説明

電極支持型ハーフセルの製造方法、および、電極支持型セルの製造方法

【課題】電極支持型ハーフセルの製造方法において、固体電解質膜に貫通孔のないセルを生産性よく製造する方法を提供する。
【解決手段】
電極支持基板上に、あるいは当該電極支持基板上に形成された電極活性層上に、電解質層を成膜する工程を有し、当該電解質層の成膜工程において、当該成膜工程中の気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以下で成膜を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池の電極支持型ハーフセルの製造方法ならびに、電極支持型セルの製造方法に関するものである。特に、電極支持基板上へ、電極活性層、電解質層、必要に応じて、中間層を形成する場合における、電解質層の貫通孔を抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池はクリーンエネルギー源として注目されており、その用途は家庭用発電から業務用発電、さらには自動車用発電などを主体にして、急速に改良研究および実用化研究が進められている。
【0003】
固体酸化物形燃料電池の代表的な構造の1つは、平板状固体電解質の片面側にアノード電極、他方面側にカソード電極を設けたセルを縦方向に多数積層したスタックが基本となっている。上記のように、燃料電池スタックはアノード電極/電解質シート/カソード電極を有するセルと、燃料ガスと空気を分離、流通させるためのセパレーターやインターコネクターとを交互に多数積層した構造になっている。積層した際には、電解質には大きな荷重がかかるほか、運転温度(700〜1000℃程度)で相当の熱ストレスを受けるので、高い強度と耐熱性が要求される。このような要求特性から、電解質の材料には、ジルコニア系のセラミックシートが使用され、電解質セラミックシートには荷重がかかるため強度が確保できるある程度の厚みと燃料電池性能を得るための厚み(例えば100μm以上500μm以下)が必須である。その両面にスクリーン印刷などによってアノード電極とカソード電極を形成した、電解質支持型タイプである電解質支持型セル(ESC)が用いられている。
【0004】
固体酸化物形燃料電池セルの発電性能を高める方法として、導電ロス・内部抵抗を極力抑えるために、電解質をより酸素イオン伝導性の高いものにする方法や、電解質を薄膜化する方法が有効とされている。
【0005】
これらのうちの電解質を薄膜化する方法では、電解質支持型セルの電解質シートを薄膜化するほど強度が確保できなくなり、セルを多数積層した場合に積層荷重によって割れを生じやすくなる。
【0006】
そこで、電解質をより薄膜化するために、例えば、電極やそれに類似した材料、あるいは、セパレーターやインターコネクターなどと呼ばれるガス流路形成材や電気を効率よく集めるための集電材などを、強度を維持するための支持基板とし、その上にアノード活性層、電解質層、カソード活性層を形成する電極支持型セル(電極支持型タイプ)が用いられる。電極支持型タイプでは、支持基板が強度を確保する役割を担うため、電解質支持型タイプとは異なり電解質層は薄くすることが可能となる。
【0007】
このような電極支持型セルの製造方法としては、例えば、アノード支持基板上にアノード活性層を形成し、その上に電解質層を形成してハーフセルとした後、さらにその上にカソード活性層を形成してフルセルとする方法を採用することにより、電解質支持型セルに比べて電解質層を一段と薄膜化することが可能となる。電極支持型セルにすることで、薄膜化が可能となり、発電性能を高めることができるが、薄膜化した際には、電解質層にガスを透過してしまう貫通孔が発生しやすくなる。電解質層に貫通孔があると、一部の燃料が空気中の酸素との燃焼反応に使用されてしまうので、発電には使用されず、発電効率が低下する原因になる。これらのことから、発電性能を向上させつつも、貫通孔を生じない電極支持型セルの電解質層の厚みとして、例えば、5μm以上が好ましく、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、30μm以下が好ましく、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下が必要となる。
【0008】
電極支持型セル(ASC)の電解質層を薄膜化するためには、焼成前の状態である電解質グリーン層の段階からより薄く、均一の厚みに形成する必要がある。そのための技術として、例えば、セラミックス層を形成するために、セラミックス粉末の平均粒径や、セラミックス粉末とバインダーとの質量比を調節する技術(例えば、特許文献1参照)が知られている。しかしながら、特許文献1には大量生産時の合格率評価で発生する問題についての記載は全く見られない。
【0009】
電解質支持型セル(ESC)の電解質シートの製造において、セラミックグリーンシート体を製造する際の気相雰囲気下の特定微粒子の個数を制御することでグリーンシートを焼結し得られるセラミックスの割れ、導電性の低下、絶縁性の低下、機械的強度の低下を抑制する技術(特許文献2参照)が知られている。しかしながら、特許文献2は、電解質支持型タイプの電解質シートにおいての工夫であり、電極支持型タイプについての課題、問題点については触れられていない。
【0010】
また、特許文献2の記載によると、電解質支持型セルでの電解質セラミックシートの導電率や機械的強度の低下を防ぐ効果はあるが、電解質層の厚さが非常に薄い電極支持型タイプの電解質層への適用については触れられておらず、また、適用した場合でも、支持基板上に薄い電解質層を成膜する場合の貫通孔対策としては、対象となる微粒子の大きさなどに工夫が必要であることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−332273号公報
【特許文献2】特開2007−261873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明者らは、電極支持型タイプ(ハーフセル/フルセル)の大量生産を行う際に、時折、電極支持型ハーフセルの貫通孔試験において合格率が悪くなることが発生することに疑問を持ち、貫通孔の原因となる微粒子(チリやホコリなどの異物)の混入や付着、凝集物が原因で発生した亀裂、焼結が進行していない凝集物、などを詳細に解析した。その結果、発生しうる各種貫通孔の中でも微粒子の混入や付着による貫通孔が合格率低下の主要因であることを突き止めた。
【0013】
電極支持型ハーフセルの電解質層の微粒子の混入や付着に分類される貫通孔の合格率の低下要因は、同一の、原料組成/装置/装置運転条件で製造した場合においても発生することが詳細検討でわかった。
【0014】
上記電極支持型ハーフセルの電解質層の貫通孔を抑制する課題解決を発明者らは鋭意検討した結果、電極支持型ハーフセルを製造する際に、電解質層の成膜工程において、気相中に一定以上の大きさの微粒子が一定数以上の割合で存在し、微粒子が異物として電解質層に混入すると、焼結時にひずみや空孔が発生し、焼成後の電解質層に微粒子の混入や付着に分類される貫通孔が発生しやすくなることを発明者らは見出した。さらに、電解質層を成膜する際に下地となる、電極活性層の成膜工程においても、気相中に一定以上の大きさの微粒子が一定数以上の割合で存在し、微粒子が異物として電極活性層に混入すると、焼結時にひずみが発生し、焼成後の電解質層に微粒子の混入や付着に分類される貫通孔が発生しやすくなることを発明者らは見出し、本願発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決することができた本発明の製造方法は、電極支持基板上に、あるいは当該電極支持基板上に形成された電極活性層上に、電解質層を成膜する工程を有し、当該電解質層の成膜工程において、当該成膜工程中の気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以下であることを特徴とする。前記電極支持基板上に電極活性層を成膜する工程を有し、当該電極活性層の成膜工程において、さらに、当該成膜工程中の気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が160000個/立方メートル以下で成膜を行うことが好ましい。
【0016】
本発明の製造方法では、気層雰囲気中の微粒子が少ない環境下で、成膜を行うため、電極支持基板の表層やグリーン層中に存在する塵や埃などの微粒子(異物)を少なくすることができる。従って、電極支持基板グリーンシートと電極活性グリーン層と電解質グリーン層を共焼成する際に、微粒子が原因で発生する電解質層の貫通孔を抑制することができる。
【0017】
本発明には、上記電極支持型ハーフセルの製造方法の他に、該電極支持型ハーフセルに対になる電極活性層を形成した電極支持型セル(ハーフセル/フルセルを総称し電極支持型タイプともいう)も含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電解質層に微粒子の混入や付着に分類される貫通孔の非常に少ない電極支持型ハーフセルを生産性よく作製でき、大量生産時において貫通孔による合格率低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例、比較例をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の製造方法は、電極支持基板と、前記電極支持基板に積層された電極活性層と、前記電極活性層上(前記電極支持基板が接している面と反対の面)に積層された電解質層を有する電極支持型ハーフセルを製造する方法などに関するものであり、電極支持基板上へ電極活性層と電解質層を成膜する工程を、気相雰囲気:1.0μm以上の微粒子が1立方メートル当たり1600000個以下とする環境下で、行うことを特徴とする。
【0021】
以下、本発明を電極支持型セルのなかでも、代表的なアノード支持型ハーフセル/セルについて、工程ごとに説明する。
【0022】
アノード支持基板グリーンシート上にアノード活性層および電解質層を形成する態様としては、アノード支持基板グリーンシート上にアノード活性層ペーストを印刷、乾燥し、アノード活性グリーン層とアノード支持基板グリーンシートの積層体を作製する。その後、該積層体のアノード活性グリーン層上に電解質ペーストを印刷、乾燥する。その後、電解質グリーン層、アノード活性グリーン層およびアノード支持基板グリーンシートを同時に焼成する態様(態様1);アノード支持基板グリーンシートを焼成し、得られたアノード支持基板上にアノード活性グリーン層をスクリーン印刷で形成した後、アノード活性グリーン層上に電解質ペーストを印刷、乾燥する。その後、電解質グリーン層、アノード活性グリーン層を焼成する態様(態様2)などが挙げられる。これらの中でも、前記態様1は、電解質グリーン層、アノード活性グリーン層およびアノード支持基板グリーンシートを同時に焼成でき、作業を簡略化できるため最も好ましい。
【0023】
以下、成膜工程の一例として前記態様1を説明する。
まず、アノード活性グリーン層上に電解質ペーストをスクリーン印刷する方法について説明する。スクリーン印刷は、従来行われている方法と同様に行えばよい。
前記電解質ペーストは、少なくともセラミックス粉末、溶媒およびバインダーを混合して調製される。
【0024】
前記セラミックス粉末は、常法により製造してもよいし、あるいは市販のものを使用してもよい。前記セラミックス粉末は、通常電解質層の材料として用いられるものであればとくに限定されず、例えば、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化スカンジウム、酸化イッテルビウムなどで安定化されたジルコニア;酸化イットリウム、酸化サマリウム、酸化ガドリニウムなどでドープされたセリア;ランタンガレート、およびランタンガレートのランタンまたはガリウムの一部がストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅などで置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物などを使用することができる。
【0025】
特に、セラミックス粉末として、3モル%以上10モル%以下の酸化イットリウムで安定化されたジルコニア、4モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムで安定化されたジルコニア、8モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムと4モル%以上15モル%以下の酸化イッテルビウムで安定化されたジルコニア、あるいは8モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムと0.5モル%以上5モル%以下の酸化セリウムで安定化されたジルコニアを用いることが好ましい。また、これらの安定化ジルコニアに、アルミナ、シリカ、チタニアなどを焼結助剤や分散強化剤として添加した材料も好適に用いることができる。
【0026】
前記溶媒は、特に限定されず、アルコール類、グリコールエーテル類、脂肪族炭化水素系、ケトン類、エステル類など多種の有機溶剤を使用することができる。前記有機溶剤としては、具体的には、α−テルピネオール、ジヒドロターピネオール、ターピネオールアセテート、ジヒドロターピネオールアセテート、ケロシン、1−ブタノール、1−ヘキサノール、2−ブタノン、イソプロピルアルコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、トルエン、シクロヘキサン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。溶媒の使用量は、特に限定されず、スクリーン印刷を行う際の電解質ペーストの粘度を考慮して適宜調節すればよい。
【0027】
前記電解質ペーストには、セラミックス粒子および溶媒に加えて、バインダー、の他に分散剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤などを添加してもよい。また、必要に応じて気孔形成剤を添加しても良い。
【0028】
前記バインダーは、特に限定されず、従来公知の有機質のバインダーを適宜選択して使用することができる。有機質バインダーとしては、例えば、エチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系およびメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロースなどのセルロース類などが挙げられる。
【0029】
また、必要に応じて、分散剤、可塑剤などを添加してもよい。
分散剤としてはセラミックス粉末の解膠や分散を促進するものである。前記分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウムなどの高分子電解質;クエン酸、酒石酸などの有機酸;イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩あるいはアミン塩;ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩などが挙げられる。
【0030】
可塑剤としては、電解質グリーン層に柔軟性を付与するものである。前記可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジトリデシルなどのフタル酸エステル類;プロピレングリコールなどのグリコール類やグリコールエーテル類;フタル酸系ポリエステル、アジピン酸系ポリエステル、セバチン酸系ポリエステルなどのポリエステル類が挙げられる。
【0031】
前記可塑剤の量は、前記電解質ペースト中のセラミック粉末を100重量部として、0.5部以上、30部以下の量を添加することが好ましい。より好ましくは、1部以上、15部以下の量である。
【0032】
なお、各原料の配合量は、所望の物性に応じて適宜調製すればよい。
その際、各粒子を細かくしたり粒子径を均一化するために、ボールミルなどを用いて粉砕しつつ混合してもよい。また、各成分の添加の順番は特に制限されず、従来方法に従えばよい。
【0033】
上記混合において電解質ペーストのセラミックス粉末が凝集する場合があるので、解砕を行う。電解質ペーストを解砕する方法は、特に限定されず、3本ロールミル、遊星ボールミル、ボールミル、ビーズミルなどを用いることができる。これらの中でも、解砕に要する時間が短く、1バッチあたりに処理できるペースト量が多いことから、3本ロールミルが好ましい。
【0034】
3本ロールミルを用いて電解質ペーストの解砕を行う場合、解砕作業回数(3本ロールミルを通す回数)は1回でもよいが、2回以上が好ましく、3回がより好ましい。解砕作業を2回以上行うことで、より確実に電解質ペースト中の混合、および、凝集物の解砕を行うことができる。なお、解砕作業を4回以上行っても、解砕作用は飽和となり経済的でない。
【0035】
電解質ペーストの凝集物の大きさは、グラインドメータにより計測する。その際、電解質ペースト中に存在する凝集物の大きさは、乾燥後の電解質グリーン層の厚みに対して、60%以下にすることが好ましい。凝集物はペースト中において、粉が分散されずに、粉の塊で形成されている場合が多い。このため、電解質グリーン層中において、凝集物の箇所は、その他の箇所よりも、焼結の進行が遅い。このことから、電解質ペースト中の凝集物の大きさが、乾燥後の電解質グリーン層の厚みの60%よりも大きい場合、焼成の際に、凝集物とそれ以外の場所とで焼結挙動(収縮率)が異なるので、電解質層の内部で歪みが生じて割れが発生し、貫通孔となる。あるいは、凝集物は焼成の際に焼結の進行が遅いので、緻密にならずに、貫通孔となる。このことから、電解質ペースト中の凝集物の大きさを上記範囲にすることによって、貫通孔を抑制でき、生産性良くセルを製造することができる。
【0036】
電解質ペーストの粘度は、ブルックフィールド型粘度計を用いて、スピンドル14番、回転速度10rpm、測定温度24℃の条件で測定した値が、20Pa・s以上が好ましく、より好ましくは40Pa・s以上、さらに好ましくは60Pa・s以上であり、180Pa・s以下が好ましく、より好ましくは160Pa・s以下、さらに好ましくは100Pa・s以下である。電解質ペーストの粘度が上記範囲内であれは、ペーストの成形性がよく、電解質グリーン層を容易に形成することができる。アノード活性グリーン層上に印刷される電解質ペーストの厚さは5μm以上が好ましく、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、60μm以下が好ましく、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは40μm以下である。
【0037】
完成した電解質ペーストの凝集物の大きさ、粘度を計測し、上記範囲外である場合には、3本ロールミルの隙間を調整したり、粉体、溶媒、分散剤、可塑剤などを適宜添加して、上記範囲内に入るように再作製することが好ましい。
【0038】
アノード活性グリーン層上に印刷された電解質ペーストは、乾燥して溶剤を揮発除去する。電解質ペーストの乾燥条件は、溶媒を蒸発できる程度にすればよく、例えば70℃以上120℃以下程度で15分間以上10時間以下程度加熱すればよい。乾燥後の電解質グリーン層の厚さは焼成後に目的の厚みとなるように、適宜調整すればよい。
【0039】
ここでの成膜とは、ペーストを印刷する工程から印刷したペーストを乾燥させグリーン層を得る工程までのことを言う。
【0040】
前記電解質層を成膜する形成工程において、成膜時の気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以下で成膜を行う。この気相雰囲気の微粒子の大きさは貫通孔の形成に係わり、1.0μm未満の微粒子であれば貫通孔形成にほとんど影響しないが、1.0μm以上になると格段に貫通孔が形成されるようになる。また、その微粒子の単位体積中の数が電極支持型ハーフセル中の電解質層の貫通孔数に関連するので電極支持型ハーフセルの合格率に係わり、気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以下が好ましく、より好ましくは1100000個/立方メートル以下であり、さらに好ましくは900000個/立方メートル以下である。
【0041】
成膜工程中の気相雰囲気に存在する1.0μm以上の塵や埃などの微粒子を減らす方法としては、常法により減らせばよい。その方法としては、例えば、コロナ放電などにより集塵を行う市販の空気清浄機やHEPAフィルターなどにより集塵を行う市販の集塵機を、作業を行う空間と同一空間内に適宜設置する方法、を挙げることができる。空気清浄機や集塵機を集塵効果の高いものや、処理可能な容量の大きいものにしたり、空気清浄機や集塵機を複数台設置すればより効果的である。
【0042】
さらに作業空間を帯電防止フィルムのようなもので間仕切りすることで、外部から作業空間内に流入する微粒子を防ぐ方法がある。さらに、前記のような空気清浄機や集塵機を設置することで、また、市販されているクリーンルームを設置し、その内部を作業空間とし、作業空間内部の1.0μm以上の微粒子は、より効率的に減らすことができる。
【0043】
また、作業空間に塵や埃などの微粒子を持ち込まないような対策を講ずることも有効である。例えば、作業空間へ入る際に、エアーシャワーなどにより予め微粒子を除去した後、作業空間へ入室する方法や、微粒子が付着しにくく、かつ微粒子が発生しにくい防塵服などを着用して、作業空間内で作業を行う方法、粘着マットなどを床に敷くことにより自然沈降した微粒子を捕集させ、作業空間への再浮遊をさせない方法、などである。
【0044】
これらは、単独に用いても有効であるが、複数を同時に用いることによって、より効率的に作業空間における気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子を減らすができる。
【0045】
気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子は少ないほど、微粒子が原因である貫通孔を抑制することができ、大量生産時において微粒子の混入や付着よる合格率低下を抑制することができる。
【0046】
本発明では、電解質層を成膜する形成工程において、成膜時の気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子は光散乱式の気相中微粒子計を用いて測定する。光散乱式の気相中微粒子計とは、吸引口から試料空気を一定の流量で吸引して細い流束にし、その流束とレーザー光を交差させることで、空気の中に浮かんでいる微粒子1個1個が光線を横切る際に散乱する光を集光し、光電変換素子によって電気信号に変換することで、一定量の空気中に浮遊する微粒子の大きさ、数を計測するものである。他にも、フィルターや液体に一定量の試料空気を通過させた後、フィルターや液体に捕集された微粒子を計測する方法などが考えられるが、光散乱式の気相中微粒子計を用いれば、短時間で簡便に計測することができる。
【0047】
次にアノード支持基板グリーンシート上にアノード活性層ペーストをスクリーン印刷する方法を説明する。スクリーン印刷は、従来行なわれている方法と同様に行えばよい。
【0048】
アノード活性層ペーストは、少なくともセラミックス粉末、溶媒およびバインダーを混合してアノード活性層ペーストを調製するがセラミック粉末以外は、上記の電解質ペーストで用いたものと同様の材料を用いて、同様の方法もので混合、調製できる。
【0049】
前記セラミックス粉末は、常法により製造してもよいし、あるいは市販のものを使用してもよい。前記セラミックス粉末は、還元雰囲気で導電性を示す導電性成分と、アノード活性層の耐積層荷重強度と耐レドックス性を確保する上で重要な成分である骨格成分との混合体であり、通常アノード活性層の導電性成分および骨格成分として用いられるものであればとくに限定されない。
【0050】
例えば、導電性成分としては、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルトのように燃料電池稼動時の還元性雰囲気で導電性金属に変化する金属の酸化物、あるいはこれらの酸化物を2種以上含有するニッケルフェライトやコバルトフェライトのような複合金属酸化物が挙げられる。一方、骨格成分としては、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化スカンジウム、酸化イッテルビウムなどで安定化されたジルコニア;酸化イットリウム、酸化サマリウム、酸化ガドリニウムなどでドープされたセリア;ランタンガレート、およびランタンガレートのランタンまたはガリウムの一部がストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅などで置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物などを使用することができる。
【0051】
特に、骨格成分粉末として、3モル%以上10モル%以下の酸化イットリウムで安定化されたジルコニア、4モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムで安定化されたジルコニア、8モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムと4モル%以上15モル%以下の酸化イッテルビウムで安定化されたジルコニア、あるいは8モル%以上12モル%以下の酸化スカンジウムと0.5モル%以上5モル%以下の酸化セリウムで安定化されたジルコニアを骨格成分として用いることが好ましい。また、これらの安定化ジルコニアに、アルミナ、シリカ、チタニアなどを焼結助剤や分散強化剤として添加した材料も好適に用いることができる。
【0052】
また、アノード活性層ペーストには、分散剤、可塑剤、気孔形成剤を添加してもよい。
前記気孔形成剤は、焼成後のアノード活性層に、燃料ガスが拡散するのに必要な気孔を与えるもので、気孔形成剤としては、アノード活性グリーン層の焼成時に焼失するものであればその種類は問わず、アクリル系樹脂などからなる架橋微粒子集合体;小麦粉、トウモロコシ澱粉(コーンスターチ)、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉などの天然有機質粉体;メラミンシアヌレートなどの熱分解性もしくは昇華性の樹脂粉体;カーボンブラックや活性炭などの炭素質粉体などが挙げられる。
【0053】
前記気孔形成剤の量は、前記アノード活性層ペースト中のセラミック粉末を100重量部として、1部以上、10部以下の量を添加することが好ましい。より好ましくは、2部以上、5部以下の量である。
【0054】
アノード支持基板グリーンシート上にアノード活性層を成膜する形成工程において、成膜時の気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以下で成膜を行う。この気相雰囲気の微粒子の大きさはアノード活性層が電解質層の下地となるので電解質層中に貫通孔の形成に係わり、1.0μm未満の微粒子であれば電解質層中の貫通孔形成にほとんど影響しないが、1.0μm以上になると電解質層中に貫通孔が形成されるようになる。また、その微粒子の単位体積中の数が電極支持型ハーフセル中の電解質層の貫通孔数に関連するので電極支持型ハーフセルの合格率に係わり、気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以下が好ましく、より好ましくは1100000個/立方メートル以下であり、さらに好ましくは900000個/立方メートル以下である。
【0055】
次に、アノード支持基板グリーンシートの積層体の製造方法について説明する。前記アノード支持基板グリーンシートは、導電成分、骨格成分および気孔形成剤を、バインダーと溶媒、および必要により分散剤や可塑剤などと共に均一に混合してスラリーを調製し、調製したスラリーを、ドクターブレード法、カレンダーロール法、押出し法など任意の方法で平滑なシート(例えばポリエステルシートなど)上に適当な厚みで敷き延べ、乾燥して溶剤を揮発除去することにより得られる。
【0056】
前記導電成分、骨格成分、気孔形成剤、バインダー、溶媒、分散剤や可塑剤はアノード活性層ペースト調製で使用するものと同様のものを使用することができる。
【0057】
なお、アノード支持基板用スラリーの各原料の配合量は、所望の物性に応じて適宜調製すればよい。またスラリーから得られたシートの乾燥条件は、溶媒を蒸発できる程度にすればよく、例えば70℃以上120℃以下程度で1時間以上10時間以下程度加熱すればよい。ここで、アノード支持基板グリーンシートの厚さは100μm以上750μm以下が好ましい。
【0058】
所望の強度を確保するためアノード支持基板を厚くする必要がある場合には、複数枚のアノード支持基板グリーンシートを積層し、アノード支持基板グリーンシート積層体としてもよい。アノード支持基板グリーンシート積層体は、複数枚のアノード支持基板グリーンシートを、加熱プレスすることにより得られる。この時、加熱プレスの条件は、特に限定されず、例えば30℃以上100℃以下程度で、0.2MPa以上2MPa以下、10秒間以上5分間以下プレスすればよい。
【0059】
電解質グリーン層、アノード活性グリーン層およびアノード支持基板グリーンシートは同時に焼成する。これらを焼成する際の焼成条件は、その原料および厚さに応じて適宜調節すればよいが、例えば、900℃以上1500℃以下程度で2時間以上10時間以下程度焼成すればよい。なお、前記態様2により成膜工程を行う場合、アノード支持基板グリーンシートおよびアノード活性グリーン層の焼成は、前記焼成条件と同様に行えばよい。
【0060】
本発明のアノード支持型ハーフセルは、アノード支持基板と、前記アノード支持基板に積層されたアノード活性層と、前記アノード活性層上(前記アノード支持基板が接している面と反対の面)に積層された電解質層と、必要に応じて、前記電解質層上に積層された中間層を有し、上述の製造方法により形成されたものである。本発明の製造方法により得られたアノード支持型ハーフセルは、電解質層がより薄膜化されているにもかかわれず、貫通孔の形成が抑制されているため、カソードを形成してフルセルとした場合、出力や耐久性などの発電性能に優れたフルセルが得られる。
【0061】
本発明のアノード支持型セルは、前記アノード支持型ハーフセルにおいて、前記電解質層上(前記アノード活性層が接している面と反対の面)に、カソード層が形成されている。従って、上記方法で製造された前記アノード支持型ハーフセルを用い、カソード層材料を、バインダーと溶媒、および必要により分散剤や可塑剤などと共に均一に混合してペーストを調製し、調製したペーストを電解質層上にスクリーン印刷などにより印刷し、乾燥、焼成することでカソード層を形成してアノード支持型セルを製造する。
【0062】
電極支持基板と前記電極支持基板上に形成された電極活性層、前記電極活性層上に形成された電解質層、及び前記電極とは対をなして形成された電極活性層、を成膜する工程の内、前記電極活性層上に形成された電解質層の成膜を行う際の気相雰囲気が非常に重要であり、光散乱式の気相中微粒子計で測定を行った際、気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以下が好ましく、より好ましくは1100000個/立方メートル以下であり、さらに好ましくは900000個/立方メートル以下である。
【0063】
さらには、電極支持基板と前記電極支持基板上に形成された電極活性層、及び前記電極とは対をなして形成された電極活性層、を成膜する工程での成膜を行う際の気相雰囲気が、光散乱式の気相中微粒子計で測定を行った際、気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以下が好ましく、より好ましくは1100000個/立方メートル以下であり、さらに好ましくは900000個/立方メートル以下であることが好ましい。
【0064】
前記カソード層材料としては、電子導電性に優れ、酸化雰囲気下でも安定なペロブスカイト形酸化物からなるものが一般的に用いられる。具体的には、La0.8Sr0.2MnO3、La0.6Sr0.4CoO3、La0.6Sr0.4FeO3、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83など、ランタンの一部をストロンチウムで置換したランタンマンガナイト、ランタンフェライトやランタンコバルタイトなどがカソード層材料として好ましい。また、カソード層に酸素イオン導電性を付与するために、希土類元素などをドープしたセリアやジルコニアを適宜混合してもよい。
【0065】
カソードペーストに用いられるバインダー、溶媒、分散剤、可塑剤、気孔形成剤などは、アノード活性ペーストと同様のものを使用すればよい。なお、各原料の配合量は、所望の物性に応じて適宜調製すればよい。得られたペーストを電解質層上に成膜する方法は、特に限定されないが、スクリーン印刷が好適である。スクリーン印刷は、従来行われている方法と同様に行えばよい。
【0066】
電解質層上に成膜されたカソードペーストを、乾燥、焼成してカソード層を形成する。カソードペーストの乾燥条件は、溶媒を蒸発できる程度にすればよく、例えば70℃以上120℃以下程度で15分間以上10時間以下程度加熱すればよい。またカソードグリーン層の焼成条件は、その原料および厚さに応じて適宜調節すればよいが、例えば、700℃以上1300℃以下程度で2時間以上10時間以下程度焼成すればよい。電解質、(中間層がある場合には中間層)上に形成されるカソード層の厚さは、焼成後に目的の厚みとなるように、適宜調整すればよい。
【0067】
ここでは、アノード電極を支持基板とする方法について取り上げたが、カソード電極を支持基板とする方法、セパレーターやインターコネクターを支持基板とする方法についても、同様の方法により作製することができる。これらの方法についてもアノード電極を支持基板とする方法と同様の方法を用いることにより、電解質層に発生する貫通孔を抑制できる。
【0068】
また、代表的な構造として、平板状のものを取り上げたが、円筒状のものなどにも同様の方法により作製でき、電解質層に発生する貫通孔を削減できることから、これらにも同様に本願発明は適用できる。
【0069】
また、電極層・電解質層との材料の種類の組み合わせによっては、製造時や運転時に電解質との間で、絶縁物質(電気的抵抗物質)を生成し、効率が低くなるのを防ぐ目的、あるいは、電極反応を促進させる目的などの理由で、電極層と電解質層との間に中間層を設ける場合もあるが、当業者にとっては周知の事実であり、必要に応じて設ければよい。
【0070】
中間層ペーストは、少なくともセラミックス粉末、溶媒およびバインダーを混合して調製される。
前記中間層に用いる材料は、常法により製造してもよいし、あるいは市販のものを使用してもよい。前記セラミックス粉末は、通常中間層の材料として用いられているのであれば特に限定されず、例えば、5モル%以上30モル%以下の酸化イットリウム、酸化サマリウム、酸化ガドリニウムなどでドープされたセリアを用いることが好ましい。また、これらのセリアに、アルミナ、シリカ、チタニアなどを焼結助剤や分散強化剤として添加した材料も好適に用いることができる。
【0071】
前記溶媒は、特に限定されず、アルコール類、グリコールエーテル類、脂肪族炭化水素系、ケトン類、エステル類など多種の有機溶剤を使用することができる。前記有機溶剤としては、具体的には、α−テルピネオール、ジヒドロターピネオール、ターピネオールアセテート、ジヒドロターピネオールアセテート、ケロシン、1−ブタノール、1−ヘキサノール、2−ブタノン、イソプロピルアルコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、トルエン、シクロヘキサン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。溶媒の使用量は、特に限定されず、スクリーン印刷を行う際の中間層ペーストの粘度を考慮して適宜調節すればよい。
【0072】
前記中間層ペーストには、セラミックス粒子および溶媒に加えて、バインダーの他に分散剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤などを添加してもよい。また、必要に応じて気孔形成剤を添加しても良い。
【0073】
前記バインダーは、特に限定されず、従来公知の有機質のバインダーを適宜選択して使用することができる。有機質バインダーとしては、例えば、エチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系およびメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロースなどのセルロース類などが挙げられる。
【0074】
また、必要に応じて、分散剤、可塑剤などを添加してもよい。
分散剤としてはセラミックス粉末の解膠や分散を促進するものである。前記分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウムなどの高分子電解質;クエン酸、酒石酸などの有機酸;イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩あるいはアミン塩;ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩などが挙げられる。
【0075】
可塑剤としては、電解質グリーン層に柔軟性を付与するものである。前記可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジトリデシルなどのフタル酸エステル類;プロピレングリコールなどのグリコール類やグリコールエーテル類;フタル酸系ポリエステル、アジピン酸系ポリエステル、セバチン酸系ポリエステルなどのポリエステル類が挙げられる。
【0076】
前記可塑剤の量は、前記中間層ペースト中のセラミック粉末を100重量部として、0.5部以上、30部以下の量を添加することが好ましい。より好ましくは、1部以上、15部以下の量である。
【0077】
なお、各原料の配合量は、所望の物性に応じて適宜調製すればよい。
その際、各粒子を細かくしたり粒子径を均一化するために、ボールミルなどを用いて粉砕しつつ混合してもよい。また、各成分の添加の順番は特に制限されず、従来方法に従えばよい。
【0078】
上記混合において中間層ペーストのセラミックス粉末が凝集する場合があるので、解砕を行う。中間層ペーストを解砕する方法は、特に限定されず、3本ロールミル、遊星ボールミル、ボールミル、ビーズミルなどを用いることができる。これらの中でも、解砕に要する時間が短く、1バッチあたりに処理できるペースト量が多いことから、3本ロールミルが好ましい。
【0079】
3本ロールミルを用いて中間層ペーストの解砕を行う場合、解砕作業回数(3本ロールミルを通す回数)は1回でもよいが、2回以上が好ましく、3回がより好ましい。解砕作業を2回以上行うことで、より確実に電解質ペースト中の混合、および、凝集物の解砕を行うことができる。なお、解砕作業を4回以上行っても、解砕作用は飽和となり経済的でない。
【0080】
中間層ペーストの凝集物の大きさは、グラインドメータにより計測する。その際、電解質ペースト中に存在する凝集物の大きさは、乾燥後の中間層グリーン層の厚みに対して、60%以下にすることが好ましい。凝集物はペースト中において、粉が分散されずに、粉の塊で形成されている場合が多い。このため、中間層グリーン層中において、凝集物の箇所は、その他の箇所よりも、焼結の進行が遅い。このことから、中間層ペースト中の凝集物の大きさが、乾燥後の中間層グリーン層の厚みの60%よりも大きい場合、焼成の際に、凝集物とそれ以外の場所とで焼結挙動(収縮率)が異なるので、中間層だけでなく隣接する電解質層の内部で歪みが生じて割れが発生し、貫通孔となる。このことから、中間層ペースト中の凝集物の大きさを上記範囲にすることによって、貫通孔を抑制でき、生産性良くセルを製造することができる。
【0081】
中間層ペーストの粘度は、ブルックフィールド型粘度計を用いて、スピンドル14番、回転速度10rpm、測定温度24℃の条件で測定した値が、20Pa・s以上が好ましく、より好ましくは40Pa・s以上、さらに好ましくは60Pa・s以上であり、180Pa・s以下が好ましく、より好ましくは160Pa・s以下、さらに好ましくは100Pa・s以下である。中間層ペーストの粘度が上記範囲内であれは、ペーストの成形性がよく、中間層グリーン層を容易に形成することができる。アノード活性グリーン層上、あるいは電解質グリーン層上に印刷される中間層ペーストの厚さは0.1μm以上が好ましく、より好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上であり、10μm以下が好ましく、より好ましくは8μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
【0082】
完成した中間層ペーストの凝集物の大きさ、粘度を計測し、上記範囲外である場合には、3本ロールミルの隙間を調整したり、粉体、溶媒、分散剤、可塑剤などを適宜添加して、上記範囲内に入るように再作製することが好ましい。
【0083】
アノード活性グリーン層上、あるいは電解質グリーン層上に印刷された中間層ペーストは、乾燥して溶剤を揮発除去する。中間層ペーストの乾燥条件は、溶媒を蒸発できる程度にすればよく、例えば70℃以上120℃以下程度で15分間以上10時間以下程度加熱すればよい。乾燥後の中間層グリーン層の厚さは焼成後に目的の厚みとなるように、適宜調整すればよい。
【実施例】
【0084】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0085】
実施例1
1.気相雰囲気中の微粒子の測定方法
1−1.評価方法
当該気相雰囲気中の評価方法としては通常の方法を用いることができるが、好ましくは光散乱式の装置であり、詳しくは一定のガス中に存在する1.0μm以上の微粒子を、半導体レーザーを光源とし、微粒子による相対光散乱強度と粒径との相関により当該範囲の微粒子の計測するものである。市販の装置としては気相中微粒子計(商品名「リオン社KR−12A」)を用い測定を行った。
【0086】
1−2.測定時期
成膜時の気相雰囲気を、ペーストがスクリーン印刷法により塗布されてから、溶媒を乾燥させてグリーン層が形成されるまでとした。そこで、スクリーン印刷の直前、および、スクリーン印刷後に乾燥機で乾燥を終えた直後に、以下に示す場所で測定を行った。
【0087】
1−3:測定場所
・スクリーン印刷を行う直前の測定:
スクリーン印刷の直前の測定では、被印刷物を固定するステージ(印刷台)の中央から、垂直方向に15cm程度はなれた空間に、気相中微粒子計の吸引口が設置されるように調整して、測定場所とした。
【0088】
・乾燥直後の測定:
乾燥による乾燥直後の測定では、乾燥機の中央に気相中微粒子計の吸引口が設置されるように調整し、測定場所とした。
【0089】
2.貫通孔検出試験
12%アンモニア水(和光純薬工業社製)50mlを直径約10cmの開口部を持ったガラス瓶に入れた。そのガラス瓶の開口部を塞ぐように、製造例で作製したハーフセルを電解質面が上になるように載せて、周囲をOリングでシールして固定した。続いて、1.0w/v%フェノールフタレインエタノール溶液(和光純薬工業社製)を電解質面上に滴下し全体に薄くのばした後、アスピレータを用いて電解質面側を減圧状態にした。そして、ガラス瓶中のアンモニアが電解質層を通過し、電解質面上のフェノールフタレインが呈色反応を起こし赤色に変化した場合、電解質層に貫通孔が存在すると評価した。
【0090】
3.アノード支持型ハーフセルの製造
3−1.アノード支持基板グリーンシートの作製
導電成分としての酸化ニッケル(正同化学社製)60質量部、骨格成分としての8モル%イットリウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素社製、商品名「HSY−8.0」)40質量部、空孔形成剤としてのカーボンブラック(SECカーボン社製、SGP−3)10質量部、メタクリレート系共重合体からなるバインダー(分子量:30,000、ガラス転移温度:−8℃、固形分濃度:50質量%)30質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2質量部、分散媒としてトルエン/イソプロピルアルコール(質量比=3/2)の混合溶媒80質量部を、ボールミルにより混合し、スラリーを調製した。得られたスラリーを使用し、ドクターブレード法によりシート成形し、70℃で5時間乾燥させて、厚さ300μmのアノード支持基板グリーンシートを作製した。
【0091】
3−2.アノード活性層ペーストの作製
導電成分としての酸化ニッケル(キシダ化学社製)36質量部、骨格成分としての8モル%イットリウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素社製、商品名「HSY−8.0」)24質量部、気孔形成剤としてのカーボンブラック(SECカーボン社製、SGP−3)2質量部、溶媒としてのα−テルピネオール(和光純薬工業社製)36質量部と、バインダーとしてのエチルセルロース(和光純薬工業製)4質量部、可塑剤としてのジブチルフタレート(和光純薬工業社製)6質量部、分散剤としてのソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤4質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質;アルミナ)を用いて解砕した。
【0092】
3−3.電解質ペーストの作製
セラミックス粉末として8モル%イットリウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素社製、商品名「HSY−8.0」)60質量部、バインダーとしてエチルセルロース(和光純薬工業社製)を5質量部、溶媒としてα−テルピネオール(和光純薬工業社製)を40質量部、可塑剤としてジブチルフタレート(和光純薬工業社製)を6質量部、分散剤としてソルビタン酸エステル系界面活性剤(三洋化成社製、商品名「イオネットS−80」)5質量部を乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質;アルミナ)を用いて解砕した。
【0093】
3−4.アノード活性グリーン層の形成
解砕後のアノード活性層ペーストをスクリーン印刷により、上記で得たアノード支持基板グリーンシートに、厚さ20μmとなるように印刷し、100℃で30分間乾燥させ、アノード活性層を形成した。なお、アノード活性グリーン層の形成時の作業室内を、全く気相雰囲気を調整しなかった。
【0094】
3−5.電解質グリーン層の形成
作業室内を帯電防止フィルムで間仕切りし、かつ、間仕切りされた空間内に市販の集塵機を設置して、解砕後の電解質ペーストをスクリーン印刷により、上記で得たアノード活性グリーン層上に、厚さ15μmとなるように印刷し、100℃で30分間乾燥させた。
【0095】
3−6.印刷・乾燥環境の測定
電解質ペーストの印刷直前、および、乾燥直後に気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子を、気相中微粒子計(商品名「リオン社KR−12A」で粒子数を測定した)を用いて、各3回測定を行い、合計6回の測定値の平均を作業中の値とした。結果を表1に示す。
【0096】
3−7.焼成・貫通孔検出検査
電解質ペーストの乾燥後、上記で得た電解質グリーン層、アノード活性層が塗布されたアノード支持基板グリーンシートを焼成後の直径が110mmになるように打ち抜き、1300℃で2時間焼成してアノード支持型ハーフセルを50枚作製した。
得られたアノード支持型ハーフセルについて、上記2に記載の貫通孔検出検査により電解質層の貫通孔の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0097】
実施例2〜4
電解質クリーン層の形成時の作業室内を、市販の集塵機を増設した条件(実施例2)、さらに防塵服を着用した条件(実施例3)、かつ作業空間内の床面に粘着マットを敷いた条件(実施例4)にした以外は、実施例1と全く同様にしてアノード支持型ハーフセルについて、上記2に記載の貫通孔検出検査により電解質層の貫通孔の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0098】
比較例1〜2
電解質クリーン層の形成時の作業室内を、全く気相雰囲気を調整しない条件(比較例1)、市販の空気清浄機を設置した条件(比較例2)した以外は、実施例1と全く同様にしてアノード支持型ハーフセルについて、上記2に記載の貫通孔検出検査により電解質層の貫通孔の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
表1に示すように、気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以上の環境下で、作製されたアノード支持型ハーフセルは、20枚以上の割合で電解質層に貫通孔が生じている。そのため、作製されたアノード支持型ハーフセルの合格率も60%以下と非常に低い値となり、生産性が悪い。
【0101】
これに対して、気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以下の場合、作製されたアノード支持型ハーフセルは、電解質層に貫通孔が生じる割合が30%以下となっており、合格率も70%以上と向上していることがわかる。特に、気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1100000個/立方メートル以下の場合には、合格率が80%以上とさらに向上している。さらに、気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が900000個/立方メートル以下の場合には、合格率が90%以上とさらに向上している。
【0102】
実施例5〜7
実施例1のアノード活性グリーン層の形成において、作業室内を帯電防止フィルムで間仕切りし、かつ、間仕切りされた空間内に市販の集塵機を設置し、さらに、電解質グリーン層の形成時の作業室内を実施例1の条件(実施例5)、実施例1のアノード活性グリーン層の形成において、作業室内をさらに市販の集塵機を増設し、さらに、電解質クリーン層の形成時の作業室内を実施例2の条件(実施例6)、実施例1のアノード活性グリーン層の形成において、前記空間内での作業を防塵服を着用して行い、かつ作業空間内の床面に粘着マットを敷き、さらに、電解質クリーン層の形成時の作業室内を実施例3の条件(実施例7)にした以外は、実施例1と全く同様にして、アノード支持ハーフセルを各50枚作製した。
【0103】
アノード活性ペーストの印刷直前、および、乾燥直後に気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子を、実施例1と同様にして測定し、平均値を算出した。
【0104】
貫通孔検出検査により得られたアノード支持ハーフセルの電解質層の貫通孔を確認した。結果を表2に示す。
【0105】
比較例3
実施例1のアノード活性グリーン層の形成において、作業室内に市販の空気清浄機を設置し、さらに、電解質グリーン層の形成時の作業室内を比較例2の条件にした以外は、実施例1と全く同様にして、アノード支持ハーフセルを各50枚作製した。
【0106】
アノード活性ペーストの印刷直前、および、乾燥直後に気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子を、実施例1と同様にして測定し、平均値を算出した。
【0107】
貫通孔検出検査により得られたアノード支持ハーフセルの電解質層の貫通孔を確認した。結果を表2に示す。実施例、比較例を図1にプロットした。
【0108】
【表2】

【0109】
表1に示すように、気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以上の環境下で、作製されたアノード支持型ハーフセルは、20枚以上の割合で電解質層に貫通孔が生じている。そのため、作製されたアノード支持型ハーフセルの合格率も60%以下と非常に低い値となり、生産性が悪い。
【0110】
これに対して、気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以下の場合、作製されたアノード支持型ハーフセルは、電解質層に貫通孔が生じる割合が30%以下となっており、合格率も70%以上と向上していることがわかる。特に、気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1100000個/立方メートル以下の場合には、合格率が80%以上とさらに向上している。さらに、気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が900000個/立方メートル以下の場合には、合格率が90%以上とさらに向上している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極支持型ハーフセルを製造する方法であって、
電極支持基板上に、あるいは当該電極支持基板上に形成された電極活性層上に、電解質層を成膜する工程を有し、
当該電解質層の成膜工程において、
当該成膜工程中の気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以下であることを特徴とする電極支持型ハーフセルの製造方法。
【請求項2】
前記電極支持基板上に電極活性層を成膜する工程を有し、
当該電極活性層の成膜工程において、
さらに、当該成膜工程中の気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以下である請求項1記載の電極支持型ハーフセルの製造方法。
【請求項3】
電極支持型フルセルを製造する方法であって、
電極支持基板上に、あるいは当該電極支持基板上に形成された電極活性層上に、電解質層を成膜する工程、次いで、当該電解質層上に前記電極とは対をなす電極活性層を成膜する工程を有し、
当該電解質層を成膜する工程において、
当該成膜工程中の気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以下であることを特徴とする電極支持型フルセルの製造方法。
【請求項4】
前記電極支持基板上に電極活性層を成膜する工程を有し、
当該電極活性層の成膜工程、および前記電極とは対をなす電極活性層の成膜工程において、
さらに、当該成膜工程中の気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以下である請求項3記載の電極支持型フルセルの製造方法。
【請求項5】
電極支持型フルセルを製造するに際し、
電極支持基板上に、あるいは当該電極支持基板上に形成された電極活性層上に、電解質層を成膜する工程、次いで、当該電解質層上に前記電極とは対をなす電極活性層を成膜する工程を有し、
当該電解質層を成膜する工程において、
当該成膜工程中の気相雰囲気に存在する1.0μm以上の微粒子が1600000個/立方メートル以下で成膜を行うことにより、成膜された前記電解質層の貫通孔を抑制する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−216512(P2012−216512A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−59858(P2012−59858)
【出願日】平成24年3月16日(2012.3.16)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】