説明

電極材料、直流ショートアーク放電灯

【課題】陰極のスポットの広がりを抑えることで輝度の向上を図る。
【解決手段】直流ショートアーク放電灯の陰極11の電極材料として、易電子放射性物質を実質的に含まないタングステンとした。これにより、陰極11でのスポットの広がりを抑えることができ、輝度の向上を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば光化学反応の光源として用いられる直流ショートアーク放電灯用の電極材料およびこの電極材料を用いた直流ショートアーク放電灯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の直流ショートアーク放電灯は、陰極の先端の電流密度を大きくして輝度の高い陰極輝点を得るために、陰極の先端に、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウムの単体または、これら複合体を含むタングステン粉末の焼結体からなるエミッターが配置されている。(例えば、特許文献1)
【特許文献1】特開2000−149868公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した特許文献1の技術は、陰極の先端に形成された酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウムの単体またはこれら複合体を含むタングステン粉末の焼結体がエミッタ材として用いられた場合、仕事関数が低く電子放出しやすいものとなる。このため、スポットが広がって輝度が落ちる、という問題があった。
【0004】
この発明の目的は、スポットの広がりを抑えることで輝度の向上を図ることが可能な電極材料およびこの電極材料を用いた直流ショートアーク放電灯を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した課題を解決するために、この発明の電極材料は、直流ショートアーク放電灯の陰極として用いる電極材料において、前記陰極は、易電子放射性物質を実質的に含まないタングステンであることを特徴とする。
【0006】
また、この発明の直流ショートアーク放電灯は、密封の放電空間が形成された紫外線透過性のバルブと、前記放電空間内に対向距離で配置された陰極および陽極と、前記放電空間内に封入された1ccあたり5〜60mgの水銀とを具備し、前記陰極には易電子放射性物質を実質的に含まないタングステンを用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、陰極のスポットの広がりを抑えることで、輝度の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0009】
図1は、この発明の電極材料に関する一実施形態について説明するための電極構成図である。
図1において、11は、放電空間内に破線に示す例えばタングステン製の陽極12を対向配置させ、アーク放電を発生させる状態で配置される陰極である。陰極11の材料としては、易電子放射性物質を実質的に含まないドープタングステンを用いる。陰極11の先端は、円錐形状の尖った状態の尖頭部13が形成されている。
【0010】
ここで、「易電子放射性物質を実質的に含まないタングステン」とは、仕事関数を下げるために、タングステン電極にドープして用いられる酸化トリウム、酸化セリウム、酸化ランタン等の希土類酸化物を含まない物質のことである。
【0011】
ところで、輝度を高くするには、陰極11の尖頭部13先端のスポットを、より小さくし、スポットを集中させることで可能となる。スポットは、陰極から出た電子が水銀やバッファーガスと衝突する部分で発生するため、陰極11からの電子放射面積を小さくすることで、スポットの集中が可能となる。この集中が輝度を高くすることができる。
【0012】
易電子放射性物質を実質的に含まないドープタングステンを用いた陰極11は、易電子放射性物質を含まないことから、仕事関数は高くなるが、電子の放出性はトリエーテッドタングステンに劣る。このために、ランプ電流に見合った電子を放出し、イオンエネルギーによる陰極自身の自己加熱によって熱電子が放出される。ドープタングステンの場合は、電極温度をより高くする必要がある。ドープタングステンの場合は、電子放出部分の温度を上げることからスポットを絞ることができる。
【0013】
このように、陰極に易電子放射性物質を実質的に含まないドープタングステンを用いた場合、電子放出部分の温度を上げてスポットが絞れ、陽極との間で発生するアークの輝度を向上させることができる。
【0014】
ところで、ドープタングステンにはアルミニウム(Al)、シリコン(Si)、カリウム(K)の少なくとも1種を0.001〜0.01質量%含ませると良い。アルミニウム、シリコン、カリウムは、ドープ材として機能するものであり、陰極11の耐変形性を向上させる効果がある。
【0015】
このドープ材の含有量としては、0.001質量%未満では添加の効果が充分得られない。逆に、0.01質量%を超えた場合は、焼結や加工が困難となる問題が発生するため、0.001〜0.01質量%の範囲が好ましい。また、ドープ材を2種または3種用いた場合であっても、その合計量が0.001〜0.01質量%の範囲内になることが好ましい。
【0016】
図2は、この発明の電極材料が陰極として用いられた場合の、この発明の直流ショートアーク放電灯に関する一実施形態について説明するための構成図である。
【0017】
この直流ショートアーク放電灯は、密封された放電空間21を有する石英ガラス製の発光管22の放電空間21内に、電極心棒23の先端に取り付けられた陰極11と電極心棒24の先端に取り付けられた陽極12が、対向して配置されている。
【0018】
そして、放電空間21内には水銀と希ガスとしてキセノンガスが封入されている。電極心棒23,24の尾端部は、それぞれモリブデン箔25,26に溶接され、モリブデン箔25,26は、発光管22の両端にそれぞれ連設された封止管27,28内に埋設されて封止されている。また、封止管27,28の尾端にはそれぞれ口金29,30がそれぞれ取り付けられる。31,32は、電力を供給するためのリードである。
【0019】
ここで、陰極11は、例えば直径が6mm、長さが18mmの易電子放射性物質を実質的に含まないドープタングステン製の円柱体であり、先端部分は円錐形状の尖頭部13が形成されている。陰極11の電極心棒31は、例えば直径が3mm、長さが17mmのタングステン棒からなる。
【0020】
一方、陽極12は、例えば直径が7mm、長さが20mmのドープタングステン製の円柱体であり、先端部分は台形形状をしている。陽極12の電極心棒24は、例えば直径が3mm、長さが22mmのタングステン棒からなる。
【0021】
ここで、図4と図5は、図2で構成される直流ショートアーク放電灯の陰極を従来の材料の場合(図4)とこの発明の材料の場合(図5)の、図3の破線枠で示す部分の輝度の違いを相対比較して説明するものである。
【0022】
直流ショートアーク放電灯の具体的な構成は、放電空間21の内容積を11mm、陰極11と陽極12との極間距離を2mmとし、放電空間21内に水銀を45mg/cc、希ガスとしてキセノンガスを150torrでそれぞれ封入する。
【0023】
そして、陽極は、図4、図5ともに耐熱性金属であるドープタングステンを使用している。陰極は、図4では2%のトリエーテッドタングステンを、図5では0.05%の酸化カリウムがドープされたドープタングステンをそれぞれ使用している。
【0024】
このように構成された直流ショートアーク放電灯を、ランプ電圧40V、ランプ電流6.25Aの定格消費電力が250Wで点灯させた結果、従来のランプの中心最大輝度は80−90であるのに対し、この発明のランプの中心輝度は140−150であり、従来のランプの中心最大輝度に対して1.6倍程度向上している。
【0025】
また、陰極先端部分の0.3mmにおける積算輝度についてもこの発明は従来に比して1.4倍得ることができることが判った。
【0026】
このように、この発明の構成の直流ショートアーク放電灯では、陰極11として易電子放射性物質を実質的に含まないドープタングステンとしたことにより、輝度の向上を図ることができる。
【0027】
この発明の上記した実施形態に限定されるものではなく、例えば陽極としては、ドープタングステンを使用した例を示したが、純タングステンであっても構わない。また、陰極にはアルミニウム、シリコン、カリウムの少なくとも1種を0.001〜0.01質量%含ませドープ材として機能させると、陰極11の耐変形性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の電極材料に関する一実施形態について説明するための構成図。
【図2】この発明の直流ショートアーク放電灯に関する一実施形態について説明するための構成図。
【図3】図1に示す電極材料の構成図。
【図4】陰極を従来の電極材料とした場合の陰極と陽極の輝度について説明するための説明図。
【図5】陰極をこの発明の電極材料とした場合の陰極と陽極の輝度について説明するための説明図。
【符号の説明】
【0029】
11 陰極
12 陽極
13 尖頭部
21 放電空間
22 発光管
23 電極心棒
24 電極心棒
25,26 モリブデン箔
27,28 封止管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流ショートアーク放電灯の陰極として用いる電極材料において、
前記陰極は、易電子放射性物質を実質的に含まないタングステンであることを特徴とする電極材料。
【請求項2】
前記易電子放射性物質を実質的に含まないタングステンには、Al、Si、Kの少なくとも1種を、0.001〜0.01質量%が含まれることを特徴とする請求項1記載の電極材料。
【請求項3】
密封の放電空間が形成された紫外線透過性のバルブと、
前記放電空間内に対向距離で配置された陰極および陽極と、
前記放電空間内に封入された1ccあたり5〜60mgの水銀とを具備し、
前記陰極には易電子放射性物質を実質的に含まないタングステンを用いたことを特徴とする直流ショートアーク放電灯。
【請求項4】
前記陰極には、Al、Si、Kの少なくとも1種を、0.001〜0.01質量%含むことを特徴とする請求項3記載の直流ショートアーク放電灯。
【請求項5】
前記陽極は、純タングステンまたはドープタングステンで形成されたことを特徴とする請求項3または4記載の直流ショートアーク放電灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−129443(P2010−129443A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304283(P2008−304283)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】