説明

電子部品用めっき治具

【課題】めっき後の処理の手間が軽減され、めっき時に電子部品が傷付いたり変形するのを防止することができるめっき治具を提供する。
【解決手段】負電極板11に設けられた負電極12と、負電極板11と負電極12との間に介在するクッション材13と、電子部品1を負電極12側に吸着保持する複数のマグネット21とが備えられ、負電極12はウレタンフィルムと銀ペースト層と粘着剤層との三層構造を有し、クッション材13は、柔軟性を有し、且つ、負電極12の粘着剤層に取付けられているとともに負電極板11に保持されており、マグネット21は負電極板11の内部に埋め込まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品をめっきする際に用いられるめっき治具に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、例えば水晶振動子等に用いられる電子部品61(気密端子)の断面図である。電子部品61は、金属製の円筒部材62と、円筒部材62内にガラス63を介して気密に封着された複数のリード64とを有している。
【0003】
従来、前記のように複数のリード64を有する電子部品61をめっきする場合、リード64のアウターリード部64aの外方端を溶融状態の導電材に浸漬して、アウターリード部64aの外方端間に導電材65を形成し、アウターリード部64aの外方端間を導電材65で固着短絡する。
【0004】
その後、図9に示すように、電子部品61を六角形筒状のバレル67内に導入し、バレルめっき法によって電子部品61にニッケルめっき或いは金めっき等の機能めっきを施す。尚、前記バレルめっき法とは、バレル67内に電子部品61と共に球状の給電体68を多数投入し、バレル67をめっき浴槽69内のめっき液70に浸漬し、バレル67の軸方向を中心軸としてバレル67を回転させながら通電し、電子部品61へめっきを施すものである。
【0005】
これによると、アウターリード部64aの外方端間が導電材65で固着短絡されているため、バレル67が回転している際、電子部品61のリード64間に別の電子部品61のリード64が嵌まり込み難くなる。これにより、バレル67内の電子部品61のリード64同士が絡み合うことは防止され、リード64同士がめっき層によって付着してしまうといった不良が発生し難くなる。また、リード64が導電材65によって補強され、リード64の変形不具合を防止することができる。さらに、ガラス63で絶縁されているリード64同士のめっき皮膜厚のばらつきが低減された。
【0006】
尚、前記のような電子部品61のめっきに関する内容は下記特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2001−267190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来形式では、電子部品61をめっきした後、アウターリード部64aを切断して導電材65を除去する必要があるため、めっき後の処理に手間を要するといった問題がある。また、電子部品61を構成する部材とは別に導電材65が必要となり、導電材65にもめっきが施されてしまうため、効率が悪くコストがアップするといった問題がある。また、バレル67の回転により電子部品61が攪拌され、電子部品61同士が接触して電子部品61の表面に傷が付いたり電子部品61が変形するといった問題がある。
【0008】
本発明は、めっき後の処理の手間が軽減され、めっき時に電子部品の表面が傷付いたり電子部品が変形するのを防止することができるめっき治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本第1発明は、電子部品をめっきする際に使用されるめっき治具であって、
電極板に設けられた負電極と、電極板と負電極との間に介在する弾性部材と、電子部品を負電極側に保持する保持手段とが備えられ、
負電極は、柔軟性を有した薄い本体部と、本体部の第一主面に形成された導電層と、本体部の第一主面の背面に位置する第二主面に形成された粘着層とを有し、
弾性部材は、柔軟性を有しており、且つ、負電極の粘着層に取り付けられているとともに電極板に保持されているものである。
【0010】
これによると、保持手段により電子部品を負電極に接触させた状態でめっき治具に保持する。この際、負電極と弾性部材とは柔軟性を有しているため、表面に凹凸がある電子部品であっても、凹凸に応じて負電極が変形して沈み込み、弾性部材が変形して負電極の沈み込みを吸収する。これにより、電子部品の凹凸が吸収され、電子部品が確実且つ安定して負電極に接触する。
【0011】
また、このようなめっき治具を用いることによって、従来のように個々の電子部品に導電材を設ける必要は無く、したがって、めっき後に導電材を除去する手間を省くことができる。これにより、めっき後の処理の手間が軽減される。
【0012】
また、めっき時において、電子部品同士が接触することは無く、これにより、電子部品の表面が傷付いたり電子部品が変形するのを防止することができる。
本第2発明は、負電極の導電層の表面を被覆するマスクが設けられ、
マスクには、導電層の表面が露出する開口部が形成されており、
開口部を通して、導電層の表面と電子部品とが接触するものである。
【0013】
これによると、導電層の表面において、マスクで覆われた部分はめっきが施されないため、不要な箇所のめっきが減少し、コストの無駄を低減することができる。
本第3発明は、保持手段は電子部品を負電極側に吸着する吸着体であるものである。
【0014】
これによると、電子部品を吸着体で負電極側に吸着することにより、電子部品が負電極に接触した状態でめっき治具に保持される。これにより、電子部品が確実且つ安定して負電極に接触する。
【0015】
本第4発明は、電子部品はリードを有しており、導電層の表面とリードの先端とが接触するものである。
これによると、電子部品をめっき治具上に載置し、リードを負電極に接触させる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本発明によると、電子部品が確実且つ安定して負電極に接触するため、電気の通電が安定し、高品質なめっきを得る事が可能となる。また、従来のようにめっき後に導電材を除去する手間を省くことができ、これにより、めっき後の処理の手間が軽減される。また、めっき時において、電子部品同士が接触することは無く、電子部品の表面が傷付いたり電子部品が変形するのを防止することができる。さらに、不要なめっきが減少し、コストの無駄を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明における実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
先ず、実施の形態1について図1〜図4を参照しながら説明する。図1は本発明の電子部品用めっき治具に電子部品を吸着保持した状態を示す断面図であり、図2はめっき治具の構成を示す分解斜視図である。
【0018】
図1,図2に示すように、10は電子部品1をめっきする際に使用されるめっき治具である。電子部品1は、部品本体1aと、部品本体1aに設けられた複数本のリード1bとを有している。尚、部品本体1aとリード1bとは磁性体(金属等)からなるものである。
【0019】
めっき治具10には、負電極板11と、負電極板11上に設けられた負電極12と、負電極板11と負電極12との間に介在するクッション材13(弾性部材の一例)と、個々の電子部品1を磁力によって負電極12側に吸着して保持する複数のマグネット21(保持手段の一例、吸着体の一例)とが備えられている。
【0020】
負電極12は導電性を有する柔軟性材料からなる。例えば図3に示すように、負電極12には、柔軟性を有した薄いウレタンフィルム15(本体部の一例)と、ウレタンフィルム15の表裏一方の面(第一主面の一例)に設けられた導電性を有する銀ペースト層16(導電層の一例)と、背面(第二主面の一例)に設けられた粘着剤層17(粘着層の一例)とからなる三層構造の導電性フィルムが好適である。
【0021】
また、負電極12は銀ペースト層16とめっき電源のマイナス極とで電気的に通電を確保するようにリード線等(図示せず)を用いて接続されている。
クッション材13は、柔軟性を有する弾性部材であり、特に酸およびアルカリなどの耐薬品性にすぐれた材質で形成されている。このような材質としては、例えば、シリコーンゴム、シリコーンゲルなどが挙げられ、シリコーン素材を主成分としてつくられる硬度(針入度)100、厚み0.5mm程度のゲルが好適である。尚、クッション材13の厚みや硬度などは電子部品1の形態に合わせて適宜選択すればよい。
【0022】
負電極板11は耐食性に優れる部材からなり、図2に示すように、負電極板11の表面(上面)側には凹部19が形成されている。前記クッション材13は凹部19に嵌め込まれて収納(保持)されている。尚、凹部19の深さはクッション材13の厚さと同一にすることが望ましい。クッション材13を負電極板11の凹部19に収納し、クッション材13の表面に、前記負電極12の粘着剤層17を貼着することにより、粘着剤層17の外周縁が負電極板11の表面(上面)の外周縁に貼着し、クッション材13が負電極板11の凹部19内の底面と負電極12の粘着剤層17との間に挟まれて固定される。また、前記各マグネット21は負電極板11の内部に埋め込まれている。
【0023】
負電極12には、銀ペースト層16の表面を被覆するマスク28が設けられている。マスク28には、銀ペースト層16の表面が露出する開口部29が複数形成されている。尚、マスク28は、耐薬品性に優れたフッ素樹脂フィルムからなり、接着剤等によって銀ペースト層16の表面に貼り付けられている。
【0024】
図4は、前記めっき治具10を備えためっき装置5を示している、このめっき装置5は、めっき液を入れためっき槽6と、めっき治具10をめっき槽6に対して昇降させる昇降装置7とで構成されている。尚、めっき槽6には正電極板(図示せず)が設けられている。また、図4の仮想線で示すように、昇降装置7でめっき治具10を下降させることにより、めっき治具10がめっき槽6内のめっき液に浸漬され、図4の実線で示すように、めっき治具10を上昇させることにより、めっき治具10がめっき槽6の上方へ引き上げられる。
【0025】
以下、上記構成における作用を説明する。
図1に示すように、個々の電子部品1のリード1bを各マグネット21で負電極12側に吸着することにより、リード1bの先端がマスク28の開口部29を通して負電極12の銀ペースト層16に接触した状態で各電子部品1がめっき治具10に保持される。その後、図4の仮想線で示すように、昇降装置7でめっき治具10を下降させ、めっき治具10をめっき槽6内のめっき液に浸漬し、めっきを行う。
【0026】
この際、負電極12とクッション材13とは柔軟性を有しているため、各リード1bの先端長さにばらつきがあっても、図1に示すように、各リード1bの先端長さに応じて負電極12が変形して沈み込み、クッション材13が変形して負電極12の沈み込みを吸収する。
【0027】
これにより、各リード1bの先端長さのばらつきが吸収され、各電子部品1が確実且つ安定して負電極12に接触し、めっき電源からの電流が負電極12を介して各電子部品1に流れ、均一なめっき品質を得ることができる。
【0028】
また、このようなめっき治具10を用いることによって、従来のように個々の電子部品61に導電材65(図8参照)を設ける必要は無く、したがって、めっき後に導電材65を除去する手間を省くことができる。これにより、めっき後の処理の手間が軽減される。
【0029】
また、図1に示すように、めっき時において、電子部品1同士が接触することは無く、これにより、電子部品1の表面が傷付いたり電子部品1が変形するのを防止することができる。また、銀ペースト層16の上面において、マスク28で覆われた部分はめっきが施されないため、不要な箇所のめっきが減少し、コストの無駄を低減することができる。特に、高価な貴金属材料を用いてめっき皮膜を形成する場合、大幅なコストダウンを実現することができる。
【0030】
尚、前記実施の形態1では、負電極12の一例として、図3に示すようにウレタンフィルム15と銀ペースト層16と粘着剤層17との三層構造からなる導電性フィルムを用いたが、負電極12の別の例として、ポリエステル布にめっき(銅とニッケルのめっき)を施した導電性布(導電層の一例)と、導電性布の背面に設けられた粘着剤層(粘着層の一例)との二層構造にしてもよい。
【0031】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。
クッション材13の柔軟性を高めることによってクッション材13自体でその形状が維持できない場合、図5に示すように、クッション材13の背面に、クッション材13に比べて硬度が高い補強板26を貼着する。尚、補強板26の材質には、耐薬品性に優れたポリカーボネイト樹脂等が挙げられる。
【0032】
これによると、クッション材13の形状を維持することができる。
(実施の形態3)
次に、実施の形態3について説明する。
【0033】
図6,図7に示すように、複数の電子部品1を搬送する搬送装置(図示せず)に、複数の電子部品1をめっき治具10に一括して脱着させるためのキャリア32が設けられている。キャリア32は、板状の部材であり、複数の貫通孔33が形成され、めっき治具10に対して昇降自在に構成されている。
【0034】
これによると、図6に示すように、めっき治具10に対してキャリア32を上昇させた状態で、個々の電子部品1のリード1bを貫通孔33に挿通し、各電子部品1の部品本体1aをキャリア32上に載置する。その後、図7に示すように、めっき治具10に対してキャリア32を下降させることにより、各リード1bが一斉に各マグネット21で吸着されて負電極12に接触した状態でめっき治具10に保持される。この状態でめっきを行った後、図6に示すように、キャリア32を上昇させることにより、各リード1bを一斉に負電極12から離脱させることができる。
【0035】
前記各実施の形態では、リード1bを有する電子部品1を挙げたが、リード1bを持たない電子部品であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、電子部品をめっきする際に用いられるめっき治具であり、特に、複数本のリードを有する電子部品に適している。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態1におけるめっき治具の拡大断面図であり、電子部品を吸着保持した状態を示す。
【図2】同、めっき治具の分解斜視図である。
【図3】同、めっき治具の負電極の拡大断面図である。
【図4】同、めっき治具を備えためっき装置の図である。
【図5】本発明の実施の形態2におけるめっき治具のクッション材の拡大断面図である。
【図6】本発明の実施の形態3におけるめっき治具の拡大断面図であり、キャリアを上昇させた状態を示す。
【図7】同、めっき治具の拡大断面図であり、キャリアを下降させた状態を示す。
【図8】従来の電子部品の図である。
【図9】従来の電子部品をめっきする方法を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 電子部品
1b リード
10 めっき治具
11 負電極板
12 負電極
13 クッション材(弾性部材)
15 ウレタンフィルム(本体部)
16 銀ペースト層(導電層)
17 粘着剤層(粘着層)
21 マグネット(保持手段、吸着体)
28 マスク
29 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品をめっきする際に使用されるめっき治具であって、
電極板に設けられた負電極と、電極板と負電極との間に介在する弾性部材と、電子部品を負電極側に保持する保持手段とが備えられ、
負電極は、柔軟性を有した薄い本体部と、本体部の第一主面に形成された導電層と、本体部の第一主面の背面に位置する第二主面に形成された粘着層とを有し、
弾性部材は、柔軟性を有しており、且つ、負電極の粘着層に取り付けられているとともに電極板に保持されていることを特徴とする電子部品用めっき治具。
【請求項2】
負電極の導電層の表面を被覆するマスクが設けられ、
マスクには、導電層の表面が露出する開口部が形成されており、
開口部を通して、導電層の表面と電子部品とが接触することを特徴とする請求項1記載の電子部品用めっき治具。
【請求項3】
保持手段は電子部品を負電極側に吸着する吸着体であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の電子部品用めっき治具。
【請求項4】
電子部品はリードを有しており、
導電層の表面とリードの先端とが接触することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電子部品用めっき治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−274320(P2008−274320A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116277(P2007−116277)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)