説明

電子顕微鏡

【課題】本発明の目的は、直流負荷の温度ドリフトによる抵抗値変動を補償し、短時間で出力が安定する電子顕微鏡に用いられる直流安定化電源を提供することにある。
【解決手段】上記目的は、一例として直流安定化電源の出力部抵抗器と、同等の温度係数を持つ温度検出抵抗を設け、当該温度検出抵抗器で発生する温度ドリフトによって、前記出力部抵抗器で発生する温度ドリフトを相殺するように構成した直流安定化電源の提供により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子顕微鏡に用いられる直流安定化制御に係り、特に出力部の熱変化による検出誤差補償および性能向上に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡の電子源は、カソードから電子ビームを放射するための引き出し電極や、カソードから余分な熱電子の放出を抑制するためのサプレッサ電極等によって構成されている。引き出し電極によって引き出された電子ビームは、加速電極によって加速され、試料に照射される。カソードに印加される電圧を始め、電子顕微鏡鏡体内において印加される電圧は高い安定性が要求される。特許文献1には、カソード周囲の温度を測定し、当該温度が所定値となるようにカソードの温度を制御することが説明されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−235839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の開示は、カソードの周囲温度の変化に因らない電子源の安定化を実現し得るものであるが、カソード等に電圧を印加するための直流電源の安定化を志向するものではない。直流安定化電源を動作させると、その後直流負荷が温度ドリフトし、このドリフトが落ち着くまでには(一定の抵抗値に落ち着くまでには)、長時間を要するという問題があった。これによって、電源の出力もドリフトしてしまい、出力が安定するまで(直流負荷のドリフトが止まるまで)、精度の高い電子顕微鏡観察ができないという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、直流負荷の温度ドリフトによる抵抗値変動を補償し、短時間で出力が安定する電子顕微鏡に用いられる直流安定化電源を
提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、一例として直流安定化電源の出力部抵抗器と、同等の温度係数を持つ温度検出抵抗を設け、当該温度検出抵抗器で発生する温度ドリフトによって、前記出力部抵抗器で発生する温度ドリフトを相殺するように構成した直流安定化電源の提供により達成される。
【発明の効果】
【0007】
上記構成によれば、直流安定化電源回路動作当初に起こる出力検出部抵抗器の温度ドリフト(抵抗値変動)を出力検出部抵抗器と同じ温度係数の抵抗器で補償する事ができる為、回路動作直後から安定した出力を得る事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に説明する本発明の一実施例は、出力検出部抵抗器と同じ温度係数の温度検出抵抗を設けた点に特徴がある。この温度検出抵抗を出力検出部抵抗器と直列に接続する(温度検出抵抗は出力検出部抵抗器の温度ドリフトに対し打ち消す様に抵抗値が変化するものを使用する)ことによって、出力検出部抵抗器の温度ドリフトを補償することが可能となる。
【0009】
また、出力検出部抵抗器の温度を上記温度検出抵抗で測定し、この信号によって出力検出部抵抗器の温度を変える(出力検出部抵抗器を恒温槽内に取付け、温度検出抵抗の信号に連動し、恒温槽の温度が変わるようにしておく)ことによって、出力検出部抵抗器の温度ドリフトを補償するこのもできる。
【0010】
出力検出部抵抗器部に設ける温度検出抵抗器は、出力検出部抵抗器と同一温度係数のものを使用する。すなわち、温度検出抵抗器は回路動作後、出力検出部抵抗と同一の温度ドリフトをする。それによって、出力検出部抵抗器の温度ドリフトは、温度検出抵抗器の温度ドリフトによって打ち消される為、回路動作後短時間で出力が安定する。
【0011】
上述するような本実施例によれば、直流安定化電源回路動作当初に起こる出力検出部抵抗器の温度ドリフト(抵抗値変動)を出力検出部抵抗器と同じ温度係数のサーミスタ抵抗値で補償する事ができる為、回路動作直後から安定した出力を得る事ができる。
【0012】
また、出力検出部抵抗器の温度変化を検出し、検出信号で出力検出部抵抗器の温度を変える事により出力検出部抵抗器の温度ドリフトを補償する。
【0013】
更に、出力検出部抵抗器の温度変化による抵抗値変動を補償する為、出力検出部抵抗器選択の際、温度係数等を考慮せずに設計が可能である。
【0014】
また、サーミスタにより温度係数が打ち消されるように動作する為、温度係数の悪い抵抗器を出力検出部抵抗器として使用しても安定した出力を得る事ができ、低価格化を実現することが可能となる。
【実施例1】
【0015】
以下、発明の実施例を図面を用いて説明する。
【0016】
図1は、以下に説明する直流安定化電源の1つの適用対象である電子顕微鏡の電子源周りの回路系を説明する図である。カソード1には、電極5を介して直流安定化電源4が接続されており、所定の電圧が印加されるように構成されている。引き出し電極2には、カソードから電子を引き出すために正の電圧が印加されている。サプレッサ電極3は、カソード1から放出される余分な熱電子を抑制するためのものであり、通常負の電圧が印加される。以下に直流安定化電源4について詳細に説明する。
【0017】
図2は直流安定化電源回路のブロック図である。交流電源15は、非安定直流電源16に接続されている。非安定直流電源16は制御素子部17に接続され、当該制御素子部
17は、帰還部65,誤差検出部41及び基準電圧発生部50と共に同一基板上に設けられている。また、増幅部18と出力検出部21は同一箱内に設置されており油で絶縁されている。
【0018】
この回路の動作は、まず、基板外部にある交流電源15により非安定直流電源16を動作させる。この非安定直流電源16によって制御素子部17(主にインバータ回路)を動作させ、増幅部18を通し出力19が行われる。この出力19を、出力検出部21を通し基準電圧発生部50の電圧と、誤差検出部41の信号とを比較する。比較した差が帰還部65を通り、制御素子部17に戻され出力19を安定的に制御している。
【0019】
本回路動作当初は、出力検出部21の抵抗器が温度ドリフトする為、出力19には、この影響が現われる。
【0020】
図3は本実施例回路のより具体的な説明をするための図である。帰還信号10は、図2にて説明した増幅部18と接続される。出力検出部抵抗器20は、出力検出部21の内部に設けられており、非出力検出部抵抗器40は誤差検出部41の内部に設けられており、更に帰還増幅器60は、帰還部65の内部に設けられている。
【0021】
直流安定化回路動作後、帰還信号10を起因として発生する熱で出力検出部抵抗器20の抵抗値が一定の値となるまで(温度が一定となるまで)抵抗値変動が起こる。出力検出部抵抗器20で発生する熱は、サーミスタ30によって検出され、基準電圧発生部50に対して出力検出部抵抗20と同一の抵抗値変化をする。
【0022】
このサーミスタ30と基準電圧発生部50の電圧と、出力検出部抵抗器20の出力信号とが比較される。この為、帰還増幅器60には、出力検出部抵抗器20のドリフト信号が現われないので、出力19のドリフトを抑制することができる。
【0023】
図4は、本実施例の他の回路図例を説明する図である。上述の例ではサーミスタ30,非出力検出部抵抗器40の加算抵抗器として使用していたが、これを出力検出部抵抗器
20の温度変動検出器として使用する。
【0024】
非出力検出部抵抗器40を覆っている恒温槽80の温度を変える事によって、非出力検出部抵抗器40の抵抗値が変化し、出力検出部抵抗器20の抵抗値変動を相殺することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】電子顕微鏡の電子源周りの回路構成を説明する図。
【図2】直流安定化電源回路のブロック図。
【図3】直流安定化電源の詳細を説明する図。
【図4】直流安定化電源の詳細を説明する図。
【符号の説明】
【0026】
15…交流電源、16…非安定直流電源、17…制御素子部、18…増幅部、19…出力、20…出力検出部抵抗器、21…出力検出部、30…サーミスタ、40…非出力検出部抵抗器、41…誤差検出部、50…基準電圧発生部、60…帰還増幅器、65…帰還部、70…温度制御部、80…恒温槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡に用いられる直流安定化電源において、
当該直流安定化電源の出力部抵抗器と同等の温度係数を持つ温度検出抵抗を備え、当該温度検出抵抗で発生する温度ドリフトによって、前記出力部抵抗器で発生する温度ドリフトを相殺するように、前記温度検出抵抗が接続されていることを特徴とする電子顕微鏡に用いられる直流安定化電源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−250221(P2007−250221A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68473(P2006−68473)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【出願人】(000233550)株式会社日立ハイテクサイエンスシステムズ (112)
【Fターム(参考)】