説明

電極の製造装置、製造方法及び電極並びに当該電極を用いたリチウムイオン電池

【課題】電極中で金属異物粒子の位置を制御し得る電極製造装置を提供する。
【解決手段】板状の集電体(14)を移動させる集電体搬送手段(11、12、13)と、活物質スラリーを集電体(14)の一方の面に塗布して活物質層を形成することにより電極を形成する電極形成手段(8)と、活物質スラリーの塗布されている集電体(14)の他方の面の側から集電体(14)に塗布されている活物質スラリー(15)に磁場を印加する磁場発生手段(21)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は電極の製造装置、製造方法及び電極並びに当該電極を用いたリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
活物質材料にコンタミネーション(汚染物質)としての金属等の異物(以下「金属異物」という。)粒子が含まれていたり、電極を作成する工程で発塵した金属異物粒子が活物質に混入すると自己放電により電池性能が低下する。このため、活物質材料と溶剤とで活物質スラリーを形成する前に活物質材料の搬送配管を磁性材料で形成し、活物質材料に含まれる金属異物粒子を除去するものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−243947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金属異物粒子が小さいと金属異物粒子の磁化量も小さいため、金属異物粒子が搬送配管に安定して吸着されず金属異物粒子が依然として活物質材料内に残ってしまう恐れがある。従って、電池を作成した時に金属異物粒子がセパレータ表面の局部に析出・成長し内部短絡する恐れがある。
【0005】
そこで本発明は、金属異物粒子をあえて除去するのではなく、電極中で金属異物粒子の位置を制御し得る電極製造装置や電極製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、集電体を移動させる集電体搬送手段と、活物質スラリーを前記集電体の一方の面に塗布して活物質層を形成することにより電極を形成する電極形成手段と、活物質スラリーの塗布されている集電体の他方の面の側から集電体に塗布されている活物質スラリーに磁場を印加する磁場発生手段とを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、集電体の一方の面に塗布された活物質スラリー中の金属異物粒子が磁場によって集電体の側に引き寄せられることから、金属異物粒子を集電体側に選択的に配置することができる。よって、電池を製造した場合、金属異物粒子はセパレータとの距離が遠い位置に存在するので、電池製造後の充放電により金属異物粒子が金属イオンへと変化し、この金属イオンがセパレータ側(集電体と反対側)へと移動する過程において、金属異物粒子がセパレータに近い位置に存在する場合よりも大きく拡散する。この拡散の程度の違いにより、内部短絡を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態の電極製造装置の概略構成図である。
【図2】同電極製造装置の一部概略斜視図である。
【図3】バックアップロール部の拡大斜視図である。
【図4】従来の電極製造装置により製造した電極を用いたセルの断面図である。
【図5】本発明の電極製造装置により製造した電極を用いたセルの断面図である。
【図6】磁気力が塗膜内の状態に与える影響を説明するための状態図である。
【図7】永久磁石を通過する前と通過した後の塗膜内の状態を示す状態図である。
【図8】第2実施形態の電極製造装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本発明の一実施形態の電極製造装置の概略構成図、図2は電極製造装置の一部概略斜視図、図3はバックアップロール部の拡大斜視図である。ただし、図2では集電体14の一部しか示していない。図3では集電体14を取り去った状態を示している。
【0010】
図1に示したように、粉体状の正極活物質材料2はホッパー3に供給される。ホッパー3内の正極活物質材料2は図示しない搬送手段によりミキサー4に供給される。ミキサー4は、粉体状の正極活物質材料2及び溶剤を分散攪拌し、スラリー5を作るものである。ミキサー4で作られる正極活物質材料2と溶剤の混合物であるスラリー5を以下「活物質スラリー」という。
【0011】
電極形成手段は、集電体14に活物質スラリーを塗布する塗工手段と、塗布した活物質を乾燥させる電極乾燥手段とを含んでいる。活物質スラリー5はポンプ7などのスラリー搬送手段を駆動することで、搬送配管6を介して塗工手段としてのダイコータ8に供給される。図1〜図3にはダイコータ8のダイヘッド9しか図示していないが、ダイコータ8はダイヘッド9から塗工液としての活物質スラリー5を押し出して、フィルム状(板状)の正極集電体(以下単に「集電体」ともいう。)14に塗布するものである。すなわち、バックアップロール12の周面に巻き掛けられている集電体14に対して、ダイヘッド9の先端が近接して設けられている。ダイヘッド9先端には水平方向にスリット9aが形成され、このスリット9aから集電体14に向けて活物質スラリー5を供給し、集電体14上に活物質スラリー5を塗布する。バックアップロール12は一定速度で一方向(図では時計方向)に回転するため、集電体14上には所定厚さの活物質スラリー5が塗布されることとなる。集電体14上に塗布される活物質スラリー5を以下「塗膜」ともいう。
【0012】
塗工手段は図1〜図3に示すものに限られない。例えば、図8は第2実施形態の電極の製造装置の概略構成図で、第1実施形態の図1と置き換わるものである。
【0013】
第2実施形態は、塗工手段としてグラビア胴版を用いるものである。すなわち、図8においてバックアップロール12の真下から円筒状または円柱状のグラビアロール51の周面が、バックアップロール12の周面に巻き掛けられている集電体14に近接して設けられている。グラビアロール51の軸がバックアップロール12の軸と平行となるようにしている。
【0014】
また、活物質スラリー5がポンプ7により搬送配管6を介して漕52内に所定高さまで供給され、この漕52内の活物質スラリー5の液中にグラビアロール51の下方が浸かるようにしている。このため、バックアップロール12を時計方向に回転させつつグラビアロール51を反時計方向に回転させると、グラビアロール51の周面に活物質スラリー5が付着したまま巻き上がることとなり、グラビアロール51がバックアップロール12と対向している部分で活物質スラリー5が集電体14に所定厚さで塗布(転写)されることとなる。
【0015】
集電体14上に塗布された活物質スラリー5は乾燥後に正極活物質層を形成する。このようにして、塗膜の乾燥後には、集電体14と、乾燥後の塗膜15(つまり正極活物質層)とからプラスの電極が形成される。
【0016】
集電体搬送手段は、図1、図8に示したように送りロール11、バックアップロール12、巻き取りロール13からなる。図8ではアイドラー53を追加している。水平方向にかつ軸が平行となるように配置される送りロール11、バックアップロール12、巻き取りロール13(及びアイドラー53)は全て円筒状または円柱状であり、これらロール11〜13、アイドラー53には、所定幅の集電体14が巻き掛けられている。巻き取りロール13を図1、図8で時計方向に一定の回転速度で回転させることによって集電体14は送りロール11からバックアップロール12へ搬送され、その後巻き取りロール13に巻き取られる。ダイヘッド9やグラビアロール51を集電体14が通過した後には、集電体14上に所定厚さの塗膜15が塗布されている。
【0017】
さて、図1または図8に示す電極製造装置により製造した電極を用いて最終的にはリチウムイオン電池を製造する。後述する図4、図5はリチウムイオン電池に含まれる1つのセル31を示している。活物質スラリー5に金属異物粒子が含まれていたり電極製造工程で金属異物が混入したりすると、金属異物は、セル31内で溶出・析出し電池が内部短絡(自己放電)を生じる可能性がある。民生電池と異なり、自動車用電池は、ライフサイクルが長いという特徴と、内部短絡が生じたときの短絡電流が大きいという特徴とを有するので、リチウムイオン電池を自動車用電池として採用する場合には、金属異物粒子に対する対策が重要となる。
【0018】
このため従来の電極製造装置では、活物質スラリーの形成前に正極活物質材料の搬送配管を磁性材料で形成し、その搬送配管に磁場を印加することによって金属異物粒子を搬送配管でトラップ(吸着)し、これによって正極活物質材料に含まれる金属異物粒子が製造後の電極(電池)に含まれないようにしている。
【0019】
しかしながら、従来の電極製造装置では、金属異物粒子が小さいと金属異物粒子の磁化量も小さいため、金属異物粒子が搬送配管に安定して吸着されず金属異物粒子が依然として正極活物質材料内に残存する恐れがある。従って、電池を製造するときに金属異物がセパレータの局部に析出・成長し内部短絡する恐れがある。また、金属異物粒子が磁場印加部である搬送配管に堆積すると金属異物粒子を除去する能力が低下するという問題もある。この堆積した金属異物粒子を定期的に回収するのでは電池製造の稼働率が悪化する。
【0020】
そこで本発明では、正極活物質材料から金属異物粒子を完全除去するのではなく、電極製造時に正極活物質材料中に含まれている金属異物粒子の位置を制御することで電池完成後に自己放電が生じることを予防する。自己放電を予防できれば、電極の歩留りが向上する。
【0021】
以下、詳述する。図1、図8においてバックアップロール12の材質を鉄またはSUS等の磁性材料とし、この磁性材料のバックアップロール12を永久磁石、電磁石または超伝導磁石などの磁石で励磁する。例えばSUS420で軸方向高さが10mm程度の複数の短円柱部品を形成し、これら短円柱部品を同軸に並べ、隣り合う短円柱部品の間に非磁性体を挟んで連結し、全体として一つの円柱状の複合体を形成する。そして、この複合体の表面をエンジンプラスチック樹脂で被覆することによって軸方向に延びる1本のバックアップロール12を作製する。
【0022】
このバックアップロール12に印加する磁場の大きさを調整可能とするため、バックアップロール12の軸方向外周には、図3に示したように、直方体状の鉄心22と絶縁巻線23とからなる電磁コイル21を、バックアップロール12の軸方向に沿って並設する。巻線23が巻かれない鉄心22の2つの各端部22a、22bがバックアップロール12の各軸方向端12a、12bより飛び出すように、鉄心22の軸方向長さ(バックアップロール12の軸方向)をバックアップロール12の軸方向長さより長くする。バックアップロール12の一方の軸方向端、つまり図3で左手前に位置する軸方向端12aと、鉄心22の図3で左手前に位置する端部22a側側面とに当接するように直方体状の第1磁性材24を配置する。同様に、バックアップロール12の他方の軸方向端、つまり図3で右奥に位置する軸方向端12bと、鉄心22の図3で右奥に位置する端部22b側側面とに当接するように直方体状の第2磁性材25を配置する。
【0023】
なお、実施形態では、鉄心22及び2つの磁性材24、25を直方体状で示しているが、鉄心22や2つの磁性材24、25の各形状は直方体状に限られない。また、図1に示すダイヘッド9や図8に示すグラビアロール51などの活物質スラリーを集電体14上に供給する部位は励磁せず、非磁性材料とする。
【0024】
電磁コイル21に電流を流すと、電磁コイル21が電磁石として機能する。例えば図3に示したように、鉄心22内にはバックアップロール12の軸方向に向かって磁力線が発生する。この磁力線は右奥に位置する第2磁性材25内を折れ曲がり、バックアップロール12の他方の軸方向端12bからバックアップロール12内に入る。バックアップロール12内では磁力線は鉄心22とは逆方向に向かって発生する。バックアップロール12の一方の軸方向端12aまできた磁力線は左手前に位置する第1磁性材24内を折れ曲がり、鉄心22内に戻る。このようにして電磁コイル21とバックアップロール12とを結ぶ磁力線のループができる(図3矢印参照)。
【0025】
このようにして、電磁コイル21、バックアップロール12及び2つの磁性材24、25から磁場発生手段が構成されている。
【0026】
このように電磁コイル21によってバックアップロール12の軸方向に磁力線が発生するとき、上記複合体を形成している個々の短円柱部品が磁化される。1個の短円柱部品の軸方向端にS極とN極が生じるので、図2には2個の短円柱部品について、図3には3個の短円柱部品について磁極が生じる様子を示している。実際には短円柱部品の数だけS極とN極の組合せが生じる。
【0027】
このようにして個々の短円柱部品が磁化したバックアップロール12によって、集電体14上の塗膜15には、塗膜15の表面(大気に晒されている面)から塗膜15の裏面(集電体14と接している面)に向かう向きに磁力線が発生する。この塗膜15を表面から裏面へと貫く磁力線によって、塗膜15中の金属異物粒子を集電体14の側に移動させるようにする。
【0028】
これについて図4、図5を参照して説明する。図4上段、図5上段は電池のセル31が積層完成したときの断面図であり、下から集電体(正極集電体)14、正極活物質層15’(塗膜15)、セパレータ16、負極活物質層17、負極集電体18の順に積層されている。集電体(正極集電体)14と正極活物質層15’(塗膜15)からプラスの電極が、また負極活物質層17と負極集電体18からマイナスの電極が構成され、正極活物質層15’と負極活物質層17とが短絡するのを防止するため、絶縁材としてのセパレータ16が電極間に介装されている。ただし、セパレータ16は金属イオンなどのイオンは透過するようになっている。図1、図8に示した電極製造装置は、プラスの電極を製造する装置である。
【0029】
図4上段、図5上段において正極活物質層(塗膜15)内に存在する1つの金属異物粒子Mを丸印で示している。このうち、図4上段は従来の電極製造装置により正極活物質層15’(塗膜15)の中でもセパレータ16に近い位置に金属異物粒子Mが存在するセル31を示している。一方、図5上段は本発明の電極製造装置により製造したセル31であり、正極活物質層15’(塗膜15)内に含まれる金属異物粒子Mが集電体14に近い位置まで移動しているセル31を示している。
【0030】
セル31を含む電池完成後には電池の充放電が行われる。この場合に、セル31に酸化電位が作用すると、金属異物粒子Mは正極活物質層15’(塗膜15)内で金属イオンM’となる。金属イオンM’は正の電荷を持っているため、負極集電体18の側、つまり図4、図5において上方に向かう。また、金属イオンM’は金属異物粒子Mとして存在した位置を起点としてある角度で円錐状に拡散する性質を有している。このため、金属異物粒子Mとして存在した位置から上方に離れるほど金属イオンM’の左右方向への広がりが大きなものとなる一方で、上下方向(移動方向)の幅は小さくなっていく。これは、金属イオン全体の体積は変わらないためである。
【0031】
従来の電極製造装置により作成したセル31では、図4上段に示したように正極活物質層15’(塗膜15)の中でもセパレータ16に近い位置に金属異物粒子Mが存在している。酸化電位の作用で生成される金属イオンM’は上方に拡散する。金属異物粒子Mの位置がセパレータ16に近いために金属イオンM’は左右方向に広がる前にセパレータ16を貫通して負極活物質層17の下面に到達し、図4下段に示したようになる。つまり、金属イオンM’は左右方向に広がらず上下方向に長い塊の状態にとどまるため、この金属イオンM’によって正極活物質層15’と負極活物質層17とが電気的につながり短絡してしまう。
【0032】
一方、本発明の電極製造装置により作成したセル31では、図5上段に示したように金属異物粒子Mを集電体14の近くまで移動させている。酸化電位の作用で生成される金属イオンM’は、上方に拡散するにしても、金属異物粒子Mとして存在した位置からセパレータ16の下面までが図4上段よりも離れている。このため、金属イオンM’は左右方向に大きく広がった段階でセパレータ16を貫通して負極活物質層17の下面に到達し、図5下段に示したようになる。つまり、金属イオンM’は左右方向に大きく広がったために上下方向幅はセパレータ16の厚さよりも薄い状態となっている。このため、こうした上下方向に薄い形状の金属イオンM’であれば、当該金属イオンM’によっては、正極活物質層15’(塗膜15)と負極活物質層17とが電気的につながらず、短絡を回避できている。
【0033】
図4、図5では、金属異物粒子Mに作用する塗膜15(つまり活物質スラリー)の粘性抵抗を考察しなかったが、次にはこの金属異物粒子Mに作用する活物質スラリーの粘性抵抗を考察する。すなわち、磁気力によって金属異物粒子Mを集電体14の側に移動させるときに、金属異物粒子Mの移動を阻止する向き(つまり塗膜15の表面側)にドラッグ力(粘性抵抗)が作用する。従って、磁気力をFm、ドラッグ力をFdとしたとき、磁気力Fmがドラッグ力Fdより大きくなるように、金属異物粒子Mに対して磁気力Fmを作用させる必要がある。
【0034】
ここで、金属異物粒子Mに作用する磁気力(以下単に「磁気力」という。)Fmは、
Fm=VMΔH …(1)
ただし、V ;金属異物粒子の体積、
M ;金属異物粒子の体積飽和磁化、
ΔH;磁場勾配、
の式により、また金属異物粒子Mに作用するドラッグ力(以下単に「ドラッグ力」という。)Fdは、
Fd=6πrηvp …(2)
ただし、r ;金属異物粒子の半径、
η ;塗膜(活物質スラリー)の粘度、
vp;金属異物粒子の塗膜(活物質スラリー)中の移動速度、
の式により計算することができる。
【0035】
例えば、金属異物粒子Mの半径rを100[μm]、塗膜(活物質スラリー)の粘度ηを10000[mPa・s]、金属異物粒子Mの塗膜(活物質スラリー)中の移動速度vpを0.02[mm/sec]とした場合に、上記(2)式よりドラッグ力Fd=3.8×10^−8[N]である。ただし、「^」は累乗を表す。
【0036】
このドラッグ力Fdに打ち勝つ磁気力Fmを付与するため、本発明では、電磁コイル21を用い塗膜15に対して最大磁場強度T=10[T]、磁場勾配ΔH=1000[T/m]を付与する。これら最大磁場強度T、磁場勾配ΔHの値を上記(1)式に代入して計算すると、磁気力Fm=4.1×10^−8[N]となり、ドラッグ力Fdに打ち勝つ最低限の磁気力Fmを設定できている。
【0037】
上記(2)式のの金属異物粒子Mの移動速度vpは、
vp=(金属異物粒子Mが移動する距離)/
(金属異物粒子Mが磁気力Fmに晒される時間)
=(正極活物質層(15)の下面から負極活物質層17の下面までの距離)
/(塗膜15がバックアップロール12を通過する時間)
…(3)
の式により定義される値である。
【0038】
上記(1)式の磁場勾配ΔHは、簡単には金属異物粒子Mが置かれた環境の磁界の強さのことで、塗膜15の表面から塗膜15の裏面に向かって生じる磁束の密度[T]を電磁石(電磁コイル21)から金属異物粒子Mまでの距離[m]で除算した値である。上記(1)式の体積飽和磁化は磁性材料の着磁の度合を表す物理量で、磁性材料の種類により予め定まっている。
【0039】
次に、磁気力Fmをどの程度の値に設定するかについてさらに述べる。塗膜15内に分散して存在する正極活物質の各粒子Lにも磁性が少しある。正極活物質粒子LはSUSなどの金属異物粒子Mと比較して飽和磁化量が約1/5以下と小さいものの、磁気力Fmが大き過ぎる場合には、磁気力Fmが正極活物質の各粒子Lにも作用して正極活物質の各粒子Lを集電体14の側へと移動させ、塗膜15内で正極活物質粒子Lを偏在させてしまうこととなる。
【0040】
これを図6を参照して説明する。塗膜15内には正極活物質粒子L、金属異物粒子M及びその他物質(例えばバインダ)の粒子Nが含まれている。ここでは、正極活物質粒子L、金属異物粒子M、その他物質の粒子Nは全て球状であるとしている。
【0041】
磁気力Fmが作用する前に塗膜15内の状態がどうなっているかを図6上段に示すと、正極活物質粒子L、金属異物粒子M及びその他物質(例えばバインダ)の粒子Nがほぼ均等に散らばっている。一方、磁気力Fmが大き過ぎた場合に塗膜15内の状態がどうなるかを図6中段に、磁気力Fmが適切である場合に塗膜15内の状態がどうなるかを図6下段に示している。
【0042】
理想的には、正極活物質粒子Lが塗膜15内で均等に散在している状態で金属異物粒子Mのみが磁気力Fmに引かれて集電体14の近く(図で下方)に移動することである。しかしながら、磁気力Fmが大き過ぎる場合には、図6中段に示したように、金属異物粒子Mだけでなく正極活物質粒子Lまでが磁気力Fmに引かれて集電体14の近くに移動し、塗膜15内で正極活物質粒子Lが集電体14の側に偏在することになっている。
【0043】
これに対して、磁気力Fmを強くもなく弱くもなく最適に設定した場合には、図6下段に示したように、正極活物質粒子Lを塗膜15内で偏在させることなく、金属異物粒子Mのみを集電体14の近くに移動させることができている。このように磁気力Fmを最適にするため、実際には、印加磁場の範囲を0.5〜10[T]で調整可能となるように電磁コイル21の仕様を定めている。
【0044】
図1、図8に戻り、集電体14上の塗膜15を乾燥させて正極活物質層15’を形成するため、バックアップロール12と巻き取りロール13との間を移動する集電体14の上部に電極乾燥手段としてのヒータ41、42を複数列備えている。具体的には集電体14の移動方向に2列のヒータ41、42を、さらに1列に3個のヒータを備えている。ヒータ41、42の列数や一列のヒータ数はこれに限られるものでない。
【0045】
集電体14を挟んでヒータ41、42と反対側(集電体14の鉛直下方)には、平板状の永久磁石45、46、47(磁場発生手段)を集電体14に近接して配置している。永久磁石45〜47の形状は平板状に限らず棒状であってもかまわない。また、図1、図8では永久磁石45〜47を集電体14の移動方向に3つ配列しているが、永久磁石の列(数)は少なくとも1つあればよい。また、永久磁石でなく電磁石であってもかまわない。
【0046】
なお、図1、図8では永久磁石45をバックアップロール12に近接させているが、実際には、バックアップロール12と永久磁石45との間に図3に示した電磁コイル21が存在している。
【0047】
このように、塗膜15が塗布された集電体14を挟んで、ヒータ41、42と永久磁石45〜47とを配置したのは次の理由からである。すなわち、ヒータ41、42によって塗膜15の表面に熱を加えるとともに、永久磁石45〜47により、塗膜15の表面から塗膜15の裏面(塗膜15が集電体14と接する面)へと向かう向きに磁力線が発生するように磁場を印加することで、塗膜15の乾燥と金属異物粒子Mの集電体14側への移動とを同時に行わせるためである。永久磁石45〜47の機能はバックアップロール12に有させる電磁石としての機能と同じである。
【0048】
これをさらに図7を参照して説明する。塗膜15内には正極活物質粒子L、金属異物粒子M及びその他物質(例えばバインダ)の粒子Nが含まれている。ここでは、正極活物質粒子Lとその他物質の粒子Nは球状であるのに対して、金属異物粒子Mは星状で示している。
【0049】
永久磁石45〜47からの磁気力Fmが作用する前に塗膜15内の状態がどうなっているかを図7上段に、ヒータ41、42及び永久磁石45〜47を通過した後(つまり塗膜15の乾燥後)に塗膜15内の状態がどうなるかを図7下段に示している。なお、図7上段はバックアップロール12を通過した後の塗膜15内の状態を示すものではない。言い換えると、電磁コイル21に通電していない状態で永久磁石45〜47の手前にきたときの塗膜15内の状態を示している。
【0050】
図7上段に示したように金属異物粒子Mの移動速度(矢印参照)は正極活物質粒子Lの移動速度(矢印参照)と比較して約5倍も速いため、塗膜15の乾燥後には図7下段に示したように破線で囲った領域に金属異物粒子Mは含まれていない。このように、塗膜15の乾燥と金属異物粒子Mの集電体14側への移動とを同時に行わせることで、正極活物質粒子Lを塗膜15内で集電体14側に偏在させることなく乾燥固定できる。これにより、正極活物質粒子Lの偏析を軽減できる。
【0051】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0052】
本実施形態によれば、集電体14の一方の面に塗布された活物質スラリー5中の金属異物粒子が電磁コイル21及びバックアップロール12による磁場によって集電体14の側に引き寄せられることから、金属異物粒子を集電体14側に選択的に配置することができる。よって、電池を製造した場合、金属異物粒子はセパレータ16との距離が遠い位置に存在するので、電池製造後の充放電により金属異物粒子が金属イオンへと変化し、この金属イオンがセパレータ16側(集電体14と反対側)へ移動する過程において、金属異物粒子がセパレータ16に近い位置に存在する場合よりも大きく拡散する。この拡散の程度の違いにより、内部短絡を抑制できる。
【0053】
詳細には、セル31に酸化電圧が作用したときに、金属異物粒子Mが塗膜15の表面近く(表面側)に存在する場合よりセパレータ16との距離が遠くなり、その遠くなった分だけ金属異物粒子Mから変化する金属イオンM’が負極活物質層17の側(図5下段で上方)に移動する際に、移動方向と直交する方向(図5下段で左右方向)への拡散範囲が広くなって移動方向の幅が薄くなることから、セパレータ16内を拡散した金属イオンM’によって正極活物質層15’と負極活物質層17とが短絡する事態を避けることができる(図5下段参照)。
【0054】
本実施形態によれば、磁場発生手段は、集電体14に塗布されている塗膜15(活物質スラリー)に対して、この塗布されている塗膜15(活物質スラリー)の表面より裏面に向かう向きに磁力線が発生するようにするので、金属異物粒子を集電体14の側へと移動させることができる。
【0055】
本実施形態によれば、バックアップロール12(集電体搬送手段)が電磁石として機能する(磁場発生手段を有する)ので、電極製造装置1をコンパクトにすることができる。
【0056】
本実施形態によれば、集電体14の一方の面に塗布された活物質スラリーを乾燥させるヒータ41、42(電極乾燥手段)を含み、塗膜(活物質スラリー)15の塗布されている集電体14を挟んでこのヒータ41、42と反対側に永久磁石45〜47(第2磁場発生手段)を配置する。すなわち、集電体14上の塗膜(活物質スラリー)15の表面は乾燥を行い、同時に塗膜15の裏面(集電体14側)から永久磁石45〜47により磁場を印加することで、乾燥と金属異物粒子の集電体14側への磁気吸引とを同時に行わせることができる。金属異物粒子は活物質粒子と比較して移動速度が速いため、金属異物粒子の磁気吸引と乾燥を同時にすることで塗膜15中に散乱して存在する活物質粒子を偏在させることなく活物質層として乾燥固定できる(図7下段参照)。
【0057】
第1、第2の実施形態では、バックアップロール12を電磁石(磁場発生手段)として機能させると共に、永久磁石45〜47を磁場発生手段として設けた、つまり磁場発生手段を2つ設けた場合で説明したが、バックアップロール12に電磁石としての機能を付与しない、つまり磁場発生手段を1つとする態様(第3実施形態)が考えられる。塗膜15の乾燥前にバックアップロール12によって強い磁場を作用させ過ぎるときには塗膜15内で正極活物質粒子を集電体14側に偏在させてしまう可能性があるのであるが、第3実施形態によれば、金属異物粒子が塗膜15内で集電体14側に移動した後直ぐに塗膜15が乾燥されるため、正極活物質粒子が集電体14側に偏在することを避けることができる。
【0058】
実施形態では、活物質スラリーが正極活物質スラリーである場合で説明したが、活物質スラリーが負極活物質スラリーである場合にも本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0059】
1 電極製造装置
5 活物質スラリー
8 ダイコータ(電極形成手段)
9 ダイヘッド
11 送りロール(搬送手段)
12 バックアップロール(搬送手段、磁場発生手段)
13 巻き取りロール(搬送手段)
14 集電体(集電体)
21 電磁コイル(磁場発生手段)
41、42 ヒータ(電極乾燥手段)
45、46、47 永久磁石(磁場発生手段)
51 グラビアロール(電極形成手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体を移動させる集電体搬送手段と、
活物質スラリーを前記集電体の一方の面に塗布して活物質層を形成することにより電極を形成する電極形成手段と、
活物質スラリーの塗布されている集電体の他方の面の側から集電体に塗布されている活物質スラリーに磁場を印加する磁場発生手段と
を含むことを特徴とする電極製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電極製造装置において、
前記磁場発生手段は、前記集電体に塗布されている活物質スラリーに対して、この塗布されている活物質スラリーの表面より裏面に向かう向きに磁力線が発生するようにすることを特徴とする電極製造装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電極製造装置において、
前記集電体搬送手段が磁場発生手段を有することを特徴とする電極製造装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一つに記載の電極製造装置において、
前記集電体の一方の面に塗布された活物質スラリーを乾燥させる電極乾燥手段を含み、
活物質スラリーの塗布されている集電体を挟んでこの電極乾燥手段と反対側に前記磁場発生手段を配置することを特徴とする電極製造装置。
【請求項5】
板状の集電体の一方の面に活物質スラリーを塗布して活物質層を形成することにより電極を形成する電極形成工程と、
活物質スラリーの塗布されている集電体の他方の面の側から集電体に塗布されている活物質スラリーに磁場を印加する磁場発生工程と
を含むことを特徴とする電極製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電極製造方法において、
前記集電体の一方の面に活物質スラリーを塗布すると同時にこの集電体に塗布されている活物質スラリーに磁場を印加することを特徴とする電極製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の電極製造方法において、
前記集電体の一方の面に塗布された活物質スラリーを乾燥させつつ活物質スラリーの塗布されている集電体の他方の面の側からこの塗布された活物質スラリーに前記磁場を印加することを特徴とする電極製造方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか一つに記載の電極製造装置または電極製造方法により製造される電極。
【請求項9】
請求項1から7までのいずれか一つに記載の電極製造装置または電極製造方法により製造される電極を用いたリチウムイオン電池。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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