説明

電子顕微鏡

【課題】 電子顕微鏡の性能や取扱性を阻害することなく作業台や観察台を兼用し得るテーブル面を備えたコンパクトなシールドカバー付きの電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】 電子顕微鏡であって、鏡筒部200の下方に配置される凹部空間部350と、架台筐体100に形成される凹状の下肢空間部360とを有し、前記凹部空間部350と下肢空間部360との間には中央が凹状に切り欠かれ、その両側が前方に張り出したテーブル面380を備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その周囲をシールドカバーで覆った構造を備えた電子顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡は、観察対象の試料に電子線をあて、それを透過してきた、あるいは反射してきた電子が作り出す干渉像を拡大して観察するタイプの電子顕微鏡であり、物理学、化学、工学、生物学、医学などで幅広く用いられている。この電子顕微鏡は、高い分解能で観察対象を拡大観察するために外部からの振動や気流あるいは塵埃の影響を受けやすいという課題がある。そこで近年の電子顕微鏡では、装置の外周をシールドカバーで覆った構造を備えたものが提案されている。
【0003】
具体的には、電子銃や試料挿入部などからなる鏡筒部や、この鏡筒部が載置されている架台筐体全体を、シールドカバーによって覆う構造としている。このシールドカバーには、開閉扉が設けてあり、この開閉扉を介して観察対象の試料を鏡筒部にセットする構造としている。そして、観察対象の画像は、モニター装置で観察するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008ー34231号公報
【特許文献2】特開平11ー154478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子顕微鏡には、大きく分けて、観察対象の試料に電子線をあて、それを透過してきた電子を拡大して観察する透過型電子顕微鏡 (Transmission Electron Microscope; TEM) と、観察対象の試料に電子線をあて、そこから反射してきた電子(または二次電子)から得られる像を観察する走査型電子顕微鏡 (Scanning Electron Microscope; SEM)が知られている。また近年では、両者の特徴を合わせ持つ走査型透過電子顕微鏡 (Scanning Transmission Electron Microscope; STEM) も注目されている。これらの電子顕微鏡では、鏡筒部とこれを支持する架台筐体を含む電子顕微鏡本体部の外観全体をカバーで覆うことで、高い分解能を得やすくすることができる。
【0006】
しかし、透過型電子顕微鏡では、観察対象の画像をモニター装置で間接的に見るだけでなく、電子顕微鏡本体部に設けられる観察窓部から観察対象の画像を直接観察することが行われている。具体的には、架台筐体のトップ面近傍にテーブル面を形成し、このテーブル面に対峙するように観察者が着座して観察窓部を覗き見る構造としている。
【0007】
このような、観察対象の画像を直接見るタイプの電子顕微鏡では、観察者が長時間にわたって楽な着座姿勢をとれることが必要であるが、従来の電子顕微鏡本体部全体をシールドカバーで覆う構造では、この課題を解決していない。加えて、シールドカバーで装置全体を覆う従来構造では、シールドカバーの形状を箱形または筒型の直立する壁面を備えた構造としているため、装置が大型化すると、全体のボリュームがより際立ってしまうという課題がある。しかも、このような従来構造では、保守部品や観察対象を借り置きするスペースもないため、作業性にも課題を備えている。
【0008】
また一方、大型の電子顕微鏡では、本体部をより安定設置するために、脚部を備えた架台筐体の設置面積を大きくする必要がある。これに伴って、架台筐体を覆うシールドカバーも大型化するため、架台筐体の上部に設置される本体部への観察対象の出し入れに際し、この架台筐体が邪魔になってアクセスし難いという課題がある。
【0009】
そこで、この発明の目的とするところは、電子顕微鏡の性能や取扱性を阻害することなく作業台や観察台を兼用し得るテーブル面を備えたコンパクトなシールドカバー付きの電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、この発明の電子顕微鏡では、鏡筒部と、この鏡筒部を支持する架台筐体の外周をシールドカバーで覆われた構造とし、前記シールドカバーの前面部は、前記鏡筒部の最上部に配置される電子銃を露出させる第1開口部と、前記鏡筒部の中段に配置される試料挿入部を露出させる第2開口部と、前記鏡筒部の下方に配置される観察窓部を露出させる凹部空間部と、その上部に鏡筒部を支持する前記架台筐体に形成される凹状の下肢空間部とに上下に分割され、前記第1開口部と前記第2開口部にはそれぞれシールド空間を構成する開閉蓋を備え、前記凹部空間部と前記下肢空間部との間には中央が凹状に切り欠かれ、その両側が前方に張り出したテーブル面を備えている。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、電子顕微鏡の性能や取扱性を阻害することなく作業台や観察台を兼用し得るテーブル面を備えたコンパクトなシールドカバー付きの電子顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明に係る電子顕微鏡システムの概略構造図である。
【図2】この発明に係る透過型電子顕微鏡システムの概略構成図である。
【図3】この発明に係る電子顕微鏡の構造図である。
【図4】この発明に係る電子顕微鏡の使用形態を示す縦断面図である。
【図5】この発明に係る開閉扉の開閉動作を示す横断面図である。
【図6】この発明に係る電子顕微鏡の応用例を示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
以下、図1から図6を参照して、この発明に係る電子顕微鏡の実施例を具体的に説明する。ここで、図1は、この実施例に係る電子顕微鏡システムの概略構造図である。図2は、この実施例に係る透過型電子顕微鏡システムの概略構成図である。図3は、この実施例に係る電子顕微鏡の構造図である。図4は、この実施例に係る電子顕微鏡の使用形態を示す縦断面図である。図5は、この実施例に係る開閉扉の開閉動作を示す横断面図である。図6は、電子顕微鏡の応用例を示す外観斜視図である。なお、同様な部位や矢印などは同一符号をもって示し、重複した説明を省略する。
【0014】
先ず、図1を参照して、この実施例に係る電子顕微鏡システムの概略構造を説明する。図1において、符号1で総括的に示す電子顕微鏡システムは、観察対象の試料221に電子線をあて、それを透過してきた電子を拡大して観察する透過型の電子顕微鏡20と、この電子顕微鏡20を操作制御して、取得した拡大画像をモニタするためのモニタ装置50とを含んで構成される。
【0015】
また、電子顕微鏡20は、架台筐体100の上部に支持される鏡筒部200とを含んで構成される電子顕微鏡本体部30と、この電子顕微鏡本体部30の周囲を覆うシールドカバー40とから構成される。
【0016】
この実施例に係る電子顕微鏡20は、鏡筒部200の最上部に配置した電子銃210で発生した電子線を鏡筒部200の中段に配置した試料挿入部220にセットされる観察対象の試料221を透過させ、この透過した電子線の像を鏡筒部200の下方に配置した蛍光板部230に結像させ、この結像した像を蛍光板部230の下部に配置したカメラ部240で撮影して、これをモニタ装置50で観察したり、あるいは、蛍光板部230に結像した像を観察窓部250から直接観察することができる。
【0017】
また、シールドカバー40は、架台筐体100を覆う下部シールドカバー41と、この下部シールドカバー41の上面の投影面積内に配置される一回り小さい面積を備えた上部カバー42とを備えて構成される。このシールドカバー40は鋼材などで形成される骨組筺体300にパーマロイや鉄板あるいはアルミニュームなどの金属材料の板材310で覆うシールド構造としている。
更に、このシールドカバー40は、電子顕微鏡本体部30と構造的に分離した構造としている。このように、この実施例では電子顕微鏡本体部30をシールドカバー40で覆うことにより、外部から受ける熱、気流、磁場、音波あるいは電波や塵埃さらには振動などを遮蔽し外乱を除去することで、高い分解能を維持ることができる。
【0018】
モニタ装置50は、各種の画像や観察画像を表示するためのディスプレイ部51と、キーボードやマウスなどの入力装置52や、電子顕微鏡システム1を統括的に制御する制御装置53とを含んで構成される。このモニタ装置50は、極一般的なパーソナルコンピュータの装置構成を備えており、画像情報や各種プログラムなどを格納する図示しない記憶装置や他のコンピュータシステムと接続するための通信装置を含むことができる。そして、このモニタ装置50によれば、電子顕微鏡20を円滑に操作制御できるとともに、この電子顕微鏡20で取得した拡大画像を観察したり分析したり、あるいは、ネットワークを介して、他のシステムに送信したりすることができる。
【0019】
そして、この実施例に係る電子顕微鏡20の大きな特徴の1つは、電子顕微鏡本体部30を覆うシールドカバー40を、電子顕微鏡本体部30の機能に対応して上下に複数に分割し、このそれぞれの区画部321の前面部の構造を前記機能に対応した構造とした点にある。
【0020】
即ち、従来の電子顕微鏡本体部を保護するシールドカバーは、モニタ装置での観察を主眼にしているために、試料挿入部に試料をセットしたり、あるいは鏡筒部をメンテナンスするための開閉蓋を備えているものの、一様な箱体で電子顕微鏡本体部の外周を覆うことで、外から受ける振動あるいは塵埃あるいは電磁波などの外来障害を防いでいる。
【0021】
しかし、これらの従来例では、鏡筒部に設けた観察窓部を介して直接観察する作業が考慮されていない。つまり、従来例では、観察者が長時間にわたって、楽な立位姿勢や座位姿勢をとって観察窓部を介しての直接観察ができないという課題がある。また、資料挿入部に資料をセットする際の作業台や補助具の載置台がないなどの課題もある。
【0022】
そこで、この実施例では前記課題を解決するために、シールドカバー40の前面部を、鏡筒部200の最上部に配置される電子銃210を露出させる第1開口部330と、鏡筒部200の中段に配置される試料挿入部220を露出させる第2開口部340と、鏡筒部200の下方に配置される観察窓部250を露出させる凹部空間部350と、その上部に鏡筒部200を支持する架台筐体100に形成される凹状の下肢空間部360とに上下に分割し、第1開口部330と第2開口部340にはそれぞれシールド空間320を構成する開閉蓋370を備え、前記凹部空間部350と下肢空間部360との間には中央が凹状に切り欠かれ、その両側が前方に張り出したテーブル面380を備えるようにしている。ここで、前記凹部空間部350は、その下面をテーブル面380で構成し、下面以外はシールド構造としている。
【0023】
この実施例によれば、シールドカバー40の前面に、シールド空間320を解放する2つの開口部330,340を解放可能な2つの開閉扉370(第1開閉扉371、第2開閉扉372)を備えることで、使用頻度のある試料221の出し入れの際のシールド効果を最小限にとどめるとともに、メンテナンスでは大きく開放することができる。また、シールド空間320内に張り出すように凹部空間部350を設けたので、この凹部空間部350を利用して、観察機器や装備品収納スペースとして活用することができる。しかも、鏡筒部200の中で観察窓部250の近傍のみが凹部空間部350に露出しているので、観察窓部250の近傍のみをパーマロイなどで覆うシールド構造とすれば足りる。
【0024】
また、観察窓部250が露出する凹部空間部350は、その下面を作業台となるテーブル面380で構成される。このテーブル面380は、凹部空間部350と下肢空間部360との間に設けられるので、このテーブル面380を、観察窓部250を使用する際の広い作業テーブルとして活用することができる。また、テーブル面380は、中央が切り欠かれ、その両側を前方に張り出した形状としているので、作業者が観察窓部250に近づけるとともに、両側の張り出したテーブル面380の投影面積内に架台筐体100の脚部110を配置することができる。
【0025】
特に、電子顕微鏡20においては、架台筐体100を安定支持するための周囲に張り出した脚部110が必要である。この実施例によれば、安定設置のために必要な脚部110の上部をテーブル面380として活用することができるとともに、その中央を切り欠くことで、安定設置の機能を阻害することなく、着座姿勢や試料221の出し入れあるいはメンテナンスでの下肢空間を確保することができる。そして、このテーブル面380を凹部空間部350の下部と連続させることで、テーブル面380の有効利用をいっそう向上させることができる。
【0026】
また、この実施例の大きな特徴の他の1つは、凹部空間部350に、その上部に配置される第1、第2開閉扉371,372と連続する第3開閉扉373を備えた点である。この構造によれば、第3開閉扉373の解放時には、観察窓部250を使用することができ、また、第3開閉扉373の閉鎖時には、観察窓部250を塵埃などから防ぐことができるとともに、意匠性をも向上することができる。加えて、凹部空間部350を工具などの収納空間として使用することもできる。
【0027】
また、この実施例の大きな特徴の他の1つは、第1、第2、第3開閉扉371,372,373を、その中央で左右に解放可能な観音開きの開閉扉370とした点にある。この構造によれば、開閉時の開閉扉370の可動範囲を小さくすることができるので、設置性を高めることができる。
【0028】
また、この実施例の大きな特徴の他の1つは、電子顕微鏡本体部30を覆うシールドカバー40を、架台筐体100を覆う下部シールドカバー41と、架台筐体100の上部に設置される電子顕微鏡本体部30を覆う上部カバー42とに分割することで、安定設置のために広い接地空間が必要な架台筐体100を大きな下部シールドカバー41で覆い、この大きな下部シールドカバー41に左右されることなく、上部シールドカバー42をその上部に設けることができる。これにより、低重心で安定感を印象付ける構造とすることができる。そして、この実施例では、上部カバー42の前面部を3分割し、最上部に第1開閉扉371、その下方の中段に第2開閉扉372、その下方の下段に凹部空間部350を設けている。また、この実施例では、凹部空間部350に前記第1開閉扉371と第2開閉扉372に連続する第3開閉扉373を設けることができる。
【0029】
以下、図1を参照しながら図2から図6をもとに、この実施例に係る電子顕微鏡システム1を更に説明する。なお、この実施例が採用する透過型の電子顕微鏡は公知の構造を備えているために、概略構造の説明にとどめることとする。
【0030】
先ず、図2において、この実施例に係る透過型の電子顕微鏡20の概略構造を図2に示す。鏡筒部200の最上部に配置される電子銃210からの電子線は、照射系を構成するコンデンサレンズ215を介して、鏡筒部200の中段に設けられる試料部220にセットされる試料221に照射される。この照射により、試料221を透過した透過電子線は、結像系を構成する対物レンズ225、中間レンズ226及び投影レンズ227を介して、蛍光板部230に到達する。蛍光板部230上には、この透過電子線に基づく試料221の像が結像される。このときの結像される像としては、設定される観察条件により、透過像又は回折像が結像されることとなる。
【0031】
ここで、対物レンズ225の下方には、対物絞り手段228が、透過電子線の光軸上に対して挿脱可能に設置されている。対物絞り手段228には、開口229が形成されており、対物絞り手段228が透過電子線の光軸上に位置しているときには、透過電子線のうちの一部がこの開口229を通過する。この開口229を通過した透過電子線に基づいて、蛍光板部230上に像が結像される。
【0032】
このようにして蛍光板部230上に結像された像は、カメラ部240により取得される。カメラ部240は、CCD等の撮像素子を備えており、この撮像素子により像が撮像される。カメラ部240により取得された像の画像データは、モニタ装置50に送られる。制御装置53は、この画像データを画像処理してディスプレイ部51に表示させる。また、この実施例では、観察窓部250を介して蛍光板部230上に結像された像を直接観察することができる。この観察窓部250を含む凹部空間部350に露出する鏡筒部200は、パーマロイなどを巻きつけるなどしたシールド構造で形成される。そしてまた、この観察窓部250を露出させる凹部空間部350には拡大レンズ351を取り付けることができ、この拡大レンズ351を介して蛍光板部230上に結像された像を拡大して観察することができる。
【0033】
この他、制御装置53は、電子銃210の制御や、鏡筒部200に配置されたコンデンサレンズ215を備える照射系の制御と、対物レンズ225、中間レンズ226と投影レンズ227を備える結像系の制御を行う。そして、コンピュータ31は、対物絞り4の移動を行う絞り駆動部25の制御と撮像部6の制御を行うことができる。そして、これらの制御操作は、ディスプレイ部51に表示される監視画像を入力装置52を介して操作指示することで行うことができる。
【0034】
図1と図3において、この実施例では、鏡筒部200が直立姿勢で架台筐体100上に支持される。架台筐体100は箱型の台部120を備え、その台部120の上面に観察窓部250が位置するように、振動を防ぐために図示しないダンパー部を介して鏡筒部200を支持する。
【0035】
図2の吹き出し内に示すように、台部120の両側下方には、前後または左右に伸びる脚部110が設けられている。これにより、架台筐体100の床面に対する接地面積を大きくすることができるので、直立の姿勢の鏡筒部200を支持する架台筐体100を安定設置することができる。
【0036】
そして、この実施例の発明者らは、特に前方に伸びる両側の一対の脚部110の間の空間130と脚部110の上部空間131がデッドスペースとなることに着目し、この空間130と上部空間131を観察者の作業スペースとして活用することを着想した。特に、この空間130は大型の電子顕微鏡であれば、観察者が十分に作業できる横幅を備えることができる。そして、この空間130は、架台筐体100の上面のほぼ中央配置される鏡筒部200に近距離でアクセスできる位置でもあるので、試料挿入部220への試料221の出し入れや、観察窓部250での観察に極めて有効な位置となる。
【0037】
また、前方または両側に伸びる脚部110は、架台筐体100の安定設置には有効であるが、作業者にとっては足を引っ掛けてしまうなどの安全性に課題が残る。また、この脚部110全体を箱型のシールドカバー40で覆うと、シールドカバー40の大型化を招き、接地性に課題が残る。そこで、この実施例の発明者らは、前方または両側に伸びる脚部110の上部のデッドスペースとなる上部空間131を作業台とすることを着想した。
【0038】
そして、この2つのデッドスペースの課題を解決する手段として、本発明者らは、一対の脚部110の間の空間130に対応して切り欠かれ、一対の脚部110の上部を覆うテーブル面380を設けることを着想した。そしてこのテーブル面380は、凹部空間部350の下面と連続するように形成した。これにより、観察者はテーブル面380に形成した切欠部381に体を挿入して観察窓部250を介しての観察が可能である。また同様に、この切欠部381に体を挿入して試料挿入部220への試料の出し入れの作業を容易に行うことができる。また、切欠部381の両側には、凹部空間部350の下面と連続する作業面が形成されるので、広いテーブル面380での作業が容易となる。
【0039】
さて、この実施例では、鏡筒部200を備えた架台筐体100を接地面に設置した後で、この電子顕微鏡本体部30の接地とは独立してシールドカバー40を接地する。これにより、シールドカバー40に受ける振動が電子顕微鏡本体部30に波及することを軽減することができる。ここで、シールドカバー40は、L型または角材などから構成される骨組筺体300と、その周囲を囲む板材310とから構成する。骨組筺体300は、複数に分割されたユニットを設置場所で組み立て、その組み立てが終了した骨組筺体300に板材310を張る構造としている。
【0040】
ここで、この実施例に係る骨組筺体300は、脚部110の上方の上部空間131から架台筐体100の前部上方の位置にテーブル面380を支持するテーブル支持部290を備え、このテーブル支持部290にテーブル面380を取り付ける構造としている。
【0041】
また、この実施例に係る骨組筺体300は、凹部空間部350とシールド空間320を上下に分割する複数の横桟部390を備えている。これにより、第1開口部330と第2開口部340と凹部空間部350を上下に区分けすることができる。この実施例では、第1開口部330と第2開口部340を第1横桟部291で分割し、第2開口部340と凹部空間部350を第2横桟部292で分割する。
【0042】
そして、骨組筺体300の両側に設けたヒンジ機構400を介して、第1開口部330を覆う一対の第1開閉扉371と第2開口部340を覆う一対の第2開閉扉372をそれぞれ開閉可能に取り付ける構造としている。ここで、凹部空間部350に第3開閉扉373(図1参照)を開閉可能に取り付ける場合は、骨組筺体300の両側に設けたヒンジ機構400を介して取り付けるようにする。
【0043】
なお、この実施例では、鏡筒部200を露出する第1開口部330と第2開口部340の後方には、シールド空間320を前後に分割する仕切り壁311を設けるようにしている。これにより、電子銃210のメンテナンスや試料挿入部220への試料221の出し入れの際に作業者が不用意に鏡筒部200以外の機器に触れたり、あるいは、作業工具を後方のシールド空間320に落下させることを軽減することができるとともに、解放時の意匠性をも向上させることができる。ここで、この仕切り壁311は、ネジなどを介して、簡単に着脱可能に取り付ける構造としている。
【0044】
図4を参照して、この実施例に係る電子顕微鏡20の使用形態を説明する。図4において、この実施例では、電子顕微鏡20の全体の高さHが3100mmの事例を図示している。この大きさの電子顕微鏡20によれば、床面からテーブル面380までの高さH1が795mm、第2開閉扉372の下端部までの高さH2が1470mm、第1開閉扉371の下端部までの高さH3が2420mmに設定される。
【0045】
また、図4には、成人アジア女性の5%タイル(1475mm)のモデルと、成人米国男性95%タイル(1895mm)のモデルを図示している。(a)図は、各モデルの座位姿勢を示し、(b)図は各モデルの立位の姿勢を示している。一般的、人体計測値の機器への応用を考えた場合、パーセントタイルが平均値参考数値として用いられる。特に、使用者が不特定多数の公共性の高い機器などでは、男性95%タイル値(高めの人)から、女性の5%タイル値(低めの人)の幅広い範囲の人を対象にして、機器の開発が行われている。この実施例では、この公共性の高いパーセントタイルを用いている。
【0046】
図から明らかなように、この大きさの電子顕微鏡であれば、成人米国男性は座位姿勢で観察窓部250を介しての観察作業を容易に行うことができるとともに、立位姿勢では試料挿入部220への試料221の出し入れを行うことができる。一方、成人アジア女性では、座位姿勢で観察窓部250を介しての観察作業は無理な姿勢となるが、立位姿勢では良好な観察姿勢を得ることができる。なお、成人アジア女性が座位姿勢で観察する場合は、椅子の高さを調整することで対応することができる。また、成人アジア女性の場合は、立位姿勢での試料挿入部220への試料221の出し入れは無理なため、台を使っての作業となる。この場合、切欠部381を利用して、台を設置することができる。
【0047】
ここで、この実施例によれば、座位姿勢では、テーブル面380の下方に凹状の下肢空間部360が形成されるので、良好な座位姿勢を得ることができる。
【0048】
なお、この実施例では、電子顕微鏡20の全体の高さHが3100mmの事例で説明したが、分解能の性能変化に対応して、高さHが2800mmから4000mmを想定して設計している。しかし、これらの高さの変化は、第2開閉扉372の下端部までの高さH2まではほぼ同じ高さに設定することができる。したがって、分解能の性能が異なっても観察窓部250の作業姿勢を前記したと同様な姿勢で行うことができる。ただ、分解能の性能が異なると試料挿入部220の位置が高くなる。このため、必要により台を用いた試料221の出し入れを想定している。
【0049】
また、この実施例では、シールド空間320内のメンテナンスを床面あるいは台上での立位姿勢により行うこととなる。この場合、開閉蓋370を開閉して作業を行うこととなる。特に、台上での立位姿勢では、足場が悪いために、開閉作業とメンテナンスの作業を別々に行わなければならないことも想定される。これを、図5を参照して説明する。
【0050】
図5において、(a)図は、この実施例に係る開閉蓋370を占めた状態の横断面図であり、(b)図が開閉蓋370を解放した状態の横断面図であり、(b)図は一枚の開閉扉を解放した状態の横断面図である。
【0051】
この実施例では、上部カバー42の横幅Wを約1300mmに設定している。(c)図に示すように、このような横幅Wを一枚の開閉扉370で開閉すると、その開閉扉370が可動する範囲は大きいものとなる。したがって、このような開閉扉370を開閉するには、作業者は、台上で解放動作の初期段階を行った後、台から降りて開閉扉370を大きく開放し、その後で、台に再び乗ってメンテナンス作業を継続しなければならない。
【0052】
一方、この実施例によれば、開閉扉370を左右に配置される一対の観音扉構造としているために、前記(c)図の開閉動作を大きく改善することができる。つまり、(b)図のように、台上の作業者は、一方の開閉扉370を解放した後で、他の開閉扉370を解放することができるので、解放作業を大きく改善することができる。しかも、この実施例では、一対の開閉蓋370の中央の分断部410を凹状とするハンドル手掛け凹部411を形成し、この手掛け凹部411に開閉蓋370の高さいっぱいまで伸びる手掛け部412を設けたので、高さ方向のどの位置からでも解放動作を行うことができる。しかも、この開閉蓋370では、上下に分割されて積層配置される複数の開閉蓋370を上下に連続するように手掛け凹部411と手掛け部412を形成しているので、取扱い性に加えて意匠性をも向上させることができる。
【0053】
次に、図6を参照して、電子顕微鏡20の他の応用例を説明する。この図6に示す電子顕微鏡20は、下部シールドカバー41の上部の投影面積内に、一回り小さい面積の上部カバー42を設置した構造を備えたシールドカバー40を備えている。この構造によれば、下部シールドカバー41内に設けられる架台筐体100を接地面積が大きいものを採用することができるので電子顕微鏡20の安定設置が可能である。この場合、下部シールドカバー41の上部カバー42で覆われない下部シールドカバー41の上面周囲を利用して補助具や試料などの載置面295として活用できる。
【0054】
また、通常、下部シールドカバー41を大きくすると、上部カバー42内に設けられる電子銃210のメンテナンスや試料挿入部220への試料221の出し入れに不具合が生じる。しかし、この実施例では、下部シールドカバー41に設けられる切欠部381を備えたテーブル面380によれ、前記不具合を改善することができる。
【0055】
なお、この図6では、下部シールドカバー41の両側が、その上面に載置面295が形成されるように外側に張り出して形成される事例で説明した。しかし、図3に示すように、下部シールドカバー41と上部カバー42の両側面を連続するように形成しても、テーブル面380を設けることで、同様な作用効果を得ることができる。
【0056】
このように、この実施例に係る電子顕微鏡20では、電子顕微鏡本体部20を覆うシールドカバー40を、架台筐体100を覆う下部シールドカバー41と、架台筐体100の上部に設置される鏡筒部200を覆う上部カバー42とに分割し、上部カバー42の前面部を、シールド空間320上に配置される電子銃210の前面部に対応した第1開閉扉371を備えた第1開口部330と、シールド空間320上に配置される観察対象の出し入れを行う試料挿入部220に対応した第2開閉扉372を備えた第2開口部340と、観察窓部250に対応してシールド空間320内に張り出して形成される凹部空間部350とを備えた構造とし、前記架台筐体100の前部は、架台筐体100の両側に張り出した脚部110の投影面積上に配置されるテーブル面380を備え、このテーブル面380は、前部の中央部が切り欠かれるとともに、凹部空間部350の下部と連続して形成するようにしている。ここで、凹部空間部350は、その前部を第2開閉扉372と連続する第3開閉扉373で構成するようにしてもよい。また、第1、第2、第3開閉扉371、372、373は、その中央で左右に解放可能な観音開きの開閉扉370とするようにしてもよい。
【0057】
この実施例によれば、電子顕微鏡本体部30を覆うシールドカバー40を、架台筐体100を覆う下部シールドカバー41と、架台筐体100の上部に設置される鏡筒部200を覆う上部カバー41とに分割することで、安定設置のために広い接地空間が必要な架台筐体100を大きな下部シールドカバー41で覆い、この大きな下部シールドカバー41に左右されることなく、上部シールドカバー42をその上部に設けることができる。これにより、低重心で安定感を印象付ける構造とすることができる。
【0058】
また、上部シールドカバー42の前面に、シールド空間320を解放する2つの開口部(第1開口部330、第2開口部340)を解放可能な2つの開閉扉(第1開閉扉371、第2開閉扉372)を備えることで、使用頻度のある試料の出し入れの際のシールド効果を最小限にとどめるとともに、メンテナンスでは大きく開放することができる。また、シールド空間320に張り出すように凹部空間部350を設けたので、この凹部空間部350を利用して、観察機器や装備品収納スペースとして活用することができる。
【0059】
また、安定設置のために必要な脚部110の上部をテーブル面380として活用することができるとともに、その中央を切り欠くことで、安定設置の機能を阻害することなく、着座姿勢や試料の出し入れやメンテナンスでの下肢空間を確保することができる。そして、このテーブル面380を凹部空間部350の下部と連続させることで、テーブル面380の有効利用を向上させることができる。
【0060】
また、凹部空間部350に開閉扉(第3開閉扉373)を備えることにより、塵埃など影響を顕現しつつ、目隠しされる空間の確保することができる。加えて、開閉扉(第3開閉扉373)を観音扉とすることにより、解放時の軌道を最小限にすることができる。
【0061】
上記では、本発明の一例において、鏡筒部と、この鏡筒部を支持する架台筐体の外周をシールドカバーで覆った電子顕微鏡であって、前記シールドカバーは、試料挿入部を露出させる開閉可能な蓋を有する開口部を少なくとも有し、架台筐体に形成される凹状の下肢空間部とを備え、前記下肢空間部は中央が凹状に切り欠かれ、その両側が前方に張り出した形状であることを特徴とする電子顕微鏡について説明してきた。
【0062】
またさらに具体的には、電子顕微鏡本体部を覆うシールドカバーを、架台筐体を覆う下部シールドカバーと、架台筐体の上部に設置される鏡筒部を覆う上部シールドカバーとに分割し、上部シールドカバーの前面部を、シールド空間上に配置される電子銃の前面部に対応する第1開閉扉を備えた第1開口部と、シールド空間上に配置される観察対象の試料の出し入れを行う試料挿入部に対応する第2開閉扉を備えた第2開口部と、観察窓部に対応してシールド空間内に張り出して形成される凹部空間部とを備えた構造とし、前記架台筐体の前部は、架台筐体の両側に張り出した脚部の投影面積上に配置されるテーブル面を備え、このテーブル面は、前部中央部が切り欠かれるとともに、凹部空間部の下部と連続して形成された電子顕微鏡について説明してきた。
【0063】
ここで、凹部空間部は、その前部を第2開閉扉と連続する第3開閉扉で構成するとよい。また、第1、第2、第3開閉扉は、その中央で左右に解放可能な観音開きの開閉扉とするとよい。
【0064】
本実施例では、電子顕微鏡本体部を覆うシールドカバーを、架台筐体を覆う下部シールドカバーと、架台筐体の上部に設置される電子顕微鏡本体部を覆う上部カバーとに分割することで、安定設置のために広い接地空間が必要な架台筐体を大きな下部シールドカバーで覆い、この大きな下部シールドカバーに左右されることなく、上部シールドカバーをその上部に設けることができる。これにより、低重心で安定感を印象付ける構造とすることができる。
【0065】
また、上部シールドカバーの前面に、シールド空間を解放する2つの開口部を解放可能な2つの開閉扉を備えることで、使用頻度のある試料の出し入れの際のシールド効果を最小限にとどめるとともに、メンテナンスでは大きく開放することができる。また、シールド空間に張り出すように凹部空間部を設けたので、この凹部空間部を利用して、観察機器や装備品収納スペースとして活用することができる。
【0066】
また、安定設置のために必要な脚部の上部をテーブル面として活用することができるとともに、その中央を切り欠くことで、安定設置の機能を阻害することなく、着座姿勢や試料の出し入れやメンテナンスでの下肢空間を確保することができる。そして、このテーブル面を凹部空間部の下部と連続させることで、テーブル面の有効利用を向上させることができる。
【0067】
また、凹部空間部に開閉扉を備えることにより、塵埃など影響を顕現しつつ、目隠しされる空間の確保することができる。加えて、開閉扉を観音扉とすることにより、解放時の軌道を最小限にすることができる。
【符号の説明】
【0068】
1…電子顕微鏡システム、20…電子顕微鏡、30…電子顕微鏡本体部、40…シールドカバー、41…下部シールドカバー、42…上部カバー、50…モニタ装置、51…ディスプレイ部、52…入力装置、53…制御装置、100…架台筐体、110…脚部、120…台部、130…空間、131…上部空間、200…鏡筒部、210…電子銃、215…コンデンサレンズ、220…試料挿入部、221…試料、225…対物レンズ、226…中間レンズ、227…投影レンズ、228…対物絞り手段、230…蛍光板部、240…カメラ部、250…観察窓部、300…骨組筺体、310…板材、311…仕切り壁、320…シールド空間、321…区画部、330…第1開口部、340…第2開口部、350…凹部空間部、360…下肢空間部、370…開閉蓋、371…第1開閉扉、372…第2開閉扉、373…第3開閉扉、380…テーブル面、381…切欠部、390…横桟部、291…第1横桟部、292…第2横桟部、295…載置面、400…ヒンジ機構、410…分断部、411…手掛け凹部、412…手掛け部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡筒部と、この鏡筒部を支持する架台筐体の外周をシールドカバーで覆った電子顕微鏡であって、
前記シールドカバーの前面部は、前記鏡筒部の最上部に配置される電子銃を露出させる第1開口部と、前記鏡筒部の中段に配置される試料挿入部を露出させる第2開口部と、前記鏡筒部の下方に配置される観察窓部を露出させる凹部空間部と、その上部に鏡筒部を支持する前記架台筐体に形成される凹状の下肢空間部とに上下に分割され、
前記第1開口部と前記第2開口部にはそれぞれシールド空間を構成する開閉蓋を備え、前記凹部空間部と前記下肢空間部との間には中央が凹状に切り欠かれ、その両側が前方に張り出したテーブル面を備えていることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1記載の電子顕微鏡において、
前記凹部空間部に、その上部に配置される前記開閉扉と連続する開閉扉を備えたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または2記載の電子顕微鏡において、
前記電子顕微鏡本体部を覆うシールドカバーを、前記架台筐体を覆う下部シールドカバーと、前記架台筐体の上部に設置される前記鏡筒部を覆う上部カバーとに分割したことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項4】
鏡筒部と、この鏡筒部を支持する架台筐体の外周をシールドカバーで覆った電子顕微鏡であって、前記シールドカバーは、試料挿入部を露出させる開閉可能な蓋を有する開口部を少なくとも有し、架台筐体に形成される凹状の下肢空間部とを備え、
前記下肢空間部は中央が凹状に切り欠かれ、その両側が前方に張り出した形状であることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項4に記載の電子顕微鏡において、
前記下肢空間部における両側の張り出し部分の上部にテーブル面を設けることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項4に記載の電子顕微鏡において、
前記開口部よりも下方に、さらに、開閉可能な蓋を有する開口部を有することを特徴とする電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−146215(P2011−146215A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5432(P2010−5432)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)