタン、THF(テトラヒドロフラン)、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル等を用いることができる。
【0079】
上記反応式(4)で得られる一般式(II)で示される共役高分子化合物は、Rが水素原子の場合には、本願明細書の実施例3で実証されているように、化学的安定性が低下した高分子化合物となる。低分子の類似構造の化合物の場合には化学的安定性は高いため、これは高分子特有の現象であり、従来技術からは全く予測のできなかったものである。
すなわち、本発明は、上記一般式(II)で示される化合物において、Rがπ結合を有する基又は電子供与性基であり、化学的安定性の高い共役高分子化合物を提供するものである。
【0080】
上記の反応式(1)及び(4)では、次の一般式(VI)で示される強力アクセプター分子が使用される。
【0081】
【化15】

【0082】
(式中、Rは、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。)
【0083】
ここで、キノイド型構造を有するアリール基としては、特に限定されず、例えば、シクロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジイリデン基、2,3,5,6−テトラフルオロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジイリデン基、ナフタレン−2,6−ジイリデン基、アントラセン−9,10−ジイリデン基、フェナントレン−3,9−ジイリデン基、フェナントレン−2,7−ジイリデン基等が挙げられる。
これらの中でも特に、シクロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジイリデン基、2,3,5,6−テトラフルオロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジイリデン基、ナフタレン−2,6−ジイリデン基、アントラセン−9,10−ジイリデン基が好ましい。
【0084】
一般式(VI)で示される化合物としては、これらに限定されるものではないが、例えば、下記の構造式(A−1)〜(A−5)に示される化合物が挙げられる。
【0085】
【化16】

【0086】
一般式(VI)において、Rが二重結合の場合には、上記構造式(A−1)で示されるテトラシアノエチレンとなる。
一般式(VI)において、Rがシクロヘキサ−2,5ジエン−1,4−ジイリデン基の場合には、上記構造式(A−2)で示されるテトラシアノキノジメタンとなる。
一般式(VI)において、Rが2,3,5,6−テトラフルオロヘキサ−2,5ジエン−1,4−ジイリデン基の場合には、上記構造式(A−3)で示されるテトラフルオロテトラシアノキノジメタンとなる。
一般式(VI)において、Rがナフタレン−2,6−ジイリデン基の場合には、上記構造式(A−4)で示される11,11,12,12‐テトラシアノナフト‐2,6‐キノジメタンとなる。
一般式(VI)において、Rがアントラセン−9,10−ジイリデン基の場合には、上記構造式(A−5)で示される9,10−ビス(ジシアノメチレン)−9,10−ジヒドロアントラセンとなる。
【0087】
一般式(VI)で示される化合物としては、上記構造式(A−1)で示されるテトラシアノエチレンを用いることが最も好ましい。
テトラシアノエチレンを使用すれば、過剰に添加しても、副反応を誘起しないため、昇華精製で容易にテトラシアノエチレンを除去することができ、製造コストを低減することができる。また、テトラシアノエチレンを昇華精製により除去した後の反応物の重量から重量増加を計算すれば、反応収率を容易に計算することができる。
【0088】
本発明における、共役高分子化合物とは、炭素−炭素又はヘテロ原子を含む二重結合又は3重結合が、単結合又はヘテロ原子を介して連結した主鎖を持ち、π共役系により導電性を有する有機高分子化合物を意味する。
【0089】
本発明の次の一般式(I)で示される共役高分子化合物において、R、R、R及びRからなる主鎖は、炭素−炭素若しくはヘテロ原子を含む二重結合又は3重結合が単結合又はヘテロ原子を介して連結した構造を持ち、π共役系により導電性を有するものであれば、どのようなものであってもよい。
【0090】
【化17】

【0091】
(式中、Rは、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、電子供与性基又はπ結合を有する基を表し、R及びRは、π結合を有する基又は単結合を表す(ただし、R及びRの少なくとも一方は電子供与性基を表し、R、R及びRのうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表す)。Rは、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。Rは、π結合を有する基からなる1種又は2種以上のモノマー構成単位を表す。x,y及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100及びx+y+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【0092】
ここで、π結合を有する基としては、主鎖にπ共役系を形成できる基であれば特に限定されず、例えば、チオフェン、フェニレン、フェニレンビニレン、フルオレン、フェニレンエチニレン、ビニレン、エチニレン、チアゾール、ベンゾジチオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェン、シクロペンタジチオフェン、トリフェニルアミン、ピロール、2,1,3−ベンゾチアジアゾール、チエノピラジン、1H‐ベンゾ[de]アントラセン、ペンタレン、インデン、ナフタレン、アズレン、ヘプタレン、ビフェニレン、アセナフチレン、フェナレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、アセファナントリレン、アセアントリレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、プレイアデン、ピセン、ペリレン、ペンタフェン、ペンタセン、ヘキサフェン、ヘキサセン、ルビセン、コロネン、トリナフチレン、ヘプタフェン、ヘプタセン、ピラントレン、オバレン、フラン、ピリジン、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリミジン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドール、カルバゾール、キノリン、フェナントリジン、アクリジン、ベンゾイミダゾール、キノキサリン、キナゾリン、プリン、プテリジン、フェナントロリン、チアントレン及びフェナジンからなる群から選択される一以上の化学構造を含む基である。
【0093】
ここで、「一以上の化学構造を含む基」とは、上記列挙された群から選択された化学構造を含む2価若しくは3価の基であるか、その基に置換基が付加された基であるか、上記列挙された群から選択された化学構造の2つ以上が単結合若しくはヘテロ原子を介して連結した2価若しくは3価の基であるか、その基に置換基が付加された基であることを意味する。
【0094】
π結合を有する基として好ましいものは、チオフェン、フェニレン、フェニレンビニレン、フルオレン、フェニレンエチニレン、ビニレン、エチニレン、チアゾール、ベンゾジチオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェン、シクロペンタジチオフェン、トリフェニルアミン、ピロール、2,1,3−ベンゾチアジアゾール、チエノピラジン及び1H‐ベンゾ[de]アントラセンからなる群から選択される一以上の化学構造を含む基である。
【0095】
π結合を有する基としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、次の一般式(B−1)〜(B―14)に示される基が挙げられる。
【0096】
【化18】

【0097】
(式中、Rは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、カルバモイル基、ウレイド基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アミノ基、ハロゲン原子、フッ化炭化水素基、シアノ基、シリル基等であり、二つのRが環を形成していてもよい。また、これらのπ結合を有する基がRである場合には、本発明の共役高分子化合物の側鎖となるエチニレン基(炭素−炭素三重結合)がRに連結していてもよい。)
【0098】
また、前記の一般式(I)、(II)、(V)及び(X)〜(XVI)において、Rは、π結合を有する基からなる1種又は2種以上のモノマー構成単位を表す。すなわち、本発明の共役高分子化合物においては、付加反応が起こる側鎖を有するモノマー以外に、その他の1種以上のモノマーが共重合していてもよい。また、当該その他のモノマーが共重合しておらず、前記の一般式(I)、(II)、(V)及び(X)〜(XV)において、zが0であってもよい。
また、Rは、側鎖にエチニレン基(炭素−炭素三重結合)を有するモノマーであってもよく、その場合には、一般式(VI)で示される化合物がRの側鎖にも付加されるため、一般式(I)で示される共役高分子化合物は、次の一般式(IV)で示される共役高分子化合物となる。
【0099】
【化19】

【0100】
(式中、R及びR´は、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。R及びR´は、電子供与性基又はπ結合を有する基を表し、R、R´、R、及びR´は、π結合を有する基又は単結合を表す(ただし、R及びRの少なくとも一方は電子供与性基を表し、R´及びR´の少なくとも一方は電子供与性基を表す。また、R、R及びRのうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表し、R´、R´及びR´のうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表す)。R及びR´は、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。x,y、z及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100、0≦z<100及びx+y+z+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【0101】
また、本発明の共役高分子化合物の前駆体となる一般式(V)で示される共役高分子化合物が、エチニレン基を有する側鎖を二つ以上有する場合には、一般式(I)中のRを、シアノ基が導入された二つの以上の側鎖を有する基とすることができる。例えば、側鎖を二つ有する場合には、一般式(I)は、次の一般式(XVII)のように表すことができる。
【0102】
【化20】

【0103】
(式中、R及びR´は、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、電子供与性基又はπ結合を有する基を表し、R及びRは、π結合を有する基又は単結合を表す(ただし、R及びR´又はRの少なくとも一方は電子供与性基を表し、R、R及びRのうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表す)。Rは、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。x,y及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y<100、0<z≦100及びx+y+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【0104】
本発明の一般式(I)で示される共役高分子化合物の前駆体となる、下記の一般式(V)で示される共役高分子化合物は、側鎖にエチニレン基(炭素−炭素三重結合)を有するモノマーと、必要により他のモノマーを共重合させることにより、得ることができる。
【0105】
【化21】

【0106】
(式中、Rは、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、電子供与性基又はπ結合を有する基を表し、R及びRは、π結合を有する基又は単結合を表す(ただし、R及びRの少なくとも一方は電子供与性基を表し、R、R及びRのうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表す)。Rは、π結合を有する基からなる1種又は2種以上のモノマー構成単位を表す。x,y及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100及びx+y+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【0107】
ここで、モノマーを重合させる方法としては、これらに限定される訳ではないが、例えば、パラジウム/リン触媒を用いたクロスカップリング反応により重合する方法、薗頭カップリング反応により重合する方法、Heckカップリング反応により重合する方法、Suzukiカップリング反応により重合する方法、Grignard反応により重合する方法、スルホニウム塩前駆体法、Wittig-Horner反応、Knoevenagel法、Ni(O)触媒により重合する方法、FeCl等の酸化剤により重合する方法、電気化学的に酸化重合する方法、適当な脱離基を有する中間体高分子の分解による方法など等を用いることができる。
【0108】
一般式(V)において、Rがπ結合を有する基又は電子供与性基であり、Rがパラ位に2価のアミンを有するフェニル基であり、Rが単結合であり、Rがπ結合を有する基であり、かつ、z=0であって、次の一般式(VII)で示される化合物を合成する方法について説明する。
【0109】
【化22】

(式中、Rは、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、π結合を有する基を表す。x+yはモノマーが重合してポリマーとなっていることを表す。)
【0110】
上記の一般式(VII)で示される化合物は、下記の反応式(3)に示されるように、次の一般式(VIII)で示される化合物と、次の一般式(IX)で示される化合物とを、クロスカップリングさせることにより合成することができる。
【0111】
【化23】

【0112】
(式中、Rは、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、π結合を有する基を表す。Xは、ハロゲン原子を表す。x+yはモノマーが重合してポリマーとなっていることを表す。)
【0113】
この反応式(3)では、パラジウム/リン触媒によるカップリング反応を用いることが好ましい。すなわち、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム等のパラジウム触媒と、トリ(tert-ブチル)ホスフィン等のリン配位子の存在下に、トルエン等の有機溶媒中でクロスカップリングさせることができる。
【0114】
上記反応により得られた一般式(VII)により得られた共役高分子化合物は、さらに下記反応式(2)に示されるように、テトラシアノエチレンを付加することによって、次の一般式(III)で示される電子状態の制御された共役高分子化合物を製造することができる。
【0115】
【化24】

【0116】
(式中、Rは、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、π結合を有する基を表す。x,及びyは、それぞれ、0≦x<l00、0<y≦100及びx+y=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【0117】
本発明の共役高分子化合物は、電子状態を制御することができ、また、分子内のドナーアクセプター相互作用に由来する可視光吸収効果を奏するため、有機薄膜太陽電池のp型半導体材料とするのに適している。
【0118】
本発明のp型半導体材料は、n型有機半導体とともに溶媒に分散して用いることができる。粘度を低くし均一な塗膜を形成するためには、本発明のp型半導体材料の分子量を500万以下とすることが好ましい。n型有機半導体としては、例えば、フラーレン誘導体、カーボンナノチューブ、ポリフェニレンビニレン、ポリフルオレン、及び、これらの誘導体、並びに、これらの共重合体を用いることができる。
n型半導体として、フラーレン誘導体である下記のPCBMを用いる場合には、LUMO値が3.9eV近傍であり、かつ、HOMO値が5.4eV近傍に制御された本発明の共役高分子化合物を用いれば、p型半導体材料とすることができる。
【0119】
【化25】

【0120】
n型有機半導体とともに溶媒に分散された本発明のp型半導体材料は、基板上に形成された第1電極層上に、スピンコート法、ダイコート法、インクジェット法等により塗布して光電変換層とすることができる。光電変換層の上部には、さらに第二電極を形成することができる。塗布されたn型有機半導体材料とp型半導体材料は、相分離を起こし、それぞれ、ホールと電子の輸送経路として電極間を繋ぎ、全体として有機薄膜太陽電池素子を形成する。
【0121】
次に、実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0122】
(側鎖にエチニレン基を有する前駆体共役高分子化合物の合成)
前駆体高分子を、下記に示す経路にしたがい、二官能性モノマー間の重縮合により合成した。
【0123】
【化26】

【0124】
4-(フェニルエチニル)アニリン100mgと2,7-ジブロモ-9,9-ジオクチルフルオレン284mgを重合管に入れた後、触媒としてトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム13.3mg、トリ(tert-ブチル)ホスフィン22μL、塩基としてナトリウムtert-ブトキシド162mg、溶媒としてトルエン0.60mLを加えた。真空ラインに接続して溶封脱気した後、60oCで24時間加熱攪拌した。室温に冷却後、水とジクロロメタンを加えて分液した。ジクロロメタン相をメタノールに滴下することにより黄色粉末として芳香族ポリアミン縮合体を得た。
収率60%、IR (3035, 2925, 2853, 2213, 1598, 1510, 1464, 1443, 1313, 1271, 1179, 1136, 1106, 1071, 820, 754, 690 cm-1)、1H NMR (0.85-1.80(m, alkyl), 6.78-7.62(m, Ar))、数平均分子量4,300、重量平均分子量9,100、紫外可視吸収極大398nm。
【0125】
【化27】

【0126】
4-[(4-アミノフェニル)エチニル]-N,N-ジメチルアニリン122mgと2,7-ジブロモ-9,9-ジオクチルフルオレン284mgを重合管に入れた後、触媒としてトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム13.3mg、トリ(tert-ブチル)ホスフィン22μL、塩基としてナトリウムtert-ブトキシド162mg、溶媒としてトルエン0.60mLを加えた。真空ラインに接続して溶封脱気した後、60oCで24時間加熱攪拌した。室温に冷却後、水とジクロロメタンを加えて分液した。ジクロロメタン相をメタノールに滴下することにより黄色粉末として芳香族ポリアミン縮合体を得た。
収率70%、IR (3035, 2924, 2852, 2208, 1609, 1579, 1522, 1463, 1442, 1354, 1309, 1269, 1196, 1170, 1132, 946, 815, 720, 524 cm-1)、1H NMR (0.87-1.80(m, alkyl), 2.33(s, Me), 6.34-7.65(m, Ar))、数平均分子量13,300、重量平均分子量45,600、紫外可視吸収極大403nm。
【0127】
【化28】

【0128】
4-[(トリイソプロピルシリル)エチニル]アニリン141mgと2,7-ジブロモ-9,9-ジオクチルフルオレン284mgを重合管に入れた後、触媒としてトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム13.3mg、トリ(tert-ブチル)ホスフィン22μL、塩基としてナトリウムtert-ブトキシド162mg、溶媒としてトルエン0.60mLを加えた。真空ラインに接続して溶封脱気した後、60oCで24時間加熱攪拌した。室温に冷却後、水とジクロロメタンを加えて分液した。ジクロロメタン相をメタノールに滴下することにより黄色粉末として芳香族ポリアミン縮合体(収率37%、IR (3034, 2925, 2859, 2150, 1601, 1579, 1503, 1464, 1379, 1344, 1312, 1270, 1177, 1105, 1073, 1015, 996, 919, 883, 832, 723, 678, 539 cm-1)、1H NMR (0.87-1.69(m, alkyl), 1.14(s, isopropyl), 6.78-7.45(m, Ar))、数平均分子量18,100、重量平均分子量110,000) を得た。
さらに、この芳香族ポリアミン縮合体50mgをTHF10mLに溶解し、テトラブチルアンモニウムフルオリド溶液(1M THF)0.15mLを加えて室温で30分攪拌した。THF溶液をメタノールに滴下することにより黄色粉末としてトリイソプロシリル基が脱保護された芳香族ポリアミン縮合体を得た。
収率99%、IR (3317, 2925, 2853, 2105, 1601, 1579, 1503, 1465, 1441, 1312, 1270, 1173, 1105, 818, 722, 645, 598 cm-1)、1H NMR (0.82-1.75(m, alkyl), 2.76(s, C≡CH), 6.88-7.50(m, Ar))、数平均分子量13,500、重量平均分子量55,700、紫外可視吸収極大391nm。
【実施例2】
【0129】
(テトラシアノエチレンの付加)
テトラシアノエチレンとの反応は、下記に示す経路にしたがい行った。
【0130】
【化29】

【0131】
アルキン含有芳香族ポリアミン前駆体7.0mgを1.0mLのジクロロエタンに溶解した後、窒素雰囲気下でテトラシアノエチレン1.6mgを加えた。室温で1時間攪拌後、溶媒を減圧除去して目的とするテトラシアノブタジエン構造含有芳香族ポリアミン(共役高分子化合物1)を得た。
収率100%、IR (2925, 2854, 2220, 1721, 1596, 1558, 1543, 1490, 1464, 1440, 1332, 1282, 1259, 1202, 1181, 1126, 1073, 1040, 1008, 960, 921, 797, 744, 690 cm-1)、1H NMR (0.85-1.85(m, alkyl), 6.84-7.53(m, Ar))、数平均分子量6,400、重量平均分子量9,900、紫外可視吸収極大522nm。
【0132】
本反応は副生成物を生じない付加反応であるため、収率は高分子の重量増加を定量することで容易に算出できた。NMRで構造を確認したところ、低分子化合物と同様に副反応なく進行していたため、定量的な収率が達成できた。
IRでは、前駆体のアルキンに由来する微弱な伸縮振動吸収2213cm-1が消失し、新たに2220cm-1にシアノ基由来の非常に強力な伸縮振動吸収が現れた。また、紫外可視吸収スペクトルをジクロロメタン中で測定したところ、図1に示すように、前駆体では吸収極大が398nmあったのに対し、テトラシアノエチレン付加体では522nmへと長波長シフトしていた。これは、分子内のドナーアクセプター相互作用に由来した電荷移動吸収であり、目的とする構造が得られていることの証明にもなる。
【0133】
室温ジクロロメタン中(0.1M テトラ-n-ブチルアンモニウム過塩素酸塩)で電気化学測定したところ、図2に示すように、テトラシアノエチレンの反応前後で明確な違いが現れた。
反応前は、約0.30V(vs. Ag/Ag+)から約0.80Vまで可逆な酸化波が観測されたが、明確な試料由来の還元波は観測されなかった。しかしながら、反応後は、約0.44〜0.89Vの範囲で可逆な酸化波が観測された。また、-0.85Vに不可逆な還元波が新たに現れた。反応後に芳香族アミン高分子の酸化電位がアノード側にシフトしたことは、分子内で電子吸引性のテトラシアノブタジエン構造と共役系を介して相互作用していることをしめしている。また、無置換テトラシアノブタジエンの還元電位は-0.31V(vs. Fc+/Fc)と見積もられているため(非特許文献4、1889頁)、テトラシアノブタジエン骨格由来の還元電位も電子供与性の芳香族アミン高分子と共役連結することでカソード側にシフトした。
【0134】
本目的高分子構造は、テトラシアノエチレンと電子豊富アルキン含有高分子との高分子反応によってのみ合成できることも特徴である。すなわち、以下に示すように、予めテトラシアノエチレンを反応させたテトラシアノブタジエンモノマーの重縮合では合成できない。シアノ基を含むモノマーはPd触媒がシアノ基に配位してしまうため、反応が進行しなくなる。また、電子吸引基が置換したアミノ基は、窒素上の電子密度が減少するため触媒反応が進行しにくくなることも理由の一つである。
【0135】
【化30】

【0136】
【化31】

【0137】
アルキン含有芳香族ポリアミン前駆体10mgを5.0mLのジクロロエタンに溶解した後、窒素雰囲気下でテトラシアノエチレン2.1mgを加えた。室温で1時間攪拌後、溶媒を減圧除去して目的とするテトラシアノブタジエン構造含有芳香族ポリアミン(共役高分子化合物2)を得た。
収率100%、IR (2925, 2853, 2218, 1605, 1490, 1464, 1440, 1384, 1347, 1318, 1270, 1177, 945, 820, 671 cm-1)、1H NMR (0.62-1.83(m, alkyl), 3.14(s, Me), 6.67-7.77(m, Ar)))、数平均分子量14,400、重量平均分子量28,800、紫外可視吸収極大472nm。
【0138】
GPCより算出した重量平均分子量は、テトラシアノエチレンとの反応後に減少した。これは、分子内でシアノ基間の双極子相互作用が多数存在するため、高分子の流体力学体積が減少したためと考えられる。分子量を直接検出できるMALDI-TOF MS測定(マトリックス:2-(4-ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸)したところ、前駆体高分子にテトラシアノエチレンの分子量が加算されたピークが多数検出されたことより、確かに目的高分子が得られていると判断した。IRより2208cm-1のアルキン伸縮振動が消失し、新たに2218cm-1に強力なシアノ基の伸縮振動が現れた。前駆体のジクロロメタン中の紫外可視吸収403nmは、テトラシアノエチレンとの反応後に472nmへと長波長シフトしており、確かに分子内で電荷移動相互作用が存在していた。
また、電気化学測定では、図3に示すように、完全に可逆な還元波が観測され、繰り返し掃引しても安定であった。これは、側鎖末端に電子供与性のジメチルアミノ基を導入したことにより化学的安定性が増加したためである。
【実施例3】
【0139】
(Rが水素である共役高分子化合物の合成)
【0140】
【化32】

【0141】
アルキン含有芳香族ポリアミン前駆体8.0mgを1.0mLのTHFに溶解した後、窒素雰囲気下でテトラシアノエチレン2.0mgを加えた。室温で1時間攪拌後、溶媒を減圧除去して目的とするテトラシアノブタジエン構造含有芳香族ポリアミン(共役高分子化合物3)を得た。
収率100%、IR (2927, 2855, 2222, 2197, 1722, 1595, 1498, 1465, 1441, 1321, 1280, 1185, 1113, 1069, 1036, 957, 836, 748, 680, 621 cm-1)、1H NMR (0.94-1.93(m, alkyl), 6.72-7.55(m, Ar))、紫外可視吸収極大516nm。
【0142】
アルキン片末端に芳香環を持たない高分子では、化学的安定性が減少した。希薄溶液中ではテトラシアノブタジエン構造含有高分子は安定であったが、一度溶媒を減圧除去して固化させると、ある一定割合で溶媒に再溶解しない成分が生成した。テトラシアノブタジエン骨格の3位活性水素部位で分子間反応が生起し、不溶成分となったと考えられる。低分子類似構造の場合は、固体にしても十分に安定であるため、高分子特有の現象である。
前駆体のジクロロメタン中の紫外可視吸収は391nmに観測されたが、テトラシアノエチレンとの反応後のジクロロメタン可溶成分では516nmへと長波長シフトした。また、電気化学測定では、繰り返し掃引すると電流値が徐々に増大し、電極表面に吸着・副反応している可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の共役高分子化合物は、電子状態が制御されているため、有機薄型太陽電池等に用いる有機半導体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】共役高分子化合物1における、テトラシアノエチレン反応前後の紫外可視吸収スペクトル示す図である。
【図2】共役高分子化合物1における、テトラシアノエチレン反応前後の電気化学応答挙動を示す図である。
【図3】共役高分子化合物2における、テトラシアノエチレン反応前後の電気化学応答挙動を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I)で示される共役高分子化合物。
【化1】

(式中、Rは、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、電子供与性基又はπ結合を有する基を表し、R及びRは、π結合を有する基又は単結合を表す(ただし、R及びRの少なくとも一方は電子供与性基を表し、R、R及びRのうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表す)。Rは、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。Rは、π結合を有する基からなる1種又は2種以上のモノマー構成単位を表す。x,y及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100及びx+y+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の共役高分子化合物において、R及びRの少なくとも一方が、パラ位とオルト位の少なくとも一方にアミンを有するフェニル基又は置換基を有していてもよいフェロセン含有基のいずれかの電子供与性基であることを特徴とする、共役高分子化合物。
【請求項3】
請求項2に記載の共役高分子化合物において、R及びRの少なくとも一方が、パラ位とオルト位の少なくとも一方にアミンを有するフェニル基であることを特徴とする、共役高分子化合物
【請求項4】
請求項3に記載の共役高分子化合物において、Rが、パラ位にアミンを有するフェニル基であることを特徴とし、次の一般式(II)で示される共役高分子化合物。
【化2】

(式中、Rは、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。R及びRは、π結合を有する基又は単結合を表し、R及びRのうち少なくとも一方は、π結合を有する基を表す。Rは、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。Rは、π結合を有する基からなる1種又は2種以上のモノマー構成単位を表す。x,y及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100及びx+y+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【請求項5】
請求項4に記載の共役高分子化合物において、Rが、π結合を有する基又は電子供与性基であることを特徴とする、共役高分子化合物。
【請求項6】
請求項5に記載の共役高分子化合物において、Rが単結合であり、Rがπ結合を有する基であり、Rが二重結合であり、かつ、zが0であることを特徴とし、次の一般式(III)で示される共役高分子化合物。
【化3】

(式中、Rは、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、π結合を有する基を表す。x及びyは、それぞれ、0≦x<l00、0<y≦100及びx+y=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【請求項7】
請求項2に記載の共役高分子化合物において、Rが、パラ位とオルト位の少なくとも一方にアミンを有するフェニル基であり、Rが、π結合を有する基であることを特徴とする、共役高分子化合物。
【請求項8】
請求項1に記載の共役高分子化合物において、Rが、π結合を有する基からなる2種のモノマー構成単位であり、次の一般式(IV)で示される共役高分子化合物。
【化4】

(式中、R及びR´は、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。R及びR´は、電子供与性基又はπ結合を有する基を表し、R、R´、R、及びR´は、π結合を有する基又は単結合を表す(ただし、R及びRの少なくとも一方は電子供与性基を表し、R´及びR´の少なくとも一方は電子供与性基を表す。また、R、R及びRのうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表し、R´、R´及びR´のうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表す)。R及びR´は、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。x,y、z及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100、0<z<100及びx+y+z+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【請求項9】
電子供与性基が、パラ位とオルト位の少なくとも一方にアミンを有するフェニル基、パラ位とオルト位の少なくとも一方にアルコキシ基を有するフェニル基、アミノ基、モノ置換アミノ基、ジ置換アミノ基、置換基を有していてもよいフェロセン含有基、置換基を有していてもよいチオフェン含有基、置換基を有していてもよいピロール含有基及び置換基を有していてもよいカルバゾール含有基からなる群から選択される電子供与性基であることを特徴とする、請求項1〜6及び8のいずれかに記載の共役高分子化合物。
【請求項10】
電子供与性基が、パラ位又はオルト位にアミンを有するフェニル基であることを特徴とする、請求項9に記載の共役高分子化合物。
【請求項11】
π結合を有する基が、チオフェン、フェニレン、フェニレンビニレン、フルオレン、フェニレンエチニレン、ビニレン、エチニレン、チアゾール、ベンゾジチオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェン、シクロペンタジチオフェン、トリフェニルアミン、ピロール、2,1,3−ベンゾチアジアゾール、チエノピラジン及び1H‐ベンゾ[de]アントラセンからなる群から選択される一以上の化学構造を含む基であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の共役高分子化合物。
【請求項12】
キノイド型構造を有するアリール基が、シクロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジイリデン基、2,3,5,6−テトラフルオロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジイリデン基、ナフタレン−2,6−ジイリデン基、アントラセン−9,10−ジイリデン基からなる群から選択される基であることを特徴とする、請求項1〜5及び7〜11のいずれかに記載の共役高分子化合物。
【請求項13】
次の一般式(V)で示される共役高分子化合物に、次の一般式(VI)で示される化合物を反応させて、次の一般式(I)で示される共役高分子化合物を得る下記反応式(1)に示される工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の共役高分子化合物の製造方法。
【化5】

(式中、Rは、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、電子供与性基又はπ結合を有する基を表し、R及びRは、π結合を有する基又は単結合を表す(ただし、R及びRの少なくとも一方は電子供与性基を表し、R、R及びRのうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表す)。Rは、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。Rは、π結合を有する基からなる1種又は2種以上のモノマー構成単位を表す。x,y及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100及びx+y+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【請求項14】
次の一般式(VII)で示される共役高分子化合物に、次の一般式(A−1)で示されるテトラシアノエチレンを反応させて、次の一般式(III)で示される共役高分子化合物を得る下記反応式(2)に示される工程を含むことを特徴とする、請求項6に記載の共役高分子化合物の製造方法。
【化6】

(式中、Rは、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、π結合を有する基を表す。x,及びyは、それぞれ、0≦x<l00、0<y≦100及びx+y=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【請求項15】
請求項14に記載の製造方法において、さらに、次の一般式(VIII)で示される化合物と次の一般式(IX)で示される化合物を反応させて、次の一般式(VII)で示される共役高分子化合物を合成する下記反応式(3)で示される工程を含むことを特徴とする、共役高分子化合物の製造方法。
【化7】

(式中、Rは、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、π結合を有する基を表す。Xは、ハロゲン原子を表す。x+yはモノマーが重合してポリマーとなっていることを表す。)
【請求項16】
下記(A)〜(C)の工程を含むことを特徴とする、共役高分子化合物の製造方法:
(A)次の一般式(V)で示される共役高分子化合物と次の一般式(VI)で示される化合物の存在比を変えることにより、下記反応式(1)で示される反応を複数行う工程;
(B)前記(A)の工程により得られた次の一般式(I)で示される共役高分子化合物であって、xとyの比が異なる複数の共役高分子化合物について、電子状態の測定を行う工程;
(C)所望の電子状態を持つ共役高分子化合物を選択する工程。
【化8】

(式中、Rは、水素原子、π結合を有する基又は電子供与性基を表す。Rは、電子供与性基又はπ結合を有する基を表し、R及びRは、π結合を有する基又は単結合を表す(ただし、R及びRの少なくとも一方は電子供与性基を表し、R、R及びRのうち少なくとも一つはπ結合を有する基を表す)。Rは、キノイド型構造を有するアリール基又は二重結合を表す。Rは、π結合を有する基からなる1種又は2種以上のモノマー構成単位を表す。x,y及びzはそれぞれ、0≦x<l00、0<y≦100、0≦z<100及びx+y+z=100の式を満たす自然数であって、モノマーの重合比を示す数値を表す。)
【請求項17】
前記(C)の工程において、HOMO準位が5.2〜5.6eVであり且つLUMO準位が3.7〜4.1eVである共役高分子化合物を選択することを特徴とする、請求項16に記載の共役高分子化合物の製造方法。
【請求項18】
請求項16及び17のいずれかに記載の製造方法により得られた、共役高分子化合物。
【請求項19】
請求項1〜12及び18のいずれかに記載の共役高分子化合物を含む、有機薄膜太陽電池用のp型導電性高分子材料。
【請求項20】
第1電極層と、請求項19に記載されたp型導電性高分子材料を含む光電変換層と、第2電極層とを含むことを特徴とする、有機薄膜太陽電池素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−270011(P2009−270011A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121632(P2008−121632)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】