説明

電極および電極コーティング

【解決すべき課題】
本発明の目的は、より低い電解電圧およびより低い塩化ナトリウム濃度で電気分解を行うことができ、塩素中の酸素含有量が最小であり、貴金属の使用が減少する触媒を発見することである。
【解決手段】
塩素イオン含有電解液の電気分解によって塩素を製造するための触媒であって、前記触媒が、元素周期表の遷移族VIIIa(Fe、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)の少なくとも1種類の貴金属および/またはこれらの貴金属の酸化物を含有し、前記触媒が、ダイヤモンド、ドープダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、ガラス状炭素およびグラファイトからなる群から選択される少なくとも1種類の微粉化された炭素変形体を更に含有し、前記触媒が、場合により少なくとも1種類のバルブ金属および/またはバルブ金属酸化物を含有する、触媒。本発明は、前記触媒をベースとする電極および電極コーティングも包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2009年7月31日に出願された独国特許出願第10 2009 035 546.4号に対する利益を主張し、前記出願は、全ての有益な目的のために、その全体を引用することによって本明細書に包含される。
【背景技術】
【0002】
本発明は、塩素を製造する電気分解プロセスのための、触媒で被覆された電極および電極コーティングに由来する。
【0003】
本発明は、塩素製造のための新規の触媒、電極コーティングおよび電極に関する。
【0004】
塩素は通常、塩化ナトリウムもしくは塩酸の電気分解によって、または塩化水素の気相酸化によって工業的に製造される(Schmittinger『Chlorine』、Wiley−VCH、1999年、第19〜27頁)。電気分解プロセスを用いる場合、塩素がアノードで生成する。電気化学的に活性な触媒が表面に存在するチタンを、アノードの電極材料として通常用いる。通常、表面における触媒含有層をコーティングと呼ぶ。触媒の機能は、過電圧を減少させること、およびアノードにおける酸素発生を回避することである(Winnacker−Kuechler『Chemische Technik,Prozesse und Produkte』第5版、Wiley−VCH、2005年、第469〜470頁)。
【0005】
グラファイトアノードが、塩酸の電気分解による塩素製造において用いられる(Winnacker−Kuechler『Chemische Technik,Prozesse und Produkte』第5版、Wiley−VCH、2005年、第514頁)。例えばガス拡散電極がカソード側で用いられる塩酸の電気分解において、コーティング中に貴金属ベースの触媒を有するチタンアノードを用いることが可能である(Winnacker−Kuechler『Chemische Technik,Prozesse und Produkte』第5版、Wiley−VCH、2005年、第515頁)。
【0006】
電気分解プロセスのための電極は通常、バルブ金属に属する金属をベースとする。バルブ金属は、例えば、チタン、ジルコニウム、タングステン、タンタルおよびニオブといった金属であり、これらの金属は、金属表面における酸化物層により、電流に対するダイオード材料としてはたらく。
【0007】
貴金属および/またはその金属酸化物を含有する電気触媒的に活性な触媒は通常、バルブ金属表面に適用され、それと共に、適切であれば、バルブ金属の酸化物も金属酸化物中に更に存在し得る(国際公開第200602843号(ELTECH)、BECK、Electrochimica Acta第34巻、第6号、第811〜822頁、1989年)。酸化物形成貴金属は通常、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、またはそれらの混合物等の白金(または白金族)金属に属する。通常、そのような電極をDSA電極と呼ぶ(DSA=「寸法安定アノード(dimensionally stable anode)」)。
【0008】
ハロゲン化物含有電解液中で用いる場合のこれらの公知の電極の不都合な点は、塩素生成に対する未だ高い過電圧、それにもかかわらず酸素を発生させる電極の性質(または傾向)、高い電気分解ポテンシャル、およびコーティング形成のための大量の費用を要する貴金属の必要性である。これらの要素の全てが、公知の電気分解プロセスの経済性に不都合な影響を与える。
【0009】
従来技術のコーティング(DE 602005002661 T2)に関して、貴金属が電気分解条件の下で時間と共にコーティングから溶出すること、即ち、貴金属が十分に耐食性でないことが知られている。貴金属含有コーティングの減損によって電極金属(通常はバルブ金属)が電解液と直接接触するようになり、電流を伝導しない酸化物が表面において形成されるという事実によって、耐食性の必要性が明確にされる。このことは、進行中の電気分解プロセスにおいて、この表面において電気化学的プロセスがもはや起こらず、対応する経済的結果に関する大失敗をもたらし得ることを意味する。
【0010】
更に、貴金属含有DSA電極を有する電解槽を、塩素製造のための塩化物含有溶液において用いる場合、酸素生成二次反応を十分に抑制できず、その結果、酸素が塩素中に存在することが観察される。酸素の割合は、塩素精製のための費用の増加を意味し、従って、電気分解の経済性において同様に不都合な影響を及ぼす。酸素生成の増加は、電解液中の塩化ナトリウム濃度が、特に200g−NaCl/lより低い濃度に減少する場合、特にはっきりと明らかである。
【0011】
更に、貴金属を触媒材料としてのみ使用することは、これらの金属が世界市場において高額であり且つ入手しにくくなっているので、公知の電極の経済性に関して同様に不都合な影響を及ぼす。
【0012】
電気化学的プロセスにおける電極に対してダイヤモンドコーティングを用いる試みがなされており、例えば、そのようなコーティングはCVD法(化学蒸着)によって電極に適用可能である。硫酸酸性硫酸ナトリウムアノード液における電気分解の場合において、コーティングは安定でなく、剥がれ落ちる。更に、コーティングは欠陥を有し、それにより、電極金属が電気化学的腐食攻撃に曝された(AiF研究プロジェクト85 ZN、2003年〜2005年、2003年1月1日〜2005年3月31日の期間の最終報告『Entwicklung und Qualitaetssicherung stabiler Diamant−beschichteter Elektroden fuer neuartige elektrochemische Prozesse』)。研究プロジェクトは、技術的目標が達成されなかったので中止された(http://www.ist.fraunhofer.de/kompetenz/funktion/dia−elektro/Abschlussbericht%20KombiAB2−eingereicht.pdf)。出願人は、ダイヤモンドのみを含有する電極コーティングの電気分解における使用に関する出願人自身の未発表実験を行った。これらのダイヤモンド構造物において、塩素はこれまで塩化ナトリウム溶液から発生し得なかった。更に、ダイヤモンド層が電気分解条件の下で金属支持体(または担体)から分離することが観察された。
【発明の概要】
【0013】
従って、本発明の目的は、より低い電解電圧およびより低い塩化ナトリウム濃度で電気分解を行うことができ、塩素中の酸素含有量が最小であり、貴金属の使用が減少する触媒を発見することであった。更なる目的は、電極の金属と強固に接着し、化学的または電気化学的に攻撃されないコーティングを発見することであった。貴金属含有量が少ない耐化学薬品性の安価な触媒は、塩化水素の気相酸化のために、同様に利用可能になるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一の態様は、塩素イオン含有電解液の電気分解によって塩素を製造するための触媒であり、前記触媒は、元素周期表の遷移族VIIIa(Fe、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)の少なくとも1種類の貴金属および/またはこれらの貴金属の酸化物を含有し、前記触媒は、ダイヤモンド、ドープダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、ガラス状炭素およびグラファイトからなる群から選択される少なくとも1種類の微粉化された炭素変形体(modification)を更に含有し、前記触媒は、場合により少なくとも1種類のバルブ金属および/またはバルブ金属酸化物を含有する。
【0015】
本発明のもう一つの態様は、前記触媒が、10〜90mol%の前記少なくとも1種類の微粉化された炭素変形体、並びに0.05〜40mol%の前記少なくとも1種類の貴金属および/または貴金属酸化物を含有する、上述の触媒である。
【0016】
本発明のもう一つの態様は、前記触媒が、20〜80mol%の前記少なくとも1種類の微粉化された炭素変形体、並びに1〜20mol%の前記少なくとも1種類の貴金属および/または貴金属酸化物を含有する、上述の触媒である。
【0017】
本発明のもう一つの態様は、前記触媒が、0.05〜40mol%の前記少なくとも1種類の貴金属および/または貴金属酸化物、9.95〜60mol%の前記少なくとも1種類のバルブ金属および/またはバルブ金属酸化物、並びに20〜90mol%の前記少なくとも1種類の微粉化された炭素変形体を含有する、上述の触媒である。
【0018】
本発明のもう一つの態様は、前記少なくとも1種類の微粉化された炭素変形体がダイヤモンドおよび/またはホウ素ドープダイヤモンドである、上述の触媒である。
【0019】
本発明のもう一つの態様は、前記少なくとも1種類の貴金属および/または貴金属酸化物が、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金およびそれらの酸化物からなる群から選択される、上述の触媒である。
【0020】
本発明のもう一つの態様は、前記少なくとも1種類のバルブ金属および/またはバルブ金属酸化物が、チタン、ジルコニウム、タングステン、タンタル、ニオブおよびそれらの酸化物からなる群から選択される、上述の触媒である。
【0021】
本発明のもう一つの態様は、前記少なくとも1種類のバルブ金属および/またはバルブ金属酸化物がタンタルおよび/または酸化タンタルである、上述の触媒である。
【0022】
本発明の更にもう一つの態様は、塩素イオン含有電解液の電気分解によって塩素を製造するための電極であり、前記電極は、少なくとも1種類の導電性支持体と、触媒活性コーティングとを有し、前記触媒活性コーティングは上述の触媒を含有する。
【0023】
本発明のもう一つの態様は、前記少なくとも1種類の導電性支持体が、チタン、ジルコニウム、タングステン、タンタルおよびニオブからなる群から選択されるバルブ金属を含有する、上述の電極である。
【0024】
本発明のもう一つの態様は、前記少なくとも1種類の導電性支持体がチタンを含有する、上述の電極である。
【0025】
本発明のもう一つの態様は、電極表面の貴金属充填量が0.1〜20g(貴金属)/mであり、かつ/または電極表面の微粉化された炭素の充填量が0.1〜50g(炭素)/mである、上述の電極である。
【0026】
本発明の更にもう一つの態様は、塩素製造のための電極の製造方法であり、前記方法は、(1)ダイヤモンド、ドープダイヤモンド、フラーレンおよびカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1種類の炭素含有化合物、(2)場合により、少なくとも1種類のバルブ金属、バルブ金属酸化物またはそれらの混合物、並びに(3)元素周期表の貴金属および/またはこれらの貴金属の酸化物の層を、チタン、ジルコニウム、タングステン、タンタルおよびニオブからなる群から選択されるバルブ金属を含有するベース材料に適用(または塗布)することを含み、前記適用は、(1)炭素変形体の粉体、溶媒、可溶性貴金属化合物、および場合により前記溶媒に可溶であるバルブ金属化合物の混合物を前記ベース材料に適用し、前記混合物を乾燥および/または焼結して前記溶媒を除去することによって達成される。
【0027】
本発明のもう一つの態様は、前記適用、乾燥および/または焼結を最大で20回繰り返す、上述の方法である。
【0028】
本発明のもう一つの態様は、前記適用、乾燥および/または焼結を最大で10回繰り返す、上述の方法である。
【0029】
本発明のもう一つの態様は、上述のような懸濁液が最大で20重量%の固体含有量を有する、上述の方法である。
【0030】
本発明のもう一つの態様は、前記懸濁液が最大で10重量%の固体含有量を有する、上述の方法である。
【0031】
本発明の更にもう一つの態様は、上述の方法によって製造される電極である。
【0032】
驚くべきことに、微粉化された炭素変形体を含有する触媒が塩素製造のための電極において使用可能であり、触媒の炭素含有成分は、1種類またはそれより多くの炭素変形体を含有し、かつ白金(または白金族)金属の貴金属および/もしくはその酸化物またはその混合物も含有することがわかった。更に、触媒は、バルブ金属および/もしくはその酸化物またはその混合物を含有し得る。
【0033】
本発明は、塩素イオン含有電解液の電気分解によって塩素を製造するための、元素周期表の遷移族VIIIa(Fe、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)の少なくとも1種類の貴金属および/またはこれらの貴金属の酸化物をベースとする触媒であって、触媒が、ダイヤモンド、ドープダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、ガラス状炭素(Philosophical Magazine、2004年10月11日、第84巻、第29号、第3159〜3167頁、「Fullerene−related structure of commercial glassy carbons」、P.J.F.Harris)およびグラファイトからなる群の、少なくとも1種類の微粉化された炭素変形体を更に含有し、かつ、適切であれば、少なくとも1種類のバルブ金属もしくはバルブ金属酸化物またはその混合物を更に含有することを特徴とする、触媒を提供する。
【0034】
炭素含有成分を触媒中に、または電極の表面構造中に組み込むことによって、電気分解ポテンシャルおよび塩素中の酸素含有量を増加させることなく、電極コーティングの貴金属含有量を著しく減少させることが可能である。塩化ナトリウムの電気分解において触媒を使用する更なる利点は、発生する塩素中の酸素含有量または電気分解ポテンシャルを増加させることなく、アノード液中の塩化ナトリウム濃度を220g−NaCl/l〜300g−NaCl/lから150g−NaCl/lより小さく減少させ得ることである。
【0035】
以下において、微粉化された炭素変形体は、ダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、窒素修飾カーボンナノチューブ(SEN;『Nitrogen−containing carbon nanotubes』;J.Mater.Chem.、1997年、第7巻、第12号、第2335〜2337頁)または他の炭素変形体、例えばガラス状炭素(Sigradur(登録商標))およびグラファイトの形態である。本発明の目的に関して、「微粉化された」は特に、炭素粒子の粒子径が10μmを超えないことを意味する。
【0036】
ダイヤモンドは、グラファイトおよびフラーレンと共に炭素の三つの変形体である。1955年以来、高圧高温法によって人工ダイヤモンドを製造することが可能になった。この方法では、油圧プレスにおいて最大で6ギガパスカル(60000bar)の圧力および1500℃を超える温度でグラファイトを一つに圧縮する。これらの条件の下で、ダイヤモンドは熱力学的により安定な形態の炭素であり、その結果、グラファイトはダイヤモンドへと転化する。この転化プロセスは、触媒の添加によって促進され得る。ダイヤモンドと類似の方法において、高圧高温合成を用いることによって、窒化ホウ素の六方晶変形体から立方晶窒化ホウ素(CBN)を同様に製造し得る。CBNはダイヤモンドの硬度を完全には達成しないが、例えば、高温での酸素に対する耐性を示す。
【0037】
これと並行して、爆発において発生する極めて高い圧力を用いる衝撃波ダイヤモンド合成が開発された。この商業的に成功した手段によって、様々な細かさ(または粉末度)のダイヤモンド粉末が得られる。
【0038】
人工ダイヤモンドを製造する別の可能性は、化学蒸着(CVD)による基板のコーティングである。ここでは、真空チャンバーにおいて、数ミクロンの厚さを有するダイヤモンド層を基板、たとえば固結された炭化物表面に蒸着させる。出発物質はメタンおよび水素のガス混合物であり、前者は炭素源としてはたらく。オストワルトの段階則(Ostwald’s step rule)によれば、主に準安定性のダイヤモンドが蒸着するべきであり、オストワルト−フォルマー則(Ostwald−Volmer rule)によれば、グラファイトの密度がより低いので、グラファイトが主に形成される。水素原子によって、グラファイトを選択的に分解してダイヤモンドの生成を促進することが可能となる。水素原子は、熱的または電気的に加熱されたプラズマにおける水素ガス分子から生成する。安定なグラファイトへの転化を防ぐために、基板温度は1000度より低くなくてはならない。その後、1時間当たり数ミクロンの成長速度に達し得る。更なる進展として、僅か数ミクロンの厚さを有するダイヤモンド状炭素(DLC)の層を、プラズマコーティング技術を用いて製造し得る。これらの層は、ダイヤモンドの極めて高い硬度と、グラファイトの非常に優れた滑り摩擦特性とを兼ね備える。
【0039】
マイクロ波プラズマCVDによって、例えば、DIACCONによって開発された方法において、ダイヤモンド構造物を表面に適用し得る。ここで、フリーラジカルが、2000℃〜6000℃の温度を有するプラズマにおける水素、メタンおよび酸素のガス混合物中で生成し、600℃〜950℃の温度での基板上の結晶ダイヤモンドの成長をもたらす。この蒸着技術における成長速度は1時間当たり0.5〜10ミクロンである。DIACCONによって用いられる更なる方法は、熱フィラメントCVD法である。ここで、フリーラジカルは、1800℃〜2500℃の温度で、水素およびメタンのガス混合物中で、タングステン、タンタルまたはレニウムワイヤから製造され、約600℃〜950℃の温度を有する基板上に結晶ダイヤモンドとして蒸着される。種々のダイヤモンドの形態および成長速度は、成長パラメータが目標とする影響を与えることによって達成され得る。平均成長速度は1時間当たり0.1〜1ミクロンの範囲である。
【0040】
本発明の目的に関して、バルブ金属は特に、チタン、ジルコニウム、タングステン、タンタルおよびニオブの群の金属である。
【0041】
本発明は、塩素イオン含有電解液の電気分解によって塩素を製造するための電極も提供し、その電極は、導電性支持体および触媒活性コーティングを少なくとも有し、触媒活性コーティングが上述のように本発明の触媒を含有することを特徴とする。
【0042】
導電性支持体が、チタン、ジルコニウム、タングステン、タンタルおよびニオブの群のバルブ金属、好ましくはチタンによって形成されることを特徴とする電極が好ましい。
【0043】
本発明の方法において、チタンは、支持体の材料として、および適切であればコーティングに対する添加剤として特に好ましく用いられる。
【0044】
本発明の方法において、ドープダイヤモンド(例えばホウ素ドープダイヤモンド)を用いることも可能であり、また、ダイヤモンド、ドープダイヤモンドまたは貴金属(例えば白金(または白金族)金属の貴金属)を充填したフラーレンを用いることも可能である。
【0045】
フッ化物含有電解液が用いられる場合、微粉化された炭素変形体を含有する触媒を含む電極コーティングを有する電極は、塩素製造における上述の使用に加えて、水の電気分解、クロム浴の再生、および過酸化水素、オゾンまたはペルオキソ二硫酸の製造にも使用可能である。
【0046】
別の金属(ニッケル、コバルト、スズまたはランタン等)またはそれらの酸化物による本発明の触媒の更なるドーピングは、同様に更なる変形である。ここで、触媒活性層における貴金属に対するドーパント金属のモル比は0.0001〜0.1である。
【0047】
触媒が、10〜90mol%、好ましくは20〜80mol%の微粉化された炭素変形体、並びに0.05〜40mol%、好ましくは1〜20mol%の貴金属および/または貴金属酸化物を含有することを特徴とする触媒が好ましい。
【0048】
触媒が、0.05〜40mol%の貴金属および/または貴金属酸化物、9.95〜60mol%のバルブ金属および/またはバルブ金属酸化物、並びに20〜90mol%の炭素変形体を含有することを特徴とする触媒が特に好ましい。
【0049】
貴金属充填量は0.1〜20g(貴金属)/mであり、または0.1〜50g(炭素)/mである。面積は投影電極表面積である。塩素製造のための電極は通常、エキスパンドメタルまたはルーバー構造を有する。貴金属または炭素の量は、外形寸法から計算し得る表面積を基準とする。1m当たりに適用される貴金属または炭素の量は、適用される溶液の濃度によって、または繰り返しサイクル数によって設定し得る。各々の場合において、個々のサイクルは、乾燥および/または焼結サイクルによって中断され得る。乾燥または焼結は、減圧下および/または他のガス雰囲気下で実施可能である。
【0050】
支持体、例えばバルブ金属ベースの基板上にコーティングを作製するための触媒は、種々の方法によって適用可能である。
【0051】
本発明は、塩素を製造するための電極の製造方法も提供し、この方法は、ダイヤモンド、ドープダイヤモンド(例えばホウ素ドープダイヤモンド)、フラーレンおよびカーボンナノチューブからなる群の少なくとも1種類の炭素含有化合物、並びに適切であれば更に、少なくとも1種類のバルブ金属もしくはバルブ金属酸化物またはそれらの混合物、並びに元素周期表の貴金属および/またはこれらの貴金属の酸化物の層が、炭素変形体含有化合物の粉体、溶媒、適切であれば溶媒に可溶であるバルブ金属化合物、および好ましくは可溶性貴金属化合物の混合物をベース材料に適用し、その混合物を乾燥および/または焼結して溶媒を除去することによって、チタン、ジルコニウム、タングステン、タンタルまたはニオブからなる群のバルブ金属を含有するベース材料に適用されることを特徴とする。
【0052】
本発明の方法の特定の態様は、触媒を以下のようにバルブ金属含有電極構造物に適用することを含む:この目的のために、電極構造物をサンドブラスティングし、その後、塩酸またはシュウ酸等の酸によって酸洗いして表面の酸化物を除去する。
【0053】
表面を被覆するために、例えば、貴金属化合物と、C〜Cアルコール、水、鉱酸の群の少なくとも1種類の溶媒と、バルブ金属化合物と、炭素変形体とを含む懸濁液を用いることが可能である。
【0054】
必要であれば、更なる他の金属または金属化合物をこの懸濁液に加えることができる。
【0055】
懸濁液は、好ましくは、懸濁液の重量を基準として最大で20重量%、特に好ましくは最大で10重量%の固体を含有する。しかし、サイクル数を増加させてコーティングプロセスを行う場合、より小さい固体含有量を有する懸濁液を製造することも可能である。サイクル数の増加は、非常に小さい貴金属含有量でより均一な貴金属の分布を達成するべき場合に、特に好都合である。
【0056】
貴金属化合物として、例えば貴金属塩化物を用いることができる。
【0057】
アルコールとして、短鎖前駆体化合物、即ちn−ブタノール等のC〜Cアルコールが使用可能である。酸として、例えば濃塩酸を用いることができる。バルブ金属化合物として、例えば電極支持体としてのチタンの場合、チタン酸テトラブチルを使用する。微粉化された炭素変形体を、この溶液または懸濁液に加えることが可能である。
【0058】
懸濁液の組成を変化させることによって、粘度を各々の適用プロセスに適合させることが可能となる。
【0059】
調製された懸濁液をその後、好ましくは複数のサイクルで電極基板表面に適用する。これは、刷毛塗り(brushing)、噴霧または浸漬によって実施し得る。他の適用方法が同様に考えられる。適用サイクルの後に、懸濁液の液体成分を乾燥によって除去し得る。新しいサイクルを開始すること、または乾燥後の電極を60℃より高温で焼結することが可能である。この後に、懸濁液を新たに適用し得る。乾燥および焼結操作は、交互に又は連続する何らかの順序によって実施し得る。
【0060】
コーティングの乾燥は、大気圧または減圧下で、適切であれば保護ガスの下で行われ得る。このことは、コーティングの焼結に対して同様に適用される。
【0061】
適用における懸濁液の配合および乾燥サイクルを変更すること、並びにそれによってコーティングの構造に傾斜を形成することが同様に考えられる。従って、例えば、電極金属を、まず、低い貴金属含有量で被覆し得、更なるコーティングサイクルにおいて貴金属含有量を増加させ得る。
【0062】
種々の炭素変形体を懸濁液に混合することが同様に考えられる。
【0063】
本発明は、塩素イオン含有電解液の電気分解によって塩素を生成するための電極も提供し、その電極は、導電性支持体および触媒活性コーティングを少なくとも有し、触媒活性コーティングが上述のように本発明の触媒を含有することを特徴とする。
【0064】
導電性支持体が、チタン、ジルコニウム、タングステン、タンタルおよびニオブの群のバルブ金属、好ましくはチタンによって形成されることを特徴とする電極が好ましい。
【0065】
本発明は、本発明のコーティング方法によって得られる電極を更に提供する。本発明は、塩素を生成するための塩素イオン含有電解液、特にHClまたはNaCl水溶液のアノード電気分解のための本発明の電極の使用を更に提供する。
【0066】
このようにして製造される被覆電極はアノードとして使用可能であり、特に塩化ナトリウムの電気分解および塩酸の電気分解におけるアノードとして使用可能である。
【0067】
本発明を以下に例として説明する。
【0068】
上述の全ての参考文献は、全ての有益な目的のために、その全体を引用することによって包含される。
【0069】
本発明を具体化する、ある特定の構造を示し且つ説明しているが、本発明の基本的概念の精神および範囲から逸脱することなく部材の種々の変形および再構成を行ってよいこと、並びに本発明が、本明細書において示され且つ説明された特定の形態に限定されないことは、当業者に明らかであるだろう。
【実施例】
【0070】
[実施例1(NaClの電気分解に市販のアノードを使用する比較例)]
ルテニウム含有コーティングを備えた、Denora製のNaCl電気分解のための標準的アノードを使用した。使用される実験用セルにおけるアノード寸法は10×10cmであり、アノード支持体材料はチタンを含有し、かつ8mmのメッシュ開口部、2mmの支柱(strut)幅、および2mmの支柱厚さを特徴とするエキスパンドメタルの形状を有した。Dupont製イオン交換膜Nafion982型をアノード空間とカソード空間との間で用いた。Denora製のNaCl電気分解のための標準的カソードがカソードとしてはたらいた。210g/lの塩化ナトリウム濃度および88℃の温度を有するNaCl含有溶液を電解セルのアノード空間に導入した。31.5重量%のNaOH濃度および88℃の温度を有する水酸化ナトリウム溶液をセルのカソード側に導入した。電流密度は、10×10cmの膜面積に対して計算され、4kA/mであった。アノード室を出るガスの塩素濃度は97体積%であった。電気分解ポテンシャルは3.05Vであった。
【0071】
[実施例2(比較例)]
2.02gのRuCl・3HO、1.5gのIrCl・3HO、17.4mlのn−ブタノール、1.1mlの濃塩酸、6mlのチタン酸テトラブチルを含有するコーティング溶液を調製する。サンドブラスティングし、その後濃度10%のシュウ酸において90℃で30分間酸洗いした、支持体としてのチタンエキスパンドメタルに、この溶液を刷毛で適用する。次に、エキスパンドメタルを80℃で10分間乾燥させ、その後、470℃で10分間焼結する。適用工程を4回繰り返し、乾燥および焼結も同様に繰り返す。最後の焼結は、470℃で60分間行う。貴金属充填量は10.5g(Ru)/mおよび10.6g(Ir)/mであった。形成された表面は、Ruが27.1mol%、Irが14.4mol%およびTiが58.6mol%の組成を有した。このように処理したアノードを、実施例1に記載のように、標準的な市販のカソードを有するセルにおける塩化ナトリウムの電気分解において使用した。アノード室を出るガスの塩素濃度は98.3体積%であった。電気分解ポテンシャルは3.06Vであった。
【0072】
[実施例3(本発明の方法(ダイヤモンド))]
40.5重量%のルテニウム含有量を有する塩化ルテニウム水和物0.32g、12.4mlのn−ブタノール、0.8mlの濃塩酸、6mlのチタン酸テトラブチル、および1μm以下の粒子寸法を有するダイヤモンド粉末0.62gを含有するコーティング溶液を調製する。サンドブラスティングし、その後濃度10%のシュウ酸において90℃で30分間酸洗いしたチタンエキスパンドメタルに、この溶液を刷毛で適用する。次に、エキスパンドメタルを80℃で10分間乾燥させ、その後、470℃で10分間焼結する。適用工程を4回繰り返し、乾燥および焼結も同様に繰り返す。最後の焼結は、470℃で60分間行う。このように処理したアノードを、実施例1に記載のように塩化ナトリウムの電気分解において使用した。電極の充填量は、3.47g(Ru)/mおよび16.5g(ダイヤモンド)/mであった。表面の組成は、Ruが1.8mol%、Tiが24.8mol%、およびダイヤモンドの形態の炭素が73.3mol%であった。このように処理されたアノードを、実施例1に記載のように、標準的な市販のカソードを用いて塩化ナトリウムの電気分解において使用した。アノード室を出るガスの塩素濃度は98.5体積%であった。電気分解ポテンシャルは2.96Vであった。
【0073】
[実施例4(本発明の方法(フラーレン))]
40.5体積%のルテニウム含有量を有する塩化ルテニウム水和物0.32g、12.4mlのn−ブタノール、0.8mlの濃塩酸、6mlのチタン酸テトラブチル、0.63gのフラーレン(Nanocompound製のFullaron(登録商標)M3D)を含有するコーティング溶液を調製する。サンドブラスティングし、その後濃度10%のシュウ酸において90℃で30分間酸洗いしたチタンエキスパンドメタルに、この溶液を刷毛で適用する。次に、エキスパンドメタルを80℃で10分間乾燥させ、その後、470℃で10分間焼結する。適用工程を4回繰り返し、乾燥および焼結も同様に繰り返す。最後の焼結は、470℃で60分間行う。このように処理したアノードを、実施例1に記載のように塩化ナトリウムの電気分解において使用した。貴金属充填量は、3.47g(Ru)/mおよび16.5g(フラーレン)/mであった。表面の組成は、Ruが1.8mol%、Tiが24.8mol%、およびフラーレンの形態の炭素が73.3mol%であった。このように処理されたアノードを、実施例1に記載のように、標準的な市販のカソードを用いて塩化ナトリウムの電気分解において使用した。アノード室を出るガスの塩素濃度は98.4体積%であった。電気分解ポテンシャルは3.08Vであった。
【0074】
[実施例5(本発明の方法(ダイヤモンド含有コーティング、アノード液における低い塩濃度))]
実施例3に記載のコーティングを使用した。操作条件は、アノード液のNaCl濃度を除いて実施例1と同じであった。NaCl濃度は僅か100g/lであり、セルポテンシャルは3.06Vであり、電流収率は94.5%であった。低いNaCl濃度にもかかわらず、セルを操作することができた。セルポテンシャルは、同程度のNaCl濃度において市販の電極を用いる場合、より高くなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素イオン含有電解液の電気分解によって塩素を製造するための触媒であって、前記触媒は、元素周期表の遷移族VIIIa(Fe、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)の少なくとも1種類の貴金属および/またはこれらの貴金属の酸化物を含有し、前記触媒は、ダイヤモンド、ドープダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、ガラス状炭素およびグラファイトからなる群から選択される少なくとも1種類の微粉化された炭素変形体を更に含有し、前記触媒は、場合により少なくとも1種類のバルブ金属および/またはバルブ金属酸化物を含有する、触媒。
【請求項2】
前記触媒が、10〜90mol%の前記少なくとも1種類の微粉化された炭素変形体、並びに0.05〜40mol%の前記少なくとも1種類の貴金属および/または貴金属酸化物を含有する、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記触媒が、20〜80mol%の前記少なくとも1種類の微粉化された炭素変形体、並びに1〜20mol%の前記少なくとも1種類の貴金属および/または貴金属酸化物を含有する、請求項2に記載の触媒。
【請求項4】
前記触媒が、0.05〜40mol%の前記少なくとも1種類の貴金属および/または貴金属酸化物、9.95〜60mol%の前記少なくとも1種類のバルブ金属および/またはバルブ金属酸化物、並びに20〜90mol%の前記少なくとも1種類の微粉化された炭素変形体を含有する、請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
前記少なくとも1種類の微粉化された炭素変形体が、ダイヤモンドおよび/またはホウ素ドープダイヤモンドである、請求項1に記載の触媒。
【請求項6】
前記少なくとも1種類の貴金属および/または貴金属酸化物が、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金およびそれらの酸化物からなる群から選択される、請求項1に記載の触媒。
【請求項7】
前記少なくとも1種類のバルブ金属および/またはバルブ金属酸化物が、チタン、ジルコニウム、タングステン、タンタル、ニオブおよびそれらの酸化物からなる群から選択される、請求項1に記載の触媒。
【請求項8】
前記少なくとも1種類のバルブ金属および/またはバルブ金属酸化物が、タンタルおよび/または酸化タンタルである、請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
塩素イオン含有電解液の電気分解によって塩素を製造するための電極であって、前記電極が、少なくとも1種類の導電性支持体と、触媒活性コーティングとを含有し、前記触媒活性コーティングが、請求項1に記載の触媒を含有する、電極。
【請求項10】
前記少なくとも1種類の導電性支持体が、チタン、ジルコニウム、タングステン、タンタルおよびニオブからなる群から選択されるバルブ金属を含有する、請求項9に記載の電極。
【請求項11】
前記少なくとも1種類の導電性支持体がチタンを含有する、請求項9に記載の電極。
【請求項12】
電極表面の貴金属充填量が0.1〜20g(貴金属)/mであり、かつ/または微粉化された炭素による電極表面の充填量が0.1〜50g(炭素)/mである、請求項9に記載の電極。
【請求項13】
塩素製造のための電極の製造方法であって、前記方法が、(1)ダイヤモンド、ドープダイヤモンド、フラーレンおよびカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1種類の炭素含有化合物、(2)場合により、少なくとも1種類のバルブ金属、バルブ金属酸化物またはそれらの混合物、並びに(3)元素周期表の貴金属および/またはこれらの貴金属の酸化物の層を、チタン、ジルコニウム、タングステン、タンタルおよびニオブからなる群から選択されるバルブ金属を含有するベース材料に適用することを含み、前記適用が、(1)炭素変形体の粉体、溶媒、可溶性貴金属化合物、および場合により前記溶媒に可溶であるバルブ金属化合物の混合物を、前記ベース材料に適用し、前記混合物を乾燥および/または焼結して前記溶媒を除去することによって達成される、方法。
【請求項14】
前記適用、乾燥および/または焼結を最大で20回繰り返す、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記適用、乾燥および/または焼結を最大で10回繰り返す、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記懸濁液が最大で20重量%の固体含有量を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記懸濁液が最大で10重量%の固体含有量を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項13に記載の方法によって製造される電極。

【公開番号】特開2011−31238(P2011−31238A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−147280(P2010−147280)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】