説明

電子部品及びその製造方法

【課題】電気的特性及び信頼性を向上させつつ、回路基板上への良好な高密度実装や低背実装が可能な小型の電子部品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】鉄(Fe)とケイ素(Si)とクロム(Cr)を含有する軟磁性合金粒子群の集合体からなるドラム型のコア部材11と、該コア部材11に巻回されたコイル導線12と、コイル導線12の端部13A、13Bが接続される一対の端子電極16A、16Bと、上記巻回されたコイル導線12を被覆する、磁性粉含有樹脂からなる外装樹脂部18と、を備え、上記磁性粉含有樹脂のうち樹脂材料のみが、コア部材11の表面から内部方向に所定の深さで浸透した部分11dを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品及びその製造方法に関し、特に、基材上に設けられた電気的な機能を有する部品や回路を保護する外装構造を備えた電子部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材や基板上に設けられた電気的な機能を有する部品や回路を、樹脂材料により被覆保護した樹脂外装(又は、樹脂封止)構造の電子部品が知られている。ここで、携帯電話機等の可搬型の電子機器に搭載される電子部品においては、使用環境(温度や湿度等)の変化に対して高い耐久性を有していることが信頼性の点からも強く求められている。
【0003】
このような電子部品の例としては、例えば特許文献1に記載されているように、ドラム型のフェライトコアに導線を巻回し、当該導線を外装用の樹脂材料により被覆保護した面実装型の巻線型インダクタが知られている。ここで、特許文献1には、外装用の樹脂材料の組成を調整することにより、フェライトコアと外装樹脂の線膨張係数を近づけて、温度環境の変化に対する耐久性を高めることが開示されている。なお、このようなフェライトコアを適用したインダクタは、一般に外形寸法(特に高さ寸法)の小型化が可能であることから、回路基板上への高密度実装や低背実装に適しているという特長を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−016217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子機器の小型薄型化や高機能化に伴って、電子機器の小型薄型化や高機能化に伴って、所望の電気的特性(例えばインダクタ特性)及び高い信頼性を有しつつ、さらなる高密度実装や低背実装が可能な電子部品(例えばインダクタ)が求められている。また、一方では、電子機器の低価格下に対応するため、信頼性を低下させることなく、生産性をさらに向上させることができる電気部品の製造方法が求められている。
【0006】
本発明は、電気的特性及び信頼性を向上させつつ、回路基板上への良好な高密度実装や低背実装が可能な小型の電子部品及びその製造方法を提供することを第1の目的とする。
また、本発明は、所望の電気的特性及び信頼性を有しつつ、生産性の向上が可能な小型の電子部品及びその製造方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明に係る電子部品は、
軟磁性合金粒子の集合体からなる基材と、
基材に巻回された被覆導線と、
フィラーを含む樹脂材料からなり、前記被覆導線部の外周を被覆する外装樹脂部と、
を備え、
前記基材は、前記外装樹脂部が接する界面から前記基材内部に前記樹脂材料が浸透していることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電子部品において、
前記基材は、前記界面から前記基材内部に10〜30μmの深さで前記樹脂材料が浸透していることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載の電子部品において、
前記外装樹脂部を構成する前記樹脂材料は、前記フィラーを50vol%以上含有することを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の電子部品において、
前記基材は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10〜25%であることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の電子部品において、
前記基材は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する前記軟磁性合金粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の電子部品において、
前記鉄よりも酸化しやすい元素は、クロムであって、
前記軟磁性合金は、少なくとも、クロムが2〜15wt%含有されることを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の電子部品において、
前記電子部品は、
柱状の巻芯部及びその両端に設けられた一対の鍔部を有する前記基材と、前記基材の前記巻芯部に巻回された前記被覆導線と、前記鍔部の外表面に設けられ、前記被覆導線の両端部が接続された一対の端子電極と、前記被覆導線部の外周を被覆するように前記一対の鍔部間に設けられた前記外装樹脂部と、を備え、
少なくとも前記外装樹脂部が接し、前記一対の鍔部の対向する面に、前記樹脂材料が浸透していることを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の発明に係る電子部品の製造方法は、
軟磁性合金粒子の集合体からなる基材に被覆導線を巻回する工程と、
前記被覆導線部の外周を被覆するように、前記基材の表面に、第1の含有率のフィラーを含む樹脂材料を塗布する工程と、
前記外装樹脂部が接する界面から前記基材内部に所定の深さで、前記樹脂材料を浸透させる工程と、
前記樹脂材料を乾燥、硬化させて、前記フィラーの含有率を前記第1の含有率よりも高い第2の含有率に変化させた前記樹脂材料からなる外装樹脂部を形成する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0015】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の電子部品の製造方法において、
前記基材に前記樹脂材料を浸透させる工程は、前記界面から前記基材内部に10〜30μmの深さで前記樹脂材料を浸透させることを特徴とする。
【0016】
請求項10記載の発明は、請求項8又は9記載の電子部品の製造方法において、
前記樹脂材料を塗布する工程は、前記樹脂材料に含有される前記フィラーの前記第1の含有率が40vol%以上であることを特徴とする。
【0017】
請求項11記載の発明は、請求項8乃至10のいずれかに記載の電子部品の製造方法において、
前記基材は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10〜25%であることを特徴とする。
【0018】
請求項12記載の発明は、請求項8乃至11のいずれかに記載の電子部品の製造方法において、
前記基材は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする。
【0019】
請求項13記載の発明は、請求項12記載の電子部品の製造方法において、
前記鉄よりも酸化しやすい元素は、クロムであって、
前記軟磁性合金は、少なくとも、クロムが2〜15wt%含有されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電気的特性及び信頼性を向上させつつ、回路基板上への良好な高密度実装や低背実装が可能な小型の電子部品及びその製造方法を提供することができ、当該電子部品を搭載する電子機器の小型薄型化や高機能化、信頼性の向上に寄与することができる。
【0021】
また、本発明によれば、所望の電気的特性及び信頼性を有しつつ、生産性の向上が可能な小型の電子部品及びその製造方法を提供することができ、所定の信頼性を有する電子部品のコスト削減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る電子部品として適用される巻線型インダクタの一実施形態を示す概略斜視図である。
【図2】本実施形態に係る巻線型インダクタの内部構造を示す概略断面図である。
【図3】本実施形態に係る巻線型インダクタの製造方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る電子部品の基材に適用される軟磁性合金粒子の集合体(成形体)とフェライトとにおける、樹脂材料の浸透に関する特性を示す図である。
【図5】本発明に係る基材とフェライトからなる基材とにおける表面近傍の断面を示す模式図である。
【図6】本発明に係る基材における表面近傍の断面を説明するための拡大模式図である。
【図7】本発明に係る基材とフェライトからなる基材とに磁性粉含有樹脂を塗布した場合における、無機フィラーの含有率と線膨張係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る電子部品及びその製造方法について、実施形態を示して詳しく説明する。ここでは、本発明に係る電子部品として、巻線型インダクタを適用した場合について説明する。なお、ここで示す実施形態は、本発明に係る電子部品として適用可能な一例を示すものであって、これに何ら限定されるものではない。
【0024】
まず、本発明に係る電子部品として適用される巻線型インダクタの概略構成について説明する。
(巻線型インダクタ)
図1は、本発明に係る電子部品として適用される巻線型インダクタの一実施形態を示す概略斜視図である。ここで、図1(a)は、本実施形態に係る巻線型インダクタを上面側(上鍔部側)から見た概略斜視図であり、図1(b)は、本実施形態に係る巻線型インダクタを底面側(下鍔部側)から見た概略斜視図である。図2は、本実施形態に係る巻線型インダクタの内部構造を示す概略断面図である。ここで、図2(a)は、図1(a)に示したA−A線に沿った巻線型インダクタの断面を示す図であり、図2(b)は、図2(a)に示したB部を拡大した要部断面図である。
【0025】
本実施形態に係る巻線型インダクタは、図1、図2に示すように、概略、ドラム型のコア部材11と、該コア部材11に巻回されたコイル導線12と、コイル導線12の端部13A、13Bが接続される一対の端子電極16A、16Bと、上記巻回されたコイル導線12の外周を被覆する、磁性粉含有樹脂からなる外装樹脂部18と、を有している。
【0026】
具体的には、コア部材11は、図1(a)、図2(a)に示すように、コイル導線12が巻回される柱状の巻芯部11aと、該巻芯部11aの図面上端に設けられた上鍔部11bと、巻芯部11aの図面下端に設けられた下鍔部11cとを備え、その外観はドラム型の形状を有している。
【0027】
ここで、図1、図2(a)に示すように、上記コア部材11の巻芯部11aは、所定の巻回数を得るために必要なコイル導線12の長さをより短くできるように、断面が略円形もしくは円形であることが好ましいが、これに限定されるものではない。コア部材11の下鍔部11cの外形は、高密度実装に対応して小型化を図るために、平面視形状が略四角形もしくは四角形であることが好ましいが、これに限定されるものではなく、多角形や略円形等であってもよい。また、上記コア部材11の上鍔部11bの外形は、高密度実装に対応して小型化を図るために、下鍔部11cに対応して類似の形状であることが好ましく、さらに、下鍔部11cと同サイズもしくは下鍔部11cよりやや小さめのサイズであることが好ましい。
【0028】
このように、巻芯部11aの上端及び下端に上鍔部11b及び下鍔部11cを設けることにより、巻芯部11aに対するコイル導線12の巻回位置を制御しやすくなり、インダクタの特性を安定させることができる。また、上鍔部11bの四隅に適宜面取り等を施すことにより、上鍔部11b及び下鍔部11c間に、後述する外装樹脂部18を構成する磁性粉含有樹脂を容易に充填することができる。なお、上鍔部11b及び下鍔部11cの厚さは、その下限値が上記コア部材11における巻芯部11aからの上鍔部11b及び下鍔部11cのそれぞれの張り出し寸法を考慮して、所定の強度を満足するように適宜設定される。
【0029】
また、図1(b)、図2(a)に示すように、コア部材11の下鍔部11cの底面(外表面)11Bには、巻芯部11aの中心軸CLの延長線を挟んで一対の端子電極16A、16Bが設けられている。ここで、底面11Bには、一対の端子電極16A、16Bが形成される領域(電極形成領域)に、例えば図1(b)、図2(a)に示すように、溝15A、15Bが形成されているものであってもよい。
【0030】
ここで、本実施形態に係る巻線型インダクタ10においては、上記コア部材11の吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10〜25%である、多孔質の成形体が適用される。具体的には、本実施形態に係る巻線型インダクタにおいては、コア部材11として、例えば、鉄(Fe)と、ケイ素(Si)と、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には、当該軟磁性合金粒子が酸化した酸化層が形成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して、上記鉄よりも酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士が当該酸化層を介して結合されて構成された、多孔質の成形体を適用することができる。特に、本実施形態においては、上記鉄よりも酸化しやすい元素として、クロム(Cr)を適用することができ、上記軟磁性合金粒子は、少なくともクロムが2〜15wt%含有されていることが好ましく、また、軟磁性合金粒子の平均粒径が概ね2〜30μm程度であることがより望ましい。
【0031】
このように、コア部材11を構成する軟磁性合金粒子におけるクロムの含有率や、当該軟磁性合金粒子の平均粒径を上記の範囲内で適宜設定することにより、高い飽和磁束密度Bs(1.2T以上)と高い透磁率μ(37以上)を実現することができるとともに、100kHz以上の周波数においても、粒子内で渦電流損失が生じることを抑制することができる。そして、この高い透磁率μ、及び、高い飽和磁束密度Bsを有することにより、本実施形態に係る巻線型インダクタ10は、優れたインダクタ特性(インダクタンス−直流重畳特性:L−Idc特性)を実現することができる。
【0032】
また、コイル導線12は、図2(a)に示すように、銅(Cu)や銀(Ag)等からなる金属線13の外周に、ポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂等からなる絶縁被覆14が形成された被覆導線が適用される。そして、コイル導線12は、上記コア部材11の柱状の巻芯部11aの周囲に巻回されるとともに、図1、図2(a)に示すように、一方及び他方の端部13A、13Bが、絶縁被覆14が除去された状態で、上記端子電極16A、16Bにそれぞれ半田17A、17Bにより導電接続されている。
【0033】
ここで、コイル導線12は、例えば直径0.1〜0.2mmの被覆導線が、コア部材11の巻芯部11aの周囲に3.5〜15.5回巻回されている。コイル導線12に適用される金属線13は、単線に限定されるものではなく2本以上の線や、撚り線であってもよい。また、該コイル導線12の金属線13は、円形の断面形状を有するものに限定されるものではなく、例えば長方形の断面形状を有する平角線や、正方形の断面形状を有する四角線等を用いることもできる。また、上記端子電極16A、16Bが溝15A、15Bの内部に設けられる場合には、コイル導線12の端部13A、13Bの直径が、溝15A、15Bの深さよりも大きくなるように設定されていることが好ましい。
【0034】
なお、上述したコイル導線12の端部13A、13Bと端子電極16A、16Bとの半田による導電接続とは、両者が半田を介して導電接続されている箇所を有しているものであればばよく、半田のみで導電接続されているものに限らない。例えば、端子電極16A、16Bと上記コイル導線12の端部13A、13Bとが熱圧着により金属間結合で接合された箇所を有するとともに、該接合箇所を覆うように半田で被覆された構造を有しているものであってもよい。
【0035】
端子電極16A、16Bは、例えば図1(b)、図2(a)に示すように、溝15A、15B内に設けられる場合には、当該溝15A、15Bに沿って延在するコイル導線12の各端部13A、13Bに接続されている。また、端子電極16A、16Bは、種々の電極材料を用いることができ、例えば、銀(Ag)、銀(Ag)とパラジウム(Pd)の合金、銀(Ag)と白金(Pt)の合金、銅(Cu)、チタン(Ti)とニッケル(Ni)とスズ(Sn)の合金、チタン(Ti)と銅(Cu)の合金、クロム(Cr)とニッケル(Ni)とスズ(Sn)の合金、チタン(Ti)とニッケル(Ni)と銅(Cu)の合金、チタン(Ti)とニッケル(Ni)と銀(Ag)の合金、ニッケル(Ni)とスズ(Sn)の合金、ニッケル(Ni)と銅(Cu)の合金、ニッケル(Ni)と銀(Ag)の合金、リン青銅等を良好に適用することができる。これらの電極材料を用いた端子電極16A、16Bとしては、例えば銀(Ag)や、銀(Ag)を含む合金等にガラスを添加した電極ペーストを上記溝15A、15B内や、下鍔部11cの底面11Bに塗布し、所定の温度で焼き付ける形成方法により得られる焼付電極を良好に適用することができる。また、端子電極16A、16Bの他の形態としては、例えばリン青銅板等からなる板状部材(フレーム)を、エポキシ系の樹脂等からなる接着剤を用いて下鍔部11cの底面11Bに接着する手法により得られる電極フレームも良好に適用することができる。また、端子電極16A、16Bのさらに他の形態としては、例えばチタン(Ti)や、チタン(Ti)を含む合金等をスパッタリング法や蒸着法等を用いて、上記溝15A、15B内や、下鍔部11cの底面11Bに金属薄膜を形成する方法により得られる電極膜も良好に適用することができる。なお、端子電極16A、16Bとして、上述した焼付電極や電極膜を適用する場合には、その表面に、電解メッキによりニッケル(Ni)やスズ(Sn)等の金属メッキ層が形成されているものであってもよい。
【0036】
外装樹脂部18は、磁性粉含有樹脂が、図2(a)に示すように、コア部材11の対向する上鍔部11b及び下鍔部11c間の巻芯部11aに巻回されたコイル導線12の外周を被覆し、かつ、巻芯部11aと、上鍔部11b及び下鍔部11cに囲まれた領域に充填されるように設けられている。
【0037】
磁性粉含有樹脂は、巻線型インダクタ10の使用温度範囲において所定の粘弾性を有する樹脂材料に、磁性粉や例えばシリカ(SiO)等の無機材料からなる無機フィラーが所定の比率で含有されているものが適用される。より具体的には、硬化時の物性として温度に対する剛性率の変化において、ガラス状態からゴム状態に移行する過程におけるガラス転移温度が100〜150℃の磁性粉含有樹脂を良好に適用することができる。
【0038】
ここで、樹脂材料としては、例えばシリコン樹脂を良好に適用することができ、コア部材11の上鍔部11b及び下鍔部11c間に磁性粉含有樹脂を装入する工程におけるリードタイムを短縮するためには、例えばエポキシ樹脂とカルボキシル基変性プロピレングリコールとの混合樹脂を適用することができる。
【0039】
また、磁性粉含有樹脂に含有される無機フィラーとしては、Fe−Cr−Si合金又はMn−Znフェライト又はNi−Znフェライト等からなる種々の磁性粉や、粘弾性調整のためにシリカ(SiO)等を用いることができるが、所定の透磁率を有する磁性粉として、例えばコア部材11を構成する軟磁性合金粒子と同一の組成を有する磁性粉末、あるいは、当該磁性粉末を含有するものを用いることが好ましい。この場合、上記磁性粉の平均粒径は、概ね2〜30μm程度であることが好ましい。また、磁性粉含有樹脂は、磁性粉からなる無機フィラーを、概ね50vol%以上含有していることが好ましい。
【0040】
そして、本実施形態に係る巻線型インダクタ10においては、図2(a)、(b)に示すように、多孔質のコア部材11の上鍔部11b及び下鍔部11cに、外装樹脂部18を構成する磁性粉含有樹脂が接する領域において、上記磁性粉含有樹脂のうち樹脂材料のみが、コア部材11に外装樹脂部18が接する界面(すなわち、コア部材11の表面)からコア部材11の内部方向に所定の深さで浸透した部分11dを有していることを特徴としている。ここで、樹脂材料がコア部材11の内部方向に浸透している深さは、概ね10〜30μmであることが好ましい。
【0041】
このように、外装樹脂部18を構成する磁性粉含有樹脂のうち樹脂材料のみがコア部材11に浸透した部分を有することにより、少なくとも、コア部材11に外装樹脂部18が接する界面近傍の磁性粉含有樹脂に含まれる無機フィラーの比率(含有率)を相対的に上昇させて、当該磁性粉含有樹脂の線膨張係数を低下させることができるので、コア部材11の線膨張係数との差を小さくして、巻線型インダクタ10の使用環境の変化(特に、温度変化)に対する耐性を向上させることができる。あるいは、巻線型インダクタ10の使用環境の変化(特に、温度変化)に対する耐性を維持しつつ、外装樹脂部18を構成する磁性粉含有樹脂に含まれる無機フィラーの比率(含有率)を低く設定することができるので、上鍔部11b及び下鍔部11c間に磁性粉含有樹脂を充填する塗布工程において、磁性粉含有樹脂の吐出性や流動性を改善して巻線型インダクタ10の生産性を向上させることができる。
【0042】
(巻線型インダクタの製造方法)
次に、上述した巻線型インダクタの製造方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る巻線型インダクタの製造方法を示すフローチャートである。
上述した巻線型インダクタは、図3に示すように、概略、コア部材製造工程S101と、端子電極形成工程S102と、コイル導線巻回工程S103と、外装工程S104と、コイル導線接合工程S105と、を経て製造される。
【0043】
(a)コア部材製造工程S101
コア部材製造工程S101においては、まず、鉄(Fe)と、ケイ素(Si)と、クロム(Cr)とを所定の比率で含有する軟磁性合金の粒子群を原料粒子として、所定の結合剤を混合して所定の形状の成形体を形成する。具体的には、クロム2〜15wt%、ケイ素0.5〜7wt%、残部に鉄を含有する原料粒子に、例えば熱可塑性樹脂などの結合剤(バインダ)を添加し、攪拌混合させて造粒物を得る。次いで、この造粒物を粉末成形プレスを用いて圧縮成形して成形体を形成し、例えば研削ディスクを用いてセンターレス研摩により上鍔部11b及び下鍔部11c間に、柱状の巻芯部11aが形成されるように凹部を形成してドラム形の成形体を得る。
【0044】
次いで、得られた成形体を焼成する。具体的には、上記成形体を大気中で400〜900℃で熱処理する。このように、大気中で熱処理を行うことで、混合した熱可塑性樹脂を脱脂(脱バインダ処理)するとともに、もともと粒子中に存在し熱処理により表面に移動してきたクロムと、粒子の主成分である鉄を酸素と結合させながら、金属酸化物からなる酸化層を粒子表面に生成させ、かつ、隣接する粒子の表面の酸化層同士を結合させる。生成された酸化層(金属酸化物層)は、主に鉄とクロムからなる酸化物であり、粒子間の絶縁を確保しつつ、軟磁性合金粒子の集合体からなるコア部材11を提供することができる。
【0045】
ここで、上記原料粒子の例としては、水アトマイズ法で製造した粒子を適用することができ、原料粒子の形状の例として、球状、扁平状があげられる。また、上記熱処理において、酸素雰囲気下での熱処理温度を上昇させると、結合剤が分解し、軟磁性合金の粒子が酸化される。このため、成形体の熱処理条件として、大気中、400〜900℃で、1分以上保持することが好ましい。この温度範囲内で熱処理を行うことにより、優れた酸化層を形成することができる。より好ましくは、600〜800℃である。大気中以外の条件、例えば、酸素分圧が大気と同程度の雰囲気中で熱処理してもよい。還元雰囲気又は非酸化雰囲気では、熱処理により金属酸化物からなる酸化層の生成が行われないため、粒子同士が焼結し体積抵抗率が著しく低下する。また、雰囲気中の酸素濃度、水蒸気量については特に限定されないが、生産面から考慮すると、大気あるいは乾燥空気であることが望ましい。
【0046】
上記熱処理において、400℃を越える温度に設定することにより、優れた強度と優れた体積抵抗率を得ることができる。一方、熱処理温度が900℃を超えると、強度は増加するものの、体積抵抗率の低下が発生する。また、上記熱処理温度での保持時間は、1分以上とすることにより鉄とクロムを含む金属酸化物からなる酸化層が生成されやすい。ここで、酸化層厚は一定値で飽和するため保持時間の上限はあえて設定しないが、生産性を考慮し2時間以下とすることが妥当である。
【0047】
このように、熱処理温度、熱処理時間、熱処理雰囲気中の酸素量等により、酸化層の形成を制御することができるので、熱処理条件を上記範囲とすることにより、優れた強度と優れた体積抵抗率を同時に満たし、酸化層を有する軟磁性合金粒子の集合体からなるコア部材11を製造することができる。
【0048】
なお、上記ドラム形の成形体は、原料粒子を含む造粒物により形成された成形体の周側面に、センターレス研摩により凹部を形成して得る方法に限定するものではなく、例えば、上記の造粒物を粉末成形プレスを用いて乾式一体成形することによりドラム形の成形体を得ることもできる。また、コア部材11のさらに他の製造方法としては、上述したように、予めドラム形の成形体を準備して焼成する方法に限定するものではなく、例えば、上記の造粒物により形成された成形体(周側面に凹部が形成されていない成形体)を準備した後、脱バインダ処理を行い、所定の温度で焼成した後に、当該焼結体の周側面にダイヤモンドホイール等を用いて凹部を切削加工により形成するものであってもよい。
【0049】
また、コア部材11の底面11Bに溝15A、15Bを形成する場合には、上記コア部材11の製造工程において、原料粒子を含む造粒物により成形体を形成する際に、押型の表面に予め一対の突条を設けておき、該成形体の成形と同時に形成する方法のほか、例えば、得られた成形体の表面に切削加工を施して一対の溝を形成するものであってもよい。
【0050】
(b)端子電極形成工程S102
次いで、端子電極形成工程S102においては、上記コア部材11の下鍔部11cの溝15A、15B内、又は、底面11Bに端子電極16A、16Bを形成する。ここで、端子電極16A、16Bの形成方法としては、上述したように、塗布した電極ペーストを所定の温度で焼き付ける方法や、電極フレームを接着剤を用いて接着する方法、スパッタリング法や蒸着法等を用いて薄膜形成する方法等、種々の手法を適用することができる。ここでは、一例として、製造コストが最も安価で、生産性の高い手法として電極ペーストを塗布して焼き付ける方法を示す。
【0051】
端子電極形成工程は、まず、電極材料(例えば銀や銅等、あるいは、これらを含む複数種類の金属材料)の粉末と、ガラスフリットとを含む電極ペーストを、上記溝15A、15B内、又は、下鍔部11cの底面11Bに塗布した後、コア部材11を熱処理することにより、端子電極16A、16Bを形成する。
【0052】
ここで、電極ペーストの塗布方法としては、例えばローラー転写法やパッド転写法等の転写法、スクリーン印刷法や孔版印刷法等の印刷法のほか、スプレー法やインクジェット法等を適用することができる。なお、端子電極16A、16Bが、上記溝15A、15B内に良好に収納されて、安定した幅寸法を有するためには、転写法を用いる方がより好ましい。
【0053】
また、電極ペーストにおける電極材料やガラスの含有量は、用いる電極材料の種類や組成等に応じて適宜設定される。なお、電極ペーストにおけるガラスは、例えばケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)等からなるガラス及び金属酸化物を含む組成を有している。また、下鍔部11cの底面11Bに電極ペーストを塗布した後のコア部材11の熱処理(電極焼き付け処理)は、例えば、大気雰囲気中や酸素濃度10ppm以下のNガス雰囲気中で、750〜900℃の温度条件で実行される。このような端子電極16A、16Bの形成方法により、コア部材11と所定の電極材料からなる導電層とが強固に接着される。
【0054】
(c)コイル導線巻回工程S103
次いで、コイル導線巻回工程S103においては、上記コア部材11の巻芯部11aに、被覆導線を所定回数巻回する。具体的には、上記コア部材11の巻芯部11aが露出するように、コア部材11の上鍔部11bを巻線装置のチャックに固定する。次いで、例えば直径0.1〜0.2mmの被覆導線を下鍔部11cの底面11Bに形成された端子電極16A、16B(又は、溝15A、15B)のいずれか一方側に仮固定した状態で切断してコイル導線12の一端側とする。その後、上記チャックを回転させて被覆導線を巻芯部11aに、例えば3.5〜15.5回巻回する。次いで、被覆導線を上記端子電極16A、16B(又は、溝15A、15B)の他方側に仮固定した状態で切断してコイル導線12の他端側とすることにより、巻芯部11aにコイル導線12が巻回されたコア部材11が形成される。コイル導線12の一端側及び他端側は、上述した端部13A、13Bに対応する。
【0055】
(d)外装工程S104
次いで、外装工程S104においては、上記コア部材11の上鍔部11bと下鍔部11cとの間であって、巻芯部11aの周囲に巻回されたコイル導線12の外周を被覆するように、無機フィラーが所定の比率で含有された磁性粉含有樹脂からなる外装樹脂部18が形成される。具体的には、例えばコア部材11を構成する軟磁性合金粒子と同一の組成を有する磁性粉が含有された磁性粉含有樹脂のペーストをディスペンサーにより、コア部材11の上鍔部11b及び下鍔部11c間の領域に吐出して、コイル導線12の外周を被覆するように充填する。次いで、例えば150℃で1時間加熱して、磁性粉含有樹脂のペーストを硬化させることにより、コイル導線12の外周を被覆する外装樹脂部18が形成される。
【0056】
ここで、コア部材11の上鍔部11bと下鍔部11cとの間に吐出、充填される磁性粉含有樹脂は、無機フィラーの含有率(第1の含有率)が、例えば概ね40vol%以上に設定され、加熱、硬化された後の磁性粉含有樹脂は、無機フィラーの含有率(第2の含有率)が、例えば概ね50vol%以上に設定されることが望ましい。また、この外装工程において、吐出、充填された磁性粉含有樹脂が接する領域のコア部材11(主に、上鍔部11b及び下鍔部11c;図2(a)参照)の表面からコア部材11の内部に、磁性粉含有樹脂のうち樹脂材料のみが浸透した部分11dが形成される。この場合の樹脂材料が浸透した部分11dの深さは、概ね10〜30μmに設定される。
【0057】
なお、本実施形態において、上記樹脂材料が浸透した部分11dの深さは、概ね、以下のような方法により測定される。まず、樹脂材料が浸透した部分11dの基材について、倍率1000〜5000倍で写真を10枚撮影する。次いで、撮影された各写真について、基材表面から樹脂材料の浸透した最大及び最小の距離を測定し、その中点となる距離を算出する。次いで、撮影された10枚の写真について、算出された上記各中点の距離を平均して、当該平均値を、樹脂材料が浸透した部分11dの深さと規定した。
【0058】
(e)コイル導線接合工程S105
次いで、コイル導線接合工程S105においては、まず、コア部材11に巻回されたコイル導線12の両端部13A、13Bの絶縁被覆14を剥離、除去する。具体的には、コア部材11に巻回されたコイル導線12の両端部13A、13Bに、被覆剥離溶剤を塗布することにより、あるいは、所定のエネルギーのレーザー光を照射することにより、コイル導線12の両端部13A、13B近傍の絶縁被覆14を形成する樹脂材料を溶解又は蒸発させて、完全に剥離、除去する。
【0059】
次いで、絶縁被覆14が剥離されたコイル導線12の両端部13A、13Bを、各端子電極16A、16Bに半田接合して、導電接続する。具体的には、絶縁被覆14が剥離されたコイル導線12の両端部13A、13Bを含む各端子電極16A、16B上に、フラックスを含有する半田ペーストを、例えば孔版印刷法により塗布した後、240℃に加熱されたホットプレートにより加熱押圧して、半田を溶融、固着させることにより、コイル導線12の両端部13A、13Bが各端子電極16A、16Bに半田17A、17Bにより接合される。端子電極16A、16Bへのコイル導線12の半田接合後、フラックス残渣を除去する洗浄処理が行われる。
【0060】
(作用効果の検証)
次に、本発明に係る電子部品及びその製造方法における作用効果について説明する。
【0061】
ここでは、本発明に係る電子部品の電極形成方法における作用効果を検証するために、比較対象として、電子部品の基材が周知のフェライトからなる場合を示す。なお、フェライトからなる基材を有する電子部品は、例えば、上述した巻線インダクタ等をはじめとして、既に一般に市販されて種々の電子機器に搭載されているものであって、使用環境(温度や湿度等)の変化に対する耐久性や生産性の向上のために、様々な構成や手法が考案されており、市場の高い評価を受けているものである。
【0062】
図4は、本発明に係る電子部品の基材に適用される軟磁性合金粒子の集合体(成形体)とフェライトとにおける、樹脂材料の浸透に関する特性を示す図である。ここで、図4(a)は、本発明に係る基材と、フェライトからなる基材とにおける吸水率、密度(見かけ密度、真密度)、空孔率の違いを示す表であり、図4(b)は、本発明に係る基材と、フェライトからなる基材とにおける吸水率の違いを示す図である。また、図5は、本発明に係る基材とフェライトからなる基材とにおける表面近傍の断面を示す模式図である。図5(a)は、本発明に係る基材における表面近傍の断面を示す模式図であり、図5(b)は、フェライトからなる基材における表面近傍の断面を示す模式図である。図6は、本発明に係る基材における表面近傍の断面を説明するための拡大模式図である。図6(a)は、本発明に係る基材における樹脂材料の浸透前の状態を示す拡大模式図であり、図6(b)は、本発明に係る基材における樹脂材料の浸透後の状態を示す拡大模式図である。
【0063】
上述したように、本発明に係る電子部品の基材に適用される軟磁性合金粒子の集合体は多孔質であるため、図4(a)、(b)に示すように、緻密な結晶構造を有する周知のフェライトと比較して、吸水率や空孔率が高い。具体的には、本発明に係る基材においては、例えば真密度が7.6g/cmの基体が見かけ密度6.2g/cmのとき、吸水率が2%、空孔率が18.4%と高い値を示す。これに対して、フェライトからなる基材においては、例えば真密度が5.35g/cmの基体が見かけ密度5.34g/cmのとき、吸水率が0.2%、空孔率が0.2%と、本発明に係る基材に比較して概ね1/10以下の低い値を示す。この状態を図5に示す。
【0064】
すなわち、図5(a)、図6(a)に示すように、本発明に係る基材においては、軟磁性合金粒子の表面に酸化膜が形成され、該酸化膜を介して軟磁性合金粒子同士が結合した構造を有しているため、基材表面から内部にかけて略同様に、軟磁性合金粒子間に比較的大きな空孔が存在する。これに対して、図5(b)に示すように、周知のフェライトからなる基材においては、緻密な結晶構造を有しているため、基材内部には空孔が略皆無の状態になっている。
【0065】
上述した実施形態においては、このような多孔質の基材に対して、磁性粉の含有率が第1の含有率となるように設定された磁性粉含有樹脂を塗布し、硬化させることにより、図6(a)、(b)に示すように、基材内部の軟磁性合金粒子間の空孔部分に、磁性粉含有樹脂の樹脂材料(例えばエポキシ樹脂等)のみが浸透して、相対的に磁性粉の含有率が第1の含有率よりも高い第2の含有率の磁性粉含有樹脂からなる外装樹脂部18が形成される。
【0066】
次に、上述した多孔質の基材に磁性粉含有樹脂を塗布した場合における、無機フィラーの含有比率と線膨張係数との関係について検証する。
図7は、本発明に係る基材とフェライトからなる基材とに磁性粉含有樹脂を塗布した場合における、無機フィラーの含有率と線膨張係数との関係を示すグラフである。
【0067】
上述したような多孔質の基材に磁性粉含有樹脂を塗布し、硬化させた場合の線膨張係数は、図7に示すように、磁性粉含有樹脂における無機フィラーの含有率の増加に伴って低下する傾向を示す。また、フェライトからなる基材に磁性粉含有樹脂を塗布し、硬化させた場合の線膨張係数は、図7に示すように、上記多孔質の基材の場合に比較して、例えば50%程度高い値を示すとともに、磁性粉含有樹脂における無機フィラーの含有率の増加に伴って低下する傾向を示す。ここで、上述したような多孔質の基材においては、塗布された磁性粉含有樹脂のうち樹脂材料が基材内に浸透しやすいため、磁性粉含有樹脂を硬化した後の磁性粉の含有率は、例えば5〜10vol%程度高くなる傾向を示すことが確認された。
【0068】
このことから、上述した実施形態に示したような巻線型インダクタにおいて、少なくとも、コア部材11に外装樹脂部18が接する界面近傍の磁性粉含有樹脂に含まれる磁性粉の比率(含有率)を相対的に上昇させて、当該磁性粉含有樹脂の線膨張係数を低下させることができるので、図7に示すように、コア部材11(特に上鍔部11b及び下鍔部11c)の線膨張係数との差を小さくして、巻線型インダクタ10の使用環境の変化(特に、温度変化)に対する耐性を向上させることができる。したがって、電子部品の信頼性を高めることができる。
【0069】
なお、上述した実施形態に示した巻線型インダクタにおいて、具体的な数値を示すと、例えば粒度6〜23μmの金属粉(例えばアトミクス株式会社製の4.5Cr3SiFe)を成形(例えば6.0〜6.6g/cm→理論空孔率22〜13%)、研削、焼き付けしてドラム型のコア部材11を製造する。次いで、当該コア部材11の下鍔部11cに端子電極16A、16Bを形成した後、巻芯部11aに被覆導線からなるコイル導線12を巻回する。次いで、巻回されたコイル導線12に磁性粉含有樹脂(例えば無機フィラー含有率55vol%)を塗布、硬化した後、端子電極16A、16Bとコイル導線12を半田接続することにより、巻線型インダクタ10を製造した。
【0070】
ここで、磁性粉含有樹脂を塗布、硬化する工程において、上述したように、磁性粉含有樹脂のうち樹脂材料のみがコア部材11内に浸透することにより、図7に示すように、無機フィラー含有率55vol%の磁性粉含有樹脂の線膨張係数は、樹脂材料の浸透がほとんど生じないフェライトからなる基材に磁性粉含有樹脂を塗布、硬化した場合の14ppm/℃程度に比較して、10ppm/℃程度の低い値を示すので、コア部材11との線膨張係数の差をより小さくすることができる。したがって、上述した作用効果の検証に示したように、電子部品又は当該電子部品が搭載される電子機器において、使用環境の変化に対する耐性を向上させて、信頼性(ヒートサイクル耐性)を高めることができる。また、コア部材11に磁性粉含有樹脂を塗布する際の吐出の流動性を維持しつつ、塗布後にコア部材11に樹脂材料を適度に浸透させることにより、磁性粉含有樹脂の流動性や濡れ性を制御することができ、生産性を向上させることができる。なお、このときの線膨張係数(10ppm/℃)を、フェライトからなる基材に適用した場合、図7に示すように、無機フィラーの含有率は59vol%程度に相当することになり、これは、磁性粉含有樹脂の吐出性及び流動性が著しく低下して、良好に塗布を行うことができない含有率に相当する。
【0071】
また、本実施形態における上述したような無機フィラー含有率と線膨張係数との関係は、換言すると、次のように言及することができる。すなわち、上記と同一の組成及び構造からなるコア部材11に端子電極16A、16Bを形成し、その後、巻芯部11aにコイル導線12を巻回する。次いで、巻回されたコイル導線12の外周に磁性粉含有樹脂(例えば無機フィラー含有率44vol%)を塗布、硬化した後、端子電極16A、16Bとコイル導線12を半田接続することにより、巻線型インダクタ10を製造した。
【0072】
ここで、この無機フィラー含有率44vol%の磁性粉含有樹脂を塗布、硬化する工程において、上述したように、磁性粉含有樹脂のうち樹脂材料のみがコア部材11内に浸透することにより、図7に示すように、線膨張係数は、例えば15ppm/℃程度の値を示す。この値は、樹脂材料の浸透がほとんど生じないフェライトからなる基材に、無機フィラーの含有率が53vol%程度の磁性粉含有樹脂を塗布、硬化した場合の線膨張係数に相当し、無機フィラー含有率がフェライトの場合より低くても、コア部材11の線膨張係数との差を比較的小さくすることができる。また、このとき、磁性粉含有樹脂のうち例えば5vol%の樹脂材料がコア部材11内に浸透すると仮定すると、磁性粉含有樹脂を塗布する際の無機フィラーの含有率を低く設定することができることになる。したがって、上述した作用効果の検証に示したように、電子部品の使用環境の変化(特に、温度変化)に対する耐性をある程度維持しつつ、外装工程において、塗布する磁性粉含有樹脂の吐出性や流動性を改善して、生産性を向上させることができる。なお、このときの無機フィラーの含有率(44vol%)を、フェライトからなる基材に適用した場合、図7に示すように、線膨張係数は22ppm/℃程度の高い値を示し、コア部材11の線膨張係数との差が極端に大きくなり、これは、電子部品の使用環境の変化に対して、十分な耐性を確保できない線膨張係数に相当する。
【0073】
なお、上述した実施形態においては、本発明に係る電子部品としてインダクタを適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、本発明に係る電子部品及びその製造方法は、多孔質の基材を有する電子部品に、無機フィラーを含有する樹脂材料(磁性粉含有樹脂)を塗布、硬化させて、電子部品を被覆保護するものであれば、他の電子部品であっても良好に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、回路基板上への面実装が可能な小型化されたインダクタ等の、外装構造を備えた電子部品に好適である。特に、多孔質の基材を有する電子部品において、使用環境に対する耐性を高めることができ極めて有効である。
【符号の説明】
【0075】
10 巻線型インダクタ
11 コア部材
11a 巻芯部
11b 上鍔部
11c 下鍔部
11d 樹脂材料が浸透した部分
12 コイル導線
16A、16B 端子電極
18 外装樹脂部
S101 コア部材製造工程
S102 端子電極形成工程
S103 コイル導線巻回工程
S104 外装工程
S105 コイル導線接合工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性合金粒子の集合体からなる基材と、
基材に巻回された被覆導線と、
フィラーを含む樹脂材料からなり、前記被覆導線部の外周を被覆する外装樹脂部と、
を備え、
前記基材は、前記外装樹脂部が接する界面から前記基材内部に前記樹脂材料が浸透していることを特徴とする電子部品。
【請求項2】
前記基材は、前記界面から前記基材内部に10〜30μmの深さで前記樹脂材料が浸透していることを特徴とする請求項1記載の電子部品。
【請求項3】
前記外装樹脂部を構成する前記樹脂材料は、前記フィラーを50vol%以上含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電子部品。
【請求項4】
前記基材は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10〜25%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電子部品。
【請求項5】
前記基材は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する前記軟磁性合金粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電子部品。
【請求項6】
前記鉄よりも酸化しやすい元素は、クロムであって、
前記軟磁性合金は、少なくとも、クロムが2〜15wt%含有されることを特徴とする請求項5記載の電子部品。
【請求項7】
前記電子部品は、
柱状の巻芯部及びその両端に設けられた一対の鍔部を有する前記基材と、前記基材の前記巻芯部に巻回された前記被覆導線と、前記鍔部の外表面に設けられ、前記被覆導線の両端部が接続された一対の端子電極と、前記被覆導線部の外周を被覆するように前記一対の鍔部間に設けられた前記外装樹脂部と、を備え、
少なくとも前記外装樹脂部が接し、前記一対の鍔部の対向する面に、前記樹脂材料が浸透していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の電子部品。
【請求項8】
軟磁性合金粒子の集合体からなる基材に被覆導線を巻回する工程と、
前記被覆導線部の外周を被覆するように、前記基材の表面に、第1の含有率のフィラーを含む樹脂材料を塗布する工程と、
前記外装樹脂部が接する界面から前記基材内部に所定の深さで、前記樹脂材料を浸透させる工程と、
前記樹脂材料を乾燥、硬化させて、前記フィラーの含有率を前記第1の含有率よりも高い第2の含有率に変化させた前記樹脂材料からなる外装樹脂部を形成する工程と、
を含むことを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記基材に前記樹脂材料を浸透させる工程は、前記界面から前記基材内部に10〜30μmの深さで前記樹脂材料を浸透させることを特徴とする請求項8記載の電子部品の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂材料を塗布する工程は、前記樹脂材料に含有される前記フィラーの前記第1の含有率が40vol%以上であることを特徴とする請求項8又は9記載の電子部品の製造方法。
【請求項11】
前記基材は、吸水率が1.0%以上、又は、空孔率が10〜25%であることを特徴とする請求項8乃至10のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
【請求項12】
前記基材は、鉄、ケイ素、及び、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合されていることを特徴とする請求項8乃至11のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
【請求項13】
前記鉄よりも酸化しやすい元素は、クロムであって、
前記軟磁性合金は、少なくとも、クロムが2〜15wt%含有されることを特徴とする請求項12記載の電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−45927(P2013−45927A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183443(P2011−183443)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】