説明

電子顕微鏡検査のサンプル担体のための保持器

【課題】安定でストレスフリーな電子顕微鏡検査のサンプル担体の保持が可能なマウントを提供する。
【解決手段】マウントは、中央領域に貫通する開口部を有する基板と、開口部の周囲に少なくとも部分的に延在するサンプル担体の支持表面と、基板に備えられた支持表面で、サンプル担体を摩擦的な系合によって保持するための保持装置とを含み、保持装置は、サンプル担体を摩擦的な系合によって保持するための、少なくとも2つの相互に独立的なクリップ部材を含み、クリップ部材が、基板から開口部の方向に向かって延在し、クリップ部材が、互いに間隔を空けて離れた電子顕微鏡検査のサンプル担体の端部領域でサンプル担体を支持表面に保持可能である。電子顕微鏡検査のサンプル担体を搭載したマウントを載置するための載置装置及び当該載置装置を使用する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡検査のサンプル担体を保持するためのマウントないし保持器に関し、特に、電子顕微鏡検査のサンプル担体を保持するためのマウントであって、中央領域に貫通する(中央)開口部を有する基板と、(中央)開口部の周囲に少なくとも部分的に延在するサンプル担体の支持表面と、基板に備えられた支持表面で、サンプル担体を摩擦的な係合によって保持するための保持装置と、を含むマウントに関連する。
【0002】
本発明は、更に、顕微鏡検査のサンプル担体を搭載したマウントの載置装置及び載置方法に関し、特に、電子顕微鏡検査のサンプル担体を搭載したマウントの載置装置及び載置方法に関する。
【0003】
本発明は、更に、顕微鏡の標本保持装置、特にマウントを含む電子顕微鏡の標本保持装置に関する。
【背景技術】
【0004】
顕微鏡、特に、電子顕微鏡検査の能力、特に高分解能の透過型電子顕微鏡の能力はかなりのものである。この技術のおかげで、例えば、生物学的な超微細構造や半導体構造の検査という意味合いにおいて、研究や情報回収に大きな進歩をもたらすことができている。
【0005】
透過型電子顕微鏡(TEM)に存在する高真空と、高エネルギー性の電子ビームとのために、構造を固定するサンプル調製プロセスが通常必要である。このことは、生物学的なサンプルを用いる場合には特に顕著である。更に、高分解能の透過型電子顕微鏡による画像処理のためには、サンプルが十分に薄いことが絶対的に必要である。TEMのサンプルは、検査に適するサンプル担体に適用される。サンプル担体は、典型的には、直径2〜3mmの非常に小さく、丸い、繊細なグリッドである。該グリッドは、種々の形状の穴(ハニカム状、スリット状など)や、所定のメッシュカウントの格子を有する。該グリッドは、通常、薄いフィルムで覆われるが、更なるコーティングを含むこともできる。
【0006】
電子顕微鏡下での検査のためには、サンプルを搭載したサンプル担体は、適切な標本保持装置によって保持しなければならない。ほとんどの適用形態では、標本保持装置はゴニオメータとして備えられ、サイドエントリ型のゴニオメータが主に使用される。一筐体型の標本保持装置では、サンプル担体は、サンプル保持装置の開口部に載置されて、保持される。他には、欧州特許公開EP 1 868 225 A1号(特許文献1)、及び欧州特許公開EP 1 947 675 A1号(特許文献2)などに記載された複数筐体部分から成る標本保持装置が追加的に使用される。これらの複数筐体部分型の装置では、先ず、サンプル担体がフレームのようなマウント(「カートリッジ」とも称される)に保持され、次に、当該マウントが標本保持装置の対応する保持器へ、反転可能な態様で留め付けられる。
【0007】
電子顕微鏡の標本保持装置及びマウント装置は、特定の必要条件を満足しなければならない。
【0008】
非常に高い力学的安定性と高真空の両立に加えて、使用されるサンプル担体の繊細な性質に起因して、標本保持装置におけるサンプル担体の適切な保持及びマウントが高度に要求される。適切な検査のためとサンプル担体の損失を防ぐためには、サンプル担体は、安定でかつ振動しない様式で保持されなければならない。更に、繊細なサンプル担体が歪むことは回避されなければならず、さもなくば、サンプル担体は容易にダメージを負ってしまう。公知の標本保持装置(例えば、欧州特許公開EP 1 947 675 A1号(特許文献2)及び米国特許US 6,002,136号(特許文献3)などに開示されているもの)では、グリッドは、固定リング(Sicherungsringe、securing ring)の助けによって標本保持装置の開口部に保持される。
【0009】
多くの適用形態において、標本(プレパラート)の平面における1本以上の軸を中心とした非常に正確かつ安定なチルト運動のための機能が備えられている。例えば、国際公開WO 00/10191号(特許文献4)は、ダブルチルト機能を有するサイドエントリ型の標本保持装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許公開EP 1 868 225 A1号
【特許文献2】欧州特許公開EP 1 947 675 A1号
【特許文献3】米国特許US 6,002,136号
【特許文献4】国際公開WO 00/10191号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以下の分析は、本発明者により与えられる。特許文献2、3に記載の固定リングは、通常、工具を使用して圧着させられるが、このことはサンプル担体のコーティングに対する不利な影響を有する。これらのコーティングは、典型的には非常に脆く、サンプル担体及び固定リングのインストールの際の歪みによって容易に破壊され得る。更に、固定リングは取り扱いが厄介な小さい部材であり、特に、インストール工具へ載置することが必要な時に、容易に喪失し得る。
【0012】
固定リングを使用する上記の構成では、そのような適用形態の可能性は全体的に利用されていないという欠点がある。固定リングは、サンプル担体を開口部における環状の支持体に押し付けるために溝を必要とする。固定リング及び溝は、グリッドの直径よりもわずかに小さい環状の構成を必要とする。このことはチルト運動の角度を限定し、かくて、電子顕微鏡観察から得られる情報が減少する。
【0013】
電子顕微鏡の特定の適用形態においては、更にサンプルをサンプル調製装置からTEMへ運搬可能であることが必要であり、EM標本保持装置とサンプルとの間における良好な熱的接触関係が必要とされる。このことは、特に、構造生物学に低温電子顕微鏡を適用する場合には必要不可欠である。この技術では、水性のサンプルは低温固定される。すなわち、非常に急速に冷却することで、氷結晶の形成が回避される。そのことによって、検査の目的物(例えば、細胞、酵素、ウィルス又は油層)は、薄くてガラス状の氷層の中に包埋される。低温固定したサンプルの運搬は厳密な取り扱いを必要とし、異物混入のおそれがある。特に、低温固定したサンプルを運搬することが可能な低温型のEM標本保持装置及びマウントが、このことに使用される。
【0014】
従って、本発明の一視点において、上述のような背景技術に存在する欠点を取り除くこと、更には、上記のストリンジェントな必要条件に対応するマウントを利用可能にすることを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の視点において、電子顕微鏡検査のサンプル担体を保持するためのマウントが提供される。当該マウントは、中央領域に貫通する(中央)開口部を有する基板と、(中央)開口部の周囲に少なくとも部分的に延在するサンプル担体の支持表面と、基板に備えられた支持表面で、サンプル担体を摩擦的な係合によって保持するための保持装置と、を含む。前記保持装置は、サンプル担体を摩擦的な係合によって保持するための、少なくとも2つの相互に独立的なクリップ部材を含む。前記クリップ部材は、基板から(中央)開口部へ向かって延在する。前記クリップ部材は、互いに間隔を空けて離れた電子顕微鏡検査のサンプル担体の端部領域でサンプル担体を支持表面に保持することができる。
【0016】
第2の視点において、電子顕微鏡検査のサンプル担体を搭載したマウントを載置するための載置装置が提供される。当該載置装置は、上記のマウントと、マウントを載置することが可能な載置補助要素とを含む。前記載置補助要素は、当接部材を含み、前記当接部材は、マウントの基板における各クリップ部材の下に配設された開口部(開孔)を通過する。また、前記当接部材は、マウントのクリップ部材の保持力に対抗して、基板から離れる方向へクリップ部材を移動させる。
【0017】
第3の視点において、前記載置装置によって電子顕微鏡検査のサンプル担体を搭載したマウントを載置する方法が提供される。当該方法は、a)載置補助要素にマウントを載置するステップと、b)載置補助要素の当接部材がクリップ部材を、基板から離れる方向であって上昇した位置へ移動させるステップと、c)マウントの支持表面にサンプル担体を載置するステップと、d)マウントを載置補助要素から取り出して、クリップ部材が元の位置へ戻ることによって、サンプル担体を摩擦的な係合様式で支持表面において保持するステップとを含む方法、が提供される。
【0018】
第4の視点において、電子顕微鏡の標本保持装置であって、分離可能なように受容可能な前記マウントを含む標本保持装置、が提供される。
【0019】
なお、本願の特許請求の範囲に付記した図面参照符号は、専ら理解を助けるための補助であり、図示の態様に限定することを意図するものではない。
【発明の効果】
【0020】
本発明の各視点によれば、上述のような背景技術に存在する欠点を取り除くことが可能であり、更には、上記のストリンジェントな必要条件に対応するマウントが提供される。かくて、電子顕微鏡検査のサンプル担体のためのマウントが提供される。当該マウントによって、安定でストレスフリーなサンプル担体の保持が可能になり、サンプルを有するサンプル担体がネガティブな影響を受けなくなる。更には、マウントとサンプル担体との間の良好な熱的接触関係を保障することができる。更には、マウントを、最大の傾きの角度でチルト運動させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明は、更なる利点とともに、添付の図面を参照して非限定的な例示の実施例について説明される。
【図1】図1は、本発明に係る第1の実施例のカートリッジ(マウント)の斜視図である。
【図2】図2は、図1のカートリッジの下側の斜視図である。
【図3】図3は、本発明に係る第2の実施例のカートリッジ(マウント)の透視図である。
【図4】図4は、カートリッジが搭載されていない載置補助要素の斜視図である。
【図5】図5は、図1のカートリッジを搭載している図4の載置補助要素を示す。
【図6】図6は、カートリッジ内に偏心状態で載置された電子顕微鏡検査のサンプル担体を含む図5の載置補助要素を示す。
【図7】図7は、カートリッジ内のサンプル担体が保持位置に滑り込んだ状態の図6の載置補助要素を示す。
【図8】図8は、図1のカートリッジがインストールされたゴニオメータの領域の斜視図である。
【図9】図9は、図3のカートリッジがインストールされたゴニオメータの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明において、以下の形態が可能である。
【0023】
(形態1)
第1の視点に記載のとおり、電子顕微鏡検査のサンプル担体を保持するためのマウントは、中央領域に貫通する(中央)開口部を有する基板と、該(中央)開口部の周囲に少なくとも部分的に延在するサンプル担体の支持表面と、基板に備えられた支持表面で、サンプル担体を摩擦的な係合によって保持するための保持装置と、を含む。前記保持装置は、サンプル担体を摩擦的な係合によって保持するための、少なくとも2つの相互に独立的なクリップ部材を含む。前記クリップ部材は、基板から(中央)開口部へ向かって延在する。前記クリップ部材は、互いに間隔を空けて離れた電子顕微鏡検査のサンプル担体の端部領域でサンプル担体を支持表面に保持することができる。
【0024】
(形態2)
第2の視点に記載のとおり、電子顕微鏡検査のサンプル担体を搭載したマウントを載置するための載置装置は、上記のマウントと、マウントを載置することが可能な載置補助要素とを含む。前記載置補助要素は、当接部材を含み、前記当接部材が、マウントの基板における各クリップ部材の下に配設された開口部(開孔)を通過する。前記当接部材は、マウントのクリップ部材の保持力に対抗して、基板から離れる方向へクリップ部材を移動させる。
【0025】
(形態3)
第3の視点に記載のとおり、前記載置装置によって電子顕微鏡検査のサンプル担体を搭載したマウントを載置する方法は、以下のステップを含む。すなわち、a)載置補助要素にマウントを載置するステップと、b)載置補助要素の当接部材がクリップ部材を、基板から離れる方向であって上昇した位置へ移動させるステップと、c)マウントの支持表面にサンプル担体を載置するステップと、d)マウントを載置補助要素から取り出して、クリップ部材が元の位置へ戻ることによって、サンプル担体を摩擦的な係合様式で支持表面において保持するステップとを含む方法、が提供される。
【0026】
(形態4)
第4の視点に記載のとおり、電子顕微鏡の標本保持装置であって、分離可能なように受容可能な前記マウントを含む標本保持装置、が提供される。
【0027】
さらに、本発明の実施形態としては、以下の展開形態が可能である。
(形態5)
本発明において、保持装置が、クリップ部材として2つのクリップ部材を含むことが好ましい。
【0028】
(形態6)
本発明において、クリップ部材が、互いに対向して配設されることが好ましい。
【0029】
(形態7)
本発明において、クリップ部材が帯状に構成され、基板と実質的に平行に配設されることが好ましい。
【0030】
(形態8)
本発明において、クリップ部材がバネ部材として構成されることが好ましい。
【0031】
(形態9)
本発明において、各クリップ部材が、基板へ固定される第1の末端と、(中央)開口部に向けられて、支持表面にサンプル担体を摩擦的な係合によって保持する第2の末端とを含むことが好ましい。
【0032】
(形態10)
本発明において、(中央)開口部において、クリップ部材の第2の末端が、支持表面の端の位置に揃っていることが好ましい。
【0033】
(形態11)
本発明において、基板に配設されるカバープレートが、中央領域に、サンプル担体及びクリップ部材へのアクセスを可能にする中央開口領域を含むことが好ましい。
【0034】
(形態12)
本発明において、各クリップ部材の第1の末端が、基板とカバープレートとの間で固定されていることが好ましい。
【0035】
(形態13)
本発明において、中間プレートが基板とカバープレートとの間に配設され、クリップ部材が中間プレートの構成要素であることが好ましい。
【0036】
(形態14)
本発明において、カバープレートの中央開口領域が、偏心状態でサンプル担体を載置することが可能な大きさを有すること、すなわち、先ず、マウント内でサンプル担体を保持することが可能な位置の横側にサンプル担体を載置することができ、次に、マウント内でサンプル担体を保持することが可能な位置へ載置されたサンプル担体を横方向移動させることができることが好ましい。
【0037】
(形態15)
本発明において、基板を貫通して延在する開口部(開孔)が各クリップ部材の下に配設されることが好ましい。
【0038】
(形態16)
本発明において、マウントが回転対称的な構造を有する外側の端部輪郭を含み、4回回転対称に相当することが好ましい。
【0039】
(形態17)
本発明において、マウントが実質的に丸い外側の端部輪郭を有することが好ましい。
【0040】
(形態18)
本発明において、マウントは、電子顕微鏡の標本保持装置に受容可能なように構成されることが好ましい。
【0041】
(形態19)
本発明において、標本保持装置は、ゴニオメータの形状、特にサイドエントリ型のゴニオメータの形状であることが好ましい。
【0042】
(形態20)
本発明において、マウントが、サンプル担体の平面における少なくとも1本の軸を中心として、好ましくは、サンプル担体の平面における2本の軸を中心として、チルト運動が可能なように載置されることが好ましい。
【0043】
本発明の目的は、主に採用される種類のマウントによって達成されるが、特に、保持装置は、サンプル担体を摩擦的な係合によって保持するための、少なくとも2つの相互に独立的なクリップ部材を含み、クリップ部材が、基板から(中央)開口部の方向に向かって延在すること、クリップ部材が、互いに間隔を空けて離れた電子顕微鏡検査のサンプル担体の端部領域でサンプル担体を支持表面に保持することができること、を特徴とする。
【0044】
本発明によれば、安定でストレスフリーのサンプル担体の保持が可能になる。特に、本発明によれば、背景技術から知られる固定リングと比較して、サンプル担体がストレスフリーの様式で保持される。サンプル担体の載置も実質的に単純になり、インストールの間にサンプル担体が歪むことが回避される。そのことによって、サンプル担体及び該担体に搭載されたサンプルが損傷するリスクが非常に低く保たれる。
【0045】
マウントにおいてサンプル担体はストレスフリーな状態で保持されるが、それにもかかわらず、マウント及びサンプル担体の間には良好な熱的接触関係が存在する。検査の間に特定の温度レベルで維持されなければならない標本に関しては、このことは特に重要である。
【0046】
環状の溝及び環状の留め付け部材を使用しないので、本発明に係るマウントは、固定リングを使用する構成と比較して、より大きい角度でチルト運動させることが可能である。
【0047】
小さくて、喪失し易く、取り扱いが困難な部材を省くことができるので、構成が単純になり、マウントの取り扱いが単純で実用的になるという更なる利点がある。本発明によれば、サンプル担体を容易に載置することができるだけではなく、サンプル担体にダメージを与えることなしにマウントから取り出すことも可能である。
【0048】
更に、コストを抑えた様式で本発明に係るマウントを製造することが可能なことも分かっている。例えば、使い捨ての製品として製造することも可能である。
【0049】
好ましくは、本発明に係るマウントは、高真空状態での使用に適した材料から製造される。高真空状態での使用に適した材料は水分子を含んではいけない。更に、該材料は、多孔質の(poroese)表面を有するべきではない。好ましい材料は、銅及びベリリウム銅である。
【0050】
本発明に係るマウントは、主に、電子顕微鏡の標本保持装置に受容させることを目的として提供される。標本保持装置は、好ましくは、ゴニオメータとして、特に好ましくは、サイドエントリ型のゴニオメータの形態で備えられる。ゴニオメータやサイドエントリ型のゴニオメータの操作の仕方及び基本的な構造は、その分野における通常の技術を有する者にはよく知られている。この意味合いにおいて、本発明に係るマウントは、標本保持装置又はゴニオメータの対応する保持器に受容可能であり、分離可能なように固定される。
例えば、欧州特許公開EP 1 947 675 A1号(特許文献2)は、2本の平行する保持棒を含む標本保持装置を開示しており、当該保持棒はマウントの外側の端部輪郭の周辺に延在する溝と噛み合う。欧州特許公開EP 1 868 225 A1号(特許文献1)では、マウントは、スナップ機構によって標本保持装置に固定される。
【0051】
本発明は、かくて、分離可能なように受容可能な本発明に係るマウントを含む電子顕微鏡の標本保持装置についても言及する。
【0052】
多くの適用形態において、標本の平面における1本以上の軸を中心として、高度に精密で安定な標本のチルト運動が必要である。本発明に係るマウントが、サンプル担体の平面における少なくとも1本の軸を中心として、好ましくは、サンプル担体の平面における2本の軸を中心として、チルト運動(傾動)が可能なように標本保持装置に載置される場合には、結果的に有利である。そのようなチルト運動のメカニズムは、背景技術から知られ、例えば、国際公開WO 00/10191号に開示されている。
【0053】
ここにおいて言及されるべき更なるマウントの利点は、マウントが移動可能であることであり、特に、サンプル調製装置(例えば、低温電子顕微鏡検査のサンプルを調整するための低温チャンバなど)から電子顕微鏡へ移動可能であることである。本発明に係るマウントは、透過型電子顕微鏡検査(特に、透過型低温電子顕微鏡検査)での使用に特に適する。
【0054】
本発明に係るマウント(Fassung)は、標準的な電子顕微鏡検査のサンプル担体を保持することに適するように設計される。この点については、製造という意味合いにおいて、基板における(中央)開口部の寸法、サンプル担体の支持表面の寸法、及びクリップ部材の寸法は、サンプル担体ごとに採用される。典型的には、そのようなンプル担体は標準的な大きさを有する。本願で使用する用語「サンプル担体(Probentraeger)」は、本発明の分野における通常の知識を有する者に知られており、電子顕微鏡検査、及び電子顕微鏡検査のサンプル調製に適する全ての担体を意味する。用語「サンプル担体」は、特に、既に上述したグリッド(Grids)(「グリッド担体(Netztraeger)」、「ミクログリッド(Netzchen)」「グリッド(Netz)」)を意味する。この意味合いにおいて、グリッドは、種々の形状(ハニカム、スリットなど)の穴、又は、所定のメッシュカウントを有する格子を含むことができる。そして、サンプル担体は、更に、あるいは、単に、フィルム(例えば、Quantifoil社製のコートグリッド)で被覆することもできるし、炭素蒸着でコートすることも可能である。標準的なグリッドの直径は、典型的には2〜3mmである。
【0055】
本願において、用語「マウント」の代わりに用語「カートリッジ(Kartusche)」も同一の意味で用いられる。
【0056】
本発明によれば、マウントは、2つ以上のクリップ部材を含むことができる。本発明に係るマウントは、好ましくは2〜3個のクリップ部材を含む。特に好ましい実施形態において、保持装置は、2つのクリップ部材を含む。この特徴は、電子顕微鏡観察を邪魔しないように、一方では最も単純なデザインを表し、そして、他方ではサンプル担体の安定でストレスフリーのインストール及び載置を可能にする。更に、非常に良好な熱的コンタクト(接触関係)が保障される。サンプル担体がマウント内で2つの端部領域においてのみ保持されるので、大きい角度でのチルト運動が可能である。例えば、2mmの直径を有するサンプル表面は電子顕微鏡下で70°の角度で観察することができる(「0°」はサンプル表面に対する直角方向を意味する)。
【0057】
この実施形態においては、マウント内でのサンプル担体の安定な保持のために、好ましくはクリップ部材が互いに対向して配設される。
【0058】
クリップ部材が帯状の(舌状の)様式で構成され、そして、基板に対して実質的に平行に配設されるときに、特に、マウント内での穏やかで(schonend)ストレスフリーなサンプル担体の保持がもたらされる。上記の理由により帯状の構成が好ましいが、もちろん、丸い切断面を有するワイヤ状のクリップ部材を構成することもできる。
【0059】
特に好ましく、かつ、容易に実施される実施形態において、クリップ部材はバネ(弾性)部材として構成される。この意味合いにおいて、サンプル担体は、プリロードによるバネ作用によって、基板の表面又は支持表面へ向かって保持される。好ましくは、バネ部材は上述のように帯状の(舌状の)様式で構成される。
【0060】
好ましくは、各クリップ部材が、基板へ固定される第1の末端と、(中央)開口部に向けられて、支持表面にサンプル担体を摩擦的な係合によって保持する第2の末端とを含む。クリップ部材の第1の末端は、好ましくは、スポット溶接によって基板に固定される。
【0061】
クリップ部材の第2の末端は、好ましくは、(中央)開口部において支持表面の端の位置に揃っている。支持表面の全体の幅が利用されるので、サンプル担体は特に安全にマウントに保持される。その一方では、クリップ部材の第2の末端は基板の表面において(中央)開口部内へは延在しないので、電子ビームが阻害されることなく通過することが許容される。
【0062】
マウントが基板に配設されるカバープレートを含み、当該カバープレートが、(中央)開口部に、サンプル担体及びクリップ部材へのアクセスを可能にする(中央)開口部領域
を含む場合には、特に有利である。好ましくは、サンプル担体がこの(中央)開口部領域
にフィットすることができるように、サンプル担体へのアクセスを可能にする(中央)開口部が形成される。このことは、マウントにおけるサンプル担体の配向(Orientieren)を促進する。クリップ部材へのアクセスに関しては、サンプル担体の載置の際にクリップ部材を操作することが可能なように、カバープレートの中央開口領域が形成される。
【0063】
有利な実施形態において、各クリップ部材の第1の末端は、基板とカバープレートの間に固定される。各クリップ部材の第2の末端は、カバープレートの中央開口領域に配設され、そのために、アクセス可能である。そのことによって、非常にコンパクトで、かつ、容易に操作されるマウントが提供される。基板、クリップ部材及びカバープレートは、好ましくは、スポット溶接によって互いに結合される。カバープレートの中央開口領域は、実質的には基板の(中央)開口部領域に対応する。2枚のプレートから組み立てられるこのマウントでは、基板への溶接を可能にする、適宜エラスティック(ないし可撓性)に形成、構成される上側のカバープレートが構成される。
【0064】
更に有利な実施形態において、マウントは、基板とカバープレートの間に配設された中間プレートを含み、クリップ部材は中間プレートの構成要素である。好ましくは、中間プレートは中央において、カバープレートの中央開口領域に実質的に対応する中央開口領域を含み、クリップ部材は当該中央開口領域へ延在する。3枚のプレートから組み立てられるこのマウントでは、好ましくは、中間プレートはクリップ部材と一体的に構成され、好ましくは、中間プレートの厚さはクリップ部材の厚さに対応する。
【0065】
マウントにサンプル担体を穏やかに低ストレスで簡便にインストールするために、カバープレートの中央開口領域の寸法が、偏心状態でサンプル担体を載置することが可能な大きさを有することは、実用上の理由から有利である。すなわち、先ず、マウント内でサンプル担体を保持することが可能な位置の横側にサンプル担体を載置することができ、次に、マウント内でサンプル担体を保持することが可能な位置へ載置されたサンプル担体を横方向移動させることができることは、実用上の理由から有利である。上述のように、中間プレートを使用する実施形態では中間プレートの中央開口領域がカバープレートの中央開口領域に実質的に対応するので、支持表面及びサンプル担体へのアクセスが保障される。クリップ部材は、中央開口領域へ延在する。
【0066】
特定の電子顕微鏡検査の適用形態では、マウントは回転対称的な構造を有する外側の端部輪郭を含み、特に4回回転対称に相当する。好ましくは、マウントは実質的に多角形に、特に、四角形に構成される。
【0067】
更なる一実施形態において、マウントは、実質的に丸い外側の端部輪郭を含む。多くの適用形態では、標本の平面における1本以上の軸を中心とする、高度に正確で安定なチルト運動が必要である。「実質的に丸い」とは、好ましくは環状の外側の端部輪郭として理解されるべきである。しかしながら、外側の端部輪郭は卵型の構成でもあり得る。丸い外側の端部輪郭は、マウントが、いわゆる「ダブルチルト型の」ゴニオメータに利用される場合には、特に有利である。本発明の技術分野における通常の知識を有する者には、ダブルチルト型のゴニオメータはよく知られている。例えば、国際公開WO 00/10191は、ダブルチルト機能を備えたこの種のサイドエントリ型の標本保持装置を開示する。本発明は、かくて、本発明に係るマウントを含むダブルチルト型のゴニオメータにも関連する。
【0068】
好ましい一実施形態において、マウントへサンプル担体をインストールするために、基板を貫通して延在する開口部(開孔)が各クリップ部材の下に配設される。クリップ部材を、開口部(開孔)を通って下から導入(挿通)される当接部材の助けによって持ち上げることができる。一度、サンプル担体が載置されると、サンプル担体は、マウント内において、工具を除去して元の位置へクリップ部材を沈降させることによって保持される。マウントにサンプル担体をインストールするための載置装置及び載置方法は、図4〜7に関して以下に詳細に記載される。
【0069】
本発明は、更に、電子顕微鏡検査のサンプル担体を搭載したマウントを載置するための載置装置に関連し、当該載置装置は、基板を貫通して延在する開口部(開孔)が各クリップ部材の下に配設された本発明に係るマウントと、当該マウントを載置することが可能な載置補助要素とを含み、載置補助要素は、当接部材を含み、当接部材が、マウントの基板において各クリップ部材の下に配設された開口部(開孔)を通過し、当接部材が、マウントのクリップ部材の保持力に対抗して、基板から離れる方向へクリップ部材を移動させることを特徴とする。
【0070】
載置補助要素に配設された当接部材は、好ましくは短軸(ペグないし突起)型である。載置補助要素は、好ましくは、ブロック状に構成され、載置の際のマウントの配向(配設)をより容易にするために、マウントの外側の形状に対応する凹状部を含む。そのことによって、マウントの基板に配設された開口部(開孔)を、載置補助要素に配設された当接部材へ向かって正確に配向することが可能である。
【0071】
本発明は、更に、上述のような載置装置によって電子顕微鏡検査のサンプル担体を搭載したマウントを載置する方法に関連し、以下の各ステップを含む:
a)載置補助要素にマウントを載置するステップ、
b)載置補助要素の当接部材がクリップ部材を、基板から離れる方向であって上昇した位置へ移動させるステップ、
c)マウントの支持表面にサンプル担体を載置するステップ、及び
d)マウントを載置補助要素から取り出して、クリップ部材が元の位置へ戻ることによって、サンプル担体を摩擦的な係合様式で支持表面において保持するステップ。
【0072】
当該方法を実行するために、クリップ部材は、特にバネ部材として配設されることが好ましい。
【0073】
以下にさらに図面を参照しつつ実施例について詳述する。
【実施例】
【0074】
図1は、電子顕微鏡検査のサンプル担体を保持するための本発明に係るカートリッジ100を示す。カートリッジ100は、基板101、カバープレート102、基板101とカバープレートとの間に配設される中間プレート113、そして、基板101、中間プレート113、カバープレート102の中央領域を通過して延在する(中央)開口部103を含む。開口部103は、透過型電子顕微鏡のビームパス(光路)において、電子ビームの経路として定義される。開口部103は、電子顕微鏡検査のサンプル担体(図示されない、図示の例ではグリッドである)が載置される丸い(中央)開口部領域103aを含む。開口部103は、更に、ピンセットによってサンプル担体を載置することが可能なように伸長する(長孔状)開口部領域103bを含む。カートリッジ100は、更に、2つのクリップ部材104a及び104bを含む。クリップ部材104a、104bは中間プレート113の構成要素であり、中間プレート113と、クリップ部材104a、104bとは、一体的に構成される。中間プレート113の厚さは、クリップ部材104a、104bの厚さに対応する。クリップ部材104a、104bは、基板上を開口部103に向かって延在する帯状のバネ部材として構成される。
【0075】
基板(ないしベースプレート)101は、更に、(中央)開口部103の周辺に部分的に延在する電子顕微鏡検査のサンプル担体のための支持表面107を含む。支持表面107は、もちろん(中央)開口部103の周辺全体に延在させることもできる(図示されない)。支持表面107は、第1の支持表面領域107aと、より大きな第2の支持表面領域107bを含む。より大きな第2の支持表面領域107bは、図4〜7において以下に更に詳細に記載されるように、カートリッジへのサンプル担体のインストールを補けて容易にする。基板101は、更に、(中央)開口部103に対応する基板の開口領域108を含む。カバープレート102は、基板の開口領域108よりも大きくなるように構成されるカバープレートの開口領域109を含み、支持表面107及びクリップ部材104a、104bへのアクセスを可能にする。中間プレート113は中央領域に実質的にカバープレートの中央開口領域109に対応する中間プレートの開口領域を含み、クリップ部材104a、104bは中間プレートの開口領域に向かって延在する。
【0076】
各クリップ部材104a、104bは、中間プレート113の方から伸長する第1の末端105a, 105bと、(中央)開口部103の方向に向かって延在する第2の末端106a、106bとを有する。クリップ部材104a、104bのバネ作用は、基板101に向かって働く。図示した例では、クリップ部材104a、104bは、互いに対向して配設される。開口部103において、第2の末端106a、106bは、支持表面107の端位置に揃っている。
【0077】
図示されないが、図示された実施形態から容易に想到可能な他の実施形態においては、カートリッジは中間プレート113を有さずに、基板101及びカバープレート102のみを有する。この代替的な実施形態においては、各クリップ部材104a、104bの第1の末端105a、105bは、かくて、中間プレート113から伸長するのではなく、基板101及びカバープレート102の間に固定される。2枚のプレートから組み立てられるこのカートリッジでは、基板への溶接を可能にするために、上側のカバープレートは、適宜の弾性をもって(エラスティックに)構成される。
【0078】
カートリッジ100には、基板101、中間プレート113及びカバープレート102を貫通する貫通孔111が形成され、当該貫通孔111は、溶接の際に各プレートを互いに正しく位置付けるための単なる製造補助部としての役割を果たす。同様に製造補助部としての役割を果たすタブ112は、カートリッジ100の外側の端部輪郭110に配設される。タブ112は、溶接の後にカートリッジから除去される。
【0079】
基板101と、クリップ部材104a、104bを有する中間プレート113と、カバープレート102とは、スポット溶接によって互いに分離不可能なように結合される。カートリッジ100が可能な限りにスムーズで研磨された状態の表面を有するように、個々の構成要素を、例えば、振動式研磨装置(Trowalisieren:登録商標)によって表面処理することができる。
【0080】
カートリッジ100は、特に、サイドエントリ型のゴニオメータ(Side-Entry-Goniometer)に受容するために提供される。しかしながら、トップエントリ型のゴニオメータ(Top-Entry-Goniometer)にカートリッジ100を使用することも可能である。
【0081】
図1に示したカートリッジ100は、回転対称性の構造の外側の端部輪郭110を有し、特定の適用形態に必要な4回回転対称(90度回転対称)に対応する。カートリッジ100が挿入されるゴニオメータがチルト運動の軸を1本のみ有する場合には、カートリッジ100を、透過型電子顕微鏡の外側から、定義された角度ずつ、すなわち90度ずつ、回転させることができる。一度、回転操作を実行すると、透過型電子顕微鏡のチルト運動の角度は、結果的に同様に90度回転し、2つの互いに直交する軸の周りの回転操作に対応する。
【0082】
図2は、カートリッジ100の下側の斜視図である。基板101は、クリップ部材104a、104bの直接下に配設され、クリップ部材104a、104bへのアクセスを可能にする、基板を貫通する2つの開口部(開孔)120a、120bを含む。図4〜7に関して後に記載のように、電子顕微鏡検査のサンプル担体を載置するために、クリップ部材104a、104bを、開口部(開孔)120a、120bを通って下方からガイドされるペグ(短軸)型の当接部材の助けによって、バネ作用に反して持ち上げることができる。
【0083】
図3は、図1及び図2に示したカートリッジ100とは異なり、丸い外側の端部輪郭210を有するカートリッジ200を示す。図2のカートリッジ100に示されていた製造補助部(貫通孔111、タブ112)は、カートリッジ200には図示されない。カートリッジ200の他の特徴は、カートリッジ100のものと類似する。カートリッジ200によって、ダブルチルトを実行することができる。結果的には、「ダブルチルト型の」ゴニオメータにおける使用に特に適する。本発明の分野における通常の技術を有する者(当業者)には、ダブルチルト型のゴニオメータは、よく知られている。
【0084】
上記2つの実施例に示された各カートリッジ100、200は、経験上最も頻繁に使用されるので、上述のように、グリッド(グリッド310、図6及び図7参照)の形状のサンプル担体の受容のための寸法としてある。しかしながら、本発明に係るカートリッジが、標準的なグリッドとは異なる直径や異なる外部の形状を有する電子顕微鏡検査のサンプル担体の寸法であり得ることは、本発明の分野における当業者には明らかであろう。
【0085】
以下の図4〜7は、電子顕微鏡検査のサンプル担体を有する本発明に係るカートリッジを載置するための載置装置を示し、載置方法を表す。
【0086】
図5は載置装置300を示し、当該載置装置300は、本発明に係るカートリッジ(図5には、上記のカートリッジ100が示されている)と、ブロック形状の載置補助要素301とを含む。図4は、凹状部302を含む載置補助要素を示す。当該凹状部302はカートリッジ100の外部輪郭の形状に対応し、当該凹状部302には、図5に示すように、カートリッジ100が載置される。カートリッジ100は、ガイド部(溝)303を介して、外側から載置補助要素301へ挿入することができる。このことによって、側面からのカートリッジ100の挿入と取り出しは、上方からのカートリッジ100の載置・取り出しよりも、実質的により容易で、かつ、扱いやすいものとなる。カートリッジ100の載置補助器への載置及びカートリッジ100の載置補助器からの取り出しの際に、把握補助器(例えば、ピンセット)を用いてカートリッジ100をつかむことを簡便にするために、載置補助要素301は、ガイド303の中央部に配設される窪み304を含む。凹状部302には、2つのペグ型の当接部材305a、305bも配設される。
当接部材305a、305bの目的は、以下に示す。
【0087】
図5は、カートリッジ100を載置した載置補助要素301を示す。当接部材305a、305bは、カートリッジ100の下側に位置する開口部(開孔)120a、120bに対向してそれぞれ配設される。カートリッジ100の載置補助要素301における凹状部302への沈降によって、ペグ型の当接部材305a、305bは開口部(開孔)120a、120bの中へ滑り込む。それによって、弾性クリップ部材104a、104bの下面は、当接部材305a、305bに当たり、それらのバネ作用に反して上方へ持ち上がり、支持表面107から上側に離れて位置する。
【0088】
図6は、カートリッジ100のより大きな第2の支持表面領域107bに位置するグリッド310を有する載置装置300を示す。グリッド310は、先ず、偏心位置(エキセントリックな位置、符号311が付されている)に位置する。すなわち、グリッド310は、カートリッジ内でグリッド310が保持されるべき実際(本来)の保持位置の横側に位置する。次のステップにおいて、図7に示すように、カートリッジ100の第1の支持表面領域107aの保持位置(符号312が付されている)であり、かつ、上昇した位置にあるクリップ部材104a、104bの下にグリッド310が位置するように、グリッド310は外側から第1の支持表面領域107aの方向に移動する。カートリッジ100が持ち上がることによって、クリップ部材104a、104bに元の位置に戻ろうとするバネの復原作用が生じる。そして、カートリッジ100の中で安全に保持されるように、グリッド310の端部領域313a、313bにおいてグリッド310が保持される。図7から明確なように、端部領域313a、313bは、間隔を空けて離れている。図4〜7に示した方法は、グリッド310の安定でストレスフリーの(spannungsfreie)インストール及び載置を可能にする。更に、グリッド310とカートリッジ100との間で、非常に良好な熱的接触関係が保障される。グリッド310は、カートリッジ100の中で、2つの端部領域313a、313bにおいてのみ保持されるので、大きく傾いた角度をとることも可能である。一度、グリッド310がカートリッジ100の中に保持されると、カートリッジ100を載置補助要素301から取り出し、ゴニオメータにインストールすることができる。
【0089】
図3〜7に示した方法は、図3のカートリッジ200と本発明に係る任意のカートリッジとを用いて、同様に実施することができる。その場合には、載置補助要素の凹状部は、もちろん、それぞれのカートリッジの寸法に従って形成されなければならない。
【0090】
図8は、カートリッジ100(電子顕微鏡検査のサンプル担体を除いた状態で図示)を受容したゴニオメータ400の一部を示す。カートリッジ100を受容するためのゴニオメータ400の受容領域401は、フォーク様の形状である。カートリッジ100は、(ゴニオメータの)受容領域401において延在する(ゴニオメータの)支持表面402に載置され、2つの弾性クリップ403によってゴニオメータに保持される。
【0091】
図9は、図8と同様に、丸い外側の端部輪郭を有するカートリッジ200を受容したゴニオメータ500を示す。但し、カートリッジ200を保持するための弾性クリップは、ゴニオメータ500のフォーク様の形状の受容領域501には示されていない。
【0092】
ゴニオメータにサンプル担体のカートリッジ(マウント)を保持するための更なる各種メカニズムが、背景技術から知られる。従って、本発明の分野の当業者は、これら各種メカニズムに本発明に係るカートリッジが利用可能なよう、本発明に係るカートリッジを形成することができるだろう。例えば、欧州特許公報EP 1 947 675 A1号に示されたメカニズムも、本発明に係るカートリッジに適する。欧州特許EP 1 947 675 1号に開示されたゴニオメータは、平行する2つのロッドを有するフォーク様の形状の受容領域を含む。ロッドは、カートリッジの外側の端部輪郭の周辺に延在する溝と噛み合い、このようにして、カートリッジがゴニオメータに保持される。この保持メカニズムは、本発明に係るカートリッジに対しても備えることが可能であろう。そのためには、実施例に示されたカートリッジ100、200には、カートリッジの外側の端部輪郭の周辺に延在する溝(図示されない)が形成されるだろう。これに代り、本願において再度言及されるべき更なる例は、ダブルチルト型のゴニオメータであり、カートリッジはサンプル担体の面内にある2本の軸を中心として旋回可能なように載置される(国際公開WO 00/10191号参照)。他の公知のゴニオメータ(複数)としては、1本の軸のみを中心としたカートリッジのチルト運動を許容するものがある。
【0093】
上述の本発明の実施態様は、単に、多様な例の中のいくつかに過ぎず、かくて、本発明は開示した実施態様に限定的に解釈されるべきではない。
【0094】
本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし、選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0095】
100 :カートリッジ
101 :基板(ベースプレート)
102 :カバープレート
103 :(中央)開口部
103a :(中央)開口部領域
103b :(長孔状)開口部領域
104a、104b:保持装置ないしクリップ部材
105a、105b:第1の末端
106a、106b:第2の末端
107 :支持表面
107a、107b:支持表面領域
108 :基板の開口領域
109 :カバープレートの中央開口領域
110 :外側の端部輪郭
111 :貫通孔
112 :タブ
113 :中間プレート
120a、120b:開口部(開孔)
200 :カートリッジ
210 :丸い外側の端部輪郭
300 :載置装置
301 :載置補助要素
302 :凹状部
303 :ガイド部
304 :窪み
305a、305b:当接部材
310 :グリッド
311 :偏心位置
312 :保持位置
313a、313b:端部領域
400 :ゴニオメータ
401 :(ゴニオメータの)受容領域
402 :(ゴニオメータの)支持表面
403 :弾性クリップ
500 :ゴニオメータ
501 :(ゴニオメータの)受容領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡検査のサンプル担体(310)を保持するためのマウント(100、200)であって、
当該マウント(100、200)は、
中央領域に貫通する開口部(103)を有する基板(101)と、
該開口部(103)の周囲に少なくとも部分的に延在するサンプル担体(310)の支持表面(107)と、
基板(101)に備えられた支持表面(107)で、サンプル担体(310)を摩擦的な係合によって保持するための保持装置(104a、104b)と、
を含み、
前記保持装置(104a、104b)は、サンプル担体(310)を摩擦的な係合によって保持するための、少なくとも2つの相互に独立的なクリップ部材(104a、104b)を含み、
前記クリップ部材(104a、104b)が、基板(101)から該開口部(103)へ向かって延在すること、
前記クリップ部材(104a、104b)が、互いに間隔を空けて離れた電子顕微鏡検査のサンプル担体(310)の端部領域(313a、313b)でサンプル担体(310)を支持表面(107)に保持することができること、
を特徴とするマウント。
【請求項2】
保持装置が、前記クリップ部材として2つのクリップ部材(104a、104b)を含むことを特徴とする請求項1に記載のマウント。
【請求項3】
前記クリップ部材(104a、104b)が、互いに対向して配設されることを特徴とする請求項2に記載のマウント。
【請求項4】
前記クリップ部材(104a、104b)が帯状に構成され、基板(101)と実質的に平行に配設されることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のマウント。
【請求項5】
前記クリップ部材(104a、104b)がバネ部材として構成されることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のマウント。
【請求項6】
各クリップ部材(104a、104b)が、基板(101)へ固定される第1の末端(105a、105b)と、該開口部(103)に向けられて、支持表面(107)にサンプル担体(310)を摩擦的な係合によって保持する第2の末端(106a、106b)とを含むことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のマウント。
【請求項7】
該開口部(103)において、前記クリップ部材(104a、104b)の第2の末端(106a、106b)が、支持表面(107)の端の位置に揃っていることを特徴とする請求項6に記載のマウント。
【請求項8】
基板(101)に配設されるカバープレート(102)が、中央領域に、サンプル担体(310)及び前記クリップ部材(104a、104b)へのアクセスを可能にする中央開口領域(109)を含むことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のマウント。
【請求項9】
各クリップ部材(104a、104b)の第1の末端(105a、105b)が、基板(101)とカバープレート(102)との間に固定されていることを特徴とする請求項8に記載のマウント。
【請求項10】
中間プレートが基板(101)とカバープレート(102)との間に配設され、クリップ部材(104a、104b)が中間プレートの構成要素であることを特徴とする請求項8に記載のマウント。
【請求項11】
カバープレート(102)の前記中央開口領域(109)が、偏心状態でサンプル担体(310)を載置することが可能な大きさを有すること、
すなわち、先ず、マウント(100、200)内でサンプル担体(310)を保持することが可能な位置(312)の横側にサンプル担体(310)を載置することができ、次に、マウント(100、200)内でサンプル担体(310)を保持することが可能な位置(312)へ載置されたサンプル担体(310)を横方向移動させることができること、
を特徴とする請求項8〜10の何れか1項に記載のマウント
【請求項12】
基板(101)を貫通して延在する開口部(120a、120b)が各クリップ部材(104a、104b)の下に配設されることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載のマウント。
【請求項13】
マウント(100)が回転対称的な構造を有する外側の端部輪郭(110)を含み、4回回転対称に相当することを特徴とする請求項1〜12の何れか1項に記載のマウント。
【請求項14】
マウント(200)が実質的に丸い外側の端部輪郭(210)を有することを特徴とする請求項1〜12の何れか1項に記載のマウント。
【請求項15】
電子顕微鏡の標本保持装置(400、500)に受容可能なように構成されることを特徴とする請求項1〜14の何れか1項に記載のマウント。
【請求項16】
電子顕微鏡検査のサンプル担体を搭載したマウント(100、200)を載置するための載置装置(300)であって、
当該載置装置(300)は、請求項1〜15の何れか1項に記載のマウント(100、200)と、該マウント(100、200)を載置することが可能な載置補助要素(301)とを含み、
前記載置補助要素(301)は、当接部材(305a、305b)を含み、
前記当接部材(305a、305b)が、該マウント(100、200)の基板(101)における各クリップ部材(104a、104b)の下に配設された開口部(120a、120b)を通過すること、
前記当接部材(305a、305b)が、該マウント(100、200)のクリップ部材(104a、104b)の保持力に対抗して、基板(101)から離れる方向へクリップ部材(104a、104b)を移動させること、
を特徴とする載置装置。
【請求項17】
請求項16に記載の載置装置(300)によって電子顕微鏡検査のサンプル担体(310)を搭載したマウント(100、200)を載置する方法であって、
a)載置補助要素(301)にマウント(100、200)を載置するステップと、
b)載置補助要素(301)の当接部材(305a、305b)がクリップ部材(104a、104b)を、基板(101)から離れる方向であって上昇した位置へ移動させるステップと、
c)マウント(100、200)の支持表面(107)にサンプル担体(310)を載置するステップと、
d)マウント(100、200)を載置補助要素(310)から取り出して、クリップ部材(104a、104b)が元の位置へ戻ることによって、サンプル担体(310)を摩擦的な係合様式で支持表面(107)において保持するステップと、
を含む方法。
【請求項18】
電子顕微鏡の標本保持装置(400、500)であって、
分離可能なように受容可能な請求項1〜15の何れか1項に記載のマウント(100、200)を含む標本保持装置。
【請求項19】
ゴニオメータの形状であることを特徴とする請求項18に記載の標本保持装置。
【請求項20】
マウントが、サンプル担体の平面における少なくとも1本の軸を中心としてチルト運動が可能なように載置されることを特徴とする請求項18又は19に記載の標本保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−119315(P2012−119315A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259339(P2011−259339)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(500056219)ライカ ミクロジュステムス(シュヴァイツ)アーゲー (42)
【Fターム(参考)】