説明

電極体

【課題】温度変化や液絡部への起泡、汚れの付着によって液絡部を通した内部液の成分の流出量が変化して突発的に電気的に不安定になることを防止することのできる電極体を提供する。
【解決手段】液絡部11は、内部液収容部15を取り囲むように配置された、多孔質樹脂で形成された第1の液絡部分11aと、内部液と被検液との間を区画して内部液収容部15を形成する壁部12に埋め込まれた、壁部12の厚さ方向に延在する柱状の多孔質セラミックで形成された第2の液絡部分11bと、を有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH測定、イオン濃度測定、酸化還元電位測定などの電気化学測定において単極の比較電極又は複合電極の比較電極として用いられる電極体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、pH測定などに使用される比較電極には液絡部が設けられており、その液絡部から内部液(塩化カリウム溶液など)の成分が被検液に流出することにより内部電極と被検液とが電気的に接続されている。液絡部を通した内部液の成分の流出量は、比較電極の電気的な安定性において重要な要因である。
【0003】
このような液絡部としては、セラミックやポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で形成された多孔質部材が広く用いられている。
【0004】
多孔質セラミックの液絡部としては、円柱形(丸棒形)のものが一般的である。多孔質セラミックの液絡部は、気孔率や孔径が均一なものが得やすい。又、多孔質セラミックの液絡部は、温度変化などに対する内部液の流出量が比較的安定している。しかし、多孔質セラミックの液絡部は、形状設計に制約がある。即ち、多孔質セラミックは、高温焼結体であり、均質に焼き上げるのには円柱形が最適であるが、硬く脆いため、焼結後に加工することは容易でない。又、上述のように一般的に円柱形とされる多孔質セラミックの液絡部は、接液面積が小さいため、気泡や汚れの付着(目詰まり)に弱い。
【0005】
一方、多孔質PTFEの液絡部としては、筒状やリング状などが実用化されている(特許文献1、2)。多孔質PTFEの液絡部は、プラスチックであるため加工が容易で、形状設計が比較的自由であり、接液面積を大きくすることが可能である。多孔質PTFEの液絡部は、孔径や気孔率は均一なものを得ることは難しいが、接液面積を大きくできることによって、気孔率や孔径に不均一な部分があってもその部分的な偏りが平均化されて、全体としては所望の気孔率の液絡部とすることができる。又、接液面積を大きくすることが可能であるので、気泡や汚れの付着(目詰まり)が部分的に生じることはあっても、それが全体に及ぶことは起こりにくいため、比較的長期間にわたり使用できる。しかし、多孔質PTFEの液絡部は、温度変化によって孔径が変化するため、温度変化によって内部液の流出量が変動し易い。
【0006】
又、液絡部としては、ガラスの摺り合わせ構造によるスリーブ型のものが知られている。スリーブ型の液絡部も、温度変化により内部液の流出量が変化し易くなることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公平3−18942号公報
【特許文献2】特許第4234856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、温度変化や液絡部への起泡、汚れの付着によって液絡部を通した内部液の成分の流出量が変化して突発的に電気的に不安定になることを防止することのできる電極体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は本発明に係る電極体にて達成される。要約すれば、本発明の第1の態様によれば、内部液を収容する内部液収容部と、前記内部液収容部内の内部液中に配置された内部電極と、を有し、前記内部液収容部から内部液の成分が液絡部を通過して被検液に流出することで前記内部電極と被検液とが電気的に接続される電極体において、前記液絡部は、前記内部液収容部を取り囲むように配置された、多孔質樹脂で形成された第1の液絡部分と、内部液と被検液との間を区画して前記内部液収容部を形成する壁部に埋め込まれた、前記壁部の厚さ方向に延在する柱状の多孔質セラミックで形成された第2の液絡部分と、を有することを特徴とする電極体が提供される。
【0010】
又、本発明の第2の態様によれば、内部液を収容する内部液収容部と、前記内部液収容部内の内部液中に配置された内部電極と、を有し、前記内部液収容部から内部液の成分が液絡部を通過して被検液に流出することで前記内部電極と被検液とが電気的に接続される電極体において、前記液絡部は、内部液と被検液との間を区画して前記内部液収容部を形成する壁部を貫通する穴を、前記壁部の前記穴を含む部分の外側に配置されたスリーブで、前記穴からの内部液の漏出が可能なように覆うことによって形成された第1の液絡部分と、前記壁部に埋め込まれた、前記壁部の厚さ方向に延在する柱状の多孔質セラミックで形成された第2の液絡部分と、を有することを特徴とする電極体が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、温度変化や液絡部への起泡、汚れの付着によって液絡部を通した内部液の成分の流出量が変化して突発的に電極体が電気的に不安定になることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例に係る複合電極の一部断面を示す全体構成図である。
【図2】本発明の一実施例に係る複合電極の要部の斜視図である。
【図3】本発明の一実施例に係る複合電極が備える測定電極チップの断面図である。
【図4】本発明の一実施例に係る複合電極の変形例における要部の斜視図である。
【図5】本発明の他の実施例に係る複合電極が備える外管の要部の(a)断面図、(b)分解斜視図である。
【図6】本発明の更に他の実施例に係る単極の比較電極の要部の断面図である。
【図7】本発明の更に他の実施例に係る複合電極の要部の断面図である。
【図8】本発明の更に他の実施例に係る単極の比較電極の要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る電極体を図面に則して更に詳しく説明する。
【0014】
実施例1
本実施例では、本発明は複合電極の比較電極に適用される。図1は、本実施例に係る複合電極100の一部断面が現れた全体構成を示す。
【0015】
複合電極100は、全体として軸線を有する棒状に形成され、概略、外管12と内管13とで形成される二重管構造の比較電極10と、内管13の下端部に連結された測定電極としての測定電極チップ20と、を有する。比較電極10が、本発明に従う電極体である。
【0016】
複合電極100は、測定電極チップ20側の端部を被検液(図示せず)に浸漬することで、測定電極チップ20の種類に応じた測定対象成分を検出するのに用いられる。
【0017】
比較電極10について更に説明する。比較電極10は、略一様な円筒形状の外管12と、外管12の略中央に外管12と略平行に配置される段付き円筒形状の内管13とを有する。外管12の下端部は開口部12aとなっている。内管13の下端部は、外管12の開口部12aから外部へ突出している。そして、外管12の開口部12aの近傍における、外管12の内面に対向する内管13の外面には、その周方向に溝13aが形成されており、その溝13aに位置してリング状のシール部材であるOリング14が配置されている。Oリング14により、外管12と内管13との間が液密にシールされる。外管12の内面と、内管13の外面と、Oリング14とで形成される空間が、比較電極内部液16を収容する比較電極内部液収容部15とされている。又、比較電極10には、比較電極内部液収容部15内の比較電極内部液16中に浸漬された内部電極(比較電極内極)17が設けられている。そして、外管12の下端部に、詳しくは後述する液絡部11が設けられている。図2は、複合電極100の下端部の近傍の外観を示す。
【0018】
ここで、比較電極内極17としては銀−塩化銀電極が広く用いられており、本実施例においても銀−塩化銀電極を用いた。
【0019】
又、比較電極内部液16の成分は、電荷を担える化学種であれば特に限定はなく、塩化カリウム(KCl)、硝酸カリウム(KNO3)などの種々の塩が利用可能である。最も多く使用されているのは高濃度(3モル〜飽和)の塩化カリウム溶液である。本実施例では、飽和塩化カリウム溶液を用いた。尚、比較電極内部液16は、所望により、増粘材が添加されてゲル状となっていてよい。増粘材としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸ナトリウムなどを使用することができる。
【0020】
液絡部11は、比較電極内部液収容部15を取り囲むように配置された、多孔質樹脂で形成された第1の液絡部分11aを有する。又、液絡部11は、比較電極内部液16と被検液との間を区画して比較電極内部液収容部15を形成する壁部に埋め込まれた、該壁部の厚さ方向に延在する柱状の多孔質セラミックで形成された第2の液絡部分11bを有する。本実施例では、特に、上記壁部の少なくとも一部は軸線を有する管状部材としての外管12で構成され、第1の液絡部分11aは外管12の軸線方向における一部を構成し、外管12における第1の液絡部分11aとそれに隣接する部分とは一体成型により形成されている。又、本実施例では、特に、第2の液絡部分11bは、上記壁部の一部を構成する第1の液絡部分11aに埋め込まれている。
【0021】
即ち、本実施例では、第1の液絡部分11aは、外管12の軸線方向において下端部から所定の範囲の部分を構成するように外管12のその他の部分と一体的に形成されている。又、第2の液絡部分11bは、第1の液絡部分11aを貫通するように、該第1の液絡部分11aに埋め込まれている。第2の液絡部分11bは、単数でも複数(例えば、2個〜5個)でもよいが、本実施例では1個とした。
【0022】
比較電極10が被検液に浸漬されると、比較電極内部液16の成分が、第1の液絡部分11a、第2の液絡部分11bを通して被検液に少量ずつ流出して、比較電極内極17と被検液との電気的導通がとられる。
【0023】
第1の液絡部分11aの材料としては、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂を用いることができる。フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)、ETFE(エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー)などが挙げられる。PTFE(商品名「テフロン(デュポン社登録商標)」として知られる。)などのフッ素樹脂は、撥水性であるため、孔径を比較的大きくし、又面積を広くしても、流出量が多くなり過ぎない点で好ましく、又、撥水性であること、孔径を大きくできること、面積を広くできることは、汚れなどによる目詰まり防止の点からも有利である。本実施例では、外管12の第1の液絡部分11a及びその他の部分の材料としてPTFEを用いた。
【0024】
外管12は、例えば、次のようにして作製することができる。PTFE粉末と粒径が揃えられた乾燥した塩化カリウム粉末との混合物(通常、粒径175μm〜295μmの塩化カリウム粉末を23%〜30%混合する。)を成型用金型に適宜の高さまで充填し、その上にPTFE粉末のみを充填する。これを加圧焼成する(例えば、200Kgf/cm2の圧力、365℃の温度で2.5時間成型する。)。その後、機械加工(切削加工など)を施して所望の形状とする。この加工物を水(又は熱水)に浸漬して(例えば24時間)、PTFE中の塩化カリウムを溶解除去することにより、気孔を形成する。これにより、外管12の非多孔質PTFEから成る部分と、これに隣接する多孔質PTFEから成る第1の液絡部分11aとを、一体的に形成することができる。
【0025】
この方法によれば、PTFE粉末に混合した塩化カリウム粉末が溶け出したところが気孔となるので、塩化カリウム粉末の粒径と混合割合を加減することにより、第1の液絡部分11aを通した比較電極内部液16の流出量を調整することができる。しかし、塩化カリウム粉末を完全に均一に混合することが実際上難しいことなどから、第1の液絡部分11aとして気孔率や孔径が完全に均一なものを得ることは難しい。しかし、上述のように、第1の液絡部分11aは接液面積を大きくできるので、気孔率や孔径に不均一な部分があってもその部分的な偏りが平均化されて、全体としては所望の気孔率の液絡部とすることができる。
【0026】
本実施例では、外管12は、第1の液絡部分11a及びその他の部分の全体に関し外径は17mm、内径は13mmであり、内部液収容部15の容積は約10000mm3であった。そして、上述の方法において粒径175μm〜295μmの塩化カリウム粉末を26%混合したPTFE粉末を用いて形成した第1の液絡部分11aは、外管12の下端部の開口部12aからその軸線方向に沿って上方に12mmの範囲に設けた。
【0027】
尚、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂を用いる場合は、概略、各々の原料粉末の表層付近のみを融着(焼結)させ、原料粉末間に存在している空隙を残したまま成形するなどの方法で多孔質部材を作製することができる。
【0028】
第2の液絡部分11bの材料としては、セラミックの組成の違いにより、アルミナ系、セリウム系、マグネシア系、ジルコニア系などの各種セラミックスが挙げられるが、本実施例ではアルミナ系のセラミックを用いた。電気化学測定における比較電極の液絡部として適当な気孔率や孔径を有する多孔質セラミックが市販されている。又、通常、液絡部としての多孔質セラミックとしては、外径が1mm〜1.5mm、長さが2mm〜5mmの円柱状のものが用いられる。本実施例では、第2の液絡部分11bとして、外径約1mmの略円柱形の多孔質セラミックを、約3mmの長さに切断したものを用いた。
【0029】
第2の液絡部分11bは、例えば、次のようにして第1の液絡部分11aに埋め込むことができる。上述のようにして形成した第1の液絡部分11aの所望の位置に、第2の液絡部分11bを構成する円柱形の多孔質セラミックの外径よりも若干小さい内径を有する貫通孔12bを、機械加工により穿つ。そして、この貫通孔12bに、第2の液絡部分11bとして所定の長さに切り出された多孔質セラミックを、その長さ方向(外管12の厚さ方向)に圧入する。これにより、第1の液絡部分11aと第2の液絡部分11bとは摩擦係合により密着して固定される。
【0030】
測定電極チップ20について更に説明する。本実施例では、複合電極100は、内管13の下方に測定電極チップ20を着脱自在に取り付けられる、チップ交換型電極となっている。図3は、測定電極チップ20の一例として、pH測定用の測定電極チップ20の断面を示す。
【0031】
この測定電極チップ20は、下端部がpH感応膜となっているガラス管21を有する。ガラス管21の内部の空間である測定電極内部液収容部28には、測定電極内部液22が充填されている。そして、測定電極チップ20には、測定電極内部液22に浸漬された内部電極(測定電極内極)23が設けられている。又、ガラス管21の上端部及び下端部を除く外周面には、ゴム弾性体よりなる筒状体24が一体的に装着されている。この筒状体24は、下端部につまみ24a、中間部にねじ部24b、その上方に2本のリング状突起24cが設けられている。又、ガラス管21の上端部はピン固定台25の下端部に挿入されている。更に、ピン固定台25の上端部には測定電極内極23に接続されたピン26が上から挿入固定され、このピン26とガラス管21との間にガスケット27が装填されている。
【0032】
図1に示すように、上記ねじ部24bを、内管13の下端内壁に設けられた雌ねじ13bに、つまみ24aを回転させて螺合することにより、測定電極チップ20のピン26が内管13の内壁に設けられた接点13cに接触する。このとき、リング状突起24cは内管13の内壁に密着し、測定電極チップ20と内管13との間を液密に保つ。
【0033】
尚、本実施例では、内管13における接点13cの上方の空間には、温度センサ30が設けられている。この温度センサ30、接点13cで受ける測定電極内極23、及び比較電極内極17からの各信号は、電極キャップ40の内部を通過してリード線50により外部へと伝達されるようになっている。
【0034】
上述のように、本実施例では、液絡部11を、多孔質樹脂で形成される第1の液絡部分11aと多孔質セラミックで形成される第2の液絡部分11bとを組み合わせたハイブリッド構造(ハイブリッド液絡部)とする。典型的には、気孔率や孔径が不均一となり易く又温度変化による孔径の変化などで内部液の成分の流出量が変化し易いが接液面積が大きい多孔質樹脂で形成される第1の液絡部分11aに、接液面積が小さいが気孔率や孔径が比較的均一で内部液の成分の流出量が変化し難い多孔質セラミックで形成される第2の液絡部分11bを圧入などの方法により埋め込む。これにより、第2の液絡部分11bによって内部液の成分の最低限の流出量を確保し、温度変化などによって内部液の成分の流出量が変化し易い第1の液絡部分11aの欠点を補完すると同時に、第1の液絡部分11aの特性を生かして大きな接液面積はそのままで、気泡や汚れが一部に付いても面積でカバーするようにする。これにより、第2の液絡部分11bに気泡や汚れが付着しても、同時に第1の液絡部分11aの全体に気泡や汚れが付着することは希であるので、比較電極10が突発的に使用に耐えなくなることを防止することができる。又、温度変化などによって第1の液絡部分11aの成分の内部液の流出量が変化しても、第2の液絡部分11bを通じた内部液の成分の流出により最低限の電気的な安定性を確保できるので、比較電極10が突発的に使用に耐えなくなることを防止することができる。従って、経時的に徐々に汚れが液絡部11に付着することなどによって、比較電極10の電気的な安定性が徐々に劣化してくることはあっても、突発的に使用に耐えなくなることは防止される。これにより、使用者は適当なタイミングで比較電極の清掃や交換を行うことができる。
【0035】
本実施例の複合電極100を用いて被検液(pH標準液)の温度を10℃から80℃まで変化させながら連続測定を行ったところ、温度変化によって比較電極の電位が突然許容できないほど変化することはなかった。又、約6ヶ月程度の連続測定では、比較電極の電位が許容できないほど変動することはなかった。又、約6ヶ月以上(約1年)の連続測定においても、比較電極の電位は徐々に変化してくることはあっても、突然許容できないほど変化することはなかった。
【0036】
以上、本実施例によれば、温度変化や液絡部11への起泡、汚れの付着によって液絡部11を通した比較電極内部液16の成分の流出量が変化して突発的に比較電極10が電気的に不安定になることを防止することができる。又、本実施例のように、第1の液絡部分11aを外管12に一体的に形成することによって、第1の液絡部分11aを別途作製する工数が省けると共に、第2の液絡部分11bは第1の液絡部分11aに圧入などの方法により埋め込むだけで簡単に形成することができるといった効果がある。
【0037】
尚、本実施例では、第2の液絡部分11bは、第1の液絡部分11aに埋め込まれた。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば図4に示すように、外管12を構成する第1の液絡部分11a以外の部分(図示の例では第1の液絡部分11に隣接する位置)に第2の液絡部分11bを埋め込んでもよい。この場合も、上述の第1の液絡部分11aに埋め込む場合と同様にして第2の液絡部分11bを外管12に埋め込むことができる。
【0038】
実施例2
次に、本発明の他の実施例について説明する。本実施例では、本発明は実施例1と同様の複合電極の比較電極に適用される。本実施例の複合電極において、実施例1のものと同一又はそれに相当する機能、構成を有する要素には同一符号を付して、詳しい説明は省略する。
【0039】
実施例1では、液絡部11の第1の液絡部分11aは、比較電極10の外管12に一体的に形成されていた。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、第1の液絡部分11aは、比較電極内部液16と被検液との間を区画する壁部を構成する、外管12とは別個の部材として比較電極10に設けられてもよい。
【0040】
図5(a)は、本実施例における比較電極10の外管12の下端部の近傍の断面を示し、図5(b)はその外観を示す。
【0041】
本実施例では、比較電極内部液16と被検液とを区画して比較電極内部液収容部15を形成する壁部は、外管12、ナット18、及び第1の液絡部分(環状の液絡部)11aとで形成される。
【0042】
ナット18はリング状であり、いずれも内径の等しい、厚肉部18aと、複数の透孔18bが形成されている薄肉部18cと、外周面には雄ねじを有するねじ部18dとから形成されている。第1の液絡部分11aは、その内径が上記薄肉部18cの外径とほぼ等しく、その外径が上記厚肉部18aの外径とほぼ等しく、且つその軸方向の長さが薄肉部18cの軸方向の長さとほぼ等しくなっている。ナット18は、この第1の液絡部分11aを上部から装着してから、内管13(図1)をその内部に挿通しつつ、ねじ部18dを外管12の下端内壁に設けた雌ねじ12cに螺合するようになっている。Oリング14(図1)により、内管13とナット18との間が液密にシールされる。
【0043】
比較電極内部液16と第1の液絡部分11aとの間は、遮蔽体であるナット18の薄肉部18cにより遮られ、透孔18bにおいてのみ第1の液絡部分11aの内壁に比較電極内部液16が接している。そのため、比較電極内部液16の成分は、この狭い接触面から第1の液絡部分11a全体に拡散し、その後、外部の被検液へと拡散して移動する。従って、遮蔽体がない場合よりも比較電極内部液16の成分の消費量を小さくすることができる。つまり、比較電極内部液16の成分の流出量を過剰とすることなく、外側の面積を大きくすることができる。又、リング状の遮蔽体であるナット18によって遮蔽される面積を変更すれば、流出量を制御することができる。
【0044】
又、本実施例では、液絡部11の第2の液絡部分11bは、外管12に埋め込まれている。しかし、これに限定されるものではなく、第1の液絡部分11aの所望の位置に第1の液絡部分11bを埋め込んでもよい。
【0045】
測定電極チップ20などの本実施例の複合電極100のその他の構成は実施例1のものと同じである。
【0046】
第1の液絡部分11aは、実施例1にて説明した第1の液絡部分11aの作製方法と同様の方法により作製することができる。本実施例では、第1の液絡部分11aは、実施例1にて説明したのと同様の方法において、粒径175μm〜295μmの塩化カリウム粉末を26%混合したPTFE粉末を用いて作製した。その形状は、内径16.1mm、外径20mm、長さ7mmとした。又、透孔18bは、直径5mmのものを4箇所に設けた。
【0047】
以上、本実施例の構成によっても、実施例1と同様の効果が得られる。又、本実施例のように、第1の液絡部分11aを外管12(及びナット18)とは別部材とすることによって、例えば、第1の液絡部分11aを通した比較電極内部液16の成分の所望の流量などに応じて第1の液絡部分11aを使い分けたり、第1の液絡部分11aのみ(第1の液絡部分11aに第2の液絡部分11bが埋め込まれている場合は第1の液絡部分11a及び第2の液絡部分11b)のみを交換したりすることができる。
【0048】
実施例3
次に、本発明の他の実施例について説明する。本実施例では、本発明は単極の比較電極に適用される。
【0049】
図6は、本実施例に係る比較電極200の要部の断面を示す。本実施例の比較電極200は、概略、実施例1の複合電極100から、内管13、測定電極チップ20などを除いた上で、外管12を有底の管状部材として、その管状部材の底部側の端部に液絡部11を設けたものに相当する。
【0050】
更に説明すると、比較電極200は、内部に比較電極内部液216を収容する比較電極内部液収容部215を形成する略一様な円筒形状の支持管212を有する。支持管212の下端部は底部212aによって閉鎖されている。又、比較電極200は、比較電極内部液収容部215内の比較電極内部液216中に浸漬された内部電極(比較電極内極)217を有する。比較電極内極217からの信号は、リード線250により外部へと伝達されるようになっている。そして、支持管212の下端部に、詳しくは後述する液絡部11が設けられている。
【0051】
液絡部11は、比較電極内部液収容部215を取り囲むように配置された、多孔質樹脂で形成された第1の液絡部分11aを有する。又、液絡部11は、比較電極内部液216と被検液との間を区画して比較電極内部液収容部215を形成する壁部に埋め込まれた、該壁部の厚さ方向に延在する柱状の多孔質セラミックで形成された第2の液絡部分11bを有する。本実施例では、特に、上記壁部の少なくとも一部は軸線を有する管状部材としての支持管212で構成され、第1の液絡部分11aは支持管212の軸線方向における一部を構成し、支持管212における第1の液絡部分11aとそれに隣接する部分とは一体成型により形成されている。より詳細には、本実施例では、支持管212は閉鎖された底部212aを有し、第1の液絡部分11aは、支持管212の底部212a、及び底部212aに連続する支持管212の軸線方向における一部を構成し、支持管212における第1の液絡部分11aとそれに隣接する部分とは一体成型により形成されている。又、本実施例では、特に、第2の液絡部分11bは、上記壁部の一部を構成する第1の液絡部分11aに埋め込まれている。より詳細には、本実施例では、第2の液絡部分11bは、支持管212の底部212aを構成する第1の液絡部分11aに埋め込まれている。
【0052】
即ち、本実施例では、第1の液絡部分11aは、支持管212の下端部におけるその軸線方向の所定の範囲の部分と、支持管212の底部212aとを構成するように、支持管212として一体的に形成されている。そして、第2の液絡部分11bは、支持管212の底部212aを構成する第1の液絡部分11aを貫通するように、該第1の液絡部分11aに埋め込まれている。本実施例では、第2の液絡部分11bは1個だけ設けられている。
【0053】
第1の液絡部分11aの材料や形成方法、第1の液絡部分11a以外の支持管212の部分の材料や形成方法、第2の液絡部分11bの材料や埋め込み方法は実施例1と同様とし得る。
【0054】
尚、第2の液絡部分11bの埋め込み位置は、支持管212の底部212aに限定されるものではなく、支持管212の軸線方向に延在する支持管212の側部を構成する第1の液絡部分11aであってもよいし、実施例1で説明したのと同様に支持管212を構成する第1の液絡部分11a以外の部分であってもよい。
【0055】
以上、本発明は単極の比較電極にも同様に適用し得るものであり、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0056】
実施例4
次に、本発明の他の実施例について説明する。本実施例では、本発明は複合電極の比較電極に適用される。図7は、本実施例に係る複合電極300の要部の断面を示す。
【0057】
複合電極300は、全体として軸線を有する棒状に形成され、概略、外管312と内管313とで形成される二重管構造の比較電極310と、その二重管の下端部に接続されたpH測定用の測定電極320と、を有する。比較電極310が本発明に従う電極体である。
【0058】
複合電極300は、測定電極320側の端部を被検液(図示せず)に浸漬することで、被検液のpHを検出するのに用いられる。
【0059】
比較電極310について更に説明する。比較電極310は、外管312と内管313とを有し、外管312と内管313との間の空間に、比較電極内部液316を収容する比較電極内部液収容部315が形成される。外管312と内管313の下端部は接続されて密閉されている。この外管312と内管313との接続部に、後述する測定電極320が接続される。本実施例では、外管312及び内管313はいずれもガラスで形成されており、両者の接続部は溶着されている。又、比較電極310には、比較電極内部液収容部315内の比較電極内部液316に浸漬された内部電極(比較電極内極)317が設けられている。そして、外管312に、詳しくは後述する液絡部11が設けられている。
【0060】
液絡部11は、スリーブ型の第1の液絡部分11aを有する。この第1の液絡部分11aは、比較電極内部液316と被検液との間を区画して比較電極内部液収容部315を形成する壁部を貫通する穴11a2を、上記壁部の穴11a2を含む部分の外側に配置されたスリーブ11a1で、穴11a2からの比較電極内部液316の漏出が可能なように覆うことによって形成される。又、液絡部11は、比較電極内部液16と被検液との間を区画して比較電極内部液収容部315を形成する壁部に埋め込まれた、該壁部の厚さ方向に延在する柱状の多孔質セラミックで形成された第2の液絡部分11bを有する。より詳細には、上記壁部の少なくとも一部は軸線を有するガラス製の管状部材としての外管312で構成され、第1の液絡部分11aは、外管312に設けられた穴11a2を覆うように外管312の外側に配置されたガラス製のスリーブ11a1と、外管312との摺り合わせ部分で構成される。
【0061】
即ち、本実施例では、第1の液絡部11は、スリーブ型(可変スリーブ型)の液絡部とされており、ガラスで形成された外管312の下端部近傍を貫通して穴11a2が設けられ、この穴11a2が設けられた部分を含む外管312の外周に、ガラスで形成されたスリーブ11a1が嵌合されている。
【0062】
スリーブ11a1は、図中矢印Aで示すように外管312の軸線方向に沿って往復移動(摺動)可能であり、例えば、比較電極内部液316が第1の液絡部分11aにおいて結晶化した場合などに、スリーブ11a1を移動させることでその結晶を容易に除去することができる。このようにスリーブ11a1を移動可能とし、又穴11a2を覆う位置で固定可能とするために、外管312のスリーブ11a1が固定される部分は、上方に行くに従って縮径する先細形状部312aとされている。そして、外管312は、先細形状部312aより上方に、スリーブ11a1を上方に移動させたときにスリーブ11a1を逃がす小径部312bと、略一様な円筒形状の大径部312cとを、この順番で有する。又、小径部312bと大径部312cとは、上方に行くに従って拡径する遷移部312dで接続されている。
【0063】
又、本実施例では、第2の液絡部分11bは、外管312の大径部312cを貫通するように、外管312に埋め込まれている。第2の液絡部分11bは、単数でも複数(例えば、2個〜5個)でもよいが、本実施例では1個とした。
【0064】
比較電極310が被検液に浸漬されると、比較電極内部液316の成分が、スリーブ11a1と外管312との摺り合わせ部分の比較電極内部液316の薄層を介して被検液に少量ずつ流出し、又第2の液絡部分11bを通して被検液に少量ずつ流出して、比較電極内極317と被検液との電気的導通がとられる。
【0065】
測定電極320について更に説明する。測定電極320は、内部に測定電極内部液322を収容する空間である測定電極内部液収容部328を形成するように、支持部324と、支持部324の下端部に接続されたpH感応膜たるガラス感応膜322とを有する。支持部324が、比較電極310の外管312と内管313との接続部に接続されている。本実施例では、支持部324はガラスで形成されており、支持部324は外管312と内管313との接続部に溶着されている。又、ガラス感応膜322も支持部324に溶着されている。又、測定電極320には、測定電極内部液収容部328内の測定電極内部液322中に浸漬された内部電極(測定電極内極)323が設けられている。
【0066】
尚、比較電極内極317、測定電極内極323からの各信号は、それぞれリード線350a、350bにより外部へと伝達されるようになっている。
【0067】
上述のように、本実施例では、液絡部11を、スリーブ型の第1の液絡部分11aと多孔質セラミックで形成される第2の液絡部分11bとを組み合わせたハイブリッド構造(ハイブリッド液絡部)とする。これにより、第2の液絡部分11bによって内部液の成分の最低限の流出量を確保し、温度変化などによって流出量が変化し易いスリーブ型の第1の液絡部分11aの欠点を補完すると同時に、スリーブ型の第1の液絡部分11aの内部液の成分の流量が大きいという利点を維持して、内部液の流出量を多く必要とする被検液の測定の場合に第1の液絡部分11aに内部液が結晶化したものが付着するなどによって流出量が変化し、比較電極310が突発的に使用に耐えなくなることを防止できるようにする。
【0068】
以上、本実施例によれば、温度変化や内部液が結晶化したものが付着することなどによって、液絡部11を通した比較電極内部液316の成分の流出量が変化して、突発的に比較電極310が電気的に不安定になることを防止することができる。
【0069】
実施例5
次に、本発明の他の実施例について説明する。本実施例では、本発明は単極の比較電極に適用される。
【0070】
図8は、本実施例に係る比較電極400の要部の断面を示す。本実施例の比較電極400は、概略、実施例4の複合電極300から、内管313、測定電極320などを除いた上で、外管312を有底の管状部材として、その管状部材の底部側の端部に液絡部11を設けたものに相当する。
【0071】
更に説明すると、比較電極400は、内部に比較電極内部液416を収容する比較電極内部液収容部415を形成する支持管412を有する。支持管412の下端部は底部412aによって閉鎖されている。又、比較電極400には、比較電極内部液収容部415内の比較電極内部液416中に浸漬された内部電極(比較電極内極)417が設けられている。比較電極内極417からの信号は、リード線450により外部へと伝達されるようになっている。そして、支持管412の下端部に、詳しくは後述する液絡部11が設けられている。
【0072】
液絡部11は、スリーブ型の第1の液絡部分11aを有する。この第1の液絡部分11aは、比較電極内部液416と被検液との間を区画して比較電極内部液収容部415を形成する壁部を貫通する穴11a2を、上記壁部の穴11a2を含む部分の外側に配置されたスリーブ11a1で、穴11a2からの比較電極内部液416の漏出が可能なように覆うことによって形成される。又、液絡部11は、比較電極内部液16と被検液との間を区画して比較電極内部液収容部415を形成する壁部に埋め込まれた、該壁部の厚さ方向に延在する柱状の多孔質セラミックで形成された第2の液絡部分11bを有する。より詳細には、上記壁部の少なくとも一部は軸線を有するガラス製の支持管412で構成され、第1の液絡部分11aは、支持管412に設けられた穴11a2を覆うように支持管412の外側に配置されたガラス製のスリーブ11a1と、支持管412との摺り合わせ部分で構成される。又、本実施例では、特に、第2の液絡部分11bは、支持管412の底部412aに埋め込まれている。本実施例では、第2の液絡部分11bは1個だけ設けられている。
【0073】
このように、本発明は単極の比較電極にも同様に適用し得るものであり、実施例4と同様の効果を得ることができる。
【0074】
以上、本発明を具体的な実施例に則して説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではない。
【0075】
例えば、上記実施例では、測定電極はpH測定用電極であるとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。測定電極としては、pH測定用電極、各種のイオン濃度を測定する各種のイオン濃度測定用電極、酸化還元電位測定用電極を例示できる。本発明に従う電極体は、例えば、これらpH測定用電極、各種のイオン濃度を測定する各種のイオン濃度測定用電極、酸化還元電位測定用電極と共に用いる単極の比較電極、又はこれらの測定電極と比較電極とを一体的に有する複合電極の比較電極として好適に実施することができる。
【符号の説明】
【0076】
10 複合電極の比較電極
11 液絡部
11a 第1の液絡部分
11b 第2の液絡部分
100 多孔質樹脂の第1の液絡部分を有する複合電極
200 多孔質樹脂の第1の液絡部分を有する単極の比較電極
300 スリーブ型の第1の液絡部分を有する複合電極
400 スリーブ型の第1の液絡部分を有する単極の比較電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部液を収容する内部液収容部と、前記内部液収容部内の内部液中に配置された内部電極と、を有し、前記内部液収容部から内部液の成分が液絡部を通過して被検液に流出することで前記内部電極と被検液とが電気的に接続される電極体において、
前記液絡部は、前記内部液収容部を取り囲むように配置された、多孔質樹脂で形成された第1の液絡部分と、内部液と被検液との間を区画して前記内部液収容部を形成する壁部に埋め込まれた、前記壁部の厚さ方向に延在する柱状の多孔質セラミックで形成された第2の液絡部分と、を有することを特徴とする電極体。
【請求項2】
前記壁部の少なくとも一部は軸線を有する管状部材で構成され、前記第1の液絡部分は前記管状部材の前記軸線方向における一部を構成し、前記管状部材における前記第1の液絡部分とそれに隣接する部分とは一体成型により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電極体。
【請求項3】
前記第2の液絡部分は、前記壁部の一部を構成する前記第1の液絡部分に埋め込まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電極体。
【請求項4】
前記多孔質樹脂は、フッ素樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の電極体。
【請求項5】
内部液を収容する内部液収容部と、前記内部液収容部内の内部液中に配置された内部電極と、を有し、前記内部液収容部から内部液の成分が液絡部を通過して被検液に流出することで前記内部電極と被検液とが電気的に接続される電極体において、
前記液絡部は、内部液と被検液との間を区画して前記内部液収容部を形成する壁部を貫通する穴を、前記壁部の前記穴を含む部分の外側に配置されたスリーブで、前記穴からの内部液の漏出が可能なように覆うことによって形成された第1の液絡部分と、前記壁部に埋め込まれた、前記壁部の厚さ方向に延在する柱状の多孔質セラミックで形成された第2の液絡部分と、を有することを特徴とする電極体。
【請求項6】
前記壁部の少なくとも一部は軸線を有するガラス製の管状部材で構成され、前記第1の液絡部分は、前記管状部材に設けられた前記穴を覆うように前記管状部材の外側に配置されたガラス製のスリーブと、前記管状部材との摺り合わせ部分で構成されることを特徴とする請求項5に記載の電極体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−47692(P2012−47692A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192449(P2010−192449)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)