電極アレー
軟質組織に挿入するための電極アレーは、各々が遠位先端と近位端とを有する多数の薄い可撓性電極を含み、ここで該電極の近位端から延びる複数の該電極の少なくとも部分は平行に配置される。複数の該電極は体液のような水性溶媒に溶解性のマトリックスに埋め込まれている。該マトリックスは、溶解速度が異なる2つ又はそれ以上のセクションを含む。第1セクションは該電極の遠位部分から近位方向に延びる複数の該電極の部分を封入する。第2セクションは該第1セクションから該電極の近位端に向かって延びる複数の該電極の部分を封入する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳、脊髄、内分泌腺器官、筋肉及び結合組織のような軟質組織に挿入するための、多数の薄いワイア電極を含む医療電極アレー、その製造方法、及び該電極アレーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系(CNS)に長期間埋め込むことができる電極は、広い分野の適用を有する。原則として、全脳及び脊髄組織をかかる電極から記録し又は刺激することができ、そしてそれらの機能を監視しそして制御することができる。脳又は脊髄の刺激は、脳細胞核が退化又は損傷した場合に特に有意義となる。脳活性の監視は、薬物伝達又は電気的刺激のような他の手段に接合されると、有用となり得る。電極はまた、組織の特定位置の損傷にも使用することができる。脳構造を記録しそして刺激するために、種々の形態の埋め込まれた電極が過去に開発されそして使用された。かかる目的に電極アレーの形の多数の電極の使用が望ましい。適当な電極アレー又は束が特許文献1から知られ、これは本願に参照用に含まれる。この及び他の公知の電極アレーに関して、個々の電極の動き及びそれらの軟質組織内での配置の自由度を改良するのが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2007/040442 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一目的は、前記の種類の電極アレーであって、その個々の電極が、該電極を軟質組織に挿入した後に、互いに運動の自由度を得る電極アレーを提供することである。
【0005】
本発明の別の目的は、前記の種類の電極アレーであって、軟質組織の所望の位置に容易に配置することができ、そしてそこに固定することができる電極アレーを提供することである。
【0006】
本発明の更なる目的は、前記の種類の電極アレーであって、長い期間にわたって軟質組織内の選択した位置に保持され、そして電極を埋め込んだ人の身体的運動により容易に移動しない電極アレーを提供することである。
【0007】
本発明の更に別の目的は、製造が容易な、前記の種類の電極アレーを提供することである。
【0008】
本発明の更なる目的は、発明の簡単な記載、図面に例示された多くの好ましい態様、及び特許請求の範囲の検討から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電極アレーは、電気伝導性の薄い可撓性、好ましくは弾性的に可撓性の電極で、生きた組織のような水性の環境内で溶解性及び/又は分解性の固体マトリックスにはめ込まれた多数の該電極を含む。本発明の電極アレーは軟質の生きた組織、特に脳及び脊髄組織、に挿入するだけでなく、例えば肝臓、腎臓又は結合組織に挿入するように意図されている。一旦挿入されると、該電極を保持する該マトリックスは溶解及び/又は分解する。該マトリックスは、該電極アレーを組織に挿入することにより溶解及び/又は分解するまで、該電極を互いに固定した位置に維持する膠(glue)又は接着剤として作用する。これにより該電極アレーは多数の個々の電極に変換し、該個々の電極はもはやマトリックスにより、相互についての動きを拘束されない。他方、組織内の該電極の配置は、少なくともある程度、該電極アレーにおけるそれらの空間的関係を反映するであろう。
【0010】
本発明の電極アレーは、その中心軸に対して一般に対称であるのが好ましい。本発明の長方形の電極アレーは、遠位端と近位端とを有する。本願で、”遠位”とは、該電極を組織に挿入する人から、その近い部分よりも離れた電極アレーの部分を云い、そして該人から離れる動きの方向をも云う。該電極の少なくとも近位部分は、中心軸に平行又はほぼ平行に配置される。本発明の電極アレーはいかなる適当な形態であることができ、例えば、中心軸に対して横断する断面が円形、楕円形又は実質的に平らな形状であることができる。中心軸は一般に電極アレーの組織への挿入軸と一致する。電極アレーの全て又はいくつかの電極の遠位末端部分(前端部分)は、平行に又は複数の該電極の少なくともいくつかは中心軸から扇形に広がるような構造に配置されるか、又は該電極アレーを組織内に遠位方向に移動することによって、該電極を封入したマトリックス部分が溶解及び/又は分解すると作動する、扇形に広げる手段を含む。
【0011】
本発明の複数の電極は、好ましくは、それらの近位端及び遠位端から延びる部分以外は絶縁されている。該電極の絶縁されていない遠位端又は先端は、いかなる適当な形状であってもよい。適当な形状、特に鉤状毛のある先端はWO2007/040442に開示されている。その近位端において、各電極は電子的設備と、好ましくは多重リード可撓性ケーブルを介して、電気的に伝導性に接触している。これにより、個々の電極は別個に又はグループとなってアドレスすることが可能となる。
【0012】
本発明の電極は、記録及び/又は神経刺激の目的に使用できる。記録の目的に使用された場合、本発明の電極は小型化されたプレアンプリファイアー(予備増幅器)を備えて、シグナル対ノイズ比を改良することができ、ここで該プレアンプリファイアーは主アンプリファイアーにワイアで接続されている。
【0013】
本発明の電極は好ましくは固定(アンカー)手段、例えば鉤状毛(barb)、粗い表面部分又は周囲の組織に対して接着性を有する表面部分、を備える。該鉤状毛は、絶縁されていない場合、電極先端として機能するのが好ましい。本発明の複数の電極は、いろいろな長さでありそして電極アレー中にその中心軸の周りに、最も長い電極を該軸から短い距離に、最も短い電極を該軸から長い距離に、そして中間の長さの電極を該軸から中間の距離に配置して、それらの遠位先端が電極アレー先端を規定し、一方それらの近位端が好ましくは該軸を横断する面内に配置されるようにするのも好ましい。しかしながら、複数の電極を一方向に傾斜した電極アレー先端、或いは対称的でない電極アレー先端を形成するように配置するのも本発明の範囲内である。
【0014】
本発明の好ましい側面によると、電極アレーは1つ又はそれ以上の光学ファイバーを含んで、組織又はその成分の放射線刺激に備え、そして/又は周囲の組織から発散される放射線を記録するのに備える。電極のそれに対応するように、該1つ又はそれ以上のファイバーは該アレーの選択した位置にマトリックスにより保持される。
【0015】
別の好ましい態様によると、電極アレーは、電流を通した時に形状を変える、例えば屈曲する、1つ又はそれ以上の収縮性バイメタル要素を含む。或いは、該電極アレーに含まれる1つ又はそれ以上の収縮性ポリマー要素を使用して、その挿入経路を制御することができる。
【0016】
本発明の第3の好ましい側面によると、電極アレーは、遠位端から延びる遠位末端部分と、該遠位末端部分から近位方向に延びる主部分とを含む。該遠位末端部分は遠位方向に先細になって、例えば円錐形又は平らな三角形の末端遠位部分を形成するのが好ましい。いくつかの適用に、末端遠位部分は先が尖っていない形状を有して、電極アレーの挿入時に血管破裂の危険を最小にすることができる。
【0017】
本発明の第4の好ましい側面によると、上記マトリックスは、軟質組織内での溶解及び/又は分解速度が異なる2つ又はそれ以上のセクション、特に、末端遠位部分により構成される第1セクションと、電極アレーの主部分で構成され、そしてその近位端の方向に場合によっては近位端まで延び、該近位端をマトリックス中に埋め込む第2セクションとを含む。場合によっては、電極先端を含む短い長さの遠位電極部分は、該第1マトリックスセクションから遠くに又は斜め遠位方向に延びることができる。該第1マトリックスセクションの溶解速度は第2マトリックスセクションの溶解及び/又は分解速度よりも高いのが好ましいが、該第1及び第2マトリックスセクションの他の溶解/分解速度関係もまた、本発明に含まれる。電極アレーを脳の軟質組織のような標的組織に挿入すると、第1及び第2マトリックス部分は体液と接触するようになり、そして引き続きこの接触により溶解及び/又は分解し、ここで第1部分の溶解及び/又は分解速度は、第2部分の溶解及び/又は分解速度よりも実質的に大きい。マトリックスセクションは、溶解/分解向上手段、例えば体液により膨張することができるチャンネル、を含むのが好ましい。従って、マトリックスセクションは多孔性構造を有するのが好ましい。2つ又は3つの軸方向に結合しているマトリックスセクション、特に2つのマトリックスセクション、を含む電極が好ましい。マトリックスセクションは炭水化物及び/又はタンパク質を含む又は炭水化物及び/又はタンパク質から成るのが好ましい。
【0018】
電極アレーを軟質組織に挿入するために、手動式又は他の小型操縦具が該電極アレーの近位端部分に取り付けるか又は取り付け可能であり、該操縦具は該電極アレーから近位方向に延びる。
【0019】
電極アレーの電極とマトリックスの組み合わせの相対的硬さにより、組織への該アレーの挿入が容易になる。一旦挿入すると、第1の遠位マトリックスセクションは迅速に溶解する。これにより、電極の遠位末端部分は、近接する電極に対して横方向に移動可能となる。電極アレーを組織に更に挿入すると、扇形に広がる手段を含む電極の遠位部分は、該電極アレーの軸から一般に離れる方向に拡がるように屈曲する。第2マトリックス部分の溶解及び/又は分解は電極の近位部分を自由にするので、近接する電極に対して横方向及び/又は軸方向の移動が可能となり、そして組織内で浮いた配置をとるようになる。これにより、組織内のその位置は安定化され、そしてそうでなければ他の電極とのその結合した運動により起こるであろう組織の反応/損傷が防止される。
【0020】
本発明の第5の好ましい側面によると、電極アレーは、その近位端に取り付けられそしてその端から近位方向に延びる、小型操縦具から成る接触要素のような挿入要素を含む。該挿入手段は電極に、水性環境で溶解可能な接着剤により取り付けられるのが好ましい。該接着剤は体液中で、第2マトリックス部分の材料よりも実質的に迅速に溶解するのが好ましい。これにより、電極アレーは、組織に挿入すると、選択した時点で小型操縦具から自動的に分離され、該小型操縦具を引き抜くのを可能にする。
【0021】
本発明の第6の好ましい側面によると、平行に配置された2つ又はそれ以上の電極アレーは、それらの整合する表面の間に配置された溶解性結合層(単層又は複数層)により結合することができる。
【0022】
本発明の第7の好ましい側面によると、本発明の電極アレー中の1つ又はそれ以上の電極は、互いに固定した関係に一時的に又は恒久的に保持された電極群、即ち、互いに固定した関係に保持された電極群で置き換えることができ、それらを固定した関係に保持する手段は、本発明の1つ又はそれ以上のマトリックスを含むか又は該マトリックスから成るか、或いはそれらとは独立したものであり得る。1つ又はそれ以上のマトリックスから独立したものである場合は、該手段は水性媒体中で溶解及び/又は崩壊する手段、又は恒久的な手段、例えばWO2007/040442の電極束を固定した関係に保持する手段、であることができる。同様に、本発明の電極アレー中の1つ又はそれ以上の電極は、WO2007/040442の電極束で置き換えることができる。
【0023】
本発明の電極アレーは、長期間持続する刺激、電気的神経活性及びレドックス反応の測定による伝達物質のレベルの多重チャンネル記録、及び科学的、医学的及び動物ケアの目的での組織の正確な損傷に適する。
【0024】
本発明のマトリックス部分に適した材料は、生物適合性のもので、例えば炭水化物及び/又はタンパク性の材料である。第1マトリックスセクション用に選択される材料は、約37℃の温度の体液中で、1〜3分以内のような短時間で電極の遠位部分を自由にする、即ち自由に浮遊させるような溶解速度を有するのが好ましい。第2マトリックスセクション用に選択される材料は、約37℃の温度の体液中で、少なくとも5分、更に好ましくは少なくとも10分、多くの場合、同じ電極の遠位端部分が第1マトリックスセクションによる拘束が解かれるのに要する時間よりも1〜20分又はそれ以上長い時間、電極の主要部分が分離しないようにさせるような溶解又は分解速度を有する材料であるのが好ましい。
【0025】
本発明により、電極アレーの製造法も開示され、該方法は、複数の電極を、該電極アレーの遠位端部分の輪郭と主要部分を有しそして近位開口を含む封入体又はさやに平行に配置し、引き続き第1及び第2マトリックス材料の材料溶液又は懸濁液を該さや内の該電極に塗布し、該さや内の該溶液又は懸濁液から溶媒を蒸発させ、そして該さやを該電極アレーから取り除くことによる。該さやは該電極アレーから容易に取り除くことができる材料から作られるのが好ましい。該さやとして好ましい材料は、低い湿潤性の滑らかな材料、例えばポリフッ素化炭化水素ポリマー又はシリコンゴムである。該さや材料はまた、溶媒の蒸発を容易にするために多孔性、特に微孔性であるのも好ましい。
【0026】
本発明はまた、長期間持続する刺激、電気的神経活性及びレドックス反応の測定による伝達物質のレベルの多重チャンネル記録、及び科学的、医学的及び動物ケアの目的での組織の損傷への、該電極アレーの使用に関する。
本発明を、大きさを表すのではない多くの図面を含む概略図面に示された多くの好ましい態様により、更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】マトリックス中に埋め込まれた多数の電極を含む本発明の電極アレーの第1の態様の断面図である。
【図2】軟質組織に挿入直後の、図1の態様の断面図である。
【図3】軟質組織に第1マトリックスセクションが溶解するのに十分な時間挿入した、図1の態様の断面図である。
【図4】軟質組織に第2マトリックスセクションが溶解するのに十分な時間挿入した、図1の態様の断面図である。
【図5】本発明の電極アレーの第2の態様の、図1の態様と同じ図面である。
【図6】挿入案内要素を含む本発明の電極アレーの第3の態様の、図1の態様と同じ図面である(断面C−C,図9)。
【図7】軟質組織に第1マトリックスセクションが溶解するのに十分な時間挿入した、図6の態様の断面図である。
【図8】本発明の電極アレーの第4の態様の、図1の態様と同じ図面である。
【図9】図6の態様のB−B横断面図である。
【図10】本発明の第5の態様の、図9の横断面図に対応する横断面図である。
【図11】本発明の第6の態様の、図9の横断面図に対応する横断面図である。
【図12】本発明の第7の態様の、図9の横断面図に対応する横断面図である。
【図13】本発明の第8の態様の、図9の横断面図に対応する横断面図である。
【図14】本発明の第9の態様の、図6の横断面図に対応する横断面図である。
【図15】本発明の電極アレーに含められた従来技術の電極(WO2007/040442)の、部分軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
材料及び寸法
電極材料及び寸法
電極は10−4〜10−7m、特に0.5〜25μmの適当な直径を有する。それらの直径は、それらの長さにわたって変化して、組織への挿入を容易にしてもよく、特に電極はそれらの遠位端に向かって先細になっていることができる。それらの遠位端は鋭くても鈍くてもよいが、鋭い先端が好ましい。それらの遠位部は10−7よりも小さい直径を持ち得る。電極は金属又はポリマー種の電気伝導性芯、特に貴金属の芯、例えば白金又は金又は貴金属を30重量%より多く含む合金の芯と、例えばポリフルオロアルケン、ラッカー、又はガラスのような、非伝導性コートとを含む。電極芯に、ステンレス鋼、チタン、及びタングステンもまた有利に使用できる。電極はまた、非伝導性支持材料、例えばガラス、セラミック、天然若しくはポリマーファイバーであって、金属、特に貴金属又は貴金属合金、のような電気伝導性材料で被覆した、又は管状形体の(tubiform)支持材料の場合は、金属、特に貴金属又は貴金属合金、のような電気伝導性材料を充填した該非伝導性支持材料で作ることができる。有用な他の非伝導性支持材料の例は、シルクのようなタンパク質繊維、又は炭素ナノチューブを含む繊維のような炭素繊維であり、それらは伝導性電極材料としても使用し得る。電気伝導性材料は支持材料上に、慣用のスパッターイング又は蒸着技術により沈着させることができる。
【0029】
電極の表面は、滑らかでも平らでなくともよい。先端に近くで平らでない又はでこぼこの表面が、該先端の固定性を改良するために好ましい。しかしながら、電極の他のセクションにも平らでない表面を与えてもよい。電極アレーの固定性を更に改良するために、電極はまた、それらが近位方向へ引き抜かれるのを停止する可撓性鉤状毛を備えてもよい。該鉤状毛が電気伝導性材料で作られた場合は、それらは電極先端としても機能し、そのような場合、絶縁しなくともよい。
【0030】
マトリックス材料
電極のいろいろな部分は2種又はそれ以上の生体適合性マトリックス材料を埋め込まれる;即ち、膠1として以下に参照される一つの短い持続性材料、及び膠2として以下に参照される他の長い持続性材料に埋め込まれる。適した膠材料には、炭水化物及び/又はタンパク性材料が含まれる。電極の遠位端部分を埋め込むのに使用される膠1は、血漿又は間質液のような体液中で37℃の温度で、その中に埋め込まれた電極が近接する電極に対する移動について短時間内、特に0.5〜3分以内に拘束しなくするような溶解速度を有する。膠2は、血漿又は間質液のような体液中で37℃の温度で、その中に埋め込まれた電極が近接する電極に対して移動するのを1〜10分又はそれ以上の時間以内で拘束されなくするような溶解速度、しかし多くの場合、遠位端部分が(横方向)移動を拘束されなくなるのに必要な時間よりも長い時間、電極が近接する電極に対して移動するのを拘束されなくするような溶解速度を有する。膠1については20分までのより長い溶解時間、そして膠2についてはそれに対応してより長い溶解時間を、遅い挿入手順、例えば対応する電極アレーを非常に深い組織に挿入する手順、において使用し得る。
【0031】
膠1に適した材料には、二糖類、例えば水中で10−30分又はそれ以上煮沸して1−3分の溶解時間を持つようにしたスクロース、が含まれる。より長い時間の煮沸はより長い溶解時間をもつ膠を生成する。膠1に使用できる他の膠には、40−50℃の水中に溶解しそして次に乾燥したゼラチンが含まれる。
【0032】
膠2として使用するのに適した材料は、スクロース、ラクトース、マンノース、マルトースから選ばれる糖類又は糖類混合物、及びクエン酸、リンゴ酸、リン酸及び酒石酸から選ばれる有機酸を含む水溶液の繰り返し煮沸及び冷却により得ることができる。かかる膠は、13〜60分の範囲の溶解時間を有する(参照用に本願に含めるErhan外、2003年、米国特許第6,613,378号)。
【0033】
糖類と有機酸との種々の組合せは種々の溶解時間を与える。従って、膠1及び膠2として溶解時間が異なる種々の組合せを使用することも可能である。例えば、クエン酸とマンノースとの組合せは13分の溶解時間となることができ、一方、スクロースと組合せたクエン酸は約30分の溶解時間となることができる(US6,613,378B1)。従って、これらの二つの組合せは、それぞれ膠1及び膠2として使用できる。
【0034】
ゼラチンもまた膠1及び膠2の両方に使用し得る。異なる種類のゼラチンは異なる溶解時間を有することが良く知られている。従って、膠1及び膠2に2つの異なる種類のゼラチンの適当な組合せを選ぶことにより、電極アレーの遠位マトリックス部分(膠1)に、電極アレーの近位マトリックス部分(膠2)の溶解時間よりも速い溶解時間を達成することが可能である。遠位マトリックス部分に糖類を基材とした膠を、そして近位マトリックス部分にゼラチン基材膠を使用すること、又はその逆の使用も可能である。
【0035】
場合によっては、実質的に長い溶解時間を有する膠、例えば変性コラーゲン、セルロース誘導体、変性澱粉又はその他の生体適合性材料、例えばVICRYL(商標)、を、長い挿入手順を有する適用に、膠1及び膠2として使用することもできる。例えば、電極アレーの進路ライン(トラックライン)が、例えばX−線画像形成により挿入中に繰り返し評価される場合、及び/又は該進路ラインが、該電極アレーに含まれる収縮性フィラメントを通る電流の流れにより変更される場合、挿入手順の完了時間は相対的により長い時間となり得る。
【0036】
電極アレーが皮膚若しくは粘膜の真下、又は脳若しくは脊髄の表面の近く又は他の組織の近くに位置する組織、例えば2mm未満の深さの組織、に挿入する場合は、1種の膠、特に膠1、の使用で十分であろう。何故なら、広げられた電極アレーの遠位部分のみが組織内にあるであろうからである。この場合、電極アレーの近位部分の電極間に置かれた膠2は、乾燥状態を保持するために溶解しないであろう。
【0037】
場合によっては、膠2は、電極アレーの中心及び/又は近位部分に配置された電極部分を保持するのに使用でき、他方、膠1は、電極アレーの遠位端と膠2により保持されたセクションとの間に配置された電極部分を保持するのに使用される。水性媒体と接触すると膨潤することができ、更に膠としても作用することができる剤、例えばゼラチン、を中心に軸方向に配置すると、体液との接触により電極アレーの長手軸から離れるように電極を動かす/広げるための別の手段を与える。
【0038】
場合によっては、電極アレーを潤滑剤で覆って、電極アレーの組織への挿入中の摩擦を減少させることができる。潤滑剤はまた、体液が膠に接近するのを遅くし、これによりその溶解/分解を遅くすることもできる。
【実施例】
【0039】
好ましい態様
図1の本発明の電極アレーの第1態様は、中心軸Aの周りに平行に配置されたいろいろな長さの多くの薄い金電極2,2’,2”を含む。電極2,2’,2”の近位端は軸Aを横断する面に配置され、それらの遠位端は、それらのいろいろな長さを考慮した適当な配列により、円錐を形成するように配置される。それらの円錐形先端3,3’,3”から近位方向に延びる電極2,2’,2”の遠位部分は第1膠マトリックス5中に埋め込まれ、該マトリックス5は第2膠マトリックス6と接する。マトリックス5,6の境界面9は軸Aを横断する面に配置される。遠位円錐の先端7は第1膠マトリックス5を含む。各電極2,2’,2”はその近位端で、それぞれ薄い可撓性の電気伝導性リード線4,4’,4”に接合される。電極アレーから短距離にリード線4,4’,4”は多数の電極リード線8に束ねられ、該リード線8は電子装置(図示されていない)に接合されて、電極2,4’,2”を通して電気刺激を与えそして/又は電極2,2’,2”により感知された電気シグナルを記録する。それらの遠位先端3,3’,3”から延びる短距離以外は、電極2,2’,2”及びそれらのそれぞれのリード線4,4’,4”は、ポリマーラッカーの薄層により絶縁されている(図示されていない)。水又は体液のような水性溶媒と接触すると、第1膠マトリックス5は第2膠マトリックス6よりも実質的に速く溶解する。図2において、電極アレー1は軟質組織10に、リード線4,4’,4”及び多数の電極リード線8のみが組織10から延びるような深さまで挿入されているように示されており、該組織の表面は参照番号11で示されている。図2での電極アレー1の状態は挿入したばかりの状態である。約1分のような短時間の後、図3に示す電極アレー1の状態に達する。第1膠5は組織10の水性間質液中に溶解した。電極2,2’等の遠位端部分は横方向運動、特に先端3,3’での運動が今や拘束されない。しかし電極2,2’等の近位部分は第2膠マトリックス6にまだ埋め込まれており、該マトリックスは非常にゆっくり溶解するので、半径方向に最も外側に配置された電極3でさえも、第1膠マトリックス5が完全に溶解するまで第2膠マトリックス6に埋め込まれたままである。第2膠マトリックス6の溶解には少なくとも10分費やし、その終わりに図4に示す状態に達する。該状態では、各電極2,2’は、組織10内をそれぞれ隣り合う電極2’,2に妨害されずに軸方向又は横方向の運動が可能である。
【0040】
図5に示された本発明の電極アレー101の第2の態様は図1の態様と、2種の電極、即ち、円錐形遠位端103を有する中央に配置された電極102と、その周りの、いろいろな長さの側方電極102a,102a’;102b,102b’であって、半径方向に傾斜した遠位端が対称的に配置された該側方電極とを含む点で異なる。該側方電極の近位端で、各電極102、102a,102a’;102b,102b’はそれぞれ、薄い可撓性電気伝導性リード線104;104a,104a’;104b,104b’に連結し、該リード線は電極アレー101の近位端から短距離で、第1態様の多数電極リード線8と同じ機能を有する多数電極リード線108に合わされる。再び、電極102;102a,102a’;102b,102b’の遠位部分は、第2マトリックス膠106との円錐形境界面109まで延びる第1マトリックス膠105に埋め込まれており、第2マトリックス膠106は近位端まで延びる。第1及び第2マトリックス膠105,106は、第1態様の膠5,6と同じ種類のものである。第1態様と対照的に、電極アレー101の遠位円錐の遠位先端103は電極の先端、即ち中央電極102の先端、で形成される。傾斜した先端103a,103a’;103b,103b’の機能を以下に、本発明の電極アレーの第3の態様に関連して説明する。
【0041】
図6及び図9に示された本発明の電極アレー201の第3の態様は、図5の態様と、中央電極103が、円錐形遠位先端213で終わる挿入ロッド214に交換されている点で異なる。挿入ロッド213は電極アレー201の近位端から、軟質組織に挿入中に電極アレー201を手で操作するのに適した長さで延びる。いろいろな長さの電極202a,202a’;202b,202b’は、それらの遠位端で半径方向に傾斜した先端203a,203a’;203b,203b’を有し、挿入ロッド214の周りに対称的に配置されている。各電極202a,202a’;202b,202b’は近位端で、それぞれ薄い可撓性電気伝導性リード線204a,204a’;204b,204b’に連結され、該リード線は電極アレー201の近位端から短距離で、第1態様のケーブル8と同じ機能を有する多数電極リード線208に合わされる。再び、電極202a,202a’;202b,202b’の遠位部分は第1マトリックス膠205に埋め込まれており、該第1マトリックス膠205は近位端まで延びる第2マトリックス膠206との境界面209まで延びる。第1及び第2マトリックス膠205,206は、第1態様の膠5,6と同じ種類のものである。電極アレー201の遠位円錐は挿入ロッド214の先端213により形成される。傾斜した先端203a,203a’;203b,203b’の機能は図7から明らかであり、ここでは、電極アレー201の第1マトリックス膠は溶解し、一方、第2マトリックス膠は未だ、電極202a,202a’;202b,202b’の近位部分を埋め込まれたままに保持する。それぞれ傾斜した先端203a,203a’;203b,203b’を含む電極202a,202a’;202b,202b’の遠位端部分は今やもはや横方向運動が拘束されない。電極アレー201を更に軟質組織(図7に示されていない)の中に矢印Sで示される方向に押すと、傾斜した先端203a,203a’;203b,203b’を外方向に、即ち中央挿入ロッド214から離れる方向に、点線矢印Pa,Pa’及びPb,Pb’で示されるようにそらすであろう。このように、傾斜した電極先端203a,203a’;203b,203b’はそれぞれの電極202a,202a’;202b,202b’に拡げ手段を与え、そして電極アレー201に固定手段を与える。前のように、各電極202a,202a’;202b,202b’はそれぞれ薄い電気伝導性リード線204a,204a’;204b,204b’に連結され、該リード線は多数電極リード線208に合わされる。
【0042】
図8に示された本発明の電極アレー301の第4の態様は、図1の態様と、いろいろな長さであり且つ円錐先端303a,303a’;302b,302b’を有する電極302a,302a’;302b,102b’が、電極アレー303の中心軸Mから半径方向に離れるように屈曲した遠位末端セクション316a,316a’;316b,316b’を有する点で異なる。各電極302a,302a’;302b,302b’はその近位端で、それぞれ薄い可撓性電気伝導性リード線304a,304a’;304b,304b’に連結され、該リード線は電極アレー301の近位端から短距離で、第1態様のケーブル8と同じ機能を有する多数電極リード線308に合わされる。再び、電極302a,302a’;302b,302b’の遠位部分は第1マトリックス膠セクション305に埋め込まれている。電極302a,302a’;302b,302b’の近位端から延びる部分は、第2マトリックス膠セクション306に埋め込まれているが、該セクションは第1マトリックス膠セクション305まで延びていない。その代わりに、第3マトリックス膠セクション315が膠セクション305と306の間に配置される。第3マトリックスセクション315の溶解性は第2マトリックスセクション306の溶解性と似ているが、更に第3マトリックスセクション315は溶解前に膨潤し、それにより電極302a,302a’;302b,302b’の遠位部分316a,316a’;316b,316b’を更に半径方向に外側に押す。第1及び第2マトリックス膠305,306は第1態様の膠5,6と同じ種類のものである。電極アレー301の遠位円錐体は、第1マトリックス部分305からなる丸い先端313を有する。電極302a,302a’;302b,302b’の遠位端セクションの屈曲形状は、第1膠マトリックス306が溶解しそして電極アレー301を矢印Tで示される近位方向に押すとそれらが経路Qa,Qa’及びQb,Qb’に添って拡がるのを制御する。再び、各電極302a,302a’;302b,302b’はそれぞれ薄い電気伝導性リード線304a,304a’;304b,304b’に連結され、該リード線は多数電極リード線308に合わされる。
【0043】
他の好ましい態様の横断面図は図10〜13に示される。
【0044】
図10に示される本発明の電極アレー401の第5の態様は、横断面図が楕円である。多数の薄い可撓性電極402が中央光学ファイバー417の周りに配置され、これにより照射が目的の組織部位に行うことができる。場合により、該組織から反射される放射線をIR−機器(図示されていない)のような放射線記録機器に提示する(adduced)ことができる。電極402は第1及び第2 406膠マトリックスセクションに埋め込まれる。更に、電極アレー401は、本発明の前述した態様の主な設計特徴を共有する。
【0045】
図11に示される本発明の電極アレー501の第6の態様は、平らな設計であり、そして軸方向断面が図1の態様と類似する。該電極アレーは中央挿入ロッド514を含み、該ロッドから、第1及び第2 506膠マトリックスに埋め込まれた複数の薄い可撓性電極502を含む翼が延びる。更に、電極アレー501は、本発明の前述した態様の主な設計特徴を共有する。
【0046】
図12に示される本発明の電極アレー601の第7の態様は、本発明の第5の態様と類似する設計である。しかし該電極アレーは中央挿入ロッドを欠く。それは第1及び第2 606膠マトリックスに埋め込まれた複数の薄い可撓性電極602を含む。更に、電極アレー601は、本発明の前述した態様の主な設計特徴を共有する。
【0047】
図13に示される本発明の電極アレー701の第8の態様は、同じ形状の2つの平らな電極アレーの組み合わせであり、各電極アレーは第7態様の電極アレーに相当し、それらの平らな面が重ねられそして間隔を置いた膠セクション718により結合されている。それらの電極は参照番号702a,702bを有し、そして該電極が埋め込まれて示されるそれらの第2膠セクションは、それぞれ参照番号706a,706bを有する。
【0048】
図14に示される電極アレー801の第9の態様は、電極先端803a,803a’;803b,803b’が第1マトリックス膠805に埋め込まれていない(従って、該膠から該先端は延びる)こと、そして挿入ロッド814が電極アレー全体を通ってその遠位端まで延びていないことを除いて、図6の態様に対応する。その代わりに、挿入ロッド814は、第2マトリックスセクション806電極アレーの平らな近位面内の中央シリンダー状軸方向ポケット内に膠818により取り付けられる。膠818の水性環境内での溶解速度は第2膠マトリックスセクション806の溶解速度よりも実質的に大きい。電極802a,802a’;802b,802b’は、近位方向に電極アレー801の中心軸(図示されていない)に向かって傾斜する先端803a,803a’;803b,803b’を有する。それらの遠位部分は、それらの近位部分が埋め込まれている第2マトリックス膠セクション806の水性媒体中での溶解速度よりも大きい溶解速度を有する第1マトリックス膠セクション805に埋め込まれている。第1膠マトリックスセクションと第2膠マトリックスセクションの間の境界面809は、電極アレー801の円錐遠位部分の近くに配置される。各電極802a,802a’;802b,802b’の近位端に、それぞれ薄い可撓性電気伝導性リード線804a,804a’;804b,804b’が取り付けられ、電極アレー801の近位端から短い距離でリード線804a,804a’;804b,804b’が多数電極リード線808に合わされる。
【0049】
本発明の電極アレー901に含められた従来技術の電極902(図15、15a)は、尖っていない電極先端903から近位方向に延びて尖った点921で終わる鉤状毛920を含む。鉤状毛920は電極902と一体化し、非常に薄い金属線から製造される。鉤状毛920とその先端921(図15、15aにおいて、先の尖ったハッチセクション)を除いて、電極902はポリマーの薄層(図示されていない)により絶縁されている。図15において、曲がった鉤状毛209は、第1膠マトリックス905に埋め込まれることにより、電極902と弾力的に隣接して保たれる。電極の近位部分は、第2膠マトリックス906に埋め込まれた電極の末端近位セクションを含む。第2膠マトリックス906から延びる電極902の短い近位末端部分に、薄いワイヤリード線904が925でハンダ付けされている。ハンダ付け点925から短い距離に、ミクロシグナル増幅器926がリード線904と一体化されている。第1膠マトリックス905が溶解すると、鉤状毛902はもはやその運動が拘束されず、そして図15aに示される物理的に拘束されない屈曲形状をとる。しかしながら、電極902の近位端は第2膠マトリックス906に埋め込まれたままである。
【0050】
本発明の電極アレーの適用
本発明のEAは主として、脳及び/又は脊髄における痛み、てんかん、機能低下、損傷又は退化を有する人の治療;人口器官の制御又は骨格筋の制御を可能にする脳−コンピュータ連絡における接点(インターフェース)として;内分泌腺及び外分泌腺器官機能の制御;及び神経細胞ネットワーク機能、及び神経系の柔軟性、発達及び老化の研究における研究手段として意図されている。
【0051】
本発明の電極アレーの臨床的使用は、例えば発作又は退化性疾病の場合、残った神経細胞からのシグナルを記録して種々の種類の脳又は脊髄の損傷を有する患者を助けるために及び/又は神経細胞を刺激して失った機能を補うために特に役立つ。同様の使用が動物に可能である。例えば、該電極アレーは、鎮痛脳幹センター、例えば中脳水道周囲灰白質物質中の核、の刺激による痛みの緩和に;パーキンソン病における震え、舞踏病的及び他の非自発的動きを、基底核又は関連する核内の刺激により緩和又は低減するために;記憶を、アルウハイマー病又他の変性疾患の場合はコリン作用性及び/又はモノアミン作用性核の刺激により増進するために;気分、攻撃性、鬱病、不安、恐怖症、感情、性過剰活動、インポテンツ、摂食障害を、辺縁系センター又は他の脳領域の刺激により制御するために;発作又は脳/脊髄の損傷後の患者を、大脳皮質中の残存する連結又は下降運動神経路を刺激することにより回復させるために;脊髄損傷後に膀胱及び腸を空にする等の脊髄機能の制御を、脊髄中の関連部分を刺激することにより再構築するために;痙縮を、阻害性棘上下降センター又は適当な小脳領域を刺激することにより制御するために使用できる。DMCEはまた、不眠症を患う患者に睡眠を誘発するために使用できる。
【0052】
本発明の電極アレーは、特定の組織部位を、該組織に電流を通すことにより電解損傷するために使用し得る。適当な強度の電流を使用して電極フィラメントを加熱し、これにより温度を、隣接する細胞を殺傷するレベルに増加させることもできる。かかる場合、電極束を介して与えられる電流の強度は、電極束の前端に隣接する組織容量中の細胞死を達成するのに適するように選ばれる。例えば、電極アレーを使用して、例えば損傷又は変性疾患の後に、異常な活動を発生させた腫瘍又はCNS部位を損傷することができる。
【0053】
組合わさった記録及び刺激の例には、てんかん発作を、てんかん病巣に埋め込まれた電極と、抗てんかん薬及び/又は電気的パルスの投与用システムとの組み合わせによる監視;運動神経系における失われた連結を、中枢運動命令を記録しそして損傷部から遠い運動神経系の実行部を刺激することによる補償;異常電気的活性を生じる部位を、該部位での神経細胞活性を記録することにより選択し、次いで、適当な強度の電流を電極束を介して適当な時間与えることにより該部位の組織を損傷すること、が含まれる。
【0054】
本発明の電極アレーは、コンピュータと神経機能代替との連絡用の接点(インターフェース)としても役立つ。該電極アレーは、末梢神経系に損傷のある患者において、CNSからのコマンドシグナルを記録するのに有用であり得る。これらのシグナルはコンピュータプログラムにより解読され、そして義手又は義足のような神経機能代替を制御し、そしてまた筋肉、及び膀胱及び腸のような器官の刺激を制御するために使用される。
【0055】
更に、本発明の電極アレーは、不十分なホルモン分泌又は調節を有する患者において、内分泌腺又は外分泌腺器官からのホルモンの活性を測定し、そして該ホルモンの分泌を制御するために使用し得る。
【0056】
脳及び脊髄の正常及び異常な機能の研究のための本発明の電極アレーの使用は、例えば一次体性感覚皮質又は辺縁系における痛み関連神経細胞活性の監視を含むことができ、これにより潜在的な鎮痛化合物又は鎮痛治療の効力の評価が可能となる。別の例は、抗てんかん化合物又は治療の効能を試験するために動物におけるてんかん活性の監視である。更なる例には、睡眠を調節する神経細胞センターにおける活性を記録して睡眠障害を研究すること、及び食欲を調節する神経細胞センターを記録して肥満に関する問題を研究することが含まれる。かかる研究において、神経細胞活性を記録しそして同時に妨害されない中枢神経系と相互作用することが必要である。この目的に、本発明の電極アレーをCNSに長期間埋め込む。それはまた、例えば組織内の種々の分子の濃度レベルを測定するビオセンサーのための担体として使用することもできる。
【0057】
本発明の電極アレーは光学ファイバーを備えると、細胞に導入された蛍光プローブからのシグナルを、例えばノック−イン遺伝子(knock−in gene)技術により媒介するために使用することができる。
【0058】
当業者は、ここに開示された本発明の電極アレーの態様及び使用は例示のためだけに与えられたものであることを理解するであろう。彼又は彼女はまた、ここに具体的に記載された以外の種々の態様の特徴の端なる組み合わせもまた本発明に含まれることを理解するであろう。
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳、脊髄、内分泌腺器官、筋肉及び結合組織のような軟質組織に挿入するための、多数の薄いワイア電極を含む医療電極アレー、その製造方法、及び該電極アレーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系(CNS)に長期間埋め込むことができる電極は、広い分野の適用を有する。原則として、全脳及び脊髄組織をかかる電極から記録し又は刺激することができ、そしてそれらの機能を監視しそして制御することができる。脳又は脊髄の刺激は、脳細胞核が退化又は損傷した場合に特に有意義となる。脳活性の監視は、薬物伝達又は電気的刺激のような他の手段に接合されると、有用となり得る。電極はまた、組織の特定位置の損傷にも使用することができる。脳構造を記録しそして刺激するために、種々の形態の埋め込まれた電極が過去に開発されそして使用された。かかる目的に電極アレーの形の多数の電極の使用が望ましい。適当な電極アレー又は束が特許文献1から知られ、これは本願に参照用に含まれる。この及び他の公知の電極アレーに関して、個々の電極の動き及びそれらの軟質組織内での配置の自由度を改良するのが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2007/040442 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一目的は、前記の種類の電極アレーであって、その個々の電極が、該電極を軟質組織に挿入した後に、互いに運動の自由度を得る電極アレーを提供することである。
【0005】
本発明の別の目的は、前記の種類の電極アレーであって、軟質組織の所望の位置に容易に配置することができ、そしてそこに固定することができる電極アレーを提供することである。
【0006】
本発明の更なる目的は、前記の種類の電極アレーであって、長い期間にわたって軟質組織内の選択した位置に保持され、そして電極を埋め込んだ人の身体的運動により容易に移動しない電極アレーを提供することである。
【0007】
本発明の更に別の目的は、製造が容易な、前記の種類の電極アレーを提供することである。
【0008】
本発明の更なる目的は、発明の簡単な記載、図面に例示された多くの好ましい態様、及び特許請求の範囲の検討から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電極アレーは、電気伝導性の薄い可撓性、好ましくは弾性的に可撓性の電極で、生きた組織のような水性の環境内で溶解性及び/又は分解性の固体マトリックスにはめ込まれた多数の該電極を含む。本発明の電極アレーは軟質の生きた組織、特に脳及び脊髄組織、に挿入するだけでなく、例えば肝臓、腎臓又は結合組織に挿入するように意図されている。一旦挿入されると、該電極を保持する該マトリックスは溶解及び/又は分解する。該マトリックスは、該電極アレーを組織に挿入することにより溶解及び/又は分解するまで、該電極を互いに固定した位置に維持する膠(glue)又は接着剤として作用する。これにより該電極アレーは多数の個々の電極に変換し、該個々の電極はもはやマトリックスにより、相互についての動きを拘束されない。他方、組織内の該電極の配置は、少なくともある程度、該電極アレーにおけるそれらの空間的関係を反映するであろう。
【0010】
本発明の電極アレーは、その中心軸に対して一般に対称であるのが好ましい。本発明の長方形の電極アレーは、遠位端と近位端とを有する。本願で、”遠位”とは、該電極を組織に挿入する人から、その近い部分よりも離れた電極アレーの部分を云い、そして該人から離れる動きの方向をも云う。該電極の少なくとも近位部分は、中心軸に平行又はほぼ平行に配置される。本発明の電極アレーはいかなる適当な形態であることができ、例えば、中心軸に対して横断する断面が円形、楕円形又は実質的に平らな形状であることができる。中心軸は一般に電極アレーの組織への挿入軸と一致する。電極アレーの全て又はいくつかの電極の遠位末端部分(前端部分)は、平行に又は複数の該電極の少なくともいくつかは中心軸から扇形に広がるような構造に配置されるか、又は該電極アレーを組織内に遠位方向に移動することによって、該電極を封入したマトリックス部分が溶解及び/又は分解すると作動する、扇形に広げる手段を含む。
【0011】
本発明の複数の電極は、好ましくは、それらの近位端及び遠位端から延びる部分以外は絶縁されている。該電極の絶縁されていない遠位端又は先端は、いかなる適当な形状であってもよい。適当な形状、特に鉤状毛のある先端はWO2007/040442に開示されている。その近位端において、各電極は電子的設備と、好ましくは多重リード可撓性ケーブルを介して、電気的に伝導性に接触している。これにより、個々の電極は別個に又はグループとなってアドレスすることが可能となる。
【0012】
本発明の電極は、記録及び/又は神経刺激の目的に使用できる。記録の目的に使用された場合、本発明の電極は小型化されたプレアンプリファイアー(予備増幅器)を備えて、シグナル対ノイズ比を改良することができ、ここで該プレアンプリファイアーは主アンプリファイアーにワイアで接続されている。
【0013】
本発明の電極は好ましくは固定(アンカー)手段、例えば鉤状毛(barb)、粗い表面部分又は周囲の組織に対して接着性を有する表面部分、を備える。該鉤状毛は、絶縁されていない場合、電極先端として機能するのが好ましい。本発明の複数の電極は、いろいろな長さでありそして電極アレー中にその中心軸の周りに、最も長い電極を該軸から短い距離に、最も短い電極を該軸から長い距離に、そして中間の長さの電極を該軸から中間の距離に配置して、それらの遠位先端が電極アレー先端を規定し、一方それらの近位端が好ましくは該軸を横断する面内に配置されるようにするのも好ましい。しかしながら、複数の電極を一方向に傾斜した電極アレー先端、或いは対称的でない電極アレー先端を形成するように配置するのも本発明の範囲内である。
【0014】
本発明の好ましい側面によると、電極アレーは1つ又はそれ以上の光学ファイバーを含んで、組織又はその成分の放射線刺激に備え、そして/又は周囲の組織から発散される放射線を記録するのに備える。電極のそれに対応するように、該1つ又はそれ以上のファイバーは該アレーの選択した位置にマトリックスにより保持される。
【0015】
別の好ましい態様によると、電極アレーは、電流を通した時に形状を変える、例えば屈曲する、1つ又はそれ以上の収縮性バイメタル要素を含む。或いは、該電極アレーに含まれる1つ又はそれ以上の収縮性ポリマー要素を使用して、その挿入経路を制御することができる。
【0016】
本発明の第3の好ましい側面によると、電極アレーは、遠位端から延びる遠位末端部分と、該遠位末端部分から近位方向に延びる主部分とを含む。該遠位末端部分は遠位方向に先細になって、例えば円錐形又は平らな三角形の末端遠位部分を形成するのが好ましい。いくつかの適用に、末端遠位部分は先が尖っていない形状を有して、電極アレーの挿入時に血管破裂の危険を最小にすることができる。
【0017】
本発明の第4の好ましい側面によると、上記マトリックスは、軟質組織内での溶解及び/又は分解速度が異なる2つ又はそれ以上のセクション、特に、末端遠位部分により構成される第1セクションと、電極アレーの主部分で構成され、そしてその近位端の方向に場合によっては近位端まで延び、該近位端をマトリックス中に埋め込む第2セクションとを含む。場合によっては、電極先端を含む短い長さの遠位電極部分は、該第1マトリックスセクションから遠くに又は斜め遠位方向に延びることができる。該第1マトリックスセクションの溶解速度は第2マトリックスセクションの溶解及び/又は分解速度よりも高いのが好ましいが、該第1及び第2マトリックスセクションの他の溶解/分解速度関係もまた、本発明に含まれる。電極アレーを脳の軟質組織のような標的組織に挿入すると、第1及び第2マトリックス部分は体液と接触するようになり、そして引き続きこの接触により溶解及び/又は分解し、ここで第1部分の溶解及び/又は分解速度は、第2部分の溶解及び/又は分解速度よりも実質的に大きい。マトリックスセクションは、溶解/分解向上手段、例えば体液により膨張することができるチャンネル、を含むのが好ましい。従って、マトリックスセクションは多孔性構造を有するのが好ましい。2つ又は3つの軸方向に結合しているマトリックスセクション、特に2つのマトリックスセクション、を含む電極が好ましい。マトリックスセクションは炭水化物及び/又はタンパク質を含む又は炭水化物及び/又はタンパク質から成るのが好ましい。
【0018】
電極アレーを軟質組織に挿入するために、手動式又は他の小型操縦具が該電極アレーの近位端部分に取り付けるか又は取り付け可能であり、該操縦具は該電極アレーから近位方向に延びる。
【0019】
電極アレーの電極とマトリックスの組み合わせの相対的硬さにより、組織への該アレーの挿入が容易になる。一旦挿入すると、第1の遠位マトリックスセクションは迅速に溶解する。これにより、電極の遠位末端部分は、近接する電極に対して横方向に移動可能となる。電極アレーを組織に更に挿入すると、扇形に広がる手段を含む電極の遠位部分は、該電極アレーの軸から一般に離れる方向に拡がるように屈曲する。第2マトリックス部分の溶解及び/又は分解は電極の近位部分を自由にするので、近接する電極に対して横方向及び/又は軸方向の移動が可能となり、そして組織内で浮いた配置をとるようになる。これにより、組織内のその位置は安定化され、そしてそうでなければ他の電極とのその結合した運動により起こるであろう組織の反応/損傷が防止される。
【0020】
本発明の第5の好ましい側面によると、電極アレーは、その近位端に取り付けられそしてその端から近位方向に延びる、小型操縦具から成る接触要素のような挿入要素を含む。該挿入手段は電極に、水性環境で溶解可能な接着剤により取り付けられるのが好ましい。該接着剤は体液中で、第2マトリックス部分の材料よりも実質的に迅速に溶解するのが好ましい。これにより、電極アレーは、組織に挿入すると、選択した時点で小型操縦具から自動的に分離され、該小型操縦具を引き抜くのを可能にする。
【0021】
本発明の第6の好ましい側面によると、平行に配置された2つ又はそれ以上の電極アレーは、それらの整合する表面の間に配置された溶解性結合層(単層又は複数層)により結合することができる。
【0022】
本発明の第7の好ましい側面によると、本発明の電極アレー中の1つ又はそれ以上の電極は、互いに固定した関係に一時的に又は恒久的に保持された電極群、即ち、互いに固定した関係に保持された電極群で置き換えることができ、それらを固定した関係に保持する手段は、本発明の1つ又はそれ以上のマトリックスを含むか又は該マトリックスから成るか、或いはそれらとは独立したものであり得る。1つ又はそれ以上のマトリックスから独立したものである場合は、該手段は水性媒体中で溶解及び/又は崩壊する手段、又は恒久的な手段、例えばWO2007/040442の電極束を固定した関係に保持する手段、であることができる。同様に、本発明の電極アレー中の1つ又はそれ以上の電極は、WO2007/040442の電極束で置き換えることができる。
【0023】
本発明の電極アレーは、長期間持続する刺激、電気的神経活性及びレドックス反応の測定による伝達物質のレベルの多重チャンネル記録、及び科学的、医学的及び動物ケアの目的での組織の正確な損傷に適する。
【0024】
本発明のマトリックス部分に適した材料は、生物適合性のもので、例えば炭水化物及び/又はタンパク性の材料である。第1マトリックスセクション用に選択される材料は、約37℃の温度の体液中で、1〜3分以内のような短時間で電極の遠位部分を自由にする、即ち自由に浮遊させるような溶解速度を有するのが好ましい。第2マトリックスセクション用に選択される材料は、約37℃の温度の体液中で、少なくとも5分、更に好ましくは少なくとも10分、多くの場合、同じ電極の遠位端部分が第1マトリックスセクションによる拘束が解かれるのに要する時間よりも1〜20分又はそれ以上長い時間、電極の主要部分が分離しないようにさせるような溶解又は分解速度を有する材料であるのが好ましい。
【0025】
本発明により、電極アレーの製造法も開示され、該方法は、複数の電極を、該電極アレーの遠位端部分の輪郭と主要部分を有しそして近位開口を含む封入体又はさやに平行に配置し、引き続き第1及び第2マトリックス材料の材料溶液又は懸濁液を該さや内の該電極に塗布し、該さや内の該溶液又は懸濁液から溶媒を蒸発させ、そして該さやを該電極アレーから取り除くことによる。該さやは該電極アレーから容易に取り除くことができる材料から作られるのが好ましい。該さやとして好ましい材料は、低い湿潤性の滑らかな材料、例えばポリフッ素化炭化水素ポリマー又はシリコンゴムである。該さや材料はまた、溶媒の蒸発を容易にするために多孔性、特に微孔性であるのも好ましい。
【0026】
本発明はまた、長期間持続する刺激、電気的神経活性及びレドックス反応の測定による伝達物質のレベルの多重チャンネル記録、及び科学的、医学的及び動物ケアの目的での組織の損傷への、該電極アレーの使用に関する。
本発明を、大きさを表すのではない多くの図面を含む概略図面に示された多くの好ましい態様により、更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】マトリックス中に埋め込まれた多数の電極を含む本発明の電極アレーの第1の態様の断面図である。
【図2】軟質組織に挿入直後の、図1の態様の断面図である。
【図3】軟質組織に第1マトリックスセクションが溶解するのに十分な時間挿入した、図1の態様の断面図である。
【図4】軟質組織に第2マトリックスセクションが溶解するのに十分な時間挿入した、図1の態様の断面図である。
【図5】本発明の電極アレーの第2の態様の、図1の態様と同じ図面である。
【図6】挿入案内要素を含む本発明の電極アレーの第3の態様の、図1の態様と同じ図面である(断面C−C,図9)。
【図7】軟質組織に第1マトリックスセクションが溶解するのに十分な時間挿入した、図6の態様の断面図である。
【図8】本発明の電極アレーの第4の態様の、図1の態様と同じ図面である。
【図9】図6の態様のB−B横断面図である。
【図10】本発明の第5の態様の、図9の横断面図に対応する横断面図である。
【図11】本発明の第6の態様の、図9の横断面図に対応する横断面図である。
【図12】本発明の第7の態様の、図9の横断面図に対応する横断面図である。
【図13】本発明の第8の態様の、図9の横断面図に対応する横断面図である。
【図14】本発明の第9の態様の、図6の横断面図に対応する横断面図である。
【図15】本発明の電極アレーに含められた従来技術の電極(WO2007/040442)の、部分軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
材料及び寸法
電極材料及び寸法
電極は10−4〜10−7m、特に0.5〜25μmの適当な直径を有する。それらの直径は、それらの長さにわたって変化して、組織への挿入を容易にしてもよく、特に電極はそれらの遠位端に向かって先細になっていることができる。それらの遠位端は鋭くても鈍くてもよいが、鋭い先端が好ましい。それらの遠位部は10−7よりも小さい直径を持ち得る。電極は金属又はポリマー種の電気伝導性芯、特に貴金属の芯、例えば白金又は金又は貴金属を30重量%より多く含む合金の芯と、例えばポリフルオロアルケン、ラッカー、又はガラスのような、非伝導性コートとを含む。電極芯に、ステンレス鋼、チタン、及びタングステンもまた有利に使用できる。電極はまた、非伝導性支持材料、例えばガラス、セラミック、天然若しくはポリマーファイバーであって、金属、特に貴金属又は貴金属合金、のような電気伝導性材料で被覆した、又は管状形体の(tubiform)支持材料の場合は、金属、特に貴金属又は貴金属合金、のような電気伝導性材料を充填した該非伝導性支持材料で作ることができる。有用な他の非伝導性支持材料の例は、シルクのようなタンパク質繊維、又は炭素ナノチューブを含む繊維のような炭素繊維であり、それらは伝導性電極材料としても使用し得る。電気伝導性材料は支持材料上に、慣用のスパッターイング又は蒸着技術により沈着させることができる。
【0029】
電極の表面は、滑らかでも平らでなくともよい。先端に近くで平らでない又はでこぼこの表面が、該先端の固定性を改良するために好ましい。しかしながら、電極の他のセクションにも平らでない表面を与えてもよい。電極アレーの固定性を更に改良するために、電極はまた、それらが近位方向へ引き抜かれるのを停止する可撓性鉤状毛を備えてもよい。該鉤状毛が電気伝導性材料で作られた場合は、それらは電極先端としても機能し、そのような場合、絶縁しなくともよい。
【0030】
マトリックス材料
電極のいろいろな部分は2種又はそれ以上の生体適合性マトリックス材料を埋め込まれる;即ち、膠1として以下に参照される一つの短い持続性材料、及び膠2として以下に参照される他の長い持続性材料に埋め込まれる。適した膠材料には、炭水化物及び/又はタンパク性材料が含まれる。電極の遠位端部分を埋め込むのに使用される膠1は、血漿又は間質液のような体液中で37℃の温度で、その中に埋め込まれた電極が近接する電極に対する移動について短時間内、特に0.5〜3分以内に拘束しなくするような溶解速度を有する。膠2は、血漿又は間質液のような体液中で37℃の温度で、その中に埋め込まれた電極が近接する電極に対して移動するのを1〜10分又はそれ以上の時間以内で拘束されなくするような溶解速度、しかし多くの場合、遠位端部分が(横方向)移動を拘束されなくなるのに必要な時間よりも長い時間、電極が近接する電極に対して移動するのを拘束されなくするような溶解速度を有する。膠1については20分までのより長い溶解時間、そして膠2についてはそれに対応してより長い溶解時間を、遅い挿入手順、例えば対応する電極アレーを非常に深い組織に挿入する手順、において使用し得る。
【0031】
膠1に適した材料には、二糖類、例えば水中で10−30分又はそれ以上煮沸して1−3分の溶解時間を持つようにしたスクロース、が含まれる。より長い時間の煮沸はより長い溶解時間をもつ膠を生成する。膠1に使用できる他の膠には、40−50℃の水中に溶解しそして次に乾燥したゼラチンが含まれる。
【0032】
膠2として使用するのに適した材料は、スクロース、ラクトース、マンノース、マルトースから選ばれる糖類又は糖類混合物、及びクエン酸、リンゴ酸、リン酸及び酒石酸から選ばれる有機酸を含む水溶液の繰り返し煮沸及び冷却により得ることができる。かかる膠は、13〜60分の範囲の溶解時間を有する(参照用に本願に含めるErhan外、2003年、米国特許第6,613,378号)。
【0033】
糖類と有機酸との種々の組合せは種々の溶解時間を与える。従って、膠1及び膠2として溶解時間が異なる種々の組合せを使用することも可能である。例えば、クエン酸とマンノースとの組合せは13分の溶解時間となることができ、一方、スクロースと組合せたクエン酸は約30分の溶解時間となることができる(US6,613,378B1)。従って、これらの二つの組合せは、それぞれ膠1及び膠2として使用できる。
【0034】
ゼラチンもまた膠1及び膠2の両方に使用し得る。異なる種類のゼラチンは異なる溶解時間を有することが良く知られている。従って、膠1及び膠2に2つの異なる種類のゼラチンの適当な組合せを選ぶことにより、電極アレーの遠位マトリックス部分(膠1)に、電極アレーの近位マトリックス部分(膠2)の溶解時間よりも速い溶解時間を達成することが可能である。遠位マトリックス部分に糖類を基材とした膠を、そして近位マトリックス部分にゼラチン基材膠を使用すること、又はその逆の使用も可能である。
【0035】
場合によっては、実質的に長い溶解時間を有する膠、例えば変性コラーゲン、セルロース誘導体、変性澱粉又はその他の生体適合性材料、例えばVICRYL(商標)、を、長い挿入手順を有する適用に、膠1及び膠2として使用することもできる。例えば、電極アレーの進路ライン(トラックライン)が、例えばX−線画像形成により挿入中に繰り返し評価される場合、及び/又は該進路ラインが、該電極アレーに含まれる収縮性フィラメントを通る電流の流れにより変更される場合、挿入手順の完了時間は相対的により長い時間となり得る。
【0036】
電極アレーが皮膚若しくは粘膜の真下、又は脳若しくは脊髄の表面の近く又は他の組織の近くに位置する組織、例えば2mm未満の深さの組織、に挿入する場合は、1種の膠、特に膠1、の使用で十分であろう。何故なら、広げられた電極アレーの遠位部分のみが組織内にあるであろうからである。この場合、電極アレーの近位部分の電極間に置かれた膠2は、乾燥状態を保持するために溶解しないであろう。
【0037】
場合によっては、膠2は、電極アレーの中心及び/又は近位部分に配置された電極部分を保持するのに使用でき、他方、膠1は、電極アレーの遠位端と膠2により保持されたセクションとの間に配置された電極部分を保持するのに使用される。水性媒体と接触すると膨潤することができ、更に膠としても作用することができる剤、例えばゼラチン、を中心に軸方向に配置すると、体液との接触により電極アレーの長手軸から離れるように電極を動かす/広げるための別の手段を与える。
【0038】
場合によっては、電極アレーを潤滑剤で覆って、電極アレーの組織への挿入中の摩擦を減少させることができる。潤滑剤はまた、体液が膠に接近するのを遅くし、これによりその溶解/分解を遅くすることもできる。
【実施例】
【0039】
好ましい態様
図1の本発明の電極アレーの第1態様は、中心軸Aの周りに平行に配置されたいろいろな長さの多くの薄い金電極2,2’,2”を含む。電極2,2’,2”の近位端は軸Aを横断する面に配置され、それらの遠位端は、それらのいろいろな長さを考慮した適当な配列により、円錐を形成するように配置される。それらの円錐形先端3,3’,3”から近位方向に延びる電極2,2’,2”の遠位部分は第1膠マトリックス5中に埋め込まれ、該マトリックス5は第2膠マトリックス6と接する。マトリックス5,6の境界面9は軸Aを横断する面に配置される。遠位円錐の先端7は第1膠マトリックス5を含む。各電極2,2’,2”はその近位端で、それぞれ薄い可撓性の電気伝導性リード線4,4’,4”に接合される。電極アレーから短距離にリード線4,4’,4”は多数の電極リード線8に束ねられ、該リード線8は電子装置(図示されていない)に接合されて、電極2,4’,2”を通して電気刺激を与えそして/又は電極2,2’,2”により感知された電気シグナルを記録する。それらの遠位先端3,3’,3”から延びる短距離以外は、電極2,2’,2”及びそれらのそれぞれのリード線4,4’,4”は、ポリマーラッカーの薄層により絶縁されている(図示されていない)。水又は体液のような水性溶媒と接触すると、第1膠マトリックス5は第2膠マトリックス6よりも実質的に速く溶解する。図2において、電極アレー1は軟質組織10に、リード線4,4’,4”及び多数の電極リード線8のみが組織10から延びるような深さまで挿入されているように示されており、該組織の表面は参照番号11で示されている。図2での電極アレー1の状態は挿入したばかりの状態である。約1分のような短時間の後、図3に示す電極アレー1の状態に達する。第1膠5は組織10の水性間質液中に溶解した。電極2,2’等の遠位端部分は横方向運動、特に先端3,3’での運動が今や拘束されない。しかし電極2,2’等の近位部分は第2膠マトリックス6にまだ埋め込まれており、該マトリックスは非常にゆっくり溶解するので、半径方向に最も外側に配置された電極3でさえも、第1膠マトリックス5が完全に溶解するまで第2膠マトリックス6に埋め込まれたままである。第2膠マトリックス6の溶解には少なくとも10分費やし、その終わりに図4に示す状態に達する。該状態では、各電極2,2’は、組織10内をそれぞれ隣り合う電極2’,2に妨害されずに軸方向又は横方向の運動が可能である。
【0040】
図5に示された本発明の電極アレー101の第2の態様は図1の態様と、2種の電極、即ち、円錐形遠位端103を有する中央に配置された電極102と、その周りの、いろいろな長さの側方電極102a,102a’;102b,102b’であって、半径方向に傾斜した遠位端が対称的に配置された該側方電極とを含む点で異なる。該側方電極の近位端で、各電極102、102a,102a’;102b,102b’はそれぞれ、薄い可撓性電気伝導性リード線104;104a,104a’;104b,104b’に連結し、該リード線は電極アレー101の近位端から短距離で、第1態様の多数電極リード線8と同じ機能を有する多数電極リード線108に合わされる。再び、電極102;102a,102a’;102b,102b’の遠位部分は、第2マトリックス膠106との円錐形境界面109まで延びる第1マトリックス膠105に埋め込まれており、第2マトリックス膠106は近位端まで延びる。第1及び第2マトリックス膠105,106は、第1態様の膠5,6と同じ種類のものである。第1態様と対照的に、電極アレー101の遠位円錐の遠位先端103は電極の先端、即ち中央電極102の先端、で形成される。傾斜した先端103a,103a’;103b,103b’の機能を以下に、本発明の電極アレーの第3の態様に関連して説明する。
【0041】
図6及び図9に示された本発明の電極アレー201の第3の態様は、図5の態様と、中央電極103が、円錐形遠位先端213で終わる挿入ロッド214に交換されている点で異なる。挿入ロッド213は電極アレー201の近位端から、軟質組織に挿入中に電極アレー201を手で操作するのに適した長さで延びる。いろいろな長さの電極202a,202a’;202b,202b’は、それらの遠位端で半径方向に傾斜した先端203a,203a’;203b,203b’を有し、挿入ロッド214の周りに対称的に配置されている。各電極202a,202a’;202b,202b’は近位端で、それぞれ薄い可撓性電気伝導性リード線204a,204a’;204b,204b’に連結され、該リード線は電極アレー201の近位端から短距離で、第1態様のケーブル8と同じ機能を有する多数電極リード線208に合わされる。再び、電極202a,202a’;202b,202b’の遠位部分は第1マトリックス膠205に埋め込まれており、該第1マトリックス膠205は近位端まで延びる第2マトリックス膠206との境界面209まで延びる。第1及び第2マトリックス膠205,206は、第1態様の膠5,6と同じ種類のものである。電極アレー201の遠位円錐は挿入ロッド214の先端213により形成される。傾斜した先端203a,203a’;203b,203b’の機能は図7から明らかであり、ここでは、電極アレー201の第1マトリックス膠は溶解し、一方、第2マトリックス膠は未だ、電極202a,202a’;202b,202b’の近位部分を埋め込まれたままに保持する。それぞれ傾斜した先端203a,203a’;203b,203b’を含む電極202a,202a’;202b,202b’の遠位端部分は今やもはや横方向運動が拘束されない。電極アレー201を更に軟質組織(図7に示されていない)の中に矢印Sで示される方向に押すと、傾斜した先端203a,203a’;203b,203b’を外方向に、即ち中央挿入ロッド214から離れる方向に、点線矢印Pa,Pa’及びPb,Pb’で示されるようにそらすであろう。このように、傾斜した電極先端203a,203a’;203b,203b’はそれぞれの電極202a,202a’;202b,202b’に拡げ手段を与え、そして電極アレー201に固定手段を与える。前のように、各電極202a,202a’;202b,202b’はそれぞれ薄い電気伝導性リード線204a,204a’;204b,204b’に連結され、該リード線は多数電極リード線208に合わされる。
【0042】
図8に示された本発明の電極アレー301の第4の態様は、図1の態様と、いろいろな長さであり且つ円錐先端303a,303a’;302b,302b’を有する電極302a,302a’;302b,102b’が、電極アレー303の中心軸Mから半径方向に離れるように屈曲した遠位末端セクション316a,316a’;316b,316b’を有する点で異なる。各電極302a,302a’;302b,302b’はその近位端で、それぞれ薄い可撓性電気伝導性リード線304a,304a’;304b,304b’に連結され、該リード線は電極アレー301の近位端から短距離で、第1態様のケーブル8と同じ機能を有する多数電極リード線308に合わされる。再び、電極302a,302a’;302b,302b’の遠位部分は第1マトリックス膠セクション305に埋め込まれている。電極302a,302a’;302b,302b’の近位端から延びる部分は、第2マトリックス膠セクション306に埋め込まれているが、該セクションは第1マトリックス膠セクション305まで延びていない。その代わりに、第3マトリックス膠セクション315が膠セクション305と306の間に配置される。第3マトリックスセクション315の溶解性は第2マトリックスセクション306の溶解性と似ているが、更に第3マトリックスセクション315は溶解前に膨潤し、それにより電極302a,302a’;302b,302b’の遠位部分316a,316a’;316b,316b’を更に半径方向に外側に押す。第1及び第2マトリックス膠305,306は第1態様の膠5,6と同じ種類のものである。電極アレー301の遠位円錐体は、第1マトリックス部分305からなる丸い先端313を有する。電極302a,302a’;302b,302b’の遠位端セクションの屈曲形状は、第1膠マトリックス306が溶解しそして電極アレー301を矢印Tで示される近位方向に押すとそれらが経路Qa,Qa’及びQb,Qb’に添って拡がるのを制御する。再び、各電極302a,302a’;302b,302b’はそれぞれ薄い電気伝導性リード線304a,304a’;304b,304b’に連結され、該リード線は多数電極リード線308に合わされる。
【0043】
他の好ましい態様の横断面図は図10〜13に示される。
【0044】
図10に示される本発明の電極アレー401の第5の態様は、横断面図が楕円である。多数の薄い可撓性電極402が中央光学ファイバー417の周りに配置され、これにより照射が目的の組織部位に行うことができる。場合により、該組織から反射される放射線をIR−機器(図示されていない)のような放射線記録機器に提示する(adduced)ことができる。電極402は第1及び第2 406膠マトリックスセクションに埋め込まれる。更に、電極アレー401は、本発明の前述した態様の主な設計特徴を共有する。
【0045】
図11に示される本発明の電極アレー501の第6の態様は、平らな設計であり、そして軸方向断面が図1の態様と類似する。該電極アレーは中央挿入ロッド514を含み、該ロッドから、第1及び第2 506膠マトリックスに埋め込まれた複数の薄い可撓性電極502を含む翼が延びる。更に、電極アレー501は、本発明の前述した態様の主な設計特徴を共有する。
【0046】
図12に示される本発明の電極アレー601の第7の態様は、本発明の第5の態様と類似する設計である。しかし該電極アレーは中央挿入ロッドを欠く。それは第1及び第2 606膠マトリックスに埋め込まれた複数の薄い可撓性電極602を含む。更に、電極アレー601は、本発明の前述した態様の主な設計特徴を共有する。
【0047】
図13に示される本発明の電極アレー701の第8の態様は、同じ形状の2つの平らな電極アレーの組み合わせであり、各電極アレーは第7態様の電極アレーに相当し、それらの平らな面が重ねられそして間隔を置いた膠セクション718により結合されている。それらの電極は参照番号702a,702bを有し、そして該電極が埋め込まれて示されるそれらの第2膠セクションは、それぞれ参照番号706a,706bを有する。
【0048】
図14に示される電極アレー801の第9の態様は、電極先端803a,803a’;803b,803b’が第1マトリックス膠805に埋め込まれていない(従って、該膠から該先端は延びる)こと、そして挿入ロッド814が電極アレー全体を通ってその遠位端まで延びていないことを除いて、図6の態様に対応する。その代わりに、挿入ロッド814は、第2マトリックスセクション806電極アレーの平らな近位面内の中央シリンダー状軸方向ポケット内に膠818により取り付けられる。膠818の水性環境内での溶解速度は第2膠マトリックスセクション806の溶解速度よりも実質的に大きい。電極802a,802a’;802b,802b’は、近位方向に電極アレー801の中心軸(図示されていない)に向かって傾斜する先端803a,803a’;803b,803b’を有する。それらの遠位部分は、それらの近位部分が埋め込まれている第2マトリックス膠セクション806の水性媒体中での溶解速度よりも大きい溶解速度を有する第1マトリックス膠セクション805に埋め込まれている。第1膠マトリックスセクションと第2膠マトリックスセクションの間の境界面809は、電極アレー801の円錐遠位部分の近くに配置される。各電極802a,802a’;802b,802b’の近位端に、それぞれ薄い可撓性電気伝導性リード線804a,804a’;804b,804b’が取り付けられ、電極アレー801の近位端から短い距離でリード線804a,804a’;804b,804b’が多数電極リード線808に合わされる。
【0049】
本発明の電極アレー901に含められた従来技術の電極902(図15、15a)は、尖っていない電極先端903から近位方向に延びて尖った点921で終わる鉤状毛920を含む。鉤状毛920は電極902と一体化し、非常に薄い金属線から製造される。鉤状毛920とその先端921(図15、15aにおいて、先の尖ったハッチセクション)を除いて、電極902はポリマーの薄層(図示されていない)により絶縁されている。図15において、曲がった鉤状毛209は、第1膠マトリックス905に埋め込まれることにより、電極902と弾力的に隣接して保たれる。電極の近位部分は、第2膠マトリックス906に埋め込まれた電極の末端近位セクションを含む。第2膠マトリックス906から延びる電極902の短い近位末端部分に、薄いワイヤリード線904が925でハンダ付けされている。ハンダ付け点925から短い距離に、ミクロシグナル増幅器926がリード線904と一体化されている。第1膠マトリックス905が溶解すると、鉤状毛902はもはやその運動が拘束されず、そして図15aに示される物理的に拘束されない屈曲形状をとる。しかしながら、電極902の近位端は第2膠マトリックス906に埋め込まれたままである。
【0050】
本発明の電極アレーの適用
本発明のEAは主として、脳及び/又は脊髄における痛み、てんかん、機能低下、損傷又は退化を有する人の治療;人口器官の制御又は骨格筋の制御を可能にする脳−コンピュータ連絡における接点(インターフェース)として;内分泌腺及び外分泌腺器官機能の制御;及び神経細胞ネットワーク機能、及び神経系の柔軟性、発達及び老化の研究における研究手段として意図されている。
【0051】
本発明の電極アレーの臨床的使用は、例えば発作又は退化性疾病の場合、残った神経細胞からのシグナルを記録して種々の種類の脳又は脊髄の損傷を有する患者を助けるために及び/又は神経細胞を刺激して失った機能を補うために特に役立つ。同様の使用が動物に可能である。例えば、該電極アレーは、鎮痛脳幹センター、例えば中脳水道周囲灰白質物質中の核、の刺激による痛みの緩和に;パーキンソン病における震え、舞踏病的及び他の非自発的動きを、基底核又は関連する核内の刺激により緩和又は低減するために;記憶を、アルウハイマー病又他の変性疾患の場合はコリン作用性及び/又はモノアミン作用性核の刺激により増進するために;気分、攻撃性、鬱病、不安、恐怖症、感情、性過剰活動、インポテンツ、摂食障害を、辺縁系センター又は他の脳領域の刺激により制御するために;発作又は脳/脊髄の損傷後の患者を、大脳皮質中の残存する連結又は下降運動神経路を刺激することにより回復させるために;脊髄損傷後に膀胱及び腸を空にする等の脊髄機能の制御を、脊髄中の関連部分を刺激することにより再構築するために;痙縮を、阻害性棘上下降センター又は適当な小脳領域を刺激することにより制御するために使用できる。DMCEはまた、不眠症を患う患者に睡眠を誘発するために使用できる。
【0052】
本発明の電極アレーは、特定の組織部位を、該組織に電流を通すことにより電解損傷するために使用し得る。適当な強度の電流を使用して電極フィラメントを加熱し、これにより温度を、隣接する細胞を殺傷するレベルに増加させることもできる。かかる場合、電極束を介して与えられる電流の強度は、電極束の前端に隣接する組織容量中の細胞死を達成するのに適するように選ばれる。例えば、電極アレーを使用して、例えば損傷又は変性疾患の後に、異常な活動を発生させた腫瘍又はCNS部位を損傷することができる。
【0053】
組合わさった記録及び刺激の例には、てんかん発作を、てんかん病巣に埋め込まれた電極と、抗てんかん薬及び/又は電気的パルスの投与用システムとの組み合わせによる監視;運動神経系における失われた連結を、中枢運動命令を記録しそして損傷部から遠い運動神経系の実行部を刺激することによる補償;異常電気的活性を生じる部位を、該部位での神経細胞活性を記録することにより選択し、次いで、適当な強度の電流を電極束を介して適当な時間与えることにより該部位の組織を損傷すること、が含まれる。
【0054】
本発明の電極アレーは、コンピュータと神経機能代替との連絡用の接点(インターフェース)としても役立つ。該電極アレーは、末梢神経系に損傷のある患者において、CNSからのコマンドシグナルを記録するのに有用であり得る。これらのシグナルはコンピュータプログラムにより解読され、そして義手又は義足のような神経機能代替を制御し、そしてまた筋肉、及び膀胱及び腸のような器官の刺激を制御するために使用される。
【0055】
更に、本発明の電極アレーは、不十分なホルモン分泌又は調節を有する患者において、内分泌腺又は外分泌腺器官からのホルモンの活性を測定し、そして該ホルモンの分泌を制御するために使用し得る。
【0056】
脳及び脊髄の正常及び異常な機能の研究のための本発明の電極アレーの使用は、例えば一次体性感覚皮質又は辺縁系における痛み関連神経細胞活性の監視を含むことができ、これにより潜在的な鎮痛化合物又は鎮痛治療の効力の評価が可能となる。別の例は、抗てんかん化合物又は治療の効能を試験するために動物におけるてんかん活性の監視である。更なる例には、睡眠を調節する神経細胞センターにおける活性を記録して睡眠障害を研究すること、及び食欲を調節する神経細胞センターを記録して肥満に関する問題を研究することが含まれる。かかる研究において、神経細胞活性を記録しそして同時に妨害されない中枢神経系と相互作用することが必要である。この目的に、本発明の電極アレーをCNSに長期間埋め込む。それはまた、例えば組織内の種々の分子の濃度レベルを測定するビオセンサーのための担体として使用することもできる。
【0057】
本発明の電極アレーは光学ファイバーを備えると、細胞に導入された蛍光プローブからのシグナルを、例えばノック−イン遺伝子(knock−in gene)技術により媒介するために使用することができる。
【0058】
当業者は、ここに開示された本発明の電極アレーの態様及び使用は例示のためだけに与えられたものであることを理解するであろう。彼又は彼女はまた、ここに具体的に記載された以外の種々の態様の特徴の端なる組み合わせもまた本発明に含まれることを理解するであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人を含む動物の軟質組織に挿入するための電極アレーであって、各々が遠位先端と近位端とを有する多数の薄い可撓性電極を含み、ここで近位端から延びる複数の該電極の少なくとも部分は平行に配置され、複数の該電極は体液のような水性溶媒に溶解性のマトリックスに埋め込まれており、該マトリックスは、該電極の遠位部分、特に該電極の遠位先端、から近位方向に延びる複数の該電極の部分を封入する第1セクションと、該第1セクションから該電極の近位端に向かって延びる複数の該電極の部分を封入する第2セクションとを含む、溶解速度が異なる2つ又はそれ以上のセクションを含む、上記電極アレー。
【請求項2】
上記第1マトリックス部分の溶解速度が上記第2マトリックス部分の溶解速度よりも大きい、請求項1の電極アレー。
【請求項3】
可撓性リード線が取り付けられて各電極の遠位端に電気伝導する、請求項1又は2の電極アレー。
【請求項4】
各電極がその遠位端以外は電気的に絶縁される、請求項1〜3のいずれか1項の電極アレー。
【請求項5】
複数の上記電極が異なる長さである、請求項1〜4のいずれか1項の電極アレー。
【請求項6】
上記複数の電極が軸の周りに、それらの遠位端が該軸を横断する面内にあるように、そしてそれらの長さが該軸に向かって増加するように配置される、請求項5の電極アレー。
【請求項7】
複数の上記電極の遠位部分が、円錐体又は円錐体の対称的軸セクション又は類似の形状を規定する、請求項6の電極アレー。
【請求項8】
複数の上記電極の遠位部分が拡げ手段を含む、請求項1〜7のいずれか1項の電極アレー。
【請求項9】
複数の上記電極の遠位先端が上記電極軸に向かって近位方向に一方方向に傾斜している、請求項8の電極アレー。
【請求項10】
上記遠位先端から延びる電極セクションが中心軸から離れるように屈曲している、請求項8の電極アレー。
【請求項11】
上記遠位先端から延びる電極セクションが上記第1マトリックスセクション内に弾性的に拘束されるように配置されて、該第1マトリックスセクションが溶解すると該電極セクションが上記中心軸から離れるように屈曲できる、請求項8の電極アレー。
【請求項12】
上記第1マトリックス部分の溶解速度が、上記第2マトリックスセクションが溶解する前に、第1マトリックス部分に埋め込まれた電極が埋め込みを失うに充分な程度に体液中に実質的に溶解するのに充分である、請求項1〜11のいずれか1項の電極アレー。
【請求項13】
電極間に配置された、水性溶媒中で膨潤可能な剤を含む、請求項1〜12のいずれか1項の電極アレー。
【請求項14】
1種又はそれ以上の光学ファイバーを含む、請求項1〜13のいずれか1項の電極アレー。
【請求項15】
挿入経路を制御するために、電流を通した時に形状を変える、例えば屈曲する、収縮性のバイメタル要素を1種又はそれ以上含む、請求項1〜14のいずれか1項の電極アレー。
【請求項16】
挿入経路を制御するために、収縮性のポリマー要素を1種又はそれ以上含む、請求項1〜14のいずれか1項の電極アレー。
【請求項17】
上記電極が、その近位端の近くに配置された小型増幅器に接続される、請求項1〜14のいずれか1項の電極アレー。
【請求項1】
人を含む動物の軟質組織に挿入するための電極アレーであって、各々が遠位先端と近位端とを有する多数の薄い可撓性電極を含み、ここで近位端から延びる複数の該電極の少なくとも部分は平行に配置され、複数の該電極は体液のような水性溶媒に溶解性のマトリックスに埋め込まれており、該マトリックスは、該電極の遠位部分、特に該電極の遠位先端、から近位方向に延びる複数の該電極の部分を封入する第1セクションと、該第1セクションから該電極の近位端に向かって延びる複数の該電極の部分を封入する第2セクションとを含む、溶解速度が異なる2つ又はそれ以上のセクションを含む、上記電極アレー。
【請求項2】
上記第1マトリックス部分の溶解速度が上記第2マトリックス部分の溶解速度よりも大きい、請求項1の電極アレー。
【請求項3】
可撓性リード線が取り付けられて各電極の遠位端に電気伝導する、請求項1又は2の電極アレー。
【請求項4】
各電極がその遠位端以外は電気的に絶縁される、請求項1〜3のいずれか1項の電極アレー。
【請求項5】
複数の上記電極が異なる長さである、請求項1〜4のいずれか1項の電極アレー。
【請求項6】
上記複数の電極が軸の周りに、それらの遠位端が該軸を横断する面内にあるように、そしてそれらの長さが該軸に向かって増加するように配置される、請求項5の電極アレー。
【請求項7】
複数の上記電極の遠位部分が、円錐体又は円錐体の対称的軸セクション又は類似の形状を規定する、請求項6の電極アレー。
【請求項8】
複数の上記電極の遠位部分が拡げ手段を含む、請求項1〜7のいずれか1項の電極アレー。
【請求項9】
複数の上記電極の遠位先端が上記電極軸に向かって近位方向に一方方向に傾斜している、請求項8の電極アレー。
【請求項10】
上記遠位先端から延びる電極セクションが中心軸から離れるように屈曲している、請求項8の電極アレー。
【請求項11】
上記遠位先端から延びる電極セクションが上記第1マトリックスセクション内に弾性的に拘束されるように配置されて、該第1マトリックスセクションが溶解すると該電極セクションが上記中心軸から離れるように屈曲できる、請求項8の電極アレー。
【請求項12】
上記第1マトリックス部分の溶解速度が、上記第2マトリックスセクションが溶解する前に、第1マトリックス部分に埋め込まれた電極が埋め込みを失うに充分な程度に体液中に実質的に溶解するのに充分である、請求項1〜11のいずれか1項の電極アレー。
【請求項13】
電極間に配置された、水性溶媒中で膨潤可能な剤を含む、請求項1〜12のいずれか1項の電極アレー。
【請求項14】
1種又はそれ以上の光学ファイバーを含む、請求項1〜13のいずれか1項の電極アレー。
【請求項15】
挿入経路を制御するために、電流を通した時に形状を変える、例えば屈曲する、収縮性のバイメタル要素を1種又はそれ以上含む、請求項1〜14のいずれか1項の電極アレー。
【請求項16】
挿入経路を制御するために、収縮性のポリマー要素を1種又はそれ以上含む、請求項1〜14のいずれか1項の電極アレー。
【請求項17】
上記電極が、その近位端の近くに配置された小型増幅器に接続される、請求項1〜14のいずれか1項の電極アレー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2010−516327(P2010−516327A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546345(P2009−546345)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【国際出願番号】PCT/SE2008/000051
【国際公開番号】WO2008/091197
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(509205179)ニューロナノ エービー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【国際出願番号】PCT/SE2008/000051
【国際公開番号】WO2008/091197
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(509205179)ニューロナノ エービー (1)
【Fターム(参考)】
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