説明

電子顕微鏡および3次元像構築方法

【課題】CT法によって得られる3次元像の像質を向上させることが可能な、電子顕微鏡および3次元像構築方法を提供する。
【解決手段】電子顕微鏡試100は、像取得部24は、マーカーが形成される前の試料Sの透過電子顕微鏡像を、傾斜角度ごとに取得することにより、第1傾斜像シリーズを取得する第1処理と、マーカーが形成された試料の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度ごとに取得することにより、第2傾斜像シリーズを取得する第2処理と、を行い、3次元像構築部26は、第2傾斜像シリーズに基づいて、第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置あわせを行うアライメント処理を行い、位置合わせされた第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像に対して、3次元構築処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡および3次元像構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope,TEM)や走査透過型電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope,STEM)にCT法(Computerized Tomography Method)を適用することで、ナノメートルスケールの3次元構造物に対して、3次元的に構造観察・構造解析を可能とする手法として、TEMトモグラフィーやSTEMトモグラフィーが、一般的に知られている(例えば特許文献1参照)。トモグラフィーは、まず、TEMやSTEMを用いて試料をさまざまな角度で傾斜させ、透過電子顕微鏡像(TEM像もしくはSTEM像)を取得する。例えば、傾斜角度範囲を±60度とし1度ずつ試料を傾斜させ、傾斜角度ごとに透過電子顕微鏡像を取得すれば、121枚の透過電子顕微鏡像から構成される傾斜像シリーズを取得できる。そして、傾斜像シリーズを構成する透過電子顕微鏡像に対してCT法を適用することで、再構成断面像(2次元像)が得られる。得られた一連の断面像を重ね合わせることで3次元像が得られる。
【0003】
ここで、定量性のある再構成像を得るためには、得られた傾斜像シリーズを構成する一連の透過電子顕微鏡像を精度よく位置合わせする必要がある。精度よく位置合わせを行う方法として、試料の特徴的な形状がある場合、その特徴的な形状をもとにFiducial Marker法で位置合わせを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−19218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、例えば、試料に特徴的な形状がない場合には、試料の表面に金粒子等をまいてマーカーを形成し、このマーカーをもとにFiducial Marker法で位置合わせを行う。
【0006】
しかし、観察したい領域上に金粒子等のマーカーがあると、再構成断面像に虚像が現れる場合がある。このように、試料にマーカーが形成されると、この形成されたマーカーが構築された3次元像に影響を与えてしまうことがあり、観察の妨げになる場合がある。一方、金粒子等のマーカーをまかなければ、位置あわせの精度不足により、3次元像の空間分解能が低下してしまう。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、CT法によって得られる3次元像の像質を向上させることが可能な、電子顕微鏡および3次元像構築方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る電子顕微鏡は、
試料を複数段階に傾斜させる試料傾斜部と、
前記試料傾斜部によって設定された傾斜角度ごとに得られる前記試料の透過電子顕微鏡像を取得する像取得部と、
取得した前記傾斜角度ごとの前記試料の透過電子顕微鏡像に基づいて、前記試料の3次元像を構築する3次元像構築処理を行う3次元像構築部と、
前記試料にマーカーを形成するマーカー形成部と、
を含み、
前記像取得部は、
前記マーカーが形成される前の前記試料の透過電子顕微鏡像を、前記傾斜角度ごとに取得することにより、第1傾斜像シリーズを取得する第1処理と、
前記マーカーが形成された前記試料の透過電子顕微鏡像を、前記傾斜角度ごとに取得することにより、第2傾斜像シリーズを取得する第2処理と、
を行い、
前記3次元像構築部は、
前記第2傾斜像シリーズに基づいて、前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置あわせを行うアライメント処理を行い、位置合わせされた前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像に対して、前記3次元構築処理を行う。
【0009】
このような電子顕微鏡によれば、マーカーが3次元像に与える影響をなくすことができ、かつ、3次元像を構築するための第1傾斜像シリーズを構成する一連の透過電子顕微鏡像を、精度よく位置合わせすることができる。したがって、CT法によって得られる3次元像の像質を向上させることができる。
【0010】
(2)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記3次元像構築部は、
前記第2傾斜像シリーズに基づいて、前記マーカーの位置情報を前記傾斜角度ごとに取得し、
取得された前記傾斜角度ごとの前記マーカーの位置情報を、対応する傾斜角度で得られた前記第1傾斜像シリーズの透過電子顕微鏡像に適用することにより、前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置あわせを行ってもよい。
【0011】
このような電子顕微鏡によれば、マーカーが3次元像に与える影響をなくすことができ、かつ、3次元像を構築するための第1傾斜像シリーズを構成する一連の透過電子顕微鏡像を、精度よく位置合わせすることができる。
【0012】
(3)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記マーカー形成部は、電子線を前記試料の所定の領域に照射して、前記マーカーを形成してもよい。
【0013】
このような電子顕微鏡によれば、複数のマーカーを、所望の位置に形成することができる。さらに、マーカーを電子顕微鏡内で形成することができる。
【0014】
(4)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記3次元像構築部は、位置合わせされた前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像にCT法を適用して前記3次元構築処理を行ってもよい。
【0015】
(5)本発明に係る3次元像構築方法は、
試料を複数段階に傾斜させて、前記試料の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度ごとに取得することにより、第1傾斜像シリーズを取得する工程と、
前記第1傾斜像シリーズを取得する工程の後に、前記試料にマーカーを形成する工程と、
前記マーカーが形成された前記試料を複数段階に傾斜させて、前記マーカーが形成された前記試料の透過電子顕微鏡像を、前記傾斜角度ごとに取得することにより、第2傾斜像シリーズを取得する工程と、
前記第2傾斜像シリーズに基づいて、前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置合わせを行う工程と、
位置合わせされた前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像に基づいて、3次元像を構築する工程と、
を含む。
【0016】
このような3次元像構築方法によれば、マーカーが3次元像に与える影響をなくすことができ、かつ、3次元像を構築するための第1傾斜像シリーズを構成する一連の透過電子顕微鏡像を、精度よく位置合わせすることができる。したがって、CT法によって得られる3次元像の像質を向上させることができる。
【0017】
(6)本発明に係る3次元像構築方法において、
前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置合わせを行う工程では、
前記第2傾斜像シリーズに基づいて、前記マーカーの位置情報を前記傾斜角度ごとに検出し、
検出された前記傾斜角度ごとの前記マーカーの位置情報を、対応する傾斜角度で得られた前記第1傾斜像シリーズの透過電子顕微鏡像に適用することにより、前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置あわせを行ってもよい。
【0018】
このような3次元像構築方法によれば、マーカーが3次元像に与える影響をなくすことができ、かつ、3次元像を構築するための第1傾斜像シリーズを構成する一連の透過電子顕微鏡像を精度よく位置合わせすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る透過電子顕微鏡の構成を説明するための図。
【図2】本実施形態に係る3次元構築工程の一例を示すフローチャート。
【図3】本実施形態に係るマーカーの作製方法を説明するための図。
【図4】傾斜角度ごとの試料およびマーカーを模式的に示す断面図。
【図5】傾斜角度ごとの試料およびマーカーを模式的に示す断面図。
【図6】ABS樹脂の透過電子顕微鏡像。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0021】
1. 電子顕微鏡の構成
まず、本実施形態に係る電子顕微鏡の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る透過電子顕微鏡100の構成を説明するための図である。ここでは、電子顕微鏡が、透過型電子顕微鏡(TEM)の構成を有する場合について説明するが、電子顕微鏡は、走査透過型電子顕微鏡(STEM)の構成を有していてもよい。なお本実施形態に係る電子顕微鏡は、図1の構成要素(各部)の一部を省略した構成としてもよい。
【0022】
電子顕微鏡100は、図1に示すように、電子線源1と、照射レンズ系2と、照射レンズ系制御装置3と、偏向器4と、試料Sを保持するステージ6と、ステージ制御装置7と、対物レンズ8と、投影レンズ10と、検出器12と、鏡筒14と、処理部20と、操作部30と、表示部32と、記憶部34と、情報記憶媒体36とを含んでいる。
【0023】
電子線源1、照射レンズ系2、偏向器4、ステージ6、対物レンズ8、投影レンズ10、検出器12は、鏡筒14の内部に収容されている。鏡筒14の内部は、排気装置(図示省略)によって減圧排気されている。
【0024】
電子線源1は、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する。電子線源1の例として、公知の電子銃を挙げることができる。
【0025】
照射レンズ系2は、電子線源1の後段に配置されている。照射レンズ系2は、複数の集束レンズ(図示省略)を含んで構成されている。照射レンズ系2は、試料Sに照射される電子線(入射電子線)の収束角を調整する。例えば、照射レンズ系2によって電子線の収束角を調整することにより、電子線を絞ることができる。また、照射レンズ系2によって絞られた電子線を試料Sの所定の領域に照射することにより、試料S上にカーボンを主成分とするマーカーを形成することができる。照射レンズ系2は、照射レンズ系制御装置3により制御される。
【0026】
偏向器4は、照射レンズ系2の後段に配置されている。偏向器4は、複数の偏向コイルと、当該複数の偏向コイルに流れる電流量を制御するための電流制御部(図示省略)とを有する。偏向器4は、電流制御部で各偏向コイルに流れる電流を制御することにより入射電子線を2次元的に偏向させる。
【0027】
ステージ6は、試料Sを偏向器4の後段に位置させるように保持している。ステージ6は、ステージ制御装置7により制御され、試料Sを水平方向や垂直方向に移動させ、また試料Sを回転、傾斜させる。ステージ6は、光軸OAに直交する傾斜軸TAを中心(軸)として傾斜可能に構成されている。ステージ6は、試料Sが傾斜軸TAを中心(軸)として傾斜するように、試料Sを保持している。
【0028】
対物レンズ8は、試料Sの後段に配置されている。対物レンズ8は、対物レンズ制御装置(図示省略)により制御され、試料Sを透過した電子線を結像させる。投影レンズ10は、対物レンズ8の後段に配置されている。投影レンズ10は、対物レンズ8によって結像された像をさらに拡大し、検出器12上に結像させる。
【0029】
検出器12は、投影レンズ10の後段に配置されている。検出器12は、投影レンズ10によって結像された透過電子顕微鏡像を検出する。検出器12の例として、2次元的に配置されたCCD(Charge Coupled Device)を受光部とするCCDカメラを挙げることができる。検出器12が検出した透過電子顕微鏡像の像情報は、処理部20に出力される。
【0030】
操作部30は、ユーザーが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を処理部20に出力する。操作部30の機能は、キーボード、マウス、タッチパネル型ディスプレイなどのハードウェアにより実現することができる。
【0031】
表示部32は、処理部20によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRTなどにより実現できる。表示部32は、処理部20により生成された、透過電子顕微鏡像や、再構成断面像、3次元像を表示する。
【0032】
記憶部34は、処理部20のワーク領域となるもので、その機能はRAMなどにより実現できる。情報記憶媒体36(コンピュータにより読み取り可能な媒体)は、プログラムやデータなどを格納するものであり、その機能は、光ディスク(CD、DVD)、光磁気ディスク(MO)、磁気ディスク、ハードディスク、或いはメモリ(ROM)などにより実現できる。処理部20は、情報記憶媒体36に格納されるプログラムに基づいて本実施形態の種々の処理を行う。情報記憶媒体36には、処理部20の各部としてコンピューターを機能させるためのプログラムを記憶することができる。
【0033】
処理部20は、ステージ制御装置7、照射レンズ系制御装置3等を制御する処理や、透過電子顕微鏡像を取得する処理、試料Sの3次元像を構築する処理等の処理を行う。処理部20の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)、ASIC(ゲートアレイ等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。処理部20は、制御信号生成部22と、像取得部24と、3次元像構築部26とを含む。
【0034】
制御信号生成部22は、各種制御信号を生成してステージ制御装置7や照射レンズ系制御装置3等に出力する。例えば、制御信号生成部22は、ステージ6(試料S)を複数段階に傾斜させるための制御信号を生成してステージ制御装置7に出力する。すなわち、本発明の試料傾斜部は、例えば、ステージ6とステージ制御装置7と制御信号生成部22により構成される。また、制御信号生成部22は、電子線を試料Sの所定の領域に照射させてマーカーを形成するための制御信号を生成し、照射レンズ系制御装置3に出力する。すなわち、本発明のマーカー形成部は、例えば、照射レンズ系2と照射レンズ系制御装置3と制御信号生成部22により構成される。
【0035】
像取得部24は、検出器12から出力された像情報を取り込むことで透過電子顕微鏡像(TEM像)を取得する処理を行う。像取得部24は、ステージ6(試料S)が各傾斜角度に設定されたときに得られる傾斜角度ごとの透過電子顕微鏡像を取得する。例えば、像取得部24は、ステージ6(試料S)が−60°から+60°まで1°ステップで121段階に傾斜されたときに得られる121枚の透過電子顕微鏡像を取得する。
【0036】
また、像取得部24は、マーカーが形成される前の試料Sの透過電子顕微鏡像を、傾斜角度ごとに取得することにより、第1傾斜像シリーズを取得する第1処理を行い、マーカーが形成された試料Sの透過電子顕微鏡像を傾斜角度ごとに取得することにより、第2傾斜像シリーズを取得する第2処理を行う。
【0037】
3次元像構築部26は、像取得部24によって取得された傾斜角度ごとの透過電子顕微鏡像に基づいて、試料Sの3次元像を構築するための3次元像構築処理を行う。具体的には、3次元像構築部26は、傾斜角度ごとの透過電子顕微鏡像から断面像を再構成し、得られた再構成断面像のシリーズを重ね合わせることで3次元像を構築する。
【0038】
また、3次元像構築部26は、第2傾斜像シリーズに基づいて、第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置合わせを行うアライメント処理を行い、位置合わせされた第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像に対して、3次元構築処理を行う。このアライメント処理は、例えば、第2傾斜像シリーズに基づいて、マーカーの位置情報を傾斜角度ごとに取得し、取得された傾斜角度ごとのマーカーの位置情報を、対応する傾斜角度(例えば、同じ傾斜角度)で得られた第1傾斜像シリーズの透過電子顕微鏡像に適用することにより行われる。そして、3次元像構築部26は、位置合わせされた第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像にCT法を適用して3次元構築処理を行う。
【0039】
2. 3次元像構築方法
次に、本実施形態に係る3次元像構築方法について、説明する。図2は、本実施形態に係る3次元構築工程の一例を示すフローチャートである。以下、図1に示す透過型電子顕微鏡100および図2に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0040】
まず、試料Sを複数段階に傾斜させて、試料Sの透過電子顕微鏡像を、傾斜角度ごとに取得することにより、第1傾斜像シリーズを取得する(工程S10)。
【0041】
具体的には、制御信号生成部22が、ステージ6を複数段階に傾斜させるための制御信号を生成してステージ制御装置7に出力する。ステージ制御装置7は、この制御信号に基づいて、ステージ6を複数段階に傾斜させる。ステージ6は、光軸OAに直交する傾斜軸TAを中心として傾斜する。これにより、ステージ6に保持された試料Sが複数段階に傾斜する。ステージ制御装置7は、ステージ6を、例えば、−60°から+60°まで1°ステップで121段階に傾斜させる。
【0042】
そして、像取得部24が、ステージ6が各傾斜角度に設定されたときに得られる傾斜角度ごとの試料Sの透過電子顕微鏡像を取得する。このようにして、第1傾斜像シリーズを取得することができる。すなわち、第1傾斜像シリーズは、互いに異なる傾斜角度で撮像された複数の透過電子顕微鏡像で構成されている。また、第1傾斜像シリーズは、例えば、同じ観察倍率で撮像されている。像取得部24は、例えば、ステージ6(試料S)が−60°から+60°まで1°ステップで121段階に傾斜されたときに得られる121枚の透過電子顕微鏡像を取得する。この場合、第1傾斜像シリーズは、121枚の透過電子顕微鏡像で構成される。像取得部24は、第1傾斜像シリーズを構成する一連の透過電子顕微鏡像情報を3次元構築部26に出力する。
【0043】
次に、試料Sにマーカーを形成する(工程S11)。
【0044】
具体的には、制御信号生成部22が、電子線を試料Sの所定の領域に照射させるための制御信号を生成し、照射レンズ系制御装置3に出力する。照射レンズ系制御装置3は、この制御信号に基づいて、照射レンズ系2を制御して電子線を絞り、この絞った電子線を試料Sの所定の領域に照射させる。試料Sに絞った電子線を所定時間照射すると、試料S上にカーボン等が堆積し、マーカーが形成される。マーカーの大きさは、電子線の径に対応し、例えば、電子線を絞ることによりナノサイズに形成することが可能である。また、電子線を照射することによりマーカーを形成するため、電子顕微鏡内でマーカーを形成できる。さらに、マーカーを、所望の位置に所望の数だけ形成することができる。なお、試料Sにマーカーを形成するときの試料Sの傾斜角度は、特に限定されない。例えば、試料Sの傾斜角度が0度のとき、すなわち、試料Sが光軸OAと直交する位置にあるときに、マーカーを形成してもよい。
【0045】
図3は、マーカーの作製方法を説明するための図である。図3(a)は、試料Sの透過電子顕微鏡像を表示部32に表示している状態を示す模式図である。図3(b)は、マーカーが形成される様子を示す模式図である。
【0046】
マーカーの作製は、まず、表示部32上でマーカーを形成する位置を指定する。具体的には、図3(a)に示すように、表示部32に表示された試料Sの透過電子顕微鏡像上で、マーカーを形成したい位置(マーカー形成位置A1〜A4)に、操作部30を用いて目印(図示の例では×印)をつけることにより行う。これにより、マーカー形成位置A1〜A4の位置情報が制御信号生成部22に入力される。
【0047】
次に、マーカー形成位置A1〜A4の位置情報に基づいて、マーカーを形成する。具体的には、制御信号生成部22が、この位置情報に基づいて、電子線を試料Sのマーカー形成位置A1〜A4に照射させるための制御信号を生成し、照射レンズ系制御装置3に出力する。照射レンズ系制御装置3は、この制御信号に基づいて、図3(b)に示すように、照射レンズ系2を制御して、マーカー形成位置A1〜A4に絞った電子線を照射する。電子線の照射は、例えば、まず、マーカー形成位置A1に絞った電子線を所定時間照射し、マーカー形成位置A1にマーカーを形成する。所定時間経過後、電子線の照射を停止し、次のマーカー形成位置A2に電子線を照射し、マーカー形成位置A2にマーカーを形成する。これをマーカー形成位置A3,A4に対しても行い、マーカー形成位置A1〜A4にマーカーを形成する。
【0048】
このようなマーカー作成方法によれば、容易に、所望の位置に所望の数だけマーカーを形成することができる。
【0049】
なお、マーカーの作製は、ユーザーが、直接、照射レンズ系制御装置3を操作し、マーカー形成位置に電子線を絞ることにより行ってもよい。
【0050】
次に、マーカーが形成された試料Sを複数段階に傾斜させて、マーカーが形成された試料Sの透過電子顕微鏡像を、傾斜角度ごとに取得することにより、第2傾斜像シリーズを取得する(工程S12)。
【0051】
この工程S12は、試料Sにマーカーが形成されている点を除いて、工程S10と同様に行うことができる。また、工程S12は、例えば、工程S10と同じ観察条件で行われる。すなわち、工程S10と工程S12では、例えば、傾斜角度範囲、および傾斜角度ステップは、同じである。また、工程S10と工程S12では、例えば、観察倍率、観察領域等が同じである。
【0052】
工程S12では、像取得部24が、マーカーが形成された試料Sに対して、ステージ6が各傾斜角度に設定されたときに得られる傾斜角度ごとの透過電子顕微鏡像を取得する。これにより、第2傾斜像シリーズを取得することができる。像取得部24は、例えば、ステージ6(マーカーが形成された試料S)が−60°から+60°まで1°ステップで121段階に傾斜されたときに得られる121枚の透過電子顕微鏡像を取得する。第2傾斜像シリーズは、例えば、この121枚の透過電子顕微鏡像で構成される。像取得部24は、第2傾斜像シリーズの像情報を3次元構築部26に出力する。
【0053】
次に、第2傾斜像シリーズに基づいて、第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置合わせを行う(工程S13)。
【0054】
工程S13では、3次元像構築部26が、第2傾斜像シリーズに基づいて、第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置合わせを行うアライメント処理を行う。
【0055】
このアライメント処理は、例えば、第2傾斜像シリーズに基づいて、マーカーの位置情報を傾斜角度ごとに取得し、取得された傾斜角度ごとのマーカーの位置情報を、対応する傾斜角度で得られた第1傾斜像シリーズの透過電子顕微鏡像に適用することにより行われる。
【0056】
ここで、傾斜角度ごとのマーカーの位置情報は、第2傾斜像シリーズを構成する一連の透過電子顕微鏡像のそれぞれに対して、マーカーの位置を検出することで取得できる。例えば、第2傾斜像シリーズを構成する121枚の透過電子顕微鏡像のそれぞれに対して、マーカーの位置を検出し、傾斜角度ごとのマーカーの位置情報を取得する。
【0057】
また、取得されたマーカーの位置情報の適用は、例えば、まず、対応する(例えば、同じ)傾斜角度で得られた第1傾斜像シリーズの透過電子顕微鏡像と第2傾斜像シリーズの透過電子顕微鏡像に対して、2次元相関処理を行い、位置あわせを行う。そして、位置あわせされた第2傾斜像シリーズの透過電子顕微鏡像から取得したマーカーの位置情報を、位置あわせされた第1傾斜像シリーズの透過電子顕微鏡像に適用する。この処理を、傾斜角度ごとに行い、傾斜角度ごとのマーカーの位置情報を、対応する傾斜角度で得られた第1傾斜像シリーズを構成する一連の透過電子顕微鏡像に適用する。
【0058】
このように第1傾斜像シリーズを構成する透過電子顕微鏡像に、マーカーの位置情報を適用することにより、3次元像構築部26は、第1傾斜像シリーズを構成する一連の透過電子顕微鏡像間の位置合わせを、適用されたマーカーをもとにFiducial Marker法を用いて行うことができる。すなわち、試料S上にマーカーが形成されていない状態で撮像された一連の透過電子顕微鏡像間の位置合わせを、試料S上にマーカーが形成されている場合と同様に行うことができる。以下、マーカーを用いた位置合わせ方法について詳細に説明する。
【0059】
図4および図5は、傾斜角度ごとの試料Sおよび試料S上に形成されたマーカーMを模式的に示す断面図である。図4は、試料Sがドリフトしない理想的な場合を示し、図5は、試料Sがドリフトした場合を示している。なお、図4および図5は、傾斜軸TA方向から試料Sの断面を見た図である。電子線Lは、上から下に向けて試料Sに入射する。
【0060】
ステージ6に保持された試料Sは、傾斜軸TAを中心として傾斜する。これに伴いマーカーMの軌跡は、理想的には、図4に示すように、傾斜軸TAを中心とする円弧を描く。しかし、試料Sがドリフトすると、図5に示すように、マーカーMの軌跡は、傾斜軸TAを中心とする円弧からずれる。したがって、図5において、マーカーMの軌跡が、図4に示すような、理想的な円弧を描くように、傾斜角度ごとに取得された一連の透過電子顕微鏡像の位置を補正することにより、複数の透過電子顕微鏡像間の位置あわせを行うことができる。なお、図示はしないが、マーカーMを複数形成してもよい。これにより、位置合わせ精度を向上できる。
【0061】
次に、位置合わせされた第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像に対して、3次元構築処理を行う(工程S14)。
【0062】
3次元像構築部26は、位置合わせされた第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像にCT法(Computerized Tomography Method)を適用して、3次元構築処理を行う。
【0063】
3次元構築処理は、まず、位置合わせされた第1傾斜像シリーズを構成する一連の透過電子顕微鏡像に対してCT法を適用することで、再構成断面像(2次元像)を得る。そして、得られた一連の断面像を重ね合わせることで3次元像を得ることができる。
【0064】
以上の工程により、試料の3次元像を構築することができる。
【0065】
本実施形態では、第2傾斜像シリーズに基づいて、第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置合わせを行うアライメント処理を行い、位置合わせされた前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像に対して、3次元構築処理を行う。これにより、試料S上にマーカーが形成されていない状態で撮像された一連の透過電子顕微鏡像間の位置合わせを、試料S上にマーカーが形成されている場合と同様に行うことができる。したがって、マーカーが3次元像に与える影響をなくすことができ、かつ、第1傾斜像シリーズを構成する一連の透過電子顕微鏡像を精度よく位置合わせすることができる。したがって、CT法によって得られる3次元像の像質を向上させることができる。
【0066】
例えば、観察したい領域上に金粒子等のマーカーがあると、再構成断面像に虚像(メタルアーティファクト)が現れる場合があり、良好な像質の3次元像を構築できない。このように、試料にマーカーが形成されると、再構築された3次元像に影響を与えてしまうことがあり、観察の妨げになる場合がある。本実施形態によれば、3次元像を構築するための第1傾斜像シリーズは、試料S上にマーカーが形成されていない状態で撮像されているため、メタルアーティファクトの影響を受けず、マーカーが3次元像に与える影響をなくすことができる。さらに、本実施形態によれば、試料S上にマーカーが形成されていない状態で撮像された一連の透過電子顕微鏡像間の位置合わせを、試料S上にマーカーが形成されている場合と同様に行うことができる。これにより、アライメント不足による空間分解能の低下を抑えることができる。したがって、本実施形態によれば、空間分解能が高く、かつマーカーが形成されることによる影響がない、像質のよい3次元像を構築することができる。
【0067】
本実施形態では、第2傾斜像シリーズに基づいて、マーカーの位置情報を傾斜角度ごとに取得し、取得された傾斜角度ごとのマーカーの位置情報を、対応する傾斜角度で得られた第1傾斜像シリーズの透過電子顕微鏡像に適用することにより、第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置合わせを行う。これにより、マーカーが3次元像に与える影響をなくすことができ、かつ、3次元像を構築するための第1傾斜像シリーズを構成する一連の透過電子顕微鏡像を精度よく位置合わせすることができる。
【0068】
本実施形態によれば、電子線を試料の所定の領域に照射して、マーカーを形成することができるため、電子顕微鏡内でマーカーを形成できる。さらに、マーカーを、所望の位置に所望の数だけ形成することができる。
【0069】
3. 実験例
本実験例では、マーカーの形成例を示す。
【0070】
マーカーを形成する際に、試料の種類、形状、試料厚みに制限はないが、今回は、汎用的な高分子材料のひとつとして、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン重合合成樹脂(ABS樹脂)を用いて実験を行った。
【0071】
実験は、まず、ABS樹脂を試料Sとして、汎用的な高分子材料の1つである、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン重合合成樹脂(ABS樹脂)を用いた。まず、ABS樹脂からウルトラミクロトームを用いて1μm厚みの試料切片を切り出し、TEM・STEM観察用銅製のグリッドの上に乗せた。その後、四酸化オスミウム溶液の蒸気により、ポリブタジエン(PB)相を金属染色させ、TEMを用いて、染色した試料の透過電子顕微鏡像を得た。
【0072】
図6は、ABS樹脂の透過電子顕微鏡像である。なお、図6(a)に示す観察視野と図6(b)に示す観察視野は、同じである。また、図6(a)は、絞った電子線を照射する前の透過電子顕微鏡像であり、図6(b)は、絞った電子線を照射した後の透過電子顕微鏡像である。
【0073】
図6に示す透過電子顕微鏡像において、黒色の相がブタジエン相であり、マトリックスと黒色の内部の小さな円形の相がアクリロニトリルとスチレンの混合相である。図6(a)に示す透過電子顕微鏡像の中心付近の領域に電子線を絞って、数分試料に照射した。この結果、図6(b)に示すように、透過電子顕微鏡像の中心付近の領域に黒い円形状のものが観察された。この黒い円形状のものがカーボン等を含むコンタミネーションで形成されたマーカーである。以上の結果から、試料上の任意の領域にナノマーカーを形成できることが確認できた。
【0074】
なお、本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0075】
1 電子線源、2 照射レンズ系、3 照射レンズ系制御装置、4 偏向器、6 ステージ、7 ステージ制御装置、8 対物レンズ、10 投影レンズ、12 検出器、14 鏡筒、20 処理部、22 制御信号生成部、24 像取得部、26 3次元像構築部、30 操作部、32 表示部、34 記憶部、36 情報記憶媒体、100 透過型電子顕微鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を複数段階に傾斜させる試料傾斜部と、
前記試料傾斜部によって設定された傾斜角度ごとに得られる前記試料の透過電子顕微鏡像を取得する像取得部と、
取得した前記傾斜角度ごとの前記試料の透過電子顕微鏡像に基づいて、前記試料の3次元像を構築する3次元像構築処理を行う3次元像構築部と、
前記試料にマーカーを形成するマーカー形成部と、
を含み、
前記像取得部は、
前記マーカーが形成される前の前記試料の透過電子顕微鏡像を、前記傾斜角度ごとに取得することにより、第1傾斜像シリーズを取得する第1処理と、
前記マーカーが形成された前記試料の透過電子顕微鏡像を、前記傾斜角度ごとに取得することにより、第2傾斜像シリーズを取得する第2処理と、
を行い、
前記3次元像構築部は、
前記第2傾斜像シリーズに基づいて、前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置あわせを行うアライメント処理を行い、位置合わせされた前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像に対して、前記3次元構築処理を行う、電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記3次元像構築部は、
前記第2傾斜像シリーズに基づいて、前記マーカーの位置情報を前記傾斜角度ごとに取得し、
取得された前記傾斜角度ごとの前記マーカーの位置情報を、対応する傾斜角度で得られた前記第1傾斜像シリーズの透過電子顕微鏡像に適用することにより、前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置あわせを行う、電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記マーカー形成部は、電子線を前記試料の所定の領域に照射して、前記マーカーを形成する、電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記3次元像構築部は、位置合わせされた前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像にCT法を適用して前記3次元構築処理を行う、電子顕微鏡。
【請求項5】
試料を複数段階に傾斜させて、前記試料の透過電子顕微鏡像を、傾斜角度ごとに取得することにより、第1傾斜像シリーズを取得する工程と、
前記第1傾斜像シリーズを取得する工程の後に、前記試料にマーカーを形成する工程と、
前記マーカーが形成された前記試料を複数段階に傾斜させて、前記マーカーが形成された前記試料の透過電子顕微鏡像を、前記傾斜角度ごとに取得することにより、第2傾斜像シリーズを取得する工程と
前記第2傾斜像シリーズに基づいて、前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置合わせを行う工程と、
位置合わせされた前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像に基づいて、3次元像を構築する工程と、
を含む、3次元像構築方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置合わせを行う工程では、
前記第2傾斜像シリーズに基づいて、前記マーカーの位置情報を前記傾斜角度ごとに検出し、
検出された前記傾斜角度ごとの前記マーカーの位置情報を、対応する傾斜角度で得られた前記第1傾斜像シリーズの透過電子顕微鏡像に適用することにより、前記第1傾斜像シリーズを構成する複数の透過電子顕微鏡像間の位置あわせを行う、3次元像構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−209050(P2012−209050A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72366(P2011−72366)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】