説明

電子顕微鏡の予冷型試料台

【課題】従来の低温電子顕微鏡はコストが嵩むことにより、生物試料の低温観察のコストもまた相対的に嵩むため、普及が難しい。
【解決手段】電子顕微鏡の予冷型試料台は試料載置手段と、冷却エネルギー蓄積手段とを備えている。試料載置手段は、液化ガスをその中に貯留する液化ガス貯留空間を備えている。冷却エネルギー蓄積手段は、試料載置手段の下方に配置されることで、試料に持続的に冷却エネルギーを供給し、ひいては電子顕微鏡を用いて試料を観察する時間を延長できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子顕微鏡の試料台に関し、特に電子顕微鏡の予冷型試料台に関する。
【背景技術】
【0002】
趣味または研究の目的から、微小な生物または非生物の試料を観察することにより、その構造または問題が発生した根本的原因を解明しようと試みることが多々ある。しかしながら、科学技術の進歩に伴い、観察すべき試料の構造もますます微細化し、観察できる試料の種類もより多種に及んでいる。
【0003】
従来の光学式顕微鏡で観察できる外観のサイズはすでに需要に及ばなくなってきている。一般的に言えば、従来の光学式顕微鏡の拡大倍率はわずかに1000倍に留まっている。したがって、より微小な試料を効果的に観察するためには、波長が光よりも短い電子ビームからなる電子顕微鏡を用いなければ、光学式顕微鏡の拡大倍率における制限を突破することはできない。
【0004】
電子顕微鏡の発展において、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)が最も歴史が古く、1931年にはすでに登場している。走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)は1935年に登場しているが、初期に開発されたSEMの解析度は理想的とは言えず、画像処理および信号処理技術が追いつかなかった。1965年以降になって、SEMはようやく研究者からの正式に評価が得られるようになった。この後、SEMは急速に進歩し、装置自体の性能が大幅に向上するだけでなく、各項目の分析用付属品も日増しに増加し、応用範囲も拡大し続けたことにより、各研究分野をほとんどカバーするようになった。現在、材料、機械、電機、電子材料、冶金、地質、鉱物、生物医学、化学、物理などの方面に最も多く応用されている。
【0005】
電子顕微鏡で生物の試料を観察するには、真空システム中にて行う必要性から、予め試料に対して脱水などの化学処理を行う必要が多々ある。これら処理では、時間がかかるだけでなく、試料自体に変形または捻れを来たし、生物試料の実態を効果的に観察することができなくなる可能性がある。これに鑑みて、低温電子顕微鏡は、液体窒素またはその他の冷却方法により、試料の温度を水の氷結点以下にまで下げて、その中の水分が真空システム内でも効果的に試料の中に保持できるようにすることで、生物試料を最も実態に則した状態で観察できるようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような低温電子顕微鏡では、観察時に試料を低温に保つために、液体窒素の冷却システムを用いなければならない。したがって、このような液体窒素の冷却システムの低温電子顕微鏡は高価になってしまい、小規模の実験室または学校などの機関での使用には不利となり、低温電子顕微鏡が普及しない。
【0007】
よって、如何にすれば、電子顕微鏡で低温環境下にて試料を観察する際のコストを効果的に削減し、生物試料をより実態に則して観察できるようにしつつ、生物試料の低温観察をより普及させることができるかということが課題となる。
【0008】
上記した従来技術での説明に鑑みれば、従来の低温電子顕微鏡はコストが嵩むことにより、生物試料の低温観察のコストもまた相対的に嵩むため、普及が難しいと言える。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、予め試料を冷却しておき、その後電子顕微鏡内に導入して観察を行うとともに、試料台に蓄えられている冷却能力により、電子顕微鏡での観察時に試料を低温に保つ電子顕微鏡の予冷型試料台を提供するものである。
【0010】
本発明の他の目的は、液体窒素が揮発したときに、大気中の水分が試料の表面に付着するのを防止することで、大気中の水分が試料の表面で氷結するのを防止する電子顕微鏡の予冷型試料台を提供するものである。
【0011】
上記目的によれば、本発明は、試料載置手段と、冷却エネルギー蓄積手段とを備えた電子顕微鏡の予冷型試料台である。このうち、試料載置手段は、電子顕微鏡を用いてこの試料を観察するために試料が載置されるためのものである。試料載置手段は、例えば液体窒素といった液化ガスを貯留するため液化ガス貯留空間を更に備えており、このうち、液化ガスが揮発したときに気相保護層が試料の周囲に形成されることで、試料を移動させたときに空気中の水分が試料の表面で氷結して観察に支障を来すことがないようにしている。冷却エネルギー蓄積手段は試料載置手段の下方に配置されることで、試料に持続的に冷却エネルギーを供給し、ひいては電子顕微鏡を用いて試料を観察する時間を延長できる。
【0012】
試料載置手段は、試料をその上に載置するための試料載置面を更に備えている。また、試料載置手段は、液化ガスを貯留するために試料載置手段の周囲を囲む外側壁を更に備えている。前記外側壁の高さは試料載置面の高さ以上であるのが好ましく、試料を試料載置面に載置した後の高さ以上であるのがより好ましい。
【0013】
上記した試料載置面はその縁部を囲むとともに、高さが試料載置面の高さ以上である内側壁を更に備えている。また、液化ガス貯留空間の容積を増やすために、外側壁と内側壁の底部は試料載置面よりも低くするのが好ましい。
【0014】
冷却エネルギー蓄積手段の下方は、電子顕微鏡の対応する固定装置に連結させるための固定手段を更に備えているのが好ましい。試料載置手段と冷却エネルギー蓄積手段との間は連結手段で連結することができる。連結手段は、試料載置手段の高さを調節するための調節手段であるのが好ましい。好ましい一実施例では、調節手段は、例えばボルトのように、試料載置手段を昇降させるためのねじ溝を備えている。この電子顕微鏡の予冷型試料台は、例えばアルミニウム、銅、ステンレスまたはカーボンというように金属または非金属製とすることができる。また、試料載置手段および冷却エネルギー蓄積手段との間には、電子顕微鏡の予冷型試料台を挟持して移動しやすくするための挟持溝を形成しても良い。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明の電子顕微鏡の予冷型試料台は、例えば液体窒素といった液化ガスを用いて、予め試料を冷却しておき、その後電子顕微鏡内に導入して観察を行うとともに、試料台に蓄えられている冷却能力により、電子顕微鏡での観察時に試料を低温に保つことができる。したがって、観察時に試料を低温に保つための冷却装置を別途電子顕微鏡に取り付ける必要はない。また、本発明の電子顕微鏡の予冷型試料台は、液体窒素が揮発するときに、大気中の水分が試料の表面に付着する確率を効果的に低減し、ひいては空気中の水分が試料の表面で氷結するのを防止することができる。よって、本発明の電子顕微鏡の予冷型試料台は電子顕微鏡での試料の低温観察のコストを削減し、更には観察の品質を高め、低温電子顕微鏡の観察技術を普及させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の上記およびその他目的、特徴、長所および実施例をより明確に理解できるよう、添付の図面の詳細な説明を下記のとおり行う。
【図1A】本発明の電子顕微鏡の予冷型試料台の側面概略図である。
【図1B】図1Aに係る本発明の電子顕微鏡の予冷型試料台の平面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の電子顕微鏡の予冷型試料台は予め試料を冷却することができる。したがって、試料の観察時において、冷却機器を別途電子顕微鏡に取り付ける必要はなく、予め試料と試料台を冷却しておき、その後電子顕微鏡内に導入して観察するだけでよく、しかも試料台は所定の冷却エネルギーを蓄積できるので、電子顕微鏡での観察時に試料を低温に保つことができる。本発明の電子顕微鏡の予冷型試料台は液化ガス貯留空間を設けることで、液体窒素が揮発したときに、大気中の水分が試料の表面に付着する可能性を効果的に排除し、ひいては大気中の水分が試料の表面で氷結するのを防止することができ、試料をより実態に則した状態で観察することができ、試料観察の品質を効果的に高めることができる。以下にて、図面および詳細な説明で本発明の技術的思想を説明するものの、当業者が本発明の好ましい実施例を理解した後には、本発明にて教示する技術により、変更および付加を行うことができるが、これは本発明の技術的思想および範囲を逸脱するものではない。
【0018】
本発明の電子顕微鏡の予冷型試料台の側面および平面概略図である図1Aおよび図1Bを参照する。図示するように、電子顕微鏡の予冷型試料台100は、試料載置手段110と、冷却エネルギー蓄積手段130と、試料載置手段110および冷却エネルギー蓄積手段130を連結する連結手段120とを備えている。好ましい実施例において、連結手段120は試料載置手段110と冷却エネルギー蓄積手段130との相対的な高さを調節できる。
【0019】
試料載置手段110は、内部に液化ガス貯留空間114を形成する外側壁112を備え、試料載置手段110の中間には、観察したい試料を載置する試料載置面118が形成されている。試料載置面118の外周は内側壁116により囲まれており、内側壁116は試料載置面118よりも概ね高いことが好ましい。
【0020】
試料の低温観察を行いたい際には、まず試料を試料載置面118に載置した後、電子顕微鏡の予冷型試料台100を、例えば液体窒素などの液化ガス中に入れて、試料と試料載置手段110とを急速に冷却して、試料内部の水分を凍結させる。続いて、試料と電子顕微鏡の予冷型試料台100とを一般的な電子顕微鏡中に導入することで、試料の観察が行うことができる。
【0021】
試料自体は、例えば液体窒素またはその他の液化ガスといった液化ガスによりすでに冷却済みである。試料自体の水分はすでに試料の中に凍結されており、観察時には、試料載置手段110の下方に、試料を低温に保つために必要なエネルギーを提供できる冷却エネルギー蓄積手段130を備えているので、使用者が試料を観察するのに便利となるように試料を一定時間低温の状態に保つことができる。
【0022】
また、試料載置手段110は外側壁112を備えており、外側壁112の高さは試料載置面118以上であるのが好ましく、更に言えば試料載置面118に試料を載置したときの高さ以上であるのがより好ましいので、電子顕微鏡の予冷型試料台100を液化ガス中から取出すとき、液化ガス貯留空間114には例えば液体窒素といった液化ガスの一部を貯留することができる。試料と電子顕微鏡の予冷型試料台100とを電子顕微鏡に導入する前に、液化ガスの揮発により、試料の周囲に気相保護層が形成されて、周囲の空気から効果的に隔離して、更には周囲の空気中の水分が試料の表面で氷結して試料の観察に支障を来すのを防止することができる。外側壁112と内側壁116との底部はいずれも、液化ガス貯留空間114の容積を増やすために、試料載置面118よりも低くするのが好ましい。
【0023】
連結手段120および冷却エネルギー蓄積手段130は、例えばボルトのように、試料載置面118の高さ、つまり試料載置手段110の高さを調節するためのねじ溝を備えるのが好ましい。そして冷却エネルギー蓄積手段130の下方は、電子顕微鏡の予冷型試料台100を電子顕微鏡中に取り付けるために、電子顕微鏡における対応する固定装置に連結させるための固定手段132を備えるのが好ましい。試料載置手段110の下方と冷却エネルギー蓄積手段130との間には、使用者が電子顕微鏡の予冷型試料台100を挟持して移動しやすくするための挟持溝140を更に備えるのが好ましい。
【0024】
本発明の電子顕微鏡の予冷型試料台における試料載置手段は、液化ガスをその中に貯留できる液化ガス貯留空間を備えており、予め試料を液化ガスで冷却した後、観察時には冷却エネルギー蓄積手段により試料に必要な低温を持続的に保つことができる。また、液化ガス貯留空間中に貯留されている液化ガスは更に、試料の表面に周囲の空気が接触することによりその表面が結露・氷結して観察に影響を及ぼすのを防止するために気相保護層を提供することができる。外側壁の高さは試料載置面以上であるのが好ましく、更には試料が周囲の空気の影響を受けないように気相保護層により効果的に保護するために、試料を試料載置面に載置した後の高さ以上であるのがより好ましい。試料載置面の周囲は、試料が試料載置面に安全に載置されやすくするために内側壁を更に備えるのが好ましい。
【0025】
当業者であれば、上記は単に本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明の保護範囲を限定するものではないことは理解できるだろう。本発明に開示する技術的思想を逸脱することなく完成された等価の改変または付加は、いずれも別紙の特許請求の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0026】
100…電子顕微鏡の予冷型試料台
110…試料載置手段
112…外側壁
114…液化ガス貯留空間
116…内側壁
118…試料載置面
120…連結手段
130…冷却エネルギー蓄積手段
132…固定手段
140…挟持溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡の予冷型試料台であって、少なくとも、
試料を載置して、電子顕微鏡を用いて前記試料を観察するためのものであり、液化ガスをその中に貯留するとともに、前記液化ガスが揮発したきに気相保護層が前記試料の周囲に形成される液化ガス貯留空間を更に有する試料載置手段と、
前記試料載置手段の下方に配置されて、冷却エネルギーを前記試料に提供することで、前記電子顕微鏡を用いて前記試料を観察する時間を延長する冷却エネルギー蓄積手段と、を備えたことを特徴とする電子顕微鏡の予冷型試料台。
【請求項2】
前記試料載置手段が、前記試料をその上に載置する試料載置面を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の電子顕微鏡の予冷型試料台。
【請求項3】
前記試料載置手段が、前記液化ガスを貯留するために前記試料載置手段の周囲を囲む外側壁を更に備えたことを特徴とする請求項2に記載の電子顕微鏡の予冷型試料台。
【請求項4】
前記外側壁の高さが前記試料載置面の高さ以上であることを特徴とする請求項3に記載の電子顕微鏡の予冷型試料台。
【請求項5】
前記外側壁の高さが前記試料を前記試料載置面に載置した後の高さ以上であることを特徴とする請求項4に記載の電子顕微鏡の予冷型試料台。
【請求項6】
前記試料載置面が、その縁部を囲むとともに、高さが前記試料載置面の高さ以上である内側壁を更に備えたことを特徴とする請求項3に記載の電子顕微鏡の予冷型試料台。
【請求項7】
前記外側壁と前記内側壁との底部はいずれも、前記液化ガス貯留空間の容積を増やすために、前記試料載置面よりも低くなっていることを特徴とする請求項6に記載の電子顕微鏡の予冷型試料台。
【請求項8】
前記冷却エネルギー蓄積手段は、前記冷却エネルギー蓄積手段の下方に形成され、前記電子顕微鏡の対応する固定装置に連結させるための固定手段を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の電子顕微鏡の予冷型試料台。
【請求項9】
前記試料載置手段の高さを調節するために、前記試料載置手段と前記冷却エネルギー蓄積手段との間を連結する連結手段を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の電子顕微鏡の予冷型試料台。
【請求項10】
前記試料載置手段および前記冷却エネルギー蓄積手段との間には、前記電子顕微鏡の予冷型試料台を挟持しやすくするための挟持溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電子顕微鏡の予冷型試料台。

【図1A】
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【図1B】
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